秋祭り、祭囃子にのせられて
夕焼けこやけ、もうすぐ日が暮れる時間。
でも、見上げる空が秋の彩りに移ろい始めてからが、今日のお出かけの本番。
集う人々たちは帰るどころか、心弾ませて、からんころん。
祭囃子に誘われるように下駄を鳴らしながら、浴衣の袖をひらりら。
そう、今夜√EDENで行われるのは、秋の夜のお祭りなのだから。
この秋祭りは結構な規模で、夜には花火も打ち上がるようで。
ずらりと並ぶ屋台も数えきれないほど、日が落ち始めた祭りのはじまりの夕方から、既に活気に満ち溢れている。
そして、片翼の鳥の象が見つめる館の大広間で、いつものようにいろいろな時代の茶菓子に複数種類の飲料を手際良く補充しながらも。
――今回も折角なので皆で出かけてみませんか、と。
そう提案したのは土橋・サヱ(鴉の剣、狐の太刀・h00850)であった。
そんなサヱは、お出かけ中でも勿論メイドとしての気遣いを欠かさないから、今日も纏うのはいつもの狐面にメイド服であるけれど。
一緒に秋祭りにやってきた面々をくるりと見回せば、落ち着いた所作ながらも、楽しい気持ちになる。
「皆様の本日のお姿、それぞれ素敵で御座いますね」
普段とはひと味違った装いの、皆の浴衣姿に。
架間・透空(天駆翔姫ハイぺリヨン・h07138)の浴衣は、水色基調に鮮やかな花が咲いたもの。
レースを合わせた帯とリボン揺れる巾着にはパールがあしらわれていて、足元も彩り揃えた和柄のサンダルが夏らしい。
マルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)の浴衣は、白基調のシンプルな浴衣。
白地に青や紫の花や模様がよく映えていて、ゆらり揺れるのは紫陽花の髪留め。
巾着を手に提げたエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)はやはり、彼女のイメージ通りの青空の浴衣。
花火のように咲く模様とひらり覗くレースや飾られた花が可愛らしく、髪に挿された花咲くかんざしに添えられた黄色のリボンが鮮やか。
そんなエアリィの周囲には、各属性の6人の精霊さん達の姿も。
アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)も、ドローン「フェアリーズレギオン」のリーダー機、フェアリーズリーダー「ティターニア」も一緒。
そしれアリエルが纏うのは、華やかな洋装アレンジの浴衣。
赤の地色に金の薔薇が咲いた浴衣に合わせているのは、大きなリボンと煌めくデコ宝飾が飾られた帯に、ハートがあしらわれたお洒落な編み上げロングブーツ。
それに勿論、浴衣を纏うのは女性陣だけではなくて。
アクセロナイズ・コードアンサー(変身する決闘戦士・h05153)も、今日は糸目の状態を崩さぬ人間形態に浴衣姿。
落ち着いた色味の浴衣には青海波とバッタが描かれていて、その手には自前のお面、そして勿論トレードマークのマフラーもくるり。
そんな仲間達をひとりずつ見回して、不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)も瞳を微か細めて、全員に素直な言葉を向ける。
「皆さんそれぞれ、とても似合っていると思います」
そう駆け付けた覚悟は、戦場から帰還したばかり。
王剣決死戦から帰還後、故郷の戦場へ赴いていたのだけれど、一時離脱し合流したのだ。
皆と一緒に、秋祭りを楽しむために。
というわけで、いざ賑やかな秋祭り会場へとやって来た7人だが。
まずは、花火が始まるであろう夜まではそれぞれ自由行動に。
並ぶ屋台や出店は様々で、王道の物から珍しいご当地のものまで多種多様。
だから、各々が好きにまずは回って楽しもうというわけだ。
アリエルが早速足を向けるお目当ては、お祭りの定番、わたあめの屋台。
そしてつい、色々と目移りしてしまう。
だって、袋に入れられたふわふわわたあめは、色々な種類があるのだから。
というわけで、思わず数種類買ってしまうアリエルだけれど。
『公爵、買い過ぎでは? ちゃんと全部食べれるんですか?』
「何よ、ティターニア。後で皆にも分けてあげればいいでしょう? 折角のお祭りなんだし、良いじゃない」
ティターニアに買い込んだ数を指摘されるも、何とかやり過ごせました……?
エアリィも、やはりふらりと誘われちゃうのは甘いもの。
りんご飴やチョコバナナなどの屋台へと立ち寄っては購入して、はむりっ。
透空も秋祭りを全身全霊で楽しみつつ、色々な屋台を練り歩いて。
パイナップルスティックや冷やしキュウリなど、好きな青果物のものを見つけては買ってみて。
まだ話をする機会がなかったため、この機に、と。
「架間さん、楽しんでいますか?」
「不動院さん! 冷たい果物や野菜が美味しいです! 戦場から駆け付けたならおなかすいてません? あ、見てください、かき氷とても美味しそうです!」
「お気遣いありがとうございます。架間さんの気になるかき氷の屋台に行ってみましょう」
声を掛けてくれた覚悟と、主に今まで回った屋台や気になる屋台について、お喋りを。
そんな彼女のペースを尊重するように、覚悟も一緒にかき氷の屋台へと足を向けて。
「これ、かりっとして甘くておいしいからおすすめだよっ♪」
「これも美味しいですよ! よかったらどうぞ!」
ばったり出会ったエアリィと透空の、小さなりんご飴とパイナップルスティックのシェアを微笑ましく見守っていれば。
「不動院さんもどうぞ!」
「どっちもすごくおいしいよっ♪」
ふたりから差し出されたお裾分けの厚意を、有難く覚悟もいただくことに。
そして師匠のサヱと弟子であるマルルが足を運んだのは、屋台は屋台でも、お面がずらりと並ぶ屋台。
それからマルルは、思わず大はしゃぎしちゃう。
だって、師匠がいつも被っている狐の面と似たお面を見つけられそうだから。
というわけで、真剣にマルルはひとつずつ手に取ってみては、サヱのお面とよくよく見比べて。
吟味するのは――師匠の面と、どれが一番似ているか。
そんな自身が被っている様な面を探す様子を眺め、見守っていたサヱだけれど。
「えへへ、師匠とお揃い、嬉しいです!」
「とてもよく似合っております」
自分のものと一等そっくりな狐面を早速買って、うきうきすちゃりと着けたマルルを見つめて。
一緒にお揃いで狐面を被れば、少し嬉しそうに頷いて返す。
そして、自前のお面を用意して準備万端。
「折角の機会、存分に楽しむとしましょうか」
アクセロナイズがふらりと立ち寄ったのは、玩具の屋台。
いや……割高だったから、ちょっぴり悩んだのだけれど。
見つけてしまったのは、カードゲームのパック。
そしてうーんと悩んだ末に10パックだけ運試しに購入して、封をあけてみれば。
最初の数パックこそ、かぶったりデッキに組めないハズレなものばかりだったのだけれど。
「……!」
期待せずに開けた最後のパックで、なかなかレアなカードを引き当てました!
というわけで幸先も良く、次に足を向けるのは、ヨーヨー釣りの屋台。
何せ、以前川遊びに行った際、覚悟と約束したから――釣りを教えてもらう、と。
だから今回は。
「生きた魚を釣るのとはまた違うとはいえ、機を読む感覚、是非ご教授頂ければと!」
「楽しそうですね、一緒に是非ヨーヨー釣りをしたいです」
釣りは釣りでも手始めに、ヨーヨー釣りを一緒にやってみます!
アクセロナイズは、彼の物腰、果敢な勇気、そして確かな実力に尊敬を抱いているのだ。
だってそう――彼もまた|英雄《ヒーロー》なのだから。
そして覚悟も約束通りヨーヨー釣りに誘った彼と、一緒に遊ぶことを楽しみにしていたし。
「ある程度数を確保できると嬉しいですね。配りたいので」
そんな彼の周りへの気遣いや優しさを尊敬していて。
「あのヨーヨーが取りやすそうかと思います。次に狙ってみましょう」
「機を見逃さずに、狙いは外さない――!」
真剣に楽しく、次第にコツを掴んで、ひょいひょいっと掬っていって。
人数分のヨーヨーをばっちり確保しました!
そして、ひと通り美味しいものを堪能した後。
同じ遊び系の屋台でも、エアリィが頑張って挑戦してみるのは、金魚すくい。
ギャラリーの精霊ズの応援を受けながら、いざ!
浴衣の袖を気合十分上げて、よーく狙いを定めて――えいっと。
うまく掬えた……かと思えば、するりと逃げてしまう金魚。
でも、まだポイは破けてはないから、もう一度!
精霊ズたちも邪魔しない程度にくるくる、よりいっそう応援にも熱が入る中。
さっきよりも慎重に、掬いやすそうな金魚を見定めて、しゅばっ。
「わぁ、やったー! すくえたよ♪」
小さめの可愛い金魚をゲット! 精霊さん達も、くるりと躍るように大喜び。
そして同じ屋台の遊び場へとサヱと共にやって来たマルルは、出会ったアクセロナイズと覚悟にえっへん。
「師匠とお揃いなんです!」
嬉しそうに装着している狐面をふたりにも嬉しそうに見せて。
「お揃いの狐面、とてもいいですね」
そう言われてますますにこにこ、屋台巡りの間はずっと装着しているつもり。
そして4人が見つけて次に赴くのは、射的の屋台。
というわけで始まるのは、射的勝負! なのだけれど。
覚悟は楽しそうに射的をしようとしている3人の姿を嬉し気に微笑ましく眺めてはいるものの、自分は辞退することに。
それは以前射的で遊んだ時のことを踏まえた、彼なりの小さな気遣いであるのだが。
「おふたりが相手とは、少々分が悪いですが――それでも逃げないのがヒーローというものでしょう!」
「今回は、三番勝負で如何でしょうか」
「そうですね。いざ、正々堂々勝負と行きましょう。ふふ、実はマイ射的銃を購入しまして――え? 持ち込みは禁止?」
サヱとアクセロナイズがそうそれぞれ銃を手にする中、マルルはこっそりと。
「覚悟さん、コツを教えていただけませんでしょうか!」
「もちろん構わないですよ。肩をリラックスさせて足を肩幅に開いて、体重を均等に――」
覚悟にコツを伝授してもらう作戦です。
というわけで、根拠のない自信たっぷりなマルルも銃を握れば。
いざ、3人で勝負開始!
射的をしているのを見つけてやってきたエアリィや精霊さんたちも、3人を応援して。
しっかりと景品を狙って……真剣に楽しく、三番勝負に興じた結果。
「やったぁ! 私の勝ちです! ぶい!」
覚悟にコツを聞いていたのが勝利のカギ!?
1位は、ぬいぐるみやお菓子をびしっと見事に落としたマルル。
自信に満ちていたけれど、シガレット型のお菓子を撃ち落としたアクセロナイズが二位。
そして、サヱが最下位となったのだけれど。
「射撃で名を馳せた傭兵の出とは……いえ、銃の調子が悪かったかと……」
「マルルさん、お見事でした。土橋さん、実戦の銃とは勝手が違いますので」
アクセロナイズは勝者となったマルルを賞賛しつつ、言い訳をするサヱにそうフォローも入れて。
マルルが嬉々とふたりに伝えるのは、勝者のおねだり。
アクセロナイズにはいつか肩車を、サヱには今日手を繋いで屋台巡りをしてほしい、って。
それからいっぱい遊んだら、食べ歩きタイム!
「あ、アリエルさん! どんな屋台を回りましたか?」
『わたあめを爆買いする女が居ましたね、公爵』
「ティターニア、だからこれはっ……そう、透空ちゃんやみんなの分も買ったの」
食べ物の屋台を巡っていた、透空やアリエルも見つけて。
皆をやはり気遣いつつも積極的に声を掛けているサヱを見て、覚悟は彼女や皆をさりげなく手助けしながらも、嬉しく思うのだった。
普段から皆のために尽力している彼女が、祭りを楽しんでいる姿を見て。
それから、いつの間にか夕焼け空も暗くなって。
夜になれば、屋台や祭り会場を照らす提灯が赤々と数えきれないほどに輝けば。
心地良い秋風が吹く中、お祭りの盛り上がりも最高潮に。
だってそろそろ、このお祭りの目玉である、打ち上げ花火の時間だから。
それぞれ屋台巡りを楽しんだ皆も再び全員集合して、揃えば、祭囃子が響く中を並んで歩いてみる。
落ち着いて、そして一等花火が綺麗に見える場所を探して。
そして最適な場所を見つけて皆で腰を落ち着ければ、見上げた秋の夜空に、まずは景気良く一発。
光の花が見事に咲いて弾けて――花火鑑賞のはじまり。
サヱはそんな皆と花火を楽しみながらも勿論、メイドとして給仕行動も抜かりなく。
空に上がり始めた大きな花火を見れば、つぶらな瞳をキラキラさせながら喜んじゃうエアリィ。
「わぁ、すごい迫力っ!! きれいだね~」
「実に見事だ。音は腹に、そしてこの光は胸にズンと来ますね」
190cm後半という長身故に、できるだけ後列で姿勢を低くして。
背が高いことで後ろの邪魔にならないように配慮しつつ見学しながらも、しみじみ夜空を眺めて頷くアクセロナイズ。
そして、隣同士に座って花火を見ながらお喋りするのは、マルルと透空。
最近出会った年齢が近い学生同士、これを機に仲良くなりたい――って。
ふたりともお互いに、そう思っているから。
「透空さんは何が一番好きでした?」
様々な形の花火にはしゃぎながら、そう訊いてみたマルルだけれど。
「私はあそこの屋台のサルミアッキ風味のかき氷が好きでした!」
「……サルミアッキ味!?!?」
「……全然爽やかな味じゃありませんね」
「サルミアッキのあの独特の風味、かき氷になるとどうなるのでしょう……」
思わず皆の給仕をしていたサヱや後ろで会話を聞いていたアクセロナイズも思わずそう呟いちゃうほど、驚きのこたえが!?
いや、またひとつ、仲良くなりたい彼女の好きなものを知ることができたから良し、なのです。
そしてエアリィも、今日食べた物についての会話に加わって。
「りんご飴も、かりかりしてて甘くておいしかったよっ♪」
「あそこの屋台の~、確かにとても美味しかったです!」
「私はゲーミングわたあめが……」
「うぐぅ……そんな屋台があったんですね。行き損ねました……来年こそは!」
透空は屋台巡りのひとときを皆と語り合いながらも、食べ損ねたゲーミングわたあめの存在を聞けばがっくり、一喜一憂するのだけれど。
「そう言えばゲーミングな袋もあったわね……」
ふと戦利品のたくさんのわたあめを食べていたアリエルは、ごそごそ。
『そのようなゲーミングというようなわたあめなど、あったでしょうか』
そんな相変わらず自分にだけは辛辣なティターニアの声を聞きつつも、確かにあった気がしたから。
いくつもある袋の中身を見て行けば――。
『……!?』
「あっ、やっぱりあったわ……」
そこにはまさにゲーミングなわたあめが!
そして思わず驚くアリエルとティターニアの様子に、マルルは気づいて。
「アリエルさん、ニアちゃん先輩……? あっ、ゲーミングわたあめです!」
「これが、マルルさんイチオシのゲーミングわたあめ!」
「すごい派手だね……!」
「ほらティターニア、皆にも分けてあげる分って言ったでしょ?」
折角だから、皆でゲーミングわたあめをドキドキいただきます!
そして再び夜空に大輪の光の花が沢山咲き誇れば。
「あ、これ、魔法に応用できそうかも……」
連続で上がる時の花火を見上げつつ、たまに顔を覗かす術士学生の好奇心がでちゃうエアリィ。
精霊さんたちも無邪気にくるくる、上がる花火に楽しそうだから。
「お友達の精霊さん可愛いです! 魔法のお話も興味ありますし、もし機会がありましたら、エアリィさんともいっぱいお話したいです!」
「うん、こちらこそ、ぜひっ!」
透空とエアリィもそう約束して。
そして覚悟も空を見上げて、小さく微笑む。
「綺麗ですね。夏の風情を感じます」
秋の空に咲く花火も見事で、綺麗なことも勿論なのだけれど。
何よりもそんな花火を見上げる、誘いの声を掛けてくれたサヱをはじめとした全員が、とても楽しそうだから。
そしてふと、聞こえてくる声に首を傾けるマルル。
「たーまやー! ……ってなんでしょう?」
そんな問いに、透空は颯爽と教えてあげる。
「たまや……それは夏の風物詩! です!」
それから、皆で顔を見合わせて頷き合えば。
豪快に上がる花火と同時に、秋の空へと声を向けるのだった。
全員で、せーので楽しく声を合わせて――たーまやー! って。
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