所変われば品変わる
パチパチと木が熱で爆ぜる音と、フライパンの鉄の上で肉が焼ける音が交差する。本当はここににんにくも入れたいところだけれど、いくらダンジョンの中と言っても臭いは気になるので今日は我慢。
その隣で別の焚き火にかけられた鍋の木蓋を外せば、白い湯気と一緒に美味しそうな香りが噴き出してきた。
「ふっふっふ、さすがアタシ」
その出来栄えに1人自慢げなミルグレイスは野菜の甘味が染み出したスープにもお肉にかけたのと同じ塩コショウを加えていく。必要最低限の味付けに留めるのはこの後の味変に備えてだ。
「いっただきまーす」
お椀にとった熱々のスープに息を吹きかけて軽く冷ましてから直接すする。暦の上では春になっているとはいえ夜はまだまだ寒い、こういうあったかい食事は好ましい。
そしてあらかじめ四角く切って焼いたお肉を箸で取って一口。カリカリに焼いた表面が歯に当たって潰れて崩れて、美味しい肉汁が溢れ出てきた。
「野営ですか?」
黙々ともぐもぐ頬張っていると焚き火の光に引かれたのか、匂いに引かれたのか、冒険者のパーティが寄ってきた。兜で耳は見えないが顔にはあどけなさが残っており、総じてミルグレイスよりも若そうであった。
「ご一緒してもいいですか? 良かったら夕飯交換とかも」
「もっちろん、いいよ!」
「ありがとうございます!」
冒険者は先程までミルグレイスがフライパンが乗っけていた焚き火に水を張った鍋を置いて、レトルトのパックを入れる。これが温まるまでにミルグレイスの料理を食べる腹積もりなのだろう。
「美味しい!」
ミルグレイスから受け取った肉の旨さに目を丸くした仲間の姿に、他の冒険者達も続く。元々1人で食べる分だと思って作っていたお肉はすぐに無くなってしまった。
レトルト食品に移っても、名残惜しそうにお肉が乗っていた皿を見る冒険者の様子にミルグレイスは笑いながら告げた。
「足りなかったら焼けばまだまだあるから、どんどん食べちゃって」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ところでこのお肉、どこで手に入れたんですか?」
「ん? さっき丸々一匹潰したとこ」
冒険者の疑問にミルグレイスはたてた親指をさも当然のように明後日の方向を指す。
冒険者達が視線を動かせばそこには動物型のモンスターの大きな死体がごろりと転がっており、背中周りの肉が綺麗に切り取られていた。
その有様に顔色を悪くした冒険者達は空になったお皿を先程とは別の意味でまじまじと見つめた後、ミルグレイスに視線を移す。
「お肉は美味しいんだけど大きすぎて1人じゃ食べきれないんだよねー、でもキミ達ぐらいの食べ盛りが何人もいたら余裕かも」
階層が多いダンジョンに潜ったり長期滞在したりする冒険者の間では道中で狩ったモンスターの肉を食べるのは割と普通のこと。ミルグレイスを育てた師も普通に食卓で出してきたし、お店によっては普通に商品として提供している所もある。
しかし「モンスターの肉を食べる」という文化にこれまで全く触れたことがなかったのか、冒険者達は真っ青になったまま箸を置いた。
「ご、ごちそうさまでした……じゃあ、俺達いきますね」
「え?」
遠慮しなくていいのに、と言う間もなく立ち上がった冒険者達は逃げるように離れていってしまった。
そんな急にお腹いっぱいになるものかなぁ、と首を傾げつつもまだまだ余裕があるミルグレイスは追加のお肉を焼き、食べてから後片付けを始めた。
「あ、お鍋置きっ放しにしてる……」
先程の冒険者達の姿はもう見えない。また会えたら返そう、と思いながらミルグレイスは当初よりも多くなった洗い物を慣れた手つきで捌いていった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功