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積層都市に嵐吹く
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ネオンは仙術の力でギラギラと輝き、太陽の光がなくても街を眩く照らす。
ここはとある中層都市の繁華街。日の光を浴びるほど裕福ではなく、かといって常に身を危険に晒されるほどではない場所。
そんな街に、妖しい風が吹いたかと思えば――それはすぐさま突風に変わり、嵐のように街を薙ぐ。
風に乗って現れたのは、炎のような妖魔の群れだった。彼らは街を燃やし、人々に恐怖を齎す。
『武強主義』を第一とする世界だからこそ、危険な妖魔に迷うことなく立ち向かう者も現れた。しかし、彼らの拳では妖魔の炎は消しきれない。
一方命を守るために逃げる者もいれば、混乱に乗じて好き勝手する者も現れる。各々が思うがままに動いた結果、混乱はどんどん広がってしまっていた。
追い打ちをかけるように、街に黒服の者達が近づいてきている。
彼らの後方には、龍のような姿をした女の姿もあった。
「……胸騒ぎがするな。これがゾディアック・サインの力だろうか」
不安げな言葉と裏腹に、女の顔には笑顔が浮かんでいる。
積層都市に、楽園からの風が吹こうとしていた。
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「集まってくれてありがとうな。今回は新しく到達した√、『√仙術サイバー』に向かってもらうぜ」
赤神・晩夏(狐道を往く・h01231)は軽く手を振りつつ、集まってきた能力者達を迎え入れる。
晩夏の言うように、以前から存在が示唆されていた『√仙術サイバー』にいよいよ向かう時が来た。今回の依頼では、この地で起こる事件の解決を行うようだ。
「√仙術サイバーには積層都市っていう、名前の通りどんどん上に積み上がっていく都市がある。今回はとある都市の中層に向かってもらいたい。ここの繁華街に大量の妖魔が発生するんだ。それに乗じてマフィアが都市に乗り込み、略奪行為を行うつもりらしい。という訳で、片っ端から敵を倒して都市を守ってほしいんだ」
都市の人々もある程度は自衛するが、彼らの能力には限界がある。このままでは、都市の被害は甚大なものになるだろう。悲劇を防ぐためにも、能力者の助力が必要不可欠だ。
「皆が繁華街に着く頃には、もう妖魔は発生しちまってる。きっと混乱して騒ぎになってるだろうな。だから、最初は妖魔を倒して混乱を鎮めてくれ」
繁華街の住民は妖魔に立ち向かったり、その場から逃げ出そうとしている。彼らには手助けが必要だろう。
また、混乱に乗じて窃盗のような悪事を行ったり、暴れまわる者もいるだろう。彼らを殺さずに対処することでも、混乱の鎮圧に繋がる。
「今回の妖魔は鬼火みたいな姿をしていて、数は多いがあんまり強くはない。こいつらをさっさと倒してしまうのも、一つの手だな」
最終的な街の被害が抑えられれば、手段はなんでも構わない。民間人に集中する、妖魔に集中する、その両方を行う――対処法は能力者次第だ。
「混乱が落ち着いたら、今度はマフィアどもの対処だ。現れるのは配下クラスの奴らだから、こいつらも思いっきりぶっ飛ばしてくれ」
どのような配下が現れるかは、その時の状況次第だ。何者が現れようと、遠慮なく戦えば問題ない。
「配下どもを倒したら、次は事件の首謀者、妖魔公女『冥鈴・ガルガンチュア』との戦いになる。こいつはマフィアの当主でありながら、最前線での戦いを好む戦闘異常者だ。今回の作戦でも、わざわざ街まで降りてきて暴れるつもりみたいだな。こいつさえ倒せば事件は解決ってわけだ」
冥鈴を退けたとなれば、他のマフィアもしばらくは街に手を出せなくなる。
その平和がつかの間のものだとしても、きっとなにか意味のあるものになるはずだ。
「説明はこのくらいかな。それじゃあ、準備しようか」
晩夏は能力者達に一礼し、見送るように笑顔を向ける。
「新しい√でも、皆の活躍を楽しみにしてるぜ。それじゃあ、行ってらっしゃい!」
これまでのお話
第1章 冒険 『繁華街の乱闘』
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繁華街ではすでに火の手が上がり、人々が騒ぐ声で満ちていた。
炎のような妖魔は無差別に暴れ回り、目についたものに攻撃を仕掛けている。それに対し立ち向かう者もいるが、かなり分が悪そうだ。
危険を察知しこの場から逃げ出そうとする者もいるが、混乱の中ではうまくいかない。逆に混乱に乗じ、悪事を行う者や、手当たり次第暴れるような者まで現れている。
このまま騒ぎが広がり続ければ、いずれやってくるマフィア達の思う壺だ。
早急に混乱を鎮め、街の被害を減らさなくては。
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新しい物語に触れる時は、いつだって心が躍るようだ。
神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)は混沌の町並みを見上げ、小さく息を吐いた。
「……ここが新しい√……」
胸の熱に突き動かされるよう、境華は眩い世界を歩く。その足取りはまっすぐで、迷いのないものだ。
見知らぬ土地だろうと、暴虐非道が許される道理はない。罪なき人々がその被害に遭うことを思えば、いつだって心がザラザラとするようで。
目的地につけば、すぐに五感が喧騒を捉えた。妖魔から放たれる熱、誰かの叫ぶ声、目の前で繰り広げられる戦い――一刻も早く、状況を改善しなければ。
境華は白紙の頁を手に取り、御伽羅紗をはためかせた。
「……まずは、道を作ります」
羅紗から魔術を発動し、まずは周囲を風で薙ぐ。強く清らかな風は妖魔の生み出す炎をかき消し、人々が逃げ出すための道を広げた。
そのまま境華は逃げ惑う人々の肩に触れ、彼らに退路を示す。
「あ、あんたは!?」
混乱する相手にはしっかりと視線を合わせ、ゆっくり、けれどはっきり言葉を向ける。
「大丈夫です……こっちへ。まだ安全な場所があります」
世界が違っていても、街の造りというものは大きく変わらないはずだ。
できるだけ広い通りに繋がるような道、風の向きから火の手が広がりにくい道――そういったものを即座に判断し、境華は最短の退避ルートを導き出した。
しかし、先程の風を検知したのか、妖魔の群れもこちらに迫ってきている。境華は人々を庇うように立ち、さらなる魔術の準備を整えた。
「こちらの方向に全力で走ってください。妖魔は私がせき止めます」
続けて展開するのは邪悪を阻む結界。それらで人々を守りつつ、境華はさらに道を切り拓く。
炎はかき消し、妖魔は斃し、そして困っている人がいれば躊躇なく手を取って。
その最中、一人の男性が境華に疑問をぶつけた。
「姉ちゃん、どうして俺達を助けるんだ? こういう状況で死ぬのは、自業自得みたいなもんだよ」
男性の言葉に、境華の胸の奥でザラリとした感触が広がる。この世界は武強主義を掲げる、強い者が生き残る世界。
だからといって――境華の思いは揺らがなかった。
「私は、救える命は確実に拾っていきたいです。そうしたいと思ったから、ここにいます」
「……そっか。ありがとうよ。姉ちゃんのこと、忘れないぜ」
男性は境華に頭を下げて、安全な場所へと逃げていく。
境華の思いは、きっと助けた人々に伝わっている。それはきっと物語の頁のように、確かにこの世界に積み重なるはずだ。
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新しい√に足を踏み入れても、落ち着く余裕はない。すでに巻き起こっている喧騒を察知し、任部・由里奈(解き放たれた澱・h08321)はツインテールを揺らした。
逃げ惑う人々、暴れる妖魔、破壊される街――早急に解決すべき事態を理解すれば、由里奈は拳を握る。
「まずは、これ、なんとかしないと。ゆりなも、がんばる」
だから、みんなも頑張れるように。由里奈はデモニウム細胞を活性化させると、それを霧のように周囲に広げていく。
霧に触れた人々はふいに身体が軽くなったことを認識し、互いに顔を見合わせていた。
「な、何が起きたんだ……?」
「すこしだけ、みんなのこと、つよくした。ゆりなのきたほう、あんぜんだから、にげて」
由里奈は黒の蝕腕を鞭のようにしならせ、妖魔を叩きのめしつつ事情を説明する。
この世界は武強主義を良しとしている。幼い少女である由里奈も、妖魔を潰せるほどの強者と見做されているだろう。彼女の言葉に確かな説得力を感じ、支援を受けた人々は素直に従い始めたようだ。
「お嬢さん、ありがとう!」
「うん、きをつけて」
お礼を言って逃げていく人々の背を見送りつつ、由里奈はさらに妖魔と戦い続ける。
しかし対処しなければいけないことは、他にもあるようだ。
妖魔を探す最中、由里奈の目に留まったのは――民間人を追い詰める暴漢だ。
助けてやるから金をよこせとか、そのようなことを言っているのだろう。民間人も抵抗しているが、容赦のない暴漢に殴られ続けている。
由里奈は音もなくそちらの方に近づき、暴漢の身体を黒の蝕腕で叩いた。威力は手加減していたため、暴漢はただ気を失う。彼を一応戦いに巻き込まれない位置に投げ飛ばしてから、由里奈は民間人に手を伸ばした。
「だいじょうぶ?」
「ありがとう、本当に助かったよ……」
「あっちが、あんぜんだから……あ」
退路を教えようとしたが、通ってきた道はすでに妖魔に塞がれている。すでに騒動を聞きつけた人々が妖魔に立ち向かっているが、力及ばずのようだ。
由里奈はすかさず腕を構え、そこから黒の斬光を放った。闇色の光は妖魔だけを撃ち抜いて、道を切り拓く。
「これで、あなたも、あのひとたちも、だいじょうぶ。じぶんで、にげられる?」
「本当にすごいな……ああ、大丈夫だよ、ありがとう」
「みんな、ぶじでいられるように。ゆりな、もっと、がんばる」
人々から感謝の言葉を受け取り、由里奈はコクコクと頷く。表情は変わらずとも、暖かな気持ちが広がっていくようだった。
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激しい音と怒号が響き、何かが焼ける嫌な音がする。明らかに混乱する街の様子を前にして、春尾・志選(鵺の巫女・h07952)は息を飲んだ。
このまま放っておけば、どんどん被害が広がるのは明白だ。幸い、混乱を引き起こしている存在――妖魔とやらはあまり強くないようだ。そこから解決するのが良いだろうか。
「黒龍、力を貸して!」
志選は迷うことなく霊獣の力を借り、龍を模した姿に変身する。
この状態だと身体能力が向上するが、代わりに打たれ弱くなってしまう。身を守るために忘れずオーラの盾を纏って、志選は混乱のなかに飛び込んだ。
まず目についたのは、周囲を手当たり次第燃やす妖魔。志選は勢いよく地面を蹴り、妖魔の頭上に飛びついた。
そのまま大きく腕を振るえば、妖魔は叩き潰されて消滅していく。事前の情報通り、妖魔の強さは大したことがないようだ。
(手応えは大丈夫。次は……)
次の敵を探す最中、目に留まったのは逃げ惑う民間人。どうやら子どもと共に逃げ遅れていたようで、その進みはかなり遅い。
そんな民間人の元にも容赦なく妖魔は迫り、火の手を広げようとするが――。
「危ない……!」
すかさず志選が間に割り込み、妖魔を尻尾で薙ぎ払う。生じた強風で炎はかき消され、妖魔も吹き飛ばされた。
「あ、ありがとうございます」
「無事でよかった。この辺りに、他に困ってる人はいますか?」
志選に助けられた民間人は奥の大通りを指差し、眉を下げた。
「あの辺りに人混みができてて、避難活動が滞ってるみたいで……」
「わかりました、見てきますね。あなたも気をつけて」
教えてもらった情報を元に、志選は再び駆けていく。確かに言われた通り、大通りには人混みができていた。その先には妖魔の姿も見える。
志選は力強くアスファルトを踏みしめると、そのまま高く跳躍した。そのまま空中を駆けて妖魔に接近すれば、ダッシュの勢いを乗せたまま妖魔を蹴飛ばす。
龍の鱗に覆われた足に、妖魔の炎は届かない。全力の飛び蹴りを食らった妖魔はふっ飛ばされ、何事もなかったかのように消えた。
こうして人々の安全を確保しつつ、志選はどんどん敵を斃していく。
小さな身体に、全力の気合を乗せて。街を駆け回った龍の姿は、助けられた人々の目に焼き付かれていった。
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春が近づく頃合いでも、吹く風は未だ少し冷たい。ビルの屋上を撫でる風を感じながら、神喰・蛙蟋(紫煙の売人🚬・h01810)は煙草の煙を燻らせていた。
そのまま少しだけ身を乗り出して、ビルの下方に視線を向ける。蛙蟋の瞳が捉えているのはこの√ではなく、√仙術サイバーの光景だ。
「新しい道はどんな感じかにゃ? ……にゃあ、結構大惨事?」
綺羅びやかな繁華街は、激しい混乱の最中にある。さまざまなものを雑多に集めたような街の中に、見えるのは炎と騒ぐ人々の姿。
どうにかこの場から逃げようと、なりふり構わず逃げる者。ただただ混乱することしかできず泣き叫ぶ者。そんな人々の姿を見て、蛙蟋はケタケタと笑い声をあげた。
「にゃあにゃあ、なかなか愉快な光景だにゃあ。けど、雑多で視界が悪いにゃあ」
件の繁華街はヒトもモノも多すぎる。そこに妖魔と火の手まであがれば、屋上からでも観測するのは骨が折れる。
そんな混沌の中だからこそ、文字通りに火事場泥棒に勤しむ者なんかも見えて――蛙蟋は煙草を吸い、ゆっくりと煙を吐き出す。
蛙蟋の眼下にある光景は、所詮すべてが他人事だ。妖魔も厄介とはいえ、ライターよりは火力がある程度。奴らそのものはそこまで脅威だとも感じない。
だからといって――ただ見ているだけでは終わらないのだが。
「未来の客の金は未来の蛙蟋の財産にゃ。ちょっとは助けておくにゃ」
何が巡り巡ってやってくるかわからない。商売人としての判断から、蛙蟋はじぃっと繁華街へと目を凝らす。
鋭い視線が射抜くのは暴れまわる妖魔達だ。蛙蟋に睨まれた妖魔はブルリと身体を震わせ――そのまま潰された煙草の火のように掻き消えた。
やはり妖魔は大したことがない。適当に目についたものを消していけばいいだろう。
だとすると、気になるのは――。
「武強主義だっけにゃあ、強さが正義なら……コソコソ盗みなんてやって恥ずかしくないのか」
ふと、蛙蟋に見つめられた火事場泥棒が足をもつれさせる。その場に転んだ彼は妖魔に追い詰められるが、命を奪われる直前にその妖魔は潰された。
泥棒も、悪事を行っている最中にこんな目に遭えば、反省してもう妙なことはしないだろう。逃げ去る彼には特に意識を向けず、蛙蟋は次の煙草を手に取る。
改めて紫煙を吐き出しつつ、次の煙草に火をつけて。蛙蟋の視線は、次の興味へと移っていた。
第2章 集団戦 『ブラックスーツ』
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能力者の手により妖魔は退けられ、人々の避難活動も落ち着いてきた。
ようやく街に多少の静けさが返ってきたかと思えば――すぐさま次の危険が姿を現す。
大挙してして押しかけてきたのは、マフィアに従うブラックスーツ達だ。
彼らは能力者を最も危険視し、攻撃を仕掛けてくるだろう。
ブラックスーツを倒せば、いずれマフィアのボスも姿を現す。
事件を解決するために、新たな戦いが始まった。