寂寥の社の其の向こう
●神様だって寂しいから
其れは偶然でした。
すっかり人が来なくなった|神社《ここ》に、とてもとても久しぶりに人が訪れたのです。
巫女の風貌をした彼女は問いかけました。
「寂しくは、ないですか?」
「寂しいですよ。寂しいです」
私は答えました。寂しいです。
野山に住まう動物たちすら近寄らぬほど寂れてしまった。かつての賑わいは遥か遠い夢のよう。
「それなら私の手をとって。力になってさしあげます」
彼女が囁く、あとは私に任せればいい、と。
あらゆる手を尽くして人を呼んであげましょう、と。
私は寂しかったのです。とてもとても寂しかったのです。
だから、だから、だから。
彼女の背負う手がナニモノかも分かっていて、私は其の手を取りました。
神をも隠す神隠し。だけど、もう、寂しかったのです。寂しくて寂しくて、堪らなかったのです。
禍々しい手に包まれながら、私は|神《私》を終えました――。
ゴシャリ、ゴシャリ、メキリ、メキリ、ミシ、ミシミシ――ブチリ。グチャリ。
骨を砕いて、肉を潰して、|血《あか》を啜って、|魂《たま》を喰らって、生りましょう、成りましょう。
神を隠して神隠し、神を喰らって成りかわり、|信仰《こころ》集めて至りましょう。
そうして、生りましょう、隠しの神へ。神隠しから隠す神へと、成りましょう。
さあさ、終わらぬ花一匁。あなたの|いらない《・・・・》を頂戴な。
●怨がつもりて縁となる、縁を重ねて円を成す
「あなたたちにはいなくなってほしい人、っているかしらぁ?」
体躯は決して悪くなかろう怪しい見た目の男は、煙管吹かして胡乱な微笑みをひとつ手向ける。
名をノア・デイヴィス(あやしいお店の次期店主・h04075)と名乗るこの男。
気のせいではない。妙にたおやかな仕草、そして口調。この星詠み、オネエである。
「お星様からのお告げよぉ。とある寂れて|いた《・・》神社に、√汎神解剖機関から来た怪異ちゃんが住み着いちゃってるのよぉ。なんか事件を起こしているらしくってねぇ。退治してきてほしいわぁ」
詳細話すわねぇ、と灰皿へ少しばかり灰を落とした。
ノア曰く、とある山中に寂れた神社があった。
周囲の山村に住まう人たちに、山の恵みに関わる豊穣神として信仰を集めていたそうだが、人口減少に伴い廃村が増えたことで、其の神社もすっかり廃神社となってしまっていた。
このまま朽ちる筈だったのだが、或る日を境に、縁切り神社、として突然、名を馳せるようになったらしい。
特に怨恨、妬み、僻み、あの人さえいなければ――そういう仄暗い願いほどよく聞き届けてくれることから、願掛けは人のない時間帯にこっそりと行われており、願掛けをした人たちもすっかりと其の事実を忘れていたため、怪異の仕業だと星が告げたのはつい先ほどのこと。
「お空にある星灯りすら届かぬほどに、闇深~い案件よぉ、これ」
星が視せた絵馬の数はおびただしく、カタリカタリと不気味に風に揺れていた、とノアは言う。
「どうやら黒幕の怪異ちゃん、あたかも其処の巫女さんのように振る舞っているようなのよぉ。だから、まずは参拝者のふりをして様子を探って頂戴。どんな参拝者が来ていたのか、とか、行方不明者が何処に行ったのか、とか、事件の核心を突くような話題なんか振ってみて動揺を誘えばいいんじゃないかしらぁ。その直後のことはちょっと視えなかったんだけど、動揺した黒幕が姿をあらわすからそしたらぶっ飛ばせばいいわぁ」
怪異の名前は神隠し、という。
「事件の説明は此処までよぉ。それでねぇ、これはアタシからのお願いなんだけどぉ……星が教えてくれたのよぉ。元の神様、怪異ちゃんに喰われちゃったのですって。寂しくて、人を集めるよって誘いに手をとってしまったようなのよぉ。神様も孤独には耐えられないのねぇ」
煙管を口に、残った僅かな葉を吸い込んで。溜め息混じりに細く吐き出した煙。ゆうらり登る其れを眺める緑の眼差しは、哀愁。
「神様はね、永い永い信仰の積み重ねで蘇るものよぉ。きっとねぇ。どんなことをするのかはあなたたちに任せるけれど、そうねぇ、良いことを願ったり、山の恵みに感謝をしたり、其の神社の素敵なところを撮ってきたりして……広めてあげて頂戴。悪い縁が集うばかりじゃあ、きっと其の場所にもよくないわぁ。よろしくねぇ?」
マスターより

初めまして、門 翳です。
手探りでシナリオ運営開始です。
OP公開後、翌日朝9時よりプレイング受付します。
第一章:参拝者のふりしてお参りしてください。
巫女さんに接触して事件調査する、ノアのお願いを叶える、はこの章でのみ実行可能です。
悪ーいお願いしても全然OKです。
第二章:第一章の行動によって分岐します。
分岐結果によってはグロ展開になる可能性が高いので、参加の際はご注意ください。
第三章:黒幕の神隠しをぶっ飛ばします。
以上、よろしくお願いいたします。
10
第1章 日常 『おまいりしよう!』

POW
健康祈願!
SPD
家内安全!
WIZ
学業成就!
√EDEN 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

神様も寂しいとか感じることあるんだ…なんかかわいそうだな
いなくなってほしい人?そりゃあ悪い奴はいなくなってほしいけど…悪って人によって違うもんな
むしろみんな、元気で幸せでいてほしいよ
大事な人が急にいなくなるのって…ほんと、つらいからさ
ってことでお参りします!
お願い事は「事故や事件、災害で悲しい思いをする人が減りますように」
もちろん俺も能力者としてできる限りのことはするけど、神様にも背中押してもらえると嬉しいかなって
あと【彼岸此岸】で周りのインビジブルがいたらちょっと話を聞いてみる
最近お参りに来た人っている?どんな様子だった?とか
なんか怖そうな依頼だけど、頑張らないと!
●縁、ひとつ
ひんやりと冷たい冬の風が山の木々を揺らす。
ざわめきなど然程、聞こえぬ枯れ山具合。
落葉樹の多い山らしく、秋頃は紅葉でさぞ見ものだろうことは想像できた。
ただそれでも神社からの景色は、絶景の一言。澱みない空気が眼下の街並みを綺麗にうつす。
「つ、ついたぁー……」
人の気配がない境内へ、険しい山道を登って橘・明留 (青天を乞う・h01198)が訪れたのは昼の頃。
√能力者であれど疲れるもんは疲れる。綺麗だな、の一言は流石に少し難しかった。
胸いっぱいに山の空気を吸い込めばあがったままの呼吸が少し落ち着いたので、明留は意気込みあらたにまずは境内を軽く散策する。
「神様も寂しいとか感じることあるんだ……」
怪異が巫女のフリをしている、とは星詠みは言ってはいたが。
単純にひとり(?)では管理に手が回らないのか、あくまで自然を装うつもりなのか。
とにかく、掻き分けるほどではないけれど、靴が埋もれる程度には境内は背丈の高い草が生え放題。
草根、踏まれたばかりの足跡辿り、参拝すべき拝殿を目指す。
進めば進むほど見つける、かつては人がいたのであろう気配。
朽ちそうな石灯篭、忘れ物の長靴や手袋、枯れた手水。
――永い、永い間のひとりぼっち。段々、誰も来なくなって。人の手が入らず、荒れていく神社。
きっと明日は、明後日は。そうやって来る日も来る日も、待っていたとしたら。
「……なんか、かわいそうだな」
ぽつり、独り言。来ぬ / 帰らぬとわかっていても人を待ち付ける孤独は、既に、知っていた。
人の身で重ねた年月でも、辛いものを。神の身では重ねた年月は、どれほど苦痛だったろうか。
――だから、怪異の手をとってしまったのだろう。
「……よし!」
明留の願い事は、決まった。
「多分、此処だよな……うへぇ、」
星詠みの言う星が視せた光景、おびただしく連なる絵馬をヒントに件の拝殿と思われるものを見つけた。
明留はふつふつと湧く好奇心のまま、絵馬掛けにぶら下がる絵馬をちらり。直後に後悔する――人、怖い。
うっかり脳に刻まれてしまいそうな怨恨様々な願いを振り払うよう、ぶんぶんと頭を振るい。
そして、同時に恐れた。此れだけの数の人間が、既に怪異に取り込まれてしまっているとしたら――。
「はやく、解決しないとな」
明留にとっていなくなってほしい人は単純明快、悪い奴だ。
だが、人の善し悪しなど曖昧な定義。誰かにとって悪い人は、時に誰かにとっての善い人だ。
だから――
(むしろみんな、元気で幸せでいてほしいよ)
既に縁を繋げた人、これから出会う人、ずっとずっと出会うことのない人、みんなみんな。
お賽銭を放り、鈴をじゃらり。想いをのせて二礼二拍手。
「事故や事件、災害で悲しい思いをする人が減りますように!」
(勿論、俺もできる限りのことはするけど。神様にも背中押してもらえると嬉しいかなって)
孤独に泣いた神様がいつかまた目覚めて、ちょっとだけでも応援してくれたら。それだけで明留は頑張れる気がした。
そして一礼。その瞬間、拝殿の奥の奥から透明な鳥が羽ばたく。
(あ、インビジブル!)
明留は反射的に追いかけた。
鳥は、山の奥へ。奥へ。奥へ。
「待って、聞きたいことがあるんだけど!……ここ最近のことを、聞かせてほしいんだ」
真摯な声掛けに鳥は梢に止まる。
明留は彼岸の鳥を、此岸の|存在《モノ》へと手繰りて寄せて――そして鳥は、人の、子どもの姿へと。
おかっぱ頭、薄い桃色の着物を羽織る童子は、ぷらぷらと裸足を遊ばせる。
「最近のことって、お参りに来るようになったひとたちのことか?」
「そう。どんな様子だった?」
「みんな、すごく怖かったな。いなくなればいいのに、とか、あのひとさえいなければ、って。でも、二回、三回と来る奴はいないね。今のところみんな1回しか来てないよ」
覚えてるのは一昨日までだけど、と童子はぴょいんと梢から飛び降りた。
明留の周りとてっくてくとひとまわりして、下からじぃと見上げてくる。
黒い瞳は明留を探るような、伺うような――其の闇色に、明留はうつらない。
「巫女みたいなアレが絵馬を見て、絵馬に書かれた|いらない人《・・・・・》の名前を覚えて、よく出かけていく。帰ってくると、もっと厭な雰囲気になってる、巫女みたいなアレ。喰ってんじゃないかな」
カミサマ喰ったみたいに。童子の声は、すとんと無機質に冷える。
神様が喰われたところを、見てたの?と明留は問えなかった。
空気が、ずしり伸し掛かる。周囲に集う、視線。ナニモノかが、視ている。透明な鳥たちが、視ている。
「……さっきお前の願いを聞いた。お前は怨を願う奴ではないからな。だから、アレを追い払ってくれ」
「……怖そう、だけど。頑張るよ!」
明留はごくり生唾呑み込んで、深く頷いた。
よかった、と童子は幼子の笑顔を向けて、鳥へ返り、空へ羽ばたいていく。
🔵🔵🔵 大成功

アドリブその他諸々歓迎
ふむふむ。せやったらまずはノアはんのお願い事叶えるのにもまずはお参りやね。折角やし皆の健康祈願しとこか。
うちの子らの健康祈願。何時までも元気でいますようにってな。色々頑張ってくれとるさかいに。それがずっと続けられますようにって。
で、お話しするのもええけどこうして祈り捧げる方が慣れてるからなあ。信仰の問題は同じような事しとるでな。よお分かりますわあ。
せやから、ここに御座します神様にどうか祈りが届きますようにと。一心に祈りを捧げます。どうかあなたと自分のいとし子たちがいつまでも健康でいられますように。と。
●縁、|二重《ふたがさね》
ぴゅるりぴゅるり――山の生き物たちは木枯らしに丸くなる。
朔月・彩陽 (月の一族の統領・h00243)が訪れたのは夕暮れの黄昏時が迫る頃。
ほのかでもやはり陽はあたたかく、其れが傾けば空気は冷える。
小鳥たちは梢で身体を寄せ合って、ぎゅっと暖とりあって、境内へと続く道をのんびり登る彩陽を見ていた。
「ふむふむ。せやったらまずはノアはんのお願い事叶えるのにもまずはお参りやね」
星詠みは彩陽の言葉を聞いて、ありがとうねぇ、哀愁をほんの少しおさめたという。
さて、ようやっと登り切った山道。見下ろす街は夕暮れ色に染まりつつある。ああ、絶景かな。
虚弱のままでは叶わなかったろう、険しい山道を登り切った達成感に胸が弾んだ。
頑健、とはいかないまでも、何も憂うことなく普通に身体が動かせる。なんと、素晴らしいことか。
――あの子に感謝やねぇ。普通の身体を与えてくれた存在に思いをはせて。
「ああ、せやな。折角やし、皆の健康祈願しとこか」
彩陽の願いは、決まった。
境内をゆるり楽しみながら、先駆けた√能力者の足跡を追って辿り着いた拝殿。
見渡した限り、境内に漂うインビジブルはすこぉし変わっていて。
――鳥と、あとはウミヘビのようなものが|異様に《・・・》多い。
風に吹かれてカラカラ鳴る絵馬の数も多いこと、多いこと。数えてみようとして――やめた。
うっかり絵馬とウミヘビの数が一致して要らぬことに気付いてしまったならば。
少し朽ちかけ気味の社務所の奥に居る巫女モドキに恐らく勘付かれる。
(お話しするのもええけど、こうして祈り捧げる方が慣れてるからなぁ……)
腹の探り合いよりはお参りの方が性にあっている。ましてや彩陽の願いは、とてもとても大切なものだ。
だから敢えて|関わらない《・・・・・》、それは得意な誰かに任せればいい。
「さて、と。作法は他の神様と変わらんやろか……」
ちごうてたらすんませんなぁ。彩陽は神様が良き願いを呼び声に、疾く疾く目覚めて下さるよう、二礼二拍手。
(どうかあなたと自分のいとし子たちが、いつまでも、いつまでも健康でいられますように)
祈りは切に、切に、と一心に。
儘ならぬ身体の不自由さなど、辛さなど、悔しさなど誰も知らなくていい。味わわなくていい。
――どうか、どうか。
願えば願うほど周りの空気がふわり和らぐのを感じるが、同時に増すのが騒がしさ。
バサバサ、鳥の羽ばたき。ザリザリ、ウミヘビの鱗の擦れるような音。
それから、ジャリジャリ、砂利を踏んで誰かが近づいてくる音。気配。人間の気配によく似たナニモノカの。
(ああ、いやぁな気配しとるなぁ)
一礼。くるり、拝殿から背を向ける。
彩陽が今、御縁を望むのは此処に居た筈の豊穣の神様であって。神喰いの巫女モドキではない。
巫女モドキの墨をぶちまけただけのねっとりとした黒い眼と眼が合えば、ただ無言の会釈。
声をかけようとしていたらしい巫女モドキも、ぎこちない微笑みを向けて会釈を返した。
「暗くなりますからお帰りはどうぞ気をつけて」
「お気遣いおおきに」
彩陽は一旦、境内を後にする。巫女モドキの視界に入らぬところで様子を見守る算段だ。
――刻々、夜が迫る。
くるり、くるり、ウミヘビがとぐろを巻く。執着と、嫉妬と、呪縛の象徴が闇を威嚇する。
――怨々、一度和らいだ空気が重くなる。墨色の暗闇が境内を呑み込んでいく。
🔵🔵🔵 大成功

信仰から生まれた神は、信仰を得られなくなれば死ぬ…
至極当然の原理だね
自然に朽ちるものは滅びるに任せればいいのに、随分と不自然な延命だ
とはいえ多神教のこういう人間臭い神というのは、興味深いから嫌いではないけれど
あいにく神頼みの習慣はないので詣ではしない
天に任せるよりも自助のほうが確実だろう?
境内を見て回って、参拝客や巫女に話を聞いて回ろう
日本の寺社に興味を持っている外国人というテイで、縁切りや神隠しについてもわざとあっけらかんと尋ねる
コミュニケーションと演技力にはそれなりに自信があるしね
怪しまれた時だけこっそり能力で催眠をかけようかな
●縁/怨、重ねず。明かしの窓、ひとつ。
「信仰から生まれた神は、信仰を得られなくなれば死ぬ……至極、当然の原理だね」
語られぬ物語は潰えて途絶えるように、信仰より産まれし神もまた然り。
――そう、これは至極、当然の原理だ。自然の摂理とも言えよう。
だから、寂寥の果てに朽ちたくない、と怪異の手を取るのも、また、生き永らえたいと願う人と変わらない。
――此度は相手を間違えて、生き永らえるどころか喰われて果てた神様だけれども。
「不自然な延命とはいえ、人間臭いよね。興味深いから、嫌いではないけれど」
神の在り方にすら国や民の特性が如実に表れる。
多神教の中でも度々妙に人間臭さがある神が居たりするのが、此の国特有の神様への親しみやすさなのかもしれないね、と。
夜の闇が背中から追いかけてくる中、興味津々とヴォルン・フェアウェル(終わりの詩・h00582)は件の神社へと訪れた。
さて、くるり周囲を見渡せばちらほらと人がいる。ヴォルンの後からも人がふらりふらりと訪れる。
登山装備が居るほどではないけれど、それなりに険しい山道を登らねばならぬ場所に、黄昏時も過ぎた頃合いからわざわざ人が訪れる。
学校帰りや仕事帰りにお参りしよう、そんな気軽さで参拝できるような場所ではないことは、此の国の産まれではないヴォルンも理解できていた。
参拝客たちの雰囲気も重々しく、張り詰めていて、どんよりと暗い。
「ふーん……」
薄氷は少し突いただけで割れるものだ。
「こんばんは!」
「え、あ、こんばんは……?」
時に、無知は武器である。
ヴォルンはその風貌を活かし、日本の寺社に興味を持っている外国人というテイで参拝者に声をかけた。
――此処はどんな神社なんですか?縁切るってなんでしょう?絵馬って何でしょう?
グリモワールをノートかわりに開いて、聞いた話をメモするような素振を見せる。
ただそれだけで、参拝者たちの雰囲気はガラリと変わった。この人は何も知らない、その油断で口は軽くなる。
――神社とかに興味あるんですか?勉強のために日本へ?
――縁切りって言うのは、自分だけではどうにもできそうにない悪い縁を切ってくれるよう、神様にお願いすることです。
「例えば、お家のお隣さんがすごく迷惑な人だったら、引っ越してくれますようにって」
「ああ、なるほど。それは確かに、神様にお願いするしかないですね」
「でしょう?」
「はい!此処に居る皆さんは、縁切りに?」
「そう、だと思います。私は、そうです」
そう言う参拝者はヴォルンから視線を外して、絵馬をそっと胸元に握り込み、隠した。
後ろめたさを匂わせる。
「困っているご縁がなくなるよう、お願い、叶うといいですね」
「あ、はい。ありがとう、ございます」
――とても勉強になりました。
――いえいえ、お役に立てたらなによりです。
お互い会釈して、さようなら。そして、思い出したように、ヴォルンは参拝者へと声をかけた。
「ああ、そういえば此処はとてもよくお願いが叶うと聞きました。願われた人は――」
――消えてしまうそうですよ。
「え、」
参拝者の目が見開かれる。絵馬を握る指先が震えていた。
「え?巫女さんは、そんな、こと」
そんなことないですよ、などと笑えばいいのに動揺する。心当たりがあるのだろう。
「消えてしまうそうです。まるで神隠しのように。怖いですよね」
ヴォルンの背から月明かり、逆光が彼の表情を隠した。
不穏を匂わせる夜風がカタカタと絵馬を揺らす。鳴らす。
――カタカタカタカタカタカタカタカタ、カタカタカタカタカタカタカタカタ。
絵馬が鳴く。|絵馬《隠された犠牲者》が鳴く。泣く。啼く。
――カタカタカタカタカタカタカタカタ、カタカタカタカタカタカタカタカタ。
参拝者が震える。巫女さんはそんなこと言ってなかった、引っ越したり、異動するだけって。
――カタカタカタカタカタカタカタカタ、カタカタカタカタカタカタカタカタ。
「あなたのお願い、叶うといいですね」
そして参拝者は、何も願わなかった。
🔵🔵🔵 大成功

ふうん、縁切り神社ねえ…。僕は別に、遠ざけたい人なんていないんだけれども。
成就の仕組みは気になるなあ。あと綺麗な巫女さんもね。
さあて、お願いしたいことも特に無いし……さっさと巫女さんを口説きにいくかな。
こんばんは~巫女さん、素敵な夜だね。人を呪うには、月が見守るこんな夜が一番だ。
此処は縁切りで有名な神社だって聞いてきたんだけれども…いつからそんな風に呼ばれるようになったの~? 嘸かしふかぁい歴史があるんだろうねえ。僕、なんにも知らなくってさ。
あと、お願い事が|どんな風に《・・・・・》叶うのかも興味があるなあ。良かったら教えてよ、二人っきりでさ。
●明かしの窓、|二重《ふたがさね》
怨恨、悪縁、重なる場は夜に染まるほど暗く重く。
境内より見下ろす街明かりは確かに届くのに、空だけが闇に閉ざされた。
差し込んでいた月明りは、星の微かな煌きさえも、もう、此処には|喪い 《ない》。
此の場だけが、怨恨の夜に、闇に、深淵に覆われた。
|恨み辛み妬み嫉み《ウミヘビたち》がぐるりぐるり、とぐろを巻いて夜に怯えて震える頃。
「ふうん、縁切り神社ねえ……僕は別に、遠ざけたい人なんていないんだけれども。成就の仕組みは気になるなあ。あと綺麗な巫女さんもね」
ルメル・グリザイユ(半人半妖の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01485)が縁切り神社に足を踏み入れた。
漆黒纏うその姿は境内を呑み込む夜の暗闇に呑まれそうでありながら、色素の薄い片目がほのりと猫目のように光るから、辛うじて他の参拝者にもルメルの姿は視認できていた。
――そう、まだ、居るのだ。否、寧ろ、|増えている《・・・・・》。
灯りがあっても尚、鬱蒼とした山道を登り、わざわざ此処に訪れる。ただの、参拝者が。
「山道の夜歩きって危険だと思うんだけどね」
そんな危険を冒しても尚、断ち切らんと望む縁がある。
|執着《Anker》のいないルメルには理解及ばぬことではあれど、ルメルにはその在り方こそが縁をより強固にしているようにも見えた。
執着しなければ多くの縁は、自然と潰えよう。その執着を怨々くすぶらせる感情が何なのかは皆、きっと違えども。ひとつ確かなのは、異常だ、ということだけ。
「まあ、いいか。お願いしたいことも特に無いし。さっさと巫女さんを口説きにいくかな」
しかし、参拝者たちには怪異の気配も残滓もうかがえない。とあれば、彼らのもつ異常性は元々持っているものだのだろう。
そう結論付けたルメルは、さっさと社務所の巫女の元に急ぐ。
――どうせ、今宵を最後にもう悪縁切りの願いは叶わぬのだから。
「こんばんは~巫女さん、素敵な夜だね」
立ち並ぶ参拝者の列が途絶えた頃に、ルメルは社務所の奥に居る巫女に声をかけた。
巫女はルメルも参拝者のひとりと思ったらしい。ととと、と小走りに戻ってくる。
「はい、こんばんは。素敵な夜ですね。何かご用ですか?」
「うん、そう、君にご用事。聞かせてほしい話とか、教えてほしいことがあるんだよね」
「なんでしょう?私でわかること、できることでしたら」
こてんと首を傾げる巫女。こうして見れば、普通の、どこにでもいる巫女と変わらない。
強いて言うなら瞳の色に違和感を覚えるくらいだ。墨をぶちまけたような闇色で、虚無で、何もうつしていない。
けれど、ルメルはそれを気に留めずに、人好きのする笑顔を向ける。
「此処は縁切りで有名な神社だって聞いてきたんだけれども、いつからそんな風に呼ばれるようになったの~?嘸かしふかぁい歴史があるんだろうねえ。僕、なんにも知らなくってさ」
「ああ、それは――」
巫女が一瞬、言いよどむ。
「いつから、でしたでしょうか。具体的な日付は忘れてしまったのですが、かつてこちらにおわしたのは豊穣の神でした。それがやがて豊穣から飢え無し、飢えの苦しみとのご縁無しとされ、それが回り回って縁切り、と。神様の気まぐれでしょうか。縁切りの願掛けがよぉく利くようになったのは、最近ですが」
――ありえそうな話を語りながら、巫女は口元だけニィと笑む。ルメルはなるほど、と頷きながら次の切り口を。
「あとはね、お願い事がどんな風に叶うのかも……興味が、あるなあ。いなくなれって願われた人たちが、本当に突然、いなくなっちゃったみたいなんだよね。ねえ、良かったら教えてよ、二人っきりでさ。それに、」
――人を呪うにはさぁ、こんな夜が一番だろう?
月も星も見守らぬ暗闇の夜。ルメルは頬杖ついて、悪戯に囁いた。
いなくなれと願われて、いなくなった人たちは、恐らく怪異に|喰われた《・・・・》。
ならば、忘却の力が強いこの|楽園《√Eden》においては、被害者たちの存在はあらゆる人々の記憶から跡形もなく消え去る筈だ。
で、あるにも関わらず、いなくなった人を、今だ帰らぬと、突然いなくなったと、言うのであれば。
つまり、それは――巫女は、しばし無言の後。
「――いいですよ、教えて差し上げます。他の方には秘密ですよ?此方へ」
巫女は社務所を出て、拝殿へと静かにルメルを案内する。
ぎょろり、ぎょろり。
ウミヘビたちの目が。怪異に喰われて命を落とした|インビジブル《ナレハテ》たちの目が、拝殿へと歩む巫女とルメルを見ていた。
ぎょろり、ぎょろり。ぎょろり、ぎょろり。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『さまよう眼球』

POW
かじりつく
自身の【眼球と牙】を【真っ赤】に輝く【暴食形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
自身の【眼球と牙】を【真っ赤】に輝く【暴食形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
SPD
ヒュージ・ファング
【強酸】のブレスを放つ無敵の【無数の牙の生えた巨大な口】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【生命力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
【強酸】のブレスを放つ無敵の【無数の牙の生えた巨大な口】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【生命力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
WIZ
新たなる牙
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【次なる「さまよう眼球」】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【次なる「さまよう眼球」】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●みていた
みていた、みていた、みていた、みていた。
――鳥はみていた、神様が喰われるところを。
みていた、みていた、みていた、みていた。
――蛇はみていた、要らないと願われた人たちが喰われるところを。蛇に、成るのを。
みていた、みていた、みていた、みていた。
――星すら見守れぬ闇の中、其の目たちはみていた。
巫女に連れられて楽園へと訪れた、目と牙と肉の怪物は其のどちらもをみていた。
――ばりばり、むしゃむしゃ、ぐしゃぐしゃ、ぼきり。
オイシソウダナ、ってずっとずっとみていた。
オナカスイタな、タベタイな。嗚呼、ヤッとエサがキタ!
「さあ、こちらへ、どうぞ」
ルメルを連れて巫女は歩く。拝殿を通り過ぎ、闇の中、より闇深い鬱蒼とした森の中へと歩く。
しずしずと、ゆるゆると、迷いなく、ルメルをどこかへ連れていく。巫女は語る。
「お願いがどのように叶うか、貴方は知りたいと仰いましたね。でしたら、|コレ《・・》に聞くといいでしょう」
周りより少しだけ開けた場所で、巫女は足を止める。ご飯ですよ、と虚空に向かって巫女が声をかければ、何もない空間からぎょろりと目があらわれた。否、空間が目を開いた、ともいえた。
――ぎょろり。ひとつ。
――ぎょろり、ぎょろり。ふたつ、みっつ。
――ぎょろり、ぎょろり。ぎょろり、ぎょろり。ぎょろり、ぎょろり。ぎょろり、ぎょろり。ぎょろり、ぎょろり。
いくつもいくつもいくつもいくつも目が開かれるうちに、がぱり、続いて夥しい牙を備えたいくつもの口が開く。
したたる唾液が地面を濡らす。餌を見る目で√能力者たちを見る。肉厚な緑の舌が口を這う。
空間からソレがあらわれる。さまよう眼球があらわれる。
「|コレ《・・》は全てをみています。だから知りたいならばどうぞ、聞けばいいでしょう。聞けるものならば、ですが」
巫女を包むように、巫女の背後から手が顕現する。
翼のように広がる血色のない白い手は、ゆるりゆらりと不気味に指を蠢かした。
「どこで嗅ぎ付けたかは存じませんが、私の神様が真なる隠し神と至る道を邪魔することはゆるしません。此処で喰らわれてしまいなさい」
巫女は手指に包まれて、闇に融けた。恐らく、境内に戻ったのだろう。
追いつくためにはまずは目の前のコレを片す必要がありそうだ。飢えた獣が、餌をみすみす逃す筈はないのだから。

アドリブ、連携歓迎
うっわぁ、気持ち悪…
|インビジブル《あのこたち》が教えてくれたとおり、絶対ヤバいヤツじゃんか
でも、腹が減ってるってことはこいつが食ってるわけじゃない?
…食ってるとこ見てただけ、なのかな
なんかそれはそれで気の毒なような…いや、それでも食べていいとか思わないけど!俺ご飯じゃないし!
原因のヤツはこの先にいるんだよな、だったらまずは考えるより動かないと
【複合連打】で攻撃!
移動速度は速くなるみたいだけど、真っ赤に光ってるなんてめちゃくちゃ捉えやすいじゃん
こっちだってノーコンじゃないし、受け流しつつ戦おう
ちょっとくらい喰らっても、痛いのは我慢できるしな!
●みている
暗闇にぎょろり眼光が浮かぶ。ぽかりぽかりと口腔が浮かぶ。
――腹減っタ!ヤットキタ!餌だ!ごはんだ!オイシソウ!
餌を見る目で明留をねめつける視線たちが、声高らかに叫んだ。
――アレノ肉は柔らかソウだ!手ヲ食おう!足ヲ食おウ!目玉ヲぶちりぶちりカミチギロう!
木々の騒めきも、明留|だけに《・・・》聞こえる明留を鼓舞する鳥たちの囁きも、さまよう眼球の姦しさが上書いていく。
うるさい。視線も、口から轟く声も、舌なめずりの音も、何もかもがただただ、うるさい。
いっそ不気味さよりも嫌悪感や煩わしさが勝る存在に明留は、ただシンプルに。
「うっわぁ、気っ持ち悪ぅ……っ」
心の底から漏れ出る嫌悪感を一切隠しもせずに、悪態をついた。
明留の全身を、舌なめずりの音と共にいくつもの視線が這う。
明留は画面の向こう側に居る著名人たちのように格段に見目が整っている訳でも、奇抜な格好をしている訳でもない。無遠慮な視線に晒される不快さは、明留には未知の不快さだった。
不快だ、たまらなく不快だ。あまりの悍ましさに吐き気すら覚える。
ぞわり粟立つ肌を撫でで慰め、思わずと一歩距離をとった。
(あの子たちが教えてくれているとおり、絶対ヤバいヤツだ、これ!)
鳥たちは囁く――でも、神様を喰った奴はこいつじゃない、と。
(そうなの?あ、でもそうなのかも。腹減った、って言ってるし……)
「食ってるとこ見てただけ、なのかな……なんかそれはそれで、気の毒なような」
途端に明留の目にはさまよう眼球たちが気落ちしているように見えなくもなかった、が、飢えた獣の如き怪異に明留の心遣いなどわかりやしない。
――アァアア”ぁ”いだだきまぁア”ぁ”す!
我慢ならないと眼球が、牙が、禍々しく血走る。咆哮けたたましく明留に一直線に飛び掛かる。
其の速さは見目から想像できる以上に、速い。迫る。牙が。迫る。目玉が。迫る、せまるせまるせまる。
「いや、それでも食べていいとか思わないけどッ!俺ご飯じゃないし!!」
明留が其れを紙一重で避けた瞬間、明留の居た空間にガチン!牙同士が固くうち鳴る音が響いた。
――タベタイ。目玉は鋭い眼光で逃げた獲物を見定め。
――タベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイ!!執拗に追いかける。
(少しくらい喰らっても、と思ったけど!此れ痛いじゃすまないな!?)
目玉の猛攻は、からぶる度に苛烈さを増す。絵馬の数だけ、ただ見ていた。絵馬の数だけ、飢えているのだ。
やっとありつける獲物を逃がしてたまるか、食欲という本能の片鱗。
一度噛みつかれたら、恐らくそのまま群がられる。貪られる。
其れは想像しただけで身も竦みそうだったけれど――明留は、頑張る、と言ったのだ。
(頑張らないと、な)
コントロールには少しだけ自信がある。標的だって暗闇でもわかりやすく、光ってくれている。
重要なのは初撃のインパクト、重さ、強烈さで怯ませる。
だから――ひとつの目玉に集中して当たるように、逃げ惑うだけに見せかけて。
少しずつ、少しずつ、距離を空けて、木々が生い茂る狭い道へと誘いだしていく。
やがて翼の羽ばたきが聞こえた。木々の騒めきが聞こえた。
姦しい咆哮は少しずつ遠退いて、木々の隙間は狭く。狭く。
明留すらすり抜けるようにして、潜り抜けるようにして、其の最中――ガッ!目玉が幹と幹に引っかかる。
「今だッ!」
明留は振り返り様にカードを投げた。
|複合猛打《ヤツギヤツザキ》――向こうが噛み喰らうならば、此方はヤツザキだ!
ヒラリ、空中を切るように飛び進む鋭利なカードが煌々暗闇の中でも光る赤い目玉に突き刺さるっ!
――ギャァアアアア!!
さまよう目玉は眼球と口だけの身を捩り、幹の檻から逃げようとするが叶わない。
ならば、と目玉は木々に噛みつこうとするが、其れを鳥たちが空より飛来し、目玉を強襲して阻止した。
不可視の鳥の爪が、抉る。切り裂く。嘴が、突く。引きちぎる。
捕食者だった筈の目玉を、非捕食者だった筈の者たちが削ぎ落していく!
「まだまだッ!」
其の隙をついて明留は更に猛襲をかける。
「頑張るって約束したんだ!負けないからなッ!」
星無き空に、闇に、|銀色《カード》の流星群が駆け抜けた。
🔵🔵🔵 大成功

普段は退屈で物腰柔らかいのに見えそうだが、いざ戦うとなれば雰囲気は凛々しくなる
自分なりに事態解決に力を尽くしながら戦闘自体を楽しむ
【剣理・天狗之書】で速度を上げる
うかつに攻撃を仕掛けなく、敵の動きをちゃんと【見切り】、攻撃を回避だり【ジャストガード】だりして【カウンター】を叩き込む
まるで形が定まっていない肉の塊のようだ
剣術はあくまでも人を斬る技術、こんな敵に対してじゃどうしようもない、か
…いや、いかに姿が変わっても、物事には動き方と斬るべき点がある
それを見極めて…斬り捨てるのみだ!

アドリブ連携OK、グロ歓迎
エスコートする先がバケモノの胃袋の中とは、ちょっと個性的すぎないかな?
確かにこれだけ目があれば見てはいるんだろうけれど、眼球に比して脳味噌が足らない気がするんだよね
垂れる涎も見苦しいし、紳士的な話し合いができる輩ではなさそうだ
愚にもつかない前菜は早めに片付けるに限る
指定能力で大百足の群れを召喚、食い荒らす
多少の入れ替わりがあろうとそのくらいは誤差さ
捕食は君たちの専売特許じゃない
至近距離のインビジブルと入れ替わってきた時は拳銃を使うよ
零距離で避けられるなんて思わないことだ
詳しい話は黒幕メインディッシュの前で、だね
●むさぼる
それは、偶然だった。
柳生・友好(悠遊・h00718)は星詠みに導かれたのではなく、たまたま山に足を踏み入れ、そして、巻き込まれた。
だから、これは偶然だった。
眼下の街は眠らぬまま煌々輝いているのに、そんな街の上には星がか細く瞬いているのに、此の山の空だけが不自然に暗澹としているのだ。
まるで隠されたかのように、此の山だけが切り取られたかのように。
日頃はふよふよと漂うだけのインビジブルが怯えたように身を縮ませている。木々の木の葉に、幹に、陰に隠れている。蔓延る不穏な気配。
そんな中、聞こえてきたのは知らぬ男の声だった。柳生は迷わず其方へ足を進める。
ヴォルンは目玉の怪異と対峙する。目玉から目をそらさぬように、少しだけ慎重に。
「エスコートする先がバケモノの胃袋の中とは、ちょっと個性的すぎないかな?」
だけど余裕は隠さずに。
白く巨大な手に包まれ、うすら夜の闇に融けていく巫女モドキに声をかけても、其の姿は既になく。
目の前には食欲の権現。だらだらとだらしなく口端から糸を引く涎は――
「見苦しいな。確かにこれだけ目があれば余すことなく見ているのだろうけれど……脳味噌が足らない気がするんだよね」
ヴォルンは眉をひそめた。見苦しい。飢餓に支配された見境のなさはあまりに見苦しい。
眼球こそむき出しの脳であれど、これだけ本能に支配された目玉たちは、果たして惨状を正しく語れるのか。状況を理解しているのか。絵馬の数だけ人間たちが喰われるに至る事情を、把握しているのか。
例え巫女モドキの言う通り律儀に話を聞こうとしても、会話が難しいことなど火を見るより明らかだった。
目玉たちは我慢の限界だ。我慢の限界だ我慢の限界だ我慢の限界だ我慢の限界だ。
目玉たちはただただ、我慢の限界だった。ハラヘッタハラヘッタ!と喧しく鳴きながらヴォルンに襲い掛かってくる。
「ああ、やはり紳士的な話し合いができる輩ではなさそうだ。愚にもつかない前菜は早めに片付けようか」
がちんがちん、ヴォルンは噛みつこうと迫る牙を軽やかにかわしていく中で、大百足の群れを召喚する。
|顎肢にて死す《センチピード・アサルト》――捕食の虫が目玉たちに食らいつく。
ギチチチチ、装甲赤黒い虫達がその柔らかい眼球を食らい尽くそうと、群がって這い上がる。
毒牙がぶちり、目をちぎり。ぶちり、またちぎり。ぶちりぶちりぶちりぶちりぶちり。
手などない目玉たちは身を激しく振り捩るだけだが、虫達はぐさりと毒牙を目玉に突き立てているので、振りほどけない。
――アァアアアアアアア!
途端、響いた絶叫は餌とされる恐怖、のものではなかった。
――トドカナイトドカナイトドカナイトドカナイトドカナイ!クチヲふやそう、目玉をフヤソウ!あれと交換だ、あれと交換だ。交換だコウカンだ。カワレェエエ!
イラつくほどの飢餓が食われる恐怖を上回る。目玉たちのヒステリックな金切声が森中に響いた。
(交換?何と、だ?)
場にそぐわぬような、単語。ヴォルンの警戒心が警鐘を鳴らす。
途端、零れる水晶体で殊更見苦しくなっていた筈の目玉の怪異の姿が、虫達ごと一瞬だけブレて――無傷の姿に巻き戻った。否、そう見えた。
此れは先まで対峙していた目玉とは違う。違うとわかったのは、声だ。
眼前の目玉たちも先の目玉と変わらず、ハラヘッタと空腹を嘆けども、声が幼くあどけない。
(じゃあ、さっきの奴らはどこに?)
さて、ヴォルンのすぐ背後から闇夜に紛れてぬるり、迫るのは目玉と、そして牙。
あとは其の牙を、口を、閉じれば。閉じられてしまえば、ヴォルンは目玉たちの夕餉と貪られる。
ギチリ、虫たちの大群が|犇《ひしめ》く微かな音に気付き、ヴォルンが振り向かんとした直後。
柳生の剣が、其れを切り裂いた。
「無事か」
「どなたか知らないけどおかげさまで」
「ならば、いい」
目玉のひとつを切り裂かれたさまよう眼球は、|赫然《かくぜん》その身を烈火に|赫《かが》やかせ。
――オノレオノレオノレオノレオノレオノレオノレェ!
けたたましい咆哮と共に二人を腹に収めんと襲い来る。
柳生の剣が目玉たちの猛攻いなせども、ぶよぶよと骨格無き肉塊の形を捉えきるには至らず。
柳生は少しずつ少しずつ、おされていく。
「脳味噌が足らない、は少し訂正しようか。本能ばかりで、知性が足りないようだ。食欲への執着は見事だよ。だけど、」
餌にありつけず、イラついているのは何も眼球だけではない。
ヴォルンの足元にざわり、かさり、集う。群がる。地を覆うほどの、大群が。飢えた大百足の、大群が。
ギチギチギチギチ、ギチギチギチギチ、ギチギチギチギチギチギチギチギチ。
――ひとつの剣で形を捉えきれぬなら、百の口で、万の足で、とらえてしまえばいい。
「捕食は君たちだけの専売特許じゃあ、ないんだ」
ヴォルンが百足たちをけしかける。赤黒の蠢めく|波《蟲》が眼球たちを喰らい、呑み込んでいく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

彩陽くん(h00243)と
あ~あ、巫女さんと素敵なひとときを過ごすはずだったのに…残念だなあ。
ま、振られちゃったものはしょーがない。さっさと片付けちゃおうか、彩陽くん。
さあ…憂さ晴らしに付き合ってもらうよ。最近何かと溜まってるから…ね!
[挑発]しながら攻撃を宣言し、防具を脱ぎ無防備な状態で[ダッシュ]で敵に突っ込む。
低速化した敵の攻撃をナイフで[受け流し]ながら弾く。負傷は[生命力吸収]で回復し、強連撃に耐える。
流石は統領様…まるで手のひらで転がしてるみたいだね。これじゃ物足りなくて、少し寂しいくらいだよお。
強連撃の終了後、正面から一気に近付き、両手を転移させ一際大きな目玉2つを[貫通攻撃]。

ルメルはん(h01485)と
……さて、と。色々見過ごされへんし……うん、んじゃやろっか。
……ケホと一つ咳を零して式神達に《高速詠唱+多重詠唱》で命令を出して【|月御霊・式神戦《ツキゴリョウ・シキガミセン》】使用。
相手に対して敵との融合を命令する。融合にて行動力が低下した所にルメルはんがずどんと一発どうぞ宜しゅう。
自分は<月霊浮遊機>に乗って敵の攻撃回避に専念。《空中ダッシュ・空中移動》で空を自由自在に回って逃げ回る。敵の強化が終わったらそこに<破魔弓>使用で《制圧射撃・弾幕》でその大量の目に矢の雨を。
目玉の敵が倒れたらルメルはんに。「どうもおおきにお陰で動きやすかったわあ」と相手に賞賛を。
●うちぬく
「あ~あ、巫女さんと素敵なひとときを過ごすはずだったのに……残念だなあ。あれ?」
ルメルを此処まで導いた巫女のフリした少女は、既に闇の中。
かわりに闇より染みいでたのは可憐さの欠片もない、ぎょろりとした目と禍々しい口ばかりの怪異。
肩を竦めて怪異と対峙するルメルの視界の端の木陰草陰から、次にひょこりと出てきたのは彩陽だ。
「おや、ルメルはんおったんやねぇ」
「それはこっちの台詞だよ、彩陽くん」
彩陽の事情を思えば山登りなど少しばかり無茶ではないかと僅かばかり懸念が過る。
陽が隠されて殊更冷えた冬の夜風が堪えたのか、現に彩陽は、けほり、と咳をひとつ。
とは言え、目の前の怪異は慮るどころか弱っているのならば好機とばかりにちっとも待っちゃくれない訳だ。
餌が増えた、と歓喜に叫んで下品に歯を鳴らす。
「ま、振られちゃったものはしょーがない。さっさと片付けちゃおうか、彩陽くん」
「せやね。色々見過ごされへんし……うん、んじゃ、やろっか」
追いつくのが遅ければ、巫女モドキは新たに命を喰らおう。邪魔者の片付けはとっとと終わらせるに限る。
眼球の数は目前の飢えた怪異よりは少なけれども、むざむざ惨劇を見過ごすわけにはいかないのだ。
――其の為に、此処にいるのだから。
「さあ……憂さ晴らしに付き合ってもらうよ。最近何かと溜まってるから、ね!」
ばさり上着一枚抜き捨てて、奥まで貫いてしっかりいかせてあげる!と含み持たせたルメルの挑発に、彩陽は思わずルメルはんなどと言葉にしていまいしつつ、穏やかなのはやり取りだけ。
彩陽の緋色の瞳はしかりと目前の怪異を見据えていた。食欲に支配された怪異は、ルメルの挑発に容易くかかる。
ナイフ片手に一見、無防備に飛び掛かっていくだけのルメルの行動も、彩陽がいれば好機と転ずる。
「……我が名に応えよ。我が命に応えよ。その名に刻まれし使命を果たせ」
|月御霊・式神戦《ツキゴリョウ・シキガミセン》――朔月の名に応えし式神たちが、飢えた怪異にぬらり纏わり、はりつき、そしてひとつに|融けていく《・・・・・》。
直後、目玉たちはぎょろりとした目を見開いた。身体が重い。鉛のように、重いのだ。飢餓という危機に支配された本能は、限界を凌駕した行動を可能にしていたにも関わらず。
瞬きひとつが重い。口を開くのも億劫だ。何をしたと騒げども既に、遅し。
脅威を彩陽と定め、排除しようにもルメルが其れをゆるさない。周囲を漂うインビジブルと入れ換わる隙など、あたえよう筈もない。
腹が減ったにも関わらず、身体は意志に反して動かしにくいし、おかげで餌にもありつけない。となればいくら怪異でも自暴自棄にもなろうか。いよいよ我が身すら顧みない怪異の猛攻も、彩陽の式神の悪戯で鈍重なくらいだ。容易くルメルにいなされる。
「流石は統領様……まるで手のひらで転がしてるみたいだね。これじゃ物足りなくて、少し寂しいくらいだよお」
怪異を弄ぶ、ルメル。何もかもが思い通りにいかずに焦り、苛立つ怪異の様子にうすら嗜虐の笑みが浮かぶ。
これなら、死に水かわりに一口くらい味わわせてもよかったかもしれないね。ルメルの戯言にあきまへん、と真面目に返す彩陽。ひらり月霊浮遊機で空中を駆けながら、破魔弓をひく。
「ソレとちゃいます。人が喰われとるん見るのは気分よろしゅうありまへんわ」
きらり矢が、五月雨と閃く。篠突く雨の如く、降り注ぐ。されど破魔が射止め、撃ち抜くは悪しき怪異のみ。
地に縫い留められた目玉は、最早、なすすべもなく。舌さえ撃ち抜かれ、叫ぶことすらままならない。
「まあ、確かにね」
ルメルが目玉たちの中でひときわ大きな目玉の前に立ち、ソレを覗き込むようにして目線をあわせる。
「それじゃあ、いきな?」
――ルメルの両腕が不自然に、ブレるように掻き消え。
ずぶり。ぐしゃり。眼球の内側から、硝子体を泳ぎ、水晶体を貫き、虹彩も角膜さえも突き破って、濡れたナイフを実らせて|はえた《・・・》。
声なき断末魔、ただ空気を震わせるだけ。だらり、弛緩した舌が口から零れたまま、眼球たちは|逝き《いき》果てる。
「どうもおおきにお陰で動きやすかったわあ」
慎重に地に戻る彩陽。ルメルに賞賛をおくりながら、ふと、眼球の末路を眺めて。
まじまじと、それはそれは観察するように眺めて、首を傾げた。
「ルメルはん。これじゃあ奥|まで《・・》貫いて、じゃあなく、奥|から《・・》になりまへん?」
「……あはっ、確かにねぇ!」
二人、顔を見合わせて、少し、わらう。
「ほな、いきましょか」
「そうだねぇ、いこうか」
くるり、来た道を戻る二人。そうして其の場は、最早、目玉の跡形もなく。
――見えない鳥たちが、ただ、みていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『神隠し』

POW
攫う『かみのて』
【虚空より生える無数の『かみのて』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
【虚空より生える無数の『かみのて』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD
増殖する『かみのて』
自身の【かみのて】がA、【かみのうで】がB、【かみのかいな】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
自身の【かみのて】がA、【かみのうで】がB、【かみのかいな】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
WIZ
荒ぶる『かみのて』
【虚空より生える『かみのて』】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【掴む腕】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
【虚空より生える『かみのて』】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【掴む腕】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●乞いましょう、請いましょう
要らぬと願われた命をただ狩るだけ。ただ喰らうだけ。ただ糧にするだけ。
ごめんなさい、ごめんなさい。虚空より伸びる神の手に引きずられながら、狂乱、泣き叫びながら命乞うダレか。
ぼきり、不自然に曲がる足がスカートよりのぞく。
「神様の糧となるのですから、どうぞおよろこびください。貴女の命で神様が、隠し神へと成るのです」
其の命をくださいと請う偽りの巫女。怯え、震え、逃げるように泳ぎ騒ぐウミヘビたち。
ザリザリザリ、ザリザリザリ。ザリザリザリ、ザリザリザリ。
ヘビの鱗が擦れる音が、ダレかが引きずられる音が、重なる。響く。
ザリザリザリ、ザリザリザリ。ザリザリザリ、ザリザリザリ。
助けて、助けて、誰か誰か誰か誰か。悲鳴、虚しく木霊する。
ザリザリザリ、ザリザリザリ。ザリザリザリ、ザリザリザリ。
地面に突き立てた爪が、べり。べり。一枚、二枚、剥がれる。赤い道筋が、地面に遺る。
ザリザリザリ、ザリザリザリ。ザリザリザリ、ザリザリザリ。
「わざわざ此処へ連れてきたのは、」
ザリザリザリ、ザリザリザリ。ザリザリザリ、ザリザリザリ。
「あなたたちに見せつけるためです」
ザリザリザリ、ザリザリザリ。ザリザリザリ、ザリザリザリ。
「果たして神様が召し上がりきる前に、助けることがですか?」
――ザリっ。
地面を削る複数の足音に、偽りの巫女の少女はゆうるり、能力者たちの方へと振り向いた。

嫌だって泣いてる人を無理やり殺すのが神様なのかよ!
俺はそんなのがうれしいやつなんか信じたくないし拝みたくないよ!
手がいっぱいで気持ち悪いし正直怖くて泣きたいけど…俺よりずっと怖い思いしてる人がいるんだから逃げたらダメだろ!
【霊雨慈雨】で引きずり込まれそうになってる人をインビジブルたちと一緒に引っ張る!
何体かには敵の攻撃を引き受けてもらう
俺だって多少ぶん殴られても痛いのは我慢できるから大丈夫
それに俺に攻撃が向くなら、そのあいだこの人が引きずられるのだって多少は遅くなるかもだし、他の能力者の皆が攻撃する隙もできるかもしれないし
目の前で人が死ぬのなんて、もう見たくないんだよ!
●善き願いは縁となり、
明留の目の前で繰り広げられるのは、惨劇。
偽りの巫女の背後より現出するいくつもの神の手に、訳も分からぬ儘に引きずられて。
全身を傷つける痛みと濃厚な死の気配に、泣きながら、喚きながら、ゆるしを乞う|女の人《ただの人》。
きっととてもお洒落なのだろう、剥がれた爪は花弁のように可憐に彩られていて。
嗚呼、その女の人の白い指先は土と血ですっかり汚れてしまっていた。
まるで|作り物《映画》を観ているときのように、明留の脳は目の前の惨劇を処理する。
ただの情報として細部を拾う。
何故なら、明留だって、特別な能力を持っただけのただの人。
その感性は、此処に居る誰よりも|一般人《ただの人》だ。
特別な種族でも何でもない。産まれだって、平凡だ。出来得る限り平穏に生きていたい、ただの人。
女の人と同じくらい、顔を真っ青だ。足だって、正直、ちょっと竦んでいる。
(――怖い。怖い、怖い。怖い怖い怖い)
青白い手がいくつも蠢いている――気持ち悪いに決まってる。
女の人が大怪我しながら助けてって叫んでる――自分がそうなるかもしれないなんて、考えたくない。
あれに、立ち向かわないといけないなんて――怖い。怖い怖い怖い怖い。視界が潤みそうになる。
――でも。命が喪われる痛みを、そのどうしようもない喪失感を、明留は誰より知っていた。
ふわり、明留の肩に、明留だけが視える鳥が、一羽、とまる。
すり、と確かに明留の頬に頭を擦りつけて。嗚呼、まるで、慰めてくれているかのように。
(すまなかったな、お前。此処までよく頑張った。無理はしなくていいぞ)
目の前で豊穣の神様を喰われた鳥は、悲しい思いをした筈の鳥の囀りは、明留を想い、何処までも優しい。
だから。だから明留は――応えるように鳥を撫でる。指先は震えていたけれど。格好つかないけれど。
(ううん、大丈夫、ありがとう――ぶっちゃけ、正直泣きそうだけど!でも、)
「俺よりずっと、ずっと怖い思いしてる人がいるんだから!今、此処で逃げたら絶対、絶対ダメだろッ!」
自らを鼓舞するように。
「目の前で人が死ぬのなんて、もう、」
昏い昏い闇を突き破らんくらいに。
「もう!見たくないんだよッ!」
力いっぱい全力で叫んだ。そうして、そのまま力強く地を蹴って駆け出す。まさに猛進。
その姿をか弱き小鳥から、猛き|鷹《天空の覇者》へと変じさせながら鳥たちも明留に続いた。
風を切るような鳥たちの羽ばたきが、明留を確かに勇気付ける。
そうして、助けを求めて虚空にのばされた|女の人《ただの人》の手を、明留が掴んだ!!
「あ、」
「助けるから!絶対、助けるから!諦めないでくれッ!」
ぼろり、|女の人《ただの人》から新たに零れた涙は安堵。こくり、と頷いた。
鳥たちは|女の人《ただの人》の服をその足で掴み、明留と共に引く。
|女の人《ただの人》も、この!この!と折れていない足をばたつかせる。
「この期に及んで醜く足掻きますか」
「足掻いて何が悪いんだよ、誰だって死にたくないだろ!例え本当にその手が神様になったって、嫌だって泣いてる人を無理やり殺すの神様なんざ、俺は信じたくないし拝まないからなッ!」
明留の発言を侮辱と見做した偽りの巫女は、神の手たちは気配荒ぶり。
無造作、がつり掴んだ石灯篭で明留たちを殴ろうとする、が――ぐん、何かが石灯篭を引っ張って、神の手たちはそれを引き抜けない。
そこには怯えるだけだった海蛇たちが、幾重にもぐるりぐるり巻き付いて、引き抜けないように必死に、必死に抗っていた。
(お前の善き願いが縁となったな。これは負けてはいられない)
「俺も!」
予期せぬ味方の登場に鷹は、明留は共に笑い。
猛き|鷹《天空の覇者》は空高く舞い上がる。そして滑降、獲物しかりと狩り捕える|爪《凶刃》で、神の手たちを切り裂いた!
🔵🔵🔵 大成功

趣向に品がないのは一貫しているね、そこには感心するよ
とはいえその程度の人質で優位に立てると思っているならいささか浅薄な考えと言わざるを得ないな
正直僕は、そのヒトが助かろうが喰われようが特に感慨はないもので
取り込むとその「カミ」は強化されるのだろうから、救出できるに越したことはないけどね
【はばたく螻蛄翅】で攻撃をいなしつつ間合いを詰める
肉薄する手はナイフで切り裂き、離れた位置のそれには蟲を喚び捕食させる
弱っている手は魔力で強化した足で踏みしだいて進もう
要らないものを処分するだけならゴミ箱にだってできる
感情を解していた以前の神に比べたら、君と君の巫女はヒトに祀られうる器じゃない
●縁は重なり円となり、
(ああ、らしいな)
怯えながらも、怖がりながらも、|彼《Anker》がまず先駆けて、彼岸へ引きずられていく女を此岸に引き留めた。
此処に在る誰より女と変わらないただ人でありながら、恐らく誰より愚直に善人だろう、彼。
あらゆることを、あらゆるものを信じないヴォルンにとって、ただひとり彼だけは別だ。
――此処で見捨てるのは彼らしくない。恐慌せずに立ち向かったその姿に安堵して、ヴォルンはふっと微笑む。
彼が女の手を掴むなら、ヴォルンのすべきことはひとつだ。
女を喰らおうとする根源を、偽りの巫女を、神の手をただ薙ぎ払えばいい。
「趣向に品がないのは一貫しているね、そこには感心するよ」
携えたグリモワールをはらり、捲って言葉をひとつ。
実際、大勢にただ見せつけるためだけの荒々しい食事など、品性のかけらもないではないか。
生贄欲する神であっても、多くは人に隠れて喰らうものだ。
「ああ、そういえばあの目玉にも、ただ見せつけるだけで与えてはいなかったね。そういう趣味かい?とはいえ、その程度の人質で優位に立てると思っているなら、いささか浅薄な考えと言わざるを得ないな」
更に捲って、またひとつ。
「そんなあなたは、ただ其処に在るだけなのでしょうか?そのような言葉程度で、私を挑発しているおつもりですか?」
「まさか。わざわざ君たちに合わせるようなことをしないだけさ。なにより僕は、そのヒトが助かろうが喰われようが特に感慨はないんだ」
「恐ろしい人」
「残念ながら人ではなくてね」
いっそ他愛ないやりとりの最中も、ぺらりぺらり、紙が擦れて捲れる音が響く。
彼が引き留めているならば、事実関心こそないもののヴォルンが女に余計な気をやる必要はないのだ。
ヴォルンの涼やかな蒼い目が、グリモワールの文字を追う。追って、追って、追って追って追って――
「うん、悪食な君たちにはこれが相応しい」
「なにを、」
詠唱は僅か3秒。途端、ブブブブブ――けたたましい羽音が偽りの巫女の声を上書いた。
ぬらり、ヴォルンの傍らに顕現したのは一匹の、赤子大の、羽虫。
普段は小さきからこそ、蟲ならではの悍ましさは感ぜぬもの。
それが赤子のサイズとなれば、もはや異形の怪物たる有り様だ。
ぬめり照り光る甲殻の黒々しさが、うねる節足が、ぎょろりぎょろり忙しなく複眼が、偽りの巫女と神の手を見つめる。
「ヒッ」
流石の偽りの巫女も短い悲鳴を上げて、たじろいだ。
予想外な反応にヴォルンは少しだけ瞳を丸くするものの、すぐに興味を失くす。ヴォルンにとって、対峙するあれらはただ排すべきものでしかない。
自らに仕える巫女の怯えた様子に、神の手たちがぞわりヴォルンに襲い掛かる。
煩わしい羽虫は叩き潰すもの――神の手たちは召喚主ごと殺してしまおうとするが、巨大な羽虫こそデコイに相応しい。
ただの羽虫ですら煩く飛び回られれば鬱陶しいもの。それが巨大なれば尚更だ。羽虫は神の手たちの周囲をブォンブォン素早く飛び回る。
偽りの巫女は頭を抱えてうずくまり、神の手はただ人が虫を払うようにひらひら蠢いて。
その隙に、ヴォルンは静かに距離をぐっと詰める。
近付くヴォルンに敏く気付いて襲いかかってくる手は、構えたナイフで切り捨てて。
集団で襲い掛かってくるようであれば、再度、羽虫のデコイを放つ。
「要らないものを処分するだけならゴミ箱にだってできる」
それを繰り返して、ヴォルンに気を引かせ続けていれば、彼が女を引き留める時間が伸びる筈だ。
一歩、一歩、ヴォルンが距離をつめる度に、切り捨てられた指が地面に落ちて、増えていく。
積み重なる指は、芋虫のように這う。夏のコンクリートに炙られたミミズのようにじたりばたりと蠢く。
それをヴォルンがぐちゃり、ひとつ踏みつぶす。無慈悲に、無感動に、ただの動作でしかないように。
「感情を解していた以前の神に比べたら、」
ぐちゃり、ぐちゃり。ねばつく足音は、|死神《ヴォルン》が迫る音。
ぐちゃり、ぐちゃり。ぐちゃり、ぐちゃり。ぐちゃり、ぐちゃり。ぐちゃり、ぐちゃり。
ひぃい、偽りの巫女はそれこそただ人のように、震えるばかり。
「君と君の巫女は、ヒトに祀られうる器じゃない」
そう、願いは感情より成るものだ。心より溢れるものだ。言葉の裏にある真の願いを汲み取り、聞き届けたるが神の多くだ。少なくともかつて此処に在った豊穣の神は、そう在った筈だ。
ヴォルンにすらそれが理解できるのに。ただ悪食を繰り返すのであれば、それは神に至れる身に足らず。
――神を偽った。その断罪の|ギロチン《ナイフ》は、偽りの巫女へと振り下ろされる。
🔵🔵🔵 大成功

彩陽くん(h00243)と
やあ…さっき振りだねえ、巫女さん。焦らされ過ぎて、もう我慢できないよお……って、あれ?
…ふうん。まだ生きてたんだ。…散々巫女さんを求めておいて……本物を見捨てるっていうのも、寝覚めが悪いよね。
ごめんね彩陽くん、ちょっとだけ付き合ってくれるかな?
彩陽が敵を抑えている隙に、命中する限り息つく間もなく√能力で引き寄せ&連撃を叩き込む。
ナイフで斬りつけそのまま[貫通攻撃]、更にナイフを振るい貫通させた[傷口をえぐる]、詠唱錬成剣を傷口に挿し込み[武器改造]で形状を鋸刃に変化させ、今度は素手で殴ると同時に剣を[怪力]で引き抜き、更に素手で殴りつけその手から[爆破]を放つ。
靴で蹴り[踏みつけ]、再び靴で蹴り今度は[なぎ払い]、ナイフを握り直し連撃で脆くなった箇所を[切断]、最後には被弾も構わず斬り込みながら[捨て身の一撃]。
ここまでやればもう十分だろう…囚われている少女の手を掴み、引き上げ抱きとめる。
…よしよし、お疲れ様。よく頑張ったね。もう大丈夫だから……安心してお眠り。

ルメルはん(h01485)と
さて、相手も後がなくなって来とるな。
油断は禁物やけどもそれでも倒されへん相手ではないわ。後なんつうか……ざりざりざりざりやかましい……耳の奥っつうかなんか響く……ケホ。
ほな、いこか、ルメルはん。……したい事あったらどうぞどうぞ。
幾らでも付き合ったるさかいに。
【|弓術と式神による協力攻撃《コンビネーションコウゲキ》】で相手を攻撃しつつ捕えて逃がさない。その間にルメルはんよろしくーで追撃してもろて。
相手の攻撃に関してもその攻撃で弱らせて、神の手を【御霊達】で縛り付けて範囲攻撃をそもそもさせない方向で。更に【霊震】加えて動きを鈍らせておくで。
対神様相手とかこちとら慣れとんねん。残念やったねえ。と、ルメルはんの目的完遂した後、【|弓術と式神による協力攻撃《コンビネーションコウゲキ》】の、【式神達の突撃】による強撃を相手に喰らわせて最後や。覚悟しぃ。
●寂寥の社の|其の向こう《彼岸》から、
ひとりの少年が先駆け、彼岸へと引きずられていく女を此岸に引き留めいた。
その少年と、少年に協力するインビジブルたちが、抗い、足掻き、反撃すれども神の手はまだまだご健在――女を助けるにはあと一歩が足らず。
さて、偽りの巫女はというと、断罪の一撃をその身に受けてしとど赤に濡れていた。
ルメルは状況を確認すると、彩陽にこそり話しかける。
「このまま見捨てるのは流石に寝覚めが悪すぎるよねえ。ごめんね、彩陽くん、ちょっとだけ付き合ってくれるかな?」
「したい事あったらどうぞどうぞ。幾らでも付き合ったるさかいに」
ありがとー、間延びした返事もそこそこに、次にルメルが言葉をかけるのは偽りの巫女。
「やあ……さっき振りだねえ、巫女さん。焦らされ過ぎて、もう我慢できないよお。君もそんなに濡れているんだ、欲しいよね」
声音は、欲の儘、濡れて艶めく。気をひく算段では勿論、あるけれど。
しかし、本当に身体の奥が疼いて疼いて、渇いて渇いて、仕方がないのだ。
埋めたい。その身体に / で埋めたいと、ぽかり空いた欠落がじくりじくりと疼く。
「ルメルはん、ほんま堪え性がありまへんな……とにかく、相手も後がなくなって来とるよう。油断は禁物や」
彩陽はすかさず突っ込み入れつつ、ぎりり、弓を引いた。
「それでも、倒されへん相手ではないわ。対神様相手とかこちとら慣れとんねん、ましてやまだ|紛い物《・・・》や」
容易い――彩陽の柔和な雰囲気ががらり、形のよい口元には挑発的な笑みが刻まれる。
ひゅー言うねえ。音がかすれる口笛ひとつ、ルメルもナイフを構えた。
此れだけ煽ればどうなるか、など想像は容易い。心酔する|神様《神の手》を侮辱された、偽りの巫女は――
「――ッ!」
痛みに身を震わせながらも、激昂。顔を真っ赤にして、声なき声を叫ぶ。
偽りの巫女の怒りに応えるように、神の手はずぞぞぞぞと虚空よりはえてくる。はえてくる。はえてくる。
まるでその有り様は白雪色の地獄花が開花したよう。神の手たちはその死人のような手を彩陽とルメルにのばす。
握り潰そうとのびてきた手は、
「させへん――、」
彩陽の呼び出した式神がその指を絡め取り、そこをすかさず彩陽が射抜いて地に落とす。
女を引き留める少年に加勢しようと駆けるルメルの足元からも、ぞぶり手がはえるもそれすらも見逃さない。
「だから、邪魔させへんて」
御霊達がぐるり手をまとめて縛り付ける。霊能震動波を加えて神の手たちの存在そのものを揺らがせて、弱らせて。
ぐらり襲い来る強震は、此の国に在り方を根刺す存在たれば身が竦むもの――されど、猛攻はやまず。
神の手たちにとって豊穣の神を喰らい、真の隠しの神へと至る道は諦めるには、それほどに惜しいものだ。
「ああ、煩わしい」
真の神を相手どるより遥かに楽なれど、無限と生える神の手たちの数がひたすら煩わしい。
けほ、と彩陽はひとつ咳払い。数多の手の数に立ち向かう手数そのものに問題はない。あとは、彩陽の体力次第だ。
彩陽が神の手たちを引き付けている間、相変わらず女を喰らおうと引きずるその巨大な手にルメルは近付く。
射程圏内。あとは、
「あっは、邪魔するよお」
欲のままに、嬲るだけ。
ルメルに気付き叩き潰そうとしてきた巨大な手を、ルメルが寧ろ|こちらへ引き寄せる《・・・・・・・・・》。
空間圧縮、巨大な手はルメルの目の前に。そこを、携えたナイフで切り刻む。
刻んだ傷口から、ずぶり――刃を深く深く奥まで貫いて。
ああ、硬いモノが肉をみちりとえぐる感覚にぞくり背を震えた。
身が火照る高揚は、殺しあいの緊張感か情事を思わせるソレ故か。無意識に唇を舌で濡らす。
「ねえ、もっとヨくなろ――ああ、イイね」
ルメルを包み込めてしまうだろうくらい巨大な手だ、挿しこむモノはひとつじゃ足りない。
錬成した剣を、そのやわらかそうな手の平に深く深く、突き立てる。
緊張した手の筋肉は、奥へ奥へと貫く鋸刃をほどよく締め付けて。その抵抗は、慣れぬ情事に震える女の躰のよう。
巨大な手に顔を寄せて甘やかに囁けど、端正な顔に刻まれた笑みは甚振るのを愉しむ捕食者のそれ。
乱暴に蹴り飛ばしながら、その勢いのままナイフと剣を引き抜いて投げ捨てる。
すかさず片足で踏みつけ、覆いかぶさるように襲い掛かるルメル。
巨大な神の手はその手指で力強く払いのけようと大暴れ。
暴れ馬からの渾身の一撃を受けてもルメルは狼狽えず、巨大な神の手を組み敷いたルメルは――拳を振り上げた。
ヒ、と短く悲鳴を上げたのはルメルの一方的な暴力を見ていただけの偽りの巫女。
肉を殴打する音が響くたびに神の手は醜く腫れあがり、ぼきり指が折れ、傷口がべらり捲れて肉が零れ。
「君のイく顔、見たかったなあ」
そして、余すことなく肌色が青紫になったころ、ルメルはその手をえぐれた傷口に躊躇いなく突っ込んだ。
直後、爆発の音――内部より破裂した肉片が、びちゃり周囲に飛び散る。
――女を引きずる手は、亡くなった。
引きずられていた女を引き留めていた少年が勢いで後方に尻もちついたり、女が怖かったと泣きだすのを眺めて。
ルメルは穢れた手を拭ってから、女の頭にぽすんと手を置いて撫でる。ちょっとした下心を隠しつつ――
「……よしよし、お疲れ様。よく頑張ったね。もう大丈夫だから……安心してお眠り」
ルメルが女に声かけるのを確認した彩陽は、ふぅ、と深く息を吐いて。
一番巨大な手が消えたとて、残党は数ある。ましてや、逃げようと背を向ける偽りの巫女を、彩陽が見逃す筈がなく。
「ほな、これで最後や。覚悟しぃ」
飛び交う式神たちが、破魔弓が、神の手を薙ぎ払う。その内の一矢が、偽りの巫女の背をとすりと貫いた――。
カラカラ、カラカラ、絵馬が風に鳴く。偽りの巫女と神の手が空気に融けて消えていく。透明に、還る。
晴れていく闇色の空の隙間より、眩く清くあたたかな朝日が境内を照らした。
――こうしてまたひとつ、日常が、返る。
●ひとつ円満を引き寄せた
縁は|縁《よすが》、此の世と彼の世を結ぶもの。
重なる縁はぐるり円環を繋ぎ、良き願いはひとつ、奇跡を起こす。
偽りの巫女が集めた信仰の軌跡は跡形もなく片された、かつて豊穣の神が祀られていた寂寥の社。
その社の中に、一羽の透明な鳥が居る。
鳥の傍らには、黄金の衣で身を包む|少女《豊穣の神の欠片》が眠っていた。
抱えた稲穂を大切そうに抱きしめて――いつかまた、数多の人と繋がることを夢見て。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功