蛮勇にわからせ、時計にわからせ
「ウォーゾーンに1人で挑みかかって、無駄に弾薬を消費しただけで何の成果も出せないで、死にはしなかったけど救出しに来てくれた部隊を何人か怪我させて、無駄に薬や包帯を消費させるなんて……はずかしくないのぉ? 今時こんな雑魚なかなかお目にかかれないわ♪」
トーニャ・メドベージェワは嗤いながら包帯を巻く。煽られながら手当を受けている男は唇をぎゅっと噛みしめるだけで言い返さない。……むかつきはするが、どれもこれもここ数日の間に自分が起こした事実だからだ。
「はい、おっしま~い♪ ウォーゾーンとの戦いは私みたいなエリートに任せて、ほんとは兵士さんのために使われたはずの貴重な薬とベッドを占領して大人しく療養してなさ~い」
そう一方的に言いながら手当を終えたトーニャは個室から出ていった。本来なら大部屋でいいほどの怪我だったがすでに満杯だったのと、男の家がそこそこの資産のある故の措置だった。
一時の感情で他人だけでなく家にも迷惑をかけてしまったという事実は能天気な馬鹿で無い限りは心にずしりとのしかかってくるだろう、せいぜい反省してなさ~い、と心の中で煽りながら救急箱を戻しに来たトーニャを年配の女性が朗らかな笑顔で出迎える。
「トーニャちゃん、お疲れ様ねぇ」
「あらおばさん、夜勤なんてエリートの私に全部任せて帰りなさいって言ったじゃない! まさかボケちゃったんじゃないでしょうね?」
「ええ、ちゃんと帰って寝ましたよ。ほら」
詰られても笑顔のままの女性が壁に掛けられた時計を指差すと、時計は午前6時を過ぎようとしていた。
「え」
スマートに仕事をこなせたと思っていたトーニャは電池が切れたか抜かれているのかも、と駆け寄るが普通に短針が動いており、外してみるまでもなかった。
わなわなと震えているトーニャが口を開けば「私はエリート」と言って、周囲を下に見るような態度を取り続けるのは「自分が周りより頑張らなければいけない」「弱い人たちを自分が守ってあげないといけない」という使命感が変な形で出ているのだと、トーニャと長く付き合ってきた人はみんな知っている。
「おかげで今日はバリバリ頑張れる気がするわ。ありがとうね」
「別に感謝されるほどのことじゃないわ! おばさんが倒れちゃったら他の看護師に教えてくれる人がいなくなっちゃうから手伝っただけなんだから!」
顔を真っ赤にさせたトーニャはそう言って顔を背けた。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功