ふわもことクヴァリフの仔と、寂しい子供
●本当は、ただそばにいて欲しかっただけだった
新見・結那のお父さんは『神様』を信じている。
結那の授業参観や親子遠足、運動会や学芸会があっても、『神様』を信じる『教団』の儀式や行事があればそっちを優先していた。
結那が悪い子なら思いっきり叱るし、ぶたれたり、お水につけられたりした。でもいい子だと、思いっきり褒めて撫でてくれるのだ。
お父さんが信じる『神様』の教えに従ってれば、褒めてもらえる。だから不思議な力があったら、『神様』のお役に立てれば、もっと結那のことを褒めて、撫でて、好きだよって言ってくれるんじゃないかって、思っていた。
「うんうん、それはとても普通の気持ちですよ」
「そう、かな」
「ええ。Ms.結那、あなたが持っていていいものです。当たり前に抱く気持ちです」
不思議な柔らかい、ぬいぐるみみたいなネッコという生き物を抱きしめて話す結那に、不思議なお姉さんは頷く。
確かに、お父さんから離されて、施設に引き取られたときもそう言ってもらった。それに結那が『神様』を信じなくてもいいのだと。
「でも、やっぱり特別な、『神様』みたいなキセキ? を起こせたら、お父さんとずっと一緒にいられたかなって」
ただそばにいてほしかっただけだけど、今は離れている。お父さんも正しくないことがあるんだよ、ってわかってきたけど「でも」「だって」は消えてなくなったりはしない。
結那がそんな気持ちをまとまらないなりに話すと、お姉さんはうんうんと聞いたあと、こう言った。
「うーん、ずっと一緒にいられるか、はどうでしょう? その場になってみないとわからないかもしれません。でも、神様みたいな力を与える存在は知ってます」
「ほんと?」
「はい」
お姉さん——ソフィアさんは、笑って言った。
「会ってみます? もしかしたらMs.結那のことを気に入ってくれるかもしれません」
「うん」
不思議と癒やされた気持ちのまま、結那は頷いていた。
●とある連邦怪異収容局員達の会話
「お店という人を集める場所が運悪く見つかりやすかったんだと思います」
「ほう」
部下である『連邦怪異収容局員『ソフィア・ジョンソン』』の言葉に、『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』は目を眇めた。
「ですので、今度は直接怪異をばら撒いて、それを見たり聞いたりした方の噂の広げるエネルギーを利用しつつ、興味を持った方を仲間にしようかと」
「うん? 召喚儀式の生贄ではなく?」
「はい。噂に興味を持つ、ということは怪異に興味がある、ということです」
「まあそうだな」
なんだかソフィアの話の行き先が怪しくなりそうな雲行きに、リンドーはこめかみに指を添えた。
「そのような方を生贄と言う一時リソースに使うなんてもったいないです。仲間になっていただいてz一緒にお話して怪異の魅力を語り合う仲になりたいじゃないですか」
「そうか?」
「そうですよ!」
にこーっと笑うソフィアにリンドーは早々に|give upした《匙を投げた》。
「ですのでふわもこ達と一緒に、召喚儀式に行ってきます!」
「好きにしたまえ」
うきうき出かける部下を見送ったリンドーでも、流石に寂しい年端のいかない少女をクヴァリフの仔召喚儀式に誘うとは思ってもいなかった。
●クヴァリフ仔召喚儀式
「連邦怪異収容局員が、クヴァリフの仔を召喚するみたいだ」
猫宮・弥月(骨董品屋「猫ちぐら」店主・h01187)が詠んだ星を√能力者へと語る。
怪異を崇める狂信者と化した人々に対して、仔産みの女神『クヴァリフ』は己の『仔』たる怪異の召喚手法を授けている。その中の一人、『連邦怪異収容局員『ソフィア・ジョンソン』』が儀式を実行しているのだ。
「今回、ソフィア・ジョンソンは『非実在怪異『ふわもこ』という怪異を街に放って、彼らに興味を持った人の噂のエネルギーを利用して召喚を行うらしい」
まずは、街に散らばったふわもこ達を回収してほしい。ふわもこは柔らかいふわふわだったりもふもふだったり、つるつるすべすべだったりするぬいぐるみのような見た目の怪異だ。抱きしめると大変気持ちいいし癒やされる。人に能動的に害を成すことはないが、癒やされすぎてだめにしてしまうタイプの怪異ではある。
「ふわもこ達を回収していくと、召喚現場に興味のない人が近づかないように設置された迷路にたどり着くはずだよ」
もちろんただの迷路ではない。狂気に近づいてしまうような不思議な迷路になっているようだ。詳しいことは迷路に近づいてみるまでわからない、と弥月は申し訳なさそうに言う。
「迷路を超えたら、召喚を終えてクヴァリフ仔を可愛がってるソフィア・ジョンソンに会える」
一応言っておくと、無理矢理戦うことはない。怪異の話をして満足すれば、召喚したクヴァリフの仔のことをうっかり忘れて彼女は撤退していく。彼女自身に無理に√能力者と敵対する意思はない。
ただし彼女も、怪異を自国のために利用しようという連邦怪異収容局の局員である。どうしても許せなければ戦いを仕掛けてもいいだろう。その場合、戦いを仕掛けた人物には彼女も本気で抗ってくる。
「あと、ソフィア・ジョンソンのそばには、新見・結那という小学生の女の子がいる」
ソフィアがばらまいたふわもこに惹かれた、寂しさを抱えた女の子だ。カルトに夢中な父親から保護され、施設で健やかに暮らしていたが、幾ばくかの寂しさはどうしたって埋まらないこともある。
「もしも余裕があったら、彼女に声をかけてあげてほしい」
厳しくても優しくても、思いやっていればその心は届く。結那が寂しさを抱えながらも明日を見る、その助けになるはずだ。
「無理にとは言わないよ。ソフィア・ジョンソンに集中してもいい。彼女は結那さんに手を出すことはないし、守ろうとしてくれるからね。どうか、よろしくね」
弥月は頭を下げて、事件のことを√能力者へと頼むのだった。
●ふわふわでもこもこ、つるつるですべすべで気持ちのいい怪異
『非実在怪異『ふわもこ』』は明確なモデルになった話や存在のいない怪異だ。皆ふわふわもこもこだったり、つるつるすべすべだったりと手触りがよく、リラックスさせて人をだめにしそうな心地良さをもたらす。抱きしめてもいい気持ちだし、枕にしたっていい。動物や魚っぽい個体が多い。
そんな彼らは街のあちこちでちらっちらっと顔を出したりお尻を出したりしている。気づいた人がぬいぐるみかと思って拾えば、その心地よさに癒やされていく。
傾向として、寂しさや切なさ、悲しみを抱いた人のそばにいることが多いようだった。
彼らを回収していくうちに、発生源へと近づけるだろう。このまま放っておくわけにもいかないし。
マスターより

幸せと願いと、その人なりの優しさをひとつまみ。霧野です、よろしくお願いします。
●シナリオについて
√汎神解剖機関にてクヴァリフの仔が召喚されました。それを回収する予定の『連邦怪異収容局員『ソフィア・ジョンソン』』から、うまいこと取り上げてください。怪異が大好きな彼女は、怪異の話でもして満足すればうっかりクヴァリフの仔のことを忘れるでしょうし、戦って回収しても構いません。
ソフィア・ジョンソンや結那ちゃんは以前のシナリオに登場したことがありますが、読んでいなくとも問題ありません。
41
第1章 冒険 『廻集儀式』

POW
集める
SPD
廻る
WIZ
熟考する
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

寂しい……という気持ちはよくわからないけれど
好きな人の役に立ちたい、っていう気持ちならわかるかしら
わたしだって|店長《マスター》の役にたてるなら、と思って
今のわたしになった訳だしね。
その気持ちは間違っていない……と思いたいけれど
問題はお父さんの方かしらね、この場合は
……さて、迷路を巡るの?
ふわもこ……というのはどこにいるのかしら
ちなみにここはお店じゃないから、ちゃんと目立たない私服よ!
(パーカーにワンピース)
とりあえず歩いてみようかしらね
まあ、夜の街はわたしたちの縄張りみたいなものよ、別に怖がったりなんかしないわ
誰か、いるかしら?
なにか面白いものや、手掛かりになる者がみつかるといいのだけれど
●
(ふわもこ……というのはどこにいるのかしら)
シェリ・エウフォリア(Corpse Reviver・h07712)は夜の街を、ふわもこなる怪異を探してとりあえず歩く。
(ぬいぐるみみたいな怪異らしいけど)
普段、店にいるときの豪奢で煽情的なドレス姿ではなく、目立たないパーカーにワンピース姿で。暗がりも眩すぎるネオンも怖がらず、落ち着いてどこか踊るような軽い足取りで。夜の街は彼女達の街、彼女達の縄張りだ。何も怯えることなどないのだから。
まるで散歩をしているかのような足取りでシェリは行く。ちらりと暗い路地を覗いてみたり、くるりと曲がって細い道を探してみたり。
(誰か、いるかしら? なにか面白いものや、手掛かりになる者がみつかるといいのだけれど)
そう思いながら歩いていけば、道端に夜の街に似合わないパステルカラーが落ちている。ちょこんと丸っこい体のそれに近づいてみれば、白い毛並みに桃色の目をしたうさぎに似たぬいぐるみっぽい何かだった。シェリの手に収まるサイズのそれは、目が合うと一声鳴く。
「うさ」
「……うさぎって鳴かないわよね」
これが件の怪異なのだろう。抵抗する素振りを見せないそれをシェリは拾い上げる。もふもことした手触りが心地よい。少し揉むようにしてみると、中にパウダービーズでも詰まってそうな感触が返ってきた。確かに気持ちいいし、人によっては癒やされていくだろう。
「うさー」
「回収、と」
パーカーのポケットにぽすっと押し込めば、ふわもこは大人しく収まっている。シェリは引き続き他の個体も探すことにした。その過程でふと考えるのは、寂しさを抱えた少女のことだ。
(寂しい……という気持ちはよくわからないけれど)
シェリはいつだって求められる存在だから。望むものの姿を見せる|変化妖《シェイプシフター》だから。
(好きな人の役に立ちたい、っていう気持ちならわかるかしら。わたしだって店長マスターの役にたてるなら、と思って今のわたしになった訳だしね)
だから、結那が父親の役に立ちたいという気持ちもわかるのだ。それは間違っていないはずだ。
(……問題はお父さんの方かしらね、この場合は)
すでに引き離され、結那は施設に保護されているのだとしても、いつか二人が再会して一緒に暮らす可能性もないわけではない。その時、少しでも父親がマシになっているといいのだが。
シェリがつらつら考えながら、ふわもこを数体集めたその先にそれはあった。
(……さて、今度は迷路を巡るの?)
入り口に立っただけでもなんとなくわかる。狂気に満ちた迷路が、シェリを待っていた。
🔵🔵🔵 大成功

親からひどい扱いをうけて、結果的に見捨てられて亡くなったボクとしては新見さんがきになるでごぜーますなー
お話しできると良いでごぜーますけどなー
とか思いながらとりあえずふわもこを探すでごぜーますな
探せばいるなら、実体化して探すでごぜーますなー
念のため「野生の勘」をつかってさがすでごぜーますよ
餓死してオバケになった、今でもおかーさんに会いたいとおもってるボクならきっとみつけられるはず
・・・言っててかなしくなるね、これ
まー、回収してふわふわもこもとしながら発生源をさがすでごぜーますなー
アドリブ等歓迎でごぜーますよ
●
十・十(学校の怪談のなりそこない・h03158)は事件の話を聞いたとき、結那のことが気になった。彼女の境遇がとても他人事とは思えなかったのだ。
(親からひどい扱いをうけて、結果的に見捨てられて亡くなったボクとしては新見さんがきになるでごぜーますなー)
苛烈と言えるほどの暴力を振るっておきながら、たまに抱きしめたり撫でたりと愛するような素振りを見せるというのも、似ている。十の母もそうだった。
(お話しできると良いでごぜーますけどなー)
無事でいるらしいから、まずは結那のいるという、召喚儀式の場を探すのがいいだろう。街に散らばっているふわもこも回収したほうがいいようだし、と十は彼らをとりあえず探すことにする。
いつもはふわふわ浮かんでいる幽霊の十だが、今は地面に足をつけて実体化して探すことにした。てくてくと地面を歩き、物陰を覗きながら探していく。
ふわもこは寂しさや切なさを抱えた者のそばに現れるという話もある。そうならば、十は十分に条件に一致するだろう。
「餓死してオバケになった、今でもおかーさんに会いたいとおもってるボクならきっとみつけられるはず」
いつだってお腹が空いていた。同じ年頃の子供は異質な十を虐げた。大人は守ってくれなかった。母はひどいことを十にしていた。
それでも母に愛されていると、十は思っていたかった。彼女が十を抱きしめるときの泣きそうな顔が、辛そうな顔が忘れられない。ひどいことをされて辛い目にあっているのは十なのに。
死ぬその時まで、辛くて悲しくてそれでも母が探してくれるか期待して。幽霊になった今でも母に抱きしめてもらいたいと思っている十なら、と期待を口にしたところで、十は顔を俯かせた。
「……言っててかなしくなるね、これ」
いつもの少しだけおどけたような口調が取れた、傷ついた子供の言葉になりながら、ひどく切ない気持ちで十はふわもこを探す。
そうしたら電信柱の影に何か柔らかな色合いのものが見えた。ひょいとのぞき込んでみれば、つぶらな瞳にもっふもふの毛並みの犬のぬいぐるみみたいなものが落ちている。少し大きめなそれは、十を見て小さく鳴いた。
「わふ」
「君がふわもこ……で、ごぜーますねー」
話通りもふもふもこもこのその個体を抱えあげると、ふわりと柔らかな香りがした。母の腕の中で感じた香りに似ているような気がして、十はぎゅっとふわもこを抱きしめると、ほのかに温かく、柔らかな弾力が返ってきた。
「あったかいでごぜーますなー」
いつかの安らぎに通じるようなぬくもりを抱え、ふわふわもこもこしながら十は発生源を探して進む。
そうして狂気に満ちた迷路を見つけたのだった。
🔵🔵🔵 大成功

クヴァリフの仔関連の事件は『生贄を捧げる』みたいな話が多かったから、ふわもこの噂エネルギーで召喚するっていうのは随分平和な気がする
あんまり血なまぐさい状況にならずに解決できたらいいな、と思う
レギオンスウォームでレギオンを呼び出し、センサーでふわもこ達を探す
発見したら回収しながらちょっと撫でたり抱き締めてみたりする
……ふわもこにつるすべに……何かすごく、いいな……
駄目になってしまう気持ちもよくわかる
癒される人がいることを考えると、回収するのは気が引けるけど
これも仕事だ、仕方ないと自分に言い聞かせながら回収を進めるよ
一匹くらい連れて帰っても……いや、世話を見れるかわからないし我慢我慢……(葛藤)
●
√汎神解剖機関の街を、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はレギオンの群れを呼び出した。彼らのセンサーから伝わるデータをモニタリングして情報を処理し、件の怪異を探索する。
(クヴァリフの仔関連の事件は『生贄を捧げる』みたいな話が多かったから、ふわもこの噂エネルギーで召喚するっていうのは随分平和な気がする)
噂なんてどれだけ広まるかわからないし、いつか歪んで意図しないものになることも多い、もちろんやり方や好みもあるだろうが大抵は贄を捧げる方がエネルギーとして手軽だろう、コストに対して利益が大きい想定もできる。
噂はそれなりの人数の人が必ず必要だが、贄は一人からでもいいのだ。人でなくたって十分なことも多いのだから。
(せっかく穏当な状況だし、あんまり血なまぐさい状況にならずに解決できたらいいな)
ちょうど探す怪異もあまり暴力的ではないようだし、と考えていれば、レギオンのセンサーに気になる存在が引っかかった。
クラウスがそこに向かって見ればぬいぐるみめいた怪異、ふわもこがそこにいた。猫のぬいぐるみめいた個体が、魚のぬいぐるみっぽい個体を咥えている。
「回収」
「にゃーご」
「うっお」
「魚は鳴かないよ」
「うおー」
猫っぽいのはふわふわさらさらの長毛種っぽい手触りで、魚っぽいのはつるつるすべすべ気持ちがいい。思わず撫でて抱きしめてみれば、猫っぽいのは暖かく、魚っぽいのはひんやりしていてどっちも捨てがたい弾力性を持っていた。
「……ふわもこにつるすべに……何かすごく、いいな……。駄目になってしまう気持ちもよくわかる」
寒い日には猫っぽいのを、暑い日には魚っぽいのを抱きしめたら気持ちいいだろう。枕にしてもよさそうだ。むにっとしたスクイーズめいたもみ心地もくせになりそう。
確かに彼らに癒やされる人もいるだろう、疲れたときやぬくもりの欲しいとき、人と一緒にいるのも億劫な、けれど何かにそばにいてほしいときには向いていそうだ。
ただしこれでも怪異である、この回収も仕事の一環だ。クラウスは仕方ない、と心を強く持って次の個体を回収すべくレギオンと共に進んでいく。
「一匹くらい連れて帰っても……いや、世話を見れるかわからないし我慢我慢……」
「んなー」
「うおっ」
「いや可愛い顔されても……うーん」
きゅるんとあざとくまるっこい体をひねる猫擬きに、しゅるんと体を空中でくねらせ涼やかに見せる魚擬きのアピールに心揺らしつつ。
回収を進めたクラウスは、狂気の迷路へと辿り着くのだ。
🔵🔵🔵 大成功

アドリブ大歓迎。
欠落:恐怖心なので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能も積極的に使う。
悲しみとか切なさか。縁が無いねえ。
いや、クヴァリフの仔を食用として研究するのがままならない哀しみがある!
寄生されると能力の底上げが出来るんだから、一般人にも食べられるように加工して、進化への起爆剤と言うか、エネルギー源に出来そうなのに!
そんな哀しみを胸に探すと、ああ、あった。
可愛いうさぎ型のぬいぐるみのような物。
成程ふわふわでもこもこで心なしかいい匂いもする。
お、向こうにもあった。こっちはペンギンか。
すべすべもちもちでたまらないな。
あ、あっちにも……こっちにも…
この子達、このままウチに持って帰りたいねえ
●
北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)はふわもこを探して歩く。
(悲しみとか切なさか。縁が無いねえ)
可愛くて美人な同居猫がいて、友人がいて、日々情熱を傾ける目標がある。悲しみや切なさ、寂しさとはなかなか縁がない、と考えたところで、春幸は一つの哀しみを思い出す。
(いや、クヴァリフの仔を食用として研究するのがままならない哀しみがある! 彼らを美味しく栄養にできないなんて! なんて哀しい!!)
今も召喚されているクヴァリフの仔、うねうねぶよぶよした触手めいたそれはとても魅力的な食材だ。彼らには未知という名の希望と期待を抱いている春幸である。
(寄生されると能力の底上げが出来るんだから、一般人にも食べられるように加工して、より良い進化への起爆剤と言うか、エネルギー源に出来そうなのに!)
無論悪影響も想定できるが、そこは実験と思考と考察を繰り返し、良い反応を活かせるようにするべきなのだ。見た目や食感で拒否感を抱かれないような工夫も必要になってくるだろう。
しかしそこに至るまでには無数の研究と調理と実験、もとい試験を繰り返し、小動物から人へと徐々に対象をシフトし、じっくり確認して行かなくてはいけない。そのためにはクヴァリフの仔の数がある程度必要だし、そもそも彼らを自由に扱うための立場がいる。
現状、この世界存続のための新物質として期待される仔らだ。春幸が自由に食用になるかどうかの実験へと使える数も立場もないのであった。
(哀しい)
そんな切なさと哀しみを抱いて探してみれば、春幸の目当ての物体がちょこんと道の端にいた。ふわふわのうさぎのぬいぐるみのような、まるっこい怪異、ふわもこの一固体である。
「うさ〜」
「お、あったあった」
奇妙な鳴き声をする何かに恐怖を覚えることもなく、春幸は気軽く抱え上げる。
「成程ふわふわでもこもこ」
心なしかふんわり日向の猫のようないい匂いもする。うさぎを抱えたまま歩けば、電信柱の影からぴょこんと新たな個体が飛び出てきた。
「お、こっちはペンギンか。すべすべもちもちでたまらないな」
滑らかな手触りについ撫でる手が止まらない。爽やかなシーブリーズにスッキリする心地も味わえる。
「あ、あっちにも…………こっちにも……」
ふわふかの犬っぽいのや、もっとつるっとした魚っぽいのやらを抱え込み、なんとも心地よさを春幸は堪能していた。
「この子達、このままウチに持って帰りたいねえ」
「うさー」
「ぺーん」
「わふ」
「うおー」
同居猫も許してくれないだろうか。春幸は幸せな悩みを抱えながら、ふわもこを回収し。
そして、狂気の迷路へと辿り着く。
🔵🔵🔵 大成功

大人だから、親だからとは言え完璧な訳じゃない…勿論そうだ
それでも…
(幼い子供達が保護者に人一倍強い信頼感を寄せる事は|仕事《小学校教師》柄よく知っている
それでも…父親にぶたれ、水をかけられ保護されてもなお、一途に父を想う少女のことを思うと…胸が痛む)
なんとか…してあげないとね
…で。
彼女の所へたどり着くにはまずは|これ《ふわもこ》を集めないといけない、と
指定√能力を使用、狗神達と共に怪異を探そう
まぁこちらももふもふと言えばもふもふだけど…あっ、咥える力には気をつけて?!
手近の犬っぽいやつを捕まえれば、確かになんだか癒される…気はするけれど
きっと彼女が本当に求めているものは…これではないはずだから
●
花園・樹(ペンを剣に持ち変えて・h02439)は、狗神を呼び出して一緒に探し歩きながら、結那の境遇に、彼女の父親に思いを馳せる。
(大人だから、親だからとは言え完璧な訳じゃない……勿論そうだ)
誰だって、いくつになっても失敗や間違いはある。繰り返しさないように学び、繰り返しても取り返しがつくようならきちんと正し、無理ならばせめて償いを、そうして日々は進んでいく。結那の父親の過ちは誰でも起こし得ることだ。
それに樹はよく知っている。幼い子供達が保護者に人一倍強い信頼感を寄せる事を。それがどんなにひどい親でも、冷たくされても尚、愛されることを、抱きしめてもらえることを期待していることを、|仕事《小学校教師》柄よく知っているのだ。
(……父親にぶたれ、水をかけられ。安心できる場所に保護されてもなお、一途に父を想う彼女のことを思うと……胸が痛む)
だから、今も悩んでいるだろう結那に手を差し伸べたいと思うのだ。
「なんとか……してあげないとね」
そのためにはすべきことがある。
「彼女の所へたどり着くにはまずは|あれら《ふわもこ》を集めないといけない、と」
「わふーん」
「……あっ、咥える力には気をつけて?! ありがとう」
もふもふした狗神達が首のあたりを咥えて連れてきたのは、手に収まるくらいのぬいぐるみっぽい何かだ。ぴんと耳を立てた犬っぽいそれは、あぐっと甘噛みを少し強めるイヌガミに哀れっぽく鳴いてみせたので、樹は少し慌てて受け取った。そのまま少しもふもふと揉んで見る。
「わふ」
「なるほど」
犬っぽいそれは、もこもこふわふわの長毛種っぽい毛並みだった。ふわっと柔らかい毛並みの奥に、ぬくもりを持った綿のような感触がある。軽く抱きしめてみれば、柔らかな安心できるような香りがした。
(確かになんだか癒される……気はするけれど)
お気に入りの毛布やぬいぐるみを抱えて安心する心地に近いだろう。寄り添うように擦り寄って、つぶらな目でゆっくり見てくるのも悪くはない。
こちらもどうぞ、もふもふですよ、と寄ってくる狗神達も褒めるように撫でつつ、樹はふるりと頭を振った。
(悪くはないけれど、きっと彼女が本当に求めているものは……これではないはずだから)
多分、結那は抱きかかえるよりも抱きしめてもらいたくて。撫でるよりも、撫でられたくて。好きだよって言ったら、好きだよって返してくれる。
そんなぬくもりの、はずだから。そんな彼女を見つけて手を差し伸べたいと思うのだ。
そうして、樹も狂気の迷路を見つけ出す。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『狂気迷路』

POW
壊す
SPD
駆ける
WIZ
見つめる
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●残響
迷路の入り口に立てば、少し前の会話の残響が感じ取れる。
結那は入り口に咲き誇る薔薇に怯えるように、猫のようなふわもこを抱きしめた。
「なんだか、このバラちょっとこわい」
「そうかもしれませんね。これは神様の触手を薔薇で象ってるそうですよ」
「そうなの?」
薔薇の前でソフィアは朗らかに笑った。結那はその笑顔に、ちょっとだけ安心したようにふわもこを抱きかかえる腕の力を緩めていた。
「はい。これから会う怪異のお母さんみたいな人で、うねうねした触手もチャーミングな方ですよ」
「お父さんの神様に似てるかも。お母さんみたいな人で、くばりふ様って言うんだって」
「あら」
「私を産んですぐ死んじゃったお母さんみたいな、皆のお母さんみたいな、神様。私もいつかみこ?になるために厳しくするんだって」
「そうだったんですね。もしかしたら、Ms.結那は今から会う怪異と縁があるのかもしれません」
「そうかな」
「迷路の中は色々ありますが、もし怖くても無理はしなくて大丈夫ですよ! 目をつぶっていてもいいですからね?」
「うん」
ソフィアはそう言って、結那の手を引いて迷路に入っていく。
●それは美しくも悍ましく
迷路はツギハギのような世界だった。
入り口は美しい蒼い薔薇が隠すように咲いていた。けれど見ているだけでどこか不安定になるような、悍ましさが隠されていると感じ取れる場所だった。
中に入ればひどく連続性のない場所だ。名状しがたい何かが左を這いずったかと思えば、右には清浄すぎて早く立ち去りたいと感じるほどの白い壁と扉に変わる。前を向けば、赤い液体と肉色の欠片が飛び散ったた床に、散らばる黒く焦げた瓦礫達。
進めば美しい男女が暖かく迎え入れる絵画の描かれた壁があるかと思えば、無数の色と音で埋め尽くされた空間もある。深淵から見つめてくる目玉に、深海が空となった道もある。
壊して進むか、周りを見ずに駆け抜けるか。法則性があるかと狂気を見つめるか。
それは、自由だ。

猫と魚のふわもこ達を抱えたまま迷路を歩む
依頼を通してこういう迷宮には少しずつ慣れてきたけど、不気味なのは間違いない
(連れてきて良かったかも……)
怪異ではあるけど、腕の中のふわもこ達には救われている気がする
レギオンスウォームでレギオンを飛ばし、周囲を探りながら歩を進める
狂気を見つめることになろうとも、精神抵抗や狂気耐性、ふわもこをぎゅっとすることで抗いながら正しい道を選ぶ
ツギハギの道を進んでいきながら、結那もここを通ったんだろうかと考える
小学生の女の子には刺激が強すぎる気がするけど……そこは、ソフィアがフォローしたんだろうか
こんな迷宮を見ても、まだ平和的に解決したいと思う気持ちは変わらないな
●
クラウスは先程回収した猫と魚のふわもこを抱えて、レギオンと共に路を進む。
けらけら笑う不定形の何かが蠢く通路を抜け、星空の中を歩いて進み、下で異形が蠢くガラスの床の上を歩く。センサーで感じるもの、感じ得ないものどちらも心をぐらぐらと揺さぶって削ってひっくり返してくるようだ。
それでも足は止めず、揺るぎそうな精神を保ちながら、なんとも不気味でときに恐ろしいほどに美しい迷路を進むクラウスは、手の中のふわふわとつるすべを抱きしめた。
「ぬこー」
「ふぃしゅー」
「うん」
先程とはまた違う、気の抜けるような鳴き声をするふわもこはなんとなく気持ちを安らがせてくれる。彼らを撫でていると、少し心が解れていくようだった。
(連れてきて良かったかも……)
謎ではあるが伝わるぬくもりだったり、なめらかな手触りだったり、ほのかな優しい香りだったり。そういう要素がクラウスの張り詰めた気持ちを張り詰めすぎず、精神がゆるいでひっくり返るのを防ぐ手伝いをしてくれる。
星詠みからの依頼を通してこういった不思議で不気味な迷宮には少しずつ慣れてはい来たけれど、それでも不気味さはいつだって心を揺るがせてくるものだから。精神を強く持ち、得てきた知識や慣れによる耐性で踏みとどまる救いをふわもこはもたらしてくれている気すらするのだ。
(結那もここを通ったんだろうか)
ふわもこをぎゅっと抱え直しながら、この迷路を通ったであろう少女に思いを寄せる。
クラウスは、狂気から目を逸らさず進むうちに気づいたことがあるのだ。迷路の中心に向かうだろう道はより狂気が深まっていくことに。
(小学生の女の子には刺激が強すぎる気がするけど……そこは、ソフィアがフォローしたんだろうか)
ふと、ささやき声が聞こえた気がした。ふわもこを抱きしめ直してクラウスは耳を傾ける。
「少し目を閉じて、耳を塞いでくださいね」
「うん」
少女と女性の残響だ。ソフィアはそうっと結那の頭を撫でて軽く魔術を使ったようだった。彼女を守るそれを使ってから、ソフィアは結那をよいしょと抱きかかえ、肉塊の間を歩いていく。結那にくっついたふわもこも、結那を安心させるかのように擦り寄っていた。
(……こんな迷宮を見ても、まだ平和的に解決したいと思う気持ちは変わらないな)
ソフィアは結那を大切に扱っているようだったから。ふわもこもなんだか寄り添っているようだったから。
できれば結那のためにも穏やかに終息してしてほしいものだ、とクラウスは消えた残響の後を追うように歩を進めるのだった。
🔵🔵🔵 大成功

みんなのおかーさん、ならばボクのおかーさんでもあるんだろうか
例えば、人間としてのボクのおかーさんはおかーさんだけど、幽霊としてのボクのおかーさんはその神様かもしれない
なんて、無意味な考えだけども
迷路を壊さず、のんびりと行くでごぜーますな
結那さんと話すなら、きっと理解を深めた方が良いでごぜーますし
狂気に飲み込まれそうなら精神分析(物理)でごぜーますよ
まー最低限道に迷わないように「野生の勘」は働かせておくでごぜーますが
ついでお口がある通路があれば『使い始めたばかりの奉仕道具』からクッキーを取り出してあげてみるでごぜーますな
連携アドリブなど歓迎でごぜーますよ
●
(みんなのおかーさん、ならばボクのおかーさんでもあるんだろうか)
先程聞こえた残響に、十はしばし心が揺れ動く。もし結那が語ったような母性に満ちた存在ならば、今の十をも優しく抱きしめてくれるのだろうか。
(例えば、人間としてのボクのおかーさんはおかーさんだけど、幽霊としてのボクのおかーさんはその神様かもしれない)
その神様ならば、怪談にもなれなかったただの幽霊の孤独な十を見つけたら、そばにいて愛しくれるかもしれない。そのために十は苦しい人の生を終えたあともこの世界に留まって、満たされずにさまよい続ける幽霊になったのかもしれない。
(なんて、無意味な考えだけども)
蒼黒い触手の這いずる床をのんびり眺めながら飛んで進み、家族の団欒の聞こえる夜道を音もなく通り過ぎ、上下が逆さまになる部屋をのんびりと潜り抜け、十は迷路を行く。
時折聞こえる、残響を聞きながら。
「ぐるぐる?」
「そうですね。ぐるぐるなので、しんどかったら目を閉じてて大丈夫ですよ」
「うん」
ソフィアが極彩色の部屋を、目を閉じた結那の手を引いて歩いていく。
「Ms.結那はお父さん好きですか?」
「うん。好き」
「ひどく怒られるのに?」
「怒ってるお父さんは、怖いけど。抱きしめてもらえて、撫でてもらえると暖かくて安心するの」
ぎゅっと片腕に抱えたままのふわもこに顔を埋め、結那は言う。
「結那がいい子になれるように怒るんだって。結那がいい子なら、褒めてくれるから。いい子でいれば、きっと」
「そうですね——……」
ソフィアは苦い笑みを浮かべ、何かを言おうとしていたけれどそこで残響は消えてしまった。
十はその記憶を受け止め、また進む。こういった残響はあちらこちらにあるだろう。結那を理解するには十分なほどに。
最低限道に迷わないように、けれどゆっくりと会話のかけらを拾いながら。結那が父親を好きなこと、けれど今は離れて施設で健やかに過ごしていること、周りの人も子供もいい人だということ、お父さんは間違っていたこと、けれどやっぱり、お父さんと一緒にいたかったこと。
「ちょっと、わかるな」
けらけら楽しげに笑っている壁や床の口にクッキーを放り込んで、「Very Good」と褒め言葉を貰い、召喚場への道を教えてもらった十はまたふわふわと進んでいく。
十もどんなに苦しくたって、おかーさんと一緒に居たかったのだ。結那もそうだったのだろう。結那が健やかに育つなら、保護された方が良かったこともわかってはいるけれど。
「さて、どうしたらいいでごぜーますかねー」
🔵🔵🔵 大成功

これが迷路なのね
……少し、わたしと似ているかもしれないわね
わたしも今でこそ|店長《マスター》のおかげでこの姿でいられるけれど
ほんとうのわたしは、ただのぐちゃぐちゃの影だから
だから、なんだか迷路には懐かしいような心持ちがするかもしれないわね
……とはいえ、狂気の迷路だもの
先を行く結那ちゃんは無事かしら、心配だわ
心を壊されたりしていないといいけれど
わたし自身は、敵が出てきた時のためにも|Black Russian《影の斧》を片手に迷路を進もうかしら
とはいえ、こんな姿見られたら、こちらが怖がられてしまいそうね、ふふ
一応手にしてはいるし心配なら構えるけれど、敵らしきものがいない限りは使わないわ
穏便に、ね
●
シェリは敵が出てきた時のために|Black Russian《影の斧》を片手に、先程と同じパーカーとワンピース姿で歩いていく。
(これが件の迷路なのね)
誰もいないのに遊ぶ子供の笑い声だけが聞こえる道を辿り、足音すら響かない静謐の曲がり角を曲がり、続く鉄臭い液体がひたひたと押し寄せる床を踏んで、明るく照らされた夜の街の路地を行く。
幾つもいくつも、時に自然に、時に不自然に混じり合って不思議で狂気が押し寄せる場所を
(……ここは少し、わたしと似ているかもしれないわね。わたしも今でこそ|店長《マスター》のおかげでこの姿でいられるけれど)
今のシェリは流れる絹糸の髪に艶めく桜桃色の瞳の美しい少女の姿だが、本来の姿はこれではない。
(ほんとうのわたしは、ただのぐちゃぐちゃの影だから)
見る者にとって一番好ましい、美しい姿を見せているときは可愛らしいものだ。その時ですら世界を揺るがすと称えられることもあるが、シェリの本質は影だ。ともすれば何よりも恐ろしいと、狂わせることすらできるシェイプシフター。
(だから、なんだか懐かしいような心持ちがするかもしれないわね)
まぜこぜの迷路、進むたび変わる不安定な場所。美しさも恐ろしさも内包して迷わす場所。なんだかシェリによく似ていた。
(……とはいえ、狂気の迷路だもの。先を行く結那ちゃんは無事かしら、心配だわ。こんな場所ばかりで、心を壊されたりしていないといいけれど)
そう考えていると、迷路に残った残響が届く。
「Ms.結那、大丈夫ですか?」
「うん。ちょっとくらくらするけど平気」
「なるべく穏当な道を通ってますが……慣れてませんしね。チョコ食べます?」
「いいの?」
「はい。食べたらまた私が運びますよ。ここは目と耳を塞いでいていいですよ」
ソフィアは結那へとチョコを差し出し、そっと頭を撫でていた。残響が消える前に見た結那の顔は、疲れてはいてもどこかわくわくして、元気そうだった。
残響が消えれば、通路に満ちた悍ましい粘液状の物体が蠢き、道を閉ざすように持ち上がるのを手にしたBlack Russianで切り払ってまた前へと進む。
「元気そうでよかった……とはいえ、こんな姿見られたら、こちらが怖がられてしまいそうね、ふふ」
ころころと鈴を転がすような美しい声で笑って、シェリは斧についた粘液を振り払う。使わないにこしたことはないのだ、できるなら穏便に行きたい。
Black Russianを手に、シェリはまた先を進む。確実に結那達へと近づいていた。
🔵🔵🔵 大成功

花園・樹 (h02439)と同行。
アドリブ大歓迎。
欠落:恐怖心なので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能も積極的に使う。
これが迷路入口かあ。薔薇の棘が地味に痛い。
√能力の枝切り鋏で刈り込んでいたら、花園君が来た!
花園君、丁度いい所に来たねえ。
先行してる例の人物、君のイヌガミ君に後を追わせられるかな。
迷路の中はおそらく認識阻害もかかってるだろう。僕も調べて回ろう。
ほら、ここの人物画の目、さっき動いたから突いたら何か起こるかなと。
この水たまり底が無いようだよ。覗き込んだら何か居た。掴まえようと手を入れたり。
好奇心に任せて調べては罠を発動させたり何かに呼び込まれたり。
楽しくなってきたね、花園君!

友人の北條(h01096)と
いやまさかこんな所で会うとはなぁ
私は被害者の子に手を差しのべたい一心でここに来たから…怪異のプロフェッショナルがいてくれるのは心強いよ
ツギハギ迷路か。奇妙建築にも似ている気がするけれど…とにかく慎重に進むに限るね
狗神に追跡を?あぁ、勿論可能だよ
√能力で狗神達を呼び出し数匹に先行する人物を追跡させる
残りの狗神は共に周辺調査
…が、心強いはずの同行者は自分とは目的もやり方も真逆だったりする訳で
待って!人物画に目潰しとか絶対ダメでしょ!?
底のない水溜まりって…それ確実に底無し沼だよね!?
好奇心の塊を狗神達と必死で静止するも巻き添えを食らいながら進む
楽し…まぁ…ねっ!?(涙目
●
「うーん。棘が地味に痛い」
春幸はじゃきん、じゃきんと枝切鋏で美しくも悍ましい青薔薇を刈り込む。
「こうしたらちょっと猫っぽいかも? あ、この薔薇も怪異なんだろうか」
それならジャムとかにしたら食べられるかなぁと、春幸の思考が食べる方へとシフトしかけたときに、後ろから声がかかる。
「北条?」
「やあ花園君」
偶然同じ依頼に参加していた友人、樹がイヌガミと共に追いついたのだ。
「いやまさかこんな所で会うとはなぁ。私は被害者の子に手を差しのべたい一心でここに来たから……怪異のプロフェッショナルがいてくれるのは心強いよ」
「ああうん、そうだねぇ。早く追いかけなきゃいけないね」
「そうだな」
結那を心配し、早く行かなくてはと思う樹は、春幸の怪異を食べたいなの気持ちにはまだ思い当たっていない。心配している樹にそうだった、と春幸は鋏をしまう。
「花園君、ほんと丁度いい所に来たねえ。先行してる例の人物、君のイヌガミ君に後を追わせられるかな」
「狗神に追跡を? あぁ、勿論可能だよ」
ついでに青薔薇をそっと回収しつつ春幸が問えば、樹はそばに控えたイヌガミに視線を向ける。イヌガミは期待に応えるように任せてくださいとむふんとした。
さて二人とたくさんの狗神達が迷路へと足を踏み入れれば、そこは狂気に満ち満ちた迷路だ。
人体の個々のパーツが気ままに動き回っていた通路があるかと思えば、穏やかな日差しの草原の部屋があり、その先には暗い暗い道がある。様々な光景が広がるけれど、一点共通するのはどこか狂気を感じさせる光景だということだ。
結那やソフィアの通った痕跡がないかを数匹狗神を先行させ探させながら、残りの狗神と樹は周囲を確認する。
「ツギハギ迷路か。奇妙建築にも似ている気がするけれど……とにかく慎重に進むに限るね。うっかり狂気に堕ちたら危うい」
「うん。おそらく認識阻害もかかってるだろう。僕も調べて回ろう」
ちょうど二人が行き当たったのは無数の肖像画が両側の壁に飾られた通路だ。タッチも画風も素材も様々だけれど、どの絵も視線が春幸と樹を追いかけてくる。ただじっと見つめられるという居心地の悪さと気味悪さを感じた樹は、次の瞬間驚きの速さで春幸を見た。
「えい。あ、意外とあったかい」
「待って! 人物画に目潰しとか絶対ダメでしょ!?」
「ほら、ここの人物画の目、さっき動いたから突いたら何か起こるかなと」
「出てきたらどうするのさ!」
「大丈夫そうだよ、あ、こっちは油絵の具っぽい」
ちょっとー迷惑なんですけどーとか、人の心とかおいてきたんか?と言わんばかりの視線が春幸と樹にビシバシ突き刺さる。春幸は全く気にせず次々と目潰しをしていくが、樹は気が気ではなかった。慎重にという言葉、全然聞いちゃいない。
全肖像目潰し達成のアチーブメントを取りたそうな春幸の首根っこを掴み、じっとりした視線に頭を下げながら樹が通路を抜ければ、今度は水たまりの間に足場が渡された通路だった。それなりに大きな水たまりもあれば、狗神の手が入るか入らないかといった小さな水たまりもあった。
「花園君、この水たまり底が無さそうだよ」
引きずられたままの春幸しげしげと水たまりを見つめている。確かに水たまりの底は深く深く、薄暗く水の気配が満ちていた。
「なら落ちないように……って何してるかなぁ!?」
掴んでいた手を離した樹が足場の安全性や道行を確認しようと目を離した数瞬の間で、春幸はやや広めの水たまりに上半身を突っ込んでいた。服の裾を狗神が噛んで必死に引き止めている。
「ごぼがぼ」
「底のない水溜まりってそれ確実に底無し沼だよね!? 早く上がってきなさい!」
「がぼ。いやあ、覗いてたら何か居たから、捕まえようかと思って。魚っぽいのと宇宙っぽいのだったよ。食べられるかなぁ?」
「まずは救出優先で……!」
好奇心に従いまくる春幸は、樹に引き上げられながらも朗らかに中の生物に興味をそそられっぱなしだ。能力がある分、小学生より行動力もある春幸に樹はどうにもこうにも目を離しにくい。ほっといても無事だろうけど心臓に悪すぎる。
「あ、こっちは壁の中通れるよ」
「待て待て待て、出れなかったらどうするんだ」
「そっちに美味しそうな果物があるなぁ。下のいかにもな食肉植物と一緒に食べれるかな?」
「お腹壊しそうな興味は置いておいて、頼むから!」
好奇心のまま突っ込んで罠を起動したり何かに呼び込まれたりする春幸に、巻き込まれる樹はそれでも順調に迷路をたどる。
「ソフィアお姉さん、このスイッチ押しちゃだめなの?」
「すごい押したくなりますよね。押します?」
「うーん、やめとく。進めなくなったら押したいかも」
「Ms.結那は慎重派ですね。それもあなたの良い部分ですよ」
「えへへ」
時折先行者の残響を聞きながら。
「あの二人もここを通ったみたいだね」
「あ、このスイッチかな。えい」
「あああ、窓に窓に!」
トラップを発動させながら春幸は満面の笑みだった。あふれる好奇心が刺激されっぱなしである。
「いやあ楽しくなってきたね、花園君!」
一方の樹は涙目である。
「楽し……まぁ……ねっ!?」
樹が春幸とは探索のやり方は真逆だし、この調子だと目的も真逆だろうということを入り口で思い当たっていれば、もう少し心労は少なかったかもしれない。
それでもなんとか二人で召喚場へとたどり着くのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『連邦怪異収容局員『ソフィア・ジョンソン』』

POW
知らないはずの怪異の記憶
知られざる【怪異の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
知られざる【怪異の記憶】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
SPD
うねうねも可愛いですよ?
【クヴァリフの仔の触手】と完全融合し、【触手】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
【クヴァリフの仔の触手】と完全融合し、【触手】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ
おいで、可愛い怪異達
自身のレベルに等しい「価値」を持つ【非実在怪異『ふわもこ』】を創造する。これの所有者は全ての技能が価値レベル上昇するが、技能を使う度に13%の確率で[非実在怪異『ふわもこ』]が消滅し、【消滅の悲しみ】によるダメージを受ける。
自身のレベルに等しい「価値」を持つ【非実在怪異『ふわもこ』】を創造する。これの所有者は全ての技能が価値レベル上昇するが、技能を使う度に13%の確率で[非実在怪異『ふわもこ』]が消滅し、【消滅の悲しみ】によるダメージを受ける。
●そうしてたどり着いた先の彼女達は
結那を守りつつ召喚場に到着したソフィアは、ほのかに広まっていた噂で少ないクヴァリフの仔を召喚した。
「あらちょっと少ないですねー。先んじて回収されましたかね?」
「わーうねうね」
「ぶよぶようねうねですよ。可愛くないです?」
「うーん?」
うにょうにょぶよぶよ蠢くクヴァリフの仔を指してにこにこしているソフィアに、結那は腕の中のふわもこと同じ角度で首を傾げていた。
「うーんとキモかわいい? 気持ち悪いけどかわいいというか。うねうねしてるしぶよんぶよんしてそう」
「触ってみます?」
「みるー。わーぶよぶよ」
「ちょっと気持ちよくないです?」
「かもしんないーくらげとかなまこみたーい」
きゃっきゃと和気あいあいしているその現場に、√能力者達も到着することになる。
「あら、いらっしゃいませ! 怪異に興味はおありですか? 一緒にお話しましょう!」
ソフィアは皆を朗らかに迎える。
彼女の言うように怪異について語るもよし、怪異をばらまくのは良くないと窘めたり、クヴァリフの仔を渡せないと戦って退かせるもよし。ソフィアは片手間に相手をし、結那と話すのを主にするのもいいだろう。

「……興味があるというか、何と言うか……」
全く敵意の無い様子に困惑しながら頷いて
「このふわもこ達をばら撒いたのは君だよね?」
腕の中のねことさかなを見せながら確認
怪異を広げるのは良くないんだけど、別に誰も困ってないんだよな……
「すごく、可愛いなと思って。連れて帰っても大丈夫?」
迷った末に結局そんな言葉に落ち着く
ふわもこ誕生の経緯とかを語ってくれても楽しく聞けそうだ
結那にも話しかけよう
「君のふわもこも、可愛いね」
「……その子がいたら寂しくないかな」
心配ではあるけど、寄り添ってくれる相手がいるなら大丈夫かな……
クヴァリフの仔の回収は可能なら行う
この平和な空気を壊したくないから、無理強いはしないよ
●
「……興味があるというか、何と言うか……まあないわけじゃない、けど」
「にー?」
「ぎょ?」
全く敵意の無い様子に、クラウスは腕の中にふわもこの、ねこっぽいのとさかなっぽいのを抱えたまま困惑しながらも頷いてソフィアと結那のそばへと近づいた。彼女達へと腕の中ですっかり落ち着いた風情の二匹を見やすいように掲げて見せる。
「このふわもこ達をばら撒いたのは君だよね?」
「はい! この子達は危険度も低いですし、初めての怪異としておすすめしてるんですよ。可愛いでしょう?」
「そうだね……確かになんだか癒やされるよ」
にこーと楽しげに笑ってソフィアは頷いた。彼女は怪異が大好きなので、怪異の話ができる人とは仲良くしたいというのが伝わってくる。
(いや、怪異を広げるのは良くないんだけど、今のところは別に誰も困ってないんだよな……)
腕の中のねことさかなを軽く撫で、見上げてくる彼らを見つめ返して。クラウスはしばし迷った末に顔を上げて、ソフィアに問いかけた。
「うん、すごく、可愛いなと思って。連れて帰っても大丈夫?」
「大丈夫ですよ、個体によっては人をだめにしちゃう子もいますが」
「だめにしちゃう?」
「はい。癒やしすぎてだめにしちゃう。その子達は程よい感じの子ですし、√能力者さんなら平気でしょう! 攻性インビジブルみたいなものなので、管理はしっかりお願いしますね」
全くの善とは言えない存在だった。けれど同じ方向に体を傾けて見上げてくる存在をいらないというのももう出来はしない。クラウスは頷いて、腕の中のねことさかなを引き取ることにした。
同じように猫っぽいふわもこを抱えている結那にクラウスは話しかける。
「君のふわもこも、可愛いね」
「うん。ぬこちゃんかわいいの。ふわふわであったかい」
ちょっとだけ人見知りをしながらも、ぬこーと無くふわもこに励まされて結那はクラウスに頷いた。
「……その子がいたら寂しくないかな」
「えっと、今いるところには、連れていけないけど……たまに会えたら、いいなって」
「ぬこー……」
「そっか。会って仲良くしたいよね」
「Ms.結那、連絡先交換しましょうね。写真を送りますし、タイミングが合えば会いに行きますから。ぬいぐるみも送りますよ」
ソフィアはそっと少しだけしょんぼりした結那を撫でる。クラウスもその傍らで、少女へと優しく頷いた。
「でもね、今いるところにもね、猫いるんだよ。ぬっこちゃんみたいにかわいいの」
「うん」
「お父さんはいないけど、施設の先生とか、友達とか優しいの」
ゆっくり今の生活を語る結那に頷きながら、クラウスはそっと少し安堵する。
(心配ではあるけど、寄り添ってくれる相手がいるなら大丈夫かな……)
非日常の経験の中でもふわもこに癒やされ、ソフィアに守られ。これまでに父親以外の結那の周りの人が彼女に寄り添ったからこそ、今の結那は笑って話せるのだろうから。
クラウスはそっと目を細め、柔らかい表情をした。きっと、大丈夫だと思えたから。
「あ、ふわもこ誕生の経緯って二人は知ってるかな」
「私もよく知らないんですよ。でも類似の存在をまだ見つけていないだけかもしれません!」
「ぬこちゃんも謎存在?」
「ええ。Ms.結那、Mr、彼らはどうやって来たと思います?」
ソフィアの問に結那は腕の中のふわもこをもみながら悩み、クラウスはクヴァリフの仔をひとつ拾い上げる。
「案外、この仔みたいに召喚されたとか?」
「なるほど、私も出会った子を回収して似たようなことしてますし! もともとどこかで発生した子達がいたのかもしれませんね」
「えっとぬいぐるみから生まれた、とか。ふわもこだし」
「ありえますね! 大事にされた子達が動きたくて、怪異になっているのかも」
ほのぼのと見解を意見や思いつきを話す中、クラウスは手にしたクヴァリフの仔をそっとしまうのだった。
🔵🔵🔵 大成功

怪異に興味あるというかボク自身が怪異みたいなものなんだけどね
長期休暇の前日に体育倉庫に閉じ込められて、誰にも見つけてもらえず餓死した子供がボク
おかーさんにいっぱい傷つけられて、ご飯をもらえなかったけど、それでも最期までおかーさんが迎えにきてくれることを期待してた、怪談になれなかった幽霊
ねぇ結那さん、おとーさんのこと好き?まだ会いたい?
ボクは、こんな姿になってもまだおかーさんが好き
だから、もしあなたがおとーさんに会いたいならボクはそれを手伝うよ
そんなふうなことを結那さんに話て、必要なら虐待された跡の両腕も見せます
ところでジョンソンさんにボク捕まらないよね?
アドリブなど歓迎でごぜーますよ
●
「怪異に興味あるというか、ボク自身が怪異みたいなものなんだけどね」
歓迎して迎えるソフィアに、十は目の前でふわりと浮いてみせた。
「長期休暇の前日に体育倉庫に閉じ込められて、誰にも見つけてもらえず餓死した子供がボク」
淡々と、深い場所から響くような声音で。ひやりと体温を感じさせない、冬のどこまでも冷える部屋の中のような雰囲気で、十は語る。
「おかーさんにいっぱい傷つけられて、ご飯をもらえなかったけど、それでも最期までおかーさんが迎えにきてくれることを期待してた、怪談になれなかった幽霊」
どう、と小首を傾げて見せた十にソフィアはぱあっと明るい笑顔になった。
「あら、素敵ですね! おそらくゴーストさんだと思いますが、大変な目にあわれて苦しくて、それでも簡単に人を害する存在にならなかった素敵な方じゃないですか。怪異に近しい存在になったというのもいいですね。抱きしめさせてくださいな」
「えっと、うん……そうかなぁ……抱きしめられるのは、今はいいかな」
彼女は十のことを優しく、どこか興味深そうに見つめている。どこまでも明るく素敵ですね頑張りましたね、と褒めてくる反応に、十はこの人大丈夫かな、と考えてしまった。ちょっと捕まえてきそうな勢いすら感じる。
一方の結那は眉を下げて、十のことを心配している。
「えっと、今も大変? お腹空いてる? おやつ、キャンディならあるよ?」
ポケットをパタパタ探し、ようやく見つかったキャンディを手のひらに乗せて差し出してくる結那に、十は立ち直って首を横に振ってみせた。
「ありがとう、大丈夫だよ。……ねぇ結那さん、おとーさんのこと好き? まだ会いたい?」
「うん。好き。会いたいな」
十に聞かれた結那は、腕の中のふわもこをぎゅっと抱きしめて頷く。そのあとにはこう続くのだろう。でも、会えないのだと。
「ボクも、こんな姿になってもまだおかーさんが好き」
「迎えに、来てもらえなくても?」
「うん」
「ご飯、もらえなくても? お腹すくの、大変なのに」
「うん。それでも好きだよ」
「そっか」
結那は十へと気遣うように手を伸ばした。その手に応じて十も袖をまくり、手を伸ばす。
袖口から垣間見えた虐待の傷跡に痛そうな顔をした結那の小さい手に、ひんやりした実体のない手を重ね、十は先程とは違う、真摯な優しい声で声がけする。
「だから、もしあなたがおとーさんに会いたいならボクはそれを手伝うよ」
会いたい気持ちがわかるから、と。
「……あいたい」
くしゃりと結那の顔が歪む。結那がいずれ危ないのだ、離れなきゃいけないと聞かされて。それに納得して、保護されて、今は痛くも苦しくもない生活を送ってはいるけれど。
でも、父親の腕に抱きしめられた温かさや、優しく撫ででもらった安らかさはなくなってしまったのだ。寂しさは完全に埋まることはない。
「いつかあえるかもって、でもいつかは、いつかわかんなくて」
「うん」
「たのしいし、いたくないけどおとーさんいないのつらいぃ……」
結那はぼろぼろ涙をこぼす。結那を思いやって父親のそばにいなくてよかった、という友達もいたからこそ言えなかった、頑張ったねと結那を褒めてくれた大人には言えなかった本音だった。
ソフィアに連れ回されて心が揺さぶられ、ふわもこで緩んだそこに同じような経験をした十が寄り添って、ようやく顕にできた本音だった。
「すぐは、難しいかもしれない。いつかになっちゃうけど、でも絶対に会えるようにするから」
「うん」
ぐずぐず鼻を鳴らす結那の頭を、十は実体化してそっと撫でてやった。ソフィアはそんな二人をそっと見守って、結那が落ち着いた頃合いで涙をハンカチで拭きながらおどけつつ、本気をにじませた声で言った。
「Mr.は素敵な方ですね。どうでしょう、うちに収容されません?」
「それは遠慮するでごぜーますよ」
「残念です」
🔵🔵🔵 大成功

アドリブ大歓迎。
欠落:恐怖心なので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能を積極的に使う。
花園・樹(h02439)と参加。
召喚場に着いたらクヴァリフの仔が!
早速彼女と怪異トークだな。
花園君の【白気】も利用
その後仔を回収してあわよくば一匹くらい…花園君に止められそうだな。
花園君、あの少女は頼んだよ。
可愛いねえ、クヴァリフの仔。
召喚て生贄がいなくても行けるんだ。方法聞きたいな。
以前子犬みたいな性格の仔に会った事あるよ。
個性的な個体もいるみたいだね。
怪異食の話題は理性で封印。
仔を回収するために!
√能力で怪異の可愛さをじっくり語り、ソフィアのツボに必中の語りをしようか。
満足して仔を置いてお引き取り願おう。

北條(h01096)と
北條、怪異の方は任せるよ
…ああ、勿論。もし有効そうなら私の√能力も活用してくれ
白気を使用
少しでも安心してもらえるように
彼女は自身の父に『正しくないことがある』事に気づいている
でも…具体的にそれが何なのか分からないのだろう
もし結那ちゃんが友達に怪我をさせてしまったらどうする?
たとえ君が友達に怪我をさせる気がなかったとしても謝るよね?
じゃあ…君のお父さんは?
君をぶったとき…謝ってくれただろうか?
お父さんにはごめんなさいを言えるようになる練習が必要なんだと思う
君の周りには助けてくれる人が沢山いる
その人達の力も借りていつかお父さんと一緒に暮らせる日が来たら…先生は素敵だと思うんだ
●
到着した召喚場では、すでにクヴァリフの仔が現れていた。色んな意味で気になっている怪異の存在に、迷路を生き生きと突破して気が春幸の目が輝きを増す。
もちろん、そこにはソフィアと結那もいる。怪我もなく、どこか楽しそうに正気のままでクヴァリフの仔をつつく結那に、樹は迷路と暴走した同行者で若干疲れた心を立て直した。
二人に近づく前に、春幸と樹は頷きあう。
「北條、怪異の方は任せるよ」
「うん。花園君、あの少女は頼んだよ」
「……ああ、勿論。もし有効そうなら私の力も活用してくれ」
樹の雰囲気が変わる。大人の落ち着きを、優しさを示すような表情でその人が持っている感情へと干渉する。もとからある信頼感、安心感を増幅して話しやすくしようというわけだ。
●
頼りがいがあるなあと春幸はいっそう安心し、結那を任せてソフィアの方へ足を進めた。うきうきした足取りは隠しきれず、にこにこ歓迎するように待っている彼女へと近づいていく。
「可愛いねえ、クヴァリフの仔」
「でしょう? うねうねぶよぶよで、見た目もちょっとグロテスクに近い仔も、ファンシーな仔もいるんですよ」
怪異について興味のある人への信頼感をいっそう増やしたソフィアは、きらきらと魅力的な笑顔で春幸に応じる。彼女にわくわくした気持ちを隠さず、クヴァリフの仔をうっとり見つめながら春幸は会話を続けた。
「以前子犬みたいな性格の仔に会った事あるよ。個性的な個体もいるみたいだね」
「ええ。性格も元気の良さも結構違っていて、見てるだけでも飽きないです」
「不思議だねぇ。そういえば、召喚て生贄がいなくても行けるんだ。その方法聞きたいな」
聴ければ春幸でも召喚できるかもしれない、食材研究が捗るかもしれない、と目に期待の輝きをプラスして問いかけてみるが、ソフィアは笑ったまま首を横に振った。
「ふふ、それは母なるクヴァリフに聞いてみてくださいな。あなたが知ったあと、偶然や脅迫などで心無い人に伝わって、野良クヴァリフの仔が生まれたら可哀想でしょう? 事態の責任を取れるように、私は私のやり方を教えないことにしてるんです」
「そっかー。クヴァリフの仔に(食材的な意味で)興味あるんだけどなぁ。怪異好き仲間でも教えてはくれたりしない?」
「ええ、仲間でもです。ごめんなさい」
「そっかぁ……」
しょんぼりしてみせた春幸を元気づけるように、ソフィアはクヴァリフの仔を差し出した。
「今はこの仔達を愛でてみませんか? ほら、この仔はちょっとおっとりしてる仔みたいで、割と自由に触らせてくれますよ」
「わあ本当だ。前に触った仔よりもちょっと柔らかいかも? そっちの仔はちょっと弾力感強めかな?」
「そうですね、動きも心なしかうねうねが強めです。元気ですよね」
「見た目もちょっとずつ違ったりするのかな」
「並べて眺めてみます? ほらかわいい!」
案外個体毎に違いがあるようで、さて美味しく料理するにはどうしようかな、なんて一瞬考えながらもその話題はしっかり封印して口にはしない。ソフィアが食べちゃいたいほど好きというタイプとは限らないからだ。
きゃっきゃとクヴァリフの仔の良さを一緒に語れることに嬉しそうなソフィアへ、春幸は怪異の可愛さも語り始める。
「こんな可愛いのもいれば、普通と違うところ、神秘にも似た存在、背中が震えるようなものもいるよねぇ。先輩から聞いた話だと——」
美味しそうな話は少しだけにしておいて、ソフィアにとっての怪異の魅力どこになるかを探るように。
「素敵な怪異ですね! あ、話に出たチップスは美味しそうです。食べてみたいですね」
「興味ある? 1枚どうぞ!」
「不思議な味わいで手が止まらないですね、美味しいです!」
このソフィアは怪異を食べることを主目的にはしないが、材料に使用されることに拒否感もなかったようだ。ぱりぱりさくさく食べる彼女に春幸はチップスの魅力を語りながら、クヴァリフの仔はそっと懐へとしまっておく。
(一匹くらい持ち帰る……いや、花園君に止められそうだな)
今回も自由にできそうなクヴァリフの仔は手に入らないようだった。
●
一方の樹はできるだけ力になりたい、と最初の気持ちを改めて中心に据え、結那へと近づいて傍らにしゃがむ。彼女と目線を会わせ、優しく笑ってみせた。
「こんにちは。俺は花園・樹といいます。君は新見・結那ちゃんだよね」
「こんにちは。はい、そうです」
腕の中のふわもこを抱きかかえ直し、きちんと挨拶をする結那の身なりは整っており、顔色もよかった。知らない大人への警戒心は少なくないようだが、今のところはふわもこやソフィアの存在もあって安心しているようだ。
(彼女は自身の父に『正しくないことがある』事に気づいている。でも……具体的にそれが何なのか分からないのだろう)
それを諭して、伝えるのは先生としての役割なのかもしれない。樹は優しい笑みを浮かべながら、静かに落ち着いた声で言葉を紡ぐ。
「俺はちょっとだけ結那ちゃんのことを知っているよ。施設の関係者から話を聞いてきたんだ。結那ちゃんは、お父さん好きかい」
「好きです」
「お友達や、ふわもこは?」
「好き」
ここからが本題になる。樹はわずかに緊張しながらも、気付かれないように問いかけた。
「もし結那ちゃんが好きな友達に怪我をさせてしまったらどうする? わざとじゃなくて、うっかりぶつかっちゃったり、たまたま転ばせちゃったりしたら」
「ごめんなさい、って言って、保健室や先生、大人の人のとこにいって、手当てしてもらう」
「うん、偉いね。そうやって君が友達に怪我をさせる気がなかったとしても謝るよね」
「うん」
道徳の授業のようなものだ。褒められて少し嬉しそうな結那の頭を撫でて、樹はまた問を重ねる。
「じゃあ……君のお父さんは?」
「お父さん?」
「君をぶったとき……謝ってくれただろうか?」
結那の顔が少し暗くなった。抱えているふわもこをさらに強く抱きしめてうつむいてしまう。樹はじっと彼女の答えを待っていた。
「……だって、あれは結那が悪い子だったから。結那がごめんなさい言えるように、教えてくれていたから、怪我をさせるのとは、ちょっと違う。。悪いことしないで、正しく歩めるようにって、授業みたいな。……そうじゃないって言ってもらったけど、でも」
まだ信頼している父親のことを、増した信頼感で結那は庇おうとする。信頼を増幅するなら元の値が大きい方がより信頼するだろう。初めてあったばかりの樹より、まだ父親の方を信頼しているのだ。愛していると、好きだと言ってくれていた父親を。
「……お父さんにはごめんなさいを言えるようになる練習が必要なんだと思う」
「ごめんなさい、を」
父親が悪いとも、間違っているとも言わず、樹は結那にそっと語りかける。父親が救えるか、本当にやり直せるかは今の樹にはわからない。けれど、願うなら二人がいつか一緒に暮らせる未来がいい。
「お父さんも結那ちゃんにごめんなさいを言って、結那ちゃんが苦しくないように暮らすこともできるかもしれない。君の周りには助けてくれる人が沢山いる。その人達の力も借りて、いつかお父さんと一緒に暮らせる日が来たら……先生は素敵だと思うんだ」
「ごめんなさい、してほしいわけじゃないけど……うん、一緒にいれたらいいな……」
不安を抱えたままではあるけれど、結那はその未来を夢に見る。心から信じるには至らなくとも確かに救いの芽は結那に芽吹いた。樹の思いは届いたのだ。それは間違いない。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
●そして事件は終わりを告げる
ソフィアは怪異について語り合い、満足した。クヴァリフの仔の回収は忘れてしまったようで、結那が連れ帰れないふわもこを回収し、にっこり笑って手を振った。
「皆さんお話ありがとうございます、楽しかったです! Ms.結那、強く生きてくださいね。きっと大丈夫ですよ」
「うん、大丈夫。ばいばい、ソフィアお姉さん」
結那はきっと、大丈夫だ。彼女を気にかけてくれる、色んな人達の優しさが彼女のこの先を支えて、導いてくれるだろう。もちろん、√能力者達も、彼らが望むままに手を貸してくれるだろうから。