シナリオ

⚡金城鉄壁を越えてゆけ

#√妖怪百鬼夜行 #√ウォーゾーン #紅涙流離戦

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 #√妖怪百鬼夜行
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⚡️大規模シナリオ『紅涙流離戦』

これは大規模シナリオです。1章では、ページ右上の 一言雑談で作戦を相談しよう!
現在の戦況はこちらのページをチェック!
(毎日16時更新)

●壁があなたを追ってくる
「もーみんな、『紅涙流離戦』についてはしってるよねー?」
 集まった√能力者たちにそう言ったのは冬月・楠音(氷原より貫く一閃・h01569)だ。
 嘆く女性のもとに現れ、惨劇をなす古妖『紅涙』。
 その力を求めた様々な√の簒奪者たちは、ついに「紅涙流離軍」を結成するに至った。そして『紅涙』は、その力を分け与えるようにできるのだという。
 これを放置すれば、彼らはその√能力を使って様々な√に現れ、それを梃子にして侵略を開始するであろうし、お膝元の√妖怪百鬼夜行では、彼らの集結の影響で既に様々な怪事件が起きているという。
 これ以上の好き勝手は、何としても止めなくてはならない。

「じゃ、どーしよっか? って話だけどー。
 なんと!わたしたちには『|百鬼夜行《デモクラシィ》』があるよ!」
 かつて√妖怪百鬼夜行を支配していた古妖を退け封印した、百鬼夜行を再現するのだ。
 住人の妖怪たちから力を借りることができれば、紅涙流離軍を退けることができるだろう。
「そのために、わたしたちができることの一覧が、こっち! 確認してみてねー」
 そう言って、楠音が手近の端末に表示したのが、以下の通りの内容である。

 作戦1:『紅涙』の撃破(玉川上水『雨濁りの藤の屋敷』)
  直接『紅涙』の本拠地に乗り込み、儀式を中断させる。
 作戦2:紅涙流離軍の壊滅(JR荻窪駅付近)
  紅涙流離軍と正面から戦う。戦う簒奪者の√の指定も可能。
 作戦3:ハーモニカ横丁の探索(吉祥寺ハーモニカ横丁)
  横丁最深部で酔い潰れている妖怪大将の力を借りに行く。
 作戦4:土地神の救出(大宮八幡宮)
  大宮八幡宮の地下深くに捕らえられた土地神とその「つがい」を救出に行く。
 作戦5:文車古妖との対話(中野ブロードウェイ)
  文車古妖と対話し「他人を心から不愉快にするのにあまり人の死なない悪事」を考える。
(くわしくは、みんなで各自かくにんしてね! by楠音)

 これらのいずれを採るにせよ、まずは√妖怪百鬼夜行に赴かなくてはならないが。
「でも、古妖のせーなのか、むこーがかまってほしいのかわからないけどー。
 いっぱい『ぬりかべ』が邪魔してくるから、けちらさないといけないんだー」
 妖怪、ぬりかべ。
 その外見は思い切り壁である。物理的障壁である。
 それが群れをなして√能力者の行く道に立ち塞がるのである。
 ……どう控えめに言っても邪魔以外の何物でもない。
 彼らの意志は明らかではないが、排除しなくては始まらないだろう。

「ぬりかべたちをけちらしたら、そこからが作戦のほんばん!
 さっきの一覧から、集まったみんなでやりたいことを選んでね!
 どの作戦でも、わたしは案内できるから!」
 えへん、とない胸を張る楠音。
 ともあれ、作戦は間違いなく大規模なものとなる。
 戦況なども鑑みつつ、作戦を選ぶことも重要かもしれない。

「たぶん、いろいろ大変な作戦になるとおもうけどー。
 ……がんばってね!」
 ぐっと両の手を握って、楠音は√能力者たちを見送るのだった。

マスターより

西野都
 こんにちは、西野都です。
 今回は紅涙流離戦に対処するシナリオをお送りします。

●募集日程
 タグに記載した募集日時での送付をお願い致します。
 日程に変更がある場合は、適宜書き換えます。
 また、募集していない場合は日程タグを消去します。

●シナリオ概要
 今回は二章構成のシナリオとなります。
 第1章:妖怪『ぬりかべ』を倒せ!
 OP通り、√妖怪百鬼夜行の街中でぬりかべたちと戦います。
 特記事項はありません。思う存分戦ってください。

 第2章:作戦1から作戦5までで選択せよ!
 一言雑談でご相談の上で、作戦を決定してください。
 内容については基本的にOPで書いた通りですが、詳細部分はここに書ききれないほど多いので、公式の告知ページをご参照頂くようお願いいたします。
 なお、作戦2については、戦う簒奪者の所属√の選択が可能です。
 作戦4も、冒険、集団戦、ボス戦の選択が可能です。
 希望される場合は、その旨を相談の際にご提示ください。
 希望されない場合は、西野が選択します。

●合わせについて
 合わせの場合は、お相手の方のお名前とIDを記載するか、合言葉の記載をお願いいたします。

 それでは、|百鬼夜行《デモクラシィ》を拓くプレイングをお待ちしております。
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よろしいですか?

第1章 集団戦 『ぬりかべ』


POW ぬーりーかーべー
半径レベルm内にレベル体の【ぬりかべ分身体】を放ち、【擬態】による索敵か、【かべどん】による弱い攻撃を行う。
SPD ぬりかべっ
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【ぬりかべ】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
WIZ ぬりかべぬりかべぬりかべ
移動せず3秒詠唱する毎に、1回攻撃or反射or目潰しor物品修理して消える【色違いぬりかべ】をひとつ創造する。移動すると、現在召喚中の[色違いぬりかべ]は全て消える。
イラスト 成千佳
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丙浦・亮
物理的障壁、その名の通りの奴だな。
ここは全力で叩き壊してやりたいところだが、そう簡単には行かない様子か。
技能【気絶攻撃】を使いつつ、出来るだけ俊敏に立ち回ろう。
相手の動きは鈍そうだから、可能な範囲で先手を打っていきたい。
新たな壁を作られると面倒なことになるだろう、怯ませてレイン砲台を使い√能力を発動、在る壁の全てに向けて照射し対抗する。
「面倒だ、全部壊してやる」
往く道を切り開いて、先を急ごう。

●金城鉄壁には理由がある
「ぬーりーかーべー」
 妖怪ぬりかべ。
 √妖怪百鬼夜行のみならず、√EDENなどでも妖怪アクションものに登場することで知られた、メジャーな妖怪である。
『ぬりかべ』としか喋らないが、どこか愛嬌すら感じさせる口調とフォルムは、人気があるのも納得というものだ。
 だが。
「物理的障壁、その名の通りの奴だな」
 丙浦・亮(人間(√EDEN)のレインメーカー・h01549)は壁の下で唸っていた。
 目の前にはぬりかべが立ち塞がっている。
 そして、ここは通路のどまんなか。
 思い切り通路を断ち切って、立ち塞がっているというのが現状である。
 そう、つまるところ、ぬりかべとは物理的障壁なのだ。
 奇妙建築によって発生したただの壁ならばまだいい。
 これならまあ、割とあっさり破壊できるし、その奇妙建築の家主に対しても「お宅の住宅がちょっと……」的な言い訳で案外通る、らしい(確実ではないので注意!)。
 だが、ぬりかべは妖怪のタフネスで立っている上に、次々と同族がやってくる。
「ここは全力で叩き壊してやりたいところだが、そう簡単には行かない様子か」
 そう、亮がぼやくのも無理からぬところである。
 実際、今亮の前にいるぬりかべのその背後では、
「ぬーりーかーべー」
「ぬりかべー」
「ぬりかべっぬりかべっ」
「ぬりかべ!」
 などと同族の声がいっぱい聞こえてきているのだから。
 その声に、想像される事態に、思い切り亮の眉がひそめられる。
 だが、そうしたままでもいられない。この場にいるだけでは状況は悪化するばかり。
「仕方ない……行くぞ」
 じゃらり、と手にした殴り棺桶の鎖が音を立てた。

「可能な範囲で先手を打っていきたいな……よし」
 亮の手の中で鎖が軋み、その先の殴り棺桶が振り回され始める。
 鎖の回転によるエネルギーと、棺桶そのものの遠心力で安定した円弧は質量の暴威を纏い、前の前の黒壁……ぬりかべの壁面に叩きつけられる!
「ぬりかべぇぇぇっ!?」
 それは苦悶か恐慌か、ぬりかべが短い手足をわたわたさせながら声を上げた。
 見ればシュルレアリスムの絵画のように壁面が曲がり、でろんと垂れ下がっている。
 どうやら気絶しているようだ。
「ぬりかべっ!」
 一瞬で立ち直り、再び壁として屹立したものの、ダメージは受けているらしい。
 よく見ると、壁面に一筋だけたらりと汗が流れている。
「なるほど、これではまだ弱いか。ならば二度三度と打ち込むのみ」
「ぬりぃぃぃっ!? かべぇぇぇっ!?」
 再び高速回転した殴り棺桶が再びぬりかべに叩き込まれた。
 ギャグ漫画を思わせる突き刺さり方をした棺桶が、手のスナップで引き戻され、今度はハンマーのように叩き込まれる。凄まじく重い音を立ててのけぞるぬりかべ。
 壁面の下にある小さな足が、と、と、と、と音を立てて後退する。
 それにより、辛うじて棺桶の射程範囲外から出たぬりかべは、ほっと一息。
 亮の方を見据え、短い手を伸ばして何とか結印をする。
「ぬりーかべー、ぬりかべぬりかべぬりかべっ!」
 声に応じて現れたのは……赤いぬりかべであった。
 サイズはちょっとぬりかべより小さいが、壁そのものは変わらず硬そうだ。
「ぬりかべぬりかべぬりかべっ!」
「ぬーりーかーべー!」
 瓦礫を突き破って、青いぬりかべも現れる。
 ほんの少し本体のぬりかべより甲高い声の青いぬりかべは、手を広げて本体を庇う。
「むっ、あれはやめておいた方が良いか」
 亮は更なる攻撃を加えようとした殴り棺桶を引き寄せた。
 巨大な重量とともに引き寄せた棺桶は、亮の手でがっちりとホールドされ。
 ガッと音を立て、若干地面を砕きながら直立した。
 実際、亮の予感は正解である。
 ぬりかべの使った√能力は【ぬりかべぬりかべぬりかべ】。
 それ名前か? というツッコミはともかく。
 内容としては、色違いのぬりかべを創造するという√能力である。
 色違いぬりかべは、攻撃・反射・目潰し・修理の能力を持ち、発動すれば消える。
 だが、当然数がいればいるほど相手としては不利になる。
 その数自体が能力を放てる数となるからだ。
 故に、如何にぬりかべ創造をさせずに倒すか、が重要になりそうだった。
「新たな壁を作られると面倒なことになるだろう。……ならば」
 鎖を上方に振るい、亮は高々と殴り棺桶を宙に舞わせた。
 手にした鎖からは凄まじい引っ張る力が伝わってくるが、亮の膂力は揺るがない。
 あっという間に、棺桶は上空へと上げられていった。
「そのまま落ちろ」
 亮が鎖を振り下ろすと、その軌道が変じる。
 底を下にして急速に加速すると、そのまま壁の頂点に!
「ぬりかべぇぇぇぇぇっ!?」
 ぬりかべは悶絶した。
 非常に防御力の高いぬりかべだが、それはあくまで正面からの話。
 側面及び頂点は薄く、防御力も落ちてしまうのだ。
 そして、そこは運悪くぬりかべの脳天(?)。
 かくして、ぬりかべは多大な隙を晒したというわけである。
「今がチャンスか」
 亮は鎖を放り捨てたかと思うと、その手を前に振るう。
 同時に、その背後に無数の光が現れた。
 そう、それは√ウォーゾーンにおける人類の叡智の結晶、レイン砲台である。
 その砲口が一斉にぬりかべに向けられ、光が灯る……!
「面倒だ、全部壊してやる」
 その言葉とともに、√能力【決戦気象兵器「レイン」】が放たれた。
 超小型の砲台からレーザーを放つこの√能力は威力こそ低いものの、砲台の数が多い故に圧倒的な制圧力を持つ。そして、なまじ体が大きいだけに、その制圧力の全てがぬりかべに注がれてしまうのだ。
 虹の如き、無数の光が突き刺さればどうなるか。
「ぬぅぅぅぅぅりぃぃぃぃぃぃっ!?」
 かべ、と言う暇すらなく、ぬりかべはレイン砲台の前に屈するのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

八月一日・圭
アドリブ歓迎

視線を上げ、前方を塞ぐ壁群を捉える。
数、配置、動き――そして“違和”。

「……数で押す類ですか」

踏み込まず、間合いの外で観察する。
色違い、反応の差、力の流れ。
集団の中から核となる個体を見極める。

「無駄は、斬りません」

――修羅顕現
怨念が形を成し、剣鬼を纏う。
加速は一瞬。
三倍の機動で側面へ流れる。
分身体や色違いには触れず、核のみを追う。

「そこですね」

踏み込みは一度。
死角へ滑り込み、装甲ごと貫く。
霊剣術・夢想修羅。

「壁は、越えるものです」

貫いた感触で本体を確かめ、
崩れた一点を起点に突破路を作る。

●燎原に放たれる火は速く
「ぬりかべ!」
「ぬりっかべ、ぬりっかべ!」
「ぬーりかーべー、ぬーりかーべー、ぬーりかーべー、ぬりかべー!」
 √妖怪百鬼夜行の裏通りから、次々と現れる色とりどりのぬりかべたち。
 それだけならば、まあこの√であるならば日常の光景である。
 だが、それら全てが通行者の邪魔を目的として現れたならば……?
 それは、もはや一般市民ではなく物理的障壁と称するべきであろう。
 八月一日・圭(螺鈿を纏う修羅の語り部・h09402)の前に現出した光景は、まさにそれであった。
「――」
 だが、圭は妖怪たちの大進撃に相対しながら動かなかった。
 彼はすっと緋眼を上げ、前方を、彼の進路を塞ぐ壁の群れを捉える。
 圭が見ていたのは、その数。その配置。その動き。そしてその違和。
「……数で押す類ですか」
 然り。
 このぬりかべが使う√能力は【ぬりかべぬりかべぬりかべ】。
 自らの分身である「色違いぬりかべ」を創造するというものである。
 色違いたちは定められた能力を使うか、本体が移動すれば消滅してしまう。
 だが、現在のようにもはや本体がどこにいるのか分からぬ場合、それは術者である本体が望む限り、事実上無限に色違いたちを生み出し続けることができてしまうのだ。
 かくして産まれたのが現在のカオスである。
 目の前に立ち塞がる壁たちは、もはや通りに林立する奇妙建築の壁よりも分厚く。
 それでいて意図的にこちらの進路を妨害してくる、厄介な障害物の群れだった。
 至急対応せねば、もはや進撃叶わぬこの状態。
 それでも圭は動かなかった。
 敵の間合いに踏み込まず、じっと観察し続ける。
(色違い)
 彼らには無数の色がある。
 赤、緑、青の光の三原色を基軸に、加法混色で産まれた無数の色たち。
 眺めていれば、それは|光の移ろい《ゲーミング》のようにすら見えるかもしれない。
(反応の差)
 ぬりかべたちはあちこち動き、非常に忙しない。小さな足でちょこちょこと前進し、側面に移り、時に後退すらする彼らの動きは、一見完全なカオスにすら映る。
 だが、本当にそうだろうか?
(力の流れ)
 彼らは基本的に進軍し続けている。進みは遅いが。
 それこそ力の流れと取ることはできないだろうか。
 √能力で色違いぬりかべたちが創造されているのであれば、その進軍を遡れば、彼らを産み出し続けている本体がいるのではないだろうか。
 それこそが核。この状況の元凶。
 その所在を圭は見据えようとしていた。
 そして、見つける。
 無数の壁の先に、探していたそれを。

「無駄は、斬りません」
 すっ、と圭は愛刀たる霊刀真黒の鍔に親指を掛け、鯉口を切った。
 刹那、轟と物理的な圧力さえ纏った漆黒の霊力が吹き出す。構わず抜き放つ。
 その刀身は、纏った霊力によって半ば隠されている。
 これこそが、霊刀の名の由来。まさに「真黒」と呼ぶに相応しい。
 その黒き刀身を、圭はすっと前に向ける。
 視線は「核」と呼んだぬりかべの方向を向いたまま、一切逸らすことなく。
 そして圭は、その言葉を紡ぎ出した。
「――修羅顕現」
 言葉の最後の一音節を唱え終えたと同時に、圭の全身から炎が吹き出した。
 それは怨念の業火であり、炎のゆらめきはまるで人の形のよう。
 いや、人の形なのだ。
 何故ならば、その炎は怨念の剣鬼「修羅」そのものだから。
 それを纏う、または重ね合わせることで、圭の力は飛躍的に高まっていた。
 そして。
 たっ、と地を蹴り、業火を従えて圭は駆け出した。
 一瞬のうちに、その移動速度は普段の三倍に到達。
 炎はぬりかべたちの側面をすっと流れていく。
 それはまるで、燎原の火のよう。さっと燃え広がり、気づけば手がつけられぬ。
 その緋色の瞳は、がむしゃらに「核」を追っていた。
「ぬりかべっ!?」
 ぬりかべたちもようやく圭のその意図に気づいたようだ。
 色違いたちを集め、攻撃反射の能力を重ねたスクラムを組もうとする。
 だが、悲しいかな。彼らは「修羅」の炎に比べて、あきらかに鈍足であった。
 その燃え広がる速度に追いつくことはできない。
 そして、ついに炎の先端が「核」に。
 加法混色の果ての色、純白の漆喰色のぬりかべに触れた。
「そこですね」
 圭はたん、と一度だけ踏み込んだ。
 ここまでの加速をもってすれば、踏み込みはそれで充分。
 刹那と呼ぶことすらできぬ速度で、彼は漆喰色のぬりかべの死角へと滑り込んだ。
 一突きをもって、その装甲ごと刺し貫く……!
 これぞ、「修羅」の力を借りてのみ到達の叶う、必殺の一撃。
 その名を、霊剣術・夢想修羅と言う。
 手応え、あり。
「壁は、越えるものです」
 圭がそう呟くと同時に、周囲の色違いたちがざっと塵と化す。
 それに一瞬遅れ、漆喰色のぬりかべもまたその後を追い、溶け崩れて消えた。
 こうしてまたひとつ、道は拓かれたのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜久・椛
ん、沢山のぬりかべが、みっちりしてるね。
…控えめに言って、邪魔くさい。

「これは飛び越すのも、抜けるのも無理な密度だな。どうする?」

なら、沈めてしまおう。

まずは、【先制攻撃】で影の怪一文を読んで御伽を発動。
敵の足元の影を操って広げ、影の沼地を形成するよ。
そのまま、【不意打ち】で影の沼地から影の腕を出現させて掴み、敵を影に沈めてしまおう。

敵の反撃は【野生の勘で見切り】、【高速移動】や影に潜って回避。
【幻影使い】による【残像】も配置して、攻撃を逸らすよ。

回避しつつ、コイン型の錬金触媒に【錬金術と武器改造】で電の【属性攻撃】を付与して、【投擲】。
【マヒ攻撃】で鈍らせて沈めやすくするよ。

●影の沼地は総てを呑み込む
「ん、沢山のぬりかべが、みっちりしてるね。
 ……控えめに言って、邪魔くさい」
 路地を見据えながら、夜久・椛(御伽の黒猫・h01049)はため息をついた。
 黒い猫の耳は、少し外側を向いている。
 見れば、路地には大量の壁が生えていた。
 その全てが全く違う色をしており、その|色とりどり《ゲーミング》の壁がおのおの、
「ぬりかべー♪」
「ぬりっかべー、ぬりっかべー♪」
「ぬりかべ、ぬりかべ、ぬりかべー!」
 好き勝手に声を上げ――中には歌っている個体も――道を阻んでいるのである。
 これは確かに椛の言う通り、通るには非常に邪魔になるであろう。
「これは飛び越すのも、抜けるのも無理な密度だな」
 彼女の半身であり、尻尾でもある蛇、オロチが鎌口をもたげて視線を揃える。
 落ち着いた人格を有するオロチは、こうした時の椛の話し相手になっている。
 椛とオロチ、彼女たちは二人で一人のEDENであるとも言えた。
 そのオロチの戦術を見据える力は確かだ。
 オロチが言うならば、おそらくは実際に無理か、困難を伴うのだろう。
 その上で。
「……どうする?」
 椛の愛らしい|顔《かんばせ》を覗き込み、オロチはそう問う。
 主の決断を尊重する、この蛇らしい問い方と言える。
 そして、椛は決断を下した。
 こくりと頷き、オロチの顔にまっすぐ視線を向ける。
「なら、沈めてしまおう」
 はっきりと、そう言った。

 通りを構成する奇妙建築群、椛はその屋根の上に立った。
 黒いブレザーとスカートをはためかせながら、風に負けぬようきっと顔を上げ、彼女の口は一つの言葉を紡ぎ出していく。
「――影に潜むは、何者か?」
 刹那、ぬりかべたちの影が大きく広がった。
 それは互いに繋がり合い、また面積を広げながら、影の沼地と呼ぶべきものとなる。
 気づけば、ぬりかべたちのほとんどが、この影の沼地に足を浸していた。
「ぬり!かべ!」
「ぬりー、かべー!?」
 ぬりかべたちが異常を察し、騒ぎ始める。
 今は影が広がるだけだが、妖怪の、あるいは√能力者のやることなら、この後がある。
 それは、自身も√能力を振るう妖怪であるから、よく分かっていた。
「まあ、気づくよね。でも全然遅いよ」
 唐突に、青いぬりかべの背後からざばりと有り得ぬ水音を立てて、何かが屹立した。
 それは巨大な影で構成された腕。
 大きな手を広げた腕は、青いぬりかべの頭(?)に手を掛け、力をかけていく……!
「ぬぅぅぅりぃぃぃかぁぁぁべごぼごぼごぼご……」
 そのまま、青いぬりかべは影の沼地へと引きずり込まれていく。
 その水面はしばらく波立ち、泡立っていたが、やがて静かになった。
 だが、当然それだけで終わるはずがない。
「ぬりかべー!」
「ぬりっ、かべべべべべべべべべっ」
「ぬりびびびびびびっ」
 沼地のあちこちで、同様の惨劇が再現される。
 色とりどりのぬりかべが影の腕に引きずり込まれ、次々と影の沼地に消えていく。
 気づけば、通りにたむろするぬりかべの数は大きく減じていた。
 この惨劇をもたらした√能力こそ【|御伽術式「影の怪」《カゲノカイ》】である。
 御伽「影の怪」の一文を語ることで、周囲を影の支配する空間に変えてしまう。
 この影は椛の支配下にあり、こうした攻撃もできるし、また椛が影に潜伏し、隠密や不意打ちなどの起点にも使うことができる。
 何よりも、影の助けを借りることで椛は御伽の主人公として動けるのだ。
 こうした事態には最適と言えるものであった。
 だが、敵も当然このままではいない。
「ぬぬぬぬぬぬっ! ぬりかべぇぇぇぇぇぇっ!」
「椛、来るぞ」
 一体のぬりかべが、周囲のぬりかべたちに指示を下した。
 色違いぬりかべたちは不埒な半人半妖を捕らえ、引き裂かんと、一斉に短い腕を長く蛇か触手のように伸ばし、抑え込もうとする。同胞と同じ目に遭わせようとしているのかもしれない。
「分かってるよ。でも、今のボクを捕まえるのはちょっと難しいかな」
 椛が指を鳴らす。同時に現れたのは複数の椛の姿……幻影だ。
 そう高度なものでもないが、唐突に目標が増えたぬりかべたちにとっては、迷わせるのに充分なものであった。狙いが甘くなる。
 その隙を、椛は一気に駆け抜けた。
 研ぎ澄まされた野生の勘は、迫りくる無数の白い腕の密度の薄い場所を的確に見つけ出し、そこを一気に高速で走り抜ける。
 後方で次々とぬりかべの腕が天井をぶち抜いていくが、椛の影すら掴めない。
 そのまま一気に暗黒のプールに飛び込むと、姿を消してしまった。
「ぬりかべ? ぬりかべ?」
 敵を見失い、ぐるぐるとその姿を探すぬりかべたち。
 攻撃をした色違いぬりかべたちは消えてしまったが、その代わりは今も尚補充され続けている。
 そうした新手も加わり、椛の本格的捜索を始めようとした刹那。
「ん、そこまでしてもらわなくてもいいよ」
 ざばあと水音を立て、影から椛の小さい影が飛び出した。
 その手には、コインのようなもの……母譲りの錬金触媒が握られている。
「間違いない、こいつがこのぬりかべたちを創造している母体だ」
「じゃあ、この一撃で終わりだね」
 オロチの言葉を受け、椛は目の前のぬりかべに親指で錬金触媒を弾いた。
 キン、という金属音を立てて飛び出した触媒は真っ直ぐ飛び、ぬりかべへと突き刺さる。
「ぬり、かべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
 ぬりかべが絶叫した。
 その全身に電光が走り、焦げ臭い匂いすら漂ってきている。
 そう、椛は錬金術により雷の属性攻撃を付与していたのだ。
 雷はぬりかべの全身に走り、その総身を麻痺させ、動きを大きく鈍らせる。
 すると。
「ぬりかべぇぇぇっ、ぬりかべぇぇぇぇっ、ぬりかべぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
 影の腕たちが、次々とぬりかべの体を捕らえたのである。
 このぬりかべは色違いの母体であるから、それなりの力はある。
 場合によっては振りほどきを試みることもできただろう。
 しかし、雷による麻痺は、その力をぬりかべから奪い去っていた。
「ぬぅぅぅぅぅりぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁべぇぇぇぇぇっ……」
「ん。ゆっくり沈むといいよ」
 椛の突き放すような言葉とともに、ぬりかべは影の沼地に貪られ、そして消えた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ティファレト・エルミタージュ
右手に宿る力が付与された不可視の真空波が、位置交換の√能力を以てしても回避困難になる域で展開
図体がデカいだろうから、切り刻むには丁度いいだろうからな
更にはこの真空波には我のルートブレイカーの力も付与されている
ぬりかべの√能力を無効化し、切り刻んでいくぞ

更には重力の概念すら変質・支配する吸血鬼の真祖としての重厚重圧な|威風《プレッシャー》である『拝跪強制執行』で重力負荷をかけ、機動力を削ぎながらダメージを与え、切り刻んでいくぞ

さて、そろそろ紅涙流離戦も佳境に入りつつある
我も、本気で戦うとするか

●真祖の娘は真空の刃を掲げる
「ぬりっ、かべぇぇぇぇっ!」
 眼前のぬりかべが小さな細い手を伸ばしてきた。
 その左右の手は物理的な制約を超越して長く長く伸び、眼前に屹立する敵手を掴み、絡め取り、締め上げんと、異なる軌道を描いて迫りくる。
 片方に意識を向ければ、もう片方が斬り裂き、引き裂く構えである。
 だが、敵手は……。
 ティファレト・エルミタージュ(|真世界《リリー》の為に・h01214)は完全に落ち着いていた。
 長い金髪を翻した少女は、朗々と小さな口から詠唱を滑り出させる。
「美しき世界へ。右手から生じる万物流転は、右手が触れた時に生じる権能を伴う。
 よって流転により生じる無にして風の刃は遍く理を宿す」
 言葉が途切れると同時に、ティファレトはその右腕を大きく上へ振り抜いた。
 同時に、その軌跡から巨大な気流が生まれ出る。うねる。
「かべっ!?」
 腕を伸ばしたぬりかべも異常に気づいたようだ。
 だが、今更腕を引っ込めることもできない。なおも突き進もうと腕を伸ばす。
 その先端が、切り飛ばされた。
「ぬっ、ぬっ、ぬぅぅぅぅぅぅっ!!!」
 今度こそ腕の軌道を変え、ティファレトを避けて腕を引っ込めていく。
 その両手は、手首のところから完全に消えていた。
 これぞティファレトの√能力【|憑依黒嵐・風の刃にして無は理を抱き斬を遂行する《リリーエンド・ブラックテンペスト》】。
 右手に宿る力、【ルートブレイカー】を付与した真空波を発生させる√能力である。
 無論、直接触るものでない以上、その効果は完全には発揮できない。
 だがその能力は、高い切断能力による敵の部位破壊能力に加え、その部位の使用不能という形に昇華されて発揮されており、ティファレトの振るう刃としては申し分のない能力となっていた。
 事実、妖怪ならばある程度の復元能力があってもおかしくはないのだが、ぬりかべの手は再生の気配もない。血液を垂らしたまま切断面を晒している。
「ふふん、図体がデカいから、切り刻むには丁度いいな」
 不敵な笑みをティファレトは浮かべる。
 深く彼女を知っている者が見れば、「あ、ちょっと調子乗ってるな」と気づくかもしれないが、ぬりかべに当然そんな付き合いはないし、ぬりかべが劣勢なのも確かである。
「ぬりぃぃぃ、かべぇぇぇっ……」
 ぬりかべは、難敵に出会ったことを今更ながら実感していた。

「ぬりかべっ!!!」
 ぬりかべは壁の下にある小さな足をバタバタと動かした。
 その冗談のような足は、思いの外脚力があったようで、ぬりかべの巨大な体躯を高速移動へと持っていくことに成功している。
 巨大な質量をもって、ティファレトを押しつぶそうというのだ。
「ぬりぃぃぃっ、かべぇぇぇっ」
 更に、ぬりかべは腕も再び伸ばす。
 今度は掴もうとはしていない。ただ巨大な鞭として敵を打ち据えようというのだ。
 腕の鞭で牽制し、自身の質量でとどめを刺す。
 ぬりかべ必殺の構えと言うべきものであった。
 だが、それにもティファレトは動じていない。
「うむ、向かってくるならば正面から切り裂くのみ!」
 巨大な真空刃をぬりかべに向かって放つティファレト。
 一方で、ぬりかべはティファレトの手に対する対策も講じてきていた。
 それは。
「ぬりかべぇぇぇぇっ!!」
 √能力【ぬりかべっ】。
 周囲のインビジブルを強制的にぬりかべに書き換え、位置を入れ替えるという大技だ。
 インビジブルだったぬりかべは、そのまま突撃をさせられ……。
「ぬりかっ」
 バッサリと真空波に切り裂かれ、絶命した。
 【憑依黒嵐・風の刃にして無は理を抱き斬を遂行する】の副次効果により、ダメージを与えるための器官が切り裂かれており、反撃をすることもできない。「彼自身は」無駄死にと言ってもいい。
 では、ぬりかべ本体はどこか?
「ぬぅりかべぇぇぇっ」
 ティファレトの頭上、数メートルの空中にそれはあった。
 先に入れ替わったインビジブルがいたのが、ここだったのである。
 見れば、ぬりかべの片足は切り裂かれている。
 広範囲の攻撃のため、完全に防ぐことはできなかったのだ。
 だが、それはもうぬりかべにとってどうでもよかった。
 塗り壁がまっすぐ見据えるのはティファレトの矮躯。
 そして、それは自身の落着地点と目した場所……そう、彼は自身を質量兵器としたのだ。
 更に、√能力の副作用か、これまで彼の得た運動エネルギーが全て保持されている。
 このまま突っ込めば、自身の重量、高所の位置エネルギー、更に運動エネルギー。
 その全てを、叩きつけることができるのだ。
 そうぬりかべが合点した直後。
「重力の概念すら変質・支配せよ! 拝跪強制執行!」
 そのティファレトの声とともに、周囲の重力が一気に重みを増した。
 それは、まさに拝跪の強制執行の如し。
 ぬりかべの落下軌道が急に直下へと変わり、もうもうと土煙を上げて地面に落下。
 ティファレトは変わらず、そこに在った。
 インビジブルの制御・操作をもって、重力の疑似支配を成し遂げるティファレトの|威風《プレッシャー》、『拝跪強制執行』。
 その力が、この結果を成し遂げたのだ。
「ぬっ、ぬりぃぃっ、かべぇぇぇっ……」
「悪いな、それでも我は進まねばならんのでな」
 ざん、と真空波がほとばしり、ぬりかべの巨体は消滅した。

「さて、そろそろ紅涙流離戦も佳境に入りつつある
 我も、本気で戦うとするか」
 今のは本気ではなかったのか、その真偽はともかく。
 ティファレトは前途の開いた路地をきっと見据えた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

エアリィ・ウィンディア
…ぬりかべさん。
結構厄介なんだよね、この子達。
でも壁は乗り越えてこそだからっ!

精霊銃と精霊刃をもって相対。
精霊銃を乱れ撃ちして牽制射撃を行いつつ接近っ!
そのまま精霊刃で斬りつけるよ。

足は止めずに精霊銃を撃ちながら接近して、精霊刃で斬りつけていくね。
攻撃をしつつ高速詠唱を開始。

使うのは双刃精霊集収束斬!
精霊刃と精霊銃に魔力刃を生み出してざっくりと斬りつけていくよ。

かべどんは…。
えっと、ときめく系なんだっけ?よくわかんないけど。
でも、このかべどんって、どう考えても物理だよねっ!?
圧殺するタイプのどんだよねっ!

とりあえず、オーラ防御を全開にして防御してかべどんに対抗!
後は、蹴ってどける!

●精霊の娘は双刃を振るう
「ぬりかべー」
「ぬりーかべー、ぬりーかべー」
「ぬりかーべー、ぬりかーべー、ぬりかーべー」
 なおも変わらず、√百鬼夜行の路地にぬりかべたちが現れる。
 時に、路地の奇妙建築をも見下ろす巨体のものすらあるぬりかべ。
 それに相対するEDENは、それを下から見上げていた。
「……ぬりかべさん。結構厄介なんだよね、この子達」
 それはエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)。
 精霊銃と精霊刃を携えた彼女は紛れもなく戦士であり、壁に対する挑戦者である。
 巨大な壁に怯むことなく、両手に握った得物を握りしめる。
 そして、緑色の瞳が前を見据え。
「でも壁は乗り越えてこそだからっ!」
 そう言うとエアリィは目の前にそびえる壁に向けて駆け出した。

「それじゃ、行くよっ! まずはっ!」
 エアリィは手にした「精霊銃『エレメンタル・ガンナー』」を連続発射しながら距離を付けていく。狙いは決して精密ではないが、これはあくまで牽制。
 もとより巨大で動きの鈍いぬりかべであるので、必要十分であろう。
「ぬりかべっ!?」
 実際、ぬりかべは銃弾を警戒して動きが掣肘されている。
 そして、それこそがエアリィにとって最も必要なものなのだ。
「続いてっ! いっけぇ!」
 逆手に握られた「精霊刃『エレメンタル・ティアーズ』」が振るわれた。
 高速でのX字の斬撃が、ぬりかべの表面に大きな傷を刻む。
「ぬりかっ! べっ!」
 一方、ぬりかべも小さな手を伸ばして必至で反撃を試みた。
 物理的限界を超越して腕が伸長し、殴りかかるが、エアリィはそれを身軽に躱す。
 初撃をバック転で回避すると、そのまま回転。追撃を試みる腕に切りつけた!
「べぇぇぇぇぇぇっ!?」
 拳をしたたかに斬りつけられ、怯むぬりかべ。
 その隙に、エアリィは距離を取ることに成功していた。
「うん、いけるっ! それじゃ詠唱も……」
 エアリィの唇が大魔術を発動するための詠唱を始める。
 全力で動きながら、高速で「力ある言葉」を紡ぐのには多大な訓練が必要だが、エアリィにはそれをこなすための才能と基礎体力、何よりも積み上げた訓練と実戦経験があった。
 発音も音階も一切ブレることがないのは、まさに超人的と言える。
「ぬりっ、かべぇぇぇっ!」
 戦場を駆け回り、高速で移動するエアリィに対し、なおもぬりかべは必死で腕を叩きつけようとする。だが、当たらない。当たらない。せいぜい影を殴ることしかできない。
 一方で、エアリィは着実に精霊銃の魔力弾を、精霊刃の斬撃を当てていく。
 だが、そちらもぬりかべのタフネスを削り切るには未だ足りない。
 当たらない攻撃と、削りきれない攻撃。
 戦況は膠着した……かに見えたが。
「四界を揺蕩う精霊達よ、光と闇の精霊よ、我が手に集いて双刃となり、障害を切り開けっ!
 よっし、詠唱完了!」
 呪文を唱え終わったエアリィは、うんと頷くと、くるりと回ってぬりかべに向き直った。
「ぬりかべっ!?」
 何だと言わんばかりのぬりかべ。
 勿論、エアリィにはその疑問に答える用意があった。
 両腕をばっと広げ、精霊銃と精霊刃を大きく掲げる。
 それとほぼ同時に、その先端から精霊の力を収束した刃が伸長、巨大な双刃となる!
 √能力【|双刃精霊集収束斬《デュアル・エレメンタル・スラッシュ》】。
 火・水・風・土の力を宿した精霊収束斬と、光と闇の力を宿した光影収束斬の二振りの刃を顕現させる√能力である。
 また、依代に精霊銃と精霊刃を用い、通常使いと変わらない使い勝手を実現した。
 これにより、大威力の連続攻撃が可能となるのだ。
「じゃあ、行くよっ……! 精霊達のコンビネーション斬り、受けてみて!」
 見舞ったのは、最初と同じX字型の斬撃だ。
 だが。
「ぬりっ!かぁぁぁぁっ、べえぇぇぇぇっ!!」
 その傷の大きさは、精霊刃単体とは比べ物にならない!
 巨大な傷を刻まれ、ぬりかべが一歩、二歩と後退する。
「まだまだっ! 次は袈裟斬り!」
 斜め上から振り下ろす。今度も二本の傷が斜めに刻まれ、更にぬりかべは後退。
 これに乗じて、一気にエアリィはぬりかべの懐に飛び込んでいく。
 だがその時。
「ぬりかべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「とどめ……いやっ、これ違うっ!?」
 ぬりかべが一斉に√能力【ぬーりーかーべー】を放ったのだ。
 無数の小さなぬりかべ分身体が現れ、エアリィを包囲。
 その手で「かべどん」を放つ……!
 咄嗟に、エアリィは攻撃のエネルギーをオーラ防御に回した。
 精霊の力が万物を阻む障壁となるが、その正面がマシンガンの一斉射撃でも受けたかのような、連続した打撃に見舞われる。それはまるで打撃の雨のよう……!
 連続する打撃に閉口しながら、エアリィは思わずこぼす。
「えっと、ときめく系なんだっけ? よくわかんないけど。
 でも、このかべどんって、どう考えても物理だよねっ!?
 圧殺するタイプのどんだよねっ!」
 恋を知らない少女は、目の前の生命の危機の方に敏感だった。
 精霊のオーラは透明のため、見上げればドンドンドンドンと平手が打ち付けてくるのが見えてしまい、正直ホラーな光景である。
 だが、その打撃は急速に収まっていった。まるで止もうとする夕立のようだ。
 オーラ防御を解除し、エアリィはぬりかべの方に目をやる。
 ……ぬりかべは、膝をついていた。
 実のところ、【双刃精霊集収束斬】の一撃でその体力は尽きていた。
 イタチの最後っ屁として行われたのが、先の【ぬーりーかーべー】だったのだ。
 というわけで、ぬりかべにはもはやエアリィの接近を止める力は残っていない。
 精霊の双刃を振るわずとも、やすやすとその懐へと接近することができた。
「……えいっ!」
「ぬりかっ、べぇぇっ……」
 エアリィの細い足がぬりかべを蹴ると、力尽きたぬりかべは後方にどうと倒れた。
 巨大な音とともに、もうもうと土煙を上げる。
「ごめんね、先に行かせてもらうよっ」
 エアリィはそれを顧みることなく、先へと進むのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シアニ・レンツィ
ぬりかべだー!
あたしでも知ってるメジャーな妖怪を見られてとってもわくわく。ぬぼーっとしててかわいいなあ。
ごめんね、急いでるからちょっと荒っぽく通らせてもらうよ。

ハンマーを振り回して進行方向のぬりかべを倒して、逸らして、ルートを確保しながら突撃ー!
進行方向は分かってるしそこを塞ぐ壁は擬態だよね!いつか駅で迷子になった時と違って壁をじゃんじゃか蹴散らしながら進めるのは気が楽でいいやー!
敵の攻撃は魔術で硬化させたマフラーで受け流しながらゴーゴー!

壁の数が増えてきたらしかたない!√能力で射出した魔術紋をぬりかべたちの足に貼り付けていって起爆!
吹き飛んでるうちに駆け抜けちゃう。
また今度ゆっくり遊ぼうね!

●戦鎚の竜少女は強行突破する
「ぬりかべー! ぬりかべ!」
 √妖怪百鬼夜行の通りには、尚もぬりかべが押し寄せていた。
 この事態の何がぬりかべをそうさせるのか?
「ぬりかべ」としか話せない彼からそれを知ることは不可能であろう。
 まあ、何となくでやっている可能性もあるだろうか、妖怪だし。
 だが、この妖怪ぬりかべをなんとかしなければ進めないのも確かである。
 そこで、此度もまたEDENが現れる……。
「ぬりかべだー!」
 現れた青い肌の少女、シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》の見習い羅紗魔術士・h02503)は、目の前にそびえるぬりかべを見て、とても嬉しそうな歓声を上げた。
「ぬ、ぬりかべ?」
 腕をにょろんと出して、自分を指差すぬりかべ。
「え、僕?」とでも言っているのだろうか。
 一方、シアニはそう解釈したらしく、首をブンブンと縦に振っていた。
「そうそう! あたしでも知ってるメジャーな妖怪を見られてとってもわくわく!」
 シアニの緑色の大きな瞳が、心に輝くわくわくを受けて輝いていた。
 一方、ぬりかべの方はと言うと、壁面がほんのり赤くなっている。
 どうやら照れているらしい。
 可愛い女の子に喜んでもらえたら、無理もないかもしれないが。
「ぬぼーっとしててかわいいなあ……」
「ぬっ、ぬり、かべ……」
 しばし流れるほのぼのした空気。
 けれど、その空気を破壊したのもまたシアニであった。
 手を振るい、右手に握られたのはシアニハンマー+50。対ドラゴン戦に特化した戦鎚型竜漿兵器であり、シアニのメインウェポンである。
 いつの間にか「+50」にまでなっていた。
 手の中でくるくると風車めいて回転すると、再び握られてぴたりと止まる。
 その頭は、ぬりかべの方に向けられていた。
「ぬ、ぬ、ぬり、かべ……?」
「ごめんね、急いでるからちょっと荒っぽく通らせてもらうよ」
「ぬりかべぇ……」
 ものすごくハートブレイクだったらしい。
 シュルレアリスムの絵画か|蒟蒻《こんにゃく》のように、前にだらんとぬりかべが垂れ下がった。

「さて、それじゃどいてどいてー!」
「ぬりかべぇぇぇぇぇっ!?」
 シアニは、手にするハンマーを躊躇なくぬりかべに叩きつけた。
 ただでさえだらんとしていたところに対し、本気の一撃を食らってははたまらない。
 重量があるはずのぬりかべは、盛大に吹っ飛んで……星になった。
 勢い余ったハンマーの頭がどっかと地面に突き刺さる。
 そのまま、ちらりとシアニが視線を向けると……。
「ぬっ、ぬっ、ぬっ……」
「かっ、べっ……」
 周囲で状況を見守っていたぬりかべたちが、そそくさと逃げていく。
 同族の仕打ちに、流石に恐れをなしたらしい。
 一瞬前までのデレデレっぷりが嘘のようだ。
 けれど、シアニは満足そうに、でもちょっとさみしそうに頷いた。
 お腹の奥から大声を上げて、ハンマーを振り上げる。
「よっし! それじゃ次行くよ!」
 そうして、路地の奥へとダッシュしていく。
 ドッドッドッ、とハンマーの重量分だけ重くなった足音が響き、シアニの小さな影が√妖怪百鬼夜行の路地を駆け抜けていく。
 直進、直進、直進……右折。
 次の道は右折のようだ。白漆喰の壁が道を塞いでいる。
 だが、シアニは脇目も振らず直進し……ハンマーを振り上げる!
「いくよいくよー! 突撃ー!」
「かべぇぇぇぇっ!?」
 通常の漆喰壁ならボロボロに崩れ去るはずだが、打撃音は随分鈍い。
 シアニはそれに構うことなく、シアニハンマー+50を振り切る!
 ずん、と鈍い音が響き渡り……シアニが殴りつけた壁は、倒れていた。
 よく見ると、その端っこには小さな手足がついている。そう、ぬりかべだ。
「うん! 進行方向は分かってるしそこを塞ぐ壁は擬態だよね!」
 そう、シアニは事前に進行方向を把握することで、それを塞ぐ壁は全てぬりかべの擬態であることを察していたのである。
 首尾よく擬態したぬりかべを打ち倒したシアニは更に先へと進んでいく。
 どごん、どごん、どごんと路地の端々で土煙が上がり。
 その度に擬態したぬりかべが打ち倒される。
 散発的な反撃はあるが、その全てが逆手に握られたシアニマフラーで捌かれた。
 羅紗魔術の文字を浮かび上がらせ、硬化したマフラーは盾となるのである。
「いつか駅で迷子になった時と違って、壁をじゃんじゃか蹴散らしながら進めるのは気が楽でいいやー!」
 余程、王劍戦争の時の駅舎迷宮が堪えていたらしい。
 だからこそ、ぬりかべを蹴散らしながら道を切り開く今のシアニは輝いていた。
 青い肌にうっすら汗を流し、満面の笑顔を湛えていた。
「ぬりかべぇぇぇぇぇっ! ぬりかべぇぇぇっ、かべっ!」
「かべぇーっ、かべっ!」
「かべぇぇぇぇぇっ!」
 まあ、流石に同族をここまで蹴倒されたら、ぬりかべ側も黙ってはいられない。
 ぬりかべは√能力で無数の分身体を放ち、一斉に突撃する!
 もうもうと土煙を立てながら走ってくる無数のぬりかべ。
 その全てが「かべどん」での攻撃をしようと身構えているのだ。
 手数的にはシアニの圧倒的不利。果たしてどうするのか。
「しかたない! これを使うよ!」
 シアニは足を止め、意識を集中させ……「その言葉」を唱えた。
 同時に、彼女の周囲に無数の魔術紋が生成され、一斉にぬりかべの足元へと飛ぶ!
 それは、かつての天使化事変の最終決戦の折、相対した二代目塔主が使った魔術「戦術・|起源魔術《バベルスペル》」を模倣した√能力【|羅紗魔術・模写起源紋《タペストリグリフ・トレースバベル》】。
 発した言葉による蒼い魔術紋を放ち、言葉の意味に応じた効果を発現させるのだ。
 二代目塔主は様々な効果を発現させたと言うが、未熟なシアニが使えるのは唯一つ。
 そして、何故かその言葉はぬりかべにも理解できてしまった。
 それは……!
「――爆ぜて」
 ぬりかべの足元に張り付いた魔術紋が一斉に爆ぜ、連鎖爆発となった。
「かっ、かべぇぇぇぇっ!?」
 ぬりかべ分身体たちは爆発によって、次々と吹き飛び、あるいは足元を掬われる。
 そして、一体が倒れ……連鎖的に次々とドミノ倒しに。
 巻き込まれたぬりかべたちが次々と倒れていき……。
「「かべべべべべべべべっ!?」」
 気づけば、本体を含めて全てのぬりかべたちが倒れてしまった。
 人間なら大惨事だったかもだが、頑丈なぬりかべなら大丈夫だろう、多分。
 そして、その傍らをシアニが足音を立てながら駆け抜けていった。
「また今度ゆっくり遊ぼうね!」
 振り返りながら、倒れたぬりかべたちに対して手を振るシアニ。
 そして。
「ぬりかべーっ」
 倒れたぬりかべたちも、小さくなっていくシアニに手を振り返すのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

レナ・マイヤー
なるほど、概ね把握しました。
つまり、ぶっとばせってことですね!
EDENに対する返報のため!
レナ・マイヤー、作戦行動を開始します!

ということで、レギオン達の各種センサーで情報を収集。
擬態してるぬりかべさん達の位置を捕捉。
キャプターに粘着弾を叩き込んでもらって、目印にします。
そして【レギオンフィーバー】でミサイリアとシューターを超加速!
ミサイルと電磁砲の雨あられを、ぬりかべさん達に叩き込みますよ!
反撃はガードのバリアで防いでもらう方向で!
そして私はマザーにのって空中から指示を……

んん?
もしかして空飛んでけば普通にスルーできた?
……まぁ、これも百鬼夜行に必要な儀式ということで!
みんながんばってー!

●指揮官の少女は制圧する
 戦況はEDEN有利に進んでいた。
 ぬりかべ側は√能力での召喚を含めて逐次戦力を補充し続けているものの、何分EDENの火力及び突破力が高く、補充が充分とは言えない。
 一方で、EDEN側も未だ完全には突破を成し遂げているとは言えない。
 行程の半分は既に突破しているものの、未だ進行方向には多数のぬりかべの存在があり、突破するにはもう一押しが必要、という状況にあった。
「なるほど、概ね把握しました。
 つまり、ぶっとばせってことですね!」
 そう納得したのはレナ・マイヤー(設計された子供・h00030)だった。
 いささか乱暴な表現だが、真理ではある。
 現状において必要なのは火力及び突破力。
 その達成とは、つまるところぬりかべを倒すことだ。
 倒してしまえば、あとは歩いてでも行程は達成できるのだから。
「EDENに対する返報のため!
 レナ・マイヤー、作戦行動を開始します!」
 戦場を見据えながら、|レナ《ワンマンアーミー》は行動を開始した。

「では、行ってくださいレギオンたち!」
 レナは自身の指揮下にあるレギオンに指示を下した。
 それに応じてマザー・レギオンの格納スペースの隔壁が開かれ、係留・充電されていたレギオンが一斉に戦場へ放たれていく。
 レギオンは機能が分化しているが、センサー情報に関してはレナに集約されている。
 つまり、どのようなレギオンでも偵察の用途に使用できるのだ。
 というわけで、戦場の状況は逐一レナに送信されていた。
 その中で、レナの目に止まったのは、熱源センサーのデータであった。
「むむむ、壁に不自然な熱源がいくつもありますね……。
 多分、これ擬態したぬりかべさん達ですね。共有データにマークしておきましょう」
 レギオンが共有する戦場の情報に、この異常熱源の位置が書き込まれる。
 これを繰り返すことで、擬態しているぬりかべの状態が把握できるのだ。
 やがて、現在掌握できる範囲のぬりかべマップと言うべきものが完成した。
 だが、そのデータを見ながらレナは新たな思索を巡らせていた。
「とは言え、これでは不完全ですねー。あくまで位置にピンを打っただけですから、レギオンの搭載センサーの種別によっては正確な位置が把握できないこともありますし。
 ……そうですね、なら「ピン」を打ちましょうか。キャプター!」
 レナの号令一下、レギオン・キャプターが動き出した。
 キャプターは、投網や粘着弾を放ち、敵の動きを止めることに特化したレギオンだ。
 敵の位置を把握せねばならない都合上、多くのセンサーに対応しており、たとえキャプター単機に搭載されていなくても、レギオンたちのそれを共有することができるのだ。
 この特性を利用し。
「キャプター、粘着弾を推定擬態ぬりかべさんに一斉発射!」
 レナの号令一下、戦場の各所に配置されたキャプターが粘着弾を発射した。
 その目標は。
「ぬりぃぃぃぃぃっ!?」
 擬態していたぬりかべたちである。
 粘着弾の中身であるトリモチを、目印として使用したのである。
 これを使えば、最悪レナの肉眼のみであっても、敵の存在を把握することができる。
 トリモチは簡単に剥がれないため、こうした目的にも適していた。
「ぬり、ぬり、かべぇぇぇぇっ」
「かっ、かべぇぇっ、かべぇぇっ……!」
 ……実際、複数のぬりかべが剥がそうとして、びくともしていないようだし。
 短い手足でわちゃわちゃする光景は、ちょっとユーモラスですらあった。
「ここまでとは予想してませんでしたが、チャンスですね!
 行きますよ、ミサイリア! シューター! オーバークロック!」
 レナの指揮するレギオンのうち、ミサイルキャリアーであるミサイリアと、電磁砲担当のシューターが灼熱の輝きを帯びた。
 レナの√能力【レギオンフィーバー】の効果である。
 4倍になった移動速度を存分に活かし、彼らは戦場に突入する!
「定点に到着後、一斉に火力投射! え、到着しました?
 なら大丈夫です! ファイヤー!」
 レギオンたちの搭載火器が一斉に火を吹いた。
 無数のマイクロミサイルが蜘蛛の糸のような軌跡を描いた。
 それらは粘着弾にもがいていたぬりかべへと一斉に突き刺さる。
「ぬりかべぇぇぇぇっ!?」
 複数の擬態したぬりかべたちが爆風に吹き飛ばされた。
 ばたばたと倒れては、動かなくなっていく。一応、生きてはいるようだが。
 面制圧に適したその特性は、固まった場所のぬりかべ制圧に適していた。
 一方、単独で擬態していたぬりかべたちはというと。
「電磁砲、斉射開始です!」
「かべぇぇぇぇっ!!」
 電磁砲の貫通力により、次々と制圧されていった。
 こちらはミサイルの面に対して点での制圧に適している。
 つまり単独の敵に対して有効であり、またぬりかべの防御も貫通できた。
 こうして、戦場に浸透したレギオンたちは、効率的にぬりかべたちを制圧したのだ。
 一方で。
「ぬり、かべ、かべぇぇぇっ……」
 ぬりかべは焦っていた。
 間違いなく、このままではこの周囲のぬりかべは完全制圧されてしまう。
 しかし、今ならまだ間に合うのではないか?
 そう、そこにいる人間の女なら……!
 ……実のところ、この決断は戦略・戦術的なものではなく、単なる悪あがきに過ぎない。
 ただ、深い森をがむしゃらに歩み続けて歩むべき道を見つけてしまうことがあるように、この場合においては極めて有効な戦術を当てずっぽうで見つけてしまった、というわけだ。
 合点したぬりかべの動きは素早かった。
 複数のぬりかべ分身体を√能力で生み出し、レナ本体に差し向ける!
「「ぬりかべーーーーーー!!!」」
 伸ばされた手により、複数の「かべどん」がレナに迫る。
 いろいろな意味でピンチである。
 だが。
「何の手立てもなく、私が戦場に出るわけないじゃないですか。ガード!」
 その手は、レギオン・ガードの展開するエネルギーバリアによって防がれてしまう。
 しかも、ガードは全周囲、それこそ頭上にまでも展開している。
 ぬりかべにとっては万策尽きた状況であった。
 一瞬後、ぬりかべ分身体たちはミサイルの一斉射撃により、天高く吹き飛んだ。

「うん、戦場の制圧率80%オーバー! 気持ちいい数字ですね!」
 満足そうに頷きながら、レナは戦場を俯瞰していた。
 これはあくまで局所的な数字ではあるが、少なくとも彼女の受け持ちに関しては、満足の行く戦況であると言えそうだった。
 残存するぬりかべも、未だ超加速状態にあるミサイリアとシューターが残党狩りを続けており、この数字もいずれ100%に達する。そうすれば、ここは安全にEDENが通行できる領域となるだろう。
 とは言え、完全制圧までは引き続きレナはレギオンたちを指揮するつもりであった。
 |飛行する《・・・・》レギオンの母機、レギオン・マザーの上で。
 その時、レナに天啓が走った。
「んん?
 もしかして空飛んでけば普通にスルーできた?」
 然り。
 ぬりかべが大きいと言っても限りはあるし、その攻撃力はレナのガードを貫けない。
 つまり、ガードを展開してマザーで飛行すれば、この戦場は……。
 わわわわわ、とレナの頬に汗が浮かぶ。
 今更ながら、自分が無駄な戦力の展開をしていたことに気づいたのだ。
「……まぁ、これも百鬼夜行に必要な儀式ということで!
 みんながんばってー!」
 そう無理矢理納得し、レナは後続のEDENに全てを丸投げもとい希望を託した。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

深見・音夢
【生物部】
あー……これはまた見事に壁っすね。絶壁っす。
正直会話が通じるのか良く分かんないっすけど、もしかして単純に通せんぼしたいだけだったりするっすかね。
ともあれここからどこに向かうにしても時間が惜しいっすから、今はサクッと突破させてもらうっすよ。

これだけ大きい相手なら外す心配もないでしょうし【双連破砕焼熱弾】で手当たり次第に蹴散らしていくっす!
……敵の分身に攻撃を当てることで次の攻撃に繋げるの、なんかパズルゲームのコンボっぽいっすね。
冬瑪殿の方も景気良くカチ割っておられるようで。これは負けてられないっす!
さて、こっちも弾薬はまだまだあるっすよ。通せんぼ、続けるっすか?
玖老勢・冬瑪
【生物部】
ほだねぇ、壁だ。見紛うことなく、壁だ。
うむ、如何なる理由があろうと、蹴散らさねばならんのが心苦しいが……
今は長々と構ってやる暇も無いでね。圧し通る!!(鬼面を被り)

うーむ、増えられたら困るでなぁ。3秒の詠唱時間も与えてはやれんな。
鬼さまを纏って、高まった速さで本体の懐に一気に踏み込み、切り込む!
鉞を握る手に怪力を込め、祭りの舞いの如く乱舞!
詠唱の妨害と、壁の装甲を貫通する一撃でノックバックする事を心掛け、色違いの塗り壁は増やさせん。

ゲームの事はあまり分からんのだが……音夢さんの連撃の繋ぎっぷりは、見ていてスタイリッシュだねぇ!
さて。まだやるなら、壁だろうとかち割ったるが。どうする?

●榊鬼と怪人は山を開く
 戦場の均衡は崩れつつあった。
 EDENらの活躍により、執拗に邪魔を繰り返していたぬりかべたちの包囲網はあちこちで突破され、局所的には完全に粉砕されていた。
 これにより、かなりの遅延は発生したものの、EDENたちは紅涙流離戦における次なる作戦の目的地まであと一歩、というところにまで迫ることに成功したのだ。
 残るは、古い市街地を通る路地。
 都会の中に取り残された下町といった風情の狭い道が延々続く区画だが、ここさえ抜けてしまえば、次なる作戦行動を始めることができる。
 そして、それは紅涙流離軍の動きを抑え込む一手となるであろう。
 一方で、ぬりかべの最後の抵抗も予想されるため、油断はできない。
 この路地はこの戦局における決戦の地になる。
 そんな予想すら飛び出すほど戦局は緊迫していた、はずだったのだが。

「あー……これはまた見事に壁っすね。絶壁っす」
 ボディラインの出るインナースーツにジャケットを羽織った女性、深見・音夢(星灯りに手が届かなくても・h00525)はぽかんと感心のため息をついた。
 そして、もう一人。
「ほだねぇ、壁だ。見紛うことなく、壁だ」
 質素な具足一式で全身を鎧った少年、玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)もまた、音夢と同じくぬりかべを見上げながら感心の声を上げていた。
 冬瑪は旅団『異世界√生物部』の部長、音夢はその仲間である。
 そして、目の前にあるのは壁。
 左右の古い奇妙建築の屋根の高さすら遥かに上回る高さの、まさに絶壁であった。
 無論、絶壁の正体はぬりかべであるが。
 ……かけられる時間がなかったのか、正直かなりいい加減な擬態だった。
 それも、よく見ると街路を構成している奇妙建築との間には隙間があるし。
 ぶっちゃけほぼ普通に立っているだけである。
 それでも左右の住宅の屋根を圧し、空に届けと高々とそびえ立つぬりかべには、どこか見る者を感心させてしまう雰囲気があるのも確かであった。
「ぬっり? かっべかっべ?」
 ついに擬態を放棄し、絶壁ことぬりかべが音夢と冬瑪に話しかけてきた。
 どことなく、嬉しそうな雰囲気を漂わせている。
 絶壁と言われたのが嬉しいのかもしれない。
「正直会話が通じるのか良く分かんないっすけど……いやこれ通じてるっすか?」
「かっべ!」
 音夢の言葉に、何故かぬりかべが胸(?)を張る。
 意志の所在は間違いないが、果たして通じているのかどうか。
 分かることを誇っているとも、あるいは単に自分の威容を自慢したいだけか。
 首をひねる音夢。顎に手をかける冬瑪。
「これは分からんなあ……」
「うーん、もしかして単純に通せんぼしたいだけだったりするっすかね」
「ぬりかっべ!」
 むにょーんと、シュルレアリスム絵画のように壁が前に垂れた。
 頷いている、のだろうか。
 妖怪ならば、そういう単純な動機から大事に及んでも不思議はないが……。
 そうしたやり取りが続くかと思われた折、ふぅと音夢がため息をついた。
 先の感心のそれとは違うトーンだ。
「ともあれここからどこに向かうにしても時間が惜しいっすから」
 同時に保護用のゴツいゴーグルをかけ、対物狙撃銃を持ち直す。
 纏う空気に、剣呑なものが混じり始めた。
「今はサクッと突破させてもらうっすよ」
 すっかり意識を戦闘態勢に切り替えた音夢がきっぱりと言った。
 声も、いささか低いように感じられる。
 その音夢の姿に、冬瑪も大きく頷いた。
 手にする『甲乙ム』の文字が刻まれた長柄の|鉞《まさかり》を握り直す。
「うむ、如何なる理由があろうと、蹴散らさねばならんのが心苦しいが……。
 今は長々と構ってやる暇も無いでね」
 そして、手にした赤塗の面……善なる鬼神である榊鬼の面を被った。
 冬瑪は視線をきっと上げる。
 その姿は、善鬼神そのものであった。
「圧し通る!!」
「ぬりかべぇ!」
 一方、戦闘態勢を受けてやる気になったぬりかべ。
 彼は、一斉にぬりかべ分身体を生み出した。
 一体のぬりかべが二体のぬりかべに、そして三体、四体と増えてゆき。
 あっという間に狭い路地のみならず、屋根の上にまで小さな分身体が現れる!
 √能力【ぬーりーかーべー】の効果である。
「おおう、随分増えた。こっちは分身の方っすね」
「ほぉだねぇ。ということは、この後に詠唱が来るか?」
「ぬりかべっ!」
 肯定すると言うようにぬりかべが声を上げた。
 そう、このぬりかべはまだ【ぬりかべぬりかべぬりかべ】も使えるのだ。
 √能力【ぬりかべぬりかべぬりかべ】は、3秒の詠唱ごとに色違いぬりかべを1体召喚することができる。√能力によって定められた能力を使えば消滅するが、放置するということは実質相手の能力の使用回数を増やすことと同義だ。
 放置しては不利になるのが目に見えている。
「うーむ、増えられたら困るでなぁ」
 首を傾げる鬼面の武者。
 だが、それに対し音夢は心配ないと言わんばかりに頷いた。
 試製型魔銃をじゃきりと音を立てて持ち、八重歯をきらりと輝かせる。
 二丁の長銃を構える音夢は、まるで映画のヒーローのようだ。
「だったら、分身体はボクが受け持つっす。
 冬瑪殿は本体の方をよろしくお願いするっすよ!」
「うん、よろしくお願いする! こっちは俺に任せろ!」
 大鉞を構え直し、冬瑪はぬりかべ本体の方をきっと見据える。
 そして、二人は同時に戦いの巷へと飛び出した。

「それじゃ、まずはボクからっすね!」
 試製型対物狙撃銃と試製型魔銃、二丁の長銃を構えた音夢が跳躍した。
 キリモミしながら飛び出した彼女の跳躍は、通りの左右の奇妙建築の屋根をも軽く越え、その上に立つぬりかべ分身体たちを見下ろす高さにまで達していた。
「これだけ大きい相手なら外す心配もないでしょうし」
 音夢は両手を大きく広げる。
 二丁の銃が音を立て、左右のぬりかべ分身体たちに向けられる。
 ぬりかべたちに、攻撃が来ると緊張が走る。
「【双連破砕焼熱弾】で手当たり次第に蹴散らしていくっす!」
 試製型魔銃の引き金が引かれ、銃口から一発の銃弾が吐き出された。
 その軌跡は過つことなくぬりかべ分身体の一体に吸い込まれる!
「ぬりぃぃぃぃっ!?」
 銃弾が爆発し、一瞬遅れて分身体の全身が火炎に包みこまれた。
 魔銃から放たれたのは燃焼炸裂弾。榴弾などに近い弾種にあたる。
 銃弾が命中することで内部の弾薬が炸裂するのだが、この際内部の反応物質が固体から一気に気化し、濃密な可燃性気体になる。これが着火することで、敵を炎に包むのである。
 √EDENにおける「サーモバリック弾」に酷似した機能を持つとも言える。
 それを至近距離で受けては、さしもの妖怪と言えどもひとたまりもない。
 炎に巻かれたぬりかべ分身体は、あっという間に消滅してしまった。
「これで終わりじゃないっすよ!」
 反動で回転した音夢は、狙いもそこそこに今度は試製型対物狙撃銃の引き金を引く。
 装填されていたのは短距離散弾である。
「かべぇっ!?」
 内部にぎっしりと仕込まれていた子弾が一斉に弾け、別の分身体に降り注いだ。
 分身体の壁面はあっというまに穴だらけになり、こちらも塵と化す。
 用途外の運用のため射程距離は極めて短いが、威力は見ての通り。
 そう、この二種類を連続発射するのが√能力|【双連破砕焼熱弾】《コアリッショントリガー》である。
 一発でも攻撃が外れれば、連撃はそこで終了してしまうが、何分敵はぬりかべ。
 分身体と言えども大きいため、的を外すリスクは極めて小さい。
 ならば攻撃が途絶える道理もなく。
 音夢は回転しながら更に銃弾を連続発射。
 燃焼炸裂弾。短距離散弾。炸裂弾。散弾。
 一発、二発、三発、四発……!
 音夢の放った火線は、次々とぬりかべ分身体を打ち砕いていく。
「……敵の分身に攻撃を当てることで次の攻撃に繋げるの、なんかパズルゲームのコンボっぽいっすね」
 そんな想像すら音夢の脳裏に浮かぶほど、攻撃は容易く命中していく。
 きっと、頭上に「18HIT COMBO!」とでも表示されているのだろう。
「冬瑪殿の方も景気良くカチ割っておられるようで。これは負けてられないっす!」
 冬瑪に視線を走らせながら、尚も音夢はスコアを上げていった。

 さて、一方冬瑪の方はというと。
「さて。悪いが3秒の詠唱時間も与えてはやれんな」
 そう言うと、冬瑪は√能力【|善鬼神招来・山見鬼《ヤマミオニ》】の詠唱を行う。
「山の神 育ちはいずこ 奥山の と山が奥の さわら木のもと……!!」
 刹那、冬瑪の全身に力が湧き起こる。
 |奥三河《北設楽郡等》にて旧暦11月に行われる「花祭」。
 これにおいて、主役を務める役鬼の一柱「山見鬼」が降臨したのだ。
 冬瑪はその力を脚に込める。高まった力が一点に集中する。
 普段の3倍もの力が地に伝わり、そして弾丸のように飛び出した。
 その速さにぬりかべは反応すらできない。
 あっという間にぬりかべの懐に飛び込んだ冬瑪は、一気に斬り込んでいく。
 掲げられた鉞が、横一文字に振るわれる!
「ぬりかべぇぇぇぇっ!?」
 ざん、と振り抜かれた鉞の刃が、ぬりかべの壁面に大きな一文字の傷を刻んだ。
 更に、ぬりかべの短い足を見ると、何と後ろに後ずさっているではないか。
「か、かべぇ……」
 ぬりかべに焦りの色が浮かび始める。
 色違いぬりかべを生み出す√能力【ぬりかべぬりかべぬりかべ】は、その性質上足を止めていなければならない。移動した瞬間、色違いは煙のように消えてしまうのだ。
 だが、この善鬼神の一撃は、その移動を強制する……!
 これでは√能力が使えない。待つのはジリ貧の戦況である。
 そして、その戦況を改善しようとする試みを、冬瑪が待つはずもなかった。
「そら、山見の舞はまだ終わっとらんでよ!」
 余勢を買って、冬瑪は更に舞う。
 横一文字、逆一文字、再びの横一文字……。
 鉞が振るわれる度にぬりかべの傷は増え、後退する距離は長くなる。
「ぬりかべぇ、ぬりかべぇ……」
 ぬりかべにはもはや手も足も出ない。
 それほどまでに冬瑪の振るう一撃【浄土開・山割】は強力であった。
 そもそも、山見鬼は花祭において最も重要な役割を担う三柱の役鬼のうちの一柱だ。
 役鬼の先駆けとして現れる山見鬼は、鉞を手にして眷属を従え、浄土から現世への道を開く善鬼神であり、それこそが山割である。
 山すら割るのであるから、壁の一枚を割るなど、山見鬼には児戯に等しいのだ。
 そうして攻撃を刻みながら、冬瑪は音夢の方にちらりと視線を走らせる。
 そこには、多数の分身体を相手に銃弾をもって舞う音夢の姿があった。
「なんかパズルゲームのコンボっぽいっすね!」
 そんな声すらも聞こえてくる。
 その楽しそうな声に、思わず冬瑪も鬼面の内で笑みを浮かべた。
「ゲームの事はあまり分からんのだが……。
 音夢さんの連撃の繋ぎっぷりは、見ていてスタイリッシュだねぇ!」
 仲間の活躍は見ていて嬉しくなるし、活力も生まれる。
 そしてその活力は更なる一撃となって、ぬりかべに叩き込まれるのだった。

 そして、ややあって。舞台は再び√妖怪百鬼夜行の路地。
 その片隅で、冬瑪と音夢に向かい合うぬりかべの姿があった。
 だが、ぬりかべからはもはややる気は感じられない。
 同時に分身体の気配もない。
 そう、音夢によって分身体は全滅、冬瑪の鉞はぬりかべの戦意を叩き割ったのである。
「さて。まだやるなら、壁だろうとかち割ったるが。どうする?」
 静かにぬりかべに語りかける冬瑪。
 その手には油断なく鉞が握られている。
「ぬりっ、ぬりっ」
 全身を横に振るぬりかべ。
 恐らく、人間が首を振るのと同じ仕草なのだろう。
「こっちも弾薬はまだまだあるっすよ。通せんぼ、続けるっすか?」
 更に音夢が念を押す。ちょっとドスも効かせておく。
「かべっ、かべっ」
 やはり全身を横に振るぬりかべ。
 漫画なら、周囲に汗のイラストが描かれているに違いない。
 その姿を見て、ようやく二人はうんと頷いた。
「よし、ならいいっす! でもこれ以上邪魔したらダメっすよ?」
「うむ! なら行くか!」
 そうして、冬瑪と音夢は目的地へと歩き去っていく。
 その姿を、ぬりかべはいつまでも視線で見送っていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『強襲型機甲兵器』


POW 敵陣急襲
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【エネルギーライフルやグレネードランチャー】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【電磁波吸収型熱光学迷彩】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
SPD 前線擾乱
【煙幕または閃光手榴弾とエネルギーライフル】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【戦闘機械が主導権を握った戦域】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
WIZ 爆撃要請
X基の【爆撃要請を受けて展開した航空戦闘機械部隊】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
イラスト 鹿人
√ウォーゾーン 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●人形兵器は行軍する
 ざっ、ざっ、ざっ。
 √妖怪百鬼夜行の大通りに鉄の軍靴の音が響き渡る。
 歩いているのは、戦闘機械群が用いるロボット兵器『強襲型機甲兵器』の集団である。
 彼らはまるで周囲を威圧するかのように並び、統一された足取りで行軍する。
 そして一様にエネルギー兵器を肩に掛け、ナイフや拳銃を腰に帯びている。
 その姿は、歴戦の兵士を思わせるものだ。
 彼らの行軍を阻むものはない。
 本来その大通りを歩いているはずの妖怪や人間たちは、通り横の建物で息を潜め、そっと覗くことしかできないのだ。
 その姿は、この√の住人からはあまりに威圧的に映っていた。

 さて、よく見れば彼らには一様にある印が刻まれている。
 それは、√妖怪百鬼夜行の者には知る由もなかったが、彼らの出身である√ウォーゾーンの者がここにいれば、あるいはピンときたかもしれない。
 その印は、ある派閥所属の戦闘機械群に刻まれることの多いものだったからだ。
 すなわち、レリギオス・グロンバイン。
八月一日・圭
アドリブ歓迎

鉄の軍靴の音を聞きながら、静かに視線を向ける。
統率された歩調、無駄のない隊列。
真正面から迫る機甲兵器群。
対集団戦闘を前提とした兵器であることは、一目で理解できた。

「ですが――」
霊刀真黒へ手を添える。

「ただ数を揃えればいいとは思わないことです」
――修羅の業炎
黒き刀身より業火が噴き上がる。
怨念を宿した炎は円環のように広がり、戦場を灼き払う。
踏み込みは止まらない。
振るう斬撃は一つでは終わらない。
霊刀の軌跡に沿って業炎が奔り、複数の機体をまとめて薙ぎ払う。

「戦場を支配するつもりなら――」
黒炎を纏った刃を静かに構え直す。
「まずは、こちらを止めてみせてください」

●黒炎の剣は灼き尽くす
 ざっ、ざっ、ざっ、と統率された足音が響き渡る。
 横一列に並んだ戦列の行動は、あまりに無駄がなく。
 前を行く者にとってはあまりに威圧感がある。
 皆が銃器を背負い、野戦服を身に着けており、その下から覗くのは√妖怪百鬼夜行の基準からすればあまりに高度な機械。と言うよりは機械が野戦服を身に着けているのだ。
 そう。それは別√、√ウォーゾーンから到来した戦闘機械群。
 彼ら、機械の戦列歩兵の名は『強襲型機甲兵器』といった。

 その強襲型機械兵器に対し、正面から歩み寄る一人の影があった。
 前髪の一房が銀色に変わった、赤髪の少年。
 そう、八月一日・圭(螺鈿を纏う修羅の語り部・h09402)である。
 実戦礼装でもあるスーツ「黒の礼装」を纏った彼は、前方より変わらず行進して来る鋼の兵士たちを見やる。
「集団での一糸乱れぬ行動、統一され取り回しのしやすい兵器……」
 人間の兵士とは異なり、大型の通信機などは使ってないようだが。
 それでも、彼らが対集団を旨とした兵器群なのは一目で理解できた。
 恐らくは、人間の軍隊だけでなく、他派閥の戦闘機械群にも投入されるのだろう。
 レリギオス・グロンバインは派閥の長とされる合体ロボット、グロンバインの存在が取り沙汰されがちだが、彼らの存在を見るに軍隊としての総合的能力も一定以上あるのだと窺い知ることができるだろう。
 |場違いなまでのテクノロジー《オーパーツ》。
それを放置しては間違いなく√妖怪百鬼夜行における脅威となるだろう。
「ですが――」
 そう言うと、圭は帯びていた霊刀真黒に手を添える。
 柄に手を掛け、すらりと抜き放つ。
 鍛えられた漆黒の刃が現れる、その刹那。
「ただ数を揃えればいいとは思わないことです。
 ――修羅の業炎」
 圭の唇がそう言葉を紡いだと同時に、その刃から轟、と業炎が吹き出した。
 奇妙なことに、その黒い炎は一切圭を焼く気配はない。
 至近距離にありながら、彼のスーツには焼け焦げの一つもついていない。
 √能力【修羅の業炎】の産物である。
 その黒炎は、圭が縁を結んだ修羅の放つ怨念の炎なのだ。
 圭は轟炎の剣の刃を下に向け、脇を締めた。半ば自身で刃を隠すようにする。
 下段脇構えと言われる構えである。
 それを口火にしたのか否か、強襲型機甲兵器たちが手にしたエネルギーライフルの引金を引いた。
 空間を灼きながら、青白い光条が一斉に圭を襲う。
 だが、圭は一切それに動じることはなかった。
 音を立て刀を握り直す。手の中で鋼が鳴る。
 そしてエネルギーライフルの光条を見据え、全力で駆け出した。
 先のぬりかべとの戦いとは違い、力強く舗装路面を踏みしめる。
 それに従い、黒炎もまた線となって伸びていく。
 執拗に、青白いエネルギーは圭を捉えようとするが、その炎を捉えることはできない。
 破壊の光が乱れ飛ぶ中、圭は黒炎の剣を振り上げる!
「業火を宿す修羅との縁は、霊刀に宿りて円を成し、すべてを灼く業炎となる――」
 刀の軌跡は漆黒の円弧となって、戦闘機械群の只中を吹き抜けた。
 ほんの僅かな時間、全てが止まる。圭も、強襲型機甲兵器たちも。
 そして。
 軌跡の触れた戦闘機械の首が、胸が、胴が、次々と溶け崩れていった。
 そのまま炎上、あるものは爆発し、またあるものはただ溶けるのみ。
 |黒炎の触れる範囲《キルゾーン》の中に、生き残った戦闘機械群は一体とてなかった。
 戦場に、真空地帯が生じた。生きる者の存在しない燎原である。
 だが、戦場はその存在を許しはしなかった。
 サブアームに拳銃を構えた機甲兵器たちが、一斉に突入する。
 先とは違い統一感を欠く軍靴の音が戦場に響く。
 だが。
「まだです。斬撃は一つではありませんよ」
 圭の踏み込みは終わらなかった。
 ざっと圭の全身が沈み込んだかと思うと、もう一撃。
 黒炎の色をした逆薙の一閃が戦場を走り、殺到した戦闘機械群を次々と呑み込む!
 結果は、刀の軌跡が逆向きであること以外は、全てが同じだった。
 複数の機体が薙ぎ払われ、溶け崩れ、あるいは斬り飛ばされる。
 爆発と、それよりも遥かに暗い黒炎の色に照らされた圭の顔は、それでも静かだった。
 戦場の喧騒などないかのように。
 それを複数のカメラアイで確認しながら、戦闘機械の集合意識は圭をどう攻略するか思案した。
 それは一瞬のパルスのやり取りではあったが、人間に換算すれば確実に思案であった。
《敵√能力者、戦闘指標2段階上昇》
《近接攻撃の損耗率極大、非推奨》
《……【爆撃要請】を提案。部隊損耗、度外視》
 ビルの谷間の向こうから、全翼機型の航空戦闘機械が現れた。
 その機体下部のハードポイントには、複数のサーモバリック弾が懸架されている。
 広範囲を焼き払うための装備であるが、その急激な燃焼は範囲内の酸素を燃焼し尽くす他、急激な気圧差を発生させ、人間の心肺を破裂させる効果もあるため、対人戦術には好んで用いられる装備でもあった。
 勿論、効果範囲内の戦闘機械群も根こそぎ破壊するが、それは織り込み済み。
 集合意識を保つだけの個体数がいればそれでいい、という論理である。
 同じ装備をした戦闘機械、その数4機。
 全ての爆弾が投下されれば、周囲の生存者はゼロになるに相違ない。
「そうはさせませんよ」
 そう言うと圭は全力で跳躍した。
 街路両側の建物の壁面を連続で蹴り、高く高く空へと駆け上がる。
 彼は戦闘機械群の戦術の全てを、そして何が起きるかも理解していた。
 故に高々と駆け上がった。ただ、ひとりのために。
 最後の跳躍。圭の眼下に、黒々とした航空戦闘機械の機体上部が見える。
 すう、と息を吐き、すれ違いざまに炎の剣を振るった。
 黒刃の軌跡が走る。その大きな翼を叩き斬る。
 炎の軌跡が灼く。爆弾ごと、翼と一体化した胴体を灰にする。
 なお、爆弾は信管が炸裂しなければ爆発を発生させないため、周囲の被害は一切ない。
 圭の着地とほぼ同時に、4機の航空戦闘機械は全滅していた。

「戦場を支配するつもりなら――」
 圭は振り返り、黒炎を纏った霊刀真黒を静かに構え直した。
 ただ静かに、全てを灼く黒炎の剣を掲げて言う。
「まずは、こちらを止めてみせてください」
 感情などないはずの戦闘機械群に、さっと戦慄のノイズが走った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜久・椛
戦闘機械群が、我が物顔でぞろぞろと…。

「真正面からは危険だな。隠れて不意打ちと行こうか」

ん、スクラップにする。

まずは、【幻影使い】の幻影を【迷彩】のように纏うよ。
そのまま【目立たない】ように行動し、時雨から【誘導弾】を射出して【不意打ち】。
誘導弾には【錬金術】で雷の【属性攻撃】を付与して、敵の機械をショートさせるよ。

こっちに気づいても【野生の勘で見切り】、【高速移動】で回避。
避けきれないなら、【オーラ防御】を纏わせた時雨を開いて防御するよ。

敵の航空部隊は、野生の勘で察知して、爆撃される前に蒼の流星雨の【範囲攻撃】で対処。
そのまま、地上にいる敵も纏めて攻撃するよ。

今日の天気は、晴れ時々流星雨。
丙浦・亮
物陰から様子を見つつ……集団敵の前に出るにはそれなりの覚悟と準備が必要そうだな。
レイン砲台を起動させておこうか。
レーザー射撃を先制攻撃で見舞うことが出来ればいいが。
敵側も先制攻撃を狙っているだろうが、物陰からの不意打ちを狙っていこう。
そこからは一定距離を保って戦えるよう、なるべく囲まれないように気を付けて……また射撃を繰り返す。
近付かれる前にある程度片付けることが出来たら御の字だな。
近距離の間合いになったら√能力を発動、怪異殺しで連続技を叩き込もう。
「容赦はしない、徹底的に叩き潰してやる」
機械の兵団相手にどこまでやり合えるかの勝負でもあるが、こちらは力の限りを尽くして討伐する意思で臨もう。

●鵺の少女と雨使い、流星雨に舞う
ざっ、ざっ、ざっ、と鉄の軍靴の音が響く。
我が物顔に√妖怪百鬼夜行の大通りを歩く戦闘機械群というのは、ちぐはぐな印象を与える。
そもそも、√妖怪百鬼夜行は大多数の妖怪と少数の人間の√であり、過去の大戦争もせいぜい古妖とのものである。その前は衰退しつつあったのだから。
 だが、戦闘機械群は歩んできた道そのものが違う。
 彼らは己以外の全てを破壊する。
 彼らは己以外の全てを資源として扱う。
 彼らは己以外の全ての存在を認めない……。
 おおよそ、妖怪や人と相容れることのない異なる√の存在。
 それこそが戦闘機械群であった。
 そして、それが大手を振って歩いていること自体が、際立った異常に他ならない。
 これを放置していては、√ウォーゾーンにおける各種の惨劇が、この√妖怪百鬼夜行で繰り返されることは、論を待つまでもないだろう。
 今すぐ、対処が必要であった。

「戦闘機械群が、我が物顔でぞろぞろと……」
 そんな戦闘機械群を苦々しい顔で見ているのは、夜久・椛(御伽の黒猫・h01049)だ。
 故郷である√妖怪百鬼夜行で、√ウォーゾーンにいるはずの戦闘機械群が我が物顔をするのには忸怩たるものがあるのだろう。
 それに、知己も多くこの√にいるし、√ウォーゾーンでの所業も知っている。
 尚更彼らのことを許せるわけがない。
 そんな彼女は膝をつき、建物の角に手を添えて、首だけをそっと出していた。
 猫の耳が異常を聞き逃さんとぴくりと動く。
 ビルの谷間の細路地にそっと隠れ、機械たちの行軍の様子をうかがっているのだ。
 気づいていないのか、彼らは現在、椛に対して軍事行動を仕掛けてくる様子はない。
 どうやら行軍を続けることを優先しているようだ。
 ただし、メインアームによって担がれたエネルギーライフル、そしてサブアームの握った拳銃など、存外手持ち火器が多い。 火力は充分に確保するという思想のようだ。
「しかも数が多い。真正面からは危険だな」
 椛の尻尾であり、独立した意志を有する蛇のオロチが唸った。
 そう、この戦闘機械群の真価は集団行動による火力投射にある。
 集合意識によって統率された機械の軍隊は、最も効果的な状況や戦術をもって敵に対し火力を叩きつけることができるのだ。
 迂闊に近寄り敵認定された者は、圧倒的多数の火線を受けて蜂の巣になるだろう。
 その火線を耐えられるなら反撃も叶うだろうが……。
 椛とオロチが、そう考えつつ反撃の手段を練っていたその頃。
 反対の路地。
「……集団敵の前に出るにはそれなりの覚悟と準備が必要そうだな」
  丙浦・亮(人間(√EDEN)のレインメーカー・h01549)もまた、路地の出口から周囲を伺っていた。そして何より、彼もまたEDENである。
 亮の方は、√EDENの出身ということもあり、この√への特別な感情は持っていない。
 しかし、同時に彼は「想像」することができた。
 戦闘機械群の軍靴の赴くところ、あらゆる生命は踏み砕かれるであろうと。
 故に。
「だが、それでもこの√での戦闘機械群の跋扈は許せん。
 反撃の機会があればいいのだが……」
 亮はもう一度、周囲の索敵を行うことにした。
 行軍する戦闘機械群に隙はないか。周囲に際立った異状はないか。
 その時、見つけた。向かいの街路からぴょこりと生える猫の耳を。
「もしかして、あれはEDENか……!?」
 そう認識した直後、街路の向こうから弧を描いて何かが放り投げられてきた。
 戦闘機械群に認識されることなく、亮の手にぽとりと落ちる。
 それは、一枚の……猫の意匠が施された|錬金貨《アルケミカルコイン》だった。
 それに施された遠話の錬金術によって、声と指向性の絞られた少女の声が響く。
「ん、聞こえてる?」
 聞こえてきたのは、向かい側の猫耳の主、椛の声だった。

『分かった、作戦は了解だ。不意打ちが基本なのも異存はない』
「亮、君の火力は我々の生命線だ。どうかよろしく頼む」
「ん、お願いするよ」
『勿論。レイン砲台の制圧力というものをお見せするさ』
 ある程度の打ち合わせをしたあと、錬金術通信を切る。
 ほぼ同時にお互いのことを発見していた椛と亮は、即席の共同戦線を組むこととなった。
 とは言え、細かい作戦をその場で組み立てるのは現実的ではない。
 決めた基本路線に準じて動きつつ、お互いが危なければ支援する、程度のことだ。
「それでも、単独で銃火に晒されるよりは余程いい。
 亮と言ったか、あのEDENのお手並み拝見というところだ」
「ん、多分大丈夫。だからボクたちもがんばろう」
「そうだな。では、隠れて不意打ちといこうか」
 そう言った瞬間、椛の姿が透明になった。いや厳密には違う。
 幻影使いにより周囲の光景の幻影を発生させ、それを迷彩のように纏ったのである。
 これは√EDENにおいて研究されている光学迷彩と同じ運用思想であり、隠したい兵士に周囲の光景を投影し、移動によってその光景も変化させれば、極めて見破られにくい迷彩として運用できるのだ。
 しかも、あちらでは未だ問題のある光学迷彩を、椛の卓越した幻影使いとしての腕で、より死角の少ない完璧な迷彩に仕上げているのだ。死角は存在しないと言っていい。
 そのまま、隠れていた街路から飛び出す。
 こん、とわずかに足音が響くが、それは軍靴の音にかき消された。
 そして、音にも姿にも、戦闘機械群はいずれも反応しない。幻影迷彩は有効なのだ。
 その効果を確認しつつ、椛は一本の和傘を取り出した。
 名を『仕込み傘「時雨」』という。
 錬金術により、種々の武器を展開できる仕込み武器だ。
 そして今回展開するのは誘導弾。椛の意志により敵を追尾する錬金弾だ。
 その装填完了を見て、オロチがカウントを始める。
「では、カウント後に攻撃開始だ。3……2……1……」
 椛は傍らのオロチの、亮はコインから流れる声に耳を澄ませる。
 そして。
「……0! 攻撃開始!」
「ん、スクラップにする」
「レイン砲台、一斉射撃開始!」
 ふたりのEDENの攻撃が一斉に放たれた。
 まず、亮のレイン砲台である。
 無数のレーザー射撃による制圧力は、強襲型機甲兵器たちのそれにひけをとらない。
 死角に巧みに配置され、一斉に放たれたそれは、晒された機甲兵器たちを次々と爆散させる。
 同時に、時雨から椛による誘導弾も放たれた。
 こちらには、椛の錬金術による雷の属性攻撃が付与されている。
 誘導弾を受けた機甲兵器が、次々と痙攣したかと思うと倒れてしまう。
 通常の運用における感電などは各戦闘機械で対処できる範囲だが、属性攻撃となれば発生する電力は雷のそれに匹敵する。中には機体内部を黒焦げにし、装甲の隙間から黒煙を立ち上らせる者までいる有様であった。
 だが、それもいつまでも続かない。一斉射が終われば相手のペイバックタイムだ。
 無数のエネルギーライフルやグレネードランチャーの射撃が、ふたりを襲う!
 死を呼ぶ灼熱の光条が、強大な爆発をもたらすグレネードが、雨のように降り注ぐ。
 あっという間に路面は剥がれ、道路に穴が開くが、無論EDENたちはこれを予期していた。
 まず、亮の方を見ていこう。
「よし、距離を取るぞ」
 隠れていた街路を飛び出すと、亮は後方へと駆け出した。
 無論、射撃は追ってくるが。
「あのままあそこにいても、制圧されるだけだしな」
 そう言いながら彼はジグザグに走り、できるだけ回避し、次の街路へと飛び込む。
「レイン砲台、狙いはしっかり付けなくてもいい。制圧のつもりで撃て!」
 飛び込んだ直後。
 あらかじめ配置したレイン砲台が一斉に周囲の戦闘機械群に向けレーザーを放った。
 狙いはあえて甘くした。射撃されている事を認識させ、敵の動きを鈍らせるためだ。
 事実、そこにレイン砲台が配置されているということが警戒され、敵の包囲は緩やかになった。
 一方、椛の方は。
「ん、後退する」
 攻撃の直後から、椛は振り返り走り始めていた。
 地を蹴った直後、一瞬前まで足のあったタイルに無数の穴が開く。
 エネルギーライフルの集中射撃だ。
 背筋に冷たいものが流れるが、自分の野生の勘は確かだったと実感する機会にもなった。
 そのまま、彼女は街路を走った。
 頬の向こうをエネルギー弾が何発も追い越してゆく。
 背中を熱い爆発の熱気が煽る。
 それでも椛は止まらない。止まれば「死ぬ」のは分かっているから。
 真の死のない√能力者と言えど、死ねば痛いし別√で復活してしまう危険もあるから、死なないにこしたことはないのである。
「……どうした!」
 だが、にもかかわらず椛は振り返った。
 傘を開き、地面に立てる。自分の身をそこに滑り込ませる。
「オロチ、頭低くして」
「むぎゅっ」
 そうして完全に傘の影に隠れた刹那。
 至近距離で大型榴弾が炸裂した。
 あっという間に周囲は粉塵に包まれ、視野が灰色に包まれる。
「なるほど、これは避けきれないか。いい判断だ」
「ん、オーラ防御まで切れば防ぎきれる、と思ったしね」
 そう、『仕込み傘「時雨」』にオーラ防御を纏わせて即席の防壁としたのである。
 もとより錬金術の産物である時雨は見た目通りの硬さではないし、それにオーラ防御を纏わせれば、少々の爆弾ぐらいなら防ぎきれる……そう踏んだ賭けは成功したようだった。
 だが、爆弾による耳鳴り、粉塵による視界不良は、ひとつの見落としを椛にもたらした。
 気づけば、至近距離にまで一体の機甲兵器が迫っている……!
 危機一髪の状況である。
 だが、その時!
「喰らえ、【怪異殺し】」
 亮の声とともに、椛に迫りつつあった機甲兵器が突然横倒しになった。
 √能力【怪異殺し】による足払いを喰らい、転んだのだ。
 即座に上体を起こした兵士だったが。
「次は鎖だ。絡まり、縛れ」
 その上半身にぐるぐると鎖が巻き付く。無論複数のアームもぐるぐる巻きだ。
 必死に動こうとするが、√能力の鎖は簡単には解けない。
 完全に無駄な努力であり、故にその後も不可避であった。
「そして殴り棺桶だ。容赦はしない、徹底的に叩き潰してやる」
 巨大な質量が通り抜ける気配とともに、機甲兵器の上半身が吹き飛んだ。
 バチバチと脊髄のあった辺りからスパークする下半身の周囲に、装甲の破片、へし折れたインナーフレーム、ショートで焼け焦げたメモリやSSDのようなパソコンのそれに酷似した部品群……。
 そして、殴り棺桶を携え、部品を踏みながら現れたのは亮であった。
「無事か。そうか……よかった」
「ん、ありがと。おかげで助かった」
「ああ。正直危なかったかもしれん」
 コクリと頷き合う亮と椛とオロチ。言葉少なでも通じるものはあるのかもしれない。
 だが、事態は彼らを放っておいてくれない。
 突然、椛が視線を空中へと走らせた。
「あいつら、増援を呼んだみたいだ。空から来るよ」
「本当だな……奴ら、ここを焼け野原にする気か」
 椛の言葉に応じて亮も空の果てにそれを見た。
 直後、やや遅れて航空機用エンジンの甲高い動作音が周囲に響く。
 そこには、ようやく粉塵の晴れ始めた空を切り裂いて迫る全翼機があった。
 機甲兵器の支援要請を受けて現れた爆撃機である。
 機体下部のハードポイントに懸架されるのはサーモバリック弾。
 この周囲を、酸素ごと焼き払うレベルの業火を放つ爆弾だ。
「アレは厄介だな。俺のレイン砲台で対空砲火を撃つか?」
 亮の思案に、椛は首を横に振った。
「ん、大丈夫。あれはボクがやる」
「なるほど、アレをやるのか」
 オロチの言葉に椛が頷く。航空戦闘機械に向き直る。
 そして、彼女は物語を、御伽を紡ぎ始める。
 それは極天に降る星。それは天を埋め尽くす光。
 世にも稀なる天の輝きを、椛は自らの力として紡ぎ出す!
「――降り注ぐは、蒼の流星」
 刹那、粉塵の晴れた空にいくつもの蒼い輝きが煌めいた。
 星と言うにはあまりに明るいそれは、昼の空においてもはっきり見えるほど輝いており……やがて、亮はその存在が何なのかを知るに至る。
「あれは、流星か」
 そう、蒼く輝く流星が椛の呼び声に応じ、顕れたのだ。
 流星の輝きは、次々と増えていく。光の尾を引き、雨のように降り注ぐ。
 それは昼の空が、束の間星空に変わったのかと思わせるほどの美しい輝きだった。
 だが、天体ショーもここまでである。
 流星の直撃を受け、航空戦闘機械編隊の先頭の翼に、穴が空いた。
 穴からは黒々とした燃料が血のように吹き出し、黒い尾となる。
 その間にも流星は降り注いでいく。穴が二つ、三つと増えていく。
 やがて、穴の一つから爆炎が上がり、航空戦闘機械の高度が急速に落ち始めた。
 悲鳴のような音を立てて、その機体は友軍の機甲兵器部隊の上に落ち、火柱となった。
「今日の天気は、晴れ時々流星雨」
「戦闘機械群は、椛のように傘を用意するべきだったな」
 こくりと頷き合い、椛とオロチはどこか誇らしげに言うのだった。

 その後、流星は強襲型機甲兵器と航空戦闘機械を分け隔てなく打ち据えた。
 航空戦闘機械部隊は全滅、機甲兵器もその後の亮の斬り込みにより大きなダメージを受け、ついに彼らはこの通りからの撤退を決断したのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

玖老勢・冬瑪
【生物部】
何とも懐かしい名前を聞いたなぁ。
謀を潰されてから静かにしとったが、そりゃ1年もあったら何事もしとらん筈が無いか。
如何なる準備をしようと、何度でも叩き潰したるが。

音夢さんが壁を使って射撃戦を行うなら、俺はその壁を利用しながら接近しよう。
相手の近接攻撃を躱せば状況が不利になる、ほんなら……コイツを使わせて貰うかやぁ!
怪力で敵を持ち上げて鉄壁の盾とし、切り込むよ。そのまま振り回して、√能力発動の媒介にしたる。
『盾にも鈍器にもなる、ええ武器だらぁ?……鬼の姿、季節外れの梅花の舞。よぉく目に焼き付けてきん』
さて、盾も武器も、あんたさんらの数だけある。機械にも恐怖を与える事は出来るかや。
深見・音夢
【生物部】
これまた場違いで物騒なのがお出ましなようで。
去年のオーラム逆侵攻で結構な打撃を受けたはずっすけど、だからこそこうして紅涙流離軍とやらに加わったと。
だったらなおさらここで叩いておきたいっすし……ここは真面目にやらせてもらおうかな。

【擬装限定解除・鏡演】で先ほど戦ったぬりかべの【ぬりかべぬりかべぬりかべ】を拝借しよう。
冬瑪君が切り込むのを援護しつつ、出したぬりかべを遮蔽物にその場に留まって射撃戦だ。
そして遮蔽物に籠る相手は爆発物であぶり出すのが近代戦の常、そこを逆手に取ろう。
相手の大火力を誘ってタイミングを合わせて反射を狙うよ。町ごと吹き飛ばされては近所迷惑じゃすまないからね!

●鬼面と鱶は壁路に舞う
 強襲型機甲兵器たちは、なおも進撃を続けていた。
『紅涙流離軍』という肩書はあるものの、彼らに仲間意識は存在しない。
 彼らが従うものは「|完全機械《インテグラル・アニムス》への到達」という大目的のみであり、世界間侵略を可能とする『紅涙』の√能力もそのための手段でしかない。
 そう、流離軍の他√陣営も、結局は競争相手でしかないのだ。
 故に、彼らは流離軍内の主導権を取るべく、支配領域を広げる戦略を選択した。
 それは、『紅涙』の√能力を事実上独占するため。
 それは、他√陣営を屈服させ、私兵として再編成するため。
 それは、√妖怪百鬼夜行を彼らの資源採掘基地とするため。
 そしてこの戦略が実を結んだ暁には、√妖怪百鬼夜行は彼らの要地に。
 更には精緻なる戦闘機械都市に姿を変えるであろう。
 全ては未来の完全機械、グロンバインのために。
 胸に刻まれた派閥の印が、キラリと光った。

「――レリギオス・グロンバイン。
 これまた場違いで物騒なのがお出ましなようで」
 その戦闘機械群の胸に光る派閥の印を目にして。
 普段の陽気さを翳らせながら、深見・音夢(星灯りに手が届かなくても・h00525)は呟いた。
 その言葉には、重いものが乗っているようだ。
 いや、この名に実感があるならば、誰もがその重みを知っているだろう。
「何とも懐かしい名前を聞いたなぁ。
 謀を潰されてから静かにしとったが、そりゃ1年もあったら何事もしとらん筈が無いか」
 玖老勢・冬瑪(榊鬼・h00101)もまた、その呟きに思うところがあるようだ。
 腕組みをしながら、硬い表情をしている。
「初めてグロンバインの名を聞いたんは、ちょうど昨年の……。
 もう少し季節の進んだ頃だったかや。
 確か|旅団《異世界√生物部》だと、水着の話も出始めとったと思うが……」
「確かそうっす。去年のオーラム逆侵攻で結構な打撃を受けたはずっすけど。
 だからこそこうして紅涙流離軍とやらに加わったと」
 はあ、と音夢がため息をついた。
 つまるところ、これはレリギオス・グロンバインの失地回復の一環なのだ。
 そして、自分たちが、更には√妖怪百鬼夜行がそれに巻き込まれている。
 迷惑もいいところだ。
 ここで、冬瑪はすっと懐から榊鬼の面を取り出した。
 鬼面で顔を覆い、被る。
 これにより、冬瑪は榊鬼を降ろし、その神威を代弁する者として立つのだ。
 仮面でくぐもった声で、決意する。
「まあ、如何なる準備をしようと、何度でも叩き潰したるが」
 その姿とその声に、音夢はこくりと頷いた。
 そう、何度現れても、その都度叩き潰してやるだけだ。
 そうすることで、身近な人たちを守れるというのならば。
「だったらなおさらここで叩いておきたいっすし……」
 そう言いかけたところで、音夢の纏う雰囲気が変わった。
 いつもの陽気な推し活女子から、冷たい水底に潜むものへ。
 そして。
「ここは真面目にやらせてもらおうかな」
 普段と違う口調に変わった彼女の眼球は、黒く変色していた。

「これもただの真似事。ほんの一時、演じ切ってみせよう……!」
 そう音夢が宣言すると、彼女の周囲に濃密な潮の気配が漂い始めた。
 それは、深い水底の冷たい潮だ。
 その中で、音夢の身体が見る間に変幻していく。
 その肌は青く、ざらついた鮫肌へ。
 その横腹からはエラ呼吸のためのスリットが走り。
 更に、下半身は丸々、巨大な魚のそれへと変わる。
 底生のサメの一種、ネムリブカである。
 そして音夢の姿は、下半身がネムリブカのそれに置き換わった、人魚めいた姿へと変わった。
 これこそが、√能力【|擬装限定解除・鏡演《ヒトノマネゴト》】で顕した彼女の真の姿。
 悪の組織・冥深忍衆怪人としての姿である。
「射撃は僕が引き受ける。冬瑪君は近接戦を頼むよ」
「……分かった。音夢さんも無理せずに!」
 彼女の覚悟を悟った冬瑪は、即座に鉞を手に取り、戦闘機械群へと走り始めた。
 その姿を見送りながら、音夢は顔をしかめる。
 顕した怪人の体の隅々に、我が名に従え、という声が鳴り響くからだ。
 それは、彼女の身体の奥底にある怪人指令装置の声。
 普段はそれを意識的に抑止しているが、怪人の姿となるためにそれを緩めたことで、その声は再び音夢を従えさせようと囁き声を全身の細胞へと巡らせているのだ。
 更には、音夢自身が怪人の姿を恥じているという精神的問題もある。
 それを晒すことは、彼女にとって全裸を晒すことにも匹敵する精神的負荷だ。
 それらを加味すると、この姿でいられるのは……45秒に満たないだろう。
「さて、やると決めたからには、しっかり決めさせてもらうよ。
 ぬりかべの√能力、お借りする!」
 両手で複雑な結印を結びながら、彼女は詠唱を開始する。
 みる間に目の前の舗装が隆起し、その裂け目から青い大きな壁がずももももとせり上がる。
「ぬりかべー!」
 そう、先に戦ったぬりかべの√能力【ぬりかべぬりかべぬりかべ】だ。
 詠唱3秒ごとに色違いぬりかべを召喚するこの√能力は、自身をコストとすることで攻撃、反射、目潰し、物品修理という多彩な能力を使用することができる。
 先には手こずったこの能力だが、この戦いでは心強い味方になってくれそうだった。

 一方、冬瑪は敵に疾駆しながら、走る街路に次々壁が立つのを目の当たりにしていた。
「このぬりかべ、音夢さんか! こりゃ心強い!」
 言いつつ、即座に彼は横っ飛びにぬりかべの影へと飛び込んだ。
 刹那、その直前までの位置をエネルギーライフルの光条が幾発も射抜いていく。
 だが、ぬりかべの影で冬瑪の姿が隠されるため、それ以上の射撃はしてこない。
「こいつはええ。接近に使わせてもらうとするか!」
 色とりどりのぬりかべの影を縫いながら、冬瑪は走り始めた。
 その位置を掴みきれず、戦闘機械群は効率的な行動を取れていない。
 言わば、現状は「遮蔽物のない街路が、突如入り組んだ路地に変化した」状態。
 いかな百戦錬磨の戦闘機械群とは言え、こんな戦術を想定しているはずがないのだ。
 一方、冬瑪はその環境に即座に適応し、効果的にそれを使用していた。
 その源泉は。
「あの音夢さんがやることなら、絶対に俺の有利になるじゃん!」
 旅団の仲間である音夢に対する絶大な信頼感であった。
 故に、この状況変化にも即座に適応できたのである。
 これは、戦闘機械群には成し得ない所業であるだろう。
「とは言え、音夢さんに負担もかかるはず。頑張らにゃー」
 冬瑪はなおも戦場を疾駆し……ついに敵の前線へと辿り着いた。
 ぬりかべの遮蔽からは外れるが、ここからは自分の出番だ。
 戦闘機械群に躍りかかろうとするが……。
「だがこれ、少しまずいか」
 その周囲には多数の強襲型機甲兵器たち。それはいい。
 だが、彼らの装備の中に煙幕弾がある。あれを使われては厄介だ。
 攻撃が外れた場合、煙幕は周囲にばらまかれ、彼らの有利な戦況に変じてしまう。
(ほんなら……)
 一瞬の逡巡もせず、冬瑪は戦術を変えることに決めた。
 走りながら手にした鉞を片手持ちに変え、新たな武器へと手を伸ばす。
 |敵の戦闘機械群へ《・・・・・・・・》。
「コイツを使わせて貰うかやぁ!」
 唐突に掴まれ、そいつは大きくもがいた。
 だが、冬瑪の怪力の前には、それは蟷螂の斧に過ぎない。
 身動きできず振るわれるのみ。
 一方、機甲兵器たちは同僚を掴んだ冬瑪に向けて一斉に射撃した。
 フレンドリーファイアの危険はあるが、それを構うような神経はもとよりない。
 群体である彼らは、集合意識を保てる程度の数がいればいいのだ。
 迫るエネルギーライフルの光条。
 それに対し、冬瑪は今掴み上げた機甲兵器の躯体を掲げる!
 無数のエネルギーが突き立ち、その機甲兵器はびくんびくんを体を震わせながら機能を停止させたが、その影にいた鬼面の武者には一切の傷はない。
 彼は敵を盾とすることで、自身への攻撃を防いだのだ。
「盾にも鈍器にもなる、ええ武器だらぁ?
 ……鬼の姿、季節外れの梅花の舞。よぉく目に焼き付けてきん」
 冬瑪は利き手に掴んだ鉞と、逆手に掴んだ戦闘機械群で大きく円弧を描いた。
 その軌跡に、ちらり、ちらりと梅の花びらが舞う。
 白、紅、桃、絞、斑……その種類は様々だが、その全てが咲く梅があるという。
 すなわち、【|野梅輪違狂咲《オモイノママ》】。
 かつて|菅公《菅原道真公》も愛したという神梅の力を纏った武器が、戦闘機械群たちに叩き込まれる!
 たちまち冬瑪の周囲に咲く爆発の花。
 その中を舞う冬瑪の鬼面は、いつもよりも赤く見えた。
 同型機を撃破され、部隊の機甲兵器たちが次々と冬瑪のもとに殺到する。
 ライフルを油断なく構えながら、四方八方から一斉に走り来る。
 だが、冬瑪は動じることなく、最後まで掴んでいた機甲兵器の頭を放り投げた。
 複合素材製の頭蓋ががごんと音を立てて、戦場の片隅へ転がっていく。
「さて、盾も武器も、あんたさんらの数だけある。機械にも恐怖を与える事は出来るかや」
 鬼面の奥で、冬瑪は笑みを浮かべた。

 一方その頃、音夢の方は。
「さあて、冬瑪君の邪魔をさせるわけにはいかないね。射撃戦と行かせてもらう!」
 自身が召喚した色違いぬりかべの影に隠れながら、射線の通った場所の機甲兵器たちを狙撃し、援護することにしたのである。
 対物狙撃銃の、魔銃の銃弾が放たれる度に戦闘機械群を機能停止させていく。
 無論、壁の消滅条件である移動は一切行っていない。
 冬瑪の進撃を支えていたのは、音夢の銃弾だったのだ。
「もっとも、このままで済むとも思っていないけど……来たね」
 銃を構えながら、音夢は空を見上げた。
 破壊された戦闘機械群の上げる煙が空を染める中、それでも尚黒い機体色の新手が、空から迫りつつあったのである。
 それは、全翼機型の航空戦闘機械部隊。
 機体下部のハードポイントには、対兵士用のサーモバリック弾が懸架されている。
 それは冬瑪と音夢を倒すにはあまりに過大な火力にも見えたが。
「遮蔽物に籠る相手は爆発物であぶり出すのが近代戦の常、ってことだね」
 そう、戦闘機械群にこの戦術を取らせた要因は、音夢の召喚したぬりかべだ。
 ぬりかべを即席の遮蔽物、あるいは要塞と見立てた彼らは、火力をもって薙ぎ払うことにしたのである。一方で、それは戦闘機械群にとって、敵√能力者が見た目よりも遥かに高い戦力として計算されていることの証明とも言えた。
 サーモバリック弾が機体を離れ、落着コースに入る。
 戦闘機械群が即座に集合意識をもってその効果を計算する。
《周辺建造物、焼却。生存者ゼロ》
《効果値計算……敵√能力者、殲滅の見込み》
《当部隊損耗予想、80%。想定内》
 だが、これを召喚した時点で、そんなことは織り込み済みだ。
「頼むよぬりかべたち。一斉反射!」
 サーモバリック弾が炸裂するその瞬間。
 音夢の展開した色違いぬりかべたちが一斉に反射の能力を展開した。
 炸裂するはずだった爆発の威力が不可視の壁に阻まれ、反転。
 無酸素状態と、それに伴う爆風が空を舞う航空戦闘機械部隊を薙ぎ払う!
 その猛烈な熱と気流に晒され、次々と黒い航空戦闘機械は歪み、溶け、爆散。
 音夢は街路に被害を出すことなく、敵航空部隊を撃破したのである。
 降るのは溶け残った微細な欠片のみであった。
「町ごと吹き飛ばされては近所迷惑じゃすまないからね!」
 そう言って、音夢は人間状態のようににんまりと笑みを浮かべた。
 そして冬瑪も。
「おお、こりゃ盛大だなぁ。俺も負けてられん!」
 鉞と、戦闘機械群を手にした手に、更に力を込めて振るうのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

エアリィ・ウィンディア
わぁ、妖怪世界にウォーゾーンの機械兵士さんって、中々ない組み合わせ。
まぁ、振りかかる火の粉は払うだけだけどっ!

空中移動で上空へ移動。
上空からお邪魔しますーっ!
言いつつ、精霊銃を乱れ撃ち!
牽制しつつ、味方の援護になればそれでいいしね。

敵√能力は空中戦での回避を重視。
くるっとバレルロールや急加減速での機動で翻弄して回避するよ。
ダメージも直撃を貰わないようにしてオーラ防御を展開。

さ、それじゃ今度はあたしの番♪
高速詠唱で隙を減らして、全力魔法の殲滅精霊拡散砲!
それじゃ…。
あたしの全力を遠慮せずにもってけーっ!!

撃った後は追撃の為に地上へ向かって空中ダッシュっ!
接近と同時に精霊刃で斬りつけるよっ!

●精霊の娘は高空に舞う
「わぁ、妖怪世界にウォーゾーンの機械兵士さんって、中々ない組み合わせ」
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、近隣のビルの屋上から戦闘機械群の行軍を見下ろしながら、そのミスマッチ感を口に出していた。
 √妖怪百鬼夜行は、全体的には√EDENにおける大正時代の雰囲気を持った√だ。
 その中で、遥か未来のそれを思い起こさせるデザインの戦闘機械群が行進し、周りに示威を行うのは、怯えた感じでほうぼうの窓から妖怪たちが覗いているのも含め、なんともミスマッチであり、また高圧的であるとエアリィは感じた。
「でも、これを放置したら間違いなく√妖怪百鬼夜行の害になるね。
 それに、振りかかる火の粉は払うだけだけどっ!」
 そう言うと、エアリィは屋上を蹴って跳躍、自らを空に舞わせる。
 そのまま彼女はマント『西風の息吹』をはためかせると、その力で風に乗り、眼下の鋼鉄の軍隊にむけて降下していった。

 ごうごうと耳の外で風が唸り、気流が自分の周囲を流れていく。
 みるみる隊列が近くなり、装備品の細かい造作まで見えてくる。
 そのコンセプトは、間違いなく人あるいは同型の戦闘機械群と対決するものだ。
 つまり、この√ならば、想定された対象は……。
「うん、そんなの許しちゃおけないよね!
 というわけで、上空からお邪魔しますーっ!」
 その身を空中に舞わせたまま、エアリィは手にした精霊銃『エレメンタル・シューター』を連続で放った。狙いはあまりつけていない。あくまで牽制射撃だ。
 ギリギリまで精霊銃を射撃した後に、∨字を描いて再上昇。
 牽制が効いているのか、この地上に最も近づくタイミングでの射撃はなかった。
 そして地上から離れたら、再び牽制射撃。
 これを繰り返すことで、下方の歩兵部隊を牽制して身動きが取れないようにするのだ。
 撃破自体は、たまに不幸な機甲兵器が流れ弾に当たる程度ではあるが。
「味方の援護になればそれでいいしね」
 エアリィは、そうした戦果には一切拘泥していない。
 それ故により効率的に牽制を行うことができたのである。
 一方、敵としてはその状況が続くことは好ましくない。
 強襲型機甲兵器の集合意識は、その打開策を検討していた。
《敵、航空√能力者。銃撃による牽制により移動に支障》
《対√能力者プロトコル起動。航空部隊派遣を決定》
《護衛機で翻弄し、爆撃機で殲滅する戦術とする》
 そして、その決定の直後。
「うん、やっぱり来たね!」
 空の彼方に、真剣な表情を向けるエアリィ。
 視線の先に現れたのは、航空戦闘機械部隊の編隊であった。
 中核は黒い全翼機型の爆撃機、そして護衛として全翼機型の銀色の戦闘機がいる。
 前者は4機、後者は……ひと目では数え切れないほどだ。
 その戦闘機型が一斉にビーム機銃を発射、エアリィを撃墜しようとする。
 反射的にエアリィは射撃してきた戦闘機に精霊銃を向けるが、同伴してきたもう1機が牽制射撃を放ち、エアリィの行動に制約をかける。結局撃墜は叶わぬまま、後方へ飛び抜けるのを許す結果となった。
 単発型ジェットエンジンの響きが遠ざかっていく。
「思ったより強いみたいだね。……よし、もう一段ギア上げていくよ!」
 その一言とともに、エアリィの動きが文字通り「変わった」。
 後方について散発的に射撃を行う2機に対し、エアリィは身体を急激に左に傾けた。
 あっという間に左方向に身体が流れて旋回、戦闘機2機の照準から外れてしまう。
 それを追おうと、同じく旋回を始めようとする戦闘機であったが。
「残念っ! そこじゃないんだよ!」
 いつの間にか、エアリィは戦闘機の上方に移動していたのである。
「くぅぅぅぅっ……!」
 足を踏ん張って速度を緩める。戦闘機とすれ違う速度が一瞬遅くなる。
 そしてそれこそがエアリィの狙いだった。
「2機! もらったよ!」
 コクピットの存在しない機体上部に、次々と精霊銃の魔力弾が突き刺さる。
 弾痕から火を吹き、2機の戦闘機型は星のように一瞬輝き、そして消えた。
 だが、それでも戦闘機型はまだ多数存在している。
 攻撃モーションを好機と見た彼らは、次々とエアリィに向けて射撃を行った。
「……っ! まだまだっ!」
 キリモミしながら急加速と急減速を繰り返し、敵の射線から外れていく。
 それでも当たりそうな流れ弾に関しては、オーラ防御で弾き返した。
 まるで重爆撃機のようなしぶとさだ。
 そうして急上昇を行い……|回転して天地を逆転《インメルマンターン》した時。
「うん、予想通り! 航空機隊の上に出られたよ!」
 エアリィの眼下には、爆撃機型航空戦闘機械4機と、戦闘機型航空戦闘機械多数で構成された航空部隊の機影多数があった。これなら……!
「さ、それじゃ今度はあたしの番♪ 六界の使者たる精霊達よ――」
 エアリィの高速詠唱が開始された。
 周囲に漂うインビジブルを六大の精霊に変換し、彼女のもとに集めていく。
 大技があると見て、戦闘機型が一斉に旋回、上空に昇り始めた。
 だが遅い。
 エアリィの高速詠唱は、そうした敵に対処するために編み出された技法だ。
 その速度は、ぽっと出の航空戦闘機械などに覆せるものではない。
「――集いて力となり、我が前の障害を撃ち砕けっ!」
 詠唱が終わり、光の玉となった六界の精霊が彼女の後ろで高速回転する。
 それは、まるで東洋の仏像や西洋のイコンの後光を思わせる……!
「それじゃ……。
 あたしの全力を遠慮せずにもってけーっ!!」
 裂帛の気合とともに、√能力【|殲滅精霊拡散砲《ジェノサイド・エレメンタル・ブラスト》】が放たれた。
 背後の後光を構成していた光の玉は雨となって地に降り注ぐ。
 その雨に、エアリィに追いつこうとしていた戦闘機型も、彼女を撃ち落とすべく巡航ミサイルを準備していた爆撃機型も晒された。
 戦闘機型は一撃で翼の過半を失い、キリモミし始めたところで中枢回路のある機首部分を破壊されて爆発、撃墜。爆撃機型もまた、機体上部の|VLS《垂直発射装置》に装填されていたミサイルに精霊が着弾して爆発、一瞬で光の玉となって四散した。
 更には、地上の強襲型機甲兵器たちにまでそれは降り注いだ。
 頭を、腕を、次々と射抜かれた戦闘機械群はバタバタと倒れていく。
 そうして、わずか1発の√能力で地上戦力の20%以上が撃破されたのである。

「でも、まだ終わってないよね。……ならっ!」
 エアリィは流星のように地上へと降下し始めた。
 轟々という風の唸りを聞きながら、その存在が視界の中で大きくなっていく。
 得物として精霊刃『エレメンタル・ティアーズ』を握りしめる。
 降り立ったエアリィは、今度は地上部隊と切り結び、絶大な損害を与えるのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

レナ・マイヤー
出ましたね、レリギオス・グロンバイン……
他の√にまで迷惑をかけるだなんて、不届き千万!
ぶっとばして√WZに即刻返品です!

ということで、マザーに乗って空中に退避しまして……
【レギオンスウォーム・改-V3】!
ミサイリアをいっぱい呼んで、誘導弾を撃ってもらいます。
ミサイル弾幕の雨あられです!
敵の銃撃はガードのバリアで防いでもらいましょう。
航空部隊の爆撃は、通常型に弾道を計算してもらって逃げ回る方向で。
厳しいときはアビエイターに押してもらって緊急回避ですね。
動力や物資が切れそうな場合はトランスポーターに補給してもらいまして…
そんな感じで、上からひたすらミサイルを浴びせて制圧します!

●レギオンの娘は戦空を翔ける
「出ましたね、レリギオス・グロンバイン……」
 眼前を進軍する強襲型機甲兵器の群れを見て、レナ・マイヤー(設計された子供・h00030)は硬い声で呟いた。
 どういう経緯で彼らが紅涙流離軍に参加したのかは知らない。
 それが今後明らかになるのかも定かではない。
 だがしかし。
「他の√にまで迷惑をかけるだなんて、不届き千万!
 ぶっとばして√WZに即刻返品です!」
 彼女の性格的にも、√ウォーゾーンの住民であるということを鑑みても、彼らを放置するという選択肢は最初から用意されていなかったのである。
「ゴー、レギオン・マザー!」
 母艦型の大型レギオン「マザー」がレナの呼びかけに応じて現れる。
 比較的小さいレナのレギオンの中では、その上に人が乗れるほどのペイロードと出力を誇る、最も大型のレギオンである。先のぬりかべ戦でも、これを指揮機として運用していた。
 レナはその上に飛び乗る。かつんと硬い音が響く。
「行きますよ、返品伝票を貼ってあげなくてはですしね!」
 気合のみなぎったレナは、進撃の指示をマザーに下すのであった。

「ん、あの様子は……? 想定したのとは違う方向に進軍してますね」
 通常型レギオンから受け取ったデータを見て、レナは思案した。
 彼女は進撃しながら、周辺に通常型レギオンを解き放ち、索敵用途に使用している。
 各種データを共有しながら、必要ならば演算も行わせることで、様々な戦況を先取りして有利に動くための行動である。
 そして受け取ったのが「レリギオス・グロンバイン、動く」という情報であった。
「額面通りなのか、それともこちらに気づいての策略……?」
 色々なデータを参照しながら、レナは思考を巡らせる。
 正直、相手としてはどちらもありうると思う。
 だが、ここまでEDENと交戦を続けてきたはずで、それにより作戦に対応する柔軟性は大きく失われているはず。
 で、あれば。
「あれは策略ではありません、撤退途中です!
 それならば行きますよ! みんな、突入準備!」
 レナの号令一下、それまで以上にレギオンたちが忙しく動き始めた。

 一方、強襲型機甲兵器の群れは、撤退もとい転進を目論んでいた。
 幾多のEDENとの交戦の中で大きく部隊規模を削られ、虎の子の航空戦闘機械部隊にも大きなダメージを負った彼らは、当初の目的である「紅涙流離軍内での発言力増加」を困難であると判断せざるを得なかった。
 それどころか、もはや部隊の戦闘力を保つのにも相応の苦労をする有様。
 よって、これ以上の戦闘に益はないと判断するのは合理的であった。
 こうして、彼らは転進を開始したのだが……彼らは運がなかった。
 この隊列の最後尾に、レナが行き当たったのである。
「ミサイリア全機、マザーからリフトオフ!」
 レギオンの母機であるマザーの下方ハッチが次々と開き、内部に懸架された特技兵型レギオン「ミサイリア」たちの姿が明らかになった。
 充電ラックでもある格納庫から次々と投下され、落下する前に浮遊する。
 こうしてマザーの周囲は、立体的陣形を組むミサイリアでいっぱいになっていた。
「レギオン各機は戦闘陣形を維持! ミサイリアの射撃は別命あるまで待機です!」
 そんなレギオンたちに、レナはキビキビと指示を下していく。
 ジェネラルレギオンとしての彼女の力量は疑うまでもないだろう。
 レギオンたちもそれに応え、遅滞なく命令を実行しているから、これはレナとレギオンたちの相性も良いと形容するべきなのかもしれない。
 ともあれ、彼女たちはマザーを中心に飛行して近寄り……その時を迎えた。
「全ミサイリア、ミサイル一斉発射! ミサイル弾幕の雨あられです!」
 レナの命令とともに、ミサイリアたちの搭載ミサイルが一斉に点火した。
 蜘蛛の巣の様に複雑な軌跡を描きながら、ミサイルは眼下の戦闘機械群の後列に殺到。
 一斉に炸裂して、効果範囲内の戦闘機械群を次々と吹き飛ばす!
 サブアームが、へし折れたライフルが、首が爆発の中を舞う。
 その後には、粉々になった強襲型機甲兵器たちの残骸だけが転がっていた。
 緒戦については大勝利と言っていい戦況だろう。
 だが、戦闘機械群もカカシではありえない。
 一斉に散り、ビルの影などに隠れてエネルギーライフルでの反撃を開始した。
 狙いは流石に正確で、その光条は正確にレナを射抜こうと迫りくる。
 それは正確に頸動脈や頭など、人体の急所を狙っている……!
 だが、当然ながらその状況は予期するところである。
「ガード、展開です! 敵の攻撃をバリアで防いでください!」
 マザーの周囲数カ所に展開されたレギオン「ガード」が一斉にバリアを展開した。
 高出力のエネルギーバリアの前に、エネルギーライフルから放たれたエネルギー弾はその表面で儚くも消え去ってしまう。
 別方位からも射撃が来るが同じ事。
 レギオン・ガードは、そのバリアが薄くなってしまう箇所を補い合うように配置されているため、全周囲をカバーすることができている。たとえ後方からでもその守りが翳ることは決してないのだ。
 更に、地上の戦闘機械群に不利な点がもう一つあった。
「レギオンの観測情報をデータリンク! ミサイルの誘導性能を高めていきますよー。
 少々の遮蔽で防御できたとは思わないことです!」
 ミサイリアの発射するミサイルが、高い誘導能力を有していたことだ。
 このため、ビルの影に隠れても、屋上や路地の入口からミサイルが入り込み、炸裂するという事態が続発したのである。
 閉所の爆発は更に凄まじく、もはや機甲兵器はネジ一つもまともに残らない。
 輜重兵型「トランスポーター」に動力やミサイルの補給も受け、状況は盤石と思われた。

 だが、ここで戦況が一変する。
「あれは……航空戦闘機械ですか!」
 強襲型機甲兵器の支援要請を受諾し、航空戦闘機械部隊が到来したのだ。
 爆撃機型の大型ミサイルはミサイリアのそれよりも遥かに威力が高いし、護衛の戦闘機型の機動力も侮ることはできない。一方で、レナの座乗するマザーは人間を上に乗せているということもあり、機動力や速度はそう出せない。
「くっ、仕方ありません……! レギオン、至急敵の弾道計算を!
 あれとまともにやり合ってはいられません、攻撃は継続しつつも振り切ります!」
 レギオンはデータリンクにより、高い演算能力を持つ。
 その力を弾道計算に使い、一番厄介な爆撃機型の攻撃を振り切ることにしたのだ。
「マザー、緊急上昇! ガードは下方に集中、破片を受け止めます!
 アビエイターは緊急展開して、下からマザーを押してください!」
 急上昇に伴い、レナの身体に急激な|G《重力加速度》がかかった。思わず声が出そうになる。
 一瞬遅れて、急激な揺れ。これはミサイルの炸裂によるもの。
 破片などは受けきったものの、周辺の空気の揺れまでは防ぎきれなかったのだ。
 いずれにせよ、肉体的な強化を受けていないレナにとっては大変な負担だ。
 だが。
(レギオンたちにみっともない姿を見せるなんてできません……!)
 その一念で、彼女は耐えきった。マザーから手を離さなかった。
 その精神の強さは、この戦いの中で最も特筆すべきものだったかもしれない。
 肩に乗ったレギオン・リーダーが惚れ直したなどという余録もついてきたが……。
 それはともかく。
「戦場の制圧率80%オーバー。航空部隊が来なければもう少し上げられたんですが」
 少し悔しそうにレナは呟く。
 レナ自身が攻撃を引き付けたために、ミサイリアはむしろ攻撃に集中できたのだが、レナにとっては必ずしも本位の数字というわけではない。
 しかし、前のぬりかべ戦と異なり、必ずしも有利な状況ではなかった。
 その状況で80%という全滅同然の数字を出したことは、むしろ驚異的であろう。
 という旨の意志をリーダーに伝えられたのか、レナから眉間のシワがすっと消えた。
 横のリーダーにコクリと頷く。
「うん、あなたの言う通りだね。ここはこの数字に満足しようか。
 ……撤退します!」
 展開していた各種レギオンをマザー腹部に収納し。
 レナとマザーは、全速力で航空戦闘機械部隊を振り切ったのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シアニ・レンツィ
とうちゃーく!
あー!あなたたちがグロンバインだねっ!?思ってたより小さいしいっぱいいるなんて思わなかったよ。
このあたしを騙すなんて……、さすが√ウォーゾーンの謀略!(勘違い思い込み)

√能力で妖精さんたちを召喚。
見切りで射線を読みながらステップで回避しつつ距離を詰めていくね。避け切れないものは魔術で硬化させたマフラーでガード。
そのままハンマーでなぎ払ってまとめて攻撃ー!
ミドリたちには風矢で周りへの牽制と、敵が跳躍したらそれに合わせて撃ち落とすようお願い。クールな一撃、期待してるよ!

あなた達はきっと全然気にしてないだろうけどさ、みんなすごく怖がってるんだよ。
反省しておうちに帰ってねー!

●空色の竜少女は活路を開く
 戦闘は収束しつつあった。
 EDENたちの波状攻撃により、行軍を続けていたレリギオス・グロンバイン所属の強襲型機甲兵器たちは大幅に数を減らし、もはや集合意識を保てるかどうか、というレベルにまで数を減らしていた。
 ここにきて、ようやく彼らは撤退を決断する。
 トリガーさえ発動できれば便利な『紅涙』の√能力だが、もはやそれは絵に描いた餅になりつつあり、それどころか自身の生存すら危ういのだから。
 彼らは、行きに使った道から√ウォーゾーンへと撤退するべく移動を開始した。
 幸いと言うべきか、あるいは『紅涙』が事変を起こしたから発生したのか。
 道は近く、彼らは残兵を安全に撤退できる見込みであった。
 その時だった。
「とうちゃーく!」
 ききっと両足でダッシュを止め、一人の少女がその戦列の前を塞いだ。
 そう、シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》の見習い羅紗魔術士・h02503)である。
 彼女は空色の指をびしっと突きつけて、大きな緑色の瞳を戦闘機械群に向けた。
「あー!あなたたちがグロンバインだねっ!?
 思ってたより小さいしいっぱいいるなんて思わなかったよ」
 その言葉に、思わず強襲型機甲兵器たちの足が止まる。
 止める必要はないはずなのだが。
 だがそうしなければならない、と思わせる迫力が目の前の少女にはあった。
 まあ、盛大に勘違いをしているようではあったが……。
「このあたしを騙すなんて……さすが√ウォーゾーンの謀略!」
 ごごごごご、と背中で炎が燃え上がる。気がする。
 どういうわけだか、シアニは強襲型機甲兵器たちをグロンバインの構成要素だと思いこんでいるようであった。
 もしかしたら、何らかのロボットアニメでも見たのかもしれない。
 数千億以上の機体が合体する主人公機も、世の中には存在するぐらいだし。
 とはいえ、別に戦闘機械群にシアニの勘違いを訂正する理由はない。
 シアニとの認識はすれ違ったまま、戦闘が行われることになったのだった。

「妖精さん妖精さん、どうかみんなを助けてください」
 先手を取ったのはシアニだった。
 戦場ににわかに一陣の風が吹き渡り、それとともに無数の妖精の幻影が現れる。
 √能力【|妖精さんのお手伝い《サモン・フェアリーズ》】である。
『こんにちはシアニさん! 今日の御用はなんですか?』
 先頭に立った黒髪と緑の瞳の妖精、ミドリが一礼しながら問いかける。
 くるくるきびきびとした仕草が可愛らしいが、どうも本人はクールで売りたいらしい。
「こんにちは、ミドリ! 今日はね……」
 そんな風に指示を下した直後。
 じゅっ。
 シアニとミドリ、ふたりの間をエネルギー弾が横切った。
 幻影ながら髪の一房が巻き込まれ、ミドリの顔面が蒼白になる。
『ちょっとシアニさん、今度は一体何に巻き込まれ』
「……クールな一撃、期待してるよ!」
 そう言い残すと、シアニはそのまま戦闘機械群に|吶喊《とっかん》してしまう。
 ミドリはちょっと天を仰ぎたくなった。

 周りのペースを巻き込むシアニに対し、戦闘機械群はあくまで冷静だった。
 個体の戦闘能力はともかく、数における優位性は明らかなのだから、それを活かして押し切ってしまえば良いのだ。
 そう結論した彼らは、手にしたエネルギーライフルをじゃきりと構える。
 そして即座に撃ち放ち、弾幕を形成。
 高出力、かつ無数のエネルギー弾が一斉にシアニに襲いかかった。
 だが。
「狙いもタイミングも見え見えだよ!」
 シアニにはそうした戦闘機械群の行動全てを見切っていた。
 銃口の向き、引き金を引くタイミング、エネルギー弾の飛来する速度。
 その全てが彼女の視界に「見えている」のだ。
 ならば、それに合わせて足が動けば回避できる……!
 複雑なステップを踏みながら、シアニは走る。
 その手には超重量の竜漿兵器『シアニハンマー+50』が握られているが、軽やかかつ素早いステップはそれによっての阻害を一切受けていないようだった。
 たっ、たたっ、たたっ!
 前へ、横へ、そして再び前へ。
 ステップを踏む度に、何発ものエネルギー弾が無駄撃ちとなり、あらぬ方向へ飛ぶ。
 時に命中弾も飛ぶのだが。
「マフラー! 止めちゃって!」
 硬化した『シアニマフラー』が、羅紗魔術の力により優れた耐弾防具となって、しなやかに攻撃を受け止めてしまう。
 更には、後方からのミドリの支援もあった。
『シアニさんの敵を足止めしますよ。てーっ!』
 風の矢が銃を構えた戦闘機械群の手に、あるいはカメラアイに突き刺さった。
 そうした者たちの銃は当然当たらない。撃てる者の数も減る。
 密度を減らしたエネルギー弾をかいくぐりながら、シアニは一気に懐へと入り込んだ。
「ハンマーいくよー! どっせーい!」
 竜の膂力でシアニハンマー+50が振るわれた。
 度重なる強化で驚嘆すべき強靭さと柔軟さを手に入れていた竜漿兵器は、容易く複数の機甲兵器を巻き込み、草を刈るように吹き飛ばす!
 冗談のように、機甲兵器たちが打ち据えられ、吹き飛ばされていく。
 時には、ハンマーの一撃を受けるだけで粉々になってしまう者さえいた。
 そうして戦闘機械群を機能停止させながら、シアニは敵陣深くへ斬り込んでいった。
 だが、それに反応する者もいる。
「回避っ……違う、これ√能力だ!」
 そう、強襲型機甲兵器の持つ√能力【敵陣急襲】である。
 敵の攻撃を回避する効果を持つが、真に恐るべきはこのあとだ。
 跳躍してシアニのハンマーを回避した機甲兵器の姿がすっと薄れていく。
 それは電磁波吸収型の熱光学迷彩。
 これにより、彼らは敵前でありながら隠密状態となることができるのだ。
 そこからの一撃が回避しにくいのは言うまでもないだろう。
 使われれば使われるほど、シアニにとっては不利となる√能力である。
 しかし、それでもシアニが怯むことはなかった。
 後ろにいるミドリに声をかける。
「今だよミドリ! クールな一撃、お願いね!」
『お任せくださいシアニさん! クールな妖精のCoolな一撃、お見せします!』
 ミドリの声とともに、戦場を一条の風矢が疾る。
 その一撃は……なんと、熱光学迷彩で消えたはずの機甲兵器の胸板を貫いた!
 熱光学迷彩が機能停止し、着地しそこねた機甲兵器は、首から落下、動かなくなる。
 その瞬間、感情のないはずの戦闘機械群の集合意識に、戦慄めいたノイズが走った。
 まさかこの√能力が破られることがあるだなんて……!
「やっぱり! 光学迷彩で消えても着地の瞬間までごまかせるわけじゃないんだ!」
【敵陣急襲】は一見完璧な回避と反撃のプロセスだが、ここには大きな落とし穴がある。
 彼らは回避中に熱光学迷彩を用いるが、消えたからと言って、着地地点やタイミングまで隠蔽することはできないのだ。つまり、回避した時点でモーションを見切っていれば、着地を狙って攻撃することが可能なのである。
 そして、直接攻撃するシアニにそれが難しくても、後方のミドリなら……!
『どうですシアニさん、まさにCoolな一撃だったでしょう?』
「うんうん、すごいよミドリ、ありがとー!」
 えへんと胸を張るミドリに、シアニは心からの称賛の言葉を投げかける。
 それだけの価値のある、狙いすました一撃であった。
「……それじゃ、続きしよっか?」
 シアニがハンマーを構え直す。戦闘機械群が一歩後ずさる。
 その無感情なカメラアイに、彼女は言った。
「あなた達はきっと全然気にしてないだろうけどさ、みんなすごく怖がってるんだよ」
 破壊された町並み。度重なる攻撃と爆撃で凹んだ街路。
 そしてまだ破壊されていない建物からは、怯えた住民たちの目線。
 この全ては、戦闘機械群が『紅涙』の√能力目当てに引き起こしたことだ。
 それを許すつもりは、シアニには一切ない。
「反省しておうちに帰ってねー!」
 シアニは再びハンマーを振りかぶった。

 こうして、紅涙流離軍にレリギオス・グロンバインが派遣した戦闘機械群は、多くのEDENの手によって討ち滅ぼされた。
 戦闘の帰結は未だ明らかではない。
 だが、きっといい方に転ぶことだろう。
 少なくともシアニは、そう信じていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

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