4
辻に咲く
●さきほこれ
『立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花』
春から初夏にかけて咲き誇る、美しい花々を女性に例える。
『んじゃ、『こういう姿』は何て表現すれば良いんだろうなァ?』
ゆったり揺れるように。ふらふら、あちら、こちら。
足の踏み場を求めるようにひたりひたりと、素足の音。踏みしめているのは血の海、臓物、ああ、赤い。
『俺的には同じく! 立てば芍薬、座れば牡丹!』
白い着物が、花嫁衣装が、赤に染まっている。まるで金魚のように、裾から――。
『歩く姿は百合の花――!』
陽気な声はいつだって古めかしいラジオ越し。流行りの音楽もこれを通ればノスタルジーの仲間入り。
そして『これら』を聞けばいたずらに、あの花嫁の仲間入り。
『速報です。H市、N区にて殺傷事件が発生。犯人は神社の境内とその付近を歩いていた人や妖怪を無差別に斬りつけた後、逃亡中です。犯人の特徴は花嫁衣装、白無垢を着た二十代の女性。当日、近隣の神社にて結婚式を挙げる予定であったと――』
放送に割り込み、淡々と読み上げられるは悲劇の速報。
『犯行動機は不明。ですが、当日挙式を挙げる予定であった男性と言い争っている姿を目撃したと|私たち《・・・》は語っており』
……ラジオから、ノイズ混じりの声が響く。
『警戒の必要はありません』
『出てきやがれよ表にさァ』
●おとどけもの。
「やあ! 厄介事の『お届け』だよ!」
どう考えても厄介事を持ち込んでくる声ではない。
封書を手にしてぱたぱたと振るはオーガスト・ヘリオドール(環状蒸気機構技師・h07230)。なぜだか煤だらけなのは気にしてはいけない。
星詠みが何時どんな時、どの瞬間にゾディアック・サインを詠むかなど、誰にもわからない、察せはしないのだから。
ようは彼、弄っていた機械を爆発させたあとである。機械よりも当然星詠みが優先だ。
「ざっくりまとめただけだから、そこはゴメンね。√妖怪百鬼夜行で辻斬り事件だ」
開いた封書の中に収まっていたのは一枚の書類とカセットテープ。広げられた書類には地図と、それに細かく書き込まれた雑な字。
「こっちはH市N区で録音された奇妙なラジオ放送。通常の放送に割って入り込んできたらしい。で、その位置がすっごい局所的! ほら……この通りだ」
オーガストが指し示す先、真っ直ぐ通る道が一本……この周辺でのみ、ラジオの異常が起こったと。幸いというべきか、この放送を聞いた妖怪や人間たちへの影響は少なかったらしい。ただ、少し……。
「恋愛的な情緒が変になった、とは聞いたな。恋人に連絡とりたくなったとか、夫婦でいちゃついたとか。チッ……」
舌打ちをするその姿。とんでもなく真顔。だがすぐにふうと深呼吸。
「不審な放送自体は『余波』だろうけど、この影響力だ。これを直接聞いた人間や妖怪がいたとしたら、この内容通りに動いてしまってもおかしくない――というか、俺はそう睨んでる」
真剣な面持ちで前を見るオーガスト。広げられている地図を手のひらでぽんと叩いて、それから胸を張る。
「君たちならいけるだろ。とりあえず現場近辺の調査よろ! いい結果を持って帰ってくるの、待ってるよ!」
これまでのお話
マスターより

おはようございます、親愛なる皆様!
R-Eと申します。
春が……来ている……! ので、春っぽいシナリオ(当人比)です。
オープニング公開後は早めにプレイングを締める予定ですので、ご注意ください。
●1章
古妖の復活、その余波で狂ってしまった女性を待ち構え接触しましょう。
白無垢姿かつ日本刀を手にふらついているので、すぐに発見できますが、何らかの手段で正気に戻す必要があります。
●2章
不明です。女性にどう接したか、どのような手段を取ったかで分岐します。
●3章
封印されていた古妖との戦闘になります。
それでは、『華』の季節を楽しみましょう。
56
第1章 冒険 『辻斬り事件を追え』

POW
事件の発生した現場で辻斬りを待ち構える
SPD
現場に戻ってくる犯人を狙って罠を仕掛ける
WIZ
事件の被害者に接触する
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
暖かな風が吹いている。白無垢からはらり乱れた髪が、風に流される。
ああ、きれい。
花咲く春の道、私はいつだってここが好きだった。四季折々、様々な花が入れ代わり立ち代わり咲いては散るこの道が。
この道を、あのひとと歩いた。あのひとと歩けた。そうして、これから先も歩くはずだった――。
どこで間違えたのだろう。きっかけはあったはずだ。
思い出せない。頭が痛い。どうやったら、思い出せるだろうか?
また|斬って《・・・》みたら、少しはましになるだろうか。
女は歩く。辻を歩く。人斬りが、歩いている――。

アドリブ・アレンジ・連携歓迎。
心情
…恋する…?
…まだ僕には…分からないけど…き、気になる方は、います。
…会えないと、何故か…顔がちらちらして…変なことしか思い出さないのに…
碌なことされないのに、あの方に会いたい…って思うのは、この依頼に…き、気のせいです。
…その…好きな方を…思い出しませんか…?
だから、凶行…止めませんか?
行動
【幾何学模様を展開する機械の半身】で|半身《レギオン》を29体召喚。
これだけの目があれば、見つける事は可能ですかね?
発見出来たら、其処に向かいましょう。
斬ってみたいのなら斬られて、しっかりと掴み、思い出してください。彼の事を。原因を。
回復は[インビジブル融合]で行います。
恋とは何だろう。気になる人がいるということだろうか。曖昧な定義しか知らぬ四之宮・榴(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)にはどうにも難題。
いつだって碌なことしか、変なことしかしない。だが会わないと何故だかその顔がちらちらして仕方がない。今だってそうだ。銀色が見ている気がしてならない。
き、気のせいです。気のせいに決まっている。自分もまた、あのラジオに脳を揺さぶられただけなのだと……そう頭を振って、榴は|半身《レギオン》を召喚する。
これだけの目があれば見つける事は可能だろう。いいや容易い、容易いのだ。
あっさり見つけられた白無垢の女。本当に、広域を探すまでもない。
近寄れば彼女、予想外に落ち着いている。こちらを見て微笑む様――角隠しで影が落ちた顔、口元しか見えない。
どう切り出したものか。いつ切り掛かってくるか。距離を保ったままでいると、彼女のほうから口を開く。
「私をお探しでしたか」
それは、甘ったるい声だった。
「……その……好きな方を……思い出しませんか……?」
提案。目の前の彼女は、こてんと首を傾げた。返り血で汚れた頬がやわらかく立ち上がり笑みを作る。
だから、凶行……止めませんか。
そう伝えようとした。だが、その言葉を女は最後まで聞くことはなかった。刀を低く構え、榴の腹に刃を突き立てようと動いたのだ。
白い影が、角隠しでよく見えぬ顔が重なる。体格はあまりにも異なるが。何人も切ったなまくらに近い刃が肌に食い込んで、あっさりと皮膚を貫き抉り、そして払う。脇腹へと抜けた刃と確かに付いた傷。
――それを『水銀』が縫合するように繋ぎ、インビジブルたちが傷ついた内臓に集って治癒を試みる。抵抗はしなかった。そうしたいのならば、そうすればいいと思っていたから。
「……思い出してください。彼の事を。原因を」
自分が思い出しているのは別の「彼」だが。白無垢の女は首を傾げる。真新しい血液が付着した、はずなのに、銀色が混ざるそれに不思議そうな顔をしている。
「原因は。私が、百合の花だったからです」
それは、愛らしい……花のような笑顔。
――あなた、好き好んで斬られるのは、わたくし位にしたほうがいい。
高笑いが聞こえた気がした。
🔵🔵🔵 大成功

「確(しか)と、引き受けました」
青年の姿のまま、示された道で待ってみましょうか。
まだ熱烈な恋をした事がないのですが、ふむ、この沸き起こる感情は……。
「こんにちは、お嬢さん。誰かに会いたい気分というのは、悪くないですね」
白無垢の女性から攻撃されるまでは【コミュ力】で会話を続ける。彼女の正気を思い出させる方向で。
「しかし、己を見失うほどに情に溺れるのは恐ろしい事ですよ」
「細い腕に日本刀は少々重たくはないですか? 貴女には花の方が似合います」
切りかかられたら笑みを引っ込めて冷静に対処。
私は近接戦闘を好むので、【オーラ防御】で致命傷を避け、相手の鍔から柄の辺りを右掌で掴んで【玉匣】で異常性を消します。
|確《しか》と、引き受けました。強く頷いた峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)。
示された道は成る程、よく管理されているようで、家々の生け垣や花壇、プランター等に様々な花が植わっている。
まだ熱烈な恋をした事がない。しかし、この沸き起こる感情は何だろうか。誰かのことを思う心地というものは理解できるが、これが恋煩いをしている人々の心持ちなのだろうか?
さて、待っていれば相応。彼女はふらふらとした足取りで道へと現れた。同じところを周回しているのだろうか、地面についた血液からも察せることだ。
近づいてくる彼女へと、千早が声をかける。
「こんにちは、お嬢さん。誰かに会いたい気分というのは、悪くないですね」
自分も強く影響を受けた一人である、と、そう示すかのような微笑みと態度を取る。彼女もまた「ええ」と頷いて、そして咲く花々へと視線を向けた。
「会いたい。会いたいのですが、斬ってしまいました」
困った様子で自分の頬に手を添える。角隠し、目元の見えぬ表情……それでも憂いを帯びていることは確かか。やや引きずったような口紅に返り血の赤。
「しかし、己を見失うほどに情に溺れるのは恐ろしい事ですよ」
ええ、と小さく呟き、微笑む女。蠱惑的な笑顔だ、だが、惑わされてはならない。古妖の影響下にある人物だ。どのような対応を取ってきてもおかしくはないのだから。
「細い腕に日本刀は少々重たくはないですか? 貴女には花の方が似合います」
そう、それは、百合の花のような。手を差し出す千早。だが、それを。
「ああ、うれしい。私を、花と例えてくれるのですね」
深まった笑み、そして――振り上げられる刀! すうと笑みを消し、まったくの素人であろうその太刀筋を見切り、手に触れるようにしてその刀の鍔を掴み取る。同時に発動するは玉匣。√能力を消し去るそれだが……。
「ああ、お手が、触れてしまいました」
笑む彼女の様子は変わらない。√能力では、ない? いや。彼女が受けた能力は既に引いたのか。
と、なればこの女性――既に、侵食されきった後か!
『――おおっと察してもらっちゃ困るぜ旦那!』
響く爆音、どこからか。あちらこちらから。それは民家のラジオから――!
『かわいこちゃん戻っといで、旦那がアンタを探してるぜ……』
ふう、と、吹きすさぶ風に乗る煙。眼の前で忽然と消えた女性。なるほど一筋縄では、いかないようだ。
🔵🔵🔵 大成功

斬らさへんで、これ以上は
(……あんまり手荒に制圧して怪我さすのもアレやし、加減せなならんのメンドくさいなぁ
まあ、どのみち今は抜刀出来へん
俺が斬るべきは、このお姉ちゃん|とちゃう《じゃない》)
納刀状態の五尺刀を棒術の要領で構えはするけど、俺からは仕掛けへん
焦れて突っ込んでくるのを待つで
相手の刀の握り方、体の動かし方、目線の配り方見たら、攻撃の|起こり《始点》が見えてくる
起こりが見えたら、俺は体を|二寸五分《約10cm》|外《かわ》すだけで避けれる
鞘の先端で腕か刀身を巻き取るように振り回して、刀を手放させるのを狙う
武装解除だけでは正気づかへん場合は、相手の体力が尽きるまでやり|合《お》うたる
「(あんまり手荒に制圧して怪我さすのもアレやし。加減せなならんのメンドくさいなぁ)」
そのような形で確保をしても、良い結果は得られない。彼女のためにも、己のためにもならないのだ。切るべきものがこの先にいるのだから、抜刀は不要である。
「斬らさへんで、これ以上は」
それは花嫁への言葉であり、そして、彼女に「斬る」意思を与えたものへの言葉でもあった。
辻にて相対した花嫁、ふらり。擦り切れた足裏を少し引きずって、角隠しの奥から黒江・竜巳(〝根室法師〟・h04922)を見る。
立ちはだかる竜巳を見て、はて、と首を傾げる花嫁。そしてああ、と何かを察したが如く笑みをこぼす。
「あなたも、わたしに、お声をかけて頂けるのですね」
それはとても、嬉しそうに――笑むものだから。何かがおかしい、否、古妖の息のかかった相手だ。何をしてくるかなど相応。竜巳は納刀したままの五尺刀、棒術のように構えたまま、呼吸を整え――彼女が動くのを待つ。
ひたひた歩いて、そして案の定、振り上げてくる日本刀――!
右足から入り、刀の重さを使って袈裟に斬ろうとしている。完全なる素人だ。刃に対して体をす、と半歩にも満たない動きで避け、五尺刀で往なし、そのまま刀を取り落とすように刀身を引っ掛けた。
だというのにその手、どうにも握る力が、加減が良い。まるで手だけが、握る力だけが達人のそれ――刀を握ったまま、敵わぬ相手かと察したか彼女は下がっていく。
「……お姉ちゃん。人斬るの、慣れてへんやろ」
「何人斬れば、慣れているということに、なりますか?」
首を傾げてみせる彼女。笑むその表情には、恍惚とした色と、口紅の赤、そして……返り血が滲む。
「(これで正気づかへんとは……)」
相当、相当だ――長期戦になろうと、有利であるのはこちらだ。相手は『刀を落とさない』だけの素人なのだ。
だが構える竜巳に対し、彼女は予想以上に落ち着いて――勝手に、彼に語りかけはじめる。
「花の水切りを、ご存知ですか? 摘んできた花を、水の中に浸けて……斬るのです、茎を」
知っていようが知るまいが。首を振ることが最善だ。
彼女は片手の指をはさみのように立てて、自らの首に当て。ちょきん。
「わたしは――ひとを、そうしました。あと『何本』斬れば、わたしは人斬りになれますか?」
そう言って、笑うのだ。
『――おいおい! 兄ちゃん、やるねェ……人斬りの極意、あとちょ~っとで知るとこだったぜ!?』
喧しい笑い声が聞こえる。眉をひそめ、耳を軽く塞いだところで――眼前から。
「なっ……」
花嫁の姿が、忽然と消えた。……古妖の干渉だ。まったく、厄介にもほどがある……。
🔵🔵🔵 大成功

愛も恋も…強いのはいいことだけど、歪められたら大変だねい。
話としては、余波程度が一番微笑ましいものだけどねい。
加害者…というか被害者の女性を見つけたら接触して揺さぶりをかけるねい。
使うのは御伽語り・蜃気の楼。実際の大きさはともあれ、見かけ上は延々と続く、建物の間の四つ辻の幻影を具現化して女性が他の犠牲者を見つけられないようにするねい。
その上で建物の影から話しかけるよう。
なんで知らない人や妖怪たちに斬りつけたのかねい。結婚相手の方とはどういった言い争いをしたのかねい。本当に言い争っていたのかねい?
思い出してみてごらん。ラジオを聞いたらそう思ってしまったんじゃないかい?
アドリブ・共闘歓迎だよう。
かくして、辻は閉じられた。
延々と続く十字路を彷徨い歩く彼女、けれどそのループにすら気付いていない。くるくる、ぐるぐる。ふらつきながらゆっくり歩く姿は、まるで幽霊のようだった。
彼女は、夜白・青(語り騙りの社神・h01020)の『御伽語り』で閉ざされた道を行く。
「愛も恋も……強いのはいいことだけど、歪められたら大変だねい」
微笑ましい余波、恋しさを覚えるだけならばよかったのだが。今回の彼女はどうやら、それだけではない。
道の異常性に彼女が気付くのは、かなり遅れてのことだった。見慣れた景色を楽しんで歩いていたはずだというのに、それがずうっと続くから。ようやく立ち止まった彼女に、青は姿を隠して、建物の影から話しかける。
「なんで知らない人や妖怪たちに斬りつけたのかねい」
ここが、まぼろしの世界であるとわかっているのだろう。女性はふふ、と、甘い笑い声をこぼし……青へと返答する。
「それで「わかる」と思ったの。わたしを好いて下さるのなら、逃げはしないって……」
歪んだ愛情。その末だ。そこまですれば当然逃げもする。男性がどうなったかは、彼女の口からは語られなかった。
「結婚相手の方とはどういった言い争いをしたのかねい。本当に言い争っていたのかねい?」
「ええ、話し合いです。一緒に、ラジオを聞いて、楽しんでいただけですよ……綺麗な私、百合のような私。それを手折って自分のものにするのだから、覚悟を決めていると、彼は……」
甘い声はすらすら語る。あまりに穏やかで、狂気に浸っているとは到底思えないような声色であった。
それは恋する乙女のような。花咲く笑顔で語る彼女は、狂ってなどいないふうに、装って――。
「花を、手折る……ねい」
青は扇子で口元を隠し、眉間に皺を寄せる。
「ラジオを聞いたから、そう思ってしまったんじゃないかい?」
思い出してみるがいい。自分の耳に残っている、それを。流れていた内容を覚えているか。
不思議そうに唇を開けて、閉じて。何かを考えるように繰り返し。自分の手指を眺める彼女。
その内容、もしや。
『Heyちょっと待ちな旦那! 長話はもう結構! コマーシャルのお時間だ!』
辻に響く男声。――古妖の声だ。周囲の気配を探るが、どうやら各家のラジオから……。
『残念ながらお約束! 桜の季節にゃクソ遅いが、攫って行かせてもらうぜ! ――ったく、斬れる相手を探すのは面倒だってのに!』
煙に巻くとはこのことか。風に乗り現れた煙が女性と青の間を遮り、晴れたときには既に居ない。
徹底的に、最後まで、彼女を利用するつもりなのか。古妖の声が消えた方向を、青は強く睨みつける。
🔵🔵🔵 大成功

ぱんぱかぱーん!パンドラが来ましたよ!
危ないですよ、ほらそれしまっちゃいましょう?
あわわ、振り回さないでください(見切り)
でも、あなたが悲しみに沈んでいるのも
元はといえば世界に災厄を振りまいた私のせいかも…
責任を取ってあなたを元に戻します
モルペウスの衣を使い、無数の私の幻影と残像を投影して花嫁さんの注意を引き
√能力を発動
輝く光を浴びたものは自由意志を失います
気絶攻撃との複合で一時的に意思を奪って保護しましょう
私のヘスペリデスの黄金林檎は状態異常を治癒します
これを食べさせれば元に戻るでしょう
はあ、なんだか早く帰ってお姉さまに甘えたくなっちゃいました
これも「余波」でしょうか……
ぱんぱかぱーん!
自身の口によるファンファーレ!
「パンドラが来ましたよ!」
道を歩く女性へとアピールするように手を上げてアピールするはパンドラ・パンデモニウム(希望という名の災厄、災厄という名の希望・h00179)。それを見た白無垢の女性、どうしてか嬉しそうに駆け寄ってくる。
「あわわ! ちょっと、待って、早いですね! 振り回さないでください! 危ないですよ、ほらそれしまっちゃいましょう?」
予想通りではあるが予想以上に速かった。突如切りかかってくる彼女。√能力者と比べれば不慣れと断言できる太刀筋は見切るのも容易い。|モルペウスの衣《世界の歪み》にて作り出した幻影を切り、空振る刃。
獲物を逃した。くるり視線を回す彼女を、パンドラは少々困ったように見つめる。
「あなたが|悲しみ《・・・》に沈んでいるのも、元はといえば、世界に災厄を振りまいた私のせいかも……」
パンドラ。その箱の中、底に残った希望。災厄としてその名を冠する彼女。彼女にとって――この世の悲劇、それは自分こそが切っ掛けだったのだ。世に蔓延る不幸と悲しみ、そのすべてが己のもとにあったのだと。
眉根を寄せるパンドラへと、女性もまた困った様子で動きを止めた。
「責任を取って、あなたを元に戻します」
――封印災厄解放。「|天に舞い散れ魂の欠片《ウイング・オブ・ストレイ・プシュケー》」。本来ならば深く説得するべきだろう、だがそれでは、埒が明かないような『魂』の崩れ方をしているから。
自由意志を奪ってしまえば。それでも、思考することだけは与えておけば、彼女の話はきちんと聞ける。
「悲しい? ……悲しいのでしょうか、わたしは」
刀を手にしたまま立ち尽くす花嫁。そのままふらり、崩れそうになったところをパンドラがその体で受け止めた。
ぽすりと彼女の胸へと頭を預けて。呆けたように目を細める花嫁。
「ええ、きっと、悲しいのです。ほら……林檎はいかが?」
きんいろ。きれい。食べてもいいのかしら。ひとかじり……。
「……おいしい」
小さく呟く彼女。さらわれぬようにと抱きしめ、刀を握るその手を優しく、優しく撫でてやる。まだ、刀を取り落とすことはないが――元凶は間違いなく、この刀――。
「なんだか早く帰って、お姉さまに甘えたくなっちゃいました」
これも「余波」でしょうか……。己のAnkerたる「お姉さま」へと思いを馳せ。とはいえ監視役のお姉さま、当然ここにはいないわけで……。さながら祈るように天を見上げる彼女。
……どうだろうか。『レディオデーモン』?
『はぁ~俺さまたちがご存知かって? 誰がどう影響されるかなんざ、知ったこっちゃねぇ~よッ!』
ひとつのラジオから、ぼやくような声……。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『彼、彼女は何故封印を解いてしまったのか』

POW
其のスタミナを活かし根気強く調査し続ける。
SPD
其の素早さを活かし走り回って調査する。
WIZ
調査は頭脳。其の頭脳を活かした堅実な調査を。
√妖怪百鬼夜行 普通7
「――フリークエンシー様の、|退廃的消費時代《マスプロ&デカダンス》――!!」
――唐突に。ラジオ番組のタイトルコールのごとき『音』が割り込んだ。
『どうも皆様愉快な新番組の始まりだ! Hey! √能力者! 俺さまの周波数にカブッてくるなんざ随分と出過ぎた真似をしやがるじゃねぇかよエェ?!』
家屋のあちらこちら、おそらく各家にあるラジオから。大声量で文句を垂れ流す男の声――。
『ったく、せっかく娑婆に出られたかと思えばこの有り様だぜ、世の中正義の味方どもは変わっちゃいねえ……』
グチグチ文句を垂れる古妖の男、こいつはひとまず置いておこう。
この辻に、足りないものは何か。百合の花だ。百合たる彼女、ここに居なければならない。そうさだめたのは古妖である。
彼女に必要だったのは何であるか。ひとや妖怪を斬った現実を認めさせることだ。
そしてその上で、あの刀を手放すように仕向けること――。
ひとまず彼女は確保できた。残るは、刀の処分。
彼女はなぜ、封印を解いた。なぜ、封印は解けた? この刀はどこから来たのだ。
百合の花は、何で手折られ、何で水切りをされたのか。
『会いたいのですが、斬ってしまいました』
『わたしは――ひとを、そうしました。あと『何本』斬れば、わたしは人斬りになれますか?』
『手折って自分のものにするのだから、覚悟を決めていると、彼は……』
彼女は自らの意思で斬ったのだ。懐刀ではなく真剣を、日本刀を手に。
最初に人を斬ったのは。
彼女ではなく、彼女の配偶者となるはずの男であった。
不慣れな彼女が、そう何人も斬れるわけがない……彼女は男の罪を背負うために男を斬り、そして、手折られた花として|そこ《辻》に供えられていたのだ。
『それでは次のニュースです』
声色が変わる、別人か。ノイズ混じりの男声――続く言葉は、別の声に上塗りされる。
『おいおい邪魔すんなよアンプリチュード、楽しい余興が潰されてんだぞ! 読み上げてる場合かッ!』
『読み上げている場合では?』
漫才じみたやりとりであるが、古妖のやりとり。その心根には違いなく、悪意という血液が流れている。
『H市、N区にて発生した殺傷事件の続報です。犯人の女は、辻から神社へと向かう模様』
『腹立つからよォ、来いよテメェら』
行かねばならない、あの神社に。
この刀をおさめなければ。近付くほどに強くなる、破滅的な誘惑――。
どれほど『情念』を、狂わされようとも。愛情愛憎、抱いても。
行かねばならない。