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ある夏の日の、解剖談義

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #画廊『キャラメリゼ』

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 #√妖怪百鬼夜行
 #ノベル
 #画廊『キャラメリゼ』

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 多分、きっと、至極平和なとある一日のおはなし。
 様々な|種族《ひとびと》が立ち寄る画廊『キャラメリゼ』を舞台に繰り広げられる、その日常の、ひとかけら。

 足の向くまま気の向くまま、ふらりと行きつけの画廊を訪れて、店主との挨拶もそこそこ。誰もが知っている名画から子供の落描きまで、真贋問わず彼お薦めの絵画たちを暫しゆるりと鑑賞し、その後は書架を備えた休憩スペースで一息。
 心地良いソファに体を預ける……その前に、木製の書架へと目を向けた。訪れる度そうする、いつものこと。
 書架には画集のみならず、美術史関連の書籍や美術解剖学の解説書など、こと美術に関わる|分野《もの》なら抜け目なく揃えられており、知りたがりで、しかし絵画への理解はまだ浅い自分にとっては何より有難い助け舟。
(「……おや」)
 まず一冊、今日はどの本を開こうか、じいっと書架を眺めているうち、視界の端に、ふと何か。
 子供向けの棚の低い段、に、およそ似つかわしくない厳つめな装丁の本がずんと一つ。きっとどこかの棚から持ってきたは良いものの、戻す場所がわからなくなって、とりあえず|子供《じぶん》の視点でよくよく見知った場所に納めた――そんな所だろう。此処で他のお客さんの本探しを手伝っているとき、幾度か見た光景だ。ユオルは苦笑する。
 代わりに元の場所へ戻してやろうと引き抜いた。ユオルは一度読んだ本の内容を忘れない。故に、厳つめ装丁のこの本に覚えが無いという事は、全く未読のモノに相違無く、ならばこれも何かの縁だろうと、早速休憩スペースへ持ち込んで、本日の一冊目に決めた。
 早速ぱらぱら流し捲ると、そこにあるのはどれもこれもが特徴的な西洋画。第一印象でそう思うのは、ユオルの良く知る、荘厳で、鮮やかな色遣いのそれとはモチーフも描き方もまるで対照的だったからかもしれない。
 暗い……いや、これは逆に明るいと形容すべきだろうか。
「それはバロックだね」 
 聞き覚えのある声とともに、降りてくるのは大きな陰。見上げれば、ソファの背の側から、フィンチ型の眼鏡をかけた|猫又《メインクーン》の店主――伽羅が此方を覗いていた。
「大丈夫? そんな覗き込んだら、眼鏡落っこちちゃうんじゃない?」
「大丈夫。例え天地がひっくり返ったって、絶対落ちやしないとも」
 さておき、こうまで暑いと中々お客さんも来なくてね。と伽羅は言葉を続ける。
「蝉時雨すらぴたりと鳴き止む酷暑だ。せめてもう少し日が傾いてくれないと、どうにも手持ち無沙汰でね」
 確かに伽羅の言う通り。アトリエスペースにもショップスペースにも、自分以外には人っ子一人居ないようで、こんな静かなキャラメリゼは初めてかもしれない。
 それならこう言う風に他愛の無い世間話を重ねるのも良いけれど――眼鏡越し、うずうず輝く伽羅の眼差しを見たユオルは朗らか笑んだ。
 知りたがりの聞き手と、絵に造詣の深い語り手が揃ったのなら、それはもう、お約束。

「――イタリアルネサンスが花開いて、人間の描写や遠近法、構図といった絵画の要素が飛躍的に進化した後の時代。今度は『いかにドラマチックに描くか』という事に画家達が関心を持つようになった。それが『バロック』と呼ばれる美術様式だね」
 曰く、より特徴的なのは光と影の演出。暗いところはとことん暗く、光の当たる部分は舞台のスポットライトのように。
「なるほどぉ、どの作品も、明暗のコントラストによって主題も明確になっているよねぇ」
 ユオルは伽羅の解説を興味深く聞き入って、時折頷き、また、良く見た事のある宗教画とは全然違うよねぇ、と、率直な感想を投げかける。
「それはルネサンスの少し後に発生した宗教改革の影響が背景にあって――」
 饒舌な伽羅の講釈は淀みなく続く。
 当時のカトリックの腐敗を嫌い、そこから分離、誕生したのがプロテスタント。故にプロテスタントの影響が強い国ではカトリックで是とされていたものが一転受容されなくなるのも間々ある話で、つまり美術の世界でも、それまでと|描き方《やりかた》を変える必要が出てきたのだと云う。
「カトリックが布教や権威維持のために容認していた鮮やかで荘厳な『宗教画』を受け容れない。質素倹約を是とするため王侯貴族が好むような豪華な絵画というのも認められない。そこで発展したのが、市民階級を顧客に定めた『肖像画』なのだよ」
 解説を聞きながら、ユオルが頁を捲ると、次に現れたのは『テュルプ博士の解剖学講義』と題された集団の肖像画。
「レンブラント・ファン・レイン、わずか26歳のときの作品だね。彼もバロック美術を代表する一人で――」
 それを見た伽羅がノンストップで作品解説に移ろうとしたその時、
 ちりんと、ドアベルが響いた。


 日の光を浴びれば灰になる、なんて与太話はまるっきりの適用外だが、とは云え底抜け青い地獄の如き炎天下、気を抜けば一瞬で干乾びてしまいそうだ。
 そこそこ厳重に封をした依頼の品を小脇に抱え、見知った|画廊《ばしょ》の扉を開けばひんやりと。死んでもいないのに、生き返った気分だった。
「あ。釦くんだぁ。ほら、こっちヘおいでよ。涼しいよぉ」
「おっと。これはユオルサン。こんな暑い日に奇遇だねぇ……」
 人懐こい笑みで手招きをするユオル。近くに店主である伽羅も居たので遠慮なく、釦は涼しい方へ歩を進める。
 察するに、何時もの如く絵画に関するあれやこれやを熱く語っていたのだろう。
「もしかして、ちょっと間が悪かったカナ……?」
「いいや。むしろ丁度良かった。ユオルが話し相手だと、俺もついつい盛り上がって、止め時を見失ってしまうからね」
「ふふ。ボクはそれで全然構わないよぉ」
 ゆるりとソファに体を沈めるユオル。そして一旦お茶でも淹れようか、そう仕切り直す伽羅に、それなら僕はお茶の代わりにハンコが欲しいねぇ、と依頼の品を掲げつつ、釦が云った。
「……一応訊くけど。今度のは、大丈夫かい?」
 心なし、温和だった伽羅の眼つきが鋭くなる。何せこれから取引するモノがモノなので、当然の反応だろう。
「ひひひ……それはもう」
 言いながら、ぐるぐる巻いた封を解く。
「本当に? 前回のはちょっと困るタイプのモノだったろう」
 キャラメリゼに於ける釦の立ち位置は、呪いの画を卸しにやって来る呪物商。
 人死にNG、呪いと言っても『夜中に絵の中の猫がどこかに遊びに行ってしまう』程度――それが伽羅の大まかな|依頼《オーダー》だ。
 ……実の所、肩書きに反し危険な呪物を仲間に売し貸しする事を基本的に好まない釦にとって、伽羅は数少ない例外の一人だった。
 呪画であろうが画である以上どうあれ鑑賞される為に描かれたものに相違なく――そして伽羅のダンナなら、どのような由来の画でも邪心なく、邪心を許さず純粋にただ一枚の『絵』として扱うだろう。呪物だって、偶には日の当たる場所に飾られても罰は当たるまい。
 ただし時折、身内には甘いし甘えるタイプの性格と、持ち前のゆるふわ倫理観を発揮して、多少|不良《ワル》い|呪画《コ》がおイタをしても、『ダンナならうまく叱ってくれるでショ』……的な楽観から洒落にならない(伽羅談)モノを持ち込み、窘められる事もしばしばあるのはご愛嬌。
「前回の?」
 伽羅が席を外したの暫しの間、興味津々とばかりにふわりソファから身を乗り出してユオルが訊いてくる。倫理観ゆるふわ仲間、もとい知識欲旺盛な彼からすれば、美術も呪物も、分け隔てなく同じ興味の対象らしい。
「太い幹にぽっかり空いた、深くて大きな洞の画だったねぇ……そう言うのって、思わず覗いてみたくなるのがひとの性だから、洞の中身が気になって、一歩二歩と間近に近づけば……虚を突くようにお化けがうわぁ! っと……」
 びっくり箱の様に驚かすだけ、人を取って食うワケじゃあ無いけれど、それでも伽羅のダンナから駄目出しを受けてしまってねぇ、と釦はその時を思い出すようにしみじみ語る。
「あれは|一般《ふつう》の人にはちょっと刺激が強いだろう」
「けれどもダンナ、なんだかんだと最終的には引き取ってくれたよねぇ」
「うーん……最初から『今回は|怪奇《ホラー》がテーマ』と銘打って、それ系統の画と一緒に並べれば何とか、なんて、構想してはいるけれど……」
 お茶とお茶菓子を携えて戻ってきた伽羅が顔に少々思索を浮かべつつ、釦に判子を見せた。
 それじゃこっちの書類にと、釦も契約書を取り出そうとしたが、はて、何処を探しても見つからない。もしや暑さにやられて何処ぞに置き去りにしてしまったか、そうでなければ――。
「釦くん、釦くん。この黒猫が齧ってるのって、もしかして……」
 やっぱり其処か。封が解かれ、ユオルと|対面《にらめっこ》している呪いの画……描かれた黒猫が、これ見よがしに大事な契約書を見せびらかしている。
「目立ちたがりの黒猫の画。見る度ポーズが変わるのがウリで、構って欲しくてこう言う他愛もない悪戯をする事もあるコだよ……」
 まぁ、観てやってる内はそう言う悪さもしないでしょ。釦が呪画の額縁を撫でてやれば、ひらりと宙に書類が舞って、画の中の黒猫は獲物を追いかける様な、躍動感のある構図をとる。黒猫なりに格好つけているのかもしれない。
「……そうだ。構図と言えば、さっきのバロック美術に話を戻すと――」
 解放された書類に判を押し、恙なく。特別に空のイーゼルを引っ張ってきて、此方が見えるように黒猫の席も用意すると、伽羅は釦も巻き込んで、中断していた|解説《はなし》を再開する。
「例えばグループで旅行に行ったとき、名所で記念写真を撮るだろう? そのとき、どんなふうに並んで撮影する? きっと、その名所とメンバー全員の顔が見えるように、よそ見をしたり目を瞑った瞬間を写さないように――なんて、ほとんどの人が苦心したこと、あるんじゃないかな」
 それは集団肖像画でも同じで、全員の顔がちゃんと見える様に描くのが当時でも普通だったと云う。
「そう……こんなふうにね」
 伽羅が新たに持ち出してきた画集から、『ファン・デル・メール博士の解剖学講義』を二人に見せる。講義の途中であるにも関わらず、全員が真面目にカメラ目線の圧が強い一枚だった。
「だけどほら、こうして同じ題材の二つの画を見比べてみると良く解るだろう。ドラマチックな表現の参加者、感動的な物語の登場人物になるという高揚感。砕けた言い回しをするなら、レンブラントは、『俺だったらもっとエモい構図で描けまっせ』と、そんな風に新しい表現の提示をやってのけたのだよ」

「……ははぁ。成程。しかし、ニンゲンって奴はこんな場面も絵として残したがるンだな……」
 伽羅の美術語りの終わり、途中参加の釦は感想代わりの軽口を叩く。構図の話も、場面の話も、何やら|現代《いま》でもよくよく耳にするハナシのような……そんな気もした。そして、
「構図もそうだけど、光の効果で、解剖される身体がある種の神々しさを帯びているのも面白いなぁ。場の厳粛さを保ちつつ、実際に講義を聞いているような臨場感も伝わってくるもの」
 そう紡ぎ、二つの画を見比べながら余韻に浸る勉強熱心なユオルへ、
「ふふふ……時代が違えばここにはユオルサンが描かれてたかもしれないぜ……?」
 世間話なテンションで、何気なくそう言葉を放ると、ユオルはそうかもねぇと数度を相槌を打って、暫く。
 何かを思いついたのか、不意にぱっと得意満面顔を上げ、伽羅には聞こえない音量で、釦にひそり耳打ちをする。
(「釦くんって、吸血鬼さんなんだよね?」)

 ――なんだか急に嫌な予感がしてきた。



 ――あのね。今度キミのこと、解剖させて貰えないかなぁ……?

『中身』とか、『解剖』とか、『奇遇』にも釦と鉢合わせした事とか、色々な偶然が重なって、すごい|提案《はなし》を閃いた。
 吸血鬼に纏わる逸話・伝承は数あれど、一般的な解剖学よろしく、彼らの、文字通り『内側』を観察した記録は極稀だ。恐らく|画廊《ここ》にも無いだろう。血を吸って生きる彼らの|臓器《なかみ」》とは? |普通の生物《ひと》のそれと比べて何処がどれだけ違うのだろうか?
 一度気になりだしたら俄然止まらない。それに、解剖を通じて人外の存在に対する理解をより深める事で、取り換え子たる自分の|正体《ルーツ》に迫る事が出来るかもしれない。
 ……と。そんな意図もあり、ユオルは自分と感覚の近い釦へ話を持ち掛けたのだが。瞬間、彼は絶句と共に驚愕の表情を浮かべ、ササッと素早く伽羅の後ろに隠れてしまう。
「あ、隠れちゃった。やだなぁ。友達に無理やりなんてひどいことしないよぉ」
「……だよねぇ。良かった。解剖させて、なんて、流石に僕の聞き間違い……」
「じゃないよぉ?」
「ええっ……!?」
 ユオルが右から覗き込めば釦は伽羅を盾にするり左に隠れ、左から覗けば右の死角に退避してしまう。
 そのまま二人は伽羅を中心にくるくる数周回。
 様子を眺めていた画の中の黒猫が目を回し、見かねた伽羅が「こらこら」と、ユオルを窘める。
「そういうスプラッタなのは感心しないな」
「そうだーそうだー」
 そして彼の後ろから聞こえる姿無き釦の確かな抗議。
 ……何だかちょっとだけ誤解をされているような気がする。けど、話せばきっと解ってくれる――だろう。
「大丈夫だって。√能力で麻酔するから解剖中は眠っていて貰うだけだし――」
 ユオルはテーブルの上、果物籠で微睡む林檎を一つ、手に持つと、懐からメスを取り出してゆっくり、刃を入れていく。
 完全に、真っ二つと別たれた果実。しかしその|断面《きずぐち》同士をくっつけて、真珠色に耀く魔力が揺らめけば、
「この通り。傷跡ひとつ残さず治療可能。希望なら記憶も消せるよ」
 まるで果実そのものが別れていた事を忘却した様に元通り。
「それならまぁ……イヤ、切り刻まれるのは……でもユオルサンの腕なら大丈夫か……?」
 ユオルの説得に揺らぐ釦は、伽羅の後ろからそろっと窺うように半分顔を出す。が、諸々葛藤した末に、辛うじて躊躇が勝ったのか、再び顔を引っ込めて、ユオルの野望を挫くため、釦をかばう伽羅をして『絶妙に生々しい』と評する額を提示する。
 しかし。それを耳にしたユオルは逆ににっこりと無邪気に喜んで、
「その金額で良いの?」
「……あれぇ?」
 お金を払う気満々だった。
「ああ、でも……釦くんは友達だもの。うーん、よく考えれば、お金で買うみたいなお願いはよくないよねぇ……」
 そうだそうだと姿無き二回目の抗議。流石のユオルもそれを良くない事だと認識した時点で、この|解剖談義《おはなし》もお終い――。

「それなら……良ければボクの血も飲む?」
「ふふふ……あのねぇユオルサン、僕が言うのも何だけど、世の中には常識と言うモノがあって、つまり――」

「僕がキミのお願いを断るはずないじゃァないか……!」
「わあぁ、さすが釦くん!」
 と思いきや、最後の最後でまさかの逆転掌返し。
 一転、伽羅の陰から悠然姿を現した釦はガシッとユオルと肩を組むと、何より力強いガッツポーズを一つ。
 あれほど難航していた交渉が、『血』の一言であっさり成立してしまったのだった。


「いやいや、だから駄目だって!」
 これ以上は色々危ないと、この場で唯一真っ当に良識のある伽羅が二人を止める。
 彼らの事は勿論尊重しているが、無垢で好奇心オバケのユオルと、人間基準の善悪を知りながら表面だけ人間に擬態して生きるような釦。このまま倫理観ゆるふわな二人の|目論見《タッグ》を放置すると、何処までも良識や秩序を置き去りにかっ飛んでいきそうな予感がした。と言うか多分間違いなくする。絶対する。
「まぁまァ、伽羅のダンナ、そういう|道理《ハナシ》は一旦置いといて、」
 案の定、釦がのらりくらりとジェスチャー付きで常識を端に追いやろうとするが、
「いいや置いてはおかないよ」
 伽羅も負けじとジェスチャー付きで追いやられた常識を強引手繰り寄せ、
「でも伽羅さん、例えば何センチまでならセーフとか、」
「無いよ」
「実は何インチまでなら合法とか、」
「インチも駄目だよ。ついでに先回りすると尺でも寸でもアウトだからね?」
 ユオルを|常識《もと》の場所へと誘導する。
「いくら我々が死ねない身体だと言っても、そんな物騒な話を看過するわけにはいかないよ。人の身体を傷つける、あるいは生命を脅かす行為の教唆・共謀は、たとえ計画の段階でも法に触れるのだからね」
「……えっ? 傷つけること自体がだめ……?痛くなくて、覚えていなくても?」
 ユオルの零したその問い掛けに、伽羅は力強く頷いた。
「そっかぁ……伽羅さんが言うなら、そうなんだね。勉強になったよ……ごめんねぇ、釦くん」
 そう言って、しゅんと肩を落とすユオルの姿には少々の同情心を覚えたが、彼ならきっと、今回の事を良き糧としてくれる筈だ。
 ――それはそれとして、

「釦。君、今ちょっと残念に思っているだろう?」
「ひひひ……いやァそんな……」
 笑って惚ける釦に伽羅は息を吐く。彼の方はこれで懲りるタマでも無いだろう、と。


 日が傾いて、戻ってきた客足と入れ違いに、二人は画廊を後にする。
 蝉時雨が響き始めた夕焼け色の帰り道、釦は半歩先を歩くユオルの背を眺めた。
 釦は吸血鬼として『血が何よりも好き』ではあるが、敵から無遠慮に奪う血と親しいニンゲンから分け与えられる血、そこには大きな差があると考えている。
 しかし彼はそれが必要と判断すれば……怪異だろうが知人であろうが、同じように冷静に丁寧に切り刻む事ができるのだろう。きっと美術も呪物も怪異も知人も、探求心と言う名の同じ線の上にあるのだ。
 ふわりと綿毛の様に軽やかな――そんな穏やかな見た目にそぐわない、内に秘めた彼の暴力的ともいえる探求心に対しては一種の尊敬の念すら感じた。自分もその対象になる事には、流石にちょっと吃驚したが。
 ……吃驚したが。そういうハナシは置いといて、血を求めるのが吸血鬼の性ならば、ユオルの提案は真実釦にとっても願っても無い事で、だから少々ダンナに悪いと思いつつ……それでもユオルを呼び止め、ひそりと耳打ち。
 途端にぱっと表情が明るくなるユオル。不敵に笑う釦。

 蝉時雨に紛れて、触手の一部と血液一パック分の|密談《トレード》が交わされる。


 ――が。後日。

「きーみーたーちーねぇ……」

 画廊を訪れた二人が揃ってあからさまにほくほく顔だったものだから、一瞬で伽羅に全てがバレてしまったのだった。
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