コーラルエンド楼間飛行船~白き飛行船に想い出を映して~
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「バリスタを放て! 喰らいつけ!」
「逃がすんじゃねぇぞ!」
野太い怒号が空に響き渡るも直ぐに磁気の嵐に呑み込まれ消えていった。
星の輝く夜空の下や陽射し穏やかな田園風景、クジラの泳ぐ深い海。
飛行船コーラルエンドは搭乗者にひと時の佳景を見せながら――1匹見つけたら何とやらな勢いで賊も続々現れたが――やがて青い空と海の広がる場所へ。
景色を眺め、星・真金大鴉(h02569)は「うむ」と一つ頷いた。
「――無事、ファラオ島に到着。道中は皆、お疲れだった」
飛行船は着陸準備へと移行し緩やかに高度を下げていく。
「この船、ワープできるん、だね……!」
様々な空からの景色を見たばかりの坂堂・一(h05100)は瞳をキラキラさせて船内にいる皆に言った。
少し弾んだ彼と共にぷいぷいも『ぷい♪』と嬉しそう。
「ワープ直後にクジラの水しぶきに突っ込んだのもびっくりした! 水竜巻の中に入っちゃったかと思った!」
すごかったね! と、先程までの冒険が楽しかったのか、ミューレン・ラダー(h07427)もおひさまのような明るい声。
心に残った風景をそれぞれが紡いでいると飛行船から降りられる時間がやってきたようだ。
「来たぜファラオ島!」
一文字・伽藍(h01774)は仲間と共に外に出て白の輝きが眩しいバルーン越しに空を見上げる。
「長い道のりだった……主に空賊とか、空賊とか空賊とかのせいで」
空ってめちゃ治安悪いな? と言う彼女に皆がそれぞれ同意する。
「もしかしてこの島への航路、空賊さんに人気の路だったんでしょうか?」
思案めいた声で呟くのは梔子・リン(h07440)だ。
「もう実質、空賊とのランデブーだったのでは? って感じでしたね」
そう言いながらリリィ・インベント(h00075)は持っていた手記を開き、にっこりとした。頁には綴ったばかりの美しい佳景を表す言葉たち。
「色んな景色も見られて大満足な空の旅でした」
「そうですね。他にも急に飛行船がびゅびゅんとワープしたり、大変スリリングで楽しい旅路でした」
リリィとリンの会話はどこか満たされたものを感じる。
「まさか空賊が出るなんてね、思ってもいなかったよね」
夜賀波・花嵐(h00566)はおっとりと、空も危険がいっぱいだったんだねぇ、と言葉を続ける。
「星さんの操縦テクニックは拍手喝采ものだったよ」
「ワープしてもなお、襲いかかってくる敵。……最後は真っさんの自動操縦捌きに救われました」
何だか拝んでいるような厳かな雰囲気を醸しながら言ったのは野分・時雨(h00536)だ。
「ん? 自動操縦? テクニック??」
ミューレンの声に、ふ、と笑みながら真金大鴉は黒髪をさららとかき上げた。陽を受ける金斑が煌めく。
「自動操縦設定の甲斐があった」
「設定???」
不思議そうなミューレンの声が追ってくる。
「空賊、ここまで追ってきたら私も相手してあげるのに~」
なんて強がりを言いながら荷物を持って外に出るルイ・ミサ(h02050)。
一はふるふると首を振った。
「空賊、怖かった、よ……帰りもいそうだし、いっぱい楽しんで元気充填しよう、ね」
「あ。……帰りもあったか」
外に広がる海波の音色や砂浜の熱が皆を迎え入れていく。
「ここが噂の楽園か~。開放的で気持ちいいな」
「ルイミサさん、あれ何だろ。やま?」
「ん?」
ミューレンの指差した方向へ目を向けてみれば何やら三角な建物。
「ピラミッドかな?」
二人の会話に「何!」と声を上げる真金大鴉。
「ファラオというのは『島』を意味する地名が訛ったものらしいが……ピラミッド、あるな?」
「真っさん。10時方向」
時雨に導かれた方向にはスフィンクスがいた。『24/7』の看板が額に貼り付いている。
「……あれは何だ。まさかコンビニ……?」
「もしも物資が足りなくなった場合は安心だね。ピラミッドにはファラオがいるのかな?」
「コンビニでなぞなぞを出されたりするんですかね~?」
ピラミッドにはミイラなファラオがいるかもしれない&全然気軽に寄れそうにないコンビニもどき。花嵐、時雨と続く、何ソレ怖イ的会話。
真金大鴉は真顔になった。
「――。不測の事態で赴かねばならない時は皆一緒に行くぞ。無論、物資不足の事態など、ないに越したことはないがな!」
船外へとテント一式やBBQセットが運び出されていく。
「船長ー! BBQの肉ってまだ船の冷蔵庫入れといた方が良さげー?」
伽藍の問いに「そうだな!」と真金大鴉の声が返ってくる。
「だが飲料は全て搬出して構わん。水分補給は大事だからな!」
「りょ! じゃあ飲み物と、大量の氷と……お酒は時雨さんにお任せでおけ?」
「おけですよー」
クーラーボックスに入れていく伽藍と時雨。そこへやって来るのはてきぱきと荷物運びをしているルイだ。
「伽藍君、こっちに用意されているのはもう運んでもいい?」
「良き~! ほらクイックシルバーも。キビキビ運んで。働いて」
クイックシルバーは飲料や氷でずっしり重くなったクーラーボックスに融合し、それらを漂わせるようにして運んでいく。
「伽藍さん、ルイさん、重い物は僕に任せて」
と、BBQセットを運び出し戻ってきた花嵐が2つ分、ボックスのスリングを両肩に掛ければ七ツ足も確りと固定するように伸びてきた。
果物が入ったクーラーボックスを運び出すルイ。
船外の白い砂浜で、船の仲間達が彩りあるパラソルを花のように咲かせていく光景。
「ルイさん、花嵐さん、あちらに荷物置き兼休憩所なタープを設置してみました」
調理しやすい台も置けるよう地面のしっかりしている草地を選んだのだろう。一人旅をしていて設営にも慣れているリンが声を掛け、設営したばかりのタープを示した。
そして荷物運びを手伝う動きに。
「リンさん、それを持っていくの?」
無理しないでね、という風に尋ねる花嵐に「大丈夫です」とリンは言う。
「割ととっても重い物も一人で運べちゃいます。おりゃー」
と言って食器類の箱を持ったリン。ざくざくと砂浜を刻む足音は頼もしいものであった。
リンの助言を借り、良さそうな場所にテント設営をしている真金大鴉たち――興味津々に初挑戦のお手伝いをしているのは、リリィと一だ。
一休みできるよう遮光性の高いメッシュのテントを立てたり、花嵐が見晴らしの良い場所にタープを張れば寝椅子を設置しに行ったり。
「キャンプ用品を眺めるのが趣味なんです、使ったことないですけど」
にこにこと最初にそう言っていたリリィは、真金大鴉やリンに気になったアイテムの用途を尋ねていく。
「……この? 小さな物干しみたいなものは、どうするんです?」
「こうするんですよ」
リリィの問いはすぐに答えが返ってくる。リンが物干しみたいなスタンドを日陰に持っていき、クーラーボックスを載せる。
「——なるほど! 地面が暑いと、直置きも心配で気になっちゃいますよね」
中身は氷。その近くにどっしりとしたローテーブルやかき氷機を設置していくのは時雨だ。
「あとで臨時かき氷屋さんをしますからね~。ええ、美味しい物のためには十全なる準備のための労働も惜しみませんよ。ええ……!」
手動のスケルトンなペンギン型かき氷機をなでなでする時雨。
隣のタープでは冷たい物を持って休めるように椅子を置く。何だかカフェのテラスみたいだ。
物の配置にこだわって、居心地の良さを追求していくリリィ。
「ふふふん、完璧な動線」
ちょっぴり胸を張るリリィにぱちぱちぽふぽふと拍手を送る一とぷいぷい。
初めて海を見た時、「……本の中のどの海より綺麗で、広くて……」と唯々感動した一は、再び周囲を見回した。広々とした景色に少しずつ皆の色が彩っていく。
パラソル、レジャーシート、砂浜には大きなフロートが転がって。
フェニックスの木々の根元では、
「ミュー君、これどう? リン君に教わって設置してみたんだ。乗ってみて」
「これ、ゆらゆら気持ちいいにゃー」
ルイがハンモックを設置し、ミューレンを乗せてゆらゆら揺らしていた。
『ぷい~♪』
「うん。あの揺れてるの、楽しそう、だね」
一がほくほくとした気持ちで眺めていたら、「皆、そろそろ水分を摂れ!」と真金大鴉の合図。
「あ、はい! 水分取ります!」
リリィの良いお返事を筆頭に皆が向かっていく。
テーブルの上には水滴のついたグラスが並んでいた。注がれているのはダークブラウンの飲み物。
輪切りのオレンジが差されていてとても美味しそう。
「あ、それはコーラルエンド名物コーラルエンド?」
「カフェオレみたいな色……」
目を輝かせてグラスを持つルイと一。
「飲み物をありがとう、星さん」
そう言った花嵐は、机上にあるコーラとオレンジジュースの方に視線を遣って、『コーラとコーラルエンドを掛けてるのかな』という顔。
興味津々な面々に「うむ」とひとつ頷く真金大鴉。
「オレンジジュースとコーラを1:1で割ったものだから未成年も飲める。――『コーラオレンジ』からの『コーラルエンド』――この粋なネーミングは伽藍が名付けてくれたのだ」
指先までぴしっと伸ばし、伽藍を示す真金大鴉。
「伽藍ちゃんでっす!」
アタシがやりましたのポーズをする伽藍。
「輪切りオレンジの案も伽藍だ」
「目に楽しく、飲んで美味しく!」
続く紹介にハートの輪っかを作って伽藍はファンサポーズ。
「なあるほど、そんな由来があるんだねぇ」
ふふ、と花嵐は穏やかに笑んだ。
「あ、この味ぼく好き、かも!」
一口飲んだ一がにっこりを笑っての感想。隣で飲んでいたリンも、思わず口元を押さえてぱちりと瞬き。こくこくと同意の頷きを繰り返す。
「これ初めて飲みました……! 美味しい……!」
「星さん、星さん、あとでミューも作ってみたい!」
1:1で混ぜるのでレシピは分かりやすい。ミューレンの言葉に真金大鴉は嬉しそうに頷いた。
●
「海!」
「海だ~!」
水着姿となり、準備運動を終えた飛行船の仲間達が海辺へと駆けていく。
サンダルの裏に描かれた『ぷいぷい』で砂を散らしながら、彼らに倣った一が小走りでついてゆく。
胸元で煌めくウミガメが白浜や海の青を映して、彩りはとめどなく。
「わ。波のうごきが速い、ね……!」
水が滲みて色の変わった浜は境目があって、どこまで近づけばいいのかは分かりやすいけれど、寄せては引いてく波の動きは忙しない。
「近くで見ると力強いよね。今日は風も少なくて穏やかな海だから、安心して遊んでおいで」
己の水着のように、落ち着いた青がゆったりとふくらんでいる海原を見ながら花嵐が言う。泳ぐのが得意で夜の海で泳ぐことが好き――今は、溺れそうになったら助けようの構えで周囲を見回した。ゆらり、ひらりと尾をなびかせる金魚のように。
「あれ? リリィ君とミュー君は泳がないんだ? 苦手?」
小悪魔系な水着姿に違わず軽やかに。いざ海へ~と歩み目指していたルイが声掛ける。
視線の先にはパラソルの下で双眼鏡を覗き込みながらのんびりしているリリィと、辺りを見回し何かを探していたミューレン。
「はい、海水はちょっと、草花が萎れちゃって|苦手《いや》なんです」
「|猫族《にゃんこ》としては水濡れは|厳禁《いや》なんだよね」
角と尾に咲く草花たち。リリィの染め感ある青のストライプやサンバイザーが涼やかさを添えている。
「猫と海は相性がいいイメージがあるが魚のせいか」
棒を複数抱えやってきた真金大鴉がなるほどと頷いた。
「ミューは水濡れに気をつけろ」
「うん!」
「……あっ、ミューレンさん、あそこに良き棒が転がっていますよ……!」
「とってくる!」
跳ねるように駆けていくミューレン。琥珀色の水着は穏やかで可愛らしく、そして彼女の動きが備われば元気なビタミンカラーにも見えてくる。
ルイが三人のやり取りを微笑ましく眺めていると、大きなクーラーボックスを抱えたリンが歩いてきた。
「しばらくまったりしてから遊びましょう」
遊ぶための設営も頑張っていた面々だ。海で涼んだり、休憩したりとそれぞれの時間を過ごす構え。
「ところで。三人とも何をやっているんだろう? 棒がなんとかかんとか……」
「スイカ割りに使う棒探しを……冒険に棒はつきものそして浪漫ですよね! ――薪としても使えますし」
リンが穏やかな微笑みを浮かべる。真珠のような光沢と透け感もそなわる清楚な水着に咲くは、向日葵のような心躍る粋。
そこへ波打ち際をおっかなびっくりと歩きながら一がやってくる。
「あの、ルイミサさん……良かったら後で泳ぎ方、教えてほしい、な」
「一君。大丈夫、泳いでいる人少ないし、今からやろう」
快く引き受けたルイの様子に、一はにこっと笑った。
「まずは水に慣れた方がいいかな? 寄ってくる波って結構強いからなぁ……」
「ルイミサちゃん、一さん。伽藍ちゃんにお声をかけてみてはいかがでしょう?」
リリィが示した方向には、8の字デカ浮き輪を抱えて海へ向かっていく伽藍の姿。
「伽藍君ー! 伽藍君の浮き輪すごい何それ」
彼女を呼んで、事情を話せばジャジャーン! とデカ浮き輪を担ぐ伽藍。
「波をいなし、または乗り越えて! そして丈夫!」
ヘイ美人さんたち! と親指でくいっとお誘いポーズ。
「伽藍ちゃんの浮き輪に乗っていきな~」
「揚陸艦みたいだな。頼もしい」
真金大鴉の言葉に「船長も乗ってく~?」と声掛ければ、彼女は「ふ」と良き棒を一つ手にした。
「皆の安全なる海遊びのため――しばし浅瀬で海の仲間達と戯れたいと思っている」
「おん……?」
サメ、クラゲ、ウニ。海は危険が多い――邂逅した彼奴等を食材にする心意気で、全力で水と戯れる所存の真金大鴉であった。
愛用している制服をアレンジしたかのような、水着――白マントの裏地に輝く青空は彼女の凛とした決意(?)を映えさせていた。
伽藍と一、ぷいぷいを乗せて、ルイが掴まって、クイックシルバーが大きな浮き輪を押していった。
ぷかぷかとそのまま浮いて応援する伽藍と、一へ手を差し出して泳ぎを教えるルイ。
海中に潜ってみれば、綺麗な石や浜に上がりきらない大きな貝殻が沈んでいた。
「これ、みんなへのお土産にできる、かな」
「おっお宝じゃん~。皆、喜ぶんじゃない?」
伽藍とぷいぷいが受け取って、ルイも「私も拾おうっと~」と海の中へ。
ひとつ、またひとつ出来ることが増えていく。
「ルイミサさん、泳ぎを教えてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
一の言葉に、ルイはちょっぴり照れながら笑みを返した。
●
「さて、南の島~! 南の島といえばかき氷ですよね。かき氷しよ。かき氷」
真っさんも水分補給を呼びかけてますしねぇ。と言いながら注連帯を整えつつ座り、時雨がかき氷機に氷を詰めていく。
ハンドルを回してがりごりがりごり、氷を削った。
削り続けるとペンギンの中で氷塊がなだらかになっていくのか、音はジャリジャリ、シャリシャリと大人しいものになっていく。
「時雨君はかき氷? いいね、僕も食べたいな」
「ではでは、出来立ての削り氷をどうぞ」
数人分の削り氷を作る勢いで削っていた時雨に、ワクワクとした様子で声掛ける花嵐――達。冷たい物が欲しい暑さなのでかき氷は好評だろう。
クーラーボックスからシロップやジュースを取り出す皆の横で、時雨が取り出したるは……。
「ぼく、ウイスキーかけます。えへ」
とん、とテーブルに出されたウイスキー。続けて並ぶ瓶は、
「ラム酒もミントリキュールも持ってきました。……だって南の島だから。……しょうがないよね」
やや可愛い子ぶって時雨が言い、しょうがなさそうに何度か頷いた。
「暑さで頭が沸騰して浮かれているんです」
「……えっ、かき氷にお酒をかける? 大人にはそんな楽しみ方が……!?」
リリィもびっくりな大人の嗜み。
「ふむ。コーラルエンドカクテル版の出番だな……! だが今はレモン味で食す」
かき氷はレモン派な真金大鴉。爽やかな酸味とほのかな甘みが美味しい。
「かき氷のいいところって、何をかけてもそれなりに美味しいところじゃない?」
ふわり、穏やかに微笑む花嵐は、「僕はこのミルクティーかき氷っていうのが気になっててね」と言いながら器に盛ったかき氷はミルクティーがけ。
まだまだふわりと、優しげな手付きで、仕上げにホイップ生クリームをぐるり。
「ぎゃあ! 花嵐くん嘘でしょ! もしかしてめちゃ甘党さん?!?!」
「甘党……うーん、普通かなぁ」
甘党も辛党も、自身の味覚に従えばそれは「普通」の認識であるのだ。
「そんな……相容れない悲しい。それ持参したの?」
「生クリームは何にでも添えられるからね」
「oh……」
勿論だよという風に当たり前の顔で頷く花嵐に対し、発音よい反応になる時雨。
「私は、花嵐さんのミルクティーかき氷は美味しそうって思いましたよ」
良いですね、とリリィが言った。
「リリィさんも食べる? こっち側はまだ食べてないからどうぞ」
「——あ、嬉しいです! いただきます〜!」
はい、と差し出された新しいスプーンを受け取って、リリィもミルクティーかき氷を美味しく味わう。
「花嵐さんの生クリームのも豪華でいいですね……どんなかき氷にするか、ちょっと悩みますが……」
リンがあちらこちらを見て、ひとつ頷いた。
「時雨さん、わたしにもお酒のかき氷をいただけますか? まずは大人の味からいきます」
「リンちゃんも酒氷する? やったぁ。何にしますぅ~?」
興味があって食べてみたいリンと、よりどりみどりですよ的にお酒を示す時雨。
「さけごおり」
かき氷の発音に倣い、復唱しながら「では、ラム酒を……!」と酒瓶を手にするリン。
しゃくっとした食感のかき氷に、お酒の味――まだ冷たい削り氷が舌の上で溶ければ、お酒の濃さが瞬時に変化していく。
指先を口元にあて、目を瞬かせるリン。
「時雨さん、これ、大変です。私“識ってしまった”感があります。美味しさを」
リンの言葉にそうでしょうそうでしょうと、時雨は後方腕組み見守りしてる雰囲気を出しつつ頷いた。
「ここにフルーツや……割れたスイカを飾ったりしても美味しいかも」
リンの呟きから――。
――そんな流れでとうとう開催されるは海遊びの醍醐味の一つ、スイカ割り大会!
「棒、いっぱい拾ってるよ! ミューが一番手いきたーい」
手に馴染む棒を選んで、「結んでー!」とタオルを持ったミューレンがリンの元へ駆け寄ってくる。
「スイカ割り、そういう遊びもあるんだね。リンさん、僕がスイカをセットしに行くよ」
花嵐がクーラーボックスを開けて中身を取り出そうとして――その瞬間動きが止まった。
「そういえば、スイカ割りのスイカは結局何になったのにゃ?」
「……これ、スイカなんだね」
沈思の表情で考え込んでいた花嵐だったが、ミューレンの言葉に気を取り直して、真っ黒のスイカを取り出した。
「たしか四角いスイカとも迷ってたにゃ」
「なるほど」
世の中、いろんなスイカがあるんだねぇと思いながら応える花嵐。
スイカがセットされるところまでは見守り、リンに目隠しをしてもらったミューレンは棒をもってくるくる回る。
よろりとした一歩を踏み出して、ミューレンがスイカがあるだろう場所を目指していく。
「ミューレンさん、そのまま行ってください!」
「もうちょっと、右……!」
『ぷいー!』
「あっ、ミュー君、も~ちょっと右だよ」
ルイのナビに思わずくすくすと笑ってしまう一。ミューレンは猫耳をピンと立てた。
「ほんとぉー?」
「そのままドーンと行ってグイっと曲がってガツンよ!」
リンや一、伽藍たちの声援と、ルイの時々惑わせるような声色に反応しつつ、ミューレンが言葉に応じて少しずつ軌道を変えていく。
「……世界が揺れてるけど|猫《にゃんこ》のしっぽで平衡感覚を信じて……ここ!!」
木から飛び降りる時の空間把握や、おひさまから感じる熱の角度、方向感覚を研ぎ澄ませて棒を振り下ろすミューレン。
「……!」
手応えはバツグン! 目隠しを外せば真っ黒のスイカが割れていて、甘い香りを放っている。
「やったにゃ!」
「やりましたね」
駆け寄ってきたリンが大きな器に入れてくれる。
「ミューレンさん、すごい、ね……!」
『ぷい!』
「えっ。ぷいぷいもする、の?」
一の肩にのったぷいぷいの気合に満ちた声。
「ぷいぷいが使えそうな棒も拾ってるよ~。小枝だけど!」
交代だね。
そう言って、小枝をぷいぷいに渡したミューレンが笑った。
「リンさん、スイカありがと! ルイミサさんと花嵐さんはスイカ割りしないの?」
「ほら、私がしちゃうとすぐ割っちゃうから。皆でわーきゃーできる、楽しいほうが良いって」
ミューレンの問いにルイは自信ありげに答えている。
「応援するのも楽しいよねぇ。次はぷいぷいさんかな?」
花嵐も同意するように頷いて、微笑みながら言った。
「ぷいぷいさん用の、小さい割れそうなスイカはありましたかね……? どれどれ……」
リンがクーラーボックスの確認に行く。それについていくぷいぷい。
『ぷいっきゅ』
「これは大きすぎるのでは? こちらはどうです?」
『ぷい!』
「あ、イケますか……? いってみましょうか……!」
やる気満々のぷいぷいであった。
「スイカ、無事に割れたよ! ミューたちのスイカとかき氷、交換しよっ」
「スイカ割り組お疲れさ~ん! ぼく、スイカ大好物ー♪」
山盛りな割れたスイカを器で受け取った時雨はにっこり。
「ミューちゃんには大盛りもりの氷あげましょう。スイカと、シロップはどうします?」
「いちごと練乳!」
「はいはい。お待ちあれ」
ごりごりシャリシャリと削っていくかき氷機を見つめ、おぉ~と目を輝かせているミューレンと一。
「かき氷、シャリシャリ削れてくの見るの楽しい、ね♪ ぼくもしてみて、いい?」
「じゃあ第……四陣くらい? からのかき氷作りは一くんにもお任せしましょーか。……真っさんがめちゃめちゃ水分補給の視線送ってきてるから、先に食べてください」
「あ、フルーツものせよう、よ」
「一くんも天才さ~ん。フルーツ乗せても良いね。では、ぼくが頑張って削ります」
がりごりシャリシャリ。
ルイと一が器いっぱいに削り氷を貰っていく。
「ブルーハワイ好き〜。時雨さん山盛り削って! あと一くんの案、アタシもいっちゃお。フルーツいっぱいで欲張りセットにしちゃう。真っ黒スイカも中身はフツーに赤とか黄色なんだねェ」
伽藍もわくわくと参戦だ。
「……ってルイミサちゃん、結構山盛りだね? 食べきれんの?」
「大丈夫~食べきるから」
思ってたよりいっぱい器に盛ってたルイが、時雨の問いに答える。彼女はイチゴやメロン、色んなシロップをガシガシかけていた。
美味しそうに食べ始めた彼女を胡乱な目で見る時雨。
「……ん? 時雨君も食べたい?」
「舌めちゃくちゃ虹色でゲーミングになっちゃいますよう。べーしてみ」
「べー」
「ほらぁ」
見事ゲーミング舌になってしまったルイ。そこへホイップクリームを手に花嵐がやってきた。
「ここでクリームを添えると一気にゆめかわ風になるんじゃないかな?」
「ゆめかわ……ぼ、ぼくもそれ、真似……」
一がふらふらと誘われるゆめかわかき氷。しかし、ここで「じゃじゃーん」とリリィがあるモノを取り出す。
「……ふふふ。ここに自家製のオレンジシロップとコーラシロップがあるんですよ! つまり?」
「……何だと!? 自家製!? リリィそれは値千金の!!」
手を翳して眩しそうにブツを見る真金大鴉。――つまり、コーラルエンドかき氷が楽しめるってワケ!
「シロップはたくさんありますからね、是非是非!」
「わ、そっちも気になる……」
『ぷぷい』
そわそわとする一とぷいぷいに、
「いっぱい食べられるよう、ミニサイズのかき氷を作っちゃいましょう」
リリィはにっこりと微笑んで提案するのだった。
●
ぱちぱちと火の爆ぜる音と炭火の香りが、空腹を刺激する――。
「BBQ……肉を巡る戦いが今、始まるかもしれない」
シリアスな声で伽藍が告げる――見回したBBQ会場は香ばしい肉の匂い、採れたて海鮮が焼ける匂い。
「ねー! トウモロコシもある? 焼こ焼こ〜。じゃがバタも作ろ~」
シリアスモードから一変、きゃらっと笑顔になって食べたい物を焼き網にのせていく。
「伽藍ちゃんは良い子なのでェ、肉と野菜をバランス良く食べてるんでェ」
と言いつつ肉をゲットしていったり。
「焼けていく肉の網地は激戦地。皆が波状攻撃を仕掛ければ|補給線《腕》が持たない。あっちの野菜も食せ!」
焼き奉行と化した真金大鴉が生肉を持った皿を持ち、しゅばばばと肉を置きながら皆に呼び掛けた。
やはり肉の消費はレベチであった。
「……ヤッベお奉行様にバレた。焼きピーマン食べて誤魔化そ」
真金大鴉が肉の網地をディフェンスしているので、しれ~っと野菜の網地へと向かう伽藍。
「BBQすると如何にも夏って感じだよね~」
ふわり微笑みながら時雨が焼けた肉を自身の皿にのせる。
「しぐちゃん、きのことピーマンお皿に乗っけてあげます」
「……、……リリィちゃんは何でぼくのお皿に野菜ばっかり乗せるんだろ。ピーマン自分で食いなよ。育ち盛りさんなんだから」
「——私? ちゃんと食べてますよ!」
ふふふふとにこやかに微笑みあう時雨とリリィ。
「夏はビールと聞きました。とくにBBQでは必須だと」
お肉と一緒にぐいっとビールを飲むリン。炭火で焼けた肉汁で満たされた口内がさっぱりとしたものへ変わっていくこの瞬間が素晴らしい。
「……リンちゃん、さっき酒氷食ってなかった? ビールも飲むのヤバくない?」
「お酒ですか? 初心者ですがきっとたくさん飲めます。水分補給です」
「真っさん先生! この初心者、アルコールで水分補給してるよ! ぼくもしよう!!」
「チェイサーも挟めェ……!!」
ややだめな酒飲み達の宴の気配を感じ、真金大鴉は突っ込んだ。ちょっと悲痛な叫びになってしまった。
「あ。これするとおいしいよ~。お肉をチシャ菜で巻いて『ぱくり』!」
「肉と野菜を同時に……! とてもえらい!!」
ミューレンの発見したレシピに、褒め奉行とも化した真金大鴉である。
一方、BBQはどう取っていいか分からずアワアワとしている一の皿に、人参、肉、玉ねぎ、肉、ピーマンの順で真金大鴉が焼けた物をのせていく。焼きトウモロコシはぷいぷい行きだ。
「わわ、星さんありがとう。外で皆で食べるの、こんなに楽しくて、美味しいん、だね……!」
「焼いてばっかりだ。星君、飲んでる? ちゃんと食べてる?」
お酒を勧めて回っていたルイの、ちょっとした気遣いが嬉しく感じる。
「勿論、食べている! だから二人とも安心してもっと食べるといい」
「お酒、ありがとう。ルイさん」
花嵐にもお酒を勧めにいったルイへ、「ところで」と声が掛けられた。内緒話のように声は少しひっそりだ。
「ルイさんって呼ばれるのとルイミサさんって呼ばれるのってどっちがいいかな?」
「……んー、飛行船の面子はルイミサって呼ぶ人も増えてきたから……『ルイミサ』でいいよ」
「なるほど。じゃあ、ルイミサさんにはカクテル風のノンアルコールをどうぞ」
差し出されたグラスには綺麗な色の飲み物。ルイの瞳がきらきらと輝いた。
「えっいいの? わぁ、ありがとう――ふふ、美味しい」
一口、二口と味わうようにゆっくりと飲んで。
オレンジジュースベースのサンセット調のカクテルは、これから訪れる時間の色のようでもあった。
『あーあー、テステス。接続おっけ?』
砂浜に設置したスピーカーから伽藍の声が発されている。
「伽藍よ、ゴキゲンな音楽を頼む!」
弾むような真金大鴉の声に、『おっけおっけ』と踊るような声が返ってくる。
『そんじゃー伽藍ちゃんのスペシャルライブのはじまりー! 皆、よろしくゥ!!』
貝殻装飾を纏うマイク、青い水着やアクセにはシェルの輝きを。
クイックシルバーが放つ光とともに踊り歌う伽藍のスペシャルライブ。
「きゃー、伽藍ちゃん格好良いです! この曲好き!」
流れ始めたポップでキュートな夏メロにリリィがペンライトと尻尾を振る。
ペンライトをそっと振るのは一だったが、ルイもリンも音楽にのってぶんぶんとご機嫌に振っているのを見て、彼の動きも徐々に力が入って大きくなっていく。
「もう一本欲しい、かも……!」
「両手に一本ずつでも、片手に三本持ちでも! 好きなだけ持つといい」
「はいはい、ペンライトもいっぱいありますよーっと」
計六本を持ち格好良く振るう真金大鴉の姿に、おぉ……と感銘を受けた(?)のは一と、やはり初めての体験で楽しそうに振っていた花嵐。
すかさず追加のペンライトを渡してくれたのは時雨だ。
「このぴかぴか綺麗だよね。ミューにももう一本ちょうだい~!」
息を弾ませて楽しそうに振っていたミューレンも二本持ちに。
『さ、皆も踊っちゃおー!』
リズムを取りやすい曲では伽藍の誘いもあって、好きな様に体を動かしてみる。
砂浜には踊り楽しむ足跡が増えていく。海辺に渡るは歌や笑い声、弾けるような音楽。
ルイは途中からスマートフォンを取り出して皆の様子を録画し始めた。
画面越しに見える景色は青い光の乱舞。どの時間を切り取っても楽しく賑やかなものになっていそう。
ぷいぷいに向けてズームしてみれば一の肩上で踊っている。
「みんなー、こっち向いて?」
「あ、ルイミサちゃんが撮ってくれてる。いえーい!」
両手のペンライトを掲げて笑顔のリリィ。
リンの表情もいつもよりにこにこしたもののようだ。
「伽藍さんのファンですが、ライブは実は初めてなのですよね。何と素敵なのでしょう」
リンの言葉に頷いて、あっとリリィは声を零した。弾むような足取りで一歩二歩と移動し、カメラのフレームにリンとルイを入れて。
「私も撮りますね。カメラには、みんな入ってないとですからね!」
伽藍もフレームに入るよう動いてみれば、緑や水色、紫のペンライトの光でレスが返ってくる。
ルイたちからしっかりとカメラ目線のポーズを貰って、リリィもまた自然と笑顔を浮かべながらシャッターを切った。
バラードの曲が少し遠ざかる。
「星さん、お散歩するなら私もついて行きます」
リリィからそう声掛けられた真金大鴉は緩く目を瞬かせた。
何となく、旅した先にある浜で、角の取れた青いガラス片を拾う――その趣味ゆえか、いつの間にか、無意識に砂浜を見渡していたようだ。
「やっぱり海はいいよねぇ。夜の海の方が僕には合うけど、昼の海も、そして夕日が沈む今の海も美しいと思うよ」
手慰みのように綺麗な貝殻を拾い上げた花嵐が、「はい」と微笑みながら真金大鴉へと手渡した。
彼の言う通りの時間帯――青かった空と海は、オレンジ色に染まっている。
「シーグラス、ありました……!」
と、リリィが拾ったのはオレンジ色の欠片。
「……斯様な辺境の島ゆえ、何があるかは気になってはいたが……」
研磨され、ファラオ島に流れ着いたシーグラスはどのような色があるのだろう。
花嵐とリリィが渡してくれたものを見ながら、真金大鴉は欠片となる前のものへ、年月へ想いを馳せる。
「先程、一さんやルイさんも海の中で貝殻拾いをしたみたいですよ。――あ。わたしも見つけました」
先程の空のように青いシーグラスを拾って、綺麗ですね……とリンが呟く。
「皆、付き合いがいいな」
コレクションが潤う。と、どこか感嘆を含んだ声を零しながら、真金大鴉はひとつずつ受け取っていく。
貝殻、シーグラス。
砂浜にたくさんの足跡。
青いペンライトはオレンジ色に染まったこの場所で、同じく染まっている空に出てくる星々のように星図たる思い出を描いているかのよう。
白い飛行船も今はオレンジ色に。今日も、様々な時間の色を映してくれていた。
「伽藍よ、いいか!?」
『なにー?』
背筋を伸ばした真金大鴉はぴしりとポーズを取った。
「水平線に沈む夕日に敬礼!」
『――! 水平線に沈む夕日に敬礼!』
マイクを通した音量に、少し離れた場所にいた皆も敬礼のポーズ。
座ったままだったり、びしっと立ったり。
海で足をちゃぷちゃぷさせていたミューレンも、背筋を伸ばして敬礼。
海を見つめた刹那の時間は、今日の楽しさを思い返す時間にもなった。
「明日は何をしよっかにゃー」
ミューレンの呟きは、皆も思うもの。未来の時間、夢。
ピラミッドに向けて冒険しようか、小さな島を冒険しようか。
その前に、夜はお喋りをしたり、朝ごはんのために早起きして釣りをしてみるのもいいかもしれない。
楽しい時間はこれから。まだまだたくさん作っていくのだから。
赤々と沈んでいく夕日は、また明日、お天道様となって空をゆくのだから――。
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