クリスマス鍋パーティのお時間だよ!
「ご店主、ちょっと……」
果てしなく嫌な予感がする。
何故かしどろもどろになりながら自分に話しかけてくる、津村古書店バイトの尾花井統一郎と、その後ろでまるで尾花井を盾のようにしてこちらを伺う常連客達を見て、津村古書店店主の綴読道は顔を盛大にしかめるのだった。
どうかしたのか、と尋ねれば尾花井は意を決して綴に内緒話をするかのように囁いた。
「怪異食いパ、やりやしょう……」
「ちょ……っと待て、どうしてそうなった?
お前達それは前回で懲りたとか言ってなかったか?」
しかも今回は比較的新人も沢山いるというのに。
あの日の悲劇を知らない人物が多くいるというのに!
「まぁ、まあまぁあまあ、きっと今回は大丈夫だって。
何せ僕がついているからね?」
「君が一番心配なんだよ!」
尾花井の後ろからにゅっと顔を出したのは、どうせことの発端である北條春幸だ。
彼は胡散臭い……おっと失礼、恐らく意図はしていないのだろうが、何かしらろくでもないことを考えていそうな胡散臭い笑みを浮かべている。
彼こそがこの津村古書店に怪異食を広めてしまった張本人である訳だが……実際美味いのでお咎めは今のところない。
怪異食が美味かったばっかりに。
「なんでそんな流れになってしまったんだ……。
君もいたんだろ?花園」
遠い目オブ遠い目をしている花園樹は雑談室にあるソファに腰掛け、お掃除モードになってい犬型ロボット・ロボ太郎を眺めていた。
──あれは現実逃避か?
──現実逃避です。
彼らはアイコンタクトとジェスチャーで花園の状況を確認し合う。
だが、花園があんなふうにになるも頷ける。|今日《こんにち》まで津村古書店では一級フラグ建築士、不憫、名誉押し付けられ役という散々な称号を得ているのだから、今回も何かあるのではと現実逃避したくなるのも頷ける。
それでもこの催しに参加する、ということはなんだかんだ彼も楽しんでいるのだろう。
「そもそもなんでそんな話になったんだ?
発案者は北條だろうが……」
「正解」
グッとサムズアップをする北條の親指を逆方向に折り曲げてやろうか?と思ったがその気配を察知したのか、斯波が綴の前に出る。
「その説明は僕からするよ」
「珍しくフォローに回るんだな、斯波」
津村古書店の後方腕組み引率(面倒な事は花園に丸投げの意)の斯波紫遠が、手を挙げてその時の状況を綴に説明する。
●
数時間前、津村古書店雑談室にて。
「僕、以前から竜漿に興味があってねえ」
始まりは北條のその一言。
またかと感じるか、急に何を言っていんだ?と感じるかは人それぞれだろう。しかし、彼らは揃ってこの場にいる全員が北條の演説を半分聞き流していた。
「──という訳で、その力を|√汎神解剖機関《ウチ》にも取り入れるためにサンプルとしてドラゴンの肉……は無理だけど、似た生物ならいるからそれを狩りに行こう!」
しかしその言葉に良い反応が見られない。
いくら√能力者だからといって、お星様になるかもしれないような行為、報酬も無しにいったい誰が好き好んでやるというのだろう。
微妙な空気が辺りを包む。ここまでは北條も想定済みだ。
「もちろんお礼に狩った肉での鍋パをさせていただくよ」
飛びついた。
怪異食の美味さを知る彼らは飛びついた。
嗚呼、恐るべき怪異食。
だがあの日から一年が経った津村古書店には新顔も増えた。勿論あの日の鍋を、あの日起きた悲劇を知らない者もいる。
「お鍋?」
真黒、が似合う男にしては可愛らしい声が聞こえる……ではなく、その声はついさっき雑談室に入ってきた木邑零壱の後ろから聞こえてくる。彼の後ろからヒョッコリと顔を出すのは小弓佐倉。木邑と同じく新顔の一人である。
「おや、2人も気になるのかい?」
その言葉を聞いて、2人は顔を見合わせると、ほぼ同時に勿論と答えたのであった。
「──こうして我々はクリスマスパーティ兼鍋パーティーをすることになった、という訳。
今は更に人手を集めようとしていてね、とりあえず綴ご店主に許可を得ておけば人集めも楽になるし」
「……あと声をかけるとしたら、イルゼかアビィ……各務に……屍累か」
あと呼べる人の名前をあげていく。
こうやって名前を唱えていくと、随分この店にも新顔が増えたな。個人的に、新人歓迎会みたいなものと位置付けようか。
「私のこと、呼びました?」
綴が色々と考えていると、後ろからにゅっと現れた屍累廻に驚いて声にならない叫び声を上げながら腰を抜かした。
「おい何嬉しそうな顔しているんだアグレッシブ好奇心!
俺の驚いた姿が君の好奇心の何をくすぐった!?」
アグレッシブ好奇心、屍累廻。
彼は前回の鍋会では前科を持っている。|あれ《・・》は本当に酷かった。
「酷い音がしたけど、どうかしたの?」
店の奥から現れたのはイルゼ・ラウィーネ・ローゼンクランツだ。どうやら店内の本を選んでいたらしいのだが、酷い音を聞いて駆けつけてくれたらしい。
「大丈夫かい、読道君?」
「読道は意外とおっちょこちょいだな」
同じく駆けつけてくれた綴と同じく付喪神である各務鏡と治部亞比栖ことアビィが綴を助け起こす。
役者が揃った……揃ってしまった。
綴はひたすらに、無事で終わりますようにと手を合わせるのだった。そんな綴の肩をポンと花園が叩く。
「わかるよ、その気持ち」
「やっと喋ったな花園」
●
「√|DF《ドラゴンファンタジー》出身の友人に聞いてね、竜漿含有が多めで竜に近いモンスターが多いダンジョン教えてもらったんだ」
食材確保班の先頭で北條がウキウキとした足取りで歩き、屍累は興味津々で辺りを見渡す。
そうここは√DF……のどこかのダンジョン。
まさかモンスターも自分が調理されて食われる運命にあるだなんて微塵も思っていないだろう。
さて、そんなダンジョンに乗り込んだのは案内役の北條は勿論、屍累と保護者役の斯波と花園、確保したい部位のあるイルゼと……綴だ。
「……俺って、買い物担当やりたいって言ってたよな?
戦闘は無理だって言ったよな?」
「大丈夫だよ、綴。分かち合おう」
「なにを!?」
花園は、ハハハと笑いながら綴の肩にポンと手を置いた。そんな花園に綴がキッと睨みつけるが、そのそばから北條が「あれは見たことない怪異だ!」と言いながら飛び出して行ったのを見て慌てて追いかけ止めようとする。
「あなた達、いつもこんな感じなのかしら?」
状況はだんだんと悪い方向へとすすんでおり、四方に飛び出そうとする北條と屍累、たまに不憫な目にあっている花園と綴を眺めながらイルゼが斯波に尋ねる。
「だいたいはこんな感じかな。
そこがみんなの面白いところなんだけど……けど、今回は|それだけじゃない《・・・・・・・・》かもしれないね」
そう言っている斯波とイルゼの背後で屍累が底なし沼にハマり北條、花園、綴の3人が慌てて助け出そうとしている。
「それだけじゃない?」
イルゼが聞き返すが、斯波は誤魔化すかのように微笑んだ。その背後ではカエルに似たモンスターに追いかけられる4人の姿があったが、そのゴタゴタについては割愛する。
だって今はそんなことよりも北條の言うモンスターを探さなければいけないのだから。
「では改めてモンスターを探しに行こう!」
案内役の北條の掛け声とともに「おー!」と腕を上げる。
やっと話が進むのかと一部を除く誰もが思ったその時……ぼろキレのような服をまとった簒奪者に出会ったのであった。
10秒……いやそれ以上、もしかするとそれよりもっと短いかもしれない時間、彼らも簒奪者も時が止まったかのように動きが止まる。
最初に動いたのは簒奪者だった。簒奪者は自分の眷属を召喚し襲いかかる!
「………撤退!!」
「くそ、こんなことになるんだったら買出し班に意地でもなるんだった!!」
ダンジョンに綴の悲痛な叫びが響くのであった。
その頃、その綴羨む買出し班。
「今、ご店主の叫びが聞こえたような気がする……っ!」
尾花井は某所のスーパーマーケットへやって来ていた。
手に持っているのはカクテルできるようなお酒だ。今回も成人済みメンバーが多いが、未成年のためにジュースも購入することを忘れない。
ポイポイとカゴに入れられていく飲み物類。
しかし、ここにあの暴走列車達が着いてこなくて良かった。ゆっくりと買い物が出来そう……と考えていた時だった。
尾花井の持っていたカゴが急に重くなる。
そこにはウィンナーソーセージの袋を大量に投下した各務がいた。
「……なに、してるんでやすか?」
「え?」
今回の買い物班は尾花井と各務だった。
各務には何か簡単につまめるものを持ってきてほしい、とそう言っていたはずだが……その大量のウィンナーソーセージはいったい?しかも全部同じ種類!
「ああ、これかな?」
尾花井の様子に気が付いた各務は袋のうちひとつを持ち上げる。
「ほら、あそこにこれを焼いている店員さんがいるだろう?」
「……いやすね」
「ノルマがあるらしくてね」
「……ノルマ」
「それにほら、みんなには美味しいものを沢山食べてほしくてね」
「……たくさん」
「聞けばこれは鍋に最適らしい。
いっぱい買えばあの子もノルマを達成することができて、尚且つみんなのお腹も満たすことができる。一石二鳥だと思ってね」
……いや。
「だからと言って、こんなに大量には消費出来ないんでやすよ!?」
いくらなんでも多すぎる!と伝えると、え?と首を傾げる各務を見て、孫に沢山食べさせようとするおじいちゃんやおばあちゃんのようだと尾花井は頭を抱える。各務から見たら自分達は実際にそうなのかもしれない。
「とりあえず、いくつか減らしやしょう?
ソーセージは確かに鍋に入れるのもいいでやすが、そもそもメインが肉なんで……」
「それもそうか……そっか……」
シュンと肩を落とす各務は尾花井の監視の元売り場にウィンナーソーセージを戻していく。
「代わりに予約していたクリスマスケーキを受け取りに行きやしょうか」
「あ、そうだったね。クリスマスケーキもあるんだった」
各務はクリスマスケーキという単語に顔を上げる。
やっとウィンナーソーセージを諦めてくれた、と尾花井はホッと一息をつく。
カゴに入れたものを会計しようとするのだが、尾花井はあるものを買い忘れていたことを思い出した。
「あ、そういえばシャンメリーを入れ忘れていやしたね」
「おや、なら早く売り場に……」
2人が慌ててシャンメリー売り場へ向かおうとした時だった。
「え!?シャンメリーを誤発注しただって!?
いくらクリスマスでも、そんな量を売りさばくのは……」
尾花井と各務の目線の先には頭を抱える店長と思われる人物と、誤発注をしたと思われる頭を下げて謝る店員の姿が………。
その瞬間、自分の財布を取り出す各務とそれを阻止しようとする尾花井の攻防があったとかなかったとか。
「くそ、こんな時にツッコミ勢がいやしたら、各務さんを任せていやしたのに!!」
場面は戻ってツッコミ勢が比較的に固まってしまっている食材確保班。
「まて、待て待て待て待て待て、なんで俺を前に行かせようとする!?
言ったよな?俺は非戦闘員なんだって言ったよな!?」
「ファイトだ綴!」
「花園、君ってやつは!!」
というかなんでこんなところに簒奪者がいるのだろうか。
花園に向かって裏切り者ー!と叫ぶ綴を眺めながら考える。
「もしかすると、我々と同じ目的なのかもしれないね」
目的……そう竜漿含有の多いドラゴンに似た生物を狩って食べる、という簒奪者も真っ青なそんな阿呆みたいな目的のために動いているのは自分達だけだと思いたい。
「彼らには別の目的があるかもしれない、とはいえ……放っておくのもねぇ?」
「またさっきみたいに襲われるかもだし、倒しておいたほうが身のためでしょうし」
北條と屍累はそう言いながらグイグイと綴を押していく。
なんでだ!?と踏ん張る綴だが、それは綴の靴の底を削るだけの結果に終わる。
「なんというか……初めて綴ご店主とこういう事するからか、みんな若干テンションが上がってますね」
そんな様子を見て斯波は微笑む。
綴は自分を戦闘には向かないから、店のことをしないといけないからと言う理由で、あまりこういった催しに参加することはなかった。
「……でもそろそろ止めないと綴が本気で可哀想になってきた」
止めるなら早く止めろ!簒奪者のみなさんも困惑して攻撃もしてこなくなったぞ!?
綴はそう言ってから、なにやら覚悟を決めたようにため息を吐いた。
「仕方がない、君達は先に進んでくれ」
「え?」
「簒奪者をどうにかすればいいんだろ?
俺ははっきり言って戦力にはならないだろうから、その目的のモンスターは君達に任せて、俺はアイツらをどうにかしてくるよ」
屍累は手を挙げた。
「僕も一緒に……」
「……この好奇心の塊は花園に預けるとするか」
綴はぺいっと屍累を花園に投げた。
「ありがたいけど、無茶だけはいないでくれよ?」
「わかってる」
彼らは綴をその場に置いて先に進むのだった。
その後ろ姿を見て、綴はほうっと一息つく。彼らを先に行かせたのは、|見られたくない《・・・・・・・》からであり、|巻き込みたくない《・・・・・・・・》からである。
「だから俺は戦闘に向かないんだよな……。
さて、そろそろ良いか」
綴は簒奪者達の方へと足を進め腕をふりあげる──。
きらきらと、きらきらと……光る、それ……は…、じゅも、んをと、な、え………………。
『無間に瞬きし星々よ、滅びし古の書を呼び戻せ。
我、古の書の写し身、知恵の断片拾いし者。深淵より我が身に宿りたまえ』
綴から離れ、心配なのかチラチラと後ろを何度も振り返りながら先へ進んでいく。
「綴ご店主ってたまに何考えてるか分からないと言うか……」
「僕達の前では一切能力を使わないので気になりますね……」
「なんだか不思議な人なのね」
「付喪神なんだけどね?」
「……おや、どうやら……この辺りみたいだ」
そんなことを言いながら、北條の指し示したポイントにたどり着いた彼らは本日の食材を見て覚悟を決めるのであった。
●
「ここが、会場か……」
北條が借りている√DFにあるコンドミニアムを見上げてアビィがポツリと呟く。
そこで木邑と小弓と治部は会場の準備及び鍋以外の調理をすることになっていた。
事前に津村古書店のオーナーである津村八重から借りた割烹着をありがたく受け取った彼らだったが、木邑はサイズが合わずパツパツになったので慌てて自宅にある黒いエプロンを着用している。小弓とアビィはサイズがピッタリだった為、2人とも割烹着を着用し、気合を入れて三角巾をギュッと結んでいた。
「では、我は先程の手筈通り会場を飾り付けてこよう」
治部はダンボールに入った飾りと掃除道具を持つ。
3人は調理と会場の準備を手分けして行うことになっていた。どちらかの準備が終われば、もう一方を手伝うという手筈になっている。
木邑と小弓は調理組であるためキッチンへ足を運ぶ。
こじんまりとしていながら充実した設備に2人は思わず感嘆の声を漏らす。
「……なに、できるかな。
やれるお手伝い、がんばりたい……です」
「手伝いか……そうだなぁ……。
じゃぁちょいと頼み事に応じてくれるか?」
木邑は小弓に小麦粉と牛乳を入れた密閉容器を渡す。
包丁も火の扱いも危ういため迂闊に手を出して邪魔はしたくないが、何か手伝えないかと思案していた小弓は木邑から渡された容器に首を傾げる。
「これ、は?」
「鮭グラタンを作ろうと思っていてな。
コキューにはグラタンのホワイトソースを作って欲しい」
木邑は小弓に容器を振ってホワイトソースを作るように頼むことにした。その説明を聞いた小弓は、うんと頷く。
「……これなら、わたしでも、できる。
……みんなのための料理、一緒にできるの……うれしい」
容器を受け取った小弓はギュッとそれを掴み、張り切ってシャカシャカと容器を振っていく。木邑はその様子を微笑ましく見つめてから、一口大に切った鮭を炒めていく。
次にレンジでジャガイモを温めていると、小弓が木邑のエプロンを引っ張りホワイトソースが完済したことを教えてくれる。
炒めた鮭をいったん取り除き、玉ねぎをバターで炒めながら振り混ぜたホワイトソースの素を投入して煮詰め、ジャガイモやコンソメを入れてさらに煮る。容器に移した後、鮭とチーズを盛ってオーブンで焼く……のは、みんなが帰ってきてからにしよう。こういうのは出来たてが一番だ。
「|零壱《れーち》、ほかにできること……ある?」
サポートをしてくれていた小弓が尋ねてきてくれた。木邑はすこし考えてから、鍋用に野菜も切っておこうと考えつく。野菜の型抜や野菜カットも、厚み均等とは言い難いが零壱に見守られつつ挑戦し、なかなかに可愛い出来栄えになるのではないだろうか?
「さて、あとはみんなが帰ってくるまでアビィの手伝いを……」
その時、木邑はすぐ後ろをついてきていた小弓に気が付かず振り返ってしまった。
「こんなものか……あとは上の方に飾り付けを……我では届かんな、零壱でも呼んでくるか」
事前にみんなで作っていた折り紙で出来た輪つなぎを持ちながらアビィは上を見上げる。
今の自分の姿では到底届きそうにないが、その輪つなぎが飾られた空間を想像する。
……ふむ、我ながらなかなか良い出来なのではないだろうか?自身のシークレットサロン程ではないが、みんなでゆったりできる空間になったその部屋を見て腕を組んでちょっと誇らしくなってみたりする。
その時だった。
キッチンの方から何かが崩れるような音が響く。
木邑と小弓に何かあったのかと驚いたアビィは、すぐにキッチンへ向かった。
「2人ともどうし、た………」
「おい、大丈夫かコキュー?」
アビィはその光景を見て固まった。
木邑が小弓を押し倒すようにして覆いかぶさっている──実際には転けそうになって、小弓に怪我をさせないように咄嗟にそういう格好になったのだが、アビィはそんな事情は知らない──絶句しているアビィに気が付いた木邑は、心配をかけたと思い自分達は大丈夫だ、と伝えるがアビィは動かない。
「アビィ……?」
「……こ、」
「?」
「こ、この、ケダモノがぁ!!」
●
「ただいま、準備の方はどう……え?」
「ただいま帰りやし……え?」
買い物を終えた尾花井と各務はその光景を見て固まった。
ぐったりとした木邑からアビィが小弓を庇うようにしている場面を見れば誰だって戸惑うというものだ。
これは何も聞かない方が良いやつなのだろうか?尾花井と各務は自然とアイコンタクトを取る。
「さーてと、これは冷蔵庫に入れやすかねー」
「そうだねー、クリスマスケーキなんか溶けちゃだめだからねー」
「いや、助けてくれないか!?」
木邑は叫びにより、尾花井と各務が間に入ることで何とかアビィの誤解を解くことに成功したのだった。
「それならそうと、早く言えば良かろう!?」
「聞いてくれなかったのはアビィだろ!?」
プリプリと怒るアビィ(御歳一世紀)と疲れ半分呆れ半分な木邑を他所に、尾花井と小弓と各務は袋の中から飲み物やクリスマスケーキを冷蔵庫にしまい終える。
「ただいまー…って、木邑とアビィはなにをして……?」
「ご店主、あんまり気にしない方がいいでやすよ」
ちょうど帰ってきた食材確保班が大量のモンスターの肉を抱えながら帰ってきた。
一番に入ってきた綴が木邑とアビィを指差すが、尾花井は彼の両肩を後ろから掴み、今は関わらない方がいいでやすよ……と奥へと誘導していく。
「おぉ、凄いなぁ……!」
「凄く綺麗になっていますね」
帰ってきた食材確保班は疲れた様子ではあるものの、アビィの飾り付けた部屋を見て感嘆の声をあげる。
「皆、なんと言うか……ボロボロだな?」
木邑と言い争っていたアビィはふと食材確保班を見てそう言う。
「あー、いや……ハンティングまでは上手くいったんだけど……」
花園と斯波が少し気まずそうに、しかし申し訳なさそうに頬をかく。
「実はその後……」
数時間前、√DFダンジョン内にて
「あれ!?
あんな所に綴君と思われる|古書《・・》が|落ちている《・・・・・》ぞ!?」
「なんだって!?」
モンスターを狩り終えた彼らは綴を迎えに行こうとしていた。
しかしそこに居たのは人型の綴ではなく、古書の姿に戻った綴だった。それを見た瞬間、北條と屍累の目がキラリと光る。
「僕、気になっていたんだよね……綴君は一体何で出来ているのか、と」
「実は私も……羊皮紙でもなく和紙でもなく……本人でさえ知らない、読道さんの本体の素材」
どことなく、不穏なその言葉に花園と斯波はまずいと直感する。この暴走機関車共が同時にこうなってろくな目に合うはずがない。
「……もしかして、店主さんのピンチ……なのかしら?」
イルゼが花園と斯波に声を掛ける。
2人はゆっくり頷いてから……綴(古書の姿)を強奪しようとする機関車を止めるべく走り出し(足の悪い屍累はすぐに確保することに成功した)イルゼは状況を理解してから援護に向かうのであった………。
そして現在に至る。
「ご店主!?」
「な、なんだ!?どうしたんだ、統一郎!?」
事の顛末を聞いた尾花井は慌てて綴の様子を確認するが、どうやらどこも齧られたあとはないらしい。
「食べようなんて思っていないよ?素材を調査したかっただけで」
「そうですよ、私は北條さんではありませんので」
「あれ?僕今食べる気ないって否定したよね?」
しかし綴はその時の記憶はないらしく、ダンボールに入った輪つなぎを感心しながら取り出している。
「本人は古書になって簒奪者を倒した後の記憶はないらしくてね」
遠い目をする花園と斯波…そしてそのメンバーにイルゼまで加わってしまったことに尾花井は頭を抱えたのだった。
「さて、僕は鍋の準備を」
食材確保班が討伐したモンスターをキッチンへ運び、備え付けのテーブルにドカッと北條がそれらを置く。
「ほう?それは我にも手伝えることなのか?」
北條の隣にひょこひょことやってきたアビィは北條の手元を覗き込み尋ねる。
「あー君も手伝ってくれるの?
じゃあキノコの下処理お願いするね」
そう言ってキノコと包丁を渡すが治部は首を傾げる。
どうやら下処理の方法を知らないらしい。それを察した北條はアビィに丁寧に下処理の方法を教えていく。その工程を聞いた通りにやっていくアビィは、上手く下処理ができる度にキラキラと目を輝かせるのだった。頑張ってる姿を微笑ましく見ながら北條は他の具材の準備を初めて行く。
本日の鍋は2種類。
・レモン鍋
(竜肉つくね・レモン・キノコ・白菜・ネギ・春雨)
・トマト鍋
(竜肉切り身・トマト缶・キノコ・キャベツ・玉ねぎ)
出汁はお手軽に顆粒出汁等を使用していく。
「春幸、これはコキューが型抜きした野菜の残りなんだが……使うか?」
キッチンへやってきた木邑が冷蔵庫から小弓が用意していた野菜を取り出す。その後ろからは小弓がチラチラとこちらの様子を少し恥ずかしそうに覗いていた。
「もちろん!
こっちのレモン鍋の方に入れようかな?」
そして現地で採取したハーブも入れてると……中々いい出来栄えになったのではないだろうか?
「さて、次は肉団子だけど……あー君、てつだってくれるかい?」
「おお、今度は団子か。
ふむ、ただの団子というのもつまらぬな……レモン鍋を海に見立て、海の生物を団子にて表現しようぞ」
アビィは次々にヒトデや貝、魚にイルカなどの海の生物を量産していく。
「へぇ、負けられないね。僕もなにかやってみるかな?」
そう言って北條もアビィと同じように何かの形を模した団子を作った。ワクワクと完成を待っていた治部だが、だんだんと顔を顰めさせ、かと思えば青ざめ……北條が完成させたそれをしばらく放心状態で見つめてからハッと正気を取り戻してから尋ねる。
「………兄さん、これは……いったい?」
「ん?
……見た目にも面白い鍋になったよ!ありがとう、あー君」
「おお!おお、兄さん、どういたしまして!
頑張った甲斐があった……兄さんに褒めてもろうた……」
北條が作ったこれがいったい何なのかはさっぱり分からなかったが、しかしそんなことよりも北條に褒められた、ということでアビィは胸がいっぱいになり、北條の団子については忘れることにした。
これを現実逃避という。
「さ、此処から先が腕の見せ所ね」
イルゼは確保したモンスターの脛肉や脚肉、亜竜の肉を使ってアイスバインを作ることにしていた。
「本来はハーブやスパイスを混ぜた塩漬け肉を使うのだけど。
まぁ、時間圧縮の事象氷晶を使ってズルをしましょうか」
「イルゼさん、僕にも手伝えることはあるかな?」
各務はイルゼの手元を覗き込みながら尋ねる。
「そうね……玉ねぎやジャガイモなんかを切っていてもらおうかしら」
「わかったよ、任せてくれ」
各務はムン、と腕まくりをして包丁を手に取る。
手際よく包丁の音が響くのを聞き、イルゼは各務にその包丁さばきを褒める。
各務はいやぁ、と照れくさそうに笑った。
「料理はできるんだがなにせ一人暮らし。
誰かにふるまうというのは……うん初めてかもしれないねぇ」
そもそも、誰かと一緒に食べるというのも祠時代にお供えされたのを分けたり、村の子たちのおやつを分け合ったくらいだ。
こうやって、食糧の調達から料理……そして同じテーブルを囲む、なんて事を経験できるだなんて思ってもみなかった。
「あら、そうなのね?
私達が最初なら光栄だわ」
イルゼが優しく微笑むと、各務は少しだけ照れくさそうに笑うのだった。
「ほら、玉ねぎが切れたよ」
「ありがとう、それはこっちで貰うわ」
イルゼは各務から受け取った玉ねぎや香味野菜を鍋に一緒に入れて煮込んでいく。
「煮ている間にジャガイモはマッシュポテトにしてしまいましょう。
完成したアイスバインは半分はマッシュポテトを添えて、もう半分は煮汁と共に味を調えてポトフ・アイントプフにするわ」
「わかった、じゃあ今度はポテトを潰しやすいように温めていくよ」
各務は切ったじゃがいもを少量の水と一緒に容器に入れ、軽くラップをしてから電子レンジで温めていく。
「各務さんは好きな鍋は何かあるのかしら?」
イルゼの問いに各務はそうだね……としばらく考え込む。
「個人的にキムチ鍋が好きだね。あと味噌味系。だから和風の味付けや食材の切り分けはできるよ」
「本当?
なら今度披露してもらおうかしら?」
「もちろん」
そんな話をしているとあっという間に料理が完成してしまった。
「ふふ、せっかくだしお手伝いをしてくれた各務さんには味見をお願いしようかしらね」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
●
会場にずらりと並んだ料理を目にして、最初に声を弾ませたのは尾花井だった。
「おっ! こいつは壮観でございやすな。美味そうな料理がずらり。
こりゃあパーティーの準備万端でございやすね?」
言うが早いか、尾花井は袖をまくり、てきぱきと皿を並べ直し、鍋の位置を整え、即席のバーカウンターまで組み上げていく。事前に花園や斯波、屍累と綴が準備してくれていたおかげで、あっという間に格好がついた。
卓上には鍋が二つ。こんもりと盛られた具材。焼き色のついた鮭グラタン。アイスバインに色とりどりの前菜。
デザートにはケーキまで控えている。
クリスマスパーティと呼ぶに相応しい光景だった。
そこへ北條が一歩前へ出る。柔らかな微笑みを浮かべ、杯を掲げた。
「では、僭越ながら乾杯の音頭を」
一同の視線が集まる。
「竜肉という幸運な巡り合わせと――今日ここにいる皆への感謝を込めて」
「──乾杯!」
盃が触れ合い、澄んだ音が響いた。宴が始まる。
各務はさっそく若い面々に席を勧める。
「こういうのはね、あまり食べられない年寄りに任せなさい。君たちは遠慮なく」
そう言いながら、自身はつまみを器用に摘まみ、かなりのハイペースで杯を空けている。だが顔色一つ変えない。にこにこと酒を勧めはするが、決して無理強いはしなかった。
小弓は少し緊張した面持ちで、炭酸のはじけるモクテルを両手で持つ。
「……こんな大人数で一緒にご飯、初めてかも」
ぽつりと零れた言葉に、木邑がさりげなく隣に立った。
「なら今日は記念日だな」
そう言って自分の皿よりも、周囲へ料理を取り分けるせいで、彼の皿はなかなか満たされない。
それを見た各務はこっそり木邑の皿に大量に料理を取り分けていくが、まだ気がつくのは先になりそうだ。
「ふむ、香りは上等、甘味もくどくない。悪くないな」
アビィは自作のヒトデ型つくねを披露する。
「この形状により火の通りが均一になるのだ」
この言葉に「可愛いからじゃなくて?」と花園が笑う。
「……それも否定はせぬ」
春雨に味が染みていると称賛し、満足げに頷いた。
屍累は静かに箸を動かしながら言う。
「違う味の鍋を食べ比べできるのも、贅沢ですね」
「レモン鍋、さっぱりしてますよ」と北條「こちらのトマト鍋も、竜肉と相性が良い」
花園は小弓の皿を気にかけつつ「これも食べる?」と世話を焼くが、隣の各務も同じことをするため、「どうぞどうぞ」の応酬になり、小弓が困ったように笑った。
やがて鍋が温まり、竜肉が静かに煮えていく。
その湯気を見つめながら、木邑がふと口にした。
「……前に知り合いが言ってたんだ。『竜が持つ竜漿は、適合できなければ猛毒になる』って」
箸を止める者が、わずかにいる。
「マジで大丈夫なのか?」
空気が一瞬だけ、固まった。これまで色んなことがあった。こういうフラグを建てた途端、酷い目にあうのが常だった。
イルゼはワインを揺らし、くすりと笑った。
「私は今更、この程度の竜漿如きでどうにもならないわ。
でも……皆は此処の生まれではないのでしょう?」
その視線は鋭いが余裕がある。だがそれを見れば何となく、安心した気持ちになってしまうのは彼女の持つ性質のおかげだろうか。
北條は穏やかに続ける。
「竜漿を含んだ生物なら食べたことがあるけれど、竜そのものは初だねえ……正直、少し楽しみだ」
安心したのと同時に北條の冗談(本当に冗談かは定かではない)で場の空気は一気に和らいだ。
「まあまあ。何かあったらあっしが責任を持って対処いたしやすよ。
飲み物は何にいたしやしょう? モクテルもお任せあれでございやす」
今のところ異変はない。それならばこの時を全力で楽しむべきなのである。
鍋だけでなく、木邑と小弓が作った鮭グラタンにも屍累は手を伸ばす。
「……これ、とても美味しい。レシピを後で頂いても?」
「我にも」と治部が手を挙げ、尾花井は真剣な顔で問う。
「このホワイトソース、どうやってこの滑らかさを?」
花園はアイスバインに恐る恐る箸を伸ばし、一口。
「……あ、美味しい。なんか、想像よりずっと食べやすい」
イルゼは静かに全体を観察している。誰がどれだけ食べ、どれだけ飲み、どんな反応を示すかを。
鍋が空に近づくと、北條が手際よく指示を出す。
「レモン鍋は雑炊へ。トマト鍋はパスタに転用しよう」
「〆はあっしが担当しやしょう」
尾花井が胸を張る。
湯気の立つ雑炊と、艶やかなパスタが並ぶ頃には、場の空気はすっかり温まっていた。
そして最後に、クリスマスケーキ。
「甘い物は別腹でやしょ?」
二種のケーキが丁寧に切り分けられる。
小弓は小さく目を輝かせる。
「どっちも……きれい」
アビィは「公平に評価するため」と両方を少しずつ。
北條は紅茶を手に微笑む。
「本当に、皆に感謝だねえ」
……………そういえば、ずっと綴が静かな気がする?
紅茶から顔を上げた北條はハッとして綴の方を見る。
確か彼は木邑に勧められて彼の隣に座っていたはず……。
綴は確かにそこにいた。
小弓の世話を焼く木邑の隣に、彼の影に隠れるようにしてそこにいた。
よく見ると頭がフラフラとしているようだ。その手に持っているのは尾花井が作ったカクテルが入ったグラス……。
「……綴君?」
北條が綴に声をかけた時、綴はふにゃりと笑った。
今まで見たことのない綴のその顔を見て北條はギョッとする。そしてその顔を見たのは北條だけではなかった。
「ご、ご店主……もしや!?」
「知っているのかい、尾花井君!?」
尾花井は思い出す。昔彼に連れられて入った店で日本酒を飲んだ時の綴を!
ちなみに尾花井が綴に用意したカクテルはアルコールが入っていないものにしていたはずだったが……!
「あっしが見ていない間に……!?」
なんという痛恨のミス!
その事実に尾花井はガクっと肩を落とした。尋常ではない反応に、花園が反応する。
「こ、答えてくれ綴にいったいなにが起きたと言うんだ!?」
「その……なんというか、あっしも一度しか見たことがなかったのでやすが……ご店主は、アルコールを飲むと……とてもご機嫌になりやす」
なんて?
「……とてもご機嫌になりやす」
それがどうして尾花井をこんな反応に?と全員が不思議に思っていたその瞬間、綴がすくと立ち上がった。
「今日は無礼講だな!
店主として……新入り組全員に……絡む!!」
「絡む!?」
「方向性が最悪だぞ!」
綴はまず一番近くにいた木邑の肩をがしっと掴む。
「木邑、お前、皿にまだ料理が入っているぞ!もっと食え!」
「近い近い近い!あとそれは俺の皿じゃない!」
もう終わりも近い鍋を持つと、そのままガッと木邑の口に中身を注ごうとしてくるのを阻止していると、視界に小弓が入る。木邑の事を忘れ、綴は小弓の前にしゃがみ込む。
「小弓……君のグラタンは天才だ……。
店で出そう……グラタンフェア……!」
「ご店主、うちは古書店でやすよ!」
「……褒められた……」
そして気が付けばアビィの元へ行きヒトデ団子を高々と掲げた。
「これは素晴らしい海だ!波が見える!」
「読道、落ち着け!」
だが綴は止まらない。
その次に向かったのはイルゼの元だ。
「あいすばん……これはイルゼの能力で作ったんだろう?
時間圧縮って便利だな……」
「酔っても観察力はあるのね」
そしてそのイルゼの隣にいた各務には肩を組む。
「ウィンナーは多くても3袋までだ……!」
「いつの間にそのことを聞いてたんだい!?」
場は完全にドタバタである。
だが料理は守られた。鍋の火加減は北條とイルゼが管理し、尾花井が皿を救出し、斯波が転びそうな綴の進路からテーブルをずらす。花園は後ろから抱えて暴走を止める役だ。屍累はその光景を興味深そうに観察していた。
「止まれ綴!料理が危ない!」
「粗末にしたら後で後悔するのは自分だぞ!」
しかしその時。
綴がふらりと後退し、床に置かれた空のシャンメリー瓶を踏み抜いた。
「──あ」
つるり。
「ご店主ぅ!?」
見事なまでに一回転し、花園の肩を蹴り、斯波にぶつかり、北條の袖を掴み、最後はアビィの海の生物団子を奇跡的に避けて、床に背中から落ちた。
「……きゅう」
綴はそのまま白目で気絶した。
一拍遅れて、テーブルの端に置いてあったクラッカーの束が倒れ、誰かの肘が当たり、火花が散る。
パァン! パパパパパン!
紙吹雪が舞い、飾りの一部が落ち、折り紙の輪が崩れ、天井の小型演出用パーティー装置が誤作動を起こす。
ボンッ!!
軽い爆発音とともに、無害な煙と金色の紙テープが部屋いっぱいに広がった。
「……爆破オチかよ」
「まぁ、でもいつもの爆破オチよりはマシかな?」
幸い、鍋もグラタンもケーキも無事だった。
やがて煙が晴れ、床に伸びる綴を囲んで全員が覗き込む。
「……寝てるだけだね」
「脈も正常」
「酒、恐るべしでございやす……」
「……でも、たのしそう……だった」
床に転がる綴は、幸せそうな顔で眠っている。
次お酒を飲ませる時は気を付けよう。
●
…………。
あの日に比べて、本当に賑やかな場所になった。
初めは自身のAnkerと2人きりの場所。そこからだんだんと訪れる人が多くなって……。
また新しい顔も増えて。
楽しい日が増えた。
きっと自分は幸せなのだろう。
正直に言うと、自分がいったいどんな存在なのかは知らないし、知りたいとも思わない。
それはきっと彼女が自分を大切に使ってくれているという安心感があるからだ。
彼女が自分を使ってくれていなければ……もしもっと別の存在に拾われていれば、もっと違う運命が待っていたのだろう。
自分は意思はあるが、しかし本質的には物である。
誰かに使われてこその物である。
自分を扱う人物が、例え悪人であろうと赤子であろうと気にはしない。どう扱われようと気にしない。
自分に読み手は選べないのだから。
だが、もしもあの日|あの人《・・・》があの場所で自分を見つけていなければ、こんなふうに馬鹿なことをする事もなかったのだと思うと、少し寂しい気持ちになるのだ。
この世に生きる生物が皆、あんなふうに生きる生物であればいいのに。
そうであれば、自分はきっと生まれなかった。
「しかし|私《・》はそんな人類を愛してやろう。」