シナリオ

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暴走する魔導書

#√ドラゴンファンタジー #武装モンスター軍団 #断章追加後にプレイング受付

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 「み、見てなさい! あたしたちだって……やればできるんだからッ!」

 閉館時間の魔法図書館に現れた緑髪の少女は、震える声で叫んだ。
 囁いたつもりだったのに妙に響き渡ってしまうのは、図書館があまりに広大だからだ。

 円形に広がる館内には、壁という壁に本がぎっしり詰めこまれ、背丈の二倍はあろうかという棚にも世界中のあらゆる魔導書が収められている。
 一体何冊あるのだろうか。
 呆気にとられつつも、劣等生は迷いながら目的の魔導書が眠る扉へと向かった。

 「ちょっと、時間かかりすぎ!」
 「だって呪文のスペルが難しすぎるのよ!」

 鍵開け担当の魔術師に、別の魔術師が苛立ち混じりの声を上げる。
 「じゃあ代わる!」と別の者が挑んでも、いっこうに扉は開かない。
 どの魔術師の腕も一定である。低い意味で。

 「やった!」

 何度も失敗した末に、ようやく分厚い鋼鉄の扉が軋んで開いた。
 中に飾られていたのは一冊だけで、他の魔導書とは明らかに異質な重苦しい気配を放っていた。

 「うわ……怖い。」
 「きっとすごい魔術が書かれてるんだわ。」
 「ロード様の言ってた、『|世界樹の掌握《ユグドラシル・コード》』……。」

 劣等生と呼ばれる自分たちがこの魔導書を手に入れれば、もう劣等生じゃなくなる。
 必要なのは、ただ強い力だけだ。
 期待と不安に震えながら、一人がそっと古ぼけた革表紙に触れた、その瞬間。

 「きゃあああっ!!!」
 魔導書はあまりに強大だった。
 少女の体内から、意図せぬ緑色のファイアボールが暴発する。

 「ちょっと!何してるの!」
 「止まらない!勝手に魔法が出ちゃうの!」
 爆発は石像を粉砕し、書棚を吹き飛ばした。

 「やめなさいよ!このままじゃ誰か来るわ!」
 「無理!いやっ……誰か助けて!」



 「冒険王国ヴェルセリアで、またしても竜漿兵器が奪われそうです。」
 星詠みの如月・縁はため息をついた。先の戦いで精霊銃を奪還したばかりだというのに。
 その手にあるのは珍しく酒ではなく、分厚い古書。

 冒険王国ヴェルセリアの中心にそびえる魔法図書館は、知識の殿堂にして国の誇りである。
 だが今、その荘厳な静けさは無惨に破られていた。

 竜漿兵器の一つである魔導書『|世界樹の掌握《ユグドラシル・コード》』を狙い、襲撃を仕掛けたのは「魔術の劣等生」と呼ばれる術士たちである。
 背後に控えるのは、堕落騎士『ロード・マグナス』。

 「どうやら劣等生さんたちは、盗む予定の魔導書に操られてしまったようで……。」
 非力ゆえに暴走する魔法を抑えられず、館内では爆発が連鎖し、保管されていた貴重な魔導書が次々と破損している。

 「皆さんには、劣等生さんたちの暴走を止めていただきたいのです。」

 彼ら自体は強敵ではなく、暴走さえ止めれば大人しくなる。
 しかし、暴走魔法が別のモンスターを刺激する危険があり、油断はできない。
 さらに奪取が失敗したと知れれば、堕落騎士『ロード・マグナス』が姿を現すだろう。幾度もの戦いで立ちはだかった強敵である。

 「どうかもう一度、冒険王国ヴェルセリアをお救いください。」

マスターより

むらさき
 こんにちは。読書の秋ということで魔法図書館での事件です。

●第1章:👾『魔術の劣等生』
 √ドラゴンファンタジー世界のある、冒険王国『ヴェルセリア』。
 今回は魔術図書館での戦いになります。
 
●第2章:👾『光晶の精霊』
 こちらも集団戦です。詳細は断章をご確認ください。

●第3章:👿『堕落騎士『ロード・マグナス』』
 ボス戦です。

●受付など
 第一章の受付はシナリオのタグをご参照ください。執筆状況はMSページの一言雑談に記載予定です。

●注意事項
 同行者がいる場合、『相手の名前』『ID』または『グループ名』をご記入のこと。
 もしも星詠み・如月縁を使いたい場合は明記いただければ対応可能。
 皆様方のご参加、お待ちしております。
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第1章 集団戦 『魔術の劣等生』


POW 【錬金魔術】卑金属の意地
自身の【属性魔術『ファイアボール』】を【緑色】に輝く【炎色反応モード】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
SPD 【音響魔術】ルーザーズシャウト
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【魔術で増幅した絶叫】で300回攻撃する。
WIZ 【星辰魔術】六等星墜とし
【星の重力を込めた箒】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【腕】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
イラスト 厭々期
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 夜の魔法図書館は混乱の様子だった。
 壁一面にそびえる書架には物理耐性の魔法が施されているが、暴発する爆発の衝撃までは防ぎきれず、ところどころ棚が傾き、本が床に散乱している。

 視線の先では、劣等生たちが五、六名。
 互いに混乱しながら暴れていた。

 彼ら自身の戦闘能力は決して高くはない。だが数名は魔導書の影響を受け、自らの魔法を制御できずに暴発させている。緑色に輝く火球が不規則に飛び交い、叫びが衝撃波となって書架を軋ませる。

 「やめろってば! 僕の魔法じゃないんだ!」
 「違う! 私のせいじゃ……いやああっ!」

 悲鳴混じりの声は助けを求めているようでもあり、無差別に周囲を破壊していく。

 そして、奥の部屋から出された一冊の古びた本、『|世界樹の掌握《ユグドラシル・コード》』。古代の竜漿兵器であるそれが、微かに緑色の光を放ちながら術士たちを誘っていた。

 不用意に近づけば、その力に呑まれるかもしれない。
 
 だが、暴走する劣等生を止めなければ、この館も王都も取り返しのつかない事態に陥るだろう。

《補足》
 第1章ではある意味で可哀想な劣等生さんたちの鎮圧をお願いします。
 暴走は魔導書による一時的なものですので、気絶等で解消できます。
 すごい説教でも討伐でも構いません。個々の判断におまかせします。
石動・悠希
…うん。鎮圧ね。
一旦状況の把握のために静観した上で言うなら『力量以上の物を安易な手段で得ようとした結果もしくは力量はあったが選択したものが適正外だった』って感じだなぁ
魔導書ぶっ壊してでもいいなら【爆破】【破壊工作】+【因果爆撃】でぶち抜いてもいいんだけど…流石にそれはまずいだろうから純粋に劣等生たちを動けなくさせるのと持ってる本を手放させるために腕狙いで行く。
どっちにしても【因果爆撃】は使うという事で、要するにやる事は自爆です…。
その後ガチ説教タイムに移行しますが…反省の色ナシならさらに咎めてもいいよねコレ
咎めてもダメならもう…いろんな意味でトドメを刺すしかないか
プラチナ・ポーラスタ
魔法少女姿で颯爽と参上。
正義の名の下に、取り返しが効く内に悪事を止めるわよ。

暴走ファイアボールが厄介ね…受け流せば書架に直撃しちゃうし。
『霊銃』によるカウンターの弾丸で撃墜したり、『正義』による魔術でエネルギーバリアを張って火球を止めるわ。

泣くと感情コントロールが効かずに魔力が暴走するわよ。意地があるなら制御に集中しなさいと鼓舞する。
少しでも制御してくれたら、間合いを詰めて柔道の要領で捕縛。魔法の媒体などを投げ捨て。
あとは落ち着くよう慰めるわ。暴走とはいえ凄まじい魔力だったと褒めておくわ。

図書館の大惨事は【復幻】でフォロー。
停学一週間くらいで済むよう口添えするから安心なさい。
これが私の正義よ。
七槻・早紀
振り回される少年少女……まぁ、なんつーか。いつだってこういうのが踏み台にされるもんで。いい気分はしないッスね。

相手は魔法使い、リーチは不利。喧嘩の距離には持ち込みづらい。そもそも殴り倒すほどあの子らに対して非情にはなりきれないッスね……。そうすると……。ああ、いい手段があった。
【路地裏バッドガール】……普段は鉄パイプだのを武器にするとこだけど、ここにいいもんがある。範囲と手数は確保した。ラッカースプレーを<念動力>で浮かせ、<目潰し>に使わせてもらうッスよ。
ちょーっとしばらく色が落ちないかもしれないッスけど、それで済むなら上等っしょ?

●紙片と火花の狭間で

 爆ぜる緑色の火球が、次々と宙を乱舞していた。
 図書館の広大な空間は煙と紙片で霞み、物理耐性魔法を纏う棚ですら爆風に軋み、悲鳴を上げている。

 ひとつ衝撃が走るたびに、本が雪崩のように落ち、床に重々しく散乱した。革張りの古書もあれば、銀の留め金で閉ざされた分厚い写本もある。数百年の知識が、劣等生の暴走一つで紙片と化してゆく。

 「た、助けて! 止まらないの!」
 「いやっ、誰か止めてくれぇっ!」

 五、六名の劣等生たちが錯乱し、火球を暴発させたり絶叫を魔力で増幅させたりしている。彼ら自身にこのような力はないはずなのだ。魔導書が引き出した力は、図書館を破滅させるには十分すぎた。

 「……うん。鎮圧ね。」
 |石動・悠希《いするぎ ゆうき》(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)は状況を一瞥し、小さくため息をついた。
 一旦状況を静観して導き出した結論は――
 『力量以上の物を安易に得ようとしたか、あるいは適正外のものを選んだ結果』。

 赤茶色の瞳を伏せ、もう一度ため息をつく。
 さて、どうするか。
 魔導書を壊してしまえば話は早い。だが、それは許されないだろう。

 静かな声音とともに、彼の手には小型グレネード弾――炸裂弾が握られる。

 『あんまり使いたくないんだけど……』
 起動と同時に、因果を巡らせる。
 自らの腕に痛烈な衝撃が走り、焼けつくような痛みを堪えた。要するに自爆だが、こうした方が狙いは定まる。

 「い、痛いっ! な、なんで腕が……!」
 「放せ! やだ、力が欲しかっただけなのに!」

 その瞬間、劣等生たちの数名が同じように腕を痺れさせ、手にした魔導書を取り落とした。
 |因果爆撃《チェーンバーン》、成功。
 厚い革表紙の本が床に落ち、鈍い音を立てて散乱する。

 そこへ、颯爽と舞い込む銀髪の少女。

 プラチナ・ポーラスタ(『|正義《ジャスティス》』の|魔法少女《タロット・シスターズ》・h01135)が霊銃を掲げた。

 「正義の名の下に、取り返しがつくうちに悪事を止めるわよ。」

 紫瞳に映るは暴走ファイアーボール。受け流せば貴重な蔵書の収まる書架に直撃する。だから――。

 『霊銃』Sister's Highをお見舞いし、迫る火球を撃ち抜いた。
 同じ魔法とはいえ、制御を失った劣等生のそれとは違う。その銃は使い手の精神力を魔弾に変換するのだ。華やかに、けれど冷静に、精緻さをもって。

 Tarot Sisters――弾丸が炸裂し、破片のように散った魔力に『正義』を行使する。
 プラチナの狙い通り、展開されたエネルギーバリアが暴走ファイアーボールを包み込み、周囲を守った。

 爆風で棚が震え、山のように積まれた本が崩れ落ちる。乾いた音とともに床が本で覆われ、図書館はまるで知識の絨毯のようだった。

 「泣くと感情コントロールが効かず、魔力が暴走するわよ」
 「で、でも……」
 「意地があるなら制御に集中しなさい!」

 びしっと決め台詞のように鼓舞すると、劣等生たちの動きが一瞬止まる。泣きじゃくりながら魔導書を振り回す少年の腕を取り、柔道技で床に転がした。

 「うわっ!」
 「大丈夫。暴走とはいえ、すごい魔力だったわよ。誇っていい。ただし、制御できるようになってからね」

 彼女は優しく囁きつつ、図書館を見渡す。……大惨事は|【復幻】万能修理の見えざる手《インビジブル・リストレーション》で補えるだろう。

 「停学一週間くらいで済むよう口添えするから安心なさい。」
 「え!? そんなに長く!?」
 「お母さんに怒られちゃう!」

 「我慢しなさい。これが私の正義よ。」

 振り回される少年少女……まぁ、なんつーか。
 「いつだってこういうのが踏み台にされるもんで。いい気分はしないッスね。」

 |七槻・早紀《ななつき さき》(路地裏バッドガール・h03535)は鼻を鳴らす。
 相手は劣等生とはいえ魔法使い。リーチは不利。正面から殴り合えば蔵書ごと吹き飛ぶ危険もある。

 「そもそも殴り倒すほど、あの子らに非情にはなりきれないッスね……」

 泣き叫びながら火球を乱射する姿は、どう見てもただの年端もいかぬ術士の卵だ。
 悪いことをしているのは確かだが、初対面で殺す気になどなれない。

 「……ああ、いい手段があった。」
 不敵な笑みを浮かべ、路地裏育ちの工夫を見せる。

 『アタシの出番ッスね。ぶっ飛ばして行くッスよ!』

 空き缶、石ころ、鉄パイプ。即席武器を用いるのは路地裏の嗜みだ。だが今、早紀が浮かせたのは――ラッカースプレー。

 「普段は鉄パイプだのを武器にするとこだけど」
 穏やかでない発言に、劣等生たちがびくっと肩を震わせる。

 「や、やめて! そんなの危ないよ!」
 「痛いのはいやっ! 暴走してるだけなのに!」

 必死の抗議を、早紀は軽い調子で受け流す。
 「安心するッス。ちょーっとしばらく色が落ちないかもしれないッスけど……それで済むなら上等っしょ?」

 念動力で浮かせた缶を宙に漂わせ、一斉に霧を噴出させた。派手なピンク色の霧が一帯を覆い、視界を塗り潰す。

 「目が、目がああっ!」
 劣等生たちが叫びながら顔を覆い、火球の数は減ったように見えた。

 ――鎮圧はまだ終わらない。
 数名の劣等生はなお魔力の暴走を止めきれず、書架の影で新たな火球を練り上げていた。床一面に散乱した本が火花を浴び、じわりと煙を上げる。
 知識の殿堂は、なお危機の只中にあった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

茶治・レモン
『世界樹の掌握』?
気になる名前の魔導書ですね!
惹かれる気持ちも分かります
まぁ、ただただ力だけを求めるなんてカッコ悪いですが

あーあ…こんなに散らかしてしまって…
僕、知りませんからね?あとで偉い人に怒られてください
そのためにも、皆さんには正座していただく必要がありそうですね
折角ですから、僕の魔法をお披露目しましょう
師匠からいただいた、この唯一無二の魔導書で

『花薫る日輪』
僕が最初に学んだ魔法です
疑似太陽による眩しさで目眩ましさせ、
幻想花の蔦や花でビンタしたり、転がしたり

僕もまぁ、魔法を使いだして日が浅いですが
それでもそこそこに、使える魔法もありますよ
皆さんも横着してないで、こつこつ勉強を!しなさい!
クラウス・イーザリー
「わわっ、酷いなこれは……」
魔法がぽんぽん飛び交う状況を見てちょっと啞然とする
俺も魔法の制御に失敗したらああなるんだろうか……気を付けないといけないな

「少し落ち着けるかな?」
「大丈夫、俺は敵じゃない。集中して、魔力を落ち着かせて」
盗みに入ったとはいえ、劣等感故の焦りが理由なら更生の目はありそうだ
だから説教は後回しにして、ひとまずは少しでも魔法の制御を試みて貰えるようにお願いするよ
飛んでくる魔法はエネルギーバリアで防ぎ、打ち消せるものはルートブレイカーで打ち消す

自力でどうにかしてくれるのが一番だけど、無理そうならルートブレイカーで魔法を打ち消しながら接近してマヒ攻撃で意識を刈り取ろう
エレノール・ムーンレイカー
――身に余る力を求めたが故のこの結果ですか。まあ、気持ちはわからないでもないですが……。
後で説教なりなんなりはしておくとして、とりあえずはこの混乱を収めなければなりませんね。

戦闘錬金術を発動し、精霊銃を魔導長銃インフリクタへ変更。使用する状態異常は――睡眠にしましょう。眠ってもらえればその後の処置もやりやすいでしょうし。
その後はミラージュ・ケープと潜伏者の外套を装備して隠密能力を高め、本棚の物陰から狙撃で敵を撃っていきます。ルーザーズシャウトがこちらに来たらダッシュですぐさま範囲から逃れましょう。
全員が無力化したら、もしも起きて余計な抵抗されないようにそのまま縛ってしまいましょう。
和紋・蜚廉
擬殻布を纏い、蟲煙袋を焚く。
視界を遮る事で、暴発魔法の狙いを鈍らせよう。
潜響骨で動きの響きを拾い、翳嗅盤で焦げや汗の匂いを探る。
野生の勘を働かせる事で煙の中を移動し、最適な狙いの位置を測る。

我は一度蟲の姿へ戻り、
目立たないと迷彩を重ねて潜む。
書架を揺らす爆発や、叫び声を情報収集と聞き耳で探り、
最も多くを巻き込める位置へと踏み込む。

暴走の魔法が放たれるならば、
その衝撃に合わせてカウンターで隠喰拳を叩き込む。
震度を制御し、脳震盪を起こさせて気絶へと導こう。
生徒らの呻きや足取りが静まれば次の標的へ移る。

力は奪うためでなく、止めるために使う。
暴走を鎮め館を護る。
それが我の役目だ。

●眠りの銃口、蟲の拳、断つ掌、花薫る日輪

 爆ぜる緑の火球が天井の飾り梁を舐め、書架の列が波のように揺れた。
 物理耐性の魔法が掛けられた棚は軋みながら持ちこたえるが、爆発の衝撃には弱い。革装の古書や銀の留め金を持つ写本が雪崩れ落ち、床は紙片の白と煤の黒でまだらに染まっていた。

 泣き声、焦りの声、増幅された絶叫の残響――それらの中心で、劣等生たちが魔導書と自分の魔法に振り回されている。

 「――身に余る力を求めたが故のこの結果ですか。まあ、気持ちはわからないでもないですが」

 短めの丈の外套を翻し、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)が踵を止める。右手の精霊銃が薄光を帯びると、彼女は低く詠じた。

 『分解、再構成、そして――具現せよ! |戦闘錬金術《プロエリウム・アルケミア》!』

 銃身が伸び、銃床が再編され、魔導長銃インフリクタが形を結ぶ。
 彼女はカードリッジ型エネルギーパックを一つ弾倉に送り込み、さっと銃口を上げた。

 「“睡眠”でいきましょう。眠ってもらえればその後の処置もやりやすいでしょうし」

 ミラージュ・ケープと潜伏者の外套を肩に掛け、気配を薄くする。
 書架の列の陰、燭台の影、崩れた書の山――透明な流れのように動き、最も暴れている一人の胸元に照星を据えた。

 「おやすみなさい」
 短い呼吸と同時に光弾が走る。緑の火球が弾ける音のその背後で、少年が膝を折り、ゆっくり横倒しになった。

 別の通路では、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)が静かに面紗を整えていた。
 擬殻布が色・音・臭いを模し、気配を溶かす。蟲煙袋がぱっと弾けると、乳白の煙が床を這い、視界を曇らせた。
 ゆるりと軽い動きだが洗練されている。

 「……そこだ」
 潜響骨が拾う微細な震え、翳嗅盤に絡む焦げと汗の匂い。
 蜚廉は一度、蟲に似た姿へ戻り、迷彩を重ねて書架の影に潜む。暴発の魔力が膨らむタイミングを計り、前へ一歩。

 『殴って暴く。潜みもろとも砕くまで』

 拳が空気を押し分ける。|隠喰拳《カクリヲハム》。
 インビジブルを食むように伝播する震動が、ちょうど火球を放とうとした少女の側頭へ届く。最大震度からわずかに落とした、意識のみを刈り取る揺れ。少女は「やっ……」と短く呻き、糸の切れた人形のように崩れた。
 調整された震度は書架には触れず、積まれた古書の柱だけがかすかに震えて埃を落とす。

 「力は奪うためでなく、止めるために使う。暴走を鎮め、館を護る――それが我の役目だ」

 「わわっ、ひどいなこれは……」

 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は口を半開きにして天井から舞い落ちる紙片を仰いだ。
 俺も魔法の制御に失敗したらああなるんだろうか……。
 すでに立派に卒業している身でこのような暴走は起こさないとは思うが、つい想像してしまう。

 あらためて表情を引き締め、左手でエネルギーバリアを展開した。
 緑の火球は泡の膜にぶつかり、火花を散らして消えた。

 「大丈夫、俺は敵じゃない。集中して、魔力を落ち着かせて」
 彼は距離を保ちながら声を掛ける。震える劣等生が涙目で首を振る。

 「む、無理だ……止まらない、止まらないんだよ!」
 その様子に害意が見られない。
 盗みに入ったとはいえ、劣等感故の焦りが理由なら更生の目はありそうだ。

 「深呼吸しよう。四つ数えて吸って、四つ止めて、四つで吐く。ほら――」

 クラウスの声は落ち着いて穏やかだ。だが別方向から、増幅された絶叫《ルーザーズシャウト》が壁を震わせて突き抜ける。彼はとっさに立ち位置を薙いで書架の角へ身体を滑らせ、衝撃の筋を逸らすと、最短の直線で青年へ踏み込んだ。

 右掌がそっと、しかし確信をもって胸元へ触れる――|ルートブレイカー《発動》。
 掌を通して、暴走した√能力の回路が“ほどけ”、魔力の奔流が音もなく鎮まる。少年は大きく息を吐き、膝から崩れた。

 「よし……偉い。今は眠って。後で、やり直せばいいさ」
 クラウスは苦笑して肩を貸し、周囲に新たな火球が生まれていないか視線を走らせた。

 「『|世界樹の掌握《ユグドラシル・コード》』、気になるお名前ですね」

 開いた扉の向こうから、茶治・レモン(魔女代行・h00071)がひょいと顔を出した。
 片手には小さな、しかし檸檬の意匠が施された魔導書。

 「惹かれる気持ちもわかります。まぁ、ただただ力だけを求めるなんて、カッコ悪いですよ」

 彼は靴底で紙片をかさりと踏み、胸を張って指先を掲げる。

 『遍く不変よ、光を灯し道を照らせ。花よ謳え、優美に遊べ』

 ――花薫る日輪

 天井近くに小さな太陽が灯った。
 嘘のように明るい光が煙を薄め、陰影を均し、足場を見やすくする。同時に、光に誘われて幻想花が足元からすらりと伸びた。蔓は書架に絡まず、絶妙に空間を縫って暴れる手足に絡みつく。花弁はぱしり、と優しい音で頬を叩き、魔導書へ延びる指を押し返す。

 優しく柔らかく、全てを白黄に染めるような。レモンが最初に学んだ魔法だった。

 「はい、全員正座。怒られるのは後で。まずは深呼吸」
 「な、なんだこの花っ……眩しっ……」
 「優美に遊ぶ、って言いましたよね。暴れたら、花に頬を叩かれますからね?」

 眠りの銃声が一つ、蟲の拳が一つ、断つ掌が一つ、花の陽が一つ。
 四方向からの“鎮める力”が重なり、暴走の波は目に見えて弱まっていく。
 増幅された絶叫は陰り、緑の火球は小さな火花にほどけ、足場を奪っていた本の雪崩もやがて止んだ。

 「――全員、無力化。起きる前に縛ってしまいましょう」
 エレノールが外套の陰から現れ、倒れた術士たちの手足を魔封の縄で留めていく。
 拘束はやわらかく、肌を傷めない。彼女は最後に祭壇の上の古びた一冊へ視線を送った。

 |世界樹の掌握《ユグドラシル・コード》。
 今は静かだが、背表紙の模様が呼吸するように緩やかに明滅している。

 「――触れないこと。これは保管手続きに移します」
 「賛成だよ」とクラウス。「俺の掌でも切れないものがある。これは、その一つかもしれない」
 蜚廉は頷き、煙袋を閉じる。「完全でない兵器ほど厄介だ。扱える者が扱えば刃、未熟者が触れれば毒」
 レモンは肩をすくめた。「だからこそ、勉強。横着しないで、ね」

 暴走が完全に鎮まり、静けさの輪郭が戻る。目を覚ました最初の劣等生が、縛られた手を見て怯え、俯いた。
 「……ご、ごめんなさい……。」
 「力が、欲しかっただけなんです。あの人が……その本なら、誰でも、って」

 クラウスが膝をつき、目線を合わせる。

 「君の魔法は君のものなんだ。借り物で自分を早回しにしようとすると、今日みたいになる」
 「……でも、うまくできなくて。みんなの前で何度も失敗して、笑われて。だから」

 「失敗は笑うためのものじゃない」とレモンが軽く指を振った。「“もう一回やってみよう”って言うためにある」
 蜚廉は静かに言葉を継ぐ。「焦るほど、狙いはぶれる。積むべきを積み、時に潜み、時に出る。それでいい」

 「……すみません、でした。」

 「睡眠弾の効果も切れかけています。起きても抵抗しないように、約束してもらえますか?」エレノールが確認する。

 「……はい。もう、しません」
 レモンは花薫る日輪の光を少しだけ絞った。疑似太陽が小さくなり、蔓花は名残惜しそうにほどけて消える。
 「君たち、まっすぐ歩けますね。出口まで送ります。途中で寄り道しないこと」
 「停学は……?」
 「それは君たち次第かな」とクラウスが穏やかに笑った。

 こうして劣等生たちは能力者の鎮圧、説得を受けて帰っていった。
 
 まだ散乱はひどいが、炎は消え、絶叫は止み、床を這う煙は薄い。書架は軋みながらも佇み、知識の殿堂としての面目をわずかに取り戻していた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功