捜査三課、無人島でバカンスに興じる

【三課バカンス】
■話のあらましは日南カナタのプレを参照
■呼称 1人称「俺」 2人称「お前さん」
■金菱・秀麿。
飄々とした骨董好きの中年刑事。
今回のバカンスでも基本他のプレイングでも、
同じ感じです。
■スイカ割りのプレ
「スイカ割りと言えば夏の風物詩。
そしてスイカの中に良く冷えた日本酒を注ぐと
美味いスイカ酒ができるねぇ~」
と良く冷えた清酒の瓶を子気味良く振りつつ、
スイカ割りに勤しむ面々を応援する。
■人狼のプレ(村人ポジション)
「俺はしがない村の壺職人。
今日も一日粘土をこね回し、
村のみんなが使う陶器を作るとするか」
と仕事場に向かうと昨日作った壺が、
無残にも全て壊されている事に気が付く。
「クソッ折角の俺の仕事が台無しだ。
一体どこのどいつだ?
まさか最近噂になっている人狼の仕業じゃ……」
そんな風に金菱が嘆いているとあるものが目に入る。
「ん、割れた陶器の中に何かあるな。
これは朱い布切れ?まさか犯人は……」
累の身に着けている朱い包帯らしき布切れを見た金菱は、
累が壺を割った人狼ではないかと疑い累に投票する。
※ここの朱い布切れの部分は別の誰かの偽装工作でも良いです。
日々激務の刑事にだって福利厚生はある。
というわけで八曲署捜査三課のはみだしものの面々は、なんと無人島貸し切りという非常に盛大で豪華な夏のバカンスを楽しむことに。
これなら一般市民に被害が出る心配も無……もとい精一杯羽根を伸ばして楽しめる!
……と、思っていたのだが……。
「ヒ、ヒィーッ! 潰されるーッ!!」
のっけから、八手・真人のけたたましい悲鳴がビーチに木霊した。
逃げ惑う彼の背後に迫るのは、迷宮の大岩……ではなく、瑞々しいグリーンに黒いギザギザの縞模様が入った巨大な球体だ。
……スイカだこれ!!
「ナンデ!? スイカが自走ナンデ!?」
そしてスイカは、動いていた。真人なんて簡単に押し潰してぺしゃんこにしてしまえそうな、具体的に🔵の数で表現すると👑まで🔵が60ほど必要になりそうな大きさなのである!
なんだろう、この分かるようで分からない表現。とにかくクソデカいことは言うまでもなく、そして動いていた。誰も転がしていないのだ。
「サムライの時代から続くと言われている、日本の夏の風物詩――この身で体験できるとは!」
英国少年(幽霊)のチェスター・ストックウェルは、日本の異国文化を楽しめるチャンスに目を輝かせる。
「……けどなんかサイズ大きいし、何故か動いてるんだけど……動画となんか違うよね?」
「あらぁ、何言ってるのよチェスター。動画だけで世界を知ったつもりになったらダメよぉ?
それにスイカが大きいのに越したことないじゃなぁい、|この人数《11人》なんだしね~」
と、イグ・カイオス・累・ヘレティックは軽く流している。
「それよりもあの大きさのスイカってどんな味がするのか気になるわぁ」
「早くスイカ酒が飲みたいねぇ。いいとこの|清酒《さけ》を持ってきてあるんだよ」
金菱・秀麿は今まさに冷やしている最中の酒瓶をちらり。飲む時が待ちきれないといった様子。
一方、志藤・遙斗はもう煙草に火を点けていた。目の前の現実に頭の処理が追いついていないのである。
「……あの、当然のように受け入れてますけど、アレは本当にスイカなんですか……?」
「え? どう見てもスイカじゃないの。あの色あの艶、夏といえばこれしかないよねぇ」
「いやでも動いてますし……汎神解剖機関が作った生物兵器か何かなのでは……?
というかあのままだと、八手さんが押し潰されてバカンスどころではないですよね??」
呑兵衛の秀麿と違い遙斗は|常識人《まとも》なので、違和感を捨てきれないのだ。
「た、たす、たすけ……ヒィッ たすけてー!!」
真人は炎天下の中命懸けの全力疾走をさせられ、汗だく疲労状態。なお、蛸神様は特に手を出してくれなかった。だってほら、変に攻撃してグチャグチャになったら美味しいスイカ食べられないし……(食欲)。
「……恭兵、あれは燃やしてしまうのが早いんじゃないか?」
と、アダン・ベルゼビュートが静寂・恭兵に言った。
「それはやめた方がいいだろう。酢豚のパイナップルのようになって、美味しくなくなるぞ」
「今、酢豚のパイナップルをdisった声が聞こえたワン!!!」
広瀬・御影がただならぬ勢いで喰らいつく!
「許せんニャ! 確かにパイナップルを入れるようになったのは高級感を出すためワンが、それはそれとして世に言われているようにお肉を柔らかくする効果だってちゃんとあるんだニャア!」
「待て、酢豚のパイナップルが悪いとは言ってない。というか、そんな勢いで食いついてくるほど好きだったのか、酢豚のパイナップル」
「(スンッ)いや特にどっちでもいいワンね」
「なんだそのノリ最優先の勢いは?! というか、今は酢豚のパイナップルの是非で喧々諤々になっている場合ではあるまい!」
周りにボケばっかりなので、アダンがツッコミ役になってしまった。かわいそう。
その時である。
「どぉっせぇーい!!」
ドガァッ!! と大地を揺るがすほどの轟音が響き、巨大スイカは強制的にコース変更させられた。
「むむっ! 手応えはありましたが効いている気配がないですねぇ!」
巨大な|槌《ハンマー》を肩に担ぎ、制服風ジャケット水着姿の唐花・紡季が目を輝かせる。
「てっきり木刀か野球バットを使うものだと思って、これは燃えてきました! こうなれば√能力も全開でいいですよね!? ね!?」
完全に|戦闘狂《スイッチ》が入っている。
夜天義槌のフルスイングをものともせず吹き飛んだスイカは、白い砂を吹き飛ばしながらズシンと着地。
当然これで大人しく(スイカの獰猛さとは?)なるはずもなく、再びゴロゴロと転がり始めた。
「うーん、困りましたね……」
三つ編み&水着モードのマリー・エルデフェイはなにやら悩ましげな表情だ。
「あれ!? 待って、今度はあのスイカこっちに来てるー!? びぇぇええー!!」
へたりこみ、ガタガタゼエゼエ息を整えている真人の次は、日南・カナタが標的(スイカの標的とは?)に選ばれたらしい。
情けない悲鳴を上げ逃げ回るその姿を、マリーはうんうん唸りながら眺めている。
「スイカ割りはいいのですが、割ったあとのスイカはどうしましょう?
こんな砂浜で砕け散ったら、果肉に砂がついて食べられませんし、捨ててしまうのは食べ物を粗末に扱っているようであれですよね?」
「そこじゃなくないですか!? 今気にするのそこじゃないでしょマリーさん!? 俺! 俺がスイカに割られそうになってるんですけど!!??」
逃げ回りながら必死で自分の存在をアピールするカナタだが、マリーはまったく聞いていない。
「食べ物を粗末にするのはバチが当たりますし、かといって砕け散った破片では可食部もあまりなさそうなんですが……」
「ならばこの宝刀で切断すればいいんじゃないか?(刀をすらりと取り出す恭兵)」
「刀なら俺もありますけど……あの生物兵器みたいなスイカに近づきたくないですね俺は(早くもサボりモードの遙斗)」
「となると燃やすのもダメか……美味しく食べられないのは困るぞ、本当に困る!」
「スイカ酒が楽しみで清酒持ってきたんだからなぁ~、粉々にするのだけはやめてくれよぉ」
「ちなみに今回はアタシは|見守り係《けんがく》よ、下手したら地球割れちゃうし」
「つまり囲んで警棒で叩くワン! オラオラオラオラーッ!」
御用警棒を振り上げた御影が、スイカをスパーンと殴打!
……だが警棒でブッ叩いた程度で、このサイズのスイカがびくともするはずがない。
「このぐらいじゃダメニャンね。僕は無力だワン。さよならカナタ君」
「諦めるの早くないですか!? 死んじゃう死んじゃう俺死んじゃうぅううーっ!!」
「任せてください! 今度こそ粉々にしてみせますよ! 剛鬼! 乱撃ィーッ!!」
続いて紡季が飛びかかり、再びハンマーを振り下ろす。今度はジャンプして体重を乗せての垂直ハンマースイングだ!
ゴガァッ!! とすさまじい衝撃がスイカに直撃。転がっていたスイカは有り余るパワーの反動で、砂を撒き散らしながら大きくバウンドする。
「くっ! これでもまだダメですか……!」
「硬いなぁ……ところでさ、あの軌道から考えると落下地点って……」
チェスターの視線がスイカを見上げ、仮想の落下軌道をなぞるように下へ。
「へ??」
そこには、カナタがいた。
バウンドしたスイカは空中でギュルルルルとスピンしながら、カナタを巨大な影で覆う。
そして、チェスターが予想した通りの放物線を描き、重力に従って猛スピードで落下!
「ちょちょちょちょっとぉおお!? なんで俺に向かって勢いついてるのぉおお!?」
哀れ、カナタは巨大質量で押し潰されぺちゃんこに、いや粉々に!?
「た、たこすけ、ちょっと待……う、うわわわわっ!!」
そこへ蛸神様に引っ張られた真人が割り込み――SMAASH!
邪神の怪力を籠めた触腕アッパーカットで、スイカは大きく真上に吹き飛ばされた。
「たこすけ、危ないから無理矢理はやめてよ……!」
真人は慌てて安全域に避難する。
「た、助かったぁ……」
カナタは安堵のあまり、その場にへたり込んだ。
「おい、日南! 何を座っている!」
アダンが鋭い声で叫んだ。
「そのままだとまたスイカが落ちてくるぞ!」
「え――」
真上に打ち上げられたのだから、当然である。重力に再び囚われたスイカが一気に落下!
「うわー!? ぎゃー!? 死ぬーーー!?」
カナタは慌ててロングハンマーを取り出し、無我夢中で振った!
スパーン! と小気味いい音を立て、スイカはカナタから数メートルズレたところへ「着弾」する。
重量が重量なので、砂がクレーターのように吹き飛んで飛沫のように溢れた。
「はーよかった助かぶべーっ!!」
そして、カナタは砂に呑まれた。哀れ。
「今ならチャンスだ! みんなで攻め込もう!」
どこからともなく持ってきたバットを構え、チェスターが先陣を切った。
「一体誰がこんなデカブツを用意したのだ……! 援護するぞ!」
アダンの『狼影』がチェスターに追従する。
「いやー、開幕から大騒ぎですねぇ。三課らしいといえばらしいですが」
「スイカ割りってわちゃわちゃするものだもの、夏を満喫してるってコトよ♡」
「この歳になると、ああいう若さが羨ましくなっちまうねぇ」
遙斗・イグ・秀麿は、完全に応援モードを決め込んでおり遠巻きに座って観戦している。
「どうやら俺たちで片付けるしかなさそうだな……仕方あるまい」
重い腰を上げ、恭兵も参戦だ。静寂家の宝刀を手に、動き出そうとするスイカに斬りつける。
だが糖度……ではなく強度🔵60のスイカを👑するのは至難の業だ。一同の一斉攻撃を浴びたスイカは、再び砂を吹き飛ばして回転開始!
「うわーっ!?」
逃げ遅れたチェスターが押し潰され!
……なかった。幽霊なので、するりと透過したようだ。
「っぶな、実体がなくて助かったぁ」
「え? 何、たこすけ。危ないからもう殴りに行くのはってこっちに来てるー!?」
その先には呑気こいていた真人! 再び全力疾走で逃げる羽目に!
「ど、ど、どどどどうして誰も止めてくれな……ハヒッ、ハヒィッ」
「うーん……切るとしても切断面に砂がついたらやっぱり同じですし、あの大きさだと支えるのも一苦労ですし……」
「マリーはいつまで悩んでいるんだ??」
「かといって加勢を頼んでも暴力嫌いのマリーだからな……恭兵、同時攻撃を仕掛けるぞ!」
「やれやれ……どこの畑で育ったんだ、こいつは」
恭兵とアダンはコンビネーションでスイカを攻め立てる。スイカを攻め立てるって何?
「もう一発行きますね! 今度こそ粉々です!」
「待ってください唐花さんこの流れだとさっきの日南さんみたいに俺が押し潰される流れなんですけど!!??」
「せぇーい!!」
スイッチが入ってしまった紡季には何も聞こえていない。そしてフルスイングを受け、やっぱり空中高く舞い上がるスイカ!
「ギャー死ぬ死ぬ今度は俺が死ぬ! たこすけ助けてぇえええ!!」
背中からぬるんと無数の触腕が生え、落ちてきたスイカを……トスした!
「あらぁ、ビーチバレーみたいで楽しそうだわ~」
イグはのんびり眺めながら日焼けスプレーを全身にぶっかけ、キラキラ輝く身体で何故かボディビルダーさながらのキレのあるポーズをキメていた。
「ほら真人、カッコいいところ撮ってあげる!(デジカメでパシャリ)」
「あ、ありがとう累ママ……いやなんか違うくないですか!? 手伝って!!?」
「(もぞっ)げほっ、ごほっ……す、砂が口の中に入って死ぬ……」
ようやく砂の中から這い出してきたカナタ。
……に、スイカは狙いすましたように落下した。
「なんでまた俺ぐえー!?」
再びバウンドするスイカ!
「この空中にいる間に仕留めるぞ」
「つまり全員で一気に攻撃だね、OK!」
恭兵の言葉にチェスターが頷き、バットを構える。
「カナタ君の尊い犠牲を無駄にはしないワン!(※死んでない)」
「そ、それなら俺も……たこすけ、ほどほどにね、ほどほどに……!」
「フハハハハ! 俺様たちのチームワークを見せてくれる!」
「これが四度目の正直! です!!」
御影の、真人の、アダンの、そして紡季の攻撃が、同時に叩き込まれ――!
「……悪いけど、斬る!」
それまで観戦していた遙斗の影が踊り、スイカをスパッと両断した!
「ふう。なんとか無事に切れましたね」
「いいとこ持ってかれたニャン! サボッてたくせに!」
「サボッてないですよ。ちょっと様子観察をしていただけです」
遙斗は平然と言いながら刀を納めた。
「ウギャーッ果汁が! 果汁が目に!!(のたうち回る真人)」
「まあ、これでひとまず一件落着……」
「――そうだ!」
恭兵が言いかけたその時、マリーは何かを閃いた。
すると、真っ二つにスライスされたスイカが、まるで逆回しの映像のようにピタッと切断面をくっつけてしまったのである。
「「「ん!!??」」」
一同は予想外の光景に言葉を失った。
「これでよし。元通りになりましたね!」
一同の視線が、マリーに集中する。
『レヴェリオ・アエテルナ』を使い、スイカの時間を巻き戻してしまったのだ。
「というわけで今度は、もっと食べやすい感じでカットをお願いしますね。一応ゴミ袋は用意しておきますが、粗末にしないに越したことはありませんから!」
「……いや待て!? 何もかも目的がズレておらんか!?」
「俺たちはなにかの苦行に囚われでもしたのか???」
アダンと恭兵がツッコミを入れるが、マリーには通じない(無敵)。
「今度は私がフィニッシュブローをもらいますよ! テイク2です!!」
「つむぎ君はまた殴れるもんだから完全にやる気になってるニャア!」
悲喜こもごも(悲9割)の悲鳴が響く中、再びスイカがゴロゴロと動き出す……。
「いやぁ、暑いってのに本当に元気だねぇ若い連中は」
「アタシもお肌が気になってくる年ごろだし、羨ましいわぁ~」
一方、呑兵衛と何故かツヤツヤキラキラしているイグは、完全にマイペースだった。
●
そんなこんなで天然ボケを発揮したマリーが何度か時間を巻き戻し、🔵60どころじゃねえ死闘でへとへとになりつつもスイカを堪能した三課一行。
「も、もうスイカ割りは嫌だ……」
「スイカ割りって、こんなに過酷な戦いだったのかぁ……」
まるで死闘を繰り広げたようにボロボロになったカナタと、へとへとになったチェスターがようやくコテージに辿り着く。
「まだ残ってる部分がありますし、冷蔵庫で冷やして明日頂きましょうか」
「マリーさんの調理スキルには助けられますが何か腑に落ちないですね……」
にこにこ笑顔のマリーに色々言いたいことが湧いた遙斗だが、言っても無意味そうなので諦めた。夏で浮かれているせいなのだろう(適当)。
「ん? なんだ、このカードは?」
あとからついてきた恭兵が、なにやら席に配布されたカードの存在に気付いた。
するとそこで、どこからともなくカンカンと金属をぶつけ合わせる音が響く。
「こらー。みんなぁ~早く席に着きなさぁ~い」
「……いや待て、なんだその格好は!?」
音の正体はイグが鳴らすフライパンとおたま……なのだが、アダンがツッコミを入れたのはそこではなかった。
なぜなら、イグはフリフリのピンク色エプロンを着ていたのである!
「え? なぁに、ママの格好に変なところでもあるかしらぁ? それより朝なんだから席に着きなさぁい!」
「累ママが本当のママになっていますね……」
マリーもちょっとヒき……もとい、困惑した。あまりにも唐突すぎるのだ(今に始まったことではないが)。
「……みんな、ちょっと聞いてくれるか」
さらに奥からヌッと現れたのは、いつになく真面目な顔をした秀麿だった。何故か作務衣姿で頭にバンダナを巻いている。
「や、やけに似合いますね……っていうかどうしたんです?」
と真人が聞くと、秀麿は懐から割れた陶器の破片を取り出した。
「見てくれ。俺の工房にある壺が無惨に割られていたんだ……全てな。
これはおそらく、最近噂になっている人狼の仕業に違いない……!!」
「ツッコミポイントが増えましたよ!? 工房って何の話です!?」
こちらの指摘や疑問をよそに勝手に話が進んでいくので、紡季も困惑した。
「なんですって、人狼? やだぁ、怖いわぁ~。アタシたちの中にそんな恐ろしい怪物がいるなんて……どうしましょう!」
「……なるほど。何かと思えば、つまり人狼ゲームをやる、ということか」
カードに目を落としていた恭兵が触れたことで、ようやく二人の寸劇の意味が一同にも伝わる。
「な、なんてことだ……こうなったら島の広場でディナーしつつ、人狼を探して処刑するしかないっすよ!」
「急に元気になったな日南よ。お前の差し金か」
「え?? なんのことです??? とにかくほら、各自カードをめくって役職を確認してください!」
アダンは呆れ顔で見やりつつ、言われた通り他の面々と同じように自らのカードをチェックした。
いわゆるワンナイト人狼を基本にしたルールのようだ。
「じ、人狼ってやったことなくてェ……ルールわかんないんですけど……」
真人はおずおずと申し出た。友達のいないコミュ障陰キャの悲哀である。
「えーと、隠れてる人狼を見つけてみんなでボコボコにして狩るんでしたっけ?」
「違ぇよ、話し合いをして投票するんだ。で、カードに書いてある役職に応じて特殊な行動が出来る奴もいるってわけだなぁ。出来ることはカードに書いてあるはずだ」
と、作務衣姿の秀麿が遙斗にレクチャーした。
「人狼はもちろん役職を明かしたりしないから、誰かが嘘をついてる。それを会議で見破って投票し、人狼を吊し上げられれば勝ちってことだね」
チェスターが横から補足を入れる。
「八手さん、安心してくださいね。実は私も人狼ゲームって初めてなんです!」
ちょっとドキドキワクワクと緊張した様子のマリーが言った。
「疑いかけられた時に物理で対抗しちゃったりしたらダメなんですか??」
「スイカ割りで入った戦闘スイッチが入りっぱなしワンね。それやったら乱闘でゲームの種目が変わるニャンよ?」
困ったら腕力で解決しようとする紡季に、御影がツッコミを入れた。
そして、コテージから所変わって島の広場。
そこには人数分のお皿が用意されており、いつのまにか出来立てのTボーンステーキが鎮座しているではないか。
もちろん成人にはワイン、そして未成年にはぶどうジュースだ。人狼の雰囲気を高めるための肉と血……といったところか。
「ってあれ!? 俺のハンマーがピコピコハンマーになってる!?」
「私もです! これなら怪我しませんし物理で解決しても」
「はいはい、お肉切ってあげるから紡季も着席するのよ~」
かくして11人は円卓に着き、人狼を炙り出すため腹の探り合いをすることとなる……!
「それじゃ、早速だが」
まず口火を切ったのは恭兵だった。
「俺が占い師だ」
「エッ、アッ……お、俺は人狼です……ッ!!」
スッ。つられて真人も手を挙げてしまう。
「いや早いよ!? っていうか、人狼はCOしちゃダメなんだよ!」
「エッ……だ、ダメなんですか!? アッ、ヤッチャッタァ……」
チェスターに言われ、真人は顔を覆った。初心者あるあるだ。
「いいえ、待ちなさい」
そこでTボーンステーキを切り分けてあげていたイグが、シリアスな声音で言った。
「本当に真人が人狼かしらね? 狂人って可能性もあるわよ」
「ふむふむ……狂人は村人のふりをしつつ、人狼を勝たせるために場を引っ掻き回す役職なんですね」
ルールブックを読んでいたマリーが頷きながら読み上げる。
「ちなみに僕は善良なパン屋だワン。料理はまるでダメな僕だけど誰がなんと言おうとパン屋なんだニャン」
「広瀬さんのこれリア狂ってやつじゃないですか??」
「ひいい……! 疑わしい人が多すぎる……ッ!!」
訝しむ遙斗。カナタはビクビクしつつTボーンステーキをナイフで切り分け……切り……。
「全然切れんわッ!! がぶり」
おもむろに切れてないステーキに噛みつき、むしゃむしゃ食べた。
そして無意味に一同を見渡し、にやりと笑う。
「ヒッヒッヒ……」
「あ、これは間違いなく人狼ですね。怪しそうなのでカナタ君を撃ちますね(エアガンを構える遙斗)」
「えっ今ので疑われるの俺!? っていうかさりげなく狩人CO!?」
「はい。狩っちゃえばいいんですよね人狼、じゃあ撃ちます」
「撃たれる!? ちょっと荒々しい食べ方しただけなのにィ!?」
「……何故占い師COした俺の占い結果を聞く前に話が進んでるんだ??」
ベーシックメソッドが欠片も通用しないカオスな戦場に、恭兵は置いてけぼりになっていた。
「そうだ。まずは我が相棒の言葉を聞くべきだ。日南を撃つのはそれからでも遅くあるまい」
「俺撃たれるの確定!?」
アダンに促され、恭兵は咳払いした。
「俺が占ったのはアダンだ。結果は白、つまり村人陣営の可能性が高」
「フハハハハハッ!!」
アダンはガタッと立ち上がり、奇妙なポーズを決めた。
「流石だ我が相棒、その通りッ! 俺様はかつて魔界にて魔蝿を統べていた覇王――だが今は此の村の長! すなわち、『村長』であるッ!!」
「…………いや、言った俺が言うのもなんだが、そう簡単に信じていいのか??」
COしたはずの恭兵の方が呆気にとられていた。
「無論盲信している! なにせ相棒なのだからなッ!!」
「この卓、狂人候補多すぎないかねぇ?」
秀麿は呆れた。
「怖いわね~。ママぞっとしちゃうわ。でもそういうところもアナタたちのいいところよ♡」
「あの、ちなみに累ママの役職はなんなんです……?」
マリーはおずおずと質問した。
「そんなのママに決まってるじゃない。みんなのお世話をしてあげる優しいママよ☆」
「僕はもちろんパン屋だワン。美味しいパンを焼くだけのしがない自営業ニャンよ」
「じょ、定石が通用しなさすぎて何もわからない……ッ!!」
セオリーなんぞクソ食らえみたいな勢いのリア狂集団に、チェスターは頭を悩ませる。
「まあ、一部のもともと狂っている連中はともかく」
アダンは咳払いした。
「さっきも言った通り、俺は村長……一人で二票分投票できる村人陣営の役職だ。
つまり己を村人陣営と認定した占い師を信用するのは、そう不思議なことでもあるまい?」
そして、油断ならない表情で一同を見渡す。
「というわけで……全員の役職を聞こうか。俺様が二票分の権利を有しているという意味を忘れずに、申し出ることだ」
「僕はただのパン屋ニャンよ?」
「んもう、ママのことがわからなくなっちゃったのかしら?」
「壺を焼くしか能のない、ただの職人だ」
「うむ、まあ、|リア狂集団《そのあたり》はもういいとしてだ」
アダンは流し、まず紡季を見た。
「唐花よ、お前の役職はなんだ?」
「はい! 狩人です!」
おもむろにピコハンを振り上げる紡季。
「COするつもりだったんですけど、すっかりペースを持っていかれちゃいましたね。
でも私も人狼をカウンターできますから、守ってほしい人は言ってくださいね!」
「専守防衛では限界がありますよ。カナタ君を撃ちましょう」
「志藤先輩、俺に執着しすぎじゃないです!? 本当に狩人!!?」
「……そういう日南さんお役職はなんなのでしょう?」
話を静観していたマリーが水を向ける。
するとカナタはおもむろにワイングラスを手に取り、葡萄色の液体越しにマリーを見返した。
「クックック……さあて、教えてあげましょうか? 知りたいなら……」
「やっぱり人狼ですね。撃ちましょう」
「やめて!? あのすみません村人ですごめんなさい! ちょっと悪役ムーブっぽいことしてみたかったんです!!!」
「あ、あのムーブって何か意味あるんです……?」
「いや、単にカナタ君が迂闊で適当なだけニャンね」
御影は真人の疑問にばっさりと答えた。
「ところで、チェスター君の役職はなんなんだワン?」
「俺? 俺は村人だよ」
チェスターは平然と答えた。
「で、早速なんだけどさ。アダンと恭兵はちょっと怪しくない?」
「エッ……な、なんでです? さっき占い師って……」
「それだよ」
真人を指差し、持論を展開するチェスター。
「人狼や狂人が占い師を騙るのはセオリーだ。相棒同士なら息ぴったりなのも当然でしょ?
二人とも人狼ないし狂人で、疑いから外れるために口裏を合わせてる可能性だってあるんだ」
「アッ……な、なるほど……!!」
真人は疑惑の視線を二人に向けた。
「じゃあお二人に投票、しないと……!」
「待て八手、お前は人狼なのだろう? 仮に俺様たちが仲間なら仲間を吊ってどうする」
「アッ……エッじゃあ誰を……いや違う俺は人狼じゃないです!!!」
「…………」
チェスターはそのやりとりを眺めながら、頭の中でめちゃくちゃ悩んだ。
(「狂人が多すぎる!!!」)
実を言うと、チェスターは人狼である。
なので村人を適当に吊るし自分から疑いの目を逸らしたいところなのだが、定石がそもそも分かってない初心者ムーブで引っ掻き回す真人や、完全に狂っている(平常運転とも言う)イグや御影のペースに狂わされており思考はままならないのである。
ちなみに、その御影もバッチリ人狼だ。そのあたりはここに来るまでの夜の時間でしっかり確かめているのだが、チェスターはなんか半信半疑になっていた。なんなんだこいつ。
(「っていうか人狼はまあいいとして、狂人がいるのか? いないのか? わかんないし誰なのかもわからない……!」)
チェスターは悩んだ。最悪狂人を吊るしても自分たちが生きていればそれはそれで勝ちなのだが、どうせなら歩調を合わせて疑いの目を村人に向けたいところ。そのための連携が全くできない。なぜなら大半の奴らが狂ってるから。なんなんだこの卓。
「……そろそろ、俺も情報を明かすべきか」
その時、おもむろに秀麿が口を開いた。
「実は割れた壺の中に、こんなものが入っていてな」
彼が見せたのは、朱色の布切れだ。
「俺の壺を割った犯人は……累、お前さんじゃねえのか?」
「え!? やだぁ~、どこでそんなの手に入れたの? エッチねぇ!」
何故か恥じらうイグ。なんなんだ。
「……えっと、これって何かの役職の特殊能力なんです??」
状況を飲み込みきれないマリーがこっそり周りに質問した。
「いや、あれはただ単にひでまろ君が本気で壺職人RPをしてるだけニャンね」
「ええ……?」
御影がしれっと回答する。彼女は人狼なので、ある意味村人の秀麿に疑いの目を向けている工作といえなくもないが、もともと秀麿がイカれているので工作ではなくただの事実の指摘でしかなかった。なんなんだこの卓。
「あ、ちなみに吊られた人は――」
カナタは広場にある丸太木をビシッと指さした。
「あそこに一晩縛り付けられることになりますんで!!」
「そこもガチなんです!? これはいよいよわからなくなりました……! どうしよう、誰をピコハンで殴れば……!」
ゴクリ、と緊張する紡季。
「じ、人狼ゲームってこんなに難しいんですね……!」
「とりあえず、これが普通の卓だと思うのは絶対にやめておけ」
恭兵が真人を冷静に諭した。
それからも議論(?)は白熱し、いよいよ投票時間。
「では全員、一斉に吊るしたい人を指さしてください!」
カナタの合図のもと、全員が指を突きつけた。
投票結果は以下の通り。
アダン:カナタ(✕2)
恭兵:カナタ
真人:カナタ
遙斗:カナタ
秀麿:累
チェスター:カナタ
カナタ:遙斗
マリー:チェスター
累:カナタ
紡季:累
御影:カナタ
「………いや待って!!?!?!」
バン! カナタはテーブルを力強く叩いた。
「あの流れで俺に票が集まるの、なんでぇ!?」
各々がそれぞれに投票理由を明かしていく。
「いやだって磔にされるって嬉しそうに話してたからされたいのかと思ったワン」
「ちなみに私は違いますからね! とりあえず誰かに入れないとなのと、あとは勘です!」
「よかったわねぇカナタ、今日のヒロインよ。ちなみに遺影も用意しておいたわ(そっ……)」
「なんか怪しそうな気がしたからね! っていうか怪しいムーブしかしてないし!」
「……まさか、この布切れはお前さんの偽装工作だったのかい?」
「撃った方が速いかなと思ったんですけど、まあ投票で決まるならそれもいいかなと」
「や、やられる前にやるしかないので……(?)」
「俺はお前に投じるのが安牌だと思っただけだ」
「フハハハハ! やはり気が合うな、相棒よッ!」
ズタボロだった。
「う、うーん、|アダンと恭兵《おふたり》に疑惑の可能性を提示してたチェスターさんが怪しいような気がしたんですけど、圧倒的に日南さんですね」
実は正解を引いていたマリー、圧倒的アウェイのカナタが少し可哀想になった。
「うわー!! 嫌だー!! 俺村人って言ったのにー!!」
「村人なのにあんな狼っぽいムーブしてたのなんでだワン?」
「だって!! 人狼ゲームなんだし!!!」
「いいから大人しくしてください。痛みは与えませんから」
「大丈夫です! ピコハンなので!」
狩人の遙斗と紡季ががっしりと両脇に腕を通し、喚くカナタを磔にするために連行する。
「……じゃあ、役職を開示してみるか?」
秀麿の言葉で、一同はカードをオープンした。
先述の通り、人狼はチェスター、御影、そして真人――つまりこの時点で、誰も処刑されていない人狼が勝利ということになる。
村人はマリー、カナタ、秀麿。狩人および占い師・村長はCO通りの役職だ。
「やっぱりチェスターさんだったじゃないですかー!」
「へへ、悪いねっ! なんか思惑とは別の方向で成功しただけな気がするけど」
と言いつつ、チェスターは得意げな顔。勝ちは勝ちである。
「ごめんだニャン、実は僕は美味しいパン屋さんじゃなかったワンよ」
「むしろ狂人でなかったことに俺様は驚いているんだが」
「くーっ、私もまんまと騙されちゃいました! 悔しい!」
「あれは騙されたとかそういうレベルの話か???」
悔しそうにする紡季に対し、恭兵は色々な言葉が湧いているようだ。
「というかそもそも狩人は攻撃的な役職じゃないんですね。理解が足りませんでした」
「処刑された時に人狼を道連れに出来るのが能力だからな……ところで」
秀麿はイグのカードを見た。
書いてあるのは、狂人である。
「あら、このワイン美味しいわ(パァン!)」
当人はワインが美味しくて胸のボタンが吹っ飛んでいた。
「累ママには勝てませんね……色んな意味で」
真人は呆れたような尊敬したような不思議な気分に囚われた。
「俺が磔にされてる意味、なんなのこれーーーー!?」
カナタの叫びは、むなしく響き渡った――。
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