シナリオ

精霊燈火

#√ドラゴンファンタジー

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●常夜の洞窟にて
 蒼夜に月の幻が揺らめく。
 星々が歌うように煌めき、蒼花がそよ風に撫ぜられて、夜空で踊る。
 水面が持て成す様に主を写し、祝福する。
 幻は、ただ佇む。悠然と、荘厳に。
 幻ゆえに。

 雨の精霊に会いたいな。
 小さな願い事を聞き届けて欲しいなら、水林檎を持って行こう。
 悪戯好きの水蛇が、君を迎えてくれる。

●精霊燈火
 常夜の洞窟と、それに因んで名付けられた常夜村、と言えば、そう、精霊銃士なら、小耳に挟んだ事が有る、かも知れない。知る人ぞ知る敢行スポット、とは此処の事。
 常夜の洞窟は、遺物を封印された後も、あらゆる精霊が存在し、繁栄している。
 精霊と一口に言っても小さな精霊から長老の様な大精霊、生物を象った精霊まで様々だ。此処まで多種多様な精霊が、いがみ合わず、静かに暮らしているのは、此処だけだろう。
 常世村は、最初に常世の洞窟を踏破した冒険者に頼まれて、精霊の揺り籠となるランタンを作った。精霊燈火と名付けられたこのランタンは、精霊の住みやすい環境を構築し、竜漿を持たない者にも、精霊の力が可視化され、蛍火の様な淡い光を灯らせる。
 冒険者が大変気に入ったのを嬉しく思った村人達は、長きに渡り、その技術を研鑽し、、投資を惜しまなかった。
 今となっては、熟練した職人と高度な技術発達により、材質とデザインまでオーダーメイドが可能となり、毎年、特にこの時期は精霊燈火を求める冒険者で溢れ、森中が精霊の灯火で満たされる祭りとなった。
 ガイドブックに載った、色取り取りの蛍火と、活気のある村の雰囲気に、年若い冒険者の男女の二人組は感嘆の声を漏らし、そして。
「……アクセス、徒歩のみ? 最寄り駅から三時間?」
「高速は当然敷設されてなくて、バスも走ってない? え、嘘でしょ? ショートカットの情報探す?」」
「情報屋にボラれるか個人情報と引き換えだって……! 割高に決まってるよ……行きたい?」
「正直、すっごい行きたい……絶対キレーでしょこんなの」
「……ダンジョン以外の冒険、って言うか、トラベル、するかあ」
「大丈夫、大丈夫、アンタと一緒ならどうにかなるって、て言うかどうにかして! 信頼してるから!」
「はいはい、それが俺の仕事だからね」

●幕間
(うん……きっと、綺麗だよね)
 寺山・夏(人間(√EDEN)のサイコメトラー・h03127)は流れ込んできた光景とメッセージに、童話を聞いている時の様な、心が満たされる心地良さを覚えた。この季節は特に、引き籠もりがちな自身が、外に出かけてみるのも良いかも知れない、と思う程に。
 だから、情報を収集した。

●お祭りへのご案内
「精霊燈火、と言うお祭りへのご案内です」
 穏やかな声音で、動画の小さな影は語り出す。
 常夜の洞窟という、沢山の精霊が住まうダンジョンと、そのダンジョンから近い、常夜村という場所で、開催される少し変わったお祭りへの案内だった。
 参加者の多くは冒険者、つまり√能力者だ。常夜村で風景を楽しむだけの一般人も居るらしい。
 祭りの内容はこうだ。
 常夜の村でお守りを貰い、ダンジョン、常夜の洞窟内で、好きな属性、好きな外見の、好きな精霊と友誼、または契約を結び、村に戻る。そして、村の職人に、オーダーメイドの精霊燈火、と名付けられたランタンを注文して作って貰い、夜を村で過ごす。
 精霊によってはランタンごと宙に浮かせたりも出来る。
「村人の皆さんは屋台や、家庭の味で皆さんを持て成してくれる様です。簡単な物なら、無料の炊き出しもある様ですね。此処の冒険王国は信頼と実績から、この村の衛生面には寛容な様です」
 交通の不便さについては、予め、徒歩10分圏内の扉を幾つか探索していると追記され、座標が映し出された。本来ならば、最寄り駅から徒歩で3時間掛かるらしい。
「今から直通ですと、開催期間三日前くらいに、到着する手筈です」
 水林檎や幻の月など、良く分からないワードが有った事を追記し、小さな影は頭を下げた。
「僕からの案内は以上となります。お祭りを楽しめるように、のんびり過ごして下さいね」

マスターより


【マスターコメント】
●挨拶
 紫と申します。
 今回はのんびりとしたトラベルシナリオのご案内です。


●シナリオについて
・1章毎にopを制作します。
(お時間1~3日程頂きます)

・シナリオ目的
・章構成
日常→分岐→ボス戦(?)です。


・場所について
【常夜村】
 山奥にある人口100人くらいの小さな村です。
 精霊燈火と常夜の洞窟、洞窟を見守る立場となる冒険者、精霊燈火職人の集団と、割と活気に溢れています。観光情報は来る者拒まず、去る者追わず、位の積極さです。
 開催前に村に立ち入っても、村人は気さくに対応してくれます。

【常夜の洞窟】
 分かり易く時空が捻れているダンジョンらしいダンジョンです。
 洞窟を抜けると、会いたいと思った属性の精霊に合わせて、風景が変わります。【火:常夜の砂漠】【水:底なしの澄んだ海や湖】【風:無重力の夜空】【土:蒼水晶の洞窟】【木(植物系):蒼い花畑】
※他の属性でもこう言う場所に行きたいと言うのが有れば、プレイングに記載するとそれっぽい場所にご案内。
 帰り方は、基本的に村で渡されたお守りに帰りたいと願うだけです。

・一章ギミック
【お祭り開催三日前から(何時に訪問するかは任意)】
 早ければ三日前から村に入る事が出来ます。
 ただし、規模が大きくなった祭りをしている割に、宿泊施設は弱く、家を借りるか、野宿となります。食事場所には困りませんし、炊き出しも有ります。


【村人との交流やお手伝い】
 開催前から入る事が出来るので、お祭りの準備を手伝えます。
 警備、屋台の準備、宿泊施設の制作、広報、お守り制作の手伝い、ランタン素材の調達など、やりたいことをやって構いません。

【ダンジョンに潜る(二章からでもOK)】
 お祭り開始前からダンジョンに潜っても構いません。
 精霊と契約を結んだり、好きな精霊を探したり、好きな雰囲気の空間で遊びましょう。※精霊を沢山描写して欲しい方向け。

●シナリオ共通ギミック
【精霊のオーダーメイド】
 手乗りサイズの小さな精霊から、長老の様な大精霊、様々な生物を象った精霊まで様々です。好きな精霊を要望して下されば出来る範囲で創作致します。創作した精霊はPCやANKERとしてお使い頂いて構いません。

【精霊燈火(ランタン)のオーダーメイド】
 ランタンをオーダーメイドするタイミングも好きな時で構いません。字数が余りそうな時に考えたデザインを記載して下さい。
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第1章 日常 『お祭りに行こう』


POW 露店を巡り、買い物を楽しむ
SPD 楽しい音楽や踊りに参加する
WIZ お祭りの由来や伝承を聞く
√ドラゴンファンタジー 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マルル・ポポポワール

精霊さんとお友達になれるなんてとっても素敵です!
是非仲良くなって一緒に青春を過ごしましょう!

開催三日前に着くように行動
お祭り準備のお手伝い、そんなチャンス逃すわけにはいきません!
奉仕修行の意味でも、何より皆さんの楽しいのためにも、是非お手伝いさせてください!

最初は宿泊施設製作をお手伝い
村人から精霊の逸話やイメージを聞き、それに合う幻想的な雰囲気を宿に散りばめたらお客さんのテンションもあがりませんか?と提案してみます
私は上がります!
因みに水林檎って特産品か何かですか?

√能力で歌いながらお手伝い
村人から精霊に纏わる歌等を聞けたらそれを歌い
全部終われば広報のお手伝いです
素敵なお宿はこちらですよー!
ゼズベット・ジスクリエ

夏の夜空に精霊とランタンの共演
聞いてるだけでワクワクしちゃうね!

善は急げってことで!
祭の開催3日前には到着しとく
折角の機会だしね、色々見て回りたい!

村に着いたらとりあえず挨拶回りと交流に
広報活動必要だったら僕にお任せ!
ご自慢の翼でみんなに情報届けてきちゃうよ!
ちなみにお守りってもう貰えたりする?
出来たら祭前に洞窟にも足運んでみたいな

色んな精霊がいるらしいけど、
風か土の属性で鳥っぽい精霊とかいないかなー
出来たら歌が好きな子!
一人旅も楽しいけど、語れる人がいるとまた違うしさ
いい巡り合わせがあったらいいな

祭当日までは気侭に野宿プラン
夜空を見たり飛んだり歌ったり
普段と違う景色を目一杯楽しんで過ごすよ
水藍・徨

水林檎、幻の月……
何故か落ち着かなくて、そわそわする。
一人で来てみたけど、早かった……?

あっ、その、すみません、こんな早くに……どうしても、色んな精霊を見てみたかったんです。
あの、水林檎について、何か知っていますか?

お守りを貰って、常夜の洞窟へ行ってみる
沢山の精霊に会ってみたい。星の精霊や雲の精霊もいるのだろうか?
時空を操る精霊……は、流石に居ないかもしれないけど、いたら、わぁ、と驚きはするかも
僕には感情が無いから、恐怖も、好奇心も無いはずなのに、胸がどきどきして、もっと精霊達と会いたいと思う。

自由帳に、精霊達をスケッチさせてもらおう(クイックドロウ)
興味を持ってくれたら、いいな。
クラウス・イーザリー


(精霊か……)
最近魔法を学び始めた身としては興味がある
……近頃は厳しい戦いばかりだし、少しのんびりしようかな

村にはお祭りの2日前くらいに向かい、主に屋台の準備を手伝う
物を運んだり組み立てたりする力仕事なら得意だし、食材を切る程度の料理もできる
村人達の様子を見て、必要そうなところを手伝おう
√ウォーゾーンの合成食材に慣れた身としては、こういう素朴な料理がとても魅力的に見えるな

家を借りるのも申し訳ないし、宿泊は野宿にしよう
満天の星空の下で眠るのはすごく気持ちいいな

そんな風に、戦い続きの日々から離れた平和な時間を満喫するよ

●精霊燈火
青く澄んだ硝子を用いた、水面を思わせるようなもの(詳細お任せ)
雛埜原・絆
【雨宿り】◎
ちょっと、勝手に話進めないでよ
他の奴なら何か企んでる展開だけど
|慈雨《あんた》は裏表ないから
心読んでも無意味なんだよね

慈雨は言い出したら聞かないし
その村の屋台飯とか家庭の味とか
そーいうのは興味あるから
…まあ、付き合ってあげる

知らない奴の心を勝手に読んじゃうのは面倒だし
普段通り|緩衝材《伊達メガネ》着けて
サトリの力を抑制しつつ村へ

徒歩3時間を10分、なんて新手の詐欺かと思ったけど
ちゃんと着いて拍子抜け

…慈雨?
きょろきょろ探せば
既に村人の手伝いしてる姿を発見

寝坊?
馬鹿言わないで
あんたが早く着きすぎたんでしょ
僕は正真正銘今着いたところ
はいはい、連れてって
…別に手は繋がなくていいと思うけど
天深夜・慈雨
【雨宿り】
絆、お祭りいこー
徒歩3時間だけど、慈雨たちなら10分くらい!だって!
当日に現地集合しよー?
ふふ、絆も楽しみさんみたいでうれしー

遠足みたいにるんるん
早起きしてれっつごー
あれ。絆、まだきてない
先に探索しちゃおー

慈雨、雨の精霊さんにあいたいなぁ
どこにいけばいいのかな
何か必要なのあるのかな
村人さんにおはなしきいたりしてみよー
お礼におてつだいもしっかり!
今でもいっぱいたのしー
時間も忘れちゃうぐらい

あっ、絆
おねぼうさん??慈雨が先…?
ごめんね…だって楽しみだったんだもん

もう屋台みた?
絆のすきそうなのいっぱいあったよ
おすすめさん案内したげるね
はぐれないように手もつなごー
はーい、まずはこっちから!
神代・京介
竜雅(h00514)と参加

以前からどこか一緒に出掛けようと声をかけていた竜雅と祭りに参加。
楽しみでありつつ、彼女を楽しませられるように気合を入れないとな。

竜雅と並んで歩きながら祭りを楽しむ。
祭りと言えば歌や踊りはつきものだし、あるとは思うがどうなんだろうか。
「ステージがあるようなら参加してみるのも良いかもな。竜雅の歌声は聴きたいし。」

家庭の味か、生い立ちが特殊な俺は家庭の味なんて分からないが、そうか、こういうのが家庭の味っていうのか。
「ほんと美味いな!これならいくらでも食べれそうだ。けど、美味いのはきっと竜雅と一緒に食べてるからなのも大きいかもな。」
ご機嫌そうな彼女を見て少し安心する。
竜雅・兎羽
【京介さん(h03096)と一緒】
京介さんと一緒にお祭りにお出かけすることになりました
楽しみです♪
「行きましょう、京介さん。お祭りですよ♪」

まずはお守りをもらっておきます
これで帰ってこられるんですねえ…不思議な道具です

それからお祭りを楽しみます
お祭りならではのお歌や踊りがあるならぜひ参加したいです
「ふふ、これでもレゾナンスディーヴァですから。こうゆうものには興味があります」

ご家庭の味というのも興味があります
私は記憶喪失で、こういう物にあまり触れたことがなく…
「んー、美味しいです♪これが家庭の味♪」
尻尾をゆらしてご機嫌でいただきます
「一緒だから…なるほどです♪」
京介さんの言葉にまた尻尾をゆらり
ネニュファール・カイエ
【青と水】クレハ(h06447)と

クレハはわたしのおばあちゃんより長生きしてて、物腰が
柔らかい常識人、なんだけど。
どっか地に足がついてないっていうかふわふわしてるのよね。
と言っても好奇心旺盛で、楽しそうにしてるから心配してないわ。

今年も精霊燈火のお祭りがあるのよ。
クレハを誘ってあげたの。
わたしは契約してる精霊がいるから、新しい出会いは求めてない。
でも誰かが契約してるの見るのは好き。
自分の時の事を思い出すの。
クレハが銃士?ぜーったい向いてないわ。
そんな気もないくせにって、ふっ、て笑う。

名物を食べたり店頭に並んだ精霊燈火を眺めて透明ガラスだと精霊の
光が綺麗に見えるだとか話しながらお祭りを回る。
クレハ・エテルニテ
【青と水】ネニュファール・カイエ(h05128)さん(ネーニュ呼び)と

ネーニュが素敵なお祭りを教えてくれたの
ぜひ行きたいわ

あら、ネーニュは浮気はしないタイプなのね
わたしは素敵な精霊さんを見つけたら、精霊銃士になってしまうかもよ

…ネーニュはいつものごとくにお見通しねと笑う
そうね、わたしも頑固だから
『も』よ(ふふっ

この辺りの家庭の味ってどんなものかしら
少し早めに行って、お手伝いがてら家庭料理を習ってみたいわ
料理やお祭りのことを聞きながらお手伝い
途中で、どう?ってネーニュにあーんと味見してもらうわね

準備が終わったらネーニュと精霊燈火を見て回りましょ
あとでダンジョンに行きたいから、お守りも貰っておくわ
シン・クレスケンス
時空が捻れている⋯。
此処ならば『彼』に会える可能性があるかも知れない。
異界渡りの際にはぐれてしまった僕の分身とも言うべき精霊。元の世界でも相棒のひとりだった。

インビジブルも視認出来る|魔術師《僕》の眼には常世の洞窟に棲まう様々な精霊も映るけれど。
探している精霊は―

洞窟を抜けると、そこは夜空に大きな三日月が浮かぶ静謐な森。
【精霊の設定】
月と夜の精霊。名は『ノクス』。梟の姿をしており、内側の風切羽が夜を映したような彩り。

ノクスはホゥとひと鳴きすると、一直線に僕の元へ。
無事に会えて良かったです、とノクスの背を撫で。

(PL注※参照URLの梟です。狼の方はまた別の力の由来なので、此処にはいません)

●サトリ雨
「絆、お祭りいこー」
 √妖怪百鬼夜行の小さな弁当屋に顔を出した天深夜・慈雨(降り紡ぐ・h07194)は薄紫色の二房を揺らしながら、仏頂面の店主に弾んだ声で話しかける。
「元は徒歩三時間だけど、慈雨たちなら10分くらい! だって! 二日前くらいに現地集合しよー」
「ちょっと、勝手に話進めないでよ。他の奴なら何か企んでる展開だけど、|慈雨《あんた》は裏表ないから、心読んでも無意味なんだよね」
 慈雨の為に作った弁当を差し出しながら、店主、雛埜原・絆(賜物ゆえに愁ふ雛・h07098)は小さな雨音に溜息を吐く。
「……どんな子が案内してたか、分かる?」
 恐らく星詠みだろうとアタリを付け、絆は弁当代を受け取りながら、暇潰しに画面を灯らせる。大まかな外見を聞き出し、それらしいのを見付け、内容を理解した。
「この村の屋台飯とか家庭の味とか、そーいうのは興味あるから、まあ、付き合って上げる」
 ぶっきらぼうに慈雨の方を見て伝えると、それだけで、彼女は心底喜んでいるのが伝わって来た。証明する様に、口元を綻ばせ、子供らしいあどけない笑顔を浮かべて、見つめられ、絆は思わず目を反らした。
「絆も楽しみさんみたいで、うれしー」
「弁当、冷める前に食べるんだよ」
 絆の言葉に慈雨は元気良く首肯して、空いている椅子に座り、箸を進めていく。
「おいしい!」
「どうも」
 絆は目を反らして、正直な感想をぶっきらぼうに受け流す。

●しっかり者の案内人
「今年も常夜村で、精霊燈火のお祭りがあるのよ」
「あら、どんなお祭りなのかしら」
 ふわふわのプラチナブロンド、新緑のアーモンドアイ、妖精を思わせる儚げな外見とは裏腹に、新緑は力強く、理知的な輝きを放っている。洋装を纏ったネニュファール・カイエ(人間(√ドラゴンファンタジー)の未草の精霊銃士・h05128)の隣で、深い青色の、和装の少女、クレハ・エテルニテ(地に墜ちた祈り・h06447)は、好奇心を擽られ、内容の詳細を掘り下げていく。
「特別な事はあまりないわ」
 洋装の少女は、祭りの概要を軽く纏めて伝え、そう締めくくった。本当に特別な事は少ないのだ。ただ、屋台と郷土料理は並ぶ。
「それじゃあ、少し早めに行って、お手伝いがてら、家庭料理を習ってみたいわ。ネーニュ、付き合ってくれるかしら?」
「そんな目で見なくても、クレハならそう言うと思ってたわ」
 心配をしている訳ではないが、この友人は、好奇心旺盛で、何処か地に足が付いていない、風船の様な所があるから、きっと、切り出せばそう言うと思っていた。
(わたしのおばあちゃんより長生きしてて、常識人、なのだけどね)
 少しの考え事を見抜いた用に笑いかけられても、ネニュファールは得意気に笑う。
「案内するわ」
「エスコート、宜しくね、ネーニュ」

●小さな二重唱
「精霊さんとお友達になれるなんて、とっても素敵です!」
 真ん丸な蒼い瞳に星を散りばめて、期待に小さな胸を膨らませ、マルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)は、扉を潜った先の森中で、両手をぐっと握り締めた。
 太陽が届きにくい森中で、少し目を懲らすと、民家の灯りが見える。短い道中の足取りは軽く、思わず鼻歌が口から漏れ出る。
「澄んだ夏の夜空に、精霊とランタンの共演、聞いてるだけでワクワクすちゃうよね!」
「ですよね、ですよね! 貴方も?」
「綺麗な歌声が聞こえてきたから、つい声を掛けちゃったけど、大丈夫? 僕はゼズベット。ゼズベット・ジスクリエ。名前を聞いても、良いかな?」
「はい! マルル。マルル・ポポポワールです。宜しくお願いしますね。ゼズベットさん!」
 白翼をはためかせ、森中をゆったりと飛行していたゼズベット・ジスクリエ(ワタリドリ・h00742)は、マルルの鼻歌に誘われて、高度を落とす。
 元気の良い返事と共に、マルルの細い乳白色の三つ編みが跳ねて、ゼズベットは優しく微笑んだ。マルルの鼻歌を真似て、羽を畳んで、地に足を付けた。マルルの鼻歌を真似て見せる。
「ゼズベットさん! 一緒に歌いましょう!」
「僕もそう言おうと思ってた所! 気が合うね」
 短い道中に、マルルとゼズベット、一音二色の伸びやかな歌声が、長閑と響く。

●想像と無感情、太陽と風の調べ
「一人で来てみたけど」
 水藍・徨(夢現の境界・h01327)はざわつく心を落ち着かせる様に、白桃色の前髪を弄る。水林檎に、幻の月、森中の道中に満ちる二色の歌声、長閑で、伸びやかな歌声は、感情の無い筈の少年を、刺激する。
「落ち着かない」
 先を行く大きな丸帽子を被った小さな女の子と、青い髪の鳥人の単音の二重唱。金瞳を下向けて、何時も以上に目深にフードを被り、影に身を潜める。
 傾けている耳はそのままに、朝焼けの様な二人の姿の構造を起こしながら、後を付いて行く。
「そんなにコソコソする必要無いよね?」
 何時の間にか、鳥人が側に来て、側で楽しそうに笑いかけられ、徨は思わずフードを目深に被り、上目に、長身の青年を見遣る。
「いえ、あの……」
「ゼズベットさーん、その方は?」
「多分だけど、お仲間、だよね?」
 所在なさげに視線を彷徨わせて、観念して、徨は首肯した。
「それじゃあ、折角ですから一緒に行きましょう! お名前を聞いても宜しいでしょうか? あ、私はマルル、マルル・ポポポワールと申します!」
「ゼズベット・ジスクリエ。郵便屋さんだよ、宜しく!」
「……水藍・徨です。お二人とも、宜しくお願い致します」

●三日前【村にて】
「お祭り準備のお手伝い、そんなチャンス、逃すわけにはいきません!」
「張り切ってるなあ、僕は村の人達に、挨拶回りに行って来るよ! また後でね」
 意気込むマルルを見て、ゼズベットはからからと笑い、周辺の村人に、何時もの調子で話しかけていく。
「僕は、常夜の洞窟に、行ってきます。あの……」
 二人に礼を言おうとして、上手く言葉が紡げず、徨は金瞳を彷徨わせて、結局、逃げる様にその場を去った。
「徨さん、どうしたんでしょう? でも、私もぼんやりはしていられません! 奉仕修行の意味でも、何より皆さんの楽しいのためにも!」
 マルルはゼズベットと話が終わった村人に近付く。
「是非、お手伝いさせて下さい!」
 村人は、確りと頭を下げた小さな少女の申し出を快く受け入れ、マルルに予定を聞く。
「お祭りの際に、宿泊施設が足りないと聞いていますから、先ずは其方をと考えています!」
 村人は驚いた様に顔を見合わせてから、マルルを大きな建物へと案内した。

●開催三日前【広報:村人への挨拶回り】
 マルルが建物に誘導されている間に、ゼズベットは双翼を広げ、そう多くない民家を飛び回る。20棟かそこらの古い瓦葺きの木造建築は、各所に法陣による強化・修復の跡が見られ、見た目以上に頑丈そうだ。
 他にも、資材倉庫らしき簡素なログハウスが幾つか見受けられ、常夜村の住民は、森を切り開いて生活している事が窺える。
(って言っても、ルールはあるんだろうね)
 牛舎で、人の営み等知らぬと、牛が間延びした鳴き声を上げる。
「始めまして、お祭りのお手伝いとか有ったら遠慮無く言って下さいね! 僕の他にも、申し出があれば、成る可く受け入れて貰えると、嬉しいな」
 婦人に愛想良く、片目を瞑ってみせる。端正な顔立ちと、紺色と白を基調としたダブルブレスト・ジャケットにシャツと赤のタイ、フォーマルに近いゼズベットの格好は、老若男女問わず、好感触だった。
「少し派手ね」
「郵便屋だからね! 空からだし、分かり易い方が良いでしょ」
 そんな言葉に、赤いネクタイを軽く引っ張って、にっと笑う。納得した妙齢の女性は、応える代わりに、穏やかな笑みを浮かべた。

●開催三日前【宿泊施設建築;説明】
 建物の中はがらんとした広間が一つ。集会場の様な場所だが、今は祭りの準備会場となっている様だった。マルルは、入る前に案内された通り、相談役を請け負っている男性に声を掛けた。
「こんにちは! 宿泊施設の建築をお手伝いしようと思っているのですが! 一先ず此方でお話を、と案内されました! お手伝い承りのマルル・ポポポワールと申します!」
「おう、その細腕で買って出たなら、術士かなんかなんだろうな! 切っちゃいけねえ木を切るなよ! 伐採範囲の資料は纏めてあるから持って行け! 良い加減必要だと思ってたからな! マルルの嬢ちゃんだったな、宜しく頼むぜ!」
「はい! 頼まれました! 皆さんの為に頑張ります!」
「ただ、そっちに回せる人員は居ないかもしれねえ。。なに、建造途中で終わっても、誰も恨みやしねえ。来年までには完成させるさ、本当に済まねえな」
「寧ろ手際が良くて、驚いています。あの、宜しければ、精霊に纏わるお話など、幾つか伺っても?」
 精霊に纏わる話は然程多くなかった。逸話が少ない理由は、彼等が精霊と調和しようと考えているからだ。そもそもダンジョンの発生自体が、1945年と近世であり、村はその時から隆盛し始めた、と言って良い。元々工芸が得意な、手先が器用な者が多く、精霊の喜ぶ物、精霊と交流し易い物を作ろうと考えた結果、現在に至った様だ。
「だから崇めるモノとかじゃねえ、一緒に居る住人みたいなモンなんだ。洞窟入れる奴ァ限られてるがな。外にも居るんだろう? なら大切にしてやりてぇ、それくらいなんだ」
「成る程、素敵な考え方だと思います! 所で、水林檎って特産品か何かですか?」
「あぁ……そうだな。マルルの嬢ちゃんには一つだけ教えてやれる。そいつァ、この村の
幸運の象徴だ」
 つまり、現実には存在しないかも知れない物だ。マルルは何故教えられないのかを考えて、単純な答えを出した。幸運とは自ら呼び寄せ、掴む物だ、と。一層張り切って、資料を捲りながら、集会場を後にする。

●開催三日前【常世の洞窟/時空の精霊】
 常夜の洞窟へは案内板が立っていて、迷わず入り口付近まで辿り着いた。冒険者と思しき気配の人影が二つ。洞窟の前に立っており、フードを目深に被った徨に、穏やかな口調で話しかけた。
「あ、その、すみません。こんな早くに……どうしても、色んな精霊を見てみたかったんです」
「お気にならさず。この時期に、屋台を準備したり、炊き出しをするので、訪れる方が多いと言うだけで、何時来ても構わないのですよ。此処は」
 簡単な法陣が描かれた、菱形の硝子片。通された革紐は長く、首でも腕でも通せる様になっている。
「帰りたい時は、そう念じるだけで、村へと戻れます」
「有難う御座います。あの、お二人は、水林檎について、何か、ご存知ですか」
「知識は有りますが、教えられません。貴方の旅路に、幸運が訪れますように」
 厳かに頭を下げられて、徨は驚きながらも、洞窟の中に足を踏み入れた。
 蒼い夜が、小さな細道に広がる。星は無いが、洞窟を構成する全てが、蒼く彩られていた。感心して、徨は声を漏らし、細い洞窟のあちこちに視線をやりながら、細い道を進んでいく。
(沢山の精霊に会ってみたい。星の精霊や、雲の精霊も居るのだろうか。時空を操る精霊は、居ないかもしれないけれど……もし、いたら)
 きっと洞窟に入った時よりも大きな声を上げて、驚くだろう。
 突然、通路が途切れて、浮遊感を感じる。ふわふわと虚空を漂い、黄金色の小さな精霊と目が合った。琥珀色の空間に蒼色の文字盤がびっしりと敷き詰められて、小さな精霊達が必死に針を進めたり、戻したりと、忙しなく働いている。並んだ文字盤の中央それぞれに、様々な姿をした大きな精霊が、小さな精霊に、細やかに指示を出している。文字盤を良く見ると、透けて世界や文明が映し出される。
 美しいと言うより、童話にある少し奇妙な光景だった。
「わぁあ!」
 徨は思った通りに大きな声を上げて、早速自由帳を開き、精霊達と、この空間のスケッチを開始した。紛れ込んだ人間の様子に、大精霊達が視線を向けて、徨に興味を抱いた、先程の小さな精霊が覗き込む。
 自分達や、大精霊が白黒だけで緻密に書き込まれて行くのを、気に入ったようで、徨の側ではしゃぐ様に飛び回る。
「気に入った?」
 話しかけると、小さな精霊は無邪気に笑って、元気良く首肯する。
「良かった」
 暫くは、この空間で、この子と遊ぼう。それが、此処で、どの位かは分からないけれど。徨はそう考えている時に、自身が微笑んでいた事に、気付かなかった。小さな精霊は、それが彼にとって特異な事だと、気付かず、上機嫌な様子で、肩に座っていた。

●開催三日前【外部広報】
 村人への挨拶回りを終わらせて、ゼズベットは軽く汗を拭う。
「因みに、お守りってもう貰えたりする?」
 最後の村人にそう聞くと、集会場か、洞窟の前で配られていると、快く教えてくれた。集会場は祭りの準備場になっていると聞き、洞窟の方が迷惑が掛からないと考えて、洞窟の前で、一先ずお守りを受け取った。
「貴方の旅路に、幸運が訪れますように」
「ありがと! 君達にも、幸運が訪れる様に、願っておくね!」
 手を振って忙しなくその場を去って行く鳥人に、二人は思わず破顔した。
「後は集会場だね。行ってみよう」
 集会場に居る相談役は快くゼズベットを迎え入れた。
「村の連中全員に挨拶って、出来た奴だぜゼズベット! で、俺に通したい話ってのは大体見当付いてるが」
「広報、どうかな? 僕なら自慢の翼でひとっ飛び! 今なら出血大サービス、どう?」
「チラシとかが無えんだよなぁ、写真はあるんだが。取り敢えず無理しねえ程度、程々で良い、多いのは嬉しいんだが、不届き者も増えちまうしな」
「それじゃ、明日位まで飛び回って来るよ! 写真貰っていくね!」
「助かる。のんびり飛んで来い」
 扉を使わずとも、ゼズベットの双翼は森中を舞い上がり、最寄り駅周辺まで、そう時間は掛からない。写真に軽く住所と雑誌の案内を書き入れて、人の固まっている場所へ、写真の雨を降らす。そもそも交通の便が悪い、多少派手にやっても、多くが足を運ぶことは無いだろう。
「郵便屋からのお知らせだよー!」

●開催三日前【宿泊施設建造】
「それでは、始めましょう!」
 蒼い封印宝珠を取り出して、マルルは歌に詠唱を乗せる。足元に現れた魔法陣から、詠唱歌に誘われて、使い魔である小さなメイド姿の歌い手達が現れる。伐採範囲の樹木を魔力強化したナイフで切り倒し、材木へと解体する。
 材木を運び、簡素なログハウスに、資料に書かれていた簡単な強化法陣を施し、崩れにくくする。一つ仕上げるまでの時間は、移動を含めて一時間ほどだった。
「装飾は最後の日にしましょうかー」
 外来宿泊用の簡易コテージが、少しずつ建ち並んで行く。

●歌唄いの夜
 澄んだ空気、満点の星空に、子守唄の二重唱が響く。
 ともよ ねむれ
 わたしに だかれて
 ともよ ねむれ
 すこやかに
 あしたをともに すごすために
 あしたをもっと すごすために
 むじゃきな ともよ
 かよわき ともよ
 わたしが よるをともす あかりとなろう
 わたしが こうきをみたす かてとなろう
 だから いまは
 ともよ ねむれ
 すこやかに
 かぜに だかれて
 ほのおに まかせて
 みずに ゆられて
 つちに ゆだねて
 きに からだを よこたえて
 ともよ ねむれ
 とこよの そらで
 とこよの むらで

●開催二日前【屋台制作】
「精霊か……」
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は魔導書を眺めて、独りごちた。最近、魔法を学び始めた者として、興味が沸いた。
(近頃は激しい戦いばかりだし、少し、のんびりしようか)
 扉を潜り、朝靄に包まれた森中を、民家の灯りに向かって歩く。
 村の外周に、幾つかの簡素なコテージが見えた。どうやら作りかけの物も有るようで、半ばで放置されている物も見える。
 二日前にも関わらず、√能力者ではない参加者もちらほらと見えて、工房と思しき建物から、鑑賞目的に、ランタンを買っている者が見えた。
 工房らしき建物を訪れる。広い店内に、カタログの置かれたカウンターと、制作見本の多種多様の精霊燈火が並ぶ。カウンターの奥には製作工房が見え、素材を自動で加工する機械が覗いている。
「オーダーメイドで、蒼い硝子を用いた水面の様なのが欲しい、んですけど」
「いらっしゃい、ふむ、それは例えば、君の瞳のような……と言う事かい? いや、君のは水面というか、水底だな。うん、良いね。この時期と言う事は、祭りの手伝いを?」
前掛けを身に付け、口髭を蓄えた小柄な老人が、クラウスの顔をじっと覗き込み、一人で幾度か頷く。
「はい、これから、ですが」
「なら、お代は要らないよ。ありがとう。君は装いからしても、冒険者だろうし、精霊用で仕上げておくね」
「え、あの」
「良いんだよ。この辺の住人は助け合わないと不便でしょうが無いからね。田舎特有の、等価交換だよ。正しくは、物々交換なんだけどね」
「……有難う御座います」
「村の大きな建物が集会場だ。そこで相談役をやってる男がいるから、手伝いはそこを通すと良い」
 にっと笑った老人に、クラウスは頭を下げて、集会場へと足を向けた。建物の中に入ると、豪快な口調の男が、状況を説明してくれた。
 経年劣化が目立つ屋台の修復、屋台骨の制作、村の各所への運搬及び、配置。
「余裕があったら、宿泊施設を作ってるマルルって嬢ちゃんを手伝ってくれ。順調なのは知ってるんだが、心配でな」
 後はゼズベットという鳥人の青年が、広報を担当してくれており、例年よりも賑わいを見せている、と言う事らしい。
 屋台骨の制作と修復は集会所で行われており、クラウスは手早く取り掛かった。

●開催二日前【味見inショート・ホーム・ステイ】
「この辺りの家庭の味って、どんなもの、なのかしら?」
 お守りを貰った後、俄に活気付く村中を、クレハはネニュファールと歓談を続けながら歩く。気さくな村人は、今年は人手が多くて助かっていると、クレハに気分良く話した。
「ウチの味で良ければ、二人とも、いらっしゃい」
「あ、でも結構、素朴な味だったわよね?」
「ええ、こう言っては悪いけれど、特別な物を振る舞う訳では無いもの。皆、作れる物を、作れる文だけ、来た人に振る舞っているだけだからね」
 味付けはシンプルに、食べ易い大きさに切った肉に香辛料を馴染ませ、串に刺し、じっくりと焼く。二人が好みの焼き加減を伝えると、その通りに差し出した。
 脂身が少ない確りとした歯応えと柔らかさ、野性味のある鹿肉の山賊焼き串は、素朴で有りがなら旨味を損ねず、飽きにくい。
「乳牛は村に一頭だけだから、煮込みもあんまり凝った物に出来ないのが、悩みでねえ」
、村の冒険者に買い出しを頼んだり、近隣の村との物々交換で、食材は仕入れているらしい。鹿骨のスープは森中ならではの深みのある味だった。
「後は猪肉も出るだろうねぇ。普通の牛や豚が出ないくらいさ」
 鶏は飼っている家が数件有るらしい。卵は皆、其処に頼る事が多いようだ。
「素敵な料理を有難う。良かったら、作り方を教えて頂けるかしら?」
「あら、もしかして、手伝ってくれるのかしら、嬉しいわ。有難うねえ、ええと」
「クレハと言うの、宜しくね」
「あー、えーと、ネニュファールよ。好きに呼んで、お婆ちゃん」
「それじゃあ、クレハさんとネニュファールさん、短い間だけど、ようこそ、我が家へ。姉と娘が増えたみたいで、ちょっと嬉しいわ」
「あら……」
「クレハさん、あなた、とっても落ち着いているでしょう。でも、少し浮ついていて、だから、きっと、私より年上だと、思ったのよ」
「察しの良い妹が出来て、私も、とても嬉しいわ」
 クレハは躊躇無く、姿勢の良い老婆の頭を撫でる。見た目が人形の様に可愛らしいから、老婆は、少し不思議な気分で、小さくて温かい、掌の感触を楽しんだ。

●開催二日前【水溜まりで遊ぶ様に】
 朝焼けが覗く前、夜が去るには少し早い時間だった。
 どんなことが起きるだろうか。
 どんな出会いが待っているだろうか。
 たくさんの灯りは、紫陽花みたいで、きっと綺麗だと思う。
 慈雨は、期待に胸を膨らませていた。
 だから、すぐに支度を済ませて、ルーと話しながら、朝闇を歩いて、扉を潜る。
 薄暗い森中に、建物の灯り、何かを切ったり、準備の音がする。
 村に到着して、賑わいを見せている中で、きょろきょろと見渡して、約束の相手を探す。
「あれ。絆、まだきてない。じゃあ先に探索しちゃおー!」
 足の向くまま、気の向くままに、編み込んだ二房を揺らしながら、慈雨は村を散策する。
「少し、聞きたいことがあるの!」
「あら、何かしら?」
「雨の精霊さんにあいたいの、必要なの、あるかな?」
「必要な物、ね。それなら、今年はもう少し待ってから、洞窟に行くと良いわ。そうね、得意な事はある?」
「ちからもち、です!」
「人は見かけによらないわね! 大きな建物が見えるでしょう? 彼処に行くと良いわ」
「ありがとー、お姉さん! いってみる!」
 大きな建物の中に入る。皆忙しそうに動いている中で、見知った黒ずくめの人影が、大工仕事に勤しんでいる。
「クラウスさん!」
「えっと、慈雨。こんにちは。君も来たんだね」
「うん。たのしそーだったし! 今でも十分たのしー!」
「良かった。中央の人に話を聞くと良いよ」
「ありがとー! また遊んでね!」
「うん、また」
 中央で様々な受け答えをしている男に、慈雨は元気良く声を掛ける。
「こんにちは! しっかりおてつだいをしにきました。慈雨はこう見えても、ちからもち、です!」
「慈雨だな。んー、それじゃ、資材の運搬かな。倉庫から此処に持って来たり、工房まで持って行ったり、振り分けリストはある。後は指示に従って動いて欲しい、良いか?」
「わかりました!」
 見やすく作られた資料を受け取って、慈雨は頼まれた資材を集会場に持って行く。一度に運搬してきた量を見て、小さな女の子の細腕で、と言う村人や大人達の疑問はすぐに吹き飛んだ。

●開催二日前【出張版「ひなの」】
 普段通り、|緩衝材《伊達メガネ》を着けて、朝日が昇る頃に、絆は星詠みが案内した扉を潜る。見渡す限りの森中に、やっぱり、と思いかけて、うっすらと見える建物と、大勢の人の気配。
 軽く歩を進めて行くと、今、正に特級で作られているコテージ。間違いなく√能力者によるものだった。すぐに村が見えて、絆は拍子抜けした。
「詐欺だと思ったけど……」
 心中で、動画の投稿主には謝っておいた。数が少ない事も有るが、家々の間は間が空いており、歩きやすい。
「慈雨?」
 約束相手の姿を探して、きょろきょろと周囲を探る。俄に人が集まり始めている所為で、力を抑えていても、少しだけ思いに酔いそうだった。小さな影が、その細腕で、どの様に、大量の資材を抱えているのか、彼女の手伝いは分かり易かった。
「あっ、絆! おねぼうさん?」
「突っ込み所しかないから、取り敢えずそれ、運んで来る」
「はーい」
 大きな建物に、大量の資材を運び込んで、慈雨は上機嫌に絆の元へ駆け寄った。
「慈雨のが先?」
「あんたが早く着きすぎたんでしょ。僕は正真正銘、今着いた所」
「ごめんね、だって……」
「楽しみだったんでしょ。怒ってないから」
「うん! 絆、本当にごめんね? お手伝いすると、良いことがあるからって」
「そう。なら、手伝いだな」
 慈雨から差し出された手を、迷い、視線を逸らして、取る。
 まだ屋台が出ていないなら、いっそ。
「慈雨、手伝って」
 祭りの二日前に、突如出現した、簡易出張版弁当屋「ひなの」は、村人、冒険者の欲しい料理を渡す弁当屋として、非常に評判が良かった。店主の態度を大らかな村人は受け入れ、気にしていなかった。欲している物を渡されるのを、少し奇妙だと考えている程度だ。
「絆のお弁当、おいしーもんねー」
 そんな風に、心の底から言うのは、慈雨くらいだ。

●開催二日前【雲を掴む様な話】
 徨は、仲良くなった時空の精霊を伴って、今日も常世の洞窟へと潜る。黄金色、小さな精霊は、徨の肩上か、肌身離さず持っている自由帳の上を気に入っていて、普段は騒がず、とても大人しい。水のように柔らかい質感の胴体には、琥珀に埋まった、小さな文字盤が見え、何処か、若しくは、何かの時間を刻んでいる。
(聞いても分からないみたいなんだよね)
 フードを目深に被って、昨日と同じく、洞窟の前に立つ二人に軽く頭を下げ、洞窟に入る。
「おや、気に入られたのですね。貴方の旅路に、より多くの幸運が訪れますように」
「はい、貴方達にも、訪れます、様に」
「良い出会いは、今の貴方のように、少しだけ、人を変えるのです。良い出会いに恵まれて、良かったですね」
 無い筈の心を、言葉がざわつかせる。何だか顔が火照っている様な感覚を覚えて、何時もとは違う感覚で、顔を俯けた。
(今度は、雲の精霊に……)
 蒼い夜を思わせる洞窟で、会いたい精霊を思い浮かべて、細い道を潜る。
 ふかふかとした、綿飴の様な感触の床を歩く。金瞳で場所を探ってみると、蒼い雲の上を、何時の間にか歩いていた。寝転んでみる。高級なベッドに寝転んだ様に気持ちが良い。天国、いいや人を駄目にする地獄か。そんな問答が思い浮かぶ。
 ふと、真綿が飛び出す様に、小さな雲の塊が飛び出して、ぽん、と小さな破裂音を響かせる。雲のターバンを巻いた、小さな精霊が、 徨をじっと、眺めている。気付ければ、其処彼処で、雲がタンポポの様に舞い上がり、雲の粉雪が蒼夜を覆う。
(戻れなくなりそう……)
 ふかふかの雲のベッドの上で、幻想的な光景をスケッチする。時空の精霊が、雲の精霊と何やら意思疎通を図っていて、雲の精霊は、良かったと安堵する様に、首肯した。
「気持ち良かったか、って事かな?」
 安堵しているなら、きっと、そうだろうと思う。

●開催二日前【歌鳥の精霊】
 ゼズベットは夜に休んだ後、昼頃まで、飛び回り、写真をばら撒いた。他は遠出が過ぎると考えて、羽を休める事にした。
 後で知る事になるが、広報活動は思った以上に実り、常夜村を特集したガイドブックの売れ行きが良く、出版部から御礼の便りが村に届いたらしい。
 朝に出来た弁当屋に寄ってみると、注文を聞く事も無く、長身の男が手際良く弁当を作り、ゼズベットに手渡した。驚くことに、中には食べたいと思ったおかずと、自身の好物がきっちり揃って入っている。
「凄いね! ありがと! ひなの、か。覚えとくねー!」
「そりゃどーも。今後とも、ご贔屓に?」
「ねえ、君の名前は?」
「……雛埜原・絆」
「絆だね、良い名前! 僕はゼズベット・ジスクリエ。それじゃあ、またね!」
 食べやすい物を一口。心の籠もった味わいに、舌鼓を打ちながら、ゼズベットは洞窟を目指す。
「こんにちは、ゼズベット様。貴方の旅路に、幸運が訪れますように」
「やっほー、漸く終わったからね! 羽休めに来たよ。洞窟の見張り、飽きない?」
「この時期だけは、例え飽いたとしても、離れられません。終わったら存分に羽を伸ばす予定です。動画の最新作でも、作ろうかと」
「ダンジョン攻略系なのかなーそれ。良かったら、後で投稿名とか教えてね!」
「ああ、再生数を回してくれるだけでも、励みになります。有難う御座います。機会が有れば、√EDENの巧者の方々に、お話を伺いたいものですね。と、ゼズベット様が幾ら良き方とは言え、私語が過ぎました。行ってらっしゃいませ」
 ゼズベットは改めて頭を下げた見張りにひらひらと手を振って、洞窟に入る。蒼い暗闇とも言うべき空間に、ゼズベットは感嘆の声を上げ、歩を進めて行く。
 身体が、飛行している時の様に宙空へ放り出されて、羽ですぐまま姿勢を制御。蒼夜に放り出されて、仲間が無重力に気流を作る。上下は無く、夜空というよりは、宇宙区間の様だった。
「良い所だね!」
 風の精霊達が、仲間達と競争したり、併走をしたり、仲間に悪戯を仕掛けたり、自由気儘に振る舞っている。
 自由に振る舞う様を見て、即興で歌詞を紡ぐ。
 フレーズに、感覚で拍子を付ける。
 無重力空間で、気持ちの良い風精に身を任せて、空を舞い踊る。
 彼等と同じく、気儘に振る舞うのが、とても気持ちが良かった。
 負けじと鳴き声を響かせる瑠璃色の翼が近寄って来て、おいでと指先を差し出して、蒼夜を精霊と歌い、踊る。

●開催二日前【宿泊施設建造(出張弁当屋で一休み)】
 伐採範囲超過間際まで来て、マルルは流石に疲労が溜まっていた。そろそろ確りした食べ物をと、村を散策する。匂いに釣られた先にあったひなの、と言う看板の下で、長身の男性が弁当を振る舞っていた。
「お弁当一つ下さい!」
「らっしゃーせー、はい。あんたは、食事もだけど、水分摂りな」
「有難う御座います、って早くないですか?」
 待つ事数分、どう見ても出張でやっているにも関わらず、料理の心得があるマルルが見ても、手早い作業だった。しかも、食べ応えを確保しながら、水分が確り摂れるメニューで固められている。
「有難う御座います! 助かりました! これ、お代です!」
 マルルは元気良く代金を渡し、木陰に座って、弁当を頬張る。
「……プロの犯行です! プロなんでしょうけど!」
 一つ一つのメニューの味を舌で分解し、作業を遡り、組み立てる。
「再現出来るでしょうか……奉仕修行は本当に果てがありません!」
 決意を新たにし、コテージの制作に励んでいく。

●開催二日前【夜:コテージの開放とご案内】
 陽が落ちると、虫達が森中で仄かに騒ぎ出す。
 マルルが作ったコテージは手伝い役に開放され、絆と慈雨、クラウスとゼズベットも案内された。
「昼間はご利用、どーも」
「美味しかったです! 愛情たっぷりでした! お返しにはちょっと足りませんけど、お使い下さい」
 マルルの勢いにやや気圧されて、絆は視線を斜め下方に反らした。
「おねーさん? お姉さんかな?」
「はい、マルルと申します」
「わたしは天深夜・慈雨っていいます。明日はお手伝い、しましょーか?」
「明日は飾り付けを致しますので、是非、慈雨さん!」
「はーい! マルルさん」
 笑顔で二人がハイタッチを交わす。
「俺は……外で良いかな」
「あ、クラウスだ! 久し振り! 無理してない?」
「久し振りだね、ゼズベット。元気そうで良かった。だから、今日は羽を伸ばしに来たんだ」
「それじゃあ、お二人とも、私と少し、夜更かしをしませんか!」
「昨日と同じやつ?」
「そうですそうです! 歌いましょう!」
 虫達の穏やかな合唱に、三人の歌声と、鳥の精霊の鳴き声が夜空を彩っていく。
 友よ、眠れと、子守歌が響く。
 途中で、興味を惹かれた慈雨が顔を出して、彼女と、水精のルサールカも顔を出して一緒になって歌声を響かせる、が、はしゃぎ疲れたのか、その場で寝息を立てていた。
「全く、はしゃぎすぎ……良い歌だな。お陰で、良い夢が見れそう」
 絆が何だかんだ優しく抱き上げて、コテージへと連れて帰っていった。

●開催二日前【夜:老婆の家にて】
 クレハとネニュファールは用意された寝床で、のんびりと微睡んでいた。
「あなたもいらっしゃい?」
「私のことは気にせずに、二人で過ごす方が良いでしょう」
 穏やかに微笑んで、老婆は自分の部屋に帰って行った。
「寂しいのを、我慢する必要は無いのに……どうしてかしら」
「クレハほど、色々気にしない人は少ないわよ……大丈夫、おばあさん、ちゃんと、掬われてるわ」
 今日一日、ネニュファールとクレハに見せた表情は、穏やかで、間違いなく幸せそうだった。クレハが寂しそうと、捉えたのは、久し振りに楽しかったから、もう少し、一緒に居たい、程度のものだ。
「今頃、昔のアルバムを見て、思い出に耽っている頃よ」
「そう言う物なのね」
 クレハは微笑んで、同じ寝床のネニュファールの頭を撫でる。
「褒めても、何も出さないわよ、クレハ」
「いいのよ、有難う、ネーニュのお陰で、とても、楽しいわ」

●開催前日【準備追い込み】
 主要な道に、屋台が並ぶ。最後にランタンを吊り下げて、配置は終わる。クラウスは料理素材の下処理を頼まれ、運び込まれた鹿の骨を砕いて、深いザルの敷かれた鍋の中に投入していく。
「お兄さん、注文の品、出来たよ、どうだい? 調整して欲しい所があったら言ってくれ」
  精霊燈火は注文通り、水面を思わせるような蒼い硝子で出来ており、腰に下げられるよう、小さな涙形に作られていた。
「精霊が入っている時は、温かな橙色に灯る。揺り籠としての住み良い環境は属性や姿形で変わるからなぁ、その時はまた工房に来てくれ」
 クラウスは礼を言って受け取り、作業に戻った。
 マルルと慈雨と絆の三人は、コテージの飾り付けを行っていた。精霊のイメージなどは無かったが、通り掛かった徨の連れていた精霊や、ゼズベットと一緒に居た瑠璃色鳥、慈雨のルサールカを参考に、小さな使い魔達に指示を出し、木板に色付けをしたり、ランタンの端材で、装飾を作り、飾り付けていく。
 絆は飯時になると、昨日と同じく、皆に弁当を作って振る舞った。

●開催前日【ネーニュ&クレハ】
「それじゃあ、明日までに仕込んでいきましょうねえ」
 屋台用の鹿肉料理を二人は老婆に教えられた通り、仕込んでいく。
「どう?」
 手際良く進んでいく中で、唐突に差し出された屋台料理を箸で差し出され、ネニュファールは困惑し、意を決して、唇を近づけた。
「クレハ、悪戯は程々にして欲しいわ。でも、美味しい。良く出来てる」
「良かったわ」
 前半を都合良く聞き流されて、ネニュファールは頭を痛めた。老婆はそんな二人を、微笑ましく見守っていた。

●開催前日【水晶鳥】
 洞窟に向かったゼズベットは、同じく、洞窟に向かっていた徨を見付けた。二種の精霊と無表情の儘、楽しそうに過ごしている姿を見て、声を掛けるのは辞めた。
 ある程度距離を取って、見張り役の二人と軽く歓談をして、 瑠璃色鳥を友に、洞窟に入る。
 浮遊感などは無く、代わりに、眩しいほどの蒼水晶の結晶が、ゼズベットを出迎える。良く見ると、水晶の中では小さな霊体が、のんびりと寝息を立てている。
「此処の子はのんびり屋なのかな。鉱石や宝石って確かにそんな感じだよね」
 何となく指を弾く。二度、三度、拍子を取って、小気味良い音を響かせる。朝焼けをイメージした穏やかで明るい曲を、穏やかな声で歌い、洞窟を歩く。
 のんびりとした探検だった。穏やかな歌声に釣られて、小さな水晶鳥がゼズベットの肩に留まる。硝子細工の様な精霊が、瑠璃色鳥と調和して、ゼズベットと合わせて歌う。

●開催前日【星に手が届く場所】
 徨は今日も洞窟に向かう。もう慣れた一本道の洞窟を抜けて、今日はどんな体験が出来るかを楽しみだと、精霊達に語る。
 煌めく蒼星が、徨を迎え入れる。宇宙を漂う小さな塵。星の砂が、訪れた人間を歓迎する。靄に蒼星を散りばめた様な、指先ほどの小さな生命。
 夜空に手が届いた感動の儘に、徨はペンを走らせ、スケッチする。
 砂星が、彼の肩に一粒、舞い降りる。

●開催前日【日暮れ時】
「終わり、ましたーっ!」
「つかれたー!」
 マルルのやりきった声が、コテージの前で響く。
 観光用に装飾されたログハウスは、らしい物になっていた。
「お疲れ様、こっちも漸く終わったよ」
 食材の下拵えが終わり、クラウスが顔を出す。
 無言で出来立ての弁当を人数分置いて、絆はコテージに引っ込んだ。
「絆、まってー」
 慈雨は絆の後を追う。
 ゼズベットは二鳥と、森中の空をゆったりと巡る。

●お祭り開始【早起きは三文の得】
 開催前と比べても、人集りが出来ていく。土産にランタンを購入する物、精霊との契約に意気込む者、この村の屋台料理を楽しみにしている者、動機は様々だが、今年は例年よりも多くの客で賑わっていた。
 朝から、屋台の燈火が灯る。素朴な料理の香りが其処彼処から漂って、食欲を誘う。
「素敵なお宿は此方ですよー」
 作り上げた子守歌を、テンポを上げて響かせながら、マルルは宿泊予定の冒険者達を案内する。凝った装飾を付けられた宿は、思いの外好評で、宿泊予定が見る見る内に埋まっていく。
 村人が早くに準備を済ませたのもあって、慈雨は来た時と同じく、また一人で、朝早くから屋台を見て回っていた。目的は。
「慈雨」
 そんな、聞き慣れた声に、ぱたぱたと駆け寄る。
「絆の好きそうなの、沢山有ったよ」
「はいはい、連れてって。そのために、早く起きたんでしょ」
「うん! おすすめさん、いっぱい案内して上げる」
 はぐれないように、手を繋ごう。あどけない笑顔と友に差し出されると、絆は断れなかった。
「別に、手は繋がなくてもいいと思うけど」
 仏頂面で、慈雨の差し出された手をもう一度握る。
「はーい! まずはこっちから!」
 
●お祭り開始【似た者同士の歓談】
「わたしは契約してる精霊がいるから、新しい出会いは求めてない。でも、誰かが契約しているのを見るのは好き。自分の時の事を思い出すのよね」
 世話になった老婆の店で、味わいが少し癖になってしまった鹿肉の串焼きを頬張りながら、ネニュファールはクレハに語り掛ける。
「あら、ネーニュは浮気しないタイプなのね」
「浮気じゃ無いわ。バランスが難しかったりするから、メリットが少なかったりするだけよ」
「わたしは、素敵な精霊さんを見付けたら、精霊銃士になってしまうかも」
「クレハが銃士? ぜーったい向いてないわ! そんな気も無いくせに」
 串に残った最後の肉を頬張って、ふっと笑う。クレハはその仕草を見て、穏やかに微笑んだ。
「ネーニュは何時も通り、お見通しね。わたしも、頑固だから」
「言ったわね。それじゃあ、似た者同士、これからも仲良くしましょう」
 仲の良い二人の話題は尽きること無く、屋台を巡りながら、夜更けまで、話題が途切れる事は無い。
 夜が近付く頃には、精霊燈火について、軽く話す。
「透明硝子だと、精霊の光が綺麗に見えるのよね」
「それなら、竹細工や和紙の穏やかな光も、良くないかしら?」

●お祭り開始【家庭の味】
「行きましょう、京介さん、お祭りです♪」
「前から探してたし、良い機会だな」
「楽しみです♪」
「俺もだ」
 神代・京介(くたびれた兵士・h03096)と、竜雅・兎羽(歌うたいの桃色兎・h00514)は丁度良い情報を見付けたと、互いに喜んで、村に向かう。
(彼女を楽しませられるよう、気合は入れないとな)
 村の外周付近で、子守歌の様な、澄んだ歌声が聞こえてきて、二人は笑う。兎羽はゆったりとした拍子に合わせて、尻尾をゆらり、ゆらり。
「ステージがある様なら、参加してみるのも良いかもな。竜雅の歌声は聴きたいし」
「お祭りならではのお歌、でしょうか。ステージがあるなら、是非参加したいです」
「有るとは思うが、どうなんだろうか。これ、思い切り宣伝っぽいな」
 村に着くと、ランタンで飾られた様々な屋台が出迎える。変わった物は売られていないが、素朴な香りが、嗅覚を刺激する。
 手近な屋台で、串焼きを二人分買って、一つを兎羽に渡した。
「戦場を渡り歩いてばかりだったから、家庭の味って言われても、ピンとこないんだが」
「私も記憶喪失で、こう言う物にあまり触れた事が無く……」
 二人一緒に串焼きを頂く。立ったまま食べることに、兎羽は違和感を覚えたが、周囲を見渡して、そう言う物なのだろうと納得して、小さく口を開ける。
 塩と胡椒に数種類の香辛料。よく調整された焼き加減。心遣いが見て取れる、素朴だが飽きない味付けだった。
「そうか、こう言うのが家庭の味って言うのか」
「んー、美味しいです♪ これが家庭の味♪」
 脂身の少ない鹿肉は、濃い味わいでありながら、鶏肉の様に淡泊で、あっという間に串だけになる。他の料理を幾らか買って、設けられた休憩場所に座って、のんびりと食べ進めていく。
「ほんと美味いな! これなら、幾らでも食べれそうだ。けど、それは竜雅と一緒にだから、ってのが大きいかもな」
「一緒だから……なるほどです♪」
 親しい物と囲む食卓は格別だ。空腹に次ぐ、最高の調味料と言っても良いだろう。
 上機嫌に買い込んだ料理を食べて、尻尾を揺らす彼女の姿に、京介は胸を撫で下ろした。
「お守りも貰っておきましょう。案内は、あ、ありましたね!」
 大きな建物で配布されている硝子細工を受け取って、眺める。
「これで帰ってこられるんですねえ……不思議な道具です」

●お祭り【皆で歌って踊って、そうして時間が過ぎていく】
 小さな広場の様なスペースに、兎羽の歌声が響く。
 今日の感動を、歌詞にして、今日の喜びを、リズムにして、明るい歌声を、舞踊と共に響かせる。歌声に惹かれて、鳥人のゼズベットが宙空で、これまた即興で兎羽に合わせ、出会った精霊と共に舞い、歌う。
 私も、私も、と呼び込みをしていたマルルが棲んだ歌声を被せていく。
 ゲストは気付く者が増える度に、見る見る内に増えていく。音楽の心得がある冒険者、旅行者達で即興の楽団が形成され、思い思いの舞踊と歌声を、合わせて重ね、トークショーの様な笑いを誘う遣り取りが進む内に、統率が取れて、完成していく様は、村中を盛り上げた。

●祭り当日【常世の洞窟:再会】
(時空が捻れている、此処ならば、彼に会える、可能性があるかも知れない)
シン・クレスケンス(真理を探求する眼/蒼焔の魔術師・h03596)は青い瞳に、希望を灯して、常世の洞窟を訪れる。
「貴方の旅路に、幸運が訪れますように」
 見張り役の二人から、呪い言葉の様な挨拶と共に、タリスマンを受け取る。
 蒼く彩られた暗闇、洞窟を抜ける。
 確かな地を踏む感触。蒼夜に大きな三日月が浮かぶ。虫は鳴かず、獣の遠吠えも無い、作り物のような、静謐な森。
「インビジブルも視認出来る|魔術師《僕》の眼には様々な精霊が映る」
 独りごちる。静謐な森中には、確かに多くの精霊が棲んでいる。彼の目は其れ等を写しながら全く別の物を探している。
(だけれど)
 ホゥ、と、梟の鳴き声が響き渡る。まるで、探していたのかと、彼に問い掛けるように。白の体躯に風切羽が夜を映す彩り。それをばさりとはためかせ、シンの肩で羽を休めた。
「無事に会えて、良かったです。ノクス」
 月と夜の精霊、その背を撫でて、シンは村へ戻り、ひっそりと過ごした、かも知れない。

●お祭り【穏やかな時間】
 夕暮れ時に、不死鳥がクラウスの隣に佇む。
 良く手伝ってくれたからと、無償で貰い受けた食事を、皆の歌声と、森の声、両方に傾けて、のんびりと食べる。故郷での合成食材になれた舌には、飾り気の無い、素朴な味が、魅力的に思えた。
 炎の鳥が、やがて、村中を回る。祝福を授ける様に、幻の火の粉が、降り注いだ。

●【謎のメッセージ】水林檎とは
 常夜村の、幸運の象徴である。
 とある水蛇の精霊が出現する際、希に見られた現象である。
 幸運の象徴とされるのは、出現する水蛇が、白蛇の為である。
 水林檎とは、林檎の形状をする理由は不明だが、高濃度の魔力を含ませ、半物質化した水の事である。
 常夜村の冒険者は、これを利用して、彼等を意図的に呼び出せないか、考えた。
 実行した結果、常夜村で高濃度の魔力を含ませた水は、何故か林檎の形になる事が判明した。
 理由は現在も不明の儘である。遺物か、ダンジョンの影響か、もしかすると、水蛇の精霊が、干渉しているのかもしれない。
 水林檎とは、そう言う物であり、特別であって、特別では無い。特産品にはならない。意味の薄い、只の、幸運の象徴である。
「ご協力に感謝致します。√能力者様、冒険者の皆様には、幸運の旅路が訪れるでしょう」
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第2章 集団戦 『いたずら雨のプリュイ・サーペント』


POW ぱしゃぱしゃ
【雨に紛れてかくれんぼ】の体勢を取る。移動力と戦闘力を3分の1にする事で、肉眼以外のあらゆる探知を無効にする。嗅覚・聴覚・カメラ・魔術等、あらゆる探知が通用しない。
SPD ぴちぴちちゃぷちゃぷ
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【いたずら雨のプリュイ・サーペント】を召喚する。[いたずら雨のプリュイ・サーペント]は自身の半分のレベルを持つ。
WIZ らんらんらん♪
あらかじめ、数日前から「【じめじめ低気圧】作戦」を実行しておく。それにより、何らかの因果関係により、視界内の敵1体の行動を一度だけ必ず失敗させる。
イラスト いぬひろ
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●歌と踊りと、送り火と
 即興楽団の演奏が終わると、残った者達が真似をして、舞踊と音楽を披露する。巧拙の差は有るが、野次は既知の仲からの、コミカルな物で、概ね受け入れられていた。
 個性豊かな形をした、精霊燈火が淡く彩っていく。
 久し振りだね。
 こっちの台詞。
 挨拶を交わす様に、精霊が揺り籠と一緒に夜空に浮遊する。空を灯す色彩と形が増え、空想と現実の境が少しずつ、曖昧になっていく。ここは御伽噺の中なのだろうか、はたまた、何時の間にか眠って、夢を見ているのだろうか。
 長く一緒に居る友人が、この様な形ではしゃぐのは、珍しい。
 今日契約した相棒が、精霊燈火の中ではしゃぐのは、微笑ましい。
 この祭の終わりは、人が去り、村の長閑な日常が戻るまで。
 感傷的な表現を除くなら、屋台の素材が尽きるまで。
 続いている。

●常夜村と祭の簡単な歴史
 と言うのが、昔から続いている、「持て成し」のお話。
 元は隣村への感謝を込めた振る舞いであり、名前もそのまま「持て成し」だった。
 今も、隣村の住民達は、冒険者や観光客が去った後に、常夜村を訪れる。
 常夜村は、ダンジョンが発生する以前から、職人の村だ。大工を始め、細工、鍛冶、工芸を生業とし、仕事の代価として、食料を受け取っていた。
 それは今も、変わらず続く営みだ。
 だから、村人は互助精神が強く、技術発展とアーティファクト・ラッシュによる高度経済成長、冒険王国の発足で世界が様変わりしてしまった今も、昔からの交流を大切にしている。

●常夜の洞窟「雨降る湖畔」
 冒険者と√能力者達は、精霊燈火を、常夜の洞窟の中で、楽しめる。
 特に、見張り役が気紛れに、水林檎を洞窟に捧げた年は、白蛇の精霊が姿を現し、洞窟の細道の先が、見える様になる。
 深緑の木々に囲まれた湖、蒼夜に、心地の良い雨が降る。
 可視化された魔力の雨は、水の涼感だけを伝え、実際に濡れることは無く、雨雲がかかる事も無い。
 滴は空を照らす星々の様に煌めいて、訪れた者を祝福する。
 白蛇、ブリュイ・サーペントは雨から姿を変えて、君達へと、遊んで欲しい、釜って欲しいと、子供のようにじゃれつくだろう。
 雨に濡れて木土は喜び、水風は雨と戯れる。良く探せば、炎は自身を害さない雨の感触に、心地良く目を閉じて眠っている。
 もし、他の精霊に会いたいと思ったら、願いながら、湖に飛び込もう。

●状況説明
 √能力者には多くの選択肢がある。
 以降、常夜の洞窟を進むと「雨降る湖畔」に出る様になる。
 湖畔では雨の精霊【いたずら雨のブリュイ・サーペント】が、√能力者達にじゃれついてくるただし、√能力者にその気が無ければ寄ってこないし、退屈を感じるとすぐに去る。
 必ず遊ぶ必要は無い。他にやりたい事が有るなら、無視しても構わない。

 また、√能力者達は、お守りで、何時でも村に戻ることが出来る。お守りは常夜の洞窟の入り口で変わらず配布されている。途切れることは無い。

 ただし外で出来る事は、屋台で提供されている料理と、景観を楽しむ、村人や冒険者と話をする、工房で精霊燈火を頼む、位だ。留意しておいて欲しい。
 加えて、景観を楽しむ、冒険者と話をするのは、ダンジョン内でも同じ事が出来る。
 勿論、表の祭を盛り上げたいなら、何かを企画したり、行動しても良い。
 村人も冒険者も、精霊も、楽しい事は歓迎してくれる。

 五大属性の力の小さい精霊は前述した「雨降る湖畔」に全て存在する。
 炎だけはあまり活発では無いので、良く探さないと見付からない。
 他の精霊や、力の強い精霊に会いたいなら、湖に飛び込むと、適した空間を訪れる事が出来る。五大属性の精霊については、一章に引き続き、マスターコメントで書いた景観の場所となる。

 自分だけが楽しむのも良いが、ブリュイ・サーペントとの交流は、他の冒険者達も注目する。√能力や技能で、色々な遊び方を考えて、皆が楽しめるように相手をしてみるのも、楽しいかも知れない。
 何方にも、それぞれの楽しみ方がある。
 好きな方で構わない。

 他にも思い付いた事があれば、やってみると良い。
 こ常夜村の精霊燈火は、少しの偶然が多く重なって出来上がったものだ。
 人為的な必然を重ねれば、村人はそうなったと受け入れて、祭が変わったり、新しい物が盛り込まれるだろう。。
 好きに過ごすと良い。
神代・京介
竜雅(h00514)と参加。

精霊探しか。ある意味それが一番大事だし、良いかもな。
竜雅において行かれないように俺も飛び込もう。
「月の精霊に出会いたい。」
彼女の願いが届きますようにと願いながら飛び込む。

無事にたどりついたら、歌い始めた竜雅の邪魔をしないように少し離れた所で精霊を探す。
月の精霊が居るならなにか夜に関した精霊もその辺にいるかな?
竜雅の歌に引き寄せられなかった、はぐれの精霊を見つけ一緒に行かないか?と声をかける。

はしゃぐ竜雅の姿を見て、可愛いなと思いながら、
「仲良くなれてよかったな」と笑いかける。
竜雅・兎羽

【京介さん(h03096)と一緒】
私、精霊さんを探しに行きたいです
湖に飛び込むのですか…ちょっと怖いですが、なんとかなるでしょう!
「月の精霊さんに会えますように」
願いながら飛び込みます

無事着いたら精霊を集めるために軽く歌を歌う
集まってきたら声をかける
「私、精霊燈火を灯してくださる精霊さんとお友達になりに来たんです」
どなたかお友達になって一緒に来てくださいませんか、と精霊に声をかける
護霊の竜兎も、声こそ出さないが傍で「一緒に来ない?楽しいよ」と態度で示してみている

お友達になれたら大成功
「あら、一緒に来てくださるんですか。ありがとうございます♪」
やりました♪と京介さんの方を向いてはしゃぐ
水藍・徨

なんだか、胸が擽ったい……
不思議な感覚になることが多いけど、今日も洞窟に行く
あれ、景色が違う……白蛇?まさか、襲って……!
……いや、襲って来ない。じゃれついてくる?
よく分からないけど、雨の精霊の相手をしてみよう。
【_ἐλπίς】で、白蛇用の滑り台を作ってみる。座って、自分の左手から登って右手に流れるように。右手の先は、雨降る湖畔に戻れるように

暫く遊んだら……やっぱり、時空の精霊ともう一回会いたくなって、湖に入ってみる
僕の自由帳の設定では、精霊と契約出来るのは、心が綺麗な人だけど。
現実は関係ないのかな?
人間災厄の僕でも、契約とか、出来るのだろうか?
もし出来たなら……精霊燈火を作りたい
マルル・ポポポワール

村では色んな人とお話しできて楽しかったです!
しかしここからが本番です
精霊さんと仲良くなって契約するため、私の水林檎、幸運を掴み取りに行きましょう!

お守り貰ったらいざ洞窟へ
村で作った歌を口ずさみながら、風の精霊さんを探しましょう
道中で蛇さんに会ったなら、一緒に歌いながら進みましょうと誘ってみて
蛇さんって歌えるんでしょうか?
歌えずとも、一緒にリズムに合わせて体を動かすだけでも楽しいですよ!

精霊がいるところに出れば、力の大小や姿に拘りはありません
誰かを笑顔にするのが好きな、そんな精霊さんはいませんか?
そしてそれを見て、一緒に笑顔になりましょう!

無重力の夜空まで辿り着いたなら、目を輝かせ飛び回ろう!
クラウス・イーザリー
雨降る湖畔に行って雨の精霊達と遊ぶ
じゃれついてくる精霊たちを撫でて、金烏で鳥の幻影を呼び出して追いかけっこをさせようか
無邪気な雨の精霊と、親友の面影を映した太陽の鳥が遊ぶ光景は何だか微笑ましくて心が癒される
(……可愛いな)
精霊と言われるともっと威厳のある存在を想像していたけど、それよりはもっと身近で可愛い子もいるんだなと実感する

遊んでいる途中で水の精霊を発見
ブリュイ・サーペントにちょっと似ている透き通った蛇で、すみっこから遠慮がちに顔を出している感じの子(※詳細お任せ)
指先で触れて戯れながら、一緒に来る?と聞いてみよう
作ってもらった精霊燈火と似た色の子と出会えたの、すごく嬉しいな
ネニュファール・カイエ
【青と水】クレハ(h06447)と

ブリュイと遊びたいから洞窟へ行く前に準備するわ。
シャボン玉!
シャボン液とバブルリング。大きいのをたくさん
作りたい。
おやつにすこーし砂糖を入れた中身無の水まんじゅう。
作るのはクレハよ。
あなたは花輪を持っていくのね。
え?輪投げ?…うん、まぁいいんじゃない。綺麗だし。

わたし達だけじゃないんで譲り合い。
ウィザードブルームに乗って、ブリュイの周りに
シャボン玉を振りまくわ。
追いかけて壊してもいい。眺めてもいい。楽しければね。
ブリュイがわたしを追いかけてくるなら全速力で
真剣勝負よ。
ブリュイにもおやつをおすそわけ。
食べられるかは分かんないけど。
自撮りは得意よ、任されたわ!
クレハ・エテルニテ
【青と水】ネーニュ(h05128)と
洞窟に入る前に村でお花を調達して花の輪を沢山作っていくわ
水まんじゅう? 綺麗な透明になるように頑張るわね

気持ちの良い雨ね
白蛇さんが出てきたらまずはご挨拶
触って良いか聞いて大丈夫なら優しく撫でるわ

これで遊ばない?と花輪を見せ
頭にかぶせるのではなくて……ちょっとそうしてて
と白蛇さんに合図しておいて、離れたところから花の輪を投げるわ
そう、輪投げ(にこ
上手にすぽっと首にかかるかしら
それとも抜けちゃう?

沢山花輪をかけられたなら、ネーニュと白蛇さんを挟んで写真撮影ね
撮るのはネーニュにお願い
花輪が抜けちゃうなら白蛇さんの頭の上で手で保持して、ポーズ
きっと良い思い出になるわ
風巻・ラクス
『カゼノトオリミチ』
「すみませんー! 楽しみで眠れなくて寝坊しちゃってー!」
急いでルーシィさんと一緒にお守りをもらって洞窟に進みましょう!

私が会いたい精霊は嵐に関する精霊、嵐と言えば水と風でしょうか。
嵐の精霊そのものよりも水と風から力を分けて頂ければと思います。

雨の精霊や集まってきた精霊達の願いを聞きながら遊びつつ、何か面白いことをと請われるなら、雷霆万鈞を何もないところに撃って花火みたいに弾けさせると悪戯好きの精霊さんたちも面白がったりしてくれるでしょうか?
その中で水や風の精霊に会えたら
「良かったら力を貸してもらえませんか? 一緒に護る力をこの手に……」
手を差し出し、お願いしてみましょう。
ルクレツィア・サーゲイト
【SPD】※アドリブ・連携歓迎
『カゼノトオリミチ』
「遅刻遅刻~!ほら急いでラクス!お祭りはもう始まってるわ!!」
…とはいえ、私も私で風光明媚な景色に見とれて思わずスケッチしちゃったりしたけどね。
せっかくなのでゆっくりとお祭りを楽しみたい所だけど、遅れを取り戻すべく村でお守りを貰って「常夜の洞窟」の奥へと進む。
私が会いたい「風の精霊」は「雨降る湖畔」で「雨と戯れてる」らしいし、必ずそこに居る筈。
雨の精霊と戯れつつ、ラクスと一緒に集まってきた精霊達と遊びながら風の精霊を見出す。
「貴方達が風の精霊ね、一目見て分かったわ。ねぇ、良かったら私と一緒に来ない?色んな世界へ、私と一緒に旅をしましょう!」
天深夜・慈雨
【雨宿り】
お祭りいっぱい楽しいね
絆も楽しそーで慈雨もにこにこ

ルーちゃんは水の精霊さんだもん
慈雨は雨の精霊さんともお友達になりたいよ
絆の竈の神様もお友達いたらうれしーかも
ねー、かくれんぼちゅーの火の子も探してみよー?

みてー絆。蛇さんだよ
ひんやりお水みたい
え?この子が雨の精霊さん?
……かわいい!

あなたに会いにはるばるきました!
みんなで一緒にあそびま、しょー?
追いかけっこもかくれんぼも得意です。まけないです!
あと絆がおやつ作ってくれたので
……林檎のクッキー、慈雨も食べたい!
精霊さん用?一枚くらい…
絆、どっちの味方?いじわる!

降ってる雨がおかしの飴になったらみんなハッピー?
ルーちゃん、おねがい聞いて?
雛埜原・絆
【雨宿り】
出張版「ひなの」も大盛況
お客の新規開拓もできたし、来てよかったかな

それで…雨の精霊、だっけ
慈雨、もうそんな感じの連れてなかった?
まあいいけど

事前に頼んでおいた精霊燈火(竈の神様用、デザインお任せ)を手に進む

お供えもの、っていうか
実は林檎の形のクッキー焼いてきたんだよね
…ほら、水林檎がどうのって言ってたでしょ

慈雨とか皆は遊ぶのも上手いだろうけど
僕と遊んだって楽しくないだろうし
僕にできることはこれくらいかな
まあ、精霊ってだけあって心読みにくいから
好みわかんないけど

…なんであんたが食べようとしてるの?
どっちの味方って
そーいう問題じゃないでしょ

√能力使い
…ねえ、この喧嘩どーにかしてくれない?
ゼズベット・ジスクリエ
確かに雨が降ってるのは分かるのに、
服も羽も全然濡れてないや
すっごい不思議。初めての感覚かも
―君等はそう珍しくもないカンジ?
奥に居る雨の、白蛇の精霊だっけ
話じゃイタズラ好きっぽいけど、どんな子達なんだろうね
仲良くなった瑠璃色鳥と水晶鳥と喋りつつ
ゆったり散策しながら洞窟の先へ

なんだか賑やかな音がするけど、
お先にそれぞれ楽しんでるっぽいね
真打ちは遅れて登場?ってワケじゃないけどさ
遊ぶんなら僕達も混ぜて!
先に来てる人達に合わせつつ愉快に楽しく遊んじゃお

雨に濡れても羽はこんなにも軽くて自由だ
天候気にせず飛んで歌えるって最高じゃない?
僕らは飛べるけど君達はどう?
雨だから陸も空も関係ないか!敵わないね!

●【青と水】一度、借り受けている家に戻りました。
「クレハ! ブリュイと遊びたいから準備しましょ。水饅頭を持って行きたいわ」
「それじゃあ、綺麗になるように、頑張るわね」
 改めて願い事をして頬を赤く染めたネニュファール・カイエ(人間(√ドラゴンファンタジー)の未草の精霊銃士・h05128)はクレハ・エテルニテ(地に墜ちた祈り・h06447)ののんびりとした笑顔と、快い返事に、すぐに強気な態度を取り戻した。
「ありがと、後でちゃんと御礼はするわ! お婆ちゃんにも、今度、何か持ってきて上げましょう」
「それは良いわね。何にしようかしら?」
 クレハはネニュファールがきっかりと書き込み、分けている分量に従い、材料を混ぜ合わせ、中火にかけ、数分、混ぜながら煮込む。火が通り、材料が水に馴染んでいくと、見る見る間に半透明になり、クレハは魔力駆動式コンロの調整して火を弱め、更に数分、練り込んでいく。程良い粘り強さになった所で、火から下ろす。
 匙で掬い。
「クレハ」
 半円状に紐を等間隔に結びつける作業を行っていたネニュファールに、先を読まれたので、クレハは軽く目を閉じて、自身の作業を続けていく。用意されていた笹の葉の上に並べ、繊維が破れないよう、優しく絞り、丸めていく。
「後は、冷たいお水に浸すだけね」
「それじゃ、川縁まで行きましょ!」
 何処となく燥いでいる様子のネニュファールに、クレハは穏やかに微笑み返して、のんびりと連れ立って歩く。
 まだ賑わう村から少し離れた、山道近くの小川で水を汲む。
 ネニュファールはクレハから距離を取って、バケツ一杯の水に洗濯糊と洗剤を混ぜて、シャボン液を作る。泡立って漂うシャボン玉が、森中の夜空で、弾けて、消える。
 試しにと、二本の枝に固定した紐をシャボン液に浸し、大きく広げてみる。
 大きな夢色が無数に広がって、気儘に夜空を揺蕩い、星月に夢を届かせる。
 ネニュファールは満足げに首肯して、クレハの居た方を向く。

●【青と水】花遊び
 世界を気儘に泳ぐ小さなインビジブルが、同じ方向に泳いでいくのを見て、興味を持ったクレハは、水饅頭を浸した容器を持って、後を追う。
 風が心地良い音を耳に届けて、花弁を空に運ぶ。小さく開けた花畑に、透明魚が月花の地平線を泳ぎ、戯れる。
「丁度良かったわ」
「少し目を離すとこれなんだから……花輪を持って行くのね?」
 同じくインビジブルの後を追って来たネニュファールは呆れたが、クレハの意図を何となく察して、適当な所に座る。
「ちょっと待たせると思うけれど、此処なら、ゆっくり出来そうね」
「そう、ね」
 インビジブル達が集まって花畑を泳ぐ様を、ネニュファールはのんびりと新緑に収めた。クレハは手頃な花を摘み、茎を手慣れた様子で一つ一つ、編み上げる。編み上がる度に、袋にそっと詰めていく。
「はい。ネーニュには首飾りね」
「そんなのに燥ぐほど、子供じゃないわ……」
「とっても似合っているわ」
 ネニュファールは結局、首に掛けられるのを、諦めて受け入れた。
 何とも言えない、優しい香りが、鼻孔を擽っていた。

●風が吹き通る【カゼノトオリミチ】
 世界の果てを描きたいと、衝動に駆られたのが何時だったかは、もう覚えていない。家出娘は風の様に、茶色の馬尻尾を靡かせて、世界を渡り歩く。
 人里離れた山村、自然と調和した人の営み。風光明媚な場所を訪れて、ルクレツィア・サーゲイト(世界の果てを描く風の継承者・h01132)は思わず、スケッチブックに筆を走らせた。走らせていた。走らせ続けた。
 何時の間にか夜の帳が落ちていた。
 空腹を感じて、お気に入りのジャーキーに手を伸ばして、漸く気付く。
「やらかしたわ、遅刻遅刻! ラクス、ラクス? もう来てるよね!?」
「ルーシィさん、済みませんー! 楽しみで眠れなくて、寝坊しちゃって!」
 風巻・ラクス(人間(√マスクド・ヒーロー)の重甲着装者・h00801)は、仲の良いルクレツィアからの突然の誘いと、まだ見ぬ精霊との出会いと契約の未来に心を躍らせて、或いは、それに合わせて疲労が出たのか、夜に眠れず、日中に熟睡してしまった。
 時計を確認するや否や、慌てて支度を済ませ、現地で合流した……不幸中の幸いは、ルクレツィアもスケッチに夢中で、時間を忘れていた事だった。
「ラクス、時間を忘れていた私が言えることじゃないけど、急ぎましょ。お祭りはもう始まっているわ!」
「はいー、ルーシィさん!」
「この景色も、スケッチしておきたかったわね」
「次の機会にしましょうー。此処で無くとも、誘って頂けると、私も嬉しいですしー、ね?」
「そうね、そうするわ。ありがとう、ラクス!」

●重ねて迷う
「村では色んな人とお話し出来て、楽しかったですね! しかし」
 何となく、マルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)はここ数日の出来事を思い出して、笑顔を浮かべた。
「ここからが本番です。精霊さんと仲良くなって、私の水林檎、幸運を掴み取りに行きましょう!」
 元気良く片手を振り上げる。憧れる未来は二つある。何方かしか選べないけれど、まだ何方になろうか、決めきれない。ふと、森中に浮かんだ大量のシャボン玉が、ふらふらと空を目指すのに、見入ってしまった。
「綺麗ですね!」
 自分と重ねてしまった事を、そんな風に誤魔化して。
 今日の一歩は幸運を掴み取る為だと、もう一度奮起する。

●お弁当屋さんだからこうなった。大丈夫、大丈夫?【雨宿り】
「お兄さん、頼まれていた物が出来上がったよ」
 お釜型の竹ひご細工の中に、幾何学模様が施された和紙が角形で張られている。取っ手付きの、固定されているお釜の蓋部分を開けると、底部に魔法陣が細工された極薄の黒鉄が、畳の様に敷かれていた。
「気持ち良く過ごせるように、馴染み深そうな空間と素材を意識してみたよ、どうかね?」
 魔法陣は熱炎交換機能を持っており、ランタンの内部で吸収と返却が循環する。中に居る側からすると、適度に力が抜けて気持ちが良い様になっていると、職人の老人は語った。
「有難う御座います。どう?」
 ユニークな形のランタンを受け取って、掌くらいの火の玉、竈の男性神に、雛埜原・絆(賜物ゆえに愁ふ雛・h07098)は伺ってみる。
 お釜みたいな形をしている、と興味を持って、火の玉が中に入る。和紙に刻まれた幾何学模様は、内側から外が見える様にする術式も含まれており、気分の良さを現す様に、燈火が宿る。
「また、不足や故障があったら来ておくれ、お弁当、美味しかったからね。ちゃんと面倒を見させて貰うよ、有難う」
「……今後ともご贔屓に。いや、こっちが贔屓にさせて貰う側……です。助かります」

●歓談【雨宿り】
「お祭り、いっぱい楽しいね」
「お客の新規開拓も出来たし、来て良かったかな」
 機嫌の良い笑顔を浮かべた天深夜・慈雨(降り紡ぐ・h07194)が、矢張り、差し出した手を取って、夜を竹細工の精霊燈火で映し出し、洞窟の方に足を向ける。
「こんばんは!」
 慈雨の元気な挨拶に応えて、燈火が明滅する。
「それで……雨の精霊、だっけ。慈雨、もうそんな感じの連れてなかった?」
「ルーちゃんは水の精霊さんだもん。慈雨は雨の精霊さんともお友達になりたいよ」
 顔を出しているルーちゃんこと、ルサールカに不満は見えなかった。纏めて面倒を見るつもりだと、胸を叩いた。
「まあいいけど」
「あ、絆の竈の神様も、お友達いたら、うれしーかも」
 暫し黙考する。彼は良いかも知れないが、此方が参りそうだと言う結論になった。
「余程寂しそうなら、考えるかな。今のところ、そんな素振りはないけど」

●紫陽花とお手伝いさん
「あ、慈雨さんと絆さんです! それ、作って貰ったんですか! とっても可愛いです」
「マルルさん! 一緒にいこー!」
「どーも、あれから無理してない?」
「お陰様で! それじゃあ、一緒に行きましょう」
 洞窟の近くで、軽く手を上げた絆が持った、竹細工の精霊燈火、宿る炎を見て、マルルは目を輝かせ、すっかり仲良くなった慈雨が駆け寄る。
「あ!」

●こん、こん、こん
(何だか、心が擽ったい)
 水藍・徨(夢現の境界・h01327)は無い筈の心の静かな躍動を、不思議な感覚だと捉えて、早足に今日も、洞窟へと向かっていた。
 頭一つくらい小さい、笑顔の眩しい元気な女の子が、三つ編みを揺らして此方に手を振っているのが視界に入る。
「マルル?」
 大袈裟に手を振る彼女の姿に、自然と頬が緩む。
 無自覚な仕草に、彼は気付かない。微睡みの夢への訪問者が、欠落を呼び起こす、ノックの音を刻んでいく。

●洞窟で合流【ゼズベット/マルル/徨/クラウス/雨宿り】
「皆様、今年はとてもお世話になっております。心より感謝致します。」
 丁寧に頭を下げて、見張り役はマルルにお守りを渡す。慈雨、絆、マルル、徨の四人は連れ立って、常夜の洞窟に入る。マルルが歌い始めると、慈雨も気に入っている様で、二人の二重唱が、雨降る蒼夜の洞窟に響く。
「雨が降ってるのは分かるのに、福も羽も濡れてないや。すっごい不思議」
 初めての感覚かも、と長身の鳥人、ゼズベット・ジスクリエ(ワタリドリ・h00742)が
洞窟内で、彼の後を付いていく二羽に語り掛けていた。
「……君等はそう珍しくも無いカンジ? 皆にも聞いてみたいけどさ」
 ゼズベットはすぐに気付いて、振り向いて、片手を上げた。応える様にマルルが手を振って、珍しげに二羽を見る。
「洞窟にも、影響が出てるんですね! 不思議な感じです」
「慈雨もー。ゼズベットさんとおんなじ! 珍しー!」
 慈雨が燥ぐのとは対照的に、絆は静かに首肯した。
「それもですが、ゼズベットさん! その子達は!」
「鳥仲間で音楽友達! 皆の歌聞いてちょっとそわそわしてる!」
 言った通り、穏やかな拍子に合わせて、狭い通路内で、瑠璃色鳥も水晶鳥も、長い尾羽を揺らしている。
「賑やかになってきたな。こうして揃うと、大所帯だ」
「クラウスさんだ!」
「今晩は、慈雨。皆も」
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、癖なのか、足音を立てずに、合流し、慈雨の笑顔に釣られて、穏やかに微笑む。
「奥に居る雨の、白蛇の精霊だっけ。話じゃイタズラ好きっぽいけど、どんな子達なんだろうね」
 二鳥はゼズベットの話を聞いて、顔を見合わせる。そうして、人にどう表現しようか迷って、首を傾げて、楽しそうな鳴き声を奏でた。
 一行は白蛇について、幾つかの意見を交わしながら、のんびりと、然し賑やかに、蒼夜の洞窟を散策する。

●常夜の洞窟【カゼノトオリミチ】
「洞窟の前でお守りを配ってるなんて、思わなかったわ……」
「何だか、入場チケットみたいですねー」
「その通りでして。村中のみで配っていると、その、お祭りのテンション等で、ついうっかり、受け取り忘れたり、持ってくるのを忘れたりで、危うく失踪しかける方が、急増したので……此方でも配る様になりました」
 ルクレツィアとラクスの言葉に、見張り役の二人はどこか遠い目をした。捜索はダンジョンである以上、冒険者以外には無理だ。捜索に駆り出される事が多かったのだろう。
「怖い話ね」
「夏場なのでー、丁度良いと言うべきでしょうか?」
「これが本当にあった√ドラゴンファンタジーの怖い話……って! 怖さの方向性が違いすぎるわ、ラクス」
「アンデッドに襲われる話よりはウケそうですー!」
「それでは、幸運の旅路を、お楽しみ下さい」
「ありがとう! 私も、貴方達の幸運を願っているわ」
「不幸なんて、無い方が良いですからねー、そんなのは」
 自分だけで十分だ、とラクスは胸中で呟いた。
 蒼に満たされた洞窟に、雨が降る。洞窟の中という事もあって、涼感だけを齎す魔力の雨は、心地の良い物だった。
「んー涼しいわ! ね」
「はいー!」
 ルクレツィアがラクスに向けて片目を瞑ると、ラクスは微笑んだ。
 すぐに、視界が開けていく。

●羽衣【竜雅・兎羽】
 とぷん。
 祈りが届くように
 水紋が拡がる
 桃色の竜人は、目を閉じて、浮遊感に身を任せる。
 どうか、月の精霊さんに、会えますように
 溺れる、と言う感覚では無かった。
 無数の願いに、身を浸す様な感覚だった。
 慈愛に満ちている、優しさに満ちている
 自分を抱いて、もし、水底に辿り着けたなら。
 水泡が浮かぶ。
 竜雅・兎羽(歌うたいの桃色兎・h00514)は何時の間にか、月の光に照らされていた。

●白龍【神代・京介】
 音無く白髪の鴉が沈む。
 水紋が広がる。
 目を閉じて飛び込むほど、男は夢想に浸る主義では無かった。
 染み込むものが傷を儚く癒やす。
 人にとって大事な物は、山ほど有る。
 自分にとって大事な物は、忘れてきた。
 忘れた振りをしたかった。
 目的意識はとうの昔に錆び付いて。
 草臥れた身体を動かす為の、燃料と言えば。
 彼女の願いが、届きますように
 揺り籠に揺られているようで、やけに瞼が重くなっていく。
 神代・京介(くたびれた兵士・h03096)は、星の光に照らされていた。

●駿河舞【竜雅・兎羽】
 願いの空に身を浸して
 はじめてのおと
 ひろがって
 おとなしの みずのよる
 こえもない しじま
 つきのそら
 あなたとおどる
 あなたがおどる
 星のステップ
 風のリズム
 夜のカーテン
 さあ どうか 手を取って 
 ねがいごとは
 あなたとおどる
 あなたも おどろう
 
 喉を震わせて、月光の下で、しなやかに手指を伸ばす。かと思えば、素早く引いて、形の良い唇に指先を押し当てる。足踏み手振り、身体に馴染ませた静と動を拍子に乗せて、兎羽は夜空に願いを届かせる。
 大人しい月の精霊達が、興味を持って彼女を覗く。
「私と、お友達になって下さいませんか」
 微笑みかけて、手を伸ばす。
 精霊の竜兎がくるくると彼女の周囲を彩って、楽しそうに笑う。
 月に身を乗せ、仮面を背負った、尖り耳の人型。半透明の月精が、おずおずと手を伸ばす。友誼を結び、くるくると、惑星の自転の様に、三つの影が嬉しそうに舞う。
 
●人口星物の願いと、夜イタチ【神代・京介】
 八面体の中に収納されている粒子兵器が、主を見ていた。
 命令が無ければ開かないから、何故か出て来て、京介を照らす。
「探すまでも無いって事か」
 意思を持って京介の周囲を飛び回る。蒼鋼閃槍は、何処か燥いでいる様だった。
 そして、首を振る代わりに、肩上で左右に揺れて、彼を導くように、星の光の下を案内する。深緑の繁茂、光が一切届かない暗闇で、小さな夜色のイタチが、一人で静かに寝息を立てている。京介が足音を立てずに歩み寄って、喉を撫でると、夢見心地の儘、気分良く鼻を鳴らし、ふと、違和感に目を覚まし、京介と目を合わせた。
「一人なら、一緒に行かないか?」
 問い掛けに数度目をぱちくり、もう一度京介をじっと見て、肩に身を預けて、安心しきった顔で寝息を立てた。
「随分のんびり屋だな。比べるとお前は、元気が有り余ってる」
 星だからね、と言いたげにレイン兵器が煌めき、蒼鋼閃槍は八面体の中に戻る。

●夜空を結ぶ【神代・京介/竜雅・兎羽】
「京介さん! 見て下さい!」
 やりましたと言うように、兎羽ははしゃいで、月精を指差した。月精は竜兎と一緒に、遊星の様に、兎羽の周囲を回って遊んでいる。
「仲良くなれて良かったな」
「あら、その子は」
「他にも少し予想外な事が起きた」
 京介は笑いかけた後、珍しく困り顔になる。
「気になりますけど、一度戻りましょうか」
「……そうだな」
 癖で煙草を取り出しそうになり、ポケットで手を止める。
 兎羽はその様子を見て、思わず破顔した。

●氷の螺旋滑り台【徨/ゼズベット】
「あれ、景色が違う?」
 正確には、洞窟の先の景色が、続いていた。蒼夜と、林に囲まれた長閑な湖、その中心に水林檎が浮かぶ。魔力の雨は少しだけ勢いを増し、流星雨の様だ。
 周囲を見渡せば、適当な場所に腰を下ろして、冒険者達がのんびりと湖畔の風景を楽しんでいる。
 一筋、徨の腕に降り注いだ雨がその身を白蛇の姿に変えて、好奇心旺盛な瞳で、遊んでと強請る様に、ちろりと舌を出す。
「うん。それじゃあ、こんなのはどう? 希望の名を持つ国がある。その国には、こんな遊び方がが伝わっている」
 腕が氷に覆われる。左腕を上向けて、右手を傾け、湖畔に向ける。視線で合図すると、白蛇が氷の滑り台を楽しそうに滑っていく。
「それ、もっと大きくして、螺旋状にしちゃわない?」
 ゼズベットの提案に、徨は頷いた。
「うん、いいよ」
 徨は希望の国のとある施設の話を語る。氷の巨大な螺旋滑り台が、水林檎を取り巻くように、湖畔に出現し、白蛇達が戯れる。

●太陽鳥との追いかけっこ【クラウス】
 クラウスは変化してじゃれついてくる白蛇達の頭を撫でる。つぶらな瞳は、感情表現豊かで、撫でると気持ち良さそうに目を細める。
「ええと、太陽の眷属、大いなる光を纏う汝よ、我が元に来たれ」
 こうだったか、と魔導書を確認する。誰かが練習中の拙い詠唱を聴いて笑っている様な気がした。無事に現れた太陽鳥が、滑り台が終わった白蛇たちを追いかける。
「遊んでおいで」
 楽しそうと興味を持った白蛇達を送り出して、可愛らしいと破顔する。
「精霊と言われると、もっと威厳のある存在を想像していたけど、身近な子も居るんだな」

●何やかんや、てんやわんや、祭り囃子
「賑やかになってきたね! 皆楽しそう! マルル、一緒に歌わない?」
「ゼズベットさん! 負けませんよ!」
 不思議な心地の雨に、我慢が利かなくなったゼズベットは二鳥と共に空を舞う。
「雨に濡れてもこんなに羽が軽くて自由だ! 天候気にせず飛んで歌えるって最高じゃ無い?」
「とっても心地よさそうです!」

 今日の天気は雨だね
 ここの天気が雨なのかな
 残念かい? そうじゃない
 何故なんだい?
 幸運が君に降り注ぐからさ
 そんな フェアリー・テイル
 御伽噺に縋ってる?
 それじゃあ君が持っている物はなあに?
 希望と 夢と 現実を
 水に混ぜたら 魔法の林檎が出来るのさ
 ほら 彼等が 君を 待っている

 軽やかで力強い歌声と、伸びやかで明るい歌声が湖畔に響く。
「蛇さんは歌えるんでしょうか! 皆様も是非ご一緒に! 身体を動かすだけでも、楽しいですよー!」
 蒼夜を舞う鳥人と二羽の精霊鳥が歌に合わせて翼をはためかせ、息を合わせてポーズを取る。時に笑うように、時に疑問符を付けるように、鳴き声で合いの手を入れる。
 歌詞は歌い出るままの即興歌だが、この場ではそれが丁度良かった。氷の滑り台を楽しむ白蛇達と、ゼズベットとマルルのパフォーマンスに続いて、即興の歌詞を、その場に居る冒険者達が思い思いに重ねていく。
「戻ってみたらとても楽しい事になっていますね。私も混ざりたいです!」
「俺はこうなると聞く専門だ。でも、竜雅が楽しそうで良かった」
 戻ってきた兎羽が、月精と竜兎を引き連れて、喉を震わせて、舞い踊る。それを見て、京介は寛いだ。
「丁度良い所に来たわね!」
「折角の良い雰囲気ですしー、もっと盛り上げていきましょう」
 ルクレツィアとラクス。同時に空に伸ばされた二丁の精霊銃が、空に向かって放たれる。雷精と、ルクレツィアに興味を持って、力を貸した精霊達が小気味良い炸裂音と共に弾けて、蒼夜に次々と極彩色の花が咲く。
「少し遅れたわ! ってもう出来上がってるじゃない! 行くわよ!」
 花の首飾りを身に付けたネニュファールがウィザードブルームに跨がって、精霊銃の花火に負けじと夜空に、大きな七色のシャボン玉を送り出す。送り出されたシャボン玉を追跡したり、不思議がって突いて、ぱちんと弾けるのを楽しんだり、シャボン玉を作るネニュファール自身を追いかけたりと、白蛇の反応は様々だ。
「手は抜かないわ。真剣勝負よ!」
 そう言う新緑の瞳は、遊びに夢中になっている幼子そのものだ。
「上手に首に掛かるかしら?」
 滑り台が終わった所で、ネニュファールか、太陽鳥かの追いかけっこに興じようとする所に、クレハは水をやるような仕草で、作った花冠を投げ入れる。
 ちゃんと掛かったり、すっぽ抜けたり、すっぽ抜けると、白蛇が何だろうと花冠を探して可愛らしく首を振る、見付けて、気に入った子は銜えてクレハの方へ御礼を言いたげに、寄ってくる。
「気に入ってくれたのね」
 持ってきてくれた花輪を頭に被せて、水饅頭を一つ、白蛇の口に運ぶ。不思議そうに口に入れて、咀嚼する。伝わって来る仄かな甘味とつるりとした食感を気に入って、小さな瞳を輝かせた。
「ネーニュ、お願い」
「自撮りは得意よ、任されたわ」
 二人と一匹が並んでポーズを取る。シャッター音と共に、画面に思い出が表示された。
「楽しいわ」
「来て、良かったわね」

●雨宿り?
「こっちも凄いねー」
 鼻歌を歌いながら風と土の精霊を見付けて、追いかけっこに興じる。大人しい水とは歌を歌って、握手をする。流石に手が塞がると満足に遊べないだろうと、絆は慈雨の後を静かに付いていく。
「ねー、かくれんぼちゅーの火の子も探してみよー?」
「こんな場所にも居るみたいだけど、火は、どの辺りかな」
「雨にあたりたくないんだよね?」
 林の中に踏み入って、小さな洞穴を見付けると、火精がすやすやと寝息を立てていた。
「かくれんぼはとくいです!」
「自慢すると信じてくれなくなるからね」
 胸を張る慈雨に、絆は感心して拍手を送る。
 林を潜って降り注いだ、好奇心旺盛な白蛇が顔を出す。
「あ、みてー絆、蛇さんだよ。雨の精霊さん! 本当にかわいい!」
 楽しみにしていた白蛇と会えて、慈雨は思わず抱擁した。
「あなたに会いにはるばるきました! あそびま、しょー?」
「そう言えば、お供えもの、っていうか。林檎の形のクッキー焼いてきたんだよね。ほら、水林檎がどうのって言ってたでしょ?」
 袋に入れている林檎型のクッキーを一枚出して見せてみる。
「と言うわけで、絆がおやつも作ってくれたので」
「僕と遊んでも楽しくないだろうし、僕に出来る事はこれくらいかなって……まあ、精霊ってだけで心読みにくいから、好みわかんないけど。慈雨?」
 林檎型のクッキーに釘付けになっている、慈雨の腹の虫が、盛大に鳴る。
「慈雨も食べたい!」
「なんであんたが食べようとしてんの?」
「一枚くらい……」
「お供えものみたいな物って言ったでしょ」
「絆、どっちの味方?」
「どっちの味方って、そーいう問題じゃ無いでしょ」
「……いじわる!」
(そういう割には、雨の精霊を遠ざけたりはしないし……)
 白蛇と一緒に走り去っていく慈雨を見つめながら、絆は溜息を吐く。
(誰か、この喧嘩、どーにかしてくれない?)
 半分は、願望だった。

●クレハのお裾分け
 心中で長身の彼に子供らしい悪態を吐いて、その後に何度もごめんを呟く。でも、顔を合わせるのは難しかった。
 お腹が空いてしょうがない。食べ物を前にすると、無性に抑えが利かなくて、何時も以上に我が儘を言う。こういうときの自分が嫌になる。
「降ってる雨がおかしの飴になったら、みんなハッピー?」
 ルサールカはその疑問に、珍しく首を振った。雨は白蛇その物だ。性質を変えると、望んだ相手が居なくなる。ゆっくり、出来るだけ分かりやすく、念話で諭した。
「……ルーちゃんも?」
 抑えが利かない心が見えて、ルサールカは慈雨の頭を撫でて、抱き締める。
「ごめん、ごめんなさい。ルーちゃんにも、絆にも、ひどい事、いっちゃった」
「あら、お腹が空いているの?」
「おねえさん、だあれ?」
「クレハと言うわ。お腹が空いていると、思っても無い事、言ってしまう事、あるわよね。三つ、お裾分け」
「……いいの?」
「一つはお友達の分ね。独り占めせずに、ちゃんと、仲直りするのよ」
 薄紫色の頭を撫でて、嗚咽を漏らす慈雨を、クレハは泣き止むまで、寄り添った。

●雨降って【雨宿り】
「絆」
 馴染んだ声を掛けられて、絆は一先ず押し黙った。
「さっきは、ごめんなさい。その、これ、一緒にたべよ?」
「強請ってないよね」
「うん。あの、絆。ごめんなさい。ごめん、慈雨……」
「後で同じの、って言うか御飯も一緒に作って上げるから、今は我慢しなさい。今持ってるのはその子達用、これで良い?」
「……うん!」
 水饅頭をルサールカと、絆の三人で頬張る。付いてきていた白蛇は、絆が差し出した林檎型クッキーを美味しそうに頬張った。、
「……レシピ通りだけど、作りが丁寧だね。作り慣れてる」
「絆、あいかわらず凄いね?」
「終わったらあっちで確り遊んできなさい。その子、結構な時間退屈してたと思うから」
 慈雨は何時も通り、元気の良い笑顔を浮かべて、賑やかな方へ駈けていき、絆はのんびりとその後を追う。

●契約【水藍・徨】
 喧噪を暫く楽しんで、徨は湖に願う。もう一度、時空の精霊に会いたいと。
 男にしては華奢な身体が、湖に吸い込まれていく様だった。
 息は続いている。水泡が見える。
 誰かの優しさと、沢山の願いが身体を包んでいる。
 そんな錯覚を覚えた。
 沈んでいく。自分が溶けていく様な錯覚も、覚えた。
 瞳に琥珀色の空間と、びっしりと敷き詰められた蒼色の文字盤。小さな精霊達が忙しなく、針を進めたり戻したり、並んだ文字盤の中央それぞれに、様々な姿をした大きな
精霊が、小さな精霊に細やかに指示を出している。文字盤を良く見れば、透けて、世界や文明が映し出される。
 あの時と同じ光景と、矢張り重力を感じない状況、見覚えのある人間に、精霊が一人手を振って近付いて来る。袖を引っ張って、自由帳の中身を催促する。あの時より増えたのかどうかが、気になる様だ。
「僕の自由帳の設定では、精霊と契約できるのは、心が綺麗な人だけど。現実は、関係無いのかな? どう?」
 不安がっている事項に、黄金色の精霊は首を傾げて、それから腕を組んで、目を閉じる。そして、文字盤型の魔法陣を描き、触れるように指示する。
「触れば、良いの?」
 指示通りに、作り出された魔法陣に触れる。
 知性体の定義すら、最早曖昧となっている。
 時空の管理に意味はあるのだろうか。
 そもそも、この時空で管理している時空は何処の何なのか、大精霊すら分からない。それでも、何処かの時間、何かの時間が規則正しくあるよう、守っている。
 それはもしかしたら、誰かが作り出した世界かも知れない。
 大精霊達はそれでも、此処で秩序を守ることを選んだ。
「え?」
 時空の精霊は、徨の肩を叩いて、二度首肯した。
「うん、ううん……気にするなって事かな。じゃあ、君、僕と一緒に行かない?」
 時空の精霊は、嬉しそうに肩に乗った。
「ありがとう」

●精霊契約【カゼノトオリミチ】
 沢山の喧噪に、精霊達も上機嫌にはしゃいで回る。特に風は上機嫌で、他の精霊に干渉せず、奏でられる音楽に、気儘に身を揺らして躍っている。
「貴方達が風の精霊ね、一目見て分かったわ。ねぇ、良かったら私と一緒に来ない?色んな世界へ、私と一緒に旅をしましょう!」
 ルクレツィアの思い切りの良い提案に、気配が一つ。上機嫌に寄って来る。肩上に掌サイズの風色のシャチが寄ってきて、世界へと思いを馳せる。
「あ、ルーシィさん抜け駆けですー! なんて」
 特に仲の良い風と水を見付けて、ラクスは手を差し伸べる。
「良かったら力を貸してもらえませんか?」
 突然の申し出に、風と水が顔を見合わせ、ラクスの目を覗き込む。すぐに、二振りの色違いの刃に姿を変えて、彼女の手中に収まっていた。
「色々、見られました?」
 刃に目を向けると、肯定の気配が感じ取れた。意思疎通は寧ろスムーズになっている。一緒に助けよう、護ろうと、確りと意思がラクスへと流れ込んでくる。

●精霊契約【マルル】
「誰かを笑顔にするのが好きな、そんな精霊さんはいませんか?」
 マルルも二人が呼び止めた風の一団に呼び掛ける。掌サイズの狐がマルルの身体を浮かせていく。喜ぶマルルを見て、嬉しそうに尻尾を振って、マルルは満面の笑みを見せた。
「一緒に笑顔を増やしましょう」
 マルルは目を輝かせて、小さな風狐と一緒に蒼夜を飛び回る。

●精霊契約【クラウス】
「居る、んだ」
 喧噪を穏やかに楽しんでいたクラウスは、透き通った蒼、控え目な蛇の水精を見付けて、手を差し伸べる。
 驚いた様子の子に、指先で、優しく触れる。緊張が解れた所で、指を追わせてみたり、やりたいことを引き出してみる。
「一緒に来る?」
 問い掛けに嬉しそうに頷いて、クラウスの涙形の精霊燈火に身を修めた。
(居るとは思ってなかったから、懐いてくれて、凄く、嬉しい)
 クラウスは幸運を噛み締めるように目を閉じて、赤らむ頬ごと隠そうと、口元を手で覆った。

●合流【水と青】
 ネニュファールは所々で起きる精霊との契約に、密かに心を躍らせていた。
「お待たせ、ネーニュ」
「今年は、とっても、楽しいわ。クレハ」
「良かったわね、私もとっても、楽しいわ。誘ってくれて有難う、ネーニュ」
 祭は、まだまだ終わりそうに無い。

●精霊燈火【徨】
「時計型が良いか、それとも別の形が良いのか」
 珍しく職人は悩んでいた。時空間の形とは、どの様なモノだろうか、と。
 手掛かりは琥珀色の空間と蒼の文字盤。
「もう少し、彼から話か、希望を聞きたいねえ」
 琥珀色の菱面体を仕上げながら、職人は口ひげを撫でた。
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第3章 ボス戦 『白月の幻主』


POW |願《ねがい》結びの幻花
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【音もなく灯る夢映しの花弁】を召喚する。[音もなく灯る夢映しの花弁]は自身の半分のレベルを持つ。
SPD 白き|月階《つきはし》
先陣を切る(シナリオで、まだ誰のリプレイも出ていない章に参加する)場合、【夢と現のはざまを描く月光の道標】と共に登場し、全ての能力値と技能レベルが3倍になる。
WIZ 静月の奇跡
【天蓋より舞い降りた月の欠片たち】が顕現し、「半径レベルm内の困難を解決する為に必要で、誰も傷つける事のない願い」をひとつ叶えて去る。
イラスト すずや
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●1945年【夏】
 どうか、あなたの願い事が、何時か、見付かりますように。
 どうか、それまで、たくさんの、優しい願いだけを叶えて。
 願いの湖には、あなたの叶えたものが残るから。

●大成功
 大きな氷の滑り台、精霊達の、極彩色の花火とシャボン玉が、歌と踊りを彩って、花輪を被った白砂達が、太陽鳥と箒に乗った魔女の追いかけっこを繰り広げる。
 可愛らしい、楽しい、混ざりたい、歌いたい、踊りたい。
 冒険者達は歓声を上げて、白蛇を始めとした精霊達と交流する。
 騒がしいのに疲れたら林中で一休み。
 ……ちょっとした、すれ違いもあったかも知れない。

●白月の幻主(常夜の洞窟)
 ブリュイ・サーペントが。√能力者達の袖を引く。
 おいでおいでと、湖に足場を作り、中央に浮かぶ水林檎に案内する。
 √能力者が触れると、旧型のエレベーターが留まる時の、奇妙な浮遊感が襲い、気付けば、静かな湖の上に、立っていた。
 満月が、浮かんでいる。
 静かに月光を湛えて。
 蒼い夜に、浮かんでいる。
 水面に月光が反射して、時折跳ねる滴が煌めく。
 まるで、夜空に誂えられた揺り籠で眠っている様だった。
 その身を映す水面に、ゆらゆらと幻の影が映る。
 願われて、在る。
 願いによって 在る。
 始めて此処を踏破した人間は、無機質な有り様を理解して、願った。
 幻影はまだ、揺らめいて、蒼空を照らす。

●状況説明
 ブリュイ・サーペントは時折、気に入った相手を、白月の幻主が見える時空に案内してくれる。白月の幻主は、優しい願いなら、何でも叶えてくれる。

 √能力者は何を願っても良い。
 叶う願いは一つ。
 √能力者の優しい願いを全て叶えたら、白月の幻主は消える。

 会話は不可能だ。
 自意識を探り、会話をしたいなら、最低限、【そう言った√能力】を使用する必要がある。技能やアイテムだけでは意思疎通は不可能だ、と明記しておく。
 また、願い事を叶える√能力である場合、白月の幻主も願い事を叶えようとする、注意して欲しい。
 此処で出来る事はそれだけだ。
 願い事を叶えようとしても良いし、思考を巡らせても良い、帰りたいと願って、村で過ごすのも選択肢だ。
 物語は、いつも√能力者の行動によって、様相を変える。
 結末もまた然り。

 風が頬を撫でる。
 水面が、静かにざわついた。
クラウス・イーザリー
ブリュイ・サーペント達に連れられて満月と対面
静かな水面、優しい月光、煌めく水滴、蒼い夜
全てが幻想的だ
√ウォーゾーンの無機質な景色しか知らなかった俺が、最近はこういう美しい光景を見ている
何だか不思議だな

願いに考えを巡らせるけどなかなか思い付かない
親友と会いたい、親友のところに行きたい、親友を蘇らせたい
そういう自然の理を捩じ曲げるような願いは叶わないだろうし、叶えるべきではないと思う

少し考えて、そっと精霊燈火を掲げる
「この子の行く先を、祝福してくれないか」
偶然出逢った精霊の子
彼のこの先が明るいものであるようにと願う
叶えるのは、本来主である俺の役目なんだろうけど
願うくらいは、きっといいだろう
竜雅・兎羽

【京介さん(h03096)と一緒】
本当にとても綺麗な洞窟ですね
私も、京介さんと一緒に見られて良かったです

優しい願い…になるのかはわかりませんが
「世界が平和でありますように」
叶わなくてもいいんです
私たち自身がこれから叶えていくことなんでしょうから

「兎羽と呼びたい、ですか?」
構いませんよ、皆さん呼んでくれてますし。
そんな願いなら問題ありませんよと、ふふと笑って承諾する

洞窟を満喫した後は村に戻って、月と薔薇の綺麗な精霊燈火を作ってもらい、満喫する
「折角月の精霊さんと仲良くなれたんですから♪」
月の力で精霊燈火を浮かばせて楽しむ
「ふわふわ浮かぶんですよ、この子♪」
来てよかったと、笑顔で旅を終える
神代・京介
竜雅(h00514)と参加

この洞窟はほんと幻想的だな。
精霊を抜きにしても、この景色だけでここに来た意味はあるのかもしれない。
この景色を竜雅と見れて良かったよ。

優しい願いなら何でも叶えてくれる……か。
一人一つ叶えてくれるらしいけど、竜雅ならきっと凄く優しい願いをするのだろうけど、竜雅はどんな事を願うんだ?
俺?俺は、そうだな。
「竜雅の事を兎羽って呼ばせてくれますように」とか?
ははは。別に優しい願いでもなんでもないから叶えてくれなさそうだな。
おっと、白月の幻主に願う前に叶ってしまった。なら……
「世界が今より少し、やさしくなりますように」

その後は村へ戻って精霊燈火を作ってもらう。
どんな精霊燈火かな。
ネニュファール・カイエ
ブリュイが招いてくれた?
ありがとう!

白月の幻主?
綺麗…次元の違う存在感を肌で感じるわ。
あなたがいるから。
ブリュイがいて、村も洞窟も穏やかに時を重ねて。
たくさんの精霊が友との出会いを待っていられる。
そんな気がするわ。
誰かが、あなたに願ったのかもね。

会えただけで充分。
精霊たちが嬉しそうなの、わたしも嬉しいもの。
このままで居て欲しい。
だから、何も願わない。
バイバイ!って手を振る。
お守りに外へ連れてってもらうの。
巡り合わせが良ければ、また会える。

楽しいお祭りもお終いね。
来年も都合が付けば来るし。
お世話になったおばあちゃんにお礼を言わなきゃ。
掃除とか洗濯とか簡単な家事を手伝おうかな。
力仕事は任せてね。
水藍・徨

白蛇と遊んで、時空の精霊と契約して、精霊燈火をお願いしてたら。
……僕の希望、ですか?
希望は、考えたことがなくて、どう伝えたら良いのか分からなかったけど……そうだ
様々な世界が見えていた様子は、僕の自由帳の世界みたいでした。時計みたいな、でも、針のないものが良い、です。
【_ἐλπίς】で、その形を描いて、説明してみる。
それから、白蛇と精霊と一緒に、白月の幻主に会えたなら、その姿を自由帳に描いておく。

願い……僕の、願い。
両親に会いたい?
昔一緒にいた、4人の子供達のことを思い出したい?

なんだか、色々な思いが浮かんで消える。最初は、両親の事だけだったのだけど……
これも、変化、なのかな?
ゼズベット・ジスクリエ
幻の月って何だろうと思ってたけど
これは全然予想つかなかったや
夜空に昇る月とは違くても、
ここからずっと精霊や村のこと見守ってたんだね、君はさ

うーん。願い事かぁ
歌が好きな精霊達とも友達になれて、
夢みたいな景色や楽しいひとときも貰って
おまけにさっきも洞窟で好き放題はしゃがせて貰ったし
…なんか既に僕貰いすぎじゃない?平気?

でも。誰かの願いや祈り、想いが
それが君が君で在るためのものなら
ひとつだけ、頼もうかな
そう大層な願いじゃないけど。僕にとっては一番の願い!

『この祭で出会ったみんなが明日も笑顔でありますように!』

また次の精霊燈灯でもここで出会えたらいいね
こっちの願いは自分で叶えてみせるよ。きっとね!
マルル・ポポポワール

やったぁ!風の精霊さんと仲良くなれました!
風の狐さんですから、ふーこちゃんって呼んでもいいですか?
これからよろしくお願いしますね、ふーこちゃん!

そして貴方が幻のお月様、ですね
私の叶えてほしいお願いは、お祭りがもっと素敵なものになりますように、です!
勿論、村の皆さんのお力で素敵なものになるのは間違いないので、更に楽しい事があればなと!
例えば希望する方だけという前提で、この洞窟の精霊さんや水林檎さん、そして幻のお月様も一緒にお祭りを楽しみませんか?
外に出れないのなら洞窟の中でお祭りしましょう!
歌と踊りと笑顔があれば、それだけで楽しいです!

村に帰ったらふーこちゃんに似合うランタンも作りたいですね!
ルクレツィア・サーゲイト
【SPD】【カゼノトオリミチ】※アドリブ・連携歓迎
「この白蛇達は、皆を何処へ誘っているの…?」
ラクスと共に白蛇に誘われる他の冒険者達を眺めつつ、肩の上に乗っている風色のシャチの精霊と指先で戯れる。
この子を誘った手前、願うべき願いはある。『心地よい風が吹き抜ける、未だ見ぬ絶景を共に』。
いずれ出会うであろう景色を、ちょっとだけ先取りさせて欲しい。その『絶景』を追って、この子と共に旅を続ける事が出来るから。
「ねぇ、ブリュイ・サーペント。私とこの子と、出来ればラクス達も、あの白き月の元へ連れて行ってくれないかしら?」
導きを得たのなら、目前の光景を心に焼き付けて。
導きを得なければ、未だ見ぬそれを夢見て。
風巻・ラクス
【カゼノトオリミチ】
惹かれる裾に身を任せて湖の中央へ。
「あそこに何があるのでしょうか」

月……でしょうか。
青い夜に浮かぶ月……とても綺麗です。
まるでおとぎ話みたいな。

願い事ですか?
今自分が願うとしたら……「私が共にありたいと思える人たちを支える力を手にする……そう、誓わせてもらってもいいですか?」
力が欲しいというのは本当、でもそれは自分で手に入れないといけないものだから誰かに願って叶えてもらってはいけないことだと思う。
だから、誓わせてほしいとお願いします。(両手の刃を強く握りながら)私が自分の手でそれをいつか掴めるように。

あっ、もう一個だけ!
……またいつかここに来させて下さいね。
雛埜原・絆
【雨宿り】
ここまで連れてきたってことは
雨の精霊たちは僕たちを気に入ってくれたんだ

…うん、確かに
でも綺麗すぎて現実味ないな
裸眼で見ても何も読めないし
僕はいっそ怖いくらい
こんだけ神秘的だったら
願ったり縋ったりしたくなるかもね

願い、ねえ
ちらと精霊燈火を見やりつつ
僕は別にないかな
元々神頼みとかって|性分《がら》じゃないし
店のことは自分でどーにかするって決めてるから

だから
|慈雨《あんた》の願いが叶いますよーにって願ってあげる
我慢しないで好きに願ったら?

…は?
なんでそんなこと願うわけ?
これ以上あんたとどーやって仲良くなれっていうの
…僕はもう十分仲良いと思ってるんだけど?

はいはい、今後ともどーぞご贔屓にね
天深夜・慈雨
【雨宿り】
みてー
絆、あそこ、お月様!
ぴかぴかでゆらゆら!水面に映る方もきれーだね
あれが白蛇さんたちのおかーさんなのかなぁ

お月様。おねがい叶えてくれるんだって
みんなはどうしてるのかな
絆は、何を叶えてもらうの?

慈雨?慈雨はいいの
さっき仲直りできたから
もうおなかもいっぱいだし
…我慢しなくても、平気?
……あのね、あの
絆とずっとなかよしでいられますように。っておねがいしたくて

な、なんで?
絆は慈雨となかよし、やだ…?
え…?もうなかよし?

……絆、やさしい
うん!ずっとなかよしね!大好きー!

もうおねがい叶えてくれたのかな
お月様もここまで連れてきてくれた白蛇さんにも
やさしい夜と出会いに、ありがとうをいっぱいこめて

●ごうん、ごうん、どぉぉ、ひたり【カゼノトオリミチ】
「この白蛇達は、皆を何処へ誘っているの……?」
 ルクレツィア・サーゲイト(世界の果てを描く風の継承者・h01132)は肩上に乗っている風のシャチを顎を撫でる。気持ち良さそうな声を上げて、ねだるように身体を指へ絡める様にくねらせる。
「良い所、と言っていますねー」
 風巻・ラクス(人間(√マスクド・ヒーロー)の重甲着装者・h00801)はルクレツィアと共に、裾を引かれる儘、水林檎の方に歩いて行く。ラクスの答えを肯定する様に、風のシャチがルクレツィアの頬を撫で上げる。
「あそこに何か、あるのでしょうか」
 皆が水林檎に触れると、酩酊感混じりの独特の浮遊感に苛まれ、別の場所に飛ばされた。
「転移魔法? にしても、強引過ぎない?!」
「元の階層構造が途轍もなく複雑か、もしくは深いのかも知れませんね」
 ラクスは寧ろ、好奇心を擽られたらしい。眼鏡の奥の瞳が好奇に光る。

●サトリの末裔と吸血鬼【雨宿り】
 招待された者達が、蒼い湖に、沈むこと無く佇む。
 身体を揺らせば波紋が揺れて、唯一、月光の差し込む湖に拡がって、主の元へ届く。
「ここまで連れてきたってことは、雨の精霊たちは僕たちを気に入ってくれたんだ」
「みてー、絆、あそこ、お月様!」
 ルサールカと白蛇の精霊、今も三人で戯れながら、湖面に立っている不思議に心を躍らせて、天深夜・慈雨(降り紡ぐ・h07194)は、雛埜原・絆(賜物ゆえに愁ふ雛・h07098)の手を引いた。
「ぴかぴかでゆらゆら! 水面に映る方もきれーだね」
「……うん、確かに。でも綺麗すぎて現実味ないな。裸眼で見ても何も読めな……」
 絆は月よりも、湖から溢れる雑音に、目を眩ませた。滴一粒に至るまで、誰かの願いの残滓が見えて、リアルに聴覚を刺激する。
「絆? だいじょーぶ?」
「大丈夫だよ。ありがと」
「お月様。おねがい叶えてくれるんだって」
 月はいっそ怖いほど綺麗で、神秘的で、静かだ。
「願ったり、縋ったりしたくなる、かもね」
「絆は、何を叶えてもらうの?」
 帰りたいと言う願いすらも、例外では無かった。お守りは、直接、この願いのみを叶える為の、限定的な思念通信機だったのだろう。絆は、ちらと精霊燈火を見遣る。
「僕は別にいい。元々神頼みとかって|性分《がら》じゃないし。店のことは自分でどーにかするって決めてるから……それに」
 些細な、帰りたいと言う願いを、何度も、叶えてくれていたのだ。
「だから、|慈雨《あんた》の願いが叶いますよーにって願ってあげる」
 視線を下斜めに逃すと、燈火か慈雨何方かが、どうしても目に入る。逃げ場が無いのは、少し居心地が悪かった。
「慈雨? 慈雨はいいの」
 腕に巻き付いて、じゃれつく白蛇に視線を寄せて、慈雨は首を振った。
「さっき仲直りできたから、もうおなかもいっぱいだし」
「……我慢しないで、好きに願ったら?」
「我慢しなくても、平気?」
「今日のことを気にしてるんだったら、次に同じ事が起きても、同じ事を言うだけ。それで終わり」
「それじゃあ、あのね、あの……」
 小さな掌にほんの少し、力が籠もる。
「傷とずっとなかよしで、いられますように。って」
「……は?」
 思わず素っ頓狂な声が漏れて、少しの間、口が塞がらなかった。
「なんでそんなこと願うわけ?」
「な、なんで? 絆は慈雨となかよし、やだ……?」
「あのね……これ以上あんたとどーやって仲良くなれっていうの」
 泣きそうな顔をした慈雨に、屈んで目線を合わせ、涙を指で掬う。
「え?」
「……僕はもう十分仲良いと思ってるんだけど?」
「もう、なかよし?」
「足りないなら、指切りでもする?」
「やさしい……うん! ずっとなかよし! 大好き!」
「はいはい、今後ともどーぞ、ご贔屓にね」
 感極まって抱き付いてきた慈雨の小さい身体を受け止めて、見えない様に、絆は破顔した。見咎めたルサールカがくすりと笑って、燈火に居る男神が相変わらずだと、穏やかな溜息を吐く。

●あなたの今の在り方が、わたしには好ましい【ネニュファール】
「ブリュイが導いてくれた? ありがとう!」
 一緒に写真を撮った白蛇が、ネニュファール・カイエ(人間(√ドラゴンファンタジー)の未草の精霊銃士・h05128)の袖を引いた。
 案内の御礼に頭を撫でられて、それでもまだ遊び足りないらしく、目を輝かせて、ネニュファールにじゃれついている。
「花冠、気に入ってくれたのね」
 蒼夜の湖に立つ自分。夜に浮かぶ幻の月。
「綺麗。次元の違う存在感を感じるわ」
 蒼夜に浮かぶ荘厳な幻月を、ネニュファールは敬意と胸に染み入る様な感動を隠さず、新緑の瞳で、見上げていた。月光が、静かに水面に揺らめいた。
「あなたが、いるから」
 目を閉じる。
「ブリュイがいて、村も洞窟も、穏やかに時を重ねて」
 今も無邪気に自身の周辺を飛び回る白蛇の精、大きな危機も無く、長閑に年月を重ねる村人達。洞窟は、今日も何事も無く、誰かを待っているようで。
「たくさんの精霊が、共との出会いをまっていられる、そんな気がするわ」
 目を開けて、伝わらずとも、ネニュファールは言葉を紡ぐ。それこそが願いだと言えば、そうだろう。何時もの現実主義者の姿は、何処にもない。
「誰かが、あなたに願ったのかもね」
 優しく微笑む。頭に引っ掛かった小さな幻想が、真実かどうかは、分からなかった。


●暇【兎羽&京介】
「この洞窟はほんと幻想的だな」
「本当に、とても素敵な洞窟ですね」
 神代・京介(くたびれた兵士・h03096)と竜雅・兎羽(歌うたいの桃色兎・h00514)は導かれた先の光景に、感心して、溜息を漏らし、何方ともなく視線を通わせて、微笑んだ。
「この景色を竜雅と見れて良かったよ。精霊を抜きにしても、それだけで」
「私も、京介さんと一緒に見られて良かったです」
「竜雅は……どんな事を願うんだ?」
 間を置いた。彼女ならきっと、優しい願いを叶えるのだろう。
「そうですねー、優しい願いかは分かりませんが」
 竜兎と長耳の月精が、ふわふわと蒼い夜空で戯れる。少しの間だが、出会って間もない二人だが、既に随分と仲良くなっていた。
「世界が、平和でありますように……少し照れてしまいますね」
「照れるところも含めて、竜雅らしいな」
「叶わなくても良いんです。私たち自身が、これから、叶えていくことですから。ちょっと意地悪な京介さんは、何を?」
「嘘が得意じゃ無いからな。俺? 俺は……そうだな」
 歯を見せて笑った後、顎に手を当て、兎羽に目を向ける。
「竜雅の事を兎羽って呼ばせてくれますように、とか」
「兎羽と呼びたい、ですか? 構いませんよ、皆さん呼んでくれてますし」
 そんな願いなら、問題ありませんよと、付け加えて、兎羽は穏やかに微笑んだ。意味深に視線を寄越されて、少しだけ、頬が赤らんでいた。
「おっと、白月の幻主に願う前に叶ってしまった。なら……」
 故郷を思い浮かべる。自身の辿ってきた軌跡を重ねる。穏やかに、肩上で眠る夜イタチの顎を撫でる。眠ったまま、気持ちよさそうに目を細める精霊に、疲れ切った身体と心が和らいだ気がした。
「世界が今より少し、やさしくなりますように」
「私と一緒ですね」
「そうだな、叶わなくても良い。叶える為に来たんだと、思えた。兎羽」
「はい、一緒に、頑張りましょう」
 この蒼夜の湖ほど、穏やかにあれとは思わない。
 過酷な運命に巻き込まれる人々を、見逃さないように。
 過酷な現実に向き合う人々に、手を差し伸べようと。
 今日は、そんな風に思えるように、羽を休める日だったのだ。
 幻月の主は、ただ、蒼い夜に佇んで居る。
 物を言わぬ不器用な祝福だと解釈するのも、また、人の勝手だ。

●夢と、誓いと、月光と【カゼノトオリミチ】
「月……なのでしょうか?」
「少し、違うような気もするわ」
「そうですね、でも、蒼い夜に浮かぶ満月……おとぎ話みたいで、とても、綺麗です」
「そうね。この子とラクスが居なかったら、スケッチブックに筆を走らせていたわ」
「ルーシィさんらしいです」
 ラクスの口元が綻ぶ。
 ルクレツィアの指先で、肩上で、或いは頭の上で、風精は夜空を戯れ泳ぐ。時に困らせるように髪に噛み付いたり、小さな風を起こして、彼女に悪戯をする。悪戯好きな白蛇とは気が合う様で、今も良く、じゃれついている。
 ルクレツィア自身は、幻想的な光景に見惚れながら、今日のこの場所の光景を忘れまいと、心に焼き付けていた。スケッチブックに記載したい風景は、きっと多いはずだ。ラクスはそう推測しながら、刃となった精霊に視線を落とす。
「願い事……今の私の願い事は」
「思い詰めなくて良いのよ、ラクス。気軽で良いの、こう言うのは」
「有難う御座います。でしたら、私が共にありたい人達を支える力を手にする……そう、誓わせて貰っても、いいですか?」
 ふとした大津波に、誰かが飲み込まれないように。
 何気ない日常に潜む悪意に、誰かが傷付かないように。
「力が欲しいのは本当、でも、それは自分で手に入れないといけないものだから、誰かに願って叶えてもらっては、いけないことだと、思う。だから、誓わせて欲しい。それが、私のお願い事です」
 二振りの刃を思わず、強く握る。精霊から抗議の声が聞こえて、それから。
「え、誓いの時は片膝を付いて、目を閉じる? 何で騎士の礼儀作法を知ってるんですか」
 どうも前例が居たらしい。願い事以外も範疇の様だ。ただし、答えるかどうかは分からない等と風剣の方が早口に捲し立てる。毒気を抜かれて、ラクスはその場に片膝を立てて、目を閉じる。
 月光が揺らめいて、ラクスに一際、強い光が注ぐ。刃の精霊に、月の光が仄かに灯る。
「誓約……? 私が何時か、自分の手で、掴める時まで?」
 主様は優しいから、と、言葉少なに水が思念を紡ぐ。
「良かったわね、ラクス!」
「え、ええと。はい。必ず、果たします! あっ、もう一個だけ! ……またいつか、ここに来させて、下さいね」
「それじゃあ、私からも一つ! 心地良い風が吹き抜ける、未だ見ぬ絶景を、この子と共に!」
 ルクレツィアは空と自身の周囲を自由に行き来して戯れる、自由な風精を見上げながら、人差し指を勢いよく立てて、願う。
「何れ出会うであろう景色を、ちょっとだけ先取りさせて欲しい。それを追って、この子と旅を続ける事が出来るから。お願い!」
 ルクレツィアは、心地の良い浮遊感を覚えた。
 切り立った崖の上で太陽が眩しいくらいに照りつけている。
 若草色が力強く芽吹いている。
 気持ちの良い風が、栗色の髪を撫でて吹き抜ける。視界を遮る物は無く、白雲が風に揺られて、気儘に通り過ぎる。
 自然が織り成し作り上げる奇跡。灰と黄褐色と緑、青空と陽光が作り出す神秘の芸術。
 空を、大きな鯨型の精霊が、潮の代わりに風を吹き起こして、汽笛にも似た鳴き声を上げる。吹き出る風穴を見付けた風精が、ルクレツィアを誘って世界を風の鯨と一緒に見渡して。
「……ありがとう!」
 視界が途切れて、静寂の湖に、月が揺らめく。
「ルーシィさんも、良かったですね」
「ええ、世界の果てでは無いかも知れないけれど、見せて上げたい景色が出来たわ!」
「私も、見てみたいです」
「勿論よ、皆で行きましょう!」
 ルクレツィアは、月の下で、歯を見せて笑う。

●君には、幸多き未来を【クラウス】
、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、湖面で静かに月を見上げる。
 蒼い夜に、静かな水面、優しい月光、煌めく水滴、幻想的な風景に、心を浸す。
「不思議な感覚だ」
 空には狼煙、地は乾き、風は戦争に淀む。鉄の床が敷き詰められる。耳にはけたたましいサイレンと、機械兵の足音、銃声、爆発音。倒壊音。そして、肉の弾ける音に、血の飛沫。鉄を棺桶と決めて、赤黒い内容物だけを残し、無念を土にぶちまける。
「そんな世界しか知らなかった俺が、ね」
 だから、願い事が叶うと言われても、クラウスは逡巡するしかなかった。面影を引き摺って世界の理を捻じ曲げるのは、良くないと、分かっている。
「ネクロマンシーと過ぎた奇跡は、初級教本でも、禁忌って書いてあったな」
 死霊魔術が禁忌とされる理由は、分かり易く箇条書きされていた。それ程までに手を出す者が多いのだろう。過ぎた奇跡については、分かり易く、代償を払い切れず、望む結果となる事が希である、と書かれ、実例が十ほど端的に書かれている。
 希望を無くした青年は、暫し考えて、今もぼんやりと灯る、燈火を掲げた。
「この子の行く先を、祝福してくれないか」
 偶然出会った大人しい蛇の水精の、幸運を願う。共に在るクラウスは願うことが出来ない。行動として示すのは、幸福である様に、世話をする位だ。
 月光が涙形に優しく差し込む。眩しさに小さな目を開いて、水蛇は再びうっとりと目を閉じた。
「願うくらいは、許してくれるみたいだ。ありがとう」
 主としての責任を放棄する訳ではないのだけれど、明るい未来を、運ぼうと。
 クラウスは今一度、蒼い夜に身を浸す。

●変化は不可逆でありながら【徨】
 湖の上で、水藍・徨(夢現の境界・h01327)はスケッチブックに黙々と筆を走らせる。絵が出来上がっていく過程を、時空の精霊は、彼の邪魔にならないように、眺めていた。
「出来た! どう?」
 出来映えの確認を促されて、精霊は首を傾げて、拍手をする。絵の評価は出来ないが、徨の描いた物を好意的に受け止めている、そんな印象を受けるだろう。素直な評価に、徨は嬉しくなった。嬉しいと言う感情で合っていたと思う。
 時空の精霊が月を示して、首を傾げる。願わないのだろうか、そう問い掛けるように。
「月……月に願い?」
 無くした物が在る様に錯覚する。両親に会いたい、昔一緒に居た4人の子供達の事を思い出したい。重いが浮かんで、弾けて消える。変化は確かに在った。在った。
「あれ?」
 赤黒いノイズが奔る。開き掛けた禁忌の箱が、力強いノックの音に固く固く鎖される。満たされた心が、開いてはいけないと、心を受け入れる事を拒否して、酷い頭痛になって、息が苦しくなった。時空の精霊は、様子のおかしい主人の過去を垣間見て、彼の時間を箱に入れて、再度、鍵を掛ける。そうして、自分の身体にしまい込む。
「あれ? 僕……君、ちょっと変わった?」
 精霊は首を振る。箱の装飾が六つ付いた蒼い文字盤が一つ、増える。
「そっか。でも、悲しい事があったんだね」
 頷く。肩上で、時空の精霊は眠る。
「うん、うん」
 泣きながら眠る精霊を、指先で撫でる。感情を封じた徨の優しさに、時空の精霊の涙は益々溢れるばかりで、徨は戸惑った。


「やったぁ! 風の精霊さんと仲良くなれました! 風の狐さんですから、ふーこちゃんって呼んでもいいですか!」
 狐の風精は、マルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)の名付けの安直さに暫し首を捻った後、陽気に笑う様な気配と共に、承諾した。
「これから宜しくお願いしますね! ふーこちゃん!」
 頷く代わりに鳴き声を響かせる。
「そして、貴方が幻のお月様、ですね!」
「幻の月って何だ折ると思ってたけど、これは全然予想付かなかったや」
 ゼズベット・ジスクリエ(ワタリドリ・h00742)はマルルの元気な名付けに、明るく笑いながら、自身も二精の名前を考える。
「ゼズベットさんは、考えてたんですね」
「まあね! 気になったからさ。夜空に昇る月とは違っても、ここからずっと、見守ってたんだね。君はさ」
「ゼズベットさんは何かお願いするんですか?」
 マルルの質問に、ゼズベットは困った様に頬を掻き、唸る。
「願い事かぁ……」
 数日間の出来事を指折り数えてみる。
「歌が好きな精霊達と友達になれて」
 指折り一つ。蒼夜を穏やかに舞う二鳥を、見上げる。
「夢みたいな景色を貰って」
 二つ。洞窟の蒼い細道、蒼夜に煌めく湖畔。
「楽しい一時も」
 三つ。郵便屋として写真をばら撒いたり、村で交流したり、他の√能力者とも知り合えて。
「おまけにさっきも洞窟で好き放題燥がせて貰ったし」
「楽しかったですね! また一緒に踊りたいです」
「望むところだよ。マルル。また一緒に歌いたいね! なんか既に貰いすぎじゃない? 僕、明日死んじゃう?」
 冗談交じりの言葉に、マルルが笑う。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。ゼズベットにとって、このお祭りは、充実した一時だった。
「でも、誰かの願いや祈り、重いが、それが、君が君で在るためのものなら、一つだけ」
「何ですか?」
「勿論、この祭で出会ったみんなが、明日も笑顔でありますように!」
「ゼズベットさんらしいです!」
「僕にとっては一番の願いだからね! そう言うマルルは? 考えてるんでしょ?」
 目を輝かせるマルルに、ゼズベットは片目を瞑って笑ってみせる。
「私の叶えて欲しいお願いはー、お祭りがもっと素敵なものになるように、です! 更に楽しい事があればなと! ええと、希望する方だけと言う前提で、精霊さんや幻のお月様も、一緒にお祭りを楽しみませんか? と思いまして」
「あ、良いね。きっと、君も楽しめたら、もっと良い物になるよ」
「外に出られない気もしますので、洞窟の中だけでも、一緒に遊びませんか? 歌と踊りと笑顔があれば、それだけで楽しいです!」
「って事で、どうかな」
 空間が楽しそうにざわめいていく風と水と雨は言わずもがな、嬉しそうに燥いで、顔を見せない土と火も、興味を持って顔を覗かせる。

●そう、貴方だけは拾えてしまえる、そう言う所だったから。少しは、好きになれるかい?

「もう少し必要そうだね。僕は願わなかったけど、結果的に色々助けて貰ったし、楽しかったから。この血の所為で、嘘は付けない性分でね」
 だからこそ分かることもある。絆は酷い船酔いの様な酩酊感に苛まれたが、優しい願いだけが溜まっているから、辛うじて耐えられた。願いの湖の底の底、最初の願い。今の幻月の主の有り様を定めている物をまず、浚えた。
 埋もれた願いの中で。
 人の願いを糧にしていく過程で。
 これは小さな自我を得ている。今の願いは、とても優しかった。
 終わった所で、座り込む。慈雨が気遣う様に頭を撫でる。照れ臭いけれど、何も言えなかった。触れて流れ込む正直な気遣いが、とても嬉しかった。
(願いに縛られている訳でもなく、人の優しい願いを叶えたいなんて、何処までもお人好しだよ、アンタ)
「アンタが、お祭りを楽しめますように。何でも叶えられるなら、人からの願い事で、動けるんでしょ」
 
●つきのこども
 月色の滴が、願いの湖に落ちる。幼年期の少女の形に変わって、√能力者の方を向き、丁寧に頭を下げた。
「優しい人達が、私は好きです。ありがとう、此処を気に入ってくれて。ありがとう、みんなと、友達になってくれて、少しだけ、この時期くらいは、楽しんでも良いかなと、おもいました。私に、願いは叶えられません。私は、願うことが出来ません。私が善良で有る限り、私は皆様と同じくブリュイ・サーペントの導きに従って、此処に来る事が出来るでしょう。これは、セキュリティ上、必要な事です。私は、幻の月の子供です。私は、月の触覚であり、自我の模倣です。お祭りを、より良い物にしようと願った貴女が好きです。関わった人全ての明日の笑顔を願った人が好きです。沢山の不幸を無くしたいと、世界の平和を願う人が、好きです。精霊の子と旅をしたいと願った人が、精霊の子の未来を祝福した人が、好きです。何も願わず、去って行った優しい人が、好きです。何も願う事が出来なかった人に、同調します。仲良くなりたいと願った純粋な心に、私の肩を押して下さった貴方に。皆さんに、沢山、沢山、御礼を言いに来ました。合っていますか、合っていませんか。私に課せられた規則の読み上げと、御礼については以上となります。皆様、この先、私は、どうすれば、良いのでしょう? どうすれば、お祭りを楽しめるのでしょう?」
 蒼の混じった長い銀髪に金の瞳、フリルを遇ったワンピース。機械の様に、無機質に言葉が羅列される。悪意は無く、月の子供はただ純粋に、読み上げて、首を傾げた。
「月の子供さん! お願いを聞いて下さったんですね! それじゃあ、一緒に謳いましょう!」
「それから踊ろうか! クラウスもどう?」
「もう少し、静かな方が好みだけど、その子の誕生日なら、俺も」
 ゼズベットとマルルは何時も通りだ。クラウスは戸惑いながらも、誘いを受けた。
「えっとー、ルーシィさん、私達は」
「それじゃあ、もう一回、精霊の花火を上げましょう! ラクス」
 名前を呼ばれたのを合図に、二丁の拳銃が蒼い夜の空に、契約した精霊達を花火として踊らせる
「折角の良い景色だから、もう少し静かに過ごしたいんだけど」
「慈雨はもっと蛇さんと遊びたい、です」
 慈雨の底なしの体力に、絆は溜息を吐いて、諦めるようにへたり込んだ。
「兎羽、また盛り上がるみたいだな」
「あら、それじゃあ、京介さん、また聞いて下さいますか?」
 歌が始まると、すぐに兎羽も混ざり、京介は耳を傾ける。
「このままで良いかなって思ってたんだけど……うん、良かったわね! 精霊たちも嬉しそうだし、わたしも嬉しい」 
 ネニュファールは一人、バイバイと小さく手を振って、一足先に、村に帰る。
「同じ絵面にはならないかな。悲しいの、紛らわせても良いんだよ」
 今も涙を流す精霊に、徨は優しく語り掛けて、筆を走らせる。動けば気が紛れるかも知れないと、精霊は提案を聞き入れて、夜空で遊ぶ。
 楽しい時間は、もう少し続いて、月の子供はゆっくりと、楽しい事を、お祭りの過ごし方を、覚えていく。

●燈火は徐々に【ネニュファール】
「お帰り」
「お婆ちゃん、お世話になったわ! ありがとう」
「おや、気にしなくて良いのに。確り者ねえ」
 ネニュファールは腕を捲って、夕餉の支度をする。同席した後、家中を掃除して回り、洗濯物を干して、洗う分は朝と今で迷って、涼しい今に終わらせる事にした。
「力仕事は任せてね。明日の朝までは」
「ありがとう、良い子だね」
 友人とは違う、嗄れた五指で頭を撫でられるのは、随分と久し振りで、ネニュファールは何も言えなくなった。育ててくれた祖父母に、少し会いたくなった。

●精霊燈火【兎羽&京介】
 洞窟で、月の子供を交えた宴がが終わって、工房に寄る。
「月の精霊に合わせて、月と薔薇の燈火だね」
 三日月に、彫金された銅の薔薇が茨と共に飾り付けられる。
 中は月色の砂と、夜色の水に満たされて、それぞれが循環する様に幾つか管が設けられている。月の精霊が興味を持って中に入る。元々居た所と変わらない、月光と夜の匂いに、上機嫌だった。

「月の魔力を吸い込んだ砂と、夜の魔力を溜め込んだ水が循環する設計だよ。月の精霊は外を見たいだろうから、中からはくっきりと外が見えるね。ただ、仮面を背負っていると言っていたから、茨の棘の様な、狂気にだけは気を付けて欲しい。それから」
 一緒に居た京介の方を向いて、夜イタチ様に誂えた物を見せる。
「随分と眠るのが好きな様子だから、安眠できる空間にしたよ」
 半円状の夜色の燈火は、硝子に偽の星空を見せる魔法陣が描かれており、下には寝心地の良さそうな、暗色のクッションが敷かれている。夜イタチは中に入ると、丸まって、のんびりと眠っていた。
「大分シンプルだね。代金はこれくらいになるよ」
 良い値段の書かれた代金表を見て、兎羽は固まり、京介の方を見る。
「えっとー、京介さん……?」
「払える。払えるが、貸しにしとこう。その方が気楽だよな?」
「ありがとうございます!」
 二つ分の代金を京介が払い、閑散とし始めた夜に、燈火を見る。
 眠ったままの夜イタチが気になって、燈火越しに、月精が様子を伺い、視線に気付いて、夜イタチが眠そうに顔を上げる。欠伸をしてから、ふわりと燈火を浮かばせて、漏れ出る月精の光を楽しむように、空に浮かぶ。
「本当に、浮かぶんだな」
「機嫌が良ければ、だそうです」
 ふわふわと三日月と半円が浮かんで、夜空の元で戯れる。
「この子達が疲れた頃に、帰りましょうか」
「そうだな」
 兎羽の穏やかな微笑みが、旅に来て良かったと、告げていた。

●精霊燈火【徨】
「僕の希望、ですか?」
「流石に随分と珍しい子だからね、居るなんて思わなかったよ。珍しい物を見せて貰った。だが、イマイチ、決めきれなくてね」
 徨は漸く笑顔を取り戻した精霊と共に、再び工房を訪れて、頭を悩ませた。伝え方が分からなかった。この精霊の事を、どう語ろうか、口髭を蓄えた職人と同様、検討が付かなかった。だから、自由帳を開く。
「様々な世界が見えていた様子は、僕の自由帳の世界みたいでした」
 ゆっくりとページを捲る。スケッチした時空の精霊の住処のページも、泣きはらしている精霊の顔も、つきのこどもとの、戯れも。
「時計みたいな、でも、針の無い物が良い、です」
「時空管理の仕事をしているのかな。コミカルだが、随分と忙しない。なるほど、なるほど。針がない方が良いと言うのは頷ける」
 蒼い文字盤を琥珀色の菱面体に取り付ける。それから、徨の描いた世界風景の一部を取り入れて、空いた文字盤の中央に貼り付けて、精霊用の小さな筆を一つ。ミニチュアの様なイーゼルを、一つ。書き消しが出来る小さなスケッチブックを、一つ。外の世界が見える透視用の魔法陣を貼り付けて、小窓を作る。
「どうも、随分と君を慕っている様だったから、再現よりも、興味を持った、好きそうな物で満たすことにしたよ。涙が中々止まなかったのは、君の何かを……」
 職人は首を振って、口を噤んだ。
「お代は良いよ。その子を、君は、大切にして上げなさい」
「え。あ、有難う御座います」
 時空の精霊は、徨の真似をして、早速小さな紙に筆を走らせ、上手く行かない殊に首を捻っては、描き直して、繰り返し作業に没頭する。

●精霊燈火【マルル】
「お月様もお祭りに参加してくれるみたいですし! 皆さんのおかげでハッピーエンドです! ふーこちゃんふーこちゃん! 折角ですからお家も作って貰いましょう!」
 風キツネはそろそろマルルのテンポに慣れて来たらしく、聞いているのかいないのか、軽やかに、機嫌良く宙空を飛び回る。マルルの側は気に入っているらしく、必要以上に離れる事も無い。
「おや、マルルちゃん、いらっしゃい。精霊燈火かい? どんな子かな」
「はい! えっと、風のキツネさんです! ちょっとクールですね!」
「マルルちゃんが元気すぎるだけだと思うよ。さて、それじゃあ」
 風の精霊燈火は、炎と同じ程度に頭を悩ませる。炎は如何に燃やされないように組むか、風は、如何に出ていかないような空間を設えるか、特に気を遣う。
 素材は風通しの良い物を。籠のような形状は避けて、外界と確り繋がりを持てるように。丸窓を取り付けた鞠の様な形状に、魔法陣を装飾として取り付ける。マルルの活発さを考えて、上側は吹き抜けで、飽きたら、何時でも好きに出られる様に。床となる場所に添えられた風色の宝石は、風の気配が少ない所でも風精が気持ち良く過ごせるようにする為の物だ。
「と言うわけで、こんなので、如何かな。女の子が持っても、お洒落だとは思うが、どうだろうね」
 細工を施した鞠状の小さな精霊燈火は、上部に付いた紅白の紐で、手首や指に固定出来る。風狐は燈火の中に入り、周囲を見渡し、宝石に力を送り込んで、納得して、中で丸まった。
「変えて欲しいと思ったら、何時でも来ると良いよ。コテージは計画はあったが、中々誰も都合が付かなくてねぇ、長期計画だったんだ」
「村の皆様のお役に立てたなら、何よりです! 有難う御座います!」
 翡翠色の暖かな光が、夜空を仄かに照らす。

●朝焼けまで、のんびりと
「また、次の精霊燈火でも、出会えたらいいね。こっちは、自分で叶えてみせるよ、きっとね」
「あ、ゼズベットさん。もう少しだけ、ゆっくりしていきません?」
「それじゃあ、出来るだけ、呼んで集めようか。本当に小さな後祭だね」
 残った√能力者で、乗り気な人を集めて、最後はのんびりと何気ない日常の出来事を、語り合う。
 次第に夜の気配が薄まって、空に朝焼けが灯る。
 旅の終わりは、新たな旅の始まりだ。
 朝の訪れが、そう、告げるように。

●終幕
【雨宿り】
 絆は約束通り、林檎型のクッキーと特大弁当を確り作って慈雨に贈る。何時も通り、満面の笑みであっという間に平らげるのを見て、絆は特製メニューを作るか思案した。

【ネニュファール・カイエ】
 ネニュファールは朝餉を準備した後、借宿を後にし、世話になった彼女に、幾つか菓子を贈った。友人と撮った写真を時折覗いては、笑みを零す。

【兎羽&京介】
 京介がオーナーのバーで、或いは別の所で、今日ものんびりと二人は語らう。偶に纏まった収入があると、京介に精霊燈火の代金を払う、そんな日常の一ページが、増えたかも知れない。

【クラウス・イーザリー】
 迎えた精霊と、ゆっくりと戯れる時間を設けた。放っておくとずっと燈火の中から出てこない程、静かなので、寧ろクラウスの方が戸惑った。余程居心地が気に入っているらしい。或いは、クラウスの人柄を、気に入っているだけかも知れない。

【水藍・徨】
 時空の精霊と交流を深める日々が続く。失った物は失ったまま、彼は少しだけ変わった。一緒に気になる風景に筆を走らせるのは、何となく心が騒ぐ感覚を覚えて、良く分からない感覚だと、精霊の表情を見て、忘れる。

【ゼズベット・ジスクリエ】
 二鳥を引き連れて、土竜に会いに行ったかもしれない。土だと聞いても、きっと彼は驚かないが、訪問の度、工房がより一層騒がしくなる殊に、どうしようか頭を悩ませる日々となった、かも知れない。

【カゼノトオリミチ】
 ラクスは二振りの刃を振るう。元々、変幻の性質を持っているらしく、刃は繋がり、交差すれば投擲武器にもなる。要望さえ有れば弾丸にも姿を変えて、嵐を起こす。月の誓約と祝福は、精霊の力を高めたようで、人の姿を取る事もあった。
 二人に囁かれた時に、ルクレツィアに茶化されて、抗議の声を上げた。落ちた世界を描くスケッチブックには、確りと、月の子供と、焼き付けていた願いの湖の風景が描かれている。

【マルル・ポポポワール】
 歌って踊る楽しさと、青春を謳歌する楽しさと、目標に揺れる思春期らしい彼女は、今日も元気良く、様々な殊に目を輝かせて、今日の生を謳歌する。

 羽休めの小旅行は、楽しめただろうか。
 皆様に、どうか、沢山の幸運が訪れますように。
 インビジブルの声が聞こえた気がして、空を仰ぐ。
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