シナリオ

フルメタル・インベーダー

#√ウォーゾーン #√EDEN

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ウォーゾーン
 #√EDEN

※あなたはタグを編集できません。

「わざわざ、私の店まで来て貰ってありがとう。それじゃ、早速本題に入るわね」
 店主と言うより給仕か小間使いの様な、√妖怪百鬼夜行においては随分とハイカラなミニスカ和装に身を包み。|玖珠葉《くすは》・テルヴァハルユ(年齢不詳の骨董小物屋・h02139)は会計卓の向こうに座して姿勢を正す。そうしていると、明るく気さくな人気店(寄り合い所的な意味で)の若店主から一転、星詠みとして相応の威厳が滲む。
 そう広くない店内に配した椅子に、集まった√能力者達に座って貰い。年齢の判然としない美貌の星詠みは、その内容を語り始めた。

「私が今回視えたのは、√EDENへの侵略者。勿論、インビジブルの掠奪が目的ね。対象は√ウォーゾーンの戦闘機械群よ」
 ウォーゾーン達は現在、人間の撲滅よりも身内の派閥争いの方に注力しているが。それはそれとして、資源や力の源は必要だという事なのだろう。略奪される側としては、迷惑極まる話だが。
「規模は決して大きくは無いけど……集団を形成する機体達と共に、指揮官機の姿も視えたわ。ウォーゾーンにおける|王権執行者《レガリアグレイド》の一体なんだけど、状況次第では此奴と交戦する事になるかも知れない。充分に気を付けてね」
 尤も奴自身は、人間の虐殺やインビジブルの確保より、派閥抗争や派閥内での地位争いにご執心らしい。が……それは脅威の低さには繋がらない。
 但し、戦意の低さには繋がるかもしれない。上手く奴さんの戦意を煽る事無く、モチベーションを低く保たせる事が出来れば。討伐も少しは楽になるだろう。

「まず最初に倒すべき相手は、『バトラクス』と呼ばれる量産型の戦闘機械群ね。固体性能はそう高くないけど、兎に角数が多いわ。数の暴力に呑まれない様に気をつけて」
 強いて固体特徴を挙げるなら、武装が完全に機体と一体化されており。無理に武装を外して略奪しようとしたら自爆して、略奪者を抹殺しようとする、その危険性位か。
「この尖兵とも言える戦闘機械群の殲滅具合で、先に触れた|王権執行者《レガリアグレイド》との戦闘が発生するか否かがが分かれるわ」
 緑髪の星詠みは、プレイングカード――俗に言うトランプを二枚、ハートのエースとスペードのキングを取り出し、卓の上に並べた。
「殲滅が順調なら、一時的に戦力の尽きたキング――指揮官の|王権執行者《レガリアグレイド》と戦う事に。尖兵が一定以上残存している様なら、|王権執行者《レガリアグレイド》は後方に位置したまま、増援の量産型戦闘機械群『ナイチンゲール』、ハートのエースを投入してくるから。此奴らを叩く事になるわね」
 『スペードのキング』と戦うか、或いは『ハートのエース』と戦うか。それを決めるのは現場に出る√能力者次第、という訳だ。成り行きに任せるも、事前に緻密に計画を練るも含め。判断は現場の皆に託されている。
 ひとつ確かなのは、どちらを選んでも『間違い』でも『失敗』でも無い、という事だ。前線に立つ√能力者達の選択だけが、唯一無二の『正解』なのである。臆せず選択して頂きたい。

「さて……そうやって身体を張って侵略者を退けた皆には、ちょっとしたご褒美があっても良いわよね?」
 両手を音高く打ち合わせ。打って変わって明るい笑顔で、年齢不詳の星詠みは気楽な声を上げる。不審げな表情を作る√能力者も居る中、玖珠葉は気にせず言を継いだ。
「ウォーゾーン達の侵略箇所の割と、比較的? 近くに。中華料理のチェーン店があるんだけど……実はそのお店、期間限定でランチバイキングをやってるの。制限時間付きだけど、食べ放題よ!」
 目をきらきらしく輝かせ、両手をガッツリ握って身を乗り出す。
「結構大きなお店だから、団体客もOKなの。お腹いっぱい食べて、英気を養って!」
 ちなみに、ウォーゾーン相手の祝勝会がメインだが……ここにだけ参加、というのも一応はアリらしい。
「私も行きたい。行きたいけど……丁度この日、お得意様に注文を受けた高級万年筆を届けないといけないのよ……!」
 ぐぬぬ、と唸りながら拳を握り締める、大食い乙女。
 星詠みの任務も大事。√能力者の使命も大事。そして生活の為の仕事も大事……という訳である。

「ともかく!」
 物凄い勢いで両手で卓をぶっ叩き、気を静めたらしい星詠みは居住まいを正す。既に台無しという感もあるが。
「戦闘機械群の侵略を退ける事は、√EDENと√ウォーゾーン双方に生きる人達を益する事になるわ。着実に侵略者を倒して……そして」
 両の瞳に強い光を湛え、玖珠葉は√能力者達を見つめ。
「そして……必ず、全員無事に帰ってきて。貴方達のAnkerの為にも」

マスターより

雅庵幽谷
 遅ればせながら、√EDENスタートおめでとうございます。私も本作品を盛り上げる一助となりますよう、努力させて頂きます。
 そして『初めまして』の方が大半でありましょう。本シナリオを担当させて頂きます、雅庵幽谷と申します。
 ここまでOPを読み進めて頂きまして、有り難う御座いました。
 以下、OPの纏め及び補足です。

●第一章
 集団敵相手の殲滅戦です。
 基本的にはガンガン戦って蹂躙していって頂ければ結構です。
 但し、此処での殲滅具合により、第二章で分岐が発生します。

●第二章
 A:ボス戦『統率官『ゼーロット』』
 B:集団敵『ナイチンゲール』
 第一章の戦果により、以上の二択に分岐します。
 詳しくはOPをご確認下さい。

●第三章
 ちょっとしたご褒美タイムです。舞台が飲食店ですので、過度にTPOから外れない限り、わりかし自由に飲み食べして頂いてOKです。旅団の仲間やお友達などと、ぷちパーティーを行うのも良いかも知れません。
 但し…昨今の飲食店内は概ね全面禁煙ですので、喫煙の類はご遠慮下さい。また未成年の飲酒も全面禁止です。

 それでは…皆様の素敵なプレイング、お待ちしております。
10

閉じる

マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を閉じて「読み物モード」にします。
よろしいですか?

第1章 集団戦 『バトラクス』


POW バトラクスキャノン
【爆破】属性の弾丸を射出する。着弾地点から半径レベルm内の敵には【砲弾】による通常の2倍ダメージを与え、味方には【戦闘情報の共有】による戦闘力強化を与える。
SPD 人間狂化爆弾
爆破地点から半径レベルm内の全員に「疑心暗鬼・凶暴化・虚言癖・正直病」からひとつ状態異常を与える【特殊化学兵器】を、同時にレベル個まで具現化できる。
WIZ スウィープマシーン
【機銃掃射】による牽制、【粘着弾】による捕縛、【突撃体当たり】による強撃の連続攻撃を与える。
イラスト V-7
√ウォーゾーン 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 某県某市・郊外にある建設予定現場。工事担当会社と土地権利者との間で諍いがあり、工事が開始される寸前で止まってしまったその場所に。今、多数の動くモノの気配があった。
 機械ではある。但しそれは、間違っても人間が扱うそれでは無い。自身で判断し、自身の意思によって動く自動機械。それも人間を、動く生命全てを虐殺する為に。
 彼らの名は『戦闘機械群ウォーゾーン』。様々な『資源』を奪う為に、√EDENを狙う簒奪者である。
 今、その尖兵たる『バトラクス』達が、重々しい足音を立てつつ、世界を越えて建設予定現場の敷地へ次々と現れた。隊列を整え、戦闘準備が完了すれば……向かうは街の中心部。
 そうなる前に、この場所で。連中を押し止めねばならない。
 幸い、それなりに大きな建設予定現場だけあって、足場や視界に不安は全く無い。精々幾ばくかの資材が、隅の方に積まれている程度である。そしてとりあえずは人目も、気にする必要は無いだろう。
 存分に戦い、鉄屑共を破壊し、撃ち倒せ。
逢沢・巡
連携、アドリブ大いに喜んで!

地面に足つけるタイプの地雷踏んでくれる敵さんで良かったぁ
数の暴力に対抗する1番の方法は数の暴力だし、自爆や爆発が売りなのは、君たちだけじゃ無いんだぞ〜!

主に地雷を設置して、ニコニコワクワクしてます!いっぱい踏んでね!
ワタシは少女人形なので、替えは沢山あるので、例え敵が攻撃してる最中でも、暇さえあればワタシ達はチョロチョロ動いて地雷を設置していきますよぉ
設置中ピンチになったら迷わず自爆します!

 他の猟兵と一緒に行動するなら地雷の場所を逐一報告します!
また、公序良俗に反する行動はしません。
起動しなかった地雷は回収していきます。

 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
空地・海人
「あんなのが暴れたら、街は滅茶苦茶だ!」
カメラ型のベルトバックルにルートフィルムを装填し、「現像!」の掛け声と共にフィルム・アクセプターポライズ √マスクド・ヒーローフォームに変身。閃光剣・ストロボフラッシャーで『バトラクス』部隊の全破壊を狙う!
「そんなもん、俺には届かないぜ!」
弾丸を回避しながら敵の中心部に突撃。
「片っ端からスクラップにしてやる!」
リズ・ダブルエックス
可能ならばキング狙いです。
ド派手に行きましょう。
敵勢力の排除を開始するであります!

アイテムの「レイン砲台」と「ファミリアセントリー」を展開。
自身の「ブローバック・ブラスター・ライフル」と合わせて遠距離からの殲滅戦を挑みます

【スウィープマシーン】対策
勝負所で【決戦気象兵器「レイン」】を発動します
敵機は牽制→捕縛という流れですが、私から独立したレイン砲台から繰り出されるレーザー光線の前では無意味です
私が障害に隠れて牽制をやりすごしている間も、なんであれば捕縛されてしまったとしても、反撃し続けます。
最後の突撃など、発動前にスクラップにしてやるであります!
ジバ・クスール
あたしらも数で。招集した12体のバックアップ素体、【少女分隊】で対応するよ。
なに擲弾特化のあたしらだ。やることは、|アップル《レイン手榴弾》を放り込んで爆破することのみ。
銃の様な、直線的攻撃じゃないからね。曲線を描く投擲、資材に隠れた手榴弾の時間差爆破で殲滅していくよ。
ちっ、粘着弾かい!捕まったら止む得ないね!相手の突撃に合わせて自爆しな。
まさか、このジバ・クスール様が自爆することになるとはね。
フィア・ディーナリン
貴方達に意思があるのかどうかは存じませんが
任務を忠実に遂行する姿勢には、少なからず共感出来るところもあります
……だからと言って、侵略を許すつもりは微塵もありませんが

個体性能が高くない相手なら、私の通常武装でも十分通用するでしょう
数を頼みにしてくるのであれば、極力まとめて始末したいところです
密集しているところにはグレネードを放り、孤立した個体はマシンピストルのバースト火力で着実に仕留めていきます
包囲されないように、常にこちらの有効射程範囲ギリギリを意識して
脚を止めず、駆け抜け、跳躍し、狙いも定めさせず
敵に特殊武装使用の兆候があれば、しっかりと機を制して安全圏へと退避、仕切り直しましょう

 某県某市郊外の、建設予定現場。その端の方に、√能力者達には視認できる、空間に唐突に存在している、裂け目の様な物。そこから次々と現れるのは、球体に銃器と四つ足をくっ付けた様な、おおよそ人間大の奇妙な機械。
 もし一般人が目撃したならば、我が目を疑う光景だろう。が、√能力者には事情が判然としている。これは、侵略だ。ここ√EDENとは異なる他世界、√ウォーゾーンからの。
 奴等は簒奪者『戦闘機械群ウォーゾーン』の尖兵たる『バトラクス』。人間のみならず、動く生命全てを虐殺する為の自動機械だ。この様な存在が、もし街中へ突入すれば……
「あんなのが暴れたら、街は滅茶苦茶だ!」
 空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)が熱く語る通り、街は阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。
 それを阻止する為、この場に集まった√能力者は五人。既にそれぞれに、戦う気構えは充分だ。
「地面に足つけるタイプの敵さんで良かったぁ。地雷踏んでくれるもんね~」
 『バトラクス』の群を見やって、嬉しそうに呟くのは、逢沢・巡(Landmineの少女人形 地雷原生成系女子・h01926)。普段からリュックサックに一杯の地雷を詰め込んでは方々で落っことし、無自覚に地雷原を生成してしまう(通常の埋設設置型の地雷であれば、落としただけなら拾えば済むのだが……大抵自分で踏んづけるまでがワンセットらしい)傍迷惑な娘だが、こういう場では頼もしい。自身のバックアップ素体十二体を招聘して、分隊で地雷をバラ撒くつもり満載である。
 そして同じく、自身のバックアップ素体を十二体招集し。数には数で対応を図るのは、ジバ・クスール(|M67《アップル手榴弾》の|少女人形《レプリノイド》・h02318)だ。少女人形とは言え、√ウォーゾーンの決戦気象兵器『レイン』の一種を搭載している為、その戦闘力は侮れない。
 『レイン』を搭載していると言えば、今一人の少女人形、リズ・ダブルエックス
(ReFake・h00646)もそうである。更に彼女は珍しい事に『ベルセルクマシン』を解析して生み出された少女人形であり、その希少性は他の少女人形とは一線を画す。尤も普段は、食べる。寝る。食う。ゴロゴロする。食す……といった風体ではあるが、こと戦場では頼もしい存在……の筈である。
 五人の内、三人が|少女人形《レプリノイド》という取り合わせの中。海人と今一人、√EDEN出身の人間であるフィア・ディーナリン(|忠実なる銃弾《トロイエクーゲル》・h01116)も、海人とは別の意味で戦い慣れている。裏社会から『こちら側』へ回帰はしたものの、今でも感情表現や自主性を抱く事が苦手ではあるが。戦闘の場でのナイフ捌きや手慣れた銃器の扱いは、仲間にとって心強いに違いない。
 そして海人は√EDENの出身ではあるが、同時にアクセプターの遣い手でもある。写真家を目指す彼のアクセプターもまた、カメラの形を摸したベルトだ。起動アイテムは、今や珍しいカメラフィルムの形状をした『ルートフィルム』。当然、巻き取り状態のカメラフィルムの形状をしているだけで。アクセプターへの装填時も、フィルム装填作業の全てが必要な訳では無いが……見る者によっては、懐かしい気分に浸れるかも知れない。
 ゆっくりと、しかし着実と歩みを進める『バトラクス』達の前に立ちはだかり、海人は声を張り上げる。
「行くぞ、皆!」
 同時に、カメラ型のバックルを前に倒す。バックルの裏側にフィルム挿入口が露出し、海人はそこへ基本のルートフィルムを装填する。バックルを閉じ、
「現像……!」
 変身のキーワードを唱え叫ぶと、海人の身体が閃光に包まれ。まるで写真の現像時の様に『ポライズ』としての姿が滲み出る様に現れて、海人の身体を覆った。変身完了。
 先陣を切って海人=ポライズが駆け、四人の女性陣がそれぞれの速度で後に続く。『バトラクス』が歩調を緩め、装備された大型の砲塔を√能力者達に向け、砲撃を開始。
 今ここに、街と√EDENとを護る為の『ささやかな戦闘』が始まった。

 砲撃を掻い潜りつつ敵群へ一気に迫る海人と、メイド服のスカートを翻しつつそれに続くフィア。少女人形の三人は、ひとまずは二人の少し後を三人並んで追従する。更に後に続くは、巡とジバのバックアップ素体、合計二十四体。それなりに大所帯であるが、『バトラクス』の群に比すれば、ささやかな物だ。
 まず最初に仕掛けたのは海人やフィアでは無く、擲弾に特化した能力を持つジバだった。
「数が相手なら、あたしらも数で。招聘したバックアップ素体と一緒に、投擲爆撃を仕掛けるよ!」
 宣言と共に自身のバックアップ素体と呼吸を合わせ、一斉に『アップル・グレネード』M67破片手榴弾に酷似した『レイン手榴弾』を生成して投擲。敵中に投げ込まれたレイン手榴弾は、爆発する代わりに周囲にレーザーをバラ撒く様に乱射して消滅する。レーザー一発毎の出力はそう高くないが、何条もの熱線に一度に貫かれたら、人間大の殺戮兵器と言えど無事ではいられない。隊列から櫛の歯が欠けた様に、各所で何機もの『バトラクス』が一度に擱座した。
「やりますね! それでは私もド派手に行きましょう。敵勢力の排除を開始するであります!」
 微妙に語尾を変化させながら、リズが感嘆と共に自身の『レイン砲台』並び『ファミリアセントリー』を起動、更に『ブローバック・ブラスター・ライフル』を構える。前衛に立つであろう二人を巻き込まぬ様、慎重に射線を算出し、全てのトリガーを一斉に落とす。
 幾条もの熱線が空を斬り裂き、数機の『バトラクス』に見事着弾。球形の装甲を溶解し、その内部まで焼き尽くした。

 仲間の支援射撃攻撃に巻き込まれるのを避ける為、突撃の速度を調整していた海人とフィアは、いつの間にか自分達に並ぶ人影、と言うより一群の姿を見出していた。
「数の暴力に対抗する、一番の方法は数の暴力だからね~」
 そう嘯きつつ、自身のバックアップ素体達を率いているのは巡だった。巡本人も、彼女が率いる分隊員も、地雷を満載したバックパックを担いでニコニコしている。物騒極まる戦場の只中で、その笑顔は如何にも場違いだったが、彼女達がそれを気にした風は微塵もない。
 そうこうしている間に、遂に前衛の三人が戦闘機械群の尖兵と接敵する。牽制の為の機銃掃射を、海人とフィアは身軽に、巡と分隊員は危うくも何とか回避。三人と十二体は、ジバとリズの援護を受けつつ、臆する事無く敵中へ突入していく。
「貴方達に意思があるのかどうかは存じませんが……」
 対車両用のグレネードとマシンピストルを両手に構えつつ、フィアは口中で呟く。
「任務を忠実に遂行する姿勢には、少なからず共感出来る所もあります」
 グレネードを三発纏めて放り、『バトラクス』の小集団を纏めて吹き飛ばし。
「……だからと言って、侵略を許すつもりは微塵もありませんが」
 否定の言葉と共に、眼前の機体へマシンピストルのバースト射撃を叩き込む。球体の装甲に弾かれぬ角度を精確に突いた、見事な射撃だった。内部機構を破壊され、当該機体は擱座する。
 それに一瞥をくれる事すら無く、フィアは次の標的へ視線を向け、再びグレネードを放る。常に周囲を観察して包囲される事無く、脚を止めずに時に駆け、時に跳躍して照準を絞らせない。更に自身の射程を意識して、極力その範囲ギリギリを立ち回る様に意識する。
戦場を立ち回る事に慣れた、熟練の業であった。
「やるなあ……」
 フィアの立ち回りを見て、思わず海人が感嘆の語を漏らす。彼は今、基本形態である『√マスクド・ヒーローフォーム』を取っており。特にパワーと跳躍力を強化している。専用武器『閃光剣・ストロボフラッシャー』を携えて立ち回り、目に付く機体を片端から叩き斬っているが……流石にフィアの円熟した立ち回りに比べると、幾分力任せの感はある。それでも『バトラクス』にとっては脅威に違いなく、機銃を掃射して牽制にかかって来た。しかし。
「そんなもん、俺には届かないぜ!」
 強化された跳躍力で華麗に躱し、海人は返す刀、もといストロボフラッシャーで相手を逆に斬り捨てる。更にその残骸を足場に大きく跳躍。未だ無傷の隊列の只中に着地するや、ストロボフラッシャーを鮮烈に舞わせて、周囲の戦闘機械群を纏めて鉄屑に変えてしまう。
「片っ端からスクラップにしてやる!」
 大見得を切ると、海人は次の隊列へと向かうべく。その身を宙へ投げ上げるのだった。
 二人が大立ち回りで『バトラクス』を鉄屑へ変貌させる中。巡とその分隊はニコニコワクワクと楽しげな表情を浮かべつつ、戦闘機械群の合間をチョロチョロ動き回り。地雷を設置して、と言うよりバラ撒いて回っていた。
「いっぱい踏んでね! 自爆や爆発が売りなのは、君たちだけじゃ無いんだぞ~!」
 笑顔をバラ撒きながら、地雷も一緒にバラ撒いて回る巡とその分隊達。その無作為というより無秩序な動きは、予想する事は困難であり……よって『設置型の兵器を眼前で撒く』という非常識な行動の割に、その戦果は意外と高かった。√能力のお陰で反応速度は常の半分になってしまっているが、移動力その物までが半分になる訳では無い。無邪気で無秩序なその行動に、戦闘機械群はすっかり翻弄されてしまっていた。今の所、自爆の必要は無さそうなのが有り難い。

 √能力者達の戦術と行動に、翻弄される形になってしまっていた『バトラクス』達であるが……彼らも単なる的になっていた訳では無い。彼ら五人の行動パターンは徐々に解析され、少しずつ秩序だった反攻を取り始めた。
 海人とフィアの二人と近接戦闘を行う幾つかの個体が、不意に榴弾発射筒を起動した。空気の抜ける様な音を立てて『人間狂化爆弾』が射出される。彼らを混乱させ、その足並を乱しにかかってきたのだろう。友軍を巻き込んででも、倒すべき脅威と判断した……という所か。
 幾つもの擲弾が海人とフィアの周囲で爆発し、特殊な化学物質を周囲に撒き散らす。咄嗟に海人は強化された跳躍力を以て、化学物質の散布範囲から逃れ出る。が……それを待っていたと言わんが如く、複数の機体からの一斉射撃が彼を襲う。
「ちぃい……っ!」
 条件反射的に防御姿勢を取り、ダメージを抑える海人。そこで不意に気付く事があった。
「あれ……フィアはどうした!?」
 まさか、化学物質の散布範囲に取り残されたか? そうも考えたが、幸いそれは杞憂だった。
「こちらですよ」
 呟く様に応じつつ、彼女が居るのは擲弾の効果範囲より更に少し離れた場所。そして擲弾を放った、正確には放とうとしていた内の一体であった個体は、マシンピストルの点射によって機能停止していた。
 【|機先の楔《カイル》】。フィアの扱う√能力のひとつである。彼女はこの能力によって、自身を攻撃しようとしていた対象に一瞬で接敵し、攻撃して仕留め。更にスタングレネードを放って場を擾乱し、その隙に間合いを取って仕切り直したのだ。
「やるねぇ……」
 感嘆の言を呟きつつ、着地と同時にストロボフラッシャーを振るい、擲弾を放ってきた『バトラクス』達を、纏めて斬り捨てる。フィアも再びグレネードを放ちつつ接近、マシンピストルで近接攻撃を再開した。マシンピストルはサイズの割に連射による反動が大きい為、連射時の精度にやや難がある。また装弾数も心許ない為、安定して戦果を出すには、ある程度標的と距離を詰める必要があった。
「うひゃっ!?」
 順調に地雷をバラ撒いていた巡の側にも、戦況に変化が生じていた。他の個体が翻弄され爆散させられている間に、別の個体は黙々とデータを収集し蓄積して、彼女とその分隊の行動を解析。少しずつその動きに追従できる様になってきたのだ。地雷によって少しずつ数を減じつつも、機銃によって牽制し、巡とその分隊達を分断し追い詰めようと迫る。
「そういう事なら~」
 が、彼女達の行動は、常軌を逸していた。迫る敵機にむしろ突撃して、あろう事かその機体に抱きついて――
「どっかーん☆」
 『バトラクス』諸共に自爆して、吹き飛んで果てた。
「「…………」」
 ほんの数瞬ながら、唖然とする海人とフィア。|少女人形《レプリノイド》が『そういう』存在だという事は知ってはいるし、バックアップ素体で幾らでも復活する事も分かってはいる。が……決して、至近で見ていて楽しい光景では無かった。もし√EDENの一般人が目にしていたら、軽くトラウマ物のワンシーンだったろう。

 そうして、前衛の圧力が僅かに減じたその間隙を縫って、後方へ抜けた個体が幾つかあった。連中は後方から支援攻撃を行っていたリズとジバの姿を認めると、機銃を掃射しつつ速度を上げる。
「ちぃっ! 抜けられたかい! こりゃあたしも、覚悟決めるしかないかねぇ!」
 後衛ポジションからでも、巡の自爆は見えていた。その光景を思い出し、ジバは眉をひそめていたが
「必要ありませんよ。さっきの手榴弾、私の攻撃に併せるであります!」
 決然としたリズの言葉に、僅かな笑みを浮かべて頷いてみせる。それを確認して、リズは【決戦気象兵器「レイン」】を起動。機銃で牽制しながら中々の高速で駆け寄ってくる戦闘機械群の中心部を励起点に指定し、その枷を解き放つ。
 決戦気象兵器は、その本領を遺憾なく発揮した。半径十五メートル範囲に凄まじい数の光条が奔り、その内部に居る多数の戦闘機械群を穴だらけにしてしまう。
 球状という装甲形状は被弾経始に優れ、見た目以上に防御力は高い。しかし鏡面処理でも施されていれば別だったろうが、化学エネルギーに対しては、そう高い耐性は無い。一発毎の出力はそう高くなくとも、全周囲から執拗に浴びせかけられれば、装甲を貫通されるのは道理であった。
 更に続けて、ジバのレイン手榴弾が連続して投じられる。√能力として最大限の効力を発揮した、今し方のリズの『レイン』に比すれば、効果範囲も威力も劣ってはいるが。それでも強力な武器には違いない。個々のレイン手榴弾が放つ無数のレーザーは本領の『レイン』と相乗して、更に多数の『バトラクス』を葬っていった。
「粘着弾や突撃など、発動前にスクラップにしてやるであります!」
「そりゃ良いねぇ! 捕まらなきゃ、自爆する必要も無いって訳だ!」
 高らかに笑いながら、ジバはレイン手榴弾と共に通常の『アップル・グレネード』を投擲し続け。リズはファミリアセントリーを再び展開して、手持ちのブローバック・ブラスター・ライフルと共に熱線を撃ち放っていく。
 この怒濤の斉射の前に、彼女達まで辿り着く事の出来た『バトラクス』は、一体も居なかった。

 大量の鉄屑で埋まった建設予定地に、今動く者は√能力者達だけだった。誰ともなしに吐いた溜息めいた物の僅かな呼気、その後に続いた『足音』に、四人は身構えたが
「あれー? もう終わっちゃった?」
 足音の主は、先程自爆して果てた筈の巡だった。流石に今は、自身の分隊は連れていない。
「復活早いな……」
 呆れたら良いのか、感心したら良いのか。感情の整理に迷いつつ、海人はぼやいてみせ。フィアは軽く肩を竦める。リズはそれが当然の事だと泰然と佇み、ジバは高らかに笑うのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』


POW マルチプライクラフター
自身のレベルに等しい「価値」を持つ【新兵装】を創造する。これの所有者は全ての技能が価値レベル上昇するが、技能を使う度に13%の確率で[新兵装]が消滅し、【爆発】によるダメージを受ける。
SPD スマッシュビーム
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【腹部から発射されるビーム光線】で300回攻撃する。
WIZ リモデリング・フィンガー
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【放電】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
イラスト V-7
√ウォーゾーン 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「何だこれは……どういう事だ!?」
 辺り一面、鉄屑が転がる開けた建設予定現場に、耳障りの宜しくない声が響く。どうやら新しい『お客様』らしい。一応は奴さんも|王権執行者《レガリアグレイド》の筈だが……正直な所、あまり威厳や威光の類は感じられない。第一声のどこか神経質めいた声や言葉も、その一因かも知れない。
「貴様らか! 貴様らの仕業か、生肉ども!?」
 ようやく気付いたか、気付いていても関心を抱いていなかったのか。奴さん――『統率官『ゼーロット』』が、やっと√能力者達の方を見やって喚き散らした。確かに間違ってはいないが……生きた人間を『生肉』扱いとは、随分な物言いである。尤もその言動で、人間、或いは生体活動を示す有機物には、興味が無い手合いだというのは分かる。
「生肉如きが、我の邪魔をするとはな……面倒だが、貴様らを駆逐でもしておかねば、この失点を取り返せぬ。仕方ないか……」
 どうやら『邪魔をされた』事よりも『失点を取り返す』事の方が大事らしい。明らかに気の乗らぬ様子ながら、戦闘態勢を取る『ゼーロット』。初めて放たれる『威』は、腐っても|王権執行者《レガリアグレイド》だという事を、嫌でも感じさせられる。
 遺憾ながら、強敵である。ゆめゆめ油断無き様、対処して頂きたい。
空地・海人
『失点を取り返す』ってことはノルマでもあるのか? 中間管理職は辛いな!
⋯⋯ってな感じで挑発してみるか。神経質そうだし、案外効くかも知れない。

それにしても、あのビーム厄介だな⋯⋯。
閃光剣・ストロボフラッシャーであいつの腹部を刺して、光のエネルギーを剣から解放すれば、ビームの暴発を狙えるかも⋯⋯!

√マスクド・ヒーローフォームのまま、跳躍してビームを避けながら近づく!
腹部にストロボフラッシャーを突き刺して、閃光剣、解放!
この一撃で、お前も|記憶《フィルム》に収める!
これでいけるか⋯⋯!?
ジバ・クスール
生肉とは言うじゃないか。なら散々特攻して、あたしら生肉の恐怖を刻んであげるよ。
初手自爆。放電を受けての「やったか!」と思わせての油断を誘ってもよし、先ずは特攻だね!。
あはは、これで|前提条件《自爆する》は整った。あたしの|記憶《魂》に刻まれた【ZⅠBーAKU】発動。
ちっ、厄介な|移動《入替》能力…だが、あたしに自縛までさせたんだ、今度は逃げられると思わないことだね!。(3倍になった移動速度で入替に対処。)
大破した姿でも尚元気に迫り続け、爆弾系統少女人形ならではの、大爆発をお見舞いするよ。何度だって、ね!。
※今回の√能力は死兵。大破しても尚、元気に迫り続けて恐怖を与えるオカルト寄り。
フィア・ディーナリン
貴方が彼らの主のようですが……あまり、主としての器を感じられませんね
彼らも主を選べなかったのなら、不幸な事です

利き手にナイフ、逆手にマシンピストルを握り、支援的な立ち回りをします
敵の注意が他に向いていれば死角から距離を詰め、装甲の薄そうな箇所をナイフで攻撃
私に注意が向けば距離を取り、機動力を活かして回避に専念しつつ敵の攻撃の隙に銃撃を差し込みます
そうやって敵の注意や味方の負担を分散させて、誰かが攻め崩されないようにします

とはいえ、それだけで終わるつもりもありません
敵がこちらに大技を仕掛ける瞬間を狙い、ナイフが届く敵の懐まで一気に詰めて攻撃態勢の腹部にナイフを突き立てます
さらに攪乱の為に敵の眼前で閃光手榴弾を炸裂させます
また、その瞬間に合わせて『武装転送』の能力も同時に使い、自身の視覚と聴覚は遠方の『武器庫』に繋いで自身への手榴弾の影響は回避します
間髪入れず、『武器庫』からアンチマテリアルライフルを手元に瞬時に取り寄せ、零距離で敵の腹部へと撃ち込みます
密着した状況なら相手も躱せないでしょう
リズ・ダブルエックス
相手を生肉と称して侮る。問題外であると言わざるをえません。
生肉がなければ、世の中から美味しい料理の多くが消えてしまいます!
生肉は凄いのであります!
あ、そういうことじゃ無さそうですね。

基本は引き続き射撃戦で対応します。
周囲に味方がいれば援護射撃を。

【リモデリング・フィンガー】対策
【少女分隊】を使って迎え撃ちます
散開して放電によって一網打尽にならず、且つ相互に援護射撃が可能な陣形を保持
誰かが放電を喰らっても、残った隊員が敵への攻撃を仕掛けます!
またアイテム「攻勢インビジブル」を放ちます。
これが交換対象に選ばれれば儲け物くらいですね。
また分隊員による捨て身の特攻も視野にいれます。基本ですね!
逢沢・巡
連携、アドリブ引き続き大いに喜んで!

生肉とは酷いよね!私達多分余り美味しくないと思うから、生肉に失礼だよ!焼肉食べたい!

威厳とか余り無いけど、一応さっきの奴らのボスだし、地雷踏んでくれるかな?不安だし、直接当てますかぁ

今回は地雷撒くのは退路を塞ぐ程度にし、主に近接戦で長い鉄棒の先端に対戦車地雷付けた「戦仗装」でぶん殴って爆発させてくよ!
と言っても味方を巻き込むのは、よろしくないので基本的には相手の攻撃を防御するのが主になるかなぁ。隙を見せたらニコニコしながら爆発させちゃうぞぉ〜!
素体は幾らでもあるから、やられたら巻き込み確認して自爆し、次の私が出撃するよ!順次投入ってやつですね!

「相手を生肉と称して侮る。問題外であると言わざるを得ません」
「そうだよ! 生肉とは酷いよね!」
 リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)の言葉に、逢沢・巡(Landmineの少女人形 地雷原生成系女子・h01926)が追従する。
「私達、多分あまり美味しくないと思うから。生肉に失礼だよ!」
「第一生肉が無ければ、世の中から美味しい料理の多くが消えてしまいます! 生肉は凄いのであります!」
「とりあえず焼肉食べたい!」
「生肉繋がりで、馬レバーや鳥刺しなども良さそうでありますな」
「誰が貴様らの活動源補給の話をしておるかぁっ!」
 ツッコミ不在のまま突き進み、遂には欲望が垂れ流しにされた現状に、漸く休止符が打たれた。あろう事か、敵である筈の『統率官『ゼーロット』』によってであるが。尚『食事』では無く『活動源の補給』と称した事から、少なくとも彼及び彼の派閥には『食事』という概念は存在しないか、一般的な概念で無い事が伺える。
「……あ、そういう事じゃ無さそうですね」
 些か残念そうに、リズが声のトーンを落とす。当たり前だと、この場の何人が考えたろうか。実は存外少ないかも知れない。
 仕切り直しという訳でも無かろうが、ジバ・クスール(|M67《アップル手榴弾》の|少女人形《レプリノイド》・h02318)が腕を組み、好戦的な表情と声で告げる。
「生肉とは言うじゃないか。ならあんたの魂に、あたしら『生肉』の恐怖を刻んであげるよ」
 その挑戦的な言葉と態度に、気圧される事無く『ゼーロット』はやり返す。
「フン。やれるか? 脆弱な生肉無勢に」
「やってみせるさ。お代はアンタの命だけどね」
 ここで、やや角度を変えて空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)が切り返した。
「そう言やさっき『失点を取り返す』なんて言ってたが……って事はノルマでもあるのか? 世知辛いこった。中間管理職は辛いな!」
 実の所、|王権執行者《レガリアグレイド》だという事は、中間管理職どころか将官クラスの地位にある存在の筈だが、海人は構わず憎まれ口を叩く。実際、侵略や略奪行為にまでノルマが存在するとしたならば、確かに世知辛いには違いない。
「愚か者め……誰かがやらねばならぬ事を、我が引き受けてやったというだけの事。責任分など無いわ!」
「その割には、随分と神経質に『鉄屑』の残骸を眺めていた様だがな」
 海人の指摘に、舌打ちの様な音を立てる『ゼーロット』。
「それは……貴様ら如き生肉相手に、想定以上に損害を出してしまった、その点だ!」
 案外と律儀に答える『統率官』であった。両の掌を上に向け、肩を竦める海人。
 大きく深く、溜息を吐く音がした。フィア・ディーナリン(|忠実なる銃弾《トロイエクーゲル》・h01116)の物である。感情表現が苦手な彼女にしては、随分と明瞭な表現方法だった。それだけ強く感情が動いたか、或いは別の意があるか。
「貴方が彼らの主の様ですが……あまり、主としての器を感じられませんね」
 過ぎる程に率直な言で、フィアは『統率官』をこき下ろす。更に相手が怒声や罵声を発する前に、畳み掛けた。
「彼らも主を選べなかったのなら、不幸な事です」
 『ゼーロット』が怒気で顔を朱泥色に染め上げなかったのは、彼にその機能が備わっていなかったからに過ぎない。重々しい金属音と派手な土煙とを立てて、片足で大きく地面を踏み鳴らすと、怒気と恥辱に塗れた声で、唸りを上げる。
「よく言った、脆弱な構造しか持たぬ生肉無勢が! 我ら、栄えある『戦闘機械群ウォーゾーン』が力。地獄の土産に見せてくれよう!」
 それこそ、精々が中級指揮官程度の手合いの台詞を吐きつつ。『統率官『ゼーロット』』は雄叫びを上げた。

「威厳とかあまり無いけど、一応さっきの奴らのボスだし。地雷踏んでくれるかな?」
 『ゼーロット』の怒りの咆吼を馬耳東風と聞き流し。巡はのんびりと、物騒な事を口にする。やはり敵の怒りを受け流し、応じたのは海人だ。
「まあ、腐っても|王権執行者《レガリアグレイド》だからなあ。よっぽど上手い置き方しない限り、ちょっと期待薄じゃないか?」
「んーそれじゃやっぱ不安だし。直接当てますかぁ」
 応じた声に、やはりのんびりと答えると。巡はおもむろに、長尺の奇妙な得物『戦仗装』を取り出してきた。それは大雑把に言えば、長尺の棒の先端に、対戦車地雷を重ねて貼り付けた様な構造をしている。巫山戯た代物に思えるが、実はこの手の『バンザイ特攻武器』、細かな構造こそ差違があるが、結構世界各地にあったりする。追い詰められた人間が考える事は、大体同じだという事だろう。
「さて……あたしは奴に、『生肉』の恐ろしさを教えてやらないといけないからねぇ」
 ジバが瞳に危険な光を宿しつつ、両手の指を鳴らすと。それで概ね彼女の狙いを悟ったのだろう。利き手にナイフ、逆手にマシンピストルを手に、フィアが音も無く一歩進み出た。
「ではまずは、私が前に出て撹乱しましょう。ジバさんは、ご存分に」
「俺も付き合うよ。精々派手に立ち回ってやるさ」
 『閃光剣・ストロボフラッシャー』を手に、海人も名乗り出る。
「コレ当てるには、ワタシもあいつの真正面に行かないとなんだよねぇ」
 あくまでのんびりと、巡も続き。
「それじゃ私は、少し後方から射撃で援護するであります」
 いつの間にか揃っていた十二体のバックアップ素体と共に、リズが請け負う。
 とりあえずの陣形が、これで整った。

「分隊、散開!」
 リズの飛ばした号令が、実質的な戦闘開始の合図となった。十二体のバックアップ素体が、互いに支援可能且つ纏めて『処理』されぬ様、適度に距離を置いて位置取り。『ブローバック・ブラスター・ライフル』と『ファミリアセントリー』を展開して援護射撃を開始した。
 密度の高い援護射撃に、『ゼーロット』は僅かに唸りつつ新兵装を創造。半自律型の浮遊砲台を複数内蔵した、大ぶりの楯を創り出し、リズの射撃に対抗する。が、楯の分だけ視界が狭まり、海人とフィアの接近を許してしまう。
 自身で創造した装備を纏っている為、各技能の精度も高まっており。更に創造した浮遊砲台で手数も揃っているが……流石に自身の処理能力まで高まる訳では無い。|王権執行者《レガリアグレイド》とは言え、必ずしも戦闘向きの個体では無い『ゼーロット』は、戦い慣れた√能力者達の戦術に、徐々に押され始めていた。

 リズの援護射撃に背を押され。ジバと巡の道を拓く為、海人とフィアは一気に駆ける。創造された浮遊砲台が近づいてくれば、海人のストロボフラッシャーが両断し、その隙にフィアは『ゼーロット』に肉薄。装甲の継目や関節などを狙い、ナイフを閃かせて内部へ損傷を与える。
 彼女へ攻撃が向けば間合いを取って仕切り直し、機動力を活かして攻撃を回避しつつ。迎撃に隙が生まれればマシンピストルで銃撃を叩き込んで、『ゼーロット』のリソースを更に圧迫していく。
 海人はフィア程の手数を持たないが、ストロボフラッシャーの一閃はフィアの得物より一撃のダメージが大きい。迂闊に装甲の厚い箇所を叩いたりせねば、充分にダメージを与える事は可能だった。
 無論『ゼーロット』も、単なるサンドバックに甘んじている訳では無い。浮遊砲台で間断なく砲撃を加え、回避させる事で二人のリソースに負荷を掛け、隙を作ろうと奮戦している。更に腹部ビーム砲をチャージして、いつでも発射できる様に身構えていた。そして海人とフィアが偶然、同一の場所に着地した、その一瞬を狙い……必殺のビームを、撃ち放つ!
 腹部の発射口から放たれたビームは、ある空間座標に達すると、無数に枝分かれして一定の空間を飽和させるかの如く乱舞した。海人とフィアが、もし着地した後に数秒でもその場に居座り続けていたら、無数のビームに貫かれていた事、疑いない。
 が、二人はその様な間抜けでも、お人好しでも無かった。
「……させません」
 フィアは『バトラクス』戦でも使用した【|機先の楔《カイル》】を起動。手にしたナイフの間合いまで一気に空間を跳躍して『ゼーロット』の懐に潜り込む。ナイフを相手の腹部に突き立て、深々と抉り混む。当然『戦闘機械群』にとって、それ程の傷にはならないが……むしろこの行為には『ナイフを握っていた手を白手にする』事に意味がある。続けて彼女はスタングレネードを『統率官』の目に向かって放った。この様な至近距離では、投げた方も被害を受けて当然なのだが――その対策も用意してある。
「彼方より此方に――」
 呟くと同時、視覚と聴覚を彼方に用意済の『武器庫』へ跳躍させ、閃光手榴弾の影響から逃がして自滅を逃れる。更に『武器庫』内の『アンチマテリアルライフル』を掴み取り、此方側へ持ち出し召喚する。
 その銃口を、ナイフの突き立った腹部へ押しつけ……
「この密着した状態なら、躱す事も出来ないでしょう?」
 遠慮呵責無く、トリガーを落とした。轟音と共に発砲、大口径の質量弾が零距離で叩き込まれる。本来なら長大で重い為に取り回しが悪い上、装弾数も少ない対物ライフルを、この様な白兵戦の距離で使う事など言語道断であるが……一発きりの使い捨てで必殺を期するなら、無茶ではあるが『無し』とは必ずしも言えない。尤も代償として、対物ライフルの銃身は銃口部を中心にひしゃげ、銃身を交換するまで鉄屑同然となってしまったが、致し方ない。
無茶を通したお陰で、『ゼーロット』の腹部ビーム発射口を閉鎖する堅牢な装甲は完全に破壊され。ビームの励起体が剥き出しになった。重大な弱点を露出した事になる。
 代償を払って『√能力の連撃』を可能にしたフィアの、自己の能力を重ね合わせた連続攻撃は、見事に功を奏した。
 しかもまだ、攻撃は終わった訳では無かった。
「ったく。さっきのビームは厄介だな……」
 全力での大跳躍から着地して、海人は独りごちる。その身体の各所には、拡散ビームで穿たれた痕が生々しく残っていた。乱舞するビームの影響範囲から逃れ出るまでに被弾した分のダメージである。√能力者の中でも練達の部類に入る海人ですら、ビームの乱舞は√能力無しでは避けきれなかったのだ。だがまだ身体は動く。ならばまだ、出来る事はある!
「ぐぅぅぅうっ……」
 フィアの√能力による二連撃を受け、さしもの|王権執行者《レガリアグレイド》も一時的に怯んでいる様だ。重要な攻撃の起点でもあり、ともすれば弱点でもある励起部が露出させられたのは、相当に痛かったに違いない。
 パワーと跳躍力を高める【√マスクド・ヒーローフォーム】のまま、改めて『閃光剣・ストロボフラッシャー』を構える海人。身体を低く腰だめに構えて、彼はそのまま全力で、一気に『前方へ跳躍』した。√マスクド・ヒーローフォームはスピードや機動力を高める事は出来ないが、跳躍力を速度に転化する事で、細やかな機動を必要としない大雑把な移動であれば、スピードタイプのフォームとそう遜色ない速度を出す事が出来る。前方に跳躍しての突進など、その最たる物だ。
 海人の『突撃』に勘付いて、『ゼーロット』は露出したままの励起部から、再びビームを放とうとチャージを開始する。威力を犠牲にしてでも発射速度を優先し、ひとまず海人を遠ざける事が目的なのだろう。先程よりも遙かにエネルギーのチャージ速度が早い。
(「間に合うか……!?」)
 海人の心中に、一瞬疑念が過る。が、どの道回避は間に合うまい。ならば話は、間に合うか否かではない。
 必ず、間に合わせる!
「この一撃で、お前も|記憶《フィルム》に収める!」
「うおおぉぉおっ!!」
 期せずして、海人と『ゼーロット』の雄叫びが交差し。双方が閃光に包まれる。続けて閃光を中心に衝撃波が発生し、刹那の間に戦場を駆け抜けた。
 衝撃波の後を追う様に閃光が収まり、その中心にある光景は。
 ストロボフラッシャーのエネルギーと『ゼーロット』の放とうとしたビームのエネルギーが、反発しつつ爆発して拡散し、その余波で吹き飛ばされた海人と。ビーム発射口の励起部を、完全に砕かれ破壊され。大きく負傷した『ゼーロット』の姿だった。

 三人の奮戦を受けて、火線を掻い潜ったジバと巡の二人。お陰で大した損傷も無く間合いを詰める事に成功した。まず振るわれたのは、猛速で『ゼーロット』に駆け寄る巡の戦仗装。
「衝撃与えれば、地雷って爆発するんですよ?」
 言わずもがなの事柄をあえて口にして『攻撃を宣言』し、更に防具をパージして着衣のみとなる。そして浮遊砲台の砲撃を、戦仗装の柄で受け止め弾く。今、巡が位置するのは『ゼーロット』の真正面。
 小細工抜きで、巡は真っ向から戦仗装を振り下ろす。
「そーれ、どっかーん☆」
「舐めるなあ!」
 戦場において、むしろ異様と言える程の陽性のハイテンションで振るわれた戦仗装を、楯を割り込ませて受け止めようとする『統率官』だったが……彼は遺憾ながら、ここで|不運《ハードラック》とチークダンスを踊る羽目になった。構造的には限界など遙か先にある筈なのに、楯は呆気なくひしゃげ。更に爆発して『ゼーロット』自身を負傷させたのだ。
「莫迦なぁあっ!!」
「残念だったねーっ!」
そして当然、戦仗装の一撃も漏れなく付いてくる。その単なる対戦車地雷とは思えぬ程の凄まじい大爆発に、傷だらけの『ゼーロット』はたたらを踏んで膝を付いてしまった。ついでにその爆発は巡自身も巻き込み、自爆同然で吹き飛ばしてしまったが……それは巡にとっては、想定内である。
 爆炎と衝撃波とが収まった後。そこには自身で起こした爆発で、実質自爆してしまった巡は、姿形も残されては居なかったが……代わりに凶暴な笑みを浮かべたジバが居た。
「生肉の恐怖……まずは前菜だ!」
 言い終えるが否や、更に巻き起こる爆発。ジバによる、小細工無しの自爆である。当然『ゼーロット』も容赦なく巻き込んだ。
「くっ……一度ならず二度までも、巫山戯た真似を……!」
 爆炎に身を焼かれつつ、『ゼーロット』は咄嗟に目視したインビジブルと空間座標を交換して跳躍。そうして改めてジバを見やり……|王権執行者《レガリアグレイド》ともあろう者が、内心で戦慄を禁じ得ないでいた。

「あはは! これで|前提条件《自爆する》は整った。あたしの|記憶《魂》に刻まれた【|ZⅠBーAKU《ゾディアックワンビースト・アリエスカルマユニット》】――発動」
 自爆した凄惨な姿で、更に『地縛の鎖』で身を縛りつつ。ジバは哄笑していた。
 全身が傷だらけなのは無論の事、右腕は二の腕の途中から喪っており。左腕は肘から下は、幾つかの筋繊維によって辛うじてぶら下がっている状態だ。左脚は傷だらけなものの、機能自体に問題は無さそうだが……問題は右脚だ。筋肉は断裂していない様だが、しかし下腿部の骨は双方共に折れ、支柱としての骨格の役割を果たしていない。にも関わらず、ジバはその脚で『ゼーロット』へ向かい、歩くのだ。一歩毎に名状し難い異音を発しながら、グズグズと折れた箇所を僅かずつ体重で潰しながら。しかし、確固たる意思を以て。
 ――例えその瞳が光を失っても、両の|腕《かいな》をもがれても。決して歩みを止める事の無い、|亡霊兵士《ゲシュペンスト・イェーガー》。正にその言葉の体現と言える姿であった。
 ある意味、動く死体より凄惨なジバが近寄ってくる光景に。『ゼーロット』は再び【リモデリング・フィンガー】を起動して、空間転移を試みようとし……自身の失策を悟る。
 先程咄嗟に転移してきた空間座標。そこは丁度、リズの分隊の|十字火線地点《クロスファイア・ポイント》だったのだ。ジバの姿に慄いた末、彼女から距離を取る事に思考を占有されてしまい。咄嗟に転移先の状況を確認しなかった『統率官』の迂闊であった。
 臍を噛みつつ、刹那に周囲を再確認して……『ゼーロット』はまたしても戦慄する。
 全身ボロボロで、特に脚など歩けるだけで奇跡に近いというのに。その状態で、ジバは最初に見せた移動速度を遙かに超えた速度で、迫ってきたのである。形振り構わず、今度こそ空間転移を行おうとした『ゼーロット』に、容赦なく突き刺さる熱線の雨。更にジバを見習った訳でも無かろうが、リズの分隊の半数以上が『統率官』に捨て身の特攻を仕掛け、彼に取り付いた。視界を塞がれ、空間転移の前提条件を覆されて【リモデリング・フィンガー】の起動に失敗する『ゼーロット』を、一際強い衝撃が襲う。
 遂に『ゼーロット』の元まで辿り着いたジバが、移動速度はそのままに体当たり宜しく追突したのである。むしろ快活な笑みを浮かべて、彼女は朗々と告げる。
「さあ……爆弾系統少女人形ならではの、大爆発をお見舞いしてあげるよ!」
「私『達』もです!」
 『統率官』に取り付いた、リズのバックアップ素体達も唱和する。
「く……このっ! この様な戦い……巫山戯るなあ……っ!」
 自身の自爆前提の戦い方に、怒り慄いて藻掻く『ゼーロット』だったが、少女達は貼り付いたかの様に一体たりとて剥がされる素振りすら無い。
「『生肉』の力と覚悟、受け取りなっ!」
 ジバの啖呵と共に、一斉に自爆する|少女人形《レプリノイド》達。特に√能力を合算したジバの爆発は、威力・範囲共にリズの分隊員達の三倍に及んだ。先程までに受け続けた負傷の上に、この執拗なまでの零距離多重爆破。さしもの|王権執行者《レガリアグレイド》と言えど、耐えられる物では無く。
 遠吠えの様な絶叫を絶鳴の代理として、『統率官『ゼーロット』』は千々に吹き飛んで果てたのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 日常 『食べ放題に行こう』


POW お腹いっぱいになるまで存分に食べる
SPD コスパのいい食べ方を実践する
WIZ 心行くまで好物を食べまくる
√EDEN 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 某県某市の繁華街にある、大型店舗。全国的に展開しているファミリーレストランチェーンの系列店が、そこに入っていた。中華料理をメインに取り扱っているが、スープやサラダ、デザート類の一部に洋食のメニューも散見できる。
 折しも本日は、当店舗は期間限定のランチバイキングを実施中。√能力者達が入店したそのタイミングで、食べ放題が開始される。
 一応は先程の戦いの、祝勝会と慰労会であるが……この機に仲間や友人達と連れ立って、親睦を深めるのも良いだろう。
 誰の計らいかは不明だが、支払いは既に済んでいる。制限時間一杯まで、存分に食べて飲んで、マナー良く楽しんでいって貰いたい。
フィア・ディーナリン
今回の「仕事」は終わったわけですが……折角の機会ですし、食事も頂いて行きましょうか
私のような使用人、場違いでなければ良いのですが

あまり食事に拘りは無いので、目に付いたものを適当に見繕いましょう
後は、頂きながら今日の戦闘の反省会でも
戦いの場面を反芻しながら、判断は適切だったか、行動に過不足は無かったか、検証を
……あ、この酢豚は美味しいですね
他の方々の能力や戦い方にも、驚かされる事や学ぶべきところも多く
……この杏仁豆腐もなかなか

ああ、気が付けば、いつの間にか全部頂いてしまったようです
食べ放題とのことですが、私にはこれくらいが適量でしょう
ご馳走様でした……充実したひと時だったように思います、色々と
空地・海人
よぉ〜し、折角の機会だし、お腹いっぱいになるまで存分に食うぞ! 
まずは豚の角煮にレバニラ炒め! ⋯⋯と言いたいところだけど、『生肉』がどうとかの話を聞いて⋯⋯何度も自爆を見て⋯⋯の後だと、肉系料理への食指が動かないな⋯⋯。
しょうがない、海鮮系食べよ⋯⋯。エビチリ好きだし。

ま、それはそれとして、祝勝会で慰労会なんだから、ちゃんと盛り上げないとな!

※アドリブ、絡み歓迎です
リズ・ダブルエックス
【POW】お腹いっぱいになるまで存分に食べる

お肉が食べたい気分です。
明らかに生肉、生肉と連呼していたさっきの敵のせいですね。
この思考誘導能力だけは認めないでもありません。
改めて考えると恐ろしい敵でした。

ランチバイキングでは肉料理を中心に食べます。あ、デザートは別腹ですよ!
戦った後のご飯は美味しくて最高ですね。
まぁ何もせずに食べるご飯も最高なんですが。

(大食い技能を生かしてどんどん食べます。具体的に何を食べたかはお任せします。なお自爆攻撃を目撃した直後ですが食欲への影響は全くありません)
「おいふぃーでふ(美味しいです)」
ジバ・クスール
ふぅ、|記憶《魂》の転送よし…と。(バックアップ素体に切り替えて)
さてとアツアツの小籠包。レンゲに小籠包を入れてちょいと破ってと。
んー!今度は、生姜や黒酢を入れて食べるのもイイね。蟹やチーズ入りの小籠包も良さそうだ。なあ、お前さんもそう思わないかい?(虚空に向かって語らう、ソレは降霊の祈り【ゴーストトーク】)
折角だ、お前さんのオススメを。なに、ここのところ良く食べられてる|目撃情報《人気メニュー》でもいいさ。一緒に楽しもうじゃないか。(生前の姿に変えた、インビジブルも巻き込んでランチを楽しみます)
逢沢・巡
アドリブ等大いに喜んで!

なんか知らないけど、めちゃくちゃ焼肉食べたいし、いっぱい食べますよぉ

焼肉をベースに、ラーメンやチャーハン、お酒までしっかり頂きますよぉ
どんなに私達が替えのきく使い捨ての命だったとしても、食事の時くらい幸せを成就したいじゃないですか
っと言うもっともな理由付けて、支払いの事は気にしなくて良いらしいので、沢山食べて飲みますよぉ〜
時間あるけど、もうお腹いっぱい?幸せいっぱい?素体のおかわりならいくらでもいるんで、まだまだ幸せいっぱいになりましょ〜!
私の酒が呑めないのかぁ!
って言う茶番を自分にやって潰してみたいですね
帰りに呑み潰れた人や食い倒れた人が居るなら私達が肩を貸しますよぉ

 某県某市の繁華街、某ファミリーレストランの系列店である中華料理店。
 今回集まった√能力者達は、その出入口付近で改めて待ち合わせた。
 理由は単純で、戦闘の現場から直接ここまで来られるメンバーが、五人中二人しか居なかったからだ。残る三人は悉く、先程の戦いで自爆してしまい。そのバックアップ素体を用いて復活するまで、僅かばかり時間が必要だったからである。
 若干手持ち無沙汰で待ち人をする誠実そうな青年と、無感動な表情のメイド服を纏った少女の組合せは、中々に人目を惹く。声をかけてくる程の物好きも居ない為、余計な面倒が量産される事も無かったが。平時は普通の青年である空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)にとっては、メイド服姿の少女と自分との取り合わせは、僅かばかりではあるが居心地が悪い。より奇抜な服装の者も少なくない√能力者の中では、むしろ大人しい部類の装束ではあるが……それはそれという奴だ。
 尤も、この状況に違和感を感じているのは、メイド服の少女――フィア・ディーナリン(|忠実なる銃弾《トロイエクーゲル》・h01116)も同様らしい。人気が一時的に引いた機会を伺って、隣の海人へポツリと溢した。
「今回の『仕事』は終わった訳ですが……折角の機会ですので、食事も頂いていく事にしたのですが。私の様な使用人、場違いではないでしょうか……?」
「うーん……気にしないで良いんじゃないか? 今日のは祝勝会で慰労会なんだから、俺達みんな主役みたいな物なんだし」
 『ポライズ』に変身中の時より、僅かに柔らかな口調で海人は返す。実際、基本的には√EDENの一般的な日本人感覚の所有者である海人には『一般人』と『使用人』の境界自体が曖昧だ。よって隔意の類も持ち合わせておらず、要するに自分と彼女との差違など何処にも存在しない。
「そういう物、なのでしょうか……?」
「多分ね」
 故に、フィアの重ねた問いにも、気負う所など全く無しに応じるのだった。

「や、待たせたね。ちょっと|記憶《魂》の転送具合が良くなくてさ。少しだけバックアップ素体の起動に時間がかかっちまった」
 √EDENのTPOに併せて、ややラフな服装に身を包んだ、ジバ・クスール(|M67《アップル手榴弾》の|少女人形《レプリノイド》・h02318)が気軽な口調で二人に声をかける。言葉の内容は口調程に軽くは無かったが、それを気にする者は此処には居ない。
「ようやく食事の時間ですね。今日はお腹いっぱい食べるのです」
「なんかよく分かりませんが、滅茶苦茶焼肉食べたいので。いっぱい食べますよぉ」
 ジバと同じくTPOに従い、カジュアルな装いのリズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)と、シックなロングスカートのワンピース姿の逢沢・巡(散歩好きなLandmine・h01926)も、食欲全開でスタンバイしている。二人共、食糧事情の劣悪な√ウォーゾーン由来の|少女人形《レプリノイド》であるからだろうか。あまり関係無いかも知れない。
(「肉。肉なあ……」)
 その会話を聞きながら、海人はやや微妙な表情になる。彼も当初は、豚の角煮やレバニラ炒めなど、肉満載の食事を想定していたのだが……敵からは『生肉』がどうのと連呼され、仲間は幾度も何人も特攻自爆して……という様を見た直後だと。どうも肉料理への食指が動かなくなってしまったのだ。ただそれを口にしないだけの分別も弁えている。
「ま、とりあえず中に入ろう。ここで話してるだけじゃ何だしな」
 その内心を巧みに包み隠し、海人は共に戦った仲間達を、店内へ誘った。

(「で……祝勝会で慰労会なんだから。ちゃんと盛り上げないと……なんて考えてた訳なんだが」)
 席に着いたテーブル席で、飲み物を口にしながら海人は心中で独りごちる。
 何となしに予想していた流れでは、それぞれが食べたい物を適宜取り分けつつも、一応は集まり的な物になるかと思っていたのだが。実際には皆、海人の予想以上に|自由《フリーダム》にフラフラ動き回り、席に着いているのは食事している間のみ……というメンバーの方が多かった。これでは流石に、祝勝会どころでは無い。
 無いのだが……各々がそれなりに愉しんでいるのなら、形式に拘る必要も大して無い。そう考え、海人も自分の食べたい物を取り分けに、席を立つ事にした。
 一方で当の、自由気ままに席を立つ人達は。
「お肉です。お肉が食べたい気分です。明らかに『生肉生肉』と連呼していた、さっきの敵のせいですね」
 自身の食欲を思い切り他人に責任転嫁しながら、リズは肉料理をドカドカ取り皿に取る。皿の上は最早、食べ盛りの中高生男子も驚きの、真っ茶色で染まっている。鶏や豚の唐揚げに始まり、焼豚や煮豚、蒸し鶏、回鍋肉や青椒肉絲の肉部分だけ選り分けた物などなど。清々しいまでに、肉のみが選び抜かれた皿である。野菜は無論の事、米や小麦粉の生地すら乗っていない。
「この思考誘導能力だけは認めないでもありません。改めて考えると恐ろしい敵でした」
 本気か韜晦か、飄々と嘯くリズであった。
 尤も、更に突き抜けた取り皿が存在した。焼肉、正確には中華風の焼肉のみが、山と盛られた皿があったのだ。巡の手にした取り皿がそれである。焼肉と言っても日本風のそれでは無く、しっかりと下味を付けてから焼かれた肉なのだが。幸いな事に巡にとって、その程度の差違は問題では無いらしい。
 しかもいつの間にか、彼女のバックアップ素体が十二体、思うがまま店内で飲食している。別に数多くの自身のバックアップ素体が腹を満たしたからと言って、その分だけ満腹感と幸福感を得られる訳では無いのだが……その辺りは、気の持ち様といった所の様だ。
 実際、他の個体はラーメンや炒飯、餃子や中華まん、紹興酒などと、現在の『本体』よりもバリエーション豊かなメニューを愉しんでいる。
「どんなに私達が替えの利く、使い捨ての命だったとしても。食事の時くらい幸せを成就したいじゃないですか」
 本音か諧謔か、大量の肉を頬張りつつ、誰にともなしに呟く巡である。

 他方では、早々に好物を確保して。席に着いてゆっくりと味わう者も居た。ジバもその一人である。
「さーて、このアツアツの小籠包。レンゲに入れて、ちょいと破ってと……」
 彼女が箸を使って皮を傷付けると、そこからジワリと中のスープが漏れ出でて。レンゲの中に溜まっていく。少し息を吹きかけて冷まし、レンゲごと一気に口の中へ。
「んー…!」
 満足と愉悦の声を漏らすジバ。
「今度は、生姜や黒酢を入れて食べるのもイイね。蟹やチーズ入りの小籠包も良さそうだ」
 色々と目移りしながら計画を練り、そして全くの唐突に、視線を虚空に向け
「なあ、お前さんもそう思わないかい?」
 誰も居ない筈の場所へ向かい、語りかけた。虚空に向かって語らう、ソレは降霊の祈り【ゴーストトーク】。インビジブルを生前の姿に変え、更に知性を与えて会話を可能にする√能力だ。今は同行者達がいる以上、話し相手自体には困らない筈だが。ジバにとってはインビジブルもまた、共に語らい交流する対象なのであった。
 同行している四人とも話をしつつ、彼女は生前の姿を取ったインビジブルとも語らい続ける。
「折角だ、お前さんのオススメを。なに、ここのところ良く食べられてる|目撃情報《人気メニュー》でもいいさ。一緒に楽しもうじゃないか」
 生前の姿を取ったとは言え、流石に食事を摂る事はインビジブルには出来ないが。彼、或いは彼女も話の輪の中に加え、歓談しながら。ジバはランチを愉しむのだった。

「ま、こんな所かな」
 呟きつつ海人は席に戻る。取り皿の上にはエビチリと香辛料を利かせた白身魚の唐揚げ、小魚の南蛮漬けに、茶碗には海鮮物の中華餡を乗せた中華丼。見事なまでに海鮮尽くしだった。別にそこまで意識して海鮮物ばかり選んだ訳でも無かったが、なるべく肉類を避けていたら、こうなった次第である。
 尤も、自爆攻撃を行った当の本人達は、委細気にする事無く大量の肉を平らげている訳で。自分が繊細すぎるのか、彼女達の神経が太すぎるのか、中々に悩ましい所だ。
 箸を手に取って、食事を開始した所で。ふと正面のフィアの様子が目に入った。それ程に食事に拘りは無いからと、適当に目に付いた物を取り分けてきたらしいが……その中には酢豚や餡かけの肉団子など、肉料理もしっかり混じっている。やはり自分は気にしすぎなのかと密かに悩む海人に気付く事無く、フィアは淡々と料理を口に運ぶ。
 否。一見そう見えただけで、実際には食事を摂りながら、何やら様々に考え事をしている様であった。
「あの戦い。判断は適切だったか、行動に過不足は無かったか。検証を……
 ……あ、この酢豚は美味しいですね」
 と。様々に、考え事を――
「他の方々の能力や戦い方にも。驚かされる事や、学ぶべきところも多く……
 ……この杏仁豆腐も、なかなか」
 ――しているにしても。どうやら今ひとつ食欲の勢力が強く。集中できているかは微妙な所の様である。
 考えてみれば、今回集まった√能力者の中では、フィアは最年少だ。少しくらい微笑ましい一面があったとしても、別に罰など当たるまい。海人はこれ以上、気にする事を止め。自身の食事に集中する事にした。

 既に何往復したか、数えるのも馬鹿馬鹿しい程の回数をお代わりしたリズだが、食事のペースは一向に衰えない。精々が、茶色一辺倒だった皿に、時折別の色が皿を彩る様になった程度か。
「戦った後のご飯は美味しくて最高ですね。まぁ何もせずに食べるご飯も最高なんですが」
 彼女とて、戦いの中で仲間の自爆攻撃を目撃し、何なら自身も自爆攻撃を行った訳ではあるが……その様な事、彼女にとっては些事ですら無い様で。肉の塊を口いっぱいに頬張っている。
「おいふぃーでふ(美味しいです)」
 少なくとも今この時、リズは幸せいっぱいであった。

 一方で、巡とその分隊員の方では、ほんの少しばかり様相が変わってきていた。
 同一人物のバックアップ素体と言えど、食べる物とそのペースが各々で違うのは当然だが。その所為で満腹になる個体が発生し始めたのだ。それ自体は別に何の問題も無いのだが……
「時間あるけど、もうお腹いっぱい? 幸せいっぱい? 素体のおかわりならいくらでもいるんで、まだまだ幸せいっぱいになりましょ~!」
 などと、『本体』が無茶を言い始めたのである。ちなみにほんのりと頬に赤味が差している程度で、彼女は酒は飲んでいても、全くと言って良い程、実際には酔ってはいない。そもそもランチバイキングで、泥酔できる程の酒精を提供している訳が無い。
「ほらほら。私の酒が呑めないのかぁ!」
 などと分隊員に対し、素面のままで言ってのけている。要するに『絡み酒』という奴を、一度やってみたかったという事らしい。全くの他人に絡むよりはマシだが、『自分自身』に絡まれる分隊員も、それなりに迷惑な話ではある。無論拒否権は存在するのだが、相手はやはり『自分自身』。思考はある程度分かってしまう為、ついつい悪ノリを返してしまう彼女達。
 かくして、店の迷惑にならぬ程度に。騒ぎ倒す巡『達』であった。

 各々が気ままに過ごす時間は過ぎて。制限時間が迫ってきた。食べ残しなどある筈も無いが、若干の後始末は残っていると、そんな頃である。
 謎の盛り上がりを見せていた巡とその分隊員達も、一定の秩序を取り戻して撤収の準備を始め。リズもラストスパートだと言わんばかりに、豚の唐揚げを三つ纏めて口内へ押し込め、咀嚼しながら皿を重ね箸を置く。
「ああ……もう時間なんだね。お前さんがお勧めしてくれた、海老焼売と胡麻団子。美味しかったよ。ありがとう」
 ジバは一時的に知性と姿を取り戻し、自分の相手をしてくれたインビジブルに礼を言い。
「気付けば何時の間にか、全部頂いてしまった様ですね。食べ放題との事でしたが、私にはこれ位が適量だった様です」
 礼儀正しく楚々として、手を合わせて食事を終えたのはフィアだった。
「ご馳走様でした……充実したひと時だった様に思います。色々と」
「そうだな……何だかんだで、結構楽しかったよ」
 フィアの言葉に、海人も頷く。
「また美味しい物が食べられると良いね~」
「今度は生肉も食べられると良いかも」
 巡とリズも唱和して、
「それじゃ、邪魔になるといけないからね。そろそろ出るとしようか」
 ジバの締めに、皆がそれぞれの個性に応じた頷きを返し。
「ご馳走様でした!」
 全員で声を揃え、店と食事に感謝を述べるのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト