忘れられた子どもたち
●子どもたちはなぜ消えたのか?
少年は動画を見ていた。お年玉か誕生日か、あるいはクリスマスプレゼントか。ともかく、ねだってねだって、なんとかして手に入れた端末で、熱心に、夢中に。欲しかった高級な最新機種ではなかったけれど、実用にはそれで十分だった。長い動画、短い動画、どれもが彼に新たな刺激を与えてくれた。彼が特別だったわけではなく、孤独になったわけでもない。みんなが同じだった。友達もみんな、動画を見ていた。
けれどやがて、動画を見る子どもたちは減っていった。結局は動画も一過性の流行りに過ぎず、次へと移ってしまったのだろうか? どうやら、そういうわけではないらしい。
そんな中、最後まで動画を見ていた少年が彼。放課後、茜色の教室に一人きり、窓際の席に腰掛け、端末をただ眺める。机には、誰かが彫刻刀で刻んだ落書きと穴。彼が最期に見ていたものも、また動画だった。
「準備はできたよ」
その彼も、今どこかへ消えた。この世界から完全に。両親も、彼の帰りをいつも玄関前で迎えていた祖父母も、悲しむことすらできなかった。彼について、静かに忘れてしまったものだから。
その動画を見ていた子どもたちもみんな、彼と同じように、ふいに、完全に、この世界から消えてしまったのだろう。悲しむことも出来ない家族を遺して。
果たして、どうしてそんなことが?
●訪れる未来を前に
√EDENの一般児童を対象とした神隠しの事件が発生するようです。「事件の発生を未然に防ぐ」ため、ターゲットとされる可能性の高い子どもたちに接触して、異界への入口に関わっていそうな「最近流行っている動画」の情報を集めていただければと思います。
世代が離れた相手とのコミュニケーションには、まるで言葉が通じないような感覚すら生まれることもあるかも知れません。そんなときは、言葉による交渉以外の手段も有効に働くのではないでしょうか。
それぞれの得意なやり方で、「子どもたちに接触」してみて下さい。情報を集めることだけに拘らなくとも、「ただ仲良くなるだけ」でも大丈夫。彼らとの繋がりそれ自体が、双方にとって有益な結果を生むものと思います。
●襲い来るもの
元凶となる敵怪異は、√汎神解剖機関から引き連れてきた怪異の群れを用いて、√EDENの資源を回収することを目的としていると考えられます。この場合、資源とは子どもたちそのものでしょうか。
敵が資源を得る前に、侵略手段を突き止めて先手を取るか、あるいは侵略しに来る相手を迎え撃つか。その辺りで分岐するルートが見えます。
どちらにせよ、そうして手段を潰してしまえば、元凶の怪異自身が出て来ざるを得なくなるでしょう。そうなれば、後は簡単な話です。
マスターより
一章:子どもたちから情報を集める、交流する。
二章:集めた情報を元に未然に怪異を叩きに向かうか、子どもたちを狙う怪異を待ち伏せして叩く(一章の流れにより分岐)
三章:元凶を……潰す!
という流れです。全体的に、現代ホラー寄りのシナリオかな?と考えておりますが、そこはあまり気にせず自由に壊していただいて構いません。ホラー傾向が極端に苦手な方はご注意を~程度のお知らせです。
シナリオ中に明示されていない情報は、世界設定の範囲内で自由に捉えていただいて大丈夫です。
どうぞよろしくお願い致します。
18
第1章 日常 『言葉に尽くせぬ想い』
POW
ボディランゲージ・ノリデ・ワカリアエル
SPD
道具や技術の使用を試みる
WIZ
知識や不思議な力を用いる
√EDEN 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵
七星・流俺も子供やけど動画とかはあんまり見ないし仲良くなれるやろか?
いや、でも俺の方が動画よりカッコいいし可愛いし!余裕やね!
動画の事を聞く前に、先ずは俺の良い所をアピールせんとな?
得意のパルクールで目指せ!注目独り占め!
後は普通の子供でも危なく無い練習方法を教えたり実演したりで仲良くなって、新しい友達を増やして行こ!
ある程度、色々な子の興味が動画からコッチに移ったら件の動画について聞き込みしよか。
少しでも興味が分散して変な動画見る子が減ったら良いんやけど、無理に見るな言うても気になるもんな。
【使用技能。ダッシュ・ジャンプ・クライミング】 関西弁は→ふんわり・それっぽくレベルでOK【アドリブ/連携○】
柔らかな陽射しの降り注ぐ公園。黒髪の少年は、足元に散らばる木漏れ日を踏みしめるように立ち、静かに息を整えていた。イヤホンからはお気に入りの音楽が流れ、集中を高めていく。それとなく見渡した周囲には、ジョギングを楽しむ人々やベンチでのんびりと過ごすサラリーマンの姿もあるが、彼と同い年からそれ以下か、少年少女の姿も多く見られた。
「ほな」
彼、七星・流(√EDENの流れ星・h01377)は呟き、その健脚に力を込める。
「やろかー」
軽やかに地面を蹴って跳んだ流は、遊具タワーの側面を垂直に登っていく。その足は正確に構造の隙間を捉え、駆け上がる姿は彼がまるで重力を無視し、天へと吸い込まれていくかのような錯覚を起こさせる。流が頂きに立つ瞬間、世界は確かに動きを止めて、可愛らしいフードの紐だけがふわりと揺れた。
トトンとそこから猫のように着地して、公園で過ごす人々の密度や動きを見ながら、次の遊具への最適なルートを辿り、初めての公園を攻略していく流。
パルクールと言われるそれは、海外で生まれた比較的新しい運動で、人が持つ本来の身体能力を引き出して、都市や自然の中を素早く駆け抜けることを目的としていた。
(少しでも興味が分散して、変な動画見る子が減ったら良いんやけどな)
もう一つの目的について考えながらも、目指せ! 注目独り占め! とばかりに、流は速度を上げる。
「すっ……げー……」
「いや、いやいや。なんだこれ!?」
周囲の人間は、殆ど初めて見る生のパルクールに、流の流麗な動きに見とれていた。もはや習慣化しているスマホをいじることすら、すっかり忘れてしまうほどに。
(俺も子どもやけど、動画とかはあんまり見ないし……仲良くなれるやろか?)
そんな不安も少しだけ感じていた流だったが、
(いや、でも俺の方が動画よりカッコいいし可愛いし! 余裕やね!)
と気付けばただその瞬間を心から楽しんでいた。
「なぁ、どうやってんだそれ?」
「靴か? 靴がすごいのか?」
楽しむ人間、明るいものには、人々が集まってくる。
「あんな、これはなー」
流は気付けばごく自然に、子どもたちの中に溶け込んでいた。
そんな中、流には気になることがあった。パルクールを行う上で、周りの人間の動きを見ている彼故に気付いたことである。
今時、外遊びの最中でもスマートフォンを触る者くらいいるものだ。「パルクール」で検索したり、流の姿を撮影しているような者もいた。それは少し恥ずかしいが、少し誇らしくもあり、ともかく、その程度は自然だ。
だが、動画と会話する者がいるだろうか? それも複数だ。いや、確かに電話は、本来会話するためのものではあるのだが、それでもこんな――
「それって、誰とお話してるん?」
流は、特に口数多く動画と会話しているように見えた少年に話しかける。無理に見るな言うても気になるもんな、と考え、まずは動画について訪ねてみることにした。
「えっ、うん、分かった」
少年は返事を返す。
「ごめん、今ちょっと」
少年は端末から目を離し、やっと流の方を見る。
「ええと、誰っていうか……えっ、うん、そっか。そうだね。……スマホ持ってる?」
流は頷いて、取り出したePhoneに、少年から動画のURLを転送してもらう。
「ちゃんと見てね」
少年は言う。
「ちゃんと教えたよ」
少年は言う。画面に映る赤い砂嵐に向かって。
無機質な砂嵐とは少し違う、少しだけ白混じりの、赤い砂嵐。そこには人の影もなく、通話する相手がいるはずもない。だが、少年の言葉はどうやら、殆どそれに向けられていた。そこから流れるノイズのような、水音のような湿った音は、人の言葉にも聞こえる気がした。
「いい子……」
日も暮れて、子どもたちは散り、流も帰路に着く。
流は今日一日のこと、仲良くなれた子たちや、動画について訪ねた子たちのことを考える。この後の夕飯のことも少し考えたかも知れない。
楽しく遊んで鐘が鳴り、それじゃあみんな、また明日。そういうわけにはいかんのやろか……いかんのやろな、と懐から取り出して口に放り込んだ飴ちゃんは、少しだけ酸っぱかった。
🔵🔵🔵 大成功
ひええ、子供が消えて忘れられるなんて怖いねぇ。こういうことをするのは多分何度か戦ったあれかな……色々な方法で人を行方不明にするよねー。でもでも、今回もしっかり阻止しちゃうよ!
動画を観る子供なら、流行ってなくても動画関係のことなら興味があるんじゃない?
ってことで、目的の子供がいそうな公園あたりで動画撮影をして興味を持ってもらうよ!
√能力者になってよく動くようになったから、遊具を使ったパルクールがよさそうだね!動画撮影してるってわかりやすいようにカメラとかセットして、派手に走って跳んでしよう!
これで私に興味を持ってもらって、おすすめの動画を教えてもらうような感じで流行りの動画のことを聞きたいね!
●興味を持って
「ひええ、子どもが消えて忘れられるなんて怖いねぇ」
公園の空きスペース、三脚を組み立ててカメラを設置する。
「こういうことをするのは、多分、何度か戦ったあれかな……色々な方法で人を行方不明にするよねー」
アクションカメラを装着し、電源を入れる。
「でもでも、今回もしっかり阻止しちゃうよ!」
念のため、霊探電測EMFのスイッチをオンに。それは危機を告げるように鳴る。おっと、とスイッチをオフに。機械にもよく反応するこれを使うには、今は周りに電子機器が多すぎるらしい。
事件の元凶には心当たりがあった。できれば今それを把握しておきたかったのだが——
「それ何の機械?」
「これ撮影?」
「サインして~」
動画を観る子どもなら、流行ってなくても動画関係のことなら興味があるんじゃない? という彼女の読みは的確で、既に好奇心旺盛な子どもたちが何名か集まり始めており、多くが電子機器、すなわちスマートフォンやそれに類する端末を持っていた。
「うん、私はねっ!」
雪月・らぴか(えええっ!私が√能力者!?・h00312)は、彼らとカメラに自己紹介をする。胸を張って元気いっぱいに。大きな体で、大きな声で。立派な手本となるように、とまで考えたかは分からないが、眼前の彼女の振る舞いは、まだ経験の浅い彼らを導く標となるだろう。
元気が溢れ出したかのような明るい色の髪は、後頭部で一つにまとめられ、活発な彼女の動きに合わせてふりふりと揺れる。そんな彼女は子どもたちの目に、少なくとも、そうなりたいと思える大人として映ったはずだ。
●わかりやすく、派手に
らぴかは彼らにパルクールについてわかりやすく説明すると、軽いストレッチをしながら、明るい色の瞳を輝かせて青空を見た。
「こいこい集まれ、吹雪の力っ」
彼女の利き手の左拳が、ほのかに煌めく雪の結晶を纏う。
「れっつごー!」
弾けるように駆け出す。比喩でなく、通常の数倍の速度で。
らぴかは拳に、吹雪を宿す。それはいくつかある能力のうち一つだ。この能力を得てから、体がよく動くようになった。曲芸じみた挙動さえ可能にするその力で、派手に走って派手に飛ぶパルクールは、元気そのものの彼女によく馴染むものだった。
設置された木製のベンチを飛び越えるらぴかは、背もたれの淵に手のひらを当てて滑り、加速する。放たれる氷の力が木目に薄く冷たい跡を残す。そのままの速度でジャングルジムに向かい、組み上げられた鉄骨に手をかけると、まるで体操選手のように勢いよく体を振り上げる。纏う冷気が、左手の触れている金属に、淡い結晶のような模様を一瞬だけ浮かび上がらせる。
細い足場の上でバランスを取り、片足で屈伸。色白の肌、大きめの体。ジャングルジムの端まで達した彼女は吹雪のように激しく舞い降りて、今度は、ブランコを支える斜めの支柱を掴み、両足を宙高く上げて回転しながら駆け抜ける——
●聞きたいね!
一連のパフォーマンスが終わったらぴかの下には、先程よりも更に多くの子どもたちが集まっていた。彼らとおすすめの動画の話をしたりしながら、確信に迫っていく。
「最近の流行りの動画ってどういうのがあるのかな?」
「んー、最近みんなが見てる動画だと——でも、教えていいんだっけ?」
少し考えつつ画面を差し出す少年。
「みんな見てるよね! 私も見てる!」
深く考えずに画面を差し出す少女。
何名かの子どもたちが見せてくれたそれは、確かにどれも同じものと言えた。細かい区別がつかないのは、年齢による感性の差ではないだろう。画面はただ赤かった。見慣れたUIの枠の中に、意味があるのかも分からない白いノイズのようなものの混じった、赤い砂嵐だけが吹き荒れていた。
なんていうか、赤いねぇ……と、らぴかは見たままの感想を漏らす。
「赤い……?赤?」
きょとんとした表情の少年。
「赤いって、何が?」
少年の持つ端末に、赤い砂嵐が蠢く。
「お姉ちゃん、あなたが赤く見えるんだって」
と画面に伝える少女。
「それは不思議」
誰の声か。画面から流れていた、水分を含んだ砂を噛むような、何かを挽くようなそのノイズは、その一度だけ、人間の声に似た音で、らぴかの鼓膜を震わせた。
ひえっ、と息を呑むらぴか。子どもたちには恐らくそこに、異なるものが見えている。敵意を感じ取ったらぴかは、そっと懐に手を伸ばし、霊探電測EMFのスイッチをオンに。それは危機を告げるように鳴る。
表示される値の幅には見覚えがある。怖いもの見たさの経験が活きる。どうやら、真相は把握できてきた。
🔵🔵🔵 大成功
ルエリラ・ルエラ【アドリブ改変・連携歓迎】
ふふん、美少女エルフ私参上だよ
おかしい。私もお子様だけど全く知らない流行だね…
私が…おくれてる?この最先端の美少女エルフのこの私がスロウリィ?そんな馬鹿な…!
私も流行にのって動画を見なければいけないね!
さて、まずは仲良くなるところからだね
ふふふ、そんなのはお手の物。下校中の子や遊んでる子たちに声をかけて、『私特性の芋煮』をプレゼント
ほーら、美味しい芋煮だよ。しっかりお食べ…ふふふふふ…もう芋煮の美味しさの虜になってしまっただろう?
さ、ある事ない事しっかり話を聞かせてもらおうじゃないか。あ、お勧めのホラーや美味しい芋煮屋さんがあったらその情報もね
●下校時刻に
ぐつぐつと、何かが煮える音がする。薄暗い路地裏の歩道の端で、大鍋が音を立てていた。何かの肉が煮えている。傍らには、「通学路」の看板。事件の発生を前に、堂々と、しかしなぜか目立たず、学校帰りの子どもたちを待ち伏せする影があった。
鍋は鈍く輝き、何百年も使われてきたような重厚さと、磨き上げられた新品のような清潔さを纏い、その矛盾が人の目を引き付ける。鍋の内側で、液体が渦を巻く。蒸気がふわりと立ち上り、街の空気の中に溶けていく。その香りはわずかに甘く、かすかに刺激的で、ひどく空腹を誘うものだった。
ケープを羽織った少女が、煮えたぎる鍋をかき混ぜる。少女は人ではなかった。それは、彼女の耳から分かる。細く長く、滑らかな曲線を描きながら天へと伸びる両の耳は、まるで絹のような質感で、光を受けると透けて輝くように見えた。
分厚く重い魔導書を片手に、大鍋の中身をゆっくりとかき混ぜる、人に非ざる者。それは一般的な魔女のイメージにも近いものがある。事実、彼女には魔力を操る力が備わっていた。
●美少女エルフ参上する
「ふふん」
鍋の主は華奢な体を反らして胸を張り、猫の付け耳と尻尾を誇らしげに揺らす。
「美少女エルフ、私参上だよ」
ポーズを決めるルエリラ・ルエラ(芋煮とサメの美少女エルフ・h00389)。それは誰に対して向けられたものだろうか。答えは眼の前、彼女の拠点と化した裏路地を最初に訪れた、下校途中の幸運な小学生にである。
「な、なにぃ、なんなのぉ……?」
ルエリラに気付き、不安げな声を出す小学児童。
「美少女エルフ、私参上だよ」
やれやれ聞こえなかったのかな? と親切にもう一度同じ内容を伝え、ルエリラは続けた。
「さて、まずは仲良くなるところからだね」
愛情込めて煮込みます。
「ふふふ、そんなのはお手の物」
お玉で手慣れたひと掬い。
「私特性の芋煮、プレゼントだよ!」
ルエリラ・ルエラ特性、手作り芋煮でいっ!
とばかりに堂々と差し出されたそれは、素朴な器に丁寧に盛り付けられており、ほんのり香る調味料と出汁が食欲をそそり、優しく懐かしい気持ちを呼び起こす。
寒い季節、冷たい空気の中で、この温かい芋煮は手のひらからじんわりと熱を伝え、その湯気とともに立ち上る香りも心地よく、辺りをほっこりとした安心感で満たしていた。
ルエリラの邪気の無さか、意外な年の近さか、美少女エルフの魅力か、芋煮の力か、はたまた環境に適応する古代魔術の効果だろうか。いずれにせよ、伝わるものがあったのだろう。彼女よりやや年下の小学生の少年の警戒は、やがてすっかりと解かれていた。
●美味しい芋煮だよ
お芋はつやっとして丸く、ほどよく味が染みており、箸を入れればほろりと崩れるほどに柔らかい。わぁ、と思わず少年が声を漏らす。程よく脂が乗ったお肉の薄切りは、適切な加減で煮込まれたことで余計な脂が落ち、柔らかくジューシーに仕上がっている。ほふほふとお芋と一緒にお肉を頬張る少年。彩りを添える細切りの香味野菜は、煮込まれてなお食感を残し、肉と煮汁と絡み合い甘みを引き立てている。野菜嫌いだったはずの彼は、次々とそれらを口に運ぶ。さらに、キノコ類が深い風味を加え、噛みしめるたびに森の香りが広がる。具材たちは調和し、全ての味わいがその汁に溶け込んでいた。少年がずずっと最後の一滴まで啜り、綺麗に空っぽになった器は、その|料理《げいじゅつ》の完成度を物語っていた。
●話を聞かせてもらおう
「しっかりお食べー」
笑顔を見て、笑顔になる。料理って嬉しい。
夢中で芋煮を平らげる少年をうんうんと眺めていたルエリラは、彼がしばしば端末を取り出して操作しているのが気になり、何をそんなに熱心に見ているのか尋ねてみた。聞けば、子どもたちの間で最近流行り始めている動画であると言う。
「おかしい。私もお子様だけど、全く知らない流行だね……」
ハッと気付く。
「私が……おくれてる? この最先端の美少女エルフの、この私がスロウリィ?」
これでは文化的負けヒロイン! なぜだ! 煮汁が濃すぎるのか? とぶつぶつ呟くエルフの少女をよそに、それじゃもう僕行くからと少年は立ち去ろうとしたのだが。
「私も流行にのってその動画を見なければいけないね!」
都会派エルフの心には、興味と対抗心が炎となって燃え盛る。
「ふふふふふ……もう芋煮の美味しさの虜になってしまっただろう?」
まだまだ聞きたいことがある。敢えて少なめに盛り付けた一杯目の芋煮を布石に、おかわりをちらつかせ、ルエリラの芋煮式交渉術が始まっていた。
「さ、ある事ない事しっかり話を聞かせてもらおうじゃないか。あ、お勧めのホラーや美味しい芋煮屋さんがあったらその情報もね」
一通り聞き終えて満足し、手を振りさよならするエルフと少年。
またおいでー、私の芋煮はねー、一日中食べ続けたって飽きがこないんだよーと響く声。
「中毒性があるの……!?」
怯える彼に、エルフはにやりと悪い顔で親指を立てた。
少年の姿が見えなくなって、彼女は先程の動画を改めて再生する。
裏路地を最初に訪れた、下校途中の幸運な小学生。彼は本当に幸運だった。
「なぜ僅か。僅かに届かず」
長く長く、彼を狙い定めていた声の主は、その幸運を。本当は今日、このまま消えてなくなるはずだった少年と、それを妨げたルエリラとの出会いの偶然を、赤く歪んだ画面の向こう側から、静かに深く呪っていた。
🔵🔵🔵 大成功
動画かぁ。なんだか|現代《いま》の子って感じだねぇ。
けれどの時代も、子供の根っこってそこまで変わらないと思うんだ。
と言う事で、まずは僕に興味を持ってもらうのに『物語の読み聞かせ』を試みようかな。大丈夫、表面上は無害で綺麗なお姉さんだよ。
「君たち、ちょっと読み聞かせの練習に付き合ってくれないかな?」と話しかけてみます。
しかし、読み聞かせの定番である昔話はパンチが弱い。故に何か…そうだな『桃太郎vs鬼 リベンジデスマッチ一本勝負』とか『帰ってきた浦島太郎』とか、スパイスを加えよう。
僕の語りで【魅了】されてくれればいいのだけど、今の子は賢いからね。大人気なく【言いくるめ】も使っちゃうかも。
●無害で綺麗なお姉さん
「動画かぁ。なんだか|現代《いま》の子って感じだねぇ」
図書館のカウンターに置かれていた招き猫を指先でつつき、中条・セツリ(|閑話休題《それはさておき》・h02124)は呟く。
組織を通し、捜査の一環として許可を取ることは容易だった。学生ボランティアということで、正式な身分証明書(偽)を提示して、図書館にも学校にも自然に出入りできた。
だがこれは、なかなか容易ではないかも知れない。
児童コーナーの遊び場で、足元を駆け回る子どもたちの一人が、"また"足をもつれさせて転びそうになり、そのままふわりと浮き上がる。
「けれどどの時代も、現代も昔も、子どもの根っこってそこまで変わらないものだと思うんだ」
浮き上がったわけではない。子どもはひょいと持ち上げられ、その場に静かに降ろされていた。
図書館ではお静かに、じゃなかったのかい? と仕事をこなしながらセツリは思う。とは言え、子どもとはいつの世もこんなものだったかもしれない。赤い瞳に映されてきた風景を、星霜を経たセツリは想う。
だがこのままでは、演じる通りのただの無害で綺麗なお姉さんだ。もちろん、表面上はそれで構わないのだけれど。
児童書棚から何冊かの定番書を見繕い、セツリは考える。定番の昔話そのままではパンチが弱い。故に何か……そうだな、スパイスを加えよう。
「君たち、ちょっと読み聞かせの練習に付き合ってくれないかな?」
子どもたちに声をかける。
「そんなお話、ぼくもう知ってるよ、つまんない」
セツリの選んだ絵本を見て、子どもの一人が言う。賢いね、と目を細め彼女は微笑む。
でも大丈夫。これは、「その続き」のお話なんだ。もしかすると君も、君のお母さんすらも知らない、内緒のお話かもしれないぜ? そんな秘密を持って帰れたら素敵だろう?
●『桃太郎vs鬼 リベンジデスマッチ一本勝負』
昔々あるところに。これはきっとみんなも知っている桃太郎の、誰も知らないその後のお話だ。本人からは口止めされていたんだけど、君たちだけに教えよう。
あれから時は流れ、桃太郎の名が英雄譚として語り継がれる世が訪れた。しかし、人間たちの栄光の影に、その鬼は静かな復讐の炎を胸に灯していた。かつて討たれし鬼ヶ島の一族を束ね、新たなる鬼の王「果生の鬼」が、天をも突き抜ける野心を掲げ、桃太郎に挑戦状を叩きつける。幕天席地の雄叫び響き、勝者が正義を語るのだと言わんばかりの、鬼たちの咆哮轟く闘技場。そこは剣も矢も交えることなく、己の魂をぶつけ合う戦場だ。桃太郎は衰えた武術の腕を恥じつつも、再び犬猿雉を招集し、今、決死の覚悟で鬼たちとの戦いに臨もうとしているわけだ——
●『帰ってきた浦島太郎』
これもまた、昔々あるところに、の浦島太郎のそれからのお話だ。開いてしまった玉手箱、その白煙が彼に老人の姿を与えることとなったわけだが、彼は老いをいつまでも嘆いてはいなかった。むしろ浩然の気を抱いて日々を生きようと心に決め、漁村の人々のため、力を尽くしていたんだ。
そんな折、再び彼の前に現れたのは、かつて自身を龍宮城へと導いた亀だ。その亀が語るには、乙姫が行方知れずとなり、龍宮城が深海の魔物たちに支配されていると言う。「此度悠遠より訪れし危機、あなたの助力なくしては……」と涙ながらに訴えるわけさ。
浦島は迷うことなく、その知恵と経験を武器に新たな冒険へと踏み出したよ。自身が老いることになった贈り物の真意さえ問わずにね。海の底に広がる新たなる伝説。その結末は、天命すらも凌駕する彼の決断によって綴られるのさ——
●|現代《いま》の子は
即興で語られた御伽噺の反応は上々で、子どもたちは魅了されたかのように目を輝かせ、セツリの話を聞いていた。上手く言いくるめられて席に着かされた子も、やがて、次は次はと催促するように物語を楽しんでいた。彼女は難しい言葉もよく使ったが、問われる度にその意味を丁寧に教え、それは却って彼らの興味を惹きつけ続ける要素になった。いつの世も、子どもは知識に飢えている。
「でも僕だって」
負けず嫌いは子どもの常か。
「きっとお姉さんが知らないことを知ってるよ」
話を終えたセツリのセーラー服の裾を引き、そう口にしたのは。読み聞かせの間、首から下げた携帯端末をよく触っていた男の子だった。子どもが少し余所見をする程度のことであれば、気にするような彼女ではなかったのだが。彼は首から下げた端末を話し手のセツリに向けて調節し、読み聞かせの内容が、画面の中の誰かにもよく聞こえるよう、見えるようにと意識している様子に見えた。
そうした子どもの振る舞いにはなんとなく思い当たるものがある。どこに行くにもお気に入りの人形を引き連れて、遊びだけでなく、食事や風呂も一緒に過ごす、そんな雰囲気の。端末を通して、空想の友達と一緒に、生活まで分かち合っているかのような。
けれど画面に映っていたのは赤と白、それだけ。どこか不快に見える赤い砂嵐と、ぐずぐずとしたノイズ音。通話ではなく、動画とも言い難い何か。少年は今もまた、「それ」を映し出す端末の画面と話し合っていた。
「何為る者ぞ」
意味のない音が、突然声になる。それは今、セツリに向かって言葉を発した。
愈々、当たりを引いたらしい。
『かぐや姫宇宙ミッション』や『花咲かじいさんと雀の涙』なんてのもあるんだぜ。といつかまたの読み聞かせを約束して、セツリは子どもたちを見送る。
約束が守れれば良いなと思う。彼らが健やかに育つ世を、眺めていられればと思う。
そして今、彼女の追跡が始まろうとしていた。
🔵🔵🔵 大成功
ルナリア・ヴァイスヘイム何やら不思議な感じの事件…ですね?
魔術的な仕掛けであれば調べたりできるかもしれませんが…動画はどう調べたら…
わからないので遊んじゃいましょう!遊んでいる間は見ないですし…それにここでいっぱい動けば夜も疲れて速めにに寝てしまいますので!決してただ遊びたいだけではないのです!
あーそびーましょ?背丈も小柄ですから混ざってもそんなに違和感はない…はず…?
まあいいでしょう何をしましょうか…いっぱい動きたいですし追いかけっこしましょう!逃げないと捕まえちゃいますよ?
(彼女は隙が多く…そして極めて距離感が近かった
無自覚に放たれる青少年の何かに突き刺さるお姉さんムーブ
夜になれば動画処ではない…かもしれない)
●なんとなく心に引っかかる
「何やら不思議な感じの事件……ですね?」
マジカルとケミカルを融合した錬金術を修め、ロジカルを脇に置いたエルフの女性。ルナリア・ヴァイスヘイム(白の魔術師ウィッチ/朱に染める者・h01577)は悩んでいた。
「魔術的な仕掛けであれば調べたりもできるかも知れませんが……動画は、どう調べたら……」
んー……えーっと……と考えながら、目的地に向かって歩く。
「わからないので遊んじゃいましょう!」
思い切りのよい決意を声に出し、晴れやかな笑顔で悩みを脇に置く。
「遊んでいる間は動画も見ないはずですし……それに、いっぱい動けば夜も疲れて早めに寝てしまいますので!」
流石に自分が遊びたいだけなどということはない。子どもたちが動画を見る時間を減らし、被害に合う可能性も減らせるよう、彼女はきちんと考えていた。
「決してただ遊びたいだけではないのです!」
"だけ"ではない。遊びたい気持ちも、ちょっぴり沢山持っていた。
●あそびましょ
その優れた視力で、青く澄んだ瞳に遠目に映し、あれだけ立派な建物ならばさぞや人が集まっているだろうとやってきた、集合住宅前の大きな広場。そこで元気に遊ぶ子どもたちを確認し、ルナリアは素直に声をかけることにした。
「あーそびーましょ?」
私は背丈も小柄ですから、混ざってもそんなに違和感はない……はず? と人差し指を顎に当てて考えつつ、手近な子どもたちに近付いていく。それは数人組の少年少女。
携帯端末を弄りながら、誰? お前の知り合い? と顔を見合わせる子どもたち。なんとなくだが、その画面には嫌な気配を感じた。
改めて、こんにちは、はじめましてと彼らに挨拶をして、遊びましょ? と笑顔を見せるルナリア。
「追いかけっこしましょう! 逃げないと捕まえちゃいますよ?」
その中でも、彼女を無視して端末を見つめ続ける少年に対して、がおー、と可愛らしく上げた両手と共に、前かがみで顔を寄せていく。
な、なんだよ! 女が近付くなよ! と顔を背けて立ち上がり、一気に距離を取る少年。ルナリアは距離を詰め、再びがおーと迫る。食べちゃうぞーと脅かすように。距離を取り距離を詰め、繰り返すうちに、いつしか彼女の希望通りの追いかけっこが始まっていた。
こっち来んなよ! 近えんだよ! 少年のプライドが、彼の口と体を突き動かす。
ルナリアの履物は一見走るのには適していないようにも見えたが、彼女はとてとてと器用に走り、少年を追いかける。自身へと接続したルーン魔術、|力を増す魔法《ウルズ》の効果もあったろう。彼女の反応速度は上昇し、それが体の動かし方にも反映されていた。
とうとう追い詰められた少年は、このふわふわした女性なら強引に脇をすり抜けられるかもと試みたが、彼女の思いがけない動きに翻弄され、きゅっ、と無防備なその手を掴まれてしまった。フェイントですっ、とルナリアは嬉しそうに言った。女の握った手くらい簡単に振りほどけるはずなのだが、柔らかな手は思いのほか力強かった。
ふわふわとしたお姉さんのふいに見せた立て続けの予想外は、150%を超えた精度で少年の胸に命中し、接続された彼の鼓動は、1.5倍の速度で反応を始める。
ルナリアは、捕まえましたとにっこり笑い、どんどん行きましょう! どんどん! と次の少年に狙いを定めて駆け出していった。
金色の糸のように輝く長い髪がたなびき、ふわりと開いた膝上丈のスカートが、彼女の上下動に合わせてゆるゆると揺れる。その下に覗くすらりとした脚は、彫刻のように整っている。
彼女の衣服には目くらましの魔法が織り込まれており、謎の光が遮るように、見せるべきでないところは視認されづらくもなるのかも知れないが。そんなことは露ほど知らず、少年はそこを注視しそうになり、反転、強く拒絶した。
みんなで走って喉が渇き、自販機近くのベンチで休憩中。ルナリアは小瓶を取り出して蓋を取り、ゆっくりと口をつける。中の液体を、こくこくと喉を鳴らして飲む。その様を無意識に見つめていた少年に、これですか? ポーションです。味はいいですよ? と差し出したが、そんなわけわかんねえもん要らねえよとお断りされてしまったのだった。
●命中した【お姉さんと】の【思い出】が【あの日の√可能性】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる(POW No.308)
その晩。ルナリアと少年が初めて出会った夜。少年は一人考えていた。最近日課のようになっていた何かを忘れている気もしたが、それどころではない。
あの香りはなんだろう。洗剤とも違う、芳香剤とも違う。……石鹸? 近いけど、違う気がする。例えるなら、草花の香りのような。
彼はただ、思われたくなかった。仲間たちに、あいつエロだぜ! と思われたくなかった。それ故に全て突っぱねてしまった。
彼女が両手を上げて近付いてきた、あのとき素直に捕まっていたら。意外と力の強い彼女に掴まれて、あるいはそのまま、ぎゅっと抱き締められていたら。勧められた小瓶を、素直に受け取って口づけしていたら。
考えるほどに、リリカルな気持ちが湧いてくる。あああああ! もう、もう~! ……俺! 俺ぇ!!! 己を責めて、ぼふぼふと枕に顔をうずめる。うずめてそのまま叫ぶ。あっ、あああー!なあー!
なおうなおう! 春を待つこの時期、窓の外ではしばしば激しいキャッツの鳴き声が。今日はそれに混じって、青少年の悶える叫びのような響きも木霊した。なあ~……なあ~!!!
今晩は忘れられてしまった少年の日課、あの動画の鑑賞。
「遊戯、遊戯を……」
今この瞬間は誰も見る者のない、彼の端末の液晶内。砕かれた肉と骨、血液の混ざり合うが如き赤と白の中から、物悲しげな声が微かに漏れ出ていた。
🔵🔵🔵 大成功
色城・ナツメ(サポート)・普段は男性的な口調
・目上の人に対しては敬語
・油断して素を見せたり敵の主張や被害巻き込み等許せない場合や、戦いで熱くなった時は素が出て口調が荒くなる(ああ?、んだこら、そりゃねーだろ!)
・√能力は指定内のものを適宜使用
・他者からの信頼を損ねる事(迷惑行動、裏切り、公序良俗に反する行動)はしません
・怪我を厭わず戦います
・残業はしたくない、といいながら誰かがいたら付き添うお人好し
・子供や動物絡み、新興宗教絡みなら特に寄り添い、なんとかできないか足掻きます(敵味方問わず)
・強い想いで動く者には、応えたい。信頼される為でなく、それが好きだから
・後は自由におまかせします!
「力がいれば、呼んでくれ。」
●退勤一分前
色城・ナツメ(頼と用の狭間の警視庁異能捜査官カミガリ・h00816)は考えていた。この時間に帰れれば、割引された商品が残っているかも知れない。近頃はまた寒くなってきた。帰宅時にコンビニで買う、温かなドリンクとホットスナックを想像して、ほのかに癒やされる。……悪ぃか? 男の生活なんてこんなもんだろう。
帰り支度を始めてすぐ、時間はあるか? と上司に聞かれた。……残業はしたくない。ありませんと答えたいところだが、そういうわけにもいかない。もしかすると、そんな気持ちが少し表情に出てしまったのかも知れない。故に。
「子ども、カミサマ、人攫い」
彼を動かすのに十分なだけの情報が、極めて短く簡潔に伝えられた。
ナツ、どうだ? と問われる。
「ずりぃっすよ」
迷わず承諾する。そういうことなら、だ。やるしかねぇだろうが。
●強い想いで
渡された書類に目を通して事件の概要を頭に叩き込み、向かうのは大手の学習塾。署の管内のそうした施設については、職務上、ナツメも把握していた。子どもたちが集まりそうな所に事件も集まる。嫌な世界だ。
塾帰りの我が子らを迎えに待つ親の車が見える。子どもを持つ親の気持ちはどんなものだろうか。願わくば、とナツメは考える。彼らも、子どもたちも、心安らかに過ごせると良い。自分がそれを守れるものならば、足掻けるだけ足掻きたい。
色城・ナツメ。その清潔に整えられた身なり、ボディラインのすっきりとしたスーツには、不釣り合いな違和感が一つ。腰に差された刀、退魔刀『早暁』。やや厚みはあるものの、見た目はほぼ日本刀そのものだ。柄巻は深く落ち着いた赤、ネクタイの色と近い。平穏な日常に混じるその一腰に、誰かが異様を感じそうなものだが、騒ぐものなど居なかった。その程度の違和感は、すぐに忘れ去られてしまうのだ。
「——それと煙草、14番をお願いします」
目当ての店ではなかったが、結果としてコンビニには寄れた。買い物を済ませ、出口へと向かう。目的地の学習塾はすぐ隣だ。子どもが集まる場所での調査。子ども、カミサマ、人攫い——最悪の組み合わせだ。考えていると、何かがトンとぶつかってきた。
「あっ、ごめ、ごめんなさい……」
見下ろせば、その「子ども」だ。いけない、怯えさせてしまったか? 身なりには気を付けているつもりだが、と一瞬考えたが、最近は知らない大人には警戒するようにと繰り返し教えられているものだし、恐らくはそういうことだろう。自分も教えるべき立場なので、それはよく分かる。なのでせめてと、なるべく優しい笑顔を作り、問題ないぜと伝えてやる。そして気付く——大問題だ。
少年は携帯端末を手に余所見をしていた。故にナツメにぶつかったのだ。その画面には、先ほど散々資料で読まされた、赤い動画が映し出されていた。
●寸秒のお礼参り
「なんでだろう。途中まであんなに上手く行っていたのに」
動画から、影が滲み出てきて立体化する。資料の内容になかった反応だ。
「最近、全然気持ち良くなれなくてさぁ。しかもまたこれだ。見つかっちゃっただろ?」
影は、自らに生えた人間の腕のような部位を振り上げると、一方的に喋り続けながら、その手をナツメに向け、何かを放つ。
「いい加減、イライラしているんだよ!」
針か? いや——威力は大きくなさそうだが、大量の何かが飛ばされてきた。考える暇は無ぇ! チッ、と舌打ちしてナツメは、霊力を込めた左手でまとめてそれらを受け流し、ほぼ同時に、抜いた早暁で影本体を寸断した。
少年の持つスマホから切り離された敵は、ギィッと一声鳴くとそのまま逃げ出し、店内の監視カメラへと吸い込まれるように消えていった。気配が完全に消えたことを確認したナツメは、退魔刀を納め、失礼しましたと店員に会釈する。左手には若干の痛みが残っていたが、受けたかすり傷は既にほぼ完治していた。
その様子を呆然と見ていた少年は、ナツメの刀を指し、侍なの? と問う。ナツメは少し困ったような笑顔を見せ、警察官さ、と答えて店を出た。冷たい夜風が再び顔を撫でる。少年に纏わりついていた禍々しい気は、もう無い。あの子は大丈夫だろう。
持ち主の使い方の荒さを思わせる、細かな傷だらけのスマートフォンを取り出し、諸々、本部への報告を終える。さて、もうひと仕事だ。まったく嫌な世界だが、こんな世界でも子どもたちが、青空を見て笑えるように。
🔵🔵🔴 成功
第四世代型・ルーシー(サポート)アレンジ改変等歓迎です
「これはなぁに?、マスター」
「初めまして! 私、ルーシーってゆうのよろしくね!。」
「私はあなたと上手に踊れるでしょうか? 心配…けれどそれよりずっと楽しみです」
WZには搭乗せず、生身の体で過ごします。
性格としては優しい性格で、好奇心旺盛
強化手術の影響により日常生活等を人並にこなすことが難しいです。
また、記憶喪失に加え、倉庫で保管されていた影響により、世間知らずですが様々なことに興味津々で面白そうなことには積極的に絡みに行きます、失敗などしても明るく振舞います。
●第四世代型・ルーシー(独立傭兵・h01868)の好奇心
「これはなぁに? マスター」
ソフトクリームだ、ルーシー。ミルクを主原料に作られた柔らかく冷たい食べ物だ。
「あれは?」
ホットドッグだ、ルーシー。加熱した腸詰め肉を、細長い|バン《・・》で挟んだ食べ物だな。赤いのはケチャップ、黄色いのはマスタードだ。
我々にとって当たり前の日常の一つ一つを興味深げに尋ねては、それに対して詳細に回答が行われる通信会話。電波の向こうには、彼女を雇用するマスターであり、彼女を助けるオペレーターでもある存在がいた。その会話自体は、傍から見れば年の離れた家族のようで微笑ましくもあり、一見するとコミカルでもあった。だが、その意味は重い。誰が望んだことであろうか、彼女はかつて、手術によりウォーゾーンの操縦に最適化させられた結果、日常生活を人並みにこなすことができなくなっていた。
量産型ウォーゾーン、ブッタ。近接戦闘向けに調整され、遠目にはスリムな機体だが、足元で見上げれば恐らくその重厚さに圧倒されるだろう。それは、ルーシーに最適化された機体だ。規格化されたパーツの組み合わせにより構築され、キュビスムの如くアッサンブラージュされた立体的な芸術作品でもあった。時が来れば、単一の品種では出し切れない、特徴を組み合わせた出来の良い葡萄酒のように複雑な味わいの戦闘を、闘争を求める身体に届けてくれるはずだ。咽るような鉄臭さを添えて。
そんな機体も彼らにとっては、「かっこいいロボ」だ。休日のイベント会場、子どもたちの集まるそこに、ブッタは展示されていた。正確には、現地の法律に則って、ただそこに正しく停めていただけではあるのだが。
●日常を人並みに
「はじめまして! 私、ルーシーってゆうの」
身体的な特徴に比べ幼い印象を与える挨拶は、彼女の純朴な優しさが乗ることで、相手に好感を与える。未だ強化手術の影響の残る彼女だが、人々に対し極めて友好的で、十分なコミュニケーション能力も備わっていた。白銀の髪、金色の眼、絵画から抜け出したかのような美しさを備えた彼女の外見は、彼女の内面なくしてはこうも容易には子どもたちに馴染めなかったかも知れない。
「出る?ミサイル出る?」
出せます。小型のものが少し。
「ビームは?」
レーザーなら、出せなくもありません。
もはやイベントの人気展示の一つとなった彼女と愛機の周りには、子どもたちによるちょっとした人集りができていた。こうした繋がりの積み重ねや、なんてことのない日常が、ウォーゾーンを操縦するためだけに調整を施された彼女の電脳に、少しでも何か良い影響を与えてくれればと想う、それは罪な願いだろうか。
集まった子どもたちは多くが携帯端末を所持しており、極めて効率的にデータの収集が進んでいく。
●『一閃』
「……ケチャップ?」
大勢の子どもたちの中、何人かの持つ端末の画面。そこに目的の「赤」を捕捉した彼女に、通信機から指示がある。あの赤は「危険」だ、ルーシー。警戒は怠るな。
準備はできている。イレギュラーが現れれば、彼女は直ちに、『一閃』を発動することすらできるだろう。無論、今はまだその時ではない。鋼鉄の護り人の足元には、守るべき人々の「当たり前の日常」が過ごされているのだから。
魔術的な、神秘的な、科学的な試みから、これまで地道に集められてきた情報を元に解析が行われる。それにはルーシーの情報収集技能も役に立つ。切り込みの先制攻撃に向けて、今、この度の敵の拠点が明らかになろうとしていた。
🔵🔵🔴 成功
第2章 集団戦 『ヴィジョン・ストーカー』
POW
影の雨
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【影の雨】で300回攻撃する。
SPD
影の接続
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
半径レベルm内の味方全員に【影】を接続する。接続された味方は、切断されるまで命中率と反応速度が1.5倍になる。
WIZ
影の記憶
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
知られざる【影の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
●惑わし、付き纏うもの
国内某所、データセンター内、大規模サーバールームの一角。分かりやすく言えば、「お高いパソコンが沢山置かれた部屋」のある大きな建物。デジタルは時にお祈りだ。慎重な検討の下、地政学や災害的なリスクを避けた場所に設置されるそこは、用心深く子どもを狙う臆病な神には、お似合いの隠れ家だ。
流石に建物ごと吹き飛ばすわけには行かないが、ある程度の大暴れは許容内だろう。溢れ出すその敵意が、我々を|内外で《・・・》迎え撃つ。
相手は、神を守ろうとする存在。幻覚を見せ、認識に影響を及ぼす怪異の群れだ。電波をジャックすることもある。人を惑わすことに快楽を覚え、喋る個体もいれば、喋らない|個体《やつ》もいる。
幻影に惑わされず、機械に取り憑く「やつら」を破壊してやろう。
色城・ナツメ此処から子供達に接触してたのか…安全な場所に居座ってやがるな。
タバコを吸い(【霊的防護】)気持ちを落ち着かせ…刀を構える。
力を借りる、頼んだぞ。
速度を上げ、パソコンの中を駆け巡るぞ。敵の影を退魔刀と【霊力攻撃】で切断していこう。攻撃は【受け流し】でいなしながら駆けるが…あー…いっそパソコンにつながるケーブルも切ったほうがいいか?表へ出るための道が切られ、入ってた器が壊れりゃ、出てくるしかなくなるだろうしな。
【霊力攻撃】で特に反応が強かった(怪異が中にいる?)ブツには…【疾・鎌風】をぶち当ててやるか。
●補足
・普段は男性的な言葉、目上の人には敬語、荒ぶるとヤンキー口調
・アドリブ、連携歓迎
ひええ、結構怖かったね。子供達がいたからそうでもなかったけど、夜中に家であの画面と声がきたら大絶叫だったね。
でもでも、居場所も正体もわかったならビビる相手ではないね!ビビらされた分のお返しをするよ!
いきなり√能力を発動!速くなった移動速度と【雪風強打サイクロンストレート】でガンガン攻撃していくよ!
囲まれないようにだけ気をつけないとだね。
敵が√能力を使ってどの能力が上がっても、私のほうが速くて守りもぶち抜ける、速く動いて攻撃に当たらなければいいってことで問題ないよね!
動画なら子供に限らず色んな人が見るのに、何で子供を狙ったのかな?怪異なら大人相手でも余裕なはずだけど、子供に何かあるのかなー?
七星・流滅多に来そうに無い場所やし、じっくり探索しよか?
幻覚幻聴、なんでも来いやね!
それが酷くなる程、近づかれたくない、俺達が目指す場所って事やろ?
罠も攻撃も全て受けきる猪突猛進スタイル
|痛み《攻撃》にだけ反応して、蹴り飛ばし、伸びて来た腕を千切っては投げ千切っては投げ
異変が強い場所こそ、守る側が近づけたく無いだろうとゲーム的な思考をしながら、世の中のホラーゲーム主人公が全てこうなら賛否の比率が酷い事になるであろう行軍を続行
(色々な意味で大人向けのゲームじゃなくて助かったのかもしれない)
【使用技能・激痛耐性/カウンター/重量攻撃】 関西弁は→ふんわり・それっぽくレベルでOK【アドリブ改変/連携歓迎】
【アドリブ連携歓迎】
機械を依代に、動画で誘惑するなんて怪異の類いも現代に合わせて進化する時代なんだねぇ…なんて、褒めてる場合じゃないや。
機械に憑くなんて、逆に考えれば『新参』の怪異ってことだ。怖くなんかないぜ。
そし機械は殴れば壊れる。
誘惑だのなんだの小細工を用いるのならばその前に妖怪の力で叩き潰して、二度と悪さできないようにしてやる。
機械という脆いものに憑いた不運を呪うが良いさ。
しかし、肉弾戦はいいけれど少し周囲の守りが心許ないので…『ポチ』『デス丸』出番だよ。さあ、存分に暴れまわってやろう。
……どっちが「悪」か、分からない光景になりそうだなぁ…。
ルナリア・ヴァイスヘイムうーん…なんだか色々なものがぴこぴこと…
機械だらけで魔法での探知が難しい感じがしますね
物陰が多そうなお部屋ですね、影相手に迂闊に探し回れば隙を突かれてしまいそうで…
なので燃やしましょう!炎で!冒険者は時には豪快な手段で迷宮を突破する事も求められるものです!
じっくりと腰を据えてウィザード・フレイム!ぽこぽことフレイムを出してお部屋をボンボン!機械もボンボン!
炎で照らせば影も浮かび上がってくるでしょう!見つけたらねんいりに!燃やす!
派手に機械を壊しちゃってもこれは直す魔法にもなりますからいくら壊しても安心ですね!後で直しておきましょう!なので今は遠慮せず必要ならぶっ壊しちゃいましょう!
ルエリラ・ルエラ【アドリブ改変・連携歓迎】
お高そうな物がいっぱいあるね。どうせ壊すんだから一つや二つ貰ってもバレなさそうだ…やらないよ?
さてさて、派手すぎはよくないからほどほどに破壊していこうか
と、いうわけで…
小賢しい事をしてくるみたいだけど、そんなものは関係ないよ。だってあれらを相手するのは私じゃなくてサメだからね。【生還不可能な世界】のサメの前になにか効くと思ったら大間違いだ
なにせサメ。小賢しい事なんか気にせずすべてを破壊して食いちぎってしまうからね。
さ、頑張って私のサメを倒してみるといいよ。はっはっはー
●現着
現役で稼働中のデータセンター。各機関の協力を得て一時的に機能を休止させているが、無事に復旧できるならそれに越したことはない。表にもちらほらと怪異の姿が見えているものの、物の数ではなく、見張り役と言ったところだろうか。多くは建物内部に籠城し、より有利な自分たちの巣で√能力者たちを迎え撃つ構えだ。
「此処から子供達に接触してたのか……安全な場所に居座ってやがるな」
見上げる色城・ナツメ(頼と用の狭間の警視庁異能捜査官カミガリ・h00816)は、すっと|少年少女《・・・・》の風下に立つ。大人の特権だ、と懐から取り出したタバコ、愛用の14番を咥えて気持ちを落ち着かせ、退魔刀の鯉口を切る。
「力を借りる、頼んだぞ」
彼ははぐれ鎌鼬の「蒼」に声をかけ、その力を身に纏う。体が軽く、疾くなる。洗練された革靴をこつりと鳴らし、感触を確かめる。
●√能力者たち
「ひええ、結構怖かったね」
少年少女、しかし今回の作戦に参加する能力者でもある彼らと会話するのは、雪月・らぴか(えええっ!私が√能力者!?・h00312)。件の赤い動画について話しているようだ。
「昼の公園で、子どもたちがいたからそうでもなかったけど、夜中に家であの画面と声がきたら大絶叫だったね」
嬉しそうに、いや、わくわくと。そうなることを期待していたかのように、らぴかは語る。
そんなにはっきり聞こえたん? 私それちゃんと見てないです! 何度か見たけど真っ赤だったよー等、感想は様々だ。
「機械を依代に動画で誘惑するなんて、怪異の類いも現代に合わせて進化する時代なんだねぇ……」
中条・セツリ(閑話休題・h02124)は楽しげに話し合う若者たちを見て和む。
「なんて、褒めてる場合じゃないや」
さあ行こう、と優雅に一歩を踏み出す。
「機械に憑くなんて、逆に考えれば『新参』の怪異ってことだ。そんなの怖くなんかないぜ」
おいたはここまで。出過ぎた新人には、お姉さんが躾をしてやらなくてはならない。
広大な土地にそびえ立つそのビルに窓は少なく、代わりに大量の排熱装置が並んでいる。延床面積も数万平方メートルは優にあるだろう。例えるなら、学び舎を十校分ほどまとめて一つの建物にしたとしても、まだ足りないような現代の迷宮だ。そんなもの、順当に見ていては日が暮れる。長引いた果てに自爆されるなんて展開も願い下げだ。能力者たちは堂々と乗り込む。彼らの得意なやり方で。
入口から見る建物の中、照明は半ば落とされて薄暗く、広範に影を広げている。闇の中に殺意。あちらなりの歓迎の準備は万端というわけだ。
有利をとったつもりかも知れないが——セツリの影の中を何かが踊る。影はまた、こちらの領分でもある。やつらに縄張りを教えてやろう、そして隙あらば改名も目指そうと、影業『シャドウ・デス丸』たちは息巻いていた。
●探索開始
能力者たちは、ある程度の連携が取れるよう事前に各自紹介を済ませ、階層単位でやつらを潰していくことにする。
建物の人払いは済み、入口のセキュリティゲートを司る者も今は居ない。ブラックの染み付いた会社でも、今日は有給を通したろう。
「滅多に来そうに無い場所やし、じっくり探索しよか?」
電動柵をひょいと乗り越え、興味深げに進むのは七星・流(√EDENの流れ星・h01377)。
「幻覚幻聴、なんでも来いやね!」
通常は、入れる場所ではないところ。特権を得て、嬉しそうに、猫のような好奇心を抱いて歩む彼に、二人のエルフが続く。
「うーん……なんだか色々なものがぴこぴこと……」
自身の長い耳もぴこぴこと動かしながら、手にしたトネリコの大杖を向け、ルナリア・ヴァイスヘイム(白の魔術師ウィッチ/朱に染める者・h01577)は気配を探る。
「機械だらけで魔法での探知も難しい感じがしますね」
ごくり、と。金髪の美女、ルナリアの透き通るような喉が鳴る。辺りには、探知の魔力を阻害するノイズが多いようだ。
「お高そうなものがいっぱいあるね」
ごくり、と。青髪の美少女、ルエリラ・ルエラ(芋煮とサメの美少女エルフ・h00389)の喉も鳴る。頭には、探知の魔力を阻害するノイズが多いようだ。
「どうせ壊すんだから一つや二つ貰っても……」
ルエリラはそう呟いたところで、あかんよ? と諭すような流の眼が自身に向けられているのに気付く。
「……やらないよ?」
彼女はポーチに閉まっていた大きめの機器をそっと元に戻す。わぁ、そんな大きいものまで入るんや。猫ちゃんのポッケみたいやね。
●『雪風強打サイクロンストレート』
「こいこい……」
拳に力を溜め、先手必勝。らぴかがフロアを駆け抜ける。
「居場所も正体も分かってたら、ビビる相手ではないんだよね!」
らぴかはその脚で力強く、セツリは地這い獣『ポチ太郎』に腰掛けて悠々とフロアを回る。彼女たちは、恐れていない。
恐怖は未知から生まれる。故に人は怪奇小説のページを捲り、次に訪れる恐怖を読み解こうとする。ひええと目を覆うような現象も、指の隙間から覗き、確認したくなる。知ることで恐れが消えると知っているのだ。
なんだろう。なぜだろう。理由を求める好奇心と探究心。その先には、ぞっとする何かがあるに違いない。心が芯まで凍りつくような。そんな恐ろしいことが知りたい、知ってしまいたい。その恐ろしさを奪ってしまいたい。神秘のベールを一枚ずつ丁寧に剥ぎ取って、剥き出しにされた真実に……逆に恐怖を与えてやるのだ。
「ビビらされた分のお返しをするよ!」
らぴかは速度を活かしてフロアを駆け抜けながら、向かってくる敵を撃つ。
「囲まれないようにだけ気をつけないとだね」
速度は緩めず、警戒は怠らない。
「敵が能力で何をしてきても、私の方が速くて守りもぶち抜ける」
迎え撃って、砕いて、砕く。
「当たらなければ良い、ってことで問題ないよね」
背後に迫る気配を感じて振り向く。目が合って、ピタッ! と動きの止まった敵に拳を叩き込むと、硬い感触。耐える力を増幅した相手を一撃では砕き切れず、しかしそのまま吹っ飛ばす。続けざまに死角から別の相手が迫る気配を感じ、そちらを向けばまたピタリ。今度こそはと渾身の力を込めて、左ストレートを叩き込む。敵はひび割れて白く爆ぜ、結晶となり舞い散って消える。
「だるまさんが——」
油断はない。三度執拗に死角から襲い来る敵に狙いをつけて。
「転んだ!」
完璧なタイミングで拳を叩き込む。死角から来ると分かっていれば、逆にやりやすい。そうして更に何体かを砕いていると、すっと気配が消えた。これは、隠れる力の増幅か。
「今度はかくれんぼかな?」
問いかけに答えるように機器類がチカチカと瞬く。
「それともモグラ叩き?」
深く腰を落とし、拳を構える。巣を破壊されることを嫌ったか、一際大きな影の手が、正面の機器からぬっと現れる。
「力比べだ?」
らぴかは自身を飲み込まんばかりの大きな影を落とすそれを、正面から迎え撃つ。困ったら、威力を上げて殴ればいいんだよ!
「雪風強打! サイクロンストレート!」
らぴかの声が大きく響き、戦場に静かに雪が舞う。引かれた拳の先には、ぽっかりと大きな穴。突き通された漆黒の巨体は音もなく崩れて散った。
●『大暴れ』
流の向かった通路の先は、積み重なるオフィス家具が道を塞いでいた。影の手たちが手近な部屋から椅子や机を集め、今もせっせと組み上げている。ぶーんどどど、と掴んだ機器でのんきに玩具遊びをする影も居る。
人の手を象る影たちは、流に気付くと大慌てで荷物を置き、ある者はケーブルの束を無造作に毟り取り、大縄跳びのように、あるいは鞭のようにひゅんひゅんと振り回す。流は、自身に向かって打たれたそれを躱すが、パンと何かを打つ音が爆ぜる。空だ。鞭の先端は音速を超えて空気の壁を打ち、激しい威嚇の唸りを上げる。当たればどれほどの威力か。避けるに越したことはないが。
段々と互いの真似をするようにケーブルを持つ影が増え、影同士で振り回すそれを器用に飛び越え合う。流も面白がって、リズムを掴んでその輪に入り、振り回される鞭を避けて蹴り技を叩き込む。激しい攻撃を、その辺りの家具で受け流して蹴り返し、壁を駆け上がって敵を踏み砕く。着地時を狙う攻撃は、クライミングのように照明を掴んでタイミングをずらし、逆に重量をかけた一撃をくれてやる。どうしても避けられなければ、受けてやれば良い。痛みを覚悟し、速度が乗り切る前の銅線の束をその脚で弾く。そのまま回転しつつ、もう片方の足で相手を仕留める。弾いた脚にじんじんと響く何かは無視しておく。
「やれる所までやってみーや!」
その気合は己と相手のどちらに向けたものか、流の『大暴れ』は続く。
やがて押され始めた相手の及び腰な雰囲気を感じ、逃げ込ませんよと奪い、取り上げたのはアンテナの伸びるルーターの類。電波に乗って逃げ回られたら困るからな? 細かい仕組みは知らんけど。なにせアンテナが付いているのだ、アンテナが。
群がる影を蹴散らして、いかにも行かれたくない雰囲気やん、と流は塞がれていた道の先を目指す。
●『鎌鼬の気まぐれ』
「物陰が多そうなお部屋ですね」
ルナリアはきょろきょろと室内を見回す。
「影相手に迂闊に探し回れば隙を突かれてしまいそうで……」
確かに、広大な空間を自由に行き来されても困る。
「あー……いっそ、このパソコンに繋がるケーブルも切ったほうが良いか?」
ナツメの問いに仲間の女性(ルエリラ、いやルナリアの方か)はこくこくと頷くが、一瞬、桁外れのマイナスの値が付く給与明細が頭に浮かぶ。後から請求されたりしねえだろうな……
「大丈夫です! 後で直しておきますから!」
ぶいぶい、と自信あり気に胸を張るルナリア。
「直す、ね。……信じよう」
技術者には到底見えないが、この場に居る以上は信頼に足る能力者なのだろう。そういう『力』があってもおかしくはない。
「表へ出るための道が切られて——」
風を斬るように刀が振るわれる。切断されたケーブルは間をおいて、枯れた植物のようにはらりと垂れ落ちる。
「入ってた器が壊れりゃ——」
機器本体に霊力を込めた拳を叩きつける。霊力が金属を伝播して、立ち並ぶ室内のマシンの隅々、反対側の端の端まで広がっていく手応えがある。
「出てくるしかなくなるだろうしなっ!」
特に反応の強い箇所、ナツメが本気の拳を叩き込んでブチ壊した|パソコン《・・・・》から、たまらず飛び出してきた怪異の一匹。いや、複数の怪異の集合体。複雑に絡み合う何本もの腕が、巨大な一本の拳となって襲い来る。
「——疾・鎌風」
力は不要。それは自らの飛び出る勢いのまま、眼前に差し出された退魔刀『早暁』に触れ、滑らかに二つに別れて消えた。
●『ウィザード・フレイム』
「ですよね!」
ルナリアは大変元気の良いお返事の直後、鋼の森を焼き尽くせ……と物騒な詠唱を開始する。
「ぽこぽこフレイム! お部屋をボンボン! 機械もボンボン! ボンボンボンボン!」
手に持った杖先から、ぽうと炎が生まれて浮かぶ。いくつもいくつも。どんどんと増えていく。
「どんどんどんどん! 燃やします! ねんいり!!! に!」
生まれ出た炎は球体となって彼女の周りを踊るように回り、一瞬だけ止まると、次の瞬間途轍もない勢いで、並ぶ機械に突っ込んでいく。
「今は遠慮せず、必要ならぶっ壊しちゃいましょう!」
ああ、ブッ壊す。そいつは悪くないけどよ、とナツメは思う。……本当に大丈夫だろうな? 燃え盛る瓦礫の山は、想像以上の惨事が広がっているように見えた。
「大丈夫です! 大丈夫です! これは直す魔法にもなりますから!」
ひゃあと声を上げ、自らが生んだ燃え盛る炎に照らされた彼女の姿は、まるで大丈夫には見えないが? と言いたくなる狂喜の表情を見せていた。まあ、大丈夫なのだろう。なるようになれだ。
「冒険者は時には、豪快な手段で迷宮を突破する事も求められるものです!」
小鬼の巣を燻すように、魔力の炎、そして煙が影たちの隠れ家を奪っていく。
●霊的防護
「熱い、熱いよ……助けてぇ」
炎の中から飛び出してきた怪異が、哀れな子どもの声で乞う。その姿に、ルナリアとナツメは、ぴくりと反応する。
微かにだが、影の怪異に子どもの姿が重なって見える。幻惑ってやつか。だが、効果は絶対でもないようだ。古来より、狐狸の類に効くとも言われてきた魔除け、タバコの煙が、ナツメを守り、幻に包み隠された真実を見せていた。
ルナリアの方も問題はなさそうだ。魔術を扱う以上、こうした攻撃に耐性があるのだろう。
敵のやり口は不愉快極まるが、ナツメはのたうつそれらを断ち切り、楽にしてやる。浸透する霊力に内側からも浄化され、影は蒸発していく。多分だが、そのまま燃え続けるより苦しくはねぇだろう? 響く詠唱と轟音。次々と火球に炙り出される影たちを、弔うように切り払い、散らして行った。
●『|母に叛く《ヒトデナシ》』
優しいね。
そんな彼らを眺めつつ、地這い獣『ポチ太郎』に貴族然とした横乗りで、炎の傍を颯爽と通り過ぎるセツリ。敵の潜むサーバーを刺し貫いて回る彼女を、行く先の何かが来い来いと手招きしている。それはあの影の腕。揺らぐその姿が、白く、愛着のある形に変わりつつある。
おやおや、これはまずいぞと気付き、何よりも優先すべき勢いで仕留めた。ポチ太郎から飛び降りて、掴んだ相手を片手で突き刺し、突き刺し、突き刺し。既に変化は止まり、ぐったりとするそれを、捩じ切って放り投げておしまいだ。肉も鉄も素手で引き裂くそれは、明らかに人の力ではない。
母に叛き、父祖に赴く人でなしさと自嘲しつつ、セツリが『力』を発動すると、彼女のもう半分、大妖の血が目覚めて騒ぐ。人の見た目はそのままに、内なる何かが切り替わり、闘争心が高まり、昂ぶる。
「誘惑だのなんだのと——」
なにせ、お気に入りのあれに変化されたらコトだ。いくつも並んだあれが手を招いて誘ったりなんかしてきたら、流石の僕も思わず攻撃を躊躇してしまうよ。
「仕掛けてくる前に、徹底的に叩く。二度と悪さできないようにしてやる」
妖の力で叩き潰し、遊ぶことすらできないように。浮かぶ微笑みに、紅い舌が覗く。
「さあ、存分に暴れまわってやろう!」
そんな彼女にデス丸はふるふると恐怖を覚え、潜む影の中、今回も改名の機会が訪れないであろうことを密かに嘆く。ポチ太郎は再び彼女を乗せて、蠢く腕たちを薙ぎ倒して這い回る。
「悪いけど、おままごと遊びには付き合ってあげられないんだ」
お姉さんは忙しいのさ。
●少年と雨
黒雲、ではない。影の塊が天井を覆い、壁へ床へと滲み広がる。ぽつぽつと雨が降り始める。雫が肌に触れる。……痛みだ。
ぐっ……! と少年は歯を食いしばった。雨はまるで、無数の針のように皮膚を刺し、筋肉を割くかのような痛みを与える。痛みの中で、輪郭も不確かな影の、ただひとつ、笑みだけがはっきり見えるような気がした。まるで少年の苦痛を愉しむかのように。
少年、流は足を踏みしめた。水溜りが弾け、雫が脛を焼くような痛みを走らせる。だが、構わない。重心を沈め、一気に跳んだ。痛みは置いておき、腹から絞り出すように声を上げる。
流星が影を穿つ。雨空をかき分け、風圧すら伴う一撃が、笑う影の頭部を吹き飛ばす。異形のそこが本当に頭部かは知らないが、そこに口があり、潰して動きが止まった以上、問題はない。
攻撃は酷く激しくなってきた。お遊びでない、本気の攻撃。それでいい。
「それが酷くなる程、近づかれたくない、俺達が目指す場所って事やろ?」
痛みを与える、なんとしても足を止める、攻撃にはそんな必死さを感じた。異変が強い場所こそ、守る側の近付けたくない場所だろう。少年らしく、ゲーム的に考える。全身がじんじんと痛むが、幸い、ただ痛いだけだ。
R18とかGとか付くゲームやなくてよかったなぁ。考えながら、より闇の濃く、痛みの増す方を目指していく。雨雲を生む影たちはまだ大勢だ。止まらぬ少年に向け、なんでだよと涙のように雨が降る。
「なんでやろね」
呟いて突き進む。確かな足取りで、儚い幻のように。
●鼓舞
憧れたのは、その力強さにだったろうか。唸りを上げて走る金属の獣を胸に、大地に爪を立てて疾走する猛獣の如くに。鋭い眼光はヘッドライト、薄闇を貫き白銀の刃で刻む。
ナツメは駆ける、風のように。そう、まるで夜の高速道路を駆けるバイクのように。鋭く、速く!
エンジンの怒号を思わせる風の咆哮。胸に抱くのは高揚感だ。動力は心臓、燃料は感情。血が巡り四肢に酸素を運ぶ。影すら追いつけないその姿は、闇を切り裂く刃となって、雨雲に一条の光を差した。
「流ぇ!」
包み込む影を、切り払って受け流し、いなしつつ駆け寄ると。ナツメは少年の名を叫び、その背を平手で打って鼓舞する。
「いっっった!?」
流の表情に生気が戻る。打たれた背に熱が溢れる。
晴れ間を見せ始める影の雨雲に気付き、なるほどと流は思う。幻覚は所詮幻覚やね。五体は満足、痛みは消えた。けれど背中に響くその熱は、身を捩るほど熱かった。
その後また、ぺちん、ぺちんぺちんと数発の軽い衝撃。なんかそうする感じだったから? と追い付いたらぴかとルナリアが、その場の雰囲気に倣って、ほわほわと流の背に手をついていた。柔らかく暖かにぺちぺちと。
●『生還不可能な世界』
「さてさて、派手すぎはよくないからほどほどに破壊していこうか」
ルエリラの目的は破壊、いつの間にかそうなった。
「と、いうわけで」
ウエストポーチから何かを出す。
「小賢しい事をしてくるみたいだけど、そんなものは関係ないよ。だって、あれらを相手するのは私じゃなくてサメだからね!」
手に持ち掲げるのは、お気に入りの映画のディスク。パッケージにでかでかと海一番の人気者の描かれたそれだ。
「……例のテーマ!」
ぱちんと指を鳴らしてルエリラが叫ぶと、「鮫と言えば」な例のテーマが流れ出す。フロアに響く不穏なこの曲は……とそれを聞いた何名かは気付く。
揺らす、何かが水面を揺らす。水面? あり得ない。ここは災害を避けた内陸の街、海も湖もない、コンクリートのビルの中。それでも、確かに空気が震え、フローリングに、あるいはカーペットに水の波紋が広がっていく。やあ、サメだよとにょきりと床に生えるフカのヒレ。波紋は、それを中心に広がっている。
「『|生還不可能な世界《シャーク・パニック》』だよ!」
サメ色エルフのサメの饗宴が始まろうとしていた。
●怪物たち
「幻惑も所詮は小細工だ。殴れば壊れる機械は、脆い」
捩じ切り、抉り、解体し、セツリの両手が影達を壊す。血液が噴き出すように散らばる影が、壁や床、天井に吸われ消えていく。そして壁からはサメが飛び出した。こんにちはと近付く3Dシャークから主を守ろうと、ポチ太郎とデス丸が威嚇する。どうどうと宥めるセツリ。どうやら敵でもないらしいぜ? 床に沈んで泳ぎ去るサメを、いいね、楽しそうだと見送った。
「でも君たちは帰さないよ」
影たちに告げる。さて、ここからは、僕が遊ぶ番。
全身の血が熱を帯び、血管の構造に沿って疼く。脈打つように体の奥で何かが騒ぎ、肌の下で暴れるような感覚。
「こんなにも柔らかいものに憑いた不運を呪うが良いさ」
鋼鉄を折りたたみ、セツリの口元が嗤う。彼女の指先が影の住処に触れる。引きずり出して、殴る。それだけで、怪異は端まで吹っ飛び壁に叩きつけられた。コンクリートにヒビが入り、暗黒が霧散する。激しい音に反応し、どこにそれほど残っていたのか、影の手たちが集まってくる。
「ポチ、デス丸」
呼ばれて獣が唸り、鳥や猫の影が入り乱れる。どちらが怪異で、どちらが怪物なのか、もう誰にもわからない。影の怪異は、彼女を仲間にでも誘うかのように、じゃれ合い戯れようと囲む。
残念だけど、僕はまだ此方側なんでね。優雅な振る舞いに捲れる袖、それより顕な人の手が、化け物たちを貫き引き裂いていった。
●『生還不可能な世界(吹替版)』
広大な世界に張り巡らされた情報の積もる海底部、ここはデータの深海、サーバー集積所。今そこを一匹の大きなサメがゆったりと遊泳していた。もちろん、まったく物理的な意味合いで。
「『生還不可能な世界』のサメの前になにか効くと思ったら大間違いだ!」
ルエリラに使役されたサメは、優れた嗅覚で自身の敵を探して回る。『どこかなー、おいしいのどこかなー』
「なにせサメ。小賢しい事なんか気にせず、すべてを破壊して食いちぎってしまうからね」
『はーい』とサメは素直に敵を食いちぎる。影も、影の潜んだ機器も。全ては等しく腹の中だ。
「さ、頑張って私のサメを倒してみるといいよ。はっはっはー」
腰に手を当てて仰け反る悪のエルフに復讐を誓い、『今はただ逃げるほかない』と苦渋の決断を下し、身一つでその場を後にする怪異がいた。彼とともに駆けるもう一匹の怪異が、間抜けにも、こけっと転ぶ。誓いの怪異は振り返りそれを見つめる。『行け、お前だけでも』と転んだ影の表情が物語る。『そんな……! お前を置いてなんて行けるわけぐえー!』影たちは仲良くまとめて犠牲者となった。
「私は腰が抜けて反撃もできないような映画の犠牲者が一番嫌いなんだよー」
一匹の勇敢な影が、『クソッタレ』と叫び、全身に電源コードを巻き付けて突貫する。まんまとそれにかぶりついたサメは、バチバチと激しいスパークを受けて跳ね、ついに動きが止まる。『やったか』と近寄る影たちは、パチリと目を開けたそのサメに——
「きちんとトドメを刺さないからこうなるんだよー」
かろうじて残り、何処かに潜んでいた影たちも嗅ぎつけられ、食い荒らされて散っていく。もはや戦力と呼べる戦力は残ってはいないだろう。全てはサメの腹の中だ。物語はこれでおしまい。みんな生きては帰れませんでした。
「そんなところだね!」
どや顔で決めるエルフの少女。『いつか分からせられる日が来なければ良いが——』不穏なナレーションの流れかけたスピーカーを、サメがバキバキと噛み潰す。これでエンドロールへと入り、観客の何割かが席を立つ。物語の続きは続編で。
●恐怖の待つ扉を前に
標が用意されていた。それはルナリアの炎の道だ。その暖かな炎に照らされた通路だけが、まるで何事もなかったかのように元通りの日常、破壊の痕跡すらない平穏なオフィスの姿を取り戻している。ほら直せました! と胸を張る彼女。
能力者たちはその灯火に導かれ、ある閉ざされた部屋の前へと集結していく。
その扉、辺りの壁には、意味不明な子どもの落書きのようなものがびっしりと書き込まれ、異様を呈する。上部には、赤い鳥居のような図形も見える。勤めている人間は誰も気付かなかったのか? という感じだが、そういうものだ。日常を過ごす人々は、目にした狂気を覚えない。それを認識し続けるのは、欠落を持つ我々だけなのだ。
改めて集まったメンバーを見渡して、アガると雰囲気変わる人が多いねぇと流がぽつり。
「すまない。忘れてくれ」
「まぁ。こういう日もあります」
「フレイム! フレイム!」
「最強なんだよ、私のサメは最強なんだよ」
段々と濃くなる面子を尻目に、私は特別変わったりしないよっ! とらぴかは訴えていた。
誰ともなく、扉に向き直る。
「動画なら子どもに限らず色んな人が見るのに」
らぴかはぽつりと呟く。
「なんで子どもを狙ったのかな?」
素朴な疑問だ。
「怪異なら大人相手でも余裕なはずだけど、子どもに何かあるのかなー?」
やつら自身がガキみたいなもんだからか? と誰かは口にし、新米の練習台に良かったのかもしれないね、と誰かは口にする。遊びたかった、命に満ちていた、恨みがあった、浮かぶ理由は様々だ。
恐怖とは、新たな扉を前にした時の感情でもある。その扉の向こうにあるのは何か。知りたい、でも怖い。相反する感情が我々を縛り付け、時に鈍らせ、しかし、一歩前へと進ませる。
恐怖の果てには答えがある。そう信じることが、我々を恐怖に立ち向かわせる理由なのだ。それではカミサマの顔を拝もうか。扉は今ゆっくりと開かれる。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『神隠し』
POW
攫う『かみのて』
【虚空より生える無数の『かみのて』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
【虚空より生える無数の『かみのて』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD
増殖する『かみのて』
自身の【かみのて】がA、【かみのうで】がB、【かみのかいな】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
自身の【かみのて】がA、【かみのうで】がB、【かみのかいな】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
WIZ
荒ぶる『かみのて』
【虚空より生える『かみのて』】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【掴む腕】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
【虚空より生える『かみのて』】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【掴む腕】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
●カミサマと口にするもの
天井高く、カミサマと言う女の浮かぶ部屋。その足元には一定の法則に従って並ぶ|精密機器《サーバー》の棚。それらが壁となり、室内を区切っている。言ってしまえば、「本の代わりに機械が置かれた図書館」だ。青白く明滅する機械の壁は、礎となる科学とは対照的な神秘を帯びて、ある種神々しくもあり、遠い時代の神殿を思わせる。だが一度その裏に回れば、「絡まり縺れる電源ケーブルの類」が、廃墟を覆う蔦か蜘蛛の巣のように、びっしりと垂れ下がっている。さながらカミサマの二面性を表しているかのようだ。
整えられた構造故に、「互いが今どこに居るかをも見失う」ことも起こり得る。標識のない図書館では、目的の本を探すのにも戸惑ってしまうだろう。
名を問えば、相手はカミサマ……とだけ口にして、影の手達を我が子と呼んだ。実際に生み出したのかは知らないが、それくらい「愛している」というやつかも知れない。
理を問えば、満たすため連れて行くのだと、その手を差し出してくる。もしも事情があったとしても、攫い荒ぶり埋め尽くし、目的のため選ぶ手は邪悪。手を取り合うことはできそうにない。
倒してやる外はないだろう。こちらにも、守るべきものがある。
おおお、やっぱり『神隠し』!これで何度目だったかなー。
今回は動画使って誘拐とは考えたもんだね!人さらいのために毎回いろんな手段とるのは関心しちゃうね!でもでも、今回もササっと倒してばっちり阻止しちゃうよ!
壁になるものが多いから【彷徨雪霊ちーく】ちゃんを呼びだして、敵とか味方の位置を見ておいてもらうよ!
敵の方が攻撃範囲も広いから、とにかく前に出て間合いを詰めて殴りにいくよ!今回は突然敵の攻撃がきそうだから、攻撃に夢中になりすぎないようにしたいね!
生えてきた『かみのて』は殴って黙らせた方がいい気がする!
隙とかできていけそうだったら【変形惨撃トライトランス】で一気にダメージを与えたいね!
色城・ナツメなぜ子供だったのか…聞いたところで怪異はまともに答えはしないだろうな。
…こんな世界でも、望むなら。
殺傷物が生まれぬよう、移動の邪魔で破壊した設備を直しながら&仲間の攻撃巻き込みを気にせず戦えるように√能力発動。
【霊力攻撃】を刀にのせ、影の腕を潰してまわろう。
おらこっちへ来い!
戦闘中は声を上げ、自身の場所を仲間に分かりやすくしておこう。敵の引きつけや、仲間の攻撃方向も示しやすいだろうしな。
ただ連れ去るだけでなく…忘れさせるのは、その記憶が欲しかったのか、それとも残される家族へのせめてもの慈悲のつもりだったのか。
●補足
・普段は男性的な言葉、目上の人には敬語、荒ぶるとヤンキー口調
・アドリブ、連携歓迎
七星・流カミサマとその子供たちって事は
影の手はお母さんを護ってたって事やろか?
なら、俺は俺の命でも賭けんとつり合いが取れんよな?
先ずは全体を観察して、棚やケーブルの位置を把握
棚やケーブルの隙間や掴めそうな場所を探してからカミサマに突撃
アスレチックパルクールの要領で少しでも足を止めずに速度を溜めながら進む
探索の時と同じく痛みは内にため込んで進む事だけに集中
これが最後の|戦い《遊び》
護りごと纏めてぶっちぎるまで!
親子の愛情とか、分からん訳ちゃうから、生まれ変わったら今度は一緒に遊ぼな?
またねー!
【使用技能・激痛耐性/ダッシュ/ジャンプ】 関西弁は→ふんわり・それっぽくレベルでOK【アドリブ改変/連携歓迎】
やあ、『神様』
|怪異《きみ》の意図など聞いたって無駄なのだから手短に、さっさと退治してやろう。
どんなことがあっても子供は守らなければいけないんだぜ。それが|警視庁異能捜査官《カミガリ》である前に、大人の務めってやつだ。
さて、手の数はうちの『ポチ』も負けないが、執念でもうちの『未練あるものたち』も負けてないぜ。
こいつらなら壁などを通り抜ける。味方の同志には回復を、敵の手がたくさんあるならそれに融合するように指示をだしてやる。
それと共に『赤い糸』で切断、捕縛等の攻撃をして追い詰めてやろう。
神というならどうか生者だけでなく死者の面倒も見てあげてくれよ。彼らも寂しがってるのだから。
ルエリラ・ルエラ【アドリブ改変・連携歓迎】
カミ殺しの時間のようだね
ふふふ…いや、君の子達は勇敢だったよ
まぁ、サメの前では無意味だったけどね。でも安心してほしい。カミサマもすぐ同じ所へ送ってあげるから寂しくないよ?向こうで仲良く感動の再会を果たすといいさ。ふふふふふ…
と、いうわけで周囲の物品を矢で攻撃して爆発させたりして視界を悪くして即座に隠れよう。私の服の効果で私を探すのは難しいから精々頑張るといいよ
そして隠れながら、敵のいる場所を【アインス】で攻撃するよ。回避不能防御不能のレーザーなら悪霊だろうがカミサマだろうが余裕だね
ふふん、まさしく大勝利というやつだよ
あ、壊した物品の請求書は私に送らないように
ルナリア・ヴァイスヘイムとにかく子供を攫う邪神は討たれた方がいいですよ!
まあ討伐されたいのならしょうがないですが…
相手は腕が沢山になる様子…文字通り手数が多くなりそうです
ならばこちらもより速く、ですね!ルーンの魔法で素早さアップ!せっかくだから周りの人にもおすそ分けしましょう!皆で一緒に叩きましょうね!
沢山叩けばドラゴンでも死ぬのです!神であろうと叩き伏せて見せます!杖を握り締めて力いっぱい!
捕食する腕を上段から叩き伏せ!貫く腕は横薙ぎで払い!蹂躙せんとする腕は素早く突いて突いて突き倒し!
沢山の腕をとにかく叩いて!叩いて!叩いて叩いて叩いて!最後に頭を叩き潰しましょう!!
ア゛ア゛ーーーッッッ!!!
開かれた扉の奥。静かに浮かぶ巫女は、侵入者を迎え、その手を差し伸べる。その時。
あ……
あ、あ゛……
あ゛あ゛あ゛……
地の底から響くような咆哮が轟く。その唸り声は空気を震わせ、周囲を重く押し潰すかのようだった。
「あああああ!」
甲高い雄たけびが響き渡る。飛び出したのは一人のエルフ、ルナリア・ヴァイスヘイム(白の魔術師ウィッチ/朱に染める者・h01577)。その両手には長い大杖を握りしめ、目を血走らせて振りかぶっている。
金色の髪が乱れ、碧い瞳には狂気すら宿る。優雅で穏やかな普段の姿からは想像もつかない、野生の迫力が放たれていた。その姿は、迷宮の地下深くより這い上がってくる魔物よりも恐ろしく見えた。
●『走って叫んで叩いてくるエルフ』
「とにかく! 子供を攫う! 邪神は!」
ルナリアは跳躍し、相手の頭上から飛びかかる。
「討たれた方がいいですよ!」
討伐されたいんですか? されたいんですよね? と浮かぶ巫女服の女のその頭に杖を叩き込む。咄嗟に守りに入る「かみのて」に対し、フェイントを織り交ぜつつ、何発も。力任せに。
「カミサマ……」
巫女が呟く。叩き割られたその頭部は、明らかに生き物の作りをしていなかった。断面には赤、少しの白が混じる。動画の光景だ。
「カミサマ、カミサマ……」
囁きが繰り返され、鈴の音が鳴る。ノイズのような巫女の内側から、それらは溢れ出した。
●『ぞうしょく』
最初の一本がルナリアを掴み、巫女から引き剥がす。巫女がカミサマと呟く度に、うぞうぞと溢れ出るかみのての群れ。最後の一本が、巫女の割れた頭部を指先で整えながら現れる。その手がギュッと巫女の頭を掴み、それは何事もなかったかのような状態に、元通り成型された。
自身の胴体を掴んで飛ぶかみのてを上段から叩き伏せ、解放されたルナリアは仲間たちの元へと着地する。
「相手は腕が沢山になる様子……文字通り手数が多くなりそうです」
群がるかみのてから放たれる貫きの手刀を杖の横薙ぎで払う。
「ならばこちらもより速く、ですね!」
指先で素早さのルーンを刻む。せっかくですから、と周りの仲間たちにもちょいちょいとおすそ分け。
「皆で一緒に叩きましょうね!」
いつかの少年を魅了した笑顔で、にっこりと微笑みかけて。
「沢山叩けばドラゴンでも死ぬのです! 神であろうと叩き伏せて見せます!」
ひょあーと雄叫びを上げ、ルナリアは再び敵へと突っ込んでいった。その手に杖を、力いっぱいに握りしめて。
●『神隠し』
「おおお、やっぱり『神隠し』! これで何度目だったかなー」
図鑑に載っていた生き物を見つけた子どものように、野鳥の観察のように。雪月・らぴか(えええっ!私が√能力者!?・h00312)は目を輝かせて巫女を見つめる。
「今回は動画使って誘拐とは考えたもんだね! 人さらいのために毎回いろんな手段とるのは関心しちゃうね!」
興味深く、実験対象を見る目で、うんうんと頷く。
「でもでも、今回もササっと倒してばっちり阻止しちゃうよ! ……ちーくちゃん!」
呼ばれて飛び出したのは雪だるまのような何か、彷徨雪霊ちーく。ぽむぽむと跳ねて進み、ぐっと溜めてぴょんと飛ぶ。近場の棚、サーバーラックの上に陣取ると、木の枝のような両手をぴこぴことさせ、仲間たちに互いの動きを知らせようと試みる。激しい震えで指し示すのは敵、危険信号だ。
らぴかは指し示された危険のある方へ、前へと向かう。最前列で、特等席で。恐怖を鑑賞できるように。
●カミ殺し
「カミ殺しの時間のようだね」
ルエリラ・ルエラ(芋煮とサメの美少女エルフ・h00389)は弓を構えて不敵に笑う。
「ふふふ……いや、君の子達は勇敢だったよ」
聞いて、カミサマと口にするもの、巫女服の女が微笑んだように見えた。
「まぁ、サメの前では無意味だったけどね。でも安心してほしい。カミサマもすぐ同じ所へ送ってあげるから寂しくないよ?」
カミサマ、女は呟く。同じところへ、女は呟く。
「向こうで仲良く感動の再会を果たすといいさ。ふふふふふ……」
ルエリラは自信満々に弓に魔力の矢を番い、ていっと放つ。一本の矢は拡散して分かれ、巫女へと収束する。群がるかみのてはその高速にも当然のように反応し、難なく払おうとする。瞬間、込められていた魔力が爆発した。
かみのてたちは巻き上がる煙に包まれ、その中にぼんやりと輪郭を浮かび上がらせる。魔力のマーキングが仄かに輝き、その姿を照らし出していた。
「私を探すのは難しいだろうけどね! 精々頑張るといいよー」
言い放ったルエリラは追加で嫌がらせの矢を撃つと、魔術服の迷彩を起動し、景色に溶け込むように消える。
合わせて、らぴかが動く。
「敵の方が攻撃範囲も広いからね、とにかく前に出て間合いを詰めて殴りにいくよ!」
らぴかは爆煙の内へと飛び込む。モノクル越しの視界で巫女の姿を捉える。
経験からくる合理的な判断。相手の利を打ち消す動き。この距離であれば、かみのての広範の薙ぎ払いも意味をなさず、ただの拳と変わらない。
「今回は突然敵の攻撃がきそうだから、攻撃に夢中になりすぎないようにしたいね!」
裏拳で背後から迫るかみのてを打ち落とす。
「生えてきた『かみのて』は殴って黙らせる!」
巫女を守るように、あるいは貪るように群がる神の手を打ち据える。
●『さらう』
らぴかとの攻防の中、カミサマ、と巫女が両の手を合わせ祈る。同じ形に手を組んだ、一対の巨大なかみのてが降りる。僅かに透けたその二本の手は、幼子を抱く動きでそっと伸び、何物にも破壊を齎すことなくすり抜けて、命のみを求めて迫る。
「やあ、『神様』」
中条・セツリ(閑話休題・h02124)は、手を上げて気軽に挨拶。先程は移動に使われていたポチ太郎の無数の手が、今はかみのてを抑える。群がる鳥獣の影、デス丸はかみのてを突く。異形の叫びと鳴き声が響く。その調子だ、しっかりと気合を入れるんだぜ?
「|怪異《きみ》の意図など聞いたって無駄なのだから手短に」
そのしなやかな手から伸びるのは赤い糸。
「さっさと退治してやろう」
大きな大きなかみのてに、赤い断裂が静かに広がる。巨躯が分割され、はらりと散る。
「子どもは守らなければいけないんだぜ? それが|警視庁異能捜査官《カミガリ》、である前に——」
振り返り、共に戦う子どもたちを見る。
「大人の務めってやつだ、どんなことがあってもね」
●『|青空をこの手に《コンナセカイデモノゾムナラ》』
「なぜ子供だったのか——」
色城・ナツメ(頼と用の狭間の警視庁異能捜査官・h00816)は退魔刀に気を込め、一対のかみのてのもう半分を迎え撃つ。
「聞いたところで、怪異はまともに答えはしないだろうな」
気合を入れて振るう刀は、かみのてに深々と食い込む。ちょっと硬ぇな、だが問題ねぇ。立ち並ぶ障害物を、邪魔なんだよ、とそのまま全て巻き込んで破壊し突き進む。この腕は、止めねえとまずい。断ち切れるまで、だ。最後まで振り抜いてやる。人体の無意識の制限も解除して全力を出す。鉄を砕き、コンクリートを破砕して刀を振り切る。
巨大なかみのては、一度大きく跳ね上がり、地に落ちて消える。ナツメの背後には、先程までの荒々しい立ち回りが嘘のように、修復された機械が稼働している。破片でも使われたら危ねぇからな、と彼が手にした足元の石片も、やがて静かに壁へと戻る。そういう『力』だ。
『それでも生きたい、そう願うなら』
教えを想う。自分はきちんと受け継げているだろうか。大人をやれているだろうか。
振り返り、共に戦う子どもたちを見る。こんな世界でも、生きたいと望む者たちが居る。まだ終わってねえぞと気合を入れ直す。
なぜ子ども。なぜ私が? 望まれたから。巫女はぶつぶつと呟き、虚空にかみのてが呼び出される。
●『あらぶる』
巡回するかみのてが、息を潜めるルエリラの眼前をゆっくりと通り過ぎる。
やれやれ行ったようだねとほっと息をつき、弓を構える。刹那、ぐるんと。かみのてが振り返る。目が合った、そう感じた。矢を放とうとするが、何かがそれを妨げる。構えた手に、手形がじわり、じわり。いくつもいくつも浮かび上がっていた。
ずしん、と浮いていた何本かのかみのてが降りてくる。かみのてたちは、この場で最も殺傷力の高い物体、「質量」をその手で掴む。立ち並ぶ金属の塊、サーバーラックを丸ごと乱雑に千切り、ぎゅうぎゅうと握りつぶして。圧縮された数百キログラムの金属の玉をいくつも作り上げる。
おにぎりかな? 芋煮に合うかもね。ルエリラは余裕を見せるも、相手の意図は明白だ。猫の尾を模したデバイスの毛が逆立ち、揺れてぺしぺしと床を打つ。
かみのてたちは、お手玉のように。そっと優しく、その玉を互いに投げ合う。始めはゆっくり、やがて軽やかに。速度が上がっていく。風を切る音が聞こえる。上がり続けるスピードが目で追いきれなくなった頃、鋼鉄の鞠は一斉に、ルエリラへと放られた。
ルエリラは倒れる。魔力の矢を咥えて。手が使えないなら口を使えばいいんだよ、と都会的な作法で、爆裂する魔力を床に叩きつける。爆破は迫る死を、呪いを退け、彼女の姿を再び煙に隠した。
それなりに覚悟はしていたんだけど、と煤けたルエリラは思う。不思議とダメージは小さい、いや、癒えていく。
『そう願うなら——』と声が聞こえた気がした。
●サーカスは命懸け
未だ爆煙漂う中、棚の上の雪だるまが巫女の居る方を指している。巫女にはかみのてが群がる。
「カミサマ……」
鈴を鳴らして、巫女は呼ぶ。影の手とは対照的な、白い手が現れる。
「カミサマ、カミサマ……」
しゃんしゃんと鈴声を響かせて、唱えるほどに、かみのては増殖していく。
戦場を駆けながら、七星・流(√EDENの流れ星・h01377)は観察する。ゲームを攻略するために、敵とマップを把握する。足場として使えそうな場所、掴めそうな隙間、カミサマたちの動きの規則。
「カミサマとその子供たちって事は、影の手はお母さんを護ってたって事やろか?」
母、とぽつり。巫女が流を見た。
「なら、俺は俺の命でも賭けんとつり合いが取れんよな?」
命、子どもの。呟く巫女の見つめる先には流、増殖した神の手が彼へと向かう。
少年は跳んだ。先ほど刻まれた、ルーン? のお陰か、体は驚くほど軽い。ケーブルが幾重にも絡み合う狭い通路を蹴り、棚の隙間を掻い潜り、無数の明滅の間を滑り抜ける。熱を帯びた機械の上に飛び乗り、落ち着く暇もなく次の足場へと身を投げる。後方からはかみのてたちがひしめき揺らめき、無数の白い指が追いすがるように伸びてくる。命を摘み取ろうとしている。
空中で軌道を変えようと天井の換気口の隙間を掴んだ瞬間、彼の右足をかみのてが捉えた。少年は鉄の壁へと叩きつけられる。
ガンと全身に響く衝撃。肺の奥から酸素が絞り出され、肋骨が軋む。それでも少年は歯を食いしばり、かみのてを振り払うと、転がるように進み、立ち上がった。体制を立て直す余裕もなく、別のかみのてがすぐそこに迫る。
指先一つの誤りで死が決まる。少年はケーブルの束に手をかけ、|耐荷重性《かんしょく》を確かめつつ体を持ち上げる。僅かに滑る手のひら、痛む骨、だが止まれば直ちに飲み込まれる。次へ、さらに次へ。壁を蹴り、飛ぶ。運の悪いことに、かみのてが眼前に生まれ出る。足元湧きのクソゲ!? 避けきれない。バチンと背中に触れる、熱のない手のひら。冷たい痛みに重心が乱れ、姿勢が崩れる。視界が回転する。重力に引かれて落ちる。
けれど少年は止まらない。かみのての群れが襲いかかる刹那、足を蹴り上げ、バランス感覚を強引に取り戻して棚へと飛び移る。手を伸ばし、金属の縁を掴む。爪が浮いて朱が滲み、肩は悲鳴を上げる。それでも腕を引き、全身を持ち上げて、先へと駆け出す。
終わりのない演目、死線の上の舞台。花形の少年は笑顔でサーカスを彩る。背後には、かみのてたちが蠢く音がする。観客の拍手のように。なんて楽しいんだろうと少年は笑う。
群れをくぐり抜け、巫女を護るかみのてを蹴り落としつつ、改めて倒すべき相手を見る。
巫女も少年の顔を見つめ、辛くないかと手を差し伸べる。愛しと優しく微笑んで。
かまへんよと拒絶。楽しさしかありはしない、今がこんなにも満ちている。笑顔が自然と浮かぶ。痛みなんて受け流しておけばいい。失敗は糧、試行こそが解決に至る道。
『どうぞ末永く——』
自らの内側から声が聞こえる。傷が癒え、痛みが和らぐ。有り難い、まだ試せる。折れない限り、何度でもだ。折れるはずもなく、攻略までは何度でも。
●『|宝永元年の心中事変《ツツモタセナコウド》』
「さて、手の数はうちの『ポチ』も負けないが、執念でも——」
怨嗟の声渦巻き、それらは現れる。
「うちの『未練あるものたち』も負けてないぜ」
あの頃は男女の情死が流行ったものだ、とセツリは思いを馳せる。未来成仏疑ひなき恋の手本となりにけり、と物語のように美しく結ばれて終わる関係ばかりではない。辛く貧しく苦しんで、その道を選ぶ外なく果てて。神や仏に至れなかった亡霊たちは、未だ諦めきれぬ想いを抱き、生を羨む。
取り憑け、と神を指す。彼らは真っ直ぐにそれへと向かう。遮るものはない。情念の群れは、げに有難きかみのてに、未練がましく縋りつく。かみのてたちの動きが鈍る。
取り憑け、と人を指す。彼らは真っ直ぐにそれへと向かう。亡霊たちは羨む。彼らの中で輝くものを。そろそろと、畏れるような気持ちでそれに触れ、果たせなかった想いを託す。『どうぞ末永く、いつまでもお幸せに』
輝きは増して、亡者を照らす。人の内に、力が満ちる。
●『|R.T.A《ソクドタメ》』
「60秒!」
|攻略手段《チャート》の構築は成った。一か八かのお祈りは避けたい。カミサマ相手に神頼みは笑えない。
「お願いできるー?」
ならば信じられるものを信じよう。運ゲー要素を仲間に託し、ランダムを排除する。
余裕さ、と誰かが応える。余裕だよっ、と誰かが息巻く。どうやら信じられそうだ。
痛みは内側に溜め込んで。吐き出さず、飲み込む。進むことだけに集中する。少年は、速度を溜めていく。溜めて溜めて、爆発させる。その時を目指し、今はただ溜め込んでいく。60秒間、ただひたすらに加速を続ける。最初は小さく、次第に速く。歯車が噛み合うように、無駄のない軌道で。
●挑発(60秒)
「おらぁっ!!!」
裂帛の気合が轟き、聞く者の肌にすら響く。
「こっちだ!!!」
声を上げるナツメに巫女が顔をしかめ、かみのてが注意を向ける。男は責を負わぬ、と憎しみの籠る声。蔑む目線と、かみのてが降り注ぐ。
男? 何があったのかは知らねえが、人並みにあるんじゃねえか、感情っぽいもんが。
ナツメがネクタイを緩めると、殺到するかみのての風圧が襟元を撫でた。微かに鉄の匂いが混じる空気の中で、彼は深く息を吐き、背筋を伸ばす。革靴が床を鳴らし、一歩、前に出る。来いよ、まとめて相手にしてやる。ここからは根性だ。足を止め、痛みに耐える覚悟を決める。
迫る敵は無数。闇の中に浮かび、青白い腕を伸ばしている。壁を這い、地を打ち、絡みつくように押し寄せるそれらは、まるで飢えた獣の群れだ。拳を握る。震えはない。覚悟はとっくに決めている。今日この時よりも、ずっと以前に。
かみのての一体が跳ねるように飛びかかってきた。——遅ぇよ。
鋭く踏み込む。スーツの裾が翻り、拳が突き出される。骨を砕くような音が闇を裂いた。怪異の関節が逆に折れ、悲鳴のような唸りを上げて後方に弾け飛ぶ。その間にも、異なるかみのてが這い寄るように伸びる。しかし、ナツメは迷わない。踏み砕くように地面を蹴り、膝を振り上げる。食らいつこうとする指をぐしゃりと砕き、正に蹴散らされて怪異が吹っ飛ぶ。
かみのてを差し向ける巫女と目が合う。なぁ、おい。
「ただ連れ去るだけでなく……忘れさせるのは、その記憶が欲しかったのか?」
肘を引き絞り、背後に回り込んだ神の手へ叩きつける。鈍い衝撃音に、打たれたかみのてが地面に落ちる。
「それとも残される家族への、せめてもの慈悲のつもりだったのか?」
カミサマの、慈悲。期待はできない、と巫女はぽつりと呟いた。
●『変形惨撃トライトランス』(60秒)
60秒? どうやら力を使うならここらしい。白く細い無数の腕が、闇から、地面から、空間の裂け目から伸び、らぴかの体を掴もうと迫る。彼女は瞳を鋭く光らせ、手にした魔杖を振るう。杖の先端が青白く、仄かに赤く輝くと、瞬く間に冷気が広がる。キリがない、形態変化だ。
「振って縛ってカッチンコッチン!」
氷で編み上げられた鎖が杖から伸びる。らぴかは杖を大きく振るい、円を描くように鎖を振り回して、かみのてたちを打ち据える。鎖は生きた蛇のようにうねり、かみのての群れに絡みつく。瞬間、怪異たちは凍結し、赤みを帯びた氷に包まれる。ちーくの示す方へ、示す方へと振るわれる杖先は、その先のかみのてへと鎖を伸ばし、凍結し、動きを縛っていく。彼女は魔杖を強く握りしめ、再び魔力を注ぎ込む。
「ピンクの氷で真っ二つ!」
鎖は切り離されて砕け、分厚い刃へと再構築される。ピンクの光を帯びた冷気の斧。鋭い刃がかみのてを砕き、両断していく。振り下ろされた斧からの衝撃波で、周囲の怪異も巻き込むように氷片が舞う。さらに勢いに任せて連撃。二撃、三撃と振るわれる度に、かみのての群れは砕け、凍り、散っていく。吹雪は舞い踊る。頼もしい力強さで。
●再び、『走って叫んで叩いてくるエルフ』(60秒)
「ア゛ア゛ーーーッッッ!!!」
金髪のエルフが叫ぶ。その手に握られたトネリコの大杖が、輝きとともに唸りを上げた。
眼の前に群がるのは、這い寄る怪異、かみのて。這い、伸び、掴む数多の白い手が、彼女を貪ろうと殺到する。
「つア゛ア゛ーーーッッッ!!!」
杖を突く! 突く! 突く! 突き通す! 閃光の如く繰り出される杖の軌跡が、かみのてに風穴を穿つ。
腕、無数の腕を叩き伏せろ。叩いて! 叩いて! 叩いて叩いて叩いて! 這い寄る手が砕け、捻じ伏せられ、地に伏せて縋る。
しかし、それらはまだ諦めぬ。足りぬ、終わらぬと絶え間なく増殖し、地を覆い尽くさんばかりだ。ルナリアは、息を切らせながらも、ふふ、しつこいですねと微笑んだ、つもりだ。
「しづア゛ア゛ーーーッッッ!!!」
杖を掲げ、魔力を叩きつける。光が炸裂する。白熱する轟音とともに、かみのてが焼かれ、弾け、消えていく。
黄金の髪が舞う。青い瞳が煌めく。杖は輝いて、怪異を塵へと還す。
「頭ア゛ア゛ーーーッッッ!!!」
雄叫びを上げて杖を天高く掲げ、ルナリアは巫女へと突っ込んでいった。
●赤い糸(60秒)
セツリが、指先に絡めた赤い糸を、軽く弾く。ぴんと音が鳴ったかと思うと、闇の中に浮かぶ無数の手が、見えない何かに絡め取られたように痙攣し、もがき始める。爪を剥き出し、肉を裂き、魂を掴み取らんとするかみのてたちの衝動は、細く紅い糸によって御されていた。
「神というならどうか生者だけでなく、死者の面倒も見てあげてくれよ」
セツリの指の先、糸の伝わる先に、群がる者がある。それは、既に命を失ったものたち。捕縛されたかみのてへと這い寄り、掴み、裂き、潜り込む。かみのては悲鳴を上げる。けれど、逃げることは許されない。彼らを絡め取る赤い糸は、少女の指にしっかりと結ばれている。
「彼らも寂しがってるのだから」
●『|全てを貫通する必中の魔力レーザー《アインス》』(60秒)
「悪霊だろうがカミサマだろうが余裕だね」
60秒でも60分でも。そう、この美少女エルフならね。
一本一本は、か細い蜘蛛の糸のような、魔力の光。一つでは、ただの輝き。けれどそれが、無数に束ねられたなら。
ルエリラの視線の先には、蠢く白い影、異形の腕の群れ。それらの指は湿り気を帯び、異様なほど関節柔らかく、絡み合いながら少年、流を追う。三桁にも至ろうかという手が、壁の隙間から、亀裂から、闇から生え続け、世界そのものを侵していくかのようだ。
ルエリラは静かに手をかざす。光が満ちる。
「逃げ場はないよ——『アインス』」
無数の魔力のレーザーが、空間を割いた。一筋一筋は細く、脆弱な魔力の線に過ぎない。だが、それらが束ねられ、連なることで。決して折れぬ矢となり、万物を刺し貫く力を得るのだ。
降り注ぐ光線の収束点が、かみのてたちへと定まり、空間に縫い付けていく。ぎいい、と異形の群れが、神らしからぬ悲鳴を上げる。増殖し続ける手は、増えるよりも早く、縫い止められて消滅していく。
術者は深く息をつき、かざした手を下ろす。
「さようなら。そこがあなたの終着点」
●『R.T.A』
少年の黒髪がふわりと揺れ、風を切る音が響き始める。筋肉が収縮し、指先が痺れるほどの圧が全身を巡る。
足の裏が床を、壁を、天井を削る。摩擦熱が生まれ、焦げ臭い跡が残る。
空気がうねる。駆け巡る速さが暴風を生み、巫女の衣を揺らす。彼女を取り囲むかみのてたちが異変を察し、狂ったように指を蠢かす。
溜め切った。ゲージは最大。少年の姿は消える。捉えられるものは、もうない。
「うなー!」
爪切りを眼にした猫のように、尻尾を踏まれた猫のように声を上げ、少年は激しく飛びかかる。あり得ない動きで。
「うなー!!!」
その体は流星、大気との摩擦に輝きながら、燃え尽きることなく巫女へと降り注ぐ、天からの戒め。
群れるかみのてが、迎撃ではなく守勢に転じる。巫女を包み隠し、鉄壁を成す。
「これが最後の|戦い《遊び》、護りごと纏めてぶっちぎるまで!」
カミサマを、巫女を、厚いコンクリートの壁をぶち抜いて、勢いは止まることなく、少年はビルの外、大空へと飛び立った。
「生まれ変わったら今度はいっしょに遊ぼな? またねー!」
空中でくるりと一廻りすると、グローブから射出したワイヤーを引っ掛けて、室内に戻ってくる。巫女を護るものは、もはや何もなかった。護る必要さえなくなったのだから。
●同じところ
かつて取り上げることができた子どもたち。そのうちの誰かは、あの者たちへと繋がっていたかも知れない。
あとの子は、あの世へと戻すほかなかったあの子らは。自身も再び、同じところへ行けるだろうか。
またねと声が聞こえた。また会えればとそう願う。
●青空
三度隠密しながら、チクチクと遠距離からかみのてを撃ち落としていたルエリラは。
「しゃんしゃん煩いんだよ?」
最後に狙ったのは遺された巫女の鈴の束。こういうのが怪しいんだよ、こういうのが。拘束魔法の光で隙間なく包み込み、封印する。鈴はもう鳴らず、ぽとりと落ちる。
「ふふん、正しく大勝利というやつだよ」
迷彩を解いて姿を表し、どやどやっと勝利宣言。大穴の前でピースを決めて自撮りを始める。ひょあ? と正気に戻ったルナリアが映り込む。
「これはまた、随分と——」
「おっきい穴だねぇ」
「こいつも直さないとだな……」
呟いて、伸ばしかけた手を止める。
吹き込む風は冷たく寒いが、温まりきった体には心地良い。今しばらく、このままで良いだろう。
鉄とコンクリートの残骸が煙を上げる中、その向こうに覗くのは青、澄み切って晴れ渡る空だった。暖かな陽射しと共に、吹き抜ける風が誰かの髪を揺らした。悪くない気持ちだ。それこそ、ピースを決めても構わないほどの。
●壊した物品の請求書は私に送らないように
データセンターをサメが行く。人懐っこい雰囲気で、床をぴちぴちと泳ぐ。『たいへんたいへん』と右へ左へ。
修復は成されたものの一部外れたままの配線があり、それをせっせと繋ぎ直しているらしい。
怒られたら嫌だからね。きちんと働くんだよー。『はーい』
●◯◯町内会掲示板
芋煮会のご案内
日時:◯月◯日◯時より
場所:◯◯小学校校庭にて
主催から一言:中毒性があるおいしい芋煮だよ
●「これ、あそこの公園じゃね?」
ショート動画『お姉さんと少年の、公園でできるパルクール』
再生数はじわ伸び。
小学生から中高生に幅広く人気。
●子どものためのおはなし会
『かぐや姫とバイティングさめ之新』
今週土曜、14時から
協力:学生ボランティア
●学習塾の隣
パトロールがてら、少し足を伸ばして例のコンビニへ。近場の喫煙所で煙草を一服。
今日も並ぶ迎えの車。子どもの親とカミガリに休みはない。
●夜ごと悶々とする少年
🔍️金髪 年上
🔍️金髪 お姉さん
🔍️金髪 お姉さん 外人
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功