オマエが俺の中で狂う
――ああ。ああ。ああ。
そうかよ。てめぇはそんな風に笑うのか。
それは、|麗菜《れな》が憧れていた制服だ。
|麗菜《れな》を殺しておいて、あの日の|麗菜《れな》が夢見ていた女子高生なんてもんになって。
自分にゃあ何の罪もねえとばかりに、そんな風に無邪気に笑ってられんのか。
ああ、許せねえ。てめぇだけじゃねえ。何もかも許せねえ。俺自身だって許せねぇ。
だが、今てめぇが笑っていられる。笑っている。楽しそうに。
もう|麗菜《れな》には、笑うことも泣くこともできやしねえのに。
てめぇがのうのうと笑って生きていられることが、今の俺には一番許せねえ――。
●
「やあ、来てくれてありがとう。早速だけど、√マスクドヒーローのシデレウス怪人について予知をしたんだ。聞いていってくれるかい?」
ジャック・ローズ・ジャックローズ(jackrose・h05677)は、自らの呼びかけに応じた√能力者たちにそう言うと、爽やかな微笑みでもって礼を返した。
「今回予知に引っかかったのは「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」。怪人となってしまったのは「|堀川《ほりかわ》|伊織《いおり》」という、22歳の大学生の青年だ」
シデレウスカードは、それ単体では何の効果も示さない、「十二星座」か「英雄」の描かれたカード。しかし、「星座」と「英雄」がそれぞれ一枚ずつ手に入ってしまうと、カードは所有者に力を与える。
「伊織は5年前、当時小学五年生だった妹の「堀川|麗菜《れな》」を学校でのいじめによる自殺で亡くしている。もしもそれが彼の「欠落」だったなら、伊織はカード・アクセプターになれただろうが……そうは、ならなかった。彼はシデレウス怪人に、なってしまった」
手にした「双子座」の力は、伊織に「妹の復讐に狂った兄」というもうひとつの人格を生み出させてしまった。別人格に名前はなく、ただの「復讐鬼」だ。
「妹をいじめていた子たちも当時小五だ。なあなあにしたい学校によって守られた。「加害者の人権」とか「子どもたちには未来がある」ってやつさ、死んでしまった子にはもうその未来もないのにな。……そんなわけで、教育委員会やら世間はそれなりに騒いだが、その間にも子供たちはどんどん成長していく。そして五年がたった今、加害者たちは高校一年生として青春を謳歌している」
伊織は妹が死んだとき、ちょうど反抗期だったらしい。当時の妹に構ってやれなかった、相談相手にもなってやれなかったことを悔いているし、加害者だった少女たちがいま現在楽しく高校生活を送っていることにも少し悲しくは思っている。けれど、少女たちを殺したいとまでは思っていない――だが、もう一つの人格は、違う。
「既に二人、主犯格のグループに属していた少女が殺されている。だが、まだこの二つは報道でも警察でも関連付けて考えられていないようだ。学校が分かれた結果、主犯格のグループは皆、今はばらばらの学校に通って、もう接点もないようだし、何より凶器が違う」
もう一つのカード「武蔵坊」――武蔵坊弁慶の力は、刀狩の逸話から、伊織に「九九九本までの刃物を体や所有物のどこにでも自在に潜ませることのできる能力」を与えている。ベルトに仕込めるような短いナイフから、それこそ薙刀まで自由自在だ。そしてその刃物を使っている間、伊織のその刃物を用いる能力は達人並みになる。
偶然同じ空間に居合わせた赤の他人――少なくとも、加害者側の少女たちは自分のいじめていた娘の兄である伊織の顔までは覚えていない。それが、突然自分を殺そうとしてくる。その殺意から、少女たちは逃げられない。
「この能力を持っているのは堀川伊織そのものだが、その力を使いこなせているのは「復讐鬼」の方だ」
そもそも、主人格である伊織は自身が殺人を犯していることにも、自身が別人格を有していることにも気づいていない。そのことを伊織に面と向かって示唆すれば、「復讐鬼の人格」が表に出て来るのだとジャックは言う。
「「復讐鬼」をこのまま放置すれば、彼はいずれ加害者の少女たちを全員殺すだろうし、その次はいじめを見てみぬふりをした元クラスメイトに凶刃が向かう。さらには加害者たちを庇った学校の教師たちを殺し、最後には妹を死なせてしまった両親を殺し、そして何の役にも立たなかった兄である主人格の伊織ごと自分を殺すだろう。だが――それまでに出る犠牲者が、多すぎる」
――世界で最も厄介な犯行動機は「愛」と「正義」だからね。そうジャックは嘯いて。
「ちょうど今日、伊織は、いじめグループに属していた一人「|中村《なかむら》・|咲綾《さあや》」と同じ電車内に乗り合わせる。「武蔵坊」の力は言ってしまえば、「好きな時に好きな刃物を取り出せる」んだ。伊織が咲綾に気づいた瞬間に、彼は「復讐鬼」の人格になって――凶行に走るだろう」
咲綾は自分たちの行動が少女を一人死なせてしまったことに、反省をしていない訳ではないようだ。けれど問いただせば、多感な時期である彼女は謝罪よりも先に自分を守るような言葉を口にするだろう。そして、仮に咲綾から謝罪を引き出せたとしても――。
「「伊織」ならばそれで咲綾を許せるだろうが、「復讐鬼の兄」はもう、どんな言葉も聞き入れない」
それが、シデレウスカードの「ジェミニ」の部分によって無理矢理に生み出されてしまった人格だからこそ。
「そうだな、「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」を倒したなら、復讐鬼の兄、という人格は消えるはずだ。それから伊織に別人格が起こしたことをきちんと説明できたなら、彼は自首するだろう。堀川伊織は基本的に善人だ。自分の意思が介在しない状態だったとしても、二人の少女たちの命を奪ったのは自分だと考える。あとはそう、司法に任せればいい」
だが、気をつけてくれ、とジャックは言った。
「今回は未来が分岐しない。いや、細かな分岐は起きるのだろうが、結局は一つの未来に集約する。皆が「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」を倒した後、君たちが戦うことになるのは、どう転んでも『ドロッサス・タウラス』だ」
今回√能力者たちと戦うドロッサス・タウラスは、既に√能力者と交戦して倒され、殺され、そして死後蘇生したあとのドロッサス・タウラス。故に、彼は√能力者たちに対して見下すことをやめている。
「奴の一番の付け入るスキだった「こっちをナメてる」っていう弱点がなくなるんだ。以前戦ったときよりも、ずっと強敵になると考えていいだろうな」
くれぐれも油断しないように、そして勝ってきてくれよ。
星詠みの竜人は、そうやって片目をつぶってみなに笑ってみせるのだった。
マスターより

遊津です。シデレウス怪人考えるの本当に楽しい。というわけで今回も√マスクドヒーローでのシナリオをお届けします。
第一章冒険、第二章冒険、第三章ボス戦の三章構成となっております。また、二章は固定のフラグメントとなっております。
「第一章 移動する密室」
シデレウス怪人「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」となってしまった青年「|堀川伊織《ほりかわ・いおり》」と、彼のかつて自殺した妹「|麗菜《れな》」をいじめていたグループの一人であった女子高生「|中村咲綾《なかむら・さあや》」が、同じ電車に乗り合わせています。
伊織はそのままならば無害な一般人であり、咲綾に対して何かを仕掛けることはありませんが、咲綾を認識した瞬間にシデレウスカード「ジェミニ」の力で生み出された「復讐鬼の兄」としての人格に乗っ取られ、咲綾を殺害しようとします。
√能力者も同じ電車内に乗り合わせられますが、事前の手回しなどを行って伊織と咲綾を「同じ電車に乗らせない」ことは不可能です。
伊織、もとい「復讐鬼」の人格は「武蔵坊弁慶」の力により、体内、及び所有物のあらゆるところから九九九本まで刃物を取り出すことが可能であり、凶器には事欠きません。
咲綾の電車内での殺害を阻止してください。電車内にはそれなりに人が乗っており、伊織から咲綾に近づくことも、その逆も簡単にはいかず、またかれらを排除することは不可能です。咲綾が電車から降りるまで伊織に咲綾の存在を気づかせない、もしくは伊織が「復讐鬼」の人格に乗っ取られてしまっても、彼から咲綾を守り切ることができれば成功です。
シデレウス怪人そのものと戦うのは第二章となるため、この章で伊織(「復讐鬼」)を倒すことはできません。
「第二章 シデレウスカードの所有者を追え」
専用の固定フラグメントです。
咲綾を取り逃がした「復讐鬼」人格は表に出てきて、シデレウス怪人『ジェミニ武蔵坊』となります。怪人との戦闘を行うこととなります。
詳細は二章の断章にて説明します。
第一章、第二章はどちらも冒険フラグメントの扱いであるため、攻略に必要な🔵は7と少ないです。ご注意ください。
「第三章 ボス戦 ドロッサス・タウラス」
今回は第二章でどんな行動をとっても、三章で戦う敵は「ドロッサス・タウラス」となります。
「ドロッサス・タウラス」は星界の力、中でもゾディアックの力を操るゾーク12神の一柱であり、神聖を持ち傷つけることは極めて困難であるのに加え、一度√能力者と交戦して敗北しているため今回は油断をせず、√能力者たちの力を認めています。
詳細は第三章の断章にて説明します。
当シナリオのプレイング受付開始は、オープニングが公開され次第即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
26
第1章 冒険 『移動する密室』

POW
力押しで襲撃者に向かっていく!
SPD
人の波をすり抜ける
WIZ
|標的《ターゲット》の護衛に専念
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

いたたまれん話やなぁ……でもまぁ、少なくとも復讐鬼を倒して、ドロッサス・タウルスももう一度倒さへんと今以上の惨劇になってまうんやから。気ぃひきしめていかへんとなぁ。
とりあえず電車内に乗り込んだら、咲綾ちゃんと伊織くんの位置を確認しつつ、人の隙間をぬって伊織くんの近くにいって咲綾ちゃんを【かばう】。
これでも結構身長あるから(172cm)多少は壁になるやろし
そしたら、自分の【コミュ力】を総動員して、近くにおるお姉さんとかに話しかける
そのバッグええですね、とかそのキーホルダーもしかしてあの作品ですか?とか
少し大きめの声で、伊織くんの意識を地味にこっちに引きつけて咲綾ちゃんに向けないように
「いたたまれん話やなあ……」
ルーシー・チルタイムダブルエクスクラメーション(チルタイム!!ショータイム!!・h01895)は、揺れる電車の中ではあ、と静かに息を吐き出した。
(そんでもまぁ、少なくとも「復讐鬼」を倒して、ドロッサス・タウラスももういっぺん倒さへんと今以上の惨劇になってまうんやから。気ぃ引き締めていかんとな)
ルーシーは周囲を見渡し、シデレウス怪人となってしまった青年、堀川伊織の位置を確認する。それから、彼の、彼自身も自覚せぬ間にシデレウスカードの力で生み出されてしまった人格「復讐鬼の兄」にとっての仇である少女、中村咲綾の場所も。伊織はシートに座っており、それとは逆の位置に咲綾が立っている。咲綾はドアの前に立っているが、不幸にもそちらのドアは何駅か――恐らくは彼女が降りるまで――開くことはないようだ。
満員、とは言わないが、立っている人も決して少なくない程度の電車の中。ルーシーは人の波をかきわけて、伊織の前に立ち、吊革につかまる。ルーシーの身長は172センチ、座っている伊織からならなんとか目隠しになれないかと思ってのことだ。それからルーシーの大一番が始まる。隣に立っていたOLに、少しおずおずとした演技で語り掛ける。
「あ、あの、そのキーホルダー、「はもフレ」のクレインくんですよね!?しかも、映画館限定グッズの中でもシークレット特典だった黒クレインくん……!」
ルーシーが指さしたのは、OLの鞄についていたぬいぐるみ型キーホルダーであった。
「え、あっ、そ、そうです……!はものフレンズの中でもクレインくん大好きで……!」
「いいなあ!私の見た映画館だともうぬいキーホルダー完売してて……あのっお姉さん、黒クレインくん撮らせてもらってええですか?」
「いいですよー!」
ルーシーはコミュニケーション能力を全開にしてOLと話を合わせている。実際、彼女の語る映画の名前とその大まかなあらすじを知ってはいても別にそれほどに好きなわけではない。だが、ここで少し興奮した様子を見せ、伊織の意識を引き付けるのが目的だ。
「映画版「はもフレ」よかったですよねぇー!ベテラン剣士のクレインくんと、一匹狼のドレイクくんとのダブル主演で!」
「わかります!?わかりますか!!クレインくんとドレイク君が並ぶと白と黒で!もう目が幸せで!しかもそのクレインくんがあんなことになっちゃったときのドレイクくんが普段の一匹狼しぐさはどうしたんだって感じに取り乱してて――」
語れる仲間を見つけてしまったと思っている隠れオタクであったらしいOLの話は止まらない。ルーシーはどうか自らの化けの皮がはがれてくれるなと祈りながら、伊織の意識を咲綾に向けないように彼の視線を自分たちに誘導し続けるのであった。
🔵🔵🔵 大成功

やれやれ。自業自得じゃねぇか
なんでそんなやつを守らなきゃならねぇんだか
こう言うやつには一度自分達がしでかしたことの重さを教えてやったほうがいい
自分達は遊び感覚で罪の意識も感じてないんだからな
そんなやつを助けるのは気が乗らないが、手を汚せばこいつが同じレベルまで落ちちまう
あと、灸を据えて置くか。そうしなきゃこのガキは同じことを繰り返しそうだ
身長190とガタイの良い体を使って伊織の前で壁になりつつ、伊織に話しかける
「兄ちゃん、どうした?そんな血走った目して。何かに追い立てられてるかの様な目をしてるぞ?それと、気のせいなら良いんだが、あんたからどうも血の匂いがするんだが、きのせいだよな?」
(やれやれ……そんなの、自業自得じゃねえか)
――なんでそんなやつを守らなきゃならねぇんだか。
五年前、小学五年生だった頃にクラスメイトの少女を自殺に追い込んだいじめ加害者グループの少女、中村|咲綾《さあや》。そう星詠みから聞かされている少女の姿は、|御剣《みつるぎ》・|刃《じん》(真紅の荒獅子・h00524)にはどこにでもいる普通の女子高生に見えた。
そう、どこにでもいる、普通の。彼女が少女一人を死に追いやったことがあるとは、とても見えない。
(こう言うやつには一度、自分たちがしでかしたことの重さを教えてやった方がいい。自分たちは遊び感覚で、罪の意識なんて感じてないんだからな)
正直、刃はそんな少女を助ける事には、気が乗らない。けれど。「復讐鬼」――彼女たちから受けたいじめを苦にして死んだ少女の兄の中に、シデレウス怪人として生み出されてしまったその人格は、もうかつての彼女の仲間二人を殺してしまっている。ここで咲綾殺しを止めなければ、「復讐鬼」の兇刃は彼女たち加害者グループ全員を殺すだけではおさまらなくなることを、星詠みは言っている。
(同じことを繰り返させないためにも、灸を据えて置きたいところだが――)
この電車の中で、咲綾を万が一にも騒がせることはまずい。死んだ少女の兄、|堀川《ほりかわ》|伊織《いおり》は善良な人間であるという。五年前の妹の死を悲しみ、力になれなかった自分を悔いてこそいる。けれど咲綾たちを殺そうとまでは思っていない。彼女らを憎み、殺しているのは、シデレウスカードによって伊織の中に生まれてしまった「復讐鬼の兄」という人格なのだ。そして、伊織が咲綾を認識した瞬間に、「復讐鬼」は目を覚まし、「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」の能力を用いて咲綾を殺しにかかる。
(ッくそ。結局は、「復讐鬼」を目覚めさせないためには咲綾には手出し無用って事か……!)
胸中で舌打ちを一つして、けれどそれでも、刃は咲綾のカバンの中に仕掛けを一つする。何のことはない、ただの玩具をひとつねじ込んだだけだ。カバンを開ければ大きな音を出して仕掛けられたものを驚かせる程度のジョークグッズ。それでも、咲綾がそれで自分に向けられた「悪意」に気づかせられないか、と。
そしてそのまま刃は咲綾のそばを離れ、一九〇センチの高身長と武術によって鍛えられた体を活かして人の群れを抜け、伊織のそばまでやってくる。そこでは他の√能力者が、伊織の気を咲綾からそらす為に大きめの声で話をしていた。
刃は、伊織に話しかける。
「兄ちゃん、どうした? そんな血走った目ぇして。何かに追い立てられてるみたいだぞ」
「……えっ? 僕?」
正直に言えば、それは刃のハッタリ――虚偽であった。主人格である伊織には自らが内側に別人格を抱えていることも、その別人格が殺人を犯している認識すらないのだと、星詠みから聞いている。だが、このあと「復讐鬼」の人格と対峙することになるのならば、刃は主人格の伊織と会話をしておきたかった。
「それに、あんたからどうも血の匂いがする。気のせいならいいんだが」
傍らの√能力者が今は手を出すな、という顔をして自分を見ている。わかっている。これ以上は「復讐鬼」をいたずらに刺激するのと同じだ。自身の中に別人格があることを示唆されれば、「復讐鬼」はそれを止めるために自ら表に出て来る。そうなれば、此処に居る√能力者全員が方針をすべて切り替え、「復讐鬼」から咲綾を守ることに専念しなければいけなくなる。
だが、刃のそんな挑発じみた言葉を聞いても、伊織が何かおかしな行動を見せるということはなかった。
「えっ、どこか怪我しているかな……ごめん、教えてくれてありがとう。あとでちゃんとした場所で確認してみるよ」
なるほど、と刃は思う。星読みを疑うつもりはないが、伊織が基本的に善良である、というのは間違いないようだ。
「復讐鬼」が消えた後の彼に、自分の罪を教えるかどうか――それを考えながら、刃はその身体で、伊織の視界から咲綾を隠し続けていた。
🔵🔵🔵 大成功

妹を虐め殺された復讐か
その気持ち、分らんでもないぞ
だが……己が闇に飲まれているようでは本末転倒!
その復讐鬼としての存在は、我が魔刃で喰らってやろう!
兎も角、まずは殺人を止めねばならんな
伊織とやらの視界を遮るような位置に立ち、咲綾が認識されぬようにするか
我の内なる暗黒竜の気(実際は痛々しい服装による存在感)を以てすれば、どう考えてもこちらに意識が逸れるはず
後はこちらの視線を合わせ続ければ、伊織とやらは我が覇気に圧倒(実際はヤバい人と関わりたくないだけ)され、自ずと視線を下に向けるであろう
さすれば、咲綾とやらを認識するのはますます困難になるはずだ
クックック……全ては我の計算通り!
(妹を虐め殺された復讐……か。その気持ち、分からんでもないぞ)
|神代《かみしろ》・|騰也《とうや》(|常闇の暗黒竜《ダークネス・ノワール・ドラゴン》の|契約者《パクトゥム》・h01235)は、ほどほどに人の乗り込んだ電車内でモヒカンを逆立てて周囲を威圧しながら仁王立ちする。余程体幹がしっかりしているのだろうか、それとも根性によるものか、揺れる電車の中で捕まるものもないのに彼の体が揺らぐことはない。
騰也にも妹がいる。まだ13歳の彼女を喪うことなど、騰也には考えられない。それが、もしも今回シデレウス怪人になってしまった青年の亡くした妹のようにいじめを受けてのことであれば――。
(だが……己が闇に飲まれているようでは本末転倒!その復讐鬼としての存在は、我が魔刃で喰らってやろう!)
そのためにも、騰也が今やるべきことは、青年「|堀川伊織《ほりかわいおり》」がシデレウスカードの力によって生み出された「復讐鬼の兄」たる人格に取り変わられ、今この電車内に乗り合わせているかつての加害者グループの少女「|中村咲綾《なかむらさあや》」を殺害してしまう、という事件を起こさせないことだ。伊織は妹・|麗菜《れな》の死を悲しみ、いじめに気づいてやれなかった自身を悔やんでいるものの、咲綾の死までを望んではいない。だが、咲綾を認識した瞬間に彼の人格は彼の望まぬ「復讐鬼」の物に取って変わられてしまう。
だからこの電車内に乗っている√能力者たちは、伊織が咲綾を認識しないようにそれぞれに出来ることをやっている。騰也もまた、伊織の前に立ち、彼の視界から咲綾を隠す。
騰也が「自身の内なる暗黒竜の気」と考えている――実際は、どこかの怒りのデスロードから来たような痛々しいパンクファッションをによる存在感である――それによって、ただでさえ他の√能力者たちによって咲綾から遠ざけられた伊織の意識は、大半が騰也のそれに引き寄せられる。
そして更に畳みかけるように、騰也は伊織に対し視線を送り続けた。
「…………」
「…………」
目が合う。目が合ってもお互い何を言うわけでもない。ただただ騰也は視線を送り続ける。その居心地の悪さ――というか居たたまれなさというか――やばい人に関わりたくない、という気持ちによって伊織の視線は電車の床を見るようになる。ちなみに騰也はこれを「我が覇気に圧倒された」と思っている。
兎にも角にも、これで伊織が咲綾を認識するのは阻止された。
(クックック……全ては、我の計算通りよ……!)
騰也の心のうちを知る者はここにはいなかったので、それにツッコミを入れられるものもここにはいなかった。
🔵🔵🔵 大成功

自分の行動が他人の生死を左右することもある、ってこと…若い子にはピンとこないかな~。
|心の痛みを知る《大人になる》ためにも…ここはひとつ、悪いお兄さんに騙されてもらおうかな。
人の波に押され(た[演技]をし)ながら、じわじわと咲綾に接近。
間近まで接近が完了したら、揺れた電車にバランスを崩した振りをして壁ドンならぬドアドンをかます。
っ、…っと……ごめんね、大丈夫…?
…その制服、学生さんかあ。毎日こんな人混みに揉まれて、大変だねえ。
自身の体格で咲綾を隠しながら[誘惑]と[魅了]で警戒心を解き、囁くように話しかける。
そのまま持ち前の[コミュ力]を発揮しながら会話を続け、咲綾が電車を降りるまで守り抜く。
揺れる電車の中、ルメル・グリザイユ(半人半妖の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01485)は長く黒い髪をかきあげながら、少しずつ怪人の標的たる少女の方へと向かっていく。
(自分の行動が他人の生死を左右することもある、ってこと……若い子には、ピンとこないかな~)
シデレウス怪人の標的である少女、「|中村咲綾《なかむらさあや》」。ルメルの見る限り、この√マスクド・ヒーローにおいてどこにでもいるような女学生だ。けれどこの少女は、五年前にクラスメイトであった女子生徒「|堀川麗菜《ほりかわれな》」を殺している。勿論、彼女が直接手を下したわけではない。星詠みはそこまで詳しいことを話はしなかったが、咲綾が属するグループが虐めの加害者となり、それを苦にした麗菜が自死に及んだことは事実であるだろう。
そして、今回シデレウスカードを拾ってしまった青年は麗菜の兄、|伊織《いおり》。彼は「ジェミニ武蔵坊」の力により、自覚のないうちに自身の中にもう一つの人格「復讐鬼の兄」を生み出してしまった。「復讐鬼」はこの電車の中、伊織が咲綾を知覚したなら表に出てきて、そして怪人の力を発揮して咲綾を殺す。いじめで人を死に追いやった少女の殺害を阻むことに心理的な抵抗を感じた√能力者は少なくない。けれど、ここで咲綾の殺害を許してしまえば、次はいつ「復讐鬼」の起こす事件を予知できるかわからない。そして、いずれ自身に対しても刃を向けるだろう彼の復讐は、今ここで止めなければ、どこまでもどこまでも対象を広げていくのだと、星詠みは言っていた。
(ん~。ここは、彼女にはちょっと|心の痛みを知《大人にな》ってもらおうかな)
「っ、……っと」
「ひゃあっ!?」
人の波に押された演技をしながら少しずつ咲綾に近づいていたルメルは、電車の揺れによってバランスを崩した振りをして、咲綾に対し壁ドンならぬドアドンをかます。
「……ごめんね、大丈夫……?」
「っ、ぁ、はっ、はい、大丈夫、です……!」
間近でルメルに微笑まれ、咲綾の頬が赤く染まる。185センチの身長に、ヒールサンダルの分を加えれば190になるルメルの背で隠してしまえば、伊織からは咲綾の姿は完全に見えなくなる。
「……その制服、学生さんかあ。毎日こんな人混みに揉まれて、大変だねえ」
「ぇっぁの、い、いえ、今日はその、いつもより混んでないので……!」
「ふふ、そっかあ」
でも、ちょっと今は僕、ここから動けないみたいだから。ごめんね?
「我慢してね……?」
「ふぁ、はいぃ……!」
完全に咲綾を籠絡する状態に入ったルメルは魅了と誘惑の技術を惜しみなく発揮し、咲綾を骨抜きにする。勿論、咲綾とは彼女が電車を降りてしまえばそれきりだ。ちょっとの間悪いお兄さんに騙されてもらおう、という悪い顔を綺麗に仕舞って、彼女が電車を降りるまでルメルは咲綾を隠し続けていた――。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』

POW
戦いを挑み、シデレウス化した人物を無力化させる
SPD
他の民間人が事件に巻き込まれないよう立ち回る
WIZ
シデレウス化した人物の説得を試みる
シデレウス怪人の|標的《ターゲット》となっていた少女が無事に電車を降りた後、程なくして電車は終着駅へと到着する。
終着駅は無人駅であり、シデレウスカードを拾った青年「|堀川《ほりかわ》・|伊織《いおり》」は
少しの間一人誰もいない道を歩いていた。√能力者たちは付かず離れず、彼の後を追う。
そして、橋の上まで来た時だった。
「なぁおい。さっきから|俺《・》を尾けてきてやがるてめぇらだよ」
「さっきはよくも邪魔してくれやがったじゃぁねえか」
「|俺《・》の方に用があるんだろうよ。手短に済ませようや」
そう言うと、伊織は橋から飛び降りる。√能力者たちが橋の下を見下ろすと、丁度川の流れの浅い場所、人目のつかぬ河原に怪人の姿はあった。
既に彼の姿は、どこにでもいる大学生の様相ではない。頭には蓑笠のような大きな編笠を被り、その隙間からは赤く光る眼光だけが見える。髪の色は赤く、長さも伸び、外套から着流しに至るまで全てが朱色。黒足袋に赤い雪駄。そしてその手には、刀。
「それとも、てめぇらはなんだ? こっちが人質のひとりでも取らねえと戦る気にゃならねえのか?」
それは、伊織の中に存在する「復讐鬼」たる人格。怪人「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」の怪人態。
彼は表に出ずとも、伊織という表人格の内側で殺害の機会を阻まれたことを理解していたのだろう。そして、彼は同時にそれが√能力者の妨害の所為であり、√能力者たちが何者なのかを知らずとも――彼らが自身の起こす殺人を邪魔しようとしていることを理解している。
「|俺《ひとごろし》の邪魔をしようってんならよぉ。相応の覚悟があんだろうよ?」
――だったら見せてみな、その|中身《ハラワタ》。
赤き復讐鬼は、そう言ってあなたたちに刃を向けた。
========================================
第二章 「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」が現れました。
おめでとうございます。√能力者たちの尽力により、狙われていた少女は電車を降り、あなたたちは彼女を守り切ることが出来ました。
そして、あなたたちに反応し、シデレウス怪人「ジェミニ武蔵坊」はその姿を現しました。
既に善良な大学生「|堀川伊織《ほりかわいおり》」の人格は奥深くに眠り、あなたたちの目の前にいるのは「復讐鬼の兄」です。
以下に詳細を記します。
「戦場について」
このフラグメントは冒険ですが、実質シデレウス怪人との戦闘になります。
戦場は午前の橋の下の河原で、人目につかず、人が寄り付くこともありません。SPDの「他の民間人」は存在しないため、避難指示などの必要はありません。戦闘に集中することが可能です。
天気は晴れで、光源も確保できます。屋外であり、広さも十分にあります。川の流れはゆっくりで、深さもせいぜい脛程度までです。
戦闘に利用できそうなものも存在しますので、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
リプレイ開始とともに敵がその場にいる状況となりますので、事前の行動を行っておくことは不可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)
何らかの準備行動を行うには、戦闘と並行して行うことになります。
「シデレウス怪人 「ジェミニ武蔵坊」について」
彼、堀川伊織は√能力者ではありません。故に、殺せばそれまでであり、死後蘇生することもありません。「復讐鬼」は既に二名の少女を殺害していますが、死罪とまではならないでしょう。
ですが、二名の少女を殺害した「復讐鬼」の人格は第二章の戦いを終える――即ち、√能力者に倒されると、消滅します。後に残るのは何も知らない「堀川伊織」の人格です。
第三章ではボス戦が起こるため、結果が出るのはその後になりますが、みなさんは「堀川伊織」に「復讐鬼」の人格とそれが行ったことを教えるかどうかを選ぶことができます。
オープニングで星詠みも言っていますが、堀川伊織は基本的に善良であるため、消滅したとしても「復讐鬼」が何をしたのか知れば自首するでしょう。
「教える」ことを選択したプレイングが多かった場合、伊織は第三章の後のエンディングで自首します。逆に「教えない」事を選択したプレイングが多かった場合、真実は闇の中に葬られます。
「ジェミニ武蔵坊」の持つ能力は「999本まで、好きな刃物を自分の肉体や所有物の好きな場所から取り出すことができ、かつそれを手にしている間にはその刃物を達人並みに扱うことができる」というものです。足さばきなども達人のそれになります。
刃そのものの斬撃は√能力ではないため、「ルートブレイカー」によって無効化することは出来ません。あと刃からビームや衝撃波は出ません。
また、どんな刃物を取り出せるかは伊織本体の知識に由来するところがあり、あまり突飛なものは出てきません。(例:回転しながら飛来してレーザーで敵を切り裂く「電脳爆裂手裏剣」みたいなものは流石に思いつきません)
√能力を用いず、アイテムや技能だけを用いた場合でも、戦闘になるような行動を行えばその能力(基本的には刀)を用いて戦います。
プレイングや√能力の内容次第では敵に攻撃させる暇を与えないリプレイになる可能性がありますが、あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
また、「復讐鬼」は戦闘による決着を望んでおり、√能力者が一切戦闘に応じない場合、どうにかして人質を取ってでもあなたたちとの戦いを行おうとします。
第二章のプレイング受付開始は、この断章が投稿され次第即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは、姿を現したシデレウス怪人・ジェミニ武蔵坊との戦いを。
善良な青年の中に生み出された「復讐鬼」の人格を消し去るための戦いをはじめてください。

よう。弁慶の偽物
てめぇは本物と似ても似つかねぇ。てめぇのクソみたいな行動で英雄を汚すんじゃねぇよ
来い。九九九本の刃、全てへし折ってやる
格の違いを教える為、リミッター解除で身体能力の限界を無くし、肉体改造で身体能力を限界以上に引き上げ、第六感で攻撃の起こりを感じ、見切りで攻撃の軌道を予測し、残像を残す速さで動きつつ、グラップルで相手の攻撃が威力を発揮する前に、鉄拳で武器を殴り砕き、九九九本の武器全てを無力化させる
「次」
「次!」
「次だぁ!」
「力に溺れた武なんぞ、血が沸る相手でもない。力の差がわかったか?小悪党」
「よう。弁慶の偽物」
「ハ。五条大橋に倣って橋の上での戦いが好みだったかよ?」
「てめぇは本物と似ても似つかねえ。てめぇのクソみたいな行動で英雄を汚すんじゃねぇよ」
――来い。九九九本の刃、全てへし折ってやる。
刃はそう言うと、自身の肉体、人間が活動する為に敢えて日常の中でかけている「限界の枷」を自分の意志でもって解き放つ。
「面白ぇ、やってみなァ!」
「復讐鬼」がその刀でもって繰り出してくる多段の刺突、斬撃――シデレウスカードの力により、それらすべてが達人並だ――それを、目で見て避け、肉体を捻って躱す。肉体の限界の枷を越え、更に自身の肉体を戦いに最も適した状態に作り変えた刃にとっては、人間の範疇を超えた動きが可能だ。その代わり――代償は常に、刃の肉体を苛んでいる。限界を越える、とはそういうことだ。そうならないために、人間には痛覚があり、稼働領域の限界が設定されている、それらをすべて無視した行動をとるということは、その分の代償が刃の肉体を襲う。
肘で挟んで受け止めた、刀の帽子の部分が欠けた。
「次、来いよ」
人差し指をくい、と曲げて挑発する。「復讐鬼」はにやりと笑い、掌から白刃を取り出す。
「ああ思い出したぜ、てめぇはアレか、血の匂いがするとか言ってた野郎だなァ!なんのつもりだ?」
「さあ、な……!」
「復讐鬼」の声が歪んで聞こえる。耳の奥で、ぶちぶちと体の末端の神経と血管が千切れていく音が鳴る。眼球の毛細血管が切れ、視界が赤みがかる。それでも刃の肉体は、研ぎ澄まされていく。「復讐鬼」が行動を起こす前に、気配だけでその動きを察して避け、鋼鉄の如き拳でもって刃を殴り砕く。行動の隙間に攻撃を挟み、その度に刃を破壊する――【|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》】。
「次!」
「ははっ、てめぇ、マジで俺の刃を九九九本全てお釈迦にする気か!……つくづく面白ぇ」
「俺は何にも面白くねえよ」
力に溺れた武なんぞ、血が沸る相手でもない。
「力の差、教えてやるよ、小悪党が」
「ハ。てめぇが俺の刃をすべて狩り取るが先か、俺がてめぇのハラワタ掻っ捌くが先か、比べてみるか!」
そう言うと「復讐鬼」は無手でもって河原を蹴る。武器を直前まで見せないことで、刃の対応を遅らせる作戦か。ならば、と刃も動く。恐るべき速さで動き、残像を斬らせる――しかし、「復讐鬼」がその肉体から取り出した刃物、その柄は長く。薙刀か、と気づいたときには、切っ先が腹を掠め、服が切られる。体へのダメージは、丹田に力を入れて腹筋を硬化させることで防いだ。そのまま、鍛え上げられた拳によって薙刀の刃を突き砕く。
「次だァ!!」
「復讐鬼」が振るえる刃は九九九本。それをすべて刃一人の力で砕き折る――そうすれば、後に残るは得物を失った怪人のみ。
しかし、「復讐鬼」は刃の狙いを既に知っている。刃を砕くことが、次第に難しくなってくる。
敵の残りの得物はあとどれだけか。戦いは既に、根競べの様相を見せていた。
🔵🔵🔵 大成功

威勢がええなぁ、ええ事でもあったの?
君がえらい威勢ようても、今ウキウキしとっても。たかが怪人の配布したカードで生まれた力でイキっとるだけのキミに見せたるわ
たかが生まれた時から備わされとるだけの力ってのを
ポケットからガムケースを出し一個ガムを口に含むと、ハーフガスマスクのアクセプターを装着
手加減鎮圧用フォームの【レッドマンフォーム】に
伊織くんの体はなるべく傷つけないようにしつつ、2回攻撃+拳圧の範囲攻撃で刃物の攻撃を捌く
人を殺すのは慣れているかもしれないけれど、戦闘知識や継戦能力はあまり経験していないだろうからそこを突く
君のその背後にも用事があるの
やから、手短に済ませてもらうな?
「なんや威勢がええなぁ、ええ事でもあったの?」
「ハ、そう見えるかよ」
怪人態となり、編笠越しに目をぎらつかせる「復讐鬼」の声からは、彼の感情は読み取れない。ルーシーはポケットからガムケースをだし、一粒のガムを口に含む。ハーフガスマスクからの声がくぐもる。
「君がえらい威勢ようても、今ウキウキしとっても。たかが怪人の配布したカードで生まれた力でイキッとるだけの君に見せたるわ」
たかが、生まれた時から備わされとるだけの力ってのを。
――変身。
『Chewing! Go easy on me! Smoking is highly addictive……』
【レッドマンフォーム】となったルーシー。外見に変化はないが、その身体機能は確実に上昇している。本体である伊織の肉体を傷つけないよう、レッドマンフォームは手加減鎮圧用のフォームだ。
だが、ルーシーに伊織を傷つけないという配慮があっても、「復讐鬼」の方に手加減をする義理は一切ない。手にした刃を振るい、ルーシーへと突きかかる。
「ごちゃごちゃうるせえな。大体よ、俺はてめぇらに邪魔されてんだぜ。何を浮つく理由がある?」
まっすぐに突き出された刃をルーシーは裏拳で受け止め、そのまま弾き返す。
「――俺はッ!何ひとつ!楽しかねえよ!」
「復讐鬼」から放たれる突き、フェイント、と判断したルーシーはそのまま踏み込む。だが、そのまま刺突は放たれる。これは――天然理心流の三段突きだ。それをくるりとその場で宙返りを打って刃を躱し、着地してすぐに拳を突き出す。レッドマンフォームの効果によってその拳の拳圧は闘気となって全方位に放たれ、「復讐鬼」はたたらを踏む。
「ち、ままならねえ体だな、」
(予想通り。人を殺すのには慣れとるかもしれへんけど、戦いそのものについての知識も戦い続ける能力もそうあらへん――言うてもうたら、一撃必殺超特化型や、こいつは)
それならそれで、つけ入る隙もあるというもの。
「君のその背後におるやつにも用事があんの。私らは。せやから、手短に済まさせてもらうな?」
シュコー、とハーフガスマスクが酸素を取り入れる音を鳴らす。くぐもった声が「復讐鬼」に届いたかどうかはルーシーにはわからない。否、届いていなくても構わない。
しかしルーシーは感じていた。堀川伊織の肉体に負担をかけないためにも、手短に済ませたいのは本心である。だが、相手は言った通りに一撃必殺特化型。時間をかけずに戦おうとすればするほど、こちらには不利になる。どう崩すか――。ルーシーは構えを崩さぬまま、思考を研ぎ澄ませるのであった。
🔵🔵🔵 大成功

九九九本もの刃を振るう能力か
なかなか面白い力ではあるが、我が暗黒竜の敵ではない!
超重力を纏った業魔重剛拳で、真正面から殴り飛ばしてやろう
刀剣を殴り破壊できれば理想だが、狙いは敢えて最初からつけぬ
むしろ、外れてくれた方が好都合
「ククク……攻撃を避けたつもりであろうが、本当の闇はここからよ
特殊な超重力地帯と化した領域に踏み込んだが最後、我以外の者に加わる重力は十数倍
怪人ならば少しは抵抗できるかもしれぬが、その状態ではまともに武器を振るうこともできまい
鈍重になり速度が激減した攻撃など恐れるに足らず
そのまま背後に回り込み、今度こそ超重力の拳をお見舞いしてくれよう
「ヒャッハァァァァ! 刀狩りの時間だぁ!
「クックック……九九九本もの刃を振るう能力か。なかなか面白い力ではあるが、我が暗黒竜の敵ではない!」
不敵に笑う騰也の前で「復讐鬼」は鞘に刃を納める。編笠から覗く光だけが、「復讐鬼」の視線と感情を気取らせるものだ。納刀したということは、それ即ち居合の構えか。ならば、ここは――先手必勝。
「さあ喰らうがいい、我が拳は少しばかり「重い」ぞ!!」
騰也の拳が真正面から「復讐鬼」へと突き込まれる。超重力を纏ったその拳は「復讐鬼」の前で大気をも歪め、ぐにゃりと歪む。その拳を紙一重で潜り抜け、「復讐鬼」の鞘走った刃が騰也に叩き込まれる瞬間に、編笠の下から驚愕の声がした。
「何……っ!?」
【|業魔重剛拳《ヘルズ・グラビトン・フィスト》】。
「ククク……攻撃を避けたつもりであろうが、本当の闇はここからよ……!」
超重力を纏った拳が当たればよし、それもまた強力な攻撃となるが、真の恐ろしさはこの攻撃を|避けてしまった《・・・・・・・》時にある。特殊な超重力地帯と化した領域と化したその空間は、騰也以外の者にかかる重力が十数倍となる。怪人態の肉体そのものであれば少しは抵抗できるかもしれないが、「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」の能力はあくまで「九九九本までの刃物を自在に取り出し、そしてその刃物の習熟度が達人並みとなる」能力。
「く……そ、がぁ……ッ!」
扱う武器が鈍器であったならば「復讐鬼」の後押しとなったかもしれないが、彼の操る武器はどれも刃物に限られる。振るわれる刃はどれも鈍く、重く、速度が激減しては騰也の体に掠らせることすら叶わない。――反応速度もまた、超重力地帯では低下する。
そのまま騰也は「復讐鬼」の背後に回り込み、今度こそ超重力を纏った拳を叩きつける――。
「ヒャッハァァァァ! 刀狩りの時間だぁ!」
「ああそうだな、確かに今の俺にゃてめぇの攻撃は躱せそうにねぇ――」
まるで諦めたような様子の「復讐鬼」の言葉。事実、騰也の超重力を纏った拳は「復讐鬼」の背を強かに殴りつけ、彼を河原へと吹き飛ばし、地に這わせた。
「これは……」
「だがよ、俺もこの刃が届かねえからといって――ただのサンドバッグになるつもりは更々ねぇんだよ」
騰也の拳がざっくりと切れている。「ジェミニ武蔵坊・シデレウス」の能力は、肉体と所有物のあらゆる好きな場所から好きな刃物を取り出せる、というもの。殴られたその箇所に、刃渡りの短い剃刀のようなの刃物を仕込んでいたのか。
「面白い。ならばその刃の九九九本、すべて引きずり出してくれる」
「ハ、やってみやがれよ」
「復讐鬼」は超重力圏内の中で、再び立ち上がる。編笠から覗くぎらつく光は、彼がまだ諦めていないという証左。騰也は血を流す拳を握りしめたまま、そこに闇色の力を再び纏わせるのであった。
🔵🔵🔵 大成功

前に別のシデレウス怪人を倒した時…元の姿に戻った子、傷一つなかったんだよなあ~。
ってことは…遠慮は、要らないよねえ?
怪人本体に重力を加圧して抜刀後の動きを封じ、更に刃物を構えた腕ごと亜空間へ転移させ攻撃手段を遮断。
受け身すら取れなくなった相手を魔術で[爆破]し、よろめいた隙に蹴りを入れ、ヒールで[踏みつけ]る。
完全に動けなくなった所で、詠唱錬成剣を[武器改造]でモーニングスター状へ変化させ、[怪力]を乗せて振り下ろし骨ごと叩き潰す。
こんばんは~。ふふ、こっちが本物の伊織くんだねえ。…ふんふんなるほど…うん、如何にも善良そうな青年って感じだあ。
さあ、伊織くん。このカード…見覚えあるんじゃなあい?
「ふふ。僕、前に別のシデレウス怪人と戦ったことがあるんだけどさ~?」
「そうかい。で? それがどうした」
「倒した後に元の姿に戻った子、傷一つなかったんだよなあ~」
ルメルの目には危険な光が宿っている。否、それは今この場だからというものではない。
ルメル・グリザイユという存在そのものの性質が、「そう」だ。
「復讐鬼」はその危険性を瞬間的に本能で理解する。自分はいっとうネジの外れた者を前にしている、という危険信号。されど「復讐鬼」はそれに気づきさえすれど、そのあとの対処を間違えた。
全力で逃げ出すのが正解だった。しかし「復讐鬼」は、一刻も早く黙らせなければ、と、その場にとどまって刃を抜いた。
だから、ルメル・グリザイユはにこやかに二の句を継ぐ。
「ってことは……遠慮は、要らないよねえ?」
「ぐ……おっ……!」
重力操作によって「復讐鬼」の全身が加圧される。如何に達人級の腕前を持っていようとも、体が十二分に動かせなければ、刃の動きが鈍ければ、怖れるに足らず。
「く…っそが……ァ!」
「これで終わりだと思った? まだこれから~」
【|Nexus Gravitor《ネクサス・グラヴィトール》】。
すぅ、と熱したナイフでバターでも切るように、「復讐鬼」の両腕が切り取られる。それは物理的なものではない。肘から先を空間ごと切除し、亜空間へと転移させたのだ。それでも復讐鬼は足搔いた。使えなくなった両腕には早々に見切りをつけ、残された肉体で刃を扱おうとする。けれどそれは、ルメルの魔術による爆破によって封殺される。真紅に染まった怪人態が跳ねる。そこに五センチ以上あるヒールで蹴りを入れ、踏みつけ、踏みにじる。
「ねえ~。どんな気分?」
「最、悪だよ、くそったれ……!」
「ふ~ん、まだ喋れるんだあ?」
ヒールを腹から開いた口の中へ突き入れると、「復讐鬼」の喉からごほっ、と音が鳴る。
「ねえ、舌も切り取っちゃおうか。ああでも悲鳴が聞けないのはつまんないね~」
そう言うとルメルは取り出した詠唱錬成剣を杖の先に棘の無数に生えた球体、すなわちモーニングスター状に変化させる。そして勢いをつけて復讐鬼へと叩きつけた。
「ぐ、がぁっ……!!」
そのまま魔術で強化した肉体の力でもってモーニングスターを「復讐鬼」に何度も何度も振り下ろし、骨を叩き潰す。「復讐鬼」ははじめ苦痛の呻きを上げていたが、そのうち何も声を出さなくなった。その編笠の下でかれが笑みを浮かべていたことも、だから誰も知りようがない。
「あれ、僕は……なんでこんなところで……?」
「復讐鬼」が絶え、ほどなくして堀川伊織は河原で気を失っていた自分に気がつく。
「こんばんは~。ふふ、こっちが本物の伊織くんだねえ」
ルメルは怪人態が解かれ、「復讐鬼」の人格の消滅によって肉体の主導権を取り戻した伊織へと手を伸ばす。
「大丈夫? 立てるかな~」
「あ、すいません。大丈夫、……だと思います。自分で、」
「……ふんふんなるほど……うん、いかにも善良そうな青年って感じだあ」
「えっ?」
「じゃあ質問~。伊織くん、このカード……見覚えあるんじゃない?」
ルメルは伊織へ二枚のシデレウスカードを見せる。伊織に取り立てた変化は見えない。
「あ、それは……先月古本屋で買った本に挟まっていたんだ。栞代わりに使っていたんだけど、もしかしてあなたの持ち物だったのかな」
返したほうがいいのかな? というごくごく一般的な反応的に、なるほど既に彼の中に「復讐鬼」は存在せず、彼はもうシデレウス怪人ではないのだと理解する。
「そうだなあ、伊織くんは持っていないほうがいいかも~? それより、ちょっとごめんねえ?」
「――えっ? ぅわあっ!?」
ルメルは伊織の頭を抑え込んで魔術を発動させる。亜空間を開くことにより、疑似的な結界として展開させる。
伊織の頭のあった場所を、鈍色に光る金棒が振り薙がれていった。
🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『『ドロッサス・タウラス』』

POW
タウラスクラッシャー
【星界の力に満ちた堅固な肉体】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【一等星の如き光に満ちた世界】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
【星界の力に満ちた堅固な肉体】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【一等星の如き光に満ちた世界】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
SPD
ドロッサス・スマッシュ
【星界金棒】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【腕】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
【星界金棒】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【腕】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
WIZ
アクチュアル・タウラス
【星炎】のブレスを放つ無敵の【金属の牡牛】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【星界の力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
【星炎】のブレスを放つ無敵の【金属の牡牛】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【星界の力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
「ヌゥ……今回もカードの力を制御できずじまいであったか」
河原に降りてきたのは、牛の頭部を持つ怪人、ドロッサス・タウラス。
堀川伊織の中に「復讐鬼」の人格――シデレウス怪人「ジェミニ武蔵坊」を生み出した、シデレウスカードをばら撒いた張本人。
「堀川伊織、貴様にもう用はない。消えよ、永遠に」
「…………!」
別人格を生み出されていたことすら知らない青年は怪人の登場に動けずにいる。
ドロッサス・タウラスは伊織を一瞥すると、その場にいる√能力者に落ち着き払った声音で言う。
「貴様たちは我を一度殺した。その力に敬意を表そう。これまでの非礼を詫び、全力で排除させてもらう」
――認めよう。貴様らは強い。
一度でもドロッサス・タウラスと戦ったことがあるものならわかったかもしれない。彼の様子からは、以前持っていた√能力者たちを見下す素振りが消えている。
彼は全力を以てここにいるあなたたちを、排除するつもりでいるのだ――。
無論、それを実行させてやるわけにはいかない。何度死後蘇生してくるとしても、今度もまた撃退するまでだ。
========================================
第三章 ボス戦 「ドロッサス・タウラス」が 現れました。
おめでとうございます。√能力者の戦いの結果、善良な青年「堀川伊織」の中に生み出された別人格「復讐鬼」は倒され、かれはシデレウス怪人であることから解放されました。
今回もまたカードをばら撒いた張本人である「ドロッサス・タウラス」はやってきました。
ですが、このドロッサス・タウラスは一度√能力者たちに敗北し、殺されている為、√能力者たちを見下す姿勢を改めています。
以下に詳細を記します。
「戦場について」
第二章から変わらず橋の下の河原で、人目につかず、人が寄り付くこともありません。
時間は経過しており、午後となっていますが、まだ日が沈みきるには時間があります。
天気は晴れで、光源も確保できます。屋外であり、広さも十分にあります。川の流れはゆっくりで、深さもせいぜい脛程度までです。
戦闘に利用できそうなものも存在しますので、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださったならそれが「あった」ことにします。(「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。)
リプレイ開始とともに敵がその場にいる状況となりますので、事前の行動を行っておくことは不可能です。(例:準備体操を行い、体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)
何らかの準備行動を行うには、戦闘と並行して行うことになります。
「堀川伊織について」
彼は既にシデレウス怪人ではなく、ただの一般市民ですが、第三章開始時にはその場にいます。
第二章にて「目覚めた彼に自身の罪を教えるプレイング」がなかったため、このまま彼に何も教えることなく、ドロッサス・タウラスから逃亡させることも可能です。
ドロッサス・タウラスは伊織の始末よりも√能力者たちと決着をつけることを望んでいる為、伊織が逃走したとしても√能力者を置いて伊織を追うことはありません。
逃走させるというプレイングがなかった場合、物陰に隠れるなどしてその場に留まって自身の身を守ります。
「ボス敵 ドロッサス・タウラスについて」
星界の力、中でもゾディアックの力を操るゾーク12神の一柱です。神聖を持ち傷つけることは極めて困難であり、また、今回は「他者を見下し舐めている」という欠点がありません。
彼はシデレウスカードを制御できなかった堀川伊織を侮蔑こそしているものの、一度√能力者に倒され死亡しているため、√能力者に対する見識を改め、全力で戦うつもりでいるため、√能力者を優先します。
ボス戦であるため、ひとつのリプレイごとに敵にダメージを与えていく形となります。最後のリプレイでなければ、敵に止めを刺すことは出来ませんので、あらかじめご了承ください(どのプレイングを「最後のリプレイ」として採用するかは、送られてきたプレイングの締め切りおよびプレイングの内容によって決定します)
√能力者たちはみな同じ場所にいます。その為、「後続者の役に立てるために情報などを残しておく」プレイングも可能です。(ただし、√能力に関する情報は、後続者が選んだ√能力次第では役立てる機会が訪れない可能性もあります。ご留意ください。)
√能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、その強固な肉体や金棒などによって攻撃してきます。プレイングや√能力の内容次第では敵に攻撃させずに倒すリプレイになる可能性がありますが、あくまで「√能力を使わないだけでは動かなくはならない」とご留意ください。
第三章のプレイング受付開始は、この断章が公開されてから即時となります。
プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
それでは、再び現れた強敵を撃退してください。

【ルメル(h01485)と共闘】
侮を捨てたか。上等。それで俺もお前も対等だ
無敵=不敗ではないって理解したろう?
一回負けた位じゃ割りに合わん。もう少し負けていきな
アクチュアル・タウラスで無敵の牡牛になろうとも、第六感でルメルの人形の位置と相手の攻撃の起こりを感じ、ルメルの人形が死角になる様立ち回り、見切りで相手の攻撃の軌道を予測し、リミッター解除で限界を無くし、肉体改造で身体能力を限界以上に引き上げ、三倍に強化された感覚に対応し、捨て身の一撃で斬り捨てる
「相手が何だろうが真っ正面からぶちのめす!馬鹿だって笑うか?もしそうだとしても笑って良いのはそういう生き方を決めた俺だけだよ!」

刃くん(h00524)と
ぉ、っと……まだ見つかっちゃまずいんだよねえ…。頼んだよ~、刃くん。
敵に識別される前に刃の背後へと身を潜め、更に魔術迷彩服を用いて周囲に溶け込むようにして離れた位置へと移動する。
十分な距離を取った後√能力を発動。創造した人形のうち数体は万が一の為に反射用として手元に残し、残りは刃の体躯による死角を利用して敵に気取られぬよう接近させる。
死角に収まるギリギリの数の人形を送り込んだら、敵に向かって大声で呼びかけ、刃に合図を。
や~あドロッサスくうん! 僕のこと覚えてるう~? この間はご馳走様あ~、ふふふっ。
溜め込んでいた人形たちで一斉に攻撃させ、至近距離での大爆発を起こす。
「侮りを捨てたか。上等。それで俺もお前も対等だ」
刃は現れたドロッサス・タウラスに、一歩前に出る。成り行きで堀川伊織を庇うことになったルメルからドロッサス・タウラスの視線を逸らすためだ。まだルメルには目立つわけにはいかない理由がある。
「無敵は不敗じゃあねえって理解したろう? 一回負けたくらいじゃ割りに合わん。もう少し負けていきな」
「貴様の言葉にも理はあるだろう。だが、もはや我は貴様たちに一切の手は抜かぬ。二度我を地に這わせられるかは、貴様次第であるぞ」
ドロッサス・タウラスの意識が完全に刃へと向く。その隙にルメルは刃の背後へと身を潜め、更に魔術迷彩を自らに施して周囲に溶け込むようにしながら離れた位置へと移動する。
「ヌゥゥゥゥゥン!!」
ドロッサス・タウラスが√能力を発動する。その鈍色の体が金属の牡牛へと変貌した。
奇しくもそれは、ルメルが【|Automata Detonata《オートマタ・デトナータ》】を発動するのと同時。しかしルメルの√能力は、彼の立てた作戦に用いるには時間がかかる。そのうえ、その作戦を行う間はルメルは一歩も動けない。だからこそ、その間は刃にすべてがかかる。
刃は自身の体の限界を超える。肉体が崩壊していくような痛みを、さらに自身の体を造り変えるすることで打ち消し、身体能力を強化する。己がバケモノになっていくかのような感覚に、本能が拒絶を示す。それを鋼の理性でもってねじ伏せ、刃は大地を蹴った。√能力【古龍降臨】を発動させ、太古の神霊「古龍」を纏うことでさらに3倍に強化された移動速度でドロッサス・タウラスからの星炎のブレスを躱す。その間も、ルメルの作り出す魔法人形が死角になるよう立ち回ることは忘れない。
【霊剣術・古龍閃】が放たれる。なれどドロッサス・タウラスは√能力の力で攻撃・回復を問わず外部からのあらゆる干渉を無効化する状態にある。
「解せぬな。今の我に貴様の攻撃が効かぬのは気づいておろう。なにゆえ、そんなにも打ち込んでくるのか」
「相手が何だろうが、真っ正面からぶちのめす!」
「愚策であるぞ。貴様がやるべきは、我の「時間切れ」を待つことであろう」
「はッ、馬鹿だって笑うか? もしそうだとしても――笑っていいのは!そういう生き方を決めた、俺だけだよ!」
「笑いはせぬ。我は貴様を認めよう。なれど、理に適わぬ戦いを続けることは貴様の為にならぬぞ――」
「そいつはどうかな?」
「や~あドロッサスくうん!僕のこと覚えてるう~? この間はご馳走様あ~、ふふふっ」
ルメルがその場から動かぬままで大声を上げ、迷彩を解いて呼びかける。
ルメル・グリザイユは以前ドロッサス・タウラスと対峙した際に、その肉を喰らっている。その屈辱と怒りの記憶は、瞬間ドロッサス・タウラスから冷静な判断力を奪った。
「貴様アアアアアア!!」
叫んだ瞬間、大爆発が起こる。ドロッサス・タウラスの死角に溜め込んでいた無数の、高威力の爆破魔術が組み込まれた魔法人形たち。ルメルが【|Automata Detonata《オートマタ・デトナータ》】で作り出し続けていたそれが、一気に爆発したのだ。
「ヌウゥゥゥゥ!!」
例えあらゆる外部からの干渉を完全無効化する状態であろうとも、浮遊していられるわけではない。ドロッサス・タウラスは爆破には耐えた。しかし、体勢を大きく崩したそこへ――
「そろそろ来たんじゃねえか!? 「時間切れ」ってやつがよ!!」
自らが爆発に巻き込まれることを考慮しない、三倍の移動速度で突っ込んできた刃の【霊剣術・古龍閃】がドロッサス・タウラスに打ち込まれる。その「装甲を貫通する」効果は、ドロッサス・タウラスの√能力の「外部からの干渉を完全無効化する」装甲をも斬り裂いて貫いた。
「――ヌ、ゥゥゥゥゥ!!」
それでもまだドロッサス・タウラスは立っている。本当に√能力の時間切れが来たのなら、彼は即座に昏倒していておかしくない。
「いやあ~、タフだねえ」
「まだまだいけるか」
「もちろ~ん」
刃は「獅子吼」を構え直す。ルメルは魔術迷彩を再び纏い、再びドロッサス・タウラスと戦う体勢を立て直すのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

そちらが本気で来るのであれば我も本気を出さねばならぬ
腕の包帯を捨て、暗黒竜(実はただのタトゥシール)を開放してやろう
「ククク……もう、止められんぞ。封印の施し方を忘れてしまったのでなぁ!
暗黒竜の闘気を余すところなく発し、敢えて敵の√能力による攻撃を受けてやろう
今の我は最大で6回まで死んでも即時復活する
その一方で、貴様の技は2回までしか使えぬはず
腕が折れたところを狙い、圧縮転送フィールドで空間諸共に存在を削り取ってやろう
距離を取って避けても無駄だぞ
空振りすれば、その分だけ空間を削り取り貴様を引き寄せる
そして、どれだけ強固な肉体であろうと、空間ごと削られては防御など無意味!
無明の虚無に還るが良い!
「そうか、本気になったということだな……」
騰也はドロッサス・タウラスを前に、不敵な笑みを浮かべながら腕に巻かれた包帯を外していく。
「そちらが本気で来るのであれば、我も本気を出さねばならぬなぁ?」
包帯の下からは、暗黒竜の刻印――タトゥーシールであるが――が顕わになった。
「ヌゥゥ……その紋様は知らぬものだが、我は侮りを捨てた。ゆえ、容赦はせぬぞ……!」
「それはこちらも同じだ。ククク……もう、止められんぞ……? 封印の施し方を忘れてしまったのでなぁ!」
「――ヌウウゥウゥゥン!!」
ドロッサス・タウラスは鈍色に光る星界金棒を握り、騰也へと打ち込んでくる。騰也は敢えてそれを避けない。ぐしゃり、と潰れたトマトのように騰也の頭が赤く拉げるが、騰也の体は揺らぐことなく、潰された頭部はそのまま再生していく。
【|常闇暗黒竜憑依覚醒《ダークネス・ノワール・ドラゴン・オーバーロード》】。その腕に刻印された|暗黒竜《もの》が例え|タトゥーシール《飾り》だとしても、騰也が闘気として纏い、完全融合した常闇の暗黒竜の力は本物だ。今の騰也は、例え死んでも即座に六回まで復活することができる!
「何ィ……グゥゥッ!」
けれど騰也の頭部を潰した代償に、ドロッサス・タウラスの腕は折れる。彼の√能力は騰也を即死させるだけの力を持つが、二回までしか使えない――騰也を殺しきるには、足りない!
「まだまだである……!!」
ドロッサス・タウラスは慢心しない。故に、√能力に依らない金棒での攻撃を織り交ぜて騰也を攻め立てていくが、√能力を用いるか用いないかで四倍の威力差が生じる。それだけでは騰也は殺しきれない。
「これで終わりか? ――では、我の番だ!」
圧縮転送フィールドを展開し、空間ごとドロッサス・タウラスの体を、存在そのものを削り取っていく騰也。
「グゥゥゥ!!」
ドロッサス・タウラスの腹から血が飛沫く。騰也の「削り取り」を避け、何とかして遠距離から騰也を狙おうとするが、ドロッサス・タウラスが星界金棒を振るうたびに騰也は空間を「削り取り」、彼を引き寄せる。ドロッサス・タウラスは確かに神聖を持ち、星界の力を操る神の一柱なのであろう。しかし、どれだけ守りが強固であろうと、神聖と星界の力、それそのものもまとめて空間そのものごとその存在を削り取られては、纏う神聖も意味をなさない。
「グゥゥゥォオオオオオオッ……!!」
ドロッサス・タウラスは吼える。それでも闘志を失わない。騰也の息の根を止める瞬間を、ずっと狙い続けている。
それに敬意を示し、騰也は全力でドロッサス・タウラスの肉体を「削り取る」――。
「クハハハハ!!無明の虚無に還るが良い……!!」
🔵🔵🔵 大成功

私は一回目あんたを殺してないけれど……それでも、敗北からちゃんと学ぶ相手っていうのは敬意払うで?
本気で全力で来るって言うんなら―――私も、新しい本気の全力でいかせてもらうわ
そこの坊主は、どっか逃げときや!!今の君は、被害者やからなぁ。
伊織に対して逃げるのを促す。カードを配布された被害者。そして加害者。その断罪については自分の関わる事ではない
ポケットから朱羅宇煙管を取り出し火をつけ一服し、新フォームの【シュラウフォーム】に変身
棍棒の攻撃を見切り、朱羅宇煙管で攻撃をジャストガードで受け流し、雁首刀でカウンターを放っていく
本気の強敵相手には必殺技が必要だ
自分の中の剣客ヒーローの記憶と融合し、雁首刀にも闘気を宿す
そして煙管から吐き出す紫煙で引き寄せつつ、相手の攻撃をあえて受ける
4倍のダメージを死後即蘇生能力でスルーする
2回攻撃を受ければ、相手は両腕骨折で何も出来ない
そこに限界突破の居合いで放つ【手綱百景】を叩き込む
もうちょっと、私の怖さっていうの、叩き込ませてもらおかなぁ!
「私は「前回」のあんたを知らん」
ドロッサス・タウラスが最初に「殺された」とき、ルーシーはその場に居合わせていなかった。
「せやけど、それでも、敗北からちゃんと学ぶ相手、っていうのは敬意払うで?」
「……そうか。されど、我は貴様に対しても侮りはせん。貴様たちは我を殺すに足る力を持つ者だと、考えを改めた」
「さよか。本気で全力で来るって言うんなら――私も、新しい本気の全力でいかせてもらうわ」
ルーシーはポケットから朱羅宇煙管を取り出し、隠れていた堀川伊織へと叫ぶ。
「そこの坊主は、どっか逃げときや!!今の君は被害者やからなぁ!」
名を呼ばれた伊織はルーシーへと一礼し、そして逃げ去っていく。彼はドロッサス・タウラスによってばら撒かれたカードを手にしてしまった――手にさせられてしまった、それゆえに被害者であり、けれどそれによって生み出された別人格によって自分の意志の介在しないまま二人の少女を殺した加害者でもある。――だが、少女たちを殺した人格「復讐鬼」はもう消えた。ならば、その肉体の断罪については、自身の関わることではないとルーシーは判断した。
堀川伊織の姿が完全に見えなくなる。これにより、彼を捕捉することは√能力者には不可能となった。ルーシーは、それでいいと思う。
朱羅宇煙管に火を点けて煙を吸い込み――変身。【シュラウフォーム】。
『【Smo-KING!】【Stylish…Soul!!】【smoking can kill you…】』
ルーシーの目尻に紅が差される。両の手に喧嘩煙管と雁首刀がそれぞれ握られた。それを構えるのを待っていたかのように、ドロッサス・タウラスは星界金棒を振り下ろす。
「――ヌゥゥゥゥゥン!!」
「おっと、そうはいかへんよ!」
即座にルーシーが飛びのいたことにより、金棒は河原の地面を陥没させる。そのままドロッサス・タウラスの怪力によって振り回された金棒を朱羅宇煙管によって受け流し、身を低くすると雁首刀でその脇腹へと刺突を放つ。
「やはり貴様らは強い。故に我は、容赦をせぬぞ……!」
ドロッサス・タウラスは自身の√能力の代償と弱点を理解している。だから√能力による攻撃と武器による通常の攻撃を織り交ぜ、ルーシーに強打を繰り出していく。金棒による猛攻。捌ききれなかった一撃が、ルーシーの腹に吸い込まれる。鳩尾を強かに強打されてなお吹き飛ばされずに数メートル後ずさっただけで済んだのは、【シュラウフォーム】による強化の恩恵に他ならない。
(侮りを捨てた、っちうんは本当らしいね……!)
ルーシーはふらつく体を気力で支え、雁首刀を握り直す。本気の強敵相手には、文字通りの必殺技が必要だ。
『【one break…】【Your smoking may harm others…】【手綱百景!!】』
【|手綱百景《たづなひゃっけい》】。ルーシーの中の「剣客ヒーロー」の記憶と、彼女は完全に融合する。朱羅宇煙管からは紫煙が立ち上り、雁首刀には闘気が宿る。
すう、と朱羅宇煙管から煙を吸い込み、そして吐く――吐き出された紫煙はドロッサス・タウラスにまるで絡みつくように、彼とルーシーの間の距離が縮まる。咄嗟にドロッサス・タウラスが振り抜いた星界金棒はルーシーの胸を突き、彼女は絶命する――しかし。
「まだ、まだや……」
【|手綱百景《たづなひゃっけい》】の効果により、ルーシーは即座に死後蘇生する。それによって星界金棒の持つ4倍のダメージを、死んで即蘇生することによってなかったことにする!
「ヌゥゥッ……!!」
既にドロッサス・タウラスが√能力を使うのは二回目。両腕の骨折により、金棒を用いた√能力は封じられた。それでも。それでもドロッサス・タウラスは骨折を無視して、金棒を操って見せる!勿論そこに√能力は宿らない。威力は格段に落ちている。
(相手さんも意地やね。せやけど……!)
ルーシーは自身の肉体が生命活動を行う上で自然にかけていた「限界」という名の枷を、一時的に解き放つ。途端に襲い来るのは全身の痛み。筋肉が内臓を圧迫し、末端の血管と神経が千切れ、その音が耳の奥からぶちぶちと聞こえる。目の毛細血管が破裂して、視界が赤くなる。限界を突破するということはそういうことだ。決して代償なく行えるものではない。だが、その代わりにルーシーは、確かに力を手に入れた。
「もうちょっと、私の怖さっていうの、叩き込ませてもらおかなぁ!」
納刀からの一閃。喧嘩煙管から放たれる紫煙によって「距離」を煙に巻き、エネルギー溢れる巨大化した雁首刀によって放たれた剣閃は、ドロッサス・タウラスの心臓を貫いた――。
「ヌ……ゥ。見事である――」
ドロッサス・タウラスはそれを末期に絶命した。√能力者である以上は、ドロッサス・タウラスは何度でも死後蘇生する。彼をどうにかして「殺しきる」まで、シデレウス怪人の事件は終わらないのかもしれない。或いは、彼を完全に殺した後も、ばら撒かれてしまったシデレウスカードは事件を起こし続けるのかもしれない。
それでも――
今回の事件は、終わった。
もう二度と、「復讐鬼」が。「ジェミニ武蔵坊」が刃を振るうことは、二度とないのだ。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功