④狂気の歌声
●地獄の門
コンクリートの褪せた褐色に、地面に描かれるT字のガイドライン。
其れ等は此処、国立西洋美術館で、地獄の門への視覚化された案内図だ。
門の上に座る男は、地獄の光景と対峙している。
考える人とも言われるこの彫刻の解釈は人によって様々だろう。
青銅に見事な彫刻が施された只のモニュメントから、天使の羽を纏った異形が溢れ出す。金切り声の様な悲鳴を上げて、この地を地獄に変えようと。
●幕間
「ああ……」
寺山・夏(人間(√EDEN)のサイコメトラー・h03127)は諦めにも近い、嘆きの声を漏らした。
酷い声だ。厄災を振りまく声だ。
喉をかきむしりたくなる声だ。
人を、狂わせる悲鳴だ。
知らない建物、モニュメント、地獄の門。
西洋の創作神話の主人公の用に、狂いそうになりながら、場所を特定する。
気持ちが悪い、気持ちが悪い。喉を落ちていく粘液が、皮膚に張り付く汗が、肌に纏わり付く頭髪が、嫌な物を見る瞳が、潰したくなる、かきむしりたくなる、存在を、消してしまいたくなる。
(一時的狂気って、こんな感じなんだろうな)
狂気をスマートフォンを握り締めて誤魔化す。力が無いのにフレームが悲鳴を上げた。
●状況説明
『秋葉原荒覇吐戦』
約1ヶ月前から予兆のあった、簒奪者による大侵攻が始まった。
場所は名前の通り秋葉原、主犯は大妖『禍津鬼荒覇吐』。√能力者集団「EDEN」はこれを退ける事が勝利条件だが、戦地では侵攻によって、様々な事件が起こっている。
「星詠みからEDENへ。今回はその一つの事件に関わって貰う事になります」
血の気の無い顔色、爛々と輝く紫瞳、画面の向こうの不健康そうな少年は何かしらの被害を被ったと推測できた。
「国立西洋美術館の前庭にある美術品『地獄の門』から、悪意のある災厄が無際限に湧き出てきます。この現象を止めて下さい。ただし」
異名は対処不能災厄。現時点ではEDENに出来る事は少なく、対処方法は「地獄の門を閉める事」だ。
「対処不能です。また、発する声は人を狂気に陥らせる効果があるようです。何らかの対策をしておいた方が良いと思います」
放っておくと上野駅が地獄になる事を追記し、最後に丁寧に頭を下げる。
「対応して頂ける方々は、決死の覚悟、強い気持ちで、事に当たって下さい。宜しくお願い致します」
画面の向こうで人が倒れる音と共に、動画は暗転した。
確りと動画に区切りが付いている辺り、気絶しただけだろう。
マスターより
紫●挨拶
紫と申します。
お久しぶりの方はお久しぶり、初めましての方は始めまして。
今回は戦争シナリオです。宜しくお願い致します。
今回は一章完結シナリオです。
●シナリオ目的(プレイングボーナス)
【敵を地獄の門に戻し、閉じること】
●敵について
【対処不能災厄「ネームレス・スワン」】
あらゆる『窓の隙間』から現れうるとされる『対処不能の災厄』。
無数の頭部から放たれる、聞く者を狂わせる悲鳴と共に出現し、周囲に天災にも等しい被害をもたらす。
●ギミック
【無際限】
最初は数十体くらいですが、放っておくと無限に増えます。
【ダメージ無効】
情報が少ない事、異名から「ダメージは通らない」とします。
痛覚はありますし、衝撃も通るので、地獄の門に吹き飛ばす、囮、攪乱などを念頭に対処を考えて下されば嬉しく思います。
●その他
・psw気にせず、好きに動いてみて下さい。
●最後に
なるべく一所懸命にシナリオ運営したいと思っております。
宜しくお願い致します。
18
第1章 ボス戦 『対処不能災厄『ネームレス・スワン』』
POW
災厄拡大
自身の【頭部】がA、【脊髄】がB、【翼】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
自身の【頭部】がA、【脊髄】がB、【翼】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
SPD
ネームレス・スクリーム
【狂気と絶望に満ちた叫び】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【発狂】に対する抵抗力を10分の1にする。
【狂気と絶望に満ちた叫び】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【発狂】に対する抵抗力を10分の1にする。
WIZ
スワンズ・ソング
【新たなる『ネームレス・スワン』】が顕現し、「半径レベルm内の困難を解決する為に必要で、誰も傷つける事のない願い」をひとつ叶えて去る。
【新たなる『ネームレス・スワン』】が顕現し、「半径レベルm内の困難を解決する為に必要で、誰も傷つける事のない願い」をひとつ叶えて去る。
マルル・ポポポワールこんな恐ろしい敵が侵攻してくるなんて…
でも私達が諦めるわけにはいきません
必ず阻止して見せます!
√能力を使用し神聖竜召喚
地獄門を閉じるという困難を解決するために、敵を地獄門へ押し返すという願いを叶えて貰う
そのためには地獄門に近づく必要があるため攻撃への対策を講じる
まず√能力による願いは叶えられたら御の字くらいに考え、竜はその巨体だけで囮になると思うので、囮にして味方が動きやすいように
竜には可能な限り咆哮して貰い敵の叫びに対抗
その上で自身と竜の耳にCerulexiaやCustodicaによる結界を張り遮音を試みる
後はCerulexiaを盾にじりじりと門へ近づく
私が倒れても、シイロさんお願いします!
御剣・峰ふむ。よく分からない敵か
まぁ、なんでも良い。狂気を振り撒くのかどうか分からないが、私は元々狂気の世界に生きている
堕とせるものなら堕としてみせろ
スワンズ・ソングでこちらの願いを叶えるというのなら、願いなどと言うものなどないので、第六感で相手の行動の起こりを予測し、見切りで攻撃の軌道を読み、リミッター解除で身体能力の限界を無くし、肉体改造、全力魔法で身体能力を限界以上に引き上げ、グラップルで簒奪者と地獄の門を殴りまくって、粉砕しながら門を塞ぐ
「なるほど。余計なことを考えそうになる。だが、そんなことはどうでも良い。ただ目の前の仕事をこなすのみ!」
クラウス・イーザリー◎
(対処不能と呼ばれるのも頷けるな……)
溢れ続ける災厄に思わず内心で呟く
それでもどうにかしなければ甚大な被害が出る
例え対処不能だとしても、俺にできるだけのことをしなければ
呪詛耐性と精神抵抗、狂気耐性を重ねて頭を冒す声に耐えながら決戦気象兵器「レイン」を起動
横殴りのレーザーと思念操作したファミリアセントリーでの制圧射撃を重ねて吹き飛ばし、地獄の門に向けて押し返す
「失せろ。ここはお前が来るところじゃない」
自分の怪我や狂気、レインの連続使用による負担とかは気にしている暇がない
盾受けや霊的防護で最低限死なない程度に自衛する
地獄の門は閉められるものなのかな……
余裕があれば触れて物理的に閉めようと試みるよ
橋本・凌充郎―――――鏖殺連合代表、橋本凌充郎である。これより、怪異鏖殺に入る。
―――――が、ここでは殺しの仕組みにまで到達できんか。つくづく忌々しい事だ、地獄の門などと仰々しい場所から覗くもまた癪に障る。だが、それならばそれでやるべき事はやらねばならん。
―――――煩い。わめくな。人の澱み、人の腐り。人を奈落に引きずり込むしか能のない陥穽共が。その程度の狂気が、|それがどうした《・・・・・・・》。
悲鳴を上げる無数の顔に、【クイックドロウ】からの【制圧射撃】を叩き込んだ後、【怪力】と【重量攻撃】で【傷口をえぐる】様に重打を叩き込んで黙らせていく。【限界突破】した腕力で、強引に災厄を押し返していく。
ガイウス・サタン・カエサル「無限増殖に不死か。厄介ではあるね」
【魔人領域】を発動。戦闘力激増&必中状態に。
不死身だが痛覚あり衝撃は通る、という事で『魔人の剣』を切り裂きまくって怯ませて『魔法陣・赤』『魔法陣・朱』を展開して魔力波、魔法弾の弾幕や魔力爆発の衝撃で地獄の門に吹き飛ばしていきます。
【スワンズ・ソング】は相手の力量を測って効果範囲を見極めて発動時には効果範囲内に居ないように立ち回ります。
不死身性の今後の事を考えて切り裂き、貫き、叩き潰してその反応から対処法を考えている模様。
二階堂・利家白鳥の遊泳は、「優雅に泳ぐ白鳥も、水面下では激しく足を動かしている」と伝えられてきた
努力を表に見せない人の比喩表現だけど、こいつらは実際に地獄を泳いで来たらしい
苦悶も絶叫も道理でといったところか。|楽園《EDEN》に棲み処を移したところで救いは無い
とっととお帰り戴こう
◆
ジャストガード+継戦能力でガントレットを構え。頭部の噛み付きを躱し、脊髄の槍を逸らし、翼の殴打を受け流す
ダッシュ+切り込みの飛び蹴り。魔導書の力を込めた爆破+乱れ撃ちの連打。竜漿の巡る偽物の臓器から力を引き出し、インビジブル融合+重量攻撃で殴り飛ばす。バーサーク+怪力で投げ飛ばし。技能と拳を組み合わせ、怪異を門の向こうへ叩き返す
ルイ・ミサ悪魔は地獄に堕ちるらしい
あんなのと同じ場所に閉じ込められるのか
嫌すぎる
門の上に立ち、災厄を眺めた
ひどい声、ひどい姿
やっぱり地獄には行きたくない
<狂気耐性>で耐えながら
脚に巻いた黒い包帯のような地這い獣の織姫(装備欄)を解く
影に落とし、ナイフで切った掌から零れる私の血を与え
【悪魔憑き】
織姫、お前は何本もの手を生やした悪魔だ
あれを門の中へと連れ戻さないと
私たちが連れていかれる
黒い手が無数に伸びて<異形化>すれば
災厄の体を<捕縛>し、門の向こうへと引きずり戻すだろう
痛覚と衝撃で態勢が崩れるなら、翼をナイフで<切断>してみる
災厄に、さよならを
この門をくぐるだけ
地獄は簡単に繋がる場所にあるんだな
●集合
鬱陶しい物を振り払う様に麗しい黄金色の長髪をかき上げる。
招かれざる地獄からの客に満たされた味気の無い灰褐色、その向こうに、地獄の門の上の小さな彫像は、丁度、 ルイ・ミサ(半魔・h02050)と同じ顔をしていた。少なくとも、彼女にはそう、見えた。。
「悪魔は地獄に堕ちるらしい」
群れ、増殖する災厄を夕陽色の瞳が眺めた。
シーシャに似た、甘やかな声。
「あんなのと同じ場所に閉じ込められるのか」
半人半魔である己を、これほど、呪わしく、疎ましいと思った事は、無いだろう。
「嫌すぎる」
酷い声、酷い姿。
歪な人の欲望と、祈りと、無念を攪拌機に投入したら、こうなるかも知れない。
救い様の無い姿。
「やっぱり、地獄には行きたくない」
「こいつらは実際に地獄を泳いで来たらしい。苦悶も絶叫も道理でといったところか」
短毛の白猫、 二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は彼女の言葉を聞いて、首肯する。
「白鳥の遊泳は、雅に泳ぐ白鳥も水面下では激しく足を動かしていると、伝えられてきた。努力を表に見せない人の比喩表現だけど、残念ながら」
慣れた逆境だと、利家はバトガンを構える。
「|楽園《EDEN》に棲み処を移したところで救いは無い」
青い瞳に闘志が宿る。
「とっととお帰り戴こう」
「まぁ、何でも良い。私は元々、狂気の世界に生きている。ま、駆け付けた半数くらいは……そのクチよね?」
狂気を振り撒く異形を前にして、御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)は魔術刻印の刻まれたグローブの感触を確かめる。忍ばせた六文銭が知らず、短い髪と共に揺れる。
「堕とせるものなら、堕としてみせろ」
「然り。鏖殺連合代表、橋本凌充郎、これより、怪異鏖殺に入る」
「やあ、君と同じ所に来るとは思わなかったよ。奇遇だね、凌充郎君」
「貴様も鏖殺対象であること。よもや忘れた訳ではあるまいな、邪竜王」
「その時を楽しみにしているとも。ミルクホールで踊るには、手狭だろう?」
橋本・凌充郎(鏖殺連合代表・h00303)は鼻で嗤う。呪物と言っても過言では無い、被ったバケツが音を立てる。
「貴様に似合いの舞踏場など有るものか」
「今日の舞台は、似合いだろう? 君と比べ合うのは初めてだったかな? 無限増殖に不死、厄介ではあるからね」
「そう言うことか。殺しの仕組みに如何程近付けるか、等と……貴様も彼奴等も忌々しい。だが、悪くない」
「察しが良くて助かるね。さて……」
ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)は切れ長の緑色で、黒尽くめの男を見遣る。
(対処不能と呼ばれるのも頷けるな)
何処か、ぼんやりとした頭で、 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は不意に痛む身体を片手で庇う。
「クラウスさん、大丈夫ですか……何か、ありました?」
何時か見た時よりも疲弊した青年を見て、マルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)は慌てて声を掛けた。
「あ、ああマルル、大丈夫。大丈夫。ちょっと疲れてるだけだよ」
「あんな恐ろしい敵が侵攻してくるのですから、無理も無いですけど……でも、ちゃんと休まないと駄目ですよ! これは委員長命令です!」
「え、ええと……うん、善処する」
そう言ってマルルがクラウスに渡したお握りに、彼は何処かで見覚えがあった。もしかしたら、作るのに協力していたかも知れない。
「努力じゃ駄目です。と、言っておきながら、早速力を貸して欲しいです! あの敵の侵攻を阻止しましょう!」
少し無理をしている様に明るく笑うマルルに、曇った心に僅か、光が差して、クラウスは微笑んだ。
「俺に出来るだけのことは、するよ、ありがとう」
「どういたしまして! それでは、狂気を地獄の門に、追い遣ってしまいましょう!」
マルルは宣言しながら、勝手に震える腕を見えないように抑え付ける。強がっていないと、涙が零れそうだった。だから。
「言葉を紡いで祈ろうか。願いは希望となって、月まで昇る……なんて。いらっしゃいませ、シイロさん!」
●鏖殺手本
白月の竜が契約者の祈りを聞き届け、巨躯を顕現させる。全員に護符を飛ばすマルルの意図を悟って、ゆっくりと顎を開き、蒼光を放つ魔法陣の配置が完了するのに合わせ、咆哮する。
「気遣いだけ頂いておこう」
緑の瞳に好奇が宿る。別世界の同種を、ガイウスは見つめ、直ぐに敵を見る。
「俺にも不要だ。他へ回せ」
悲鳴を上げる無数の顔に、凌充郎は異形のヘビーライフルを構える。
「喚くな」
非常識な重量を、コンマを切る速度で瞬時に持ち上げ、引き鉄を軽々と引く。吐き出された怪異殲滅用大型散弾が、爆音と共にバラ撒かれる。天使の顔を磨り潰す……等と甘いことは考えていない。反動を物ともしない、どころか利用し、次弾を照準。トリガ。
「人の淀み」
命中。装填。
「人の腐り」
発射、着弾の確認を省略。対象を変更。淀みも迷いも一切無く。
「人を奈落に引き摺り込むしか能のない陥穽共が」
狂気の声が上がる。傷みと挑発に異形が男の狂気を垣間見る。
「その程度か、その程度の狂いか。|それがどうした《・・・・・・・》」
醜悪に身体を変化させ、一斉に報復を開始する。
「根絶する」
僅かに作られた隙間から、狂気が揺れる。異形を切り刻む為の甲高い機械音。
「きっと全て殺し」
増えた脊髄を、翼を、頭部を弾き、異形の肉に丸鋸を突き立てる。、
「澱みを潰し」
人理を踏み外した妖刀が、異形の血肉を喰らう。
「腐りを砕き」
喰らった血肉の後に、杭を打つ。
「総て殺すとも」
付いた傷跡を、鬼手と化した手甲が抉り、吹き飛ばす。
「全ての同志、同胞達の為に」
セカイに唯一灯る狂気の焔。
「どれもこれも怯むだけか。忌々しい」
くぐもった笑い声が響く。
●チェイン・ボム
「一番槍は譲る結果となってしまったね、出遅れたが、解剖実験と行こう」
凌充郎の鏖殺と、白竜の咆哮に気を取られた出来の悪い肉の案山子を一瞥する。
「此処は私の実験領域だ」
指を弾く。小気味の良い音と共に光剣が握られたと認識した時には、数百、数千の斬撃の軌跡。
「ふむ」
次には細い刀身に変化し、異形を蜂の巣へと変える。人外域の重量を持った大剣を大上段から振り下ろす。凌充郎の手で動きの止まった敵を背後から膂力に任せた握撃で砕かんとする。
「俺が試したものばかりだぞ、邪竜王。どうした、大層なことを宣っていたが、貴様もよもや、その程度か」
「確認みたいなものさ。ふむ、良いね。矢張り、戦争とはこうでなくては」
ガイウスが凌充郎の言葉に、声を上げて、上機嫌に笑う。浮遊するだけの案山子が発する願いは、敵対生物の闘争心を無くす物だった。天国への誘いだった。垂らされた蜘蛛の糸であり、天使の抱擁だった。祈りだった。
「下らないね。マルル君の詠唱を見習いたまえ」
「同感だ」
白竜の力が宿った咆哮が、二人の思惑とは全く別に、敵の願いを打ち消し、同時にガイウスの両手の甲に別々の法陣が出現する。
「確認は終わった。実験を始めよう」
光剣が幾筋もの軌跡を描く。一瞬、細切れになった肉が連鎖的に爆砕し、弾けた肉から紅色の魔力波が撒き散らされる。魔力波は容易く肉を通過し、同じ現象を、敵が存在する限り、延々と繰り返す。
「君よりは効率的だろう? 見直してくれたかい、凌充郎君」
「化物め、反吐が出る」
●クリムゾン・バーサーク
「色々エグくないかな……それはそれとして、耳栓結界は有難いね」
動きが鈍り始め、統制も目的も曖昧になり始めた敵陣に、利家は音無く肉薄する。遠間からの脊髄槍を最低限の動作で見切り、翼の殴打をガントレットでタイミング良く受け流す。頭の噛み付きは欠伸が出る程の鈍足と化している。目標一体を飛び蹴りで吹き飛ばす。
「よし、見えた!」
ガイウスの仕掛けた爆破にに合わせて爆破魔法を宿したガントレットで殴打。急所を見極めようと、あらゆる箇所を滅多打ちにし、首を振る。上昇する血中竜漿濃度に合わせ、臓器代わりのインビジブルとの融合を深化させる。血が巡る、竜漿が融合装甲に満遍無く巡り、その色が深紅に染まる。
視界が赤く染まる。暴力衝動が無限に増幅されて行く。
渇望が、心を犯す。
声が漏れる、息が漏れる。何時しか雄叫びを上げながら、捻り掌底で手近な敵を吹き飛ばし、不定形の脊髄をカウンターで掴み、地獄門へと投げ飛ばす。
人か、機械か、はたまた獣か。誰にも判別の付かない雄叫びが響き渡る。
●獅子吠・破軍
「戦い易くなるなら何でも歓迎よ。いらっしゃい」
刀を起こす。煌めき、峰の耳に獅子の咆哮が轟く。
霊力を纏うと同時に、竜の角と爪牙が顕現し、龍燐が身体を覆う、虹彩が爬虫類の物に変わり、峰は当然と言うように軽く息を吐き、吸う。
利家の動きに合わせて、敵の起こりを捉え、打撃を先んじて差し込む。膂力で敵を吹き飛ばし、時に利家の吹き飛ばした敵を追い打ち、軌道を修正し、確実に地獄門へと叩き込む。暴走し、視界が悪く始めた深紅の身を、並び立ち、時に乱暴に誘導する。此方に震われそうになった拳は受け流し、敵に向かわせる。
深紅の戦士と竜人が、掘削機の如く、敵陣を押し込んでいく。
●半魔の感性
「不快感が大幅に減った」
ルイ・ミサは、シイロの足元に陣取り、身を隠していた。小さく、本当に僅かに、マルルとシイロに頭を下げ、同時に、足に巻いた黒布を解く。
「織姫、お前は何本もの手を生やした悪魔だ。あれを門の中へと連れ戻さないと、私たちが連れて行かれる」
ぱさりと音を立てて落ちた黒布の上に、自身の掌に刃の月を滑らせて赤く汚す。いいや、この月で傷付け、滴るソレは、熟れた林檎のように美しい。
果実のように切り取れただろうか、半人半魔は、どこかズレている事を考える。
美味しそうに血を啜り、織姫と呼ばれた単眼黒布の異形は、足を引き摺る影手となって、敵の身体を掴み、引き摺って行く。
●身体を休める歯痒い暇
「クラウスさん、シイロさんの影に隠れておいて下さいね。動いちゃ駄目ですよ、私、ずっと付いて、見張りますからね!」
マルルのお節介とも言える行動を、クラウスは半ば受け入れた。余裕が出来た頃には軽く痛み止めの魔法をクラウスに掛け始めた。クラウスが戦闘直後に動けなかった理由は幾つか有った。そして、大凡を、彼女に見抜かれていた所為だ。最初の遣り取りだけで納得させる事が出来なかった。
敵軍が押し込まれるにつれ戦場はゆっくりと前進していく、囮役になっているシイロも、それは同様だ。だが、中々視界が開けない。白竜はわざと彼の視界を遮るように動く。どうやら、この白竜にもクラウスの尋常では無い疲弊は見抜かれているらしい。そんな彼に、手鞠の様な住処から出て来た狐の風精がこっそりと耳打ちする。
「……マルル」
「はい、何でしょう!」
「お化け、後ろに居るよ」
「え……嘘です! コンナトコロニオバケナンテイルワケアリマセン」
途端に涙目になって周囲を見渡す、今にも何処かへ
「本当だよ、ほらそこ、あ、また」
クラウスが指差した方をカタカタとやけに硬い動作で振り向く。微笑ましいと思いながら、その一瞬の隙に身体を動かした。指差した先に居るのは、先程の風精だ。
「なーんだふーこちゃんじゃないですか、クラウスさんってばいじわ……あっ」
流石の白竜も呆れた様な視線をマルルに寄越した。良い加減それだけは克服出来ないのだろうか、と。
空に輝く一等星が、曇って見える。
(俺は、何で……)
彼処へ、逝くべきではないのか、あの星と同じ、所へ。
暗い感情を苛立ちと義務感で誤魔化して、敵に星の神罰を下す。
「失せろ。ここはお前達がが来る様なところじゃない。帰れ」
不愉快だった。死者が現世に戻ってくるのが、不完全な姿で現れるのが、馬鹿な希望を抱かせようとするのが、腹立たしい。地獄と行き来できるのが、羨ましい。
(だから、消え失せろ、俺の前から)
身体が痛む。悪感情に呼応した破壊兵器が、何時も以上の熱量を伴って不滅の敵に放たれる。
(消えてくれ……!)
●誰も傷付ける事の無い願い
仲間を支援、守護しながらマルルとシイロも少しずつ前進する。青い灼光が敵を焼き、感情のまま解き放たれた自律砲台が容赦無く爆煙を撒き散らす。視界悪となっている辺り、クラウスは、怪我の他にも深刻な何かを抱えているのが見て取れた……が、仲間達は柔軟に対応し、敵を順調に地獄門に送り返している。
(わたしに出来る事は、ないのかな、悲しい、かも知れない)
弱気に囚われかけて、ぶんぶんと首を振る。
「今はこっちです。クラウスさんが落ち着いたら、また話しかけてみましょう!」
派手になっていく戦場で、ゆっくり、ゆっくりと進む。途中、赤い、小さな魔法陣が刻まれていて、それを辿ると、安全だった。軽く調べれば誰の物かは分かった。
「シイロさん?」
シイロがあからさまに顔を顰めていた。
珍しい表情だった。酷く嫌な物を見た時か、判断に困っている時の顔だった。
「ガイウスさん、同族みたいですよ!」
あえて空気を読まない回答をすると、間の抜けた顔をする。
あまり見ない顔が見えて、少しだけ、面白かった。
「やあ、遅かったね」
気付ければ数十体居た異形が全て地獄の門に返されており、無理に動いたクラウスが意識を失って倒れている。
「この門を潜るだけ。地獄は、簡単に繋がる場所にあるんだな。マルル君は信じる?」
「……分かりません。でも、怖いです」
「そっか。ごめん」
ルイ・ミサとマルルは互いに反対の門に触れて、閉じる。
「災厄に、さよならを」
ルイ・ミサのそんな言葉で、戦場の混乱は終わり、幕を閉じる。
●エピローグ
マルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)は慌ててルイ・ミサの手を手当てしてから、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)の側に付き、彼が回復するのを待った。ある程度の治療魔法を施すが、元の体力が少なく、上手く行かなかった。
クラウスは起きると、御礼と謝罪を残して、追う間も無く、すぐに立ち去った。
御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)は二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)の暴走が終わるまでとの殺し合いに近いじゃれ合いを楽しんだ。技と技、力と力のぶつかり合いをこれでもかと堪能し、暴走が終わった頃には満足そうな微笑みを浮かべていた。
橋本・凌充郎(鏖殺連合代表・h00303)は今回の成果を同胞と、行き付けの人外ひしめくミルクホールで共有するだろう。あの場に蔓延るガイウスを含む、化物共すら鏖殺する手掛かりを探しながら。
ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)は、今回の実験結果を静かに反復し、今の彼女は、どの程度まで対処出来るか、仮想戦闘で課題に出してみるのも面白いと消える。
ルイ・ミサは悪魔の行く先がああなのかどうなのか、ああであれば、神核に指を沿わせた。実験体であろうとも、地獄を拒否する権利くらいはあって欲しいと、祈った。而して、天国が性に合うのだろうか、きっと合わないだろうと、諦めた様に首を振った。
侵攻は続く。然し、EDEN達が思索に耽る暇くらいはあるだろう……次の戦場に向かうその様な僅かな、暇だとしても。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
