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怪異調査報告書【オトモダチ】~~遊ビカラ逃ゲル~

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――ねえ、知っている? オトモダチの話。
 
 そんな噂を聞いて、結月・思葉(言の葉紡ぎ・h05127)は溜息をついた。
 アレは終わっていない。
 それどころか、きっと誰かの元に訪れているのだろう。
 怪異は語られ、綴られ、そして続いていく。
 アレは今も今も噂という物語に乗って広がっていく。
 被害にあった者だけではない。
 怪異、都市伝説。そういった形で見た者、聞いた者。その人達も既に怪異で出逢ってしまっているのだ。
 ならせめてと思葉はアレと遭遇した者として綴るしかない。
 オトモダチと呼んだあの怪異が、これ以上の呪いと広げないようにと。
 かたかたと、思葉は自らの経験と過去を綴っていく。
 願わくば、この資料があの呪いを止める一助となりますようにと。



● 



 幼い頃から思葉には強い霊能力があった。
そこにあるけれど、見えないものを感じ取る一種の才能。
 けれど、それを幼い子供に自在に操れる筈もない。
 よく子供が神隠しに逢うというのはそういうこと。
 そして、この時の思葉が出逢ったのがオトモダチと呼ばれる怪異だった。
 いいや、それを名付けたのも、それを作ってしまったのも結月だった。


 呪いの始まりは、幼心の寂しさだった。


 幼少期の思葉と兄の朱晴は、イギリスの祖母の家に住んでいた。
 当然、言語が違う為に友達を作れる筈もない。
 いいや、ひとり言葉が違うと遠巻きにされていたかもしれない。
 寂しさは次第に募り、心は軋み、孤独感に溺れていく。
 そんな子供が『お友達』を求めるのは当然のこと。
 架空と妄想の、思葉のお友達。
 だが思葉は普通とは異なっていた。
 霊感、霊能力というものを持っていた。
 それらが無意識の裡で紡ぎ上げたのが、『オトモダチ』という小さな、小さな人形の怪異だった。
 そう、当時はあくまで小さな人形だった。
 動いて、喋り、一緒に遊んでくれる人形の『オトモダチ』。
 突然現れた存在を思葉は喜んで受け入れ、一緒に遊び始めた。が、年上である兄の朱晴は、流石にこの存在を訝しんで警戒していた。
 妹から唯一の『お友達』を奪ってはいけないと、良心が警戒に留めたのだろう。
 だが、そんな優しい少年の心を前にしながら、恐ろしいモノへと変貌するのが怪異であった。


 
 思葉は『オトモダチ』に幾つかを言い聞かせた。
 その中でも重要だったのは、遊ぶ時はルールを破ってはいけないというものだ。
 今でもオトモダチはそれをずっと守っている。
 振り返って考えてみれば、怪異へと知識を持てば、それがオトモダチという存在の|法則《ルール》であり、人間を前にしての契約なのだろう。
 精霊に妖怪、果ては悪魔。
 全ては約束に縛られ、縛られるが故に存在を強固にしていくものだ。
 だから相互に破れない|制約《ルール》を続けていく中で、オトモダチは恐ろしい怪異へとなっていく。
 もしかしたら、影響を与えたのは思葉だけではないのかもしれない。
 イギリスは数多の妖精が残る地という。その影響を受けているかもしれない。
 もはや全ては分からないのだけれども。
 少なくとも――成長するにつれて感情と霊力が安定していった思葉にオトモダチは見えなくなっていた。
 見えず、聞こえないのだから。
 そうして思葉と、兄の朱晴はオトモダチの存在を忘れていった。

 だが、忘れられても消え果てることなどない。

『遊ボウヨ』

 今思えば、見えないだけ、聞こえないだけでずっと思葉と朱晴の耳元でずっとオトモダチはそう囁き続けていたのかもしれない。
 少しずつ、少しずつ。
 寂しさから生まれたモノが、忘れ去られる寂しさを憶えて、無邪気で残酷な怪異へと変貌していく事に気づけずに、思葉たちは日本へと戻る。
 イギリスからオトモダチがついて来ている事に気づかない儘に。


『遊ボウヨ』


 日本へと帰るの飛行機の中で。
 或いはその後も、ずっとあの黒々とした眼で見つめられ続けていたのだろう。
 言葉が通じる日本で、思葉は友達が少しずつ出来ていく。
 もう、ひとりぼっちではない。
 そうなれば、もうオトモダチの事は更に忘れていくばかりだ。
 だがそうやって忘却されていく中で、じっ、と物陰から見つめる存在――オトモダチ。
 オトモダチはまた遊びたいと思っていたが、思葉は決して気づいてくれない。
 気づいて。無視しないで。
 遊んでよ、お話ししてよ。
 オトモダチが抱く寂しさは、何の因果かイギリスにいた頃の思葉が感じていたそれ。
 負の思念は何らかのきっかけと影響で増幅され、オトモダチの力は留まることなく溢れていく。
 そうして捻れ、歪み、狂い、怪異という存在へと墜ちていく。
 小さな怪異が凶悪化し、僅かにあった澱みが肥大化して悪意へとなっていく。

 最初は可愛らしい人形だった見た目。
 しかし今や中身を示すように、ツギハギの歪な人形へと変わっていた。
 
 そして、あの事件が起きる。






『コッチ向イテ』
 まずオトモダチという怪異を語るのであれば。
 決して言葉に従わないということ。
 聞こえても、聞こえないフリをすること。
 少なくとも思葉が忘れ続けていた間、聞こえないから反応しないという事を続けている間は、オトモダチが事件を起こすことはなかった。
 ただ今は完全に無視するというのも難しいだろう。
 何しろ力を得たオトモダチは、標的を見つければ特有の遊び空間を作り出して、その中へと攫ってしまうのだから。
 もしもいきなり分からない場所に出てしまって、知らない声をかけられたら無視して逃げること。
 この空間から逃げ出すのが最善である。
 その上で……。
『遊ボウヨ』
 そう言われても決して返答しないこと。
 はい、いいえ。どちらであってもオトモダチという怪異が|制約《ルール》に取り込んでしまう。
 ルールを破った相手には即死か、死にもっとも近しいことが行われる。
 提示されるルールを破らなければ脅威は低いが、逆に言えば破った時の呪いは凄まじいものとなるのだ。
『ネェ、一緒ニ行コウヨ』
 そう言われたら、その場からすぐに逃げること。追いつかれてもいけないから、命がけの逃走だ。
 オトモダチは遊びの空間から出た標的を追いかけてはいけない。そういうルールを自分にも用意しているのだから。
 追いかけている最中に、飽きて追いかけることをやめる事もあるが、恐ろしい怪異のご機嫌次第に命を賭けるのは正しいことだとは云えないだろう。
 

 少なくとも――最初の犠牲者となった思葉の両親は、逃げることが出来なかった。


『コッチ向イテ』
 声に反応したのは父だった。
 異様なほどに冷たい空気と、不気味な声にと振り返り――そして犠牲となった。
 言及と詳細は控える。
 だが遺体は手足が四本と頭がついているから、どうにか猿か人間かと判断出来るという程に損傷していた。
 まるで子供が戯れにと、石で虫を押し潰したかのような……。
『ネェ、一緒ニ行コウヨ』
 恐らく母は逃げようとしたのだろう。
 そうでなければ父と母の遺体が別の場所にあった事に説明がつかない。
 が、恐怖で満足に走ることが出来なかったのか、逃げ切る事が出来ずに死亡している。
 どちらも子供の残酷さが滲むような遊びの末路だった。
 兄の朱晴も標的となった。
 運が良かったのか呪われるだけで済み、現在も入院している。
 そうして、今もオトモダチは――思葉に逢いたくて、逢いたくて、ずっと探しているのだろう。
 あくまで家族は始まり。
 気づいて欲しいという信号に過ぎなかったのだ。
 加えて、今やオトモダチは気づいてしまった。

 ||遊び相手は《・・・・・》、|思葉だけではない《・・・・・・・・》。

 どれほど組織的な、そして超常的な隠蔽と工作をしても、ひとが死んだのだ。
 噂が囁かれ、それが都市伝説となり、オトモダチという存在はひとの社会の闇に溶け込んでいく。
 自分を誰かが呼んでいる。
 オトモダチはそれが嬉しくて、嬉しくて、新しい遊び相手だと見つけて歓喜している。
 もう寂しくない。たくさん、たくさん友達がいる。
――だったらひとり、ふたりと壊れても別にいいね。


『遊ボウヨ』


 そんな子供らしい純粋さと無邪気さで、今も何処かの夜に彷徨うのだ。
 ひた。
 と鳥肌がたつような悪寒を感じたら、決して声に答えてはいけない。
 振り向いてもいけない。
 ツギハギだらけの大きな人形の姿を、認識してはいけない。
 どうか、全力で逃げて欲しい。
『ネェ、一緒ニ行コウヨ』
ひた。
 冷たく湿った手か足が、地面に触れる音。
 人形の手足がどんなもので濡れているか、考えてはいけない。
 ひた、ひた。足音が近寄り気配が忍び寄っても、肌に触れるような近くにあっても、何の声もあげずに外へ、希望へと縋るように逃げ出すしかないのだ。
 だって背中にあるのは絶望なのだから。終わりが、そこにあるのだ。
 濃密な死の気配。
 いいや、純粋で無邪気な子供じみた――けれど、ひとが抱いてはいけないほどに肥大化した凶念と悪意の塊。
 ひた、ひた、ひたひたとそれが迫る。
 ひたりと、それが肌を擦り抜けて肉に触れる。
 暖かいひとのぬくもりを感じて、音もなく人形が嗤い、血の赤い色が好きなのだというように。
『ナニ色ガスキ』
 そう問い掛けて、追いすがる。
 息が切れる、動悸がする。
 だが、呼吸と鼓動の音を押し潰すオトモダチの気配と足音。

――ひたひたひたひた!

嗤っているのか。
 それとも、走っている音なのか。
 振り向かないからこそ分からず、分かった時には死んでしまうという恐怖の中で。

『遊ボウヨ』

その声が耳元で聞こえたら、もうお終い。
  
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