⑫私をお食べ?
●悲しみに暮れる
それは嘆いた。
私たちはとても美味しいのに。
ただちょっと、形が|不格好《セクシー》だっただけなのに。
どうして?
どうして捨てられるの?
どうして食べてくれないの?
私たちはこんなに美味しいのに。
そんな時だった。
それに、天使の力とゲーミングの力が宿ったのは。
『これでみんなに食べてもらいに行っておいで』
どこからか、そう聞こえた気がした。
翼がさわりと動く。
飛べる事に気付いたそれが、次々と飛び立つ。
人々に、自分を食べてもらうために。
●星詠み
「んっふふふ…」
その星詠み、|矢神・霊菜《やかみ・れいな》(氷華・h00124)は笑っていた。
それはもう、腹が捩れそうなほどに。
「ほ、星を詠んだわ…ふっ、くくく…」
説明が始まる前から息も絶え絶えといった様子に、集まったルート能力者をさたちは困惑した。
「はー、駄目。笑いで話が進まなくなるわねコレ」
目尻に浮かんだ涙を拭い、ようやく笑いの波が落ち着いた彼女が、いずまいをただす。
「それじゃ、説明を始めるわね」
そういいながら、彼女が資料を広げる。
「怪人たちが、つくばエクスプレス秋葉原駅に『√マスクド・ヒーローへと通じる引き込み線』を作り出したのはもう知ってるわね?」
怪人たちが電車をジャックし、民間人を拉致しようとしている時間だ。
「今回もそう…だったのだけど。事情が少し変わってるのよ」
霊菜が詠んだ星はこうだ。
とある大根が怪人化した。
その大根たちは自らを美味しいと自認しており、人々に食べてもらいたいと思っている。
「元々はただの形がちょっと歪な大根だったの。ただね、怪人化した時に、その…んふふふふ……は、発光するようになっちゃって…」
『ゲーミングセクシーエンジェル大根』
それが、今回の怪人の名前だ。
翼の生えた、全体的にゲーミング発光しているセクシーな大根。
「あまりの見た目に民間人は食べるのを拒否してて。まぁ、当然よね」
ただ、元々食べてもらいたいという欲求が強く。
今回盛大に拒否されてヤケというか、意固地になっているというか。
「誰かに食べてもらわない事には絶対に引いてくれないし、帰りもしないみたいでね」
だからみんな、ちょっと行って彼らを食べてあげてくれない?
ちょっとお使い行ってきて、と言わんばかりの軽いノリで、彼女はみんなを送り出す。
マスターより
月代深夜テンションとは、怖い存在です。
おはよう、こんにちは、月代です。
今回お送りするのは戦闘無しのギャグとなります。
みなさん、大根はお好きですか?私は好きです。
ゲーミングセクシーエンジェル大根は、ただみんなに美味しく食べてもらいたいだけ…。
そんなわけで、大根料理を食してもらいます。
戦闘は発生しませんので、PSWは大根料理に置き換わります。
プレイングボーナス:電車ジャック事件を解決する。
●その他
断章投下しますのでお待ちください。
プレイング受け付けと締め切りはタグでお知らせします。
お連れ様はグループ名の明記をお忘れなく。
連撃数は合わせてくださると助かります。
それ以外の方は連携する、しないはプレイングを見て判断します。
嫌な方はその旨を明記してください。
また、私の執筆能力によっては採用しないプレイングが発生する場合がございますのでご了承くださいますようお願いいたします。
いただいたプレイングはできるだけ採用する方針でございますが…!
それではご参加お待ちしています。
23
第1章 集団戦 『ゲーミングセクシーエンジェル大根』
POW
食欲大大大促進大根食べろ砲
【近くのゲーミングセクシーエンジェル大根】から承認が下りた場合のみ、現場に【超食欲ゲーミングオーラしみしみ大根砲】が輸送される。発動には複数の√能力者が必要となる代わり、直線上の全員に「発動人数×2倍(最大18倍)」のダメージを与える。
【近くのゲーミングセクシーエンジェル大根】から承認が下りた場合のみ、現場に【超食欲ゲーミングオーラしみしみ大根砲】が輸送される。発動には複数の√能力者が必要となる代わり、直線上の全員に「発動人数×2倍(最大18倍)」のダメージを与える。
SPD
全ての大根の導きの光
【大根の谷間からゲーミングセクシー怪光線】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【食欲と、味への探求心と、飢餓】に対する抵抗力を10分の1にする。
【大根の谷間からゲーミングセクシー怪光線】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【食欲と、味への探求心と、飢餓】に対する抵抗力を10分の1にする。
WIZ
食欲錬金術ジャパニーズラディッシュ・アルケミア
自身の【ゲーミング大根の体の一部】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【食欲と、飢餓】を付与する【|対標的腹減兵器《ふろふきだいこん》】に変形する。
自身の【ゲーミング大根の体の一部】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【食欲と、飢餓】を付与する【|対標的腹減兵器《ふろふきだいこん》】に変形する。
※以下、全て状況とゲーミングセクシーエンジェル大根の様子からの意訳でお送りします。
ばさりと翼をはためかせ、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが飛ぶ。
むっちりとした短い腕に抱ているのは、調理器具。
まな板、包丁、お玉にお鍋。フライ返しやフライパンもある。
極めつけに、2体がかりでカセットコンロを運んでいる姿すら見受けられた。
ちなみに、これらの調理器具は近くの店舗から拝借してきたものだ。
その代わり、きちんと仲間の|ボディ《美味しい大根》を置いてきている。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは、線路に停車している電車へと入っていく。
中では、今か今かと待ち構えていた複数の仲間たちがいた。
運搬係のゲーミングセクシーエンジェル大根たちが、抱えていた調理器具を車内の床に降ろす。
……ご丁寧に新品のブルーシートが敷かれ、調味料まで置かれている。
用意が良すぎだ。
広げられた調理器具の一つ、まな板に、しずしずと一体のゲーミングセクシーエンジェル大根が歩み寄る。
プリっとしたお尻(?)をふりふり、むっちむちの足をモデルウォークで動かしながら。
まな板のそばまで来た一体は、その上へ艶めかしくそっと寝転んだ。
仰向けになり、両手を合わせ――。
――ああ…私、ようやく食べてもらえるのね。
歓喜に大根葉をささめかせ、その時を待つ。
傍らには、三徳包丁を手にした別の一体が歩み寄り。
その手の包丁を、大きく振りかぶった。
◆◆◆
トントントン。
包丁が軽快なリズムで音を立てる。
ショリショリショリ。
それに合わせて、皮を剥く音が伴奏を添える。
少し離れた場所ではクツクツと鍋が煮込まれる音がし、出汁の利いたいい匂いが広がる。
また別の場所ではジュゥー…と焼く音がして、香ばしい匂いが立ち込める。
調理担当のゲーミングセクシーエンジェル大根たちが、くるくると忙しなく動き回る。
彼女らによって、着実に大根料理が出来上がりつつあった。
――ねぇ…。
そんな中、一体のゲーミングセクシーエンジェル大根が葉を揺らし、仲間に呼びかける。
――どうしたの?
――私たち、食べてもらう係からは外れちゃったけどさ。
――もう、決まった事なんだから今更文句は無しよ?
――違う違う、そうじゃないの!
今更何を言うのかと仲間がワササ!と葉を揺らす。
呼びかけた方は、むちっり短い両腕を慌てて振った。
――あのね、そのぉ…もし、もしよ?仲間を食べてくれるだけじゃなくて、私たちのことも調理してくれちゃったりなんかしたら…どうする?
――私たちを…
――調理してくれる…?
――キャアアアァァァァ!!!
カラーン!
ワサワサワサワサ!ワサササ!!ピカーー!!
もじもじくねくねした仲間の言葉に、他のゲーミングセクシーエンジェル大根たちが一斉にざわつく。
大根葉は大きく揺れ、ゲーミング発光がより一層自己主張を強めた。
手にしていたお玉が鍋に当たり、甲高い音を立てる。
自分たちを食べてくれるだけでなく、自ら美味しく調理してくれるなんて!
そんなのもう!私たちの|理想郷《ユートピア》!
大盛り上がりの調理担当ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは、さらに気合いを入れて調理に臨むのだった。
●お品書き
POW: 大根ステーキ~ガーリックバター醤油~
SPD:大根と手羽の煮物~私の全身召し上がれ♡~
WIZ:ふろふき大根~鳥そぼろを添えて~
※お品書き以外で調理し、食べることも可能。お持ち帰りされた日には大歓喜することでしょう。
なお、食べる際はゲーミングセクシーエンジェル大根たちがLOVEしてくれます。
杉崎・ひなの【大根天国】で3人連携アドリブ歓迎
「…え、これ…何…?」電車に入って絶句する。だって大根が入ってくるんだもの
秋葉原と上野への買い物があったので一緒に来たまなみ、たまたま車内で居合わせた霧島さんと三人で顔を合わせこの光景を必死で理解しようとするわ
そんな思いもそっちのけで手早く調理が進められ…んっ?
ってマズい!料理好きのまなみがこれを見たら…あぁもう調理してみたい顔になってるわ
ここ電車の中なのに…って、いつの間にか私もお腹空いてきてる…霧島さんも作れるの?お願いします何か私に食べ物を…
二人が調理をする間、私はセーフモードになってるわ怪光線受け続けてるけどよだれ出ちゃってるけど
料理が運ばれてきた所でセーフモード解除
早速手を合わせていただきます。大根たちのLOVEをしっかり受けて、二人の料理に舌鼓を打つわ
確かに見た目はアレだけど、しっかり美味しいわ
両手を合わせてご馳走様をしたら、もう彼らは居ない…のね。だって私たちの胃袋の中だもの
って、まなみしっかり大根の残りをタッパーに詰めてる…暫く大根料理ね
杉崎・まなみ【大根天国】で3人連携アドリブ歓迎
久々にお買い物がしたくて、ひなのちゃんにお願いして秋葉原と上野に買い物へ連れてって貰ったわ
色々終えて、乗ろうとする電車が…あれ?大根…?
乗り合わせたひなのちゃん、霧島さんと困惑していると…目の前で調理が始まるみたい
私、お料理には少し自信があるので…目の前で調理されてく大根を見始めたら…私もやってみたい…
ひなのちゃんをチラッと見ても食べたそうな顔になってるし、霧島さんがお料理得意そうなので私は霧島さんのお料理の補佐をする形で動くわね
手際よくお料理が出来たら…みんなで頂きます
美味しい料理に談笑も弾んで…残った食材は霧島さんと手分けしてタッパーに詰めて持ち帰るわね
霧島・恵【大根天国】で参加だよ。
規格外品って安くてよくお世話になるけど、こんなに眩しいのは流石に初めてだなあって、怪人なんだね。君達が望んでいるのなら、此処は一つお手伝い(?)するね。
それじゃ、俺も何品か作らせてもらうよ。
定番の【大根の味噌汁】は外せないよね。後は【大根餅】とコンソメ仕立てにした【大根とモツの煮込み】とか【豚肉と大根のミルフィーユ鍋】も良いね。おっと、定番なのに【鰤大根】を忘れてたよ。あ、葉っぱと皮はまだ捨てて無いよね?葉っぱは【ふりかけ】に、皮は【きんぴら】に使えるから捨てちゃだめだよ。
皆、責任を持って美味しく頂くからね。
食べきれなくてもタッパーに詰めて持って帰るから安心してね?
「…え、これ…何…?」
|杉崎・ひなの《すぎさき・ひなの》(しがない鍛冶師・h00171)は絶句した。
今日は秋葉原と上野への買い物のため、自身が護衛兼遊び相手を務める|杉崎・まなみ《すぎさき・まなみ》(ひなののAnker・h00662)と共に外出していた。
買い物も終わり、つくばエクスプレスで帰るだけ――のはずだったのに。
車内の窓から、大量の、カラフルに発光する翼の生えた大根たちが侵入してきた。
情報量が多すぎる。
隣にいるまなみも、あまりの光景に目を白黒させている。
「なに、これ…」
こんなに居るなんて聞いてない。
ひなのがあまりにも理解不能な光景に固まっていると。近くから、知った声が聞こえてきた。
視線の先には、同じく絶句している|霧島・恵《きりしま・けい》(狐影蕭然・h08837)。
「あれ、霧島さん?」
「やあ、ひなのちゃん。ここで会うなんて奇遇だね」
仲間がいたことで、ひなののSAN値はギリギリ踏みとどまった。
事情を知っていそうな知り合いがいたことに、ひなのはほっと息をつく。
これは一体何事か。かくかくしかじか、説明を聞いたがさっぱりわからない。
三人で顔を合わせ、この光景を必死で理解しようとするが脳がそれを拒否しようとしている。
なんとか理解できたのは、この珍妙な大根を美味しく食せばいいということ。
正直言って、理解したくなかった。
そうこうしているうちに、気付けば目の前で大根が勝手に輪切りになっていた。
「いや待って、すでに輪切りにされた大根があるのだけど!?」
「え、もしかしてあの大根、仲間の大根が切った…!?」
ひく、とひなのと恵が口角を震わせた。
「…んっ? …ってマズい! 料理好きのまなみがこれを見たら…!」
バッ、とひなのが視線を向けるが――時すでに遅し。
まなみの眼は料理したそうにキラキラ輝いていた。
得体のしれないこの大根たちを調理したいというのか、この少女は。
「私もやってみたい…」
まなみは料理の腕には少し自信がある。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが自ら調理する様を見せつけられ、完全に料理魂に火が付いた。
もう、自分も調理がしたくてうずうずが止められない…!
チラッと見たひなのの顔は、いい匂いが車内に漂うにつれ食べたそうな表情が隠し切れなくなっている。
料理が得意だとひなの経由で知っている霧島もいるのだ。
この翼が生えた大根だって、きっと美味しく調理できるはず。いや、美味しく調理してみせる!
料理人(?)の腕にかけて…!
そんな大根料理に燃える二人の横で、ひなのはそっとセーフモードに切り替えた。
調理ができない自分は隅の方でじっとしているに限る。
それにだって、さっきからゲーミングセクシーエンジェル大根たちが胸(?)の谷間からゲーミングな怪光線を放ってきているのだ。
そのせいなのか、さっきから食欲と飢餓感が凄い。これはマズいやつ。
さて、そんなひなのの状況には気付いていない二人。
主に恵が調理を担当し、まなみはその補助で動くことで話がまとまった。
その近くでは二人が調理の話し合いをしていることに気付いたゲーミングセクシーエンジェル大根たちがワッサワッサと喜びの舞を踊っている。
むっちりとした短い手足を上下にふりふり、むっちむちの足で軽快にステップを踏んでいる。時々手を繋いで輪になってはグルグルと回っていて、その動きはタタロチカにそっくりだ。
――やったわやったわ! 人間が! 私たちを調理してくれる!
――アタシたちも食べてもらえるのねー!!
――宴だ宴だー!!
そう言ってそうなほどの喜びよう。
残念ながら声帯が無いため何を言っているのかわからないが。
大根葉がワサワサ激しく揺れ、彼ら彼女らは嬉しさのあまり激しく明滅する。
|ゲーミング発光《約1680万色》が明滅したら、それはもうただの視覚の暴力。
「まぶし…!」
「目がチカチカする!?」
恵とまなみの言葉に、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは、はっとなった。
そうだった、自分たちの発光は人間の眼には優しくない。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは気遣いの出来る優秀な大根なので、二体ほどが二人の元にもじもじしながら寄ってきた。
そっと背後から出されたのはサングラス。
――あのぉ、これよかったら…
――眩しいと思うからぁ、ぜひ着けてぇ
もじもじもじ。
どこか照れくさそうな仕草で差し出されたサングラスを、恵とまなみが複雑そうな顔で受け取った。
目に優しくない光を発している張本人(?)たちから気遣われるとはこれいかに。
サングラスを装着した二人を、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが誘導する。
そこには揃えられた調理器具。
「君たちが美味しく食べてもらうことを望んでいるのなら、ここはひとつお手伝い(?)するね」
「精一杯、美味しく料理します!」
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは歓喜の舞を踊りながら、散らばる。
さて何を作ろうかと、恵は考える。
やはり定番の味噌汁は外せない。他にも大根餅や、豚肉と大根のミルフィーユ鍋なんかも作れそう。
「あ、葉っぱと皮はまだ捨てて無いよね?葉っぱはふりかけに、皮はきんぴらに使えるから捨てちゃだめだよ」
――きゃあああああ!
――うそうそうそ!
――私たちを余すことなく使ってくれるつもり!!?
恵の言葉にゲーミングセクシーエンジェル大根たちは大歓喜した。
サングラスをしていても光が貫通しそうなほどに発光している。
――大丈夫、こんなこともあろうかと!
――ちゃんと仲間の大根葉や皮も置いてあるの!!
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちがどこからともなく調理用トレーにとり置かれていた大根葉と皮を持ってきた。
全身余すことなく食べてもらえるのが最上級の夢なので、抜かりはない。
そうして、調理が開始されるのだった。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちはとっても大人しかった。
いや、一部訂正しよう。誰が先に調理してもらうかで押し合いへし合い、ひと悶着あった。
しかしそれ以外は非常に協力的で、二人が包丁を手にしたらそっとまな板に寝転んだのだ。おかげでとっても切り易かった。
皮を剥いた大根は適度な厚さの銀杏切りに。水と共に鍋に入れ、火にかけた。
沸騰して大根に火が入れれば味噌を溶いてやればそれだけで大根味噌汁が出来上がる。
でもそれだけじゃ味気ないから、細い短冊切りにしたお揚げと乾燥ワカメも入れておく。
皮を剥いて5㎜幅の輪切りにした大根たちは、間に豚肉を挟んで文字通りのミルフィーユに。それを鍋にドーナツ型に敷き詰めていく。せっかくだからとすりおろした大根を真ん中に詰めた。あとは水とコンソメキューブを入れ、ひと煮立ちさせた後に蓋をして、中火で20分ほど煮てやればいい。
鍋を作るときに多めにすりおろした大根は水気を切って片栗粉と一緒に混ぜる。本当は上新粉や米粉なんかがあればいいのだが、そこまでの用意は無かったらしい。あとは適度な大きさに取り分けてフライパンに並べ、表面がこんがりするまで焼けばいい。
恵の指示に従い、まなみもせっせと調理のサポートをしていく。
というかちょっと待って、どうして大根の輪切りやすりおろしをゲーミングセクシーエンジェル大根たちが手伝っているのか。いや助かるが、本当にそれでいいのだろうか。
……まあ、進んで手伝っているのでいいのだろう。考えたらきっと負けだ。
ほどなくして、料理が完成した。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが飛び跳ねつつハイタッチしている。
喜んでいるようで何よりだ。
セーフモードを解除したひなのも合流してくる。
「料理ができましたか」
「いいタイミングだね、ひなのちゃん」
おいしそうに盛り付けられた大根料理たちが、三人の前に置かれる。
……サーブ役がゲーミングセクシーエンジェル大根なのは、もう突っ込むまい。
「「「いただきます」」」
三人が手を合わせる。
――どうぞぉ、アタシたちをたんと召し上がれ♡
――いっぱい食べてね!
器用に大根葉でハートを作るゲーミングセクシーエンジェル大根たちが見守る中、三人が調理に口をつける。
料理になっても失せることが無かった|ゲーミング発光《約1680万色》に、食欲減退が起こらなかったのは奇跡かもしれない。
「あ、普通に美味しい」
「うま…」
「んー!さすがまなみと霧島さん!すっごく美味しいです!」
――いやあああぁぁぁぁぁ!
――食べた!食べたわ!
――人間がついに私たちを食べたわああああああ!!
三人の背後では、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが狂喜乱舞。
食べられず廃棄されるのを待つばかりだったのに、それが美味しいと言って食べてもらえるなんて…!
ああ、電車ジャックしてよかった…!
ひなのたち三人は、美味しい料理に談笑も弾んでいる様子。
…気のせいでなく、怪光線を浴び続けたひなのが食欲モンスターと化して爆速で食べているが。
しばらくして、三人がようやく食べ終わった。
とはいえ流石にたくさん作ったため料理が余っている。
しかし三人に料理を残すという選択肢は無かった。誰が言い出すこともなく、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが差し出したタッパーに、恵が料理を詰めていく。
その周囲ではゲーミングセクシーエンジェル大根たちがまた謎の喜びの舞を舞っていたが。
最後にと、綺麗に袋詰めされたゲーミング発光する羽をお土産に持たされて。三人は満幅の腹を撫るのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
伊藤・ 毅(……なんだこれ?)
乗り込んだ電車のあまりの惨状に眉間を揉み天を仰ぐ
変な電波でも受信したのか、大根のようなものたちが料理されたがっているのは何となくわかったので、東京の友人に渡した余りの八丁味噌で煮込んでみることにする
その辺で暇そうにしている大根をつかんでその辺にある包丁で解体、輪切りにしやすい形に整える、その後厚めに輪切りにした後皮をむき面取り、こぶだしの入った圧力鍋に放り込み目分量の味噌とみりんを投入ついでになぜかある下茹でしたブタモツも投入、圧力をかけ20分ほど煮込む
周りの面々にも配りつつ自分でも食べた後、余りをなぜかある保存容器に入れて帰る
「残りは帰りの新幹線で食うか……」
「(……なんだこれ?)」
東京の友人に会いに行った帰り。
乗り込んだ電車がカオスになった。
余りの光景に|伊藤《いとう》・| 毅《つよし》(空飛ぶ大家さん・h01088)は目を白黒させる。
突然窓という窓からわらわらと侵入してきたのは、ゲーミングセクシーエンジェル大根たち。
換気のためと少しばかり開けられていた窓。そこからググッ…と穴に嵌った人が抜け出すような動きでむっちむちのボディを捻じ込んでいる。
なんなら、先に侵入を果たした仲間が、むっちりとした短い腕で車窓に詰まった仲間を引っ張っている。
「(何が起こっているんだ…?)」
どう見ても普通の野菜…野菜?野菜なのかこれは。自ら動いている時点で生物なのか…? さっぱりわけが分からない。
とにかくだ。こんな得体の知れない存在、通常なら即刻倒すべき相手なのだろうが…。
何故か彼ら彼女らは、車内の床に新品のブルーシートを広げ始めた。しかも後から後から調理器具を持ち込んでいる。
目を疑うような光景に、毅は天井を仰いで眉間を揉む。
もう一度前を見て…そっと目を閉じた。
何度見ても、どう考えてもカオス。
全体的にゲーミング発光した大根。その背中には立派な翼が生えている。それでも意味が分からないのに、意思を持って動くなんて。
……しかも、何やら変な電波でも受信したのか一瞬脳内を過る声。
――…シテ…チョ…シテ…
――ワタシタチヲ…オイシクチョウリシテ…
――タベテェ…
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが調理されたがっているのはわかった。
というか、あの持ち込まれた調理器具たちは料理してもらうために持ち込んだのか。
とか思っていたら、目の前でゲーミングセクシーエンジェル大根たちが|大根《仲間》を切り始めた。
……仲間を切る!!?
これにはさしもの毅も目を剥いた。
「さっきのは何だったんだ…」
毅の唖然とした声が、車内に空しく響いた。
ちなみに、さっきのは調理担当の声(?)。なので、今まさに調理されている大根とは別だったりする。
「あー…料理されたがってるのはたしかみたいだし。してやりますか」
――なんですって!?
――それは本当!?
――ヒャホーゥ!!
せっせと|大根《仲間》を調理していた彼ら彼女らが、その言葉を聞き取った。
バッ! と一糸乱れぬ動きで振り返る。
ただでさえ珍妙な野菜(?)なのに、ああして動かれると圧が強い。毅は若干引いた。
あとさっきから発光具合が強まっていないか?眩しいからやめてくれ…。
調理しているゲーミングセクシーエンジェル大根たちの合間を忙しなく動き回っていた彼ら彼女らが、毅の周りに集まり始めた。
と、思ったら。キレッキレの動きで踊り出す。ここに集まった彼ら彼女らは、嬉しすぎると踊り出す。なんでだ。
肩を組んで足は軽快なステップを踏む。ついでに首(?)らしき部位から上…頭部なのだろうそこを左右に激しく振っている。片足で飛び跳ね、腕を勢いよく振り回し。
……まるで某インド映画のナから始まるダンスにそっくりだ。
その動きに、毅は再度引いた。さもありなん。
そして徐に踊っているゲーミングセクシーエンジェル大根のうち一体を鷲掴みした。
――まぁ、大胆♡
――あー!ずるい!
彼ら彼女らに声帯は無い。この声が聞こえていなくてよかったかもしれない。
踊りを見ていたらキリがないと判断した毅が、いよいよ調理に取り掛かったのだ。
掴んだゲーミングセクシーエンジェル大根を近くにあったまな板に降ろす。
すると、一思いに翼をブチっといった。大丈夫、元々普通の大根だったので、彼ら彼女らに痛覚は無い。なんなら血らしきものが出ることもない。
というか本格的に調理され始めたと喜んでいる節がある。なにせまな板の上でもじもじしているので。
もうツッコむまいと(初めからツッコんではいないが)、無心でゲーミングセクシーエンジェル大根を輪切りにする。
切られたゲーミングセクシーエンジェル大根は、物言わぬ大根となった。
なお、|ゲーミング発光《約1680万色》は続いている。
皮を剥いて面取りも済ませ、ちょうどいい鍋は無いかとあたりを見渡した時だ。
――パンパカパーン!
――あーつーりょーくーなーべー!(濁声)
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちがえっちらおっちら複数体で圧力鍋を運んできた。
なんでそんなものまで持ってきているのだこの大根たちは。
「ちょうどいいな」
そして何の疑問も持たず、毅は運ばれてきた鍋に大根を放り込んだ。
その他昆布出汁やみりん、あと友人に渡した残りの八丁味噌に、丁度持っていた下茹で済みのブタモツを投入。
しっかり蓋をして圧力をかけ、20分も煮込めば完成だ。
近くにいたゲーミングセクシーエンジェル大根たちにそう告げれば、やんややんやと拍手したりハイタッチしたり大騒ぎだった。
そうして待つこと20分。その間彼ら彼女らによって色々あったが、そこは割愛。
とにかく、無事に完成した。
湯気と共にふわりと立ち昇るのは昆布出汁と味噌の芳醇な香り。
抵抗なく箸で切れるほど柔らかく煮込まれた大根は、咀嚼すればじゅわりとコクのある汁が口いっぱいに溢れ出す。
モツのほんのりとした甘みも混ざり、非常に美味しい出来となった。
「うん、うまい」
その言葉に、彼ら彼女らは歓喜した。
わっさわっさと大根葉を揺らし、中には器用に大根葉でハートを作っている個体もいる。
沢山出来たからと周りにも配ろうとしたが、流石に調理されてもゲーミング発光する料理は断られてしまった。
仕方が無いので、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが差し出したタッパーに残りを詰めて、丁寧に袋詰めされたゲーミング発光する羽と共にお持ち帰りすることとなったのだった。
🔵🔵🔵 大成功
見下・ハヤタ【雷火(h07707)さんと】
わんわん!くーん!
(いぬです。しゃべりません。心の声はわりとうるさいです。)
(こないだお花ばたけであったきれいなおにーさんです!こんにちは!
なんだかいいにおいがするので来たんですけど、おにーさんはどうしたんですか?
だいこん?あのきらきらしたやつですか?まぶしーです。目がちかちかします。
あれ、おいしいんですか。人間は、かわったものたべるんですねえ。えっ、ぼくもたべていいんですか。うれしいです!たべます!
ごしゅじんには、ちゃんとおしごとだったからたべました!っていうのでだいじょうぶです。えへへ、わーい!いただきます!
おいしいです!おにーさん、ありがとうございます!)
水縹・雷火ハヤタ (h07903)と
アドリブ歓迎
ツッコミ苦労人体質です
こんな都会のど真ん中に野犬?
あ、いや、あれハヤタじゃないか?
おーいハヤタ!
あ、呼び掛けたらきた
やっぱお前か、こんなところでどうした
なるほど、匂いにつられてきたのか
俺はちょっと依頼でな…ん?なんか何となく言っていることがわかる気がするぞ
ってことで大根を食べにいく
なんだアレ…大根は普通光らないだろ
でも存在しているだけで傍迷惑そうだからとりあえずさっさとご退散願うためにも食べる
手羽煮物はサブタイトルがいやだったから大根ステーキだな
犬も大根を食べてもいいらしいけど流石に人間用に味付けされたのはな…
おい大根。ハヤタ用に大根を茹でてくれないか?
その日、√能力者たちは思い出した。簒奪者には、かくも奇異なるものたちが居ることを――。
と、一瞬思ったが、そんな悠長に考えている場合ではない。
チカチカする目を労わるように|水縹・雷火《みはなだ らいか》(神解・h07707)は眉間を揉む。
「なんだアレ…大根は普通光らないだろ」
ごもっとも。
しかし残念ながら目の前のゲーミングセクシーエンジェル大根たちは燦燦と光っている。約1680万色の光だ。
なお、余りの眩しさにそっと差し出されたサングラスを装着した。
人間に敵意は無いようだが…待て、その手に持つ湯気を立てたそれはまさか料理か!?
何なら湯気もそこはかとなく約1680万色。
本当に食べなければならないのか。だって、身体に悪そうだ。
でも食べなければこの電車ジャックを解決できない。
「存在しているだけで傍迷惑そうだからな…」
解決のために食べるしかない。だったらさっさと食べてご退散願おう。
雷火がそう決意した時だ。
「わふん!? きゅーん!(眩しーです!? 目がちかちかします!)」
黒柴の子犬――|見下・ハヤタ《みした・はやた》(弾丸黒柴号・h07903)が床に伏せ、前脚で両目を塞いでいた。
きゅんきゅん鳴きながら、大根料理のいい匂いに鼻をヒクつかせている。
こんな都会に野犬かと思ったが、どう見ても知り合い。
「あれハヤタじゃないか? おーいハヤタ!」
「わふん?わんわん!(こないだお花ばたけであったきれいなおにーさんです! こんにちは!)」
ハヤタは見知った顔に上機嫌で駆け寄った。
「やっぱお前か、こんなところでどうした? ……なるほど、匂いにつられてきたのか」
「わぅん!(えへへ、なんだかいいにおいがするので来ました!)」
たしかに、料理はいい匂いだ。ハヤタが釣られるのもわかる。
「くぅーん?(おにーさんはどうしたんですか?)」
「俺はちょっと依頼でな…ん?なんか何となく言っていることがわかる気がするぞ」
動物とは会話できないはずなのだが。なぜだろう?と首を傾げるがわからなかった。
「うー…わぅん?(あれ、おいしいんですか。人間は、かわったものたべるんですねえ)」
「まて、人間がみんなあれを食べてると思わないでくれ」
盛大に誤解されるところだった。
それしても、さっきから紙を持ったゲーミングセクシーエンジェル大根たちがうずうずそわそわしているのだ。できれば視界に入れたくなった。
バチ、と視線が合った……気がした。彼ら彼女らに目は無いはずなのに。
――キャァ♡ 目が合っちゃった♡
――あらぁ、イケメンとかわいいワンチャンだわぁ♡
――ねぇ、どれを食べる?
言語は分からないがニュアンスだけ分かるのが腹立たしい。
「料理を選べばいいのか…」
どれも食べたくないが故に、どれを選ぶか悩む。
とりあえずサブタイトルが不穏な手羽煮物は却下だ。異論は認めない。
「俺は大根ステーキにしよう。ハヤタはどれにする?」
「わぅ!?きゃんきゃん!(ぼくもたべていいんですか? うれしいです! たべます!)」
再びテンションが上がったハヤタが飛び跳ねている。
それを見たゲーミングセクシーエンジェル大根たちも嬉しくなったのか、一緒に飛び跳ねた。
何だこのカオス空間は。ハヤタだけなら癒し空間だったのに。
「わんわん!(これ! ぼくこれにします!)」
ひとしきり飛び跳ねたハヤタが前脚でテシテシと示したのは――『大根と手羽の煮物~私の全身召し上がれ♡~』
よ り に よ っ て そ れ か !
「わふぅ(とりにく、おいしいですよね)」
へっへっと息を切らせる口端から涎が垂れそうになっている。
「…うん、さすがに人間用に味付けされたのはだめだな。聞いておいて、すまない」
「きゃぅん!?(そんなぁ!)」
よく考えれば大根料理はどれも人間用。流石に、犬にはあげられない。
落ち込むハヤタを撫でつつ、雷火はふと思い出した。
「茹でた大根なら大丈夫だったか?」
「わふ!?(本当ですか!?)」
一瞬で復活した。
「おい大根。ハヤタ用に茹でてくれないか?」
――イエッサー!
――お任せよぉ♡
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちがサムズアップする。
そのまま散開し、各自調理に取り掛かった。
……と思ったら、何体かがその場に残った。
――ワンチャン、ちょぉっとこっちに来ましょうか
――ここは調理スペースと近いのよぉ
――食品衛生法は大事よぉ
怪人に食品衛生法を説かれたくない。
料理に毛が入ってはいけないと、ハヤタはゲーミングセクシーエンジェル大根たちに囲まれて、少し離れた場所へ移動した。
ついでに雷火もついていく。
移動先で、彼ら彼女らが暇つぶしにとハヤタを囲んでマイムマイムを踊りはじめたのは見なかったことにしたい。ハヤタも一緒に踊るんじゃない。
しばらくして料理がサーブされる。
雷火には大根ステーキ、ハヤタには塩分なしの茹で大根と、丁寧に身をほぐされた手羽肉だ。彼ら彼女らからのちょっとしたサービスである。
「いただきます」
「わん!(いただきます!)」
そっと雷火が料理に口をつけた瞬間。
香ばしいバター醤油の香りがふわりと広がり、そのあとを追うようにガツンと力強いニンニクの風味が押し寄せる。
濃厚なコクと絶妙な塩味が互いを引き立て、口内では深みのあるハーモニーがほどけていった。
表面は香ばしくカリッと、対して芯はとろりと柔らかい。噛むたびに質感の対比が心地よく、“味わう”という行為そのものを存分に楽しませてくれる。
対してハヤタに出された料理は。
丁寧に下茹でされた大根は雑味がなくなり、大根本来の優しい甘みだけ。シンプルだからこそ、その甘みがより一層際立つ。
手羽肉も、中までしっかり茹でられ、そのうえで丁寧にほぐされている。茹でた鳥骨は割れると鋭利で動物に与えるのは非常に危険。どうやらそれを承知していたらしく、骨の欠片も見当たらない。
「ちゃんと美味しいな」
「(おいしいです! おにーさん、ありがとうございます!)」
結局一人と一匹は、しっかり大根料理を堪能し、丁寧に袋詰めされたゲーミング発光する羽を持たされるのだった。
なお、ハヤタは帰宅後何か食べたと飼い主にばれてちょっぴり怒られた。お仕事で食べる必要があったので、そんなに怒られはしなかったとかなんとか。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
*アドリブ連携大歓迎
*仮面は目元だけを覆うタイプなので、大根を食するには全く問題ありません
まあ!(ゲーミングに輝く羽とセクシーな大根に目を丸くした……気がする。仮面の下で。)
あなたたち、とても興味深いわ…私の番組に遊びに来てほしいぐらい!
でもラジオ番組だから、あなたたちの素敵な見た目が上手くお伝え出来ないのよね…残念だわ
そうね、でも特別コーナーとしてあなたたちを料理して美味しさを伝えることは出来るわ、どう?お持ち帰りして良いかしら?
せっかくだからこのお料理もいただくわね
これは……大根ステーキ?初めて食べるわ
もぐもぐ……はわぁ、なんてジューシーなのかしら!
大根もこんなにガツンとした料理になるのね
「まあ!」
|鳴神・カノン《なるかみ・かのん》(覆面歌姫Canon・h09154)は、電車内の光景に仮面の下で目を丸くした。
どこを見ても一面|ゲーミング発光《約1680万色》の大根大根大根。
目元を覆う仮面が無ければ目がチカチカして大変だったことだろう。
星詠みから話は聞いていたが、こんなに居るとは思わなかった。
というか、むっちり短い手足でよくもまあ器用に動き回り、料理までしている。
カノンの心がウズウズしだした。
だって、こんなに興味を惹かれる生物(?)なんて早々居ない。
いったいどういう理屈で大根がこうなったのかはわからないが、こんな面白い存在をスルーするなんて――|歌姫《ラジオジョッキー》の名折れではないか!?
「あなたたち、とっても興味深いわ…どうかしら、私の番組に遊びに来ない!?」
彼ら彼女らは、その言葉に体を横へ傾けて、器用に大根葉でクエスチョンマークを象った。
この大根たち、思った以上に器用である。
――番組ってなにかしらぁん?
――さあ?
疑問符が飛んでいるその様子に気付いたカノンがかくかくしかじか、説明する。
その途端、大根葉が勢いよくまっすぐに伸びた。
――声を!
――多くの人に聞いてもらえる!?
――もしかしてアタクシたち有名になれるかしら!?
自分たちの存在が多くの人に周知されるかもしれない機会に、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが飛び跳ね喜んだ――のも束の間。
今度はガクリと膝をついた。
テンションの乱高下が凄まじい。
「あ、あら!? どうしたのかしら!?」
彼ら彼女らのボディランゲージで、なんとなくしか察することができないカノンは焦った。
喜んでいる様子だったのにいきなり落ち込んで、一体何があったのか。
――ダメじゃんっ!
――そういえばアタクシたち喋れませんわ!
――God damn!!
そう、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちには声帯が無かった。だからラジオに出ても喋れない。無念。
涙が出るなら滂沱の涙を流しむせび泣いていたことだろう。
その代わりボディランゲージは非常に器用にこなすため、喋れなくともうるさいが。
カノンもそれに気付いたようで、驚愕に息を飲んだ。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちがサムズアップのジェスチャーをする。
「しかたありませんね…」
とっても、とってもとっても残念だ。声からも強く残念がる気配が伝わってくる。
この歌姫はなぜそんなにもゲーミングセクシーエンジェル大根たちに興味を惹かれてしまったのか。
「そうね…でも特別コーナーとしてあなたたちを料理して美味しさを伝えることは出来るわ」
だから先ずは食してみなくちゃ!
膝をついて嘆いていたゲーミングセクシーエンジェル大根たちが、その言葉に歓喜した。
ラジオに出れずとも、『人に美味しく食べてもらう』という悲願は達成できる。
最高のおもてなしで最高に美味しく食べてもらわなくては。
彼ら彼女らがササっとカノンをエスコートする。具大的には、浮遊する一体がカノンの手を取り電車の座席に案内しただけだが。
座ったカノンの前にはテーブルクロスが掛けられた段ボール箱。さすがにあの体で机を運ぶのは難しかった。時には妥協も大事。
その上に料理の乗った皿がサーブされる。
「あら、ありがとう……これは、大根ステーキ?初めて食べるわ」
器用に大根葉でハートマークをつくる彼ら彼女らに見守られ。カノンはパクリと料理を口にした。
ゲーミング発光する大根ステーキを口に含んだ瞬間、まず鼻先をくすぐるのは、焦がしバターと醤油の香り。
そのすぐ後にこんがりと焼けた表面が心地よい歯触りを返してくる。外は香ばしく、中は箸がするりと通るほどに柔らかい。
噛めば噛むほど大根そのものが持つほのかな甘みが顔を出し、次いでバター醤油の深いコクが追いかけてくるようだ。
ガーリックの風味がアクセントとなり、全体をバランスよくまとめ上げている。
「なんて、美味しいのかしら…」
詳細な食レポをしてみせたカノンが、うっとりとため息をこぼす。
たかが大根と侮るなかれ。もとは農家さんが丹精込めて育てた大根だ、美味しくないはずがない。
……怪人化しているが。
重すぎず、でも満足感のある味。
もう一切れ、もう一切れ…と箸が止まらない。
やがてすべて食べ終えた彼女は――丁寧に袋詰めされたゲーミング発光する羽とタッパーに詰められた大根ステーキをお持ち帰りするのだった。
🔵🔵🔵 大成功
メイ・リシェルゲーミングセクシー…エンジェル大根…?
なんだか属性が多い気がするけど
民間の人たちが嫌がってるなら
ボクたちが食べてあげるしかないね
美味しいみたいだし
遠慮なくいただきます
一応、耳は帽子で隠して行くよ
電車の中で調理してるのって
不思議な光景だね
どれも美味しそうだけど
ふろふき大根を食べてみたいな
…あ、美味しい
体もあったまるし
寒くなるこれからの季節にはすごくいいね
鳥そぼろも好きだな
ねえねえ、おろし金はある?
大根おろしを作ってみたいんだ
ハンバーグとかに載せると美味しいんだよ
作らせてもらえたら持って帰ろうっと
…すり下ろしてもやっぱり光るのかな?
ごはんたまに忘れちゃうけど
光ってたらぜったい忘れないから安心してね
「ゲーミングセクシー…エンジェル大根…?」
少年は目を疑った。いや、疑うも何も光ってるしセクシーだし飛んでるし、首を傾げて呟いたのは仕方のない事だった。
なにせ属性が多すぎる。
――ええ、そうよ!
――私たちはちょっとセクシーに生まれてしまった哀れな大根…!
ブンブンと首(?)どころか体全体を前後に振って、彼ら彼女らが自己主張している。
残像が完全にライブ会場のサイリウム。
少年――メイ・リシェル(名もなき魔法使い・h02451)は、ムムムと唸る。
民間の人たちが嫌がってるなら、ボクたちが食べてあげるしかない。ないのだが…本当に食べても大丈夫なのだろうか。
野菜なのに意思疎通ができるってどういう事だ。
ちょっと色々心配になってくる。
でもこの大根たちを美味しく食べなければ、ハイジャックされた電車を取り戻すことができない。もうほんと何なんだこの状況。
一応自認は美味しいということなので、ここは遠慮なくいただいてみよう。
――あんらぁ!可愛い坊やだわぁ
――食べてぇ!私たちを食べてぇ!!
――羨ましいわ羨ましいわ、私だって食べてもらいたいわ!
ボディランゲージっぽい動きが喧しい。というか、存在そのものが喧しい。
見た目も癖が強いなら、彼ら彼女らの自我もまた、強かった。
喧噪が苦手なメイには、彼ら彼女らの声が聞こえなくてよかったかもしれない。
電車内で料理が進められていく不思議な光景を目にしつつ、メイはゲーミングセクシーエンジェル大根に導かれるまま座席の一角にちょこんと座る。
すると、秒速で彼ら彼女らが段ボールにクロスをかけた即席机を設置した。
その様は手慣れすぎてはいないだろうか。
少し離れた場所では敷かれたブルーシートの上で彼ら彼女らの仲間が刻まれている真っ最中だった。
トトトト、と軽快なリズムが刻まれる包丁の音。
クツクツ煮込まれる鍋の音。
パアァァァと広がる|ゲーミング発光《約1680万色》。
え、その光は消えないの…?
不思議な光景を目にしながら、やっぱりメイの脳裏には疑問符ばかりが浮かび上がる。
美味しい大根料理なら、|当の大根たち《その道のプロ》に任せろと言わんばかりだ。
なんの道のプロだ。大根は大根だろう。
――メニューの希望はありますか!
――基本的にはこの三つよ!
――どれも美味しいわよぉ
差し出されるメニュー表。……三つしか書かれていないのはご愛敬。
「えっと…それじゃ、ふろふき大根を食べてみたいな」
――ふろふき大根一丁ォォォオ!
まるでどこぞのラーメン店のようだ。
湯気の代わりに立っているのは光だが。
今、彼ら彼女らのテンションは非常に上がっている。
自分たちを調理してほしくもあるが、自分たちが丹精込めて調理した|大根料理《仲間たち》を食べてもらうのも、彼ら彼女らには大切な|理想《ユートピア》なのだ。
そしてようやく完成したふろふき大根。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちにより、メイの前にサーブされる。
優しい出汁の香りが広がる、ゲーミングに発光するふろふき大根。
結局、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちの発光は、調理されても消えることは無かった。
良い匂いなのに、見た目が残念極まりない。
「光ってるの、消えないんだ…でも美味しそうな匂い」
恐る恐る口に含んで、口内に広がる優しく繊細な味に思わず笑みがこぼれた。
「…あ、美味しい。体もあったまるし、寒くなるこれからの季節にはすごくいいね」
メイの言葉にゲーミングセクシーエンジェル大根たちはテンションが天元突破した。
彼ら彼女たちが何より欲しかった言葉だ、その喜びようを止めることはできない。
隣の仲間と手を繋いでは軽快にステップを踏み、手を離したかと思えばクルクル回る。また手を繋いでクルっと回り、ステップを踏んで。その動きはまるでコロブチカのようだった。
はふはふ…と熱さに苦戦しながら、メイはふろふき大根を完食する。
……と、ここで終わるかに思えたのだが。
ふろふき大根を完食したメイが、何気なく問いかけた。
「ねえねえ、おろし金はある? 大根おろしを作ってみたいんだ」
その一言に――ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは狂喜乱舞した。
美味しく食べてくれて満足していたのに! そのうえ大根おろしをご所望!? 本当に!? 所望してくれる!?
思わず大根葉でハートを作っちゃった、キャッ♡
一気にテンションがぶち上った彼ら彼女らが、いそいそとおろし金を用意する。
ここで誰がすりおろされるかひと悶着あったのは言うまでもないが。無事に大根おろしが出来上がったことは伝えておきたい。
なお、すりおろされた大根は当然ゲーミング発光し続けた。
お土産に、と手渡された綺麗に袋詰めされたゲーミング発光する羽と大根おろしの入ったタッパーが、メイの自宅に持ち帰られたのは言うまでもない。
🔵🔵🔵 大成功
ノア・キャナリィわぁ……なるほど、これが俗にいうげーみんぐ
確かにちょっとびっくりしちゃうけど…味は変わらないんでしょう?
それなら喜んで頂きます
どれも美味しそうで迷うけど…じゃあ、ふろふき大根を頂こうかな
なんとなく今日はそんな気分で
(ちなみに味覚が正確かつ作る方でも食べる方でも料理好きなので、食べたら自然と食レポしますベタ褒めします)
どうせなら全部食べてあげたいくらいだけど、生憎少食なんだよね
だから…もし良かったら、うちに来ない?
定番の煮物は勿論、チーズと揚げたり、大根もちも美味しいよね
漬け物にするのも有りかな
一食で全部が無理なら分けて食べればいいから
お好みの調理法があれば、なんでも叶えてあげますよ
どう?
「わぁ……なるほど、これが俗にいうげーみんぐ…」
彼の目の前ではゲーミングセクシーエンジェル大根が、せっせと忙しなく動き回っていた。
約1680万色に光る翼を羽ばたかせ、切られた|大根《仲間》を運ぶもの。
むっちり短い腕に調味料を抱え、むっちむちの足をせっせと動かすもの。
それぞれが電車の中を行ったり来たり。
ふくよか(?)な胸の谷間に調味料の瓶が挟まっているのは、これが人の女体だったらちょっと目に毒だったかもしれない。
彼ら彼女らが大根でよかった。
そんな、色んな意味でも視覚の暴力な光景を前に、ノアは目を丸くしていた。
「たしかにちょっとびっくりしちゃうけど…味は変わらないんでしょう?」
星詠みの話では美味しく食べてもらいたいのだとか。
彼ら彼女らの自認では美味しい、らしい。
本当に美味しいのか、そもそも食べて大丈夫なのか若干心配になるが。
それでも食べて問題ないと言うなら――。
「喜んで頂きますよ」
そんなことをつつら考えていたら。
気付けばノアはゲーミングセクシーエンジェル大根たちに囲まれていた。
なんなら新たな客の来訪に喜び、思考を飛ばしていたノアを囲んで踊っている。
隣同士手を繋いでぽて、ぽて、とステップを踏んでは輪を縮め、輪を広げて相手とハイタッチ。片足でピョンピョン跳ねてはクルリと回る。
何度も繰り返されるその動きはキンダー・ポルカのようだった。
……いったい彼ら彼女らはその踊りをどこで覚えてきたというのだろう。まったくもって謎である。
踊っていた彼ら彼女らは、ノアの意識が現実に戻ってきたのに気付いた。
ピタリと一糸乱れぬ動きで止まる。
声帯がないため喋れないが、このゲーミングセクシーエンジェル大根たちは互いに意思疎通が可能なので、こんな芸当も朝飯前だ。
彼ら彼女らは口もないので食べられないが。
わらわら足元に集まってきた彼ら彼女らを見下ろすと、差し出されたのは一枚のお品書き。……メニューが三つしか書かれていないが。
「どれも美味しそうで迷うけど…じゃあ、ふろふき大根を頂こうかな」
最近すっかり寒くなってきており、今日は体の温まるものが欲しい、そんな気分なので。
――合点承知!
――ふろふき大根はいりまーす!
メニューの希望を聞いたゲーミングセクシーエンジェル大根たちが各自散らばっていく。
その間にと、ノアがクロスの掛けられた段ボール製の机が置かれている一角に案内された。
しばらくしてサーブされたのは鳥そぼろ餡がかけられたふろふき大根。
ふんわりと香ってくる優しい出汁の匂いが非常に食欲をそそる。
「あれ…なんだか、凄くお腹が空いてきたような…?」
匂いに胃が刺激されたのか、急に空腹を感じてきた。というか待ってほしい、空腹感がどんどん増している。
なぜ!? と驚くノアの視界外から、一体のゲーミングセクシーエンジェル大根が何やら怪しげな武器を構えていた。といっても、綺麗にまとめられたゲーミング発光する羽団扇だが。
それをそよそよと仰いでいる。仰ぐ先から、本体のゲーミング発光よりは光が弱まった約1680万色の光が溢れ出している。
食欲錬金術ジャパニーズラディッシュ・アルケミア――ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが、自分たちを美味しく食べてもらうために開発した能力。
ノアの空腹感は、この能力によるものだった。
「とっても、美味しそうに見えてきた…」
ふろふき大根の匂いを嗅いで、口の中にジュワリと唾液が溢れる。胃が早くそれをよこせと言わんばかりにキュルキュルと抗議の音を立てた。
「も、もう我慢できない…!」
強まる空腹感に、慌てて箸を手に取り。
はぐ、と一口含んだ途端。
口腔内に出汁の香りが充満した。
ほろりと形を崩すほどに煮込まれた大根は、咀嚼を必要としないくらいに柔らかい。なにこれ舌で潰れていく…!
丁寧に下茹でされたことで灰汁による雑味が一切ない大根は、大根が本来もつ甘さと白出汁の控えめな塩味が調和しとても繊細な味を作り出している。
口の中で潰せば潰すほどうま味を多分に含んだ汁がじゅわりと溢れ出し、それだけでもう口の中が幸せだ。
だというのに、ああ!鳥そぼろ餡と一緒に食べればどういうことだ!甘じょっぱく炊かれた鳥そぼろが優しく繊細な大根に味にコクを与え、また違った美味しさが襲ってくる…!
だというのに後味は軽く、スッキリしていて…。
あっというまに一皿食べきってしまったノアは、ほぅ…と恍惚の表情で吐息を吐いた。
こんなに美味しいふろふき大根は初めてかもしれない。
「とても美味しかったです」
その言葉に大喜びしたゲーミングセクシーエンジェル大根たちが、再びキンダー・ポルカを踊り出した。
でも…と、ノアがしゅんとした表情を浮かべる。
「僕、小食で…。どうせなら全部食べてあげたいけど、難しいんだ」
その言葉を聞いて、彼ら彼女らは膝をついた。
そんな、これからもっと美味しい|大根料理《私たち》を食べてもらおうと思ったのに…!
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは悔し涙を流した。目が無いので流れていないが。
「それで、一つ提案なんだけど…もし良かったら、うちに来ない?」
――え…?
――私たちを
――お持ち帰り…!?
彼ら彼女らは復活した。なんなら膝をつく前より激しく踊り狂っている。
「一食で全部食べれないならわければいいから。料理には自信があるので、お好みの調理法があれば、なんでも叶えてあげますよ」
どう?
そう聞かれて、頷かないはずがない。
この日、一人の√能力者によりお持ち帰りされるゲーミングセクシーエンジェル大根が居たとか、居なかったとか。
🔵🔵🔵 大成功
獅出谷魔・メイドウ大根より肉を食わせろ!肉サイコー!肉が力!
…と、山を降りる前のアタシなら言うだろう。だがアタシは知ったぞ!おでんに入ったでっかい大根を!焼き魚にどっさり乗った大根おろしを!そいつらも、大根も、筋肉と力に変わるって!
だから、食う!全部食う!最強の道になれ、大根!
さあ、横に並べ!全員残さず輪切りにするぜ!
唸れ「オールスレイヤー」!薙ぎ払って大根をまとめてぶった切り!手頃な大根を引っ掴んで!蹴り入れて柔らかくするぜ!
…こっからどうすんだ…?このまま食うか!(ガリガリバリバリ)
…やっぱ煮るか!とりあえず…お湯と醤油でじっくり煮る!
…まだかなー
煮えた!いただきます! …これおでんじゃねえや!でもうめえ!
「知ってるか? アタシにも、
『大根より肉を食わせろ! 肉サイコー! 肉こそ力!』
って思ってた時期があったんだ…」
座席に片足を乗せ、膝に前腕を乗せた|獅出谷魔・メイドウ《シデヤマ・メイドウ》(暴力の化身・h00570)が語る。
その周囲では、律儀に正座したゲーミングセクシーエンジェル大根たちがゴクリと固唾を呑み込んでいた。
カッ!!とメイドウが目を見開く。
「だがアタシは知ったぞ! おでんに入ったでっかい大根を! 焼き魚にどっさり乗った大根おろしを! そいつらも、大根も、筋肉と力に変わるって!!」
メイドウが身を乗り出し、握り拳を掲げて高らかに叫ぶ。
その勢いに、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちがやんややんやと拍手を送る。
一体ここはどんな空間だ。
――そう!大根はけっして料理の脇役ではなーい!
――そうよぉ!大根ってのはねぇ、胃にも美容にもいいんだからぁ!
――あとタンパク質の分解とかもできちゃうんだから!
「だからアタシはお前たちを食う! 全部食う! 最強の道になれ、大根!」
キュー! キュー!
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが口笛の代わりに大根葉の根元を強く擦り合わせて音を出す。
甲高い音は口笛にも似ていた。
とにかく、彼ら彼女らは歓喜した。メイドウの勢いと宣言に。
――いよっ! 姐さん!
――キャアアア素敵ィィィ!!
――こんなん惚れてまうやろー!!
メイドウが彼ら彼女らの声を聴くことができていたら、そんな喝采を受けていた事だろう。
まあ、ボディランゲージが豊富なゲーミングセクシーエンジェル大根たちなので、なんとなく伝わっていそうではあるが。
「さあ、横に並べ! 全員残さず輪切りにするぜ!」
……いや、伝わってはいなさそうだ。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちの盛り上がりには気付かぬまま、メイドウが彼ら彼女らに指示を出す。
――サーイエッサー!
――イエスマム!
――合点承知の助!
彼ら彼女らはビシッと敬礼をして、それぞれに返事する。言語を統一しろと思わなくもない。
瞬時にザザっと整列したゲーミングセクシーエンジェル大根たちを前に、メイドウが大剣を構えた。
「唸れオールスレイヤー! 薙ぎ払って大根をまとめてぶった切りだあー!!」
ブォン!!
メイドウが手にした無骨な大剣――オールスレイヤーが横薙ぎに振るわれる。
スパパパパ!!
整列していたゲーミングセクシーエンジェル大根たちが、綺麗に輪切りにされていった。
――あぁん見事な大剣捌き!
切られていく|大根《仲間》たちを見て、列に並べなかったゲーミングセクシーエンジェル大根たちが恍惚の声を上げている。聞こえはしないが。大事なことなので2回言っておく。
「次行くぞ次ぃ!!」
――キャァ♡
ガッ! とメイドウの手が近くにいた彼女を鷲掴む。
掴まれた方は頬を押さえてもじもじしていた。嬉しいらしい。
「蹴り入れて柔らかくするぜ!」
ポンと投げ出された身体。
普通なら慌てるところだが、ゲーミングセクシーエンジェル大根は|己が運命《調理されゆく未来》を受け入れているので――。
そのまま強靭な足により木っ端になった。
……流石に一定の固さがある大根を蹴れば、そうなると思う。
「あれ、柔らかくならないのか!? まあいい!」
どうして柔らかくなると思ったのか。しかもそれでいいんかい。
木っ端になった|大根《仲間》を、他のゲーミングセクシーエンジェル大根たちがせっせと集めている傍らで。
「…こっからどうすんだ…?」
いや、何も考えてなかったんかーい!
この場に他の人がいれば軽快にノリツッコミしてくれただろう。
しかし残念ながらこの場にはノリツッコミをしてくれる人はいなかった。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが居るだろうって?
バーロー、彼ら彼女らがこのノリのいい御仁相手にツッコむと思うか? いや、ツッコむはずがない。(反語)
つまりはツッコミの不在。諦めるしかない。
「このまま食うか!」
深く考えるのを止めたメイドウが、生 の ま ま 食 べ 始 め た !!
大根は生でも食べれるが、そのままだと雑味もあるだろうに。そんなことはお構いなしだと言わんばかりにガリガリバリバリ食べている。実に豪快。
まさか自分たちを大根おろし以外で生のまま食べる人が現れるとは!?
思いもよらなかった光景に、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちのテンションは天元突破した。
まるでその場を盛り上げるオーディエンスの如く頭を激しく前後に振っている。ヘッドバンキングもかくやという勢いだ。
何度も言う、ここにツッコミはいない。
「…やっぱ煮るか!とりあえず…お湯と醤油でじっくり煮る!」
やはり生のまま食べ続けるのは辛かったらしい。
いくつか大根の塊をバリボリ食べたメイドウが、急に鍋へ輪切りの大根をシュー!!
そのまま水をドバドバ流しいれて火にかけた!
「まだかなー、まだかなー!」
気が早い!まだ水は沸騰すらしていない!!
文字通り大根と水しか入っていない鍋に、見かねたゲーミングセクシーエンジェル大根たちが調味料を足し始める!
彼ら彼女らは気遣いの出来るいい子たちなので、メイドウが美味しく食べれるようにサポートするのが使命だとか思っているかもしれない。知らんけど。
ようやく料理が完成した頃には、メイドウの腹はギュルルルル! と猛獣もかくやの音を立てていた。
というのも、待っている間にメイドウと盛り上がった結果、食欲大大大促進大根食べろ砲をぶっ放していたので。
何をやっているんだ一体。
閑話休題(?)
「煮えた! いただきます! …これおでんじゃねえや! でもうめえ!」
まさかおでんを作るつもりだったのか。他の具材が何も入っていなかったので普通にふろふき大根になっちゃった。失敗失敗。
でも美味しそうにガツガツ食べているので、結果オーライ。モーマンタイ。
お土産にと綺麗に袋詰めされたゲーミング発光する羽を持たされて、メイドウは満幅の腹を摩りながら帰ることになるのだった。
🔵🔵🔵 大成功
マルル・ポポポワール【翼大根】
ゲーミング?セクシー…!エンジェル!?大根!?!?
…と、とにかく美味しい料理を作ればいいのですね、お任せください!
持ち帰って比翼の館の皆さんも巻き込…皆さんにもご馳走しましょう!
それでは作っていきましょうゲーミングみぞれおでん!
…いえ、別にゲーミングにしたくないんですけど、光りますよねこれ
か、カットはお願いします、アクセロナイズさん!
私はメイド修行を活かし、おでんの味を整えていきましょう
カットして頂いた大根を主役に、皆さんの好きな材料を入れ、透空さんの歌を共に口ずさみながら、虹色の粉…みぞれを入れて煮込んで完成です!
材料は余すことなく
その翼も集めて固めて、鍋敷きに使わせて頂きますね!
架間・透空【翼大根】
ゲーミング大根!?なに、なんでしょうね……これは。
なにはともあれ、誠心誠意頑張りましょう、お二人とも!
それでは仕上げていきましょう。
品目は……みぞれおでんということでしたので。
アクセロナイズさんに大根のカットを全面的にお任せして。
おでんのお味等細かい調整はマルルさんにお願いして。
私は大根おろしの準備をしていくことにします。
折角なので楽しくクッキング、しましょう!
お歌を歌いながらすりすり、すりすり♪
勿論、手先に細心の注意を払うことは忘れない。真剣にすっていきますよ。
なんか虹色の怪しい粉みたいになってしまいましたが……お味の方は大丈夫でしょう、きっと。
アクセロナイズ・コードアンサー【翼大根】
珍妙な状況ですが、全力を尽くす!
大根の方々、調理されていない皆様に声を掛けましょう
「自分たちに皆様の調理をおまかせいただけませんか?」
品目はみぞれおでん! 皆様の力を借りれば負ける気がしない!
自分は大根の皮むき切りつけを担当。天牛蜻蛉の居合で、複雑な形状をモノもせず皮は厚めに剥き、均一な輪切りに!
隠し包丁も忘れませんよ、曲芸ではなくれっきとした調理です!
マルルさんのため翼も形を崩さず居合、架間さんの歌に合わせ輪切り! リズムに乗ります!
持ち込んだ具材・『こんにゃく、餅巾着、なると巻、うずらの卵』
完成後は全員で食べ、館の皆さんにも分けましょう!
「ゲーミング? セクシー…! エンジェル!? 大根!?!?」
「ゲーミング大根!? なに、なんでしょうね……これは」
「これはまた、珍妙な状況ですね」
三人が乗り込んだ電車は、カオスと化していた。
車内で動き回る大根、大根、大根。
どこを見渡しても大根――ゲーミングセクシーエンジェル大根がいる。
むっちむちの手足にふくよか(?)な胸。相手は大根とわかっているが、たしかにこれはセクシーだとマルル・ポポポワール(Maidrica・h07719)は赤面した。
「な、なんかすごい怪人……怪人!?!?!?」
これ怪人なんですか!?
と真っ赤になりながら叫ぶマルルの横で、|架間・透空《かざま・とあ》(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)も驚愕の表情を浮かべている。先日の星の大戦士といい、怪人には変なのしかいないのか?いや、そんなことは無いはず。
一緒に来ていたアクセロナイズ・コードアンサー(飛来する銀蝗・h05153)も、余りの光景に半笑いだ。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちも、新たな客の来訪に気付いてわらわらと集まり始めた。
――あら、団体様のご到着ですね
――美味しいよー、怖くないよー、たくさん食べてー!
歓迎するように手を振るもの、わっさわっさと大根葉を揺らすもの。
ぺかぺかー! と|ゲーミング発光《約1680万色》を明滅させるものもいる。
眩しすぎるからやめてほしいと思ったら、そっとサングラスが差し出された。気遣いのポイントがずれてやしないか。使うけど。
「状況は珍妙ですが、星詠みによればやることはシンプルです」
「と、とにかく美味しい料理を作ればいいのですね、お任せください!」
「誠心誠意頑張りましょう、お二人とも!」
サングラスを掛けて三人が気を取り直したところで、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが反応した。
――今料理するって言わなかった?
――言った言った。
――料理する!? 私たちを!? 料理してくれちゃう!!?
――ひゃあああああぁぁぁぁ!!
ここが|エデン《理想郷》か? EDENだったわ。
歓喜した彼ら彼女らが片足ずつ交互に振り上げ、ピョンピョン跳ねながら前進する。かと思えば同じ動作を繰り返す一体の後ろにもう一体がつき、同じ動作を繰り返してと、いつのまにやら輪になって踊り始めていた。
その動きはジェンカにそっくりだ。
「お、踊り!?」
「踊れるんですか…!?」
マルルと透空が再び驚愕。誰だって大根(?)が踊り出すなんて思わない。
アクセロナイズは遠い目をした。頑張れ。
「と、とりあえず料理を始めましょう」
「あ、はい!」
「そうですね!作っていきましょう!」
再び気を取り直して、三人は調理のために動き出す。
アクセロナイズが踊る彼ら彼女らに近付き、片膝をつく。
踊っていた彼ら彼女らは踊りを止めて、なんだろうと首を傾げた。
「自分たちに皆様の調理をおまかせいただけませんか?」
――いいともー!
調理を担当していないゲーミングセクシーエンジェル大根たちが、大根葉をピンと立たせる。
サムズアップするものや、大根葉で器用にハートマークをつくるものなど反応は様々だが、嫌がってはいない。
むしろ彼ら彼女らからしたら、自ら調理してくれるなど|理想郷《ユートピア》。
なんなら惚れちゃう。
了承を得られたと、アクセロナイズは何体かについてきてもらった。
場所はまな板が置いてある場所。そこにそっと寝転がってもらう。……艶めかしい動きで寝転ぶのはやめてもらいたい。
今回三人が作ろうとしているのはみぞれおでん。
ちゃんと事前に具材も持ち込み済みだ。
せっかくだから、この大根たちを余すことなく使ってあげたいという彼らなりの優しさだ。
スラリと抜き出すのは、銀刀・天牛蜻蛉。長さ75㎝近い刃をもつ日本刀だ。
その刀を構え、躊躇なく居合切り。
スパパパ!と素早い風切り音を立てたかと思うと、まな板の上に寝転がっていたゲーミングセクシーエンジェル大根は綺麗に皮を剥かれていた。
綺麗に翼も落とされている。
――いやーん♡
彼女からしたら皮は服。急に服を剥かれてちょっと恥ずかしかった。
でもいいの、私これから美味しく食べてもらうんだもの…。
ちょっともじもじするが逃げることは無かった大根に、追撃が加えられる。
ストトト!と軽快な音を立てて、均一な輪切りにされていく。
――あーれー…!
こうしてまな板の上の彼女は、物言わぬ大根となった。
余談だが、皮を剥いても輪切りにしてもゲーミング発光は続いている。
ついでにと、味を早くしっかり染み込ませるため隠し包丁も忘れない。
「動きが曲芸じみているが、これはれっきとした調理です!」
誰かに言い訳するわけではないが、大事なことなので言っておく。
アクセロナイズがゲーミングセクシーエンジェル大根を切る傍らで、透空が歌いながら彼ら彼女らを丁寧にすりおろしていた。
「折角なので楽しくクッキング、しましょう!」
|誰よりも、遠く、高く《ハイペリヨン・ゴービヨンド》――透空の√能力による歌は、美味しくなあれと願いを込めて紡がれる。
その歌に、大根を切るアクセロナイズも、鍋の用意をするマルルも一緒になって歌い出す。
なんなら合いの手よろしく、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちもキュッキュッと大根葉をすり合わせて音を奏でていた。
そうしていれば、約1680万色に輝く大根おろしの完成だ。
「なんか虹色の怪しい粉みたいになってしまいました…」
まあでも多分きっと味の方は大丈夫。知らんけど。
こうして準備された輪切りの大根と大根おろし。
待ってましたと言わんばかりに、気合を入れたマルルが大根その他持ち込みの具材を鍋に入れて火にかける。
ちなみに持ち込んだ具材はこんにゃく、餅巾着、なると巻、うずらの卵。
どれもおでんに入っていたら最高に美味しいやつだ。
「さあ、メイド修行を活かし、おでんの味を整えていきましょう」
そういって、水に出汁に醤油にみりん、あとは少量の塩も入れて、全体の味を調えていく。
もうこの時点で鍋の中から約1680万色の光が溢れ、完成後の姿は想像する必要もない。
加熱しても消えないのかこの光は。
しかし、流石マルルが味を調えているだけある。
ふつふつと煮えてくるたびに、電車内には出汁のいい香りが広がっていく。
他のゲーミングセクシーエンジェル大根たちも気になるのか入れ代わり立ち代わり鍋の中を覗き込んでいる。
「あとは虹色の粉…みぞれを入れて煮込んで完成です!」
虹色の粉…なにかアブナイ響きだ。実際には大根おろしだが。
それを遠慮なく鍋の中へ入れる。
あとはひと煮立ちさせれば完成となる。
「お二人とも、できましたよ!」
見た目はともかく、とても美味しそうな匂いのみぞれおでんが完成した。
出来上がるのをまだかまだかと待っていた二人とゲーミングセクシーエンジェル大根たちから歓声が上がる。
マルルはゲーミング発光する翼を集めて重ねると、その上に鍋を下ろした。
ゲーミングセクシーエンジェル大根から受け取った器に、具材をよそって二人に渡す。もちろん自分の分をよそうのも忘れない。
「「「いただきます」」」
まずは一口。煮込まれて柔らかくなった大根を口に含む。
口の中でほろほろ解ける大根。染み出す優しい出汁の味。大根おろしをからめれば、優しい甘さと少しの辛みが非常に美味しい。
持ち込んだ具材も良い感じに出汁が染み、文句なしの出来栄えだ。
「よかった、ちゃんと美味しいです」
「さすがマルルさん。美味しいですよ」
「ありがとうございます。ちゃんと美味しくできてよかったです」
見た目で心配していたが、味はちゃんと普通だった。というか美味しい。
これで元は規格外品だからと廃棄されようとしていたとは、残念だ。
三人が食べるのを固唾を飲んで見守っていたゲーミングセクシーエンジェル大根たちも、その言葉に大喜びだ。
あちこちでキュッキュッと大根葉を鳴らして飛び跳ね、喜びを表現している。
心行くまで堪能した三人は、館のみんなにも食べてもらいたいからと鍋ごとお持ち帰りすることにした。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが大根葉でLOVEしたのは言うまでもない。
なお、お帰りの際には丁寧に袋詰めされたゲーミング発光する羽を人数分持たされたことも追記しておく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
エレノール・ムーンレイカー……なんか羽の生えた七色に光る大根が見えますが、もうツッコみませんよ?
ゲーミング生物群の新種が発見される度にいちいちツッコんでたら疲れるだけですし……。
え?調理してほしいのですか?
……自ら調理してほしいと願う生物とは、なんとも奇妙な話ですね。
でもまあ、事件の解決もありますし、そう願うのでしたら、お望み通り調理してあげましょう。
折角ですし、良く作る豚バラ大根を作りましょうか。
適当にその辺のゲーミング大根を手に取り、調理していきます。切っている最中は妙な視線と罪悪感を感じてしまいますが、切り替えて調理を進めていきます。
そして、豚バラ大根の甘辛照り煮が完成!
でもなんかこう、匂いは良いのですがゲーミング発光のせいで食欲が微妙に湧きませんね……。
――でも、食べてみましょう。
うん、甘辛いタレが大根と豚バラにしみて美味しいですね……。ご飯が何杯でも行けそうです。これは残りは持ち帰って食べましょう。
ごちそうさまでした。お腹も満たせて、事件も解決できて一石二鳥でしたね。
……これで良かった、のかな?
げんなりとした表情を隠しもせず、エレノール・ムーンレイカー(蒼月の|守護者《ガーディアン》・h05517)は目の前の光景を見ていた。
「……なんか羽の生えた七色に光る大根が見えますが、もうツッコみませんよ?」
えっさほいさと調理道具を運ぶもの。
三徳包丁片手にまな板の|大根《仲間》を切るもの。
更にはそれを調理するもの。
エレノールが乗り込んだ電車内は、|七色《約1680万色》に光る大根怪人――ゲーミングセクシーエンジェル大根たちによって調理場と化していた。
過去、イカ捕り放題と聞いて行ったらゲーミング発光するイカだったことを思い出す。
あれは酷かった。敵も味方も、ゲーミングイカ墨まみれになっていたのは記憶に新しい。
他にもちらほらゲーミング生物なるものが増えているのは多少なりとも情報が入ってる。
今まではゲーミング発光している生物だけだったと記憶しているが…とうとう怪人化したのか。
いちいちツッコんでいたら疲れる、とチカチカする目を閉じ、眉間を揉んでいたら。
くん、とスカートの裾が引っ張られる感覚。
「ん?」
何だろうと下を見れば、ゲーミングセクシーエンジェル大根が精一杯背伸びをしてスカートのすそを握りしめていた。
……指もない手(?)なのに、器用なことだ。
そしてそっと差し出される黒い|物《ぶつ》――サングラス。
彼らは自分たちが眩しい事を自覚しているので、準備に抜かりは無かった。
「大根に目を気遣われるって…複雑ですね」
怪人がなぜ敵対する相手に優しくしているのだろう。
仕方ない、彼ら彼女らはただ食べてもらいたいだけの心優しい(?)怪人なので。
そんなことを考えていたら、再びスカートの裾を引かれた。
今度は何だろうか見れば、もじもじくねくねしている。
――あのね…
――そのぉ…
――お願いがあるのだけど…
両手を合わせてコテンと(気分は)頭を傾けて、彼ら彼女らはエレノールを見上げる。
俗にいうあざといポーズ。相手はゲーミング発光する大根だが。
「なんでしょう、何か訴えているような気がしますね」
エレノールの勘は当たっていた。
――私たちも料理してほしいなぁ…なんて
――きゃー! 言っちゃった!
頬にあたる場所に手を当てて、体を左右に振っている。
しかし、残念ながら声帯が無いので伝わっていない。
なんなら、それを察した別の固体が必死にボディランゲージで伝えようとしてくる。
「え? 調理してほしいのですか?」
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちはサムズアップした。
自ら調理してほしいと願う生物(?)とは、なんとも奇妙な存在である。
彼ら彼女らの願いは『美味しく食べてもらいたい』なので、意思があるのならそうなる…のか…?
まあとにかくだ、電車ジャック事件の解決も必要。
望みを叶えることで事件が解決するというなら、拒否する理由もない。
「お望み通り調理してあげましょう」
ため息を吐きつつそう言えば、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは歓喜した。
歓喜したついでに、踊り始めた。
隣同士で腕を組み、軽くジャンプしながらクルリと回る。左回り、右回り、手を叩いてまた回る。互いに向き合い足元で軽快なステップを踏んだかと思えば、スキップしながらみんなで円を描いて回る。
その動きは、まるでエース・オブ・ダイヤモンドのようだ。
彼ら彼女らの踊りを、エレノールは虚無を写した目で見つめた。
誰だって、こんなのを見たらそうなる。
結局彼女は、一頻り満足して踊りを止めるまでを待ってあげた。優しさに溢れている。
今回彼女が作るのは豚バラ大根だ。
豚バラは事前に彼女が用意し持ち込んだものを使う。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちによって調理スペースに案内された彼女は、さっそくとばかりに手近な一体を手に取った。
――私を! 選んでくれるのですか!
――あー! ずるいです!
――私も調理されたいです!
エレノールは抗議していそうな彼ら彼女らを視界に入れないようにして、調理を始めた。
先ずは大根の皮を厚めに剥いて、1㎝幅のいちょう切りに。
他の大根からの視線(?)が突き刺さりそう。そんなに見られても食べられる量には限界があるので許してほしい。若干、ほんの若干だが、罪悪感を覚えなくもない。
一度火を通しておきたいが、ここに電子レンジのような便利なものは無い。
仕方ないと耐熱容器(なぜかある)に切った大根と少量の水を入れ、ラップ(これもなぜかある)をしたら火の精霊に頼んで蒸してもらった。
精霊もまさか大根を蒸すために魔法を請われるとは思わなかっただろう。後でお礼をしようとエレノールは心に決めた。
カセットコンロに乗せたフライパン。薄く油をひいたら加熱し、持参した豚バラを入れて色が変わるまで炒める。
そのあと蒸した大根を入れ、水と醤油と砂糖とみりん、生姜と料理酒も入れて蓋をする。
弱めの中火で5分ほど煮てやれば、蓋の隙間から漏れた蒸気が食欲をそそる匂いを広げる。
時間が経てば蓋を取り、あとは汁気がなくなるまで焦げないように混ぜれば――豚バラ大根の甘辛照り煮が完成!
早速皿に盛り付け、食べよう…とは、なかなかならなかった。
だって、匂いはいいのにゲーミング発光している。
完成した料理を前にどうしようと悩んでいたら…一体のゲーミングセクシーエンジェル大根が進み出てきた。
胸(?)の谷間が強い光を放っている。
「待ってください、何をする気で…!」
残念ながら、エレノールの制止は間に合わなかった。
ゲーミングセクシーエンジェル大根の胸の谷間からゲーミングセクシー怪光線が放たれ、エレノールにヒットした。
大丈夫、攻撃性はないので安心してほしい。
その代わり、エレノールに食欲と、味への探求心と、飢餓感が沸いてきた。
「こうなれば、食べるしかありませんね」
彼女は諦めた。だって、さっきより断然美味しそうに思えてくるので。
大根を一口、口に運ぶ。
口の中で煮汁がじゅわりと染み出した。次いで広がるのは醤油と砂糖…だけではなく、豚バラの溶け出した脂により生まれた深い甘み。
大根は一度蒸してしっかり火が通っているのもあり、歯を入れた瞬間にほろほろと崩れていく。
豚の脂はくどくなく、生姜が良いアクセントになっていた。
「うん、甘辛いタレが大根と豚バラにしみて美味しいですね……。ご飯が何杯でも行けそうです」
これはぜひ持ち帰って熱々ご飯と一緒に食べたい。
その意を汲み取ったのか、横でゲーミングセクシーエンジェル大根たちがタッパーを用意している…。
ごちそうさま、と手を合わせれば、彼ら彼女らが大根葉でハートマークを作っていた。嬉しいらしい。
お土産にと、丁寧に袋詰めされたゲーミング発光する羽を持たされて。
お腹も満たせて、事件も解決できて一石二鳥だったなと、電車を後にするのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
ウィズ・ザー正に…薄幸の|天使《エンジェル》だぜ…
すげェ字面、こんな色気皆無な「私を食べて」もそうそう無ェよなァ。だがよ、食べて欲しいっつー意気や好し。
食べてやろうじゃねェの
あとちゃんと|お代《魅惑のウマウマボディ》置いて来た感性も◎
蜥蜴型でもぐもぐうまうま。呑む様に頂いちまうぜ…
「ふろふき大根うっまいな…」この甘み…高級品じゃね?
1.2体分は食ったか?んじゃ、次は…
「料理する側に回るかね」人型に変化。エプロン装着!
「いやァ…美味かった…ありがとうよ。所で調理担当達よォ、喰われたい奴居る?」
√山然の4回範囲攻撃、お望みなら|纏めて料理出来る《420本の刻爪刃で捌ける》ぜ
メニューは…そうだな
先ずは素材の味、大根サラダだろ。ンで大根の味噌汁に、鶏たまの甘辛煮。鮭大根や鯖、鰤に合わせても良いな。
すり下ろしてみぞれ煮に使っても美味いしよ
飾り切りにして刺身に合わせても主役引き立ててくれるし…まァ、片っ端から作るか!
…所で、ウチに来る気あるか?何度でも食ってやれるけどよ。(√刻遡行も併用辞さない気持ち
「そうだよなァ、生まれたからには食べてもらいてェよなァ」
うんうん、と頷いて、その蜥蜴――ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)はゲーミングセクシーエンジェル大根たちに同意を示した。
彼ら彼女らはしなを作り、ヨヨヨ…と泣いている。目が無いので涙は出ないが。
――そうなの、ただちょっと形が悪かっただけだったのよ…
――規格外だからって食べてもらえなくてぇ…
――こんなに美味しいのに…
「辛かったなァ…正に…薄幸の|天使《エンジェル》だぜ…」
ウィズは「(すげェ字面だな)」と思いながら、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちにフィーリングで返事していた。
そう、奇跡的に会話が成り立っているが、実際のところウィズに彼ら彼女らの声は聞こえていない。
――私たちを食べてって言っても誰も食べてくれないのよぉ
――なんでぇ
「あー…」
不格好な農作物は、どうしても忌避されやすい。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは、そんな世の中で生まれた悲しき怪人…。
それにしても、食べてと迫ってくるのはいいが、こんなにも色気を感じない“私を食べて”はそうそう無いだろう。
セクシーな見た目の大根ではあるが、野菜は野菜。
「しっかし、なんだかんだ律儀なやつらだなァ」
ちら、と床に敷かれたブルーシートと調理器具たちを見る。
――あら、そうかしら?
――食品衛生法って大事よぉ
「怪人にしちゃァ、一応清潔にしようって心意気を感じるぜ。
あとちゃんと|お代《魅惑のウマウマボディ》置いて来た感性も|◎《二重丸》だ」
――やだ、そこも褒めてくれるの!?
――んもう、この褒め上手さん♡
嬉しそうに、どこか恥ずかしそうに身をくねらせる彼ら彼女らを見て、ウィズは笑う。
言葉はわからないが、ずいぶんと表現豊かな大根たちだ。
「食べて欲しいっつー心意気も、そのために努力する熱意も好し」
そこまで頑張ったんだ、なら食べてやろうじゃねェの。
そう言ってウィズは大きく口を開ける。
いくつものふろふき大根が口の中に呑まれていく。
モグモグと咀嚼する姿は、表情がなくてもその雰囲気から喜んでいることが伝わってくるようだ。
次々と平らげられたふろふき大根。その量はおおよそゲーミングセクシーエンジェル大根一~二体分か。なかなかの大食漢である。
「ふろふき大根うっまいな…」
ごくりと大根を飲み込んだ彼が一言。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちはその一言に歓喜した。
――やったわぁー!!
――人でも動物でもない存在にも美味しいって認めてもらえた!
キャッキャウフフと、彼ら彼女らは喜んでいる。
中には嬉しさのあまり踊り出す個体も出始めた。
手を繋いで輪になったかと思えばスキップしながら横移動。かと思えば輪を縮めてぴょんと飛び跳ね、今度は輪を広げスキップしながら横移動。最後は手を放して各々が軽快にスキップしている。
その動きはまるでエアスコ・コローのようだ。
「踊れンのかよ!? しかも地味にうめェ!」
既に数々の踊りを披露しているゲーミングセクシーエンジェル大根たち。地味にダンスの技術も向上し始めていた。
褒められて胸を張る姿はちょっと可愛いかもしれない。
「クカカ! そーかそーか、嬉しいか! だったらもっと喜ばせてやンねェとなァ!」
元々ノリの良い彼のこと。はしゃぐゲーミングセクシーエンジェル大根たちの姿を見ていたら、自分もいい気分になってきて。
「料理する側に回るかね」
そういうと、人型に変化した。
そして何故か取り出されるエプロン。いったいどこに閉まっていたのやら。
「いやァ…美味かった…ありがとうよ。所で調理担当達よォ、喰われたい奴居る?」
彼がそんなことを聞くものだから。
ゲーミングセクシーエンジェル大根たちが我先にと押し合いへし合い、むっちりした短い腕を上げて必死に飛び跳ね、アピールしだした。
――はいはい!
――私も調理してぇ!
――ちょっとそこどいてよ! 調理してもらうのは私なんだから!
なかなかの勢いでウィズへと群がっている。
おまけに興奮状態なので|ゲーミング発光《約1680万色》が不規則に明滅している。
ぺかぺかぺかー! っと光るその光景は、正直裸眼だったら目をやられていただろう。
もっとも、人型の彼の場合は義眼と光の魔力を使い、一時的に視力を得ている状態なのであまり影響は無かっただろうが。
「そう慌てンな。お望みなら|纏めて料理出来る《420本の刻爪刃で捌ける》ぜ?」
――キャァ素敵♡
――みんな一緒に料理してぇ!
さっきは我先にと押し合いへし合いしていたが、元々彼ら彼女らは|同じ運命《廃棄予定》だった仲間。
みんなまとめて調理してもらえるならその方が断然嬉しいのだ。
私たちの|理想郷《ユートピア》はここにあった…!!
ウィズは、メニューを何にしようかと考える。
素材をそのまま活かした大根サラダ、定番の味噌汁、食欲をそそる鶏たまの甘辛煮。
鮭大根や、大根おろしにして鯖、鰤に合わせても良い。
作る前からこれだけ喜んでくれているのだ、作り手としてもやりがいがある。
……喜びの方向性が調理してもらう方なのは目を瞑る。考えてはいけないやつだ。
飾り切りにして刺身に合わせるのもいいと思ったが、悩むならいっそのこと全部作ってしまえばいい。
なにせ|素材《ゲーミングセクシーエンジェル大根》はたっぷりあるので。
「よォし、片っ端から作るか!」
彼のその言葉に|車内《フロア》が沸いたのは言うまでもない。
まな板の上に寝転んだゲーミングセクシーエンジェル大根(そう、自分から艶めかしくな転んだ!)を適度な大きさに切り、皮を剥く。
次いで半切りにしたら細く千切りにする。
そうしたら、彼ら彼女らがボウルに入れてくれた水に千切りにした大根を入れ、さらしておく。
その間にと、鍋でゆで卵を作ろうと思ったら、彼ら彼女が協力しだした。
水を張った鍋に卵を入れ、火にかけてクルクル鍋をかき混ぜる。
よくもまああのむっちり短い腕で器用に調理ができるものだと感心する。
ゆで卵は任せてよさそうだと判断すれば、大根の準備にとりかかる。
得意の刻爪刃で、何体かのゲーミングセクシーエンジェル大根を1㎝幅のいちょう切りにする。
この時器用に皮を剥くのも忘れない。
それを二つの鍋に入れ、それぞれ調味料を入れ、片方には皮を剥かれたゆで卵を入れるのも忘れない。
煮ている間に水にさらした千切り大根の水気をよく切り、何故かあったツナの缶詰と混ぜてやる。味付けはマヨネーズと少量の塩。
そうしてようやく完成したのは、大根サラダと大根の味噌汁、大根と鶏たまの甘辛煮。
鯖や鰤は流石になかった。
「いー感じにできたじゃねェか」
手伝ってくれたゲーミングセクシーエンジェル大根たちにありがとうと伝えれば、また嬉しさ余って踊り出した。
何度見ても愉快な生態だ。
完成した料理に口をつける。
大根のサラダはシャキシャキしていて食感が楽しい。水にさらしたことで雑味と辛みが消えており、大根本来が持つ甘みがする。ツナとマヨネーズのハーモニーも実に美味しい。
大根の味噌汁も中まで火が通った大根がとろりとしている。染みた味噌汁が、大根を噛むたびにジュワリ溢れてくる。
大根と鶏たまの甘辛煮も負けてはいない。
甘辛い煮汁がしっかりと大根に染み込み、表面がほどよい光沢で照っている。
噛めば醤油とみりんの柔らかな甘さが口の中一杯に広がっていく。
端的に言って、最高に美味い。
調理しても消えなかった|ゲーミング発光《約1680万色》に、さすがのウィズも若干引いたが。
それでも、チカチカするこの光さえ気にしなければいくらでも食べられそうだ。
だからだろうか。
ウィズがそんな提案をしたのは。
「…所で、ウチに来る気あるか? 何度でも食ってやれるけどよ」
|星脈精霊術【刻遡行】《ポゼス・アトラス》――敵以外のあらゆる損傷を無効にする力がある。
なら、いくらでもこの美味しい大根料理を食べれるわけだ。
彼ら彼女らが了承してくれるなら、美味しい大根料理のために√能力を使ってもいい。
結構本気で彼がそう思っているのを感じ取ってか、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは歓喜した。
わっさわっさと大根葉を揺らし、ダンスを踊って。よく見れば大根葉で器用にハートマークを作っている。
結局この日、大蜥蜴によって彼ら彼女らが何体かお持ち帰りされたとかなんとか。
ついでに、丁寧に袋詰めされたゲーミング発光する羽を持って帰ったことも追記しておく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
見下・七三子【箱庭】
霊菜さんが笑い転げている理由が、わかりました。あの、まぶしいんですけど……。あ、サングラスお借りしたいです……。
唯一さん、おすすめのレシピがあるので食べてもらえませんか?え、唯一さんも?えへへ、じゃあわけっこしましょう!
ということで私は鮭と大根の味噌バター煮を作ります。
鮭は、あらかじめこんなこともあろうかと、鮭の缶詰を持ってきてですね!
あの、食べられてもいいよって方、いますか……?うわ。すごい押し!じゃあ、一番最初に手を挙げてくださった、この子で。
あの、調理時の罪悪感がひどいんですけど。す、すいません!えいっ!
……じゃっかんなんだか虹色発光していますけど、味見した分にはおいしくできました!
えへへ、唯一さんが作ったお料理もおいしそう!ぱくしゃば。唯一さんは、作るお料理もおしゃれ。
こんなこともあろうかと持ってきた白米にも合って、すごく幸せです。ほどよくピリ辛でご飯が進みます。
……あれ、何しに来たんでしたっけ。
……うん、おいしいからいいですよね。
一・唯一【箱庭】
味が良けりゃ形なんてなんでもええのにね
っていうか色やろ
問題はそっちやねん
……目ぇがやられる……!
サングラス持ってきて良かった……七三子も使う?
七三子のおすすめあるん?
うん、ぜひ食べる
ボクも何か一品頑張ってみよか
この前教えてもろた煮込みにしたろ
いや、どの子でもええのやけど、くねくねせんで
お腹痛い……んふふ
じゃあ君にしよか、一番踊り上手やったからね
斬りにくいやんけ
動くなや、んもー
油ににんにくショウガ唐辛子で香りを移して、豚の薄切り肉、玉ねぎ、あと大根たっぷり
水とトマトピューレで煮込んで塩で味整えれば完成
パクシャパーいうんやって
トマトの赤を貫通するゲーミングカラーおそるべし
余った大根は塩まぶして柔らかくして水気ぎゅーっと
絞ったやつまでぺかぺか!
オリーブオイルとかビネガー、胡椒で終わり
くるくる巻いて薔薇にしたろ
見てぇーゲーミング大根ローズ洋風なますー(長い)
七三子の手軽やけど、鮭と味噌バターの風味がご飯にあうなぁ
おいしい、ずっと食べてしまうわ
……あれ、今って戦争中……
ええか、美味しいから
「霊菜さんが笑い転げている理由が、わかりました…」
目の前の光景――ぴかぴか光り続けるゲーミングセクシーエンジェル大根に、|見下・七三子《みした・なみこ》(使い捨ての戦闘員・h00338)は唖然と声を上げる。
同行者の|一・唯一《にのまえ・ありあ》(狂酔・h00345)も、|ゲーミング発光《約1680万色》にチカチカする目を瞬かせた。
「味が良けりゃ形なんてなんでもええのにね。なんでそんなこだわるんやろ。
っていうか色やろ、問題はそっちやねん。目ぇがやられる……!」
「すごく、まぶしいです……」
各個体がそれぞれのタイミングでゲーミング発光すると、さすがに屈強な√能力者であっても堪らない。
ジャックされた電車に乗り込んで僅か数分、二人の視力は限界を迎えた。
だって一体だけでも目にくるのに、それがたくさんいるのだ。
目に優しいと思うか? いや、思わない。(反語)
「サングラス持ってきて良かった……七三子も使う?」
「あ、サングラスお借りしたいです……」
七三子は唯一が差し出したサングラスを受け取った。
二人してサングラスを装着する。
……怪しい人物とどこかのエージェントのようになったが、そこは割愛。
ちなみに二人から少し離れた場所では、サングラスを持ったゲーミングセクシーエンジェル大根たちが大根葉を萎れさせていた。
持っていこうとしたら持参してただなんて思わないじゃない…と聞こえてきそうなほどに萎れていた。
そんなことは露知らず、二人は大根料理について話し合っていた。
「唯一さん、おすすめのレシピがあるので食べてもらえませんか?」
「七三子のおすすめあるん? うん、ぜひ食べる。ボクも何か一品頑張ってみよか」
「え、唯一さんも?えへへ、じゃあわけっこしましょう!」
キャッキャと盛り上がっている二人の会話を、期待の眼差しでゲーミングセクシーエンジェル大根たちが見つめていた。目は無いが。
――はわわ、また私たちを調理してくれる人が…!
――キャァ、今度はどんな料理にしてくれるのかしら!?
こっちはこっちで盛り上がっていた。
今までにも既に多くの仲間が人間の手で調理されている。
次は私が! いや私よ! と、誰が調理されるかで熾烈な争いが起こるのは必然だった。
そして結局決まらなかった調理される役は、七三子と唯一の手に委ねられるのだった――。
「では、私は鮭と大根の味噌バター煮を作ります」
「ボクはー…ふふ、できてからのお楽しみにしよかな」
「わあ、楽しみです!」
そんな彼ら彼女らの様子は横に置き、二人の作る料理が決まったようだ。
早く行こうと言わんばかりに、数体のゲーミングセクシーエンジェル大根たちが二人を調理スペースへと誘導する。
「あの、食べられてもいいよって方、いますか…?」
そう言ったが最後、七三子はゲーミングセクシーエンジェル大根たちにもみくちゃにされた。
誰も彼もが調理してと、むっちりした短い腕を上げてわらわら群がっている。
「わあ!? すごい押し! お落ち着いてください…!」
――落ち着いていられるもんですかー!
――私! 私を!
――いや私を選んでー!
傍からみた唯一は、あまりの勢いに引いた。
閑話休題。
さてさて、もみくちゃにされた七三子は、群がるゲーミングセクシーエンジェル大根の中から一体を掴み取った。
……掴んだ瞬間彼女の握力に驚いたゲーミングセクシーエンジェル大根が葉を擦れ合わせてキュッ!? と鳴き声(?)を上げていたが。
大丈夫、幸い潰れてはいないのでセーフだ、セーフ。
「こ、この子にします…! 一番最初に手を挙げてくださった、この子で!」
若干肩で息をしたボロボロの七三子が掴んだゲーミングセクシーエンジェル大根を掲げる。戦闘員として改造を施された彼女の動体視力は、最初の一体を見逃さなかった。
そうなれば、他の彼ら彼女らは諦めるしかない。
大人しく引き下がってくれた姿に、七三子はほっと息を吐いた。
「それじゃ、よろしくお願いします…?」
――よろしくお願いします!
何故疑問形。そしてゲーミングセクシーエンジェル大根も律儀にお辞儀するんじゃない。
そんなやり取りを経て、いよいよ調理が始まった。
まな板の上に艶めかしく寝転がった彼女(?)を見下ろし…。
「あの、調理時の罪悪感がひどいんですけど。す、すいません! えいっ!」
勢いよく、七三子は包丁を振り下ろした。
あとはもう普通に調理していくだけだ。
皮を剥いた大根を2㎝幅くらいのいちょう切りにする。
鍋に水を入れ、顆粒出汁の素や砂糖、味噌にみりんに、すりおろした生姜とニンニクを少々。バターを入れるのも忘れない。
そのまま中火にかけてクツクツ煮込めばコクのある味噌の匂いが広がり始めた。
「あらかじめこんなこともあろうかと、鮭の缶詰を持ってきてます!」
15分ほど煮込んで大根に火が通ったのを確認し、持参した鮭の水煮缶を取り出した。
鶏の手羽(仲間産)や豚バラはあるが、魚は用意が無かったのでよかったと、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちがペチペチ拍手をしている。
鍋の中に水煮缶の中身を投入した七三子は、再び鍋の蓋をする。
「このまま20分くらい煮込めば完成です!」
わあ! と近くで手伝いをしていたゲーミングセクシーエンジェル大根たちが諸手を挙げた。
対して唯一の方は。
「この前教えてもろた煮込みしたろ」
さてどの子にしよか。
そう近くのゲーミングセクシーエンジェル大根たちを見渡せば、すっごくくねくねした個体がいた。
彼ら彼女ら的には、自分を選んでほしいなあともじもじしていただけなのだが。
なにせ喋れない分ボディランゲージが豊かなので、動きも派手なのだ。
「いや、どの子でもええのやけど、くねくねせんで。んふふ…お腹痛い…。
じゃあ君にしよか、一番踊り上手やったからね」
思わず笑み零れた唯一が、一番よく踊っていた個体を選ぶ。
選ばれたゲーミングセクシーエンジェル大根は嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねまな板の上に寝転んだ。
それでもなお、選ばれたのが嬉しくてもじもじくねくねしていたら。
「斬りにくいやんけ。動くなや、んもー」
とか言いつつ、唯一に綺麗に輪切りにされるのだった。
さすがベテランの解剖士。どんなに相手が動いていても綺麗に|バラして《切って》みせた。
輪切りにした大根を、皮を剥いて4㎜幅程のいちょう切りに。
何故かあった玉ねぎを薄切りにして、唐辛子は薄く輪切りにしておく。
フライパンに油をひいて温めれば、玉ねぎと唐辛子、チューブの生姜とニンニクを少々。そのまま香りが出てくるまで炒めた。
次に大根と豚肉、持参したトマトピューレを入れたら軽く混ぜながら炒め、水を追加する。
あとは蓋をしてしばらく煮込んだ後水分を飛ばし、塩で味を調えれば完成だ。
ついでに余った大根を薄切りにして塩で揉む。水分をぎゅーっと絞ったら、これまた持ち込んでいたオリーブオイルやビネガーで味をつけ、最後に胡椒で整える。
出来たなますをくるくる巻けば、薔薇の完成。
綺麗に盛り付けられた大根の薔薇を見たゲーミングセクシーエンジェル大根たちはぺちぺち手を叩き、大根葉をわっしゃわっしゃと揺らして喜んでいた。
七三子と唯一が完成した料理を持ち寄る。
「鮭と大根の味噌バター煮……じゃっかんなんだか虹色発光していますけど、味見した分にはおいしくできました!」
「ボクもできたで。こっちはパクシャパーいうんやって。トマトの赤を貫通するゲーミングカラーおそるべし」
パクシャパーは、しっかり煮込まれていたにもかかわらずその|輝き《約1680万色》を失うことは無かった。
この発光成分は一体どうなっているんだ。わからん。
それと、と唯一がもう一品取り出した。
「見てぇーゲーミング大根ローズ洋風なますー」
「わ、わぁ…」
出てきたのは、先程作っていた大根のなます。
綺麗に薔薇の形に盛り付けられているが、一枚一枚がそれぞれのタイミングでゲーミング発光しているせいで視界がうるさい。
幸いサングラスは掛けたままなので視力にダメージは無いが。
「さすが唯一さん、オシャレです。えへへ、唯一さんが作ったお料理もおいしそう!」
「んふふ…ありがとなぁ」
料理を前に二人は手を合わせ。
「「いただきます」」
先ずはそれぞれが作った料理を、と口をつける。
七三子が先に食べたのは、香りでずっと気になっていたパクシャパー。
トマトの酸味に玉ねぎと豚の脂が程よい甘みを与えている。そこに生姜と唐辛子のピリッとした辛みが味を引き締め、ニンニクが味全体をまとめている。
煮込まれた大根はトロっと柔らかく、口の中にジュワリと汁が溢れ出した。
大根なますもビネガーのスッキリした酸味に胡椒がピリリとアクセントになっていてとても食べやすい。
唯一も、七三子手製の鮭と大根の味噌バター煮に舌鼓を打っていた。
味噌の香ばしさにバターの甘い香りが混じり合い、香りを嗅ぐだけで口の中に唾液が溢れてくるようだ。
箸を入れるだけでほろりと崩れそうな程柔らかい大根は、煮汁もたっぷり吸いこんでいる。口に入れればじゅわりと広がるのは、味噌とバターが溶け合った濃厚なコク。そこに鮭の旨味も加わり、味の深みが増していた。
鮭もふっくらしていて口の中でほろほろと崩れていく。
「「美味しい…」」
思わずといった風に漏れた声に、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちは歓喜した。
嬉しすぎて踊り始めた個体もいる。
手を繋ぎ輪になってスキップしながら回ったかと思ったら、手を振りながら交互に片足でぴょんと飛び跳ねる。ついでに肩を組んだと思ったら右に左にと身体を揺らし、再び手を繋いでスキップしながら回る。
その動きはまるでハーモニカのようだ。
「ふふ、みなさんも嬉しいようですね」
「ほんまやな」
そんな彼ら彼女らを横に、七三子が鞄をごそごそと漁り出した。
そして取り出されたのは――。
「絶対に欲しくなると思って白米を持ってきちゃいました」
「でかしたでぇ、七三子」
保温バッグに入れられていた白米。若干ぬるくなってしまっているが、それでもまだ温かさを損なっていない。
早速と、二人は大根料理と共にご飯を掻きこんだ。
「はあ…すごく幸せです。ほどよくピリ辛でご飯が進みます」
「鮭と味噌バターの風味がご飯にあうなぁ。おいしい、ずっと食べてしまうわ」
こうして二人は食事を堪能するのだった。
帰りには丁寧に袋詰めされたゲーミング発光する羽を持たされて。
「……あれ、何しに来たんでしたっけ?」
「……あれ、今って戦争中……」
二人は顔を見合わせた。
まあ、作った料理は美味しかったからいいか。
|大根《自分たち》を食べてもらえて満足したのか、ゲーミングセクシーエンジェル大根たちも空を飛んで帰っていった。
こうして無事に事件は解決(?)されるのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
