聖者は神に祈らない
●人事を尽くす
北欧のある農村にて。
時刻は昼下がり。普段なら、あちこちの家からかまどの煙が立ちのぼり、食卓を囲む家族の笑い声が響く時間だ。
しかし、今は煙一つ立たず、村全体が不気味に静まり返っている。
「誰か、誰かいませんか!? 聞こえたら返事をして!」
叫びが静寂を切り裂いた。何度も張り上げ続けたのだろう掠れた声が、いるはずの誰かを呼んでいた。走り回っているのか、声には荒い息が混じる。それは助けを求めるものではなく、むしろ誰かを助けようとする強い意思に満ちていた。
「誰か! 無事ですか!?」
一向に返事はなかったが、それでも、声の主が諦める気配はない。彼ないし彼女は村の隅々まで足を運び、人を探し続けるのだろう。
――村に潜む怪物に見つかる、その時まで。
●星が照らす
「人間が天使になる病気って知ってますか?」
星詠みの少女、糸根・リンカ(ホロウヘイロー・h00858)。彼女は集まった√能力者たちに対し、√汎神解剖機関の奇病について語り出した。
「ヨーロッパの古い風土病です。本当の善人しか感染しませんが、感染した人のほとんどは怪物になってしまいます」
その病気の感染者は人間からかけ離れた容姿となるらしい。皮膚が未知の金属で覆われたり、白い翼が生えたりと、まるで人間の偽物だと記された記録が残っている。そして大半のケースにおいて、理性や善の心を失ったとも。
「この怪物は『オルガノン・セラフィム』という|新物質《ニューパワー》なんですが……今回のお願いは別にあります」
世界中が血眼になって求める|新物質《ニューパワー》。それより優先すべきものがあると、リンカは続ける。
「感染しても心を失わなかった人がいます。真の天使とも言えるその人を、皆さんで保護してください」
真の天使。それは、すでにこの世界では誕生しなくなったと思われていた存在だ。その存在自体が貴重であるし、異形の姿ではもう普通の社会では暮らせない。その者を保護するのが今回の目的らしい。
「その人は今、住んでいた村が無人になってしまって混乱しています。他の人は怪物になってしまったか、襲われたか、無事に逃げられたか……。とにかく、このままだとその人は怪物に襲われるでしょう。その前に見つけてください」
ただし注意点がある。天使は完全な善人なので、危険だからと避難を促しても容易には頷かないだろう。生存者を探しているようなので尚更だ。場合によっては√能力者たちに同行することになるかもしれない。
「それと、怪物を捕獲しようと『羅紗の魔術塔』が動いてます」
『羅紗の魔術塔』はヨーロッパを拠点とする秘密組織だ。自国利益のために汎神解剖機関と対立しており、今回も|新物質《ニューパワー》の独占を企んでいるらしい。そして天使もまた、|新物質《ニューパワー》として非常に価値がある。
「『羅紗の魔術塔』はまだ天使に気付いてません。でも、見つければ徹底的に狙ってくるでしょう。気を付けてください」
今回の事件は非常に複雑で、この先大きな騒動となるかもしれない。そう締めくくり、星詠みは√能力者たちを見送ったのだった。
マスターより
渡来あん予想外のワクワクをお届けしたい、渡来あんです。
今回は天使と怪物、そして魔術士が交錯するシナリオです。
●第1章⛺『廃墟探索』
人気のない農村で天使を見つけて保護してください。
彼ないし彼女は根っからの善人で、自身の安全より生存者の捜索を優先します。
避難させたい場合は工夫が必要でしょう。
●第2章⛺『助けを求める声』/👾『オルガノン・セラフィム』/👿『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』
第1章の内容次第で分岐します。
天使を避難させるか否かが大きなポイントですが、それ以外も影響します。
●第3章『???』
これまでの内容次第で分岐します。
複雑に分岐するため、どうなるかはその時次第です。
●Ankerジョブ「天使」
本シナリオに上記の方がご参加いただく場合、OPなどで描写されていた天使(の一人)として扱うことができます。
どのような立場で関わりたいか、ご提示いただけると幸いです。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
23
第1章 冒険 『廃墟探索』
POW
瓦礫や家具を取り除き、埋もれたものを探す
SPD
隠された通路や物品を目敏く見つける
WIZ
周囲を漂うインビジブルを調べる
日南・カナタ善人しか感染しない病とか…なんだよそれ…
しかも多くは化物みたいになるって聞いた…
そしてそうならなかった者と共に|新物質《ニューパワー》として付け狙われるだなんてそんな物みたいな扱い…元は人間なんだぞ…!
そんな行き場のない憤りをなんとか抑えつつ、
とにかく天使となってしまった人を見つけて保護しないと!
と、周辺のインビジブルに聞いみる為に
【|心霊聴取《クレアオーディエンス》】を使用し聞き出す
そして見つけた天使にまずは怯えさせないよう名を名乗り、
自ら避難する気はないみたいと察すると
いや実は…自分が怖くて避難したいけど土地勘がなくいい避難場所が分からないから教えて!一緒にそこまでついてきて~~と懇願する
志藤・遙斗【アドリブ・共闘歓迎】
タバコをすいながら
「最優先は天使の安全確保か、さて、どうしたものかな?」
天使に声をかけながら
「ココは危険ですので非難しましょう」
拒否された場合は
√能力「職務質問」を使用。周囲にいるインビジブルに声をかける。
聞く内容は「近くにまだ生存者がいるか」「ここ以外の安全な場所はどこか」
生存者がいる場合は救助を行う。
安全な場所が有る場合は、天使に声をかけて一緒に移動を開始します。
八手・真人エート、エート……天使さん、天使さん……どこ、かな。
たこすけ、気配とかでわかる……? きっとヒトとも怪異とも違うよね……。
(真人な声に反応し、『蛸神』の触腕がウネウネ。周囲の気配を探る)
——「純粋で、善良なヒトは天使になる」……兄ちゃんも、なっちゃうのかな。嫌だな、これ以上 兄ちゃんが変わっちゃうのは……。
(ペシペシ、と頭を叩く触腕。一本が、一方向を指している)
……今は、仕事に集中しないと。
天使さんに、会ったら……どうしよう。説得して連れて行かないと……エット、エット……「あなたが無事に帰らないと悲しむ人がいます」、とか……?
に、兄ちゃんみたいに純粋なら、きっと素直に聞いてくれる、よね……?
マリー・エルデフェイ昔、噂話程度に聞いた天使病を実際に目にすることになるなんて思ってもみなかったわ。
急に人から天使に代わってしまって大変な思いをしているででしょうし、助けて上げなくちゃ。
農村についたら天使を探します。
農村の中心で神聖竜詠唱を使い天使がどこにいるか見つける願いをします。
「神聖竜よ、天使さんの居る場所を教えて」
居場所が分かったら、近くに居る他の人にも情報を共有して向かいます。
神聖竜詠唱で居場所が分からなかった時は、耳を澄ませながら周囲を探索し、物音のする方向に向かいます。
天使を見つけたら、安全な場所への避難を促す。
「生存者の探索は私たちが変わりにするので、貴方は安全な場所に避難してくれないかな?」
●農村
農村に到着した√能力者たちは、さっそく天使を捜索し始める。
『xxx xxx xxx』
「えっと、プリーズスピークイングリッシュ」
『これでいいかい?』
呼び出したインビジブルが謎の言語を話し出した時は焦ったが、何とか会話できそうだと、日南・カナタ(新人|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01454)は安堵の息をついた。
言語トラブルを失念していたのは星詠みの手落ちである。おかげでカナタは飛行機の中で英会話本を読み込む羽目になったが――ともかく。
急なお願いにも嫌な顔一つせず応じてくれた相手は、おそらくこの村の元住人だろう。昔から善人の多い村だったようだ。
こんな善人だけが感染する病気があるなど許しがたい。感染者は化け物となるか、ならずとも人間扱いされなくなる。なんと悪辣な病だろうか。
憤りを押し殺しつつ、年上だろう相手にかしこまって尋ねる。
「翼の生えた人って通りませんでした? ついさっきだと思うんですけど」
『ああ、あっちに走っていったよ。人を探してたね』
「ありがとうございます!」
天使の目撃情報を頼りに進む。分かれ道では再び聞き込んで、右、左、さらに左と足取りを追っていく。
「……あっ、ここをぐるっと回り込んでたのか」
それは最短ではなくとも、確実な道だった。
このまま追うこともできるが、早く追い付けるに越したことはない。何か方法はないかと、八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)は唸る。
「エート、エート……たこすけ、気配とかでわかる……?」
聞く限り、天使とやらは人間とも怪異とも異なる存在だ。ならば気配を判別できないかと、自らに取り憑いている怪異『蛸神』へと尋ねてみる。
背中の触腕がピンと真っ直ぐ伸びたかと思うと、波打つようにうごめきだした。伝わったのだろう、周囲の気配を探っているようだ。
結果を待つ間、天使化について思いを馳せる真人。
(『純粋で、善良なヒトは天使になる』……兄ちゃんもなっちゃうのかな。嫌だな)
『蛸神』の依代として無理をした兄は変わってしまった。精神が幼くなり、一日の大半を寝て過ごすようになった。今の兄が嫌いなわけではないが、以前の兄を求める気持ちは確実にある。
これ以上変わってほしくない。天使化は風土病らしいので、兄には欧州旅行を我慢してもらうべきだろうか。そんな風に悩んでいると、いつの間にか触腕が頭を叩いていることに気付いた。
「……今は、仕事に集中しないと。って、え?」
方角を指し示す触腕を見て戸惑う。二本の触腕がそれぞれ別の方向を指している。それが意味するのは一つしかない。
天使の気配が、二つある。
存在が判明した二人目の天使。星詠みが予知したのは一人だったはずだが、すり抜けていたのだろうか。
ともかく、どちらに向かうかを決めなければならない。そんな時だ。
「あっ、思いついたわ。ちょっとそこで待っててね」
マリー・エルデフェイ(静穏の祈り手・h03135)はそう言って走り出した。仲間たちの姿が小さくなるまで距離を取り、厳かなアリアを歌い出す。
それは竜への嘆願だ。歌声に応え、白いドラゴンが空からマリーの前へと降り立つ。
「神聖竜よ、天使さんのいる場所を教えて」
歌い手の願いを受けて竜が示したのは、やはり二つの方角。それ以上は分からなかったが、マリーは頷いて竜に感謝を述べ、仲間の元へと戻った。
「あのね、ここからだと反応はこっちとこっち向きよね? でも向こうからだと別の向きに見えるの。合わせたら……ほら、三角形になるわ」
ガリガリと地面に線を引いて説明する。要は三角測量だ。線を結んで出来た三角形は四通りあるが、村の中を指しているのは一つだけ。ならそれが真である可能性は高く、必然的にもう片方も確定する。
導き出された場所は、村の中と村はずれの二か所。村の中の方が近いし、予知の内容にも合致している。
そうして、√能力者たちはその地点へと急ぐのだった。
●天使
「ああ、やっと人がいた! この村の人ですか? あっ、俺はカナタっていいます」
「えっ、はい。ヨハンといいます。貴方たちは……?」
天使は20代後半と思しき精悍な男性だった。近くの川で釣りをしていたところ、突如として体が変異し気絶したらしい。気が付いてから村に戻ればこの有り様だったという。
√能力者たちは旅行者を装い、地元民であるヨハンに訴えかける。
「どうにもココは不穏です。一緒に避難しましょう」
志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)はそう提案したが、ヨハンは首を横に振った。
「俺は、村の皆がどうなったか確かめます。皆さんは構わずに行ってください」
「……そうですか。っと、その前に一服失礼します」
喫煙を理由に時間を稼ぎながら、遙斗は思考を回す。
最優先すべきは天使の安全確保だが、彼が強情なのは見ての通りだ。もう一人の天使の件もあるし、ここで時間をかけるわけにはいかないのだが。
(さて、どうしたものか……)
遙斗が考え込むそばで、真人も精一杯説得を試みる。
「エット、エット……あなたが無事なのが一番って人もいるんじゃ、ない、ですか……?」
「両親はそう言うでしょうね。もし二人が無事で、そう言われたら、俺も弱いです」
真人はハッとした。兄は聞き分けが良いが、それは弟の言葉だからではないのか。もし自分が安否不明になれば、兄は誰かに言われて大人しくしているだろうか。
そんな兄の姿は想像できない。兄は変わってしまったが、真人のことは変わらずに愛してくれているのだから。
雲行きが怪しいと見たカナタは一計を案じた。
「いや実は……俺たちってほら、土地勘がないので! どこに行ったら良いかわかんなくて、できればついてきてほしいなーって思うんですよ」
自分たちを助けてほしい。その主張は善人には良く響くだろう。事実、ヨハンは少し考えて頷いたのだが。
「わかりました。一通り村を回ったら一緒に行きましょう」
「あっ……えー、ソウデスネー」
誤算は緊急度の違いだった。
「村の状況がわかればいいんですね。なら、知っている人に聞きましょう」
結局、問題はそこに収束する。
遙斗は煙草から口を離すと、鋭く息を吐いた。吐かれた煙が辺りに漂い、やがて二人の老人の姿をかたどる。
「ニコラスさんにアランさん!? 去年亡くなったはず!?」
さすがに驚くヨハンだったが、降霊術と説明されてすんなり受け入れたのは、果たして善人だからなのか。
「さてと、少しお話を伺っても? この村には今、誰か取り残されていますか?」
『わしらも村中を見回ってはおらん。じゃがきっと大丈夫じゃ』
『怪物が出た時は大騒ぎだったが、パウルの奴が頑張ったからな』
「えっ、パウル爺さんが?」
『おう、お前さんみたく姿が変わっとったが間違いないわ』
もう一人の天使はパウルという老人らしい。怪物が自分を狙ってくると気付いた彼は、自らを囮に怪物たちを村はずれと誘導していったそうだ。そのおかげで、他の村人は大した被害もなく避難できたのだとか。
「村はずれか、情報と一致するな。ご協力ありがとうございました」
取り残された村人はいないと判明した。だが同時に、もう一人の天使の献身も明らかとなった。
当然、ヨハンは救出に向かおうとする。そしてそれを止められないことは、ここまでのやり取りでマリーも理解していた。
「もう逃げようって言わないから、せめて私たちにも手伝わせて。こう見えて荒事は得意なのよ?」
「ですが……いえ、すみませんがお願いします!」
マリーたちが退かないとヨハンにも分かったのだろう、すんなりと同行が決まる。
事態は一刻を争うのだ。先ほどまでは確かに反応があったが、今も無事だとは限らないのだから。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』
POW
捕食本能
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD
生存本能
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
聖者本能
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
●二人の天使
「森の入り口に作業道具を置いておく小屋があるんです」
村はずれへと向かいながら、√能力者たちに同行した男性、天使のヨハンが説明する。どうやらこの先は森に通じているらしい。
「頑丈な作りなので、立てこもればしばらくはもつはずです。パウル爺さん、無事だといいんですが……!」
予知になかったもう一人の天使、パウル老人。自らを囮に村を救った英雄を救うべく、一行は先を急ぐ。
小屋が見えてきた瞬間、一行は息をのんだ。問題の小屋が怪物に取り囲まれていたからだ。天使の出来損ないとも称される異形、オルガノン・セラフィム。それが見えている範囲で十体はいるではないか。
天使を捕食するという怪物がこうも集まっているのは、小屋に天使がいるからに違いない。扉や窓が執拗に攻撃されているが、内部から補強されているのか、軋みながらもまだ破られてはいない。ただ、それも時間の問題だろう。
「パウル爺さーん! 今助けにいきまーす!!」
「……誰だ、ヨハンか!? 来るんじゃない、儂が引きつけとるうちに逃げろ!!」
ヨハンが叫ぶと小屋の中から返事があった。絶体絶命の状況だろうにこちらの身を案じるその声は、善性にあふれたもの。まぎれもなく、善人の言葉だった。
ヨハンの声に反応して、半数のオルガノン・セラフィムがこちらを向いた。しかし、残りの半数は相変わらず小屋を攻撃し続けている。
「……俺が注意を引きます。パウル爺さんの救出、お願いできますか?」
怪物は天使を優先的に狙う。ヨハンは自らが囮になる気だ。しかし、√能力者たちにとってはヨハンもパウルも守るべき対象である。戦い方は考えねばなるまい。
強引に救出するなら、突入する隙をどう作るかが鍵となる。殲滅を狙うなら、先に小屋が壊されては意味がない。全ては√能力者次第である。
八手・真人★【八曲署】同行(対仲間:さん付け/敬語)
救助対象——パウルさんの、回収……みんなから任された役割だから、ちゃんと果たさないと……。
マリーさんと一緒に、小屋からは離れた位置で待機……。
マリーさんと志藤さんの足止めを待ってから……たこすけ、お願い。素早くなって、いっぱい伸びて……。
パウルさんが説得に応じて出てきたところを——シュルッと優しく掴んで、パウルさんを連れてきて……!
逃げ遅れちゃいそうなら、志藤さんと日南さんのことも……!
無事に回収できたら、撤退っ……! パウルさんが走れなさそうだったら、たこすけが掴んだままで……!
マリー・エルデフェイ【八曲署】で参加
まさかもう一人天使が居るなんて、無事な人が増えて良かったというべきかなんというべきか悩ましい状況ね。
志藤さんの指示に合わせて、オルガノン・セラフィムを対象に行動不能目的にLuminous Groveを使用します。
「本来は味方に使う能力だけど、力は工夫次第ってところね。」
少しでも多くの相手、少しでも長い時間効果を発揮できるように集中しつつ、ヨハンさんが勝手に動かない様に注意をはらう。
「ヨハンさん、パウルさんが心配だと思うけど、ここは私たちに任せて。危機的な状況だからこそ、不慣れな貴方より慣れてる私たちの方が確実に助けられるから。」
パウルさんの救出が終わったら全員で退避します。
日南・カナタ【八曲署】で参加
天使になった人がもう一人いて、そして今大ピンチじゃないですか!
でもきっと俺達ならなんとかやれますよね!
志藤先輩の指示に「了解!」と返事をし、
マリーさんの√能力使用後に志藤先輩と共に小屋へと向かう
途中襲ってくる奴らをハンマーでなぎ倒しつつ進む
パウルさん!今小屋を取り囲んでいた奴らは行動不能に陥ってます!
脱出する機会は今です!ヨハンさんもいますので一緒に脱出しましょう!
最後の一押しで【|転生の孫属性《グラントチャイルド》】を使用し説得の効果を高める
俺はパウルさんにも生きて欲しいんです!
それにこの危機を脱するのに経験豊富な貴方の知識が必要になるかもしれない!だからお願い!一緒に来て!
志藤・遙斗【八曲署】で参加
タバコを吸いながら小屋の周囲を確認
「要救助者は小屋の中ですか…何とか説得をして外に出てもらわないと。」
「マリーさんと、八手さんは後方支援を、前衛は俺とカナタ君が担当します。」
「説得はカナタ君お願いします。高齢の方の説得得意ですよね?」
と大体の指示を出してから自分も戦闘準備を行う
戦闘時
マリーさんが行動不能にした敵を抜けて小屋の近くまで移動
小屋の周りにいる敵に対して、「制圧行動」を使用。小屋周りの敵に霊震を与えて行動を阻害しつつ、周囲を警戒
カナタ君の説得でパウル氏が出て、八手さんが救助したのを確認後離脱する
その後は2人を護衛しながら安全なところまで退避する
●救出
「昔に噂話で聞いた天使が、まさか二人もいるなんてね」
そのおかげで村の被害が抑えられたのは確かだが、代わりに当の本人がこうして襲われている。悩ましい状況ね、とマリー・エルデフェイ(静穏の祈り手・h03135)は目を伏せた。
「大ピンチじゃないですか! ……でもきっと、俺達ならなんとかやれますよね!」
しかし、この場には√能力者がいる。仲間に問いかけた日南・カナタ(新人|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01454)を始めとして、彼らの活躍で状況は上向いたのだ。
「要救助者はあの中ですか……何とか包囲を破らないと。対象が脱出に応じるかも懸念点ですね」
カナタの視線を受けて、志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)はくわえていた煙草を指に挟み、状況を俯瞰した。紫煙が大気に溶ける間に無数の考えが浮かんでくる。
彼はこの場における司令塔だ。同じ警視庁八曲署のメンバーとして、仲間たちは全面的な信頼を寄せている。八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)もその一人だ。
「無事に脱出できたら避難ですね。たこすけ、運搬をお願い……!」
決断は一瞬だった。
「やはり、殲滅ではなく突破しましょう。マリーさんと八手さんは後方支援を。前衛は俺とカナタ君が担当します」
「わかったわ。こっちに向かってくる方は任せて」
「いざとなったら手伝います……!」
テキパキと仲間へ指示を出す遙斗。傍にいるヨハンの扱いについても後衛の二人とアイコンタクトを交わし、頷き合う。
「説得はカナタ君、お願いします。高齢の方の説得、得意ですよね?」
「了解! 俺の魅力が火を吹きますよ!」
作戦を一通り話した後は、僅かながら待機時間だ。煙草を改めて口に運び、息を深く吸い込む。ここから先は鉄火場だ、次の一本に火を点ける余裕はないだろう。これが最後と思えば、一層美味しく感じられるというものである。
そうして、若きヘビースモーカーは慣れ親しんだ煙草の味を噛みしめた。
「大いなる森よ、癒しの光よ、穢れなき聖域を築きたまえ」
すぐ近くにも森があるからだろうか、マリーが祈ると普段よりも鮮烈な光が辺りを照らし、光の森とでも言うべき聖域を創造した。
襲ってこようとした敵群はその中に隔離された。攻撃だと認識できていないのか、閉じ込められたオルガノン・セラフィムは右往左往している。
「ふぅ。力は工夫次第ってところね」
本来は味方を援護するための能力だが、何事も使い様だ。もしもこれが単純な拘束だったならば、敵は祝福を共鳴させて早々に抜け出しただろう。あえて薬を与えることで毒となす、マリーの頭脳プレーである。
「すごい……俺もっ」
「ヨハンさん」
動こうとした青年をマリーは片手で制止した。
「パウルさんが心配だと思うけど、ここは私たちに任せて。危機的な状況だからこそ、不慣れな貴方より慣れてる私たちの方が確実に助けられるから」
厳しくも柔らかい眼差しで語る。それは老人を助けるためでもあり、青年のためでもあった。
誰かを傷つけることも、傷つく人を見ることも嫌いだ。自らを犠牲にする天使の在り方は到底看過できない。
教えてあげなければ。誰も傷つくことなく苦難を乗り越える、そんな奇跡は確かにあるのだと。そのために必要なのは、何もかもを自分一人で行うことではなく、仲間を信じて頼ることであると。
「よく見てて。私たちが何をして、何をしてもらうのかを」
「今です、突入!」
敵の第一陣をマリーが無力化した瞬間には、遙斗とカナタは駆け出していた。
目指すは小屋の出入り口。扉や窓には敵の第二陣が今も張り付いているが、作戦の障害をどうするかなど言うまでもない。
遙斗の霊力が空間を揺らし、北欧では滅多に存在しないはずの地震を引き起こす。
ただし、その被害を受けるのは敵だけだ。怪物は耐えきれずに転倒し、何とか立ち上がろうともがき続ける。
「長くはもちません。カナタ君」
愛用の拳銃を抜き放ち、いつでも撃てるよう構えながら遙斗は後を託す。その瞳は油断なく周囲を見据え、些細な変化も見逃すまいと備えていた。
「パウルさん! 今なら脱出できます! 怪物は今動けません!」
カナタは木製の扉を激しく叩き、叫ぶ。ドアノブも回したが開く気配はない、やはり本人に出てきてもらうしかないようだ。
だが、老人の反応は芳しくない。
「誰だ、いや、早く行け! 儂はもう走れん、足を挫いた!」
「そんなの何とかします! ヨハンさんも心配してます、一緒に行きましょう!」
「ヨハンを、村の皆を頼んだぞ。なあに、老いぼれ一人の命で何とかなるなら上等よ」
既に覚悟を決めているその言葉にカッとなる。そちらは村を守れて良い気分なのだろうが、ではこちらの気持ちはどうなるのか。
衝動のままに扉から離れ、すぐそばの窓へ向かう。窓の下で崩れ落ちている怪物を邪魔だと蹴り飛ばし、ガラスに両手を叩きつける。
小屋の中の人物がこちらを向いたのが見えた。豊かな髭を蓄えた老人と、幼さが残る顔立ちの青年、二人の視線が交わる。
次の瞬間、カナタはこれまでで最も大きな声を出した。
「俺はパウルさんにも生きて欲しいんです!!」
そこに笑顔はない。まるで孫のようだといつもなら可愛がられる愛嬌は、今はなく――だからこそ、それは実の祖父を案じるかのような迫真の言葉だった。
老人が目を見開き、何事か呟いた。やがて扉の前で何か、おそらくはバリケードを動かしていく。
カナタはまだ説得の言葉を持っていたが、口にする機会はもうないだろう。孫の願いを聞き入れるのに、理屈は必要ないのだから。
●乱入
老人が小屋から出てきたのと、怪物が再び動き始めたのはほぼ同時だった。
「たこすけ、素早く……! 志藤さんと日南さんのことも……!」
足を痛めたという老人はもちろん、仲間二人の移動速度よりも『蛸神』の方が速い。真人の声に従って、長く伸びた三本の触手が彼らを掴み、優しく、けれど素早く真人たちの元まで運んだ。
「良かったです……後は、撤退っ――」
「全員、厳戒態勢を! 森から何か来ます!」
言いかけた言葉を遙斗の鋭い声が遮る。
直後、森がざわめいた。何事かと木々の奥を覗いてみれば、遠方から白い光が迫ってきている。それはすぐにこちらへと到達し、その正体を現した。
「広がる白光植物、それに無貌の鹿……うそっ、暴走護霊!?」
それは怪異に堕ちた護霊だった。自らの領土を広げ、放置すれば樹海にもなり得る危険な怪異。それがなぜ今、ここにいるのか。√能力者たちが思い至るよりも早く、状況が動いていく。
「……こっちを無視してますね?」
なぜだろうか、乱入者は√能力者たちに見向きもせず、オルガノン・セラフィムへと攻撃し始めたではないか。理由は分からないが、撤退するならば今の内だろう。
パウル老人によると、村人は鉄道で隣町へと避難したらしい。√能力者たちもこの村へ来た際に利用しており、場所は知っている。そろそろ次の列車が来る時間ということで、一行はそちらを目指すことになった。
「ヒュッ、ヒュッ……!」
「むぅ、儂が走れずにすまんのぅ」
その道中で一番きつい思いをしたのは、老人を運ぶ役目を担った真人だろう。息も絶え絶えになりながら、根性で足を前に出していた。
『蛸神』の触手を介しているおかげで、人一人を持ち上げること自体は苦ではない。しかし、人間という大荷物を背負って走り続けられるかどうかはまた別の話である。
「だ、大丈夫、です……! それより、舌っ……噛みますよ……!」
歯を食いしばって走り続ける真人。仲間からは√能力による回復も提案されたが、断った。これは真人が任された役割だからだ。助け合いは、各々の役割を果たした上での話である。
任されたことを、託されたものを投げ出すなんて出来はしない。そんなことをすれば、自分で自分を許せない。
だって、兄は投げ出さなかった。当時の苦労も苦悩も想像するしかないが、それだけは絶対に確かなことだ。
だから、しっかりしないと。もう、真人がしっかりするしかないのだから。
――結論として、一行は無事に駅へとたどり着いた。やり遂げた真人はベンチに座り込み、マリーの癒しを受けることになる。
そうして息が整った後、ほどなくして列車の汽笛が聞こえてきた――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 冒険 『大暴走列車』
POW
力技で列車を停止させようとする
SPD
乗客をかき分けて運転席に行き列車を停める
WIZ
乗客を列車内から避難させる
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●追手
田舎らしく列車は二両編成だった。客席は無人だったため、ちょっとした貸し切り気分だ。
ガタタン、ガタタン、と揺られながら一行は天使たちと共に隣町を目指す。到着まで思い思いに過ごしていた、そんな時。
「羅紗の魔術塔」と誰かがこぼした。次いで、あの怪異はそこに使役されていたのではないかという推測が語られる。
そういえば、そんな組織が動いていると星詠みが言っていたのだったか。ということは小屋にはあの後、羅紗魔術士が来たのかもしれない。鉢合わせれば非常に面倒なことになっていただろう。撤退して正解だったと言える。
オルガノン・セラフィムはおそらく丸ごと確保されただろうが、まあ仕方ない。天使の保護が最優先だ。
そんな風に、ここまでの感想を言い合っていた√能力者たち。だが、一斉に同じ方向を振り向いた。
列車の遥か後方から、悍ましい気配が近づいてくる。しばらくすると悲鳴のような汽笛が聞こえ、時代遅れの黒煙がもうもうと空を汚すのが見えてくる。
車両末尾には乗降用のデッキがある。狭いが、このまま席に座っているよりはましだ。それぞれ移動し、あるいは車両の上によじ登り、その時を待つ。
現れたそれは、蒸気機関車の怪異だった。
明らかに普通の列車ではない。先頭に髑髏の顔が貼り付いた機関車など、普通であるものか。窪んだ眼窩には赤い光が灯り、笑うかのように顎を小刻みに打ち鳴らしている。
これも『羅紗の魔術塔』が使役する怪異なのか。そうだとしてなぜこちらを襲うのか。天使の存在が露見したのか。
疑問は尽きないが、考えている時間はない。怪異機関車はぐんぐん速度を上げている、衝突は目前だ――。
八手・真人★【八曲署】/5人参加
ヒィィッ!? き、機関車の怪異ッ!? あんなのぶつかってきたら木っ端微塵になっちゃうぅ……!
――で、でも、追突される前に、停めればいい、んですよね……。
志藤さんとマリーさんは、この列車をお願いします……!
蛸神様、お願い……|怪異機関車《アレ》、なんとかして……!
(お守りを握り、黄金色の巨蛸『原初の蛸神』を召喚。怪異との融合を指示。※原初の蛸神=真人に憑いている『たこすけ』とは別個体)
と、停まらなかったら……もう、たこすけの怪力でなんとか押し返してもらうしか、ないケド……!
――ひ、日南さんッ! い、いけ~~っ……!
って、アレ——何???(斯波さんの登場に反応)
マリー・エルデフェイ【八曲署】で参加
無事撤退できると思ったら、そう簡単にはすませてくれなさそうですね。
行動を始める前に、列車と列車に乗ってる運転士と天使のお二人、それと仲間全員にレヴェリオ・アエテルナを使っておきます。
「これで多少の無茶はなんとかなると思います。」
志藤さんのおかげで、乗ってる列車が停車したら、運転士さんと天使の二人には念のため列車から降りて私と一緒に列車から離れてもらう。
「こっちはこれで良いとして、後はあの怪異機関車かな。」
八手さんならきっと止めてくれるはず!頑張って!
日南さんと協力してくれてる見知らぬ人も、怪我は治して上げれるけど、無理無茶はしすぎない程度には頑張って!
日南・カナタ【捜査三課】で参加
ぎぃやぁぁー!?力押しにも程があるでしょ!?俺、海外の保険入ってたかなぁ!?
い、いやいやいや…何怖気づいてんだ俺!
先輩達も頑張ってるし何より俺達について来てくれたヨハンさん、パウルさんを守る為にも絶対にあの列車、止めて見せる!
あれは黄金のたこすけ…先輩?
よ、よくわかんないけど…よし、俺も!
志藤先輩!マリーさん!ヨハンさん達を宜しくお願いします!
60秒間暴走列車を止めます!その間に脱出を!
くらえ【|黄金の鉄槌《ゴールデン・ハンマー》】!!
鉄槌を加え列車の衝突を必死に食い止める
斯波先輩の登場に目を輝かせるもなんか先輩がいつもと違うー!?と自分だけ正体知らなかったようでわたわたする
志藤・遙斗【八曲署】で参加【アドリブ歓迎】
デッキに出てタバコに火を付けながら
「はぁ…やっと一息ついてゆっくり味わえると思ったら今度はコレですか・・・」
「さてと、どうしましょうか?」
「仕方ない、列車を止めましょう。さすがに向こうも狙っている天使が乗っている車両に突っ込むことはしないはずです」
運転室に移動
警察手帳を見せながら
「日本から捜査協力できた志藤と申します。緊急事態が発生しました。至急列車の停車をお願いします」
と、乗務員をせかしながら停車作業を行う
乗務員が動揺等で操作が無理な場合、能力「職務質問」を使用
乗務員のインビンシブルに操作を聞き自分でおこなう。
「停まったか、後は向こうの出方次第ですね」
斯波・戒焔【八曲署】
状況を見に来れば、意図的な衝突事故寸前と。
……あまり此方では着るつもりは無いのだが。人命には代えられん。
『――重甲展開、変身』
まず、【極地に至る双腕】(氷の方)を発射。
【属性攻撃(氷)】【マヒ攻撃】【呪詛】を乗せて蒸気機関車の怪異に当てる。
そして――【空中移動】【空中ダッシュ】を利用、
中空の態勢を維持したまま重甲付属のブースターの勢いで押し込む。
必要なら震動を強化しつつ、【リミッター解除】まで検討。
無理矢理に止めるか、【吹き飛ばし】て脱線させるかだ。
凍らせれば少なくとも動かしやすくなるだろうしな。
……気付くのは自由だが見なかった事にはして欲しいがな?
※アドリブ連携歓迎
●停車
「はぁ……やっと一息ついてゆっくり味わえると思ったら、今度はコレですか……」
デッキに出て煙草を吸っていた志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)はため息をつく。吐き出した煙が、時速40キロの風に吹き散らされた。
そんな彼の横にある扉を開けて、仲間たちが車外に出てくる。
「ヒィィッ!? き、機関車の怪異ッ!? あんなのぶつかってきたら木っ端微塵になっちゃうぅ……!」
「ぎぃやぁぁー!? 力押しにもほどがあるでしょ!? 俺、海外の保険入ってたかなぁ!?」
後方からの追跡者に迫られるという危機に、八手・真人(当代・蛸神の依代・h00758)は怯え、竦む。
それは日南・カナタ(新人|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01454)も同様で、思わず普通の事故のような心配を口走ってしまった。
「無事撤退できると思ったら、そう簡単にはすませてくれなさそうですね」
マリー・エルデフェイ(静穏の祈り手・h03135)の言葉が全てだろう。ヨーロッパを震撼させる天使化事変は、まだまだ終わりそうになかった。
「蛸神様、お願い……アレ、なんとかして……!」
真人は首から下げていた折り紙のお守りに触れて、すがるように、あるいは誰かの手を取るように握り、祈る。
するとどうだろう、機関車の車体に、黄金色をした蛸の触手が何本も生えてきたではないか。無骨な黒い鉄にぬらぬらとした生物の一部がくっついている様は、まるで悪い夢のようだ。
それらの触手は、真人の背の『たこすけ』が赤子に見えるくらいたくましい。それらが『原初の蛸神』であると、知る者はとても限られている。
触手は高速で過ぎ去る地面に己の身を押し付ける。普通の生物ならあっという間にすり下ろされる蛮行だが、触手は逆に地面を削り取っていく。
ブレーキだ、と真人は気付いた。蛸神様は地面との摩擦力を利用して、機関車を減速させる気だ、と。
北欧ののどかな片田舎に轟音が響き渡り、土煙が巻き上がる。十メートル、五メートル、三メートル。怪異との距離は依然として縮まり続けるが、そのペースが落ちてくる。
そうしてとうとう、列車と怪異機関車の車間距離がピタリと一定になる。怪異の加速力が完全に相殺された瞬間だった。
「と、止まった……?」
目と鼻の先まで迫った巨大な髑髏顔に引きつつも、真人は胸をなでおろした。
「さてと、どうしましょうか?」
直近の危機を乗り越えて、√能力者たちはいっときの猶予を得た。一旦心を落ち着けて思考する遥斗。
(相手の狙いが天使なら、列車を止めて脱出する手も……いや)
浮かんだ案を、少し迷ったが没にする。
相手の狙いを逆手に取るのは効果的だろうが、それは前提が正しい場合に限る。今の状況は不明な点が多く、一つの思い違いが全滅を招きかねない。そんな中で賭けに出るのは躊躇われた。
「……真人君。あの触手、攻撃はできますか?」
「へっ? えっと、はい。でも、フリーにならないと……!」
その言葉を聞いた瞬間には、遥斗の脳内には次の案が浮かんでいた。
運転室の扉をこじ開けて、中で座っている運転手の肩を叩く。
「日本から捜査協力にきた志藤と申します。緊急事態が発生しました、ご協力をお願いします」
振り向いた運転手の顔は引きつっている。彼にも後ろの化け物は見えていたのだろう。遥斗は日本の警察手帳を見せながら、相手を刺激しないよう平坦な声で告げた。
「いいですか、私が合図したらゆっくり速度を落としてください。あれと一緒に停車します」
「どっ、どうして!? このまま逃げましょうよ!?」
「逃げ場はありません」
無慈悲な宣告。
「線路を走る以上は、いずれ再び追いつかれます。次の駅まで連れていくわけにもいきません。ここで、仕留めます」
語りながら後方を見据える。視線の先では仲間が怪異に立ち向かおうとしている。
頼みましたよ、と誰に聞かせるでもなく、煙と共に吐き出した。
「あ、あの……車内は禁煙で……」
「……緊急事態ですので」
「時よ、揺り戻れ」
マリーは最後の聖句を唱えて、祈りを終える。一見何も起きていないように見えるが、力が確かに発動していることを祈った本人は確信していた。
その力のことは『レヴェリオ・アエテルナ』と呼んでいる。時を巻き戻し負傷を消し去る力――傷を忌避するマリーにとって重宝する能力だ。
「これで多少の無茶はなんとかなると思います。頑張って!」
仲間を――主にこの後で大役を担うカナタを――激励する。だが、言葉とは裏腹に内心は穏やかではなかった。
言葉を飾らずに言えば、この状況下でマリーの祈りは気休めだ。列車事故が起きれば一般人の天使や運転士は死んでもおかしくないし、派手に脱線すればそれも直せない。車体の損傷がなかったことになろうとも、列車が勝手に線路に戻るわけではないのだ。
悔しい。守るための力が足りないことが、守ろうとする意志が世界に通じないことが、心に突き刺さる。
攻撃は最大の防御、という言葉がある。今回の作戦もそれに沿っている。マリーだって分かっているのだ、それが現実的な手段であると。
だが、それでもマリーが、誰かを傷つける力を望むことはない。
これは意地だ。
守りたいなら守ればいい。守れるようになればいい。
現実に迎合することが成長なのか。理想を貫き通すことこそが人生ではないのか。
今は無理でも未来では可能かもしれない。√能力には、何よりも人には、それだけのポテンシャルがある。
誰も傷つかない世界は、まだはるかに遠い。だが、それで俯くマリーではなかった。
「いやー、できるかなぁ……?」
怪異機関車を止め、蛸神に破壊してもらう。それが仲間の立てた作戦だが、実行に移すには大きな障害が一つある。
問題は、機関車をどうやって止めるかだ。真人は蛸神に祈り続けなければならないし、遥斗やマリーは質量攻撃が得意ではない。結果として、列車の命運はカナタの双肩にかかっていた。
「い、いやいやいや……なに怖気づいてんだ俺! 先輩たちも頑張ってるし、なによりあの二人を守るためにも、絶対に止めてみせる!」
カナタの決意に呼応するように、担がれたロングハンマーが黄金色に輝く。機関車の重さ数十トン×時速40キロ、その運動量をたった一人で叩きだすべく鉄槌が振るわれ始める。
タイムリミットまで、あと60秒。
「く、ら、ええええぇ!!」
乱打、乱打、乱打。まるで太鼓でも叩くかのように怪異の髑髏顔を殴りつけ、少しずつ敵の速度を削っていく。
両者の速度差から車間距離が開きすぎれば、運転室の仲間に列車の速度を落として調整してもらう。
風景の流れが緩やかになっていく。それは紛れもなく偉業だった。――だが。
「ぐっ……まだだ、もっと……!」
黄金の輝きが明滅する。限界が近いのだ。カナタは歯を食いしばり、一秒でも長く持ちこたえようとする。
――その時、どこからか無数の氷塊が飛来し、怪異の顔面にぶち当たった!
誰かがデッキに着地する音が聞こえる。そちらを向き、その姿を捉えたカナタは、二重の意味で驚きの声をあげた。
「だ、誰ー!? えっ、まさか……先輩!?」
カナタが奮闘していた時、その人物は列車の屋根の上でその姿を見守っていた。
(さすがに限界か。……あまり此方では着るつもりは無いのだが、止むをえん)
その男の名は斯波・戒焔(極地に至る双腕・h06146)。カナタたちと同じく、警視庁八曲署に属する√能力者だ。
しかし、彼の秘密はそれだけではない。
「――重甲展開、変身」
音声認証によって、重甲『紅蓮』が起動する。戒焔の全身が赤い装甲に覆われて、フルフェイスのヒーロー姿となる。
彼は√汎神解剖機関ではカミガリとして、√マスクド・ヒーローではヒーローとして、二足の草鞋を履いているのだ。ゆえあって混同は避けたかったのだが、人命には代えられない。
「――極地へ、至れ」
そうして、ヒーローは氷の嵐を生み出すと共に、仲間の元へと降り立った。
「もしかして……先輩!?」
カナタの指摘を聞いて、戒焔は周囲を見渡した。
遥斗は運転室、マリーは天使たちの元、真人は車内で祈祷中。こちらを見て驚いたり困惑したりしているものの、どうやら今の声は届かなかったようだ。
それを確かめた戒焔は口元で、スーツのマスク越しに人差し指を立てた。
「……気付いたのは仕方ない。が、見なかった事にしてくれるな?」
「は、はい! えっと、それじゃあ何て呼べば……?」
「……好きに呼べ」
どうせ、次の機会は早々ない。そんな内心から適当に返し、敵へと向き直る。
先ほどの一撃で、機関車の速度は目算だが時速10キロを切った。あと一息で完全に停止するだろう。
戒焔はスーツの力で宙に浮き、敵に蹴りを入れる。その姿勢を保ちながらブースターを吹かし、全力で脅威を押し返し続けた。
(リミッター解除は……必要ないか)
もしも全て一人で行うのなら、奥の手を切る必要があっただろう。だが、ここには仲間たちがいた。
力を合わせて脅威に立ち向かう。それはまさにカミガリの在り方で、戒焔もまた、どんな姿だろうとその一員だった。
止まりかけの車輪が、まるで断末魔の叫びのように耳障りな音を立てる。そうして、怪異機関車は完全に停止した。
その瞬間、黄金の触手が地面から離れ、車体にぐるりと巻き付く。聞いたこともない破壊音が響き、機関車がオモチャのように壊される。
次の瞬間には、そこには何もなくなっていた。まるで悪い夢でも見ていたかのように、跡形もなく――。
●魔術士
村はずれの小屋の前で。
「追手は倒されたか。相手はよその勢力だったようだな」
『羅紗の魔術塔』に所属する魔術士、アマランス・ヒューリーは、奴隷怪異との繋がりが途絶えたことを感じ取り、地面に目を向けた。
そこには√能力者たちが残した真新しい足跡がある。
契約していた護霊がオルガノン・セラフィムを発見したので、アマランスはその場所へと足を運んだ。そこで彼女は現場から離れる足跡を見つけ、正体を探るべく追手を放った――というのが、√能力者たちが襲われた真相だった。
足跡の主がただの一般人だったら、という仮定は無意味だ。自分たちの利益のみを追及する羅紗魔術士にとって、一般人がどうなろうと知ったことではない。
アマランスは周りを見渡し、奴隷化済みのオルガノン・セラフィムたちを見て、首を傾げた。
「解せんな。奴らはなぜこいつらを放置した? ほかに優先すべきものがあったとでもいうのか?」
現場の痕跡から推察するに、戦闘はほとんど行われていない。|新物質《ニューパワー》を見逃すという不可解な行動をした相手に、魔術士は唸る。
いくら考えても答えは出ない。偶然真実を言い当てようと、証拠がなければただの妄想でしかない。
「……まさか、天使か? しかし、さすがに天使が誕生するほど、美しいこの世ではないはずだが……」
魔術という非常識な力を扱う女は、自らの常識に囚われ続け、拠点へと帰っていったのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功