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#√汎神解剖機関 #ノベル #バレンタイン2025 #蛸神様

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 他の√も含めて――あらゆる沙汰を含めて――ようやく、世界の、未曾有なまでの膨大さに眩暈を覚えていた。把握をするのに、四肢を伸ばすのに、いっぱいいっぱいだったオマエはこの日、最小単位の世界に身包みをされたので在った。こんな、可笑しな事があっても良いのだろうか。こんな、お菓子な事があっても良いのだろうか。いや、オマエに憑いている神様の事を、蛸神様の蠢動の事を、考えたのであれば――成程、犬のように、棒状の何かしらに激突したって不可思議ではない。しかし、嗚呼、それにしたって現状は息が詰まりそうな悪夢の類ではないのだろうか。キョロキョロと、ぐるぐるバットを遂行した後のように、繰り返し、繰り返し、己の眼球を酷使してみる。くらり、眩暈。四方を囲まれている。勿論、何に囲まれているのかくらいは判断できるのだが、それにしても、この色のなさは懐かしい。壁だ。壁なのだ。天蓋へと聳えている壁が、オマエを嗤笑するかの如くに閉じ込めてくれている。それに加えてのこの充満だ。鼻腔を擽る人工的な……途轍もなく偽物的な……馥郁からの手招き。嗚呼、そうだ。今日は確かにそういう|日《●》だ。2月14日の齎した奇天烈な招待……正体を暴かれそうになる、バレンタイン・デーからの採血。
 小さな悲鳴だ。たとえ、肉薄していようとも、肌で触れ合えるほどの距離だとしても、耳朶へと届かない程度には小さな悲鳴だ。自分の咽喉から、自分の口から、漏れたとも思えないほどに極小な悲鳴だ。重い。ああ、空気が重くなっている。まるで頭を、脳味噌を、スプーンの裏側で圧され続けているかのような重たさだ。……ハッピー・バレンタイン、真人くん。今日、真人くんを呼んだのは実験の為でも何でもないから安心して良いよ。安心など出来る筈がない。呼吸すらも難しいのだから、せめて、外の空気を吸ってからお話がしたいか。大丈夫。まかせて。これでもアタシ、料理には自信があるから。それに、食材に怪異を使ってなんていないから、真人くんも口にできる筈よ。いったいこの人は、この職員さんは何がしたいのだろうか。こわい。何がこわいのかと謂えば、笑顔がこわい。吸い込まれそうな、ひと呑みにされそうな、微動だにしない目の玉がこわい。まるで、ビターなチョコレートだ。まっくろい……まっくろい……まっくろい……。ほら、真人くん。これが、アタシお手製のチョコレートパフェだよ。誰でも食べられるように、くどくない感じに仕上げたんだ。そう、誰でも食べられるようにね……。ごくりと、唾を飲み込む。視線を逸らそうとしても、逃げ出そうとしても、蛇に睨まれた蛙では……ウツボに睨まれた蛸では……如何しようもない。
 脳味噌を圧していた、精神を抑え込んでいた、銀製のスプーンを片手にパフェへと挑む姿はまさしく|最後の晩餐《ユダ》の如く。プルプルと、フルフルと、震えながらも如何にかクリーム部分を掬ってみる。これを口に運んで、咀嚼する。咀嚼したら、食道に、胃袋に、流し込む。ひとつひとつ己が何をやらなければならないのか、確実性を増やす為に脳内で反芻してみた。わ……わぁ……嬉しい、な……お、俺……まだ、誰にも、チョコレート……貰ってなかったんです、よ……。ええい、後は野となれ山となれ! ぱくりと、がぶりと、獲物を削ぐかのように口腔内、甘ったるいものが蔓延する。うそつきだ。この職員さんはうそつきだ。それか、味音痴だ。このチョコレートパフェの何処がビターで、何処が『くどくない』のか。眩暈がする。胃袋を軸にして全身に……頭の中に……芯までも、焼けつくような甘さが衝く、撞く、憑く……! うふふ、どう? 美味しい? アタシ、今日の為に色々と頑張ったのよ? お……おいしい……おいしいです……おいしいおいしい……。食べる手が止められない。食べる手を止めてはならない。早く食べなければ、早く消費しなければ、早く解放されなければ――食べ方が汚い、なんて、怒られそうだが、構うものか。もっと味わって食べてほしいな、なんて、思われそうだが、構うものか。逃げ出したい。一刻も早く此処から逃げ出して――兄ちゃんを、ギュって、したい。
 蛸神様にはあげないのかい?
 ぞくり。背中に――背骨に――垂れた、おそれ。これが恐れなのか、畏れなのかは不明だが、胃酸が暴れ狂うほどには重苦しい一言であった。えっ……と……あの、それは、その……。考えようとした。噛み砕こうとした。この人は……この職員さんは『たこすけ』にいったいどんな用事があるのだろうか。実験……違う。実験ではない。研究でもない。暴こうとするなら、晒そうとするなら、今頃、拘束されている筈だ。考えていたら最後の欠片ひとつ。裏切られない事を祈っての――完食。
 楽しかったわね。また、来てくれると嬉しいな。
 職員さんが手を振っている。こわい。
 笑顔でサヨウナラをしている。こわい。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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