暗くなるまで待って
「来てくれてありがとー、って言うんだよね? √マスクドヒーローの事件の予知をしたんだ、聞いてってくれる?」
|迦具土《かぐつち》・|刃《じん》 (SHOWDOWN・h06266)は、自らの呼びかけに応じた√能力者たちにそう礼を述べると、早速自らの見た予知の内容を語り始める。
「これは「プラグマ」とは少し違うっぽい奴らの事件だって先に言っておくね。何なのかは後で言うけど……√マスクドヒーローで、今連続殺人事件が起きてるんだ。それも、フツーじゃあ考えられない方法で」
朝になると、|石礫《いしつぶて》に埋まった死体が発見される。それも、屋外屋内の区別なく。
「死因は石が頭にぶつかった事による、えーっと、脳挫傷? って言うんだよね? だったり、全身の骨が折れてたり、とにかく「石」に殺されてる。サイズはまぁ、打ちどころが悪かったら死んじゃうかもしれないけど、大体は怪我で済むはずの、どこにでもあるような石ころなんだけどさ」
量がものすごく多い、のだと刃は言った。
「気づいてるかもしれないけど、原因は「シデレウスカード」。ゾーク12神って奴らの中の一柱、『ドロッサス・タウラス』がバラまいたっていう、「変身の力」を持つカードだね」
シデレウスカードは、「十二星座」あるいは「英雄」が描かれた、単体では何の効果もないカードだ。しかし、一人の人間のもとに「星座」と「英雄」が揃ってしまうと──それが「欠落」を抱えた√能力者ならば、カード・アクセプターになれたかもしれないが──普通の人間は、「星座」と「英雄」の力を持った「シデレウス怪人」へと変貌してしまう。
「この事件を起こしてる怪人の名は『サジタリアスダビデ・シデレウス』。人間としての名前は、「|酒巻《さかまき》|翔也《しょうや》」っていうみたい」
予知によれば、酒巻はまだ十九歳。高校卒業後すぐに就職し、新卒一年目にならんという会社員だ。しかし所属部署の同僚や上司と折り合いが悪く、現在は出社していない。
「これも予想がついてると思うけど、これまでの被害者はみんな酒巻と同じ会社の人間。どうやら酒巻は手に入れた力に酔っちゃって、気に入らなかった会社の奴らを片っ端から殺していってるっぽい」
犯行の次の|標的《ターゲット》はわかっている。「|田無《たなし》みりあ」という名の若い受付嬢だ。
「酒巻はもう同じ会社の人間なら誰でもいいのかな。田無さんは、酒巻のことを覚えてもいないね」
彼女はその夜、夜遊びなどはせず夕食をコンビニで買ったあと一人暮らしの家に帰る。この、会社を出てから翌朝になるまでの間に、酒巻翔也──怪人『サジタリアスダビデ・シデレウス』は田無を殺そうとする。
「みんなにして欲しいのは、この夜の間に田無さんを守りきって欲しいっていうこと。酒巻は昼間のうちには捕まえることは出来ない。これは覆せない絶対のことだね。犯行を手伝うための一般戦闘員みたいなやつらもいるみたいだから、そいつらは倒しちゃってオーケーだよ」
彼女を守れたなら、その後はシデレウス怪人との戦闘になる、と刃は言った。
「酒巻は√能力者じゃない。ないからシデレウス怪人になった。だから、√能力は使ってこないんだけどさ」
怪人『サジタリアスダビデ・シデレウス』。それは射手座の力に射撃能力を持ち、ダビデ──羊飼いから身を起こして王となって死んだ、イスラエルの英雄の力を有する怪人だ。
「えーっと、ダビデはゴリアテっていう巨人を倒してるんだって。その時に使ったのが、石」
英雄ダビデ、ダビデ王の伝説とは異なり、シデレウス怪人サジタリアスダビデは無数の石を操り、凶器として用いてくる。
「酒巻はもう既に何人も殺してて、公的に裁いても死刑は免れない。だから倒す時に殺しちゃっても……死ぬのが早くなるか遅くなるかの違いなんだけど」
まぁ、そこはみんなの判断に任せる、と刃は言葉を続けた。
「サジタリアスダビデ・シデレウスを倒したなら……ここから先は、未だ定まらぬ未来、揺れ動く分岐の向こう。俺にもどっちになるかはわからないけど、二通りの未来があるよ」
一つは、シデレウスカードを市井にばら撒いた、騒動の元凶「ドロッサス・タウラス」と戦うパターン。
もう一つは、ドロッサス・タウラスに雇われたアサシンの√能力者「エンリカ・シジカ」と戦うパターンだ。
「エンリカは|暗殺者《アサシン》であると同時に|弓兵《アーチャー》。雷の能力で、遠近どっちにも対応できる戦い方をする。依頼完遂を何よりとしてるから、交渉は無意味だよ」
それからドロッサス・タウラスと戦う場合だけど。
「ドロッサス・タウラスは星界の力、っていうのを使ってて、すっごい強い。だけど、基本的に他人をナメてる。つけいるならそこかな」
どっちと戦うかはわかんないけど──。
「みんななら、きっと大丈夫だよ。だから……気をつけて、って言うんだよね? 行ってらっしゃい!」
星詠みの少年は、そう言って|√能力者《あなた》たちを送り出すのだった。
マスターより

遊津です。シデレウス怪人考えるの楽しかったので、前回に続けて今回も√マスクドヒーローのシナリオをお届けします。
当シナリオは一章冒険、二章冒険、三章ボス戦の三章構成となっております。また、二章は専用フラグメントになり戦闘が行われます。
「第一章 夜闇に紛れて」
星詠みの予知により判明した、狙われている女性「|田無《たなし》みりあ」を守ることになります。
犯人のシデレウス怪人「|酒巻翔也《さかまきしょうや》」は夜の間に手にした力で彼女を殺害しようとします。
犯行を手助けしている謎の一般戦闘員的な存在も存在するので、POWの行動を行いたい場合はそれを相手にしても構いませんが、シデレウス怪人そのものと戦うのは第二章になるので、この時点では酒巻を倒すことはできません。
狙われている田無は退社後コンビニで食事を買い、家まで帰ります。彼女の退社後からその後朝になるまでが、犯行時刻であり、酒巻は何処かから彼女を狙っています。
基本的に彼女は最近起こっている殺人事件を恐れ、電灯によって光源の確保された場所を移動します。
「第二章 シデレウスカードの所有者を追え」
専用の固定フラグメントです。
酒巻はシデレウス怪人『サジタリアスダビデ』となります。怪人との戦闘を行うことになります。
詳細は二章の断章にて説明します。
第一章、第二章はどちらも冒険フラグメントの扱いであるため、攻略に必要な🔵は7と少ないです。ご注意ください。
「第三章 ボス戦「ドロッサス・タウラス」/「エンリカ・シジカ」」
第一章、第二章の√能力者の行動によって、第三章でどちらの敵と戦うか変動します。
「ドロッサス・タウラス」は予兆で見られた、シデレウスカードを市井にばらまいた存在です。
星界の力、中でもゾディアックの力を操るゾーク12神の一柱であり、神聖を持ち傷つけることは極めて困難ですが、基本的に他者を見下し、舐めています。
「エンリカ・シジカ」はドロッサス・タウラスに雇われたエキスパートアサシンです。
非金属にすら作用する特異電磁力、切断し穿つ雷の武装、残像をも掠れる超スピードと高速投擲術が持ち味の√能力者であり、依頼完遂を何よりとして冷徹に戦闘を行います。
どちらと戦うにせよ、詳細は第三章の断章にて説明します。
当シナリオのプレイング受付開始は、オープニングが公開され次第即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
26
第1章 冒険 『夜闇に紛れて』

POW
作戦に従事する敵の下っ端を倒す
SPD
敵の目的地に先回りする
WIZ
陽動やハッタリで敵の注目を逸らす

(無作為に力をばら撒いたら、こういうことが起こるのも当然だな……)
力を得ても、当人にその力を扱えるだけの心が伴っていないとこんな悲劇が起こる
殺された人達も殺した本人も、誰も救われない話だな
俺は隠れながら田無を護衛しよう
レギオンスウォームでレギオンを操って数体で彼女の様子を常に把握
別のレギオン達を使い、超感覚センサーで怪人や酒巻本人を探す
敵を発見したら闇に紛れて強襲し、田無を害する行為を妨害するよ
田無が家に帰り着いても油断せず、翌朝までずっとレギオンを操って索敵と護衛を続ける
これ以上、力に溺れた奴に凶行を続けさせる訳にはいかない
※アドリブ歓迎です
(無作為に力をばら撒いたんだ。こういうことが起こるのも、必然だな)
3月。真冬に比べればもうかなり日は高くなったけれど、太陽が地平線の下に隠れるのもあっという間だ。
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、離れたところから足早に歩く女を見守っていた。
女の名は、田無みりあ。ひとつの会社で受付嬢を任されるだけあって、その容貌は整っている。しかし、その表情は不安でいっぱいだ。最近彼女に近い――同じ会社の――人間が次々と変死を遂げている。いつ自分に何があるかわからないと家路を急ぐ彼女は、今夜まさに自分が狙われているのだということを知らない。
クラウスは田無とつかず離れずの距離をずっと保っている。出来るだけ彼女に気取られず、そして半径二十五キロメートル圏内を維持するように。
既にクラウスの√能力【レギオンスウォーム】は発動され、田無の様子を常に把握できるようになっている。二十五体のレギオンのうち五体を田無の防衛に割き、クラウスは残り二十体を散らばせて、レギオンの超感覚センサーによる索敵能力でもってシデレウス怪人である坂巻翔也、そして彼の犯行を手助けするため配置されている戦闘員たちを探し続ける。
(……いたか)
ばらけさせたうちの数体のレギオンから信号が発され、戦闘員が点在している箇所をクラウスに教える。クラウスは田無が夕食を購入するためにコンビニエンスストアに入った隙に、一番近い戦闘員の所へと走った。闇を纏って自身の姿と気配を完全に隠匿し、彼を未だ認識できないでいる戦闘員を背後からスタンロッドで襲う。高圧電流が戦闘員の体を駆け抜け、一人の戦闘員が地に伏した。そのまま急いで無力化する。これなら朝が来るまで動くことは出来ないだろう、と納得できる処置を施し、クラウスは急いでその場から離れる。
仲間からの連絡が途絶えたことに疑念を抱いたのか、他の戦闘員たちが現れた。まだクラウスには気づいていない。レギオンによって坂巻がなんの動きもみせていないことを確認して、クラウスは足元に転がっていたペットボトルの蓋を遠投して植え込みへと投げ入れる。がさがさ、と音を立てた植え込みを覗き込んだ戦闘員のその背中を、闇を纏ったままスタンロッドで持って殴りつける。
――それを、どれだけ繰り返したか。
範囲内にいる戦闘員たちを出来る限り無力化させ、クラウスは田無の元へと戻る。彼女は自身の暮らすアパートの前まで来ると、緊張を解かぬままにそのなかの一室の前で鍵を取り出し、扉を開けて中へと入っていった。
まだだ、とクラウスは気を引き締める。彼女について室内に入ったレギオンから送られる信号を元に、彼女に異変がないことを確かめる。
(これ以上、力に溺れたやつに凶行を続けさせるわけにはいかない――)
クラウスの索敵と護衛は、田無が寝入ったあともずっと、ずっと続くのであった。
🔵🔵🔵 大成功

※倫理観がないので、田無を守りたいというより力に溺れた酒巻に興味があるスタンス。ですが、他の√能力者の迷惑になるようなことはせず、田無も守ります。
選択肢:WIZ
クク…いいね。力に溺れた人間ってのは。さぞ良い顔なんだろうな。
もう何人も殺している。もうお前は普通のヒトには戻れない。
法で裁かれるのか√能力者に殺されるのか……結末を拝みにいくか。
しかし、そんな面白い力を持っているのになんで夜しか使わないんだろうな?
俺には分かんねぇわ。
じゃあ、みりあちゃん家辺りで張って、【闇の王】で作ったコウモリ達に周りを索敵させて、翔也くんを見つけたら、一斉にちょっかいかけてみるかな。
注目を集められると良いな。
「……クク、いいね。力に溺れた人間ってのは」
さぞ、良い顔なんだろうなぁ。
|天霧《あまぎり》・|碧流《あおる》(忘却の狂奏者・h00550)は、そう呟くと路地の暗がりの中でうっそりと笑った。
√マスクドヒーロー、シデレウス怪人に狙われる受付嬢、田無みりあ。現在起きている連続殺人事件の、今夜の標的だ。けれど碧流には田無の命を守りたいという思いは特にない。それよりも、シデレウス怪人となって自身の会社の人間を次々と殺害している張本人、「酒巻翔也」の方に碧流の興味はあった。
「もう何人も殺してる。法で裁かれるのか、それとも√能力者に殺されるのか……どちらにせよ、もうお前は、普通のヒトには戻れない」
ああ、そんなやつの、結末を拝みに行こうじゃないか。
碧流がいるのは田無みりあの住むアパートのすぐ近く、奥まった路地。彼女の護衛は他の√能力者がやってくれるだろう。そう考えた碧流は、鼻歌混じりに左手の人差し指を立てる。
【|闇《やみ》の|王《おう》】。碧流の影から生み出されたコウモリたちがキィキィと鳴きながら人差し指に集い、そして散っていく。夜の影を伝って共鳴し、探査していく。ざ、と風が鳴き、碧流の髪を乱した。
やがてコウモリは碧流に知りたかった情報を伝える。すなわち、「酒巻翔也」は今どこにいるのか。どうやら彼の犯行を手助けする一般戦闘員たちが用意した、この家のすぐ近くにある住人のいなくなった家屋に潜んでいるらしい。碧流は腰かけていた煉瓦の塀の上から降りると、酒巻の元へ向かって歩き始めた。
酒巻の潜んでいる家屋に、鍵はかかっていなかった。恐らく無人となってもどこかしらによって管理されているはずの家屋である、合鍵のような物を手に入れられず、無理矢理に鍵を壊して侵入した結果施錠することもできなくなってしまったのかもしれないが――碧流にはどうでもいいことだ。
廊下に積もった埃と、そこについた靴跡に倣い、碧流は靴を脱がずに家の中へと上がっていく。酒巻はカーテンのかかった窓から外の様子を眺めていた。その背に、碧流の声がかかる。
「ああ、みぃつけた」
「ひっ……な、なんだ、おまえ……!?」
大いに驚き、窓に背をつける酒巻は思ったよりも身綺麗だった。しかし、べっとりと目の下にはりついたクマと、それに反して爛々と光る目が、異常だ。
「なあ連続殺人犯。お前に聞きたいことがあったんだけどよ」
「な……に、なんで、知って」
「そんなに面白い力を持ってるのに、なんで夜しか使わねえんだ?」
――俺には、わかんねぇわ。
碧流の問いに、酒巻は一瞬ぽかんとした表情をして。それから顔を引きつらせて言った。
「だ、だって、怖いだろう、誰かに見つかったりしたら――」
怖れている。酒巻はこの期に及んでなお、否、自分がもはや戻れない領域にいることに気づいていないのか、まるで真人間のように犯行の露見を怖れている。
それに、碧流はなにを思ったのかどうか。
【闇の王】にて呼び出したコウモリたちをけしかける。ヒッ、と喉を引きつらせた酒巻は、いずこかから石を呼び出してコウモリたちにぶつけていく。特にそれ以上のことはせず、碧流は背を向けた。
「じゃあなバケモノ。――お前の起こしてる怪事件で、世間の注目、集められるといいな?」
もしかしたらまた会うことになるかもしれないけどな――。
何にせよ、碧流が今酒巻を相手にしていた間、田無は襲われずに済んでいた。それで対外的な言い訳は立つだろう、と考えながら、碧流は酒巻の潜んでいた家屋を後にした。
🔵🔵🔵 大成功

また面倒な物を撒き散らしてくれた物ね…
今の所は対症療法しか無いけど、いずれ何とかしたい所ね。
まだ依頼は序盤だから、呼べる配下は少ないけど…それでも頭数は多い方が良い物ね
《百鬼夜行》で呼べるだけの配下を呼び、各々に通信機を持たせて田無嬢の自宅周辺の影に配置
件の彼が田無嬢の家に近づいてきたら、あえて手出しはさせずに移動速度などの情報と併せて連絡を寄こさせる
標的の位置や移動経路、移動速度が判然としてるだけでも、随分と作戦に幅が出るからね
可能なら、この依頼に参加している√能力者にもスマホのメール等で情報を伝えて情報を共有するわ
彼の気持ちも分からなくは無いけど…それは人としてやっちゃいけない事なのよ。
――時は、少し巻き戻る。
「ああ、まったく。また面倒な物を撒き散らかしてくれたものね」
|玖珠葉《くすは》・テルヴァハルユ(年齢不詳の骨董小物屋・h02139)は、事件の元々の発端となった、「シデレウスカード」を撒き散らした元凶、ドロッサス・タウラスに思いをはせてため息を吐く。
「今のところは対症療法しか無いけど、いずれ何とかしたいところね……」。
さて、余計な事をしてくれたどこかの誰かに文句を言うのは終わり。
今はシデレウス怪人である酒巻翔也の手から、狙われている受付嬢・田無みりあの命を守ることが先決だ。彼女が殺されてしまえば、また酒巻は新たな犠牲者を探すだろう。その次の犠牲者が誰なのかを、星詠みが予知できるかどうかわからないのだから。
「まだ私たちは動き出したばかり。だから呼べる数は少ないけれど……それでも、頭数は多い越したほうがいいものね」
玖珠葉は自身の√能力【|百鬼夜行《デモクラシィ》】を発動させ、六体の配下妖怪を召喚する。彼らに通信機を持たせ、田無の自宅周辺の陰に配置させた。
少しの間。何の動きもない時間が続く。そのあとで、配下妖怪からひとつの通信が届く。田無を狙っている張本人、シデレウス怪人である酒巻が、その近辺にある、今は住人のいない家屋へと移動した、という連絡だ。
「……そう、ありがとう。手出しは無用よ。何かの動きがあるようなら、その都度教えて」
どうやら配下妖怪からの報せによれば、酒巻は田無が家に帰るのを待つことにしたのか、その無人の家屋から動かないようだ。それを玖珠葉は自分以外の√能力者たちにも携帯端末から情報共有をする。
――酒巻は、会社の同僚や上司と折り合いが悪くなって出社をやめている。入社して一年、まだ将来の希望を抱いていた時期の挫折。正確に何が原因だったかはわからないが、それでもまだ玖珠葉は彼に同情出来る。
けれども彼は力を手に入れてしまった。そして、そのちからに溺れた。酔った。今の酒巻は。直接の同僚や上司だけでなく、今はもう直接には関係のない、ただ同じ会社であるというだけの受付嬢である田無にも牙を剥いている。人を殺して、殺して。もう正しく法で裁かれても、死刑は免れないほどなのだと星詠みは言っていた。
「――それは、それだけは。人としてやっちゃいけない事なのよ」
玖珠葉の静かな呟きが、街灯だけが光る路地に、吐き出された。
🔵🔵🔵 大成功

標的の警護は万全。犯人の位置も、碧流くんが割り出してくれたみたいだし…。ふふふ、それじゃあ僕は、ちょっとだけ遊ばせてもらおうかな~。
犯人の隠れ家近く、様子を監視できる位置で魔術迷彩服を利用し身を潜め、静かに√能力を発動。自身を模したねんどろいどのような姿の人形を創造する度、犯人に気取られぬよう死角を縫って移動させ、次々と遠くへ送り出していく。
目標は、犯人や標的とは正反対の遠い地点。そこにある開けた場所へと順々に到達させたら1列に整列させ、先頭の1体を適当な何かを殴らせて自爆させる。
自爆を合図に、犯人の隠れ家への行進を開始。少し進み、同じように開けた場所を見つけたら自爆。さらに進んで、また自爆。そうやって少しずつ少しずつ、爆発を犯人へと近づけていく。
自分が狙われる立場になる気分はど~お?
あは♪ 狩る側が狩られる側になる瞬間を見るのは楽しいなあ~。
「ふーんふんふん、なるほどねーぇ?」
ルメル・グリザイユ(半人半妖の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01485)は、他の√能力者から送られてきた情報をまとめてにんまりと笑った。
「標的の警護は万全、っと。犯人の位置も、碧流くんが割り出してくれたみたいだし……。ふふふ、それじゃあ僕は、ちょーっとだけ遊ばせてもらおうかな~」
そういうと、ルメルは悪い顔になって笑う。
シデレウス怪人、「酒巻翔也」が、今夜の標的「田無みりあ」を殺害するために現在潜伏している隠れ家の近く。家の中を監視できる場所に位置取ると、ルメルは魔術迷彩服を身に纏い自身の姿を隠し、静かに√能力を発動させる。
「ほら、行っておいで」
【|Automata Detonata《オートマタ・デトナータ》】。自身を模した三~四頭身ほどのフィギュアのような魔法人形を創造してゆき、酒巻に気取られぬよう死角を塗って移動させてゆく。次々と遠くへと送り出された人形は、まず最初に酒巻や田無とは無関係、正反対の遠い場所へと辿り着く。複数体の魔法人形はルメルの指定した拓けた場所へと到達すると一列に整列し、戦闘の一体はそこにあった電柱を殴る。高威力の爆破魔術が組み込まれた魔法人形は。たちまち爆発した。そのうち誰かが通報したのだろう。ルメルの耳にラジオからのニュース――それは、家屋の中の酒巻が手にしている者だ――から謎の爆発事件のことが流れてくる。
「……なんだ……?」
最初、酒巻はその爆破事件を自身に関連付けては考えなかった。
しかし、その事件の報せが断続的に――そして、場所が自分のいる場所に近づいてきていることを知って、顔を青ざめさせる。喉がひゅッとなる音を。ルメルは聞いた。
魔法人形は少しずつ酒巻の元へ行進してきている。少し進んで、拓けた場所を見つけたら、自爆する。それがニュースとなって酒巻の元へと届く。再び行進し、また自爆する。そうやって少しずつ少しずつ少しずつ、酒巻の元へと近づいてきているのだ。勿論、酒巻はそれを仕掛けた張本人が、自身の潜伏する家屋のすぐ近く、窓の下に陣取って、カーテンの隙間から怖れ慄き慌てふためく自身を見ているなどということには気づかない。
「なんだ、なんなんだ……何だって言うんだよォ……!!」
酒巻は恐慌する。ルメルはその脅威的な集中力で、全く移動することなく魔法人形たちを操って見せた。
夜は明け、酒巻の元へとたどり着いた魔法人形は、ルメルがいるのとは逆の窓で爆発する。
「――うわあああああああッッ!?」
酒巻は家の外へと転げ出るように逃げ出した。ルメルはそこでようやく固まった体を伸ばし、歯を見せて笑った。
「どうだった? 自分が狙われる立場になる気分はさ、あは♪」
狩る側が駆られる側になる瞬間を見るのって、ほーんと楽しい。
そう呟くと、ルメルは酒巻の出ていった方向へと歩き出すのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』

POW
戦いを挑み、シデレウス化した人物を無力化させる
SPD
他の民間人が事件に巻き込まれないよう立ち回る
WIZ
シデレウス化した人物の説得を試みる
「ああああ、うわああああっ!?」
シデレウス怪人、酒巻翔也は潜伏していた家屋から飛び出した。
夜は既に明けている。夜の勤め帰りであった人々や、或いはこれから早朝の活動を始める近隣の人々がそこにはいて、無人の筈の家屋から飛び出してきた酒巻を怪訝そうに見つめている。
そしてそこは標的であった女性の家にもすぐ近く。√能力者たちも、そこにいた。
「なんだ……なんだっていうんだよォ!」
緊張をはじめとした様々な感情が限界に達した酒巻は、二枚のカードを取り出す。描かれているのは「射手座」とイスラエルの王「ダビデ」。二枚のカードは酒巻に力を与えていく。
今、酒巻に標的としていた女性を殺そうという確固たる意志はない。
感情を爆発させた酒巻にあるのは、自分を馬鹿にして見下している――そう、彼が思い込んでいる、周囲の人間すべてを皆殺しにしてやろう、という意志だ。
酒巻の体が変貌していく。身綺麗な、けれど目の下にクマをはりつけた青年の姿から、怪人と呼ぶにふさわしい肉体に。
「……やってやる、やってやるぞ……!」
急に変貌した青年の姿に、周囲の人間が騒めき悲鳴を上げる。
民間人を助けなければ。そして、彼を裁くにせよ殺すにせよ、一度黙らせなければならない――!!
===================================
第二章 「サジタリアスダビデ・シデレウス」が現れました。
おめでとうございます。√能力者たちの尽力により、シデレウス怪人に狙われていた女性はこの夜を生き延びることが出来ました。
そして、√能力者の行動の結果、興奮しているシデレウス怪人「サジタリアスダビデ」が住宅街に解き放たれました。
法の裁きに任せるにせよ、既に救えない敵だとして殺すにせよ、彼と戦うことになります。
以下に詳細を記します。
「戦場について」
このフラグメントは冒険ですが、実質シデレウス怪人との戦闘になります。
戦場は民間人が周囲にいる朝の住宅街です。
√マスクドヒーローでは怪人が現れることは身近ではないものの起こりうる現実なので、民間人はそこまでパニックにはならず、自身の命を守ろうとします。避難指示のプレイングがあれば、それに従って行動します。
車道は車が二台行き交える程度の広さです。屋内であり、夜は明けたので光源は確保できています。
戦闘に利用できそうなものも存在しますので、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
リプレイ開始とともに敵がその場にいる状況となりますので、事前の行動を行っておくことは不可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)
何らかの準備行動を行うには、戦闘と並行して行うことになります。
「シデレウス怪人 「サジタリアスダビデ」について」
彼、酒巻翔也は√能力者ではありません。故に、殺せばそれまでであり、死後蘇生することはありません。ですが、既に何人も殺害しており、法で裁かれても死刑は免れません。
みなさんはここで彼を「殺す」か「生かす」か選ぶことができます。
「殺す」ことを選んだプレイングが多く、かつ止めを刺すことのできる最後のリプレイになるプレイングが「殺す」であった場合、サジタリアスダビデは殺害されます。逆に生かすことを選んだプレイングが多く、かつ最後のリプレイにあたるプレイングが「生かす」出会った場合、彼は生かされて捕まり、法の裁きを受けることになります。どれが「最後のリプレイのプレイング」になるかは、プレイングをお預かりした時期と内容によります。
酒巻の攻撃手段は√能力者がPOW、SPD、WIZのどれを選んだ場合でも、「虚空から大量の石礫を降り注がせてぶつけてくる」ものとなります。
√能力を用いず、アイテムや技能だけを用いた場合でも、戦闘になるような行動を行えば石礫によって攻撃してきます。
プレイングや√能力の内容次第では敵に攻撃させる暇を与えないリプレイになる可能性がありますが、あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
第二章のプレイング受付開始は、この断章が投稿され次第即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは、民間人に被害が出ないよう、興奮状態にあるシデレウス怪人を倒してください。

力に酔って好き放題してしまった結果がこれか
カードがばら撒かれなかったらこうはならなかったと思うと、何だかやり切れないな
酒巻に拳銃を向けて牽制し、動こうとするなら足元へ発砲して動きを制しながら周囲に声を掛けて避難を促す
「ここは俺に任せて、皆さんは離れて下さい!」
酒巻の攻撃が一般人に向いたらエネルギーバリアで庇いながら、周囲の人達を避難させることを優先
周囲に巻き込まれそうな人が居なくなったらアクセルオーバーを起動
ダッシュで踏み込んでマヒ攻撃で動きを止める
石礫の攻撃は速度で振り切って回避し、避け切れなかったらバリアで防ぐ
俺は法の代弁者じゃない
生かした上で、処遇はこの世界の法律に委ねるつもりだよ
(力に酔って好き放題してしまった結果が、これか……!)
クラウスは胸のうちに苦いものを感じながら、シデレウス怪人としての姿を顕わにした酒巻に向けて拳銃を向ける。
「動くな!」
やるせない。やりきれない。酒巻翔也は、カードを拾っただけでこんな風になってしまった。勿論、こんなことがなくても社会不適合者としてぐずぐずに腐っていった可能性はある。けれど、カードを拾わなかったら。ドロッサス・タウラスがカードをばら撒かなければ。まだそれだけで済んだだろう。こんな風に、人を何人も殺して暴れ回るほどの勇気がある人間だとは、到底思えない。
拳銃を向けられてなお動こうとするシデレウス怪人の足元に発砲し、その動きを少しでも制すると、クラウスは怪人態となった酒巻から目をそらさずに周囲へと叫ぶ。
「ここは俺に任せて、皆さんは離れてください!」
√マスクドヒーローでは怪人が暴れ回ることは珍しいことではない。例え誰もが自分にはかかわりないだろうと思っていても、それでも現実に起こっている事件だ。だからシデレウス怪人態となった酒巻の姿を見て悲鳴を上げこそさえすれど、それで恐慌状態になるものはいない。
近隣で起こった「謎の爆発事件」――それは別の√能力者が起こしたものであるのだが――になんだなんだと家から出てきていた者達も、可能な者は家の中に籠って鍵を閉め、あるいは行き場のない者を自分の家に匿おうとする者だっている。
それでも、精神的に追い詰められてヒステリー状態になったシデレウス怪人・酒巻は、逃げようとする一般人へと|石礫《いしつぶて》の雨を降らせる。
「きゃぁっ……!」
「――危ない!」
エネルギーで生成したバリアによって石礫を弾き、家の中に入っていく人々を庇う。そのままクラウスは√能力【アクセルオーバー】を起動させた。肉体を動かすパルス。電気信号が電流となり、クラウスの肉体を強化する。アスファルトの地面を蹴り、怪人態となった酒巻へと肉薄する。自分に突っ込んできたクラウスに、怯えと恐れと怒りと興奮、そんな感情がないまぜになって暴れるシデレウス怪人・酒巻は石礫を飛ばす。それを、踏み込みを違えることで急角度で動いて回避し――矢継ぎ早に降り続ける礫の雨に、最終的にクラウスはバリアを張り続けながら突進することにして、クラウスは酒巻へとスタンロッドを押し付ける。
「ガアアアアアアアアッ!!!」
怪人らしい絶叫が酒巻の喉から迸る。麻痺に特化した攻撃だ。クラウスに彼を殺すつもりはない。自分は法の代弁者ではない、生かしたうえでこの√マスクドヒーローという世界の法律に委ねるつもりだ。
だから、死んでくれるなよと祈りながら、クラウスは酒巻に押し付けたままのスタンロッドを手の中で握り直した。
🔵🔵🔵 大成功

あーあ。お恥ずかしいったらありゃしない。
それだけの力、私怨を晴らす為だけに使うなんて。
もっと違う方法あったんじゃない?ヒーローになって活躍して、馬鹿にした連中を見返してやるとかさ。
面倒なので周囲には自分達をヒーローだと誤認させる方向で行動
目元のオペラマスクで素顔を隠すフリをして一般人の避難誘導を行う
戦場から速やかに離れて貰うと同時に、避難民に暫く付近に近寄らない様忠告して貰い
極力空白を長く広く取れる様取り計らう
石礫は防具の次元断層で極力受け止めつつ右掌で触れ
《ルートブレイカー》で降石を止める
真物の『妖物』相手には力不足ね。貴方の自棄も終わりの刻よ。
大人しくお縄に付きなさい。
アドリブ絡み連携歓迎
「ああ、あーあ、お恥ずかしいったらありゃしないわ」
それだけの力、私怨を晴らすためだけに使うなんてね。
玖珠葉は咄嗟にオペラマスクを手に素顔を隠し、ヒーローに扮して周囲の人々の避難誘導を行う。この√にあっては、ヒーローはつねに力なき一般人たちの味方だ。彼らのふりをした方が、民間人相手には信用を得られると玖珠葉はわかっていた。
「さあ、はやく手近な場所に隠れなさい!」
この時間に住宅街にいるのは、まず夜の仕事から帰ってきた者たち。彼らはすぐに自身の家へと向かって走り出し、鍵をかけて災難から逃れようとする。それから、通勤途中の者たち、そして、別の√能力者――玖珠葉もよく知っている――が仕掛けた「謎の爆発事件」の野次馬として出てきた者。
(まったくもう、余計な手間が増えてるんじゃない!)
心中でこっそりと舌打ちをして、玖珠葉は一般人を避難させていく。
「災害時の避難場所は!? ここから遠いの!?」
「……向こうの通りを過ぎた小学校で……!」
「しょうがないわね、逃げ場のない人を家に入れてあげて!それから、絶対に出て来るんじゃないわよ!」
さすがに怪人が跋扈する世界である。一般人たちの緊急時の行動は早い。そうして人々を災難から隔離させる玖珠葉に――正確には、彼女を狙ったわけではない。シデレウス怪人態となった酒巻は、ヒステリーに支配されている。恐怖、怯え、劣等感、興奮、憎悪、そんな感情が高められて高められて、その衝動のままに力を振るい。飛来した石礫の雨は玖珠葉のすぐそばにいた老女に襲い掛かった。彼女はとっさには逃げられない。
玖珠葉は老女を庇うように前に出て、自身の纏う「己と世界の狭間の歪みが生んだ時空の断裂」、次元断層によって衝撃と、そしていくつかの小石を受け止めさせながら、咄嗟に右手の掌をかざす。
玖珠葉にとってこれはひとつの「賭け」だった。酒巻は√能力者ではない。ないから、シデレウス怪人なんて|存在《モノ》になったのだ。だから彼の操る石礫が√能力でない可能性は十分にあり、彼女の使う【ルートブレイカー】は、√能力でない攻撃には無力であるからだ。
しかし、僅かな抵抗こそ見せたものの、石礫は玖珠葉の掌に触れて威力を失い、そのまま地面にころころと転がる。玖珠葉は安堵を漏らさぬようにして、自分が賭けに勝ったことを理解する。
「真物の『妖物』相手には力不足だったようね」
「ひっ、ヒィッ……」
老女を無事に逃がした後、酒巻へ向かって足を踏み出した玖珠葉に、シデレウス怪人は自身の姿を理解していないような悲鳴を上げる。
「ねえ、もっと違う方法あったんじゃない? その力で、ヒーローになって活躍して。ばかにしてきた連中を見返してやる、とか」
「……なにが、」
おまえになにがわかる。わかったようなことをいうな、そんなことを言いたかったのだろうか。けれど酒巻はシデレウス怪人の姿を見せてなお、それを口にすることは出来なかった。
小物だ。どこまでも小心な小物。そんなやつに、何人も殺されて――殺させてしまったことを、どこかで玖珠葉は残念に思いつつも、玖珠葉は静かに告げる。
「――貴方の自棄も終わりの刻よ。大人しくお縄に付きなさい」
🔵🔵🔵 大成功

一般人には:ほら早くあっちに逃げな。こんなのに人生潰されちゃたまったもんじゃねぇぞ?
そこまで容姿が変わるなら夜とか言わずにいつ殺ってもよかったじゃねぇか。
なにが「バレたら怖い」だ。
なにいつまでも人間の面しやがってる。
【無装狂宴】使用
「俺がどんな目でお前を見てるか分かるだろ?見下す人間は殺すんだろ?来いよ。化け物にもなれない化け物」
防具も脱ぐ。
「なんでマンホールに蓋があるか知ってるか?こうやって空から降ってくる石から身を守る為さ」
石を弾くために道にあるマンホールの蓋を頭上に掲げる。
正面から攻撃。
「ああ、俺はお前を殺さない。勘違いするなよ。価値がないんだ。
せいぜい塀の中でビビり散らかしてな」

玖珠葉ちゃんも碧流くんも優しいなあ。…そんなこと聞いちゃったら――殺そうと思ってた。なあんて言えないよねえ。
さ、彼をこんな状態にしちゃったのは僕だし。きちんと|埋め合わせ《囮役》しないとね~。
興奮する怪人の前に堂々と姿を現し[挑発]、相手を見下した[演技]で敵視を一点に集める。
やあやあ、キミが噂のサジタリアスダビデだね~。昨晩はよく眠れた~? …あれ、目の下のクマ、すごいよお。もしかして、石枕でも抱いて寝てたあ?
ところで……ね~え、僕の姿…見覚えなあい?
降り注ぐ石礫は√能力で適度に処理。全てを呑み込むのは、仲間の攻撃が完成してから。
「は。そこまで容姿が変わるんなら、夜とか言わずにいつ殺ってもよかったじゃねぇか」
碧流はシデレウス怪人となった酒巻翔也の姿を見て、はぁ、と息を吐いた。心底つまらないものを見るような眼をする。
「なにが「バレたら怖い」だ。なにいつまでも人間の面しやがってる」
無造作に酒巻に近づいていく碧流。酒巻は怯えと恐れと興奮と怒りと、そんなものが入り混じったヒステリックな叫び声をあげて、碧流の方に石礫を降り注がせた。
後ろの一般人たちから悲鳴が上がる。碧流は一瞬だけ振りむいてかれらを感情のこもらない目で見て、言った。
「ほら、早く自分の家でも他人の家でも、逃げな。こんなのに人生潰されちゃたまったもんじゃねぇぞ?」
碧流を狙った石礫は――彼の一歩前に出たルメルの√能力【|Void Walker《ヴォイド・ウォーカー》】によってすべてが空間魔術で構築された虚空の中に呑み込まれ、碧流には傷一つついていない。
「玖珠葉ちゃんも碧流くんも、やっさしいなあ」
「あ?」
「だってさあ、碧流くん、彼のこと、殺す気ないでしょ」
「そーだな」
ルメルにそう言うと、碧流は改めて酒巻を見た。
「俺はお前を殺さない。勘違いするなよ。価値がないんだ。せいぜい塀の中で、ビビり散らかしてな」
そういうと碧流は一歩、酒巻へと足を踏み出した。
「なぁ、おい。俺がどんな目でお前を見てるかわかんだろ? 見下す人間は殺すんだろ? 来いよ、化け物にもなれない化け物」
そう言って赤と黒のジャケットを脱ぎ捨てる碧流は、くいと人差し指を内側にむける。
「あは、ほぉんと、そんなこと聞いちゃったらさあ――」
――殺そうと思ってた。なあんて、言えないよねえ。
漏らした|言葉《それ》に、碧流が「言ってんじゃねえか」と毒づくのを聞きながら、ひらりとルメルは手を振って興奮する酒巻へと近づいてくる。
「さ、ほらほら。彼をこんな状態にしちゃったのってまあ僕だし? きちんと|埋め合わせ《囮役》、しないとね~」
いつもと変わらぬ楽し気な笑みを浮かべたまま、ルメルは酒巻の目の前に立つ。
「やあやあ、キミが噂のサジタリアスダビデだね~。昨晩はよく眠れた~? ……あれ、目の下のクマ、すっごいよぉ。もしかして、石枕でも抱いて寝てたぁ?」
そう言われ、酒巻は、「は、」だの「なに」だの、そんな言葉しか出てこない。ルメルのペースに飲まれ、言葉が出てこない。だが、それはルメルの次の台詞によって決壊する。
「ところで、ね~え、僕の姿……見覚えなあい?」
「ッ――お前、おまえ、おまえっ……お前かああああ!!馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがってェェェッ!!」
爆発させた魔法人形の姿は今のルメルの姿をデフォルメした者だ。一晩中ルメルにおちょくられていたことを理解したのだろう、今までの中でも一番の量と勢いの石礫が、ルメルと、そして彼の隣にいる碧流の元に雨となって降る。
ルメルはそれを虚空に飲み込み、碧流は道路に設置されていたマンホールの蓋を持ち上げて頭上に掲げる。
「なんでマンホールに蓋があるか知ってるか? こうやって空から降ってくる石から身を守るためさ」
「うぅっ、ああ、あああああああああああああ!!!!!!」
恥辱と昂奮で石を降り注がせ続ける酒巻。しかし碧流はもうこれの用は済んだとばかりにマンホールを投げ捨てる。
「後はやれ」
「おっけ~」
石礫の対処をルメルにすべて丸投げすると、ルメルも笑顔で応える。どれほど石を降り続けさせても、その全てがルメルの魔術で作られた虚空に飲まれる。ならばなぜわざわざマンホールを使ったのか、その答えがここにある。全ての用意は整った。
【|無装狂宴《むそうきょうえん》】。
酒巻の正面に立ち、デスクリーヴを振り下ろす。
「ヒッ……」
酒巻の息をのむような悲鳴。斬撃の音。それで全ては片が付いた。
シデレウス怪人態から人間の姿に戻った酒巻は泡を吹き気絶している。碧流によって確かに斬られたはずの体に、けれど傷痕はどこにもない。降り注いだ礫はすべてルメルの虚空に吸い込まれ、どこにも被害は出ていない。
さて、次は、と、二人が身構えたその時。
大きな蹄を持った足が、倒れた酒巻の頭蓋骨を踏みつぶさんと振り下ろされた――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『『ドロッサス・タウラス』』

POW
タウラスクラッシャー
【星界の力に満ちた堅固な肉体】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【一等星の如き光に満ちた世界】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
【星界の力に満ちた堅固な肉体】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【一等星の如き光に満ちた世界】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
SPD
ドロッサス・スマッシュ
【星界金棒】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【腕】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
【星界金棒】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【腕】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
WIZ
アクチュアル・タウラス
【星炎】のブレスを放つ無敵の【金属の牡牛】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【星界の力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
【星炎】のブレスを放つ無敵の【金属の牡牛】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【星界の力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
シデレウス怪人態から人間の姿に戻った酒巻翔也の頭部を踏み砕かんとした大きな足。
√能力者が咄嗟に気絶している酒巻の体を引っ張ったことで、彼は命を救われる。尤もそれにも気づかず気絶している彼は、このあと逮捕され裁かれる運命が待ち受けている。彼のしたことを考えれば、死刑は必至だ。ここで殺されたとしてもそれは遅いか早いかの違いではあったが、しかし√能力者たちはかれを「生かす」と決定した。
だれかが安堵の意気を漏らす。そして、彼らの前に立った大柄な影を見上げる。
「不甲斐ない。あまりにも無力であった。我らが神は何故、斯様な者達にまで慈悲を為そうとなさるのか――」
その名は「ドロッサス・タウラス」。
√マスクドヒーローの市井にシデレウス・カードをばら撒いた張本人は、それによって運命を狂わされた酒巻を炎天下で干からびるミミズでも見るように一瞥した。
かれが、全ての元凶だ。彼はシデレウス怪人のあまりの情けなさに激昂しているが、√能力者には微塵も興味のない様子で言う。
「去るがいい。我はこれよりこの失敗作を始末し、早々に帰還する」
これは、我が貴様たちにかける慈悲である。
殺されたくなければこの場を去れ、そう、見下した様子で言っている。
けれど、酒巻は裁かれるべき人間だ。ここで彼が殺されれば、連続殺人事件の犯人は永遠に捕まらない。
ならば、この場でここにいる諸悪の根源を、倒すまでだ――。
========================================
第三章 ボス戦 「ドロッサス・タウラス」が 現れました。
おめでとうございます。√能力者の戦いの結果、一般人たちが傷つけられることはなく、シデレウス怪人として暴走した酒巻は無力化されました。
しかし、彼の不甲斐なさに怒りを覚えた、シデレウスカードをばら撒いた張本人は、酒巻をこの手で始末するためにこの場に現れました。
ここに運命は集約し、未来は決定されました。
以下に詳細を記します。
「戦場について」
第二章から変わらず、車二台が行き交えるような幅の住宅街の屋外となります。
時間の経過により現在時刻は午前10時ごろとなり、晴れていることも相まって視界はすこぶる良好です。
また、√能力者たちが適切な避難誘導を行ったこと、そして更に凶悪な容貌の怪人が現れたことから、第三章では民間人は完全に家の中に避難を終えています。避難指示をプレイングに書く必要はありません。
戦闘に利用できそうなものも存在しますので、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
リプレイ開始とともに敵がその場にいる状況となりますので、事前の行動を行っておくことは不可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)
何らかの準備行動を行うには、戦闘と並行して行うことになります。
「ボス戦 ドロッサス・タウラス について」
星界の力、中でもゾディアックの力を操るゾーク12神の一柱です。神聖を持ち傷つけることは極めて困難ですが、基本的に他者を見下し、舐めています。
この「他者を見下している」という一点が、彼と戦う中でもっとも付け入るべき隙となるでしょう。
彼は自らばら撒いたシデレウスカードによって生まれた怪人「サジタリアスダビデ」のあまりの不甲斐なさに怒りを覚えています。酒巻を避難させるようなプレイングは必要ありませんが、√能力者たちには最初は見向きもせず、彼を自分の手で殺し、存在自体が恥として「なかったこと」にしてしまおうとしています。
ボス戦であるため、ひとつのリプレイごとに敵にダメージを与えていく形となります。最後のリプレイでなければ、敵に止めを刺すことは出来ませんので、あらかじめご了承ください(どのプレイングを「最後のリプレイ」として採用するかは、送られてきたプレイングの締め切りおよびプレイングの内容によって決定します)
√能力者たちはみな同じ場所にいます。その為、「後続者の役に立てるために情報などを残しておく」プレイングも可能です。(ただし、√能力に関する情報は、後続者が選んだ√能力次第では役立てる機会が訪れない可能性もあります。ご留意ください。)
√能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、その強固な肉体や金棒などによって攻撃してきます。プレイングや√能力の内容次第では敵に攻撃させずに倒すリプレイになる可能性がありますが、あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
第三章のプレイング受付開始は、この断章が公開されてから即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは、現れた諸悪の根源を倒し。この事件を解決してください。

「悪いけど、殺させる訳にはいかないな」
生かすと決めたからには生きたまま警察に引き渡さないといけない
それに、俺はこの事件の元凶であるお前を一発殴ってやらないと気が済まないからな
酒巻を殺そうとするタウラスに向けてダッシュで踏み込んでスタンロッドで攻撃
高圧電流を流して意識をこちらに向けさせながらダメージを与える
以降は酒巻と敵の間に割り込むような意味で接近戦を続け、酒巻が殺されないように戦う
敵の攻撃は見切りで回避してカウンターで反撃
タウラスクラッシャーで光に満ちた世界が出現したら敵に右掌で触れてルートブレイカーを発動
世界を打ち消して、その隙に畳み掛けるよ
※アドリブ、連携歓迎です
「悪いけれど――彼を、殺させる訳にはいかないな……!!」
クラウスは現れたドロッサス・タウラスに向けてアスファルトの地面を蹴り、スタンロッドを叩き込んで高圧電流を流す。
クラウスはシデレウス怪人・酒巻翔也を「生かす」のだと決めた。ならば、生きたまま警察に引き渡さないといけない。小心な小物という人格の酒巻は√能力者の戦いの中でも「反省」の様子だけは見せなかったし、恐らく自首することもないだろう。ならば事件はまだ終わっていないし、何よりクラウスは、この事件の元凶であるドロッサス・タウラスを一発殴ってやらなければ、どうしても気が済まなかった。
「去れと言っているのが聞こえんのか。それとも、この不甲斐なき出来損ないに情けをかける必要があるのか?」
高圧電流を流されながらも、ドロッサス・タウラスはまるで声音を乱すことなくクラウスに問う。
どこまでも自分が上。他の者は見下す対象として話しているのが、クラウスには手に取るようにわかる。
「情けはないな。だが、義務がある」
「義務? 何のだ。貴様は取り立ててヒーロー、というわけでもあるまいに」
「確かに俺はヒーローじゃない。だから、一般市民の義務さ。事件を起こした犯人は、警察に引き渡さないとな」
「は、ははは!笑わせる!一般市民と来たか!」
クラウスは敢えてドロッサス・タウラスの気を引くような言葉を選び、そして常に酒巻との間に入り、酒巻が殺されぬよう、出来る限り酒巻からドロッサス・タウラスの意識を自身に引くように動く。
「では一般市民よ、退け。このような状態を緊急事態、というのだろう。ならば一般市民は自らの命を最優先にするべきだ」
「……そんな時にでも、死のうとしている人を見捨てられない奴はいるものだ」
「それを愚行と呼ぶのだ。貴様はそこまでの愚物か?」
「そうだな、あんたにあいつを殺させないためなら、俺は愚かにだってなってやるよ……!」
「そうか、愚か者よ、ならば貴様から死ねぃ」
ドロッサス・タウラスがその大きな掌でクラウスの頭を掴み上げようと手を伸ばした。その瞬間、タウラスの全身に力が漲ったのを感じる。クラウスは今、ドロッサス・タウラスのそばを離れるわけにはいかない。そうすれば酒巻の命はない。だから、大きな回避行動はとれない。そのまま最小限の動きで回避し、そしてスタンロッドの出力をさらに上げ、突くように電撃を放つ。
「ムゥン!!」
ドロッサス・タウラスから――否、正確にはタウラスの掌がクラウスを掴み上げようとして失敗した地点から、光が広がる。これは、駄目だ。敵の√能力が発動したことを認識し、クラウスは目を眩ませながらタウラスのその胴へと右掌で触れた。
【ルートブレイカー】。全ての√能力を打ち消す、ただそれだけの√能力。たちまちに光は収まっていく。
「ヌ、ゥ……!」
「やらせない――!」
クラウスはスタンロッドをドロッサス・タウラスに押し当て、高圧電流を流し込みながら、そのまま左腕で引き抜いた電磁ブレードを突き立てる。
金属らしき防御を電磁パルスを帯びた刀身が斬り裂き、筋肉の鎧を穿つずぬり、とした感触が、クラウスの左腕に伝わってきた。
🔵🔵🔵 大成功

★BR
ん~ん全然、御礼を言われる事じゃないよお~。
(だって…他の皆が生かすって決めたんだもん。わざわざ衝突するなんて面倒臭いでしょ。)
レーテの霊薬を飲み、激痛への備えを。
常に酒巻と敵との間に立ち回り、攻撃は[見切り、受け流し]て防御に徹する。
流し切れない攻撃はいっそ躱さず負傷前提で受け止め、敵の腕が骨折した隙を突き懐に転移。ナイフを装甲の隙間へ[貫通]させそのまま[怪力]に物を言わせ無理矢理[切断]する。
ナイス玖珠葉ちゃん。此れでもう猛牛みたいに突っ込んでくるしか出来ないね~。
ところで…ココ、何の部位かなあ…? ま、食べてみれば分かるか。
…ふふ、美~味し。やっぱり、食材は新鮮なのが一番だねえ。

★BR
酒巻を庇うルメルくんに礼を言う
ルメルくんのそういうとこ俺には真似できねぇわ
(殺さないとは確かに言ったがコイツを庇うってのはありえねぇよ)
玖珠葉ちゃんが敵と対峙してくれてる間に【武装化記憶】で酒巻のカードに触れて交渉。
お前を一番見下しているやつに一泡吹かせてやらないか?あいつ、お前の事失敗作とか言ってるぜ?勝手に期待しといてよ、そりゃねえよな?ククク
オーラソードが出来たら敵に斬りかかる。感情を逆撫でして理性を飛ばさせるのが狙い。
痛いか?この剣、あいつが作ったんだぜぇ?利用する側の問題じゃないのか?お前があいつをうまく使えなかっただけの…失敗作ってな
人間相手に腕の骨まで折るとか必死すぎるだろ

★BR
あーあ、お恥ずかしいったらありゃしない。
ミスを『無かった事にする』なんて、最悪の処理法よ。
その程度しか思いつかないなんて、貴方はボスとしては三流以下ね。
価値観も考え方も違っても、手を携える事は出来る。それが人の強かさって奴よ
物理的な力で押さえつける事しか思い付かない貴方には、理解できないでしょうけど
《陰陽ノ双子剣》を起動して、星界金棒の軌跡を確と観察し看破して見切り
干将と莫耶で極力受け流してダメージを抑えたら
自分の攻撃で骨折してる間抜けに双子剣を叩き付け、破邪の霊気で敵の動きを封じ
碧流さんの一撃に繋げる
終わりの刻よ。いい加減、力押し以外の手管も覚える事ね。
アドリブ絡み連携歓迎
「あーあ、ほんとにもう、怪人がこれなら黒幕もこれ? お恥ずかしいったらありゃしない」
ミスを『無かった事にする』なんて、最悪の処理法よ。
「その程度しか思いつかないなんて、貴方はボスとしては三流以下ね」
玖珠葉の言葉に、ドロッサス・タウラスは彼女を一瞥もせずに告げる。
「此奴がカードを手にしたことがそもそもの間違いである。されど時は戻らぬ、これ以上無様な姿を晒させぬための、我の慈悲と考えよ」
そうしてドロッサス・タウラスが気絶しているシデレウス怪人・酒巻の頭を砕こうとしたその鈍く光る金棒を振り下ろすその瞬間に、ルメルはその隙間に滑り込み、ナイフ一本で金棒を受け止める。
「~~ッ、」
既にレーテの霊薬を口にして痛覚を遮断してはいるが、それでも感覚を失っているわけではない。重量級の攻撃を受けた手に痺れはくる。
「ヒュゥ。ありがとよ、ルメルくんのそういうとこ、俺には真似できねぇわ」
(殺さないとは確かに言ったが、コイツを庇うってのはありえねぇよ)
「ん~ん、全然。御礼を言われることじゃないよお~」
(だって……他の皆がこいつを「生かす」って決めたんだもん。わざわざ衝突するなんて、面倒臭いでしょ)
横に並び、酒巻の荷物を探る碧流の言葉に、にこやかに返すルメル。
けれど彼らの内心は、それぞれとてもシビアだ。
そんなふたりの男の内心を知ってか知らずか――知っていて放っておいているのか。玖珠葉は己の√能力【|陰陽ノ双子剣《インヤンのふたごけん》】を発動し、自身の纏う霊気と妖気を刃として凝縮して双子剣『干将』『莫邪』に変形させる。そのまま両の手に双子剣を握り、アスファルトの大地を蹴ってドロッサス・タウラスに斬りかかる。ドロッサス・タウラスの意識を出来る限り自身に集中させるために、挑発の言葉を紡ぐ玖珠葉。
「価値観も考え方も違っても、手を携えることは出来る。それが人の強かさって奴よ……!物理的な力で押さえつける事しか思い付かない貴方には、理解できないでしょうけど!」
「斯様な戯言で我の注意を引くつもりか、それほどに我の邪魔をしたいか、貧弱にして無知なる者どもよ。ならば貴様らから去ねぃ」
ドロッサス・タウラスは鈍色に光る星界金棒を彼ら三人の頭上めがけて振り抜く。その動きを玖珠葉は確りと観察し、看破して躱したが――まだやる事があった碧流は、避けられない。ち、と碧流の舌打ちが鳴る。
(まあいい。俺の頭でもカチ割れば、それで骨の一本は無駄遣いさせられんだろ)
「……とか思ってること、わかっちゃうんだよね~。駄目だよお」
碧流くんには碧流くんのやることあるでしょ。僕は痛み感じないからね~。
「そうかい、ありがとよ」
その攻撃を受け止めたのは、ルメルであった。ナイフでは受け流しきれず、金棒によって額を割ったのであろう、つ、と鮮血が眉間を伝っているが、霊薬の効果で痛覚を遮断しているルメルはそのまま肉体の発する警告信号を無視して動くことが可能だ。
「ムゥッ……!」
√能力の代償に、ドロッサス・タウラスの片腕の骨が折れる。金棒を握る腕がだらんと垂れ下がった隙に、玖珠葉は双子剣でもって斬りかかり――碧流は気絶したままの酒巻の荷物の中から、目当てのものを見つけ出す。それは、ドロッサス・タウラスがばら撒き、そして酒巻の手元にたどり着いた、「射手座」と「ダビデ王」の二枚のカードだ。
(――なあ、おい。お前を一番見下してるやつに、一泡吹かせてやらないか?)
【|武装化記憶《サイコメトリック・ジオキシス》】。碧流はその√能力で、カードに語り掛ける。
あいつ、お前の事失敗作とか言ってるぜ?
(勝手に期待しといてよ、そりゃねえよな? ククク、)
悔しい。腹立たしい。俺は何も悪くない。全部全部、俺以外のやつが悪い――そんな、酒巻翔也が手にしていたカードに焼き付いた記憶は、碧流の差し出した手を取った。元より酒巻はカードを拾っただけだ、ドロッサス・タウラスの情報など持ってはいないし、碧流も|最初《はな》から期待していない。ただ焼きつけられた記憶は碧流の手の中に凝縮し、青と緑の――それは、酒巻のシデレウス怪人態の纏った色とよく似ていた――サイコメトリック・オーラソードが碧流の手の中に現れる。
「――ヌウンッ!!」
新たな武器の登場に二度目の星界金棒を振るったドロッサス・タウラス。その金棒は再びルメルのナイフで受け止められ――そして、受け流しきれずにルメルを吹き飛ばす。そこで玖珠葉は干将莫邪をそれぞれの手から僅かな時間差でもって斬りつけて、刃に纏わせた破邪の霊気によってドロッサス・タウラスの動きを封じる。そこに斬り込んでくる、碧流のオーラソード。
「グオォォッ……!」
「クク、痛いか? この剣はてめえが失敗作だと抜かしたあいつが作ったんだぜぇ?」
「ヌ、ゥッ……!」
「利用する側の問題じゃないのか? お前があいつをうまく使えなかっただけの……失敗作、ってな。人間相手に腕の骨まで折るとか、必死過ぎるだろ」
薄笑いを浮かべてドロッサス・タウラスを見下す碧流の刃は、その肩に突き刺さっている。ドロッサス・タウラスが身動きできなくなり、両腕の骨も折れたのを確認して、ルメルはにっこりと笑った。
「ナ~イス、玖珠葉ちゃん、碧流くん。此れでもう猛牛みたいに突っ込んでくることしか出来ないね~」
ルメルはナイフを構えたままドロッサス・タウラスの懐へと転移し、ナイフを装甲の隙間へ貫通させる。そのまま力に物を言わせて肉を刺し、抉り取った。
「ん~。ここ、何の部位かなあ……? ま、食べてみれば分かるかあ」
ぺろりと舌で巻き取ったその肉をひと呑みにする。【|Carno Gula《カルノ・グラ》】、ルメルの√能力により、負っていた傷が癒される。額を割った傷は塞がり、流れる血をぐいと拭う。
「ん~……牛タン?」
「それはねぇだろ」
「足だったわよね…?」
「ごめえん、多分スネ肉かなあ。……ふふ、美~味し」
やっぱり、食材は新鮮なのが一番だねえ。
「グ、オ、オォォォ……!!やってくれたな、小僧どもがぁ……!」
軽口の叩き合いに、未だ玖珠葉の破邪の力から逃れないでいるドロッサス・タウラスが束縛を打ち砕かんと暴れる。自身を虚仮にされたことに怒りに満ち、全身からしゅうしゅうと白い煙を噴き出している。
「――終わりの刻よ。いい加減、力押し以外の手管も覚えることね」
そう言って地面を蹴った玖珠葉の双子剣はドロッサス・タウラスの片腕と喉を斬り裂き、碧流のオーラソードが肩から袈裟懸けに巨体を斬りつける。
「オォォォォオオオオオオッッ!!!!」
絶叫とともにドロッサス・タウラスの体はアスファルトの地面に沈み、そしてぴくりとも動かなくなった。
√能力者である以上はやがて死後蘇生してくるのであろうが――、ドロッサス・タウラスはここに、死んだ。
連続殺人犯だった酒巻翔也は、その後駆けつけてきた警察に逮捕されていった。
こうして、√マスクドヒーローで起こっていた連続怪死事件は、終わりを迎えたのである――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功