【バベル建設√ZERO】1.2
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その女はまるでアクアリウムに浮かぶ藻だ。
もう少し美化するならばビーカーやフラスコに入れられた海老だ。
『……』
拘束用の衣服はバンドで身動きを処しているにも関わらず、上から鎖で全身を拘束されている。それどころか首から下はアクリル牢……プラスチック樹脂を流し込まれて動く為のスペースすら剥ぎ取られていた場所だ。とある伝奇小説で『体は少女なのだから、コンクリートで拘束しておけば良いんだ。下手に能力で隔離するから脱出される』というありがたい忠告がされたことがある。きっとこの処置をした者は菌糸類のファンか、さもなければ偏執狂であろう。
『っ!?』
その人物が動こうとした瞬間にバシリと強い電気ショックが走った。
目も口も塞がれているのに、行動の自由も尊厳すらなかった。
もし、とある死神が登場する漫画の科学者がこの処置を見たら、自分ほど被験者の体調と尊厳に気を使う者はいないと自画自賛しただろう。
やがてプラスチック樹脂で覆われた部屋に変化が訪れる。
『……?』
目隠しが不意に外れ、女が驚くが電気ショックはない。
圧力を掛けて硬化されている筈の樹脂がドロリと動き始める。
まだだ、まだ早い。まだ何もできないのだから反応を見せるべきではない。
「管理番号1223。餌の時間だ」
その時がやって来た。
コツコツと足音を立てて誰かがやって来た。
「顎の拘束を解除してやる。大人しく栄養補給を……」
そいつが栄養剤である液体を胃に送り込もうと、経管栄養カテーテルの操作をしようとした時、その動きは非常に緩慢に成った。
「私は、だれだ」
「!?」
言葉が聞こえたような気がする。
正確には言葉自体が拷問であり、回答を貪る端末であった。
「誰でもない。管理番号以外は消去」
「そうですか。ああ……外は、外は何処でしょうか」
魅了されて忠実に成った職員から情報を入手し、即座に外部への脱出へ協力させた。扉が開くと樹脂が流れ出てアクリル牢に意味がなくなる。
「これと、これ、これも戴いていきましょう」
職員の服を剥ぎ取り、ポケットに詰め込める物を詰めながら移動を始める。
「目的も、理由も、使命もない、何も憶えていないのだから。ただ、何もないのも飽き飽きだ。ならば……この変化の原因に逢いに行くとしよう」
そして立ち塞がる者たちを魔術で排除し、剥ぎ取れる物は全て剥ぎ取りつつ、拘束用や警備用の電気を止めた存在のもとへと向かった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功