人間災厄「怪談トンネルの呪い」
静まり返った室内に、レポートを捲る紙の音だけが響く――。
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識別番号:04275
災厄呼称:「怪談トンネルの呪い」
個体名:霧嶋・菜月(キリシマ・ナツキ)
・災厄の性質
「███トンネルに存在する怪異」という概念。この概念の概要を語る事で、聞いた相手に「呪い」を付与する。接触感染拡散型。(以下、被感染者を被災者と呼称)
「呪い」を付与された被災者は、数日以内に死亡する。但し、複数が同時に被災者となった場合、低確率でその内の1名は死亡を免れ、同様の性質を持つ災厄となる。尚、災厄化の確率は、同時に概念の概要を聞いた人数が多い程、上昇する。
同等の性質の災厄間に於いて、「呪い」の付与は機能しない。付与機能自体が「呪い」であると推測される。
調査の結果、呪いを拡散するトリガーは怪異の概要に無く、「███████」という文言にある事が判明する。
・概念の概要
██県███市に存在する███トンネルを、雨天の深夜2時半頃、通過すると発生するとされる現象。
現象例1.地震の発生、又は、其処に無い筈のドアを発見して中に入ると、別の世界に迷い込んでしまう。出口を見付けるまで、元の世界に帰還出来ない。
現象例2.耳元で「███████」と聞こえたら、数日以内に身体に手の形の黒い痣が生じる。痣は全身に次々と現れ死亡に至る。
・収容手段
収容難易度B
災厄及び被災者の他者接触を禁じ、隔離する。被災者は、24時間体制の監視下で経過観察を行う。同様の災厄間で「呪い」の拡散は発生しない為、完全隔離で実質的な無力化は可能。
災厄及び被災者が、他者と接触する場合、A級以上の職務権限保持者の許可が必要。又、災厄がトリガーワードを口にしようとした場合、即無力化する事。
・履歴
██年██月██日、災厄の発生を検知。災厄個体名「霧嶋・菜月」を収容。
災厄個体名「霧嶋・菜月」を検査した所、アクシデント前後の記憶に多くの混乱が見られ、何らかの干渉を受けた可能性がある。
人間災厄「怪談トンネルの呪い」認定後、災厄個体名「霧嶋・菜月」に、積極的に「呪い」を拡散する意思は見られない。施設内での実証実験以外で概念の概要を語る事は無く、アクシデント後に被災者は発生していない。協力的な姿勢から、他者との接触制限を緩和。但し、許可は必要。
██年██月██日、インシデント発生により、トリガーワード判明。常時、トリガーワード口述を阻止する監視要員の同行が必須とする。
██年██月██日、――(以降、空白)
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「……何だこれは。肝心な所が黒塗りじゃないか」
それでも1枚だけ、写真が添付されていた。灰色のウェーブヘア、瞳は……恐らく緑色。姿勢よく、まだ若い。個体名からしても、女性だろう。
写真の所為か、生気の無い顔色だったが、勿論、気の毒なんて思わない。被害が出ていないなんて、嘘だ。だったら何故、姉さんは……あの日から、帰ってこない。
「このまま、レポートを漁っていても、埒が明かないな。こうなったら、直截接触して問い詰めないと」
この災厄には、常に監視が張り付いている。上手くすり替わる事が出来れば、きっと。
(彼からしてみれば)野放しの人間災厄の真実を、自分こそが暴いて見せると息巻く青年は、レポートの最後の頁の数行に気付いていない――。
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・付記
「霧嶋・菜月」という人物も、███トンネルも、√汎神解剖機関に於いては存在しない。記憶の混乱により、本人は認知しておらず、出身√の調査を継続する事。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功