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据え膳

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八手・真人

 二度あることは三度ある――仏の顔は何度でも――眩暈、墨を散らかした記憶などないと謂うのにこの脆弱さだ。或いは、これこそが常であるとでも言いたげに脳味噌が揺らいでいるのかもしれない。お喋りする事は可能だった。遊びに誘われた事だってあった。何処かの誰かに邪魔をされて、ああ、そっちが参っていた事だって真新しい悪夢である。兎にも角にも八手・真人、お兄ちゃん思いな依代は人生最大の危機とやらを再び迎えていたのである。ああ、世界はこんなにも狭かったのだろうか。ああ、手を伸ばさなくとも勝手に『やってくる』のが日常なのだろうか。ぐるぐると旋回しているクエスチョン・マーク。無理やり呑み込もうと必死になったならば――そろそろ、言の葉を紡いであげても良いのではなかろうか。ごくりと、咽喉を鳴らしたところで現状を打破する事などできない。打破しようと試みたところで、真に、それが害となっているわけではない。お姉さんはいつまで経ってもオマエにとってはお姉さんである。故に、如何して、おそれを抱く必要があるのか。……ハッピーバレンタイン、真人くん。昨年もこうして一緒に過ごしていたけど、どうかしら。少しは『おねえさん』に慣れてくれたら嬉しいんだけど。お家に押しかけて来た名前も知らないお姉さん。何故だかわからないけれども、メイドみたいにお世話をしてくれるお姉さん。何にも言ってないのに、何にも知らない筈なのに、気づいたら隣に立っているお姉さん。お姉さんが笑っている。お姉さんが笑っている。お姉さんが――? いよいよ、座っているのも厳しくなってきた。頭が、脳味噌が、おもいっきり揺れ始めて、ぐらりと地面がやってきた。ちょ、ちょっと! 大丈夫……? 大丈夫ではない。何せチョコレートよりも暗いのだから。
 ぼんやりと意識が戻ってきた。暗闇から引っ張り上げられたオマエは目と鼻の先、なんとも素敵な山とやらに遭遇した。あら……気が付いたのね。良かった。このまま、起きないんじゃないかと心配していたのよ。アタシは真人くんのこと……大好きなんだから。大きな、大きな『間』を感じたのだが、引き摺っている眩暈の所為で如何にも頭が働かない。あ……あの……そ、その……ご、ゴメ……ごめん、なさい。何故、|俺《●》が謝罪の言葉を口にしたのか。それについてはおそらく二人とも理解できないだろう。なんで謝るのよ……そこは「ありがとう」でしょ。ねえ、チョコレートは冷蔵庫に入れておくから、あとで食べてくれると嬉しいわ。きっと、体調が良くないんだろうし……。本気だ。お姉さんは心の底からオマエの事を心配している。今にも泣き出してしまいそうな顔なのだ。貼り付けた『笑み』とやらもまったく台無しになりそうだと。……あ……ありがとう。あ、その……エット……お、俺……チョコレート……今から……? がばり、なんて起き上がれる筈がない。ずきずきと、ぐずぐずと、脳髄が軟体動物にでもなったかのような――。ほら、無理しないの。真人くんの頭の中は今、蛸壺にしては柔らかいんだから。……へ? 今、お姉さんはオマエの頭の中身をなんと表現した。いや、気の所為だろう。これも朦朧の仕業に違いないのだ。
 まるで眠り薬をしこたま服用したかのようだと、まるで麻酔をされたかのようだと、本能が訴えかけてきた。たこすけに喋りかけようとしたのだが、果て、神様は如何やら『ちゃんと』答えてくれないらしい。何もかもは泡沫なのだと、何もかもは胡蝶なのだと、それこそ、信者に対して慈しみを与える|烏賊《●●》のように――え、えっと……な、なんだか……とっても、眠たいような……眠たかったような……? 疑問が尽きる事はない。正気が戻ってくる事などない。視よ、聞け、触れるといい。お姉さんはインサニティで、狂信者で、汎神解剖機関の職員なのだ。真人くん? これだけは覚えておいてね。アタシは『あなた』の事を信仰しているのよ。夢だ。これも夢に違いない。目が覚めたら、兄ちゃんにぎゅうってされていて――もう、大丈夫よね? アタシは、量だけは間違ったりしないもの。
 神との同一化には眩暈が不可欠だ。そんな言葉を頭から信じてやれるわけがない。何故ならば、浮遊感の所為で曖昧になってしまったからだ。お姉さんはいない。いや、そもそも、恐怖からやってきた幻覚なのではなかろうか。貧血と恐怖が重なって、見えた、それこそ悪夢だったのではなかろうか。そんなふうに冷蔵庫、ゆっくりと開けてみたならば――真っ暗闇なチョコレート。チョコレート、チョコレート、チョコレート。ひ……ヒィ……! 本日何度目の喪失だろうか。情念こそが魔物である。
 そういえば、アタシの名前を教えてなかったね。
 アタシは磯貝。磯貝・はしらっていうの。
 ねえ、真人くん。アタシはね。
 いつか、アタシのことを食べてほしいって思ってるの。
 ふふ……ふふふ……。

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