シナリオ

それは一箱の|燐寸《マッチ》のような

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔

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 #√汎神解剖機関
 #クヴァリフの仔

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「呼びかけに応じてくれたこと、礼を言う。最近よく聞く「クヴァリフの仔」に関する予知をした。説明に入っても構わないだろうか」
 鈴ヶ森・五十鈴(Blade Chord・h01104)は自らの呼びかけに応じた√能力者に礼を述べ、自らが見た星詠みの内容を語り始める。
「√汎神解剖機関。怪異を崇める狂信者と化した人々に対して、「仔産みの女神『クヴァリフ』」は己の「仔」たる怪異の召喚手法を授けている」
 鈴ヶ森の見た予知によれば、召喚される「クヴァリフの仔」はぶよぶよとした触手状の怪物で、それ本体自体はさせたる戦闘力を持たないという。しかし、他の怪異や√能力者と融合することにより宿主の戦闘能力を大きく増幅する代物であるらしい。
「場所は√汎神解剖機関にある村「|猿投山《さなげやま》村」。村ではあるが、観光資源として「氷まつり」の会場を持っている」
 この「|猿投山《さなげやま》氷まつり」を訪れた民間人が、氷の祭典の中で怪異を視る、あるいは触れてしまい、一時的狂気に陥るのだという。
「誰も、氷まつりをしている|猿投山《さなげやま》村が問題だとは思っていないようだ。無理もない、そもそも氷まつりに訪れる人はみな|猿投山《さなげやま》村のことをよく知らない」
 √能力者の皆には、「|猿投山《さなげやま》氷まつり」に訪れて一時的狂気に陥ってしまった民間人を宥め落ち着かせてほしい、と鈴ヶ森は言う。原因などは「忘れる力」も働いて本人も周りの人々も気づいていないだろうから、聞き出そうとしても無駄だ、と付け足した。
「大体はパニック状態、多弁症、感情の爆発、といったような症状に陥るようだ。彼らが人を傷つけたりする前に、まずこれを食い止めてほしい」
 氷まつりで民間人を落ち着かせることが出来たら、次は、と鈴ヶ森は二つ指を立てる。
「ここから先は、まだ定まらない未来。揺れ動く分岐の途中。道は二つある」
 一つ目は、そのまま「|猿投山《さなげやま》村」へと乗り込む道。猿投山村は氷まつりを行い周囲とコミュニケーションをとる反面、その性質は極めて閉鎖的だ。現代文明から取り残された、昭和後期から平成中期までのような生活様式で人々が暮らしており、電波やWi-Fiこそ通じてはいるがそれを使いこなしている人々はほぼほぼいない、らしい。
「|猿投山《さなげやま》村に乗り込んで、狂信者達のアジトを探す道、それが第一の道。もう一つは」
 |猿投山《さなげやま》村にあるアジトへとそのまま乗り込み、儀式場を守る低級の怪異「シュレディンガーのねこ」たちを倒すという道だという。
「シュレディンガーのねこは、ねこのあらゆる可能性の融合体。ねこの可能性には翼もある。複眼もある。何らかの怪異の親玉である場合もある。そんな可能性全てが融合した、猫の数倍以上危険なねこたちだ」
 更に、と鈴ヶ森は言葉を紡ぐ。
「分岐はこれだけに定まらない。|猿投山《さなげやま》村を探索する、或いはアジトの儀式場を守るねこたちを倒したあと、更に未来は分岐する」
 一つは、儀式場に蠢く怪異「さまよう眼球」たちを駆逐する道。この怪異は皆、触手状の「クヴァリフの仔」と融合しており、通常以上の戦闘能力を獲得している。
「汎神解剖機関へ「クヴァリフの仔」を持ち帰れば、それらは人類の延命に利用可能な「|新物質《ニューパワー》」として活用される可能性が高い。可能な限り、「クヴァリフの仔」は生きた状態で回収してほしい」
 そして、あるいは、と鈴ヶ森は続ける。
「既に儀式場の怪異は駆逐された後に駆けつけることになるかもしれない。この時、怪異たちを駆逐しているのは、連邦怪異収容局員である『リンドー・スミス』という男だ」
 リンドーは既に「クヴァリフの仔」を手にしている。彼と交戦し、彼が所持する「クヴァリフの仔」を奪取してほしいのだと、鈴ヶ森は言った。
「リンドーとの戦いに意味があるかは、俺にはよくわからないが。リンドーは遅れてやってきた|皆《おまえたち》を見逃さない。必ず戦いになる。だから戦いを制し、そして「クヴァリフの仔」を手に入れてほしい。そうすれば、汎神解剖機関が手にするものとなるだろう」
 この複数に分岐する未来を皆がどのように進んでいくかはわからないが、と言いつつも、星詠みは√能力者たちの顔を見る。
「まずは、氷まつりだ。その会場で一時的狂気に陥った民間人を探し、彼らを落ち着かせることから始まる」
 一箱の|燐寸《マッチ》のように、どうなるかわからない道だ、そう鈴ヶ森は言った。
「大爆発を起こして害をなすかもしれない。湯を沸かし、凍えた人々にあたたかいものを与えるかもしれない。クヴァリフの仔も、また同じだ」
 どうか気をつけてくれ、そう星詠みは、表情を変えぬままにそう言った。

マスターより

遊津
 遊津です。今回は√汎神解剖機関のシナリオをお届けします。
 当シナリオは第一章冒険、第二章冒険/集団戦、第三章ボス戦/集団戦の三章構成となっており、分岐が二回行われます。

 「★注意★」
  (以下の戦闘におけるルールは「ライブラリ」の「シナリオ参加方法」→「シナリオの判定システム」の「戦闘ルール」から確認できる、青文字部分に記載されています)
 敵はみなさまがプレイングに使用した√能力に必ず設定されている能力値【POW】【SPD】【WIZ】と、全く同じものを使って反撃、あるいは攻撃してきます。(リプレイ内では必ず反撃となるとは限りません。みなさまのプレイング、および状況次第です)
 プレイングで気をつけるべき敵の攻撃は、みなさまが指定した√能力の能力値の√能力です。
 (例えば【POW】の√能力で攻撃したなら、敵は必ず【POW】の√能力を使ってきます)。逆に言うと、指定した能力値以外の攻撃に対策するプレイングを書く必要はないとも言えます。
 指定した能力値に対応した攻撃の対策に専念して結構です。

 「第一章 冒険「一時的狂気に苛まれる民間人」」。
 場所は氷まつり、という氷像を見るイベントの会場になります。2月なので少し寒いですが、道などは歩きやすく、氷まつりのイベント会場中に障害はありません。
 イベントスタッフは大体おろおろしています。頼りにはなりません。√能力者たちが近づくと、一時的狂気に苛まれている民間人の知り合いだと思って場所を譲ってくれます。
 発症している一時的狂気は「パニック状態、多弁症、感情の爆発」のどれかです。プレイングに指定があったなら、その症状を発症していることにいたします。
 プレイングに「○○というものを利用する」と何か利用できそうなものを明記してくださった場合は、それが世界観設定的に使えないものでなければあったことにでき、利用できたこととしてリプレイを執筆します。
 一章で戦闘は起こりません。一章の終了までに必要な🔵は7と少ないので、ご注意ください。

 「第二章 冒険「閉鎖的な村」/集団戦「シュレディンガーのねこ」」
 冒険の場合は必要成功数は7、集団戦の場合は必要成功数は11となります。
 冒険の場合は「|猿投山《さなげやま》村」という閉鎖的な村を歩き回り、狂信者のアジトを探すことになります。
 集団戦の場合は村の探索はせず、アジトの儀式場に直接赴いて儀式場を守る低級怪異「シュレディンガーのねこ」と戦うことになります。
 「シュレディンガーのねこ」はあらゆる√の「猫の可能性」が融合して生まれた怪異ですあり、猫のどこにでも入り込む性質や気まぐれな性格、凶暴性や戦闘力、素早さを具現化されている猫の数倍した危険な存在です。
 どちらの分岐になったとしても、詳細は二章の断章で説明します。

 「第三章 ボス戦「連邦怪異収容局員「リンドー・スミス」」/集団戦「さまよう眼球」」
 ボス戦を行う場合は、√能力者が到着した時には既にその場は制圧され、「クヴァリフの仔」もボスの手の中にあります。これを巡って争うことになります。
 ボス敵となる「連邦怪異収容局員「リンドー・スミス」はアメリカの「FBPC(連邦怪異収容局)」に所属し、アメリカの『秘匿戦力』として強力な怪異を蒐集・支配・使役しています。
 集団戦の場合は、「クヴァリフの仔」と融合して強化狂暴化した怪異と戦うことになります。怪異を駆逐し、かつクヴァリフの仔は出来る限り生きたまま回収してください。人類の延命手段となる「|新物質《ニューパワー》」を得られる可能性が大きいです。
 集団戦の敵は「さまよう眼球」、無数の眼球と牙と肉が大量に集合した怪異です。食欲の赴くままに遭遇した生命体を貪りくらい、眼球の数を増やしていきます。
 どちらの分岐になったとしても、詳細は三章の断章で説明を行います。

 当シナリオのプレイング受付は、このシナリオの公開から即時となっております。
 上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、プレイングを送ってくださって構いません。
 プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『一時的狂気に苛まれる民間人』


POW 手加減したビンタで物理的に正気に戻す。もしくは気合いで憂いを吹き飛ばすように力づける。
SPD 指圧などの的確な身体刺激で正気に戻す。もしくはテクニカルなパフォーマンスを披露して元気づける。
WIZ 魔術的手段で精神を安定させ正気に戻す。もしくは精神状態に寄り添った対話を行って励ます。
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

岡本・五郎
氷の芸術の陰に隠れた陰謀か
そんなものは爆破して……いや、そういう訳にもいかないか

感情の爆発を起こした民間人に歩み寄る
スタッフに「私は医者だ」と堂々と大嘘を告げ、懐柔する
頼りにならなくても、民間人を落ち着かせるのに利用することはできるだろう

まだ怪異がその場にいるかも知れない
イベント会場の休憩所があるだろうから、スタッフに頼んでそこに案内してもらおう
「処置に10分ほどかかるので、済まないがその間患者が暴れ出さないよう押さえておいてくれないか」

あとは、祈りを捧げる
怪異を見たことで一時的狂気に陥るのなら、外部から受けた状態異常と同じだ
効果はあるだろう
「宿は取ってあるか? 今日は無理をせずに寝なさい」

 |猿投山《さなげやま》氷まつり。それは、規模は小さいながらも様々な氷像の見られるイベントだ。
 このイベント自体は怪異との関係はほぼないと見て間違いないだろう、そう星詠みは言っていた。しかし、氷まつりで展示される氷像の中には|猿投山《さなげやま》村の住民が作ったものもあるという。あるいはそれが、この地で民間人に繋がり、一時的狂気を齎してしまうのか――。
(氷の芸術の陰に隠れた陰謀か。そんなものは爆破して……いや、そういう訳にもいかないか)
 岡本・五郎(芸術は爆発ゴロー・h02442)は外星体シャーマンズゴースト・ボマーの魂を少しだけ疼かせ、それを抑えた。彼の外見は死亡したところを融合した学生、岡本五郎のものだ。
 ざわざわとした騒めきを覗いてみれば、そこには座り込んで泣き続ける女学生らしき民間人がいた。恐らくは感情の爆発を起こしてしまったのだろう。五郎は女学生に近づく。駆け寄ってきたイベントスタッフに、五郎は告げた。
「私は医者だ。少し彼女を診させていただきたい」
 ――勿論、虚偽である。しかし、この場にその虚偽を見抜ける者はいない。
 五郎はまだ怪異がこの場にいるかもしれない可能性を考え、この場から離れるためにイベントスタッフに休憩所へと案内してもらう。スタッフたちは慣れた手つきで休憩所の中に仕切りをつくり、女学生と五郎を招き入れる。そこから去ろうとする一人の男性スタッフを呼び止め、五郎はこう告げた。
「処置に10分ほどかかるので、すまないがその間患者が暴れ出さないよう押さえておいてくれないか」
 男性スタッフは戸惑いながらも五郎の指示に従う。女学生は脱力して泣き続けていた。静かに泣き続ける。それもまた、ひとつの感情の爆発だ。
「先生、井戸に、井戸に」
「何かな、……井戸?」
「井戸に、井戸の中に、井戸の中に水が入っていないんです。その中に降りていかないと、私、私」
 女学生は奇妙な言葉を口走る。星詠みによれば、彼女は虚言症や妄想癖、強迫神経症には陥ってはいないはず。ならばこの言葉には何らかの意味がある筈と考えた五郎はその言葉を記憶する。そして彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
 男性スタッフが心療内科に少しでも近しいものだったならその行為に意味があるのかと指摘しただろう。だが、幸いながらこのスタッフは心身ともに健康そのものであり、五郎の行動に何ら疑問を覚えなかった。
 五郎の√能力【祈りを捧げる】。五郎は女学生の一時的狂気を、怪異から受けた物と位置づけ、外部から受けた「状態異常」として定義した。故に、状態異常を回復させる√能力は女学生に効果あるものとなる。
 十分もあれば涙が止まり、呼吸にも落ち着きが戻る。正気を取り戻した女学生に、五郎は静かな声で告げた。
「宿は取ってあるか? 今日は無理をせずに寝なさい」
 女学生からの礼を受け取り、五郎は休憩所の外へ出る。まだほかに、狂気に陥った民間人がいないとも限らない。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
「まずはここを収めないといけないね」
お祭りを見に来ただけで巻き込まれてしまった人達が気の毒だ
早く止めないと

パニックを起こしている人に近付いて、肩を掴んで目を見て呼び掛ける
「落ち着いて。もう大丈夫だから」
彼らが何を見ていたとしてもそれはもうここには居ない
だからもう安心していいと明確に伝えるよ
それで落ち着かないなら怪我をさせないように注意して軽く頬を叩いて、物理的な衝撃で正気に戻そうと試みる

もしパニックで暴れて周りの人を傷付けそうな人がいたら、電撃鞭を非殺傷モードにして気絶させる
怪我人が出てしまった場合はバックパックから救急セットを取り出して応急手当するよ

※アドリブ、連携歓迎です

 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)が|猿投山《さなげやま》氷まつりの会場の中ほどまで来た時、その異常は起こった。前を歩いていた男性が突然膝を折り、頭を抱えて震え出す。どうしていいかわからない、といった様子。パニック発作だ。そう判断したクラウスは遠巻きに何が起こったのかと見守る人々の中から一歩踏み出した。
「まずは、ここを収めないといけないね」
 お祭りを見に来ただけで巻き込まれてしまった人。早く止めないといけない。彼を楽にしてやらなければ。
 男性に近づくと、彼の肩を掴んで目を真っ直ぐに見て、呼びかける。
「落ち着いて、もう大丈夫だから」
「助けてくれ、井戸だ。井戸に降りなければいけない」
「井戸?」
「ああ井戸だ、水は入っていない、そこに降りなければ、俺はどうすればいいんだ、助けてくれ……!」
「大丈夫、井戸はここにはない。あなたは、そこに行く必要はない」
「はあ、はあ……!」
 クラウスに縋りつく男性。クラウスは少し彼が口走った言葉に疑問を覚えた。「井戸」とは? パニック発作を起こしている以上、それが彼の家のことだとするならば、口を出すべき事ではないが、これは怪異の影響を受けているのではないか。「水の入っていない井戸に降りなければいけない」。彼の言葉を心にとどめ置き、クラウスは男性の頬に手を当てる。物理的な衝撃を与える必要はないと判断した。彼はパニック発作を起こしている。恐らくは自分の行動がとんでもないことに繋がるのではないかという恐れや不安に囚われている。だから座り込み、何にも出来なくなったのだ。
 動いただけで周りの人を、まるでガラス瓶を倒すように壊してしまいそうな不安。それが、パニック発作を起こしているこの男性の症状だ。
(ひどいようなら不安を抑える薬物の服薬か注射が必要だろうけれど……この人は多分、大丈夫だろう)
 そう判断したクラウスは、イベントスタッフが駆け寄ってきて、簡易的な救護室として作られたテントに男性が運ばれる間もつきそっていた。やがて男性の呼吸は落ち着いたものになる。
「申し訳ない。君は後ろにいただけだというのに、大変なことに巻き込んでしまった」
 やがて男性はクラウスに謝罪の言葉をかけてくる。ああ、これなら大丈夫だろう、そう判断したクラウスは、いいえ、とあたまを横に振る。
「あなたが楽になってよかったと思います」
 その後しばらくして、男性は家族が迎えに来たのか、そのまま氷まつりを後にして自家用車に乗って行った。クラウスは、もう少し氷まつりの会場を見回ることにする。
 まだ、狂気に陥る人が新たに現れないとも限らない、そんな思いからだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

明星・暁子
アドリブ&野良連携歓迎。
戦闘時以外は、身長170㎝の少女の姿で事に当たる。

SPD指圧などの的確な身体刺激で正気に戻す。もしくはテクニカルなパフォーマンスを披露して元気づける。

「祈り」を込めて秘孔を突き、正気に戻していく。
「はぁ!」 ずぶり ぴーぷーー(どこからともなく聞こえる効果音)

純白のセーラー服の裾を、華麗にはためかせて、次から次へと民間人のツボを突く。
√能力《疾風怒濤》により、早さも正確さも3倍である。

「ここですよね。違いませんよね?」
ダイナミック指圧。

 明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は、女学生の姿で|猿投山《さなげやま》氷まつりの場に赴いていた。
 純白のセーラー服が寒風にたなびく。さすがに二月となると少々寒いが、元が怪人である暁子にはそれほどの苦ではない。彼女は氷まつりに訪れる人の様子を伺いながら、処置の行いやすいスタッフ用テントの近くに陣取っていた。
 ふと、ざわざわというざわめきを聞いて振り返れば、スタッフ用テントに初老の女性がスタッフに付き添われて入っていったのが見える。暁子はテント内の様子をうかがう。どうやら初老の女性は突然火がついたように怒り出したようだ。恐らくこれは一時的狂気の「感情の爆発」の一種であろうと暁子は判断する。そして、彼女を落ち着かせるためにテントの中に入ろうとしたときだった。
「井戸にね!下りないといけないのよ!」
 奇妙な言葉を女性は叫び、暁子はひととき動きを止めた。
「井戸があるの!そこに降りなきゃダメなのよ!水は入ってないの!降りなきゃいけないのよ、ねえ聞いてるの!」
 興奮してそう口走る女性。それは――なんだろう、と暁子は思った。
 ただ、一時的狂気に浮かされただけの妄言? 否、星詠みはこの氷まつりで発症する一時的狂気に虚言症や妄想癖の類はないと言っていたはず。ならば――怪異の影響?
(水の入っていない井戸……枯れ井戸、というやつですね。その中に、降りていく?)
 暁子が考えている間にも、女性はコントロールできない感情のままにスタッフに掴みかかる。そこで、暁子は自身のやるべきことを思い出してテントの中に走り込んだ。
 祈りを込め、純白のセーラー服の裾をはためかせ。スタッフに掴みかかろうとして他のスタッフに抑えられている女性のむき出しになった背中にあるツボ――秘孔を、祈りを捧げながら突く。
「はぁ!」
 ずぶり。
 ぴーーぷーー。どこからか聞こえてくる効果音。
「ここですよね、違いませんよね?」
 もし暁子が医療関係者を装っていたのならば、それは言ってはいけない言葉である。医者は患者に不安を抱かせてはならない。「違いませんよね?」という言葉は|禁句《タブー》なのだ。しかし暁子はこの場において医療関係者ではなく、勿論スタッフでもない。ただスタッフ用テントに乱入してきただけの謎の女学生である。よって、彼女の言うことやる事全てが胡乱だ。√能力者には奇行に走った時にそれを普通に見せてくれる能力などはないが……まあ、民間人には「忘れようとする力」がある。本当だろうか。突然テントに入ってきた女学生が突然ツボをついてきたなんてこと、忘れられるだろうか。でも忘れてしまうのだろう。
「……あら?」
 女性は暁子のダイナミック指圧によって落ち着きを取り戻したようだった。スタッフに咎められる前にテントをするりと抜け出て、暁子はまた氷まつりを訪れた人々の様子を見る。
(ふむ、一時的狂気に陥る人間が出る、とは言いましたが、大量に現れるわけではないのですね)
 次から次へとツボを突いていく技、なども披露したかったのですが。
 などと思いながら、暁子は先ほどの女性の言った言葉の意味を思考の端で考えるのであった。
 ――果たして、井戸とは?
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ミーシャ・エン・フォーレヌス
√能力を持たぬ魔剣は、”受信機”としている天女の意識を介して、星詠みの声を聞く。
「触手に、眼球か。剣を持っている手合いではない。オレが向かう意味もあるまい」
休息に移ろうとした魔剣は、自らの制御を逸して羽ばたきはじめた天女によって目を覚ました。
「おい。キサマ、何をしている……?」
虚脱状態にある|天女《セレスティアル》が、その本能に従い、脅かされる者のために活動を開始する。
「クソ。なんと厄介な乗り物だ、忌々しいッ!」

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「妙に寒いな……おい、この凡骨、凍え死ぬなよ」
村に降り立ったミーシャは、正気を失った者に無言でビンタを行う。衝撃波を伴う威力だが、魔剣が民間人に能力『劫』を放ち減殺する。

 ミーシャ・エン・フォーレヌス(混然の天魔、あるいは十と三つ目の魔剣・h04853)は――セレスティアルである。√ドラゴンファンタジーに存在する、美しき翼持つ種族。しかし、今の彼女に自我はない。「失楽園戦争」の最中、浄化しようとした魔剣にその精神を乗っ取られたのだ。
 自我を持つ、なれど√能力を持たない魔剣はミーシャの意識を介して、星詠みの声を聞いた。
「触手に、眼球か。剣を持っている手合いではない。オレが向かう意味もあるまい」
 魔剣――果ての魔剣、朽ちゆくフォーレヌスは自身には関係ないことだと聞いた言葉を意識の外に追いやり、自堕落な眠りにつこうとする。しかし、それは叶わない。セレスティアルである彼女、ミーシャに今自分の意志はない、しかし意志無き彼女は意識のイニシアティブを完全に握っているはずの魔剣の意志を無視して、羽ばたき始める。
「おい。キサマ……? 何をしている……?」
 魔剣は戸惑う。虚脱状態にあるミーシャの肉体は魔剣の選択に関わらず、その本能に従って、脅かされる者のために活動を開始し始めたのだ。
「クソッ、なんと厄介な乗り物だ、忌々しいッ!」
 魔剣は毒づいた。
 
 そして――魔剣持つ|天女《セレスティアル》、ミーシャは√汎神解剖機関の|猿投山《さなげやま》村「氷まつり」のイベント会場へと降り立った。
「妙に寒いな。……おい、この凡骨。凍え死ぬなよ」
 |乗り物《・・・》の状態を心配する魔剣を余所に、ミーシャの肉体は目の前の光景を心なく眺める。
 その場に座り込み、何も出来なくなった女性。恐らくは星詠みの言う「パニック発作」、一時的狂気を発症しているのだろう。周りの人々は突然座り込んだ女性がどう言う状態に陥ったのかわからず、遠巻きに見守るばかり。不幸にも連れのいなかった女性は、パニックに襲われて何をしていいのかもわからず、冷たい雪の上に座り込んだままだ。
 ミーシャは、女性の真ん前に立ち、目線を合わせるようにかがみ込む。そこで魔剣は彼女が何をしようとしているかに気づいた。
 ぱぁん、と小気味のいい音がして、女性の頬をミーシャの形のいい手が張った。ビンタである。本来ならば衝撃波を伴うほどの威力であったが、魔剣は女性に対して√能力【|劫《カルパ》】を放って女性の防御力を10倍にすることでその威力を減殺する。ちょっと周囲に衝撃波の残滓が残ったが、そんなことはミーシャも、魔剣にも、そして女性にとってすらどうでもいいことだった。
「……あ、あら? あら?」
 民間人の女性はそのショックと――【|劫《カルパ》】の持つ「負傷の回復」の力が精神にも作用したのか、その場で正気を取り戻す。
女性はなにも言わぬミーシャの前でゆっくりと体を起こし、何度もミーシャに頭を下げてその場から去っていった。
 あとは、そのまま。魔剣がどんな意思決定をしようと、|天女《ミーシャ》の肉体はずっとそのイベントを心なき目で見つめていた。
 まるで、また他の要救護者が現れないかと監視しているように――。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『シュレディンガーのねこ』


POW 無限の猫爪
敵に攻撃されてから3秒以内に【猫の爪】による反撃を命中させると、反撃ダメージを与えたうえで、敵から先程受けたダメージ等の効果を全回復する。
SPD 猫は死ぬのか死なぬのか
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【生命力】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
WIZ シュレディンガーの鳴き声
【長い猫の鳴き声】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 √能力者は|猿投山《さなげやま》「氷まつり」のイベントを見送り、さてこの後どうするかと考える。
 否、考えずとも、√能力者たちには次にすべきことはわかっていた。
 閉鎖的環境にある|猿投山《さなげやま》村を見て回る事。それは、怪異の儀式場を探すためだ。
 探さずとも、「氷まつり」で一時的狂気に陥った人々の言葉を聞いていたものは、そのヒントを掴んでいた。
「井戸だ。この村には、枯れ井戸がある」
「そこに降りていく、そう言っていた」
 ――ならば、そこに儀式場があるのだろう。
 √能力者たちは村人たちの目を盗み、村はずれにある枯れ井戸を探し出してそこにかけられた梯子を下りていく。すぐに横穴があり、横穴を抜けると大きな広場に出た。
「マーオ」
「マーオ」
「マーオ」
「「「「にゃあああああん」」」」
 √能力者たちを出迎えたのは、複数の猫の鳴き声。
 そして勿論、そこにいたのはただの猫ではない。
 あらゆる猫の進化の可能性を持つ低級怪異「シュレディンガーのねこ」たちが、儀式場を守っていた。
 |√能力者《あなた》たちは理解するだろう。彼らと戦わなければ、「クヴァリフの仔」に辿り着くことはできないと!
========================================
第二章 集団戦「シュレディンガーのねこ」 が 現れました。

 おめでとうございます。√能力者たちの行動の結果、|猿投山《さなげやま》氷まつりのイベントに来ていた民間人の中から出た一時的狂気の発症者はみな狂気を取り除かれました。
 彼らの行動の結果、分岐は決定しました。
 第二章は集団戦となります。
 以下に、詳細を記します。
 
 「★注意★」
 (下記はライブラリの「シナリオ参加方法」→「シナリオの判定システム」の「戦闘ルール」から確認できる、青文字部分に記載されています))
√能力者の√能力には【POW】【SPD】【WIZ】の能力値のいずれかが設定されており、敵はプレイングに選ばれた√能力の能力値と同じ能力の√能力を使って攻撃してきます。(√能力者が【POW】の√能力を使ったなら、敵は必ず【POW】の√能力を使う、というシステムです)
なので、自分の使う√能力に対応する敵の√能力にのみ対応策を取って下されば問題ありません。

 「戦場について」
 枯れ井戸を下りてゆき、横穴を抜けた向こう――そこにある、広い空間です。
 戦闘はこの空間で行われ、第二章から参加した方でもこの空間で戦闘を行うことが可能です。
 開けた場所であり、十分に動き回ることができます。何故かバイクなどのヴィークルも持ち込むことが可能です。
 また、地下ですが、頭上にライトがあり、光源は確保されています。
 民間人・村人その他、敵以外の知的生物は存在しません。行動指示などをプレイングに書く必要はありません。
 戦闘に利用できそうなものは何も無い場所ですが、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
 すでに敵が登場しているため、技能による準備行動を行っておくことは出来ません。(例:準備体操を行い体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)なんらかの準備行動を行いたい場合は、戦闘と並行して行うことになります。
 
 「集団敵「シュレディンガーのねこ」について」
 あらゆる√の「猫の可能性」が融合して生まれた怪異です。猫のどこにでも入り込む性質や気まぐれな性格、凶暴性や戦闘力、素早さを具現化されている猫の数倍した危険な存在です。
 集団と戦うため、一本のリプレイで最低一体は倒しきるところまで描写いたします。
 基本的には√能力者一人につき一体との戦闘になりますが、実際何体と戦うかはプレイングや使用する√能力により決定されます。ただし「○体と戦う」とプレイングに明記され、それに対策するプレイングが書かれていた場合はそのようにします。
 √能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、猫の爪や牙などで攻撃を行ってきますが、プレイングや√能力の内容次第では敵に攻撃させずに倒すリプレイになる可能性があります。あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
 
 第二章のプレイング受付は、2/10(月)朝8:31~の開始となります。
 時間帯によっては上記タグにプレイング受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
 プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。

 それでは、儀式場を守る低級怪異たちを倒し、「クヴァリフの仔」に近づいてください。
クラウス・イーザリー
「早く切り抜けた方が良さそうだね」
この先で儀式が行われているのであれば、このねこ達はまだ前座でしかない
時間を掛けている場合じゃないな

ねこの一体にダッシュで接近して√能力猛襲を発動
拳攻撃の間に2回攻撃や居合、喧嘩殺法や不意打ち、クイックドロウを挟んで連続攻撃
ねこからの反撃は腕(前足?)の動きをよく見て見切りで回避
できるだけ回復効果を発動させないようにしながら戦う
避け切れなくて回復されても、回復を上回るくらいの連続攻撃で畳み掛けるよ

次に戦うのは『仔』と融合した怪異か、『仔』を回収したリンドーか
いずれにしても、全力で戦うまでだよ

※アドリブ歓迎です

「ここは、早く切り抜けたほうが良さそうだね」
 目の前にいるのは、ねこだ。しかし、ただのねこではない。ねこは複眼であるかもしれない。ねこには触手があるかもしれない。ねこは実は天の遣いかもしれない。ねこは深淵から来る邪神の御使いかもしれない。そんな、「猫」という生物に対して知的生命体が持つ、様々な可能性が詰まった生物たち。それが、「シュレディンガーのねこ」という怪異。――そんな「猫」たちが、クラウスの前にたむろしている。
(この先で儀式が行われているのであれば……このねこたちは、まだ前座でしかない。時間をかけている場合じゃないな……!)
 村の中を探し回るという行為が省けた分だけ、クラウスたちは儀式場にたどり着くための時間的アドバンテージを得られたと言えよう。しかし、ここで時間をかけていれば全て意味がなくなる。
 クラウスは一体の「猫」に向かって地面を蹴り、拳を握って突っ込んだ。
 【|猛襲《もうしゅう》】。目につく中でもひときわ巨大な「猫」に対して拳で殴りかかり、更にその腹部を蹴り上げる。腹部を晒した「猫」はそこからぶよぶよとしたクラゲの様な触手を見せる。触手の先端についていた爪がクラウスに襲い掛かる。たとえ触手の先についていても、本体が「猫」であるならばこれは「猫の爪」。ならばこの爪からダメージを受ければ、今与えたダメージはすべて回復されるだろう。だからクラウスは一気にその触手の範囲内から離れ、小型拳銃を抜くやいなや「猫」に向かって弾丸を浴びせかけ、触手についた「猫の爪」の攻撃を全回避して、ふたたび殴りかかる。巨大な「猫」は殴りつけても全体的にぶよぶよとした感覚が帰ってきて、どうにもダメージを与えた実感はないが、それでもその動きから弱らせられているだろうということは見て取れた。
 そのままクラウスは拳で殴りつけながら武器での攻撃を挟んで、√能力【|猛襲《もうしゅう》】の連続攻撃を叩き込んでいく。
(そろそろ……倒れてもいい、頃だが……っ……!)
 クラウスの前で、「猫」がぶくりと膨れ上がる。さらに巨体になった「猫」は猫特有のポーズを取り、そして声をあげた。
「シャァァァァッ!!」
 その声と共に、「猫」の背中部分から「猫の爪」のついた触手が一気にクラウスへと向かってくる。クラウスはこの攻撃だけは喰らってはいけないと感じた。ごろごろと転がって触手と「猫の爪」をすべて避けきり、そのまま立ち上がり際に拳銃を抜き放ち、弾丸を撃ち放つ。
「ギャンッ」
 巨大な「猫」は弾丸を受けながら勢い余って壁に叩きつけられ、そしてそのまま動かなくなった。クラウスの見守る前で、「猫」だったものは塵に変わり、消えていく。
 ――これでもう倒しただろう、と確信して、クラウスは呟く。
「次に戦うのは、「仔」と融合した怪異か、「仔」を回収したリンドーか……」
 いずれにせよ、全力で戦うまでだ。クラウスは、「猫」を――怪異を殴り殺した拳を知らず握りこんでいた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ミーシャ・エン・フォーレヌス
井戸に入った途端、耳を聾する”ねこ”のどよめきに、魔剣は単眼を歪める。
「ああ、やかましい! どんなバカが井戸に猫を放り込んだのだ!?」
ミーシャは顔色一つ変えず、変わらぬ歩調で穴に辿り着く。

出会い頭に叩きつけられた震度7相当の震動の中で、魔剣は目撃する。
伸縮する尾のような刀身に、爪のような鋭く屈折した刃先を持つ、”魔剣”としか言いようのない得物を咥えたねこを。
それは、己の生まれを呪いも誇りもする魔剣の神経を、著しく逆撫でした。
「この、ケダモノ風情が……オレたちを、愚弄したかッ!?」
技能:重量攻撃+衝撃波で地面を叩き割り、√能力を発動。
プライドゆえ武器を振るうことなく、戦闘力と技能のみで殴り倒す。

「マーオ、マーオ」
 枯れ井戸の内部に掛けられた梯子を降りていく途中、猫たちの声に魔剣・朽ちゆくフォーレヌスは単眼を歪める。
「ああ、やかましい!どんなバカが井戸に猫を放り込んだのだ!?」
 魔剣を手にしたミーシャは猫の鳴き声にも、魔剣の声にも顔色一つ変えず、ただ梯子を下り、横穴を通っていく。
 そして開けた場所に出た途端――。
「マーーーーーーーーーーーーーオ」
 長い長い猫の鳴き声。否、そこにいたのは猫ではない。猫という生物のあらゆる可能性を顕わにした、怪異の集団。
 「猫」たちはその声によって共振作用を生む。震度七相当の振動が魔剣とミーシャとを襲う。そして、魔剣は「それ」を目にした。
 伸縮する、尾のような刀身。爪のように鋭く屈折した刃先を持つ、それは「魔剣」。「魔剣」と言わずして、なんと呼ぼうか。その「魔剣」は、一体の、こうして見た限りでは何の変哲もなく見える「猫」に、咥えられていた。
 魔剣フォーレヌスは激しく激昂する。悪魔に鍛造されたとする己の生まれを呪いも誇りもする魔剣にとって、それは限りなく神経を逆撫でされる出来事であった。
「この、ケダモノ風情が……!オレたちを、愚弄したかッ!!!??」
 魔剣の叫びと共にミーシャは踵を地面に打ち鳴らす。それだけで、ただそれだけで衝撃波が起こり、地面は叩き割られ――そして、ミーシャのセレスティアルのものと呼ぶには異色で異形なおぞましき翼の中に、魔剣は格納される。
 【|魔剣融合《メルトイン・ディスペア》】。ミーシャの体は漆黒の外皮に覆われ、ねじくれた角が両側頭部から生えた魔となる。空中を滑るように飛び、ミーシャは魔剣を咥えた「猫」の首をねじ切ろうとした。
「シャーッ」
 猫は威嚇し口を開く。口の中の牙が顕わになる。口の中には無数の眼球が生え、ぎょろぎょろと外界を見渡していた。そして、咥えていた口から外れたというのに「猫」の魔剣は地に落ちない。まるで「猫」の意思に従うがごとく動き、一閃、ミーシャの頭部を落とさんとする。
 ミーシャはその刃を素手で掴んで止めた。とはいえ今のミーシャの皮膚は漆黒の分厚い外皮に覆われているが故に、傷を受けることはなかったが。
 魔剣フォーレヌスの怒りは激しく、そのプライド故に今回は武器を振るわぬと、そう決めていた。ミーシャの肉体は「猫」の「魔剣」を押さえつけたまま、貫手でもって「猫」の体内に入り込むと、どくどくと脈打つ心臓を掴んで体外に引きずり出す。ぐちゃりとその臓器を握りつぶすと、「魔剣」の「猫」の体は風船のように膨らんで、そして内容物を撒き散らして爆ぜた。真っ赤な血と内蔵、肉片を浴びようとも、ミーシャの表情が変わることはない。
 「猫」はそれによって消滅したが、「猫」が咥えていた「魔剣」はその場に残された。それをどうするのかは、ミーシャ――否、魔剣フォーレヌスの意志次第であった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

岡本・五郎
なんだ、これは!?
√の違いによってこれ程の差異が生まれるものなのか
猫の可能性は無限大だな
「敵が猫と聞いて持ってきたが、これは果たして役に立つだろうか?」
よくTVCMで見る、チューブ入りの猫用おやつを取り出して開封、シュレディンガーのねこの只中に投入する
集まって来たところを攻撃する

10分以内に全快すると言うのなら、その前に一気呵成に破壊すれば良いだろう
「生命力を増幅したいと言うなら、存分に喰らうといい」
詠唱グレネードランチャーから生命属性の弾丸を放つ
生命力を増幅した身体に更に生命力を押し込み、自壊させるのが狙いだ
「生命とは、爆発だ!」

「なんだ、これは……!?」
 ねこ、ねこ、ねこ。ねこたちがその空間には集まっている。けれど、その中のどれ一つとして五郎の知っている猫の姿をした者はいない。
(√の違いによってこれほどの差異が生まれるものなのか……!? 猫の可能性は無限大だな……)
 五郎はそう感嘆したが、実際に異なる√に赴いてこれらの「ねこ」たちが存在するかというとそれは少々怪しい。この「ねこ」たちはあくまでも怪異なのだろう。知的生命体の普遍的無意識の中に存在する、猫という生物のあらゆる可能性の姿の集まりであるからして――恐らく彼らは、√汎神解剖機関でこそ成立した存在だろう。恐らく、であるが。
「敵が猫と聞いて持ってきたが、これは果たして役に立つだろうか……」
 戸惑いながらも、五郎は荷物の中からよくTVコマーシャルで見る猫用のおやつ、チューブに入ったそれの口を切り、ねこたちの只中に投入する。
「マーオ?」
「マーオ」
「マーオ!」
「マーオ、マーオ」
「ギャフベロハギャベバブジョハバ」
 ねこたちはたいそう喜んでおやつに群がった。五郎が持ち込んできた分だけでは足りない。畢竟、あぶれた「ねこ」は不満を訴える。五郎にである。彼らは猫のあらゆる可能性を内包するねこたち。猫にはこんな一面もある。曰く、「猫は自分を神だと思っている!」なので何かが起こったら、それは自分たちのせいではないのだ!おやつを得られなかった「ねこ」たちは不満をあらわに五郎に向かってくる。あのうまそうなものをもっとよこせ、と。
 そこへ五郎は詠唱グレネードランチャーを構える。放つのは生命の弾丸――【|生命開花弾《バイタリティ・バースト》】。おやつによって密集していた「猫」たちはエネルギーの爆発により生命力を注ぎ込まれる。「猫」たちは攻撃を受けたこと、あるいはグレネードをぶち込まれたことにびっくりして己らの生命力を増幅する。「猫」たちは思い思いの姿を取る。あるものゴム風船のように膨らみ。あるものは灰のように拡散する。だがしかし、基本的にねこたちはおやつに群がり、あるいはおやつを得ようと五郎に群がるかどちらかだ。そのどちらもが、五郎の【|生命開花弾《バイタリティ・バースト》】の範囲内に入っている。「ねこ」たちが自身の√能力によって生命力を増幅させたところへ、五郎は立て続けに【|生命開花弾《バイタリティ・バースト》】によって生命力を押し込む。やがて、ねこたちに限界が来た。「ねこ」という器の中に内包しきれる生命力の量を越えたのだ。ぱぁん、と風船が破裂するような音がする。或いは、「ねこ」によっては実際に破裂したものもいただろう。生命力を注がれ続けたねこたちは自壊し、それぞれの形でそれぞれに爆ぜていく。空気を吹き込まれ続けた風船がやがて破裂するのと同じように。
「は、はは……生命とは、爆発だ……!」
 五郎は口元に笑みを浮かべて、そう言うのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

柳生・友好
※連携・アドリブ大歓迎
判定:POW

普段は退屈で物腰柔らかいのに見えそうだが、いざ戦うとなれば雰囲気は凛々しくなる
ネコ好きの友好に対して今回の戦いは色んな意味で少々辛いけれど、自分なりに事態解決に力を尽くしながら戦闘自体を楽しむ

【剣理・天狗之書】で速度を上げる
敵の動きを【見切り】、攻撃を回避して【カウンター】を叩き込む

あれはネコ…いや、本当にネコなのか?
なんか、すごく嫌なんだけど
でも、あの素早くてちょっと不思議な動き、やっぱりネコなんだ…
とりあえず、余計な事を考えずに気を引き締めて対応していこう

 柳生・友好(悠遊・h00718)は目の前にでうごめく「ねこ」にくらりとめまいのようなものを覚えた。
 友好は猫好きである。たとえ怪異とわかっていても、猫を傷つけるのは少々辛いものがある――とはいえ。
(あれはネコ……いや、本当にネコなのか……?)
 友好の姿を認めた「ねこ」たちは、しゃーっと威嚇の声をあげながら一か所にまとまる。そして、奇怪、その肉体同士が「混ざっていく」。誰かが言った、「猫は液体」だと。その言葉を再現するように、複数体いた「ねこ」たちは溶けあい、一体の大きな「ねこ」となって、友好の前に立ちふさがった。そこには複数の猫の金色の真ん丸の眼球があり、口があり、フーとかシャーとかマーオとかニャーとかふぐるにょわーとかそれぞれに鳴いている。なんだ最後の。本当にネコの鳴き声か? しかしこれらはあらゆる猫の可能性の集合体。ふぐるにょわーと鳴く猫もいるのだろう。
 「ねこ」は大きな体で、しかし猫らしく素早く動き回り、友好にじゃれついているんだか攻撃をしているんだかわからない動きをしてからみつく。しかしその半液体の体の隅々には猫爪らしき突起があって、これに引っかかれてはいけないと友好の原始的な勘が働いた。だからこそ友好は、まず絡みついてくるねこを引きはがすために――√能力を発動させる。
 【|剣理《けんり》|・《・》|天狗之書《てんぐのしょ》】。
 夢の中で授けられた大天狗の秘伝が覚醒し、友好の速度が倍速することにより、自身に絡みつく「ねこ」から距離を取る。
 友好から離れた「ねこ」はそれで友好から興味を失ったのか、その場でくしくしと毛づくろいを始めた。
(あの素早くてちょっと不思議な動き、気まぐれな感じ……やっぱりネコなんだ……)
 とはいえあの「ねこ」は天然自然の生き物ではない。知的生命体の普遍的無意識から生み出された低級怪異。だから、倒さねばいつか力なき民間人に危害を加えることも出て来るだろう。友好は|頭《かぶり》を振り、余計なことを考えないようにして気を引き締める。
「はぁぁぁっ!!」
 「心剣「水月」」によって「ねこ」にうちかかる友好。「ねこ」は刃をさっくりと受け入れるが、どうもそれには「斬れた」という感覚がしない。恐らく「猫は液体」である説があるために、今のこの「ねこ」には物理攻撃が聞きづらいのであろう。ならば、と友好は「水月」に浄化の霊気、「剣影「月暈」」を注ぎ入れる。途端、水を湛えた風呂桶の中に電気コードでも投げ込んだかのように液体がさざなみ打って、「ねこ」の悲鳴が聞こえた。
「シャーッ!!」
 ねこはその液体の体から猫爪を出し、友好を引っ搔こうとしてくる。多分痛かったのだろう、非常に怒っているのだ。それになんとなく心を痛めながらも、引っ掻かれてやるわけにはいかない。友好はその倍加した速度でもって猫の爪を次々と躱し、そして脇差「快刀「朔月」」に「刀光「月虹」」の虹色の光焔と霊力を十分に注ぎ込み、「ねこ」へ向かって投げつける。朔月は、真っすぐに半液体の「ねこ」の体に吸い込まれて行って。
「マーーーーーーーーーーーオ」
 長い猫の断末魔が響いた。じゅうじゅうと熱したフライパンに水を注いだ時のような音が聞こえて、そしてそれは次第に小さくなっていく。半液体だった「ねこ」が蒸発していくのを、友好は目を離せずにずっと見ていた。
 そして、音が消えた時、そこには何も残っていなかった。
「……倒せた、ということでいい、んだろうな」
 「ねこ」たちがすべて消えた先には、儀式場に続くにはあまりに質素な扉がひとつある。
 それを目指して、友好は歩き出すのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 集団戦 『さまよう眼球』


POW かじりつく
自身の【眼球と牙】を【真っ赤】に輝く【暴食形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
SPD ヒュージ・ファング
【強酸】のブレスを放つ無敵の【無数の牙の生えた巨大な口】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【生命力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
WIZ 新たなる牙
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【次なる「さまよう眼球」】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 |√能力者《あなた》たちは、的確にそして迅速に、儀式場を守っていた「ねこ」たちを退治していった。
 異変発生から儀式場のありかを突き止めるまで、そして儀式場の番人を倒しきるまでに、時間としては非常に短かったといっていいだろう。
 だからこそ、|√能力者《あなた》たちは「間に合った」。
 
 そこにいたのは、怪異「さまよう眼球」。無数の眼球と牙もつ異形の怪異。そしてそれらの怪異には例外なく、「クヴァリフの仔」たるぶよぶよとした触手がくっついている。
 この「クヴァリフの仔」により、怪異たちは力を増しているのだろう。儀式を行っていたはずの狂信者達は――どこにもいなかった。儀式場にはところどころに赤黒い染みがある。信者達は全てこの染みの一部と化したのか、或いは怪異たちを手に負えないと感じていずこからか逃げ出したのかは、今の|√能力者《あなた》たちにはわからないことだ。
 
 どちらにせよ、あなたたちは競合相手よりも早く「クヴァリフの仔」を回収することが可能になった。
 無論、それは、この強化された怪異たち「さまよう眼球」を倒すことが出来れば、の話である――。
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 第三章 集団戦 「さまよう眼球」 が 現れました。

 おめでとうございます。√能力者たちの迅速な行動により、「クヴァリフの仔」を狙う他者よりも早く儀式場につくことが可能となりました。
 これにより分岐は決定し、未来は定まりました。
 これから行うのは 集団敵「さまよう眼球」との戦闘です。
 以下に詳細を記します。
 
 「★注意★」
 (下記はライブラリの「シナリオ参加方法」→「シナリオの判定システム」の「戦闘ルール」から確認できる、青文字部分に記載されています))
√能力者の√能力には【POW】【SPD】【WIZ】の能力値のいずれかが設定されており、敵はプレイングに選ばれた√能力の能力値と同じ能力の√能力を使って攻撃してきます。(√能力者が【POW】の√能力を使ったなら、敵は必ず【POW】の√能力を使う、というシステムです)
なので、自分の使う√能力に対応する敵の√能力にのみ対応策を取って下されば問題ありません。

 「戦場について」
 「ねこ」たちのいた空間に隠されていた扉を開けた先に存在する儀式場です。
 真ん中に魔法陣があり、そこに集団の敵が存在しています。
 戦闘はこの儀式場で行われ、第三章から参加した方でもすぐに戦闘を行うことが可能です。また、開けた場所であり、十分に動き回ることができます。バイクなどのヴィークルも持ち込むことが可能です。
 儀式場には炎に依らない光源があり、視界は確保されています。
 儀式を行っていたはずの狂信者の姿は何故かなく、民間人・村人その他、敵以外の知的生物は存在しません。行動指示などをプレイングに書く必要はありません。
 戦闘に利用できそうなものは何も無い場所ですが、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
 すでに敵が登場しているため、技能による準備行動を行っておくことは出来ません。(例:準備体操を行い体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)なんらかの準備行動を行いたい場合は、戦闘と並行して行うことになります。
 
 「集団敵「さまよう眼球」について」
 無数の眼球と牙と肉が大量に集合した怪異です。食欲の赴くままに遭遇した生命体を貪りくらい、眼球の数を増やしていきます。また、「クヴァリフの仔」が全ての個体に融合しているため、強化されています。
 集団と戦うため、一本のリプレイで最低一体は倒しきるところまで描写いたします。
 基本的には√能力者一人につき一体との戦闘になりますが、実際何体と戦うかはプレイングや使用する√能力により決定されます。ただし「○体と戦う」とプレイングに明記され、それに対策するプレイングが書かれていた場合はそのようにします。
 √能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、牙などを使って攻撃してきます。(「クヴァリフの仔」はぶよぶよとした触手状の物体ですが、それそのものには戦闘力はありません)
 プレイングや√能力の内容次第では敵に攻撃させずに倒すリプレイになる可能性がありますが、あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
 
 第三章のプレイング受付は、2/15(土)朝8:31~の開始となります。
 時間帯によっては上記タグにプレイング受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
 プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
 
 それでは、「クヴァリフの仔」を宿した怪異たちを倒し、出来うる限り「クヴァリフの仔」を回収してください。
ミーシャ・エン・フォーレヌス
飛び散った血から、魔剣は狂信者たちの死を想像する。
「フン……この程度の雑魚を生むために、たった一つの命を晒すとは。まったくもって愚かしい生物だ」
天女もまた、五感を通じ推察したのだろうか。
魔剣の指令よりも早く、空中から怪異数匹の内側に飛び込みながら、浮遊させた剣にインビジブルを収束させる。剣の中には、"ねこ"が落とした"魔剣"もある。
「フン……まあいい。――おい、この、紛い物!火かき棒になりたくなければ、せいぜい働いてみせろ!」
みょん、と"猫剣"は返事のように刃を曲げる。
「消し飛べ!」
半径17mを切り刻む。能力で逃げ延びた怪異を、二回目の攻撃に【空中移動】を合わせて追撃する(トドメは猫剣で)。

 儀式場に蠢く怪異たち。儀式をしていたはずの狂信者たちは、どこにも見当たらず、儀式場についた赤黒い染みを、魔剣は単眼で見て。そして、狂信者達は怪異に殺されたのだろうと判断する。
「フン……この程度の雑魚を生むために、たった一つの命を晒すとは。まったくもって愚かしい生物だ」
 魔剣を抱くミーシャもまた、五感を通じて魔剣と同じことを推察したのだろうか。魔剣が指示を出すよりも早く、異形の翼を広げて空中から怪異「さまよう眼球」の群れ数匹の中に飛び込み、自身同様に浮遊させた幾本もの剣の中にインビジブルを収束させる。その剣の中には、先ほど戦った「ねこ」が咥えていた「魔剣」も紛れていた。
「フン、まあいい。……――おい、この、紛い物!火かき棒になりたくなければ、せいぜい働いてみせろ!」
 魔剣の言葉に返事をするように、「ねこ」の落とした魔剣「虚構魔剣:|忌々しき猫の遺物《シュレディンガー》」――猫剣はみょん、と刃を曲げる。
 ミーシャは心の宿らぬ瞳で√能力を発動させる。
「ハハッ、消し飛べ!!」
 【|征天落鴉《フォースダウン》】。半径17メートルの舞台の中、魔剣たちは怪異どもを斬り刻む。牙はあれども声帯のない怪異は悲鳴を上げることもなく斬られ、一部の怪異は√能力を用いてぎょろぎょろと眼球をうごめかせ、新たなる「さまよう眼球」を増やしながら逃げ延びる。それをミーシャは追撃し、空を異形の翼で羽ばたいて追いかける。
 どうせ新たに生み出された「さまよう眼球」は保って10秒の儚い存在だ。そちらに攻撃するよりも、逃げた方を追撃した方が正しいと判断したのか。事実、√能力によって新たに生み出された「さまよう眼球」は「クヴァリフの仔」を有していない。脅威度を取ってみても、逃げた個体を追いかけて潰した方が今回に限っては得策であった。
 √能力を用いたことにより集合体から離れた「さまよう眼球」は、しかし【|征天落鴉《フォースダウン》】の二回目の攻撃の対象となる。ミーシャはその手に握った剣――無造作にその場で踊る魔剣の中から掴みだしたそれは、奇しくも先ほど手に入れたばかりの猫剣であった。猫剣は自身の売り出し時だと考えたのか、ミーシャの手の中でその刀身を長く長く伸ばしていく。まるで猫を持ち上げたならどこまでも伸びていくように、けれどその切れ味は微塵も劣化することなく、さまよう眼球を斬り捨てる。
 ミーシャは地に落ちた怪異から融合していた「クヴァリフの仔」を斬り取ると、再び未だ魔剣たちによって蹂躙されている怪異たちの元へ戻っていくのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
「間に合ったか、良かった……」
怪異との戦いにはなるけど、人間同士でクヴァリフの仔を奪い合うよりはまだ心情的にやりやすい

敵を弱らせないとクヴァリフの仔を回収どころでは無いと考えて、まずは攻撃に集中
隠密用の布を被ってダッシュで距離を取り、フレイムガンナーを起動
融合しているクヴァリフの仔に被害が及ばないように気を付けながら、弾道計算+スナイパーで火炎弾を撃ってダメージを与えていく
ヒュージ・ファングで変身されても怯まず、ダッシュでブレスから逃れて避け切れない時はエネルギーバリアで凌ぎながら攻撃を続けるよ

敵が弱るか気絶したら接近して、ナイフでクヴァリフの仔を切断して回収しよう

※アドリブ歓迎です

「……間に合ったか。良かった……」
 怪異との戦いにはなるとしても、クラウスにとっては人間同士で「クヴァリフの仔」を奪い合うよりは、まだ心情的にやりやすいものだった。
(とはいえ、まずは敵を弱らせないと「クヴァリフの仔」の回収どころではないよな)
 クラウスは視認性の低く、探知能力を妨げる効果のある隠密用の布を被ると「さまよう眼球」たちからダッシュで離れて距離を取る。静かに小型拳銃を構え、照準越しに一体の「さまよう眼球」を見据え、√能力【フレイムガンナー】を発動させる。
 弾道を計算し、クラウスの狙撃能力によって強化された火炎弾発射形態に変形した銃は、捕捉した「さまよう眼球」へと火炎弾を放った。
 ガゥン、と儀式場に銃声が響く。「さまよう眼球」の体が燃え上がる。牙はあれども声帯のない怪異は身をよじらせて苦痛を表現し、自身に痛みを与えた相手――クラウスへと報復せんと、無数の牙が生えた巨大な口へと変身する。口からは強酸のブレスを吐き出し、儀式場に敷かれた汚れた絨毯らしきものをジュウジュウと焼き焦がしていく。
 迫りくる強酸のブレスをクラウスはダッシュで軌道の外へと避け、再び火炎弾を発射する。怪異の体に融合したクヴァリフの仔に被害が出ないように細心の注意を払ってはいるが、炎上している「さまよう眼球」の姿を見ていると「クヴァリフの仔」まで燃やしてしまわないか少々心配にはなるが、名の由来である眼球形態から牙並ぶ巨大な口へと変身した「さまよう眼球」は、今は攻撃も回復も受け付けない状態になっている。それでもクラウスが火炎弾を撃ち続けるのは、攻撃や回復といった干渉を無効化する状況を作り続けることだ。
 一つだけ懸念があるとするならば、怪異と融合状態にある「クヴァリフの仔」はその無効化の範囲内に入っているのかどうかということだったが――それでもクラウスはブレスを避け、或いは時にエネルギーのバリアを張って防御することによって、自身にダメージを受けないよう粘りながら、火炎弾を放つ。
 もう幾度目になるだろうか、クラウスからの「攻撃」を無効化した「さまよう眼球」は、不意にその肉体をびくりと振るわせると、儀式場の床に落下する。これこそが、クラウスが狙っていた瞬間。干渉を無効化し続けることで、「さまよう眼球」は自身の「生命力」を大量消費する。そして生命力枯渇の末に待っているのは、気絶だ。
 クラゲのように床に落ちた怪異から、クラウスはナイフで融合している「クヴァリフの仔」を切り取っていく。ぶよぶよとした感触は生理的嫌悪感を催すが、それだけだ。特にクラウスを刺してくることもない。バックパックの隙間に「クヴァリフの仔」を収納すると、クラウスはまた銃を握って振り返る。
 まだそこには、「さまよう眼球」たちが残っている。出来る限り彼らを倒し、「クヴァリフの仔」を回収するのが、今のクラウスが行うべき|任務《タスク》であった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

明星・暁子
アドリブ&野良連携歓迎
身長200㎝の鉄十字怪人モードで事に当たる。
「この目玉が、中ボスといったところか」
「ならば私が、能力者の手助けに入ろう」
SPDヒュージ・ファングに対応。
外部からのあらゆる干渉を無効化すると言うが、内部からならどうかな?
√能力《疾風怒濤》を起動。
3倍にブーストされた能力と、3倍にブーストされた「ダッシュ」「毒耐性」(技能です)で、
素早く巨大な口に突入。
私が身にまとう重甲の各所に仕込まれた爆薬炸薬を一斉起動して、内側から吹き飛ばす。
「まだまだ爆薬も炸薬もたっぷりあるぞ?」
戦闘継続。

 儀式場にうごめく怪異、「さまよう眼球」たち。無数の眼球と牙と肉で構成されたその怪異を認め、暁子は人としての擬態を止めにした。身長二百センチの鉄十字怪人の姿が露になる。
「この目玉が、中ボスといったところか――ならば私が、能力者の手助けに入ろう」
 突然現れた鉄の巨人に、さまよう眼球たちは警戒態勢をとる。そのうちの一体が攻撃それすなわち最大の防御と言わんばかりに√能力を発動させた。【ヒュージ・ファング】――眼球を主体とした姿から、無数の牙の生えた巨大な口の姿へと変身する。それは強酸のブレスを吐き、「攻撃・回復を問わない外部からのあらゆる干渉を完全無効化する」という特性を持つ。
「外部からのあらゆる干渉を断つ、か!ならば、「内部から」はどうだ!?」
 巨大な口となったさまよう眼球の、その|口の中《・・・》へと、鉄十字怪人は自ら飛び込んでいく。毒への耐性は持っている。これにより強酸のブレスを無効化し、自らの√能力【|疾風怒濤《シュトゥルム・ウント・ドラング》】によって三倍にブーストされた素早さで牙並ぶ口の中へと飛び込み、そして自身が身に纏う重甲の各所に仕込まれた爆薬、炸薬を一斉に起動させる。ドォォォン、と儀式場が揺れる。巨大な口は内側から爆発し、焼け焦げた怪異の中から鉄十字怪人が現れる。
「死ぬとどうなるのかわからないが、簡単に消えてはくれるなよ。融合している「クヴァリフの仔」は回収してほしいと星詠みが言っていたからな」
 そう言うと、息も絶え絶えのさまよう眼球からぶよぶよとした触手状の「クヴァリフの仔」を引きちぎる鉄十字怪人・暁子。力を増幅させていた触手を切り離され、怪異「さまよう眼球」はようやく息絶え、鉄十字怪人の鋼鉄の手の中で塵に帰って消えていった。
「ふむ、やはり死ぬと消えるか。だが、なまじ「クヴァリフの仔」と融合しているおかげか、この程度の爆発ならば瀕死で留まるようだ」
 暁子は鋼鉄の身を翻す。未だ、怪異たちはたくさんいるが――目の前で仲間が爆裂したことにか、「さまよう眼球」たちは少々及び腰だ。
「さあ、どうした? まだまだ爆薬も炸薬もこちらにはたっぷりとあるぞ?」
 口を開けないのなら、無理やりにでも口を開けたくなるようにしてやろう、と。暁子は【|疾風怒濤《シュトゥルム・ウント・ドラング》】の力で三倍に上昇したスピードと、そして|怪力《パワー》を用い、さまよう眼球たちに向かってゆくのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

岡本・五郎
「扱いきれぬ力は身を滅ぼす、か……」
怪異を召喚した者達を嘲笑う気はない
この√の人々にとっても、私達にとっても他人事ではないのだから
その上で、挑戦を諦めてはならない
なぜならそれが生きるという事だから

それは兎も角、彼らを無力化しなければ
必爆を彷徨う眼球と私の間で爆発させる
強酸性のブレスを爆風で吹き飛ばしながら、自分は爆風に逆らわず反対方向に吹き飛んで敵から距離を取る
敵方は微弱ダメージでも生命力を消費している
私の耐久力が3割を割り込むか、敵方の生命力が枯渇するか、どちらが早いかの勝負だ
うまくいくかわからなくても、まずやってみることが大事なのだ

勝ったら、気絶した敵から「クヴァリフの仔」を切り離そう

 儀式場の床や壁に染み付いた赤黒い汚れ。それを、この儀式場でうごめく怪異たちに殺された狂信者達の成れの果てであると認識したのは、五郎も同じであった。
「扱いきれぬ力は身を滅ぼす、か……」
 怪異を召喚した者達を嘲笑う気はない。この「√汎神解剖機関」において、「クヴァリフの仔」を人類延命のための|新物質《ニューパワー》として期待する汎神解剖機関やそれと同様の組織の人々にとっても、そして自分たちにとっても、これは他人事ではない。五郎はそう考える。
 けれど、その上で、五郎はこうも考える。「その上で、挑戦を諦めてはならない」――と。
 なぜなら、それが外星体・シャーマンズゴースト・ボマーたる五郎が、人間に見出した輝き、「生きる」ということだからだ。
(それはともかく、彼らを無力化しなければならないな……)
 既に怪異「さまよう眼球」は五郎を認め、捕食せんと√能力を起動させている。眼球と牙と肉で構成されていた肉体は、無数の牙をそなえた巨大な口へと変身している。他の√能力者たちが奮戦した結果か、今ここに残っているのはこの一体だけのようだ。
 五郎は手ずから作った球形の爆弾を怪異と自身の間で爆発させる。「さまよう眼球」が吐き出した強酸性のブレスを爆風で吹き飛ばしながら、自分自身は爆風に逆らわずに反対方向に飛び、「さまよう眼球」から距離を取る。
 爆弾の√能力【|必爆《フィニッシャー》】の威力は微弱だ。そして、怪異は自身の√能力により、既に外部からのあらゆる干渉を受け付けない状態になっている。すなわち、今の【|必爆《フィニッシャー》】の爆発はブレスを吹き飛ばすことにしか|表面的には《・・・・・》効果がなかったが――しかし、「さまよう眼球」のこの√能力には、穴がある。干渉を受けるたび、さまよう眼球そのものの生命力が枯渇する。それは【|必爆《フィニッシャー》】の微弱なダメージでも同じだ。
 五郎は「さまよう眼球」のブレス攻撃に対し、【|必爆《フィニッシャー》】を使い続ける。【|必爆《フィニッシャー》】の能力は、命中した者の耐久力が三割以下になっていれば、そのものは大爆発を起こして死亡するという効果がある。さまよう眼球は自身の√能力によって外部の干渉を受け付けないから、この場合、耐久力を試されているのは五郎の方だ。――すなわち、どちらも。「さまよう眼球」と五郎、どちらもが、自身の√能力に「自分自身が耐えきれるか」の勝負となった。五郎の耐久力が三割を割れば、五郎は自身の√能力によって爆死する。それより先に「さまよう眼球」の生命力が枯渇すれば、さまよう眼球は気絶する。どちらが早いかの勝負となった。
 五郎は思う。上手くいくかわからなくても、まずはやってみるのが大事なのだ、と。
 
 そして、五郎は――賭けに、勝った。
 【|必爆《フィニッシャー》】による干渉を受け続けて自らの生命力を枯渇させ、気絶した「さまよう眼球」から五郎は「クヴァリフの仔」を切り離す。能力を増強する触手によってその命を長らえさせていたのか、「クヴァリフの仔」が切り離されるなり怪異は塵のように消えてなくなった。
「さて、ではここから安全に脱出する道を探すとするか」
 出来れば井戸を上って帰る道よりも安全な道があればいいのだが。敵のいなくなった儀式場で、五郎はそう呟く。
 
 √能力者たちは、「クヴァリフの仔」回収任務に成功した。
 回収された「クヴァリフの仔」は汎神解剖機関へと運ばれ、|新物質《ニューパワー》になるかどうかの研究がおこなわれる。
 これが√汎神解剖機関の人類を延命する鍵となるのか、それとも害をなすものとなるのかはまだわからない。
 だが、きっと、彼らの行動は、無駄ではなかっただろう。
 それが証明されるのは、もう少し先の話だ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

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