【幕間】古妖を喰らうモノたち
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「ちゅうちゅうたこかいな。ちゅうちゅうたいこかいなっと」
とある事件の裏の裏、古びたビルの奥の奥。
カン高い声でピエロがソロバンを弾いていた。
「戻ったぜ」
足音代わりに血の滴る音を鳴らし、誰かが扉を開けずに入って来る。
代わりに煙が凝縮し始め、誰かの形を取り始めた。
「そこはノックをしてほしい所ですねぇ。入ってまーすって答えたかったんですが」
「んな余裕があるか。せっかっく喰って来たのが台無しじゃねえか」
ピエロの言葉に現われた男は長い白髪が乱れるのも構わずに拳を握った。
すると何処かにしまっておいたらしき肉片と、大量の血が周囲に迸る。
「……ちょいと。アタシの仕事道具を汚すのは困るぜ。それとも何かい? しくじって無いようで安心するべきところじゃねえよな?」
それを見たピエロは仮面を外して端正な顔を見せた。
小粋で鯔背な女ヤクザとでもいう風情の容貌だった。
来ている黄色いスーツがどこか場違いであるが……。
「喧嘩売るなら買うぜ? 俺はシノギを収めに来たところで、てめえは受付だろうが」
「おや? おやおやおやあ。お怒りですか? 怒ってますかぁ? ああ、さーせんっ。って私は受付のウグイス嬢じゃないんすけどねえ」
白髪の男が眉を片方だけあげて怒りの表情を作ると、ピエロは女の顔をツルリと消した。このピエロの正体はドッペルゲンガーであり、この顔は真っ赤な偽物、白髪の男が気にしている女の顔なのだ。どうみても挑発であり、いつものことなので怒気だけで済ませたともいう(女の顔を止めなかったら三日分くらい殺していただろうが)。
「ま、積もる話もあるでしょうし、こいつはラベル張っときますか。ちなみに何処のどなたさんで? 何万年か前に人類を教導するために降り立った少年とか?」
「アホか。魔王尊に手を出す意味は|もう《・・》ねえだろう。何処かの大熊だよ」
ドッペルゲンガーはひとしきりからかった後、さっと手を振って机の上を一度消した。
先ほどの帳面は彼の能力で代理演算していただけので、全てがマヤカシでしかない。
残ったのは白髪の男が持って来た臓物と大量の血が盛られた皿のみである
「クマー? ああ、最近話に出てきましたね。とりあえず入れておくとして、超人薬の完成やら、封印術の研究でもやっておきますか」
ドッペルゲンガーはそれらを丁寧に分類し、臓物は干物にするとして、むしろ血の方を丁寧にアンプルへと吸い込ませていった。101、102、103という風に別々の管理をしておく。先ほどのいい加減さが影を潜め、まるで祭祀か研究者のようではないか。
『全ては、我らの組長の為に』
もし、彼に心境を尋ねたらこういうだろう。
彼ら八尾白組は組長である兄貴分の為に働く組織なのだ。
ドッペルゲンガーは本部長であり書類仕事をするし、白髪の男……煙々羅は実行部隊であるに過ぎない。それぞれの能力を活かし、組を発展させ組長に裏社会の天下を取らせるために動いているのである。
では、目下の所の目的は何か?
「そういうこった。どの古妖を食い散らかし、その血を奪って来れば良いか考えるのはお前の役目だ」
代わりに俺が死ぬ役目をやってやる。
そう言わんばかりの冷たい表情と、熱い目が対照的だった。
冷静に狂い、地雷原でタップダンスを踊るのが彼の役目である。そこに一切の躊躇いはなかった。
「裏方仕事も重要だと思うんですけどねぇ。ま、こういう差が組の為には重要なんでしょうや。よござんす。お公家さまとイタチとどっちが良いですかぁ? 必要ならあなたが呪拳を振るい易そうな方をチョイスしときますが……って。もう居やしねえし!」
派手にやるのが煙々羅の役目なら、その他一切をこなすのが彼の役目だ。
仕入れた情報を披露し、なんだったら陰謀を組み立てて封印が解け易い様に仕組んでいる。地固めも重要であり、堅実に仕事を延ばすタイプであった。
ただ、いみじくも彼が語る様に性格も行動も正反対だ。
どちらかといえば動くのが遅い彼を脅し、急かしてさっさと行動に移るのが煙々羅の性分と言えた。
「呪拳、か。思いっ切り死合いたいもんだぜ」
風に巻かれた煙のように立ち去りながら煙々羅は想いを馳せる。
これから狩りに行く古妖か? それとも……。
彼とよく似た拳を奮う、誰かなのかもしれない。
「くくく。はははははは!」
そして血が滾る己を隠しもせず煙々羅は新たな死地へと向かうのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功