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女性のドヴェルグ像

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岩永・湯布衣

「何十年も置物だったんです!」
 テレビ番組のインタビュー画面で、女性はそのように話をしていた。表情は慌てふためいており、大層動揺したのであろうことが伺える。
 |岩永・湯布衣《いわなが・ゆふい》(黒岩姫とドヴェルグの事情・h09860)は衝撃のあまり、思わず手にしていた湯飲みを落っことした。
「あの子たちが、脱走ですの!?」
 そのようなことが起こるとは、湯布衣は思ってもいなかったのである。
 湯布衣は数日前のことを回想し始めた。


「うほっ」
 湯布衣は思わず感嘆の声を漏らした。
 目の前には、6体並んだ”それ”が置かれていた。
 それは、背丈よりも大きなハンマーを手にしていた。手足は非常に大きく、殴られたり蹴られたりしたのであれば手跡足跡が残ることは避けられないだろう。着用している民族衣装にも、足跡の紋様が描かれていた。
「いいガルテンツヴェルクですの」
 直訳すると、庭のドワーフ。それは、地中の宝を守る、小人の像だった。
 遥か昔、多くの冒険者たちがダンジョンからそれを持ち帰ってきたそうだ。
 そうして、それは売られていった。
 その結果、それは危険のない遺物として、ガーデニング用品になったのだ。ちなみに、風の噂だが本場ドイツには2500万体ものそれがあるそうだ。
 湯布衣は思った。もっと、それを見たいと。
 そうして、湯布衣の各地の園芸用品店を巡る旅は始まったのである。
 その旅の最中、湯布衣は出会った。そう、初めて見る女性のドワーフ像。
「初めて……見ましたの……!」
 湯布衣は恐る恐る、震える手をそっと伸ばした。彼女の中には、恐怖と驚きとそれから、触っても平気だろうかという不安が入り混じっていた。
 それでも、触らずにはいられなかったのである。
 湯布衣は石像に触れると、微笑みを浮かべた。まるで、孤独な旅の途中に新たな仲間と巡り合ったかのような感情だった。
 そして、湯布衣は思った。もっと、この石像のことを知りたいと。


「湯布衣よ。もし古代の遺物の情報を得たいなら、サイコメトリーを使うと良い」
 それは、かつて湯布衣の先輩が教えてくれたアドバイスであった。遺物のことを知りたいのであれば、物に残る感情を読み取り、感じる必要があると。
 だから、湯布衣はそうした。目の前にある、女性のドワーフ像のことを、もっと知りたかったのだ。
「失われた世界、悲しみの日々、忍び寄る死の影…我が胸で目覚めよ、石たちの記憶」
 湯布衣は1人、ぶつぶつと詠唱した。瞳を閉じ、外界の刺激をシャットアウトする。
 すると、周囲が静かになって、自身の第六感がどんどんと研ぎ澄まされていくではないか。
 湯布衣の静かな意識の中に、石の意識が流れ込んでくる。
「誰じゃ、おぬしは」
 その声が響き渡るとともに、目の前にスポットライトが点灯した。そこにいたのは、湯布衣よりも2回りは小さい頑健な老人のシルエットだった。
「わたくしは、ドヴェルグのユッフィー。『女』を求めて、散り散りになった同族を探す旅をしております」
「ははは!おぬしの主は、成功したか」

と、突然その声を遮るかのように豪快な笑い声が響くと、老人の好奇の視線が向けられた。
 湯布衣は思った。こちらが、本物かと。
「ドワーフには、男しかおらん」
 湯布衣の口元は思わず緩んだ。手ごたえがあると感じたからだ。
 それならば、畳みかけるほかない。
「石を彫って命を吹き込み、仲間を増やすが、女を作ろうとすると失敗しますの?」
「その通り」
 老人は湯布衣の問いかけにそのように回答した。
 ところで、ドヴェルグとはドワーフのかつての呼び名だ。
 この記憶は、確かに湯布衣の同族のものであるようだった。
 湯布衣は同時に思った。あの園芸用品店で見かけた6人姉妹たちは、いずれも失敗作なのかと。精巧な作りは、美少女フィギュアとしては申し分ないだろうに。
 そうして、湯布衣と老人は話をした。自身の場合は、動けない石像に心だけが宿ったのだと話せば、老人は共感してくれた。
 楽しい世間話だった。
「あの子たちをお迎えしたいのですけど、六体セットで高値ですの」
「スノーフット族にも女をと思い、精魂込めたわしの傑作じゃからな」
 湯布衣は最後に老人に尋ねた。老人はからからと笑いながら、答えるのであった。


 湯布衣はテレビを見つめながら考え事をしていた。
 どうやら、石人形たちは鮮やかな色を帯びて動き出したそうだ。
 迷宮でも、かなりの数が目撃されているらしい。
「ゾンビの話をしたから、こうなりましたの?」
 まるで、おとぎ話の笠地蔵のようだった。確かに、あの記憶は一族を保護したセレスティアルに恩義を感じていたのだから……。
 その後、店主から売り物である石人形を無事に奪還するよう依頼が出たことはまた別の話。

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