シナリオ

魔の嵐を越えろ!

#√汎神解剖機関

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 #√汎神解剖機関

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 令和八年。四月|某日《ぼうじつ》。日本。瀬戸内海――その面積は実に二三,二〇三平方キロメートルにもなると言う日本最大の内海である。
 |其処《そこ》は、およそ一五〇の有人島と、五七〇の無人島を|擁《よう》しているのだと言う。
 その内の|一《ひと》つ。名前すら付けられていない小さな無人島の上空に、一匹の龍が静かに|揺蕩《たゆた》っていた。
 その存在を正確に表現するのであれば、それは龍では無く、厄災の化身である怪異。ただ其処に|在《あ》る――それだけでも地上に|兇《きょう》|変《へん》を|齎《もたら》すと言う邪神である。
 邪神――荒魂ノ辻が天頂を振り仰ぎ見ながらに咆哮した。
 天変――雲|一《ひと》つ無い晴天が|俄《にわか》に黒雲によって閉ざされたかと思えば、陽光は|遮《さえぎ》られて、豪雨と暴風が|狼藉《ろうぜき》の限りを尽くす。
 雷鳴の|轟《とどろ》きが嵐の訪れを|声高《こわだか》に宣言していた。

「|嗚呼《ああ》、|嗚呼《ああ》! 天が嘆き、地が震える! 海が裂け、全てが吞み込まれていく! 何と言う強大なる|御《み》|力《ちから》でしょうか! 我らが大神! 荒魂ノ辻! もっと! もっと! その荒ぶる|御《み》|力《ちから》を|御《お》|示《しめ》し下さいませ! 我ら|敬虔《けいけん》なる信徒の願いを、どうか|御聞《おき》き届け下さいませ!」

 無人島には、時と共に勢力を|弥増《いやま》していく嵐の|直中《ただなか》に身を|晒《さら》している、巫女の一群が存在している。
 |長々《ながなが》しい黒髪を雨と風に乱されながらも、その|白皙《はくせき》の美貌に、狂信から表出する歓喜の笑みを貼り付けていた。
 それは怪異を|信奉《しんぽう》する邪教の巫女達である。
 嵐の空を悠然と泳ぐ龍が、果たして巫女達の言葉を理解しているのか――その真実を|傍目《はため》からは|窺《うかが》い知る事は出来ない。
 しかし、少なくとも巫女達の側は、怪異が招来せしめた厄災を、偉大なる神の|御《み》|力《ちから》の|顕現《けんげん》であるとして、その信仰を深めている。
 近海を航行する一隻の遊覧船が、突如として航路上に出現した大渦に呑まれて沈没した。
 偶然、上空を飛行していた報道機関の|螺旋翼機《ヘリコプター》が、その機体に稲妻の|接吻《くちづけ》を|賜《たまわ》って爆発し、炎上しながらに墜落した。
 怪異を中心として、嵐は|益々《ますます》その勢力を強めていき、|兇《きょう》|変《へん》は際限無く周囲に拡大していく。

「――ふふ、ふふふ。あははははははははっ! 思い知るが良い、|愚昧《ぐまい》の者共! 我らを邪教と|排斥《はいせき》した|蒙昧《もうまい》共! 我ら信徒の祈りが|遂《つい》に大神に届いたのだ! 天罰ぞ! 我が宗門は大神の|御《み》|力《ちから》によりて、この地より異教共を一掃する! この小さな島にまで追い立てられた先祖の無念を、今こそ晴らすのだ!」

 邪教の巫女達の哄笑が嵐の唸りにも負けじとばかりに響き渡る。
 無人島を中心にして、瀬戸内海沿岸部に厄災が招来しようとしていた。



 星詠みである|歌《うた》|屋《や》|敷《しき》|初《はつ》|音《ね》はゾディアック・サインを得て、|程近《ほどちか》い未来の景色を幻視した。
 |√《ルート》汎神解剖機関。瀬戸内海の洋上に浮かぶ小さな無人島。正確には今日まで無人島であると思われていた場所。|其処《そこ》は昔、本州で|排斥《はいせき》された邪教の一派が落ち延びて、隠れ潜んだ島であるらしい。
 長年に渡り|醸成《じょうせい》された信徒達の怨念に怪異が応えたのか。|或《ある》いは星の巡り合わせによる、ただの偶然か。
 とにかく世間の目から隠れながらに怪異を信仰し続けていた者達の前に、神は降臨した。
 それも難儀な事に、厄災を引き起こす程に強大なる力を有している怪異である。
 意思疎通は不可能――果たして本当に信奉者たる巫女達の願いを聞き届けているのかさえもが不明であった。
 しかし災害の化身であると言う怪異の存在を、まさか、このまま放置する訳にもいかない。
 |既《すで》に近海では航行中の船舶に被害が出ているのだ。
 それどころか瀬戸内海沿岸部にまで怪異の影響が及びつつあると言う。

「場所が洋上の無人島であると言うのが厄介ですね。天候が穏やかであれば船で簡単に上陸する事も出来るのでしょうけれども。怪異の発生させた嵐によって海が荒れている状況にあっては、この無人島は天然の要害であると言っても過言ではありません」

 別の|√《ルート》を経由して乗り込もうにも、|其処《そこ》は何の目印も無い海上である。
 都合良く|√《ルート》汎神解剖機関の無人島周辺の海域に繋がっている場所が、他の|√《ルート》の海上に存在しているとは限らない。

「無謀な事であると言うのは|重々《じゅうじゅう》、承知しております。しかし、それでも皆様には嵐の海を渡って頂かなくてはいけません。天然の嵐では無い、怪異の力によって招来した、豪雨と暴風と稲妻が荒れ狂う、魔の嵐の海を、です」

 各員で船を調達するのも良し。何らかの飛行手段をもって海峡を越えるのも良し。|或《ある》いは|√《ルート》能力者であれば、怪異の力により引き起こされた天変に抗する何らかの手段を持ち合わせているかも知れない。

「無人島に上陸後は怪異を信奉する巫女達を倒し、|然《しか》る後に災害の化身であると言う神――荒魂ノ辻を撃破いたします。これで瀬戸内海の平穏が戻ってくる事でしょう」

 初音は、その場に参集した|√《ルート》能力者達の前で|深々《ふかぶか》と頭を下げた。

「皆様。とても危険な|御《お》|仕《し》|事《ごと》になるでしょうけれども。どうか|御《ご》|武《ぶ》|運《うん》を。|何卒《なにとぞ》よろしく|御《お》|願《ねが》いいたしますね」

マスターより

黒猫白猫
 黒猫白猫です。
 よろしく御願いいたします。

 瀬戸内海は私にとっての原風景の一つでもあります。
 故郷の青松白砂の景色は忘れる事が出来ません。

 どうでも良いのですが私の通っていた学校――もう廃校になりましたが――の校歌の歌詞では青松白砂となっていたのですけれども、これは一般的には白砂青松と言うのが正しいようですね。
 私は、その事を知った今でも、昔からの癖で青松白砂と言ってしまう事があるのですけれども、御容赦いただけますと幸いです。

 この物語が皆様の楽しみになれば、これに勝る喜びはありません。
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第1章 冒険 『強行突破せよ』


POW 物理でゴリ押し、強行突破だ!
SPD こんな時こそ工夫のしどころ技巧を凝らして強行突破を為す!
WIZ 知恵をしぼってなんとかここを突破する。
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 瀬戸内海洋上は暴風雨によって支配されている。
 |件《くだん》の無人島は荒れ狂う|波濤《はとう》と横殴りの雨によって覆い隠されていて、その輪郭を把握する事さえもが困難を極めるような|有様《ありさま》だった。
 耳元で|轟々《ごうごう》と唸りを上げている風の音に混じり、龍の鳴き声らしきものが沿岸部にまで届いている。
 それが嵐の海上でも向かう先を指し示してくれる、僅かな手掛かりとなるだろう。
 暗雲より降り注ぐ稲妻。これも今は無人島の近海にのみ、その牙を突き立てている。
 しかし|猶予《ゆうよ》は無い。
 嵐の影響が沿岸部にまで到達したように、やがては稲妻も、その範囲を拡大していく事だろう。
 被害が甚大になれば、それだけ簒奪者の力の源となる邪悪なインビジブルが各地から参集する。
 そうなれば、もはや手が付けられなくなる。
 一刻も早い事態の解決が望まれていた。
 
真白・璃亜
【旅風】
えっ。この嵐を越えるの……?
私は船で行くんだけど大丈夫かなぁ?
でもやるからには行くっきゃないよね!

あっ!ハーゼルゼットちゃんは余裕そうだね!
いいなぁ、私も空とか飛べたらなぁ……!

[第六感]で荒波を防げそうな位置に『エレメンタルバレット『氷華繚乱』』を撃ち込んで巨大な氷柱を作って波を遮断して、航路を確保するよ!

進めてはいるけどこのままじゃジリ貧だよ……!
[幸運]が発動するといいんだけど。

ん?波が落ち着いてる?
もしかしてハーゼルゼットちゃんが嵐を吹き飛ばしてるおかげでこちらの風も止んでくれてるから……?

よーしっ!今のうちに全速前進!船長さーん!
このチャンスに突っ走って欲しいんだよー!
伊十羽華・ハーゼルゼット
【旅風】
邪を呼ぶ声がする、嵐を呼ぶ声がする
此方の事かな、いや、違うようだね?
けど呼ばれたアレはとても気になる也

氷器が居るか、向かうか

己に近しい気配を覚えた興味一色で空中移動し宙を駆ける
途中知った顔を見つけるがさして挨拶も協力もせず疾走

吹き飛ばしにかかるものを受け流し、己が余波により逆に吹き飛ばし、暴風及び吹雪属性攻撃を無意識に交え
吹き飛び耐性及び『自分を運搬する』特異な風を合わせた空中ダッシュで嵐など知らぬむしろ楽しきやとばかりに笑いながら走り続ける

途中で盛り上がりから√能力及び更なる範囲攻撃で荒波や暴風に『穴』をあける離れ業を実行
それが誰かの助けとなっているのは意図した事ではなくただの偶然



「うわっ! うわわわっ!? すごいっ、まるでジェットコースター……! この船、本当に大丈夫かなぁっ……!?」

 |真《ま》|白《しろ》|璃亜《りあ》の姿は、嵐の洋上を果敢に航行する船舶の、その船首に存在していた。
 人間の身長を遥かに越える高さで、予想もできずに勢いよく立ちあがる大波。耳元で|轟々《ごうごう》と唸りをあげている暴風は、ともすれば鼓膜を突き破るのではないかと錯覚させるに足るほどの圧力をともなっている。
 横殴りの雨は、その中で、まともに目を開けていることが困難になるほどの勢いで降りつづいていた。
 陽光を閉ざす厚い黒雲よりほとばしる|雷霆《らいてい》の一瞬の閃光が、目蓋の裏側に|白々《しらじら》と焼きついている。

「私も空とか飛べたらなぁっ! ハーゼルゼットちゃんは余裕そうだよね! いいなぁ、羨ましい!」

 |璃亜《りあ》が乗船している船舶に先行する形で、|伊十羽華《いとはか》・ハーゼルゼットは、嵐の空を、その五体のみで駆けていた。
 |璃亜《りあ》の羨望まじりの声が耳に届いたとしても、それで背後を振り返るような仕草さえも見せることはない。
 知己を乗せた船舶を追い越した際にも挨拶の言葉さえ掛けることはなく、その視線は、まっすぐに、この嵐の先だけを見据えていた。

「邪を呼ぶ声がする。嵐を呼ぶ声がする。此方のことか――いや、これは違う。しかし呼ばれている。アレの存在は――とても気になる」

 吹き荒ぶ嵐の中に混じる龍の鳴き声。遠方より響き渡る、それは不思議と|伊十羽華《いとはか》という個の精神と共鳴しているかのようだ。
 あるいは、この身の大本――風に乗りて歩む者と属性を同じくするか、近しい性質を有する神性であるのかも知れない。
 それと邂逅した時、はたして|伊十羽華《いとはか》という断片である個は何を想い、そして何を成すのだろうか――ただ、それに対する興味のみで嵐の空を駆けていく。
 目当てとする島に近づくに連れて雨と風の勢いは|弥増《いやま》していく。
 眼下の海面に突如として持ちあがる大波は、もはや津波と呼ぶのが相応しい有様だ。

「――多分、そこっ! 氷菓、繚乱――ッ!」

 氷の精霊を封入した魔弾が、その波濤に着弾した。
 炸裂と同時に解放された冷気が、広範囲に渡って荒波を氷結させていく。
 海上に、いきなり巨大な氷壁が築かれたようなものだ。
 大波が保有している巨大なエネルギーが、その氷壁との衝突によって周囲に散らされていく。

「氷器の仕業か」

 |伊十羽華《いとはか》の呟きは正鵠を射ていた。
 先程、追い越した船舶に乗船していた知己以外に、このような芸当が可能な者が近海に存在しているはずもないだろう。
 乱暴な手段だが妙手であるとも言えた。
 この暴風雨の渦中にあっては|璃亜《りあ》が乗船する船舶は遠からず沈没する運命にあっただろう。
 もっとも仮に、そうなったとしても|伊十羽華《いとはか》には関係のないことであるのだが。

「ハーゼルゼットちゃーーん! このままじゃジリ貧だよーー! お互いに協力を……ねぇーー! 聞こえてるーー!?」

 勿論、聞こえていない。
 |伊十羽華《いとはか》は風に乗り、嵐を裂き、空を駆けて――ただ一路、目指す場所に赴くのみ。
 怪異が支配する気流の流れが、突如として|伊十羽華《いとはか》の身体の周囲でのみ吹き荒ぶ方向を変化させた。
 向かい風ではなく追い風に。風に乗りて歩む者の疾走を助ける風に。

「楽しきや。実に楽しきや。この風――此方ならば千里先まで駆けることができようぞ」

 |伊十羽華《いとはか》は嵐の壁を突き抜ける黒鳥となって空を駆けた。
 その速度は音を置き去りとする。
 僅かに遅れて発生した衝撃波が、|伊十羽華《いとはか》の駆け抜けた軌跡を追い掛ける形で、暴風雨の渦中を貫く凪の|隧道《トンネル》を造りだした。

「ハーゼルゼットちゃん! ありがとう! 嵐が吹き飛んで、海の中に道ができたよ!」

 この千載一遇の好機を逃す訳にはいかないと、|璃亜《りあ》は声を張り上げた。
 幸運の女神の加護は、どうやら大好きな旋風の姿を借りて与えられたらしい。

「よーし! 今のうちに全速前進! ハーゼルゼットちゃんに続け―! 船長さーん! このチャンスに、かっ飛ばして欲しいんだよー!」

 |璃亜《りあ》の言葉に、舵を握る船長は「応っ!」と威勢の良い声で応えた。
 船は一路、無人島へ――上陸まで、あと僅か。
 もはや航路を妨げる障害は何もない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ルクレツィア・サーゲイト
【SPD】※アドリブ・連携歓迎
「うひゃぁ~!色んな『風』を経験してきたけれど、今回は流石に『極悪』な風ね…!」
自然は時には私達に牙を剝く。それは時には荒ぶる神に準えられるほど。
でもそんな『神』を乗り越えて来たからこそ、私達は繁栄してきた。この嵐だって、きっと乗り越えられる!

持てる技能をフル活用して、暴風と怒涛の動きを予測して進む。
[情報収集]でこの嵐の風向データを必要なだけ収集し、[見切り]で風を読み、時には[受け流し]、時には[環境耐性]を駆使して耐えながら「風の隙間」を見出す。最後は僅かな[幸運]があれば、開けた道を一気に突き進むわ!
「…見つけた、この『嵐』の隙間!行っけぇ~!!」



 自然。それは豊穣をもたらす一方、時として荒ぶり、制御できぬ猛威をもって人間達の驕りを戒めてきた。
 万物の霊長の更なる上位に何者かが君臨するというのであれば、それは神と呼ばれる存在に他ならない。
 自然こそは、もっとも分かり易く、かつ人間に近しい神である。
 その神が気紛れに引き起こす災害を叡智によって克服し、共存を果たしてきたからこそ、今日までの人間社会の繁栄があるといっても過言ではない。
 それゆえにこそ――此度の嵐も、また人の力と知恵と工夫によって乗り越えることが敵う。
 ルクレツィア・サーゲイトは、そのように信じている。
 信じてはいる――のだが。

「うひゃあ~! いろんな風を経験してきたけれども……今回のは流石に極悪な風ね……!」

 怪異の保有する|新物質《ニューパワー》の影響だろうか。
 自儘に荒れ狂う嵐は厚い帳と化していて、目的地としている無人島の存在さえ視認できなくさせている。

「気象庁の公式ホームページも役に立たないか……それもそうよね。自然のものじゃないもの。これは現地での肌感覚だけしか頼りにならないかもね。つまりは行き当たりばったりの出たとこ勝負! 私の能力の全部を駆使しないと、この海は越えられないみたい!」

 何しろ挑む相手は嵐そのものなのだ。
 その膨大なるエネルギーの総保有量は想像することさえもが困難な領域にある。
 まずは風向きを読み解くことから――それは一見しただけでは無秩序に吹き荒れているようにも思えるが、必ず一定の法則性が存在している。
 自然界の|混沌《カオス》を秩序あるものに再構成していく作業――それを迅速に、風の流れが変わらないうちに行なわなければならない。
 見出すべきは、この嵐の隙間とでもいうべき風の回廊だ。
 この雄大なる海洋の中に、人間一人が通り抜けることが出来るだけの僅かな幅さえあれば、それで構わない。
 それが本当に存在しているものか――最後に頼れるものは幸運のみだ。

「……見つけた! 多分、きっと、この進路! ……私の計測が、もしも少しでも間違っていたら……そのまま嵐の海に落ちちゃうことになるけれども……よし、いこう! 最後は勇気! 私は、きっと乗り越えられる!」

 ルクレツィアは自身を鼓舞すると、|回転式拳銃《リボルバー》型の精霊銃に魔弾を装填する。
 その弾頭に雷精を封入した特性の弾丸。引鉄を絞ると、その砲口より発射された魔弾は一直線に虚空を駆け抜けた。
 それは荒れ狂う海面に着弾し、轟音とともに炸裂し、周囲一帯を激しく帯電させる。
 ルクレツィアは電光が閃き、荒波が渦を巻く海面に、意を決して、その身体を躍らせた。
 風精と地精の加護を帯びた魔法のブーツが海面を蹴りつけて――まるで硬い大地の上を疾走するかのように、帯電する海面を駆け抜けていく。
 イオンクラフト効果――雷精により帯電した海面と、魔法のブーツの靴底の接地面との間に、イオン化した気体の移動が起こっているのだ。
 誘起された荷電粒子の気流が、強力な推力を発生させている。
 ルクレツィアは脇目もふらずに洋上を駆け抜けた。
 魔弾の雷精による帯電とて、洋上では何時までも持続するものでもない。
 事前に見いだしておいた風の隙間を最短、最速で駆け抜ける。

「いっ、けぇぇぇぇぇぇぇぇっ……!!」

 やがてルクレツィアの足は、目指していた無人島の地面を強く踏み締めた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

御岳山・大真
―――嗚呼、匂う、匂うぞ。
天明乱せし荒魂に堕ちし邪神の怪しき気が。

暴風雨の中で雨風に晒されながらも、無人島に聳える頂の見えぬ嵐の中心にいる此度の元凶へと目を、鼻を、そして魂に刻まれた己が役目を向け、怒りを感情を顔に浮かばせる。
怒りに呼応し妖力が漏れ出し、天上で鳴り止まぬ雷とは違う碧色の雷が降り落ちる雨を、打ち付ける風を、轟く雷を拒絶するように周囲へと解き放つ。

振り落ちる雨が大地を潤し、打ち付ける風が種子を飛ばし、轟く雷が稲穂を育むのであれば環境に流転を齎すであろう。
だが、これは破壊のみを齎す厄災なりて。
この鈍雲を晴らし蒼穹へと戻そうぞ。

青銅の鉞を地面へと突き刺し簡易的な祭壇として、【甕布都太刀】から創造した退散の符に更に【浄化】【破魔】【破邪】の力を込めてで周囲のインビジブルを吹き飛ばしつつも周囲を清浄な場に塗り替え祝詞を唱える。

ひふみよいむななやここのたり―――

微かな神気を鉞へと流し込み、鉞に込められた雷を解放し【天地合一】で嵐を斬り拓き、荒れ狂う波も鳴り響く雷も斬り祓い、島へと渡る。



 嵐は刻一刻と、その勢力を強めている。
 天と地の正しき|理《ことわり》が歪められていた。
 自然が上げている悲痛な叫びが胸に響いている。

(――|嗚呼《ああ》、匂う。匂うぞ。荒霊に堕したる邪神の怪異なる気の流れを感じるぞ)

 |御《み》|岳《たけ》|山《やま》|大《おお》|真《ま》は狂乱の嵐の渦中にあって不動の姿勢をとっていた。
 その|双眸《そうぼう》は暴風雨に覆い隠されている無人島を――正確には、その上空に悠然と|揺蕩《たゆた》っている元凶の姿を|確《しか》と捉えている。
 例えようのない怒気が|頭蓋《ずがい》の中身を沸騰させた。
 荒々しい感情の奔流は、轟音をともなって天上を引き裂く|雷霆《らいてい》にも似ている。
 |大《おお》|真《ま》の胸中にも、また激しい嵐が吹き荒れていた。
 それは|己《おの》が|魂魄《こんぱく》に刻みつけられた使命を果たさんとするが|故《ゆえ》の正しき怒りである。
 |大《おお》|真《ま》の激情に呼応するかのように、その肉体を中心とした周囲に、|碧色《へきいろ》の|雷《いかずち》が|奔《はし》った。
 その|碧雷《へきらい》を目にする者が他にいれば、|精悍《せいかん》な若武者の姿に、巨躯を誇る戌神の影が重なって存在している|様《さま》を幻視したことだろう。
 大地に戌神の|碧雷《へきらい》が|奔《はし》るのであれば、天空に邪神の|白《びゃく》|雷《らい》が轟く。
 嵐の洋上にて衝突する二色の|雷《いかずち》は決して混じり合うことはなく、|互《たが》いに激しい火花を散らした。

「この振り落ちる雨が大地を潤し、打ちつける風が種子を運び、轟く|雷《いかずち》が稲穂を育むのであれば――環境に|流《る》|転《てん》が|齎《もたら》されるであろうに」

 しかして、この嵐は破壊のみを|齎《もたら》すもの。
 邪神が招来せしめた怪なりし嵐である。
 これを捨て置けば正しき自然の運行はおろか万物の|流《る》|転《てん》さえもが狂わされてしまうだろう。
 無数の|見えない怪物《インビジブル》達が嵐の空を泳いでいる。
 それ等は皆、一様に同じ場所を目指して――邪神の存在に引き寄せられて、各地より群れ集っているのだ。

「この鈍雲を晴らし蒼穹を取り戻そうぞ。異形の嵐よ。邪悪なる者共よ|退《しりぞ》くがいい!」

 |大《おお》|真《ま》は青銅の|鉞《まさかり》の、その分厚い刃を大地に突き立てた。
 天枝磐根厳霊――古来より神聖な霊力を宿す祭器の素材として用いられてきた合金で製造された、それは単なる武器ではない。
 |大《おお》|真《ま》の|碧雷《へきらい》の威力を増幅させる|祭壇《さいだん》になるのだ。

「ひふみよいむななやここのたり。揺らげ揺らげ八重雲より揺らげ。天の八重雲を押し分けし瑞祥。甕の振るいし十握の誇りよ布り灌げ」

 |朗々《ろうろう》と紡がれる|霊験《れいげん》あらたかなる|祝詞《のりと》。|祭壇《さいだん》の前で|大《おお》|真《ま》の手にした佐士神座之符は、怪異の下に|馳《は》せ|参《さん》じるべくして空を泳ぐ、無数の|見えない怪物《インビジブル》達を退散させる。
 邪神の嵐が吹き荒れる穢れ地が、清浄なる場へと浄化されていく。
 |大《おお》|真《ま》は再び青銅の|鉞《まさかり》の柄を握り締めた。
 大地に突き立てた重厚なる刃を大上段に掲げる。
 天枝磐根厳霊の刃は増幅された|碧雷《へきらい》を纏い、目映いばかりの輝きを放っていた。

「天に吹き荒ぶは嵐雨にて。地を巡るは恵土にて――天地合わさり、此れ壱とする! |天地合一《アメツチノアワセ》!」

 |鉞《まさかり》の刃が、今度は大地ではなく、嵐の|帳《とばり》を断つべくして振り下ろされた。
 解放された|碧雷《へきらい》が一直線に虚空を|奔《はし》りぬけて――閃光と轟音が、荒れ狂う嵐を、それ以上の暴威をもって圧していく。
 ここに|天地《あめつち》の正しき運行を狂わせる、悪しき邪神の力は斬り|祓《はら》われた。
 天を覆う黒雲は吹き飛ばされ、蒼天に輝く太陽の光が洋上に降り注ぐ。
 逆巻いていた波は、その、ことごとくが鎮まり、無風の海原が広がっている。
 暴風雨に煙り、目視さえ困難であった無人島の所在が、今は明白となっていた。
 その上空に|揺蕩《たゆた》う白鱗の龍の姿を鮮明に捉えることができる。
 |大《おお》|真《ま》の行く手を阻むものは、もはや、なにひとつとして存在しない。

「遠間での応酬では|埒《らち》など明くまい。すぐに、その喉笛を怪異噛みの牙が喰い破ってやろう」

 |大《おお》|真《ま》の不敵なる笑みを、厄災の化身たる龍は果たして、どのように受け取ったのか――突如として邪神が咆哮する。
 その大音声が大気を激しく震わせた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『怪異の巫女』


POW 怪異の細胞
知られざる【融合者を変質させる怪異の細胞】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
SPD 怪異の呪縛
「【(自身が信仰する怪異の名前)よ!】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
WIZ 怪異の眷属
事前に招集しておいた12体の【邪悪なインビジブル】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[邪悪なインビジブル]全員の反応速度が半減する。
イラスト 東雲陵
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



「――この島に敵が来ます。異教の者共が。我等が偉大なる|御神《おんかみ》に手向かいする不心得者共が、やって来ます」

「殺しなさい。一人たりとて、この島より生きて返してはなりません。あの咆哮。我等が神はお怒りです」

 怪異、荒魂ノ辻を信仰する邪教の巫女達は武器を取り、|√《ルート》能力者達の進軍を阻止するべくして立ち上がった。
 地上に|兇《きょう》|変《へん》を|齎《もたら》す災厄の化身は、島の中央に聳え立つ岩山の上空に|揺蕩《たゆた》っている。
 その双眸は自身の為に奔走する信徒達の活躍を見守っているのか――それとも、ただ、足下を這いずり回る虫達の行いを無感情に観察しているのか。
 その真意を推察することはできない。
 ――咆哮。大音声が、さして広くもない無人島の全土に響き渡る。
 それだけで大地が震撼し、地滑りが起きた。
 怪異の信徒であるはずの巫女達の幾人かが悲鳴を上げながらに土石流に呑まれるも――その怪異は、ただ悠然として、そこに存在しているのみである。
 災厄に巻き込まれて命を奪われた忠実なる信徒達の無念さえ糧とするかのように――各地から群れ集う邪悪な|見えない怪物《インビジブル》達は、刻一刻と、その数を増やし続けていた。
ルクレツィア・サーゲイト
【POW】※アドリブ・連携歓迎
「人は安易に神の言葉を語りたがる。でもそのほとんどがただの“騙り”よ!」
本当に神様がいるのなら、きっとそんな残酷なことは望まない。無慈悲な災厄は絶対に抑えてみせるわ!!
右手に竜漿で形作った斧槍と左手に愛用の精霊銃を構えて敵陣めがけて駆けて接敵。
銃撃で牽制しつつ距離を詰めて斧槍で打撃を与えてはまた離れのヒット&アウェイ戦法で強化された巫女の攻撃を基本は回避、避けきれない場合は武器で受け流しながら立ち回る。
こっちがちょこまか動き回ればきっとどこかで「隙」を見せる。それを見逃さないように竜漿魔眼を発動して徹底的に突く。
「神様は貴女達の都合が良いように動く駒じゃないわ!」



 ルクレツィア・サーゲイトが上陸した無人島には、先頃までの嵐による破壊の痕跡が生々しく刻まれている。
 地面は雨でぬかるみ、ところどころに大きな水溜まりができていた。
 なぎ倒された木々や、へし折られた枝々。強引に散らされた葉が足下に散乱している。
 島の海岸には木片やプラスチックごみ。海藻や死んだ小魚が流れ着いていた。
 濃く立ち昇るゲオスミン――降雨後の地面の匂いの原因となる有機化合物――が嗅覚を刺激する。
 暴風により|攪拌《かくはん》された潮風は呼吸の度に、口腔内に濃い塩味を感じさせた。
 ルクレツィアの行く手を阻むようにして、怪異を信奉する邪教の巫女達が人垣を築いている。

「これより先は我等が|御神《オンカミ》の降臨せし|磐座《いわくら》。異教の者が軽々に立ち入ってよいところではありません」

「災厄を招くだけの怪異が神ですって? |騙《かた》りにも、ほどがあるわね。本当に神様がいるのなら、こんな残酷な光景は生みださないし、望むはずもない! 退きなさい! 私は、この無慈悲な災厄を|齎《もたら》す奴を絶対に抑えてみせるわ!」

 ルクレツィアの答えは折れぬ信念を宿していた。
 その右手には|竜漿《りゅうしょう》で形成された斧槍が保持されている。
 左手には愛用の精霊銃。|既《すで》に弾丸は|装填《そうてん》済みだ。
 |引鉄《ひきがね》に掛けた指は、敵対する意志を雄弁に物語っている。
 自分達の信仰の対象が神を|騙《かた》る怪異でしかないと断じられた巫女達は、その|赫《かく》|怒《ど》を、即座に短絡的な暴力に転化した。
 短刀の研ぎ澄まされた刃を鞘から抜き放とうと試みた瞬間に――ルクレツィアの精霊銃から発射された魔弾の一撃が、巫女の掌中より凶器となる短刀を弾き飛ばす。

「くっ……!?」

「神様は貴女達の都合が良いように動く駒じゃないし、世界は怪異が好きに暴れていい場所じゃないわ! その曇った目、覚まさせてあげる!」

 ルクレツィアの足が、ぬかるみの地面を蹴りつけて、颯爽と駆けだした。
 斧槍の長い間合いを活かしての薙ぎ払いで、巫女達に痛撃を与えたかと思えば、反撃を受ける前に背後へと跳躍する。
 その際、精霊銃の正確無比な射撃による牽制を織り交ぜることで、巫女達の進行を抑止した。

「おのれ、|小《こ》|癪《しゃく》な……!」

 戦場を軽やかに駆け抜けるルクレツィアの動きに翻弄される巫女達は、焦燥からか、その追撃が大振りなものとなっていく。
 多大な隙が生じる単調な攻撃は、その全てがルクレツィアの|竜漿《りゅうしょう》が集中する右方の魔眼により捕捉されていた。

「はぁっ! やっ! ……そうやって頭に血を昇らせるばかりじゃ、なにも見えなくなるよ! そんなだから怪異の良いように操られるんだよ!」

「うるさいわ! お黙りなさい! 異教徒の分際で!」

 ルクレツィアの指摘が正鵠を射るものであればこそ、狂信の二文字に心身を捧げた巫女達が聞き届けるはずもない。
 繰り返される無謀な突撃を、ルクレツィアは愛用の斧槍と精霊銃をもって着実に制圧していった。

「悪いけど、私も足を止める訳にはいかないんだ! いつか辿り着かなきゃいけない場所があるからね! この先にも進ませて貰うよ!」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

伊十羽華・ハーゼルゼット
【旅風】
信徒か、繋がる紐は見える哉
やれ旅路に頷いてくれるの哉
邪風の後に明言を貰いたいね

巫女達に高き空の旅へ伴に向わんや?素晴らしきを味わい尽くすため其方を理解させて欲しいよ?と呑気に近寄り対話、当然戦闘に

戦意に付き合えば識ると解るを得られるかと空中移動および空中ダッシュ開始
暴風使いもかくやの余波でもって吹き飛ばし、凍結系統の属性攻撃も交え氷結による高速や雹の刃の範囲攻撃を浴びせ、√能力により恐怖を与えるレベルで相手の抵抗すらも踏みつけていく

尚本人は多角度的に様子を見るべく走っており、戦意に付き合っているだけで戦闘の自覚は無い
だがそのお陰で偶然同行者の隙を埋めるサポートをしている形となっている
真白・璃亜
【旅風】
すごい嵐だったなぁ……。
越えられたのが奇跡のようなんだよ……!
さっきの船長さん、私達が頑張ったら安心してお船を運転出来るようになるのかなぁ?

神様を信仰する気持ちはわかるけど、被害が出ちゃう以上は私達が相手をさせて貰うんだよ!
ね!ハーゼルゼットちゃん!
……敵の方を勧誘しないでハーゼルゼットちゃん!
やっぱりこっちの気持ち、伝わってないよねぇ!?

『神秘の氷』で星形の氷を飛ばして攻撃するんだよ!
ハーゼルゼットちゃんの余波に合わせて勢いを増させた氷で攻撃したり、鏡の形の氷を作って敵味方問わず攻撃を防いだりするよ!

無理に抗うことはせずに彼女の気まぐれ合わせて攻撃して協力して戦うよー!



「本当に凄い嵐だったなぁ……超えられたのが奇跡のようなんだよ……! 船長さんには感謝しないとね! ハーゼルゼットちゃんも無事で良かったよ!」

 |真《ま》|白《しろ》|璃亜《りあ》は無人島への上陸に成功してから|此方《こちら》、先導する|伊十羽華《いとはか》・ハーゼルゼットの背中を追い掛け続けている。
 活力に満ちている|璃亜《りあ》の言葉が幾度となく投げ掛けられているのだが、肝心の伊十羽華《いとはか》はと言えば、それが自分に対して向けられているものだとは|露程《つゆほど》にも考えていない様子であった。
 素知らぬ顔で、|颯爽《さっそう》とした歩みを緩める|風《ふう》でもなく、ただ|真直《まっす》ぐに島の上空を|揺蕩《たゆた》っている怪異の|下《もと》を目指している。

 ――その二人の行く手を阻むようにして築かれた、邪教の信徒達による人垣が現れた。
 各々の手に短刀を携えている、部外者への敵意を隠そうともしていない怪異の信奉者達。それを前にして、伊十羽華《いとはか》の歩みが|漸《ようや》く止まる。
 |璃亜《りあ》も、また警戒心を|顕《あらわ》にして、愛用のアブソリュート・シューターの|銃《じゅう》|把《は》に手を掛けた。

「止まりなさい。これより先は我等が|御神《オンカミ》の聖地。異教の者が立ち入ってよい場所ではありません」

 巫女の言葉を、しかし、それは受け入れることができない要求であるのだと、|璃亜《りあ》は拒絶する。

「神様を信仰する気持ちはわかるけどね! でも被害が出ちゃう以上は、私達が相手をさせて貰うんだよ! ね、ハーゼルゼットちゃん! …………ハーゼルゼットちゃん……?」

 共に肩を並べて戦うべくして伊十羽華《いとはか》の隣へと進み出ようとする|璃亜《りあ》。それを完全に無視するような態度で、伊十羽華《いとはか》は巫女達の方へと向かって、その足を踏み出した。
 困惑の表情を浮かべる|璃亜《りあ》を置き去りにして、邪教の巫女達に言葉を投げ掛ける。

「――空に漂う、あの者の信徒か。であれば|何故《なにゆえ》に地に縛られる|哉《かな》。此方と|伴《とも》に高き空の旅に向かわんや?」

「…………って! ちょっと、ハーゼルゼットちゃん! 敵の方を勧誘しないで! ねぇ、聞いてる!? 私の声、やっぱり届いてないよねぇーぇっ!?」

 |璃亜《りあ》は大声を張り上げてみせるのだが、当然、それも伊十羽華《いとはか》の泰然とした姿勢を諫めるまでには至らない。
 邪教の巫女達は、もはや問答は不要とばかりに短刀を鞘から抜き放った。
 敵対している|筈《はず》の存在に、呑気に話し掛けてくる伊十羽華《いとはか》の命脈を断たんとして刃を繰り出してくる。
 しかし――。

「問いの返しは戦意|哉《かな》。ならば、それに付き合えば其方を理解できる|哉《かな》」

 巫女達の短刀の一閃は、その|悉《ことごと》くが虚空を薙いだ。
 伊十羽華《いとはか》の足が軽やかに地面を蹴りつけて――嵐の後の|泥濘《ぬかるみ》を踏みつけて、それでいて不思議と泥の飛沫のひとつさえ散らさない――その身体が宙に舞い上がる。
 伊十羽華《いとはか》は漆黒の風と化して縦横無尽に駆け抜けた。
 それは人間の動体視力で捕捉できる速度ではない――巫女達が短刀を繰り出すも、斬りつけるのは遥かな以前に、その場所を通り過ぎた残像のみである。

「|疾《はや》い……! そんなっ、姿が、まるで見えないっ……きゃあっ……!?」

「どこ、どこにいるのっ……あぁぁっ……!?」

 伊十羽華《いとはか》からしてみれば、ただ風に乗り、空を駆けているのみだ。
 しかし、その余波は想像を絶する衝撃を伴って、周囲に存在しているものを薙ぎ払っていく――と。

「む――? この冷たきは氷器|哉《かな》」

 |漸《ようや》く|璃亜《りあ》の方向に視線を向けると、そこには神秘の呪文を詠唱することに専念している知己の姿が存在していた。
 |璃亜《りあ》の詠唱に呼応して出現する、星形をした|神秘の氷《ミスティック・アイス》が、伊十羽華《いとはか》の撒き散らす破壊の余波を受けて、その勢いを加速させている。
 風に乗って運ばれる冷気が周囲の気温を急速に低下させて、大気は氷結した刃と化していた。

「見たか! 私とハーゼルゼットちゃんの協力攻撃! 私の氷をハーゼルゼットちゃんの風に乗せれば――あれ? ちょっと、ハーゼルゼットちゃん!? そっちじゃないよ! できたら、こっちに合わせてほし……ハーゼルゼットちゃん!?」

 ――|璃亜《氷器》が何事かを眼下で叫んでいるようだが、特に気に留めるようなことでもないだろう。

 伊十羽華《いとはか》は、そのように判断すると、風だけではなくて、冷気とも付き合うことにした。
 時間が経過する|毎《ごと》に、|璃亜《りあ》の生み出す氷の結晶は、その数を増やしていく。
 虚空に踊る氷晶は、その透明な星型で、嵐の後の青空から降り頻る陽光を砕いていた。
 屈折し、乱反射する光の粒子は、駆け抜ける空の色を美しく彩っている。
 蒼穹の清々しさとは異なり、眼下の大地は惨劇の色に覆われていた。
 極寒の風は鉄槌に、氷晶は硝子の断頭台と化して、邪教の巫女達を屠っていく。
 伊十羽華《いとはか》に、その気があるのか、それとも無いのかは不明だが――おそらくは無いのだろうが――|神秘の氷《ミスティック・アイス》を生み出す為の詠唱に専念している|璃亜《りあ》に近づこうと目論む者達も、また無秩序な破壊の旋風に巻き込まれて散っていった。

「さて――其方等の戦意に付き合ってはみたが。そろそろ此方の問いの解答は得られる|哉《かな》。此方との旅路に頷いてくれる|哉《かな》」

「だーかーらー! ハーゼルゼットちゃんってば! 敵を勧誘しないのっ! あと、もう答えられそうな人、誰も残っていないからね! 良く見て!」

 伊十羽華《いとはか》が|漸《ようや》く大地に再び降り立った時。そこには|既《すで》に二人の|√《ルート》能力者に敵対できる戦力を、いまだに保有している者は存在していなかった。

「それじゃあ、この調子で本命の怪異の方も、やっつけちゃおう! 平和な海を取り戻して、船長さん達が、また安心して航海できるようにしてあげないとね!」

 |璃亜《りあ》の視線は、無人島の上空を|揺蕩《たゆた》っている災厄の化身の姿を|真直《まっす》ぐに射抜いていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

御岳山・大真
そこを除け、荒ぶる御魂を奉る巫達よ。
道を開ければお主らには何もせぬよ。
どのような神を信ずるも自由じゃ、それが荒ぶりし邪神であろうともな。
………だが、その信じた者達を足蹴にする神がどこにおろう。

道を塞ぐ巫女達と相対する前に【大地を鎮める巨岩】により土石流を堰き止め、呑まれた巫女達を拾い上げ、道を塞ぐ巫女達に返してやる。

命を贄とし続ける神を奉り続ければ、次は己ぞ。
離れるなら今よ。
さて、どうする?

道を開けるなら巫女達には何もせぬ。
襲いかかるのなら【大地を鎮める巨岩】をわざと外し地面へ岩を突き立てる。
動きが遅くなったところへ気絶する程度の雷を放ち、気絶させる。

そこで寝ておれ、荒ぶる御魂は鎮ませようぞ。



「そこを|除《の》け。荒ぶる御霊を|奉《たてまつ》る|巫《かんなぎ》達よ。道を開けるのであれば、お主等には何もせぬよ」

 |御《み》|岳山《たけやま》|大《おお》|真《ま》の行く手を阻む怪異を|信奉《しんぽう》する巫女達。それ等によって築かれた人垣は、しかし、当然のことながら怪異噛みの言葉を|一顧《いっこ》だにしようとはしない。
 |各々《おのおの》の厚い信仰に殉じる覚悟を|既《すで》に決めているようであった。
 |大《おお》|真《ま》は深く嘆息すると――「あれを見よ」――と、崩れた土砂の山から突き出ている犠牲者の、|既《すで》に生気を失っている腕を|一瞥《いちべつ》する。
 同胞の亡骸を前にしても、まだ、その目を曇らせたままであるのかと叱責した。

「お主等が、どのような神を信ずるも自由じゃ。それが凶事しか招かぬ荒魂であってもな。だが信徒を足蹴にする神が何処におろうか。あれは、お主等が真に命を賭して護ろうとするだけの存在であるか否か――今一度、己に問うてみよ」

 重ねられる|大《おお》|真《ま》の言葉に、しかし動揺を示す者達は一人もいない。
 
「化生の者め。私達の信仰を揺らがせようとしても、そうは、いきませんよ。誰も貴方の言葉など聞くものですが。私達は偉大なる|御神《オンカミ》に身も心も捧し者。神の威光によって果てるのであれば、それも本望というものです」

 己の生命すら厭わぬ狂信というものは、なるほど厄介なものであるなと、|大《おお》|真《ま》は再び嘆息した。
 幾ら言葉を尽くしたとしても、この巫女達の|蒙《もう》を|啓《ひら》くことはできないのだろう。
 そうであるのならば仕方がない。

「|既《すで》に忠告はした。その上で、わしの歩みを阻むというのであれば押し通るまでじゃよ――|大地を鎮める巨岩《カナメイシ》よ、在れ」

 |大《おお》|真《ま》が、その両腕を天を支えているかの|如《ごと》くに頭上へと突き上げた。
 |一所《ひとところ》に凝集された妖力が物質化し、重量にして、およそ数十トンはあろうかという巨岩を創造する。

「はっ――!」

 |大《おお》|真《ま》の手により、その巨岩が投じられる場所は、巫女達が築く人垣の僅かに後方。放物線を描きながらに飛ぶ岩石が、その大質量をもって地面に突き刺さる。

「莫迦ですね。どこを狙っているのですか…………こ、これはっ……!?」

 まるで見当違いの場所に落下する巨岩など恐れるには値しないとする巫女達の嘲笑は、しかし、次の瞬間には驚愕に取って代わられた。
 鳴動する大地。大地が波うつように激しく震え、まともに立っていることさえもが覚束なくなる。

「この島の要となる位置のひとつに撃ち込んだからの。あの空にいる荒魂の影響じゃろう。気脈それ自体が随分と滞っておった。そこに活を入れてやれば――こうなる。少々、荒療治じゃがの」

 大地の揺れに翻弄される巫女達。その隙を見逃す|大《おお》|真《ま》ではない。
 
「そこで眠っておれ。目覚めた時には全てが片付いていよう。お主等の信仰が神に対して捧げられたものか――それとも神の力に対して捧げられたものであるのか。己と向き合ってみるが良いじゃろう」

 ――雷光一閃。
 |奔《はし》りぬけた|碧雷《へきらい》は巫女達の命脈を断つことはなく、ただ、その意識だけを刈り取った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『荒魂ノ辻』


POW 地変
【大地を揺らす事】による牽制、【液状化現象】による捕縛、【土石流】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD 天変
【暴風】による牽制、【竜巻】による捕縛、【落雷】による強撃の連続攻撃を与える。
WIZ 水難
【間欠冷泉】による牽制、【渦潮】による捕縛、【大瀑布】による強撃の連続攻撃を与える。
イラスト らぎ
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 その無人島の中央――正確には、その場所に|揺蕩《たゆた》っている災厄の化身の|下《もと》――を目指して、各地から邪悪な|見えない怪物《インビジブル》共が群れ集って来ている。

 ――キィ、シャ、ォォォォォォォッ!

 世に凶変と災禍を招く白鱗の怪異の咆哮が、波紋のように周囲へと広がっていく。
 天が乱れて、地が震えて、海が叫んだ。
 その存在は、はたして何を考えているのか――それとも知性と呼べるものなど最初から持ち合わせていないのか。
 それすらも人間の理解の|及《およ》ぶ|範疇《はんちゅう》にはない。
 ただ、それは遙かなる高みに|揺蕩《たゆた》い、座して、高次の視座をもって|睥睨《へいげい》するのみである。
 これを捨て置けば、やがては未曽有の大災害が地上を襲うことになるだろう。

 ――キィ、リィ、ィアァァァァァァッ!

 荒魂ノ辻は、その力を蓄えようとしているかのように、|遂《つい》には邪悪なる|見えない怪物《インビジブル》の捕食を開始していた。
御岳山・大真
ようやっと相見えたな荒魂よ。
ああ、言葉を交わさずとも分かるぞ破滅を齎さんとするその災禍を!
その身を天に揺蕩い、座するだけでもその威で以て現世を乱すのなれば、ここで怪異を滅せん!

天に座す怪異に向かって咆哮を上げ自らに碧雷を落とし【威祓】を発動させ、人化けの姿を解き本来の姿である首だけの戌神となり、更に落とした碧雷を身に纏い自らを大狼へと転じさせ荒魂の放つ攻撃を雷にて迎撃し、荒魂に碧雷を次々と放ち周囲にいるインビジブルごと浄化させ荒魂の守りを崩しにかかる。

効くか効かまいが、構うまい。
これは場を整える雷なり。
荒ぶる凶変災禍を鎮める祓いなりて。

首に巻いている【紡ぎ勾玉】の勾玉を周囲へと展開し、そこへ碧雷を落としこみ、勾玉に込められた微かな神気を引き出し、狭い範囲なれど一時的な陣を敷く。

遠雷のみで鎮めるとは思わん。
この牙を突き立てんことには終わらんじゃろうて。

雷纏う大狼を雷そのものとし雷鳴の如き一閃となし一気に近づき、【戌神顕現】を発動し、纏った雷を解き、戌神本来の首だけとなり、牙を突き立てる。
ルクレツィア・サーゲイト
【SPD】※アドリブ・連携歓迎
「来たわね、災厄の化身…。ここで封じなければ被害は甚大。止めるわよ!」
相手は自然の猛威を具現化したような存在、まともに受ければ身が持たないわ。
敵の攻撃には「野生の勘」や「幸運」を活かして基本回避で、回避が不可な場合は「受け流し」もしくは竜漿兵器での「ジャストガード」で被害を最小限に抑えて「継戦能力」を発揮する。
ただ、恐れてばかりでは仕留められない。一瞬でも良い、近づいて全弾叩き込める隙を突ければ…!
粘り強く機会を窺いつつ、機を逃さず全速力で接敵して装填した魔力を充填した魔弾を至近距離で叩き込むわ!
「行くわよ“荒神”、今日ここが貴方の終焉の地となるのよ!」
真白・璃亜
【旅風】
ついに来たね……!
白鱗の怪異、とっても神秘的で強そうだけど……(船長さんの顔を思い出して)少女人形の役目はみんなを守る事だよ!
全力で戦わせて貰おうかな!ん?ハーゼルゼットちゃんの様子がいつもと違うような……。
何だろう、『相手をしっかりと認識している』ような気がするんだよ。

……!うん!私にお任せあれだよ!
『氷華鏡格闘術』でハーゼルゼットちゃんの操る風や吹雪を利用して戦うよ!
敵が彼女の攻撃を回避する方向を[第六感]で認識するよ。
逃げた先に回り込んで[喧嘩殺法]も混ぜて氷銃の射撃や蹴り技で、ハーゼルゼットちゃんの攻撃を直感で理解して利用する形で戦うよ!
氷柱などの『偶然出来た武器』も使おう!
伊十羽華・ハーゼルゼット
【旅風】
邪、お前はそれだけか?
喰らうも起こすもそれだけでは足りないぞ?…ならば、盛り上げようか
では……氷器、好きやれ……好きにやる

邪気を受けた影響か欠落が一時少しだけ「ハマり」安定するが視座や判定もズレて、笑いつつも冷めて戦闘開始
【幻爪・冷たい顕現】で凍れる風使いの範囲攻撃を叩き付け斬り刻み
連続射撃で吹雪属性攻撃を乗せた雹弾により畳みかける
やや乱雑な軌道で同行者が活かすか殺すかある程度自由にしている

空中移動の挙動はややスライド移動に近くし、不定形な躰と氷結耐性を活かして受け流しつつ攻撃続行

本格的に飽いた所で√能力を発動して結界生成、片手で印を組み「散れ」と増強させた必中環撃と境効果を叩き込む



 ――キィ、シャアァァァァァッ!

 厄災の化身たる怪異の鳴き声が大気を震わせる。

 ――オォォォォォォォォォッ!

 |御《み》|岳《たけ》|山《やま》|大《おお》|真《ま》の|咆哮《ほうこう》が、その|大《だい》|音《おん》|声《じょう》を掻き消そうとするかのように、周囲に響き渡った。
 怪異のそれは大地を|震撼《しんかん》させて、戌神のそれは天空を鳴動させる。
 怪異と戌神は、天と地の|隔《へだ》たりを越えて、|互《たが》いの視線を交差させた。

「ようやっと見えたな荒魂よ。破壊を|齎《もたら》さんとする災禍の化身よ! その|在《あ》り|様《よう》こそが現世の平穏を乱すというのであれば|是非《ぜひ》もなし。わしが――否。わし等が怪異を滅する牙とならん!」

 |大《おお》|真《ま》の宣言に応えるかのように、蒼天を人型の|輪郭《りんかく》に切り抜く黒影が、ひとつ、上空を浮遊している。
 |伊十羽華《いとはか》・ハーゼルゼットは、彼女にしては珍しく、真紅の|双眸《そうぼう》に冷え切った感情の|残《ざん》|滓《し》らしきものを宿らせながら、白鱗の怪異の姿を見詰めていた。

「――邪。お前はそれだけか? 喰らうだけならば獣で良い。渦風を起こすならば誰でも良い。何かが――何かが、ある|筈《はず》だろう?」

 |伊十羽華《いとはか》の言葉に、しかし荒魂ノ辻は応えない。
 |瑕疵《かし》の無い硝子玉めいて無機質な、感情の揺らぎの宿らぬ瞳で見つめ返してくるのみだ。
 それは怪異の纏う異質な神気の影響だろうか。
 それとも、果たして各地から参集してくる邪悪な|見えない怪物《インビジブル》達の撒き散らす邪気の影響だろうか――正確な所は判然としない。
 普段の|伊十羽華《いとはか》とは異なり――何かの欠落が一部、歪んだ形で、望まぬ場所に嵌まりこんでいるような錯覚に囚われている。
 視座がずれているとでも形容すれば良いのだろうか――|伊十羽華《いとはか》の常とは異なる様子を敏感に察知しているのは、長々しい青髪を風に靡かせている|少女人形《レプリノイド》だった。

「ハーゼルゼットちゃん……少しだけ何時もと違うような……」

 |真《ま》|白《しろ》|璃亜《りあ》が首を|傾《かし》げていると――。

「氷器。好きにやれ……好きにやる……」

 |伊十羽華《いとはか》が、やはり珍しい事に|璃亜《りあ》に声を掛けてくる。
 それは不器用だが、彼女なりの共闘の誘いだろう。
 勿論、|璃亜《りあ》に否やはない。

「……! うん! 私に御任せあれだよ!」

 |伊十羽華《いとはか》は、|璃亜《りあ》の士気に満ちた返答を耳にすると同時に動き出す。
 その手に携えている煙のような、はたまた雲のような、まるで実体の掴めぬ特異な得物を猟銃へと変化させた。

「天の尾が断ち切りし焔の熾火が降り立つは、三つなる岩戸――|威祓《タケフツ》!」

 |大《おお》|真《ま》が唱える祝詞に応えるかのように、天が激しく鳴動し、一条の眩い碧雷を降り注がせる。
 それは彼自身の肉体を狙い過たずに射抜き、人に化ける術の効果を解いていく。
 首だけの戌神の姿から、碧雷を纏う巨躯の狼の姿へと。
 |大《おお》|真《ま》は天空に揺蕩う白龍にも劣らぬ威容を|顕《あらわ》すと、戦の先駆けとばかりに、激しい雷霆を全天より降り注がせた。
 轟音と共に荒れ狂う幾条もの碧雷が、邪悪なる|見えない怪物《インビジブル》の大勢を焼き払っていく。

 ――キィ、リィ、キュアァァオォォォッ……!

 厄災の化身たる怪異は、自身の力の源となる者達が次々に撃ち落されていく光景を前にして高らかに吼えた。
 |大《おお》|真《ま》の碧雷を迎撃するかのように、大気が捻れて竜巻となり、地表の一切合切を吹き飛ばすかのような暴威が吹き荒れる。

「うわわっ……!?」

 |璃亜《りあ》の身体が、突如として発生した竜巻に巻き込まれて吹き飛ばされそうになる――その瞬間。

「――大丈夫!? まったく、とんでもない事をする奴ね!」

 ルクレツィア・サーゲイトが韋駄天の|如《ごと》き勢いで大地を疾走して、その勢いの|儘《まま》に|璃亜《りあ》を抱え上げると、共に安全圏への退避に成功する。

「助かったぁー……! ありがとうございます、ルクレツィアさん!」

「無事なら良かったわ。あいつが災厄の化身……放っておけば被害が拡大する一方ね! 絶対に止めて見せるわよ!」

 ルクレツィアは、風と地の精霊の加護を宿す魔法のブーツを頼りにして、地表を縦横無尽に駆け回る。
 大地の震動を、津波のように押し寄せる土砂の流れにも物怖じせずに、果敢に挑戦していた。

「とは言え、相手の攻撃が、どれも天変地異って言うのは流石に遣り辛いわね……何とかして接近できれば良いんだけど……!」

 ルクレツィアが怪異の攻撃を予測する一助になればと頭上を仰ぎ見れば、其処には何時の間にか白龍に肉薄する事に成功している|伊十羽華《いとはか》の姿があった。

「“|凍轍《とうてつ》”――“碧落”――」

 その唇から歌のように零れ落ちるものは異界の祝詞。世界の|在《あ》り|様《よう》を侵蝕する事で災禍を招く領域を築き上げる呪言である。
 |伊十羽華《いとはか》が|銃《じゅう》|把《は》を握る猟銃の砲口から雹塊が発射される――それは狙いを過たずに白龍の身体に突き刺さった。
 その猟銃は次の瞬間には湾曲した刃を有する利器に――そのように見える煙の塊に変容している。
 振り下ろす刃の軌跡に添って、凍てついた大気が弾け飛ぶ澄んだ高音が響き渡る。

「“無窮の街道”――“|徒《いたずら》なる旅路”――」

 それは銃撃の嵐か、はたまた刃の竜巻か。
 |伊十羽華《いとはか》は、振るう得物はおろか自身の肉体さえも不定形の冷たい風と変えて、荒魂ノ辻の巨躯に、数え切れぬ|程《ほど》の傷を刻み付けていた。

 ――キィ、リュ、オォォォォッ!

 厄災の化身が、またも甲高い鳴声を発する。
 |伊十羽華《いとはか》の変幻自在の飛翔を撃墜せんとするかのように天が鳴動して、雷雲より、一条の閃光が矢となって放たれる。
 しかし――。

「させないよっ! てぇりゃぁーっ!」

 |璃亜《りあ》は風に乗って高度まで跳躍すると、その勢いの|儘《まま》に拳打と脚撃の猛襲を、災厄の化身たる怪異に叩き込んだ。
 白龍の巨躯が怯んだように、僅かに傾く。

「さっきの竜巻は無理だったけど! ハーゼルゼットちゃんの風になら乗れるんだよー!」

 |璃亜《りあ》は、|伊十羽華《いとはか》の生み出した気流の流れを器用に乗りこなしながら、必殺の|氷華鏡格闘術《ランダム・アーツ》を怪異に見舞っている。
 それは御世辞にも洗練された武術であるとは言い難い喧嘩殺法そのものの動きであるのだが――巨躯を有する怪異を相手にするには、かえって、その|単純《シンプル》な暴力こそが効果を発揮している様子だった。

「――今だわ! 精霊達よ! 我が銃弾に宿りて、魔を祓う銀の弾丸となれ!」

 ルクレツィアが握るリボルバー型の精霊銃に装填されている銃弾に、周囲の精霊達が集まっていく。
 それに、龍の鱗を貫通する|程《ほど》の威力を発揮させる|為《ため》の、充分な量の精霊を充填できたと判断したルクレツィアは、力の限りに大地を蹴り付けた。
 災厄を|齎《もたら》す怪異の影響により激しく振動する地面のたわみを利用するように、地上から天空へと昇る一条の流星と化して疾駆する。
 その目指す地点は、精霊銃の銃口を、白龍の皮膚に押し当てる事が可能な|程《ほど》の至近距離。彼我を隔てる間合いの概念が零となる箇所からの密着射撃を企図している。
 ルクレツィアの狙いに白龍は気付いていない――正確には|璃亜《りあ》と|伊十羽華《いとはか》の猛攻に晒されて、急速に接近する彼女に対してまで注意を向ける余裕はない。
 ルクレツィアの跳躍の軌道上に存在している邪魔な|見えない怪物《インビジブル》達は、その|悉《ことごと》くが|大《おお》|真《ま》の碧雷に灼かれて撃墜されている。
 阻む者は何もない――ルクレツィアの身体は、荒魂ノ辻の上顎に着地した。
 怪異の、硝子玉めいた空虚な瞳が、眉間に押し当てられる精霊銃の銃口を見詰めている。

「|おしゃべりな精霊達の《ラピッドファイヤー》――|輪舞曲《フルバレット》!」

 リボルバーに装填されている全弾、六発。それが高らかな歌声を鳴り響かせた。
 精霊達の宿る銀の銃弾が、白龍の眉間を、その頑丈な頭蓋を貫通して炸裂する。

――ギュォォォォォォォォォンッ!?

 天空を揺蕩う怪異の巨躯が、|遂《つい》に、その高き場所より落下する。
 その落下地点には――輝く勾玉の連なりによって敷かれた法陣と、それにより収斂された厳かな神気の高まりが存在していた。
 法陣の中心に立つ者は碧雷を纏う巨躯の狼。天の高みから引きずり降ろされた偽りの神に、その鋭い牙を突き立てるべくして力を溜めている。

「我が牙は魔性を喰らい、邪気を祓い、外道を貫く……真の牙を見せようぞ!」

 |大《おお》|真《ま》の宣言と同時に碧雷を纏う巨狼としての姿さえもが解けていく。
 顕れる者は戌神の本来の姿――首だけの威容である。
 |大《おお》|真《ま》の首は碧色の閃光と化した。
 大きく開かれた顎、神気を宿す牙が、|遂《つい》に荒ぶる災厄の化身の喉笛を噛み砕くかに思えた、その瞬間の事である。

――リ、ギィ、ギュアァァァァァァッ……!

 末期の足掻きと、荒魂ノ辻の咆哮が響き渡る。
 喉笛を目指して一直線に奔る|大《おお》|真《ま》の首を、逆に噛み砕かんとするかのように大口を開けて――。

「――散れ」

 その、何もかもに飽いたような、凍れる雲の残骸めいた呟きに、渾身の一撃を阻まれた。
 |伊十羽華《いとはか》が片手で結ぶ印に籠められた不可思議なる力が、落下する怪異の巨躯を、周辺の大気もろともに凍てつかせていた。
 凍りついた尾の先端から結晶となって砕け散っていく荒魂ノ辻。

「悪足掻きね。今日、ここが、貴方の終焉の地となるのよ!」

 ルクレツィアが大上段から振り下ろした詠唱錬成斧槍の一撃が、白龍の腕を斬断する。

「貴方がいるとね! あの優しい船長さんや、他の皆も困っちゃうの! だから、さよならだよ!」

 |璃亜《りあ》の手にした巨大な氷柱の切っ先が、怪異の胸部を刺し貫いた。
 そして――。

「終わりじゃ――この牙こそは凶変災禍を鎮める祓いであると識るが良い!」

 怪異噛みたる|大《おお》|真《ま》の牙が、|遂《つい》に厄災の化身の喉笛を喰い千切る。
 怪異の断末魔の叫びさえ碧雷の閃光と轟音に飲み込まれて消滅した。
 後には、ただ、無人島の各地に残る災害の生々しい爪痕が残るばかり。
 それでも瀬戸内海に平穏が戻ってきた事に疑いの余地はない。
 |√《ルート》能力者達の活躍により、怪異は退けられ、世を襲う凶事は鎮められたのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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