白い天井の向かい側
「……」
ミュジー・ライラは、ベッドに横たわりながら白い天井を見つめている。
そうしている間に、気づけばもう22歳になっていた。
いつの間に成人したのか。時を数えていれば気が狂うから、随分とやっていない。
それに酒や煙草などを窘めるはずもないのだし、祝う意味もなかっただろう。ましてや、免許を取って車の運転なんてものも出来はしない。
歳を取ったって、何も変わりはしないのだ。
どうせ、この先もずっとそう。
延々と、天井を見つめる日々が続いていくだけ。
「私は、幸せなのかな……」
昨日、隣のベッドの少女が息を引き取った。やってきて、1か月と経たずのことだった。
それに比べて自分は、何年も生きている。生かされている。
きっとしばらくは、まだ生きていけるのだろう。
少女は9歳で、いつも痛い痛いと泣いていた。でも昼には両親が来て、その体を抱きしめてあげていた。
自分に、家族は会いに来ない。今まで一度もなくて、もう存在していることすら嘘だと思っている。
どっちだろう。幸せはどっちだろう。
そういえば、長い年月で体調は少し良くなっていた。
ダメになった内臓を摘出して体が軽くなり、そのおかげか足が少しは体を持ち上げられるようになった。
そしてついには、病院の外にも出られたのだ。
眩しい光。果てしない空気。やまない雑踏。
初めて得たそれらは、けれど結局希望にはならなかった。
だって、一歩踏み出すたびに苦しみがのしかかる。歩いた分、戻らないといけない。
結局は、少し、良くなっただけだ。
だから今もベッドの上。
窓を眺めることもなくなって、今向かい合うのは白い天井。
じっと見つめていると、時折その白いキャンバスに自分が映し出された。
ひどい顔だ。やせ細った体に濁った瞳。
でも目を開いていて、息もしていて。
「生きているのに、なんでそんなにも辛そうにしているの?」
自分だけが絶望にいると思い込んでいるそいつに、嘲笑が零れる。
「……ミュジー・ライラ。あなたは幸せなのよ」
だって、生きているんだから。
だって、死んでいないんだから。
だけど、
だけど。
昨日、隣のあの子が羨ましかった。
痛い痛いと泣かないでよくなって、親に抱きしめられながら泣いてもらって。
全てから、解き放たれて。
そうしたら一体、どんな素晴らしい場所に行けるのだろう。
「……ねえ、あなたはどう思う?」
白い天井は応えない。
最初から、そこには誰もいない。
そう、ただの真っ白だ。何もありはしない。それが真実だ。
だから怖くなって、目を開いている。
白い天井を、見つめている。