シナリオ

恐怖と苦痛の再放送

#√汎神解剖機関

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 #√汎神解剖機関

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●心の傷跡
 何年も前に廃業したという廃ホテル。そのホテルは現在心霊スポットとなっており、若者たちが肝試しで度々訪れるという。その日の夜も、鍵の壊れた裏口から侵入する二人の若者が。
「いや~、雰囲気あるな」
「最上階のレストランで写真を撮ると、確定で幽霊が撮れるらしい」
「面白そうじゃん。言ってみようぜ!」
 懐中電灯の明かりだけを頼りに階段を上り、ホテルの最上階を目指した。
 カツン、カツンと、階段を上る音が、闇に溶けてゆく。――ふいに、ノイズのような音が鼓膜を打った。
「ん? なんか聞こえなかったか?」
 一人が、後ろを歩いていた連れへと振り返る。連れの男は大きく目を見開き、わなわなと唇を震わせていた。
「あ、ああ、ア……」
 うわごとのように、呻き声を上げている。
「おい、どうした……」
 不安に駆られたもう一人が、震える肩へと手をやった瞬間。
「うわああああっ! や、やめ、やめてくれええぇっ!!」
 連れの男は絶叫し、半ば転げ落ちるように階段を駆け下りた。
「は!? 一体どうしたんだよ!?」
 何が何だかわからない。残されたもう片方は呆然としながら……突然背後に気配を感じ、恐る恐る視線を戻す。
 次の階へと至る踊り場に、一人の少年が立っていた。彼にはその少年に見覚えがあった。弟だ。子供の頃に交通事故に遭い、死んだはずの弟。あの時のように、血まみれのまま。
「……なんだよ、これ……」
 事故が起きた時、彼は弟の隣に乗っていた。弟だけが、不運にも死んでしまったのだ。蘇る恐ろしい記憶に、彼の心は真っ赤に塗り潰される。

●抉る幻
「件の一般人二名は、後にホテル近くの路上に倒れているところを発見されています。ですが、両者とも精神に異常を来し、治療には時間が掛かるのだとか」
 |泉下《せんか》・|洸《ひろ》(片道切符・h01617)は瞳を伏せていたが、ゆっくりと息を吐き、視線を上げる。
「危険な怪異が復活し、廃ホテルを根城としているようです。肝試しにホテルへと訪れる人々の精神へと干渉し、心の傷を抉る幻を見せることで、精神崩壊状態に陥らせています」
 このままでは、新たな犠牲者が出てしまう。廃ホテルへと向かい、この怪異を倒してほしい。ただし、状況はそう単純なものではないと、洸は続ける。
「廃ホテルへと足を踏み入れれば、√能力者である皆様も幻を見ることになります。個々人の記憶……悲しみ、恐怖、混乱。あらゆる負の記憶を糧とした幻です。皆様には幻を乗り越え、最上階にいる怪異たちを倒していただきたい」
 最上階への階段を上る時、怪異による精神干渉によって、貴方たちは各個人の記憶に基づいた幻を見ることになる。怪異の力が働いているため、増幅された恐怖として現れる場合もあるだろう。それは貴方自身の恐怖であり、弱さでもある。なお、この幻は、記憶の持ち主である貴方だけにしか見えない。
「幻を切り抜けるための心構えを忘れずに……強き心で挑み続ければ、幻はいずれ消え去るでしょう」

マスターより

鏡水面
 こんにちは、鏡水面です。誰にもあるであろう心の痛み。今回のシナリオでは、その痛みに向き合っていただきます。悪意に満ちた幻を乗り越え、元凶である怪異を倒しましょう。
 
 第1章
 怪異の精神干渉により、貴方の記憶に基づいた幻を見ることになります。
 幻を消し去らないかぎり、先に進むことはできません。
 プレイングには、貴方の悲しい記憶や嫌な思い出を書いてください。
 そして、生じた幻をどのようにして乗り越えるかを書いてください。

 第2章
 幻を乗り越えた先、最上階のレストランに続く廊下で、貴方たちは最初の怪異と遭遇します。まずは『ヴィジョン・ストーカー』の群れを倒しましょう。

 第3章
 無事、ヴィジョン・ストーカーを倒し終えた場合、レストランのフロアへと到着します。今回のボスである『ヴィジョン・シャドウ』がいますので、倒しましょう。

 その他詳細については、OPや各選択肢の説明をご確認ください。
 プレイングの採用状況については雑記にも記載しますので、ご確認いただけますと事故が減ります。
 ここまで読んでいただきありがとうございます。それでは、皆様のご参加お待ちしております! 
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第1章 冒険 『怪異の精神干渉』


POW 強靭な精神力で耐える
SPD 干渉に同調して発生源を探す
WIZ 魔術的な精神防御を展開する
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧嶋・菜月
最悪の思い出といえば、決まってる。私だけがこの世界に取り残された日。私が『呪い』になった日。
きっとこの先では、あの日一緒に肝試しに行った友人たちが、怪談通りに呪いで痣だらけになった身体で私を見つめているのだろう。
『どうしてお前だけ』
『早くこっちに来てくれ』
……ああ、全く。

「趣味が悪すぎる」

恨まれているのだろう。呪われているのだろう。だから私は『こうなった』のだろう。
それでもそちらに行けない理由はただひとつ。
「私はまだ行くわけにはいかないわ」
私が生きる限り、|肝試し《怪談》は終わらない。
私が人だった頃の、最後の思い出を終わらせるわけにはいかない。

[POW] [アドリブ○]

●終わらぬ|肝試し《怪談》
 静まり返る廃ホテル。過去の賑わいも人の温かさも、とうに消え失せた。今はただ壊れかけの物品が残るだけの、無価値な場所だ。
 |霧嶋《きりしま》・|菜月《なつき》(最後の証人、或いは呪いそのもの・h04275)は、上階に続く階段へと足を踏み入れた。怪異が見せるという幻を、乗り越えるために。
「最悪の思い出といえば、決まってる」
 ――私だけが、この世界に取り残された日。私が『呪い』になった日。
 耳元でノイズが聞こえた。怪異の精神干渉が、かつての記憶を呼び起こす。闇から滲み出すように、『彼ら』は菜月の前へと姿を現した。
「……やっぱり、そうよね」
 やはり、彼らが私を迎えに来た。あの日、共に肝試しに行った友人たちが。
 その顔や首、腕や足は、びっしりと痣で埋め尽くされていた。怪談通りの、死へと誘う呪いの痣――友人たちは濁った眼を見開き、菜月を見つめている。
『どうしてお前だけ』
『早くこっちに来てくれ』
 お前もその声を聞いたのだろう。だというのに、なぜお前はまだ生きている?
 請い願うような、責め立てるような、友人たちの声が頭の中に響く。なぜ、どうして、一緒に死んでくれなかったのか。
『また一緒に肝試しをしよう。だから、この手を』
 一人の友人が痣だらけの手を菜月へと伸ばす。菜月はその手を取らずに、深い溜息をついた。
 ……ああ、全く。
「趣味が悪すぎる」
 階段に佇む彼らの間を抜け、前へと進む。
(「恨まれているのだろう。呪われているのだろう。だから私は『こうなった』のだろう」)
 彼女は想う。それでもそちらに行けないと。かつて人だった頃の、最後の思い出を終わらせるわけにはいかない。
「私はまだ行くわけにはいかないわ」
 私が生きる限り、|肝試し《怪談》は終わらない。私だけの|肝試し《怪談》は、まだ終わっていない。
 友人たちの幻は、悲鳴を上げながら闇に溶けて消えた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

カラス・六号
【POW】
『記憶に干渉するらしい、そうらしい』欠落した声を電気的な抑揚のない声が補う

さて、そうこう歩いていると、そこは昔懐かしい研究所。
私を弄り回した大人と私に優しい大人と私のお姉ちゃん達
一歩ごとに総数が減って、私のタグが増える
消えて、消えて、消えて、モニターに映る、最後のお姉ちゃんが死ぬ姿
そしてひとりぼっちの私
『責任を取れ!』『死にたくない!!』『コイツが不甲斐ないから!』響く怨嗟と絶望の声

『知ってる、覚えてる。分かってる』
『でも、私は知っている。その絶望の果てで足掻いた人達を。』
『私はその人達の生み出した誇りなので』
『邪魔』
ガトリングが唸る。幻を貫いて、硝煙の匂いがした。
歩く。歩く。歩く。

●忘れない
『記憶に干渉するらしい、そうらしい』
 抑揚のない機械音声が、廃ホテルの廊下に響く。|カラス・六号《鴉計画第六号実験体》(最後の鴉・h02935)は、くるりと周囲を見回した。
 ザザ……ッ。
 ノイズが鳴る。直後、ホテルの廊下は景色を一変させた。記憶に深く刻まれた場所、研究所の廊下へと。様々な実験機材や改造体の管理システムが備わった施設。白い壁と廊下が続く中を、六号は歩く。
 歩く先、見覚えのある姿が彼女を待ち構えていた。
 彼女を弄り回した大人、彼女に優しかった大人、彼女の姉たち。記憶に残る存在が、リアルに映し出される。
『懐かしい顔がたくさん』
 六号は懐旧に浸りながら、一歩ずつ歩を進めていった。
 歩く度、懐かしい姿は霧散して消えていく。歩く度、六号が身に着けるタグが増えていく。
 無数のタグは六号へと絡み付き、冷たい金属音を奏でる。
 消えて、増えて、消えて、増えて。消えて、消えて、消えて――。
 歩んだ先、前面に大きなモニターが現れる。そこに映るのは最後の姉が死ぬ姿と、ひとりぼっちの六号。
 怨嗟と絶望の声が、モニターから大音量で響き渡る。
『責任を取れ!』
『死にたくない!!』
『コイツが不甲斐ないから!』
 脳内に反響するその声へと、六号は首をゆるく横に振った。
『知ってる、覚えてる。分かってる』
 涼やかな機械音声が、モニターの中の声へと語りかける。
『でも、私は知っている。その絶望の果てで足掻いた人達を』
 六号はモニターを真っ直ぐに見据える。その瞳に迷いは無い。
『私はその人達の生み出した誇りなので』
 はっきりと記憶に焼き付いている。大人たちと姉たちの、覚悟と優しさに満ちた顔を。
 怨嗟が何だと言うのだ。絶望が何だと言うのだ。
『邪魔』
 ガトリングを撃ち鳴らす。唸る弾丸で幻をすべて貫けば、硝煙の匂いが鼻腔を満たした。
『幻なんかに私の歩く道は塞げない。全部、全部、粉砕するから』
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
行動:POW

両親を目の前で喪った時の記憶を見る
戦う力なんて持っていなかった幼い頃
何もできない俺の目の前で、両親は戦闘機械群に撃たれて、あっさりと死んでしまった

幻で見せられるまでもなく、この光景は何度も夢で見ている
何もできなかったことも、両親がもう戻ってこないことも
今から変えることはできない

心を切り刻まれるような幻をただ目を逸らさずに真っ向から見つめて、精神力で耐えて振り切るよ

俺はあの時何もできなかった分、誰かを助けなければいけない
過去に囚われて足を止めている暇はないんだ
そう自分に言い聞かせて、前に進み続けるよ

※アドリブ歓迎です

●過去を越えて
 闇の中に佇む廃ホテル。その内へと、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は足を踏み入れた。
(「あらゆる負の記憶を糧とした幻か。……何を見せられるかは想像がつく」)
 覚悟を決め、最上階に続く階段へと足を掛ける。数段上ったところで、耳障りなノイズが耳を覆った。
 ノイズが消えた後。空気を切り裂くような音が飛来する。
 その音には聞き覚えがあった。戦闘機械群が人々の居住区を襲った時、このような音を響かせていた。
 クラウスは上を見る。戦闘機械群が、空を埋め尽くしていた。やはり、両親を目の前で喪った時の記憶か。
(「これで何度目だろう。もう数え切れない――」)
 無慈悲な銃声、人々の悲鳴。命は吹けば飛ぶ塵のように、呆気なく散っていく。
 幼いクラウスに戦う力などあるはずもなく、彼は『守られる』しかない存在だ。
『逃げて! クラウス!』
『逃げるんだ、クラウス!』
 懐かしい両親の声。それはクラウスの記憶に刻まれた声か、怪異が編集したアドリブか。
 目の前に両親の姿が在る。必死に、クラウスへと呼びかける両親の姿が。
 無数の弾丸が雨のように注ぎ、両親の体を穴だらけにした。血に染まり倒れ伏す両親を、クラウスは真っ向から見つめる。
「……何度見ても、慣れないな」
 悪夢を見る度、心を切り刻まれる。それでも目を逸らさないのは、現実から目を背けたくないから。
 何もできなかったことも、両親がもう戻ってこないことも、今から変えることはできない。――だからこそ。
(「俺はあの時何もできなかった分、誰かを助けなければいけない。過去に囚われて足を止めている暇はないんだ」)
 自分に強く言い聞かせ歩を進める。両親の屍を越えて、未来へと歩む。
(「進め、ひたすらに。進んだ先にだけ救える命があるんだ」)
 前へと進み続けるうちに、心を搔き乱す音はしだいに遠退いていった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

緇・カナト
病的に真白い部屋のなか、
置かれた手術台、実験台上に
白いモルモットが拘束されている
噎せ返るほどに漂う薬品の匂い
散らばる薬瓶、注射器のシリンジ、針の山
やがて白かった其の姿は
真っ黒に変色させられていて、

さて、
……此れは如何したモンかね?
見せられている幻に過ぎないらしいが
とりあえず喰ってみようかと
手を伸ばしてもみて

負の記憶、刻まれた過去が変わる事はなく
恐れや弱さといったモノを抱えたままでも
前に進めなかったこともない
オレからして見れば
全く得るモノがなかった訳でもないが
まぁ、なんだな
こんな胸クソ悪い光景を
何度も見せられるのは不愉快極まりない
元凶を見つけ出してシメないと気が済まんなァ
最上階まで上がるか

●白から黒へ
 待ち受ける幻とは如何なるモノか。廃ホテルへと侵入した緇・カナト(hellhound・h02325)は、最上階に続く階段を上り始める。
 ザザー……。
 雑音が頭の奥を撫でた。テレビのチャンネルが切り替わるように、視界に映る景色が変化する。
 病的な真白に囲われた部屋の床には、薬瓶や注射器のシリンジ、針の山が無数に転がっていた。中心には手術台が置かれている。台上に拘束された白いモルモットが、か細い鳴き声を上げていた。
(「実験用のモルモットか」)
 その色は真白から真っ黒へと瞬く間に色を変える。
 噎せ返るような薬品の匂いの中。カナトはモルモットをじっと見つめた。
「さて、……此れは如何したモンかね?」
 とりあえず喰ってみようか。カナトはモルモットに手を伸ばす。
 手の中でモルモットがキーキーと喚きながら藻掻いた。だが、結局は無力だ。小動物がいくら足掻こうと、手からは逃れられない。
 カナトは手の中のソレに牙を立てる。柔らかな食感と、共に感じたのは濃厚な鉄の味。次に広がるのは薬剤の香り。どろりと粘着いた舌ざわりが、口の中に熱く残る。
「薬漬けの肉ってのは、こういう味なのかね?」
 食べかけのモルモットは泥水のように溶け出して、床へと落下した。これではもう食べられない。
「……ま、幻が再現する味なんざ、まったく信用ならないが。悪趣味な演出だ」
 手に残った泥水を払い落とし、カナトは歩き出す。
 負の記憶、刻まれた過去が変わることはない。だが、恐れや弱さといったモノを抱えたままでも、前に進めないなんてことはなかった。
「オレからして見れば、全く得るモノがなかった訳でもないが。まぁ、なんだな」
 ふう、と軽く息をついて。彼はその瞳に刃の如き鋭さを宿した。
「こんな胸クソ悪い光景を、何度も見せられるのは不愉快極まりない。元凶を見つけ出してシメないと気が済まんなァ」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』


POW 影の雨
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
SPD 影の接続
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
WIZ 影の記憶
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 負の記憶から生み出される幻を越えた先。
 √能力者たちは最上階へと到達し、レストランに続く廊下へと入った。
 廊下には多数の『ヴィジョン・ストーカー』が徘徊している。
 √能力者たちの姿を確認するや否や、不気味な笑い声をテレビの中から響かせた。
「あれ、コイツラ正気を保ってるよ?」
「面白くない。オモシロクナイ。きっとシャドウ様を倒しに来た奴らだ」
「オレたちだけで処理しちゃおう、ソウシヨウ!」
 彼らは不気味な黒い腕を蠢かせながら、√能力者たちへと襲い掛かる。
クラウス・イーザリー
「……退いてもらおうか。俺は今機嫌が悪い」
惑わされてはいないとはいえ、辛い記憶を見せられて良い気分になる筈も無く
八つ当たりのように戦闘に入るよ

初手で決戦気象兵器「レイン」を起動
範囲内の敵を全て纏めて攻撃してダメージを与える
以降は弱った敵に弾道計算+レーザー射撃で止めを刺していくよ

敵からの攻撃は見切りで回避を試みて、手に這い寄られたら喧嘩殺法での蹴りで振り払う
テレビを攻撃した方が効果的ならダッシュで接近して鎧砕きで粉砕する

あの幻を見せた怪異はこいつらを退けた先に居るのかな
一発殴りたいから、早くこいつらを倒してそいつの所に行こう

※アドリブ、連携歓迎です
霧嶋・菜月
テレビ……ね。
「よりによって……」
確かにあいつが絡んでいるならこういうことも可能か。
まったく、本当に全く、趣味が悪すぎる!
まぁ……あれが心に来ないと言ったら嘘になるわけだけど。
「いいわ……みんなの為に背負うって決めたんだから。アンタには、やらせない」
鞄から魔導書を取り出し、詠唱を開始する。
数が多いなら、こちらも数で。炎の鎖は3秒に1本、あなたたちは何処まで追いつくかしら。

(全力魔法/恐怖を与える/WIZ/√忘らるる炎の鎖(偽)) (アドリブ/連携○)
カラス・六号
POW アドリブ歓迎

『私もさっきののせいで面白くないよ。気が合うね君達』
専用WZの視界から敵を見て突撃。装甲で相手の攻撃を埋め止めながら
『そういうわけだからこれは私の八つ当たり。ボムは理想の環境でこそガンガン使う物!』
E.M.P発動
敵を虫に食わせながら、ガトリングとミサイルと魔仏断で放つ、撃つ、斬る、放つ、撃つ、斬るで暴れ回る

『普段の私はもうちょいとおしゃべりなんだけどさすがに思った以上にさっきのでイライラしてたみたいだからさ。ごめんねとは言わないけど、これで幾らかスッキリできたよ。ありがとうね』

索敵、全滅を確認
敵の残骸を後ろに大ボス目がけて突撃突撃
緇・カナト
さて。最上階に着いたってェのに
廊下を徘徊してるのはザコばかりみたいだなァ
ツマラン、
どうせ戯れ合うなら骨のありそうな方がイイ
レストランに陣取ってるだろう親玉の
前菜にもならないような連中なんて
さっさと片付けて先に進むかな

変生せよ、と灰狐狼の毛皮を纏って
手には三叉戟トリアイナを
移動速度を3倍に増しておけば
速さに於いては此方の優位が取れるなら
あとは適度に薙ぐなり貫通させるなりで
群れてるテレビ共を破壊して廻ろう
負の記憶の幻なり影の記憶なり
サル真似ばかりで芸のない……
ニンゲンってゴシップとやらが好きだよなァ
オマエ等の親玉もそんなモンなのか
応えなんざ聞く気もナイんだが

●嗤うテレビ
 ヴィジョン・ストーカーは、ケタケタとノイズ混じりの笑い声を上げている。
 不気味なテレビたちを眺め、緇・カナト(hellhound・h02325)は不服そうに息をついた。
「廊下を徘徊してるのはザコばかりみたいだなァ。ツマラン、どうせ戯れ合うなら骨のありそうな方がイイ」
 『美味い』と書いて『強い』と読む。最上階に着いたというのに、この連中は美味くなさそうだ。
 面白くないと言いながら笑う矛盾の塊を、|カラス・六号《鴉計画第六号実験体》(最後の鴉・h02935)は冷めた眼差しで見つめた。
『私もさっきののせいで面白くないよ。気が合うね君達』
 紡がれる機械音声は、無表情に反して陽気な印象を受ける。しかし、六号の内には明確な苛立ちが渦を巻いていた。
 当然だ。人の心に土足で入り込む、悪趣味な幻を見せられたのだから。
 怪異を睨み、|霧嶋《きりしま》・|菜月《なつき》(最後の証人、或いは呪いそのもの・h04275)は粘つくような不快感を噛み潰す。
 まったく、本当に全く、趣味が悪すぎる!
「よりによって……、確かにあいつが絡んでいるならこういうことも可能か」
 幻覚を見せ、認識に影響を及ぼす。人の心を搔き乱すことに何の躊躇いもない。
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)の、研ぎ澄まされた刃の如き眼が、テレビたちを真っ直ぐに捉える。
「……退いてもらおうか。俺は今機嫌が悪い」
 辛い記憶を、両親が戦闘機械群に殺される瞬間を見せられて、良い気分になる筈がない。
 テレビ画面を赤く光らせ、ヴィジョン・ストーカーたちは黒い腕を伸ばした。
「ねぇ見てよ。ミンナ怖い顔をしてるよ」
「ホントだ。怖い、コワイ!」
「ヒャハハハハ!」
 迫り来る怪異の群れへと、√能力者たちは各々の武器を構える。
「いいわ……みんなの為に背負うって決めたんだから。アンタには、やらせない」
 菜月は鞄から魔導書を取り出した。呪文が記されたページを開き、|忘らるる炎の鎖(偽)《オブリビオン・チェイン》を詠唱する。
 彼女の言霊に反応し、魔導書が炎の如き煌めきを放った。その光は連なり鎖の形を成す。魔術によって創造された鎖は炎の力を宿し、菜月の眼前へと召喚された。
「炎の鎖、余計なモノばかり映す画面を叩き割って!」
 生み出された鎖が、真っ直ぐに敵へと撃ち放たれる――この間3秒。さらに詠唱を続けることで次の炎の鎖が召喚され、立て続けに敵の体を打ち砕く。
「炎の鎖は3秒に1本、あなたたちは何処まで追いつくかしら」
「鬼ゴッコかな? オモシロイ!」
 ヴィジョン・ストーカーは知られざる影の記憶を用い、速度を上昇させた。
 炎の鎖を抜けて迫り来る敵。彼らの攻撃を避けるべく、菜月はその場から飛び退く。
 移動したことで炎の鎖が消えるが、菜月は落ち着き払っていた。
「アンタたちを攻撃するのは私だけじゃないもの。鬼ごっこなんてしてる暇、あるのかしらね?」
 虫が翅を揺らす音が聞こえる。それも一匹ではない。無数の羽音が。
 |E.M.P《イーエムピー》を発動した六号が、飛行節足昆虫を敵群へと解き放ったのだ。
『そういうわけだからこれは私の八つ当たり。ボムは理想の環境でこそガンガン使う物!』
 虫が怪異へと食らいつく。虫の群れに貪られ、ヴィジョン・ストーカーたちが奇声を上げた。
「キャハハーッ!?」
「何だァコイツラ!?」
 ノイズ混じりの不快な音声に、六号は僅かに瞳を細める。
『うるさいね。音量下げてくれない? って言っても、意味ないか』
 それなら破壊してしまえばいい。破壊すれば、音も鳴らなくなる。影の雨を強化装甲で受け止めながら六号は紡いだ。
『虫に食われて壊れちゃうといいよ。君達にはそれがお似合い』
 超高出力プラズマブレイド――TI²-95 "魔仏断"を抜き、虫に気を取られている敵へと肉薄する。急接近する六号に、敵のテレビ画面が赤く点滅した。
「ギャッ……!?」
『虫に食わせるだけじゃ物足りないよね』
 言葉と同時、光の刃でテレビを真二つに切断する。
 火花を散らしながら崩れ落ちる敵に、カナトがヒュウッと口笛を鳴らした。
「いいねェ。オレもメインディッシュの前に、喰わせてもらうとするか。前菜にもならないような連中だが――」
 味くらいはするだろ、と口端を上げて。カナトは灰狐狼の毛皮を身に纏う。
「変成せよ、変生せよ」
 |狂人狼《ウールヴヘジン》を発動し、自身の速度を強化。その手には三叉戟トリアイナを握った。
 その凶器は狂気に満ち、敵を貫けと促すように妖しい輝きを穂先に宿す。
 テレビたちも速度を強化し、カナトへと迫った。腕を振り回す怪異たちを、カナトは呆れが滲んだ眼で見つめる。
「負の記憶の幻なり影の記憶なり、サル真似ばかりで芸のない……」
 襲い来る敵群へと三叉戟トリアイナを振るった。相手から来てくれるならばちょうど良い。カナトは組み付こうとする敵を薙ぎ払う。
「ギャアアアッ!」
 テレビが悲鳴を上げた。耳障りだが、舐め腐った笑い声よりは幾分かマシだ。
 カナトは世間話をするように、テレビへと語りかけた。
「ニンゲンってゴシップとやらが好きだよなァ。オマエ等の親玉もそんなモンなのか」
「ギギ……ッ」
 筐体を貫かれ、テレビが動かなくなる。当然応答はない。だが、仮に応答があったとしても、カナトは聞き流しただろう。
 殺されゆく怪異たち。しかし、彼らは死への恐怖が薄いのか、欠落しているのか。仲間がいくら壊されても、残った彼らは笑いながら√能力者たちへと襲い掛かってくる。
 ――胸の奥がひり付く感覚に、クラウスがぽつりと呟いた。
「……不愉快な笑い声だ」
 クラウスは思う。魂が邪悪だからこそ、人心を抉って愉しむほどに悪辣なのだろうと。テレビたちはクラウスへと黒い腕を伸ばした。
「オニイサンも、遊ぼうよ」
 絡み付く腕に、クラウスは不快を隠さない。
「遊ぶ? ふざけるな」
 クラウスは顔を顰めながら腕を蹴り払う。レイン砲台にエネルギーを注入し、光の粒子を周囲へと出現させた。
 無数に浮かぶ光の粒子はクラウスを取り巻きながら、解き放たれる瞬間を待っている。
「お前たちの遊びは趣味が悪すぎる。俺には合わない」
 冷たく吐き捨て、決戦気象兵器「レイン」を展開する。目標は指定地点から半径22m内に居るすべての怪異。現状の環境に当て嵌めるならば、視界に映るすべての敵だ。
「その笑い声も、叫び声も、すべて雨の音で掻き消してやろう」
 光の雨がホテルの廊下を明るく照らす。突き刺さる雨が、ヴィジョン・ストーカーの軍勢を容赦なく貫いた。
 ――√能力者たちの猛攻の末、悪趣味なテレビたちはすべて破壊された。
『普段の私はもうちょいとおしゃべりなんだけどさすがに思った以上にさっきのでイライラしてたみたいだからさ。ごめんねとは言わないけど、これで幾らかスッキリできたよ。ありがとうね』
 魔仏断を筐体から引き抜きながら、六号が言う。
 廊下の先に見える扉を睨み、クラウスが普段より低い声色で言葉を紡いだ。
「悪趣味な幻を見せた怪異は、あの扉の先にいるんだね」
 叶うならば、この拳で一発殴ってやりたい。菜月も静かに頷いて、前方の扉を鋭く見据えた。無意識に、魔導書を握り締める。
「そうね。あの先に首魁がいるわ。相当に悪趣味で、最低な怪異がね」
 レストランへと続く廊下の空気は、暗く重たい。
 カナトは√能力を一旦解除するが、たとえ武器を仕舞おうとも、その瞳から殺意が消えることはなかった。
「さあ、行こうか。メインディッシュが待ってる」
 √能力者たちはヴィジョン・ストーカーの残骸を抜け、レストランの扉を開いた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『ヴィジョン・シャドウ』


POW 放送休止
【テレビから衝撃】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
SPD 放送禁止
X基の【影の波動が出るテレビ】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
WIZ 放送
【テレビドラマの内容】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【撮影スタジオ】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 かつて宿泊客で賑わったであろう、ホテル最上階のレストラン。
 美しい記憶が紡がれたであろう空間は失われ、今はただ闇に沈んでいた。
 レストラン中央の朽ち果てたシャンデリアが、古びたステージを見下ろしている。
 ステージの上には、大量のテレビが積まれていた。そしてテレビの上には、モザイクで顔の見えない男がひとり。
「やあ。此処まで来たということは、僕の番組にご満足いただけなかった……ということだね。絶対に面白いと思ったのだけれど」
 残念だなあ、とテレビ上の男は穏やかに紡いだ。
 配下たちを倒されても慌てることなく、ヴィジョン・シャドウは√能力者たちを見つめている。
カラス・六号
【POW】 アドリブ歓迎

『幾らか面白かったら少しは穏当にブッ殺してあげるつもりだったけど、アレで自信満々な奴はセンスが合わないなあ。なので、私の一番容赦ないブッ殺し方をするね。出来れば、トラウマで蘇ってもガタガタ震える程になってくれるのが一番良い』(攻撃宣言、同時に左腕装甲をパージ。部位を召喚)

『好きなだけ抵抗しても構わないけど。私が殺すと言ったらもう、貴方は死ぬからさ』(相手の放った振動を装甲と改造された肉体で弾きつつ、左腕に召喚部位装着)

『規格外兵装が接続されましシシシシ…このような者達に対する報いは、火と硫黄の燃える池である。それが、第二の死である。』(距離を詰め、規格外兵装を叩き込む)
クラウス・イーザリー
「悪いけど、俺は面白いとは思わなかったよ」
静かな怒りを湛えながら武器を構える
これ以上被害者を出さないためにも、こいつはここで倒さないと

光刃剣を抜きながらダッシュで接近
積まれているテレビを駆け上って居合で攻撃
敵が攻撃してきたら√能力先手必勝を発動
斧で攻撃して光学迷彩で身を隠す
以降は隠密状態で死角に潜り込み、不意打ちからの居合でダメージを与えていく

放送禁止を使われたら見切り+ダッシュで回避を試みる
命中は下がっているみたいだし、当たらなければ問題無い
自分が隠密状態を保っているなら隠れて凌ごう

悪趣味な上映会は、俺達の手で終わらせよう

※アドリブ、連携歓迎です
緇・カナト
さてさて漸く
ホテル最上階のレストランと
テレビ上で陣取る親玉の御目見えかぁ
オマエの番組に満足…ねェ
他者の内面抉る台本は悪趣味で
高みの見物、見下したような態度は
滑稽な姿にも程がある
面白いエンタメ提供する気があるなら
自身の中身で勝負しろよなァ
せめて殴り合う方では
愉快さを味わわせてくれよ?

宣戦布告の遠吠えひとつに、
モザイク男へ向けて捕縛用の鎖も放ち
足元お留守が厄介そうなんだってな
鎖や廃墟に散らばるシャンデリアなり
足場に出来そうなら利用するが
無理筋だったら二の次でも構わん
本命なのは獣爪化した腕による強撃で
気が済むまで何度だって
衝撃波放つ大量のテレビも巻き添えに
振る舞ってはヤロウとも
霧嶋・菜月
はぁ、やっぱりそうよねぇ。全く……。
実際のところ、的確に心を刺しに来るやりかた、嫌いじゃないのよね。
「面白いは面白いわよ、気に入らないってだけで」

さぁて、ここはひとつ、"主人公"の取り合いでもしてみようかしら?
こちらは当事者、同じ脚本で相手はできないでしょう。その一点だけは優位に立てるわ。
纏わりついた死の気配で、恐怖の中に放り込んであげる。
誰にも聞こえないように、キーワードを呟く。
「███████」
あなたを呪いにすることはできないだろうし、したらしたで最悪なことが起こるんだろうけど……。

(恐怖を与える/インビジブル制御/狂気耐性/√永遠の肝試し/WIZ) (アドリブ/連携○)

●番組は終了
 その舞台は、輝かしい過去の残りカスだ。退廃に満ちた空間の中で、√能力者たちはヴィジョン・シャドウと対峙する。
「悪いけど、俺は面白いとは思わなかったよ」
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は告げる。普段の柔和な彼からは想像も付かない、冷たく硬い声色だ。怒りをその内に閉じ込めて、彼は武器へと手を掛ける。
 ステージに陣取る敵を眺めつつ、緇・カナト(hellhound・h02325)が、くそツマランと吐き捨てる。
「他者の内面を抉る悪趣味な台本が、満足できる内容なワケないだろ? 面白いエンタメ提供する気があるなら、自身の中身で勝負しろよなァ」
 おまけに、高みの見物、見下したような態度と来た。滑稽な姿にも程がある。
 悪辣な作品だ。ただ、見方によっては別の感想もある。
 ――的確に心を刺しに来るやり方は嫌いじゃない。|霧嶋《きりしま》・|菜月《なつき》(最後の証人、或いは呪いそのもの・h04275)は率直に感想を述べる。
「面白いは面白いわよ、気に入らないってだけで」
 面白いと気に入らないは共存する。不快感を感じることに変わりはない、というだけだ。
『幾らか面白かったら少しは穏当にブッ殺してあげるつもりだったけど、アレで自信満々な奴はセンスが合わないなあ。なので、私の一番容赦ないブッ殺し方をするね。出来れば、トラウマで蘇ってもガタガタ震える程になってくれるのが一番良い』
 それは|カラス・六号《鴉計画第六号実験体》(最後の鴉・h02935)の攻撃宣言だ。左腕装甲をパージし、超広範囲光増幅放射断絶兵装"AΩ"を装着する。
 戦闘態勢へと入る√能力者たちに、ヴィジョン・シャドウは歪な笑みを浮かべてみせた。
「そうかい、それは残念だ」
 足元のテレビが瞬いた。瞬間、衝撃が放たれ√能力者たちを吞み込もうとする。
 震度7相当の震動を受けるも、"規格外"級巨大レーザーブレードを手に六号は淡々と紡いだ。
『好きなだけ抵抗しても構わないけど。私が殺すと言ったらもう、貴方は死ぬからさ』
 規格外兵装の起動音声と、六号の機械音声が重なる。
『規格外兵装が接続されましシシシシ……このような者達に対する報いは、火と硫黄の燃える池である。それが、第二の死である』
 人の心が無き者に、安らかな死など与えない。視界を焼き尽くす光が、敵の体を切り裂いた。
 テレビと腕の一部を斬り落とされながらも、ヴィジョン・シャドウは不気味な笑みを絶やさない。
「もしかして、雑魚を蹂躙するだけだと思ってる? 心外だな。僕はそこまで弱いつもりはないよ」
 確かに、放送休止による震動は六号の肉体に激痛を与えている。
 だが、それがどうしたと言うのだ。絶対に殺してみせる。痛みにも六号は表情一つ変えない。
『雑魚だろうと強敵だろうと関係ないよ。言ったでしょ。私が殺すと言ったら、貴方は死ぬって』
 仕留めると決めた敵は逃がさない。激しい揺れの中、カナトがニヤリと口端を上げた。
「いいねェ。オマエの震動とオレの|咆哮《ウルフヘズナル》……どちらがより戦場を震わせられるか、勝負といこうか」
 カナトは恐慌状態を齎す遠吠えを発する。逃れる術など在りはしない、獲物はただ、恐怖の中で息絶えるのみ。齎される遠吠えは否応なく敵の耳へと届き、魂を震わせる。
「ほう、面白い!」
 笑うヴィジョン・シャドウ。その体に虚空から出現した鎖が巻き付いた。テレビと共に縛り上げ、カナトは軽い調子で語りかける。
「犬みてェに鎖に繋がれた気分はどうだ? モザイク男」
「奇妙な気分だね。犬のような君に、鎖に繋がれるだなんて」
 敵は鎖へと意識を向けた。振り解くつもりなのだろう。
 鎖を引き千切られる前に、カナトは敵へと接近。腕を巨大な獣爪へと変異させる。
「ま、本命はこっちだけどな」
 廃墟に散らばる残骸を乗り越え、獣爪を振るった。狂暴な獣の如き強撃が、ヴィジョン・シャドウへと叩き込まれる。
 衝撃に一部のテレビ画面が割れ、筐体にも罅が入る。
「これは負けてられないな」
 ヴィジョン・シャドウはドラマの内容を語り、周辺環境を撮影スタジオへと変える。語られたドラマは、『呪い』になった女の話。
「へえ、その題材で来るわけね。私に対する挑戦状と受け取ってもいいかしら」
 ドラマの演出から繰り出される敵の攻撃が、菜月の精神を乱す。だが、苦痛の中でも彼女は涼しげな表情を崩さない。
「さぁて、ここはひとつ、"主人公"の取り合いでもしてみようかしら?」
 なにせこちらは当事者だ。同じ脚本で相手はできない。その一点だけは優位に立てる。
 ――纏わりついた死の気配で、恐怖の中に放り込んであげる。
 心の中で強くそう念じ、|永遠の肝試し《エイエンノキモダメシ》を発動。語られるのは███トンネルの怪談だ。
 ヴィジョン・シャドウの語りが模造品だとすれば、菜月の語りはオリジナル。
 模造品がオリジナルに勝てるわけも無く、撮影スタジオはトンネルの中へと風景を変える。
「███████」
 菜月の呪いがヴィジョン・シャドウを侵す。
「……ははっ、呪いってのは恐ろしいや」
 積まれたテレビを駆けあがり、クラウスが迫った。いけ好かない笑みを湛える敵を、クラウスは真っ直ぐに睨む。腹の底で煮え滾る怒りを、戦うためのエネルギーに変え、武器を握る手へと込めた。
「怪異にも恐ろしいと思う感情があるんだな」
「感情があった方が、人間を振り回せるだろう?」
 敵の返答に、クラウスは眉間へと皺を刻んだ。
「……前言を撤回しよう。お前は、人の心を玩具としか思っていない」
 ヴィジョン・シャドウが放送禁止の波動を放つ。同時、クラウスは|先手必勝《センテヒッショウ》を発動した。
 影の波動の隙間を縫うように走る。僅かに掠めただけでも激痛が体を襲うが、クラウスが止まることはない。ハンドアックスへと瞬時に持ち替えて、射程まで距離を詰める。
「――遅いッ!」
 斧による攻撃が、ヴィジョン・シャドウの体を容赦なく砕いた。
 攻撃後は光学迷彩を纏い、廃墟の闇に溶け込むことで、影の波動の狙いを逸らす。
 √能力者たちの猛攻に、ヴィジョン・シャドウはモザイクと火花を散らし始める。
「……ちょっとキツくなってきたかな」
 その様子は壊れかけのテレビのようだ。
『余裕ぶってるけど、かなり弱ってきてる』
 六号の言葉に、カナトが返す。
「もうすぐ狩りも終いだな」
「追い打ちを掛けるとしましょうか」
 菜月が言う。全員で畳み掛ければ、怪異を倒せる。
「ああ。悪趣味な上映会は、俺達の手で終わらせよう」
 クラウスも力強く頷いてみせた。
 各々の√能力を、全力で邪悪な怪異へとぶつけてゆく。 
『死ぬ時間だよ。さようなら』
 六号の規格外兵装が敵を光で熱する。
「最後の一口、味わうとしよう」
 カナトの獣爪が獲物を斬り裂いた。裂けた傷口へと、菜月が呪いを注ぎ込む。
「あなたのドラマはここで打ち切りよ」
 仲間の攻撃を追い風に、クラウスが最後の一撃を叩き込んだ。
「お前は此処で――消えろ!」
 手にした斧が、ついにヴィジョン・シャドウの心臓を砕いた。
「ガ、ッ……――ザザー……――――」
 不快なノイズを響かせながら、ヴィジョン・シャドウは力尽きる。人の形は消失し、完全に破壊されたテレビだけが廃墟に残された。
 しだいにノイズも消え失せ、最後は静かな闇だけが、√能力者たちを優しく包み込んだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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