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燃ゆるは正義
●燃ゆるは正義
私には、すきな人がいます。ちいさい頃はいじめられっ子だった私を、必ず助けてくれた幼馴染。
小学校に入る前に遠くの街へ引っ越ししていった彼に憧れて、柔道を習うようになりました。
どうやら私は才能があったらしくて、力もついてあっという間に背も伸びて、大抵の同じ年の男の子なら軽々と投げ飛ばしてしまえるくらいには成長しました。
「祥香、オレのお気に入りやるよ! だから泣くな!」
引っ越すその日、逢えなくなるのがさみしくて泣いてばかりだった私に、彼がくれたのは特撮ヒーローのキーホルダー。
「でも、これだいじなものでしょ?」
「だからお前にやる! オレがいなくても、祥香を守ってくれるから!」
いつか彼にまた逢えた時、胸を張ってこのキーホルダーを返せる立派な人間で居たい。
――そう、思っていたから。
偶然友達と遊びに来ていた桃の花のお花見会場。こども向けに開催されているヒーローショーを眺めていれば、私は赤く揺らめく炎の花弁のような衣装に身を包んでいました。
桃の花が満開のなかで逃げ惑う人々、泣きだすこども達、それから本物のこわい怪物の群れ。
この場に駆けつけてくれるヒーローはまだ居ない。なら、
「……私が、皆を守らなくちゃ!」
「祥香、ひとりじゃ無茶だよ!」
不安そうに声を震わせる友達に、私は笑います。
「大丈夫、だって私、強くなったんです!」
そうだよね、と。腰にくっついたお守りのキーホルダーをそっと撫でて。
●果たすは約束
「えっと、はじめまして。星詠みの鈴綺羅 こばとって言います」
よろしくお願いします、と地味な印象の娘――鈴綺羅・こばと(peace sign・h05364)が頭を下げる。それから、挨拶はこれで十分と言ったように説明を始めた。
「√マスクド・ヒーローで起きてる、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》を、あたしも予知しました。中学三年生の女の子が魔法少女に覚醒すると、彼女を襲う怪物が現れます。それを退治して、その子を保護してあげてください。その子の名前は、|猪頭 祥香《いのがしら しょうか》さんって言います」
タブレットに表示された資料には、彼女が柔道の有段者であることが書かれている。そして、とある地方都市の広い公園で開かれる桃の花のお花見大会の公式サイトのページが転載されていた。
「この会場でヒーローショーが行われてて、彼女も偶然その場に居合わせます。その時に魔法少女現象が発生して、怪物――デザイアモンスターの群れも現れちゃって……」
つまり、彼女を保護しつつ一般人の誘導も必要ということだろう。
「祥香さんは正義感が強くて、一般人を守ろうと積極的に戦おうとするみたいで。怪我しないように、戦い方を教えてあげたり守ってあげてほしいんです」
多分、すごくいい子なんです。そう呟いて、こばとは続ける。
「デザイアモンスターを全部退治したら、そいつらに祥香さんを襲わせたボスの怪人が出てきます。その怪人も倒したら、落ち着いて保護できるから」
必要な説明を終えたなら、星詠みの娘は考えこんだのちに口を開く。
「きっと祥香さんには、これから支えてくれる人が必要だから。皆さんが助けてあげてくれたら、いいなって思うんです。だから、よろしくお願いします」
たどたどしく告げる娘は、自らの鋼の四肢をそっと撫でた。
これまでのお話
第1章 日常 『お花見とヒーローショー』
和やかな花見会場では、満開の桃の花が陽の光にあたって煌めている。人々の楽しげな会話に耳を澄ませながら、アクセロナイズ・コードアンサーは件の少女、祥香を想う。
助けられた想いを継ぎ、自らも善を為す勇気ある姿は、ヒーロー魂と呼ぶにふさわしい。で、あればこそ、必ず彼女を助けなければならない。だって、
「善き人が傷つく世界であっていいはずがないのですから」
ヒーローショーで万が一のことが起こった時に備え、迅速に避難を促せるように下見は済ませてある。舞台と客席の距離をはかりつつ、お世辞にも良好とはいえない視界で戦う相手を見据えていた。
「みんなー! いっせーので、で応援するよー! せーの、がんばれー!」
司会の女性の掛け声にあわせ、客席からはこども達のヒーローに対する元気な声援が鳴り響く。その応援を力に変えて、ヒーローはアクセロナイズ達が扮装する怪人達をかっこよく倒していく。
――そう、男はヒーローショーの怪人役を買って出た。実はひっそり憧れで、最前列よりはるかに間近に大活劇を見られるのだからテンションも上がってしまう。
勿論、実利もある。祥香も観劇するのなら、舞台からのほうが把握もしやすく、有事の時は変身も素早く可能なのだ。
(ヒーローを隠すなら怪人のなか、です!)
大袈裟なくらい派手に転びながら、男はこちらを遠くから見ている二人の少女を発見する。背が高くやわらかく微笑んでいるのが祥香だろう。
彼女の勇気の焔が消えないように、アクセロナイズは悪を演じる。
桜よりも色の濃い、けれどどこか愛らしい桃の花が満開のなか、ヒーローショーは続いている。それを見つけた若命・モユルは、わぁっと歓声をあげる。
「楽しそう!」
どうやら前のほうの席はまだ空いているようで、スタッフの一人は少年を見つければ手招き。
「君も良かったらどうぞ」
「いいの?」
ありがとう、としっかりお礼を言って、モユルも長椅子のひとつに座る。目の前で繰り広げられるヒーローと怪人の戦いは、どこか現実味のないものだったけれど。
「がんばれー! 負けないでー!」
周囲で一生懸命に声援を届けるこども達と同じように、モユルもまたヒーローへと応援の声を出す。
「がんばれー!」
無事に怪人を倒し、お花見会場を守り抜いたヒーローへは拍手喝采。司会の女性やスタッフの案内に従えば、このあとヒーローとの握手会もあるようで。
どうしようかな、と迷っていたのもすこしだけ。こども達の波に流され、モユルも一緒に握手会の列に並ぶ。
喋ることのないヒーローだけれど、モユルにそっと視線を落とす。
「あっあの、かっこよかった!」
どきどきと感想を告げれば、おおきく頷いて力強い握手をかえしてくれる。
たとえそれが本物じゃなくたって、この人もまたヒーローなのだと、モユルには思えたのだ。
よく晴れた公園は、満開の桃の花によって人の出入りも多い。コウガミ・ルカもまた、事件解決のためにこの花見会場へと訪れた。
「……花見。……ヒーローショー?」
花見。それは主に桜を見て楽しむこと。今回は桜ではなく、ひとつ手前で咲く桃の花を見ることになるのだろうか。ヒーローショー、それは悪い化け物を倒すヒーローに視点を当てた舞台のようなもの。
すこしずつ蓄えていく様々な知識から、思い出せるものを拾う。パトロールがてら、青年はヒーローショーの実物を見てみることにした。
家族連れやこども達の邪魔にならぬよう、離れた位置からショーを見物する。過剰強化されている聴覚は常に広範囲の音を拾っていて、揉めごとらしき悲鳴や怒号があればすぐに探知できるだろう。彼は、そういう存在であったから。
「……音、異常なし」
ヒーロースーツに身を包み、仮面で顔を隠した人物がパンチやキックで怪人達に応戦している。
「……化け物、人間の敵」
あ、と思っているうちに、ヒーローが見事な跳躍と共に派手なキックを決める。なにかしらの名前を叫んでいたから、あれが必殺技だったのだろう。化け物が倒された時、スモークが焚かれ爆破音が響き、こども達も大歓声をあげていた。
「……俺も、化け物」
ぽつりとこぼした言葉はかすかなもので、周囲の誰にも聞こえることはない。人間の|容《かたち》に似せただけで、中身はつぎはぎ。多くの人間だって殺して、その結末には今や人間災厄というラベリングを貼られている。
(今思えば、俺って……よくわからないな)
――ぐるるる、喉が鳴る。
いざという時の絞首機能や中和剤を注射するための針が仕込まれた首輪が、心なしがわずかに締まったような気がした。
まぁいいか、とルカは思い直す。考えたところで自分がすることは変わらないし、変えようとも思わない。やるべきことは、保護対象である少女を助けることであり、自分とはまた別の化け物共を殺すことだけ。
ヒーローショーが終わり、どうやら握手会が始まっている。それを微笑ましそうに見ている少女、祥香を目視で見止め、マスク越しに青年は呟く。
「――俺は化け物」
ただ、それだけだ。
満開の桃の花の綺麗さは、ひとりではまだ、よくわからない。
愛らしいピンク色が満開の公園は、人々の活気で賑わっている。魔法少女として覚醒する少女について、星詠みの一言がアリス・アイオライトには思うことがあった。
「いい子なのであれば、導く者が必要なのでしょう」
それに、とエルフの娘は隣の少年へと視線を向ける。彼が絶対に行くと息巻いているのだから、師匠として協力するべきだろう。
「女の子を助けるんだ、それならやっぱりヒーローの出番だろ!」
ふんす、とやる気いっぱいの天ヶ瀬・勇希のお腹が、ふいにくぅ、と鳴る。う、と思わず抑えた彼に、アリスは微笑んだ。
「まずは腹ごしらえ、ですね」
「う、うん! おなか減ったー!」
焼きそばにたこ焼き、フライドポテトにベビーカステラと、あちらこちらからいい匂いがして、どれにしようかと勇希はきょろきょろ。
ふと、じゅうっと何かを焼く音がしてそちらを見れば、手頃なお値段の牛串焼きの屋台がある。
「一本ください!」
「私は焼きそばをいただきましょうか」
屋台ごはんというジャンルにも、この世界に来てから随分と慣れたような気がする。ぱきりと綺麗に割り箸を割って、アリスはちょっぴりジャンクなソース味の焼きそばを堪能。隣では熱々の牛串を齧って、ご満悦の勇希が居る。
見上げれば桜よりも濃い色の桃が咲いていて、エルフの娘は思わず目を細めた。
「桜の花見は去年しましたが、桃の花でもお花見できるのですね」
「ん、そっか。師匠と花見してからもうすぐ一年なのか」
あっという間の時の流れに、なんだか不思議な気持ちになっている時、ふと勇希は師匠へと釘をさす。
「……今日は酒飲んだらだめだからな」
「はい、飲むつもりはないですよ?」
きょとんとした表情で頷くアリスに、少年はえっとこぼす。酔うと大変なことを、どうやら本人は覚えてないらしい。
「……まぁ、ならいっか」
ここでそれを説明しても、今は意味のないことだし。そうして軽く腹を満たしたならば、いざヒーローショーの会場へ。
アリスは魔法宝石から喚びだした青い鳥を、そっと静かに会場の空へ放つ。なにが起きてもすぐに違和感に気づけるよう、即座に動けるための準備を怠らない。
「……居た」
勇希が見つけたのは、保護対象である祥香。ちょっと歩き疲れたね、と友達とベンチに座る彼女の近く。会場後方の長椅子に座れば、賑やかな音楽と共に司会の女性が現れる。
始まったヒーローショーは、勇希が普段見ている特撮番組のもの。お馴染みのヒーローが怪人達を倒していく姿に少年は目を輝かせる。
「ん~、やっぱ生のヒーローショーだと興奮しちゃうな!」
いけー! やっつけろー! そんな声援を送る弟子の隣、アリスは初めて見るヒーローショーに軽く小首をかしげ。
「ユウキくん、でもこれ、あなたが毎週テレビで見ているのとは何か違う気がするんですが?」
ヒーローの台詞はマスク越しではなくスピーカーから、爆発音はするものの、スモークによる必要最低限のエフェクト。怪人達の姿も、どこかいつもより大袈裟なような。
「ショーとテレビは別物だよ、師匠! でもどっちもかっこいいだろ!」
「そう、ですね……」
司会の女性の掛け声に合わせたこども達の声援。それを受けて立ち上がるヒーローの姿は、確かに凛として見える。
「あっほら、応援してくれって言われたらみんなでするんだよ! がんばれー!!」
「なるほど、そういうものなのですね……?」
大きな声を出して精一杯のエールを送る勇希に促され、アリスもまた、頑張ってくださいーと、ちいさな応援を届けるのだった。
第2章 集団戦 『デザイアモンスター』
その瞬間は、ヒーローとの握手会のさなかに起きる。
「え……?」
赤く揺らめく炎の花弁のような、優雅かつ凛々しいコスチュームに身を包む少女。そしてぞろりと現れるのは、彼女の心を狙うおそろしい怪物達。
満開の桃の花の下で逃げ出す人々や泣きだすこども達を見て、祥香は危険のなかへ飛び出そうとする自分を止めてくれる友達へと笑った。
「大丈夫、だって私、強くなったんです!」
そうだよね、と呟いてお守りをそっと撫でる彼女は、たったひとりではきっと敵わない。
――だからこそ、能力者達はこの場に集まったのだ。
握手会を舞台裏から覗いていたアクセロナイズ・コードアンサーは、すぐさまその騒ぎを聞きつける。
「はじまりましたね……人命救助は速度が命! 今回はこれだ!」
カードリーダーにセットする|切り札《カード》は、白氷狩獣・管狐と狩猟女神の鏃。すぐさま認証されたなら、瞬く間にその能力は男の力になる。
「アクセロナイズ・ホワイトテイル!」
撃ちだされた氷の弾丸は、つめたく白い光の氷雪と成り少女を守る障壁へと変貌する。揺らめく焔のドレスが引き裂かれぬよう、モンスター達を弾き飛ばす。
「皆さんこちらへ! 焦らず落ち着いて、こども達の避難を優先して!」
一般人には、アクセロナイズが擬態能力によって警備員に見えている。司会の女性やスタッフとも協力し、避難誘導は順調だ。そのさなかも、男は手にした絶対零度の白弓の支度を欠かさない。
やがてうごめく怪物共が、ひとつの塊となっていく。
「融合とは、やはりあちらもお約束を忘れないものですね!」
しかしそれは男にとって好都合――自ら巨大な的になってくれるのだから。
近未来的な見目の弓を引き絞れば、エネルギーをたくわえてまばゆい光が明滅する。
「凍てつけ、ホワイトテイル・スノウスレイ!!」
一斉に周囲を制圧しかねない氷の矢は、巨大な腕も周囲の怪物達もまとめて瞬間凍結してしまう。氷漬けになってしまえば、たとえ死のうが復活しようが動き出すことは難しい。
なにより、白い光は魔法少女をも強化してくれるだろう。アクセロナイズの読み通り、覚醒した祥香は普段よりも軽やかな身のこなしに驚いているようだった。
「あ、あなた……本物のヒーローさん?」
「ええ、あなたや皆さんがそう思ってくれている限り!」
駆けつけた男へと尊敬のまなざしを向ける少女に、アクセロナイズは言葉を続ける。
「怪物は我々にお任せを。あなたはどうか、ご友人の傍に!」
そう、彼女は無力ではない。自身のいのちと友を守る大役があるのだから。
「はい……!」
友人の元へと駆けていく祥香の姿を見届け、ヒーローは再び敵影へと弓を引く。
突如現れた本物の怪物達。助けて、と誰かが呼んだ声を聞いて、十束・新貴は桃の花咲く会場へと駆けつける。
「ヒーローショーに魔法少女、それに本物のモンスターか」
拳銃を構え、人々や魔法少女に覚醒した祥香を狙うデザイアモンスターへと狙いを定める。撃ち込まれた弾丸は次々と命中し、怪物を消滅させていく。
「こっちだ!」
本当は、戦うことなんてやりたくない。けれどたったひとりのあの子のため、困っている誰かのために、今は偶然にも手にしてしまった力を振るうだけ。
「君も早く逃げるんだ!」
「いえ、私は逃げるつもりはありません! あの頃私を守ってくれた彼みたいに、友達を守らなくちゃ」
火焔揺らめくドレスに身を包む少女のまっすぐな眼差しに、新貴は彼女も自分と同じなのだと思う。
「……わかった、あくまで君は自分自身や友達を守ることを優先して。それに、無茶はしないように!」
「はい!」
祥香が友人を守るように、焔を宿した蹴りをモンスターへ一発。その様子を見守りつつ、青年は視線を眼前の巨大な腕へと向ける。
新貴を弾き飛ばそうとする腕は、瞬時に跳躍した彼の姿を捉えきれない。球体状のファミリアセントリーが新貴にステルス迷彩を施したなら、その姿を探すことは不可能に近い。
何処からともなく放たれる弾丸は、巨大な腕を撃ち抜く。尽きることのない弾丸は、破魔の力を持ってデザイアモンスター達を砕いていった。
「誰ひとり、傷つけさせない!」
勇気と想いをかかえて、新貴は立ち向かう。
「……グルルル」
現れた不気味なモンスター達を、コウガミ・ルカの精神に呼応する認識操作が敵だと判断する。威嚇音を鳴らす喉をそのままに、青年は友人を守るように怪物と対峙する魔法少女の前に出た。
突然の出来事に驚く祥香に、ルカは淡々と尋ねる。
「あんた、祥香?」
「は、はい」
「――敵、複数。あんたと、共闘する」
青年から只者ではない雰囲気を感じたのか、少女はわかりました、と答える。ずらりと並ぶデザイアモンスターへと牙を剥く前に、ルカもまた言葉を続ける。
「……戦い方、わかる?」
「完全には、まだ……でも、なんとなくなら、わかります!」
赤と橙のあたたかな焔を思わせるドレス姿で、祥香が柔道の構えを見せる。ならば自分は彼女に合わせたサポートをするべきだろう、ルカは頷く。
「……念のため、耳塞いで、ほしい。俺の声、聞こえない、ように」
不思議そうな表情をしたものの、少女は友人と共に素直に耳を塞ぐ。それを目で確かめた人間災厄が、首輪に接続された通信機のボタンを押す。
言霊の使用申請が瞬時に本部へと伝わり、マスクの拘束が緩まれば、それは許可の下りた合図。外したマスクから露わになった青年の唇が、動いた。
「――死ね」
ぞわりと|核《コア》を震わせる、たった一言。脆弱な存在へと成り下がったモンスター達は、自分達の身に何が起きたかすらわからぬまま。すぐさまマスクで口元をおさえ、ルカは祥香へと声をかける。
「……もう大丈夫。あんたも、こいつら、倒せる」
過剰なまでに強化された身体能力で、麻薬犬の名を持つ青年は彼らへ飛びかかる。すさまじい怪力がモンスターの四肢をへし折って、手にしたナイフはそれらの核を打ち砕く。
消えていく怪物の群れを見て、祥香もまた炎を纏った拳で敵を掴む。普段から鍛え続けていたのであろう彼女の投げ飛ばしが、モンスターの核を地面にたたきつけた。
ふいに、祥香の背後へとモンスターの影が迫る。すぐさまルカが間に割って入り、敵の不気味な腕から繰り出される攻撃を弾く。
「お兄さん!」
自らを庇ってくれた青年に声をあげる魔法少女に返事をするよりも速く、反撃のナイフを振るう。自然とそのダメージは修復され、衣服の乱れ以外は見えない。
「……怪我、ない?」
「はい……! あの、お兄さんこそ、大丈夫ですか? 痛みは?」
その言葉に、ルカは首を振る。痛覚の麻痺したこの身を知らない彼女からの、当たり前の気遣いが不思議に思えた。
「続き、全滅させる」
「はい!」
背中合わせになって、ルカと祥香は周囲の敵を見据える。罪なき人々を守るため、少女のいのちを守るため、人間災厄は攻撃を仕掛ける。
まだいたいけな彼女が血を見ることがないようにと、気遣いながら。
「やば、本物の魔法少女じゃん! テンション上がっちゃうね☆」
可憐な衣装に身を包み友人を守ろうと戦う少女の姿に、黄羽・瑠美奈は声を弾ませる。同時に、ヒーローとして少女の危機を見逃すことなどできなかった。
祥香の真横から襲いかかるデザイアモンスターへと、羽ばたくように瞬時に駆けて拳を一発。強烈な一撃で怪物を怯ませたなら、手にしたレーザー銃の引き金をひく。
まばゆい閃光が放たれて、モンスターの肉体を貫通。その場で崩れ落ちた怪物が消えていくのを見て、魔法少女は新たな助っ人へと目を瞠る。
「あっありがとうございます!」
「気にしなくっていーよ♪ それよりウチが援護するから、こいつらどんどん倒しちゃお☆」
はい、と力強く少女が返事をしたのを確かめ、瑠美奈は再び拳を振るう。相手は再生能力を持った集団。ならばその再生を邪魔しつつ、追いつかなくなるまで一気に攻撃を叩き込むべき。
愛らしい羽の形をした通信装置から妨害電波を飛ばすと、それは電子機器のみならず魔術回路や生き物の持つ能力にも影響を及ぼす。自己修復がままならぬ身体となったモンスター達を、魔法少女が炎を宿した拳や投げ技で叩きのめしていく。
「うん、いい感じ☆」
レーザー銃で拡散攻撃を行いながら、瑠美奈はウィンクを飛ばして新米ヒーローを支える。
「現れたな、デザイアモンスター!」
腰のベルトに赤い宝石を嵌めこんだ時、天ヶ瀬・勇希はヒーローとしての姿に変身する。戦っている最中、背後を狙われた魔法少女と敵の間に割り込んだなら携えた剣がデザイアモンスターの攻撃を受け止める。
「大丈夫か?」
「は、はい。もしかして、あなたも?」
祥香に尋ね返され、少年は笑顔で頷く。
「ああそうだ、俺はヒーロー! お前も、“守りたい方”なんだろ? だったら負けちゃだめだ!」
ヒーロー自身がやられてしまえば、誰のことも守れなくなってしまう。だからこそ、自分のこともちゃんと守るのだと先輩としての教えを口にする。
一方、アリス・アイオライトは弟子の後を追って祥香達の後方に位置取った。魔法宝石から月光を帯びた水の弾丸を撃ちだして、勇希達を囲むように狙いをさだめる怪物達へ三日月の水刃を放つ。牽制の一撃により敵が怯むと同時、満ちゆく月の祝福が味方の戦闘能力を著しく向上させていく。
「皆さん、ここは危険です、今すぐ避難してください!」
会場の出入り口を示して一般人を誘導しながら、エルフの娘は思考をめぐらせる。デザイアモンスターの狙いは、あくまで祥香。避難する一般市民をわざわざ深追いすることはないだろう。
「さ、あなた達も」
祥香の友達にもそう促した時、でも、と彼女は祥香を見つめている。
「……ええ、逃げませんよね」
わかっていたからこそ、アリスは友人へやさしく声をかけた。
「祥香さんは私達と一緒に、あなた達を守るために戦います。ですが、彼女が無事にあなたの元へ帰れるようにサポートします」
その言葉に少女はようやく納得したのか、よろしくお願いします、と頭を下げて避難していった。
複数のデザイアモンスター達が融合し、巨大な腕となって勇希と祥香へと立ちはだかる。少年が距離を取ろうとした時、その身体がぐっと巨敵へと引き寄せられる感覚があった。
「なら、接近して戦うのが手っ取り早いな!」
まっかに輝く宝石を剣に装着した時、その刃は燃え盛る焔へと形を変える。一気に切り込んでいく力には満月の加護が宿っており、いつもよりもその威力はおおきいものになっていた。
避難誘導は師匠のアリスに任せ、自分はすこしでも多くの敵を惹きつけて攻撃を叩き込んでいく。彼らの狙いは、魔法少女の希望に弾むつよい想いを宿した心。
「そんな大事なもの、お前らには絶対奪わせないぜ!」
祥香もまた、勇希の力強い言葉に励まされて奮起する心を守り、攻撃を仕掛ける。自分を守ることを最優先に、タイミングを見計らっては自慢の掴み技で怪物達を投げ飛ばし、炎滾る蹴りをお見舞いしていった。
「無茶はしていませんね?」
避難誘導を終えたアリスが戦闘に加わり、後方からさらなる三日月の水刃を放つ。体内に巡る竜漿を籠めてロッドを揮い、清き水の攻撃を撃ち込んでいく。
「このまま全部やっつけようぜ!」
「ええ、敵の数も随分と減ってきています」
ふたつの正義の焔に清らかな水が合わさり、邪悪なモンスター達はその姿を着実に消していった。
第3章 ボス戦 『マスク・ド・ハムダーン』
一般人達の避難とデザイアモンスター達の撃退が終わった公園で、ひどくおぞましい悪意の気配が騒ぎ出す。
ぞくりと背筋に迫る殺気に、能力者達はそちらを見た。
「はは、やっぱり俺の出番か。いいぜ、お前ら全員破壊しつくしてやる! この会場もろとも、そこの魔法少女と一緒にな!」
マスク・ド・ハムダーンと呼ばれしヴィランが、かつて少年ヒーローとして人々を救う為に己の正義を信じて闘っていたことを知る者は、此処に居るだろうか。
今となってはその面影すらもないままに、彼は愛刀を構えて能力者達と相対する。
「――そんなこと、させません!」
声をおおきく張り上げたのは、能力者達と共に拳を握りしめる祥香。彼女を中心として焔を思わせる魔法陣が展開されたかと思えば、そのぬくもりは彼女の|戦友《とも》に力を与える。
「このお花見で、たくさんの人達が笑顔になっているんです。そんな場所を壊すなんて、たとえお日様が許しても、私は絶対に許しません!」
此処に、正義の心は燈っている。それを知っているからこそ、能力者達は彼女と共に闘うのだ。
※覚醒した祥香の能力によって、祥香が味方と認識した能力者全員は著しい攻撃力上昇の強化付与を得ることができます。
また、使用する√能力によっては炎の属性攻撃が追加されることでしょう。