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果珠に紛れし花玉
花の宿る玉には、不思議な力があるんだって。
出会うことが出来たなら、願いを叶えてくれるんだって。
とある街の一角で、まことしやかに囁かれる噂。
可愛らしいおまじないのような、なにげない噂。
――けれど。
そこに、『ほんとう』が紛れていたとしたら……?
それを狙う悪い手が、闇から伸びていたとしたら……?
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「それを護るのは、『ヒーロー』ってやつじゃない?」
ぴこ、と、真白の長耳を跳ねさせて、星詠みのひとりであるステラ・ラパン(星の兎・h03246)が、彼女の元へ集った√|能力者《きみ》たちへと笑いかける。
「掌に収まるくらいの小さな玉だというんだ。ビー玉よりは少し大きいのかな」
このくらい、と、親指と人差し指で玉の大きさを表してみながら、星詠みは見えない玉を陽に透かすようにして眼を細める。
「そんな透いた玉の中にね、柔く咲く菫の花が籠められているのだそうだよ」
願いを叶えてくれる――という噂まで事実か分からないけれど、それをとても大切にしている天人がいるんだ。と、彼女は言う。けれども、
「先日、その街の支配権を懸けた闘争が起きたようでね。その争いの最中、たまたま騒動に巻き込まれたそのひとは、大事な花の玉を紛失してしまったそうなんだ」
その玉を探すのが依頼なのだろうかと問う誰かに、星詠みの少女は軽く首を横に振る。
「いや、実はそれはもう見つかっていてね。その花の玉を、件の天人に届けようとしている黑星鏢師が――狙われるようなんだ」
『花を抱く玉には願いを叶える力がある』。そんな噂が囁かれている街だから、それがそのまま形となった玉を前に、其処に籠る何らかの力を見越して狙ったものか、はたまた玉の宝飾品としての価値を見出し狙ったのか、それ以外に理由があるのか――そこまでは分からない、と兎の娘は柔く瞼を伏せて語る。
「それが、どんな曰くつきの物かは分からないけれど……誰かの大切な品なのは事実だ。元の持ち主に届くよう、力添えしてあげたいと思ってね」
とはいえ、ステラ曰く、『黑星鏢師が運び往く花玉が狙われる』というところまでが星詠みに出ている。つまりは、その事実を変えてしまうことは、先が詠めなくなると同義。
「だからさ、黑星鏢師が手にした花玉を、依頼主のところに運び往くのを助けてあげて欲しいんだ。大事なものを護り届けようとするヒーローの難事に、『義によって助太刀致す!』なーんて颯爽と現れるのも、正義の味方っぽくてオツなものじゃないかな」
そう語りかけたステラは一度言葉を切って、楽し気に一度耳を揺らす。
「それでさ、その依頼先の街なんだけれど、『九龍球』という甘味が今流行っているんだそうだよ」
しっているかい? と、楽し気に首を傾げた彼女が語るには、透明な寒天やゼリーの中にフルーツを閉じ込めた、ビー玉のような見た目のスイーツなのだという。
「カラフルな果物が透けて見える『食べる宝石』として人気で、サイダーやシロップに浮かべて食べると、ひんやりとした食感と爽やかな風味が楽しめるんだって。飲酒が可能な歳の人なら、それらに浮かべて楽しむのも良さそうだ」
どんな食べ方もおいしそうだよね、と語る彼女の瞳もきらりと輝いた。色とりどりの九龍球を選び買うことは勿論のこと、自分で作らせてくれる体験型のお店もあるのだそう。綺麗な硝子や陶器の器に盛られた九龍球をイートインで楽しむのもいいし、食べ歩き用の器に入れて貰って街中散策もオツなもの。金魚鉢のような器であったり、籠型や、金魚すくいの後を思わせるビニール袋に入れて持ち歩くタイプなど、形状も様々。
「それにさ、九龍球と、件の花玉。似ていると思わないかい?」
美味しいスイーツを楽しみながら、依頼にも上手く活かせるかもしれないねと、白兎はころりと笑う。
「現地に着いてから、黑星鏢師が狙われる事件が起こるまで、時間がある。九龍球を楽しみながら、現地視察をしてくるといいよ。そうそう、街の並木や広場の桜も咲き初める時期だそうだから、街巡りや散歩するにも風情があるんじゃないかな」
一仕事終えたら、僕にも楽しい土産話や美味しい土産があると嬉しいな、なんて軽口を重ねながら、宜しく頼むよ、と締めくくった星詠みは、手にした兎杖をくるりと回して√|能力者《きみ》達を送り出した。
第1章 日常 『甘色九龍球』