シナリオ

雨あがりて、鬼来る

#√妖怪百鬼夜行 #√EDEN #3章、断章を投稿いたしました。

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 #√妖怪百鬼夜行
 #√EDEN
 #3章、断章を投稿いたしました。

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 誰もその起りを知らぬ。
 誰かがそれを伝えたのかも知れぬ。
 ただ、妖怪のように謳われた者は、妖怪として在った。
 そして、長い時が流れ、古妖と呼ばれた恐ろしい者たちは、多くの犠牲をともない、眠りについたと云われる。
 かつて、血の匂いに狂い、求め続けた鬼が居た。
 此処ではない何処かから流れ着いた噂によれば、それは戦場に現れて、ひたすらに闘争を求め、血の河が流れる頃に姿を消したという。
 鬼を、蛇を、人馬をも、諸共に、斬馬刀を振るう白い鬼の伝説が、やがておとぎ話に聞こえるほどになって、とある古い祠が激しい風雨に見舞われ、鋭い雷が祠を砕いた。
 いまや、その山に住まう者はほとんどなく、とくに古より戦場の香りの残る祠の周りには誰も寄り付かなかったが、それがほどけてしまわぬようにと申しつけられた妖怪の子孫たちは、激しい風雨の影響を見るため、その過ぎ去った夜半になってから目の当たりにすることになった。
 古めかしい祠は全壊しており、荒れ果てた自然の中に佇む白い、それは女であった。
 僅かに群雲を漂わせる、切れた様に穏やかな夜の月明かりに照らされ、天女のようにも見えた着物の女の頭には、色褪せた長い白髪をかき分けるかのように、二本の角がそそり立ち……。
 そして、在るがままの自然の営み、生ぬるく湿った風、雨上がりの甘やかな緑の香り、月明かりの柔らかさに、まるでそれらを讃えるかのような言葉のない涼やかな鼻歌と──、
 熟れ過ぎた果実にも似た酒気のような血の匂いが、見回りにやってきた妖怪たちを惑わせた。
 あの鬼を、まともに見てはいけない。
 伝承から生まれた若き鬼は、伝承という名の世界に刻み込まれた傷跡に相応しく在らんとした。
 名を知らぬ、言葉を知らぬ。
 その手にあるのは、ただ在り様と、そして身の丈を超える長大な斬馬刀、ひと振りのみ。
 ただそれのみで、古の妖怪たちと渡り合い、殺し合った。
 今でも、その当時のままの血風を纏い、それは人を、妖怪を、狂わせる。
 災害の影響か、何の導きか、鬼はまどろみの中に、気風の異なるものを感じる。
 その風向きを辿れば、きっと、もう一度、気の狂うほどの闘争に出会えると信じてやまなかった。
 いざ往かん、幸いなるままに。
 白い鬼の歩む足取りを、気に当てられた妖怪たちもふらふらと続いていく。

「どーも、どーも、こんちはー! クレープ屋『STRANDED』の古郷ですー、毎度お世話になってまーす」
 どこかの世界、どこかの場所に、√能力者が情報交換などに訪れる場所に、古郷エルという少女は、どこからともなく姿を現す。
 スイカのヘルメットにパンダのロゴの入ったクレープ屋台。そしてほんのり甘い匂いが漂ってくると、一部の√能力者は露骨に眉を顰める。
 彼女が持ってくる話題はだいたいがクレープ屋の営業か、厄介ごとの予見であるからだ。
 こんなでも星詠みの一人であるエルは、√EDENに訪れるであろう危機を先んじて予知する力を持っているらしい。
「今回もまぁ、お仕事の話さ。
 古妖の話なんだけどさ。みんなは、妖怪の起こりが何なのかって、気にならない?」
 藪から棒に話し始めるのは、諸説のあるお話である。
 神や妖、怪異と言うものが、人々の信仰や噂話から生まれるという説。
 古くは、刑に処された聖人が死した後に生き返ったという話から、雨の中で足元を通り抜けがけに毛皮を擦り付けてくる謎の存在。
 果ては、この世界が巨大な生物の見ている夢であるなどという、眉唾物のよくあるお話であった。
 ひとしきり荒唐無稽な例を挙げていき、そろそろもうその話飽きたよという空気になったあたりで、エルは話を切り上げ、唐突に√能力者たちに向き直る。
「”そいつ”も、そんな伝説の一つだったんだとさ。
 戦場に現れる、天女のように美しい女が、刀一本で敵味方も関係なく、バッタバタ殺しては去っていく。
 誰もその姿を見たことがないのに、戦場に生き残りが居なくても、そんな話がちらほら出るもんだから、ひどい戦場の責任を押し付けるみたいに話が広まったんだとか……。
 それが起こりかどうかは定かじゃない。んだけどもねぇ、そいつを古妖として奉じていた祠の一つが、災害で壊れちゃったらしいんだよねぇ。
 もう嫌な予感がしてきた? その予感の通りさ」
 話の半分をようやく語り終えた。とばかりに、エルは大儀そうに自分用のチョコレートシェイクを手早く用意すると、一息つくようにずるずる吸引すると、ようやく本題に入る。
「古を生き抜いた妖怪ってのは強力でさ。
 その当時のやべーパワーでも発揮したのか、祠の維持管理とかやってくれてた妖怪の皆さんが、それに中てられちゃったみたいなんだ。
 そいつらは、何かに導かれるみたいに、√EDENへ渡って来るみたいなんだよ」
 ぷはっとストローを口から放し、やばいよねー! と他人事のように笑う。
「皆に頼みたいのは、毒気に中てられ√EDENにまでやって来ちゃった妖怪をブッ叩いてでも正気に戻し、そして、鬼を祠まで追い返すことさ。
 なにも、倒せなんて言わないよさ。
 封印の祠にまで追い返して、再び封印できれば、こっちの勝ち。
 もしも、現地妖怪の皆さんも手伝ってくれたら、話は速そうだよね。
 え? 倒したければ、止めはしないけどね。あれはちょっと強敵だと思うなぁ」
 とにかくヨロシクーと、終始気楽な様子で、割と大変そうなことを簡単そうに話し終えると、エルは、この話に乗ってくれる者たちの案内をし始める。
 最後に、何気なく聞かれたことといえば、
「ん、名前? そいつはねぇ、言葉も名前ももたないんだ。
 誰かに謳われるものに、名無しなんてあり得ない?
 そうだね。便宜上は色々と呼ばれてるそうだよ。
 単純に白とか、|白鬼《ビャッキ》とかね」

マスターより

みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 ついにやってきた、自分の宿敵を自分で書くメアリースーシナリオ。
 折角の宿敵大全ということで作ってみたはいいものの、√妖怪百鬼夜行だけでも、ボスクラスの宿敵がわんさといらっしゃるようで……。
 自分でやって、少しでもアッピルせねば! と、さして重くもない腰を上げたものです。
 嘘です。自分で作ったからには、自分で書きたかっただけです。
 というわけで、今回は、第一章で集団敵の提灯妖怪の皆さんが、うっかり毒気にあてられて√EDENまでやってきてしまうので、悪さをする前にどうにかするお話。
 そして、第二章では分岐がありまして、どうにかしてボスキャラの白鬼を√妖怪百鬼夜行の封印の祠まで追い返す手段を、どうにかするお話。
 第三章は、白鬼をどうにか弱らせて再び封印するお話となっております。
 第一章に関しまして、いわゆる断章を投稿せず、オープニングが公開されたときからプレイング受付を行っております。
 好きなタイミングで投稿されて構いません。
 ただ、全然現場の情報が無いので、補足しておきますと、普通の都会の交差点みたいな場所でいきなり出てきます。
 集団敵は、さほど狂暴ではありませんし、妖怪はタフなので強めに殴っても平気ですが、その辺りの裁量は、お任せいたします。
 あんまりあーせいこーせい言ってしまうと、色々と幅が狭まってしまいますので、このあたりで。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 集団戦 『提灯お化け』


POW 夜道の急接近
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【触れたらぞわっとする長い舌】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【消灯。闇】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
SPD 提灯独楽
【鬼火】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【大回転火吹きアタック】」が使用可能になる。
WIZ 突然の大笑い
【大口を開けたケタケタ笑い】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【恐慌】に対する抵抗力を10分の1にする。
イラスト 白暁
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウス・イーザリー
(ずっと祠を維持していた妖怪たちが影響を受けるなんて、随分強力な古妖なんだな……)
そんな古妖との戦いに想いを馳せながら、まずは目の前の敵に集中するように意識を切り替える

敵が見えたら氷の跳躍で敵陣(周囲に人々が居るなら間に割り込む位置)に飛び込んで、全力魔法+範囲攻撃で周囲を攻撃
囲まれそうになったら都度氷の跳躍で離脱しながら魔法で攻撃し、弱った相手からマヒ攻撃で動きを止めていく
恐慌には精神抵抗で抵抗
一般人に被害が出そうになったら割り込んで庇う

彼ら(?)に悪気があるわけじゃないし、正気に戻ったらそれ以上の攻撃はしない
可能なら封印していた古妖の話を聞けるくらいの状態に留めておきたいな

 しとしとと、染み入るような雨音が止んで、閉じた空が雲の切れ間を夜空に見せるほど月明かりが差してくる。
 √EDENのとある都市に、夜半の交差点。
 車通りも帰宅の途につくものも少なくなりはじめ、人通りもその勢いが減り始める頃に、むわりと生ぬるい風が吹き抜ける。
 雨上がりのじっとりとした湿気を運んでくるかのようなそれは、しかし青々とした緑のそれを薫らせる。
 道行く忙しげな足取りが、それに気を取られ、きっと多くの人の目が、目に見えぬ風を追うべく振り向いた。
 この街の中に不似合いな湿った薫風。
 それは、不意に多くの足取りを止めるという珍事を巻き起こし、また次なる珍事を目の当たりとさせていた。
「道に、火がついてる……?」
 誰かが口にしたそれは、そうとした言いようが無かった。
 いや、街明かりの華々しい文明の明かりとは異なる、揺らめく炎のようなぼんやりとした灯火が連なる姿は、アスファルトに火が灯っている……というよりかは、火の塊が浮いているようであった。
『く、くかか……』
 やがてそれらが、けたけたと哄笑を上げる。
 宙に浮いて笑うそれは、ばっくりと大顎を開いた髑髏のようにも錯覚するそれは、敗れた提灯が火を灯したかのような姿の妖怪……『提灯お化け』であった。
『戦じゃ……戦じゃ……この滾り、絶やすまいぞ……』
 熱にうなされ、うわ言を繰り返すかのようにその火を滾らせる妖怪たちの様子は、普通ではない。
 いや、この世界においてハッキリと妖怪が姿を現すことが既に普通ではないのだが、その姿は明らかに正気を失っている。
「な、なんだぁ!?」
「ええ、これって、何かの撮影?」
 その異様、その日常にあらざる光景を前に、道行く人々は、交通も忘れて遠巻きにせざるを得ない。
 異常を前にしたとき、多くの人間は思考が鈍る。
 こんな時に率先して行動できる者は、よほど肝が据わっているか、それとも、異常に慣れてしまった者であろう。
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、どちらであろう。
 人混みをかき分け、ぬるく湿った緑の風の匂いに不可思議な懐かしさを覚えながら、交差点の真ん中がどこか別の世界に繋がっているのを感じる。
 その中心、揺れる鬼火のような提灯たちに照らされて尚、その明かりなど無いかのように、切れた空に浮かぶ月を嬉しそうに見上げる鬼の姿を認める。
(ずっと祠を維持していた妖怪たちが影響を受けるなんて、随分強力な古妖なんだな……)
 物騒な刀を手にしているとはいえ、だらりと脱力する姿と、童女のように目をきらめかせる様子は、まったく敵意も脅威も感じられないが、ぞくりとするような鋭い気配を僅かに感じる。
 あれはまだ、こちらに興味を抱いていないに過ぎない。
 それの興味をもしも引き出してしまえば、後戻りできなくなってしまいそうな、そんな気配をわずかに思わせるのが、既にクラウスの警笛を刺激する。
 いや、彼女が動かずにいるならば、まずは目の前の脅威をどうにかするべきだろう。
 手持ちの携行武器──の使用は、考え直すべきだろう。
 ここは衆目があり過ぎる。
 クラウスは√ウォーゾーン出身だけあり、その戦い方に近代兵器を含む者が多数ある。
 ここでたとえば拳銃や電撃鞭などを振りかざそうものなら、パニックが起こってしまうかもしれない。
 事後の事など、どうせ忘れようとする力でどうとでもなる筈だが、この場で起こる事に関してはやや思慮の余地がある。
 いっそのこと、催しごとと思われているならば、その演出の一環として、派手に見えるようにしてみればどうか。
「よし、──飛ぶ」
 【氷の跳躍】により、目についたインビジブルと自分の位置を交換、瞬間移動のように飛ぶ。
 彼に魔法の素養があるかどうかは定かではないが、インビジブルのエネルギーを利用したものが魔法であるとするならば、それは応用が利くという事だ。
 ただし、直感的な方法で用いる彼の魔法は、イメージを誘引すべく、目で見たインビジブルへ手を伸ばす行動が必要らしい。
 果たしてそれは成り、通行人が妖怪たちと接触しないよう割り込む形でクラウスは彼らと対峙する。
『く、くかか、敵、敵じゃ……!!』
 けたけたと笑うそれは、傍から見れば滑稽なはずだが、言い知れぬ恐怖を掻き立てる何かがあるような気がした。
 根源的な恐怖を駆り立てるそれが、妖怪の持ついわゆる妖気なのだとすれば、それに抗う気持ちを持ち続ければ、彼らは躍起になるだろう。
 クラウスの道程、跳躍したインビジブルの通り道が、空気中の湿気を凍結させて夜道をキラキラと輝かせる。
 その冷気を引き寄せるようにして、魔法攻撃。
 エレメンタルロッドの先端に埋め込まれた宝石が冷気を増幅、噴射して、哄笑する提灯お化けたちを取り囲む。
『うひぃ、つべたーい!』
 凍える風を吹き付けられ、火をぶるぶると震わせる提灯が思わず動きを止めてしまう。
 そこへすかさず、スタンロッドの電撃を加えると、いくらか痙攣した後、闘争心のようにめらめらとしていた提灯の火は落ち着いたものを取り戻したようだった。
『お、お、お……さむ、痺れる……どうしたことじゃ、ここは!?』
「正気に戻った? ちょっと、みんなをどうにか説得してくれないか。彼等に悪気はないんだろ?」
『む、むう……どうやら迷惑をかけたらしいのう……』
 煮え立つような敵意の失せた提灯お化けにはそれ以上攻撃を加えることはせず、クラウスは、正気を取り戻したらしい提灯お化けを手助けしつつ、次々と荒ぶる妖怪たちの敵意を削いでいく。
『うーむ、まさか、噂に聞いたあのお方が、まさかここまで強力とは思わなんだ』
「あの古妖について、知っていることを教えてほしい」
『あのお方は、まさに戦の化身……いつでも戦場に生きておるが故に、まともにその力を受けてしもうた妖怪は、昔の血が滾ってしまうのじゃろう……』
「つまり──」
 ここで長く戦い続ければ、白い鬼は、√能力者たちとの戦場と思い込んでしまうかもしれない。
 逆にそれを利用して誘い込めば、彼女をもとの祠のもとへ誘い出すことも不可能ではないのか?
 きらきらとした霧氷を振り撒きながら、クラウスはひとまず被害が広がらぬことを第一に立ち回るのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜久・椛
ん、白い鬼の伝説…まさに御伽だね。
鬼の前に、まずは毒気に当てられた妖怪が相手?

「ああ、加減は忘れずにな。多少荒っぽくやっても大丈夫だと思うが」

ん、程々にしばく。

まずは御伽を纏い、水の【属性攻撃】で周囲に水柱を発生させて【先制攻撃】。
敵の動きを【野生の勘】で読み、水柱に隠れて移動しながら撹乱。

更に【幻影使い】で自分の分身を生成して囮として使い、敵を一箇所に集めるよ。
分身の付近には錬金触媒を元に【錬金術と罠使い】で粘着糸を生成して設置し、敵が近づいたら【捕縛】。

敵が一箇所に集まった所に、磯撫でを放って【範囲攻撃】。
直接当てないで、着弾時の水流と【衝撃波】で吹き飛ばすよ。
…これで頭は冷えたかな?

 雨上がりの街に、月明かりが落ちる。
 √EDENのとある都会の交差点。
 雲の切れ間から覗く月光は明るく、街明かりにも勝るとも劣らない。
 濡れたアスファルトがてらてらと光を含むほどに。
 しかしながら、交差点で足を止める車や人々が、誰もそれに目もくれず、そこに行列の如く灯る、宙に浮く提灯お化けの姿に目を奪われる。
 淡い光の中に、妖しの灯火が揺れる。
 これは夢か幻か。
 雨上がりの甘い匂いに混じって、懐かしい野原を駆け回ったかのような緑の匂いが薫る。
 ここはもしや、古い野山だろうか。
 だとしれば、そこに佇む白い人影もまた、幻なのかどうか。
 ひどく薄ぼんやりと、しかしそこに居るのはわかる。
 だが、それを目にしている者の、恐らく誰もが、心のどこかでそれを正視してはならないと、ブレーキを掛ける。
 それをまともに見てしまえば、きっと後戻りはできなくなってしまう。
 童女のように、自然のあるがままを喜ぶ姿の奥底に、踏み入ってはならない根源的な狂気が渦巻いている。
 ああ、そうだ。
 気づかれてはならぬという、それは恐怖なのだ。
「ん、白い鬼の伝説……まさに御伽だね。
 鬼の前に、まずは毒気に当てられた妖怪が相手?」
 夜久・椛(御伽の黒猫・h01049)は、心の底にざわめくものを覚えながらも、それに囚われることなく、ひとまずは周囲で闘争の炎に揺らめく提灯お化けのほうへと注意を向ける。
 あの白い鬼は、気味が悪いほど敵意も脅威も感じない。
 ただの女の子のようにしか見えない、感じないことが、余計に気がかりだった。
 ならばどうして、彼ら妖怪を狂わせるのか。
『ああ、加減は忘れずにな。多少荒っぽくやっても大丈夫だと思うが』
 椛のしっぽ、鵺の血を引く彼女の尾に宿る蛇の姿と知性が、助言と警戒を促す。
 ちり、と目元に焼け付くような気配を感じる。
 目に見えている以上に、提灯お化けの闘争心が肌を炙るようだった。
 見た目はコミカルな提灯お化け。おそらくは、闘争など好まない、ちょっと悪戯好きな妖怪だった筈だが、この張り詰め方は異様だった。
「──水面に映るは、怪魚の影」
 【御伽術式「磯撫で」】。水を操る水妖の逸話、御伽をスマホ型の御伽図鑑から引用、その能力を出力し、その身に宿すと、月光を照り返すアスファルトから水たまりが生まれ、それは唐突に水量を増して水柱がいくつも立ち上がる。
『ぬうっ! 敵ぞ、敵ぞ! ここは戦場なり!』
 猛烈な飛沫が上がる交差点の中で、その柱に身を隠しながら椛は近付きつつ、提灯たちを煽り立てる。
 自分たちは巻き込まれまいと、身体を鬼火で包み込んで燃え上がる独楽のように回転して移動しながら椛を追いかけるが、それは彼女の術中であった。
 幻術を兼ねた水鏡が椛の姿を囮と化けさせ、それらが泡のように弾けるたびに、回転する提灯お化けの身体に鋼糸のようなものが絡みついた。
 それは椛が隠れながら仕掛けた罠。錬金触媒を変化させた網のような粘着糸であった。
『むおっ!? わしらを吊り下げるでない! 人案内は辞めたのじゃ!』
 絡まって身動き取れなくなった提灯お化けたちは、まるで水流に流されるかのように、1か所に捕縛され、何事かを喚き散らす。
 そこへ、巨大な鯱のような姿をとる水の塊「磯撫で」が、その口腔に凝縮した水弾を溜め込んでいる。
『……加減を忘れるな』
「ん、程々にしばく」
 それらを引き連れる椛は、そうだったと思い出したかのように片眉を持ち上げるが、きっと大丈夫とばかり、高圧縮の水弾を、ほんのり噴水のように緩めつつ、その水流を押し固めた提灯お化けたちに向ける。
『うおあー!! つべたい! 消えるー!!』
 闘争の昂りにぐらぐらと煮立っていた提灯お化けの炎はぽつぽつと消えたかに見えたが、水気が引くと、それらは再びろうそくの火のように柔らかく灯るのだった。
 そこには敵意の一つも感じられない。
「……これで頭は冷えたかな?」
『うむむ……冷や水じゃった。雨に強い油紙でなければ、とろけていたところじゃ。が、助かったわい……』
🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
アドリブ、連携OK

咄嗟に地を抉り、沈む。【穢土潜行】で潜伏し、視覚も探知も遮断。【蟲煙袋】を地上に残し、濃煙と湿気で感覚を撹乱する。潜響骨で振動を読み取り、火照る気配の接近を待つ。

狙い澄まし跳躍。【跳爪鉤】で顎下を撥ね、続けざまに【甲殻籠手】で受け止め密着。【グラップル】で喉元へ絡みつき、開いた口へ【殻喰鉤】を突き入れる。毒は舌の動きを鈍らせるか。

「舌が止まれば、汝の得物も沈黙する。――踊れ、燈影の屍よ」

殻を裂き、背へ這い登る。提灯皮を剥げば、灯火も揺らぐだろう。
その奥にある芯を、我が指先が捉えればいい。炎が残るならば、次は翅音板で風を裂き、焔そのものを吹き消す。

 そいつは影に生きている。
 いや、闇の中を這いまわる者。
 いや、時として光の下へまろび出る者。
 雲やぶれて、月が顔を出す、√EDENの街中は、騒然とする交差点。
 人混みの中に、その姿は、異質に映る筈だった。
 しかしながら、長年の鍛錬のもと、巧みに、気配とその姿を闇の中に紛れさせた彼の姿を容易に探知できる者はいまい。
 それは彼にとって、基本的で、最も最初に鍛え上げられた生存戦略の一つ。
 故にこそ、剣山の上に立っていようとも揺らがぬ筈であった。
 しかし、何ゆえか。外骨格に覆われたキチン質の光沢を帯びるその肌に粟立ちを覚える程の、それは戦慄であった。
 和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)はその身一つで生き延びてきた蟲の格闘者。
 数週間で生まれては朽ちる同胞たちとは異なり、幾星霜の時を生きる、黒い鋼のような外骨格の戦士である。
 その姿、その威容に、恐れをなす者も居るだろうが、何故か彼らはそれと同時に狩られる定めにあったという。
 やっぱりゴキブリだからだろうか。
 いいや違う。それだから、斃されるのは、なんか、こう、間違っている!
 幾たび、幾年、駆逐の歴史から、蜚廉は生き延びてきた。
 生き延びたという事は、不敗という事だ。
 己こそは、選ばれし真の強者であると。その証を立てるために、戦い続ける。
 その彼が、傍目に穏やかな気配を感じ取りながら、戦慄する。
 白い人影が、ただの景色、言うなれば月明かりを喜ぶかのように微笑んでいるだけだ。
 だがあれは、嵐がこちらを向いていないだけの話だ。
 火に意志があろうか。風に意志があろうか。
 ともすれば、人の起こす混沌、即ち戦場と言うものにそれがあるのならば、きっとあの白い鬼のような姿をしている。
 蜚廉の生存本能が、警笛を鳴らしている。
 あれを真正面から見据える時、嵐もこちらを向く。
 ならば、ならば、最高のひと時の為に、望まぬ者たちを排除すべきであろう、と。
 戦の息吹、古の妖怪の空気が、彼らを狂わせているというのならば、望むべくもない。
 封ぜられ、敗北を喫したであろう者に興味を抱くことなど、無いものかと思っていたが、そんなことはない。
 いったい、誰があれを封ぜられたのだろうか。
 いいや、それよりも今は──、
「むんっ!」
 蜚廉の螻蛄よりも逞しい前腕がアスファルトを食い破り、地中へとその身を投じる。
 【穢土潜行】、そう、彼らは害虫などではなく、古くは森の掃除人とも呼ばれていた。
 亡骸を、腐敗を、土へと還すのが本来の生態であった。
 いつの間に毛嫌いされるようになってしまったのか、やはり生理的にダメなものはダメなのか。
 その黒い鋼のような身体は、塗り固められた地面とて容易に潜航し、土を、コールタールをも盛り上げることもなく、何者の探知も寄せ付けない。
 当たるとすれば、同胞が隠れ家にしているマンホールくらいのものだが、そこに気を付ければ、彼女の周囲に闘争心剥き出しで出現した提灯お化けとて気づきはしないだろう。
 だがしかし、必要以上には近づかぬ。
 さしもの武の達人……人? 格闘者とはいえ、地中からの攻撃は、その精度も落ちてしまう。
 だが、奇襲ならば、その限りではない。
 蟲煙袋のみを地上に出し、雨上がりの環境にじっとりとその微毒を捲く。
 それは彼の者たちの感覚を鈍らせ、余計にこちらの探知を難しくするだろう。
 火の照り、闘争を求めて狂う泥のように濃い揺らめきを待つと、その背後を突き、固く塗り固められた地表を爆ぜ、まき散らしながら満を持して蜚廉は跳び上がる。
『むう、──』
 相手が何を言うよりも前に、跳ね上げるような「跳爪鉤」が提灯お化けの下顎にあたる部分を削ぎ、すかさずだらりと空いた口腔へと「甲殻籠手」を突き入れるが、敵も然したる者。
 ぬるりとした巨大な舌が、堅固な蜚廉の籠手を腕ごと絡めとり、巻きついてくる。
 ごうごうと、提灯の火が地獄の業火のように燃え滾る。
「見事なり」
 ぎちぎちと引き込まれるような抵抗感にも焦ることはなく、もう片手の「殻喰鉤」を打ち込むと、その棘に仕込まれた毒が舌を弛緩させる。
「舌が止まれば、汝の得物も沈黙する。──踊れ、燈影の屍よ」
 その隙を逃さず、蜚廉は身を乗り出すようにして力任せに両の腕を引き離す。
 外骨格を押し上げるようにパンプアップする筋繊維が動員され、ぶちぶちと舌と言わず、提灯お化けの油紙の胴体が引き裂かれていくと、後に残るのは煌々と燃える鬼火のみ。
 それを握りつぶすようにして消し去ると、今度こそ突き刺さるような闘争心は消え失せた。
 これが妖怪のやる事かといわれると厳しいところだが、しかし、古参の妖怪は即座に鬼火の熾りを取り戻す。
 そこには敵意は感じられず、それ以上に手を加えることは、蜚廉の矜持が許さなかった。
『アイタタタ、殺す気か!』
「他にやり方を知らぬ……しかし、なんという生命力。この身を以てして、感服致す」
 蜚廉が、生命の体現であるならば、彼ら妖怪とは、費えない物語なのだろうか。
 だとすれば、伝承より生まれた彼女は、いかなる強敵なのだろうか……。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルバー・ヒューレー
「妖怪の皆さんがどうして正気を失ってしまっているかはまだ定かではないですが、暴れる可能性があるのであれば……止めなければなりませんね」

現場に到着しましたら、……恐らく駄目でしょうが、一応、意識があるか、正気かどうか声を掛けながら、近寄ってみます。

「皆さん、どうか、落ち着いてください。あなた達は今白鬼の力かは……定かではありませんが、冷静ではないのです、一旦深呼吸でもして落ち着いてみましょう」

反撃、攻撃をしてきましたら、銀の鎧を展開して鉄壁のオーラ防御で防ぎますそして防ぎながら√能力の輝きで闇に隠れた彼等を見つけましたらダッシュで接近し、聖なる盾拳での拳による重量攻撃で気絶狙いの一発を放ちます。

 雨上がりの√EDENの、それはとある街の交差点。
 都会の道は混み合う時間をやや過ぎたあたり、そろそろ人通りが減り始める頃合いに、ようやくしとしとと降り続いていた雨も止んで、空を覆っていた雲が切れて月明かりが降りて、濡れて月明かりを含むアスファルトがきらきらとしていると、湿った風の中にふと緑の匂いを感じる。
 この都会の中に感じる筈のない、野原のような青臭さは幾人かの足を止めたが、それよりも先に、多くの人々の、そして車通りを止めてしまったのは、夜の街明かりとも月明かりともちがう、仄暗さに浮かぶいくつもの人魂を思わせる揺らめく光。
 夜の中に浮かぶそれらが、緑の匂いと共に、どこからともなくやって来る。
 その信じがたい光景を目の当たりにした人々は足を止めるが、その異様な迫力を前に、それ以上近づくことはできなかった。
『敵ぞ、敵ぞ。戦場が呼んでおる……戦わねば、戦わねば』
 表情の読めぬ妖怪の火、それは敗れ提灯から舌を垂らした、いわゆる『提灯お化け』であったが、その愉快な見た目に反し、根源的な恐怖を呼び起こすかのような異様な迫力は、道行く人々にも理解しがたいものがあった。
 何よりも、その鬼火に照らされる、白い人影。
 おぼろげだが、なぜかそれを見ることを、本能的に避けてしまうような、異質な気配が、正視を頑なに避けつつも吸い込まれそうになる。
 青い風、そして美しいが正視に堪えぬ女の人影。それらが重なり合うと、妙に懐かしいものがあった。
 それが、そうなのか……?
「妖怪の皆さんがどうして正気を失ってしまっているかはまだ定かではないですが、暴れる可能性があるのであれば……止めなければなりませんね」
 シルバー・ヒューレー(銀色の| シスター 《聖堂騎士》・h00187)は、敵意どころか脅威すらも今は常人以上に感じ得ない人影の危うさを覚えながらも、ひとまず、闘争心をみなぎらせる提灯お化けたちに目を向ける。
 凛とした佇まい。シスターの装束に身を包むにしては、あまりにも力強く、鋼鉄のような印象を与えるのは、ひとえに定規でも仕込んだかのような姿勢の良さによるところだろう。
 なんということだろうか。
 人と和解し、温和であるという√妖怪百鬼夜行の妖怪とするなら、それはまるで闘争本能の塊だった。
 まるで、古の時代より伝え聞く、互いに食らい合い、力を誇示していた頃の彼等のように。
 素直に恐れを抱く気持ちを残したまま、だからこそ、シルバーはその狂暴さが√EDENの世界に広がらぬよう、彼らに説得を試みるべく歩み寄っていく。
「皆さん、どうか、落ち着いてください。あなた達は今白鬼の力かは……定かではありませんが、冷静ではないのです、一旦深呼吸でもして落ち着いてみましょう」
『わしらを……止める者は、敵ぞ……みな、敵ぞ。なんと喜ばしい。あの時代が帰ってきたのじゃ……!』
「くっ、言葉だけでは、届かないというのでしょうか……!」
 やみくもに暴力で決しては、元も子もない。
 博愛精神から、説得を試みるシルバーであったが、無情にも正気でない妖怪たちは、その長い舌をシルバーへと向ける。
 やむを得ず、シルバーは銀の鎧を展開。
 彼女の銀を作り出す能力は、武器にも防具にもなる。
 うっすらと透けるほど薄く広く展開した銀の膜がでろりとした巨大な舌を目前で受け止めるが、湯気だつような微細な味蕾や起毛まで見て取れるそれは、ちょっと背筋が冷える。
『うぬう、乾き果てるまで嘗めまわしてやろうものを……ならば、気づかぬうちに、身の内をまさぐってくれようか』
「はっ!? 消灯、ですか」
 口惜しそうにその炎をゆらゆらと闇の中にかき消してしまうと、提灯お化けの姿がそっくり見えなくなってしまう。
 中の火が消えたら、骨組みの部分が残りそうなものだが、そこは妖怪の術なのだろう。
「ならば、──収束、集中。──行きます」
 焦らず、シルバーは意識を集中。
 己の支配下にある銀の隅々にまで神経を巡らすかのように、【銀塊】を輝かせる。
 宗派は違えど、神聖な輝きは、邪な気配を即座に発見する。
 かつての力を振るえぬシルバーにとっては、エネルギーの一点集中を行っているため、防御力は落ちてしまうものの、収束し盾のように象った銀のエネルギーはかなりのものになるだろう。
「そこですかっ」
 姿を消せど、銀色のストロボのような輝きが、その影を浮き彫りにすると、すかさずダッシュで踏み込み、渾身のストレートを打ち込む。
 銀塊の重み、そして踏み込みの加速とジョルト気味に上体の重心を乗せた拳を、テンプルに相当する部位に打ち込む。
『ぐふぉっ!?』
 くぐもった悲鳴と共に吹き飛んだ提灯お化けは、地面にたたきつけられて、その身体をぐしゃりと潰して燃え尽きてしまった。
 かと思いきや、即座に燃え尽きた傍から火が再び灯り、その周囲を覆うように骨組みと油紙がペリペリと再生していく。
 身構えようとするシルバーだったが、そこにさっきまでの煮え立つような闘争心が灯っていない事にも気づく。
『いやいや、すまぬすまぬ……あのお方の匂いに、すっかり中てられてしもうた』
「正気に戻られたのですか」
『危うく成仏するところじゃったわい。いいパンチを持っとる』
 けたけたと笑う提灯お化けの予想以上の明るい様子に、シルバーは無表情ながら拍子抜けしてしまう。
「あまり……あの白鬼を恨んでおられないようですが。彼女は、あなた方にとって危険な存在では?」
『……そうかもしれんがの。寝物語に聞かされた、古の大妖、そんなものに、憧れぬモノは居らぬよ。音にしか聞こえなんだ怪物が目の前におれば、それは見てしまうよ、ほほほ』
 思わぬところで彼ら妖怪の死生観、その一端に触れて、シスターは少しばかり複雑そうに眉を寄せるのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

矢筒・環
ハクくん(h02730)と

今回は、なんだか怖そうな案件ですね。怪談の季節だからしょうか? ハクくん、おねーさんを守ってくれたら嬉しいです。
(これはハクくんと合法的に触れ合うチャンス! 薄着になったハクくんの体つきや髪の匂い、たっぷり堪能しますよ。だから妖怪さん達はなるべく遅れて出てきてくださいね!)

あーあ、お出ましですね。もっとくっついていたかったな。
じゃ、状況を始めて終わらせましょう。
「インビジブル制御」でインビジブル・パーティー!
ケタケタ笑いでパニックになるのが自分もなら、インビジブルの不意打ちに対応出来ないでしょう!
私は「呪詛耐性」「狂気耐性」「霊的防護」で抵抗します。ハクくんも一緒に。
櫻井・ハク
矢筒・環 (h01000)お姉ちゃんと
「・・・たしかに夏は怪談の時期だよね」
夏らしくなってきたので薄手の袖無し猫耳パーカーにTシャツ&半ズボンの出で立ちに
「・・・うん、頑張って守るね」
環お姉ちゃんを守るように心がけつつ交差点をまわるよ
「・・・あの提灯が妖怪さんかな?」
集団でいるはずなので気をつけて近寄るよ
戦闘になったら環お姉ちゃんを護りつつサヴェイジ・ビースト(尻尾)で攻撃しダメージを与えていくよ
オーラ防御を使ってダメージを減らしつつ誘導弾で牽制して環お姉ちゃんに攻撃が行かないように気をつけるよ
「・・・これだけ叩けば提灯さんも戻るかな?」

 ぴしょん、ぴしょん、と雨の残り香を伴った水音が、あちらこちらで聞こえては、雑踏にかき消されていく。
 太陽の生き生きとしていた時間から引きずってきたかのような夏の熱気が、むわりと湿気を引き連れて、埃や排ガスの鉱物にも似た煙たいものを捲き上げ、そうして都会の夜を灰色にしていく。
 これがきっと、この街の交差点には毎日のサイクルに混じっていく匂いなのだろう。
 疲れた大人たちの足取りに混じって、二人の若者は、灰色の街並みの中でも割と色がついている方であったろう。
「今回は、なんだか怖そうな案件ですね。怪談の季節だからしょうか?
「……たしかに夏は怪談の時期だよね」
「ハクくん、おねーさんを守ってくれたら嬉しいです」
「……うん、頑張って守るね」
 矢筒・環(漆黒に舞う金沙・h01000)と櫻井・ハク(ディメンションキャット・h02730)は、一見すると歳の差のあるようなカップルに見えた事だろう。
 実際のところどこまで進んでいるのかは定かではないものの、夜中とはいえ蒸し暑い中で距離が近くとも、お互いを厭わない程度には親密であるようだ。
 ちなみに、サマーニットにデニムのパンツとシンプルな装いにやや野暮ったい眼鏡の環は、いかにもしごできおねーさんのような雰囲気ではあるが、ハクへのあまりの密着具合にちょっぴり残念オーラが漂っているが、本人は割とどうでもよさそうである。
 それも無理からぬこと。
 今宵のハクの装いは、トレードマークの猫耳パーカーのデザインはそのままに、蒸し暑い気候に合わせてノースリーブにアレンジしたものに、やや暗色のTシャツとひざ丈のハーフパンツ。
 ファンシーを維持しつつ、少年の手足を露出した、おねーさんを狙い撃ちするかのようなデザインには、ちょっとした危機感を抱かずにはいられない。
 ダメよ、こんなの、他の人が見たら盗まれちゃう。
 などと邪な思いを抱いたのもそこそこに、都会のどことなく疲れた雰囲気の中でも彼を見失わないよう……というのは建前で、合法的に触れ合ったりにほひを嗅いだりするチャンスとばかりの密着であった。
 ああ、どうか、今こそ時よ停まれ。
 どうかどうか、この時間をもう少しだけ堪能させて。
 クールな眼鏡の奥の環は、割と煩悩塗れであった。それでいいのか、職人さん。
 とはいえ、何かが起こるのを予見した上で、√能力者を派遣されることに無意味はなく、それこそ図らずとも事態は巻き起こるものであり……。
 ざわり、と、交差点を渡る人だかりが硬直するのが空気で理解できた。
 灰色に流れる人の波が、まるでセメントでも流し込まれたかのように硬くなるのを肌身に感じ、釣られるようにハクと繋いだ環の手元も強張るのだが、それは彼等とは全く違う理由だった。
「あーあ、お出ましですね。もっとくっついていたかったな」
「……行こうか」
「はい」
 本音を隠そうともしない環が嘆息するのを、諌めるでも嫌がるでもなく、目的が近づいたことに手早い決着を見据える二人は、気を取り直して雑踏をかき分けていく。
 灰のような街には不似合いな、青い匂いのする風は、まるで交差点の中央から吹いてくるかのようだった。
 田舎の野山を分け入ったようなどこか懐かしい匂い。それは、この都会であるからこそ、誰もが足を止めるに足るものであったろう。
 まるで、別の世界と繋がりを得たかのような、違和感。
 それと共に風上に見えるは、街明かりとも、月明かりとも違う、揺らめく炎の群れ。
『敵ぞ……我らが領土は、彼方にある……戦ぞ……』
 マグマのようにぐらぐらと煮立つ粘着質な揺らぎを持つ火を抱えるそれは、敗れ提灯の身体をけたけたと空中に浮かべて笑う。
 その歓喜、その姿、本来ならば、滑稽に見えているであろうそれらに、言い知れぬ不安と精神的な重圧を覚えるのは不可解であった。
 可愛らしくすらある『提灯お化け』のその姿は、しかし土砂の奔流のように重たい気迫に駆られているようだった。
 本来は形の存在しない感情。それに名前を付けるとするならば、恐怖であった。
 こんなものを呼び起こしたものは、なんなのだろう。
「……あの提灯さんが、妖怪さんかな」
「普通じゃないですね。状況を、はやく終わらせましょう」
 彼らが本来、穏やかであろうことは、事前に聞いていたし、その異質な気配を目の当たりにすれば、ちぐはぐに見えるのは明らかだった。
 動悸が環の持つ本来の力を抑制しているらしいことは感じていた。
 妖怪やお化けが、誰かをびっくりさせるというのを好むとはいうが、なるほど、これはなかなか厄介らしい。
 だが、直接戦いに参加することはなくとも、恐慌を周囲にばら撒かれるよりも、先に手は打っておくべき。
 そう判断した環は、【インビジブル・パーティー】で友好的なインビジブルを呼び寄せ、自分たちの頭数を増やすことで対処する。
『なんぞ、敵か? 敵じゃ。敵ぞ。うへへ、おどろけー!』
 ぐあっと敗れた提灯が口開くようにして火が燃える。
 友好的なインビジブルたちは、それらにも対処しているが、それが環に及びそうになると、ハクが守る様に前に出てその身で受ける。
 護霊符を起動して変身していなくとも、その霊力による守護は、彼自身でもいくらかは使えるようで、両手を交差させて守りに入ったハクの周囲には、光を帯びる膜が提灯お化けの鬼火を受け流す。
 が、手が焼けるような熱は、間違いなくハクを蝕む。
 防衛本能、それが発露し【サヴェイジ・ビースト】として部位変化をもたらした獣の尻尾が、大きく強靭に急成長し、提灯お化けを打ち据える。
 戦いの本能が呼び起こされ、狩猟生物(猫)の昂揚が、皮膚を焼けただれさせる負傷を急速に癒していく。
 続けて護霊の猫、キャットソウルの光の弾を続けざまに発射し、自らの姿を誇示するかのように立つ姿は、ひとえに環へと狙いが向かないためだ。
『うぬぬ、邪魔を、するでない……若造……』
「……お爺ちゃん、そんなんじゃ、当たらないよ」
『言うたな、小童!』
 鬼火を纏ってクルクルと踊る独楽のようにハクを取り囲むが、背後から奇襲しようにも、尻尾を得たハクに背後の死角はない。
 冷静に回転の中心を叩いたり、素早さでねじ伏せ、大きくなった尻尾で押し付けて回転を止める。
「……ふう、これだけ叩けば、提灯さんも戻るかな?」
『うーん、うーん……降参じゃ! いや、すまんのー。あのお方の毒気に、すっかりやられてしもうたわい』
 存分に叩きのめされた提灯お化けの火が再び灯ると、その火はろうそくのような優しい温もりへと変わっていた。
 そうして調子良さそうに笑う姿には、みじんも恐ろしさは感じないのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒木・摩那
白鬼の影響でおかしくなった妖怪たちをおとなしくさせるとか、中々に無茶を言ってくれますね。妖怪は頑丈さが売りだから、大変です。
しかし、元に戻ってくれればあとからやってくる白鬼の対策に役に立ってくれるかもです。
そこは期待して頑張ります。

ヨーヨー『エクリプス』で戦います。
√【紅月疾走】を発動して、交差点に陣取ります。
ヨーヨーの質量を重くして打撃重視。
進む妖怪をぶん殴って、おとなしくさせます。

外見こそ提灯ですが、ヨーヨーで殴っても紙が破れずにダメージがいくんですね。
さすがは頑丈な妖怪です。

 排ガスと埃と、そして雑多な人の波。
 なんて退屈で、平凡で、それはきっと安らぎの一つの形なのだろう。
 そうは思っても、√EDENの都会にある、なんてことない交差点の灰色っぷりには、少しばかり辟易する。
 都市機能とはかく在らんを体現する、ここは動脈の一つと言わんばかりに、ゆるやかな人の流れ、車の流れが、弛まず、目にするも億劫な流動は、やはり退屈と言わざるを得なかったが。
 しかし、それでも、こんな場所に、妖怪の群れが押し寄せようというのか。
 黒木・摩那(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)は、街並みに紛れ、繁華街の隅っこからほんのり脂っぽい店屋物の匂いに心惹かれながらも、警戒を怠らなかった。
 光りの彼方より飛来する食事の概念を当初はもっていなかった外星体ミステルと契約する人知れずのヒーローは、その運動性能の維持のためか、或は単にボディに相当する部位が腹ペコの素養を持っているのか、いずれにせよ食に対する興味は尽きないところである。
 ただ、今回は寄り道をしている余裕はなさそうだ。
 洋食屋の、丹念に煮込まれたデミグラスのかほり……いや、ダメダメ!
 無理やりにでも肉体の欲求を逸らすべく、改めて今度の依頼の事を考える。
 どうやら、こちらへやって来る妖怪は、本来は争うタイプのものではなく、うっかり起きてしまった古妖の影響を受けておかしくなってしまったらしい。
「完全に沈黙させるのではなく、大人しく……なかなか無茶を言ってくれますね」
 前に妖怪と対峙した時は、彼らの頑丈さ、ふざけた様子とは裏腹にその力強さに驚いたものだった。
 しかし、彼らの協力を得られれば、古妖を追い返す手段もスムーズにいくかもしれない。
 アーケードのディスプレイに体を預けるようにして様子をうかがっていた摩那は、ふと、風向きが変わったのを感じた後に、交差点のほうで何か騒然とする気配を受け取る。
 空気の変化を即座に感じ取り、短く嘆息すると、人混みをすり抜けるようにして現場へと急行する。
 おかずのにおい、もとい、街の灰色然とした埃っぽさは、交差点から吹き抜ける別の風によって塗り替えられつつあるようだった。
 野山を思わせる、青い風。
 目を瞑ればノスタルジックな情景でも浮かびそうなその気配が、きっとこの世界とは異なるところから吹き付けていることを感じ取り、摩那は抜け駆けつつも武器を取り出す。
 使用者の精神に感応するように質量を変化させる謎合金で構成された薄い円柱状のホイールを鋼糸で繋いだ、超可変ヨーヨー『エクリプス』を手にはめ込んで、人混みをかき分けるも面倒、とばかりに跳躍する。
「駆けろ、エクリプス」
 両手でつかんだエクリプス本体は、【紅月疾走】の発動に伴い、翼を広げるかのように展開する手の動きに逆らわず、両手に一つずつ装填されていた。
 赤い光沢が尾を引き、夜空に赤い月光が奔ったかのようにも見えたろう。
 しかし、そんなものなどお構いなしに、彼らは街明かりとも月の明かりとも異なる揺らめく獄炎を思わせる灯火を宿していた。
『おお、嵐がやって来る……我らが望んだ、戦場ぞ……古の時代が、戻って来るぞ……』
 うわごとのように何やら呟く『提灯お化け』たちは、その可愛らしくすら見えるステレオタイプの妖怪の姿に不釣り合いな闘争心を燃やしている。
 明らかに正気ではないそれらの気配は、血肉を求める獣にも等しい、古来より聞くかの歴史の中の妖怪に相応しいものであろう。
 共食いと、人類を食することを止められなかった古の時代の妖怪たちが、長い戦乱を経てデモクラシィという理性を備えたにも拘らず、今の彼等を突き動かすのは、その古を忘れ得ぬ言わばノスタルジィであった。
「敵将の首を取って血肉とする……なんて、前時代もいいところです。ちょーっとだけ、痛い目を見てもらいますよ!」
『善き哉、善き哉! 血肉を躍らせるひと時こそ、我らが妖怪の在り様よ』
 火を噴きながら笑う提灯の姿は滑稽ですらあるというのに、痺れるほどの恐怖が振り撒かれる。
 それにめげじと摩那は、ヨーヨーを両手に躍り出る。
 キィィと、甲高いワイヤーの軋みが上げるのは、その本体の質量が上昇している事を示していた。
『恐れぬか、善き善き。なれど、儂らを玩具如きでグボァッ!?』
 ばきばき、と骨組みを突き破って提灯を粉砕しかねない運動エネルギーで抉っていくヨーヨーの威力は、提灯お化けたちの想像を超えていた。
 そんなことはお構いなく、力任せに、いや、踊る様にキャッチとリリースを繰り返しながらハンマーのようにヨーヨーを繰り出す摩那は、次々と提灯お化けたちを撃墜していく。
『あたた……こらぁ! 骨董品は、大事に扱わんかい!』
「あら、ごめんなさい。たぶん、後で直します」
『まったく、若いもんは……ちょっと油紙が剥がれたから、優しく米粒で張りなおしてくれんかのー』
「それだけ喋れるなら、大丈夫ですね。さすがは、頑丈な妖怪です」
 殴り倒した提灯から文句が聞こえるが、全力でぶん殴っても元気そうに愚痴を垂れる彼等からは、当初感じたような剣呑な気配は薄れているようだった。
 どうやら、古の毒気とやらは、かの白鬼の能力というわけではないようだ。
 妖怪たちの古い血脈を呼び起こす程の戦意とは、如何程のものか。
 殴られて尚、調子良さそうな妖怪たちの頑丈さに呆れ半分、摩那は少しだけ安心して、再び様子のおかしい提灯お化けたちを張り倒しに行くのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ペイル・カバネ
まぁ、まぁ、正気を失っているのね?大変。
それでこんな所まで来てしまうなんて、それに古妖の復活、いけないわぁ。
ごめんなさいだけど……少し痛くするわね。

影毛吼達を放って【牽制攻撃】その身で妖怪さん達を押し止める。炎とか爪とか牙で止めても良いのだけど、あんまりパニックにする様な事をすると、落ち着かせ難くなってしまうかしら?そこらへんは様子を見つつ、霊気を【念動力】で飛ばして気付けを致しましょう。
それと、

毒は、使いようによっては良い薬なのよぉ。

【毒使い】鎮静効果のある弱毒の神通毒を霊気飛ばしや、
影毛吼達から毒煙として放って彼らの恐慌状態を鎮め、正気に戻り易くするわ。
大丈夫?気分は……如何かしらぁー??

 人の世、√EDEN世界の色合いと言うものには様々あるが、輝かんばかりのインビジブルにあふれている世界にしては、いささか疲れた印象の強い都会の夜は、ちょっと憂鬱だ。
 道行く誰もが、これだけ大勢なのに目を交わすことをせず、そこにある障害程度の認識しかもちえないのだ。
 人の波の中の孤独。おかしな感慨を抱くものだが、それでも、いつしか人混みの中の孤独にも慣れていく。
 誰もが肩を組んで友愛を謳う、なんてのは理想論で、個人がそれなりの有効範囲で以てそれなりのコミュニティを構築するのが、よくある幸せで、それがとても得難いものである事に、いつしか腰を据えて実感するのである。
 寒風のような世間の灰色は、言わば、小ぢんまりとした幸福を実感するための必要悪のような存在なのだろうか。
 雨上がりの湿った空気の中を、乾いた灰色が吹き抜けていくような、そこはよくある√EDENの都会の一角。
 ペイル・カバネ(衣蛸な僵尸・h02018)は、それでも、道行く誰もに興味を抱かずにはいられない。
 彼女を構成するものに、おおよそ常人のものは含まれない。
 強いて挙げるならば、磨いた瑪瑙のような瞳と、淡く緑色にも見える長い髪。
 慎ましやかな中に言い知れぬ色香を思わせる、美しい人のように見える姿であろうか。
 かつては船を沈めることもあったという衣蛸と由緒ある東方のグールと目されるキョンシーの特徴を先天的に受け継ぐ人に似た妖怪。それが彼女の正体である。
 が、デモクラシィ以降に生まれたペイルに、かつての古妖のような好戦的なそれはなく、むしろ別の意味で人間には興味津々である。
 おっとりとした外見からは想像もつかぬほど、そのコミュニケーション能力はちょっと常人とはずれているようだが、当人は理解が追いつかぬ事も含めてその新鮮さを、おそらくは、そう、幸福に感じていた。
 だからこそ、この報には、応じぬわけにはいかなかったのだ。
 妖怪たちの世界の歴史に疎いつもりはない。
 群雄割拠の古妖がどれほどの無茶苦茶をしてきたのか、もはや伝え聞く程度のお話ではあるが、そんなものがやってきては、ろくな事にならないのは目に見えている。
「ああ……」
 都会の灰色に、何やら似つかわしくないものが流れ込んでくるのを、肌身に感じる。
 懐かしさすら覚える、野山のような青い風。
 きっとこの世界にも同じような野山はあるのかもしれないが、なんというか、こう、言葉にできない味がするのだ。
 思わず、低く息をつかずにはいられない。
 人混みが硬直するのを、空気で感じる。
 この交差点が、彼方と繋がってしまったのだろう。
 向こう側から漏れ出てくる草木の湿ったニオイは、きっと誰もが足を止めてしまう。
 いや、それよりも、この街の明かりとも、まして、雨雲を切り裂くように現れた月明かりとも違う、交差点の中央あたりでぽつぽつと灯り、燃えるように揺らめく妖しの炎が、いっそう目を引くのだ。
「まぁ、まぁ、正気を失っているのね? 大変」
 その有様を見て、ペイルは目を細め、足を速める。
 提灯お化けは、本来、悪戯や道行く人を驚かせて喜ぶような、あまり害をもたらさない妖怪だったと聞いている。
 いや、話に聞く限りでは、彼らは古妖の毒気に中てられて正気ではない。
 然もありなん。
『敵ぞ、戦場ぞ。これぞ……古より憧れた時代じゃ……』
 地獄の炎のようにぐらぐらと煮立つ炎の有様は、まるで地縛霊のような威圧を覚える。
 けたけたと笑いながら、それは、根源的な恐怖を呼び起こす圧を秘めていた。
 このままで、多くの一般人たちが、恐慌に呑まれてしまいかねない。
 大きな被害さえ出さなければ、きっと忘れてしまうだろうが……。恐怖というのは、記憶ではなく肉体にもこびりつくものだ。
 なりふり構う余裕はない。
 だらりと力を失ったかのように、ペイルの両腕が下がり、萌え袖のように長い裾がうねうねと膨張する。
 タコ足のような両腕が、月光のシルエットに反映されると、彼女の意図を汲み取ったかのように、その異形なる影の中から、うぞうぞと戌や蟲たちが這い出てくる。
「それでこんな所まで来てしまうなんて、それに古妖の復活、いけないわぁ。
 ごめんなさいだけど……少し痛くするわね」
 詫びるかのように笑みを作ると、ペイルの影業【影毛吼】たちは、唸り声を上げつつ一斉に飛びついた。
 彼らの哄笑が周囲に悪影響をもたらさぬように、ひとまず飛び掛かって取り押さえようというのだ。
 犬の胴体ハグを受けて、正気でいられるものか。
 いや、それは流石に希望的観測だが、提灯お化けたちも、もとは温和な妖怪であったというし、必要以上に手荒な真似は避けたかった。
「おイタが酷いようならぁ、ちょっと引っかいたり、噛みついたりしてぇー……とにかく、止めといてぇ」
『うぬぬ、止さぬか! わしらの油紙を舐め取るでない!』
 影の戌がぼんやりと燃えながら宙に浮かぶ提灯に組み付いている姿は、ちょっとシュールであったが、コミカルに映る内は、恐怖に捉われるようなことはないと信じたい。
 その隙に、ペイルはタコ足めいた両腕から霊気を発する。
 毒性を持つ粘液を分泌する妖怪の腕ではあるが、その毒性を幾らか操作し、霊気として放つことで、相手にショックを与える算段であった。
「毒は、使いようによっては良い薬なのよぉ」
 アメフラシが毒の靄のような液体を水中に撒くように、噴霧された毒煙の霊気は、弱毒……といっても、鎮静作用のあるものや鼻腔や目にピリリと来るタイプのもの。
 つまりは、ラベンダーに芳香やスペアミントの刺激、レッドペッパーのようなスパイスのそれに近かった。
 毒も薬に転じるように、逆もまた然り。かの忍者ですら、トウガラシの粉を目くらましに用いたという。
『ッハァー! 酸っぱい! 辛い! ああーっ!』
 √能力と合わせて用いたそれらは、霊体に近い彼等にも通用したらしい。
 ぼとぼとと落ちていく提灯お化けたちが、ふたたびよろよろと復帰する頃には、暗い淀みを抱えていた炎は、優しげなろうそくのような灯火に変わっていた。
「大丈夫? 気分は……如何かしらぁー??」
『う、うーむむ、大丈夫じゃ。手間を取らせてしもうた。ありがとう、お若いの』
 油紙に浮かぶ目元が涙で滲んではいたものの、どうやら提灯お化けたちは正気を取り戻したらしかった。
 これでおおよその妖怪たちは沈静化できたはずだが、しかし、それのみで状況が解決しないのは、ペイルの背筋をはしる怖気が物語っていた。
 眠る童女のように、無害にすら思えていたせいだろうか。
 いつの間にか薄ぼんやりと姿を現していた白い人影が、自然の情景──この街の月明かりに微笑んでいたそれが、いつしかこちらを向いていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『月夜の出来事』


POW 夜の暗さなど気にせずに行動する
SPD 月明かりを頼りに行動する
WIZ 自分の知識を使って行動する
イラスト レインアルト
√EDEN 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 提灯お化けたちは、もとより穏やかな妖怪であった。
 悪戯をして喜ぶ程度には害の少ない種族であったが故に、かの古妖の祠を見守る役割を買って出たのだという。
 しかし、その本質は妖怪そのものであり、多少の荒事に遭遇しても、いつの間にか自身の火を灯して復帰する。
 √能力者たちの心遣いにより、無論、ちょっとだけ本気で殺しにかかった可能性もあるが、とにかく、彼らは正気を取り戻した。
 かの古妖は、多数の妖怪を支配するような能力を持っているわけではなかった。
『すまなんだのう。寝物語に聞いた、かのお方を目の当たりにして、舞い上がってしもうたようじゃ……おぬしらには迷惑をかけてしまったわい』
 いやーメンゴメンゴ、くらいの気安さで微笑む提灯お化けたちに思う事はないではないが、事態はそう気安いものではなかった。
 何しろ、とうのかのお方──白鬼は既にこちら側に来ているのだ。
 なるべく穏やかな手立てで提灯お化けを鎮静化したためか、謳われていたほどの脅威を感じなかった白鬼は、単なる薄着の女性くらいにしか見えなかった。
 ところが、ここに至るまで行われたのは、色々あったとはいえ、闘争は闘争。
 その匂いに煽り立てられたかのように、月を見上げて新たな風に身を任せていた白い鬼は、改めて周囲を見やり、だらりと下げていた長大な斬馬刀を担ぎ上げる。
『ふはっ──』
 歯を剥いて笑う。
 童女のようですらあったその白い頬が、まるで裂けるように口腔をさらけ出すと、それを見た者は、もれなく血の匂いを錯覚した。
 薫風だろうか。だとすれば、そんな剣呑なものはおおよそ感じたことはないだろう。
 どこにも出どころのない、ただの戦意を向けただけで巻き起こる一陣が、衆目を無意識のうちに一歩下がらせ、そして街明かりが自身を喪失したかのようにいくらか明滅を繰り返す。
 一切の音が消えたかのような、鬼の笑みに言葉は無かった。
 絶大な暴力が人に似た形を取り、それは、言葉はなくとも雄弁に語っていた。
 次は、自分の番であると。
『むう、いかん……あのお方が、その気になってしまうぞ……』
 その気に中てられた者を、戦場に引き込むかのような血の気配。
 一度それを受けた提灯お化けたちは、苦しげにその懐かしさに抗いながら、白鬼の背後に揺らめく道を示す。
『此方で暴れてしまえば、街が潰れようぞ。浮足立っておられるうちに、彼の地へと案内せねばなるまい……こっちじゃ!』
 ぴゅ~という効果音が似合いそうな、むしろこの場においては不似合いにも見える提灯お化けが、彼の地と呼ぶ祠のある場所へと通じる小道へと向かうのを、白鬼は見向きもしない。
 もはや、白鬼はこちらしか見てはいない。
 美しい鱗もつ蛇のような瞳が、この月光の許で斬り合う事に、既に絵を描いているかのようであった。
 妙齢の女性と思しき姿かたちをしていても、その目に映るのは、どうしようもなく純粋な戦意であった。
 儚くも力強い、一陣の颶風のような怪物に魅了されていないならば、彼女をもとの世界へと誘い出さなくてはならない。
クラウス・イーザリー
こちらを見て笑う白鬼と視線を合わせたまま、通路の方にそっと足を進める
追ってきてくれるなら間合いを保ったまま後退
戦うこと自体は構わない……というか、どう見ても戦いを避けられる相手じゃないけど
単純に、ここでは場所が悪い

誘導中に相手が斬り掛かってくるなら見切りで回避を試みて、そこで初めて声を掛ける
「すまない。ここでは満足に戦えない」
「力を出し切れる場所まで来てくれないか」
対話よりも戦いに関することの方が聞いてくれそうだから、要望は端的に伝える
もし危ない状態になったら氷の跳躍で大きく距離を取る

今はまだ本格的に武器を交える段階じゃないけど、ずっと喉元に刃を突きつけられているような殺気は純粋に疲れるな……
夜久・椛
んー…祠まで誘い出す必要がありそう?

「そうだな。こっちに視線が向いてるし、煽れば追ってくるんじゃないか?
鬼ごっこになりそうだが」

ん、鬼ごっこというか、本物だね。
でも、やるしかないか。

引き続き同じ御伽を使用。
【幻影使い】と水の【属性攻撃】を組み合わせた分身をけしかけて牽制し、誘い出すよ。

そのまま、上昇した身体能力で、追いつかれないように距離を取り、小道へと移動。
攻撃が飛んでこないか【野生の勘】で注意し、必要に応じて水の分身で敵の勢いを削ぐよ。

いざという時は、手に持ったシルフィードブルームを使って空中に退避。
【カウンター】で磯撫でを放って吹き飛ばし、距離を空けよう。

…鬼を煙に巻くのは大変だね。

 ざわざわと、聞こえる筈のない梢の囀りを聞く。
 この都会のど真ん中で、木々のさざめくような音色を聞くことはない筈だが、或は、それは、肌の粟立つような寒気と、風の渦巻くような音とするならば……。
 騒がしいはずの、交差点の誰もが、口を噤んでいた。
 人に似た姿の中に留められた、暴風のような暴力が、こちらに向くまいと、己が限界を知る者たちは、本能的に身を護るために息を潜める事しかできないのである。
 息をすることすら忘れる。
 むわりとした夏の熱気が、喉の渇きを訴える。
 それが、白鬼の帯びる美しい少女のような肢体を晒すから、というわけではないのは、この場の誰もが認めるところだろう。
(目が、離せない……)
 クラウス・イーザリーは、妙齢の女性をしてそう評すことに対して、これほど見当違いな思いを抱くことも無かった。
 肉食動物が大口を開けて近づくかのような、狩猟体勢を目の当たりにしたときのように、静かな圧力を受けて、迂闊に隙を晒すことを、クラウスという修羅場を潜り抜けてきた男の本能は、それを許せない。
 その視界の端では、正気を取り戻したらしい提灯お化けたちが行灯のように明かりを灯して道を示してくれているようだが、どうやら向かう場所は正反対。
 背筋を詰めたいものが伝う。
 対抗する事はできるだろう。しかし……、無造作に振るわれる白鬼の刀は、一振りで十数人を切り伏せる。
 予感がする。
 ここで交戦すれば、間違いなく甚大な被害が及ぶ。
 表情を崩さぬまま、眉間にしわを寄せ、クラウスが逡巡する中で、
「んー……祠まで誘い出す必要がありそう?」
『そうだな。こっちに視線が向いてるし、煽れば追ってくるんじゃないか?
 鬼ごっこになりそうだが』
 夜久椛と、その尻尾に血筋の名残と現れる黒い蛇、オロチの相談は、思いのほか白鬼の目を引いたらしい。
 しかし、痺れるような視線を受けてもなお、椛たちはまともに目を合わせることはしない。
 もしも真っ当に視線がかち合ってしまえば、そのまま始まってしまいそうだった。
 まともにやり合えば、その余波が周囲に及ぶことは明白。
 でも、こちらに目が向いているなら、それはそれで好都合。
 前にも引き続き、椛は、【御伽術式「磯撫で」】を従え、周囲の水気を活性化させる。
 とっくにアスファルトに吸い込まれた雨水が再び足元に滲みだし、水面が鏡面のように夜闇を反射する。
『──』
 白鬼の視線がいくらか横に泳ぐ。
 静かな水面から波紋とと共に浮かび上がる椛の映し身が沸き立つ様を、ほんの一瞥のみで捉えたらしかった。
 一瞬、それを悟った椛の脳裏に死相が過ぎる。
「見逃してるんじゃないか?」
 ゆるりと斬馬刀を担ぎなおす白鬼が、椛の偽装へ嬉々としてその刃を振るおうとする直前、クラウスの投げた声は、鬼が視線を一瞬だけ外した隙をついて、背後にまで移動していた。
 わざとらしくぱしゃりと足音までさせたクラウスは、【氷の跳躍】で以て、視線が逸れたわずかな時間でインビジブルと瞬間的に居場所を入れ替えることで、意表を突くことに成功する。
「ん、鬼ごっこというか、本物だね。
 でも、やるしかないか」
 その事実に、嬉しそうに反応するものだから、椛もそれに乗るしかない。
 槍のように形状変化して飛び掛かる水の虚像。
『あはぁ──!』
 見ずに切り払う。
 弾ける水滴に、その目の光が写り込んでいるとでも言うかのように。
 ぐん、と重さを感じさせないかのような斬馬刀が、さらに加速を得ようとするところに、すかさずクラウスが、スタンロッドごと体をぶつけるようにしてそれを阻む。
「すまない。ここでは満足に戦えない」
 言葉による説得がどれほど効果があるのかは知れないが、戦いに関する事ならば、聞こえてはいる筈だ。
 激しい電圧とともに、ぱんっと弾かれる。いや、初めから反発力を利用して後ろに跳ぶのが目的だった。
 それを逃がすまいと、白鬼が空いた手を伸ばすが、それが暴力的な速度を得る前に、椛の「磯撫で」が水弾をぶつけてそれを弾く。
 改めて目を向けると、椛はひらりと身を翻し、頭上を飛び越えてクラウスと同じ方向で向かうようだった。
 御伽を宿して飛躍的に上昇した身体能力の為せる技だが、緩やかな跳躍の着地を狩らんと、改めて斬馬刀を一閃する。
 水の膜と共に、椛は空中で両断されてしまう。
『──』
 すぐさま、それの手ごたえが浅い事を知る。
 ぱらりと散った水の滴りの向こう側に、シルフィードブルーム……風の精霊を宿した箒にぶら下がって飛距離をかせいで遠くへ降り立った椛の姿があった。
 雨粒のような冷たさを感じながら、今しがた一息に切り裂いた幻影が、手前に展開された薄い水の膜がレンズのように距離感を狂わせていた事に今更になって思い至る。
「力を出し切れる場所まで来てくれないか」
 相手取りながらも、激しくぶつかり合う事を避け、且つ、二人は着実に、提灯お化けの導く小道へと誘導していた。
 一方の白鬼もまた、これほど手数を使って仕留められない相手は初めてだったのか、その顔には相変わらず暴力的な笑みが浮かんでいる。
 ぱしゃぱしゃと、素足で水面を踏む音が近づくたび、心がざわめくのを感じる。
「逃げるだけなら楽かとも思ったけど、ずっと喉元に刃を突きつけられているような殺気は純粋に疲れるな……」
「ん、鬼を煙に巻くのは、大変だね」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
街灯の陰、白鬼の眼が我を捉える。斬意は既に放たれている。ならば、受けず、流すのみ。

【蟲煙袋】を吹き上げ、熱と臭気で視界を鈍らせる。続けて【跳爪鉤】で屋根へ飛び移り、歩幅を惑わせるよう距離と高さを変化させながら動く。

風を切り裂く翅の震音に、【翅音板】を重ねて残響を引き、幻の軌道を撒く。視線を振らせれば、白鬼の興は導けるかもしれぬ。

「汝の望む場は、此処ではなかろう。闘いの火を求めるなら、導かれてみせろ」

月と風が開けた隙を拾い、提灯の示す道へと移動する。踏み込ませるのではなく、踏ませたくなるような間合いを保ちながら。

我が斬は、斬らぬためにある。白鬼がその誘いに乗るか否かは、次の風が決めるだろう。

 ごう、と風が吹き抜けたかのような。
 それは、錯覚であったかどうか。
 和紋蜚廉の、その特異な肌膚というべきか、外骨格というべきか、しなやかで強靭な筋肉を収納した黒い鎧は、痺れるように甘美な殺気を浴びていた。
 おお、蔑むでなく、憎むでなく……まるで願うような、希うようなそこから感じるのは、まるで飢えであった。
 白く美しく、華奢で柔らかくすら見える白い女。
 生存の為のみぞ性の熾るを許そうともする、それほどに生存に突き動かされる蜚廉をして、触れ得ざるものとみてしまいかねない。
 見るに興味を抱けないそれから発せられるのは、煮えたぎる闘争本能。
 ああ、か弱きあの頃であれば、迷わずに隠れて生を掴む道を模索したであろう。
 間合いに踏み込むは死。
 肌身に感じるものは、斬られるという予感。
 斬意とでもいうべきか。
 あれなるは、凝縮された暴力の嵐。
 今更、街灯の影に身を潜めようとも、その目に留まれば、逃してくれまい。
 それほどに、白鬼とは容赦がなく、そして……蜚廉は、見逃されるには熟れてしまっていたのだろう。
 正対すれば、斬られる。砕かれる。潰される。
 虫のように、藁のように、いや、全ての命と等しく、そうあるのか。
 歓喜と恐怖とが、空気を張り詰めるのが、最も敏感な触角を戦慄かせる。
 間合いを取る。いや、下がり過ぎれば聴衆を巻き込んでしまうだろう。
 蜚廉の身は、後ろ向きに街灯をよじ登る。
 そして背部を突き上げるように見下ろすと見せかけつつ、『蟲煙袋』から熱気と独特の臭気を振り撒く。
 油の焼けるようなやや鼻につく臭気と、まとわりつくような熱気は、異質な嫌悪感を伴って月明かりの下でも徐々に視界を歪ませる。
 ゆるゆると歩み寄って来る白鬼ですら、わずかに眉を寄せて長大な刀をふおんと鳴らせて、それを振り払おうとするかのようだった。
 そうして、そのはずみか、それとも最初からそのつもりだったのか、小枝のように振り抜いた刃が、こぉんと小気味いい音を立てて、蜚廉の上る街灯を根元から切り倒す。
 蜚廉はそれに先んじて、人型の時には格納している『跳爪鉤』を展開して跳ぶ。
 バス停のような屋根に飛び移りながら、がさがさと翅を鳴らす。
 いや、それは背の翅のみからではなく、胸殻に仕込まれた『翅音板』も用いての不可思議な羽音であった。
 なかなか一足一刀の間合いに持ち込ませない蜚廉の立ち回りには、白鬼もいささか興を削がれたかのように小首をかしげて覗き上げてくるが、その足取りはあくまでもゆっくりとしたままだ。
 その間にも、空を裂く音色は、周囲の物品と共鳴し、まるで空気を毛羽立たせるようだった。
 それが、二人の間にある、また別方向のそれを指し示す。
 りり、りり、とまるで鈴虫が鳴くかの如く、懐かしい風の吹きこんでくる一か所へと導いているかのようだ。
 奇しくもそこには、提灯お化けたちの灯火が道を成して、誘い込んでいる。
「汝の望む場は、此処ではなかろう。闘いの火を求めるなら、導かれてみせろ」
 そういうと、蜚廉は自らもその道に呑まれるかのようにして、ようやく地上へ降り立って先導する。
 いや、完全に背は向けず、踏み込めば一撃くわえられそうな、いやいや、まだ遠い。というような、それくらいの間合いを維持しながら。
 奇妙な情景であった。
 黒い巨大な虫が、白い鬼を、月光の下で誘い出しているかのような様相であった。
 その声に応じたのかどうか、それとも、単純に蜚廉を確実に斬るための間合いに敢えて誘われているのか。
 定かではないものの、白鬼はうっすらと笑みを浮かべたまま、その姿をゆるゆると追いかける。
 担ぐ斬馬刀の持ち手をぎしぎしと軋ませながら。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

矢筒・環
ハクくん(h02730)と

|白《しろ》か。ハクくんの親類縁者かな?
私は絡め手は苦手なたちですから、白鬼さんに真正面からお願いしましょう。
彼女が漂わす戦場の気配は「霊的防護」と「狂気耐性」で遮断して。スマートグラスの警戒レベルも上げます。

お初にお目もじ申し上げます、|戦場《いくさば》の鬼女殿。
ここは戦う術を忘れた弱き民草が集まり暮らす所なれば、あなた様に相応しい居所では無いと存じ上げます。
ここで事を起こさば、我々は民の生命家財が失われぬよう腰の退けた戦しか出来ませぬ。なれば弱き者どもを殺し尽くすというもまた下策。民は数え切れぬほどおります故に。

どうか提灯の導きに従い、場を移していただけませんか?
櫻井・ハク
・・・この人が白鬼さんだね、戦意の塊みたいだし暴れたら台風みたいな事になりそうだね
「・・・完全にその気になったら話も聞いてくれなそうだし少しでも会話してみないとね」
念のためにオーラ防御だけしておいてお話するよ
「・・・初めましてだね、櫻井・ハクだよ」
妖怪といえども自己紹介は大切だしできる限り真摯に対応するように心がけるよ
「・・・今すぐに力を振るいたい気持ちも分かるけどここはその場所じゃないよ」
「・・・ここは戦場ではないよ、振るうのならばそれに似合う合う場所じゃないと行けないよ」
危ないかもしれないけどできる限り目を見て話していくよ
「・・・少なくともいるべき場所はここではないよ」

 それを目にしたとき、果たして、それはどうかと思うのだった。
 風に理を問うたとて、
 大海に是非を問うたとて。
 答えが返って来るものか。
 疾うに正気を失った鬼の在り様は、言葉を知らぬ怪物に過ぎぬ。
 それは人によく似た、颶風であり、秋霖である。
 凍えるような敵意と、ただ暴力を期待する熱を帯びた瞳を前に、刃を持たずに応じることなどできようか。
 恐れが、矢筒環の背筋を凍り付かせる。
 もはや一足一刀。その間合いに十分入ったと思った瞬間、その脳裏には、切り捨てられる未来が過ぎった。
 それが誰の身にも備わった予見であると知りつつも、鉄錆と生暖かい匂いを幻視するのを止められはしなかった。
 自らの死にあてられて、環はせり上がって来るものを飲み下すようにして、胸をなでおろす。
 対幻像看破機能もあるというスマートグラスの警戒レベルも上げて、すぐ隣の櫻井ハクの手を握り締める。
 ひたり、ひたりと、歩み寄るその足音が、そのままに死へ辿る秒数を告げているかのようだった。
 もはや、鬼が背に担いだ斬馬刀を一薙ぎするだけで、環もハクも、そのままに両断されてしまうだろう。
 それほどの戦意に中てられてなお、二人はそれに惑わされず、お互いの存在を確かめ合うかのように手を取るだけだ。
「|白《しろ》か。ハクくんの親類縁者かな?」
 それを正面から見据えるのには、勇気が要った。
 軽口を叩くにも、迂闊に内臓が口からはみ出てしまいそうだった。
 それほどに、期待されている。見透かされている。
 抗えと、振り絞れと。
「……完全にその気になったら話も聞いてくれなそうだし少しでも会話してみないとね」
 まるで空気が質量を伴っているかのように、明確な意を、圧として放ってくるのを、見えないふりをして、あくまでもそうであるというかのように、ハクは守りの体制、その身に発する護霊の猫の輝きを湛えながら、そうして二人、鬼に正対する。
「……初めましてだね。櫻井ハクだよ」
『あぁ、うー……?』
 できるだけの誠意をもって相対する、ハクの言葉を、白い鬼は怪訝そうに、口の動きをなぞるようにして幼子のような言葉にならない声をして反芻する。
「お初にお目もじ申し上げます、|戦場《いくさば》の鬼女殿。
 ここは戦う術を忘れた弱き民草が集まり暮らす所なれば、あなた様に相応しい居所では無いと存じ上げます」
「……今すぐに力を振るいたい気持ちも分かるけどここはその場所じゃないよ」
『──……』
 言葉が通じているかどうか、定かではなかった。
 少なくとも、ハクの名前を満足に反芻する言語すら持たない可能性もあったが、そこにかすかな戸惑いの色のようなものがあるようには感じた。
 その意を向けて、その威を示して、応じぬ者は居なかった。
 窮鼠猫を噛むとも言うほどに。
 進退窮まった動物は、たとえ体格や技量に勝る相手に追い込まれていても、牙を剥かざるを得ない。
 まして、その力を十分に持っているであろう、この二人の存在が、白鬼がいかに戦意を向けようとも、応じる気配が無いのだ。
 道理無き鬼は、ただ戦意渦巻く戦場の道理に倣うのか。
 奮い立つほどの強敵を前に、歓喜に打ち震えていた鬼は、いつしか笑みすら納めていた。
 ハクのパーカー。その襟元を、わずか瞬く合間に切り裂きながら、喉元にまで突き付けられる白刃は、苛立ちを示していた。
 風は凪いでいたものの、その縦に割けた瞳孔の内には雷雨が吹き荒れている。
 僅かでも気を抜いたら、環は自分の喉から空気が洩れて、うっかりしたらハクの首が転がっていたかもしれないことに、冷たい汗が脇の下を濡らす。
 肺が詰まったかのように、うまい事言葉が出てこない。が、当の刃の冷たさを感じるほど間近なハクは、それを既に受け入れているかのように張り詰めた中で息をつく。
「……ここは戦場ではないよ、振るうのならばそれに似合う場所じゃないと行けないよ」
『あぁ、うー……』
 白鬼の目を見て話すハクに対し、長大な斬馬刀の刃を挟むようにして、鬼はその顔を近づける。
 爬虫類のような瞳孔が、まるで体温を探るかのように前傾で顔を寄せる仕草は、はだけた着物から髪がほつれ落ちてくる様子も相まって、この極限の緊張感の最中でさえなければ煽情的にも見えたかも知れない。
 いや、環からすれば、それは嫉妬に値する距離の近さであった。
 だってほら、零れ落ちそうなんですよ。さらしから!
 恐怖。死すら許されぬ√能力者に根源的なものを思わせながら、環は、一瞬それを忘れ、思わず咳払いと共に、早口に捲し立てていた。
「ここで事を起こさば、我々は民の生命家財が失われぬよう腰の退けた戦しか出来ませぬ。なれば弱き者どもを殺し尽くすというもまた下策。民は数え切れぬほどおります故に。ゆーえーに!」
 意表を突く意図など微塵もなかったが、多分に気に食わなーい! という感情を乗せた説得の言葉とともに、気が付けば環はこの場に一秒もハクくんを置いていてはいけないと判断し、その腕を引っ張っていく。
 提灯お化けの導く行灯のような明かりの灯る小道へと。
 意外にも、白鬼は、呆気にとられたようにそれを見送り、
「……少なくともいるべき場所はここではないよ」
 無理やり引っ張り回されてがくがくしながらずっと白鬼のほうを向くハクの言葉も、突っ立ったまま聞き流していた。
 その言葉が、白鬼に届いたかどうかはわからない。
 言葉が通じたかどうかも、判断は付かない。
 ただ、言葉はなくとも、白鬼は無知ではない。
 なるほど、そうか。
 それを奪えば、あれは抗ってくれるのか。
 かくして、鬼には少女のような笑みが戻り、うっすらと血の跡の残る刃を指先でなぞると、ゆるりとその後を追うのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒木・摩那
ふむぅ。あれが白鬼ですか。いかにもやばそうな雰囲気ぷんぷんですね。
確かに白鬼がここで暴れたら√エデンも被害甚大になること間違いなしです。
やはりオススメ通り、元の世界に一旦戻してから決着つけましょう。
妖怪が妖怪世界で暴れる分には日常ですからね。

白鬼が√能力者とやる気満々であるならば、単に我々が祠まで誘い出すだけです。
提灯の明かりで道を作りつつ、たまーに武器を見せつけて挑発もしたりして、白鬼の気を惹きつけます。

心置きなくやり合うならば、邪魔の入らないふさわしい場で行うべきでしょう、ともっともらしいことを言えば、おとなしく付いてくるかな?

 空気の色が変わったというのか、味が変わったというのか。
 微笑む女性が職場に居るだけで、雰囲気がだいぶ和らぐという話をどこかで聞いた事がある。
 しかしながら、美しい女性の姿をしたそれの笑う姿は、どういうわけか他を圧倒する威圧感を覚えた。
 それはおそらく、多大なる期待によるところが大きいのだろう。
 それとも、彼女は懐かしんでいるのだろうか。
「ふむぅ、あれが白鬼ですか。いかにもやばそうな雰囲気ぷんぷんですね」
 黒木摩那の正体は、本来実体を持たない宇宙エネルギーのようなもの。
 彼女を成しているいわば肉体と、その宿主の関係があるわけだが、完全に融合している状態であっても、そこに齟齬がゼロではない。
 その一つが食欲であったり、肉体の感じるストレスや、強靭な精神エネルギーには感じ得ない潜在的な恐怖であったりするわけである。
 摩那の生身の肉体が覚えるのは、恐らくはそういった類のもの。
 そんな強張りですら新鮮な感覚と思いつつ、それはそれとして別の懸念もなくはない。
「確かに白鬼がここで暴れたら√エデンも被害甚大になること間違いなしです。
 やはりオススメ通り、元の世界に一旦戻してから決着つけましょう。
 妖怪が妖怪世界で暴れる分には日常ですからね」
 肌の粟立つ感覚にこそばゆいものを感じながら、自分の意志通りに身体が動いてくれないと話にならない。
 準備運動でもするかのように、提灯お化けたちを殴り飛ばしたヨーヨーを、手首の返しのみでリリース、吊り下げた先に回転を維持してスイープ。
 釣り糸を引くようにして手首を返すと、回転を維持した本体がワイヤーを巻き取って戻ってくる。
 それをわざと、音が出るようにしてばしっとキャッチ。
 繊細な緩急が、さながら生きているかのような軌道を可能とするように、摩那の肉体は即座に平静を取り戻し、そして同時に白鬼の注意を引くにも一役買っていた。
 遊具がモデルであるとはいえ、それが武器であることは明白であり、ともすれば誘うようにも見えていたろう。
 摩那自身にもその意図がゼロではない。
 とはいえ、ここでやり合うつもりはない。
 あくまでも、この世界ではノリが合わないというような雰囲気を見せつつ、さり気なく歩み寄るのは、提灯お化けたちが指し示す灯火の小道。
 相手が焦れてくる感覚も、ひしひしと感じる。
 肌を焼くような、急かすような白鬼のそれは、言葉はなくとも似たようなものを知っている。
 摩那が共感できる最も近い感情といえば、それは食欲に近かった。
 鬼の姿をした美しいそれの欲するものとは、食欲……ではなく、その在り様なのではないだろうか。
 その妖怪が、伝承から生まれた存在であるならば、そうあれかしと戦場を欲するのも無理からぬこと。
 到底理解のしがたい事ではあるが、存在を示している時が最も輝けているというのならば、彼女もまた、生まれながらの本能に忠実なのだろう。
「心置きなくやり合うならば、邪魔の入らないふさわしい場で行うべきでしょう」
『──あはぁ』
 もっともらしい言葉を投げかけて、犬の散歩のようにヨーヨーを道の示すままアスファルト上を転がして、然も引っ張られるかのように駆けだすと、熱っぽい笑みを浮かべる怪物が速度を上げて追跡してくるのが分かった。
 激動。
 見せろ。と、戦を求める貪欲な鬼の関心が、まるで質量を帯びてまとわりつくのをかすかな怖気として感じつつ、摩那は野山の匂いのする小道へと向かうのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルバー・ヒューレー
「――成る程、確かに天女のように美しくもありますが、鬼のように――恐ろしい気配も持ち合わせていますね。……白鬼、確かにそう呼ばれるのも納得です」

こうして肌で感じて、相対して納得がいく。この気配、存在感は周りに悪い影響を与えるだろう

「……寝起きの所、申し訳ありませんが、貴女はこの√EDEN、現代において危険な存在。――もう一度封印させて貰います」

その為にもまずは√EDENから――引き離させて貰います

聖なる盾拳を構えて、白鬼へと接近。盾拳で白鬼の攻撃を怪力で耐えて受け流しつつ、銀の鳥を早業で滅魔の巨腕に武器改造し、二回行動で巨腕との連携攻撃による喧嘩殺法、重量攻撃で持って小道の先へと押していきます

 この場の全てが、まるでそのために存在するかのように。
 この世界は、最も質量のあるものに重力が生じるというように。
 あらゆるものが瞠目しているかのようだった。
 或はその戦意に、或はその見目に。
 人のような何かが、笑いかけ、ゆるりと洗練された躍動で以て歩むのみで、瞼をしばたたかせるかのように、文明の明かりは明滅を繰り返し、人のようにも見える暴風に戸惑う。
 渦を巻くように引き寄せられる錯覚があるのに、衆目はそれに抗うかのように彼女から離れようとする。
 ひとえに、その暴虐の気配を感じればこそ、人は己が限界を知る。
「――成る程、確かに天女のように美しくもありますが、鬼のように――恐ろしい気配も持ち合わせていますね。……白鬼、確かにそう呼ばれるのも納得です」
 降り注ぐ月光を浴びる交差点の一角を、我こそ主役とばかり、燐光すら発しているかのように歩む威風。
 その威容に、総毛立つような怖気を覚えつつも、シルバー・ヒューレーは敢然と両の足で立ち、見据える。
 戦って勝ち取る以外に生存の価値など無いかのように思わせる、暴力の理。
 なるほど、この戦の風は、いかにも妖怪のそれであり、彼らにとって古い傷跡、そして毒である。
 その時代を謳歌し、満喫して眠りについた者には、日常的なそれは、この場所を汚す。
 純粋であるが故に、彼女はここにあってはならない。
「……寝起きの所、申し訳ありませんが、貴女はこの√EDEN、現代において危険な存在。──もう一度封印させて貰います」
 あまりにも純粋な輝き。生まれ出ものを、どうして祝福せずに居られるだろうか。
 しかしながら、選別されるべきものは存在する。
 故に、人は咎人と呼ばれ、心の中の神に問い、許しを願う。
 人の世の中で、シルバーは、月光のような白と相対すべく、溌溂と銀を発する。
 烈日たる暁光に対する、冬の霜のように屹立する両の足が歩みを早め、彼女の両手には銀の棺が盾の如く生じて、それを大きく振りかぶる姿勢に乱れはなく、臆する事もなかった。
 聖なる盾拳を全力で振りかぶり、そうして、彼女は【銀色の旋風】と化す。
『ふは──』
 人馬を隊列ごと薙ぎ払うかのような鬼の剣が、棺を食らう。
 雷光のような火花。そして轟音が鳴り、不可視の筈の圧が周囲の環境をへし曲げて周知する。
「なんと……!」
 凄絶な笑みに気圧されたかと見紛う。
 いや、見間違えていたのは、絶対不壊を確信していた盾拳に食いつく斬馬刀がその切っ先をシルバーの骨肉にまで到達せんとしていたこと。
 受けては断ち切られる。
 自身の怪力が、暴力に屈するなど考えたくもないが、相手はいわば天然自然に近い天災のようなモノ。
 流れに逆らい続ければ、いずれは打ち負かされる。
「むううっ……!!」
『はははっ……!』
 力の向かう方向を逸らす。いや、自ら逸れると言った方がいいのか。
 対して、白鬼の貌は、我道の成り難しを喜ぶかのように喉を鳴らす。
 返す刀。
 まともに受けてはダメだ。
 咄嗟に、彼女の背後に浮かび上がる神秘の銀の鳥が、巨腕に変ずると、白鬼の切り上げに合わせるようにして、ちょうどその合間を縫い、巨大な腕が鬼の両肩を掴む。
 華奢なはずのその体格を押し戻すのに、どれほどの膂力をその巨腕が要したのか。
『あはははっ』
「どれほどの膂力があろうと……あなた自身の体格は、女性のものです」
 質量を作り出すシルバーの銀色。巨大な甲冑騎士の如き両腕がじわじわと、笑う鬼を提灯の照らす小道へと押していく。
 振り抜いた斬馬刀、それを握る腕が戻ってこぬよう、シルバーは盾拳と大地を支えに踏ん張りながら、喧嘩師の如く野生児を押し戻す要領で歩みを進める。
 みしり、みしり、と彼女の構成する銀色の意志が、ただの力で押し返されそうになりながら。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ペイル・カバネ
貴方が白様、ああぁ背筋がぞわぞわする。とっても大胆なお方、お会いできて光栄だけども、今この場は、|逢瀬《戦い》を楽しむ所ではなくって、ご了承いただけると、嬉しいのだけれども、そうもいかないのも分かっているのですわぁ……サインとかぁ、貰えるかしら?

たわごとと影毛吼達を残し、病馬に【騎乗】提灯お化けさんの後を追って妖怪百鬼夜行の地へ、封印の祠のある場まで白様を引きつけつつ走りましょう。
具体的には鏢を【投擲】したり暗い夜道でも此方を見失わぬよう遮光天露の【レーザー射撃】で。
影毛吼には後ろや横から追ってもらい、闘争の熱が下がる、鎮静効果のある毒煙を吐いてもらって白様が脇道に逸れるのを嫌がってもらいます

 とても静かな時間。
 しかし、それは、暴力が世間を震撼させた力業の静けさに過ぎなかった。
 台風の目の中は静かに晴れ渡るのと同じように。
 嵐や天災を体現したかのような、伝承を基とする古い妖怪、名も無き白い鬼は、静かに風を捲き上げている。
 ただそこに居るだけで、ただ武器を担いだだけで、か弱い者は己が限界を知って膝を折り、命が有限であることを知る。
 大自然が牙を剥くとき、それに直面するものは、ただの在るがままでしか居られなくなる。
 そう在れかしと、自らの存在理由を謳歌する鬼は笑う。
 命を満喫する瞬間を、微笑まぬ者は居るまい。
 美しい女の皮など、それは付随的なものに過ぎぬとばかり、その空気の焼け付くが如き潜在的な恐怖を前に、ペイル・カバネは身を捩らせる。
 混血の人妖、そうであるからこそ柔軟な思想を得るに至った彼女にとって、いかなる形であろうとも、出会いは感動であり、今にも空気の摩擦が雷光を迸らせんとする圧倒的な存在感ですらも、愛しく感じていた。
「貴方が白様、ああぁ背筋がぞわぞわする。とっても大胆なお方、お会いできて光栄だけども、今この場は、|逢瀬《戦い》を楽しむ所ではなくって、ご了承いただけると、嬉しいのだけれども、そうもいかないのも分かっているのですわぁ……サインとかぁ、貰えるかしら?」
 思い余って、ちょっとテンションがおかしなことになってしまっているが、当初の思いも忘れているわけではない。
 さすがに白い妖怪が、√EDENにおいて激ヤバ案件であることは百も承知である。
 ここで全力でぶつかり合って、存在を証明したい衝動こそあれ、それをやったら街が潰れかねないのも容易に想像ができる。
 うじゅる、と広い袖の内に侍るタコの腕がぬめりを帯びるのを感じる。
 どうでもいいが、タコ足などとタコの触手は全て足と見なす言葉があるが、蛸は前方へ向かって泳ぐ際は、明確に腕と思われる触手の二本を前にしたりもする。
 いやいや、雑念は無駄知識と共にひとまず置いておこう。
 要はここでなければいいのである。
「病馬ちゃん、危ない橋を渡るわぁ」
 影の中から荒ぶる嘶きを上げて青白い鬣を振り乱す死霊の馬が、そのままペイルを背に乗せて上半身を振り上げたかと思えば、風の如く疾駆する。
 その様相に、白鬼は期待を向けるように笑みを深める。
 立ち向かってくるそれは、彼女が何千何百と諸共に斬り伏せてきた人馬に他ならないのだ。
 もちろん、それは演出に過ぎず、真正面から無策で白鬼にぶつかりに行くなどというつもりはなかった。
「あぁ、なんて素敵……でもぉ、今じゃないの」
 【衣蛸な僵尸】すなわち彼女を成す肉体はヒミツがいっぱいである。
 無論、その豊満さを維持する女性的なそれのみに非ず、広い袖の内を振るえば、手の内に潜めた楔状の武器、鏢が複数投げ込まれる。
『──』
 月明かりの薄闇、白鬼の周囲に火花が散る。
 擲ったそれらは、常より多めに放ったはずだが、いずれもかの身の丈を越える長刀が阻んだようだ。
 はなからそれが通るとは思ってはいなかった。
 一瞬、その足が止められさえすれば、ペイルに懐く病馬はその意を汲んで大きく跳躍し、走る勢いを殺さぬまま白鬼の頭上を飛び越えていく。
 その間に、交差する視界を阻むかのように、火花が散る。
「見ちゃダメよぉ。目印はあっち」
 見る者を狂わす純粋な戦意に、今は付き合っていられない。
 荒ぶる馬を叱咤し、ペイルは、提灯お化けたちが示す行灯の明かり、彼の地へと続く小道へと進路を取る。
 恐ろしい気配が、背筋をなぞるのがわかった。
 視界から外れても、こんなにも感じられる。なんという存在感だろう。
 彼女の知らぬ歴史の中には、こんなにも色濃いものをが眠っていたのだ。
 胸が沸く気持ちをどうにか制御しつつ、完全に追いつかれないよう、しかし離し過ぎてもいけないと、『遮光天露』を展開。
 アメフラシの煙幕のような粒子状の呪具は、日光を遮りながらレーザーのような収束光で相手を射抜く。
 ……その筈だが、次々と撃ち込まれる亜光速の射撃が、手応えの不確かとともに屈折している。
 戦慄の笑みを浮かべるペイルは、更に提灯お化けたちを鎮静化させるのにも使った『影毛吼』たちをけしかけ、同じようにして鎮静作用のある毒煙を発するのだが、それも一つ二つと、気配が途絶えていくのがわかる。
「振り切るつもりぃ、のほうがいいのかしらねぇ……ま、なるようになるでしょ」
 改めて、とんでもない鬼ごっこに加担してしまった。
 と、妖しの行灯の小道を駆けるペイルは、沸き立つ思いにいつまで抗えるか、少し心配になっていた。
 そうして、青い匂いが鼻腔の全てを塗り替える頃に、都会の明かりは届かなくなっていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『白鬼』


POW |颶風《かぜうたう》
【斬馬刀】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【剣圧吹き荒れる暴風域】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
SPD |秋霖《あめうたう》
【斬馬刀】による高命中率の近接攻撃を行う。攻撃後に「片目・片腕・片脚・腹部・背中・皮膚」のうち一部位を破壊すれば、即座に再行動できる。
WIZ |無明《よるうたう》
【無影無音の秘術】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【斬妖剣・鬼哭啾々】」が使用可能になる。
イラスト kiyo
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 強い星明りのように、ちらちらと明滅していた都会の明かり。
 喧騒と排ガスの、胸がつかえるような灰色の匂い。
 アスファルトの平坦な触感が足裏を弾くような硬さも、もはやどこへ消えたのか。
 騒然と息を呑む。聴衆の緊張感も同時に消え失せ、明るい夜闇は草木のそよぐ静かな騒がしさへと塗り替えられていた。
 雨上がりの甘やかな空気はどこか共通するものがあれど、数百年余りも手の入ることが無かった原生林に近い野山の緑は、青くむせるような生命の匂いを風に乗せていた。
 街明かりの眩さが、改めて目を焼くほどの文明の明かりであったことを思い知ることとなるが、しかし、大自然の空気に鼻腔が慣れてくる頃には、|√EDEN《あちら側》よりも大きく張ったような月がより存在感を示しているようにも感じる筈だ。
 時代が止まって、錆び付いたかのような野山の光景に、どこか懐かしさを感じる間もなく、それは√能力者たちを追いかけるようにして姿を現す。
 彼女にとっては、この地は故郷なのだろうか。それとも終の場所となったのか。
 ざあ、とさざ波が起こる様に、群がる草が風にあおられ、白い鬼の長い白髪を嬲る。
 青い匂いのする風を受けて、心地よさそうに頬を綻ばせるその顔は童女のそれであり、それは同時に、この場の遠慮のなさをも知らしめるものでもあった。
 その視線は、群がる草むらへ、苔むす巌へ、節くれ立つ古木へ、吸い込まれるような星々、幾星霜の傷跡をも見て取れる月の輪郭へとめぐり、そして、天災に見舞われ無残に砕けた大岩へと。
 その場にわざわざ運び込んだ丸みを帯びた大岩は、火山ガスの噴気孔を抑え込む殺生石さながらに供えられた祠の中核を担うものであったらしい。
 それを囲う簡易的な社ごと、凄まじい力で殴り壊された形跡のままに無残な姿をさらすそれすらも、自然のあるがままのように微笑を向けると──、
 やがて白鬼の視線は、君たちへと向き直る。
 言葉を持たぬ、名前を持たぬ、それは白い鬼のメッセージのようでもあった。
 この世界は、なんと自由で、美しいのだろうか。
 命はあるがままでいい。
 生まれ落ちた命のあるがままに、それを謳歌する事の、なんと晴れやかな事か。
『あはぁ……』
 鬼は笑う。衝動に駆られるままに、歓喜を押し殺すこともなく。
 命のあるがままを賛美するその生き様は、古より変わることなどないかのように。
 白い鬼が来りて、戦場を血に染めては去ってゆく。
 そう在れかしと、かく在らんと、宿命は鬼を歓喜させる。
 故に、鬼は笑う。
『はは、あはははっ! あははははははっ』
 歯を剥いて笑う鬼。
 その威容、存在感に気圧されるかのように、先着していたらしいこの地の後見を任された提灯お化けたちは、新たな祠の要となるであろう巨石を共同で運びこみつつ、驚嘆と怯えの混じった灯火を揺らす。
『仕舞ぞ……あのお方が、その気になってしまわれた……よくぞここまで案内してくれたもうた。残すは、かのお方を再び封印するのみ……しかし、しかし……』
 √能力者たちを労う言葉もそこそこに、彼らは言い淀む。
 彼らの言わんとする、最後の一手。それがいかに困難である事かを、改めて言葉にすることが憚られた。
 それほどまでに、白鬼の凄絶な笑みは、何よりも雄弁であった。
 命の躍動のままに、その魂の促すままに。
 命の歌うままに。
 風よ歌え、雨よ歌え。
 暴虐という名の命が、燃えていた。
クラウス・イーザリー
(話ができる手合いじゃなさそうだ)
ただ在るがまま戦いに生きる姿はある意味羨ましいかもしれない
……何にも縛られない生き方は、きっと楽しいんだろうな

とりあえず、再封印できる程度には弱らせないといけないみたいだな
アクセルオーバーで電流を纏い、無明で上がった速度に対応しながら戦闘
レイン砲台のレーザー射撃で牽制しながら、電撃鞭のマヒ攻撃と紫電一閃を合わせて動きを鈍らせつつダメージを与える
敵からの攻撃は見切りや武器受けで防ぎ、鍔迫り合いになったら高速詠唱+全力魔法で怯ませて咄嗟の一撃で不意打ち

俺一人では力が及ばなくても、他の能力者達が少しでも有利に戦えるように全力を尽くして可能な限りダメージを与えるよ

 なまじ、それが人のような姿をしているだけに。
 どこかで期待していた自分が居た事に、意外と、そして恥じる思いも同時に浮かんだ。
 雷の迸り、その兆しでも浴びたかのように。
 明るくすら見える月明かりの下で、クラウス・イーザリーは、反射的に間合いを測っていた。
 戦いに赴くときは、その実用性から無地のもの、とりわけ黒に近いマットなものを選ぶ。
 戦場で意図なく目立つ必要性が無いためであるが、雪原でもない限りクラウスは色で主張するわけではないが、青から黒っぽいものを好む。
 パーソナルカラーと言われればそうなのかもしれない。
 特に選り好みしているつもりもないのだが……間違えても、目の前に堂々と歩み寄る巨大な気配を放つ女性のように、全身を白で固めたりはしない。
 その鬼は、着物をはだけさせ、ただ一振りの長大な斬馬刀を、まるで小枝のように軽々と担ぎ上げ、魅力的に微笑む顔つきは、知性のようなモノすら感じさせるが……。
(話ができる手合いじゃなさそうだ)
 絶望的なほどの隔たりを感じずにはいられない。
 恐らく、その正体に、クラウスは気が付いている。
 戦場の狂気、在るがままに戦いを受け入れた怪物。
 吹き出る鮮血のように苛烈で、一瞬だけ熱く、すぐに凍えるほど冷めてしまうそれを、渦を巻くように維持し続ける。
 戦場でその高揚に駆られて気を病んでしまう者を、少なからず見てきたが、常人ならば戦場で冷静さを失った時点で、生き抜くことはできない。
 たまに、類稀なセンスを持つ者が、獣のような勘を働かせて生き残ることもあるというが、目の前の白い鬼は格別であろう。
 文字通りに、見た目通りに、人ではない。
 だから、彼女の纏う空気を、懐かしくも思い、そしてそれに囚われまいと逃げ続けても来た。
 すべて受け入れて楽になれたなら、と考えなくもないが、その時になって生きていられる保証はない。
「ただ在るがまま戦いに生きる姿はある意味羨ましいかもしれない。
 ……何にも縛られない生き方は、きっと楽しいんだろうな」
 ワガママな少女のように、そんな風に生きるには、少々、色々なものを背負いすぎた。
 鬼にも、子供にも、きっとなり切れやしない。
 そこに一抹の寂しさを覚えながらも、目の前の圧が濃くなったことを受けて、【アクセルオーバー】を起動。
 装備によるものか、魔法によるものか、とにかく体に電流を流し反射神経や運動能力を数倍に引き上げる。
 横っ飛びに躱した直後に、それまで立っていたところに斬馬刀が振り下ろされる。
 視覚も聴覚も強化されているというのに、白鬼のたしたしという足音が聞こえなくなっていた。
 草を踏む音、かき分ける音、それらがまるでごうと振り抜かれる斬馬刀の轟音にかき消されているかのように、足運びも見えやしない。
 これを弱らせるだって。冗談じゃない。
 馬鹿正直に格闘戦に付き合う必要はないとばかり、粒子状の浮遊砲台は、その砲身も質量さえもほとんど感じさせない気象兵器レインによるレーザー砲撃を周囲から発生させることで牽制をかける。
 不可視の雲から雷光のように迸るレーザーの不意打ちは、予備動作も予兆もない筈だが、ひさしのように担ぐ斬馬刀がその光跡を逸らす。
 呆気にとられる間もなく、白い残光を引きながら踏み込んでくる白鬼に合わせるようにして、クラウスは電撃鞭を振るう。
 影すら見せない早業に追いつけるのは、アクセルオーバーによって上昇した能力のお陰か。
 紫電一閃。出力の上昇させた電撃鞭から雷光が迸る。
 それはたとえ斬馬刀で受けたとしても、伝播する高圧電流が彼女の動きを鈍らせる。
 紫電が白鬼の肌を焼く。筋肉を麻痺させる。
『あ、は、は……!』
「う、ぐ……ッ!」
 鈍りはしたものの、大質量を誇る斬馬刀を構えたまま突進してくる白鬼の体当たりを避ける余裕はなかった。
 引き延ばしたスタンロッドで咄嗟に受け、鍔迫り合いのようになるが、雷撃に炙られながら尚も笑うその気勢、膂力、その剣の重みが、クラウスを追い詰める。
 めきりめきりと、刃と接触するロッドが、徐々にひしゃげていく。
 四肢の全てを動員しても、暴風の化身のようなそれを止めるに足りないのか?
 この上、電撃の痺れが抜ければ、今度こそ全力の押し合いが待っている。
 歯噛みするその口の端が切れて、口中に血の味を感じる。
 だが、脳裏にそれを感じたことで、今の自分がそれだけでないことに気付く。
 咄嗟に呪文を詠唱、
「レイン……!」
『ははっ!』
 切札の一つを悟られぬよう、撃ったレイン砲台のレーザーを頭に受けて尚、鬼は笑い、二発目のレーザーを空いた手で難なく握りつぶす姿に戦慄を覚えるが、これが最後と思わせたなら、僥倖。
「くらえっ!」
 触媒を用いず、高速詠唱から放てる魔法など、大したものではない。だが、そうである必要もなかった。
 一瞬、爆風でも、粉塵でも、ただの一瞬を作れれば、それで十分だった。
 音響照明弾のような炸裂が、密着していた二人を僅かに引き離す。
 その一瞬、クラウスを見失った、そのひとときに、再び加速──、
「うおおっ」
『──っ!』
 迸る紫電、握り締めたロッドが、衝撃と出力過多でへし折れた感触があったが、白鬼を弾き飛ばした手応えもあった。
 猛烈な圧力から、ようやく解放されたかのように、息が荒かった。
 呼吸を忘れていたかのように喉の奥が乾燥で張り付くような感触から、むせそうになるのをこらえる。
 やったか? いや、そんな筈はない。
 手ごたえはあったが、しかし、仕留めた感覚は無かった。
 ざくり、と何かが地面に刺さって、ひたりと鬼が草を踏む音を聞く。
「まったく……勘弁してほしいよ」
 無理矢理に息を整え、クラウスは残す武器と自らの余力を数えるのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜久・椛
んー…やっぱり、封印するには、しばかないと駄目?

「そうだな。とはいえ、簡単にしばける相手じゃないが」

ん、御伽の鬼が相手なら、対抗できる御伽を語ろう。

まずは御伽図鑑と【錬金術】でナハトを召喚し、乗り込んで【操縦】。
更に、雪姫の御伽も纏わせて強化。

【野生の勘】で敵の間合いに注意し、距離を開けて行動。
そして、千変暗器で手裏剣を具現化し、氷の【属性攻撃】を付与して【念動力】で射出して攻撃。
切り払われても、冷気を発生させて動きを阻害するよ。

距離を詰めてきたら、冷気と【罠使い】で地面を凍らせて滑らせ、敵の体勢を崩すよ。
その隙を狙い、ビームテイルで【捕縛】して引き寄せ、紅月を振るって氷華一閃を叩き込もう。

 出し惜しみという選択肢を捨てた鬼と正対するのは、それは死を思わせた。
 伝承の中にのみ生きていたそれは、やはり謳われるほどの怪物であるに違いない。
 それは雷雨であり、暴風であり、抗いがたくやって来る夜の闇のような、必然的な死のイメージであった。
「んー……やっぱり、封印するには、しばかないと駄目?」
 静電気を帯びた様に、全身の産毛がひりひりとする感覚を覚えながら、夜久椛は、それでも警戒の色を表情に出さず、いつも通りに自身の尻尾に生じた蛇、オロチに意見を求める。
 あの古妖を一人でボコボコにするのは無茶であるように思えてならないが、或はオロチなら、それでもオロチなら、建設的な意見を持っているかもしれない。
『そうだな。とはいえ、簡単にしばける相手じゃないが』
「ん、御伽の鬼が相手なら、対抗できる御伽を語ろう」
 あの暴力の塊を、どうにかする術は、どうやら自らの可能性に賭ける他は無さそうだ。
 オロチは居てくれるだけでかなり助かる。
 狂おしい白鬼を前に、どれほど正気のまま戦い続けられるかわからない。
 まさか提灯お化けたちのように引っ張られたりはしないとは思いたいが、台風一過の傷跡は、過ぎてみなければわからない。
 人馬ごと切り裂く相手に、通常の戦い方をする意味はないと判断した椛は、とっておきの御伽と錬金術を組み合わせた錬成機兵「ナハト・カッツェ」を召喚し、それに乗り込む。
 ウォーゾーン相当の機械仕掛けの猫には制御AIなどが組み込まれ、その装甲は夜闇に溶け込むかのように艶のない黒に覆われ、操作感は生身とほぼ違和感なく、それでいて出力も上昇している。
 さらにその状態で、剣豪の雪女を記した【御伽術式「雪姫見参」】を纏わせることで、鬼の大剣士と渡り合う腹積もりであった。
『あはぁ、はぁ!!』
 2メートルを超える黒い機兵と、斬馬刀を担ぐ白い鬼。
 対比するそれらは、ほぼ同時に平行線を引くように加速する。
 逆関節にも見えるナハトの足元は、爪先が長いことで一歩のストロークが長いのだが、白鬼は歩幅を無視し草原をまるで滑るように走り、草を分ける音も聞こえなければその足跡には影も残らない。
 無影無音はその特殊な歩法によるものか、稲妻のような残光を引いて距離を詰めてくるのを、千変暗器を用いて牽制で迎える。
 雪の結晶にも見える手裏剣に具現するそれは、雪姫の術式の影響で凍える冷気を伴ってチャクラムのように弧を描く。
『ははははっ!』
 蛮刀一閃、回り込むように念動で制御したそれらは刀で阻まれてしまうが、振りまく冷気は白鬼の機動力を間違いなく奪っている筈だ。
 手数は間違いなく、ナハトの方が上。そのはずだが、何故踏み込まれているのだろうか。
『受けるのは危険だぞ』
「ん、わかってる」
 鎌鼬がその鎌を振るうかのような軽々しさで、白鬼の斬馬刀がその切っ先を振り上げるのを、ナハトの妖刀が受ける。
 ぎしぎしと関節が多大な負荷を受けるのを感じ取るが、完全に受けきる前に後ろに跳ぶ。
 それは相手とっての思うつぼだろう。予想できるということは、こちらも仕掛ける余地があるという事でもある。
 足音もその影も消え失せているが、凍り付いた草いきれ、砕けて散る音は間違いなく迫って来る。
 荒れ果て乾ききったこの地にも、凍らせて凝結した水分が厚い霜を作り出すと、そこはもう柔らかく踏み抜きやすい足場ではなく、素足では違和感のある凍った地面となるはず。
『──?』
「今っ」
 意図しない足場の違和感に白鬼の視線が移った瞬間、ナハトの隠していた尻尾、ビームテイルが輝きを伴って伸びる。
 蛇のようにぐあっとその顎を食いつかせ、引き寄せると──、
 ナハトの妖刀「紅月」に絶対零度の冷気が収束し、鋭い一撃、氷華一閃を放つ。
 凍り付く大気が、不可視の刃となり、紅色の斬閃が白鬼の着物を赤に染める。
 振り抜いたのは、あちらも同じ。
 多くの妖しを切り伏せた斬馬刀は、しかし、機兵を両断するには至らなかった。
『きひひ、はは……っ』
 自身を鮮血に染めながら、振り向く鬼のはだけたその身にガラス片のような氷塊を咲かせていたが、まだ健在であるようだった。
 対するナハトは、
『メインカメラ稼働率70%、正面装甲損傷度60、各関節部限界活動時間70%低下だ。どうする、現状では脱いだほうが戦える数値だ』
「ん、直しながらやろうか。正直、生身だったら挽き肉だよ」
 たぶんそれでも死ねないんだろうけど。とは言わず、椛は正面に重篤な打撃を受けたナハトを、尚も鞭打つのだった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

和紋・蜚廉
白鬼の踏み込みに、身が疼く。

一閃を【甲殻籠手】で捌くも、骨ごと裂け飛ぶ。その断片から√能力【蠢影】を起動。蠢く殻脚が地を這い、代わりに敵意を受け止める。

飛び退くと同時に【跳爪鉤】を打ち出し、白鬼の背へ回り込む。重ねて【翅音板】の震音で視界を裂く。幻の一打を殻脚たちが引き受け、我は刃の内側へ潜る。

「殺しに来たか。ならば応えよう。――だが、我はまだ、斬られきってはおらぬぞ」

間合いを絞り、風の端を割るように【殻喰鉤】を叩き込む。毒が届けば勝ち、届かずともまた裂ける。殻が裂ければ、また一手を得る。

命のやり取りを、我は愉しんでいる。
斬られてなお動く。この身が屍になるまで、斬り続けてみせろ。

 荒れ果てた森。
 それは、自然のあるがままに、それこそ野放図にあるばかりの山奥という他にない。
 刈り取られもしていない草原に、節くれ立つ古木に、苔むす岩たち。
 開放的と言わざるを得ないが、これほど豊かに繁茂していながら、中型より上のいわゆるイノシシやシカのような動物たちが縄張りとするような沼田場や角を磨いた形跡の一つもない。
 その理由も、和紋蜚廉にはわからぬではなかった。
 この地には、戦場のニオイが染みついているのだ。
 この人の形に似た災害の塊のような鬼が、安堵して寝ていたような場所に相応しい。
 そして、それは、ここに今、起きている。
 そこに居るだけで、視線を振り撒くだけで、それは恐ろしい。
 強い者は、存在そのものが強いという。
 かつては地を這う小さな解体者の一つに過ぎなかった蜚廉みずからにそれを自覚する事は無かったが、絶対的な強者と呼ばれる者たちは、かく在らんという存在感を持っているのだ。
 そして、そのような者は、台風の目のように、そのものに向かって引力のようなものが働く。
 誰もが強い者の方を向く。引き寄せられる。すり潰される。
 自分も、台風の目に吸い上げられる塵芥の一片か?
 否である。
 そうして狂風の中に抗い、身を立てて存在を示すこそ、新たな風とばかり、黒い外骨格を構える。
 その重々しくも力強い骨格からすれば、柔らかい女のようにしか見えぬ鬼の頼りなく見える様が嘘のようであるが、瞬く間に草原の地表ごと捲き上げるかのような素足の踏み込みは、正に雷光と見紛う鋭さであった。
 よもや昆虫が、踏み込みの発で後れを取ろうなどとは思いたくはないが、流石は御伽に聞く古の妖怪というところか。
「むおっ!」
 風切り音すら彫金のような鋭い音色にしてしまう、おおよそ人馬を諸共に斬る斬馬刀とは思えぬ切り込みを、蜚廉はとっさに甲殻籠手で受け──、いや、受け止めはできないと力を逃すように捌くのだが、脱皮殻を削りだした籠手どころか、腕先の骨ごと削ぎ飛ばされてしまう。
 思わず呻くが、これまでの道のりのなかで腕の一本や二本は何度となくちぎれ飛んできた。
 己の技の未熟を悔いる間もなく、むしろそれを利用し、【蠢影】にて、削ぎ飛ばされた腕先を分身として増殖させる。
『ふはっ!』
 敵が増えたことにぎょっとするどころか、嬉しそうに、白鬼は返す刀でそれをさらに切り伏せる。
 斬るほどに、その鋭さが増していくようなそれは、雨のように絶え間なく、容赦がない。
 だが、分け身が叩き切られる間に、蜚廉は下がると見せかけて跳爪鉤を伸縮させ、白鬼の背後へと素早く回り込む。
 足さばきと瞬発力に於いて、彼ら種族の右に出る者は居まい。
 しかし、いかなる不思議か、目で追えずとも気配か影を見ていたのか、白鬼の振り向きざまと戻りの柄打ちが蜚廉の脇腹を削ぎ飛ばす。
 間合いの内側とて油断できぬ。
 更に胸殻の翅音板を振動させ、その衝撃が白鬼の視界を歪ませる。
『ははぁッ!』
 振り抜かれた斬馬刀。
 ばきばきと不吉な音がいくつも砕けて散る。
 だが、それは、ちぎれた蜚廉の甲殻の一部が化けて分体、その身体の一部として割って入ったものに過ぎず、殺意で以て薙ぎ払われたそれが捉えたのは、まさに幻。
「殺しに来たか。ならば応えよう。――だが、我はまだ、斬られきってはおらぬぞ」
 満を持して、殻喰鉤をその胸に叩きこむ。
 柔らかな女の肌を裂く感触と、胸骨を貫く感触はあったが、それ以上の手ごたえは途切れてしまう。
 ひどく変色した胸元に突き刺さったまま切り落とされた鉤爪。それを引き抜いては毒々しい毒を吐き続けながら蠢くそれを投げ捨て、同様に笑い続ける鬼は口からも血を吹く。
『かはっ、ぐふ、ふふ……はははっ!』
 分体に化け始めるそれを刀で押し潰し、尚も凄絶に笑う白鬼は、明らかに動きが鈍っているが、戦意が衰える様子は見られない。
「そうか、そうでなくてはな……!」
 外骨格の身体は、果たして表情を浮かべるだろうか。
 もしそうであるならば、傷ついた黒い骨格は、紛れもなく命を削りながら歓喜に打ち震えていたろう。
『ばは、ぎははっ……!』
 ねばついたものを含みながら、それは原始的な笑みを浮かべている。
「この身が屍になるまで、斬り続けてみせろ……!」
 つかず離れず、しかし動くたびに、命が削れていくのがわかるというのに、抗いがたいほどの生存本能が、目の前のそれを打倒することを、望んでいた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シルバー・ヒューレー
――油断をしたつもりはなかった。……けど、心の何処かで慢心、驕っていたのかもしれない
力を失っても問題戦えていた事に、今までの戦闘経験で補えていた事に

「――眠っていたのは私の方だったかもしれませんね」

だから、起こしてくれた礼を、全身全霊、今出せる己の全てを出して

「――貴女を寝かし付けます」

修道服を脱ぎ下に着ている礼装・シルバー・プレアの封印を解きます
……力を失った当初は礼装の力に耐えれなかったでしょうが……今なら少しは耐えれる、いえ、耐えてみせます

ジャッジメントを構えて√能力を発動、敵の攻撃を限界突破した怪力での受け流し、ジャストガードで弾きながら接近、力溜めで貯めた重量攻撃による切断を放ちます

 それが伝承に語られる妖怪であるという事を除けば、彼女はまるでわがままな少女のようでもあった。
 自然のあるがままを愛し、己のあるがままに生きる様は、何ものにも縛られず自由であり続ける無知なる少女とどこが違うというのだろう。
 ただ他と違うのは、かの白い鬼は、それが力尽くで出来てしまうという事か。
 鳥のように自由であるということは、前提として、己が翼で空を飛べる事が挙げられるように。
 自由を謳歌するには、それなりのものを支払う必要があるのだろう。
 傷を負った装備を目の当たりにし、燃え上がる様に健在な白鬼の気配を見るともなく感じる。
 シルバー・ヒューレーは、屈みこんだ体を再び起こす。
『あはははっ、ははははっ』
 歓喜するあれは、人の形に似た災厄だ。
 それでも、なんとなく、当て勘が残っていればどうにかなると思っていた。
 ――油断をしたつもりはなかった。……けど、心の何処かで慢心、驕っていたのかもしれない。
 力を失っても問題なく戦えていた事に、今までの戦闘経験で補えていた事に。
 死者の眠りを妨げる事を許さぬ、絶対不壊の盾拳は、あろうことか斬馬刀を前に綻びを見せた。
 それは、己自身の不覚が招いたこと。
 相手の脅威など、初めから知れていた事。
 あの鬼は、自らの慢心が招いた災厄と等しい。
 もう一度、力尽くを挑まれて、怯まずに戦えるだろうか。
 そこまでの打算が、彼女自身の銀色の輝きを鉛のようにしているのではないだろうか。
「──眠っていたのは私の方だったかもしれませんね」
 良くも悪くも時代を切り開いた古の妖怪を相手に、出し惜しむことなど無かった。
 この試練を課された事に感謝を。そして、目の前の脅威に敬意を。
 胸に提げるロザリオを、シルバーは修道服ごと強く握りしめる。
 此れよりは、全身全霊、今持てる全てを出して、
「──貴女を寝かしつけます」
 その宣言と覚悟で以て、改めて開眼するシルバーの身の内に秘めた【銀の中身】は白く輝く。
 脱ぎ放つ修道服の下には、礼装「シルバー・プレア」が備え、いついつでも使用可能であったのだが。
 とある簒奪者の策略により、彼女の本来の力は封印されてしまっている。
 そして今、シルバー・プレアの本領を発揮するという事は、両足を縛った状態で自転車を漕ぐ様なものだった。
 その強大な力を用いるのに、今の彼女の肉体は何秒もつだろうか?
 いや、打算を構築する時間があれば、一秒でも長く、災厄を受け持つ事を考えるべきだ。
 白銀に燃える瞳、そして燃焼するかの如く礼装は容赦なく彼女の理を奪い続ける。
 マグネシウムの如く白く燃えるその姿を、鬼は嬉々として化学反応を起こすかのように殴り掛かる。
 丸太のような大刀が、驟雨のように振り降りる。
 至極単純な斬馬刀の脅威に立ち向かうのは、教会が作り上げた最終兵器、神罰代行鉄槌兵器「ジャッジメント」。
 十字を描く巨大なそれは、盾であり、剣であり、銃器であるというが、もはや撃ち合う間合いにない。
 無造作な振り下ろしは、剣術に精通したそれではなく、白鬼の剣技は技というより暴力の側面が強い。
 故にこれもただの暴風。
 シルバーの全身は爆発するように力を発揮し、発露する力は容赦なく礼装に吸われていくが、その引き換えに限界を超えた膂力が沸き上がり、それならば規格外の鬼の一撃をも受けて流せるかもしれない。
 暴風雨、歌うような颶風が、激しく輝く凪に触れ、その軌道を逸らす。
 それだけのことで、シルバーの四肢は悲鳴を上げるが、燃えるその身にくじける機能は付いていない。
 軌道が逸れて、地を打つ斬馬刀が、その衝撃波、剣圧が凄まじい乱気流を上げる。
『──』
 歌っている。白い鬼の歌が聞こえる。それは果たして、極限まで精度を増したシルバーの聴覚が聞き得た錯覚だったのかもしれいが、
「──全力で当てます。お気をつけを」
 ために溜めた力、それをジャッジメントの重さに全て載せて、暴風ごと切り裂くかのように真正面から、斬りつける。
 夜闇が真昼のような輝きに切り裂かれていく。
『グハァッ』
 風の音、鬼の歌が、遠ざかるのを感じる。
 それは、彼女の力の弱まりか。
 或は、己自身が限界を迎えたのか。
 確認する術は、今の彼女には持ち得なかった。
 ただ、彼女の歌声が遠ざかっていくのは、少しばかり寂しく感じた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

矢筒・環
ハクくん(h02730)と

間近に相対していないのに、|圧力《プレッシャー》がすごい……。これが戦鬼の格!

いよいよここ一番の大勝負です。切った張ったはハクくんにお任せしますね。私は幻術でフォローします。
ハクくんが白鬼と切り結び、距離を取るその時に、「幻影使い」でハクくんの分身・残像の類を雷猫に合わせ展開します。
しかし相手は戦場を駆け抜けた鬼。幻術も視覚だけでは見破られるでしょう。音まで再現しなくては。
ハクくんが傷を受けたら、忘れようとする力で傷を癒します。
負けないで、シロくん! 私が付いてるから!

白鬼を封印できたら、祠も忘れようとする力で修復しておきますか。これでもう蘇ることがありませんように。
櫻井・ハク
矢筒・環 (h01000)お姉ちゃんと一緒
「・・・ここが踏ん張り所だね」
鬼さんがやる気な以上全力を尽くすよ
今度は護霊ライトニング・キャッツ群を呼び出すよ
「・・・自由も大切だけど限度があるよ」
オーラ防御を使いつつサンダーストライクを一斉射して戦闘へ
誘導弾で牽制しつつ相手の斬馬刀や暴風域に気をつけつつ戦うよ
「・・・野生であり自由奔放が鬼なのかもしれないけど負けないよ」
環お姉ちゃんに攻撃がいかないように気をつけつつキャッツ達と前で立ち回るよ

封印に成功したら一息つくよ
「・・・これで大丈夫かな?鬱憤がはれて少しはマシになるといいな」
あの鬼さんも自由なだけで悪い人?ではないんだろうし

 文明の明かりはもう遠く。
 そんなものなどついぞ途絶えたとばかりの、それは原野に落ちる月光の許で、それはあまりにも正しい姿をしていた。
 もっとも原始的な摂理の中を謳歌するかのような、あるがままに生きる鬼の姿は、それ故に強い存在感を放っている。
 唯我独尊たるその在り様は、まさに究極のわがままという他にないだろう。
 故に自由、故に不自由、故に抗い、故に強い。
「間近に相対していないのに、|圧力《プレッシャー》がすごい……。これが戦鬼の格!」
 一片の極彩色が、全ての淡いを画する。
 そして、全ての色が美しく鮮やかに思えるからこそ、彼我を強く保てるのだろう。
 故に鬼は笑う。
 そこに在る事の幸福。そこに抗う事の幸福。
 生物としての魅力、存在感は、それ故に他を圧倒するものがある。
 矢筒環は、もはやただの一人ではそれが手に負えない存在であることを悟るが、もとより前線に立って殴り合う性質ではない。
 一人で何もかも、というのは、理想の極致の一つではあるだろう。
 その困難を体現する姿は、確かに美しい。
 自分がちっぽけに見えるほどに。
 その孤高が、寂しいものであることも見て取れることすらも、魅力ととらえることがあるだろうけれど。
 それでも、環は、羨みながらもそこへ至ることはない。
「……野生であり自由奔放が鬼なのかもしれないけど負けないよ」
 他を圧倒する凄絶さを前に、思わず距離を取ろうとする環を守る様にして、櫻井ハクは前に出る。
 その手に護霊符を握り、それはこの夜中を照らすように光を放っていくと、雷光迸る猫、ライトニング・キャットを一匹、二匹と数を増やしていく。
 その戦う姿勢、静かながら理不尽なる存在感に抗う闘志に励まされるかのように、環も飲まれる気持ちを持ち直す。
「いよいよここ一番の大勝負です。切った張ったはハクくんにお任せしますね」
「……ここが踏ん張り所だね」
 視線を交わすのは一瞬。それだけで、お互いの役割を理解する。
 光を放つ護霊の猫たちが一気に数を増やしていく。
 それはハクのものだけでなく、環の用いる幻術によって偽装されたものが多かったが、音や形のみならず、その重さやニオイに至るまで作り得たのは、素直に彼との距離感が為せるものなのか。
 対する白鬼は、それら全ての見分けがつくわけではなかったが、嬉しげに微笑むと──、
 【ライトニング・キャッツ集団攻撃】によるサンダーストライク一斉発射を真正面から斬りにかかる。
 眩い閃光、地上で炸裂する雷光を、暴風が喰らう。
 振るう剣が、白鬼の存在を体現するかのように、剣圧のみで暴風を引き起こし、ただの一太刀が並み居るライトニングキャットを薙ぎ払うが、幻術による分身はその影響を受けない。
「う、ううっ!」
 力尽くで雷光を切り払う大胆さ。その暴風にあおられ、吹き飛ばされそうになりながらも、環は足を踏ん張る。
 斬り飛ばされた電撃、烈風とが大地を傷つけ周囲に飛び散るが、こんなものの渦中にあって無傷なわけがない。
「くっ……!」
「負けないで、シロくん! 私が付いてるから!」
 単純なパワー勝負ではどう足掻いても追いつけない。そうであるならと、大勢のライトニング・キャットとそのキャッツソウルを帯びたソードブレイザーと誘導弾で、ひたすら手数と牽制を武器に立ち回るハクは、暴風の渦中にある鬼に近づくほどに全身に裂傷を受けるが、その傍から環の【忘れようとする力】を受けて傷を無かったことにしていく。
 これほどを賭して、白鬼に攻撃が届かない筈がないのだが、全身に焦げ傷をつけてもなお、
『あはは、ふは、はははっ!!』
 切り裂く霊獣の片鱗、長大な斬馬刀の刀身に稲妻を引きながら、自らを焼き焦がしてもなお、その痛みを嬉しがるかのように鬼は笑う。
 それ故に、鬼のペースが読めないが、ハクにも引けない理由がある。
「……自由も大切だけど限度があるよ」
 鬼の視線が惑わされている事を、ハクは見逃さない。
 不意打ち気味の一撃は、しかし超人的な反射神経で受け流されてしまうが、しかしそれこそが勝機。
 暴風を生むほどの剣が、ただ拮抗する訳がない。
 通用しているかどうかもわからなかった幻術に、白鬼はちゃんと目を奪われ、畳みかける攻撃は間違いなくその威を少しずつ削いでいた。
 自然現象そのもののような猛威を振るう鬼は、それでも一人きり。
 それに対すれば、自分一人などちっぽけかもしれないが、
「……一人じゃないって、いいものだよ」
 荒れ狂う風の中、しかし、温かいものがハクの中に流れ込むのを感じながら、その間隙を、確実に貫く。
 やがて、踏みしめる地面の感触を思い出す頃には、風が凪いでいた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒木・摩那
やる気満々なところで、誘いに応じて時間を掛けて、ようやくやってきた決戦の地ですから、もう問答無用ですよね。
とはいえ、まともに相手をしていては押し切られるのは時間の問題。
なんとか白鬼の体力気力を削っていかないとですね。

一番相手のやる気を削ぐのは、相手にされないことではないでしょうか。
相手のやりたいことに応じれば、ますます元気になるというもの。
ここはのらりくらりと回避します。

武器は【受け流し】できる刀『白波斬月』で戦います。
無明で間合いを詰めてきたら、√【混沌幽凍】を発動して、自分とインビジブルの入れ替えます。
我慢強く白鬼が音を上げるのを待ちます。

 既にそれを止めることなどできない。
 火のように燃える鬼の瞳は、それが燃え尽きるまで止まりはしない。
 たとえその身体がいくらか傷つき、雌雄を決そうとも。
 鬼は笑う。
 命のあるがままに、景色の更け往くままに。
 故に世界は在り、故に鬼は笑う。
 闘志に駆られ、白鬼は死ぬまで戦う事を止められない。
「やる気満々なところで、誘いに応じて時間を掛けて、ようやくやってきた決戦の地ですから、もう問答無用ですよね」
 黒木摩那は、悲鳴のような数値を叩きだすスマートグラスの通知をオフにすると、表面上の数値以上に痺れるような空気の張り詰めを肌身に感じながら、どこからともなく和傘を取り出す。
 その柄内には一振りの刀が収まっている。
 抜き放ち、露になる刀身は、打ち付ける白波を思わせる波紋を帯びた『白波斬月』という銘の刀──いや、マグロ包丁であった。
 それまでヨーヨーを巧みに操り不殺を貫いてきた宇宙人、摩那がそれをすらりと構えると、ほっそりとしたシルエットがより痩身に、しなやかに見えるような気がする。
 間違えてもマグロを捌くような構えではなかったが、雰囲気を醸し出すその姿には、斬馬刀を担ぐ白鬼も誘われざるを得ない。
 既に手傷を負いながらも、伝承にある限りの存在足らんとする鬼は、争いの気配を見逃すことはできない。
『──』
 煮え立つように笑い、熱っぽい息が血の霧を漂わせるのを幻視すると、原野を踏みしめ掻き分ける足音が唐突に消え失せる。
「くっ!」
 白鬼の残影、その白が間延びしたかのように、いきなり肉薄したようにも見えた。
 かと思えば、音も影もなく大刀が雪嵐のように吹き付けるのを、危ないところで包丁で受け、それを受ければ刀身ごと真っ二つになると見て、流そうとするも、それも半ばで流しきれずに両断される未来を見る。
「シャッフル!」
 肉体が爆ぜるほどの斬撃が及ぶよりも前に、手近なインビジブルと我が身を入れ替える【混沌幽凍】を発現し、難を逃れる。
 音も影も置き去りにする特殊な歩法を用いた一撃が、原野を混ぜ返す。
 そこから瞬間的に逃れた摩那だったが、ぬるりと嫌な視線が、こちらを正確に追いかけていたことに気付いて身を引く。
 振り向きざまの大振りが、その切っ先を摩那のいた位置を切り裂いていく。
 瞬間移動などものともせずに、目にも留まらぬ筈の軌跡を追い、真反対を切りつける白鬼の戦闘観には舌を巻くばかりだが、摩那はそれに必要以上に踏み込まないことで、最後の一線を死守する。
 包丁が悲鳴のように鳴る。
 受け続けたら、削り取られてしまうかもしれない。
 いいや、削るのはあちらも同じ。
「食べることに関しては、我慢はしませんけど……根競べなら、ちょっと自信ありますよ」
 もとより、まともに相手をするつもりはなかった。
 白鬼の土俵で渡り合うなど、猛獣の檻の中に下着一枚で踊るようなモノだ。
 やりたいことに応じれば、鬼は無限に元気なままだろう。
 しかし、こちらが踏み込みから半歩分、外れ続ければ、いい加減、こちらの意図にも気づくかもしれない。
 誘うように攻めてくる限り、彼女は余計な元気を使う事だろう。
 どちらが消耗するのが早いか。
 それとも、その過程で摩那がすり潰されるのが先か。
「カロリー高いですね。まぁ、のらくら躱しますよ」
 ばちん、ばちん、と張り詰める空気に中てられそうになりながらも、摩那は危うく飲み込まれる前に、幾度も、インビジブルと入れ替わって、難を逃れ続ける。
 白鬼が、その伝承のままに居られぬ限り、彼女はその全力をいずれ誇れなくなる。
 それを信じて待ちながら……。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ペイル・カバネ
膾かしら?唐竹割?あぁ簡単にそうはならぬよう、私、頑張ります!
だから、素敵なサインをくださいまし白様!!

屍尢の霊気を纏う。ですが太古の霊気も所詮纏うこの身は唯の衣蛸僵尸。
白様に並ぶべくもなく、ならば災害が如き【念動力】を以て大地を流転させ、
軸足を掬い続け、踏み込む反動を泥沼の如く受け流し続け、他心通で白様の情動と行動を感じとり、神足通を以て斬馬刀を躱しながら鏢【投擲】や影毛吼で【牽制攻撃】、
遮光天露の【レーザー射撃】も絶えず行い、そうして隙をみての【不意打ち】
神通力宿る触腕を【怪力】で振るい【霊力攻撃】
唯人でなくとも死に至る麻酔毒粘液を触腕と共に打ちつけてぇ、あぁきっときっとこれでも届かない。だから、

……実は提灯お化け様の|サイン《普通の》も欲しいといったら、流石に欲張りかしら?

斬馬刀の|攻撃《サイン》を触腕で受け、斬り飛ばさせて【カウンター】
最も殺傷力の高い物体、即ち私の、斬り飛ばされた神通力宿る触腕を念動力で白様に叩きつけ伸ばし捕縛、其処に宿る毒、【呪詛】毒の霊気を連撃分も注ぎ込み機能不全と細胞崩壊を重ねて齎しましょう。麻酔毒は痛みと思考力を奪い、壊死した身体は碌に動かない。戦いに奮う身も心も鎮めれれば、封印もし易くなりましょう。
白様、分かっては頂けないかもですが、この世には戦い酔いしれる事以外にも楽しい事が一杯あるのです。
例えば、美味しい食事やご本にゲームにスポーツ観戦に──

 その鬼はいつから居るのか。
 どこから来たのかも知れない。
 しかしながら、その行方を知る者が居なくとも、この場に発現した厄災のようなその姿が、もうそろそろ終わりを迎えようとしているのはわかった。
 白が赤に染まり始め、激しいぶつかり合いがその圧倒的な力を消耗させているにも拘らず、白い鬼は実に満足げに、満身創痍の身体をそう思わせぬかのように躍動させる。
 風が、その生まれと終わりを悟らせぬように。
 火が、限られた時間を燃やし尽くすように。
 故に、それは災厄と呼ばれるのかもしれない。
 武器を手にする人のように見えるそれは、実のところ、自然のあるがままを愛し、自らもそう在らんとしている。
 ワガママな怪物。それは、あまりにも、妖怪として正しかった。
 自然現象的なその怪物を目の当たりに、ペイル・カバネは熱っぽい視線を向ける。
 自身を焼くような圧力は、とっくに危機意識を刺激しているはずだが、好奇心と情熱とが、それを麻痺させている。
 人も妖怪も、彼女にとっては愛すべき興味の対象。
 良くも悪くも歴史を刻んできた古の妖怪の、苛烈な生き様は、ペイルの心を焼くものである。
 だから、応えよう。彼女の、在るがままに。
「膾かしら? 唐竹割? あぁ簡単にそうはならぬよう、私、頑張ります!
 だから、素敵なサインをくださいまし白様!!」
 広げる両手は、裾が広く、ペイルの本性の一端、タコ足がばらりとほどけるように広がる。
 真正面から受けるは危険。
 その怪物の一撃は、古妖を屠るもの。
 斬妖の剣は、屍鬼たるキョンシーも同じく斬り伏せることだろう。
 しかしながら、太古の僵尸「屍尢」の霊気を纏い、その技に追いつこうとすることは可能なはずだ。
 神通力で以て、周囲の環境に働きかける。
 みしりみしりと、周囲の原野がぐずぐずと装いを変えていく。
『ふふふ、あはは……』
 不安定になる足場を、ふらふらと、しかし愉快そうに踏みしめる白鬼は、唐突に、草の根をかき分けるその足音を消す。
 細身で大刀を振るう事を可能としている膂力、それを支える超人的な体幹が為せる技か。
 流転するように落ち着かない自然現象を引き起こす空間においても、白い残像を引くような速度で幽鬼の如くペイルへ肉薄する。
 風に溶けるような微笑すらも、ペイルは見逃すまいと熱っぽく見つめながら、身を引き、相手の軸足を刈り取るかのように足元をぬかるみへと変え、その影からは影毛吼が飛び出し、周囲に立ちこめる雨雲のような遮光天露からは天露が如き光線を発して、全力で以て牽制をかける。
 これだけ用いても、影すら置き去りにする無音の歩法の全容を、ペイルの通力は捉えきれず、古の力を呼び起こして尚、ペイルの速度は鬼の踏み込みを完全には躱せない。
 少女の視界が壊れ始める。
 太古の霊気も所詮纏うこの身は唯の衣蛸僵尸。
 容易には死ねぬ器とて、多大な力に馴染み切らぬその身は、歪みを抱え続ければ崩壊を招いていくことだろう。
 だがしかし、目の前に存在する伝説に、少しでも及びたい気持ちが、ペイルの限界をはみ出し続ける。
 踏み込みに合わせて崩れる足元のおかげで、白鬼の攻撃はおそらく十全ではない。
 にも拘らず、空を裂く斬馬刀は、ペイルの配した牽制の一切を一薙ぎに引き裂き、散らし、滑稽にすっ転びながらもペイルの世界を壊していく。
『あはは、ははっ!!』
「うふふ、ふふふ」
 吹き抜ける太刀風。剣圧。びりびりと肌を焼くような圧力を受けながら、その打ち終わりに合わせて鏢を投げつける。
 哄笑と共に空いた手でそれを受け、勢いを殺さぬまま起き抜けに振り上げる丸太のような斬馬刀。
 剣術などというご大層なものではない。
 だが、それら一つ一つが、例えば鉄砲水や崖の崩落のようにどうしようもないものであれば、技術でどうにかなる代物ではない。
 それは剃刀のような切れ味を持つ暴風なのだ。
 なんて恐ろしい。だから、ペイルは前に出る。
 その手をかざし、制圧するかのようにタコ足を伸ばす。
「く、ふうぅッ!?」
 筋肉の集合体、骨すら不要のまま殻に閉じこもる獲物とて殻ごと抱きしめて潰せる怪力を誇る触腕には、神の如き通力を帯びて鬼すら封じ込めるものであったが、真正面から挑めるものではない。
 吹き飛ぶ左半身。いや、暴風の凄まじさがそう錯覚させたのだろう。
 片から先が丸々ちぎれ飛んで、触腕がばらばらと散っていく。
 高揚する劇薬が脳内に分泌している今なら、それは激痛ではなく引き千切られたかのようなそれらが及ぼすのは快楽に近いものであった。
 なすすべなく吹き飛ばされた腕たち。
 なんていう、傷。この鬼ならではの、自分に対する痕跡、証、サイン。
 興奮と屈辱とが、ペイルの脳髄をかき乱すが、正気を失うわけにはいかない。
「……実は提灯お化け様の|サイン《普通の》も欲しいといったら、流石に欲張りかしら?」
 満足したら、意識が途絶えてしまいそうだった。
 貪欲であり続けないと、意識が狩り取られてしまう。
 恍惚に緩む頬を必死に引き結び、現状に向き合う。
 振り上げた斬馬刀が戻ってくる。
 左触腕を一太刀で全て奪っていったそれが、今度こそ首を獲りに来る。
 でも、もう届かない。
 左腕たちを犠牲に斬らせた段階で、もう一つのペイルの策は成っていた。
 毒を帯びる彼女の手足は今や【神通毒】へ至る。
 引き千切られ、千々と散った触腕たち、その肉塊を神通力で引き寄せると、それらは白鬼にまとわり、打ち付け、毒の霊気がその満身創痍の身体を瞬く間に蝕んでいった。
『う、ぎ、ぎはっ、ははっ、が、はっ……ふ、ふふ』
 幾重にも絡みつき、打ち付けられ、毒を注がれ続けた白鬼は、ついに斬馬刀を取り落とした。
 鈍る思考と感覚とが、尚も怪力で引き千切ろうとする精神力をも奪い取っていく。
 しかしながら、歯を剥いて凄絶に笑う白鬼の闘志は、衰えることはなかった。
 見つめ返すペイルは、もはや立っていることもだるくなっていたが、弱らせている筈の鬼の意志が、まだ死んでいない事に対して油断は許されなかった。
『今じゃ、祠に封印するぞい!』
 タイミングを見計らっていた提灯お化けたちが、新たなる封印の要石の用意と共に、他の√能力者たちによる【忘れようとする力】で以て、復元された祠へと、白鬼は徐々に吸い込まれていく。
 それに抗うように、突き出たままの腕がばりばりと地を掻くが、最後の足搔きもむなしく、その姿は徐々に小さくなり、しめ縄を結ばれた石の中へと完全に消えてしまった。
「白様、分かっては頂けないかもですが、この世には戦い酔いしれる事以外にも楽しい事が一杯あるのです。
 例えば、美味しい食事やご本にゲームにスポーツ観戦に──」
 最後の最後まで、もっと戦わせろと訴えかける鬼の貌に、恨みや怒りなどはなく、そこには渇望だけがあったように思えた。
 本当に、彼女にはそれだけしかなかったのだろうか。
 だから、哀れで恐ろしい鬼を愛しく思うペイルは、消えゆくその姿をいつまでも見送っていたが、やがて、圧倒的な気配が爽やかな一陣の風へと変わり果てる頃。
 ペイルは呆然と、呟く言葉を途切れさせて、ぺたりと腰を落として、ようやく意識を手放した。
 そうして他の√能力者達も、この台風一過のような状況に安堵して、できることならば、二度とかの災厄が起きてしまわぬよう、新品同様の祠に一つ祈りを捧げて、一人二人と去っていく。
 雨上がりと共に、青い風と共に、鬼は去った。
 恐ろしい怪物は、しかし、不思議と、悪意や禍根をも、洗い流すかのようでもあったという。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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