勿忘の桜歌
ここは様々な不思議と共に妖が賑やかに歌い笑う、√妖怪百鬼夜行。四月の桜はうつくしく咲き乱れ、住民達は昼も夜も花見に忙しい。
古書店に住まう黒髪の娘は、夜の宴からすこしばかり静かになった真夜中に、古書店の窓から外を見遣った。
「……今年も綺麗に咲いたのね」
あわい薄紅は街の夜の明かりに照らされながら、わたあめのようにふわふわと咲きこぼれていて、夢見月・桜紅は目を細める。
眠る前のひととき、なんとなくひとりの自室で口ずさむのは、彼女が大切にしている歌だった。
「さくら、さくら……」
やさしい子守唄のようだと言ってくれたあの人の微笑みが、いつまでも胸に残っていて。彼と共にこの桜を見られたならば、どんなによかっただろう。
寂しくないといえば嘘になってしまう――けれど、自分があの人を忘れなければいいだけのこと。
人は、誰かに忘れられてしまうことで、はじめて本当に居なくなってしまうものなのだから。
紅の双眸はいつまでもやわらかく、はじめての恋を想い続ける。
「さくら、さくら……」
もう二度と、誰も傷つかないように。誰の|運命《さだめ》も歪めぬように。
桜紅は誓いを心に秘めたまま、歌を紡いでいた。
******
『勿忘の桜歌』
さくら、さくら……
|千代《ちよ》に|想《おも》うはあなたのかんばせ
|永久《とわ》に|宿《やど》すはあなたのほほえみ
|廻《めぐ》るひととせいつまでも
|薄紅《うすべに》の|花《はな》は|咲《さ》きほこる
|勿忘《わすれな》に|揺《ゆ》れるかなしみは
かつてのぬくもりに|拭《ぬぐ》われて
さくら、さくら……
|千代《ちよ》に想うはあなたのかんばせ
|永久《とわ》に宿すはあなたのほほえみ
|廻《めぐ》るひととせいつの|日《ひ》か
|藍染《あいぞめ》の|夜《よる》に|逢《あ》いましょう
|勿忘《わすれな》に|靡《なび》くくるしみは
かつての|運命《さだめ》を|凪《な》いでゆく
さくら、さくら……
|千代《ちよ》に想うはあなたのことのは
|永久《とわ》に願うはあなたのしあわせ
さくら、さくら……
さくら、さくら……
******
◆補足
参考資料を基に、桜紅さんの大切な楽曲の歌詞をご提案させて頂きました。
この歌詞の部分はこう変えたほうがいいな、と思われましたら、ご自由に改変して頂いて構いません。
心やさしい本屋の店主さんにとって、歌い続けていたい曲のきっかけや一部分になれますように。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功