⑨『こんにちは』に『さようなら』
「皆様――ご覧になられましたか、|あれ《・・》を」
王劍戦争第二戦線、開幕。
数多の作戦へと向かうEDENたちを前に、紫水・日日日はいつもと変わらぬ笑顔のまま、しかし心無しか緊張した面持ちで告げる。
――当然だろう。
九州産業大学のキャンパス内部に発生した怪異、『こんにちは』。
その巨大に膨れ上がった威容は思わず目を剥き、何の変哲もない挨拶を耳にし続けてしまえば、遅かれ早かれ何らかの「不可解かつ致命的な災厄」によって惨死する。
耳馴染みのある言葉の中に籠められた極大の呪詛。人間厄災の日日日でさえ冷や汗を禁じ得ない強大な存在だ。
「早急に退散させねばなりませんが、どうやら此度は奇妙な共闘が成るようですね」
そんな言葉と共に指を鳴らせば、スクリーンのように巨大な紫水晶の表面に、多腕銀髪の修道女、いや『聖女』が映し出される。
――聖ポメラニアン。
旧福岡県公会堂貴賓館にて儀式を行っていたはずの彼女は、戦場であるキャンパス内へと降り立ち、この強大な怪異に戦いを挑んでいるのだという。
猫の手も借りたい現状、ポメラニアンの手が借りられるのならば尚良いだろう。
昨日の敵は今日の友、彼女の実力は既に周知のとおり。うまく連携を取ることで、この存在に有効なダメージを与えることができるはずだ。
目的は一つ、『こんにちは』の打倒。
「人類に挨拶の概念をもたらした――それ自体は大変すばらしい功績。ならば我らは、かの存在に言って差し上げなくては」
『こんにちは』へは、『さようなら』と。
「それでは皆様、いってらっしゃいませ。どうかこの|私《むらさき》に、欠けることなく『おかえりなさい』と言わせてください」
マスターより
いえし度お世話になっております、いえし度と申します。
皆様にご満足いただくべく、力を尽くさせていただきます。
●お知らせ
今作戦は王劍戦争『ゾディアック継承戦争』、第二戦線⑨の作戦となります。
王劍戦争の詳細に関してはホームにも御座います専用ページもご一読いただけると幸いです。また本作戦のプレイングボーナスもこちらでお伝えします。
⑨九州産業大学:聖ポメラニアンと共闘する/「致命的な災厄」が発生する前に『こんにちは』を退散させる。
加えて本作戦は『一章完結』となります。予めご了承ください。
●シナリオについて
九州産業大学のキャンパス内に発生した謎の怪異、『こんにちは』。
巨大に膨れ上がったこの謎の怪異を撃退するため、何故か対象と戦闘を行っている『聖ポメラニアン』と共闘し、いち早くこの存在を打倒しなくてはなりません。
一章・👿『ボス戦』
巨大に膨れ上がった謎の怪異『こんにちは』との戦闘となります。
敵は非常に強大であり、意思疎通は不可能です。
募集は断章掲載後に行います。
皆様のご参加をお待ちしております。
41
第1章 ボス戦 『『こんにちは』膨張体』
POW
こんにちは
60秒間【こんにちは】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【こんにちは】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
60秒間【こんにちは】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【こんにちは】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
SPD
こんにちは
「【こんにちは】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
「【こんにちは】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
WIZ
こんにちは
【こんにちは】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
【こんにちは】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
●
『こんにちは』
異様であった。威容であった。
『こんにちは』
手を挙げているが如く、うねる身体。
一方で黄金に輝くその表情が浮かぶ顔とも言えぬそれは、ただ穏やかに、にこやかに、まるで害を感じぬ微笑みを浮かべている。
『こんにちは』
こんにちは。挨拶をされている。では返さなくては。
こんにちは、こんにちは、こんにちは――。
「おや、皆様。どうも『こんにちは』」
皮肉るような挨拶を伴いながら。EDENの前に現れた聖ポメラニアンは、四つの腕に武器を携え、空いた手で頬に浮いた汗を拭った。
浮かぶ巨体は変わらず、同じ台詞を吐き続けている。少しでも気を抜けば、その呪詛が√能力者であっても構わず取り込まんとするだろう。
「ゾディアックに関しては言いっこなしです。私のかわいい名前に免じて目をつむってください。今はただ、あれを祓わなくては」
聖女は告げる。
「神に従いなさい。そして悪魔に立ち向かいなさい。そうすれば悪魔はあなたがたから逃げ去ります。――|御霊《かみ》の|剣《ことば》を以て、災厄を断ちましょう」
これは、世界を救う戦いである。
●追加情報
共闘に際して、聖人蘇生庁聖者『聖ポメラニアン』の√能力をこちらに併記します。参考になれば幸いです。
POW:|聖十字断罪《クルクス・エト・セクーリス》
自身の負傷1回ごとに、【聖人】の腕が1本生える。[聖人]は、追加の腕1本につき1回、【|救済十字剣《クルクス・ポエナ》】による近接攻撃か【|神言拘束術《ウェルブム・ヴィンクルム》】による遠隔麻痺を行使できる。※どんなに小さな傷でも、[聖人]が認めれば負傷1回と数える。治れば腕も消える。
SPD:|聖刻印弾《スティグマ・アルゲントゥム》
【水銀】属性の弾丸を射出する。着弾地点から半径レベルm内の敵には【|聖痕刻印《スティグマ》】による通常の2倍ダメージを与え、味方には【|祝福刻印《ベネディクティオ》】による戦闘力強化を与える。
WIZ:|聖香浄天《トゥリブルム・プルガティオ》
半径WIZm内の任意の有機物・無機物全てに【香炉からの香り】を注ぎ、WIZ×1時間活動可能なエネルギーを与える。注ぐ[香炉からの香り]を1体(人物・武器・乗騎等)に集中すると、対象を【|審判天使《アンゲルス・ユディキイ》】化して硬度強化と【|神聖光線《ルクス・ディヴィナ》】攻撃能力を与え、意思を抑え付けて術者の為に戦わせようとする事ができる。
クラウス・イーザリー「こんにちは」
共闘するのは大歓迎だ
退却してもいいのにわざわざ残ってくれたんだから、名前に免じなくても目を瞑るさ
recollectionを使用
創造した桜の花片を|無明《二丁拳銃》に貼り、両手の銃から銃弾を撃ち込む
いつ致命的な災厄が起こるかわからないし、可能な限り攻撃的な立ち回りで動こう
ポメラニアンさんは放っておいてもうまく動きそうだし、彼女の攻撃時に射撃を合わせて隙を作ったり追撃したりとできるだけ連携する
こんにちはのチャージは第六感でヤバそうだと察知し、チャージが終わる前に近接範囲から逃れる
放たれ続ける挨拶は呪詛耐性や精神抵抗ででできるだけ防ごう
まともに聞いていると頭がおかしくなりそうだし……
ハリエット・ボーグナインやべえな……。
アレに付き合ってたら|SAN値《正気》が幾つあっても足りねえぞ。
あの手のアレを真面目に相手しても良いことはねえな。
ポメちん。即席|友情パワー《コンビプレイ》を見せてやろうじゃねえの。
今は神ってやつに従ってやろう。むしろおれがその……
“|怨霊の剣《かみのことば》”ってやつになってやんよ。
さあ、おれを使え! 存分にぶん回せポメちん!
√能力で脊髄をぶっこ抜かれ、聖香浄天で強化された神聖光線をぶっぱする超硬い剣になり、震動の射程外から光線を叩き込み【切断】。それでも影響を受ける分はポメちんが地面に突き刺したときに深く刺さって【根性】で耐える。ついでに【ドーピング】でポメちんをさらに強化。
●
不動。然し放たれる言葉は呪毒に満ちる。恨みなのか祝いなのかすら定かでなくとも、災厄は絶えず流れ落ちる。
しかし人とて無力ではない。襲い来る津波が如き『こんにちは』に対して、その手に武器を取るのは聖女だけではなかった。
「こんにちは」
「いやー、すンげェなありゃ」
戦場へと降り立つ二人。共闘する聖ポメラニアンに対して挨拶を落とすクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)、膨れ上がった敵を見上げ首を擦るハリエット・ボーグナイン(“|悪食《ダーティー》”ハリー・h00649)。
どちらも共に、既に旧福岡県公会堂貴賓館にて彼女と一戦交えたことのある二人。一度は敵として相対したが、今は肩を並べ、躊躇うことなく背を預けることだろう。
いや……むしろ背中以上のモノを預けるつもりの人物もいるのだが。
ニヒルに笑い、ハリエットはちょんちょんと首を指した。
「いやぁ、ついこないだ散々鉛玉ブチ込んだわけだが。ここはおれのプリチーな顔とこれから見せる活躍で水に流してくれ」
言うが早いか。彼女は、その笑顔のまま――自ら『プリチー』と称した頭をむんずと掴むや、躊躇いなくその膂力で以て引き抜いた。
ぶつ、ぶち、ぶち。
皮が切れ肉が裂け神経が千切れる音を鳴らし、引き抜かれた頭を鍔兼握り、紐づく脊髄を刃に。その身体は異形の大剣と成る。
「さあ、おれを使え! 存分にぶん回せポメちん! おれがその――|御霊《かみ》の|剣《ことば》ってやつになってやるよ!」
|天骸命血刀《マジック・ブレード》。ショッキングな見た目とは裏腹に武器としての性能は折り紙付き。そこに香炉の強化が合わさればさらに強化。そこに絆パワーを加味すれば威力無限大の聖剣が完成するというワケだ。
「…………あ、ありがとうございます」
聖ポメラニアンは、どうにかひくつく頬を笑顔のままでハリエット脊髄剣を受け取る。聖女としての矜持なのか。或いは使えるものは使わなくてはという心からか。
とはいえ些か顔が蒼褪めているのは見間違えではないだろう。狂気を前に、より|正気《SAN値》を削られるとは思わなかったらしい。
一方で、そんな様子を横目に。
(ポメラニアンさんは放っておいてもうまく動きそうだし、他の仲間もいる。俺は俺で動くべきだな)
共闘は大歓迎。しかも自分以外のEDENがより傍にいてくれるのならば安心感もある。味方が武器になって装備されている見かけの様子に対してではなく、純粋に共闘の心意気のみを評価してほっとしながら、クラウスは手の中に生じた青の花弁を銃に添えた。
|recollection《リコレクション》。無機質な拳銃に蔦を這わすようにして咲き誇る青薔薇の幻影は迫る呪詛を弱める清らかなる力を帯びる。握り込み深くその銃の背に負った|照準器《サイト》を覗き込めば、狂気に濁らず淀みなく穿つべきものだけを捉えるはずだ。
「……あなたもいらっしゃったのですね」
聖ポメラニアンは言うだろう。クラウスもまた、彼女に銃を向けたその一人。
その時は聖者、聖人という宗教色の強い概念の崇敬に対して一切の理解が及ばなかった。彼の出自を鑑みるにそれもむべなるかな、というところだが。逆にそういった信仰とは縁を持たぬからこそ、彼は本心から口にするはずだ。
「退却してもいいのにわざわざ残ってくれたんだから、名前に免じなくても目を瞑るさ。頼りにさせてもらうよ」
誰かを守る戦いに、立場や所属の貴賎なし。強大な害意を前に手を取り合うことに、何のためらいが必要だろうか、と。
ギギギ。
巨大な金属の擦れる音。或いは巨木のきしむ音。『こんにちは』が、その表情をEDENたちに向けて傾けた。
身体を震わす。喉も、口も定かでないその巨体から放たれる。
『こんにち』
空気の動き、音、声。表すならただそれだけであるはずの挨拶に只ならぬ震えが、聖ポメラニアン、そして彼女の手に握られた剣であるハリエットに襲い掛かる。
「くっ!」
「オラァ!」
さいごの一字を言い切る寸前、胴体に突き刺さる一筋の白。吸い込んだ香炉の香りを受けて、正常なる白銀に輝く脊椎から捻じれ放出される|神聖光線《ルクス・ディヴィナ》。ハリエットの√能力である出血を強いる切創を生む力と、神聖なる性質が合わさることで、光線の命中した部位から敵の呪詛を放出させ、たちどころに浄化するという代物に変化していた。
しかし膨張した敵に与えた傷はまだ小さい。萎ませるにはまだ足りない。
そこを補うべく突っ込むのが、クラウス・イーザリーである。
『こんにちは、こんにちは、こんにちは』
一度の挨拶で届かないなら。離れて聞こえないなら。より大きく、よりたくさんの|挨拶《さいやく》を届けんとする膨張体を、二丁拳銃で以て射ち続けるクラウス。マズルフラッシュと共に散りながら舞う追憶の花片によって敵の振り撒こうとする呪いを減衰し、抑え込みつつ機動力によっていつでも撤退できるよう警戒の糸を張り続ける。
集中すればするほどに鼓膜にへばりつく『こんにちは』。聞き馴染みあり決して異物と捉える必要がないはずの言葉が脳内で狂気に変質していく様は日常を侵食するという点においてこれ以上ない|恐怖《のろい》。
だが、迷いも怯えも、飲み下し。クラウスは膝を折ることなく戦い続ける。
今、ここで崩れ落ちたら致命的な災厄がいつ起こるかわからない。ならば、戦える者が死力を尽くすのは当然。うねる身体に押しつぶされかねない程深く踏み込み、脳を犯す声を振り切り、持ち込む弾薬その全てを、漏れなく叩き込んでゆくはずだ。
(――! 来る!)
告げた直感に合わせて距離を離した彼に、迫る、『こんにちは』。
目が合ったかのような錯覚。違う見ていた。それはすぐそこにいた。だからするのだ挨拶を。こんにちはこんにちはこんにちはこんにちはこんにちはこんにちはこんにちは――。
直後、深々と突き刺さる百足にも似る鋸状の刃。黒々とした異形に『天骸命血刀』と化したハリエットだ。
剣を握るは、聖ポメラニアン。その腕は、異様なほど長く長く伸びていた。
「ああまったく……私も少々気が触れたのでしょうかね!」
|聖十字断罪《クルクス・エト・セクーリス》。負傷した部位から聖人の腕を生やす異能。そして、彼女はそれをハリエットを用いた自傷によって生やした。塞がらない傷を生む力で負った傷、ならばそんな傷から伸びる腕に……際限があるはずがない。
(堅実で、厭らしい戦い方のあなたでさえ無茶をするなら、私もこのくらいはしなくては面目が立ちませんからね)
振動を起こす範囲の外から、敵の間近へ目を向けて。空いた多腕が祈る様に、組まれた。|神言拘束術《ウェルブム・ヴィンクルム》――後をEDENに託すべく、隙を生むために。
「いくぜェェェ!!」
「お、ォォッ!」
突き立てられた膨張体の内側で炸裂する、『|神聖光線《ルクス・ディヴィナ》』。怪異の|呪詛《けつえき》を漏れださせる巨大な傷に、一点へと集中砲火で叩き込まれた銃弾が大輪の魔力の華となって咲き乱れ、浄化を加速させる。
膨らみ続ける災厄の詰まった風船に、見事に一つ大穴が空いた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大成功
屍累・廻連携・アドリブ◎
随分と、耳に残る挨拶ですね
異質な怪異も観察対象
不可解な死を遂げるという厄介さ
聖ポメラニアンとの共闘も良い経験になりうる
さて、今はお力を貸しましょう
ポメラニアンさんは動きやすいように動いていただければと
√能力使用
パンドラの匣から怪異を呼び出して、少しでも戦力を削ぐことに
やれやれ、アレの目的はなんなのか
かなり気になるところですが、会話が出来ないのが残念です
白露・花宵アドリブ連携◎
惨死とはまた物騒なこと
だけど、あたしは死なない
死ねない、死ぬ気がない
ならあの口を止めるしかないねぇ
ポメラニアンとやらを見て、に、と笑う
ああ、『こんにちは』
そうさねぇ、祓うこと
その一点に感じては、あたしらとお前さんは“仲間”だ
瞳を閉じる
短くも長い、十秒の瞑想
瞼を持ち上げた時には、花の亡骸の姿が
亡骸は駆け出す
甘く濃密な花の香りの吐息を吹き掛け
『こんにちは』を《誘惑》し、《おびき寄せ》
ポメラニアンが聖香浄天で攻撃しやすいようにする
震動が来そうになれば、亡骸があたしらを《かばう》
『こんにちは』と挨拶したら、次は『さようなら』だろう?
その口閉じて、さっさと買えんな
●
「ふむ」
少し遅れて。現れた青年は手の中で匣を手に目を細めた。
|屍累《シルイ》・|廻《メグル》(全てを見通す眼・h06317)。怪異の噺を|蒐集《あつめ》る彼にとって現れた超弩級と言って差し支えないこの膨張した異形ですら解析、分析、検分、調査――『解体』の対象だ。
当然、此度肩を並べる相手との共闘という得難い|経験《データ》も彼の知識の書架に収まる新たな一冊になるだろう。
「インタビューは受け付けませんよ?」
「――ふふ、何のことやら」
別の戦場にて戦いの中であっても問いを投げてきた廻の姿を認めれば、聖ポメラニアンは釘を刺す。然しそれも想定内、糠のようになめらかに、柔和な笑顔で受け流すだろう。知りたいことは山積みであれど、優先順位を見誤るほど狂気に毒されてはいないのだから。
「おや、こんにちは、かね」
ふわり。
髪と煙が風に乗り、灰青が揺れ、歩みは幽玄。妖艶に、或いは朧気に。 |白露《しらつ》・|花宵《かよ》(白煙の帳・h06257)もまた、この戦場へと参じた。
惨死を撒き散らすというその姿を目に留めれば、彼女は恐らく感じ取るだろう。死なず、死ぬつもりも毛頭ない。一方でソレの臭いは嗅ぎ取れるだろう。
花宵に、聖ポメラニアンは僅かばかり警戒の視線を向けるだろうが、すぐ振り返りにぃ、と笑みを浮かべて見せる。
「そう怖い顔をしなさんな――そうさねぇ」
ついと、手にした煙管を向ける先には、|根源的笑顔《アルカイックスマイル》を宿した金色が燦然と輝いている、目を潰すほどに。
「祓うこと、その一点に関しては、あたしらとお前さんは“仲間”だ」
時間があればさらに親交を深めるやりとりが行われてもおかしくはないが――事態は切迫している。
傷を負ったはずの怪異の身体は、寧ろ一層膨らみ始めた。
『こんにちは』
ぐらり。
足元が揺れる。身体が揺れる。肉体の厚さ大きさが増すごとに、その影響範囲も増してゆく。際限なく増える声が、引き寄せるが如く狂気へと手招く。
『白煙の裡に、永久を遺せ』
「さあ、君らもいっておいで」
抗するは、異なる怪異。
津波の如く群れ為す百鬼夜行の怪異を伴いながら。突き進むは花の亡骸。細身の体に無機質な白い病院着。然し彩る花は七色。そして可憐な姿に寄り憑くように、或いは壁となる様に。狭苦しい匣より飛び出した無数の魑魅魍魎は『こんにちは』へと迫り行く。
激しい振動に揺さぶられる中で、ギリギリのところで瞑想を終えた花宵が長い息を吐けば、丁度良い塩梅に滑り込む様に長椅子が滑り込む。目を開いた光景は、これまでの大学キャンパスの外とは到底異なる異空間。
今戸が開かれしは無限図書館。語り部は一人、屍累・廻。司書の席にて悠然と構えつつ、手元に置いた匣は蓋が完全に開かれている。
目は目を、歯には歯を、災厄には災厄を。一方で彼が語り明かすは人を狂わすおどろおどろしい逸話ではなく、むしろ異形が人と轡を並べた説話。往々にして怪奇譚は残虐な悲劇で語られるものであれ、そういった人魔が共に在る話もなくはない。
そして、彼が吐き出す『|希望《ことば》』が匣の底に残る限り、そこから飛び出した災厄たちは、無軌道にバラ撒かれず、狙うべき一点を目指し殺到する。
「やれやれ、アレの目的はなんなのか。かなり気になるところですが、会話が出来ないのが残念です」
肘をついて手を組みながら。溢す息。
新たな|奇々怪々《カイイノモノガタリ》を収蔵できないことを残念がりながら。代わりに廻はその顔を上げた。これより行われる結末を、余さず見届けるために。
振動に足を止めた怪異が内側から与えられた『災厄』によって千々に爆ぜる。同じく怪異であるはずが、その存在を塗りつぶす『こんにちは』の猛威はすさまじい。
それでもなお、群れは勢いを止めない。
波濤がついに、巨体の元へ辿り着く。とはいえ膨張したそれにとって小粒がいくら集まろうがさざ波に等しかろう。とはいえここまでやってきたなら、挨拶するのが礼儀というもの。さあ言おう、にこやかに、確かに、あの言葉を。
呼吸が――止まった。
それは死ではなく電撃的な痺れ。黄金の微笑は変わらず、しかしわななく身体が雄弁に伝えるはこの膨れた身体のどこにあるかしれないが、背筋を奔る痺れであろう。
幼く、無垢で、うつくしい。神威に近しい力を持つからこそ、偉大にして根源的な|怪異《モノ》であるからこそ、抗えない。
甘く濃密な花の香りの吐息の主は、花宵の遣わす|花遺《ハナツムギ》。
麗しく儚げなその姿は、まさしく自身の身元へ訪れた巫女、ないし贄。仮にどちらであったとて、逃せるはずがない。
神は腕を、触腕を、目を、髪を、声を伸ばした。
――そして、それこそが、狙い。
「しかし、わたしはあなたがたに言う。だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである」
聖ポメラニアンは告げる。
罪なき者のみ石を投げよ、と言う一節に照らすのだとすれば。
今この時限りの命を以て事を為した彼女こそ、罪なき者であるのだから。
直後少女の内より溢れ出す、真に清浄なる光。香気を帯びた乙女は今|審判天使《アンゲルス・ユディキイ》と化し、その内より輝きを以て伸ばされたその全てを焼くだろう。腕を、触腕を、目を、髪を、声を、余すことなく。
傷を負いながら、尚も手を伸ばす『こんにちは』。言葉は絶えず、なおも挨拶ばかりが空虚にこだまする。
それに対し顕現の時間を過ぎ、はらはらと散る花遺――いや。
花宵は、言うだろう。穏やかな笑みで、しかしその眼差しに命を点す輝きを以て。
「『こんにちは』と挨拶したら、次は『さようなら』だろう? その口閉じて、さっさと帰んな」
かつての夢から呼び出したとしても、地続きの今。彼女は、|死《おわり》を拒む。
「かくして淑女の祈りと、それに応えた聖人の神秘は怪異を統べ、まことの邪悪へ痛烈なる一打を与えるのだった」
手を合わせ如く乾いた音が響けば、図書館には新たに一篇の物語が収まるだろう。
可笑しな事だ。解き明かせぬ怪異では、それを記した噺は蔵書に加わらない。その言葉に偽りはなく。
此度語られたのは怪異譚ではなく――英雄譚であった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大成功
エキドナ・デ・イリオスアドリブアレンジOKです
√EDENのために戦う事のみ整合性がとれる狂人です
●心情
ああポメ氏、まだ楽園にいたのですね
不自然な蘇生は許されません
しかし災厄は防がれるべきです
故に、今回は信仰や教義は横におきましょう
●戦闘
災厄を防ぐのが重要なので、素直に聖ポメと共闘
第一戦線でたくさん会っているため、互いの攻撃タイミングはなんとなくわかる状態
神聖竜詠唱で振動に対応
自分と仲間が震動の対象から外れる願いを叶えます
さらに仲間の移動も補助
怪力で高い位置まで味方を投げたり、竜漿鋼糸で足場を作ったりなど
攻撃は祈りで動く自律兵器がメイン
うまく近づけたら怪力任せの鉄拳
エマ・ローレライ【アドリブ連携歓迎】
聖ポメラニアン……ゾディアックの収奪をしたかと思えば今度は√EDENを脅かす怪物と戦っている……貴方の心根は読めないけど、今この時は手を貸してあげる。次会った時は敵かもしれないけど、その時はその時ってことで。今はこの怪物をどうにかしないと。
私の大好きな讃美歌を歌ってSlurを発動、聖ポメラニアン達を強化する。引き出してあげる、みんなの力を……!私はダッシュや空中ダッシュで攻撃を避けながらキーボードで殴りつけようとする。負傷したらインビジブル融合で治癒しようとするよ。
●
「ああポメ氏、まだ楽園にいたのですね」
ざわり。空気が歪む。
戦場に降り立つ白き衣装に赤い髪。虚ろながら一点に注がれるエメラルド色の瞳が聖ポメラニアンに注がれた。
戦場に降り立つは、巫女、或いは代行者。
彼女の名は、エキドナ・デ・イリオス(狂信の|神聖祈祷師《ホワイトクレリック》・h02615)。
――第一戦線第四作戦、戦績上位者。聖ポメラニアンと極めて多く相対したEDENの一人であった。
当然その顔を見れば、ポメラニアンの顔色は強張るだろう。『聖人蘇生庁』による蘇りを自らの崇める|神聖竜《そんざい》にとっての禁忌であると語り、猛烈なる攻勢を仕掛けた彼女がこの場に現れた事。
狂信者との邂逅。しかも、それは極めて攻撃的である。走る緊張、共闘はともすればここまでか――そんな聖ポメラニアンが向ける警戒をよそに、エキドナの視線はついと逸れ、膨れ上がる異形の怪異に向けられた。
「しかし災厄は防がれるべきです。故に、今回は信仰や教義は横におきましょう」
唖然とするだろう。
あれほどまでに猛烈に行動するということは何かしら譲れないものがあると思ったのに。これほどまでにあっさりと引き下がるとは。
とはいえこれは渡りに船。
「ええ、その通りですね」
災いは退けなくてはならない。その一点で、二人の思惑は合致する。
「……なんだかお邪魔だったかな」
因縁深げな二人の様子に、時を同じくして戦場へと参じたエマ・ローレライ(月光の歌姫・h12720)は眉を下げた。
√EDENでの配信活動を行い、大学生でもある彼女。自分が通う地ではないとはいえキャンパス内にとんでもない化け物が現れ出たとなれば座して見ていることなどできようか。更に別の場所で何かの陰謀を巡らせた相手も出張ってきたとなれば、一度顔を拝んでやろうと思うのも自然な流れ。
「貴方の心根は読めないけど、今この時は手を貸してあげる」
とはいえ、見れば今は並々ならぬ相手とも肩を並べることも良しとするようだ。ならば今は味方として認めるのも吝かではない、と。気持ちばかり高圧的なのは、威圧の為。一時は敵だったのだ。ある程度、突き放した物言いをしたエマだったが……。
予想に反してそんな彼女を視界に捉えた聖ポメラニアンは寧ろ表情を和らげ、穏やかかつ友好的な様子で彼女に近付くだろう。
「――貴女も同じく災厄を振り払わんとするのならば、共に戦う同胞です。父と子と聖霊の御名において、もちろん歓迎しますとも、ええ」
「……なんか近くない?」
……ちょっと必死さがあるのはやはり何度も自分を打ち負かしてきた相手への恐怖心があるからなのか。聖ポメラニアンは間に立つエマへ近づくことで間接的にもう一人から距離を離そうとしていた。当然因縁の詳細など知る由もないエマは何か悪だくみをしていたはずの相手がやたらフレンドリーなことに一層困惑するだろう。
一方でかの赤髪の主はただ手を組み、祈るようにして天を仰いでいた。
本当に奇妙奇天烈な三角形を作り出しながら、戦いの火蓋は切って落とされる。
『こんにちは』
巨躯が、震えた。身体のどこからか、すべてから。音を以て震わせ、挨拶を放つ。聞き届ければ無惨で予測不可能な災いを。耳を塞ごうとも、二本の足で立ち続けることも難しい震えを与える。逆らうものに、頭を必ず垂れさせるが如くに。
そのはずだったが。
「皆様も感じられるはず、神聖竜様のご加護を。仰られています、人界を、楽園を、いえ遍く全てに災厄を為さんとする悪しきものを打ち滅ぼせと。今私たちは貴方様の名の下に、楽園を守る使徒となりましょう」
強烈なる怪異の振り撒く災厄を、振動を。祈りが掻き消した。
|神聖竜詠唱《ドラグナーズ・アリア》。エキドナが捧ぐ信仰に応え顕現する、白き竜の姿。白き清浄の輝きは、彼女の願いを叶えれば、翼を広げて天へと羽搏き去る。光の化身ともいうべき輝きに包まれたその姿は怪異の権限によって鈍く昏く見えた空を切り裂きその奥に晴天の蒼を刻み付けて見せた。希望と勝利の先触れが如く。
振動が無効となった白と黒の聖衣纏うた者たちが、巨体に向けて走り出す。水銀の弾丸を放ち、黒の膨体たる『こんにちは』に刻み付ける|聖痕刻印《スティグマ》。それを導にしたエキドナの操る一対の自律式竜漿兵器。茨にも骨躯にも見える歪な形状の刃は絡みつく触手が塊になったかの如きその身体を正確に削り取ってゆくだろう。
奇しくも二人の動きは阿吽の呼吸。幾度も戦い、互いの手札を知るがゆえの連携であった。
勝利も目前か。二人の距離が敵の懐へと迫った瞬間、受けた傷口を押し広げるようにして|ぐばり《・・・》と開くは『目』。
『こんにちは』
挨拶は、目と目を合わせて。
そして目と目が合った相手を縛り痺れさせる更なる呪詛。振動を封じられたのならば次は異なる禍いによって動きを封じようとした。
が。
反応は同時。生み出した傷に、漏れなく叩き込まれる追撃が目を潰した。向けられる視線に対する圧倒的な反射。それを為すのは――響く讃美歌であった。
讃美歌とは、キリスト教に連なるもの。その点で言えば正しく、聖ポメラニアンにとってはなじみ深いものであろう。然し、彼女は別に熱心な教徒ではない。その歌を選択したのも、好きだからという理由に過ぎない。
「想いを繋げて――引き出してあげる、力を!」
|Slur《スラ―》。二つの音を繋ぐ曲線。彼女が歌う声が繋ぐのは、想いと力。増幅した反応速度と命中力が、戦う者に注がれる邪悪な視線を振り払わせる。
彼女はエキドナが作った竜漿鋼糸のワイヤーで作られた空中のステージの上で、その歌声を響かせていた。血が通うその金属を結わえ足場にしながら、命綱のようにエマの身体を支えつつ、同時に迫るものへの自動迎撃も行う優れもの。
目立つ位置に立つことになる。『こんにちは』の姿を視界に収め、戦いが不利に傾けば危険に晒されることもあるかもしれない。けれど彼女の声に震えはなく、歌声に迷いはない。
使命感、覚悟、何よりも。
観客を前にして、声の小さくなる|歌姫《ディーヴァ》がいるものか。
挨拶が封じられる、それに対してどうするか。
とったのは――物理的な手段。『こんにちは』を呪詛ではなく音という振動の破壊力として作用させる。近くに居座る二人を弾き飛ばし、そのまま遠くから――挨拶ではない言葉を放つ存在を、押しつぶすために。
「させると、お思いですか?」
無論そんなことを、許すはずもなく。
聖ポメラニアンは布石を打っていた。
放ち続けた銀の弾丸にはもう一つの効果がある。味方への強化を齎す|祝福刻印《ベネディクティオ》。正面の腕で敵を射ち……背に隠したもう一本の銃が、エキドナに、そしてエマに、絶えず強化を与え続けていたのだ。
「さあ、鉄槌を。神聖竜は仰っています、楽園を冒す罰は痛みによって為されると」
「悪いけど、コンサートはおしまいだよ」
挨拶によって全てを為す怪異。威容凄まじく災厄の呪詛は止め処なく。
だからこそ、その手を封じられた今、なすすべなどない。
使命と万力を籠めた鉄拳による制裁と、決然と振り下ろされる電子鍵盤。祝福の刻印によって退魔の力を纏う二人の一撃は、黒い身体を大きく拉げさせるだろう。
邪神とも形容すべき相手を前にして、思想信条も異なれども、想いは一つ。繋がった連携が、確かに結実したのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大成功
架間・透空【天翼】
……アリエルさん。
こんにちは、ってなんでしょうね?(おめめぐるぐる
まあ何はともあれ、ポメラニアンさんと一緒にあれを食い止めましょう!
アリエルさん、ポメラニアンさん!
私がお二人を後ろで支援します!
決戦気象兵器、起動ッ!
電荷を溜め、『こんにちは』に向けて雷撃を放ちます
お二人の生体電流を活性化させ、サポートすることも決して忘れません
そんでもって、お二人がより動きやすくなるように、
浮遊砲台による支援射撃で、『こんにちは』の動きを阻害することも忘れません
アリエルさんのディスペルサークル、そしてポメラニアンさんの五本腕による連携攻撃
これだけ揃っていれば、あれを撃退するなんて余裕のよっちゃんです!
アリエル・スチュアート【天翼】
まあ、うん、こんにちはは挨拶よ、透空ちゃん、一応ね。
いずれにせよ、深く考えたら負けよ、√汎神解剖機関案件は。
まずはポメラニアンと透空ちゃんの戦い方を戦闘知識として頭に叩き込んでおくわ。
その方が連携しやすそうだし。
その後は2人の攻撃に合わせて少しずつ距離を近づけていくわ。
その際に狂気耐性は忘れないでおきましょうか、名状し難いし。
こんにちはが√能力を使ったら打ち消す右手の魔法陣で封じさせてもらうわ。
そのしつこすぎる挨拶は悪いけど無視させてもらうわよ。
しつこい奴は嫌われるって習わなかったかしら?
その後は高速詠唱で魔力溜めした全力魔法を放ち、連携攻撃を意識した攻撃を一気に叩き込むわ。
●
ぐらり。
大きく揺れながら尚も、巨大な威容は力を失うことなく立ちはだかり続けている。黄金の微笑みは曇ることなく。絶えず|挨拶《こんにちは》を、|災厄《こんにちは》を、人間に広めようとしているのだ。
「……アリエルさん。こんにちは、ってなんでしょうね?」
「まあ、うん、こんにちはは挨拶よ、透空ちゃん、一応ね」
……冷静に考えると意味がわからない状況だろう。混乱する|架間《かざま》・|透空《とあ》(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)の様子はさながら目の中で渦巻きを生み出すくらいのものである。そんな彼女を宥めるアリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)は、背中をさすりながら助言する――√汎神解剖機関案件は、深く考えたら負けであると。
なんか一絡げにされたようで些か不服な聖ポメラニアンも横に立っているのだが、とはいえ彼女も、二人とはそれぞれ異なる場所で相対したことがある。言葉は不要、実力は疑う余地はない。なら今為すべきは。
「さあ、参りましょう。災厄を、退ける為に」
『こんにちは』
既に何度この戦場へと響き渡ったろうか。一辺倒、だが累積すればするほどにそれは致命的な破綻、惨劇の災厄を呼び起こす。一刻も早く、この口を塞がなくてはならない。いやこの巨躯に貌はなく、正面の黄金も又不動。ならばその声は何処から。
気を抜けばほころびから一瞬で正気を蝕まれかねないその挨拶。
だがそれを封じたのは、突然の眩さだった。
ぱっと白に染まるキャンパス。これは比喩ではなく本当に、空間を烈しい光が呑み込んだ。フラッシュが焚かれたかのような一瞬の閃光の正体を、しかし『こんにちは』は視覚ではなく痛覚で理解することだろう。
――雷撃。
先程まで晴れ間も覗いた空から降り注いだ神鳴りは尖った黄金の尖端を避雷針の如く目印にして降り注ぐ。夏の積乱雲は前触れなく現れるというが、しかし此度落ちたそれは単なる天候の気紛れではない。
空気を震わす轟音の後、少女は宣言する。
「『本日の天気――曇りのち雨。急な落雷にご注意ください』、です!」
後方にて、透空が展開した決戦気象兵器『|天色管理機構《ハイペリヨン》』。此度彼女が予報するは、『雷』。視線を向けた相手への挨拶を続けることで痺れさせる魔の力を持つ相手へ、天の裁きで麻痺を付与する意趣返し。
そして、空から俄かに響く喉を鳴らす音は、第二、第三の落雷を予感させた。
いかに『こんにちは』とはいえ、宙に浮く雲を、そしてそこから降り注ぐ雷に挨拶することなどできはしない。しかし、膨れ上がったその身体で『回避』などという選択肢が取れるはずもない。
『こんにちは』
ならばやることは一つ。
『こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは』
一度の挨拶では足りない。続々と連鎖させる挨拶を数珠繋ぎに充填していく。
雷が天の意志でないのなら。生み出すものを惨死させればよい。挨拶は終わらない、何度でも。
「させると思う?」
『こ』
霧散する呪詛。溜め込んだ挨拶は、触れられたアリエルの右手を中心に罅割れ、硝子が砕け散る様にあっけなく、その行き先を失う。
魔術として再現された、ルートブレイカーと性質を同一とする魔法陣。|打ち消す右手の魔法陣《ライトハンド・ディスペルサークル》。右手での接触が必要なのは本家と同様、けれどその効力は絶大。一分という時間を費やすことで放たれる凄まじい破壊を、アリエルは見事先んじて潰してみせたのだ。
触れられるほど近付いたアリエルを間近で睨みつけ動きを封じようと、黒々とした身体にのわずかな亀裂が僅かに持ち上がりかけたが、その瞼を象る部位を縫い留めるように突き刺さる待針は、|救済十字剣《クルクス・ポエナ》。
自然な動きでアリエルと入れ替わった聖ポメラニアンは、腕についた傷二つから伸ばす剣で目を縫い留め、更に別の傷より生み出した|神言拘束術《ウェルブム・ヴィンクルム》が敵の動きを制限する。巨躯の全てを制止させるまでには至らないが、行動を封じ込めるには十二分。
その間に、二度、三度と降り注ぐ雷撃がぬめる黒い巨体から黒煙を立ち上らせた。
それでも懲りずに『こんにちは』を手近な二人に向けて放とうとすれば、透空の自律思考砲台「セレーネ」が四方から弾丸を飛ばし、突き刺さる小型金属がさらに内側へ雷の衝撃と熱を流し込むだろう。
援護と言いながら大きなダメージソースとなる透空。
手傷から攻撃と敵への弱体化を兼任する聖ポメラニアン。
一見すると二人の活躍こそが主のように見えるが、実際はこの連携の要となったのはアリエルであった。
『付け焼刃が通じるか不安でしたが、上々ですね』
「やかましいわよ」
彼女が対話する声は耳元からのみ聞こえるもの。その主は彼女の持つドローン『フェアリーズレギオン』のリーダー機に搭載したAI『ティターニア』。
事前に透空の戦闘能力。更に一度相対した際の戦闘データと各地の戦場で披露されてきた聖ポメラニアンの戦闘能力。二つを事前に把握できる程度まで纏め、戦闘知識として頭に叩きこんだアリエルは、今回連携して戦う際の接続係として立ち回っていた。
√能力の無効化によって、威力の高いチャージ攻撃による聖ポメラニアンの離脱や後方の透空への攻撃を妨害。一方で『目』を向けた相手への麻痺に関しては右手での無効化も視野に入れつつ、積極的に前線に立つことで狙いを自分へと向けさせる壁役も兼任。
そうすることで聖ポメラニアンがゆうゆうと攻撃を通すだけでなく、デバフを掛けて更にこちらが優勢に傾いてゆく。
全体を見渡す視野の広さ、事前の情報収集。狂気への耐性も念入りに行っておくことも含めた、二重三重の備えであった。
事態は煮詰まりつつある。蓄積させ効力を発揮するのは決して『こんにちは』だけではない。重ね掛けする聖ポメラニアンの聖句が災厄を齎す挨拶を上回って巨躯の全てを抑えつけんとするだろう。
だが、ただ十字剣で膾にされながら放電を受けて肌を焼いているばかりではない。
全身、腕とも触手とも外皮とも言い難い黒々とした皮膚が剥かれるように捲られれば、その内側から現れる大量の眼球、眼球、眼球。
挨拶は目を合わせて。目を逸らすならその先に、俯くならば床に、背を向けるなら回り込め。|挨拶《こんにちは》を、|挨拶《こんにちは》を、|挨拶《こんにちは》を――。
「しつこい奴は嫌われるって習わなかったかしら?」
冷たく、切り捨てるような言葉の通り。大量に開いたその目のどれもが、三人を捉えることはなかった。
既に言った通り。二重三重の備えは、用意されていたのだから。
「モーセが天に向け杖を差し伸べると、主は雷と雹を送られた」
聖ポメラニアンが聖句と共に増えた瞳の三分の一が削り取られた。開かんとした瞼は抑えつけられ、光を捉えることなく弱点と化す。
「警報、|災害切迫《レベルファイブ》、ですっ!」
充填していた最大の火力を叩きつける透空。それほど巨大な落雷であれば、挨拶の声など容易く掻き消し、同時に周囲へと放電は飛散する。閃光は目を灼き使い物にさせるだけでなく、実はこの落雷は味方への強化も行える優れものであった。
生体電流を活性化、身体、思考の向上といった効能は純粋な物理攻撃だけでなく、魔術の威力や発動速度にも大きな補正を与えるのは言うまでもない。
片翼の翼は、神々しく羽搏く。
――魔術の発動に伴うエネルギー。雷から受け取る強化、さらに祝砲とばかりに受け取る聖ポメラニアンより贈られる|祝福刻印《ベネディクティオ》。
三位、一体。三者の力が結集し、砲として放たれた。
極大の光線は黒の塊を穿ち、その練られた災厄と身体に大穴を空けるだろう。
三人の連携に『曇り』はなく。戦果は上々、災厄の巨体を、大きく削り取って見せた。
余談だが、その後必殺技の格好良さにテンションの上がった透空の眼差しを存分に浴びることになったアリエルと、それをにこやかに眺める聖女の姿があったとか。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大成功
空地・海人※アドリブ、連携歓迎
『こんにちは』、聖ポメラニアン。あんたの可愛い名前に免じて、この前のことは一旦水に流しとくよ。さあ、共同作業で怪異退治といこうぜ。
変身ベルトを腰に巻き、「現像!」の掛け声と共に、緑の装甲を纏う【フィルム・アクセプターポライズ √汎神解剖機関フォーム】へ[変身]。
時折、麻痺させて来るのが厄介だな。状態異常に強いフォームとはいえ、完全には防げない。こんな時はこの作戦が有効だぜ、ポメラニアン。『麻痺っていない間に撃って撃って撃ちまくる作戦』だ!
ポメラニアンの水銀の弾丸。俺のイチGUNからの[牽制射撃]。そして、空撮爆弾・ハイアングルボマーからの爆撃!
これだけ撃てば何とかなるはず!
●
EDENたちの攻勢、見事な連携。聖ポメラニアンとの共闘は着実に『こんにちは』を削ってゆく。撃退まで、あともう少しであるという直感があるだろう。
しかし一方で『こんにちは』の災厄が、挨拶が、その予測不能回避不能の災厄を発現させる回数までもう間もなく。
退けるか、災厄が全てを殺し尽くすか。どちらが早いか。
『こんにちは』
抉れ、削れ、名状しがたき廃油の如き血液を垂れ流しながら、なおも『こんにちは』は|挨拶《こんにちは》をやめない。
「『こんにちは』、だな。聖ポメラニアン」
「――ッ、あなたは……」
そして、この戦場に、かの者が降り立つ。
|空地《そらち》・|海人《かいと》(フィルム・アクセプターポライズ・h00953)。カメラを手にした彼は、手庇をしながら天を見上げるだろう。
天へと、その体躯を浮かび上がらせ。蠢く黒い身体を撓らせ根を張るようにしながら、巨大な黄金を地に向ける。空を覆うそれは、天上からの攻撃への備えのつもりか。兎も角、いよいよ人に向けて、盛大な|災厄《あいさつ》を行わんとする構えだ。
それこそ海人は片手では収まらない数相対し、けれど今はそれを再三繰り返す『可愛い名前』に免じてさらりと水に流す好漢。対面した相手には挨拶も当然欠かさない。
ならば挨拶の名を冠し、災厄を撒き散らす手合いを、見過ごすこともない。
懐から取り出したカメラから、フィルムを模した帯が伸びると腰に巻きつく。
「現像!」
掛け声とともに、差し込むは緑の|記憶《フィルム》。放つ輝きが身を鎧い、同時に周囲に浮き上がる緑色のドローン群。『√汎神解剖機関フォーム』。黄昏を乗り越え、人類を延命せんとする世界の力。手にした銃とカメラを混ぜたような武器を構えると、海人は出現したドローンの背に飛び乗った。
「いくぞ――!」
言うが早いか、空を颯爽と駆ける機体。ドローンは瘴気を飛行機雲のように軌跡に残しつつ飛行するが、それらが害するのは怪異のみ。空を飛べども薄暗く、そして空気すら重苦しいのは、身を乗り出すようにして天を覆う『こんにちは』から絶えず降り注ぐ|視線《・・》によるものだ。
状態異常への耐性を持つ装甲が自慢の一つである形態であるにも関わらず、突き刺さる視線とそこから染み入る麻痺は着実に海人の動きにも影響を及ぼす。それだけ『こんにちは』の持つ怪異としての力や格ともいうべきものが高い事を示唆していた。
しかし、それでもめげずに動きを止めず、飛び回ること一分強。ふっと、一瞬身体に走る麻痺が緩んだその瞬間、海人はドローンを敵から反転、地上にまで舞い戻る――まるで背を向け逃げ出すように。
黄金にへばりつく笑みは不動のまま。然しこれまで散々攻撃を受け続けた『こんにちは』に、ついに白星がついたのか。
否である。
一瞬、海人の麻痺が緩んだのは敵の疲れが理由ではない。麻痺を与える為酷使した目は相手に与えた災いの倍休めねばならないが、黒い巨体は次から次へと目を生産する荒業が使える。だのに、なぜ。
理由は簡単。これまで海人が撒いてきた、深紫の瘴気の霧。怪異としての強大さから毒として効果はなくとも、目晦ましとしては十二分。そして――漏らさず見つめた『目』の多さは、そのまま弱点の多さにもつながる。
これこそ海人が、聖ポメラニアンと考え出したたった一つの冴えたやり方。
「名付けて――『麻痺っていない間に撃って撃って撃ちまくる作戦』だ!」
「なんともわかりやすいことですね!」
直後霧を内から突き破る、赤き光弾と銀の弾丸。暗室の如き深い色の赤は『こんにちは』の目を貫き、銀の弾丸は黒の身体に紋様を浮かばせる。攻撃の存在に気付き目を閉ざし、ぬめる皮膚の奥へ隠そうとしても既に後手。浄化の水銀が沁み込む皮膚が崩れたところへ続けざまに光弾が飛んでくる。
垂れ込めるどす黒い曇天を、内側から引き裂き晴らすために。
しかし時間が経つにつれ視線から身を守る霧は薄れていくだろう、『こんにちは』はその隙を狙い二人を完全に痺れ動かず挨拶を聞かせんと一斉に目を向けた。
だが視界に映るのは。
撒き散らした瘴気を再度吸収、充填。臨界までチャージした五機の空撮爆弾・ハイアングルボマーが、凄まじい勢いで飛翔する姿。
これぞ必殺、ポライズエクスプロージョン。
|英雄《ヒーロー》の奥義は爆破と共にある。これもまた、一つの|常套句《おやくそく》。勝利の一枚を撮る暇は残念ながらないが……共に戦う聖女の記憶には、間違いなく刻まれることだろう。
🔵🔵🔵
大成功
ゼロ・ロストブルーアドリブ連携アレンジ歓迎
(出張中にちょこちょこ√踏み越え)
…挨拶は大事だが、これは…きついな。
君影護の鈴の音を聞きながら、何とか堪え…非能力者としては離れたほうがいいんだろうが、知ってしまったなら放ってはおけない。できる限り手伝うよ。
双斧に祈りを捧げ…さて、どう攻めるか。
あのこんにちはは、武器で受けられるのか?
しばらく様子をうかがうが…ポメラニアンさん、だったか?もしかして、君は何か加護を与えられるのか?普段は敵だろうが…はは、今この太陽の下では味方、だろう?
香を吸い込み、うねる身体の上を駆けて太陽へ向かおう。身体を削ぐようなぎ払い、飛びかかり…回転と体重とエネルギーを双斧に乗せ叩きつけるぞ。
斯波・紫遠アドリブ共闘大歓迎
挨拶は大事だけれど、こうも顔の圧が強いと気が滅入るな
自分で可愛いって言っちゃうタイプか
何かのご縁ってことでシスター、よろしくね
とりあえず、あの腕?枝?を何とかしないとだな
アリスさん、援護射撃でアレの伐採お願い
僕は枝を伐採しつつご尊顔へ
地面が揺れると踏ん張り効かないからインビジブルを踏み台に空中戦へ移行
細かい枝はオーラ防御で捌いてあからさまにデカいのは切り捨てていく
こんにちは
挨拶代わりに今出せる最高火力の一閃を
僕らはあくまで露払い、美味しいところはシスターへ譲ろう
お近づきの印にってやつだよ
お中元みたいなもんだと思ってほしいな
●
多くのEDENたちが、迫る災厄、強大なる『こんにちは』を退けんと集まる戦場。そこに、一人の迷い人が紛れ込んだ。
「…………あれは」
ファインダーに捉えた黒い身体。カメラを降ろし直視すれば、直後|ぐわん《・・・》と揺れる視界。
足元が揺れる。黄金の微笑み。狂気、喘鳴、『こんにちは』。
「これは……きついな」
ちり、と。腰に巻いた鈴の音が彼を現実に引き戻した。それでも目の前の悪夢は現実に顕現したまま揺るがない。
思い出される弟子の顔。逃げろ、退け、関わるな。
そう言われても、彼の足は前へと向かう。ゼロ・ロストブルー(消え逝く世界の想いを抱え・h00991)は、残念ながらそういう性質であった。
一方、キャンパス内で今聖ポメラニアンと共闘を行っているEDENが既に居る。度重なる負傷を補う様に歪ながらさらに膨らみいよいよ破裂せんばかりの『こんにちは』を前にして、涼し気な表情も少しばかり歪んでいる。
「気が滅入るな……こうも顔の圧が強いとね」
|斯波《しば》・|紫遠《しおん》(くゆる・h03007)は、皮肉を口にしながら、空を駆ける。インビジブルを足掛かりに、空中戦を仕掛けた彼は真正面から黄金の微笑みと相対していた。
『こんにちは』の繰り返す|挨拶《こんにちは》には多様な厄が埋め込まれている。此度彼に襲い掛かったのは揺れ、振動。震度七に匹敵するそれは地面に直接接触していなくても紫遠の身体を襲う。それでも空中に逃れ狙いを絞らせないよう動き回ることで振動の効果は断続的になものに収まっている。
同時に。
「どう、アリスさん?」
『再生能力、規模、どれをとっても非常識です。正しく正気を疑う、と言ったところでしょうか』
彼の携行するタブレット、その中から聞こえる無機質なアナウンス。戦闘を補助するAIにして優秀な副官、『Iris』。遠距離からのドローンや砲台の指揮を彼女に任せるからこそ、多少の振動を意に介さず行動することができていた。当然、紫遠が行うのはただふらふらすることだけではない。愛刀たる香煙を携え、根を張るが如くキャンパスに絡みつく枝とも腕とも触手ともとれぬ体の一部を切り離し、削られた分を補おうと建物を狙う敵を制していた。
とはいえ彼が自分に定めた役割はあくまで露払い。共闘する相手に華を持たせようとする奥ゆかしき心意気、というやつだ。
しかし動きを見計らいこちらが援護をするはずが、|下《・》が騒がしい。
ふと視線を向ければ、そこで嗚呼、と彼は額を叩いた。
「また迷い込んじゃったか」
鞘の内に納めた恩讐の炎を、わざと派手に居合で以て黄金の微笑、その目元に繰り出し眼を晦ますと。そのまま彼は下の騒ぎへ顔を出しに向かうのだった。
「危険です、旅人よ。去りなさい、ここから先は――」
「わかっているさ。だからこそ、協力させてほしい」
行われているのは押し問答。
聖ポメラニアンは、一応は現状簒奪者という枠組みである。しかしながら、自ら死にに向かおうとするように見える相手を放っておけはしなかった。
一方のゼロ・ロストブルー。彼は、|√能力《けつらく》を持つ存在ではない。EDEN、という括りには入らないだろう。その一方で、彼は異能を持たず、一つの命しか持たないという障壁をものともせず、これまで数多の強敵と戦い、勝ち、生き延びてきた。
単なる技量の話ではなく。
自らがやるべきと思ったことを必ず為さんとする、決意こそが。彼をここまで連れくる、最も大きな要因だった。
「はいはい、ちょいと失礼しますね」
そしてもう一つ、ゼロが生き延びてきた理由は。人の縁に恵まれたからというのも、大きな理由の一つであろう。
今彼が強烈な災厄を撒き散らす異形を前にした中で、尚正気を保てているのは――他でもない、紫遠から送られた|君影護《守り鈴》の音色のお陰だ。そして、その音が彼をここに導いたと言っても過言ではない。
「……あなた」
「これも、何かのご縁ってことさ。シスター」
当初共闘の際にも、うっかり自分で可愛いとか言うタイプかあ、などと漏らし冷たい目を向けられたりもした中で同じ台詞を吐くだろう。
既に二対一、協力者に掌返しをされては困るのは彼女だ――何しろ、『こんにちは』の|呪言《こんにちは》を、最も耳にしているのは彼女なのだから。
無茶振りのように聞こえることは承知の上で。
同時にこの場の誰より、ゼロの実力を買い、信頼しているのも彼だったのだから。
――二人がかりの説得に、聖女は深く長く息を吐いた。
「既に私は、父と子と聖霊の御名において誓いました。かの厄災を退散させると。果たされることに間違いはない」
香炉より、ふわりと漂う香りが全員を包んだ。
「無茶だけはしないように。殺される前に、私が救います」
その救いが果たして生存させる方なのか、苦しみなく神の身元へ送る方なのかは定かではないが、兎も角。
ともすれば最も奇妙な共闘が、幕を開けた。
黄金の顔で燃焼した白く冷たい恩讐の炎。生きるものを蝕むその炎ですら、罅をそれ以上拡げることは叶わない。生きているのか、死んでいるのか、それすら曖昧な怪物はなおも同じ言葉を繰り返す。
『こんにちは』
さらに増す振動。最早、狙いを定めず周囲一帯を諸共、生命器物見境なく揺らさんと試みる異形。
その目の前に。再び飛び込む紫遠。
「はい、こんにちは」
返す挨拶。トートロジー、いやオスティナートか。耳にタコができそうなほどに聞き飽きる繰り返しの挨拶に対して返すのは、|同じ技《・・・》。
再び放つ、|【狗神】憑型《ウラミノイチゲキ》。けれど、今回繰り出すのは先程のような甘い目晦ましではない。
研ぎ澄まし的確な部位を切り裂く一閃と、身を焦がすほどの火力。二つを併せた――薄く纏い、切り裂いた瞬間に爆ぜる白炎。術の解釈を広げ、生きることを阻害する炎は、狂気によって成り立つ怪異の根幹たる呪詛をも灰に変えてゆくだろう。
大きく、体勢が崩れる。
同時に弾かれたように駆け出した影が、唯一残った最も太い幹のような体表を駆けあがっていく。香気に身を包み、狂気が這い寄れば決意と鈴の音が振り払う。
ただ前へ。前へ。託され、信用されたならば。自らの役目を全うする。
……ふと、かつてのことがゼロの脳裏に過った。仲間たちと共に、戦った。あの時。そう、山羊のような頭を持った、長い首の敵。あの瞬間のように、今ならば。
跳ぶ。高く、高く。身を反り、後ろへと振り絞った対の青斧を、翼の如くに見立て。
燃え上がった、黄金の顔へと。
全霊の力を以て、振り下ろす。
「お、お、ォォォッ!」
|審判天使《アンゲルス・ユディキイ》の加護を受け、ゼロが繰り出す一撃は、球の如き身体を垂直に通り抜け。深い真一文字の傷を、深々と刻み付けてみせるだろう。
「……|主よ、憐れみを《Kyrie eleison》」
聖人が、最後に溢したその言葉は。果たして、誰に向けられたのものだったろうか。
黄金が、燃える。微笑みはその陽炎の中に消え、神聖は度重なる敗北の中で剥がれ落ち、わずかに残るばかり。
決着は、近い。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大成功
神隠祇・境華【月境】
挨拶を災厄として撒く存在は、放ってはおけません
聖ポメラニアンさんとも共闘して、早急に退散させましょう
シンシアさん、あれには、さようならを告げなければ
これだけの規模、簡単には削り切れないでしょうけれど
怯んでいる場合でもありません
互いを信じて力を出しきれば、巨大な敵であっても立ち向かえるはずです
シンシアさんの立ち位置と攻撃に合わせ
私は近接範囲へ踏み込み、御伽を語ります
昼と夜の巡りを交互に重ね、怪異へ絶え間なく攻撃を叩き込みます
シンシアさんと、互いの攻撃が途切れぬよう呼吸を合わせて攻め続けます
挨拶は、一方的に通すようなものではありません
ここで終わりにしましょう、さようならの時間です
シンシア・ウォーカー【月境】
いやまあ名前に免じなくても共闘はしますし、こちらからもお願いしますけれども。その……時に聖ポメラニアン。長袖修道服暑くないですか?あっ汗はそういう意味ではなく?
……そうですね境華さん。あの『こんにちは』には早々にお帰り願いましょう。
めしませ淑女の底力、レイピア片手に境華さんと前線で畳み掛けますよっ!
何が必要かはその時判断するとして。全力魔法を込めた刺突で代わる代わる踏み込みます。相手に致命的な災厄だの大技だのをチャージする余裕など与えたくはないですからね。
2人で呼吸を合わせて、絶え間なく攻撃を食らわせていきましょう!
得体の知れぬ存在には、この辺りでさようならを告げなければなりませんね!
●
数多のEDENが、衝動を、決意を、使命感を胸に。戦い抜いた。
その最後を飾るのは、彼女たちであった。
「挨拶を災厄として撒く存在は、放ってはおけません」
手に納めるは和綴じの一冊。語り綴るは御伽の話。眼前に立ち現る異形を前に、ただ凛と告げるは、|神隠祇《かみおぎ》・|境華《きょうか》(金瞳の御伽守・h10121)。言葉、台詞、概念。そのようなものを災厄に貶める手合いは、語り部としても見過ごすことはできないであろう。
その隣で頷く、優雅な立ち姿。穏やかながら気品を漂わせる正しく『淑女』――その名を、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)。見上げる巨躯と、未だぎらぎらと主張する黄金に、少しだけ顔を顰めた。
あれは、退散させねばならない。想いは同じ。
「シンシアさん、あれには、『さようなら』を告げなければ」
「……そうですね境華さん。早々にお帰り願いましょう」
意を決する――のと同時に。
同じくこの場に立ち、数多のEDENたちとも共闘してきた聖ポメラニアンとも手を結び、目の前の敵と立ち向かわんとするだろう、が。
「……時に聖ポメラニアン。長袖修道服暑くないですか?」
非常に気安く話しかけるシンシア。そして語り掛けるのは、なんともたわいのない|服装《ファッション》の話であった。
信用するかは別だとか。一体何を目的にしているのだとか。そういう疑いではなく、世間話のような語り掛け。
「……秘密をお教えしましょう。実はとても涼しいのです、ほら」
こっそりと腿の当たりのスリットを見せる聖ポメラニアン。おお、と声を漏らすシンシア。なぜこれだけ初対面から通じ合うのか、具体的な根拠は何一つないが強いて挙げるとすれば、同じ犬種は引かれ合う、と言ったところだろうか?
とはいえ、咳払いをした境華によって二人は相対するべきものとしっかり向き合うことになるだろう。
兎も角、三人のバランスはばっちり。
――いざ、戦いになれば、それは『立ち位置』という形で明確になる。
膨らんだ身体の大半が削られ、黄金にも陰りが見える。ここまで追いつめられて尚、『こんにちは』はこんにちはを続ける。
変わった点と言えば。
「こんにちは、こんにちは、こんにちは」
その、多さ。これまでは狙い澄ましたようにぶつけていたそれを、畳み掛けるように口にし続ける。身体に、腕に、全身のあらゆる場所から。反響し、反芻し、何度も、何度も。
「こんにち「んにちは「こん「にち」「こんにちは」「こ「ちは」」」
伝達することさえ辞め、ただひたすらに。|挨拶《のろい》を、|挨拶《わざわい》を、溜め込み一気に解き放たんとする、自爆同然の構え。
それを、的確に押し止めるのが、三人の動きであった。
『――相見えぬ日月よ、白炎と夜断の巡りを、いま我が手にお貸しください』
語り紡ぐは御伽の話。此度彼女が選んだのは、|「日本書紀一書:昼夜を隔つ日月」《アマテラス・ツクヨミ》。偽りの太陽が如き黄金に向け、天照らす白き炎と、夜を断つ淡くも鋭き光の斬撃が、交互に襲う。二種の攻撃は遠近それぞれに対応し、命中し続ける限り途切れることはない。とはいえ、単独でただ打つだけならば単調に過ぎるだろう。起伏の無い|展開《たたかい》は、退屈なものだ。
「めしませ淑女の底力、後悔せぬよう全力で――!」
そこに|刺激《スパイス》を加えるのが、シンシアである。|かつての涙の意味は《ティアーズ・アイドル・ティアーズ》――流した涙の数だけ強くなれるとはよく言ったもの。その言葉の通りに、嘗ての後悔が、彼女に悔いなき未来を形作るため、|現在《いま》に立ち向かうために最もふさわしい力を与える。
後悔といえば例えばそう、深夜の一人飲みで最高の一杯を飲み損ねたこととか。
具体的に思い出せば強まる力。踏み込む一歩は深く鮮烈に。一刺しは美麗に。魔法を帯びた一撃は敵が防がんとした触手じみた腕部を諸共貫き、直後内から魔力が爆ぜるだろう。
狙いは正確。力いっぱいの攻撃というよりも、敵の間隙やこれまでの戦いで負った傷を正確に狙い撃ち、そして警戒に立ち回る『器用さ』こそ、今の彼女が得た力であった。
身動ぎを察知しシンシアがすかさずくるりと身を翻せば、後衛に移った境華は放つ白炎で以て反撃を潰しつつ、前衛に立てば月光が漆黒を切り裂く。
まるでダンスを踊る様に。日が昇り、沈み、また新たな朝が来る。円環は絶えず、攻め手が途絶えることはない。息の合ったコンビネーションは、着実に敵を削ぎ落していった。
「こんにち こん 「こ ちは」 ちは」
単体でありながら無数の|挨拶《こんにちは》を告げていたその身体も、完璧な連携によって容易く削り取られ、萎んでゆく。十全に溜めた『こんにちは』を繰り出すことさえままならない。
せめてもの反撃をとばかりに、中途半端に溜め込んだ災厄を、解き放たんとすれば。
「――やらせるとお思いで?」
ついに。怪異の口から、言葉が消える。
ここまでの戦いの中で自分が聞き続け、そしていずれ発動するだろう『予測不能回避不可能の無惨な死』。それにかかる呪詛その全てを『傷』と認識することで発生する、聖人の腕。聖ポメラニアンの|神言拘束術《ウェルブム・ヴィンクルム》。五本一組として計四組。合計二十の重ね掛けによって、『こんにちは』は完全にその動きを停止した。
防御、回避、逃走――そのどれもが許されない。
「挨拶は、一方的に通すようなものではありません」
「これで、さようならです!」
繰り出す、渦巻く陽を模す白。羽搏きと共に舞い散る白。
闇を象り、混沌を形作る球状の身体が。今、三位一体の連携によって――完全に、消滅した瞬間であった。
●『こんにちは』、そして『さようなら』
天を呑み込まんばかりに膨張した謎の怪異、『こんにちは』は、無事に退散した。
然しこれはあくまで一時的なものにすぎない。出現する原理すらも定かではなく、本来は異なる|√《せかい》の存在が、なぜ今このような形で出現したのか――。思考を巡らせれば巡らせるほどに、厭な可能性ばかりが考え付くことだろうが。
「今は、この勝利を祝しましょう」
柔和に微笑んだ聖人――聖ポメラニアンはそう告げると、時を置かずEDENたちに背を向けるだろう。
「今後このような形で肩を並べることを望むべくもありませんが。皆様が神の導きを信じるようになれば、ともすれば……いえ」
そうだ。昨日の敵は今日の友とは言え、それはあくまで一時的なものに過ぎない。
「それでは皆様、『さようなら』」
振り返らずにそう言い残した聖女の背中は、すぐに消え去り追うこともできまい。
戦い、別れ、しかしそれでも明日にはまた予想もつかない出逢いが、そして再会が、あるかもしれない。
君達はその『|明日《みらい》』を、確かに守りきったのである。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
大成功
