半額に狂う悪いお爺さんのランページ
●牛山福蔵のサイクル
「なんで年金は、2か月に1回しかもらえんのじゃ」
年金支給日まであと1か月――。
保険屋から毎年もらっている簡素なカレンダーを眺めながら愚痴をこぼす老人。
奇数月になるたび、同じことをブツブツ言う。隔月の恒例行事だ。
|牛山福蔵《うしやまふくぞう》、齢80。
座右の銘は『金は墓場まで持っていけない』
だから年金が入ればすぐに使い果たす。使い切ってしまえば、また次の支給日が恋しくなる。
この繰り返し。奇数月は嫌で嫌で仕方がない。
「……そろそろ、行くかの」
壁に掛かっている時計を確認した福蔵は、外に出てアパートの階段を下り駐輪場へと向かう。カンカンという金属の音が響く。
錆びついたチェーンがギシギシ鳴るボロボロのママチャリを前に押し出し、ガコンとスタンドを外す。よっこらしょっと、サドルに跨った。
「ん?」
その時、不意に目に入ったのは前カゴに突っ込まれた2枚のカード。
それぞれ異なる絵が描かれていた。
1つが牛。もう1つは……七福神の大黒天だろうか。
「なんじゃこりゃあ……? ま、こういうの、|小学生《ガキ》どもが好きそうじゃろ。あとで売りつけちゃるわい」
イシシ、と福蔵は口角を釣り上げ、カードをグイッとズボンのポケットに突っ込んだ。
「今日も晴れマルシェにレッツゴーじゃあ!」
晴れマルシェは福蔵の家から一番近いスーパーマーケットだ。
規模こそ大きくはないが、だからこそ配置は把握済み。新米の店員よりも詳しいと本人は思っている。
もちろん商品値引きの時間も、だ。
福蔵は鼻歌交じりにペダルを踏み込んだ。錆びついたチェーンがキィっと甲高い音を立てる。
「半額弁当は何よりも美味いからのう。わはは」
●晴れマルシェパート従業員・|渡辺《わたなべ》|久美子《くみこ》
「……来たわよ、悪爺」
冬田さんが、まるで戦場の偵察報告みたいに小声で私に告げる。
「はあ。また今日も早いですねえ」
苦笑いで返しつつ、私はため息をひとつ。
|悪爺《わるじい》。
私たちが勝手につけた、あの老人のあだ名だ。
悪爺はいわゆる半額ハンター。
まだ値引きシールなんか貼られる時間じゃないのに店内をグルグルと巡回。
値引き対象の商品を片っ端からカゴに入れてはシールを貼られるまで何時間もキープ。
それに、2割引の商品はもう少し待てば半額シールが貼られる。それまでに他の客に取られては困るとばかりに、わざと棚の奥に押し込むのだ。
極めつけは、弁当コーナーの前で仁王立ちして他の客が手を伸ばしただけで怒鳴り散らす。
客足も減るし、災害・公害のレベルだ。
しかも涼しい顔してる。「盗ってるわけじゃないじゃろ!」って。
でもでも!
毎年やってる川崎ブレッドの“初夏のブレッド祭り”のシールまで、こっそり剥がして持ち帰るのよ。
もう完全にアウトでしょ!
本人はぜーんぜん悪いことしてる自覚ないみたいだけど。
注意しても警察を呼んでも何度でもやって来る。しつこいの。はぁ。
ヒーローさん、悪爺を成敗してくれませんかねぇ……。
●星詠みからの依頼
「シデレウスカードの事件、知っているだろ?」
集まった√能力者たちにそう切り出したのは、星詠みの|天霧《あまぎり》・|碧流《あおる》(忘却の狂奏者・h00550)だ。
ゾディアックの力を操るゾーク12神の一柱『ドロッサス・タウラス』が市井にばら撒いたという『シデレウスカード』――。
カード単体では何の効果ももたらさないが、√能力を持たない人間が『12星座』と『英雄』が描かれた2枚のカードを手にした時、星座と英雄の特徴を併せ持つ怪人『シデレウス』と化すという事件の事だ。
「今回視えた星だと、|雄牛座《タウラス》と……えーと……ナントカ天? のカードを爺さんが手に入れたっぽいな」
…………。
知識がない碧流の話から“大きな袋”・“小槌”という特徴が挙げられ、√能力者たちは、もう1枚のカードに描かれているのが『大黒天』であると確信した。
七福神の1人で、五穀豊穣・商売繁盛・開運などのご利益があるとされているありがた~い神様であることを丁寧に教えてあげる。
「へぇ。そんなありがたいカミサマのカードが、よりにもよってケチな爺さんの手に渡るなんてなぁ」
そして彼は、事件の概要について説明する。
「ドロッサス・タウラスが、誰か簒奪者を雇ってるらしいんだが、どんなヤツかは俺にも視えねぇ。だから、そいつを引きずり出すには――」
悪爺(本名:牛山福蔵)がスーパー『晴れマルシェ』で行っている、商品のキープや他の客への威嚇、シール剥がしといった迷惑行為を妨害する。
その際、店員や警備員に扮してもいいし、客として店に出向いてもいいだろう。
自身の行為を妨害されたことによりブチギレて『タウラスダイコクテン・シデレウス』へと変身する悪爺を倒す。
そうすることでドロッサス・タウラスが雇った簒奪者が姿を現すのでこれを倒す――という流れだ。
「悪爺が変身する前にカードだけ奪っちまうと、その簒奪者まで引きずり出せねぇからな。まあ店は戦闘で、ある程度の被害を受けるだろうが……爺さんを1回ボッコボコにしちまえば、もうみみっちいこともしなくなるだろ。お互いwin-winってやつだ」
あ、別にそのまま爺さんの息の根を止めてくれてもいいぜ、ハハハ!――と彼は嗤い、そのまま“後は任せた”とばかりに背を向けた。
マスターより

●マスターより
こんにちは。|御和真《みわま》 るぅです。
今回はシデレウスカード事件のお話。コメディ・ギャグシナリオです。
第1章:🏠舞台は√マスクド・ヒーロー日本の某所にあるスーパー『晴れマルシェ』
半額ハンター・|悪爺《わるじい》の迷惑行為(もうほぼほぼ犯罪ですが。)を妨害してください。
スキマバイトアプリも多く活用される昨今、店員や警備員に扮する事は容易でしょう。もちろんお客様として来店し、悪爺を妨害してくれてもかまいません。
なお、とても不思議な話なのですが――予知の内容が変わってしまうので、悪爺を気絶させたり、カードを予め奪ったり、警察に連れて行く等の行為は出来ません。
何卒よろしくお願いします。
第2章:分類は⛺ですが、シデレウスカードによって『タウラスダイコクテン・シデレウス』へと変身した悪爺との戦闘パートです。
もう二度と悪どい事が出来ないようギッタギタのメッタメタにしてやってください!
使用技等の詳細は2章断章にてお伝えします。
第3章:👿タウラスダイコクテン・シデレウスを倒すと出現する、ドロッサス・タウラスが雇った簒奪者との戦闘パートです。
それでは、スーパー・晴れマルシェの平和のために皆さま宜しくお願いします!
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第1章 日常 『怪人組織の年中行事』

POW
このトンチキイベントは、怪人の罠…?
SPD
悪逆無道の集団が、こんな馬鹿げた作戦を?
WIZ
いや、騙されるな。これは敵の卑劣な策だ。
√マスクド・ヒーロー 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

※温厚な優しい性格ですが、今回は容赦がありません。
ここまで悪質な人は見たことがありませんわ。慈悲は要りませんわね。
√能力で呼んだメイド達と共にパートさんに扮して警戒します。(3人1チーム、内1チームはキャラが入るので4人、キャラが入るチームには一番怖いメイド長)悪爺が迷惑行為をし始めたら、3人がかりで制圧(軍隊式格闘術を使用、怪我はさせない)します。
弁当コーナーでは、メイド長とキャラが制圧にかかります。まだ買って無い商品はお店の物。あなたの物ではありませんわ!棚の奥に押し込んだ物もね。元近衛騎士だったこともあって、メイド長は一番怒らせてはいけない人ですわ...。後悔するのね。おほほほ。
●ローゼス家の誇りを見せましょう
「スキマバイトアプリ『|Suimy《スイミー》』より参りました、ルビナ・ローゼス(黒薔薇の吸血姫・h06457)と申します。皆さま、本日は宜しくお願い致しますね」
『宜しくお願い致します!』
優雅に頭を下げる銀髪の少女。その背後で12人の女性が一糸乱れぬ礼を取る。その光景にパート従業員たちは思わず息をのんだ。
「――では、Aチームは鮮魚、Bチームは日配、Cチームは農産コーナーをお願いします」
“今日13人って多いね”“あの子、お人形さんみたい~!” などと、従業員たちのヒソヒソ声が飛び交う中、ルビナは淡々と12人のチーム分けと配置を進める。
彼女は、高位貴族ローゼス家の令嬢。
とある理由で国と力を失ってしまったが、その身に宿る気品と威厳、そして正義感は今もなお失われていない。
だからこそ――『|ローゼス家精鋭メイド部隊《メイドソルジャーズ》』の12人は変わらず|彼女《ルビナ》に仕えているのだ。
「そして、|私《わたくし》たちDチームは惣菜コーナーを担当致します。――メイド長、慈悲は不要です。あのご老体が悪質な行為をなさったなら……」
その先の言葉は要らない。
長身のメイド長は無言のまま静かに一礼した。
●それぞれの“お客様”へ
今日の晴れマルシェはいつも以上に活気に溢れていた。
「お客様、鯛をお求めですか? お刺身用? それともお煮つけになさいますか? お料理に合わせて捌いて参りますので、ご遠慮なくお申し付けください」
「お母様への手作りケーキ用のフルーツですか? それでしたら、こちらのカットフルーツ盛り合わせなどいかがでしょう。今が旬の甘いメロンも入っておりますのよ」
――件の悪爺への警戒だけでなく、スーパーで働くからには、お客様1人1人への気遣いも忘れない。
それが、誇り高きローゼス家のメイドたちなのである!
「おひょひょ! 今日はエビチリチャーハン弁当が残っておる!」
一方その頃、悪爺は惣菜コーナーを物色していた。
晴れマルシェでも人気のエビチリチャーハン弁当に手を伸ばしかけたその瞬間、横からさっと若者の手が割り込んだ。
「こりゃあ!! これはワシの弁当じゃ!」
「ひっ!」
いきなり怒鳴られた青年は、弁当を棚に戻し慌ててその場を去っていく。
「ったく、最近の若者は!」
ブツブツと文句を言いながら、悪爺は弁当をカゴに放り込む。半額シールが貼られるまでの時間つぶしにパンコーナーへでも――
そう踵を返した、その時。
「お客様」
いつの間にかそこには晴れマルシェの青いエプロンを身に着けた銀髪の少女――ルビナが立っていた。
「他のお客様への迷惑行為は困ります。それに先ほども、2割引のプッチンゼリーを棚の奥に押し込んでいましたわね」
ルビナは落ち着いて丁寧に、そして凛とした態度で、悪爺の迷惑な行為を静かに注意する。
「な、なんじゃ!? ワシはただ、あの若造が買うのをやめた弁当を取っただけじゃ!」
悪爺は声を荒げ、ぶつかるようにルビナの傍を通り過ぎようとしたその瞬間――
「失礼します、お客様」
両脇から現れた2人の従業員――否、メイドたちが、悪爺の腕を左右それぞれ掴む。
「なんじゃなんじゃ!?」
バランスを崩し、悪爺は手にしていた買い物カゴを手放した。
カゴが床に落ちる――その寸前。
スッと長身の女性が間に入り、片手でそれを受け止めた。
メイド長だ。
「まだ買う気が無い商品は取らないでください。あなたの物ではありません」
その静かな口調だけで、いつもなら店員に怒鳴り散らす彼の口は、なぜか動かなかった。
いや、口調だけではない。あの動き――床に落ちる寸前のカゴを、何事もないように受け止めたあの所作が、年の功を重ねた悪爺の本能に何かを訴えかけている気がした。
この店員になにか反論をすれば、とんでもないことが起きる――そんな気が。
「お客様、先ほどは申し訳ありませんでした」
メイド長たちが悪爺を取り押さえている間に、ルビナはパタパタと店内を早歩きしていた。そして先ほど怒鳴られていた青年を見つけ、45度の角度で丁重に礼をする。
「こちら、新しくお作りしたエビチリチャーハン弁当です」
手渡された弁当は出来立てホカホカ。チリソースの甘酸っぱい香りがふわりと漂う。
「えっ、えっ? いいんですか……? え、これ、わざわざ?」
予想外の対応に青年はぽかんとする。
「お買い上げありがとうございます。またお越しくださいませ」
エプロンの裾を摘み上げ優雅に一礼するルビナに、青年は「はいっ! また来ます!」と鼻の下を伸ばしながら元気に返事をするのであった。
🔵🔵🔵 大成功

やなお爺さんだなあ…
おやつを買いにきたお客のふりして潜入して子供っぽく注意するよ
SPDがいいかな
あー、あのじいちゃんまだ半額シールの時間じゃないのにお弁当キープしてるし、他のお客さん威嚇してる!いっけないんだー!
パンのシールも買ってないのにはがして持ってっちゃダメなんだよー!悪いなー!
さっき二割引の商品を棚の奥に押し込んでるのも見たよ!賞味期限の近いものから前にしなきゃ!
ほんっとに悪いお爺さんだなー!
買ってないものはまだお店のものだよ!
じいちゃん、いくらケチケチだからってやっていいことと悪いことがあるんだよ!他のお客さんにも迷惑かけちゃいけないよ!
アドリブ絡み歓迎

アドリブ、連携ご自由に
客として入店、カートの中は酒、石鹸等の消耗品と漬物にする野菜で満載
悪爺との遭遇はパンコーナー
ブレッド祭りのシールを剝がそうとしているところに一喝
これっ! 何をみみっちい真似してんだいこの子悪党未満の子倅がっ!
良い歳して今時子供でもしないようなちんけな悪戯してんじゃないよ!
そこに正座しな!
等の時代感のある説教をする
真理の外見で侮られようものなら
はぁ? わしはお前さんなんぞよりも年上だよ!
見た目? 若くて当たり前だよ! わしはお天道様に恥じるような生き方は何一つしてないからね! 至極真っ当に生きればこの通りだよ!
正に言論の剄打・百錬連環套路
注・真理が大声を張ることは稀です
●見た目は子供、中身はヒーロー!
(さっき店員さんたちに注意されていたのに、またお弁当をキープしてる……本当にやなお爺さんだなあ……)
少年は、あまりにも大人げない悪爺の姿を見て呆れ果て大きな青い瞳を曇らせた。
悪爺は、怒鳴るとまたあの従業員たちが来てしまうと警戒しているのか、今度は睨むように、普通に弁当を購入しようとしている客を威嚇しながら、自分の買い物カゴに弁当を放り込んでいたのだ。
少年はビシッと悪爺に指を差し、他の客や従業員たちにも聞こえるように、わざと大きな声を張り上げた。
「あー、あのじいちゃん、他のお客さんを威嚇してお弁当奪ってるー! いっけないんだー!」
|若命《わかもり》・モユル(改造人間のジェム・アクセプター・h02683)は、正義感にあふれる√能力者だ。
星詠みからの依頼を受け、“おやつを買いに来た無邪気な少年”を装い、悪爺の迷惑行為を阻止しに来たのである。
そう――今この手にしっかり握られている“ドッキリマンチョコ”だって、あくまで“幼い客”を装うための演出アイテムにすぎない。
決して、美味しいウエハースチョコとレアシール“レッグコロロ”目当てではない。断じて。
「な、なんじゃ! このガキは! ……げぇーっ!!」
その声を聞き、作業場から出てきた先ほどの長身の従業員の姿が見えた途端――悪爺は走るように総菜コーナーから逃げ出していった。
●|剄打・百錬連環套路《エアガイツ・コンビネーション》は拳に限らず、言葉もまた連撃となる
ひらひらと揺れるピンクのスカートに、ふわりと波打つ灰色の髪。
森ガールコーデの彼女――|六合《りくごう》・|真理《まり》(ゆるふわ系森ガール仙人・h02163)は、晴れマルシェでの買い物を楽しんでいた。
カートに乗せられた買い物カゴの中は、晩酌用の酒瓶に石鹸やラップといった日用品、そしてきゅうり、にんじん、大根といった野菜たちでいっぱいだ。この野菜たちは、真理の手によって美味しい漬物になるのだ。
「ああ、漬けたピクルスに合うサンドイッチも作ろうかねぇ」
カゴをもう1つ持ってきた方がいいかねぇ? 溢れそうなカゴを見ながら、サンドイッチ用のパンを選びに真理はパンコーナーへと向かった。
「じいちゃん、ダメだよ!! ブレッド祭りのシールを剥がすのは立派な『はんざい』だよ!!」
甲高い少年の声が、パン棚の向こうから飛び込んできた。
「ああ!? なんじゃ! またお前か! うるさい! シールなんて皆が皆集めてるわけじゃないじゃろ! ちょっとぐらいシールが無くても問題ないんじゃい!!」
“カワサキ初夏のブレッド祭り”は、パンメーカー・川崎ブレッドが毎年この時期に開催しているキャンペーンだ。対象商品に貼付された点数シールを規定点数だけ集めると、“おしゃれな黒い|笊《ザル》”が貰えるという人気のイベントである。
「――これっ! 何をみみっちい真似してんだい! この子悪党未満の|子倅《こせがれ》がっ!!」
少年が老人を注意している――あまりにも情けないその姿に、真理は一喝した。
――普段、温厚で穏やかな彼女が声を荒げることは稀である。真理を知っている者がこの光景を見たなら、きっと驚くに違いない――
その鋭い声に悪爺の肩はビクッと跳ねる。
「おねーさーん! このじいちゃん、さっきも2割引の“|日々出す《ヒビダス》ヨーグルト”を棚の奥に押し込んでたんだよー! 半額シールを貼られる前に他のお客さんに取られないように! いーけないんだ、いけないんだ!!」
少年――モユルは、真理に加勢するように悪爺の所業を暴露する。
「ま……! アンタ! そこに正座しな!!」
真理は床を指さし、悪爺に正座を促すが、もちろん悪爺は知らんぷりである。
「じいちゃん、いくらケチケチだからって、やっていいことと悪いことがあるんだよ! これは節約なんかじゃないよ! 他のお客さんに迷惑かけちゃいけないんだよ!」
「こんなに小さな子も分かっているんだ、アンタは良い歳してなにちんけなことをやっているんだい! アンタ、人生の中で一体何を学んできたんだ!」
少年と若い女性、2人に説教を受ける老人という構図。
周囲からも「まーたあの爺さんだよ」「あんな可愛い子たちにも怒られて……」という客たちの小声が聞こえてくる。
「うるさいぞ! この小童どもめ!!」
そんな状況にいたたまれなくなると、すぐに怒鳴るのが悪爺の癖だ。大体これで相手は黙るのだが――
「はぁ? わしはお前さんなんぞよりも年上だよ!」
目の前の森ガールに斜め上の返しを食らわされる。
まさかこの小柄な森ガールが自分より遥か長く生きている“仙人”などと――そう言われたところで悪爺が信じるはずもない。
「な、なーにとぼけたことを言っておるんじゃ! いいか! 人生経験ってのはな、身体に刻み込まれるものなんじゃ! このワシのシワと! 長寿を全うしていなくなった髪の毛がその年月を物語っとる! う、うぅ……共に歩んだワシの戦友たちよ……」
ツルッとした頭頂部を撫で、失った髪の毛にひとり勝手に想いを馳せる悪爺に、真理はすかさず“言葉”という名の拳打をもうひとつ叩きこむ。
「わしはお天道様に恥じるような生き方は何一つしてないからね! 至極真っ当に生きればこの通りだよ!」
「そっかぁ! おねーさんは心がキレイだからお肌もキレイなんだね!」
くしゅっと目を細め、モユルはにこりと笑う。
「……じいちゃんの髪は、じいちゃんについていけなくなったから去っていったんだね」
無邪気に放たれたその一言に、周囲の客から「プッ!」という笑い声が漏れる。
「く……くぅぅぅ!!」
悪爺は茹でだこのように顔を真っ赤にし、剥がしたシールを床に投げ捨ててパンコーナーから走り去っていった。
「おねーさん、かっこいい! オイラも『お天道様に恥じるような生き方はしていない』って言える大人になるんだ……!」
もともと正義の心をしっかりと持っているモユルではあるが改めて誓うのだった。
己の心と、左腕に輝く腕時計型の装置に――
「そう思えたんなら、きっと大丈夫だよぉ。お天道様はね、ちゃんと坊ちゃんを見てくれてるからねぇ」
真理は、太陽のような髪と青空の瞳を持つ少年に、いつもの穏やかな口調で微笑んだ。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

私はお客さんとして悪爺を妨害する!
とりま悪爺がキープしてそうな商品を片っ端から自分のカゴに入れてこっかな。
で、悪爺が怒鳴ってきたり絡んできたら、こう、グイッとね。胸倉をね?締めあげてやる的な?「なにか文句でも?」っと。怪人化もしてない一般人なら私の怪力にビビり散らかすでしょ。多分。
本当ならいきなり怒鳴られたりしたら反射的にグーパンチが出ちゃいそうだけど、ここはグッと堪える。だって巷で噂のシデレウスカードとやらを興味本位で見に来たのに、怪人化する前に殴ったら台無しだ。星詠みにも注意されたし、そこは我慢……っ。
でもコレって見ようによっては私の方が悪者っぽいような??ま、いいか!
アドリブ・連携OK!
●美味しい匂いが私を呼んでいる!
「はぁ、はぁ……。な、なんじゃ今日は! いやーな店員に、いやーな客! まったく! 楽しい買い物が台無しじゃいっ!! 帰りに『お客様の声』に文句書いちゃるわい!!」
特大ブーメランを盛大にかましながらパンコーナーから一目散に逃げた悪爺。
「こうなったら片っ端から弁当をキープしちゃ……な、なにぃ!? 弁当がない……だと……!」
再び惣菜コーナーへ戻ってきた彼が目にしたのはスッカラカンの陳列棚。弁当どころか、コロッケやポテトサラダなどの惣菜たちも姿を消していた。
壁にかけられた時計を見る。まだ半額シールが貼られる時間ではない。では、定価で売れたとでもいうのか――?
「いやぁ~、大量大量! 初めて来るスーパーはやっぱり楽しいね!」
満足そうに大型カートを押して店内を巡るのは、サン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)。
長寿のエルフである彼女は、ぶらぶらと様々な√世界を旅するのが好きだ。
世界は時とともに少しずつ変わっていく。何度同じ場所を訪れようとも、そこには必ず新しい出会いがある。
本来は星詠みの依頼で今日ここにやって来たのだが、思いがけず出会った“晴れマルシェ”というスーパーマーケットの存在がそれをまた証明してくれた。
こんなに長く旅をしてきたのにまだ知らない世界がある。これだから旅はやめられない。
そんな陽気なエルフのカートに、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた食品たちを見て、ひとり発狂する者がいた。
「あ! あーー!! ワシの“ウルトラ海苔弁”がーー!! “プッチンゼリー”がーー! “|日々出す《ヒビダス》ヨーグルト”がーー!!」
指をブンブン振りながら、カートの上段と下段に積まれた2つの買い物カゴを交互に指差すのはもちろん悪爺である。
「さ、さてはお前も|半額ハンター《同業者》じゃな!? 一人占めしおって! けしか……ぐぇっ」
年老いてすっかり縮んだその体は、なぜか宙に浮いていた。
「|半額ハンター《同業者》? ケチな|爺さん《アンタ》と一緒にしないでくれる? これは私が買うんだよ。何か文句でも?」
悪爺の体が浮いているのは、サンが悪爺の胸倉を掴み、自身の視線の高さまで持ち上げていたからだ。
「ひ、ひぃぃ! ぼ、暴力反対じゃあ!! おい、店員たちは何をしとるんじゃ! はやく警察を――!」
サンは、震える悪爺のその言葉にハッとし、パッと手を開いた。
ドシンという音と、「いてぇ!」という小さな声が聞こえるなか、彼女の頭によぎったのは――
――コレって見ようによっては私の方が悪者っぽいような??
そんな風に思えて周囲を見回したが、青いエプロンをつけた従業員が明らかにガッツポーズをしていたのできっと大丈夫だろう。うん。
サンがこの依頼を受けた理由は、『巷で噂のシデレウスカードとやらを見てみたかった』という興味本位。
だが今、“|半額ハンター《同業者》”呼ばわりされて、反射的にグーパンチを叩き込みたくなるほど|腸《はらわた》が煮えくり返っていた。
しかしそこをグッと堪える。星詠みにも言われたとおり、ここで悪爺を気絶させてしまえば予知が狂ってしまう。
――思い切り殴るのは“その時”でいい。それまでに、このカートの精算を済ませておこう。
サンは、床に尻もちをついて未だポカンとしている悪爺を置き去りに、レジへとカートを押していった。
「――お買い上げありがとうございます! 全部で――」
「…………」
レジスターに表示された合計金額は笑えない額になっていた。カートに詰め込んだ食品たちがしっかりその数字を物語っている。ちょっと買いすぎた。
ま、いいか!
このあと、いつものキャンプ場の皆に振る舞えば喜んでくれるだろう。
世の中にはお金よりも大切なものがある。長寿の彼女はそれをよく知っている。
ちょっとした宴の予定ができたのだ。やっぱり今日は良い日だ。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』

POW
戦いを挑み、シデレウス化した人物を無力化させる
SPD
他の民間人が事件に巻き込まれないよう立ち回る
WIZ
シデレウス化した人物の説得を試みる
●晴れマルシェパート従業員・|渡辺《わたなべ》|久美子《くみこ》
|Suimy《スイミー》から来てくれた13人のアルバイトさん。
可愛らしい男の子。
ゆるふわ系のお姉さん。
そして、パワフルでたくましいお姉さんに胸倉を掴まれていた悪爺を見て、私は思わずガッツポーズをとっていた。
あんなにしおれた悪爺を見るのは初めてだ。なんて気分爽快なんだろう!! ありがとう! ああ、あなたたちがヒーローだったのか!
今日は発泡酒じゃなくて奮発して『ビシャモンテンビール』でも仕事帰りに買って帰ろう――なんて思っていたら、急に悪爺の周囲が光り出して……――
●半額に狂う悪爺のランページ
「な、なんじゃなんじゃ!?」
ペッカーン!!
なんて、漫画的表現がそのまま現実になったかのようにズボンのポケットから凄まじい光が漏れている。
ポケットと言えば、入っているのは……
自販機の返却口をわざわざ覗きこんで「ラッキー!」とくすねた、誰かが忘れた10円玉と……
今日、ここに来る前にママチャリに入っていたあの2枚のカード。
「こ、これは!? う、うごごご!?」
2枚の光輝くカードを手にした瞬間、悪爺の身体に衝撃が走る。
その身体はみるみるうちに異形のものへと変化していった――
背中は膨らみ、腕は丸太のように太くなり、脚はズシン!と床を鳴らすほどに重くなる。
身長は悪爺より20cmほど伸びた程度――せいぜい170cmといったところだろう。だが、胴体はずんぐりと肥えた姿。頭には黄金色の角が突き出し、瞳にはギラギラと“¥”マークが浮かぶ。それぞれの手には打ち出の小槌(小槌とは名ばかりで巨大なのだが。)と、パンパンに膨れた大袋。
「活力がーー!! 活力が! みなぎるわい!! ガッハッハー!! そう、ワシは! 『タウラスダイコクテン・シデレウス』なのじゃーーー!!」
高らかに名乗りを上げるその姿は、雄牛と大黒天が合体したような怪人だった。
さて、悪爺にシデレウスカードを使わせたのは、今回の事件の黒幕を引きずり出すため……――
そして、何よりも!
“もともと一般人”であった悪爺を堂々と殴れる口実ができたのである!!(だって怪人だもん。倒さなきゃ。うん。)
悪爺が二度と晴れマルシェ――いや、世間様にご迷惑をかけないよう、きつくお灸をすえてやろうではないか!
●マスターより
第2章は『タウラスダイコクテン・シデレウス』へと変身した悪爺との戦闘パートになります。通常戦闘と同様、皆さんが使用する能力値(POW・SPD・WIZ)に合わせてタウラスダイコクテン・シデレウスが使用する技が決定します。
◆タウラスダイコクテン・シデレウス使用技
POW:|金剛角《こんごうかく》・|星穿天地爆覇衝《せいせんてんちばくはしょう》・|極《きわみ》
【自身の黄金色の角から発する|金剛雄牛波《こんごうおうしは》】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【|金剛角穿突《こんごうかくせんとつ》】」が使用可能になる。
SPD:晴れマルシェはワシの庭じゃ!
【巨大な打ち出の小槌を振り回す事】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【周りの商品を食べてしまいたい衝動に駆られる空腹地獄】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
WIZ:|黒円力《ブラックエンパワー》
【パンパンに膨れた大袋】から【大量の半額シール】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【なぜか切り身に】なって死亡する。
◆一般人の避難誘導について
晴れマルシェ店長やパート従業員たちがお客さんたちを避難させますので、プレイング文字数は戦闘に存分に使っていただいて大丈夫です。
もちろん、「まずは人命優先で動く!」といったプレイングも大歓迎です!

※引き続き、容赦無しです。
...さて、疫病神には永遠にお引き取り願いましょう。
残像を生み出しながら翻弄しダッシュで接近、フェイントを混ぜながらハチェットと黒いナイフの二刀流で攻撃しますわ。わたしが敵の攻撃を惹き付けておけば、他の仲間が戦い易いでしょう。
敵の攻撃は、幻影と残像を組み合わせて回避しますわ。
戦闘後、√能力を使い、「悪爺が二度と晴れマルシェに入店出来なくする出来事」を起こします。(例えば、悪あがきで噛みついた客が、現場の視察に「偶然」来ていた晴れマルシェの社長さんだったとか)
これで、この店に迷惑をかける事は二度とないでしょう。後は、タウラスだけですわね。
アドリブ、連携、歓迎ですわ!

アレがシデレウスカードの力か。あんなカードだけで一般人が怪人になるんだ。イイね、面白い!あとは強さを確かめるだけ!
さっき買ったお弁当の大袋をそこらへんの店員に渡して、安全な場所への退避を促しとく。
ついでに「ここは私たちに任せて、戦えない人は退がってて!」と避難を呼びかけておこう。√マスクド・ヒーローに来たら、こういうヒーロームーブしたいと思ってたんだよね。
正面から、多少の被弾は承知で捨て身の一撃で殴っていく。傷だらけになろうが、もっと来いと煽るくらいの勢いで!やっぱ喧嘩はこうでなきゃ面白くない!
あとは√能力も使ってどんどんダメージを与えていく!最後まで全力でぶつかる!以上!
アドリブ・連携OK!

共闘、アドリブお任せします
清算を済ませた荷物を自前の三輪自転車に積み、騒ぎを耳にする。
従業員の避難誘導を確認しつつ、悠々と敵地へ。
転倒した客を立たせて逃がすくらいはする。彼等に罪科は無いのだから。
はいよ、お疲れさん。
ふとした事で手に入れた力で強くなったつもりで暴れる気分はどうだい?
まぁその程度、ふとした事で失っちまうもんなんだけどねぇ、うふふ。
小坊主風情が大黒天とは大仰に過ぎる。
仮初めの力に溺れる愚か者の末路、お前さんに骨の髄まで叩き込んでやろうかねぇ。
金剛雄牛波は【剄打・雲散霧消】で無力化
言ったろう?わしは年上だって。 潜った修羅場の数が違うのさ。
これに懲りたらもう馬鹿な真似すんじゃないよ?

シデレウスになっても欲望は尽きちゃいないようだね…いや、カードによって増幅されたのかも?
先に技能の救助活動で逃げ遅れた人たちを逃がせないかな
みんな避難したのを確認したら戦闘だ
一斉射撃でミサイルをぶちこむよ
ちょっと痛いおしおきが必要そうだね
技能の爆破、貫通攻撃、重量攻撃なんかも使えないかな
貫通攻撃だって勇気と根性で耐えて立ち上がってやる
この悪いお爺さんにも、シデレウスカードをばらまいた奴にも一矢報いてやりたいからね
アドリブ絡み歓迎
●最高にかっこいいヒーロー!
突如現れた怪人に晴れマルシェ店内は騒然とする。
店長や従業員たちが一般客を避難させるため大声を張り上げて誘導にあたっていた。
「アレがシデレウスカードの力か。あんなカードだけで一般人が怪人になるんだ。イイね、面白い!」
恐怖に顔を引きつらせる客が大半を占める中、目を輝かせているのは――サン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)。
もともと“巷で噂のシデレウスカードとやらを見てみたかった”という興味本位でここにやってきた彼女にとっては、まさに望んでいた通りの展開だった。
そして、もうひとつの望みも叶うことになる。
サンは、自慢の大きな声を活かして従業員たちに混ざって客の避難誘導を始めた。
「ここは私たちに任せて、戦えない人は退がってて!」
手を振りながら出口へと誘導するサン。自分の姿に心の中で惚れ惚れする。
(くぅっ~! √マスクド・ヒーローに来たら、こういうヒーロームーブしたいと思ってたんだよね!!)
――私、今最高にかっこいいぞ!
「ほら、店員さんもここは任せて! あ、これよろしく!」
ドチャッと、買い物袋――それも4袋くらいになった大荷物を無造作に手渡す。慌てて受け取った店員の手がその重さにズシッと沈んだ。お客様の荷物を「重っ」なんて言えるわけもないから、眉ひとつ動かさずに受け取る――さすがはプロだ。
●お天道様に恥じないように
――その頃、駐輪所では。
清算を済ませた荷物を自前の三輪自転車に積んでいた|六合《りくごう》・|真理《まり》(ゆるふわ系森ガール仙人・h02163)が、騒ぎを耳にする。
店内から飛び出してくる客たちの悲鳴。
パニックの余波で自転車が何台か倒れているのが目に入った。
「おやおや……」
真理はそのうちの一台をそっと起こしながら騒ぎの中心に視線を向ける。
長年、√世界と人類の行く末を見てきた仙人の心は動じることなく静かだった。
(ああ、また簒奪者かねぇ)
逃げてくる客の波に逆らって、特に急ぐでもなく真理は店内へと足を踏み入れる。
「うわぁぁん!」「タカシちゃん!!」
ベシャンッ! という音。
母親が子供の手を引いて逃げようとしたが、子供がその速さについていけず転倒してしまったらしい。痛みと恐怖に泣きじゃくる姿が目に入る。
(彼等に罪科は無い。立たせて逃がすくらいはしておこうかねぇ)
そう、真理が親子に近づこうとした――その瞬間。
「キミ、大丈夫!?」
颯爽と現れたのは|若命《わかもり》・モユル(改造人間のジェム・アクセプター・h02683)。
転倒した子供にそっと手を差し伸べ、ゆっくりと起き上がらせる。
「慌てなくて大丈夫だよ。オイラと一緒に外まで行こう。歩ける?」
自分と同じくらいの年の子に励まされたからか、子供は「うん」と素直にモユルの手を握った。
「お母さんもゆっくりね」
「ボク、ありがとうね。タカシちゃん、お母さん慌てていてごめんね……」
3人は慌てず落ち着いて外へと避難していった。
そして、外に向かうモユルと、店内へと向かう真理が、ちょうどすれ違う。
互いに言葉は交わさないが、その視線は一瞬だけ交差した。
坊ちゃんは優しいねぇ と、真理の目が笑い。
あ、さっきのおねーさん…… と、モユルの表情も少し緩んだ。
――ほんの一瞬だけの、無言のやりとりだった。
●半額の怪人に刃と誘導弾を
「おっほっほー! これで全部半額じゃーーい!!」
タウラスダイコクテン・シデレウスへと変身した悪爺は、パンパンに膨れた大袋から半額シールを取り出し、まだ賞味期限の長い菓子類や飲料にまでペタペタと貼りつけては高笑いしていた。
今の力をもってすれば商品棚ごと商品を奪う事も可能なはず……なのだが、何十年と染み付いた“半額ハンター”としての血は怪人になっても消えなかったのだろう。
棚一面に貼られた半額シールの光景は彼にとっては金銀財宝に等しい。
彼にとっては商品そのものを手に入れることより、“定価の商品を半額で買えた”という、その一点にこそ喜びを見出しているのだろう。
「怪人になってもやることは変わらないのですわね……」
その矮小さにため息をひとつこぼすのは、先ほどまで惣菜コーナーで働いていたルビナ・ローゼス(黒薔薇の吸血姫・h06457)。
彼女は今、いつものお気に入りの黒薔薇のドレスに身を包んでいる。
貸与された晴れマルシェの制服とエプロンが、こんな粗野で野暮な輩に汚されてはならない。そう思って、彼女はきちんと着替えてきた。もちろん、このドレスも汚させはしない。
「なんじゃあ? 貴様はさっきの――!! お、おのれぇ! ワシのエビチリチャーハン弁当をよくも!」
あの時の怒りが蘇ったのか、タウラスダイコクテンは袋に腕を突っ込み、勢いよく半額シールをばっさぁ! とルビナに向けて投げつけた。
「貴様も半額じゃあ!!」
だが、シールはルビナを捉えることなく、ハラリ、ハラリと床に落ちていく。
そこに彼女の姿はなかった。
シールが吹雪のように舞い散る中、幻影と残像を纏ったルビナの動きは、まるで黒薔薇が空間に舞っているかのようだった。
その姿は、誰の目にもはっきりとは映らない――ルビナは、すでにタウラスダイコクテンへと接近していた。
一方の手には実戦用の黒いコンバットナイフ。もう一方には、銀の装飾が美しい古風なハチェット――まるで古城の応接間にでも飾られていたかのような品だ。
醜く肥大化したタウラスダイコクテンの腹部――まるで欲望そのものを象徴するかのような膨れたそこへ、黒い刃が鋭く突き立てられ、続けざまに重い一閃が横なぐりに振り抜かれた。
――と、同時。
ババババババンッ!!
背中から炸裂音が響き、タウラスダイコクテンの巨体が前につんのめる。
「ぐあぁあああっ!? なんじゃこりゃあ!?」
背中を焼くような爆炎と衝撃にタウラスダイコクテンの叫び声が重なる。
「お客さんの避難は完了したよ! ――じいちゃん、シデレウス怪人になっても欲望は尽きちゃいないようだね……いや、カードによって増幅されたのかな?」
そんな言葉とともにタウラスダイコクテンの後方から姿を現したのはモユル。
入念に店内を確認し、逃げ遅れた一般人がいないことを確かめたうえでの攻撃だった。
その体からは、シュウゥ……という煙が立ちのぼっている。
タウラスダイコクテンの背中を襲ったのは、改造人間であるモユルの体内に格納された10発のミサイル。
本来、このミサイルは理論上いくらでも発射できるのだが、一度に多くの弾を扱えば扱うほど命中率が落ちてしまう。
たしかに、星詠みからは「店の被害なんて別に構わねぇ。お互いwin-winだろ、ハハハ」なんて軽く言われていたが――
人一倍、正義感の強いモユルはそういうやり方には乗らなかった。
店に被害を出すわけにはいかない。だから全弾をタウラスダイコクテンだけに当てたかった。そう考え導き出した最適解が“10発”だった。
「おねーさんがじいちゃんを引きつけてくれてたおかげで全弾命中だよ! ありがとうね!」
確かに1発ぐらいは|躱《かわ》されるかもしれなかった。
――だが、その時、タウラスダイコクテンは真正面からルビナの二刀流の斬撃を浴びていたのだ。
自身を囮にして敵の注意を惹きつけていた彼女の姿がモユルの目に焼きついていた。
あの刃が舞う嵐の中で背後のミサイルを避ける余裕などあるはずもない。
あの瞬間、二人の動きはまるで打ち合わせでもしていたかのようだった――
●|剄打・雲散霧消《ルートブレイカー》
「また、さっきのガキンチョがぁ! おのれぇぇぇ!!」
怒りで顔を真っ赤に染めたタウラスダイコクテンの黄金色の角から、金色の波動がぶわりと溢れ、その巨体を包み込んでいく。
直後――暴れ牛のごとく、モユル目がけて一直線に突っ込んできた!
「くらえぇええッ! |金《こん》・|剛《ごう》・|角《かく》! |穿突《せんとつ》うぅ!!」
そのあまりの速さに避けられないとモユルは咄嗟に判断できてしまった――
(だ、だめだ! でも! たとえ倒れても勇気と根性で立ち上がってやるんだ!)
だって、この悪いお爺さんにも、シデレウスカードをばらまいた奴にも一矢報いてやりたいから――!
モユルは咄嗟に足を踏ん張り、腕で体をガードするように構える。
せめて、少しでも衝撃を抑えるために――!
「はいよ、お疲れさん」
その静かな声とともにタウラスダイコクテンとモユルの間にスッと割って入ったのは、真理だった。
ふわりとタウラスダイコクテンに向かい右掌をかざす。
すると――
迫っていた金色の波動は、霧のようにふわっと広がり、何もなかったかのように空中でかき消えた。
「ななな!? ワシの活力が! 急に衰えてしもうたーーー!!」
「ふとした事で手に入れた力で強くなったつもりで暴れる気分はどうだい? まぁその程度、ふとした事で失っちまうもんなんだけどねぇ」
うふふ、と笑う真理。だが、次の瞬間にはその瞳が鋭くなる。
「小坊主風情が大黒天とは大仰に過ぎる。――エルフのお嬢ちゃん、この仮初めの力に溺れた愚か者に骨の髄まで叩き込んでおやり」
「よっしゃああ!」
真理のその声とともに、バゴォォン! と、タウラスダイコクテンの顔面に拳を叩き入れたのはサンだった。
●|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》
それは、始まりの合図にすぎない――!
拳が風を切る。アッパーでタウラスダイコクテンの顎を跳ね上げ……と、見せかけて、タウラスダイコクテンが後ろへ体重を移したその隙を突き、踏み込みながら腹パンをお見舞いした。
「ぐげぇ!」情けない悲鳴とともにタウラスダイコクテンの巨大な槌が床に落ちる。サンはそれをひょいと拾い上げた。怪力自慢の彼女は、巨大な槌すらものともせず扱えるのだ。
そしてそのまま、真横から両角をめがけてぶん回す――!
「ぎゃぁああああ!!」
バッキィーーーン!
角がきれいに横一線に砕け飛んだ。
「お前はさっきの、年寄りを労らない暴力女……! さっきまでの――! さっきまでの小さなワシとは違うんじゃぞぉおおお!!」
角が折れ、金色の波動がまともに制御できなくなっても、タウラスダイコクテンは突進をやめない。
「ほらほら、もっと来い! 全部受け止めてやるよ!」
だがサンは決して避けない。
それは彼女の“危機感の欠落”がそうさせるのかもしれない。
だが――たとえ傷だらけになっても、正面から捨て身で殴り合うのが自分らしいとも思っていた。
「いいね! やっぱ喧嘩はこうでなきゃ面白くない!」
●|百錬連環拳《パーティ・コンビネーション》!
そして、あと一押しだと仲間たちが次々と動き出す――!
「じいちゃんにはちょっと痛いおしおきが必要そうだからね! オイラのミサイルをくらえぇ!」
再び、モユルの体内からミサイルが放たれる。
ズガガガガァン!!
爆音とともに、タウラスダイコクテンの巨体に次々と穴が開いていく。
「あぎゃあああ!!」
「言ったろう? わしは年上だって。潜った修羅場の数が違うのさ。これに懲りたら、もう馬鹿な真似すんじゃないよ?」
真理の右掌がそっとタウラスダイコクテンに触れる。怪人のその見苦しい力ごと、ふわりと消し去る。そして、グッと力を入れた掌底がタウラスダイコクテンの体に叩き込まれた。
「ぐぉっ!!」
「……守護神ディアナ様。願いを聞き届けください――」
静かな祈りの中、ルビナの背後に月光が差す。そこに現れたのは、彼女が仕える守護神ディアナ。
守護神は何も言わず、ただひとつ頷くと、光となって空へと還っていく。
その願い――“悪爺が二度と晴れマルシェに入店できぬ未来”が、今この瞬間、静かに結ばれた。
それは祈りであると同時に、執行の合図でもあった。
ルビナは黒いナイフとハチェットを交差させ、一閃。その刃がタウラスの肩口を切り裂く。
「ひぃっ! ひぃぃぃいいいい!! ぼ、暴力反対じゃあ!!」
立て続けに容赦のない攻撃を食らい、タウラスダイコクテンの目が潤んでいるのか、瞳に映った“\”マークが、ぐにゃ~と歪んでいた。
「だって怪人だろ? もう手加減無用でしょ! ――これでッ! 終わりだぁぁぁ!!」
サンが地を蹴りタウラスダイコクテンの懐に飛び込むと、そのまま下から拳をぶち上げた――!!
拳がタウラスダイコクテンの顎を捉え、ズガァァァン!! という重い音と共に、巨体が真上へ吹き飛ぶ。
「うおぉ! うぉぉ! ぅぉぉ……!!」
エコーのように響く断末魔。
タウラスダイコクテンの巨体が地面に叩きつけられた瞬間、ぶしゅう、としぼむように変身が解けそこに転がっていたのは、目をぐるぐるさせた小柄な悪爺だった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『中華風タコ怪人娘『リンメイ』』

POW
本気出すアルヨ
【タコ足触手に黄金のオーラ】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【真・触手|格闘者《エアガイズ》】」が使用可能になる。
【タコ足触手に黄金のオーラ】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【真・触手|格闘者《エアガイズ》】」が使用可能になる。
SPD
骨抜きにするアル
【タコ足触手】を召喚し、攻撃技「【触手ビンタ】」か回復技「【触手マッサージ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[タコ足触手]と共に消滅死亡する。
【タコ足触手】を召喚し、攻撃技「【触手ビンタ】」か回復技「【触手マッサージ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[タコ足触手]と共に消滅死亡する。
WIZ
世の中お金が全てアル
任意の対象から「対象レベル万円の賄賂」を受け取った場合、対象が攻撃したのと同対象を即座に【タコ足触手】で攻撃する(これは行動を消費しない)。
任意の対象から「対象レベル万円の賄賂」を受け取った場合、対象が攻撃したのと同対象を即座に【タコ足触手】で攻撃する(これは行動を消費しない)。
●晴れマルシェパート従業員・|渡辺《わたなべ》|久美子《くみこ》
「やったーー!」「悪爺ざまあ!!」「ヒーローさんたちかっこいい!!」
私も冬田さんとハイタッチ。
私たち従業員は裏口から事務所に入り、防犯カメラの映像が映るモニター越しに彼らの雄姿を見ていた。
モニターには音声がなかったが、戦いの激しい音は壁越しにこちらまで響いてきていた。
「さあ、片付けに行こうか」「床に貼りついた半額シールを剥がすの大変だぞ~」――などと言いながらも晴れやかな私たちなのだったが――
「あれ? ここに映ってるの……“|天多九龍図《テンタクルーズ》”の子じゃない?」
|天多九龍図《テンタクルーズ》。
晴れマルシェの角を曲がって信号を渡った先にある小さな中華料理店だ。安くて結構おいしい。晴れマルシェから近いのでたまに仕事帰りに寄っている。私は炒飯と青椒肉絲が好き。
モニターに映っていたのは、そこで働いている女の子だった――
●宣戦布告でオフセット!
「あや!? 今日は弁当が全然残ってないアルヨ!」
買い物カゴを持って弁当コーナーの前で驚いているのは翡翠色のチャイナ服に白いフリルのエプロン姿の少女。
少女は、床にびっしりと貼りついた大量の半額シールと、その上でのびている老人、そして――ボロボロに破れた2枚のカード――シデレウスカードを見てさらに驚いた。
「あやや!! これは|ドロッサス・タウラス《あの牛のおっさん》に『強そうな人間に渡せ』って言われて適当にそこら辺のママチャリのカゴに突っ込んだカード! ……ど、どうみても弱そうなジジイでアル……。
……前金まで貰ったのに、これバレたら絶対どやされるアルヨ……。|ドロッサス・タウラス《あの牛のおっさん》、物騒な棍棒持っていたアルし……」
うんうんと唸っていた少女は、自分を見つめる√能力者たちの視線に気付きハッとした。
「と、とりあえず。お前たちを倒すアル! 多分√能力者ネ!? √能力者を倒せばひとまず『前金を返せ!』とは言われないアルヨ!」
少女の体からタコ足のような触手がニュルリと生えてきた――!
――中華風タコ怪人娘『リンメイ』
彼女をこのまま放置しておくと、再びどこかで誰かにシデレウスカードを渡す可能性がある。
それはまた、新たな怪人を生むということだ。
しかも今度は、今回の反省を生かして、もう少し強そうな人間にカードを渡すだろう。
これ以上被害を拡大させないためにも、今ここでリンメイを倒してしまおう!

※温厚な優しい性格です。喋り方は上品なお嬢様言葉です。
今回の騒動の原因を作ったのは、貴女でしたか...。中華料理店の時(他のリプレイ)とは違って、今回は完全に黒ですわね。覚悟なさい。
幻影を生み出しながらダッシュで接近、フェイントを混ぜながらハチェットと黒いナイフで連続攻撃します。基本的に敵を惹き付けて、他の仲間が攻撃し易くしますわ。
敵の攻撃は幻影と残像を組み合わせて避けますわ。
√能力は、「ルートブレイカー」で打ち消しますわ。(特に触手召喚)
ようやく終わりましたわね。これで、このお店も安心して営業できるでしょう。夕飯にお惣菜でも見ていこうかしら?(笑顔で)
アドリブ、連携、歓迎ですわ!
●優雅なる断罪
「今回の騒動の原因を作ったのは貴女でしたか……」
星詠みが視えなかった今回の騒動の黒幕の正体にルビナ・ローゼス(黒薔薇の吸血姫・h06457)は肩を落とした。
ルビナは以前、他の星詠みからの依頼でリンメイと出会ったことがある。
あの時のリンメイは、中華料理店をワンオペで回すという頑張り屋さんの店長だった。悪事に加担しているとは知らずに、結果的に一般人たちに被害を与えてしまっていたけれど――
ルビナたちがその事実を伝えると、リンメイはきちんと向き合い、説得にも応じてくれたのだった。
だが。
「今回は完全に黒ですわね……まったく。インビジブルとなって空を彷徨っている間に、料理人としての誇りが失われてしまったのかしら……」
かつて、一度は戦闘になったものの最終的に和解を果たしたルビナたちだったが――
今、目の前に立つリンメイはあの時とはまるで別人。
おそらく、一度“死後蘇生”を経験し、その際に過去の記憶も料理人としての誇りも失われたのだろう。共通点といえば、“金のために誰かに雇われている”という点くらいか。(実はもう一つ、“中華料理店で働いている”という点も同じなのだが)
「今度は、インビジブルとなっている間――空でじっくりと反省なさるとよろしいですわ。覚悟なさい!」
「な、なに勝手に喋って、勝手に倒すつもりでいるアルか!? ワタシだってやるときはやるアルヨ!」
その声と同時、リンメイの触手に黄金のオーラが纏わりつく。
「来ますわ……! あの技は、瞬間的な踏み込みが常識外れですわ。そして、どんな装甲も貫く威力――当たれば、ひとたまりもありません」
一度リンメイと交戦した経験のあるルビナは状況を冷静に見極めると、仲間たちに注意を促し――そして、一歩、前に出た。
「皆様、くれぐれも油断なさらないように」
その瞬間、ルビナの周囲に幻影が次々と現れる。
黒薔薇のドレスを纏った姿が、ひとつ、またひとつと増えていくごとに――まるで、戦場に黒薔薇が咲き広がっていくかのようだった。
「マボロシネ! こんなのニセモノごとなぎ払えばいいアルヨ! これがワタシの本気アルネ!!」
光輝く触手たちが一斉にうねり、晴れマルシェの売り場ごとなぎ払うように迫ってくる。
――だが、その攻撃が届いたのは、黒薔薇の幻影ばかり。
本物のルビナは、最初からその軌道を見切っていた。触手が空間を裂くより早く、彼女は動き出していたのだ。
幻影が吹き飛び、残像がかき消えた、その刹那――背後から“本物”のルビナがそっと姿を現し、右手を伸ばす。
その掌が、触手の一つに触れた刹那――黄金のオーラが、すぅ……と静かに消えていく。
「あやー!! 1本しおしおになっちゃったアル!? ――!?」
1本どころではない。2本、3本……次々とその輝きは失われていった。
『ルートブレイカー』――触れた√能力を、無効化する右掌。
オーラを奪われた触手は、力なく垂れ下がるのみ。
その直後――
「欲に目がくらんだ、その卑しき性根ごとたたき斬って差し上げますわ」
ルビナは黒のコンバットナイフを触手に突き立て、逃がさぬように上からグッと押さえつける。そして、ハチェットが正確に断ち切る。料理人の手際にも似た、一切の迷いなき動作だった。
「――!! い、い、い! 痛いアルーー!!」
地面に落ちたタコ足の触手が、ぴち、ぴちと小さく跳ねる。
その光景に思わず、ルビナは先ほど惣菜コーナーで調理していた“タコの唐揚げ”を思い出してしまった。
あの油の中でじゅわぁっと香ばしい匂いをさせながら揚がっていくタコ……。
壁にかけられた時計を見る。ああ、もうこんな時間だ……。
(終わりましたら夕飯にお惣菜コーナーでも見にいきましょう)
フフ。と、優雅な微笑み。
黒薔薇の美しき姫がタコ唐の事を考えているなどと誰も想像できないだろう。
🔵🔵🔵 大成功

こいつもカードをばらまくのに加担してたのか…
ひとまずかかる火の粉ははらうまで、ってオイラが火の粉をかける側かもしれないけどね
モード・フレイムで変身して戦うよ
技能の怪力、貫通攻撃、重量攻撃、属性攻撃ものせてね
これ以上シデレウスカードはばらまかせない!
そのタコ足、焼きダコにしてやる!
融合されるとやっかいだな…痛いの覚悟で切り落とせないかな…?
アドリブ絡み歓迎
「こいつもカードをばらまくのに加担してたのか……」
――そんなふうに思わず呟いてしまったのはリンメイが一見すればただの少女だったからだ。(実際、晴れマルシェの従業員たちは“近くの中華料理屋で働いている子”と認識していたし)
“カードをばらまくだけでお金がもらえる!”きっと、そんな軽い気持ちなのだろう。
でもだからこそ、放ってはおけない。こういう輩はまた同じことを繰り返すに決まっている。
ならば今ここで、暴れた悪爺を止めたみたいに――リンメイもきっちり反省させないと!
そう強く想った|若命《わかもり》・モユル(改造人間のジェム・アクセプター・h02683)は、左腕の腕時計型装置にカチリ、とジェムを嵌め込んだ。
「ジェム、セットオン! 変身っ! モード・フレイム!!」
その声に呼応するかのように装置が眩い光を放つ。爆ぜた光が熱風のように吹き荒れ、全身を包み――次の瞬間、モユルの姿は真紅の鋼鉄の戦士へと変わっていた。動物の耳のような突起を持つヘルメットが頭部を覆い、手にはゴォォッと炎を纏った大剣『シャクネツブレード』が握られている。
「うぉおーーっ! 変身ヒーローだー!! かっこいいー!! |生《なま》で変身シーン見た!!」
視線の先、共に戦うエルフのおねーさんが目をキラキラさせていた。
モユルは赤いバイザー越しにふっと笑みを浮かべ、軽く手を挙げて応える。
そして、リンメイへと鋭い眼差しを向け直した。
「かかる火の粉は払うまで!」
「いやいやいや! 火の粉を振りまいてるのオマエアルヨ!!」
シャクネツブレードから炎が噴き上がる。モユルはその熱気をまとい、ツッコミを入れるリンメイめがけて一気に距離を詰めた。
「その足、焼きダコにしてやる!」
シャクネツブレードはリンメイの触手を次々に斬りつけていく。
だが――。
「ちょうどいい熱さアルネ! ホットヨガアルヨ!」
リンメイが自身の触手を使い互いにもみもみとマッサージを始める。するとどうだ。斬られていた触手の傷がじわじわとふさがっていくではないか。ついでに自分の肩まで揉み始めている。
その目線の先には、先ほど黒薔薇の姫に斬り落とされた――すでにピチピチと跳ねることもなくなった1本の触手――
今度は自分の番だと言う様にリンメイの目がギラリと光る。
「思いついたアル! お前がワタシの足になるがイイネ!」
モユルを自身の触手として取り込もうと、傷を癒した触手たちがぐわっとモユルに襲いかかった。
(まずい! 取り込まれたら厄介だ! だけど、中途半端に斬り付けただけじゃ再生されちゃう! ここは1本を確実に――!)
そんな時、モユルの目に入ったのは――特売セール中の|トイレットペーパー《玉子製紙「ネピエール」》がぎっしり詰まった巨大なピラミッド。
(あれだっ!)
柔らかく足元が崩れそうなトイレットペーパーの山――それでもモユルは、ぽん、ぽん、と軽快に駆け上がり、最上段のパックを蹴って宙を舞う! 炎を噴き上げるシャクネツブレードがいっそう唸りを上げる――!
自分の体に組み込まれた、かつては“誰かを傷つけるため”に作られた力――
でも、今は違う!
「これ以上、シデレウスカードはばらまかせない!」
狙いはただ一本の触手。灼熱の刃が空気を焦がして振り下ろされる。
モユルの全体重と、そして決して奪われなかった“心”が、その一撃に込められていた。
「ア、アイヤーーーー!!」
リンメイの悲鳴があがる中、切断された触手が床を転がる。
真っ赤に熱されたそれは生タコのようにぴちぴちと跳ねることもなく、香ばしい匂いを漂わせ、じりじりと音を立てていた。
すべてを斬り落とさなくてもいい。
今、ここに立つヒーローは――もう、ひとりじゃないのだから。
🔵🔵🔵 大成功

出たな簒奪者!えーっと……怪人イカ幼女?
タコでもイカでもなんでもいいけど、とにかく成敗する!弁当の代わりに私の拳を喰らわせてあげるよ!
引き続き捨て身の一撃重視で攻撃!
もし敵の√能力を受けたら私の√能力でサンドバッグを創造するよ。ダメージはまあ、根性で我慢?
「なんだって顔してるから説明したげる。コレは私が受けた武器や√能力を複製して作られたサンドバッグなの」
「ちなみに殴った威力に応じて、発動時の効果が増すから」
「さっきの触手、私の拳骨を上乗せしてお返しするよ!」
「我流丑の刻参り!」
サンドバッグを殴って効果発動するよ
シデレウスカードは面白かったけど、人様に迷惑かけるのはダメだよ!
アドリブ連携OK

共闘、アドリブ歓迎です
おやおや、雑な出来の謀なんてするもんじゃないねぇ料理屋のお嬢ちゃん。
こんな事しでかさなきゃあ、まだまだここいらで働けたろうに。
残念だよ。
酒のつまみにもならない蛸のオーラに用は無いので【勁打・雲散霧消】で無力化
…いや、怪人から生えてるなら食べられるのか? 等と思いつつ真っ向から殴り合う
たこわさにしてみたら美味しいかねぇ? とか聞いてみる
戦闘終了後は悪爺に提言
お前さんの生き方は無駄が多すぎる。
店を何時間も徘徊する元気があるなら外に出て食べられる野草でも探しな。
少し前の戦争じゃ当たり前だったろう?
それか鉢植えで野菜でも育てな。
どうせ孤独な最期としても、草花は看取ってくれるよ。
●ド根性スタイル
「おやおや。またそのオーラかねぇ? |悪爺《あの爺さん》もアンタも本当に好きだねぇ、“黄金”」
2本の触手を切断されたリンメイは「今度こそ本気出すアル!」と、再び黄金のオーラを残りの触手に纏わせていた。
「酒のつまみにもならない|蛸《たこ》のオーラに用はないよ」
……いや、怪人から生えてるなら食べられるのか? と思案しながら右手を構える|六合《りくごう》・|真理《まり》(ゆるふわ系森ガール仙人・h02163)。
これは先ほどの『タウラスダイコクテン・シデレウス』との戦いでも見せた“√能力を無効化する”真理の『|剄打・雲散霧消《ルートブレイカー》』。
しかし、その構えを見たサン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)がスッと腕を広げ真理を制止した。
そして一言。
「あの威力……試してみたいって思っちゃってさ」
ゴクリ、とサンの唾を飲む声が聞こえる。額からたらりと一筋の汗が垂れるが、その瞳は挑戦的なものだった。
「ふふ。良い目をしてるねぇ」と真理は構えていた右手を静かに下ろす。
「ありがとう。――よし、来いっ!」
一歩前へと出て、気合いを入れるようにパシンッと自身の手のひらに拳をあてる。
――が。
「……えーっと……怪人イカ幼女だっけ?」
なんとも締まらない口ぶりに、リンメイがズルッと足を滑らせかける。
「へ、変な名前を付けないでほしいアル! それにイカじゃないアル!! この立派な吸盤を見たらわかるアルヨ!!」
黄金のオーラを纏った触手がくねくねと踊る。
「タコでもイカでもなんでも良いけ――!!」
サンが言い終わる前にリンメイの体がぶれた。黄金の触手が、大波のようにぐわっと押し寄せる。
バチィンバチィン!!
晴れマルシェ中に破裂音のような衝撃音が響き渡る。と思った次の瞬間。
ボォン――!!
勢いよく吹っ飛ばされたサンが、スーパーの奥に設置されているダンボール置き場に激突していた。
高く積まれた空箱の山が一気に崩れ、バサバサと彼女に降りかかってくる。
「……エルフの嬢ちゃん、大丈夫かい? ぶつかったのが壁じゃなくてよかったねぇ」
「う、うん……思っていた以上にめっちゃ痛かったけど、根性でなんとか……」
ひっくり返った空箱が頭にすっぽりはまり視界は真っ暗だが――それでも真理の声にはちゃんと返事を返す。
リンメイの見た目は可愛いがその力は本物だった。
先ほどの一時的に怪人となった悪爺とは違い最初から強大な力を持つ簒奪者――もしもこれが壁への直撃だったなら根性論ではどうにもならなかったかもしれない。
それでもサンの心は晴れ晴れとしていた。
リンメイと交戦経験がある仲間に“当たればひとたまりもない”と忠告されていた。
けれど、じゃあ――
「ひとたまりもない威力ってどんなのだろう」と。好奇心が勝った。
やっぱり私には“|ド根性スタイル《これ》”が性に合っているんだな。腹が減ってなきゃどうにでもなる!
それにこのままだと確実に死んでしまうが、今私は1人じゃないからこそ、ちょっぴり無茶が出来たのだ。
「その心構え気にいったよ。ちょっと休んでるといいよ」
しばしの間、その言葉に甘えて――
●雑な怪人の末路
「やった、やった! 1人倒したアルヨー!!」
ピョンピョンと跳ねるリンメイ。その姿はまるで、初めて鉄棒で逆上がりができた小学生のように無邪気なものだった。
「はいはい。楽しかったかい? 本当にお嬢ちゃんは仕事が雑だねぇ」
いつの間にか近づいていた真理が、するりとリンメイの触手へと手を伸ばす。その指先が触手に纏わりつく黄金のオーラを撫でるように滑った。
しゅるしゅる、と。
√能力『|剄打・雲散霧消《ルートブレイカー》』によって触手に纏っていたオーラがみるみる消えていく。
またしても黄金の輝きを奪われた触手は、へにょん、と力なく垂れ下がった。
「ま、また|それ《ルートブレイカー》アルカ!? ずるいアルヨー!!」
真理はその声を聞き流すように淡々と語り出した。
「――カードをばらまくって仕事も、もうちょっと丁寧にやれば良かったのにねぇ。適当な自転車のカゴに入れるなんて雑な真似しなければもっと強い怪人ができたかもしれない。――さっきだって、すかさず追撃すれば本当に息の根を止めることができた」
まあそのおかげで被害が少なくて済んだんだけどねぇ、とそのまま右手を握りしめリンメイの腹にドゴッ! と重い一撃を叩き入れる。
「あぐうっ!」
腹を押さえながらリンメイは触手を自身の体の前に繰り出してガード。真理の拳が触手に当たるたびに、ぐにゅっという触感。本当にタコそのものだ。
「これ、たこわさにしてみたら美味しいかねぇ?」
「ワタシを食っても美味くないアルヨ!? 腹が減ってるならワタシの店来るアル! だから食べないで欲しいアル!」
さっきまでピョンピョン跳ねていた勝者はどこへやら。真理の連打はリンメイにオーラを纏わせる隙すら与えない。
「店をやっているのかい?」
ぐにゅ、ぐにゅ、と触手を叩きながら、まるで日常の世間話でもするかのように真理は尋ねた。
「ここの角を曲がって信号を渡った先にアルネ。中華料理屋。美味さには結構自信アルヨ!」
こちらも真理の連打に耐えながら普通の会話のように返答する。
「こんな事しでかさなきゃあ、まだまだここいらで働けたろうに……」
“カードをばらまくだけで金がもらえる”
そんな都合のいい話、あるわけがないのに。
どんなに年月が経っても、どの√世界でも、そんな甘い誘いに飛びついて痛い目を見る者は後を絶たない。
それを仕掛ける側は、いつだってひょうひょうと生き延びていくというのに。
――ヒトの世ってのは、ほんと、変わらないねぇ。
|真理《仙人》はため息ひとつ。
「残念だよ」
静かに紡がれたその言葉と共に、拳がもう一度――
ぐちゃり。
触手はぐにゃんぐにゃんになっていた。繊維が潰れ弾力を失った触手はもはや使い物にならない。
(うぐぐ……ここはなんとしてでも逃げるアル……! 1人は倒したアルヨ、|ドロッサス・タウラス《あの牛のおっさん》もちょっとはまけてくれるアルネ)
――と、思ったその瞬間。
何の前触れもなく、いきなり。
バッチーーーーーーン!! ドッゴォォン!!
2つの衝撃が同時に。
背中と顔面に、上からと横からに、全然違う方向から別々のものが一緒くたになってリンメイを襲った。
「ァ――――!!」
ドサッ――
痛み、衝撃、混乱。
どれが最初かもわからないまま仰向けに倒れていた。
何が起こったのかさっぱりわからない。
リンメイの視界に入ってきたのは――黄金のオーラを纏った触手。
でも、自分の触手は、ここでしおれたように床にへたり込んでいる。
どうい――
「『どういうことアル??』って顔してるから説明したげる」
ひょこっと視界に現れたのは――倒したはずの√能力者、サンだった。
「“コレ”は私が受けた武器や√能力を複製して作られたサンドバッグなの……って見えないか」
顔すらも動かせないリンメイの視界には天井しか映っていないが、どうやらどこかにサンドバッグがあるらしい。(まあ、そのサンドバッグはもう破れているのだが)
サンは説明を続ける。
「だからさっきの触手を私の拳骨を上乗せしてお返ししたよ! どうだった? 名付けて『|我流丑の刻参り《ジャドウボクシング》』!」
サンはただ好奇心のためだけに、あのリンメイの本気の触手攻撃を食らったわけではなかった。“カウンター”という策もきちんと持ち合わせていたのだ。
「でも死んでたらどうするところだったんだい」「ま、そこは根性で!」
――真理とサンの朗らかな笑いが聞こえてくる。もう完全に戦意のない声音だ。
……ということは自分は負けたのだ――リンメイは自身の“死”を悟った。
「シデレウスカードは面白かったけど、人様に迷惑かけるのはダメだよ!」
と、サンが再びリンメイの視界に入った。
「ん……んー……じゃあ次はもう少し割の良い仕事さがすアルネー……」
懲りているのか、いないのか。
ふしゅぅぅぅ……と、天に昇るインビジブル。
やはりその姿は“タコ”であり――。どこか憎めなかった。
●エピローグ~|牛山福蔵《うしやまふくぞう》の再出発~
『お前さんの生き方は無駄が多すぎる!』
――晴れマルシェで大暴れしてのびとったワシが目を覚ましたら、あのヒラヒラ、フワフワした格好の若い女がいきなりそんな言葉を浴びせてきたんじゃ。(“大丈夫? の一言もないんか!”と思わず怒鳴ったわい!)
『店を何時間も徘徊する元気があるなら外に出て食べられる野草でも探しな。少し前の戦争じゃ当たり前だったろう?』
確かに。
なんて、その時は頷いてもうたが、今思い返すと……少し前の戦争? “少し前”?? もう戦争から80年近くも経っておるじゃろ?
……あの女、何度も“自分の方が年上だ”と言っておったが、もしかして、本当に……?
今日は電車で3駅先のホームセンターまでママチャリを走らせてきたわい。近くの店は軒並み出禁になったからの。まあさすがにワシも今回はやりすぎたかと思っている。(反省文書かされた上に、床のシール剥がしまでさせられたからのぅ……)
『鉢植えで野菜でも育てな。どうせ孤独な最期としても草花は看取ってくれるよ』
ふんっ! 草花に看取られるなんざごめんじゃが、まあ……育てりゃ何かの足しにはなるじゃろ。
ふむ……。
“私が作りました:牛山福蔵”と書かれた野菜がスーパーに並んでおったら、かっちょええのお。
……まあ、もちろんその時は“適正価格”ってやつじゃ。
またコテンパンにされるのはゴメンじゃからな。ワッハッハ。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功