シナリオ

G戦場のマリア

#√汎神解剖機関 #天使化事変 #羅紗の魔術塔 #天使※格闘系 #肥溜作る系ヒロイン #フランス

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 #√汎神解剖機関
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 フランス南東。
 アルプ=マリティーム県の都市、グラース。
 フランスの香水・香料の2/3がグラースで作られると云われる、香水のメッカ。
 そのグラースから北へ約十キロ。
 森近くの郊外に古い修道院がある。
 monastère des roses。
 薔薇の修道院と呼ばれるその場所には、大きな薔薇園があった。

 早朝。
 そこでは、まだ十代前半と思しき少年少女たちが朝の畑仕事を終え、井戸端にて朝食前の身支度をしていた。
「あー、アブラムシ対策きっつ」
「ず、ずっと中腰だからね……」
「お酢の匂いも鼻につくし」
 苦労を語りながら手を洗い、顔を拭う少年たち、年齢は十二、三といった所か。
 そんな少年たちの所へ、院の勝手口を開けてやって来たのは淡い金髪の十歳程の少女。
「みんな、ご飯できたよー」
 そばかすの浮かんだ顔、少しおっとりとしたいつもの声。
「おっ、ありがとなポリーヌ」
「き、今日は卵あるの?」
「あるよー、一人半分食べられるよー」
「やった、あとは|マリア姉《スール・マリア》だけか」
 赤毛でお調子者のミシェル、丸い顔に丸い鼻、食いしん坊のルグロ、黒髪で真面目なジョルジュが周囲を見回す。
 と。
 畑の向こう、天秤棒を担いでやって来たのは年の頃は十七、八。
 明るい金髪を結わえ、大きな青い瞳が印象的な少女。
「マリア姉、おはよ……ってくっさ!」
「あのねー、肥担ぎしてたんだから当たり前でしょー?ほら早く井戸から離れて、私使いたいんだから」
 子供達の中で一番の年かさと見える彼女は、まずは汚れた手を洗い、井戸水を汲んでいく。
 どうやらトイレから肥溜めへ、肥料となる糞尿を運ぶ作業をしていたらしい。
 手足の汚れを落とし終え、ふうとマリアは一息つく。
 ふと掌を光に透かす。
 いや、もう透けることはない。
 自分の体は冷たく硬い、金属のような黒光りするモノへと変容してしまっていた。
 ことの起こりは数日前。
 ここで作ったワインやポプリを売りに町へと出掛けて、院長先生が留守となったその日の晩。
 兄弟たちが全員、発熱した。
 みんなで集まり抱き合って、体中がとにかく熱くて、痛くて。
 そんな状態が二日間続いた後。
 目を覚ませば、兄弟全員の体が変化していたのだ。
 黒く固い肉体。羽毛が毟られたような羽根。
 なんらかの病気か怪異の影響なのだろうと自分たちを納得させて。
 院長先生が戻るまではと、マリアは不安を押し殺し努めていつも通りの態度をとっていた。
 いつもならもう戻って来ている筈の院長――アントス先生の身を案じ、祈りを捧げる。
 ……よし、もう大丈夫。
 編み込んだ金髪を翻し、努めてマリアは明るい声を上げる。
「よし、じゃあそろそろ朝食にしよう!」
「はーい!」

 と、そこへ――。
 ズンッ!!
 空を切り裂き、修道院の庭へと舞い降りた影。
 悪夢から飛び出てきたような怪物が腕を振り上げ、振り下ろす先は――ポリーヌ。
 まさに青天の霹靂。
 当然の如く、この場にいる全員の頭は真っ白だ。
 5人の天使が茫然とする中、一体のオルガノン・セラフィムの凶爪が振り下ろされ、小さな天使は哀れ物言わぬ躯に――。
「ッ!!サンチン!!」
「押忍ッ!!」
 ――ならなかった。
 ガギンッ!!
 小柄な体が吹き飛び、壁に当たってレンガが崩れる。
 しかしポリーヌは今や硬質な輝きを持つ金属製の体をギリギリと搾りこみ、長い呼気と共に攻撃に耐えきっていた。
 見れば、怪物を囲む少年少女たちは、皆、一様にポリーヌと同じような体勢――拳を握り脇を締め、呼吸と共に全身を固めている。
「薔薇の修道院、その|修道僧《モンク》がこんな怪異にやられてられないよ!皆!」
「押忍ッ!」
 マリアが声を挙げ、オルガノン・セラフィムの背後から膝裏へ踵蹴りを入れる。
 体勢を崩したセラフィムへ、ルグロとジョルジュが左右から正拳を入れ、ミシェルが飛び蹴り一閃。
 一撃離脱、すかさず距離を取る。
 そう清貧を常とし、己の体を鍛えて神に近づくという戒律を持つ修道士たち。
 この薔薇の修道院の子供たちも院長から空手を学び、年若い子供とは思えぬレベルでそれを修めていた。
 それは無論。人心が荒廃し怪異という脅威すら存在するこの√汎神解剖機関において、自衛の手段がいかに大事か、そしてそれを実際に使う事態が多いかということを表している。
 子供達の思わぬ反撃に、オルガノン・セラフィムは甲高い声を挙げて頭上へと飛び上がる。
「やったか!?」
「ミシェル、それフラグ」
「あれ見て!マリア姉!」
 彼らの頭上、翼を羽ばたかせ、繰り返し鳴き叫ぶ肉色の天使。
 するとその声に、同じ姿の怪異が集まって来る、その数は彼らの倍も居ようか!
「これ、まずくねェ?」
「そうね……修道院に立てこもったとしても、これは……」
「建物壊されるのがオチだね」
「あー、せめて朝ご飯食べてから殺されたかった……」
「ルグロ兄!そんなこと云っちゃダメなのよ!」

 人類は黄昏を迎えていた。
 すでに生物としての生命力を失い悲観思考と終末思想に囚われた人類の中にあって、まだ、明るく命を燃やす者たちがフランスの片田舎に居た。
 ああ、神様。
 我らを哀れと思し召し下さるなら、どうか救いの手を。
 そして出来ることなら、最後にもう一度だけでもあの人に――…。
 マリアが奥歯を噛み締め、一つ十字を切った。

 ――…√EDEN、東京。
「まったく、ひでェ話じゃねェかよ。『善なる無私の心の持ち主』のみが感染する風土病で『天使化』しちまった上に、天使化しそこねた同じ善人だった連中に殺されるなんてよォ……悪い冗談だぜ」
 お前さんたちもそう思うだろ?|天國・巽《あまくに・たつみ》がそう云った。
 場所は羽田空港、窓の外に多くの飛行機を望むラウンジ内。
 明るい陽射しが滑走路を照らす昼前の時間だ。
「まあ、そんなわけで――…お前さんたちには、これからフランスに飛んで貰いたい」
 まず、√EDENで日本からフランスへ。直行便で約15時間。
 そしてグラース近くまで移動したのち、√越えの後、現場となる修道院へ到達。少年少女たちを救って貰いたいのだ、と巽は云う。
「現場にいる子供はおそらく五人」
 変質した頑丈な体と、ここの院長が空手に精通していたお陰でひとまずは持ちこたえているが、十体にもなるオルガノン・セラフィム相手では長くは持つまい。

 今から直行すれば、襲われ始めた直後に現場には到着出来る。
 助けたあとの行動は主に二択。
 彼らを連れて院長が居るという近くの都市グラースへと向かうか、修道院に篭って院長の帰りを待つかだ。
「だが現場近くには羅紗の塔の魔術士アマランス・フューリーなる女が潜伏してる。子供らを完全に隠しきるのは難しいだろうが――…なんとかグラース近辺から脱出出来れば、ひとまず敵の目は晦ませられる筈だ」
 天使化した子供達はその見た目からもはや一般社会で生きてはいけない。こちらで保護出来なければ、子供達はアマランス・フューリーの魔術によって奴隷化され、羅紗の魔術塔でいいように消費されていくことだろう。
 起きてしまった不幸はもはやどうすることも出来ないが、これからどう生きるかの選択くらいは意思を汲んでやりたいものだ。

「それもこれも、まずは命を助けてからの話。一丁、お前達が子供らにとっての真の天からの使い――…天使となってやってくれ」
 宜しく頼む、と、龍眼の男は頭を下げた。

マスターより

朧三太郎
 皆さま、こんにちは。
 三太郎です。
 いやー、酷い話ですね、天使化事変。
 本当の善人しか罹患しない病気ってところがえげつない。
 せめても悲劇はこの辺で食い止めたいもの。

 さて、今回のお話は√汎神解剖機関。
 もうちょっと幸せになっていいんじゃないかっていう少年少女たちを、どうぞ助けてあげて下さい。
 最終的に、多分、一人でも保護しきれれば成功でいいのだと思います。
 言語については、子供達も空手やってて日本語に馴染みはあるので、少しは判るという設定。
 フランス語喋れるよ!という方はプレイングに表記を。
 または、翻訳アプリをご利用下さい。
 なお、世界観的にビター風味のシナリオになる可能性がありますので、ご了承の上ご参加下さい。

 なお、Ankerジョブ「天使」のキャラクターで参加された場合、修道院で暮らしていた兄弟は実はもっと居た、ということになり、彼らと共に暮らしていた子供の一人、という扱いになります。
 良かったら、ご利用下さい。

 また、プレイングに以下の選択肢を選んでおいていただくと、二章以降の動きに影響を与えますので、お考えがあれば、記入しておいてください。

●一章 此処を天使禁猟区とする。
 【A】子供達を連れてグラースへ向かう。
 【B】子供達と共に修道院で過ごす。
 【C】その他。プランCを聞いてくれ!

 兵は拙速を貴ぶ、ということで、一章は公開後すぐプレイングを受付します。
 二章以降は、皆様の行動によって状況が変化しますので、冒頭断章公開後に受付となります。

 それでは、プレイングお待ちしております。
 天使たちの仲間入り目指して、頑張りましょう!
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よろしいですか?

第1章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』


POW 捕食本能
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD 生存本能
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ 聖者本能
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

十・十
最終学歴小学4年生の幽霊がフランス語ができないので日本語でしゃべるでごぜーますかね
【憑依合体】で子猫の幽霊と合体して、全力ダッシュで突撃するでごぜーますよ
あの時ミルクをもらった子猫が助けにきたでごぜーますよ
空間ごとこちらに引き寄せて敵と子供たちと距離をとらせるでごぜーます
相手が先制攻撃するなら「野生の勘」を使って先読みして猫パンチ(掌底)ではじく、隠密状態になっても匂いを嗅いで見つけるでごぜーますなー
相手への攻撃は猫パンチ(掌底)連打と昇猫拳(回転アッパー)で殴っていくでごぜーます
移動するのはこわいでごぜーますから、修道院ですごせないでごぜーますかね?
アドリブ等歓迎でごぜーます

●黒猫と天使禁猟区
「これは大層、いい眺めでごぜーますなー」
 そうして能力者たちは、時速900キロメートルでユーラシア大陸を越えた。
 なお、そのジャンボジェットの背には一人――…いや、一体の小さな幽霊が跨っていたことを、此処に記しておく。

 フランス南東アルプ=マリティーム県――…早朝。
 草原を走り、または飛び。能力者たちは、あけ放たれたままの古びた鉄格子門を抜ける。
 そこで真っ先に動いたのは、十・十(学校の怪談のなりそこない・h03158)。
「建物の向こうへ偽天使が下りていってるでごぜーますなー。ボクは幽霊なので、お先にーでごぜーます」
 メンバーへ長い袖を振り、十はレンガ造りの修道院、その壁の中へとダイブ。
 薄暗い建物の中をどんどんどんどんすり抜けて、辿り着くべき天使の下へ急ぐ――…その途中。
 廊下を走ってやって来る、小さな子猫を発見する。
「おや、キミは……そーでごぜーますか、じゃあ一緒にいくでごぜーますよー」
 窓から差し込む朝の光。
 ちらちらと埃が舞う、欧州の古い修道院の廊下で、その子猫はまるで十を待っていたかのように目の前まで近づくと、ちょこんと座って十を見つめた。
 半透明の体に光が透ける。
 そう、その子猫もまた十と同じく幽霊で。
『君の爪は僕の爪、君の牙は僕の牙――…君の願いは僕の願い。力を貸して、一緒に戦おう』

 【|憑依合体《ノケモノ》】――…!

 そして場所は庭。
 薔薇の修道院、その子供達は円陣を組んで互いの背を預けあい、偽天使――オルガノン・セラフィムたちへの守りを固めていた。
「マリア姉!守ってたってラチあかないって!集中攻撃でさ、一体一体潰してこうぜ!」
「だめ!こいつら連続攻撃はして来るし、こっちが殴ろうとするとあの金色の機械伸ばして来る!手を出したら余計に削られるだけだよ!」
「でもだからって、どうにもこのままじゃ……くっ!」
 そうやり取りするのは、一番の年長者にして実力者であろうマリアと、燃えるような赤毛が目立つ少年、ミシェル。
 云うが早いか、頭上から襲って来た偽天使の爪を固めた拳で弾きつつ、反撃に転じようとすれば、蠢くはらわたによって、ミシェルの体は拘束され、軽々と空中へ持ち上げられてしまう。
「ミシェル!!」
「くそっ……!放せ!放せよこの野郎!!」
 もがくミシェル、しかし、一度捕まってしまえばそうそう解けるわけもない。
 続けてのっぺらぼうの顔、その下半分がまるでいくつも切り込みが入ったカラクリ細工のように開き、内側から出て来た鋭い棘の如き牙が蠢いて、ミシェルの体へと喰いこんで――。

「|昇猫拳《回転アッパー》でごぜーますー」
 しかも強パンチだ!
 突然のHere Comes A New Challenger!
 そしてさらにコンボは続いた。
 顎を砕かれ、錐もみ状に上昇する偽天使のはらわたを、まるで緑色の肌の野生児よろしく、回転する爪攻撃で切り裂いてミシェルを開放、抱きかかえて着地する小柄な人影、その正体は!
「ボクでごぜーますよー。最終学歴小学4年生の幽霊はフランス語ができないので、日本語でしゃべるでごぜーますかね」
 そう、それは憑依合体により黒い猫耳、猫尻尾、両手、両足がもふもふの毛並みに覆われた上、鋭い爪を備えた半獣黒猫状態となった十・十であった!
 再びミシェルを中心に円陣を組み、他セラフィムの攻撃を受け、払い、打ち返して守りの体勢を取る子供たち。
 金属製の四肢はしかし、すでにところどころこそげ落ち、ひび割れようとしている。
「ミシェル!無事!?」
「マリア姉……」
「どうしたミシェル!しっかりしろよ!」
「ノワールだ!ノワールだよ皆!あのかぎしっぽ、間違いない!」
「ええ?ノワール?」
 そう叫ぶミシェルの瞳は、少年たちを庇い戦う十の尻尾にくぎ付けで。
「ま、前にミシェルが拾って、世話してた子猫のこと、だっけ?」
「そーだよ!きっとノワールが俺達を守るために来てくれたんだ!」
 そんな声を背中に受けつつ。
 ノワールこと、十・十は子供達に迫るセラフィム一体を空間ごと引き寄せ、見事に引き離すことに成功。
 続く猫ぱんち(弱)連打からの昇猫拳で二体目を撃破する。
 ……この胸に湧き上がる情熱はどこから来るのか。
 それは、冷たく冷め切った幽霊には、もう無くなってしまった焔。
 子猫の魂が持っていたこの子たちを助けたいという熱が、強く強く、いつもの頭痛をも消すほどに、十の体を滾らせて。

「あの時ミルクをもらった子猫が助けにきたでごぜーますよ。にゃー」
 子供たちを背に、十と子猫が一声、鳴いた。
 敵は、あと八体。
🔵​🔵​🔴​ 成功

エレノール・ムーンレイカー
『善なる無私の心の持ち主』のみが感染する風土病と『天使化』ですか。真に善良な人々が何故このような目に合わなければならないのでしょうか。まったくもって理不尽な話です。
……絶対に子供達を救いましょう。

修道院へ到着しましたら、√能力、精霊憑依を発動。移動速度を強化し、子供たちを護るように前に立ち、襲ってきていた敵を【フォース・ブレイド】で迎撃します。その後、スマートフォンにある翻訳アプリを起動して子供たちとの意思疎通を取れるようにし、語り掛けます。
――あなたたちを助けに来ました。もう大丈夫ですからね。と。

後は子供たちへの攻撃をエネルギーバリアで護りながら、【フォース・ブレイド】を使用し、素早く残りの敵を倒していきます。この際、相手は√能力、生者本能による回復持ちなので、確実にとどめを刺していくことが大事ですね。
――敵の数は多いですが、ここが踏ん張りどころです!

敵を退けられたら【A】子供達を連れてグラースへ向かいたいと思っています。ここにいても、ジリ貧な気がしますので。
※アドリブ、連携OKです。
花喰・小鳥
【B】

「皆さん無事ですか? あなたたちを助けにきました」

状況は切迫している
声をかけながら飛び込んで怪物から子供たちと天使を『かばう』
多少のダメージは|問題ありません《激痛耐性》

「巽さんも無茶を言います。帰ったらデートを強請りましょうか」

うそぶきながら煙草に火を着け、漂う紫煙と私の匂いで怪物を『おびき寄せ』る
子供たちに問われれば、

「名乗るのもおこがましいですが、私は天使、いえ|守護天使《アンジュ・ガルドニアン》と呼んでください」

微笑んでウインク、子供たちを『魅了』するのも忘れない
フランス語をはじめガリア地方の言葉は話せます

「怪我はありませんか? 見せてください」

必要なら【愛奴隷】で対応します

●|守護天使《アンジュ・ガルドニアン》
 十と偽天使達の戦いは続いている。
「ほーら、こっちでごぜーますよー」
 十が招き猫宜しく、右手をくいっと動かせば空間は削り取られ、偽天使が間近へ現れる。
「そーれ、ひっかき攻撃でごぜーます」
 即、左手の爪で偽天使を攻撃すれば、さすがの偽天使も空間転移直後にカウンター攻撃は出来ないらしく、一方的にダメージを受ける。
 しかし今現在、十は4体の|偽天使《オルガノン・セラフィム》を一手に引き受けており、実体化した肉体は、少なくない傷を負っている。
 しかも、|偽天使《オルガノン・セラフィム》は本能的に、己に無いものを求めるのか、天使と化した生体を捕食したいという欲求に駆られているようで、暫くすれば再び子供たちの方へと寄って行ってしまうのだ。
「ルグロ、そこ!」
「お、押忍!」
 |偽天使《オルガノン・セラフィム》が振るう腕を上段受けで止めたルグロが、小さく踏み込み足の指を踏みつけ、すかさず円陣に戻る。
 幸い、子供達も身を守るのを主眼としつつ、要所要所で的確なカウンターを入れ、今のところ円陣に攻め込まれる不安定さは感じられない。
 しかしその行動原理により、自ずと攻撃対象は散らさざるおえず、一体を集中攻撃して撃破し数を減らすということが出来ない。
 さらに、敵には範囲回復能力すらあるのだ。
 今も、一体の|偽天使《オルガノン・セラフィム》の捕食本能――【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を受け、十の小さな体が鮮血の花びらに飾られながら、朝露に濡れた地面に組み伏せられる。
「あんまり強引なのは嫌われるでごぜーますよー?」
 本人の口調はのんびりしたものだが、ここで畳みかけられてはたまらない。
「ノワール!」
 残る四体の|偽天使《オルガノン・セラフィム》に囲まれ、同じく傷だらけになりながらも、ノワールこと十の心配をする子供たち。思わず、守りの陣を崩し、ミシェルが飛び出せば。
「危ない!ミシェル!」
 待ち構えていたかのように、ミシェルへ襲い来るは凶刃の爪牙。
 そして|偽天使《オルガノン・セラフィム》はまるで弱った子猫に鴉がそうするように、次々と十へとのしかかり、趣味の悪い拷問器具めいた牙を剥き出しに――…。

「夜に傅き、堕ちよ――【|愛奴隷《カーミラ》】」
「フォース・ブレイド――…!」

 その時、子供たちの目の前で、奇跡が起きた。
 自分たち、そして十の体の傷がみるみる内に癒され、痛みは失せていき。
 十に覆いかぶさっていた|偽天使《オルガノン・セラフィム》は光り輝く光の剣を持つ銀髪の人物――まるで英雄譚に謳われる騎士のような――によって、なぎ払われ、大きく間をとっている。
 もちろん、その中心、十のそばに立つのは、エレノールだ。
 そして十を助けるべく飛び出したミシェルの背、そこに襲い来る筈だった|偽天使《オルガノン・セラフィム》の爪をかわりに受けとめた者がいた。
「……皆さん無事ですか? あなたたちを助けにきました」
 流暢なフランス語でそう云ったのは、小鳥。
 爪を受け止めた腕からは、真っ赤な血が溢れ、上着の袖は切り裂かれている。
 けれど大丈夫、どうせ痛みには|慣れています《激痛耐性》と、本人は涼しい顔だ。
「巽さんも無茶を言います。帰ったらデートを強請りましょうか」
 などと云いつつ、流れるそれへ舌で触れる。
 ふふ。ここに本人が居たら、いらんフラグ建てンじゃねェよとでも云うでしょうか?
「十君、先行、ありがとうございました。まだ、大丈夫ですよね?」
「このくらいの責めは馴れたもんでごぜーますから」
 エレノールは「良かった」と一つ頷き、十と互いに背を預けながら、フォース・ブレイドを振るう。
 そうして|偽天使《オルガノン・セラフィム》を牽制しながら、上着のポケットにセットしておいたスマートフォンを起動。
 頭上へ高々とそれを掲げ、翻訳アプリで子供達へと語り掛ける。
 ――あなたたちを助けに来ました。もう大丈夫ですからね。
 と。

 小鳥が煙草に火を着ける。
 漂う紫煙と彼女の体臭は怪物を『おびき寄せ』る。
 では、怪物は子供達と小鳥、果たしてどちらを襲うのか?
「おねえさんたちは――…もしかして、天使様なの?」
 香りに迷い、戸惑い、|偽天使《オルガノン・セラフィム》たちの攻勢が一時止む。
 少し余裕が出たのか、子供たちの中でもっとも小さな女の子――淡い金髪にそばかすのポリーナが、思わずつぶやいた。
 子供たちから見れば、可愛がっていた猫が蘇り、綺麗な女性二人が突然やって来て、しかも普通ではとても考えられないような力を発揮して、自分たちを守ってくれている。
 黒く固い、金属のような肌を持ち、歪んだ羽根を持つ、いうなれば怪物のような姿となってしまった自分達のことを何も不信に思う様子もなくだ。
 神様の使いなのか、と思ってしまうのも無理ないことだったかもしれない。
 ふふ。
 赤い唇から笑みがこぼれる。
 そして金髪の美しい天使は、再びの【|愛奴隷《カーミラ》】で回復力を増幅しながら、云った。
「よく分かりましたね。名乗るのもおこがましいですが、私たちは天使、いえ|守護天使《アンジュ・ガルドニアン》と呼んでください」
 微笑んでウインク、子供たちを『魅了』するのも忘れない小鳥。
 当然ながら、そのウインクで子供たちの――主に、少年三人のハートがズキュゥゥゥン、という効果音付きで撃ち抜かれたのは、云うまでもない。
 花喰・小鳥。
 罪な女であった。

 戦闘は続く。
 エレノールは十との連携を駆使し、フォース・ブレイドで的確に敵の数を減らしながら、子供たちへの攻撃へもエネルギーバリアを展開、小鳥と子供たちの負担を減らすことに成功している。
 そして自身もまた、高められた移動力は敵の攻撃を躱し、死角へと踏み込みつつ切り、さらに次の敵へと切迫する、という機動力を見せ、さらに四大精霊の力を集中させた光の剣、フォース・ブレイドの半非物質の刃は敵の硬い皮膚を無視し、また多大なる破壊力を秘めるのだ。
 銃士の瞳は的確に、偽天使の隙を|狙い撃つ《スナイプする》。
 そうして小鳥の守りを背にしたエレノールの剣技は、新たに三体の偽天使がその体を塵へと還す。
「――敵の数は多いですが、ここが踏ん張りどころです!」
「ええ、それにもうそろそろ――可愛らしい、次の|守護天使《アンジュ・ガルドニアン》もやって来る頃合いです」
 守りと攻めを互いの権能とする、金と銀の美しい天使たちが、頭上を見上げる。
 思わず釣られて、修道院の屋根の上を見上げる、子供達。
 輝く太陽が照らす、美しい朝が鮮血に彩られた悪夢に変えられようとしたこの日。
 子供達は、光り輝く天使に出会った。

 残る敵は――…あと五体。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

●或る少女の日記
 お父さんやお母さんとお別れして、知らないおじさんに連れられて村を出た。
 おじさんは、他にも4人の子供たちを連れていて。
 その子たちもわたしと同じで、家ではご飯を食べられないからと、おじさんと一緒に町に行く子たちのようだった。
 そうして町に着けば、おじさんは大きなお屋敷にわたし達を連れていき、お金をもらって出て行った。
 わたし達はその家で働き始めた。でも叩かれたり、蹴られたりして、やっぱりご飯なんてろくに貰えなくて。
 あまりにお腹が減って、たまらなくて。みんなである日、お屋敷を逃げだした。
 もちろん、すぐに見つかって、ひどく折檻されたけれど。
「もし?宜しければその子たちを私に譲っていただけませんか」
 そんな言葉をかけてくれた人がいた。
 わたし達の先生。
 貧しいけれど、心安らかな生活を与えてくれた人。
 清い心がとても強いものであることを、教えてくれた人。
 去年の先生のお誕生日には、物置で見つけた皮ひもを編んで作った白いバングルをプレゼントした。
 一生懸命磨いた、あの人の心のように真っ白なバングル。
「ありがとうマリア。これはもう、二度と外せないよ」
 違います先生。
 ありがとうは、わたしが伝えたいことなんです。
 ありがとう、先生。
 ……先生?
 わたし、いつか叶えたい夢があるんです。
 いつかわたしも先生みたいに、一人で立って、どこへでも行ける強さを手に入れて。
 わたしのような子供たちを、助けられる人になりたいんです。
 もしも叶うならその時は、先生と一緒に。
 ありがとう先生、わたしを助けてくれて。
 ありがとう先生、わたしに夢を与えてくれて。

 わたしの……わたし達の、大切な人――。
黒後家蜘蛛・やつで
ましろ(h02900)をお供にフランス旅行です
やつでは天使に興味津々ですので

まず怪物のお相手をして一息つきましょう
五人を守るよう道にクモ糸を仕掛けて、動きを封じてましろにパスです
トドメはぐるぐる縛って時間稼ぎ、次の方針を決めるために話しかけます

賢いやつでは、最近のお出かけに合わせてヨーロッパの言葉も学習しました!
えーと、この辺りだと、アディウ、じゃなくて、ボンジュール?

やつではあなた達のことを知っている、とある人からあなたたちを助けるようにお願いされてここに来ました
悪者があなたを追っています
街に気になる方がいるのならやつではそこに辿り着くまで守るザンス?
と、【A】を勧めます

※アドリブ連携大歓迎
白兎束・ましろ
やつでお嬢様(h02043)とフランス旅行っす!
フランスと言えばフランスパンっすよね。

おりゃー、天使のなりそこないはお掃除するっすよー!
【爆弾兎の全自動お掃除ロボ】を起動するっす♪
お嬢様がぐるぐるに足止めしたやつにロボが突っ込んでいってどかーんっすよ♪

あっ、お嬢様、語尾にザンスってつければおフランスぽくなるっすザンスよ。
なんか大昔のアニメで見たからたぶん間違いないっす!

ふぅ、とりあえず襲ってきたオルガノンなんちゃらはやっつけたっすね。
籠城してもじり貧っすから、ましろちゃん的には「【A】子供達を連れてグラースへ向かう。」がいいと思うっす。

※アドリブ連携大歓迎

●蜘蛛とお掃除とたわし
「いっせぇー…のっ!」
 修道院の屋根の上から声が聞こえた時にはもう遅かった。
投網のごとく編み込まれた蜘蛛の巣が、見事な三日月形を描いて子供たちを取り囲む|偽天使《オルガノン・セラフィム》へと躍りかかり、その体を絡めとる。
「おりゃー、天使のなりそこないはお掃除するっすよー!爆弾兎の全自動お掃除ロボ、発進っす!」
 続けて、そんな叫びが聞こえてくれば、屋根の上から飛来するのは……いや、なんかぽいっと投げ捨てたようにしか見えないが。え?気のせい?わかりました、じゃあそういうことにしておきます。
 えー、飛来するのは、見た目的にはなんか小型の洗濯機に三角巾とエプロンぽい布を装備させ、はたきっぽいアンテナが生えた機械。
 先の叫びの通り、お掃除ロボと云われればそう見えないこともない。
 そしてそれを投げ捨てた少女もまた、可愛らしいメイド服にうさぎのワンポイント刺繍が施された三角巾とモップを手にしていた。
 チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ。
 緊張感は時間の体感速度を遅くする。
 ゆっくりと回転しながら落ちて来る、全自動お掃除ロボ。
 なぜか、時限爆弾のようなカウントらしき時計音を発しながら、蜘蛛の巣に絡め取られた|偽天使《オルガノン・セラフィム》の中心へと落ちてゆく。
「あ、みなさん、避難しましょう。いまなら怪物に邪魔もされませんから」
 何か嫌な予感がした小鳥の言葉に子供たちはそっと退避し、様子を見守る。
 と。
 チッ、チッ、チッ。
 ……ドッカーン!!
 落下、もとい着地と同時。
 何故か少し、悲し気なオーラを放ちながらカッと光った全自動お掃除ロボは偽天使を巻き込み、爆裂四散!
 偽天使たちを見事、撃退することに成功する!
 ゴオォォォォォォ!
 これぞ『蜘蛛糸を用いて屋根の上から移動はショートカット!投網状に糸を編み込んで爆発させたら一網打尽作戦』!
 |みごとに作戦を成功させた《ダイスがクリティカルした》二人の人物は腕組みをし、ドヤ顔を決めながら、轟音と共に上がる煙を見下ろしている。
 そして、その二人こそ!
 主である黒後家蜘蛛・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)と。
 その従者である白兎束・ましろ(きらーん♪と|爆破《どっかーん》系メイド・h02900)であった。
 いや、それにつけてもお二人さん?
 ゴミを爆弾で爆破するのは、お掃除と云っていいんでしょうかね?
「もちろん」
「いいに決まってるっす!」
 いいならいいんだ。
 さて、そんな|ドヤ顔ムーブを決めた《「ふっ、やれやれ」「まったく手のかかる奴らだぜっす」》二人は、再びやつでの蜘蛛糸を用い、屋根からするりと地上へと。
 その頃には残り一体の|偽天使《オルガノン・セラフィム》も見事、エレノールと十によって仕留められ、ひとまず現場は敵の全滅を見る。
「賢いやつでは、お出かけに合わせてヨーロッパの言葉も学習しました!えーと、この辺りだと、アディウ、じゃなくて、ボンジュール?」
「さすがお嬢様!あっ、でも語尾にザンスってつければ余計おフランスぽくなるザンスよ。なんか大昔のアニメで見たからたぶん間違いないっす!」
 フレンドリーな笑顔で屈託なく、子供たち――と云っても、やつでとましろよりは大体年上だが――へと話しかける二人。
「ええと、彼女は、挨拶してくれている……んですよね?」
 マリアがそう、小鳥へ問いかければ「ええ、もちろん」と、頷く小鳥。
「皆さん、ご無事で」
「なんとかなったでごぜーますかねー」
 エレノールと十も子供たちのもとへとやってくれば、一番年長者である少女、マリアが前に出て能力者たちへお礼を――述べようとした瞬間。
 マリアはハッとその表情を険しくし、能力者たちへと走り寄る!
「えっ、あの方はどうしたんでしょう、何か怒ってます?」
「お嬢様!きっとボンジュールじゃなくてポンジュースだったっすよ!はやく!はやく言い直して!」
「ポ、ポンジュース!?」
 驚く二人の眼前、跳躍し、マリアの飛び二段蹴りが、上空からやつでたちを不意打ちしようとした|偽天使《オルガノン・セラフィム》を蹴り飛ばす!
「あっ!?さっき全部倒したはずです、死んだふりとは卑怯ですよ!?」
「違うっすお嬢様!上見てください!新手っすよ!」
 あわてたましろ、思わずお掃除モードのエプロンポケットからたわしを取りだし、うりゃうりゃー!
 はい、タイトル回収。
 と、上空の|偽天使《オルガノン・セラフィム》へと投げつける。

 ――その名は|ὄργανον・Σεράφ, Σεραφείμ/Σεραφίμ《オルガノン・セラフィム》。
 真理の探求を可能・容易にするための道具としての天使。
 神の僕たる天使にすら、己が道具であると名付け、かの者が人であった頃の善性など、もはや何の意味もないとの烙印を押された存在。
 そして名前というその呪を与えたのは、真理の追究、己が研究をその第一とし、その他すべてのものを排除して当然という、人として生まれながら人間の情を全て捨てたモノ。
 羅紗の魔術塔、その術士たちの僕、オルガノン・セラフィムが、今、再び修道院の空にその姿を現した。
 同族たちの断末魔が呼んだか、天使たちの血の匂いを嗅ぎつけたか。

 天使は瞳に絶望の色を宿し、飛来する。
 その数――…再びの、十。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

椿之原・希
大変な事件が起きているのです。
天使になるってすごく怖いし痛かったでしょうけど、それでもみんなで力を合わせて凌いでいるのはすごい事なのです。
だから、助太刀に来ましたー!

結晶型レイン砲台「しずく」起動!一番敵が密集している所にレーザーを浴びせてください!(「命令を受領します。カウントダウン開始」と無機質な声がレイン砲台から響いてくる)
天使になった人達を誰一人攫わせはしないのです。奴隷になんてもってのほかなのです!

あと、戦闘で怪我を負った人は絶対いると思うのです、だから回復用√能力「小夜鳴鳥」も使います。
いたいのいたいのとんでいけーですよ。
…あっ
自己紹介がまだだったのです。私は椿之原希って言います。えっと、えっと…のーぞーみーですー。(身振り手振りで意思疎通を頑張ろうとする)

うーん、私は【B】子供達と共に修道院で過ごす。を選びたいのです。
グラースへ行くのも確かに一つの手段ですけど、グラースのどこに院長先生がいるかわからないなら闇雲に動くのは逆に混乱を招く気がします。
久瀬・千影
【A】
…彼等、姉弟達を一人も欠けさせずに助けたい――なんて、口に出すつもりもねぇけど。
俺のやるべき事は決まってる。何処だろうと同じ事さ。
天使化事変。|犠牲になっ《天使化し損ね》たアンタ達には悪いと思ってる。けど、アンタ達が善人なら。自分の凶行を止めて欲しいと…願ってる、って。そう都合よく解釈させて貰うぜ。

俺は姉弟達の護衛役。
打って出て数を減らすよりも、彼らに襲い掛かる相手を迎え撃つぜ。
伸び縮みする爪を【見切り】で崩して、はらわたを【怪力】にて振りほどき、『紫閃』にて口から【切断】。
視線を姉弟達へチラリと向けて。全員無事そうなら少しだけ笑って。
――手を貸すぜ。
刀を鞘に納めて、腰を僅かに落とす。
短い呼吸と共に『五月雨』にて【居合】。300回の4倍……になるのかね?
10分も与えねぇ。直ぐに終わらせてやる。

フランス語は喋れねぇ。英語なら拙いながら少しだけ話せる。
……英語は世界の共通言語だと思うが、まだ日本語の方が通じるか?
どっちにしろお喋りは余裕が出来てからだろう。今は脅威を退けるのが先だ。

●みずのと
 再び襲い来る|偽天使《オルガノン・セラフィム》の姿に、即時、戦闘態勢を取る能力者たち。
 もちろん、子供たちを自らの背に庇うのも忘れない。
 さて、敵は十匹、地上に降り立つか、それとも空中から来るか――?
 一先ず遠距離攻撃の準備を念頭にいれつつ、再び緊張感に満たされる修道院の庭。
 そして空中から自由落下に乗って爪牙を振るう偽天使たち――しかし。
「あれ?半分が屋根の上に……?」
「おかしいですね」
「あっちでもなにか襲ってるみてーでごぜーますが」
「でも、屋根の上にそんな襲うような生き物なんて……あ」
「あ」
 やつでとましろが顔を見合わせた。

「わー!いきなりこっちにこないでくださいですー!」
 そして地上で戦闘が始まったのと同時、屋根の上で5体の偽天使たちに追われ、逃げ惑うのは椿之原・希(慈雨の娘・h00248)。
「やつでさんもましろさんもひどいですー、私のこと、完全に忘れてますですー!」
 わーん!と、きらめく涙を風に散らしながら足場の悪い屋根を希は疾走する。
 そう、それは裏庭での戦闘が開始されるより前のこと!
 建物をショートカットするために、やつでが自前の蜘蛛糸を用いて屋根に上る際、ましろが「希ちゃんも軽いし、一緒に連れてってあげたらどうっすか」と述べ「そうですね」と、やつでが頷き、一緒に屋根の上を通って裏庭に降り立つ予定であった。
 だが、思いがけず|自分達の攻撃が大成功《ダブルクリティカル》してしまったため、一緒に攻撃しようと思っていた希はその必要がなくなり、また、テンションが上がった二人はついつい希を降ろすのを忘れ、喜び勇んで|地上へ降りてしまったのだ《マスターによる演出です。お二人には何の罪もございません》!
 しかしながら、そこは希もレプリノイドかつ学徒動員兵。
 逃げ惑いながらも、9mm拳銃「希望」で牽制し、時に転び……もとい、前受け身をして避け、転がり、致命傷を避けて粘っている。
 しかし、彼女のファミリアセントリー「あられ」は拠点防衛用に特化され、動き回っての使用は不向き。
 そして彼女の主武装である決戦気象兵器「レイン」は強力なれど、その起動に数秒だが時間がかかる。
「うーん、ほんのちょっと時間があれば反撃出来るんですけど……あ!」
 そんな彼女の呟きに応えるように、屋根の上へと躍り上がった人物が、希の視界に入る。
「やれやれ。俺は姉弟達の護衛役と思ってたが、今、助太刀がいるのはどうみてもこっちだな――…迎え撃つぜ」
 すらりとした身体が、生命力に満ちた躍動感と共に宙に舞う。
 突っ込んで来た一体へ『合わせ』て跳躍。
 狙いすました大上段からの真向斬りで、その頭蓋を叩き割る。
 少年の名は久瀬・千影(退魔士・h04810)。
 年若くして、こたびの作戦、その参加者の中でも一、二を争う実力者である。
 倒れ伏した偽天使へトドメの一撃をくれると、少年は屋根の上から、視線を裏庭の姉弟達へチラリと向け。
 よし、全員問題なさそうだ、と少し笑う。
 …彼等、姉弟達を一人も欠けさせずに助けたい――なんて、口に出すつもりもねぇけど。
 俺のやるべき事は決まってる。何処だろうと同じ事さ。
 そして彼の視線は再び前へ。
 だがそうしながらも、足元に倒れ、チリとなってその肉体を風化させつつある偽天使へも少しだけ意識を向ける。
 天使化事変。
 |犠牲になった《天使化し損ねた》アンタ達には悪いと思ってる。けど、アンタ達が善人なら。自分の凶行を止めて欲しいと…願ってる、って。そう都合よく解釈させて貰うぜ。
 そう、胸中に独り言ちながら、少年は油断なく愛刀『無銘』を構え、その刀身をすうっと手のひらでなぞる。さすれば刀刃は即時薄紫色へと染まり、『怪異殺し』の|概念武装を施す《呪を乗せる》――【紫閃】。
「とはいえこの数、俺一人じゃちょいと手こずる。ここは共同戦線といこうぜ、希」
 そういうと千影が動く。
 自ら切り込むことはしないが、的確な位置取りで希の前衛を張り。群れなし、襲い来る偽天使の伸び縮みする爪を【見切り】、無銘を体と並行にして、身体ごとはらわたに締め付けられれば、即時、しゃがみこんで牙を避けつつ、体重を刃へ乗せて【怪力】とあわせて切り裂き、ほどき。
 伸びあがり、螺旋に跳躍することで頭上の頭部を『紫閃』にて【切断】する。
 複数に集られれば無論、無傷とはいかなかったが、その被害を出来うる限り最小値へと近づけ、また同時に反撃を入れる動きは、数多くの実戦を踏んだが故のものだろう。
「久瀬さん、ありがとうございます!前衛さんが居ればもう安心です……結晶型レイン砲台「しずく」――起動!」
 千影の向こう、残り四体の偽天使へ希が指を指せば、希のすぐそば、ぷかりと揺らめく水の球体とでも云うべき存在が浮かび上がり。
「命令を受領します。カウントダウン開始」
 と、無機質な声を発する。
 そう、これが椿之原・希の持つ最大戦力、決戦気象兵器「レイン」そしてその端末である結晶型レイン砲台「しずく」である。
 ――…天使になるってすごく怖いし痛かったでしょうけど、それでもみんなで力を合わせて凌いでいるのはすごい事なのです。
 だから、私も少しでも、助太刀したいって思ったのです!
 天使になった人達を誰一人攫わせはしないのです。奴隷になんてもってのほかなのです!
 強い決意を瞳に宿し、少女は哀れなる残酷な天使に立ち向かう。
 やや甲高いチャージ音を、乾いたフランスの空に微かに響かせながら、「しずく」が弾道計算を終える。
「Ballistic calculation complete――決戦気象兵器「レイン」発射可能です」
「――終わらせようぜ、希」
 千影が刀を鞘に納めて、腰を僅かに落とす。
 短い呼吸と共に放つ技は――『五月雨』にて【居合】。
【紫閃】とあわせたその剣閃の数は300回の4倍にもなろうか。

「――10分も与えねぇ。直ぐだ」
「レイン!一番敵が密集している所にレーザーを浴びせてください!」
 癸。
 二つの雨が、天使たちへと降りそそぐ。
 千影の眼前の偽天使が、微塵となって瞬壊し。
 さらに、使用者に敵対する全ての敵を、天から射殺す数百の水の矢が、二人の敵一切を穿ち。
 かつて清らかなる人だった者たちは、ついに安らかなる眠りを得た。
 しばしの残心。
 動く敵が完全に居なくなったのを確認すると、二人は眼下の裏庭、その光景を見る。
 笑いながら親指を立てる仲間たち。
 被害なし、オールグリーン。

 偽天使掃討、これにて――完了。

●青空と笑顔とラーメンと
「誰か怪我はありませんか?まだ傷がある人は見せてください」
「私も治せますから云ってくださいねー?あっ、自己紹介がまだだったのです。私は椿之原希って言います。えっと、えっと…のーぞーみーですー」

 戦闘後。
 修道院の子供たちは一通りの自己紹介を終え、助けて貰ったお礼に朝食を是非一緒に、と能力者たちは請われた。
 ダシも何もない、クズ野菜が浮かぶスープ。
 一人、卵半分ほどの量のスクランブルエッグ。
 固くなったパン。
 6人分の食事をなんとか7人分へ分けたものがテーブルに並び、子供たちは井戸水を汲んで、笑顔で能力者たちの給仕に徹する。
 ルグロの腹がぐぅ、と盛大に鳴ればミシェルとジョルジュが急ぎ部屋から連れ出して。
 そして、能力者たちは――。
「いただきます」
 ありがたく、それをいただき、そして。
「あの、食事のお礼、というわけではないですが、私の携帯食を良かったら味見してくれませんか?こちらの人の舌にもあうのか、聞いてみたいんです」
「――と、彼女は云っています」
 そして暗い食堂から明るい裏庭へテーブルを移しての、陽光の下でのブランチと相成った。

 そのメインディッシュは――もちろんエレノールの携帯食、煮干しラーメン爆盛りである! 

「おいしい……!これ凄くおいしいよ……!?」
「え、なにこれ……なにこれ!?こんなの初めて……!」
「うめ、うめ、うめ、うめ……」
「泣くなよルグロ、でも美味い……すごい美味しい……」
「ノワール、ノワール!お前も食べろよ、これすげー美味いぞ?」
「いえ、僕は幽霊でごぜーますからー」
「しおじゃけとしおさばもありますよー、どうぞ!」
「わあ。ありがとう、可愛らしい天使様」
「これもどうぞっす!これがジャパニーズDAGASHI、うめーぼーっすよ、キャラメルもあるっす!」
 少年、少女たちは清貧な生活の中、常に飢え、カロリーを欲していたのだろう。
 爆盛りをいともたやすく食べきり、まだ食べられそうな子供たちに替え玉を用意しつつ、ねじり鉢巻き、額に汗してラーメンを作ったエレノールも満足そうだ。

 そしてお腹も一杯になり、人心地ついた一同は、互いのこと、今後の事を相談し始める。
「やつではあなた達のことを知っている、とある人からあなたたちを助けるようにお願いされてここに来ました。悪者があなたを追っています。街に気になる方がいるのならやつではそこに辿り着くまで守るザンス?」
「籠城してもじり貧っすから、ましろちゃん的にはみんなを連れてグラースへ向かうのがいいと思うっす」

「私も子供達を連れてグラースへ向かいたいと思っています。ここにいても、ジリ貧な気がしますので」

「フランス語は喋れねぇ。英語なら拙いながら少しだけ話せる。……英語は世界の共通言語だと思うが、まだ日本語の方が通じるか?」

「うーん、私は子供達と共に修道院で過ごす。を選びたいのです。グラースへ行くのも確かに一つの手段ですけど、グラースのどこに院長先生がいるかわからないなら闇雲に動くのは逆に混乱を招く気がします」

 そして子供たちは理解する。
 彼ら、守護天使が、星詠みと呼ばれる力の持ち主によって自分達の窮地を知り、日本からフランスまで助けに来てくれた特殊な力を持つ人達だということを。
 そして彼らと協力関係にある、日本の汎神解剖機関という組織に身を寄せれば、何らかの協力はすることになるだろうが、自分たちを狙う欧州の秘密組織、羅紗の魔術塔に囚われることが避けられるのだ、ということを。
 そして暫し、子供たちが相談しあう時間が過ぎた。
 能力者たちはそれをやや、離れた場所から見守り――そして、彼らが出した結論は。

「お話は判りました。私たちはあなたたちと共に、汎神解剖機関に身を寄せたいと思います」
 しっかりとした口調ながら――その瞳には、いまだ迷いの色がある。
 当然だ。
 貧しく、厳しくもあったろうが、まるで鳥籠のように静謐で平和だったこの修道院の外の世界のことは、彼らはほぼ何も知らないのだ。
 己が身すらどうなるかも不確定な異世界へ、好んで足を踏み入れる者など、この世に絶望した者だけであろう。
 そして彼らは人の善を信じ、善を行える強さを持ち、いまだこの世界に絶望していないのだ。
「ですが、今、ここを留守にしている院長先生に何も告げずに、そちらへ向かうことは出来ません。私たちは一度、グラースへと向かい、院長先生の泊まっているホテルや、付き合いのある業者さんを訪ねて、院長先生とお話をして、それから向かいたいと思います」
 正直なところ、悠長だな、と思う者がいないわけではなかった。
 しかし至極、もっともな話でもあった。
 能力者たちは思うところを胸に秘め、微笑んで首肯する。
 ならば自分達はグラースまでの護衛をし、また目立ってしまうだろうあなた達に代わって、情報を集めて、いち早く院長――アントス先生と合流できるよう、最善の努力する、と。

 町まではどれだけ急いでも、徒歩では丸一日以上、普通に歩けば二日はかかる。
 彼らは、家畜である鶏や豚を小屋から出し、持てるだけの食糧を持って旅支度を始める。
 二度と戻れない鳥籠から、飛び立つ時がやって来たのだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

望田・リアム
…という依頼を√EDEN側で聞きまして
|√汎神《ここ》から直接コート・ダジュール空港経由で合流しましょう
前向きな方々が戦っているそうなので是非協力を!

【合同会社バーチ】として従業員の旅費は勿論出ますし、
僕が南仏でも話せますから旅程は問題ないです

現着後、僕たちは彩果さんの足を活用して【切り込み】広範囲のカバーを
僕の護霊『此は汝が嵐』は遭うべき運命にしか作用しませんが…
しかしたとえ修道院の彼らの未来が過酷なものだったとしても
”より相応しい機”はある筈です。

要救助者の安全が一旦確保されたら周辺確認を担いましょうか
「潜伏する魔術師とやらの痕跡がもし見つかれば
出方の推理材料にはなるかもですが」【C】
華応・彩果
【合同会社バーチ】の初仕事かあ…
ふんふん、フランスで天使が…

「……よくないよねそういうの。
お金も大事だけどやっぱ――掬えるだけ救わないと」

こういう時の速さは強さ
という事で社長のリアムと一緒に相棒【バイク】を使って広範囲のカバーと安全の確保。

「『こんなこともあろうかと』色々準備はしてきたしね?」

その後は【C】潜伏している魔術師を探す。
先に探し出せれば先手も打てるしそれが無理でも時間稼ぎにはなる
倒す必要はないんだしね?
要は皆が無事ならいいワケだし。

「まぁあんまし戦うのは得意じゃないんだけどさ
四の五の言っててられないしね!使えるものは使う
そうしないといけないんだよね……ほんと私はさ」
モバイル・バッテリー
…なんて感じで|【合同会社バーチ】の社長《リアム》からのお達しが出た。
#天使化事変 についてはどうにかして|現地の状況も確認し《一枚噛み》たかったから一石二鳥、渡りに舟だな。
リアムのニヤけ面が浮かぶ。

方針は
1:現地でガキ共の保護、必要とあればデミ天使の迎撃
2:避難が済んだら、変態グロ魔術師の尻尾を掴んでふん縛る【C】
だそうだ。

「現地に着いたら、適当なとこから順次|攫《『神隠し』》っていけば逃がすぐらいはできるだろう。
漁夫の利狙ってんのかしらんが、|欧州の変態肉屋《アマランス・フューリー》についちゃ…いやいい、後のことはその時考えようや。」

どっちにしたって|拉致《『神隠し』》っちまえば同じだ。

●第三の選択者たち
 能力者たちが子供たちとのブランチに興じていた同時刻――。

「うん……どうやら現場の騒動は、完全に収まったようですね」
 双眼鏡を覗き込み、修道院の様子を伺っていた人物がそう呟いた。
 周囲は一面の草原。
 暖かで乾いた風が、一見少女とも見まごう彼の金色の髪を揺らす。
「じゃあ社長、この後はやっぱり潜伏している魔術師を探す方向だね?先に探し出せれば先手も打てるし、それが無理でも時間稼ぎにはなるしね」
「なんだ終わっちまったか。適当なとこから順次|攫って《神隠しして》いけば、逃がすぐらいはすぐだったろうに」
 バイクのタンデムシートに座る金髪の少年の言葉に、ハンドルを握るヴィーグル・ライダーらしき女性と、サイドカーに座る男が応える。
 彼らは√汎神解剖機関、都内某所にある、遺品整理・生前整理を行う合同会社バーチの面々。
 歳こそ若いが、社長である望田・リアム(How beauteous mankind is・h05982)と。
 バーチの仕事の他にも運び屋家業も営む華応・彩果(報酬応相談速い安い安全何も聞きません!運搬は華応堂へ!・h06390)。
 そしてモバイル・バッテリー(幽霊の心霊テロリスト・h06388)。
 彼らバーチ所属の能力者三人は、今回の天使化事変の話を聞き、合同会社バーチの初仕事として、この南仏へと出張して来ていた。
 無論、会社であるから従業員の旅費は出ているし、社長は仏語も話せるので旅程は問題なし。
 √汎神解剖機関世界から、直接コート・ダジュール空港経由で他メンバーと合流……するつもりであったが、とにかく今回の事件スケジュールが忙しなかった。
 途中合流が難しく、今現在現場に居るメンバーと連絡は取りあっていたものの、結局現場で落ち合おうということになり、空輸して来た彩果のバイクで修道院まで急行して来たのだが――すでに現場の騒動は一端の解決を見た様子である。
 であるならば、プランBだ。
「ええ、要救助者の安全は一旦確保されたようですし、今は我々の持つ機動力を生かし、予定通り周辺地域確認を担うのが最善でしょう。潜伏する魔術師とやらの痕跡が見つかれば、あちらの出方の、推理材料になるかもしれませんし」
「天使化事変についてはどうにかして|現地の状況も確認し《一枚噛み》たかったから一石二鳥、渡りに舟だったが……やっぱあちらさんは、子供らを連れてグラースへ向かうつもりかね」
「あ、連絡が来ました。……ええ、どうやらそのようで」
「ここから東へ50マイルもいけば、イタリアへ逃げられるってのにねぇ」
「子供たちの心情が第一ですよ、モバイルさん。警護対象の信頼なくして依頼の成功無しです」
「私なんてあんまし戦うのは得意じゃないから、探索と安全の確保になって良かったけどさ。まあモバイルさんの云うこともわかるよ。使えるものは使う、そうしないといけない時もあるよね……」
「こういう時の速さは強さ、これは彩果さんの言葉ですが……たとえ修道院の彼らの未来が過酷なものだったとしても”より相応しい機”はある筈です。グラースへ向かいましょう」
「了解、リアム。じゃあ目的は周辺の下見はもとより、院長先生の捜索と」
「漁夫の利狙ってんのかしらんが、|欧州の変態肉屋《アマランス・フューリー》の居場所、その探索だな」
「はい。それらは、彼ら――…子供たちがグラースへ到着する前に掴んでおいて、間違いない情報の筈ですから」

 そうしてバーチの面々はグラースへと移動を開始。
 10分足らずで南仏のその都市へと到着する。
 世界有数の避暑地であるコートダジュール、その一角、香水都市グラース。
 とはいえ、海のイメージも強いコートダジュール内にあって、グラースは海からは遠い立地で、バカンスというイメージからは少し外れる。
 しかし石造りの建物が並ぶ街並みは整えられ起伏に富んだ坂道の多い地形は、その眺望をより立体的に見せる、美しく開かれた観光都市である。
 街中をツーリング宜しく、サイドカー付きのバイクで流しながら、三人は今後の相談を続ける。
「修道院から町までの道程は安全そうでした。問題はなさそうですね」
「だな」
「まず、院長先生の居所は、現場のメンバーが宿泊先や取引先の情報を、子供たちから仕入れて貰うのを待つとして……アマランスの居場所については、地道に聞き込み作業ですかね」
「で、変態グロ魔術師の尻尾を掴んでふん縛るんだっけか」
「……あの、倒す必要はないんですよね?ていうか、相手相当強いんじゃ」
「ですね。正直、僕たちの戦力では役不足でしょう。主力部隊が到着するまで、直接的な接触は避けた方が――と?」
 それは街の外周に沿って走り、地図を片手に地形の把握に努めていた時のこと。
 街の中心部の方角から、どー…ん、と腹に響く音が聞こえた。
 そしてその方角を確かめれば、黒黒とした煙が天へと上り始めるのが確認できた。
 さらに二度、三度。
 南仏の穏やかな景色の中、空気を通って体に伝わる尋常ならざる振動。
 周囲の車両も路肩に止まり、中から出て来た一般人がなんだなんだとそちらを指さし、騒ぎ始める。
「……彩果さん、急行お願いします」
「ラジャー、社長!」
 そして暫しののち町の中心部、広場へ辿りつけば――そこには煙を上げて横転するタンクローリーの姿があった。
 転倒した際に引火したのか、タンクローリーは煙と炎を上げて燃え上がり、今もまだ小規模の爆発を起こし、腹を見せて横たわっている。
 そして、それを為した犯人と思しき者たちの姿もそこに在った。
 そう――広場とその周囲で人を捕え、殺し、威嚇し、猛るのはオルガノン・セラフィム。
 その数、二十体ほども居ようか。
 すでに出ている犠牲者の遺体を掴み、振り回し、その遺体の肉親であろうか、逃げたいのに逃げられず、その場でただ悲鳴を上げ続ける女性を別の個体が捕まえて、まるで幼い子供が虫にそうするように、四肢を引っ張り、千切ろうとすれば、一層大きくなる女性の泣き声にさらに集って来る別個体たちとじゃれあうように取り合いを始める。
「心霊テロだ!!」
「早く警察を!」
「いや、消防が先だ!」
 そんな声がそこら中で上がる中、心霊テロという言葉に、思わずリアムと彩果がモバイルの顔を見れば「違う違う」と、手を振るモバイル。
「ど、どうする社長?」
「……まずはまだ生きている周囲の一般人の救出、避難を手伝いましょう、それから――」
 広場の端にバイクを止め、その光景に目を見張る三人。
 なにかしなくては、しかし何からやればいいのか。
 小さくない焦りがパニックを呼びそうになり、しかしそれをぐっとこらえて、周囲へ観察眼を巡らせる。
「……おい!二人ともアレ。向かいのホテルの屋上」
 すると、モバイルが小さく、しかし鋭く二人へと注意を促す。
 二人が出来る限り不自然さの無いよう、そっと視線を向ければ。
 そこに居たのは――間違いない。

 豪奢な白いドレス、淡い紫の長い髪。
 あれこそ、羅紗の魔術士アマランス・フューリー。
 砂色の髪の長身の男を従え、燃え上がる炎に美しい髪を靡かせて、人々が平和を謳歌するこの日常に、昼日中起きてしまった惨劇という名のショーを、特等席で鑑賞している。
 女はいっそ、うっとりとその光景を眺めて暫し。
 手にしたグラスの中のワインを一口唇に含むと、まるで死者を悼むかのように、ゆっくりとグラスを逆さにする。
 赤い液体がまるで一筋の血の流れのように石畳へと落ちれば、それが起爆剤だったかのように、四たびタンクローリーが爆発して。
 三人が地に伏せ、その衝撃を堪えたのちに顔を上げれば――…屋上の人物の姿はすでに無く。

 欧州、天使化事変――南仏グラースにおける事件は、ここに来て一気にその炎を大きくしようとしていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

第2章 冒険 『研究施設潜入ミッション』


POW ガッ!と行って、ダッ!とする。
SPD 警備ルートを確認
WIZ 監視カメラをハッキング
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●キミの世界
 夜だ。
 地中海性気候である此処、南仏は夜間においてもそこまで冷え込むことはなかった。
 寒さに震えることなく夜を過ごせることは、薄い毛布1枚しか寝具を持たない子供たちにとっても、急ぎの移動でろくに野営の準備など出来なかった能力者たちにとっても幸運であったといえよう。
 時折吹く強い風が、修道院のシーツを用いて作った簡易天幕を煽り、バサバサと音を立てる。
 聞けばこの風はシロッコといい、遠くアフリカ大陸から吹いてくる、この辺りの春の名物なのだという。
 修道院を立って、約一日。
 明日の午前には街にも着こうかという地点で、能力者たちは子供たちと共に野営をしている。
 日が傾くまで歩いて、歩いて。
 時に挫けそうになる心に喝を入れ、励まし合い、年長者は年少の者を助けながら、子供たちは歩き通した。
 そして日が暮れてくれば、早々に天幕を張り、寝床を設えた。
 さすがに携帯食の在庫も尽きていたから、食糧庫から持ち出したとっておきの食糧ーー…ソーセージやベーコンなどを、じゃがいも、人参、カブなどと一緒に鍋で煮て、夕食とした。
 そして今、一堂は見渡す限りの草原の中、焚き火を燃して今は、穏やかな時を過ごしている。
 見渡す限りの草原を渡る一本道。
 そこには大した木々もなく、燃やすものにも難儀するだろうと、持ち出した薪を節約しながら焚火にくべていく。
 静かな夜だ。
 深い深い藍色の空。
 見上げれば、日本の街ではけして見る事の出来ない、まるで宝石箱の中身をまき散らしたような一面の星空。
 ああ、ここは日本ではないんだな、と思う。
 だって、夜空の星が、まるで見たことのないカタチで。
 まるで別世界のそれのような配置で、瞳に飛び込んで来るから。
 焚火が、ぱちりと小さく爆ぜる音に混じって聞こえてくるのは、微かな歌声。
 歩き通しだった日中の疲れからか、すでにぐっすりと眠りこみ、安らかな寝息を立てているのは、子供たちの中で最も年少であるポリーナだ。
 そんなポリーナを膝に抱きながら、マリアが小さく子守歌をハミングしている。
 だが、彼女とてその表情には疲れが見え、ミシェル、ルグロ、ジョルジュら少年たちもまた、眠い目をこすりつつ、落ち着かなさげに周囲へ目を配り、何か異変が起きていないかと耳をそばだてていた。
 もちろん身体はとても疲れているだろう、しかしこのような特殊な環境に身を置いては、ゆっくりと眠れるほどに、精神が落ち着かないのであろう。
「あの……皆さんはどうしてこういうお仕事をなさるようになったんですか?」
 夜の闇と寒さは不安を掻き立てる。
 不意にマリアが、そんな問いを口にした。
 問われた能力者たちは無論のこと、姉の問いかけに、少年三人も視線をマリアへと向ける。
「今、私は……私達は、戸惑っています。これから街へと向かい院長先生と会って、この体の説明をして。……先生と別れて、あなた達と共に日本へと渡る。そうして、もしかすれば、あなた達と同じように世界を越えて、人を助けるお仕事をする」
 今日一日で、一体どれだけの新たな知識を知り、どれだけ現実との差異に苦慮したことだろう。
 簡潔にそう告げる彼女は、その心の内でこれまでの人生で描いてきたどれだけの選択肢を、今日一日で消し去ったことだろう。
 彼女はさらに言葉を紡ぐ。
「皆さんはどうやって、今のお仕事をするようになったのですか?そしてなぜ、今も戦い続けていらっしゃるのでしょう?この子たちもまだ眠れないようですし……良かったら、そのお話を聞かせていただけないでしょうか。……もしかしたらそれを聞くことで、わたし達にも覚悟のようなものが、生まれるかもしれません。良かったら、是非教えていただきたいです」
 マリアがそう告げれば、聞いていた弟たちも瞳を輝かす。
 戦いに生きる――云うなれば、昔話の勇者のような人間たちの戦う理由。
 現代を生きる戦士たち、その英雄譚が聞けるとなれば、確かに少年たちにはいい娯楽であり、また勇気を貰える話であるだろう。
 ここでどれだけの感銘を彼らに与えたかによって、この先、彼らの選択が変わってくるやも知れない。

 話をしよう。
 年若くして、過酷なる運命を背負った者同士。
 話をしよう。
 己の言葉が、たとえ星座が変わろうとも変わらず輝く、あの北極星のような導きの光となるように。

 暗い夜をも照らす、満点の星のような輝きを、キミに。


●グラースにて
「あらあら、大変。これだけの規模の心霊テロとなると、来年は香水の値段が上がるわね」
「では、弟子一同より、敬愛する|師匠《メトレス》アマランスへ、近々香水の贈り物を」
「ありがとう。こうして天使たちを暴れさせれば、また無私の心の持ち主が現れるかと思ったけれど――案外目立たないわね」
「やはり大都市ですと、己のことで手一杯な者が多いかと」
 グラース、某ホテル、スイートルーム。
 そこに一組の男女が居た。
 淡い紫の髪をもち、赤いイヤリングを揺らす女はしどけないローブ姿でベッドに横たわり、横目でテレビのニュースを眺めながら男に下肢のマッサージをさせている。
 年若く見える女とくらべ、男は三十代から四十代半ばというところ、砂色の髪に鋭いアイスブルーの瞳が光る。
「そういえば――おめでとう、あなたの実験、どうやら成功のようよ」
「……修道院ですか」
「ええ。|オルガノン・セラフィム《あの子たち》があれだけ集っているなら|そういうこと《・・・・・・》でしょう。これであなたも|徒弟《アプレンティス》卒業ね。出来の良い弟子が居なくなるのは嬉しいと同時に辛いことだけれど」
「私があなたの弟子であることは生涯変わることはありません、師匠」
「あら、嬉しい。それじゃああなたはあなたの仕事をしなさい」
 そういうと、女は起き上がり、ローブを脱ぎ捨てて彼女の仕事着――羅紗を纏う。
「私は先に、他の現場の視察に戻ります。あなたは子供たちを回収し次第、追って来なさい。……問題はないわね?|アントス《・・・・》」
「Oui maîtresse.」

 身支度を整え、男はホテルを出る。
 一流の職人が仕立てたであろうスーツにコート、帽子。
 手袋に革靴に身を固めた、一部の隙も無い紳士姿だ。
 その彼が、不意に曲がり角を曲がれば、途端に身に纏う装束が擦り切れ薄汚れた僧服に、布袋の如き革靴となり、上着のローブについたフードをまぶかにかぶる。
 背に負った麻袋を背負いなおすと、修道院院長アントスは子供たちの下へと向かう。

 袋を握る手首に巻かれるのは白いバングル。
 そしてバングルには、一見そうとは見えない程度の、白い薔薇のチャームが揺れていた。
 白薔薇。
 その花言葉は、深い尊敬。
 そして――相思相愛。
 こめられたのは、祈り。
「……みんな」
 日頃の農作業と生産業、空手の修練でごつごつと節くれだった男の拳が、何かに耐えるように強く、強く、握られていた。

 ――グラースに潜伏する能力者たちは、ホテルから出た男の後を追う。

 爆発の起きた広場には、いまだ数多くのオルガノン・セラフィムが跋扈し、周囲は封鎖されている。
 政府は欧州を活動拠点とする心霊テロリストグループへ犯行の是非を問い、フリークスバスターへ怪異退治の招集を掛け、日本警視庁異能捜査官の協力を要請しているとニュースは報じていたが、このテロが真の解決を見るためには、自分達、√能力者の総力をあげて掛からなければならないだろうことを、肌で感じていた。
 かの男は何者なのか。
 事件資料の写真にあったアマランス・フューリーと共に、凄惨なるテロ現場を見下ろして、表情一つ変えなかった男。
 そして修道僧が一般的に纏うあの僧服。
 長身、砂色の髪、一見冷たそうなアイスブルーの瞳。
 その外見的特徴は、修道院チームから伝えられたとある人物の特徴と酷似している。
 だが、ああ、だが。
 そんなことがあっていいのだろうか。
 もし、本当にそうであったならば、我々はいかにして子供たちにその真実を伝えればよいのか。
 そんなことを考えながら尾行を続ける能力者たちの前で。

 ぴたりと男の足が止まる。
 男が、振り返る。
 総毛立つ、とはこういうことをいうのだろう。

「私は少し急いでいるのですが……何かお話でも?」
 へばりつけたような笑顔で、静かに男は云った。
 ぞっとするような殺気、この男の実力が自分達を遥かに凌駕していることを思い知らされる。
 だが、眼前のこの男が事件の真相に深く関わっているのは間違いない。
 今出来るのは、会話。
 少しでも情報を引き出し、彼の真意を聞きだし、子供たちの運命の輪を良き方へと回すのだ。
十・十
ノワールとの【憑依合体】を継続したままミシェルの近くで警戒のために「野生の勘」を働かせながら、子供たちに肉球ぽむぽむして緊張をほぐすでごぜーますかねー

うーん、戦う理由にかっこいい理由とかはないんでごぜーますよねー
ボクはただ、おかーさんに再開して、抱きしめてほしいだけでごぜーます
でも、この世界はわりと危険なことが沢山あって、ボクがこうして戦えば、おかーさんへの危険が少しでも減るかなって
生きていていくれたら、いつか会えると思うから、だからボクはこうやって戦ってる…かな
まー、世間一般でいう良い母親じゃないし、たぶんボクに遭遇したらあの人は逃げるともうでごぜーますけどねー

連携アドリブ等歓迎でごぜーます

●あいのうた
「うーん、戦う理由にかっこいい理由とかはないんでごぜーますよねー」
 マリアの言葉を受けて、まず話し出したのは|十・十《くのつぎ・もげき》(学校の怪談のなりそこない・h03158)だった。
 かく云う十は昼間から変わらず、半人半猫の姿。
 子供たちが一時面倒を見ていたものの、栄養状態も良くなく、病で命を落としてしまったらしい子猫――同化したことで詳細を知った――…ノワールとの【憑依合体】状態を継続して、子供たちにノワール、ノワール、とかまわれて、移動中も彼らのその心中を和やかにしていた。
 そんな十は、天幕の下で固まって座る少年三人の間に入り、ミシェルの隣で「野生の勘」を働かせている。
 幸い、今現在、その勘に引っかかるものはなく、ノワールの特徴でもあるかぎしっぽもリラックスした様子で、少年たちの頬や身体を肉球でぽむぽむし「なんだよノワールー」「やめろよー」などと返答を貰えば、少女とも見まごう笑顔を振りまいている。

「ボクはただ、おかーさんに再会して、抱きしめてほしいだけでごぜーます」
 そして十はそう続けた。
 なんとなく見上げれば、そこに広がるのは眩いばかりのスパンコールをまき散らした天鵞絨の夜空。
 夜だというのに眩しくて、迷う子猫は目を細める。
「でも、この世界はわりと危険なことが沢山あって……だからボクがこうして戦えば、おかーさんへの危険が少しでも減るかなって」
 呟くようにそう云って、ふっと十は笑みを浮かべる。
 思い出すおかーさんのその面影は、けれどいわゆる世間一般でいう良い母親ではなく。
 たぶんボクに遭遇したらあの人は逃げるとおもうでごぜーますけどねー。
 それでも、会いたいと思う気持ちは、抱きしめて欲しいと思う気持ちは変えられないから。

「そして生きていてくれたら、いつか会えると思うから、だからボクはこうやって戦ってる…かな」
 なぜか日本語を話すフランス産子猫のノワールの言葉を、修道院の子供たちは静かに聞いて。
 判らない部分については、能力者たちが使う翻訳アプリの通訳を待って。
 そして。
「ノワールー!!」
「お、おまっ……おまえ、そんな悲しい過去があったのかよぅ……!」
「そうかぁ、きっとママンと生き別れになったんだな……そうかそうかぁ」
 少年たちは感極まった様子で、十をぎゅっと抱きしめる。
「Waouh! さすが欧米はスキンシップ強めでごぜーますなー」
 ここまでのフランス体験でなんとなく覚えた驚きの言葉を発しながら、十が猫手で顔を洗う。
「話してくれてありがとう。お母さんのために戦う……それはとてもとても、素敵な理由だわ。ノワール……いえ、モゲキ、と呼んだ方がいいのかしら」
 ここまでの十と他能力者の会話、そしてそのノワールに似た姿も彼が持つ超常の力の一端なのだろうと理解したのか、マリアが微笑んでそう云うと、十は軽やかに笑って云った。

「いいえ。ボクはノワールです。……みんなからもらった名前は、大切な贈り物ですから、今はそれがいいでごぜーますよ」

 ね、おかーさん。
 今だけなら、きっとおかーさんも許してくれますよね?
🔵​🔵​🔴​ 成功

黒後家蜘蛛・やつで
【野営組】
ましろ(h02900)、焚火でマシュマロを焼くですよ!
他の方のお話とお喋りを聞いて学習したフランス語の補正もしつつ
尋ねられればやつでも話しましょう

やつでは蜘蛛で、人ではありません
種の繁栄のためには人の在り方を学んでいる途中なのです

昔、やつでは人を観察していれば、人を学べると思っていました
喋らなかったし、表情も変えませんでした
必要を感じませんでしたので
でもましろのお兄様に言われたのです
自分の声で言葉を交わさなければ人のことは分からない、と
やつでは一つ賢くなりました

真宙の言ったことを最初から実践しているマリアも賢いです
同じ建物の中に棲んでいても、見聞きして知っていると思っていても、言葉を交わさなければ人のことは分からないのですから

というわけで、このお仕事をしているのもその一環なのです
やつでは皆さんを見に来ました
やつでは天使に興味があったのです
だって、天使は人が形を変えたものでしょう?
それなら天使という種は人よりも優れているのでしょうか? それを確かめたいのです

※アドリブ連携大歓迎
白兎束・ましろ
【野営組】
やつでお嬢様(h02043)と焚火でキャンプっす。
準備はましろちゃんにお任せっすよ♪
にしし、お嬢様ならそういうと思って準備済みっす!(メイド服の中からマシュマロを取り出す)

ほへー、お兄ちゃんそんなこと言ってたんすね!
確かにお兄ちゃんが言いそうな感じっす。
けど、お兄ちゃんはお嬢様らぶーなのでお話したかっただけな気がしないでもないっす♪

ましろちゃんっすか?
ましろちゃんは悪い奴をどかーんってお掃除してるだけっす!
やりたいことを思いっきりやるのが人生一番っすよ♪

※アドリブ連携大歓迎

●進むもの、願うもの
 小さくなった焚火の火へ、白い手が伸びて細く割った薪が足される。
 同じく細くした薪で火中を探り、ほどよく空気を含ませて火の調節をするのは、白兎束・ましろ(きらーん♪と|爆破《どっかーん》系メイド・h02900)。
 鼻歌混じりで焚火をいじるメイド少女は、昼間の戦闘の空気もどこ吹く風。
 すっかりとウルトラリラックスな様子は、本当にキャンプでも楽しんでいるかのようだ。
 この力の抜けよう、幼く見えてもやはり超常の世界を生きる戦士。
 必要以上に周囲を警戒して緊張している自分達とはわけが違うなと、すでに話をする前に、なにやら修道院の子供たちへと感銘を与えている。
 しかし、本人にはそんなつもりは全くなく。
「お嬢様!準備出来たっすよ!」
 と、主である黒後家蜘蛛・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)へと呼びかければ、メイド服のポケットから取り出されましたるは大袋のビッグ・マシュマロ!
 とにかく彼女が目指すのは、自分とお嬢様がいかに楽しく過ごせるか、なのだ!
「さすがましろ!やつでが何を所望しているか、よく分かっているのです!」
 ふむー、と鼻息を漏らすやつでに「にしし、お嬢様ならそういうと思って準備しておいたっす!」と、従者の方も得意満面。
 パチパチと音を立てる焚火の傍へ、串に刺したマシュマロを何本も立てて、こまめに位置を調節、イイ感じの焦げ目をつけていく。
「はい、皆さん、マシュマロが焼けました。どうぞ」
「あ、ありがとうございます。やつでさん!」
「ご馳走様です」
「ああ、さんきゅ」
「ごちそーさまです。ボクは雰囲気だけいただくでごぜーます」
「Merci beaucoup.」
 そしてみんなにマシュマロを配り終えれば「びよーん」「びよーん」と、伸びるマシュマロにはしゃぎつつ――…一息ついて、やつでとましろは話し始めた。

「やつでは蜘蛛で、人ではありません。種の繁栄のために人の在り方を学んでいる途中なのです」
 大きな赤い瞳が夜空を見上げる。
 その言葉は子供たちに、少なからず衝撃を与えた。
 無論、この世界――√汎神解剖機関にも、人外の種族というものは存在する。
 しかし、その存在を知るのは世界の真の姿を知る者――…つまりは|欠落者《√能力者》や、ごく一部の一般人のみだ。
 昨日今日、初めて世界の裏側を覗き見た者が、自分より小さな子供だと思っていた相手から、実は私は人間ではありませんと云われれば、それは驚くというものだろう。
 しかし、そこは彼らも他ならぬ己の体が世界の神秘により、変化してしまった存在だ。
 きっとそういうこともあるのだろう、と、一転、彼女の言葉に集中し始める。
「昔、やつでは人を観察していれば、人を学べると思っていました。喋らなかったし、表情も変えませんでした。必要を感じませんでしたので」
 そう語るやつでの隣で、ましろがマシュマロを一口齧る。
 そして何かを思い出すかのように、そっと微笑む。
「でも、此処に居るましろのお兄様に言われたのです。自分の声で言葉を交わさなければ人のことは分からない、と。やつでは一つ賢くなりました」
「ほへー、お兄ちゃんそんなこと言ってたんすね!確かにお兄ちゃんが言いそうな感じっす。けど、お兄ちゃんはお嬢様らぶーなので、お話したかっただけな気がしないでもないっす♪」
 あーん、と実に幸せそうにマシュマロをほおばるましろ。
「そんな真宙――ましろのお兄様ですが――の言ったことを最初から実践しているマリアも賢いです。同じ建物の中に棲んでいても、見聞きして知っていると思っていても、言葉を交わさなければ人のことは分からないのですから」
「ありがとう、やつで。確かにその――マソラの云う通りですね。こうして世界の裏側から、わたし達を助けに来てくれたあなたの言葉だから、わたしは信じられる。聞きたいと思える」
 マリアがそう相槌を打てば、やつでは一つ、頷いて。
「というわけで、このお仕事をしているのもその一環なのです。やつでは皆さんを見に来ました。やつでは天使に興味があったのです」
 そう云われると、少年少女は少し微妙な表情となる。
 まずは天使と呼ばれることに、まだ心落ち着かぬものがあるということ。
 そして何より、望まぬ形で体が変化してしまった者たちだ、いや、云ってしまえばこんな体になど、なりなくなかった。それを見に来たと云われたのだ。
 しかし、続く彼女の言葉で――…彼らの心境は再び一転することとなる。
「だって、天使は人が形を変えたものでしょう?それならそれは、進化というものなのでしょうか。天使という種は人よりも優れているのか?それを確かめたいのです」
 その言い回しは、翻訳アプリやたどたどしい通訳を挟んでのものであったから、はっきりと彼らにやつでの意図を伝えきれてはいなかったが、やつでの明るい表情と声は、子供たちの胸に去来しそうになっていた暗い霧を吹き払っていた。
 進化、進むもの。
 人間を越えるもの。
 いや違う、そこは問題ではない。
 人が形を変えたもの――彼女はそう云った。
 ならば、形が変わっただけで、彼女は自分たちがまだ人だと云っているのではないだろうか、そう思えたのだ。
 まして、彼女は蜘蛛だという。
 ならば、やつで――この少女から見て、自分達はきっとまだ、人間なのだ。そう思えたのだ。
「あなたの言葉はわたし達の胸を打ちました。あらためてありがとう、やつで、わたし達の初めての、人間以外のお友達」
 そうマリアが告げて、そしてましろへと視線を向ける。
「あ、ましろちゃんっすか?」
 すでにマシュマロを食べ終え、刺していた串でなんとなく焚火の傍の土に落書きなどしていたましろが、顔を上げる。
「ましろちゃんは悪い奴をどかーんってお掃除してるだけっす!やりたいことを思いっきりやるのが人生一番っすよ♪」
 一刀両断、鎧袖一触。
 にしし、と屈託なくメイド少女が笑えば。
「まあ」
 マリアと少年たちもその単純明快さに笑みを浮かべる。
 そう、それがましろの選ぶもの。
 そして――…お兄ちゃんが願うもの。

 とにかく彼女が目指すのは、自分とお嬢様がいかに楽しく過ごせるか、なのだ!
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

椿之原・希
私は【野営組】で教会の人達の不安を払拭させたいと思います。
そうですね…私がこうやって武器を持って戦う理由はお兄ちゃんに幸せになってほしいからです。
私はレプリノイドっていう存在なのです。
えっと、クローンとか人造人間って言ったら分かりやすいでしょうか?
私は√ウォーゾーンの子供で、お母さんのお腹から生まる事ができませんでした。その前にお父さんとお母さんが死んじゃったからです。
お腹の中にいた私は取り出されて、しばらくは冷凍されていたのですけど、大きくなったお兄ちゃんが私を作って育ててくれたのです。
でもお兄ちゃんはこうやって立派に育った私を見てもいつも悲しそうに笑ってて…私が覚えている一番古い記憶は水の中に浮いている私を見て「許してくれ」って泣いているお兄ちゃんの姿なのです。(手をぎゅっと握りしめる)
私は泣いて欲しくないなって思っているのです。生き残ったたった一人の大事な家族で私を守って作ってくれたお兄ちゃんを大事にしたいし幸せになってほしいって思っているのです。
だから頑張って戦うのです。
エレノール・ムーンレイカー
ううん、そうはいっても、そんな大層な理由なんてないのですよ?
わたしは、端的に言えば強く生きるためにこの仕事をやっているってだけなんです。

……わたしは12歳の頃、家族を魔物の襲撃で失いました。当時の私にとって、あまりにもそれは理不尽な出来事でした。
何も悪いことはしていないのに、一瞬ですべてを失う。こんなことがあっていいのかと当時は恨みましたっけ。
……今のこの状況もそうですけれど、この世界には理不尽が多すぎます。
――そんな世界で生きていくために、さらなる強さを求めてこうやって依頼を受けているというわけなのです。

けれども、依頼を受けていくうちに、わたしの力で理不尽にいろんなものを失っていく人たちを、少しでもなくすことができる。
そういう実感が湧いてきまして、いまは新しい想いが湧きつつあるんです。
人々を護るために、力を使うのも悪くないな、って。
理不尽な思いをする人が少しでも減ればいいな、って。
……これが今の、わたしの戦い続ける理由ですかね。
どう、でしょうか?

(なお、グラース現地組から何かしらの連絡があった場合には、自分語り後に護衛組メンバーと情報を共有したいと思います。ただし、子供達にとって酷な内容の場合はまだ内容を伏せておきます)
久瀬・千影
焚火の番を交代して、弾ける火の音に耳を澄ます。
その傍ら、もし必要とあれば【グラース組】とはスマートフォンで連絡を取り合う。万一に備えて、だ。エレノールが対応してくれるなら、彼女に任せる。

彼女達の視線が俺に集まるような事があれば――溜息一つ零して。
…大層な理由なんかない。強いて言えば俺は理不尽が嫌いなんだ。アンタ達が殺される理由も、死ぬ理由もないと思った。…………共に過ごしてきたなら。天使化事変を何かの奇跡か悪戯で、アンタ達、姉弟が生き延びたなら。それには何か意味があるのかもしれない。
悪ィな。俺は勇者でも英雄でもなくてね。他の能力者に比べると頼りなくてアレだが。
皮肉気に笑み、空を見上げる。日本の空を離れなければ、拝めない星空がこんなに近くにあった。

院長の話は情報が出揃うまで待つ。
安易に刺激を避けたいと言うのと、俺はともかく…他の能力者の話を聞いて、彼らがどういう自分なりの結論を出すのか見届けたいんだ。
別に直接、俺に話をする必要はない。覚悟は瞳に宿る。彼らの明日が輝く事をどうか祈ってる。

●のぞみ
「わあ、ふわっふわなのです!それに甘い……これ、すごくおいしいのですー!ありがとうございます、やつでさん、ましろさん!」
「こちらこそ。屋根の上に置き去りにしてしまって、ごめんなさい」
 と、串にさしたマシュマロが何本もやって来たのを、火傷に注意しつつ満足そうにほおばっていたのは椿之原・希(慈雨の娘・h00248)。
 しかし、なんとなく座っている並び順に話し始めていた能力者たち。
 どうやら次は自分の番かと気づけば「あっ、ちょ、ちょっと待って下さいなのです」ほふほふと口中のマシュマロを飲み込み、食べる手は少し休めて、希はなんとなく焚火へ視線を向ける。
 
「そうですね…私がこうやって武器を持って戦う理由は、一言で云うとお兄ちゃんに幸せになってほしいからです」
 そう、希は話を始めた。
「私はレプリノイドっていう存在なのです。えっと、クローンとか人造人間って言ったら分かりやすいでしょうか?私は√ウォーゾーン――皆さんの住んでいるこの地球とは、別の地球……意思を持つ機械たちとずっとずっと戦争が続いている地球――そこで生まれた……いいえ、作られた子供です」
 その言葉は、子供たちの胸に、先の話とはまた別の衝撃を与えた。
 ずっと戦争が続く世界、機械により滅ぼされつつある人類。
 清貧を旨とし、粗食に耐えて善を学び、己を鍛える――自分たちの生活は、楽しくもあるが、辛いものだと思っていた。
 けれど、この幼い少女を取り巻く世界は、きっと自分達のものより、よほど厳しいものに違いないと、彼らは確信する。
「さっき作られたと云いましたが、私はお母さんのお腹から生まる事ができませんでした。その前にお父さんとお母さんが死んじゃったからです。お腹の中にいた私は取り出されて、しばらくは冷凍されていたのですけど、大きくなったお兄ちゃんが私を作って育ててくれたのです」
 そして続いた少女の話は、それこそまるで別の世界のことのよう。
 レプリノイドと彼女は云った。
 本来ならば、神ならざる者が、別の命へ手を加えるなどあってはならないことだ。
 しかし、おそらく彼女のお兄さんは、大切な妹がそんな厳しい世界でも生きていけるよう、あえて彼女を強い存在として世界へ産み落としたに違いない。
 そこに存在するのは間違いなく――…|愛《amour》だ。
 そして全ての命は互いに影響しあって生きている、ならば愛によって生まれた彼女も、愛によって彼女を生み育てた兄も、共に祝福されるべき命である。
「でもお兄ちゃんはこうやって立派に育った私を見てもいつも悲しそうに笑ってて…私が覚えている一番古い記憶は水の中に浮いている私を見て「許してくれ」って泣いているお兄ちゃんの姿なのです」
 少し俯いて。
 希は胸の前、自分の手をぎゅっと握りしめる。
 祈りにも似たその姿、妹を膝に抱いていなければ、きっと自分は彼女を抱きしめにいったことだろうとマリアは思う。
「私は泣いて欲しくないなって思っているのです」
 けれど彼女は顔を上げた。
 そして、この場に居る一人一人の顔をまっすぐに見て、自分の物語を語り終える。
 そう――…きっと彼女もまた、戦場に生きる天使なのだ。
「生き残った、たった一人の大事な家族で、私を守って作ってくれたお兄ちゃんを大事にしたいし、幸せになってほしいって思っているのです……だから頑張って戦うのです」

 幼い少女の、しかし強く気高い笑顔を眺めながら、天使たちはそっと心の中で祈りを捧げた。

●Lost Paradise.
 夜は続く。
 風が吹いて、口を開いた彼女の頬を、精霊たちが優しく撫でていく。
「ううん、そうはいっても、そんな大層な理由なんてないのですよ?わたしは、端的に言えば強く生きるためにこの仕事をやっているってだけなんです」
 エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)が記憶の輪郭を撫でるかのように云った。
 焚火の炎を眺める。
 柔らかくて暖かい火、けれど、あの日見た炎はまるで怪物のように大きくて、恐ろしいものだった――。
「……わたしは12歳の頃、家族を魔物の襲撃で失いました。当時の私にとって、あまりにもそれは理不尽な出来事でした」
 12歳。
 それはいまの自分たちとそう変わらない歳だ、と、少年たちは思った。
 ミシェル、ルグロ、ジョルジュは幼い頃、すでに一度家族を失っていた。
 しかし、それは果たして、失って惜しい家族であったのか、といえばそうではない。
 それぞれがそれぞれに、家族だった人間から捨てられても、自然と納得できる程度の絆しかそこにはなかった気がする、幼かった自分にもわかる程度には、それは明らかだったのだ。
 だが今。
 例えば、自分たちが修道院の家族たちをみんな、失ってしまったとする。
 果たして、自分たちはこの美しい人のように、生きていけるだろうか。
「何も悪いことはしていないのに、一瞬ですべてを失う。こんなことがあっていいのかと当時は恨みましたっけ。……今のこの状況もそうですけれど、この世界には理不尽が多すぎます――そんな世界で生きていくために、さらなる強さを求めてこうやって依頼を受けているというわけなのです」
 きっと彼女は、沢山のものを受け取っていたのだろう、と思う。
 愛する家族から、今は失ってしまった故郷から。
 マリアの瞳に、さらさらと流れる銀髪と、そのカーテンの向こうで光るような美貌の妖精、その横顔が映る。
 だからこそ、彼女は強く、しなやかにこうして戦っていける。
 ならばきっと、自分たちもそう出来るのではないだろうか。
 だっていま、自分たちには掛け替えのない家族が今も失われず、傍にいるのだから。
 失ってしまった温もりを支えに、世界に立ち続ける彼女の強さには及ばなくても、家族と手を繋いで立つことは、きっと。
「けれども、依頼を受けていくうちに、わたしの力で理不尽にいろんなものを失っていく人たちを、少しでもなくすことができる。そういう実感が湧いてきまして、いまは新しい想いが湧きつつあるんです」
 そこまで云ってエレノールは少し、笑った。
「人々を護るために、力を使うのも悪くないな、って。理不尽な思いをする人が少しでも減ればいいな、って」
 微笑んで、子供たちの顔を見回す。
 ミシェルの、ルグロの、ジョルジュの、眠るポリーヌの。
 そして、自分とはほぼ同い年くらいだろうマリアの。
 少女から大人になる、そのきざはしの一段目。
 足をかけたかかけないか、そんな年ごろの少女二人が微笑みを交す。

「……これが今の、わたしの戦い続ける理由ですかね。どう、でしょうか?」
 そう云いながら、エレノールは手元の端末をちらりと確認する。
『グラースに偽天使襲来アリ。こちら被害無し。院長らしき人物を発見、しかし接触に難あり。張り込み中』
 簡潔にして明快な報告内容。
 周囲の能力者と視線をあわせ、かすかに頷く。
「きっと辛い過去だったでしょうに、話してくれてありがとう、エレノールさん。あなたの強さのその秘密が、少し判った気がしました」
「いえ、わたしが強いだなんて……あ、マリアさんとは歳も近いですし、良かったらどうぞエレノールと呼んで下さい」
「まあ、嬉しい!では、私もどうぞマリア、と」
 そうして言葉を交しながら、エレノールはそっと思う。
 ああ、私はもうこんなに穏やかに、失ってしまったあの場所のことを人に話せるようになったのだと。

 話せるくらい遠くへ、来てしまったんだと。


●星に願いを
 焚火の番を交代して、弾ける火の音に耳を澄ます。
 その傍ら、先ほどのエレノールの様子から、グラース組から連絡があったのだろうとスマートフォンをチェックする。
 ――…どうやら街にも、あの偽天使は現れているらしい。
 追っての連絡によれば、それなりの数ゆえにグラース組だけでは手が足りず、院長らしき男の動向を観察しているということだった。
 院長らしき男を見つけたならば、すぐに接触して事情を説明し、こちらへ送り届けてくれれば、と思う。
 だが、その男は羅紗の魔術士と共に居て、偽天使たちの暴虐にも眉一つ動かなさなかったというのだ。
 正体不明、果たして本物の院長であるのかどうか、そこも断言はできないとのこと。
 そして、もしも本物であったなら――…いっそ、そちらの方がたちが悪い。
 ブラックジョークにもほどがあるというものだ。
 いっそ自分も、先行してグラースへ向かうべきだったか……そんな思いが、久瀬・千影(退魔士・h04810)の胸に去来するが、時すでに遅し。選択は翻らない。
 エレノールの顔を見る、目があえば彼女はそっと首を振る。
 そうだよなと思い、小さく頷く。
 この状況で、彼らの心の支えである院長先生が、実は彼らを襲おうとした怪物たちを使役する魔術士の仲間のようだ――…などと云ったところで、悪戯に彼らの心中を乱すだけだ。
 そしてそんなことを考えている間にふと気づけば、周囲の視線が自分に集まっているのに気づく。
 ――…溜息一つ、零して。千影は話し始めた。
「…大層な理由なんかない。強いて言えば俺は理不尽が嫌いなんだ」
 己が血筋に兄を殺された少年は、家が持つ理不尽に憤り、家を捨てた。
 その想いは、時に事件の当事者のそれとリンクする。
 湧き上がる強い感情を押し殺し、しかし焚火の炎を映す右眼を僅かに歪めて彼は続けた。
「アンタ達が殺される理由も、死ぬ理由もないと思った。…………共に過ごしてきたなら。天使化事変を何かの奇跡か悪戯で、アンタ達、姉弟が生き延びたなら。それには何か意味があるのかもしれないが。……悪ィな。俺は勇者でも英雄でもなくてね。他の能力者に比べると頼りなくてアレだが」
 少年は皮肉気に笑み、空を見上げる。
 日本の空を離れなければ、拝めない星空がこんなに近くにあった。
 それはまるで、家を離れてからずっと追い求めているもののようにも思えて、思わず空へと手を伸ばす。
 そして広げた掌をぐっと握ったところで、マリアの声がした。
「いいえ、チカゲ。あなたがわたし達の置かれた状況に怒り、なんとかしようと思ってくれた。その強い想いが、とてもよく、伝わってきました。ありがとう」
 たどたどしい日本語で、彼女がそう云えば、少年たちも強く頷き「このにーちゃんカッケー!」とでも云いたいような輝く瞳で、口ぐちに「チカゲのアニキ!」「それカタナ?」「チョット見せて」などと云いつつ、彼へとにじり寄る。
 思わぬところで解放された十は「男子はやっぱり、千影さんみたいなタイプに弱いでごぜーますねー」などと判ったような台詞で大げさに肩をすくめた。
「な、なんだよお前らいきなり……まあ、見せるくらいならいいけどよ」
 頬をぽりぽりとかきつつ、千影も悪い気はしないと、そう答える。
 自分としてはともかく…他の能力者の話を聞いて、彼らがどういう自分なりの結論を出すのか見届けたい、そう、千影は考えていた。
 別に俺に話をする必要はない。
 覚悟は瞳に宿るものだと。
 そして今、目の前の少年たちの瞳は、少なくとも、絶望には彩られていない。
 ふっと、千影の唇に笑みが浮かぶ。
 ならばきっと、自分が、そして仲間が語った言葉は、彼らの中に生きたモノとして根付いたのだろうと思えた。
 少年たちの顔から夜空へ視線を移して、千影は星に祈りを込めた。

 彼らの明日がどうぞ輝くように、と。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

●Le Matin.
 早朝。
 普段に比べれば夜更かしをした子供たちだが、身体に染みついた習慣はそうそう変わりはしない。
 早々と目覚め、軽く朝の稽古を終えれば、子供たちは能力者たちと協力し、朝食の準備を進める。
 そんな中。
「あ……そうだ」
 ジョルジュが呟くように云って、自分の荷物を探りだす。
 そうして取り出したのは古びたラジオ。
「これ、壊れてたのを納屋で見つけてさ、直らないかいじってたんだけど――こないだちょっと動いたんだよね」
 どーかなー、なんて云いながら、電源をオン。
 ザ、ザザ……。
「あ、おい、ちょっとま――」
 その可能性に気付いた千影が声をかけるも、その暇は無かった。

「……昨晩起こったグラースの心霊テロ、その現場ではザザ……怪異と見られる翼持つ怪物が暴れており、死傷者は増え続けているとのことです……と?いえ、現場でザ……動きがあったようです!」
 空気が固まるとはこういうことを云うのだろう。
 グラース?
 今これから向かっているところだよね?
 子供たちの疑問はすぐに顔に出た。
 しかし、次に彼らの顔に浮かんだのは怯えなどではなく、この事件に対して、では自分たちに何が出来るのか、という真剣な表情だった。
 そして――…事態は動き出す。

「ザ……封鎖された事件現場に複数の人物が侵入し、怪異と戦いを始めたとの……ザザ……です!彼らはアントス&バーチを名乗り、これより街ザ……ザ郊外へ怪異を……導すると宣言…ザ――ザ…!」
「アントス!?」
「せ、先生!?」
「さすが先生!そうか、それで帰るのが遅くなってたんだ!!」
 子供たちが目を輝かせて叫ぶ。
「あ、バーチは先に街へ行ってた人達の名前っすよね?」
「なんだか上手に合流出来たみたいですね」
「え、ええ?ど、どういうことでしょう……?」
「――…いや、わからねえ……夕べの連絡の後、何が一体どうなったんだ……?」
 子供たちがごく自然に、与えられた情報に対応して事態を予測したのに対して、大人に近く、理屈で物を考える癖がつきつつあるエレノール、千影の顔には戸惑いの色が強い。
 だが、それはそうだろう、昨晩の情報では、ヘタをすれば院長は敵側の可能性が大だったのだから。
 そして、エレノールがマリアの顔を伺えば――…彼女、マリアの頬を一筋の涙が伝っていた。
「……マリア?」
「あ。……ごめんなさい、ちょっと、ごめんなさい」
 その涙の意味は、エレノールたちには判らなかった。
 けれど、それが悲しみや怒りによるものではないことは、彼女の晴れやかな表情を見れば明らかで。

「……みんな!いくよ!」
 マリアは立ち上がり、子供たちへと呼びかける。
「行く!?どこへ!?」
「決まってんだろ!院長先生とアニキたちの仲間が、怪異を街の外へ連れ出すんだ!こっちも合流だよ!」
「ええ!?あ、朝ご飯は!?」
「そんな場合じゃないでしょ!どうしてもっていうなら歩きながら、パンをかじる!」
「そ、そんなー、マリア姉」
「ルグロ兄、がんばろ?ね?」
 そしてマリアは振り返り、能力者たちへと告げた。

「ごめんなさい、わたし達、今すぐに院長先生のところへ行きたいです!いいでしょうか!」
 その顔。
 その表情。

 それはまさに、日の出前に真っ青に空が染まるブルーアワー。
 天使が飛ぶにふさわしい青と、同じ爽やかさを宿していた。
●brume matinale.
 嫌な予感は外れてくれない。
 院長を訪ねるとして天使化した彼女を受け入れてくれるのか?
 彼が不在時の襲撃は単なる幸運なのか?
 皆が合流を主張する中で異を唱えたのは、そんな都合のいい経験をしてこなかったから。

「嬉しくない話です、|院長先生《プレートル》」
 そして女は、歪んだ唇で紫煙を燻らせた。

 グラース、早朝――…。
 合同会社バーチの面々が、砂色の髪の男を尾行し始めるその少し前のことだ。
 身支度を整えた男は、部屋を出てエレベーターホールへと向かう。
 砂色の髪、アイスブルーの瞳。
 濃いグレーのスーツに茶革の靴、揃いの革で作ったのだろうベルト。柔らかそうな手袋。
 やはりスーツと揃いの布で作られた帽子を被り、コツコツ、と靴音を鳴らして男は歩く。
 すでに師は、街を立った。
 己の仕事は修道院へと戻り、子供たちを回収してその後を追うこと。
 師が用いる奴隷化魔術は、いまだ己には使うことは出来ないからだ。
 そうして、彼女の手によって、子供たちを隷属化し――…ないし、すでにオルガノン・セラフィムたちによって物言わぬ躯と化した彼らの遺体を回収し、オルガノン・セラフィムなど比べ物にならぬ価値を持つだろう新物質として、塔へと持ち替える。
 そう、それが今、自分がやるべきこと。その最たるもの。
 10年の歳月をかけて結実した魔術研究――…天使人造計画の要とも云える任務だ。
 新物質として破格の価値を持つだろう天使だが、現代においてはすでに根絶された病であった。
 だが、天使化病が流行した過去と条件を同じくしてやれば、人類の天使化を起こすことは可能ではないのか。
 そう思いつき、論文を作り、師を通して塔へ働きかけ、計画の許可を得て予算を組み、そして今、その結果がわが手に転がり込もうとしている。
 そう、これは嬉しい話だ。
 最高の話なのだ。
 人の道から外れ、畜生にすら落ちた自分が、魔術士としてとうとう塔にその名を刻む時が来たのだ。
 そうでなければいけない。
 そうでなければいけないのだ。
 努めてそう考えながら、男はやって来たエレベーターに乗り込み「G」――…一階のボタンを押す。
 と――。
「そのエレベーター、ちょっと待って!」
 年若い女の声がした。
 紳士ならば、急ぐ女性を助けるのが当然だ。
 そうして乗り込んで来た黒いドレスの女の姿に思わず目を見張る。
 豪奢な金髪、濡れたルビーのような瞳。
 あまりの色香に、思わず仕事を終えた高級娼婦かなにかか、とその正体を勘ぐるも、彼女が手にする白薔薇のブーケ、その誠実な色が彼女の正体をより不透明にさせる。
「rez-de-chaussée? demoiselle.」
「Non,premier étage.」
 降りる階層を聞けば、一階ではなく二階で降りるという。
 彼女へエレベーター奥のスペースを譲り、ドア前に立つ。
 ほどなくエレベーターは二階で止まり、扉開のボタンを押して彼女へ退室を促すと、女は自分の隣で歩を止め、にこりと微笑んでブーケを差し出した。
「エレベーターのお礼に一本差し上げます。どうぞ」
「これはどうもありがとう……!?」
 なんの気なしに薔薇を一本抜きとれば、炸裂するのは正直病。
 正体不明。
 謎の女のチカラが、羅紗の魔術士アントス・ペルサキスを犯し、その屈強なる精神を無理やりに捻じ曲げる。
 コツ、とヒールを鳴らして女はエレベーターを降りる。
「あの子たちから頼まれて、あなたを探していました」
 男がどういうつもりでも私には関係ないが、魔術塔に|天使《マリア》を引き渡せば彼女に未来はない。
 そして私は、それが気に食わない。
「あなたがまだ|院長先生《プレートル》でありたいなら――…|彼ら《・・》の前では少しだけ、素直になっていてください」
 エレベーターが閉じる。
 片手で顔を覆い、スーツの袖から羅紗の布を出しかけた男を一人、エレベーター内に残して。

 そしてホテル二階の廊下。
 女は煙草に火を点けて、ほうっと息を漏らす。
「そのために、一晩中死霊を焚きつけて此処まで来たのですから……ああ、お風呂に入りたいです」
 窓から差し込む朝日に、目を細める。
 街はいまだ薄暗く、ぼんやりとした朝靄に包まれていた。
華応・彩果
【グラース側・バーチ・アドリブ歓迎】
「……なんでアンタはこんなとこにいるワケ?」

わかっている、感情的になっても仕方がないしリアムがこちらを見たがそれでも止まらなかった。
第一もし戦闘になっても私は勝てない――それでも問わずには居られなくて。

「今アンタの子供たちは大変なことに……!それなのにこんな所であの魔術師と一緒にいて!どうしたいんだよアンタは!?」

肌を裂く殺気をものともせず一歩前に出る。
|初志貫徹《やることに変わりはない》

彼が結局子供たちに害を及ぼすなら、勝てなくてもここで時間を稼がなきゃ。
彼に通じるかは不安でも『こんなこともあろうかと』時間を稼ぐ――少しでもこの碌でもない輪から外すために。
望田・リアム
付き合い長いわけじゃないし彩果さんがこんな食って掛かると思わなかったですね
まぁ大筋に異論はないし
最悪モバさんだけ離脱してエレノールさん達に知らせて貰うとして、隠すものも遠慮することもないな

「あわやの処で薔薇の院の方々は僕らの協力者が保護中です…院長
人道的には”機関”に彼らを護送し日本辺りへ渡って貰うことになるんでしょうが
まずは貴方と合流したいようです」

今の状況
言うまでもないのだろうけど言いたいことは伝わる筈
もしこの人がかの組織方針に従いそうならこちらに覚悟が必要になる…無茶でも足止めし向こうで彼らを逃がして貰わなければならない

でもそうでないなら…

僕の護霊『此は汝が嵐』は周りの遭うべき宿命を喚ぶ現象
恐らく天使化した彼らでなくこの院長の意思と行動こそが僕が関わるべき|渦《・》の目だったということでしょう
【転変する因業】がどう働くのか、働かないのかそのものが僕にとっては必要な答えになる
ならば僕が訊くべきこともそのものは単純

「|Quo vadis《どこへ行かれるのです》──何をしに?」
モバイル・バッテリー
【グラース側・バーチ・アドリブ大歓迎】
(やべっ。俺まで気付かれたか?)

サイカとリアムの様子を見つつ、念の為視線を切ってから『闇に紛れる』。

(あーあー熱くなっちゃってまぁ。)

|同僚《サイカ》の様子に笑みをこぼしながら、|慎重に気配を殺して《幽霊だから気配もくそもない》院長に近づき、|バングルに向かって手を伸ばす《サイコメトリー》。

「『さてさて、ちょっと覗き見させて貰うぜ』院長。」

(どうせバングルに触れたら|勘付かれ《バレ》るだろう。そん時は姿を見せて|揺さぶ《煽り文句》ってやるさ。)

●Under Ground
 観光地の路地裏というのは、案外薄汚れているものだ。
 実は世界に名だたる観光都市などはおおむねがそうで、通りから見える部分は美しく整えられているが、見えない部分――…特に、観光客がとても入らないような裏路地には、危険と唾棄、吐瀉物が散乱し、据えた臭いが染み付いている。
 そしてそれは此処、グラースも変わらなかった。
 合同会社バーチの面々と、襤褸布と見紛うような僧服に身を包んだ男が対峙する路地裏の、ほんの少し進んだ先では、野良猫と野良ネズミが生死を掛けた格闘ののち、無事に猫が今朝の朝食にあり付いていた。
 おそらく、今の彼らの戦力差もまた、そのくらいの差があるのではと思われた。
 ただ、そこに救いがあるとすれば、彼らバーチが向かい合う男が√能力者ではないということと、バーチ三人のうちの一人、|幽霊《インビジブル》であり、一般人には不可視の存在であるモバイル・バッテリーが、男に気付かれていないというところか。

 そんな男――薔薇の修道院院長、アントス・ペルサキスへと詰め寄った人物がいる。
 華応・彩果(報酬応相談速い安い安全何も聞きません!運搬は華応堂へ!・h06390)だ。
「……なんでアンタはこんなとこにいるワケ?」
 迸るように唇を突いて出る言葉は止まらない。
 わかっている、感情的になっても仕方がない。
 リアムが咎めるようにこちらを見たのも判ったが、それでも自分は止まらない、いや、止まれなかった。
「今アンタの子供たちは大変なことに……!それなのに、こんな所であの魔術師と一緒にいて!どうしたいんだよアンタは!?」
 間近でその氷の瞳を睨みつける。
 肌を裂く殺気。
 だけど、それがなんなんだ!
 彩果はものともせず一歩前に。
 初志貫徹だ――…勝てようが勝てなかろうが、やることに変わりはない。
「……√能力者か」
 返って来たのは石のように冷たい言葉だった。
 アントスもその存在はもちろん、知っていた。
 云ってしまえば羅紗の塔、その導士クラスは全てが|そう《・・》だとも云えるのだ。
 答えになっていない返答に、彩果の柳眉が一層つり上がるのを、その肩を掴むことで望田・リアム(How beauteous mankind is・h05982)は留めた。
 ……付き合い長いわけじゃないし彩果さんがこんな食って掛かると思わなかったですね。
 まぁ大筋に異論はないし、最悪モバさんだけ離脱してエレノールさん達に知らせて貰うとして、隠すものも遠慮することもないな。
 そう心中に呟くと少年は静かに歩を進める。
「彩果さん、ちょっと」
 そう囁くと彩果を少し下がらせて、アントスへと微笑む。
「御慧眼ですね、院長。そしてあなたの子供たちは、あわやの処で僕らの協力者が保護中です。人道的には”機関”に彼らを護送し日本辺りへ渡って貰うことになるんでしょうが……彼らは、まず貴方と合流したいようです」
 くらり、喜びに心臓が踊る。
 ホテルで見も知らぬ女に浴びせられたアレは、一体なんの術だったのか。
 ふと気を抜けば精神の集中が乱れる。
 鼓動は早く、常ならば簡単に押し殺せる感情が、大波となって胸の砂浜へと打ち寄せる。
 ああ。
 |私の実験体《大切なあの子たち》は、本当に無事なのだろうか。
「合流。……まだあの子たちは色々甘いようだ、随分と悠長なことを云う」
「自分に厳しく、他人には甘く――…そう育てのはあなたでは?」
 美しい顔を少し、傾けて少年は問いかける。
 今の状況。
 言うまでもないのだろう、これでこちらの言いたいことは伝わる筈。
 これでこの人が、かの組織方針に従いそうならこちらにも覚悟が必要になる……無茶でも足止めし向こうで彼らを逃がして貰わなければならない。
 でも、そうでないなら……。
 決意を瞳に秘めて二人は魔導士と対峙する。
 勝ち目があるとすれば彼の持つ、魔術という超常能力、それをも越える√能力を駆使するしかない。
 だが、その√能力とて、常に100%成功するとは限らない。
 分の悪い賭けであることは十分理解しているが、備えに怠りはなかった。
 彩果は【|こんなこともあろうかと《ジャスト・イン・ケース》】を。
 リアムは護霊・|此は汝が嵐《ストームブリンガー》へ繋がるチャンネルを開き【|転変する宿業《ヘリカルカーマ》】――応報を引き起こすチカラに意識の一端を移す。
 成程、とアントスは胸中に呟く。
 先の女も、おそらくは彼らの仲間だったのだろう――…ともすれば表に現れそうな感情の手綱を思い切り引きながら、男は少年と女、二人へと問いかける。
「それで、君たちは何を聞きたいのかね?」
「僕が聞きたいことは単純です、院長先生。|Quo vadis?《どこへ行かれるのです》──何をしに?」
「無論……被検体の回収だよ。幸い彼らは、君らに守られて無事なようだしね、院長としてはすぐに迎えにいってやらなければ」
「どの口が……!!」
 いけしゃあしゃあとアントスが告げれば、石火の如くに食ってかかる彩果。
「待って、彩果さん。|もういいよ《・・・・・》。ね?モバイルさん」
「ああ。悪いな院長『ちょっと覗き見させて貰ったぜ?』院長」
 アントスの瞳が驚きに大きく見開かれる。
 不意に、少年の真横で声がしたと思えば、黒髪の男が唐突に現れたのだ。
 そう、この場には、実はもう一人の人物が居た。
 その名はモバイル・バッテリー(幽霊の心霊テロリスト・h06388)。
 拳を握り、咄嗟に構えを取ったアントスが静かに呟く。
「|fantôme|《幽霊か》」
「あ、判ったぜ?今あんた幽霊って云ったろ?ああ、そうさ。そしてこの幽霊は、ちょいとばかり物に宿った持ち主の記憶を読むことが出来る」
 不敵な笑みを浮かべてアントスのバングル、それを指さした男はさらに続ける。
「ま、過去の所有者の記憶は誰のと決定出来ないもんで、あんたの記憶とマリアの記憶が混在して、大して見えやしなかったがね」
「ほう、それでキミに何が見えたというのかね?」
 マリアの名を聞き、ほんの少し、口元に引きつるような揺らぎが見えたアントスが、それでもそう答えれば、モバイルはにやりと笑っていった。
「いいのか云っちまって。|あんたの懺悔の話だぜ《・・・・・・・・・・》?」
 正直病に罹患し、それでも能面のようだった男の表情が、一気に強ばる。
「あんたは毎日懺悔していた。子供たちが寝静まった夜中、誰もいない修道院の礼拝堂で。子供たちを騙していることを。だけど、そうしなけりゃあ研究支援も無くなり、とても子供たちを育てていられなくなること――…その矛盾に苛まれてな」
「――」
 絶句するアントスに、モバイルの”煽り文句”が炸裂する。
「云っとくがなアントス。|マリアはもう知ってるぜ《・・・・・・・・・・・》?」
 そう。
 モバイルの見たバングルの記憶には、マリアの記憶も含まれていた。

 アントスの表情が、変わる。
 まるで水没し、窒息寸前の人間のように息が出来ない。
 その精神はすでに崩壊寸前。
 いっそ目の前のいかにも脆弱そうな三人など、魔術を持って消し去ってしまえと叫ぶ己がいる、
 しかし彼らの隠している牙は己の師が存在する|高み《√能力》に属するもの、うかつな行動は出来ない。
 そして、今、この胡散臭い幽霊が告げる言葉の、続きを聞きたいと思ってしまっている自分が居るのだ。
「あの子は夜中、アンタが懺悔する姿を見たのさ。見て、知ってて、それでもアンタを慕ってる。アンタがあの子たちの体で何かの実験をしていること、そしてその報告をもって、報酬を受け取っているのもな」
 アントスの膝が、がくりと石畳に落ちて音を立てる。
「――…ねえ?アンタが本当にしたいことをしてよ。……あの子たちを、少しでもこの碌でもない運命の輪から外すためにさ……」
 振り絞るように告げる彩果の瞳から、一筋、何かが流れる。
 それはきっと、彩果の中で確かに彼らを思う感情の現れで。
「……神よ」
 そして神に祈り、滂沱の涙を流して今まさに懺悔する。
 苦界に生き、もがき苦しんでいた男の前に、少年が立つ。
「我々が望むのは、あくまで子供たちの心の平安です。――…さて、院長。演劇の経験はおありで?」

 まるで詐欺師か救世主のような綺麗な笑顔で、社長は微笑んだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 集団戦 『シュレディンガーのねこ』


POW 無限の猫爪
敵に攻撃されてから3秒以内に【猫の爪】による反撃を命中させると、反撃ダメージを与えたうえで、敵から先程受けたダメージ等の効果を全回復する。
SPD 猫は死ぬのか死なぬのか
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【生命力】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
WIZ シュレディンガーの鳴き声
【長い猫の鳴き声】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●優しい嘘
「おい、布の狙いが定まらん。運転をもう少し、安定させてくれないか!」
「ですって、彩果さん」
「おい、また偽天使が来るぞ!右上!そのあと左!」
「ちょっと院長、キャラ変わってない!?ああ、もう、みんな好き勝手言ってくれちゃって……!」
 グラース郊外。
 土煙を上げながら、一台のバイクが走る。
 バイクに跨っているのは女性と、少年。
 砂色の髪の白人男性がサイドカーへと座っている。
 彩果と呼ばれた女性は生粋のライダーらしく、鋭くも繊細な運転技術で右へ左へ、敵の攻撃を躱し。
 白人男性――アントス・ペルサキスは、躱されながらも爪や牙を伸ばし、文字通り喰らい付こうと飛来する偽天使たちの攻撃を、袖口から伸ばした羅紗の布を用いていなしている。
 幽霊ならぬ鯉のぼり宜しく、サイドカー後部の取っ手に掴まり、ふわふわと風にはためきながら、あおむけに偽天使の動向を見張り、その動きを伝える黒髪の男性と。
 女性の後ろ、バイクにまたがりながらも通信端末を操作、修道院班へここまでの経緯と互いの位置関係、敵の様子を通信、連絡して合流に努める先導役は、勿論みんなの少年社長だ。
「修道院班より連絡、目視確認!合流まであと――3分!見えました!前方2時の方角!」
 殴りつけるような風に負けぬよう、少年が声をあげる。
「了解!社長!」
 ハンドルを切り、サイドミラーで敵の動きを確認し、S字を描いて回避運動を取りながら――…バイクは地形の段差を活かしてジャンプ!
 ズン……!!
 局地的。
 深度7クラスはあろう大地震が、周辺一帯を襲うが、その発動にあわせて地を離れたバイクは、寸でのところでその重力の呪縛が発生したエリアから逃避し、再び加速する。
「……院長先生!?まだまだ演劇は続くんだから、名演技宜しく頼みますよ!」
「長い事院長先生やってたんだ、もちろん大丈夫だよなぁ。――約束通り、子供らと別れるまでは『いい先生』で居て貰わないと、ねぇ。院長?」
「……判っている!」
「はいはい、皆さん、院長先生をいじめてはいけませんよ。ほら、子供たちがやって来ます――!」

●発進!撃墜王
「成程。アントスさんに協力を取り付けたのですね……!」
「まあ、取り付けたっていうか、精神攻撃で屈服させたって感じだけどな!」
 風を切って早朝の草原を疾走しているのは、エレノールと千影。
 前方から吹き付ける風に負けぬように声を張り、会話をしているが、実は二人は走っているわけではない。
 マリアたちが今すぐ移動を、と希望を申し出たことで即時、行動を開始した能力者たちであったが、そこで「そういうことでしたら!」と、ぴょんこ、と手をあげた人物が居た。
 椿之原・希である。
 以前から、制作を依頼していた兵員輸送車が完成し、今ならばちょうど世界転移をして現場に辿り着けるというのである。
 ならば他メンバーに異存はない。
 さっそく希にその車――…その名も、自動運転バス「撃墜王」を呼び出して貰い、全員で乗り込んでグラースへと向かった。
 しかしバスの中では索敵範囲に死角が生まれるということと、グラース組からの連絡で、子供たちには聞かせない方がいい内容にも触れられるようにと、あえて修道院組の中でも年長の二人、エレノールと千影は、バスの屋根の上に待機し、打ち合わせ兼索敵業務に当たっていたというわけである。
「そして偽天使たちを街から連れ出し、アントス先生と共に怪異を倒したのちは」
「先生に子供たちを説得して貰い、国外へ脱出して任務完了、と」
「ええ。そういう筋書きですね」
 なお、これら話の流れは、アントス説得後にグラース組、修道院組が合流までの短い時間の中、相談し、なんとか決定した内容である。
 無論、人によっては陳腐。かつ、甘いという声もあるだろう。
 しかし、今、バスの内部から聞こえて来るこの声。
「わぁ、このチーズすっごく伸びますね!これは美味しいです!」
「むむっ、それはやつでも是非食べてみたいのです、マリア、やつでにもいただけますか」
「ええ、もちろん。たまにしか食べれなかったけれどこれはとっておきだから、フランスはチーズもとても美味しいの」
「食べ終わった人にはデザートに、DAGASHIのラムネあげるっすよー」
「よかったなルグロ、しっかり朝飯が食える乗り物があって」
「は、腹が減ってはいくさはできぬ、っていうしね」
「お前ほんと、そういう格言だけはよく覚えてるよな」
「先生、大丈夫かなぁ?」
「きっとだいじょうぶでごぜーますよ、ボクらの仲間も一緒でごぜーますから」
 ……車外に漏れ聞こえるその声と、伝わる空気。
 そう、このリラックスした空気こそ、彼ら能力者が一番に望んだもの。
 陳腐かつ、あまりに甘い、しかし彼らが子供たちに贈れる一番のもの――恩師に裏切られた悲劇ではなく、恩師は恩師のままに、新たな世界へと天使たちが飛び立てるようにという。
 美しい、お別れ。
「しかし、使役怪異に、自分ごと襲わせることで偽天使を街から連れ出すというのは、院長先生もなかなか考えましたね」
「街を出て、天使の匂いなり存在に気付けば、あとは勝手にこっちに近づいて来てくれるだろうしな。だが、その怪異、デカイ範囲持ちだって云ってたが……行動阻害系能力となると、偽天使が主として子供たちを襲って来ることを考えるとちと厄介だぜ」
「ですね。ボクらがフォローに入るとしても、そのメンバーが行動できなくなったら、偽天使たちを止められないでごぜーますから、その隙に子供たちが集中攻撃なんて事態も考えられるでごぜーます」
 ひょいと屋根をすり抜けて顔を出した十が、エレノールと千影の会話に加わる。
 しかもグラース組から来た連絡によると、その使役怪異の行動阻害は地に足のついた者にしか効果はなく、空中を移動する者には影響がない。
 つまり。
「偽天使は行動に制限がない――!!――…見えました!合流します!」
「戦闘準備!油断するな……って、なんだよあのデカイのは……!?」


●confluence.
 修道院組が乗るバスの前方。
 そしてグラースの能力者たちが進む、その後ろ。
 空を舞うのは、かの偽天使――オルガノン・セラフィム。
 その数は此処に辿り着くまでに撃破されたものか、ニュースで云われていた数からやや減って、15。
 そしてさらに、その天使を追うように草原を移動するのは小山のようなナニカ。
「にゃ~~~ご~~~~~!!!」
 ……果たしてあの足は一体、何本あるのだろう。
 体長10mはあろうだろう巨大な――…猫。
 巨大な体の好き勝手なところから顔を出し、また足を出し、尾を出してイラつきを露わにするように草原を叩いて進んでいる。
 あれこそは本来、天使捕獲用にアントスが所持していた使役怪異――シュレディンガーのねこ。
 バスに乗る修道院組の能力者たちは、そう看破する。
 グラース組からの連絡内容から察するに、おそらく周囲50m範囲に震度7レベルの地震を起こし、極めて強固な肉体再生能力を持つ、あらゆる猫の可能性が融合した怪異。
 おそらくはその中でも『もしも猫が巨大であったら』という可能性、因子が強くでた個体なのだろう。
 能力者たちは、戦いに備えて身構える。
 しかし、偽天使は狙って天使たちを襲う。
 まるで弱った動物をついばむ、鴉のように。
 そのフォローを主な行動内容として【防衛】を担う者は、能動的な攻撃こそ出来なくなるが、一人5体までは偽天使を押さえ、子供たちを守ることが出来るだろう、よって15体を相手どるとなれば、3人は【防衛】選択者が必要。
 だが【防衛】に動く者が地震で行動阻害されてはそれもままならない。
 仮に【空中移動】や【空中浮遊】【空中ダッシュ】等の|能力《技能》を駆使できるものが【防衛】に当たればより確実に任務をこなせるだろうが、嗚呼、果たしてそんなにも都合よくその技術を持つメンバーがいるだろうか。
 いや、能力者は危機に陥れば陥るほどに、新たなチカラに目覚めることも多いという。
 もしかしたら、この窮地に覚醒の時を迎える者はいるかもしれない――いや、きっと彼らならば。

「……マリア!ミシェル!ルグロ!ジョルジュ!ポリーナ!」
「先生……先生!!」
「ああ、ああ……うわあああ、先生!先生!!」
「良かった!先生が無事で良かった……!」
「怖かった!怖かったよぅ、先生!」
「……みんな!!よかった……よかった……!!」
 バスから飛び降りるようにして、子供たちがアントスへと駆け寄る。
 アントスもまたバイクから飛び降り、こけつまろびつ、かつてとは比べるべくもない姿へと変容してしまった子供たちへと、躊躇うことなく走り寄る。
 いっそ滑稽にも見えるその姿を、しかし誰が嗤えようか。
 しかと抱き合った院長と子供たちへ――…マリアが歩み寄り、ぺこりと院長へと頭を下げた。
「おかえりなさい……院長先生」
 すると、その声にハッと気づいたか、子供たちもマリアの隣へと並び、院長へと頭を下げる。
「……マリア」
「……先生」
 ごく短い二人の言葉。
 けれど、時間にしてはごくわずか、けれど二人にとっては長い長い夜を越えた恋人たちのように交わされて動かないその視線に篭るものは、きっと万の言葉を越えて、お互いの胸中へ気持ちを伝えていた。
「ありがとう、マリア――…みんなを、守ってくれて。……そして、すまない……!」
「……いいえ、先生。……いいえ……!」
 そして改めて、5人の子供たちを抱きしめた院長はしかし――…即座にすっと片腕をあげる。
 と。
「かの聖骸布が形作るは天界の門――…何人たりとも破ること、能わず!!」
 その腕から迸った羅紗の布が、彼ら6人を守るように空中で壁を作り、奇襲しようとした偽天使を弾き飛ばす。
「さあ、みんな!先生も来たからもう大丈夫だ……あの人達と共に、我ら薔薇の修道僧も戦うぞ!」
「押忍!!」
 円陣を組む子供たちの前に、アントスが一歩出る。
 それゆに、彼の頬を伝う涙を子供たちが見ることはなかった。
 子供たちの周囲四方を司る|守り人《【防衛】》――その一角の担い手は、アントス・ペルサキス。
 襲い来るは羅紗の魔術塔、その使役怪異。
 シュレディンガーのねこ。
 そして、オルガノン・セラフィム、15体。
「にゃ~~~ご~~~~~!!!」

 そして闘いは始まる。
 天使たちが恩師と過ごす最後の聖戦が――。
●aéroport
 フランス、某空港――。
 女はヒールを鳴らして出発デッキへと向かっていた。
 |仕事《スケジュール》は詰まっている。
 何せ彼女の組織が今もっとも力を入れて着手している計画、その総括を彼女は任されているのだ、仕事の内容は多岐にわたり、またその現場もほぼ欧州全てからイギリスまでと広範囲。
 彼女に、些末事に関わっている暇など無かった。
「今、此処を離れて宜しいのですか|師匠《メトレス》。アントスを放置する形になりますが」
 スーツケースを持ち、彼女に付き従う年若い青年が、堪えきれずという風に師に問いかける。
「あなた、美味しいワインをセラーに飾ることに拘るタイプ?」
 一瞥もくれずに歩きながら、アマランスはそう返した。
「は?」
 問いに問いで返された弟子は、師の言葉の真意を計りかね、言葉を詰まらせる。

「魔術士はね、出来上がったワインがいくら特別でも、その作り方が判っているのならば現物には拘らないものよ。憶えておきなさい」

 自らの浅薄に恐縮し、長身を縮こまらせる青年を後目に女は飛行機へと乗り込む。
 カプセル型のシートに座ると、次の現場の資料に目を通す。
 弟子が手元に飲み物を用意し、彼女のヒールを脱がせて室内履きへと履き替えさせる。

「……馬鹿な子」
 弟子が自分の席に着いたのち、動き出した飛行機から遠く、南仏の方角を見つめながら女は呟く。
 そう、研究結果のデータさえあれば、再び天使を人造することは不可能ではない――塔ならばそう考える。

 そして、裏切り者をどうするのか――…それは、彼女の仕事ではない。
十・十
猫の怪異には猫の怪異をぶつけるんでごぜーますよ

【憑依合体】でノワールと融合したまま戦うでごぜーますよ。
まず相手に近づかないといけないでごぜーますから、猫の俊敏さで駆け抜けていくでごぜーますよ
地震がきそうだと「野生の勘」で察知したら「空中浮遊」で回避、前へ前へ走るでごぜーますよ
到着したら「動物と話す」技能で声をかけるでごぜーます
反応してもしなくても猫パンチ(掌底)で殴るでごぜーますな
デカすぎてアッパーができないから猫パンチで殴って殴って殴るでごぜーます
ある程度殴ったら、【一点集中全力突】を発動するでごぜーます
防御も回避も捨てて、「鎧を砕き」をのせた「捨て身の一撃」で猫パンチをするでごぜーますよ
一撃ぶつけ、でもたぶん相手は無事でごぜーますから、もう一回
【憑依合体】の力で4回ぐらい死んでもすぐ生き返るから、無茶するでごぜーますよ
これがノワールの全力猫パンチでごぜーます
あとは「野生の勘」で回避しながら左手で猫パンチするでごぜーます

全部終わったら、ミシェル達とノワールのお別れを行いたいでごぜーます
エレノール・ムーンレイカー
――ここが正念場です。修道院のみなさんが望む|未来《さき》の為に、何としてもこの危機を打ち破らなければなりません……!
わたしは魔法の箒、シルフィーブルームに乗って空中で敵と交戦してきます!
空中での銃の取り回しと姿勢制御の安定性の問題で、精霊銃による狙撃は難しいですが……他の手で何とかしてみます!
後は防衛してくれる皆様が子供たちを護ってくれることを信じて……出ます!

交戦ポイントについたら、なるべく多くの敵を巻き込めるよう、敵の中心部に裁きの光を使用。魔法の光線で敵群の生命力を削った後に、さらに精霊憑依を発動。強化された空中での機動力を武器に敵に接近し、フォース・ブレイドで切り裂いていきます。

オルガノン・セラフィムをせん滅後は、そのままシュレディンガーのねこへ突撃。機動力と幻影使いのスキルで敵をかく乱しながら、フォース・ブレイドによる攻撃で敵を切り裂いていきます。
敵の√能力は【空中ダッシュ7】【空中浮遊7】【空中移動6】のわたしなら効果は無効にできます。他の攻撃もこの機動力なら何とかなるはずです!

戦闘が終わり、その時が来たら修道院のみなさんのこれからを少し離れて見守っていたいと思います。
――勿論、何が起こってもいいように、周囲の警戒は密かに行っておきますが。
花喰・小鳥
「さて、|守護天使《アンジュ・ガルドニアン》の見せ場ですね」

すっかり院長先生に持っていかれた気はするけど、彼の今後にも問題は山積している
せめてその出発点に立てるくらいは手伝わないと焚き付けた側としては寝覚が悪い

煙草に火を着けて、紫煙と纏う香りで敵を『おびき寄せ』る
その上で【人喰獣】を発動
空を駆けるように跳躍して天獄で|その命を喰らう《生命力吸収》
影に潜み再び現れると|強く《肉体改造》|斬り裂く《傷口をえぐる》

|院長先生《プレートル》が狙われるなら|フォロー《かばう》
この程度は|問題ない《激痛耐性》

「こんなところで倒れてもらっては困ります」

回復するならその前に倒せばいいだけ
一気に畳み掛けましょう
椿之原・希
オルガノン・セラフィムがこんなにたくさん、それに大きな大きな猫さんまで。
…よしっ!私全力で頑張りますね、絶対、ぜーったい誰も死なせないのです。

私は【防衛】でマリアさん達を守ります。
最初に使う√能力は【少女分隊】です!
私達でてきてくださーい!盾になりますよー。
(希の声にバスから同じ顔の少女が12名わらわら出てくる。「呼ばれたのです!」「皆さんを守ればいいのですね」「よろしくお願いします」「いざとなったら庇いますからね!」とか色々言ってる)
そして次に【行動援護用√能力「梟」】も使います。
フクロウさーん!(バスからフクロウ型のドローンが飛んできて周囲を周回、味方に接続して周辺情報を伝えていく)
このフクロウさん、アントス先生やマリアさん達にも効果が出ないでしょうか?物は試しなのです。
そして仕上げに【回復用√能力「小夜鳴鳥」】を使います。
もしも怪我を負っても…うっ(何個も√能力を使って頭に負荷がかかり鼻血が出てしまう)
…この位で皆さんを守れるなら安いものなのです!(服の袖でふきふき)

戦闘が無事に終わったら…アントス先生の心配をしてしまうのです。
マリアさん達と一緒に日本に来ませんか?このまま一人でここに残ったら羅紗の人達が先生を奴隷にして知識を奪って処理しちゃうかもしれません…
それに、アントス先生はすごく頭がいいのです。もしかしたら天使化した人達を元に戻せるんじゃないかって考えているのです。
黒後家蜘蛛・やつで
【攻撃役】
ましろ(h02900)と敵をやっつけましょう
シスターたちとは同じ釜の御飯を食べた仲
有意義な時間を過ごさせて頂いたお礼はしないといけません

こちらは攻撃に集中
地震と言ってもしょせん本物の自然災害でなく獣の仕業。クモ糸を風に任せてたくさん流しながら、揺れが途切れたタイミングを野生の勘で見切ってジャンプ!
強化したクモ糸を足場に、ましろと共に攻撃です
戦場に散らしたクモ糸を選んで強化しながら引っ張って、まずは天使モドキ同士をぶつけ合わせたり、ましろの爆弾をぶつけたりして数を減らしていきましょう
理性を失くした怪物に見るべきところはないのです

天使モドキを倒しきったらあとはシュレディンガーのねこ
あの猫モドキ、嫌いなのです
猫は可愛さによって至高の存在に上り詰めた種
獣返りして強くなったところで可愛さを失っては本末転倒
巨体に絡みつけた糸を引いてちょっとづつ小さく寸断しましょう

やっぱりマリアは賢かったですね
それに強い人間です
終わってしまえばとても学ぶことの多いよい旅だったのです!

※アドリブ連携大歓迎
白兎束・ましろ
【攻撃役】
やつでお嬢様(h02043)とどかーんと敵をやっつけるっす!
うんうん、ラムネのビー玉を分け合った仲っす。このままみんなを新世界にお届けっすよ!

えー、あれがネコっすか。どう見てもネコじゃないっすよ~
ネコじゃないからアレとは和解する必要なっしんぐっす!
お嬢様のクモ糸をましろちゃんも伝ってぴょーんぴょーんと飛び跳ねていくっす。
的がデカいから当てやすいっすねっと【爆弾兎の大花火】をどかーんと投げつけてやるっす!

いやー、大変なフランス旅行だったっすけど、終わりよければおっけーっすよね。

※アドリブ連携大歓迎
モバイル・バッテリー
【バーチ・アドリブ大歓迎】
(さて、【防衛】やるって宣言したものの。あんまりできることねぇんだよなぁ。)

サイカの駆るヴィークルのサイドカーに乗りながら、迫りくる|偽天使《不幸な人々》を眺める。

(しゃあない、やれるだけのことはやりますか。)

あんまり余裕の無い|インビジブル残量《懐事情》と相談しつつ、|『SAN値直送』《マインド・ブロウ》を起動。

(16個。上出来だ…な!)

|飛びそうな意識《インビジブル枯渇》に鞭打ちながら、サイドカーの後部バーを掴んで|ぶら下がる《鯉のぼり》。

「サイカ、そのまま奴さん達の真ん中に突っ込みまくってくれ。|幻聴爆弾《▓▓▓▓》ぶつけてやる。」
望田・リアム
【バーチ・アドリブ歓迎】【防衛】
精神的な面で切り込むなら兎も角…
「意図して獣を退けるようなのには向いてませんし僕も彩果さんの後ろから援護ですね」

僕の護霊はチェンジリングとしての性と本質的に同じ、ただ宿命を呼び込むにすぎないが…
ここで害されるべきでない人達の為、運命の速度と方向を多少は動かすだろう

シートより見遣れば彼は立ち向かっているようだ
年長の彼女との一瞬にいかな意味があったか、人ならぬ自分には理解しがたいけれど…
外道に堕ちても肉が変じても彼らは人間同士だった
そして|院長《人間》の意思が彼らの未来を選んだなら、僕の目的は終わっている

「……あとの動きはどうぞ、彩果さんの流れでやってください」
華応・彩果
【バーチ・アドリブ歓迎】【防衛】
「うっわ……壮観、っていうか皆はこんなんと闘ってたんだね」

改めて対峙する偽天使を睥睨しつつ、バイクのエンジンを吹かせ、横にいる|幽霊《モバ》と後ろにいる|社長《リアム》に目配せした。
|【死なば諸共、一蓮托生】《『突っ込むよ』》と。
「りょーかい社長!」
社長の言に答えを返して。
奔る。
奔らせる。

「アンタらの相手は私達!……なんて?」

モバの声にやや首を傾げつつ、子供たちを狙う偽天使の目の前を横を後ろを幻聴爆弾を炸裂させ時にはバイクで跳ね飛ばし。
これ見よがしに。
『私らをほっておくと面倒だぞ』と言わんばかりに。

|私達《バーチ》が出来る事は多くない。
故に|この役《囮》でいい。
久瀬・千影
最初の狙いは偽天使オルガノン・セラフィム。
元は人間だった彼等を怪異とは呼ばず、呼べず。それでも、為すべきことがある。
『燕返し』。狙うのは空を自由に舞う彼等の翼。それを【居合】の【切断】にて切り離す。
片翼を失えば、後は地上戦。地震の影響下、彼等はただ天使化した人間だけを狙うような動きを見せている。冷静な判断や、合理的な動きなど出来ないのであれば、地震は相当、強力に影響するだろうと思ってるぜ。
勿論、俺はジャンプするか、刀を地に突き刺して踏ん張って耐えるぐらいしか方法がないが……なに、今回も俺一人じゃねぇさ。

猫の方は散って各方面から叩くって形になるかもな。
どちらにせよ、攻撃を続けてやりゃあ、あの地震も収まるハズだ。刀身に霊力を宿し、攻撃を続けながら『天津甕星』の発動を狙うぜ。
デカイ巨体と接近戦なんざ、ちょっと前の俺なら考えられなかった。あの図体だ。懐に潜り込むのも潰される心配をしなきゃならない……だってのに。
この異国の地でアイツらに出会っちまったから。先輩として格好悪いトコは見せられないだろ?

●La balle ne s'arrête pas.
「猫の怪異には猫の怪異をぶつける――…完全放置も怖いので、ボクはお先にでごぜーます」
 猫耳に猫尻尾、手足にはもふもふで大きな手足――しかしその指先には剣呑なる爪を備えた――変わらず【憑依合体】状態を保ちながら十・十(学校の怪談のなりそこない・h03158)が飛び出す。
 まず相手に近づかないといけないでごぜーますからね。
 まるで黒い風の如き俊敏さで戦場を駆け抜けて。
 野生の勘で地震を察知し、空中浮遊で回避。
 前へ、前へ。

 ――ここが正念場です。
 修道院のみなさんが望む|未来《さき》の為に、何としてもこの危機を打ち破らなければなりません……!
「わたしは魔法の箒に乗って空中で敵と交戦してきます!」
 そう宣言し、シルフィーブルームへと跨ったのは、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)。
「空中で狙撃は難しいですが……他の手で何とか……!」
 後は防衛してくれる皆様が子供たちを護ってくれることを信じて。
「エレノール・ムーンレイカー……出ます!」

 吐く。
 吸う。
 吐く。
 吸う。
 ――…最初の狙いは偽天使オルガノン・セラフィム。
 しんと冷えた心のままに、少年は精神集中のために閉じていた瞳を開き、鯉口を切る。
 世界が、拓かれていく。
 元は人間だった彼等を怪異とは呼ばず――…呼べず。
 それでも、為すべきことがある。
「……行くぜ」
 同じく、久瀬・千影(退魔士・h04810)も飛び出していく。

「シスターたちとは同じ釜の御飯を食べた仲。有意義な時間を過ごさせて頂いたお礼はしないといけません」
 蜘蛛は風を読む。
 バルーニング。
 蜘蛛が糸を空中へと吹き流し、上昇気流に乗ることで空中を移動する行動のことだ。
 黒後家蜘蛛・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)はやはり瞳を閉じ、両手を宙へと翳すと、糸を通じて周囲の風を読む。
 しかしバルーニングは風任せ。
 果たしてどこへ飛んでいくか判ったものではない。
 ならば、別の手を使うだけだ。
 防御は頼りになる味方へ、安心して任せることが出来る。
 こちらは攻撃に集中だ。
 以前のやつでならば、子供たちを無事に日本へ、汎神解剖機関へ送り届けなければ任務は失敗となってしまうからと、感情を交えずに理性で判断したことだろう。
 けれど、彼女は学習している、同じ場所、同じものを食す。
 それが有意義なものだと感じることが出来る。
 蜘蛛糸が触れる。
 前方の岩に、地面の隆起に、立木に、草原の茂みに。
 そして――空を飛ぶ、偽天使、そのものにすら。
 粘着を指先に確かめれば、にこりとした笑みが小さな唇へ浮かぶ。
「行きますよ、ましろ!」
「あいさーっす!みんなとはラムネのビー玉を分け合った仲。このまま新世界にお届けっすよ!」
 応えるのは白兎束・ましろ(きらーん♪と|爆破《どっかーん》系メイド・h02900)。
 糸から伝わる地面の揺れを察知すれば、主従二人はタイミングを計って――ジャンプ! 

 その足は地を離れ、宙に張られたクモ糸を足場に、やつでとましろは偽天使たちへと一直線!


●小夜啼鳥
「うっわ……壮観、っていうか皆はこんなんと闘ってたんだね」
 眼前に広がる風景と、そこに展開した敵の姿に、思わずという風情で彼女は呟く。
 華応・彩果(報酬応相談速い安い安全何も聞きません!運搬は華応堂へ!・h06390)は、改めて対峙する偽天使を睥睨しつつ、バイクのエンジンを吹かせる。
 いい音だ。
 フランスの草原の乾いた空気の中、朝の散歩で暖気は十分、相棒の機嫌は悪くない。
 横にいる|幽霊《モバ》と後ろにいる|社長《リアム》に目配せした。
 |【死なば諸共、一蓮托生】《『突っ込むよ』》と。
「あいよぉ」
「精神的な面で切り込むなら兎も角…僕は意図して獣を退けるような仕事には向いてませんからね、彩果さんの後ろから援護しますよ」
 応えるのは相棒と同等に信頼のおける仲間たち――…モバイル・バッテリー(幽霊の心霊テロリスト・h06388)と望田・リアム(How beauteous mankind is・h05982)だ。
「りょーかい社長!行くよ!!」
 信じるに足る仲間と一緒ならば。
 彼女の強さは一人でマシンを駆る時のそれを、軽く凌駕する。
 社長の言に答えを返して。
 彩果はアクセルを全開にした。

「オルガノン・セラフィムがこんなにたくさん、それに大きな大きな猫さんまで。…よしっ!私全力で頑張りますね、絶対、ぜーったい誰も死なせないのです」
 大きな瞳に決意を表し、草原に少女は立つ。
 宣言したのは椿之原・希(慈雨の娘・h00248)。
「私達でてきてくださーい!盾になりますよー」
 そして彼女が用いた√能力は【|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》】。
「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」
 きりりと引き締めた表情で無人の筈のバスへと叫べば、希の声に応える声、声、声。
 果たしてどこに潜んでいたのか、天井か床下か、それとも座席の中か。
 バスの車内から、希と同じ顔の少女が12名わらわらと出てくる。
「呼ばれたのです!」
「皆さんを守ればいいのですね」
「よろしくお願いします」
「いざとなったら庇いますからね!」
 |分隊《スクワッド》たちはバーチの三人が周回する輪の内側、子供たちの円陣、その周囲へと展開し、9mm拳銃「希望」を構えながら結晶型レイン砲台「しずく」やファミリアセントリー「あられ」を起動する。
「宜しくお願いします、私達!よし、次は……フクロウさーん!」
 さらに彼女は【|行動援護用√能力「梟」《オウル》】を使用。
 バスからフクロウ型のドローンが発射され、偽天使たちが飛ぶ高度よりさらに上空を旋回。
 周辺情報を分析し始める。
 そして半透明のインビジブル体で構成されたと思わしきケーブルを、次々と味方へと接続、いわゆる周辺情報を伝えていく。
 物事を俯瞰してみよ、とはよく云われることだ。
 それは広い視野をもって、物事を見渡すことを意味する。
 それこそ戦闘のプロ、ないし達人といわれるような、そんな特殊な状況でもリラックスして物を考え、視野を広く持てる人間ならば話は別だが、戦いというごく重要な決断を瞬時に行わなければならない非現実的状況において、当事者たちの視野はとかく狭くなりがちである。
 まして【少女分隊】はほぼ一人の脳で12人という身体を動かさなければならない、必然、その反応速度は落ちざるおえない。その欠点をカバーするために希は|無理をする《インビジブル化を促進させる》。
「このフクロウさん、アントス先生やマリアさん達にも効果が出ないでしょうか?物は試しなのです」
 そして希はより範囲を広げ、守るべき子供たちや、それを守るアントスへも接続を試み。
「む。高範囲感覚の術か」
「!これは希が……?助かります!」
「あっ、すげぇ!後ろのこともよく分かる!」
「た、助かる!」
「こっちか!よし!」
「希ちゃんありがとう!」
 その思惑は見事、成功する。
「どういたしまして!」
 満面の笑みで答える希。
 しかし、これだけの√能力の行使はいまだ幼い、いや幼過ぎる彼女の体を、確実に蝕んでいた。

●HIGHWAY STAR.
 奔る。
 奔らせる。
 円陣を組む子供たちの周囲を高速で走り回り、偽天使たちを牽制する。
 地震の揺れをタイヤごしに感知すれば、アクセルを吹かしていち早くエリア外へと脱出。
 そうして子供たちからは離れながらも。
「どーぞ一本、おすそ分け!」
 口にしていたラ・ヨローナを偽天使へ吹けば、熱さで飛び去る偽天使に彩果がにやりと笑う。
 リアムの反転した「渦」で空間ごと偽天使たちの肉体をねじ切り、モバイルが呼びかけた動物霊――…シカやイノシシたちの手を借りて牽制する。
 地震の揺れが過ぎ去り、タイヤのクッションでカバーできるレベルとなれば即時、子供たちの下へと走りより、地面の隆起を利用してジャンプ!
 偽天使の背面でバーンアウト、さらに踏み台にして二段ジャンプ!
 別の偽天使の横っ面を前輪で殴り飛ばして着地する。
 それはもう、これ見よがしに『私らをほっておくと面倒だぞ』と言わんばかり。
 正直、ジェットコースターとコーヒーカップと垂直落下型アトラクションを組み合わせて交通事故を掛けたようなその挙動に、ヴィークル・ライダーである彩果と、幽霊であるモバイルはともかく、少年社長の顔色はすでに真っ青だ。
「後ろは任せろ、リアムは左右頼むぜ!?」
「ええ。……はい、まあ、なんとか」
 ……と、云うものの。
 あんまりできることねぇんだよなぁ。
 ヴィークルのサイドカーに乗り、迫りくる|偽天使《不幸な人々》へ幻聴爆弾を投げつけながらモバイルは内心、息を漏らす。
 しゃあない、やれるだけのことはやりますかと、あんまり余裕の無い|インビジブル残量《懐事情》と相談しつつ、|実体のない男《幽霊》は|『SAN値直送』《マインド・ブロウ》を起動するチャンスを探る。
 自分自身もインビジブルであるがゆえに、周辺で√能力を使われると自身の内包するチカラもまた、どんどんと薄くなっていってしまうのが、彼の体の欠点といえた。
 そしてリアムは渦を操り、バイクの挙動に耐えながら|思索《探偵頭》を巡らせる。
 僕の護霊はチェンジリングとしての性と本質的に同じ、ただ宿命を呼び込むにすぎないが…ここで害されるべきでない人達の為、運命の速度と方向を多少は動かすだろう。
 子供たちの方を見る。
 そして『彼』もまた、運命に立ち向かっているようだ。
 年長の彼女との一瞬にいかな意味があったか、人ならぬ自分には理解しがたいけれど……たとえ外道に堕ちても、肉が変じても、彼らは人間同士だったということだろう。
 そして|院長《人間》の意思が彼らの未来を選んだなら、もう、僕の目的は終わっている。
「あとの動きはどうぞ、彩果さんの流れでやってください……あと出来るだけ、運転は大人しめでお願いします」
 どうしても真正面から敵の攻撃を受けざるおえない彩果の傷を【|渦動の理《テンペスト》】の【|痕跡《スクレイプ》】により癒しながら、リアムが云う。
 16個。
 上出来だ…な!
 エンジンが唸る。
 |飛びそうな意識《インビジブル枯渇》に鞭打ちながら、モバイルはサイドカーの後部バーを掴んで|ぶら下がる《鯉のぼり》。
「サイカ、そのまま奴さん達の真ん中に突っ込みまくってくれ。|幻聴爆弾《▓▓▓▓》ぶつけてやる。」
「アンタらの相手は私達!……え?なんて?本気!?」
「行っちゃいましょう、彩果さん」
 モバの声にやや首を傾げつつも、社長の声の後押しに彼女はにやりと笑って。
「了解!」
 そう叫んだ。
 死なば諸共、一蓮托生、アクセル全開。
 そう、|私達《バーチ》が出来る事は多くない。
 故に――…|この役《囮》でいい!


●malédiction.
 しかし、シュレディンガーのねこの鳴き声は強力だった。
 初手で花喰・小鳥(h01076)に千影、希をその影響下に置き、彼らの動きを止める。
 そして防衛に当たるバーチの面々は、防御を重視しており、その攻撃はダメージを与えるというより、偽天使たちの行動を制限するというものでしかなく、そして邪魔をされれば、偽天使の攻撃は子供たちではなく、バーチの面々を襲うこととなる。
 果たして、15体をも数える偽天使――それも、この戦場に居る彼らはこれまでの戦闘データを分析するに、体力、防御力こそ低いものの攻撃力が高く、見る間にバーチの三人の体は傷だらけになっていく。
 だが、それを見越していた人物がいた。
「……想定内です!私達!今こそお仕事ですよー!」
 希である。
 地震の揺れから立ち直った希が声を挙げれば。
「はーい!」
 手をつなぎ、かばう。
 子供たちはもちろん、追撃を受ければどうなるか、という防衛メンバーの眼前に立ち、希の分隊たちは己が身を犠牲にして、彼らの命を繋いでいく。
 防衛メンバーは三人いれば事足りる。
 しかし、その三人の体力が尽きたら?
 例え地震の影響は受けずとも、その三人が倒れてしまったら?
 少女分隊という分身すら差し出して、自らも防衛メンバーへ名乗りをあげた彼女の真意は、おそらくそんなところであったろう。
「ああ……だ、だいじょうぶ……?」
 もっとも小さなポリーヌが、目の前で食い散らかされようとする希の分隊へ、思わず声をかける。
「もちろん大丈夫です!私はこれがお仕事ですから!」
 血しぶきの向こう、笑顔で応えて倒れ伏す彼女へ、なんと呼びかければいいのか子供たちは判らない。
 そもそも、彼女には呼びかけられるべき名前すらないというのに。
「治します!」
 そして希は用意して来た三番目のチカラ【回復用√能力「小夜鳴鳥」】を使い――失敗する。
 そう、悲しいかな、己が肉体の生命力の強さを触媒とする√能力『小夜鳴鳥』は、レプリノイドである少女には、今一つ使いこなせてはいなかった。
「くっ……もう一回です!」
 懸命に能力を行使する希、だがその成功率は実質四割を切っている。
 なぜか?
 当然である。
 レプリノイドという存在自体、実は肉体の頑健さは切り捨ててデザインされている。
 彼女たちはあくまで消耗品で、自身を犠牲として戦線を維持するための|命《モノ》であるのだ。
 だが彼女は自身の体のインビジブル化を促進し、半ば無理やりに回復能力を行使、的確に仲間たちを癒していく――が。
 ぽたり。
 希の鼻孔から、一筋の鮮血が流れ出す。
 いくらインビジブル化を促したと云っても、すでに複数の√能力を用い、さらに不向きな能力の無理やりの行使。
 脳への負荷は、その小さな身体へ確実に表れている。
「…この位で皆さんを守れるなら安いものなのです!」
 服の袖で血を拭きとる。
 この制服は便利だ、地の色が血の赤を誤魔化してくれる――…。
「希、大丈夫です、どうぞ此処は私に任せて下さい」
 そんな声と共に、彼女へと真っ白なハンカチを差し出した人物がいる。
 小鳥だ。
「そう、|守護天使《アンジュ・ガルドニアン》はここにもいるのですから」
 すっかり院長先生に持っていかれた気はするけど、彼の今後にも問題は山積している。
 せめてその出発点に立てるくらいは手伝わないと、焚き付けた側としては寝覚が悪い。
 そう胸中に呟いて、彼女と生き残る分隊たちを背に庇えば、おもむろに煙草に火を着けて、紫煙と纏う香りで敵を『おびき寄せ』る。
 その様は、まるで戦場に咲いた花。
 美貌の麗人から漂う、食人植物のような香りは偽天使たちを惑わせ、おびき寄せる。
 ある者は動きを止め、ある者は小鳥へとその牙を向ける。
 そうして、防衛担当の能力者たちは一時、息をつく。
 だが、そうして自らを囮とした小鳥自身はどうするというのか。
 ズン、と突き上げるような大地の鳴動。
 彼女はふらつき、よろりと地に膝を付けば、狙いすましたように偽天使は爪を振るう――。
「夜に触れば、墜ちよ」
 【人喰獣】――爪が女の体をすり抜け、優美な肢体は空を駆け、手にした天獄で|その命を喰らう《生命力吸収》。
 ペットは飼い主に似るというが、武器もまた同じことが云えるのだろうか。
 目にしたもの全てを魅了するかのような、人造オリハルコン製の美しい、刀。
 煌めく刃が閃けば、切り裂かれた天使は地に墜ち、女の姿は影となって消え――誘き寄せられた偽天使の目を晦ます。
 自らの能動的行動を必要とせず、ただただ攻撃された結果の因果として発現する√能力は、まさに地震で行動が阻害される今回の戦場においてうってつけといえた。
 影から再び現れれば、再び寄って来る偽天使へ刀を振るい、|強く《肉体改造》|斬り裂く《傷口をえぐる》。
 せっかくの再会、少し顔を見せておきましょうか。
 地震を振り切り、すいと動けば、立つのは院長、アントスの眼前。
「こんなところで倒れてもらっては困りますよ?|院長先生《プレートル》」
 防衛の一角を担うアントスもすでに幾多の傷を受け、息を切らしている。
 彼が防御しようとした偽天使の攻撃、そこへ割り込んで小鳥が|フォロー《かばう》すれば、その顔を見たアントスはなぜかせき込み、慌てた様子を見せる。
 そんな彼の様子にこてん、と首をかしげて不思議そうな表情をすると、まあいいとばかり、小鳥は再び敵へと向かう。
「回復するならその前に倒せばいいだけ。皆さん、一気に畳み掛けましょう」


●gallant.
「さあ、行きますよ!」
 子供たちへ襲い来る偽天使の群れへ、まっさきに飛び込んだのはエレノール。
「天空を満たす光よ、闇を貫き、神の裁きとなれ!」
 群れ飛ぶ敵の中心部へ【|裁きの光《ジャッジメント・レイ》】を使用。
 直径30メートル近い光球を打ち上げれば、そこから無数の光線が降り注ぎ、巻き込まれた計8体の敵の生命力を削る。
「まだまだ――…大いなる精霊たちよ、今こそ力を貸して下さい……【|精霊憑依《ポゼッション》】!」
 箒の上、地水火風の四大精霊の力を身に纏ったエレノールの姿が、一瞬ブレて姿を消す。
 青天の霹靂。
 青き空を切り裂いて飛ぶ、そう、いうなれば雷の精霊もかくや、という速さと威力で、光の剣、フォース・ブレイドを構える彼女の背後で、偽天使が切り裂かれ一体、二体と大地へ落ちていく。

「さすがはエレノール様。素晴らしい範囲攻撃です、それではやつでも失礼してご相伴に預かります」
 【|引っかけていた蜘蛛の糸《ギロチン》】。
 エレノールの華麗なる空中戦を眺めていたやつでが微笑み、囁くように言葉を紡げば、くいっと蜘蛛の糸を引き。
 裁きの光によってダメージを受けていた偽天使の一体、その首がふつりと切れて落下を始める。
「ほいっと、ましろちゃんもやっとくっすよー?」
 続けてましろが可愛らしくスカートをふりふりすると、中からは出て来る出て来る、|武器《おもちゃ》、|武器《おもちゃ》、|武器《おもちゃ》。
 うさぐるみファミリアセントリー。
 うさぐるみシールドドローン(自爆機能付き)。
 うさぐるみ偵察ドローン(自爆機能付き)。
 腹腹時計。
 マルチツールガン。
「はい、いくっすよ、みんなー!バンバーン!シューティングもフル強化状態なら楽勝っす!」
「今回、ましろの√能力は時間がかかりますからね、通常攻撃を上手に活用していかないといけないです」
 そう云いながら糸をたぐり、子供たちのもとへ飛び去りそうな偽天使の足を文字通り引っ張って、偽天使同士をぶつけ合わせるやつで。
 さらにそこへましろとうさぐるみたちが集中攻撃を加える。
「残念ですが、あなたたちはもう理性を失くした怪物。見るべきところはないのです」
「っす!」

「やれやれ、やっと動けるぜ」
 とん。
 軽やかな跳躍で少年は宙へと飛ぶ。
「――怪異を殺す為の技さ。そこらの居合と一緒にして貰っちゃ困るぜ」
 技の名は【燕返し】そして狙うのは空を自由に舞う彼等の翼。
 それを居合から翻る剣閃が舞えば、エレノールの範囲攻撃に勝るとも劣らぬ広さを持つ彼の剣界、その内に居た5体の偽天使は両翼どころか、その体をも切断されてただ、落ちてゆく。
 果たして、一回行動不能にしたところで、一閃で複数の敵を捕え地に落とす彼に、どれほどの影響があるのかと思えるほどの戦闘能力。
 また、千影はそうして翼を失えば、自然、偽天使とて地に落ちるほかないと考えていた。
 そうして地に囚われてしまえば、冷静な判断や、合理的な動きなど出来ない彼らだ、もはやさしたる脅威ではない。
 守りと、攻め。
 能力者たちの力は見事に連携し、偽天使たち――オルガノン・セラフィムを圧倒しつつあった。

●grande.
 そして偽天使たちは残りもはや数体、もはや防衛メンバーも必要あるまいというところまで数を減らした頃。
 能力者たちの主力メンバーは、シュレディンガーのねこへと肉薄する。
 そして無論、ここまでの展開を迎えるまでに、シュレディンガーのねこへといち早く駆け寄り、一刻も早く地震を止めようとダメージを与え続けていた者がいた。
 十だ。
「Bonjourでごぜーますよ、でっかいのー。喋れるでごぜーますかー?」
 小山のような体に取り付き、登りながら十は『動物と話す』。
 残念ながら返事こそ返ってこなかったが、いくつも生えた巨大な顔や所かまわず生えている、林のような前足での、熱烈歓迎が十を牽制する。
 しかしそれはうっとうしいから、ちょっかいをかけるという程度で、基本、シュレディンガーのねこは地震を発動させ続けるのだから、十のやるべきことは至極シンプルだった。
 猫パンチで殴る。
 殴る。
 殴る。でごぜーますなー。
「なにせデカすぎてアッパーができないから、猫パンチで殴って殴って殴るでごぜーます」
 しかし、あまりに無反応。
 思わず十も「なら、これならどーでごぜーますか?」などと悪戯心も出るというもの。
 【|一点集中全力突《パイルバンカー》】発動。
 もう、防御も回避も捨てる。
 そうして「鎧を砕き」をものせた|猫パンチ《捨て身の一撃》を、十は繰り出す。
 ド ゴ ン!
 小山が揺れる。
「にゃ。にゃ~~~ご~~~~~!!??」
 初めて、シュレディンガーのねこが、地震のためではない鳴き声を上げる。
 実体化している十の右腕が悲鳴をあげる。
 腱がきしんで、肉が爆ぜ、骨が悲鳴を上げる懐かしい感覚。
「そーでごぜーますよね、まだまだキミは無事でしょう」
 ねこの巨体、その背を走り回り、助走をつけて。
「で、ごぜーますから――…もう一回」
 ゴギン!!
 右腕が完全にイかれる。
「にゃ!!にゃ~~~ご~~~~~!!??」
「ほらほら、ボクをほっといていいんでごぜーますか?地震を止めてボクを攻撃しなくて大丈夫?」
 薄い笑みを浮かべた少年は、だらりと下がった右腕はそのままに、残った左腕で構える。
「今のボクは死んでもすぐ生き返るから、無茶するでごぜーますよ?ねぇ、ノワール」
 あ、もう死んでるのに生き返るとか、面白いこといっちゃったでごぜーますね?
 少年はぺろりと舌を出し、己の腕から吹き出した血しぶきを舐めとった。

「あの猫モドキ、嫌いなのです」
 糸の上をするすると。
 まるでアイススケートの選手のように、滑るように移動しながらやつでは思う。
 猫は可愛さによって至高の存在に上り詰めた種。
 それが獣返りして強くなったところで、最大の武器である可愛さを失ってしまっては本末転倒というもの。
「ですよね、ましろ」
「yesですね、お嬢様!というかアレはどう見てもネコじゃないっすよ~、ネコじゃないからアレとは和解する必要なっしんぐっす!」
 巨体に向けて糸を飛ばす、そうして絡みつけた糸を引けば、小さく小さく寸断していくやつで。
 まるで「はい、やつでが本来の大きさにもどしてあげます、そうすれば本来の可愛さを取り戻せる……かも?」なんて、云いたいかのように。
「ましろ、花火の準備はどうですか!?」
「あともうちょいっす、お嬢様!的がデカいから当てやすいっすねっ……と!」

 そして千影もまた、シュレディンガーのねこへと接近していた。
 想定通り、十と、やつで&ましろとはまた別方向、三方面から巨体を叩く形。
「そろそろ幕引きの時間だぜ?猫はおうちに帰ってねんねしな!」
 すでに、ここに辿り着くまでに霊力のチャージは完了している。
 【天津甕星】――…|無銘の鯉口《切り札》を、少年は切る。
 ……デカイ巨体と接近戦なんざ、ちょっと前の俺なら考えられなかった。
 この図体だ。懐に潜り込むのも潰される心配をしなきゃならない……だってのに。
 唇に浮かぶのは笑み。
 思い出すのは共に焚火を囲んだあの一夜。
 この異国の地でアイツらに出会っちまったから。
 ――…先輩として格好悪いトコは見せられないだろ?

「やるぜ!十!ましろ!」
「にゃー!で、ごぜーます」
「ウサちゃんブースト!フルチャージからの……きらーん♪フィニッシュっすよ!」
 まるでフランスの草原に、今、新たに一つの星が誕生したかのような霊力の輝き。
 吹けば飛ぶようなごく小さな子猫の魂、しかしその消えかけた命のすべてを乗せればその強さはきっと。
 ぽいっとうさぐるみの爆弾が、ねこの背へ向けて投げつけられる。
 |憑依合体《ノケモノ》が引き寄せ。
 |天津甕星《アマツミカボシ》が輝き。
 |爆弾兎の大花火《ドッカーン》がさく裂する――。
 ……そして。

「にゃ」

「にゃ」

「……にゃ~~~ご~~~~~!!!」

 すべてを燃やし尽くすような命の輝きの前に、巨大なる怪異はその姿を保つ力を失い。
 春のフランス、遠くアフリカから流れてきたシロッコに、その体を散らしていく。
「あちらは終わったようですね。では――…こちらも終わりにしましょう!」
 時を同じくして、子供たちの頭上、光の剣を振るう天空の騎士、エレノールの剣技によって残っていたオルガノン・セラフィムもまた、殲滅される。
「討伐完了、ですね」


●天使の右手
「先生、どちらへ行かれるんですか?」
 仲間たちに背を向けて戦場を離れようとする男の背に、マリアが声をかける。
 マリアは見逃さなかった。
 敵の全滅、周囲にもはや脅威はない。
 遥か日本からやって来てくれた、守護天使たちの手で、兄弟たちは全員助かった。
 あとはそう、再びノゾミのバスにでも乗って国境を越え、イタリアへでも移動すれば安心なのだろう。
 だから、彼が姿を消すとするならばこのタイミングだと思った。

 それはもう、戦闘中で確信していたことだった。
 もう先生は――…いや彼はもう満足してしまったと。
 確かに彼は、過ちも犯したのだろう。
 そしてそれを悔いてもいたのだろう。
 けれど、最後に悪しき魔術士としてではなく、薔薇の修道院院長としてこの場にやってこれたこと。
 そして、わたし達を守って戦えたということ。
 ――ああ、この表情は。
 闘いのさ中、彼女が覗き見た彼の顔は、そう出来たことに、心の底から満足してしまっている――命をここで終えてもいいと思えるくらいに。
 そのことが、判ってしまったから。
 だからマリアは絶望した。
 一歩一歩、希望へと近づきながら絶望していた。
 彼との終わりが近付くことに。
 けれど、絶望しながらも、それを受け入れてしまいそうな自分も居た。
 そう、仮に。
 もしもこの場で、|彼を死なせてあげられたのなら《・・・・・・・・・・・・・・》。
 弟妹たちにとって、最期まで綺麗な先生のままで、逝かせてあげられたのなら。
 それはきっと、彼にはとても幸せな終わりだったのだろう。
 けれど、そうはならなかった。
 守護天使の翼は、そんな運命など一蹴出来るほどの強さと、優しさを持っていたのだ。
「「「「先生!」」」」
 そして、天使の声が響く。
 猛り狂うような偽天使の嬌声も。
 シュレディンガーのねこの、地響きのような鳴き声も、すでにこの場にはない。
 ミシェルが、ルグロが、ジョルジュが、ポリーナが泣いている。
 泣きながら、笑っている。
 喜び、むせび泣きながら先生の胸に向かって走り出している。
 そして先生――…彼は、アントスは。
 手にした羅紗の布で、なんらかの魔術を用いようとしている。
 おそらくは移動系のなんらかの、術を。
 ダメだ、と思う。
 彼になにかさせてしまっては、もはや弟、妹たちは二度と先生のぬくもりを感じられまいと確信する。
 まるで時が止まったかのように、マリアは感じられた。
 そして――…『出来る』と、思った。
 今なら出来ると、彼女は確信して。
「……そうだ」
 まだ、あなたを|行かせて《逝かせて》なんかあげない――!!
 大きく、大きく右手を伸ばす。
 その認識は肉体の枠を越え、意識が形作る巨大な右手を形成し。
 先生の体を引き寄せると同時に、|自身の体をその場所と入れ替える《・・・・・・・・・・・・・・・》。
「……これは」
 マリアと位置を変えたアントスの姿に、少しびっくりしたものの、ずっと自分たちに近くなった先生の胸に、子供たちは飛び込んで喜びを露わにしていく。
 戸惑いの表情でマリアを見るアントス。
 その彼に、少し悪戯めいた微笑みを見せながら、マリアは近づいて行く。
 仮に、この力を天使の右手とでも呼ぼうか。
 本来ならばこれはきっと、自分と守りたい誰かの位置を瞬時に入れ替えるチカラ。
 そして、守りたい誰かが受ける筈だった傷を、己が肩代わりするチカラだ。
 きっとこの力が、今後の自分を支える背骨となってくれるだろう。
 そして、アントスの傍に立った少女は薔薇のような笑顔で告げる。
「先生、ありがとう。わたしを|強くしてくれて《・・・・・・・》」
 彼女のその言葉は一体どんな意味なのか。
 空手のことか。
 人を信じる心のことか。
 それとも、今の彼女が持つ、けして望んだわけではないそのチカラの――…。
 その答えは、はにかむような彼女の笑顔にそっと秘められて。

「わたし、あなたが好きです。……あなたを愛しています、アントス・ペルサキス」


●祝福
 相談の結果、移動ルートはやはりイタリアとの国境を越える形となった。
 国境を破る形となるが、この非常事態、小さなことには構ってはいられない。
 速やかに移動の準備を終えた能力者は、しかしいくつかのお別れの時を待つ。
 
「あの、アントス先生、ちょっとだけいいでしょうか」
 人知れず姿を消そうとした所をマリアに止められ、子供たちに今後の訓示を与えたアントスへと話しかけたのは、希である。
「アントス先生、マリアさん達と一緒に日本に来ませんか?」
 希は少しためらうように、そう告げた。
 そう、希は天使たちと同時に、彼の身も案じていた。
 このまま彼が一人でここに残れば羅紗の塔、その手が彼へと延びるのではと。
 そして塔はアントスをいいように道具として用いた後、処理されてしまうのではないかと。
「アントス先生はすごく頭がいいのです。私はもしかしたら先生なら、天使化した人達を元に戻せるんじゃないかって考えているのです」
 そうか、と思う。
 アントスは驚きに見開いた瞳をそっと閉じて。
 そして再び見開いて、希を見れば気付く。 
 ここにも、天使はいたのだと。
 男は静かに膝を折り、希と目線をあわせると努めて笑顔で話し出した。
「……ありがとう、小さなmademoiselle.でも大丈夫、私とてこれでも一端の魔術士だ、自分の身を守るくらいは出来る。それに――…残念ながら、私は羅紗の塔のことを知り過ぎてしまっている。私が一緒に汎神解剖機関へ身を寄せるとなればそれこそ塔は追撃の手を緩めまい」
 ぐっと希は言葉に詰まる。
 確かにそうかもしれない、でも、そうはならないかもしれない。
 だったら、そうならないように自分達がより頑張ればすむことではないのか――…。
 諦めたくない一心で、希はそれでも、唇を開こうとする。
 ふわ、と。
 その声は、突然の温もりに止められた。
「有難う。……有難う、心優しい、東の天使。どうぞ、私の子供たちを頼みます」
 微かに触れるだけの遠慮がちな抱擁は、そうして終わる。
 それ以上はなにも云えずに、希は彼の背中を見つめていた。
 ああ、この人はきっと似ているのだ。
 自分の帰りを待っていてくれる、大好きなあの人と。

「どーもみなさん、初めましてでごぜーます、ボクは十・十。ノワールに体を貸していた……霊媒師?みたいな者でごぜーますよ」
 ノワールこと十は、すっかり仲良くなったミシェル達とお別れの挨拶をしていた。
「そっか、ノワールはさっきのねこをやっつけた時に……」
「ええ、あれで全部の力を使っちゃったみたいで」
 そう、ねこを倒し、子供たちの脅威が失せた時点で、きっとノワールの現世への未練は消え去ったのだろう。
 彼の魂は一匹の小さなインビジブルとなって、宙へと消え失せてしまっていた。
「ごめんなさい」
 十はぺこりと頭を下げる。
 驚いたのはミシェル達だ。
「ええ!?な、なにいってんだよモゲキ」
「そ、そーだよ、モゲキが僕たちを守ってくれたんじゃないか」
「そうさ、謝るっていうならさんざん守って貰ったこっちだよ」
「いいえ、ボクはノワールとみんなにきちんとお別れさせてあげたかったんでごぜーます。……ボクが無茶な力の使い方をしなければ、それが出来たかもしれないので」
 その十の言葉を三人は戸惑いながら聞いて。
 どうしたらいいのか、どう答えるべきかのか、わたわたと焦り、慌てて、暫くの間、悩んで。
 そうしてなんとか、答えを出す。
「モゲキ、お別れはもう、終わってるから大丈夫。……ノワールが死んだ時に、それはちゃんとやったから」
「そ、そう。だから、僕たちからモゲキに云えるのは、こ、この言葉だ」
「ありがとう、モゲキ。もう一度、ノワールにあわせてくれて」
 そうして4人の少年たちはにっと笑って抱き合って――。
「……いや、こっちに来なくていーんだよ!」
「そんなこと云わないで下さいよーアニキー、でごぜーます」
「ソウダヨ、アニキ」
「チカゲのアニキ、最後のヤツ凄かったな!?」
「あとでもう一回ミセテよ」
「アレなんて名前?」
「アレか、アレはな、アマツ――って、全く。……お前らには調子狂わされるぜ」
 バスの上、すでに撤退準備を終えていた千影のところへと赴き。
 少年たち5人は、出発までの僅かな時間を楽しく過ごした。

「私はこれから先も、いつもキミたちと共に生きているよ――愛している」
 希の下を離れたアントスが、子供たちへと聖印を切る。
「キミたちに祝福を」
 そして子供たち一人一人へ祝福を与えれば――…長い長い時間、彼ら家族は抱き合って。
 子供たちはバスへと乗り込む。
 いよいよ、出発 というその時。
「それで先生はマリア姉の愛をどうするの?」
 ポリーナが無垢な瞳でそう云った。
「お、そーだよ!よく言ったポリーナ!」
「せ、先生はきっと、あとから日本に来るよね?そうしたらまた一緒に暮らせるよね?」
「でも修道士は結婚出来ないからなぁ」
「ちょっとみんな!……いいの、わたしも修道士だし、先生には気持ちを云えただけで満足なんだから」
 そう、それだけで。
 もう二度と会えず、この想いすら伝えることは出来ないだろうと思っていたことから比べたら。
 人知れず姿を消す、なんて彼のたくらみを邪魔して、きちんとお別れの挨拶もさせてやって。
 稽古の組手では結局奪えなかった一本を別の手段で取ったとも云える現状に、マリアはもう心満たされていたから。
「……あー、みんな静粛に」
 バスの窓の外。
 一人立つアントスがごほんと咳払いして、重々しく告げる。
「私はこれから、修道院の後始末をして、キミたちを手に入れようとしていた魔術士の組織と話をつけて、もうキミたちを狙うのはやめてくれとお願いしにいく」
 そんなお伽噺を、笑顔で彼は口にした。
 子供たちは、きらきらとした瞳でそれを聞く。
 ずっとずっと以前から、そうしてくれていたあの夜と同じように。
 寝る前に、先生が読んで聞かせてくれていた童話の先を待つ、その瞳で。
「そしてそれが終わったら――…私は必ず、キミたちの下へ駆けつける。約束する」
 子供たちが歓声を上げる。
 能力者たちは、その優しい嘘をただ聞いている。
「だからマリア。その時、キミの心にもしも代わりがなかったなら――私の答えはそれまで、待っていて欲しい」
「……はい、先生」
 そう答えるマリアの心中は、誰に計れるものでもない。
 ただ、戦場に咲いた|大きな薔薇《grande rose》は、彼女の心の奥底に、そっと。
 一筋の希望を糧に、きっとずうっと咲き続ける。

「……やっぱりマリアは賢かったですね、それに強い人間です」
「なんかいいました?お嬢様。あ、お菓子食べます?」
「食べます」
「ましろ、私にも一つ下さい」
 アントスと子供たちの声を聞きながら、バスの外――もう、見納めになるだろうフランスの空を眺めながら、やつでが呟き、隣の席のましろが声をあげれば、他のメンバーから離れた後部座席に座って一服していた小鳥が手をあげる。
「終わってしまえばとても学ぶことの多いよい旅だったのです!」
「大変なフランス旅行だったっすけど……そうですね、終わりよければおっけーっすよね」

 バスの車外では、彩果のバイクが先導のために走り出す。
「じゃ、こっちは出発するよー!あ、社長はもう車酔い大丈夫?なんならバスに乗せて貰う?」
「いえ、ひとまずこっちで大丈夫です」
「リアムも今度、自分の渦で回ってみたりしたら、三半規管鍛えられるんじゃねぇの?」
 撃墜王の周囲を一周巡り、アントスへも手を振り、また目礼し、バーチの能力者たちは去っていく。
 そしてバスから少し離れて彼らの別れを見守っていたエレノールが、最後にバスへと乗り込む。
 勿論、彼女はただ見守っていたわけではない、最期の瞬間まで、何かが起こってもいいように、彼女は周囲の警戒を怠らなかったのだ。
 そして、今、無事に出発の時を迎えた。
 エレノールがバスに乗り込む。
「……あなたが約束を守ってくれることを期待しています」
 バスのステップに足を掛けながら、独り言のように呟いて。

 ――天使は飛び立つ。

 フランスの青い青い空を背にして。
 そして贖罪たる師の仮面を被り続けた罪びとは、手を振りそれを見送っていた。

 いつまでも、見送っていた。

















































































●エリ・エリ・レマ・サバクタニ
 結論から云えば。
 その後、修道院の子供たちとアントスが再会することは、二度と無かった。

 天使を見送ったのち。
 踵を返した男の背に、一陣の風が吹く。
 シロッコ。
 アラビア語では東を意味するsharqという言葉にも繋がるというその風が。
 まるでノドの地をゆくカインのように独りゆく男の体を叩く。
 ――そして風に乗り、どこからともなく飛来した一枚の布が、音も無く男の頭に巻き付く。

 矛盾を抱えて、ただ生きなさいアントス――それが人間というものだ。

 魔術士となる前に師事していた老修道士の言葉が、不意に脳裏に浮かぶ。
 そう、羅紗の魔術塔は裏切者を許さない。
 ただ云えることは一つ。
 男は窒息し、首を折られて苦しみぬいて死んだ。
 しかし満足して死んだ。
 心から満足して、死んだ。
 遠くなる意識の中。
 ああ、番人を失ったあの庭の薔薇は、たとえ一輪でも咲いてくれるだろうかと思う。
 Maria Callas.
 その面影こそ彼の魂が最後に見たもの。
 最愛の教え子、そのはにかんだような笑顔。

 キミはまるで、戦場に咲いた花のような――…マリア。
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