⑧She’s a Bae
●The Virgin Suicides
あるものは混沌。
ガソリンと油。新鮮な血と肉の臭い。
それら全てが蕩けたチョコレートのように溶け合って、辺り一面に死の泥濘が作り上げられていた。
ある妖は己の胸を、腹を自らの触腕で磔にするかのように貫いた。
ある怪人は手にした散弾銃で己の頭を鳳仙花の如く弾け飛ばし、首から下の体を残して固いコンクリートの地面に倒れ伏した。
ある獣は哄笑を上げながら自らの四肢を喰い千切り、ある機械兵は母国への忠義を掲げながら爆炎と共にその機体を四散させて砕け散った。
誰もが皆命を断っていく。
ひとも、簒奪者も、何もかもが自らの意思に反してその場に崩れ落ちていく。
その光景を背に、ひとのかたちをした災厄は一度だけ振り返って憂いに顔を伏せた。
近寄らないでください。
触れないでください。
――これは、私に齎されたのろいに違いないのです。
●Death agony
「皆、大きな怪我はないかい。……そう、それならよかった」
戦いに身を投じる能力者たちを労いながらジュード・サリヴァン(彼誰・h06812)は戦況を反映させたタブレット端末を操作して次なる戦地を示す地図を浮かび上がらせた。
「合衆国管轄の封印指定人間災厄が放たれたと云う情報が入った」
彼女の名は√汎神解剖機関の人間災厄『リンゼイ・ガーランド』。この戦の最前線である秋葉原ダイビングビルに現れた彼女は、今この瞬間にも戦場に混沌と死を振り撒いているのだと云う。
「王劍戦争の全勢力の妨害。それだけなのであれば俺達にも利があるかもしれないが……そうも言って居られないんだ」
彼女の√能力は『無差別自殺』。自死を齎す権能は彼女の意思とは関係なく近付くもの全てに齎される。ただ簒奪者同士が争い合うだけならば放置しておいても問題はないのかもしれないが――能力者や民間人に於いてもその呪いに例外はない。放っておけば知らない内に自らいのちを絶ってしまう危険性を常に孕むことになってしまうのだと、ジュードは言葉を続けながら端末から顔を上げた。
「常とは違う意味で危険な戦場だ。けれど、彼女の能力にはひとつだけ穴がある」
|ヴァージン・スーサイズ《乙女たちの自死》。
それは彼女が好意を抱いた相手には効果を発揮せず、自死の呪いに囚われることなくリンゼイと相対することが叶う唯一の突破点。
「好意と言ってもすべてが恋情である必要はない。友愛、親愛……彼女から何らかの好意を得ることが出来れば、必ず道は拓ける筈だ」
好意を抱かせた相手と戦うと云う意味では別の苦しみがあるかもしれない。それでも今ここで彼女を撃破、或いは撤退に追い込まなければ多くのいのちが失われてしまうことには変わりない。
「辛い戦いに挑ませてしまってすまない。……どうか、無事で」
あおい双眸に揺るがぬ信を乗せ、ジュードは能力者たちに続く道を示した。
マスターより
なかのなかのと申します。
冒険の地は『√EDEN』へご案内。
こちらは王劍戦争『秋葉原荒覇吐戦』のシナリオになります。
●討伐対象
【👿】『人間災厄『リンゼイ・ガーランド』』(断章追加なし)
制御不能の無差別自殺能力を持つ、合衆国管轄の『封印指定人間災厄』です。大統領命令により半ば強制的に戦線に投入されました。簒奪者リンドー・スミスに先導され、秋葉原ダイビングビルに姿を現したようです。
彼女はただそこに在るだけですべてのいのちを自死に追い遣ります。一瞬だけ。ほんの一瞬だけでも彼女に好意を持たれるようにこころを注げば、きっと想いは届くはず。自死の呪いに抗いましょう。
プレイングボーナス:自分の自殺を防ぐ(一瞬好かれるだけでも効果あり)。
●その他
同行者さまがいらっしゃる場合は【グループ名】、或いはお相手さまの【お名前+ID】の記載をお願いいたします。
ひとグループにつき、描写できる範囲は『2名さま』までになります。
『まだレベルが低くて心配だな、はじめてだけど大丈夫かな……?』
そんな不安があっても、大丈夫! みなさまの『やってみよう』を心から応援しております。どなたさまもお気軽にご参加頂けましたら幸いです、一緒に物語を作っていきましょう。よろしくお願いいたします!
119
第1章 ボス戦 『人間災厄『リンゼイ・ガーランド』』
POW
|希死念慮《タナトス》
60秒間【誰にも拘束・監視されない自由な時間】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【突発的感染性自殺衝動】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
60秒間【誰にも拘束・監視されない自由な時間】をチャージした直後にのみ、近接範囲の敵に威力18倍の【突発的感染性自殺衝動】を放つ。自身がチャージ中に受けたダメージは全てチャージ後に適用される。
SPD
怪異「|自殺少女霊隊《ヴァージン・スーサイズ》」
【|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》】と完全融合し、【自殺衝動の超増幅】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
【|自殺少女隊《ヴァージン・スーサイズ》】と完全融合し、【自殺衝動の超増幅】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ
|自殺のための百万の方法《ミリオンデススターズ》
【様々な自殺方法の紹介】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【ヴァージン・スーサイズによる自殺衝動】に対する抵抗力を10分の1にする。
【様々な自殺方法の紹介】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【ヴァージン・スーサイズによる自殺衝動】に対する抵抗力を10分の1にする。
ルーシー・シャトー・ミルズUn deux, un deux.
こっちのは、凄まじい方のお姉さんかな?
近寄らないで、触れないでって?
もしかして自分からトマトみたいに弾けちゃうから?
なんないよ、そうならない様に必死こいて抗わせてもらってるから。
んー、自分の心臓を取り出そうと手が動いてるのは、まあご愛嬌ってやつ。
可愛いもんだよぉ。
まず120秒あげる。んで60秒頂戴。
計180秒。前者二つは二度の√能力無効化でどうにか。後者はこっちのとっておき。それでお話しよ。
衝動に晒される60秒は例え自死するとしても君の心を聞き、死を乗り越える覚悟と気合い、精神抵抗で耐えるから。
解きほぐすコミュ力だってあるよ、幸運が舞い込むかもしれない。
頑な心だって、いつの間にか魅了されてるかも知れないよ?
それだけの時間で注ぎたいのは、そんな呪いに打ち負かされるだけじゃないものがあるってこと。
それでも君はちゃんと人間なんだよ。
確かに完全に消すことまでは無理かも知れないけどねぇ、悲しいままでいてほしくないんだあたしは。
そんなしょげたままの顔、リンドー氏も喜ぶと思うかい?
最悪なお菓子の作り方ではあるけどさ。
せめて最悪じゃなくなる方が、大分マシだよ。
だってこうして真っ直ぐ立つことが出来るからねぇ!
その証明なら幾らでもしてやるから――どうか恐れずに、レディ。
手をつなぐのも、引き寄せられつつの終止符を打つキックだって、全部お菓子なお姫様にお任せですよ!!
●Cendrillon
足取りは死出の旅路にそぐわぬほどに軽やかに。
たん、とん。
たん、とん。
一歩、二歩。拍子を刻むように地を蹴ったルーシー・シャトー・ミルズ(おかしなお姫様・h01765)をレンズ越しの視界に捉え、リンゼイ・ガーランドは僅か一歩。ほんの一歩だけ後退る。
それは年若い少女のすがたをしたものにまで自死を齎してしまうことへの迷いであったのか。『近寄らないでください』と震える唇がか細く紡ぐのをルーシーは確かに耳にしたから。彼女に対話の意思があることを知り、それならばと静止の声を振り払うように更に一歩を踏み出した。
「近寄らないで、触れないでって?」
ぎくりと全身の筋肉が強張る。まるで血管の全てが引き攣れてしまったようだ。
意思もこころも何ひとつ変わってはいないのに、からだを操る神経だけが『ばか』になってしまったみたいで、それ以上足を動かすことが出来なくて。
「もしかして自分からトマトみたいに弾けちゃうから?」
「そっ……、……そうです。私は戦う意思の無い人々までもを死なせてしまう。だから……それ以上近付いては、」
それでも、進む。
胸の前でてのひらを組んだ少女の姿は祈りを捧ぐ殉教者のようにも見えただろうか。
「なんないよ」
違う。
右の手が自らの心臓を抉り出そうと胸に爪を立てるのを左の手が必死に押さえ込んでいる。とても己には出せぬほどのちからで暴れそうになる右腕に抗えば微かに脂汗が滲むけれど、このまま彼女の言うままになってはならない。決してそうさせてはいけないと、はじめからこの胸に決めている。
「そうならない様に必死こいて抗わせてもらってるから。可愛いもんだよぉ」
「……、……どうして」
己は災厄。遍くいのちに自らの手で終焉を齎すのろいの担い手。
それを知りながら何故なおも進んでくるのかと。瞳を揺らしたリンゼイを見上げ、ルーシーはにこりと微笑んで見せた。
「まず120秒あげる。んで60秒頂戴。それでお話しよ」
自分たちは敵同士。そこに何の義理も絆もありはしないのに。
その瞳があまりにも真っ直ぐだったから、災厄と呼ばれたおんなは頷く代わりにゆっくりと眼を伏せる。積極的に刃を振るいはしないが、彼女の目的はこの戦場に於ける『邪魔者』を潰し合わせること。そこは揺らがせることがないからこそ、リンゼイは沈黙を是としてルーシーに静かに応えた。
――Un deux, un deux!
掲げられた手はどちらのものだったのだろう。
翳したてのひらが目に見えぬ自死の呪いを打ち消すことが出来たと知れたのは、呼吸の仕方を思い出すことが出来たから。たとえ自ら死を掴み取ってしまったとしても、ルーシーの胸にはそれさえも乗り越える確かな覚悟があった。
彼女にはこころがある。だから、きっと想いは届く。
ほんのすこしの奇跡が舞い降りることを。頑なな心に、触れることが叶うと信じて。
手を伸ばす。『120秒後』のリンゼイがゆらりと自殺少女隊を呼ばうと同時、叫び出したいほどの衝動が胸の鼓動までもを止めてしまいそうになるけれど――それでも、届けと、手を伸ばす。
「それでも君は、ちゃんと人間なんだよ。そんなしょげたままの顔、リンドー氏が喜ぶと思うかい?」
「……!」
完全にその身に宿した災厄を消すことまでは不可能かもしれない。けれど、死を運ぶものと呼ばれてきたのであろう彼女が悲しみにとらわれたままではいてほしくない。彼女が慕うあの胡散臭いおとこだって、多分。多分おそらく、彼女が心から慕う相手であるならば、それを憂いてくれる人間なのだろうから。
「その証明なら幾らでもしてやるから――どうか恐れずに、レディ」
想いはとびっきりの『あい』を。
このものがたりを『めでたし』で締め括るための、魔法のことば。
最悪なお菓子の作り方ではあるけれど、最悪じゃなくなる道へと繋がるのならばそっちの方が随分マシだ。だって、ああ、ほら。そのこころを証明するたったひとつの事実がある。ルーシーはもう、『真っ直ぐ立つことが出来ている』。
「全部、全部! お菓子なお姫様にお任せですよ!!」
繋いだてのひらを思い切り引き寄せ、衝撃でぐらりと揺らいだリンゼイの胴を|飴細工《ガラス》の靴が強く強く打ち据える。
とびきり脆い足が悲鳴を上げるけれど、構いはしない。
シンデレラからは程遠く。それでもこころは本物だ。
交わした視線のその先で、リンゼイは微かに、ほんの微かに笑っていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
継歌・うつろアドリブ歓迎
聞こえてくるのは、死の音色
死ぬのは、わたし……こわい、けれど
ふしぎだね、今は、少しだけこわくない
リンゼイさん、はじめまして
人間災厄「ツギハギ幻歌」の継歌・うつろ……です
えっと……あいさつは、大事だから
話している間も、苦しい、って思う
これが、自殺衝動、なんだよね
自分で自分を殺す方法、たくさん、急に、頭の中に
それでも、にげない
リンゼイさん
わたしもね、あるよ
自分の力を止められなくて、だれかを、ずっと目覚めない状態にしたの
全部、わかるなんて言えない
でも……分かり合える所も、きっとある
わたし達は、同じ、人間災厄だもん
√能力:奏葬
もっと、ちゃんと話したかった、けれど
死霊さん達……お願い、するね
●災禍の音色
うまれてなんてこなければよかった。
ぜんぶ、ぜんぶ。なかったことにしてしまえたら――。
頭の中で木霊する声は自分のもの。
嘗ての自分が奏でていたのかもしれない、死の音色。
「(死ぬのは、わたし……こわい、けれど)」
たとえそれが真実であったのだとしても、それが自分の胸の奥底から湧いてくるものではないと継歌・うつろ(継ぎ接ぎの言の葉・h07609)は分かっている。だから、逃げない。この足は止まらない。
「リンゼイさん、はじめまして」
自分が『そう』であるように、彼女も同じ痛みを抱えている。
だからだろうか。この声を、言葉を届けなければと、勇気が後押ししてくれるのは。
「人間災厄『ツギハギ幻歌』の継歌うつろ……です」
互いに武器を手にしている訳ではない。互いにそうしなくとも相手を害することが叶うから。頭を下げる少女の姿に、同じくして災厄と呼ばれたおんなは僅かに狼狽し視線を泳がせた。
「……どうして、そんなことを」
「えっと……あいさつは、大事だから」
あなたが私を殺さなければ、私はこの災厄をあなたに齎すことしか出来ないのだと。告げられた言葉はきっとそのままの意味を持つのだろう。話している間も鳴り止まない頭の中の声に身体が従いそうになってしまうのを堪えながら、それでも逃げるわけにはいかないのだとうつろは真っ直ぐにリンゼイを見詰め唇を震わせる。
「リンゼイさん。わたしもね、あるよ」
自分の力を止められなくて。
だれかを、ずっと目覚めない状態にしてしまったことが。
澄んだ音で以って耳奥に転がり落ちてくる言葉は詭弁ではなく、事実。それが互いに通じ合っているからこそ、おんなはその場から動かない。
「全部、わかるなんて言えない。でも……分かり合える所も、きっとある」
わたし達は、同じ。人間災厄だもん。
顔を上げたおんなの双眸が涙に滲んで揺れる。
そののろいごと優しく抱きしめるかのように、幾重にも重なる弦がリンゼイの身体をあまく包み込んだ。
🔵🔵🔵 大成功
アドリブ歓迎
「この厄災は、あなたが望んで齎しているのだろうか」
かつて自らの意思で大勢を手にかけた人を知っている。
あなたの目は煌めいていた彼女のものとは随分違い、闇に身を委ねているように無気力さを感じた疑念から問いかけ、幾つかの対話を試みたい。
友好的なら名前の交換をしたい。
「どうか、これより先へ行かず留まってもらいたい。無関係な方々へそれを齎す前に退いて頂ければ、尚有難いが……」
望んで戦線にいないならば、戦った結果を報告出来るように。望んで立つなら容赦無く。刃を向ける。
あなたの厄災は、俺にとって蜜のようだ。
齎されれば簡単に絡め取られるだろう、急所を避け自傷しながら戦う覚悟で挑むつもりだ。
●哀傷の果てに
嘗て自らの意思で大勢の命に手を掛けた人を知っている。
ファウ・アリーヴェ(果ての揺籃・h09084)の視線の先に立つ災厄と呼ばれたおんなの瞳は死を浴びて爛々と煌めいていた彼女のものとは随分異なり、まるで闇にその身を委ねているかのような無気力ささえ感じられた。
「この厄災は、あなたが望んで齎しているのだろうか」
彼女が武器を手にしていないのは『そうする必要がない』故のものであると分かっていても、一方的に斬り掛かってよい相手ではないと。対話の余地があると信じて問いを投げ掛ければ、リンゼイは緩やかにかぶりを振って否を唱えた。
「私は合衆国の命を受けてここに立っています。それ以上でも以下でもなく……、……場に混乱を齎せさえすればいい。その為の装置でしかありません」
恐らく彼女は本当にその命に甘んじているのだろう。そんな事を躊躇いなく言わせてしまうことも。それをまるで『善きこと』のように扱う一国も。何もかもが理不尽で、きつく握りしめた拳からあかい雫が滴り落ちていくのは果たして彼女が齎す自死衝動からくるものだったのだろうか。
「俺はファウ。あなたにとって、手折られる命のひとつにしか過ぎない存在かもしれないが……どうか、これより先へ行かずに留まってもらいたい」
無関係な人々にそのちからを齎してしまう前に退いてはくれないか、と。ファウの嘆願に傷ましげに眉根を寄せるリンゼイには大きな迷いが浮かんでいるように感じられた。だからこそ、どうか、と。希えば、血の気を失ったおんなの唇から涙に震える声が紡がれる。
「……止めたいのならば、殺してください。私に……触れる覚悟が、あるのなら」
互いに引くことは叶わない。災厄を断ちたいのなら、今ここで殺せ、と。告げられると同時に膨れ上がった焼けつくような痛みは、ああ――無意識に脚に突き立てた、自らの刃であった。
「……あなたの厄災は、俺にとって蜜のようだ」
血の軌跡を描きながら跳躍したファウの霊刀が真っ直ぐにリンゼイを捉える。
刃が踊るその瞬間に――彼女がちいさく、『ありがとう』と呟いた気がした。
🔵🔵🔵 大成功
くらがりの・こえ(h06570)と
(「アイツ」「アンタ」等で呼びます。名前では呼びません)
アドリブ、アレンジ歓迎
迷い込んでしまった
どうしてこんな戦場に迷い込んだの?
分からない
でも、
…死んでしまいたい…
う、るさい!
死なない…アンタのところにも行かない!
Anker…?私の?アンタが…?そ、そんな訳ない!
ずくん、と頭が重くなる
…死んでしまいたい
やだ、死にたくない…!
誰か助け、て…
っ!
アンタの助けはいらない!いらないってばぁ!
…な、なんで、そんなこと、言うの!
黙って!
いっぱい人を殺しただろう人に、甘い考えだろうけど、…そんな言葉、投げかけたくない
だって、そういう√能力を楽しんで使う人には、見えないから
くらがりの・こえ戀ヶ仲くるり(h01025)と
(名前は呼びません。“きみ”とだけ呼びます)
アドリブ、アレンジ歓迎
死ぬの?
きみが死んだら目の前で待ってるね
|錨《Anker》の元に帰ってくるのって、“ふつう”だよ
あはは!
死んで試せばいいよ
死にたくない?
助けてほしい?
いいよ!
“呪ってあげるね”
“きみ、命が嫌いなんだ!”
だから殺すんでしょう?
“随分殺したねぇ すごいねぇ”
嫌いなら心が痛まないでしょう?
“いいんだよ、嫌いでも”
“心向くままに、殺せ”
否定する?
ああ、種だね
…芽吹くかなぁ?
“じゃあ、”
“きみ、命が好きなんだ”
“好きになっちゃった?”
…あはは!
感情で、好意で変化するなんて、面白いねぇ!
熱量としたら同じなのにね
●嗤笑
喚声が聞こえる。それは戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)の人生に於いて決して齎されることのない、ひとが、笑いながら自らを縊り殺す断末魔の声であった。
「ひっ…………!」
どうして。どうしてこんな戦場に迷い込んだの?
一歩でもその場から離れなければと縺れる足を叱咤するのに、身体が、動かない。
何処かに隠れなきゃ。でも、何処に?
そもそも、『死んでしまいたいのに、なんで隠れなきゃいけないんだっけ』?
浮かび上がった疑問に応えるかのように、耳をあまくなぞる笑い声がする。
『死ぬの?』
ああ、まただ。
|あのあくまのこえ《くらがりの・こえ (I'm Devil・h06570)》がする。
『きみが死んだら目の前で待ってるね』
悪魔の貌はインクをぶちまけたみたいに真っ黒でその表情の殆どは窺えないけれど、あかく歪んだ口元だけがいやらしく弧を描いて『私』をわらっている。
「う、るさい! 死なない……アンタのところにも行かない!」
『どうして? |錨《Anker》の元に帰ってくるのって、『ふつう』だよ』
つう、と。背筋に冷たい汗が伝う。
それは恐怖か。否、身震いするほどの嫌悪に違いない。
「Anker……? 私の? アンタが……?」
そんな訳ない。
そんな筈がない。
『こんなもの』が、『拠り所』である筈が、
『あはは! なら、死んで試せばいいよ』
――それとも死にたくない? 助けて欲しい?
ずくん、と。脈打つように重くなった頭を両手で抱え、くるりはその場に蹲る。
死んでしまいたい。
今すぐ、自分を縛る何もかもから解放されたい。その為なら、その為には。
「やだ、死にたくない……! 誰か助け、て……」
『いいよ! なら、“呪ってあげるね”』
にたりと笑う。悪魔が嗤う。
自死の呪いにのた打ち回るくるりの姿をただ悲しげに見詰めていたリンゼイの姿を、悪魔は『観た』。
『“きみ、命が嫌いなんだ!” だから殺すんでしょう?』
「…………!」
それは√能力ではない。『言葉による呪い』であった。
『“随分殺したねぇ すごいねぇ”』
嫌いなら心は傷まないでしょう?
だから、ここに立っているんでしょう?
くすくすと。けらけらと。嗤う悪魔に憐憫のいろはない。
「……な、なんで、そんなこと、言うの!」
「違……、……違い、ます。収容局側では拒絶しきれず……、私は、大統領命令で、それで……」
直接手を下している訳ではない。けれど、数多の命を自死に追い遣った事に変わりはない。否定の言葉をのぼらせたリンゼイの姿は悪魔からすれば至極滑稽なものであったのだろう。くるりの静止の声など気にも留めぬまま、殊更にやさしく、あまく。悪魔はおんなを呪詛で絡め取る。
『否定する? 否定するんだ。ああ、それは種だね。……芽吹くかなぁ?』
じゃあ、――きみ、命が好きなんだ。
好きになっちゃった?
「い、……嫌、やめて、ください。やめて……!」
それはおんなに少女を憐れむ心が芽生えてしまったことへの証左。地面で蹲っていたくるりが呼吸の仕方を思い出したことを知ったが故のもの。感情で、好意で変化する呪いだなんて。面白い。おもしろい、オモシロイ!
「げほ、……っ、ぅ……、……黙って。もう、黙って! やめてってばぁ!」
その涙の真偽なんて問うまでもない。沢山人を殺してきたのであろう彼女を擁護しようだなんて甘い考えかもしれない。でも、それでも――望まぬ災厄を抱く彼女に、そんな言葉を投げ掛けたくはない。
リンゼイを庇うように立ち上がったくるりを前に、悪魔は喜劇でも見るかのように手を叩いて更に笑みを深めた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
ラウアール・グランディエ【WIZ】
「こんにちは、厄災らしからぬ憂いを帯びたお嬢さん」
そう言いながら、丸腰で相手へ近寄ります。【演技】と【礼儀作法】【魅了】で、穏やかに上辺だけの言葉を並べます。
「私達は『厄災』。ただそう在るよう生まれただけで疎まれる。その孤独も痛みも、誰も顧みてはくれない」
いっそ人の死に心を動かされぬ外道であれば苦しまずに済んだろうに、哀れなことだ。
「お嬢さん。叶えたい『願い』はありませんか?私がお力になれるかもしれません。良ければ私の手を取って…」
ここで私の自殺衝動が限界に達したなら【夜刀ノ憑代】を発動して距離を詰め【羽々斬】を己と彼女の首に当て、こう言います。「一緒に死んでくださいますか?」
●毒
いっそ人の死に心動かされぬ外道であれば苦しまずに済んだだろうに、哀れなことだ。
ラウアール・グランディエ(人間災厄「グリモリウム・ウェルム」の不思議道具屋店主・h08175)はその貌にかたちばかりの柔らかな笑みを湛え、武器を手にすることなくひとりの淑女に対してそうするように恭しく一礼をした。
「こんにちは、厄災らしからぬ憂いを帯びたお嬢さん」
まるで自死の呪いなど届いてもいないとばかりのラウアールの様子に怪訝に眉を寄せ、リンゼイは僅かに身動ぐけれど踵を返すまでには至らない。
「……どうして、それを分かって近付いてくるんですか」
今この瞬間も自死衝動はあなたを捕らえて離さないであろうに、尚も歩みを止めないのは何故か、と。言葉を返すおんなの様子に|対話の《付け入る》余地があると判断したラウアールは一層あまく目を細めて彼女が心の奥底で欲しがっているであろう言葉を口にする。
「私達は『厄災』」
かたちは違えど、私達は同じものだと。
悪魔は騙る。親しみを込めて、こころを攫う。
「ただそう在るよう生まれただけで疎まれる。その孤独も痛みも、誰も顧みてはくれない」
「それは、……でも、私は……」
封印指定人間災厄であるリンゼイに自由はない。収容局から出ることさえ叶わないのであろう日々を享受する彼女には果たして、己を顧みる機会などあったのだろうか。他者のみならず自分さえも自身を愛せぬのなら、いっそこころなど始めから持ち得ていなければ――『そんな風に思ったことが、きっとあるでしょう?』
「お嬢さん。叶えたい『願い』はありませんか?」
私達は同じもの。
恐れられ、利用される者同士にしか貴女の本当の痛みは分からない。
ですから、私がお力になれるかもしれません。
「私、……私、は」
もう一歩を踏み込んだラウアールのてのひらがリンゼイの繊手を掬い取る。
まるでダンスにでも誘うかのように。けれど、それは心中を伴う死の舞踏であった。
「さあ。このまま――一緒に、死んでくださいますか?」
刃は互いの首筋に。
紙一重の死を前に、悪魔は何処までも艶やかに微笑んだ。
🔵🔵🔵 大成功
二階堂・利家この戦場の趨勢は決したようだけど
上から無理矢理押し付けられた仕事であろうとも、途中で|投《逃》げ出すわけにはいかないってとこか
境遇には同情するし、その√能力も殺戮の為に得たものでは無いんだろうな
貴女にも|Anker《大切な何か》が在る。例えば敬愛する先輩。そして家族と言える存在が…
好意は安全装置として機能するけど、その他大勢にとっては無慈悲だ
一種の、魔女狩りの様な事もあったかもしれない
護りたい何かの為に戦っているのなら、それはお互い様さ。俺もこのEDENを守るためになら戦える
だからまあ、今日は恨みっこ無しで頼むよ
◆
「古龍」を纏い、3倍速のダッシュで切り込み
霊剣で自殺衝動ごとリンゼイを斬って祓う
●思慕
国から無理矢理に押し付けられた仕事であろうと任務は任務。傀儡たるリンゼイに選択権はなく、途中で|投《逃》げ出す訳にはいかないと云うことか。
二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は裡に渦巻く自死衝動を抑え込みながら前を向く。ただ相対するだけならば彼女は余りにも『人間くさい』存在で、今尚葛藤を続けながら他者の死に胸を痛める姿は頼りなくちっぽけな迷い子のようにさえ見えた。その境遇には同情するし、呪いにも等しい√能力だって殺戮の為に得た訳ではないのだろう。
「貴女にも|Anker《大切な何か》が在る。例えば敬愛する先輩。そして家族と言える存在が……」
「それは……」
囚われの彼女は何を拠り所にしているのだろうか。箱庭の如き収容局の檻か。それとも、仄かな想いを寄せる誰かか。好意は安全装置として機能する。けれど、その他大勢にとっては無慈悲だ。
一種の、魔女狩りのような事もあったかもしれない。
『封印指定人間災厄』などと云う物騒な肩書きが国にいいように扱われる免罪符として機能し――彼女は一体これまでに、どれほどの望まぬ死を運んできたのだろう。
「護りたい何かの為に戦っているのなら、それはお互い様さ」
自分はこのEDENを守る為になら戦える。
貴女はどうかと。問えば、リンゼイは目に見えて狼狽を浮かべながら一歩を後退る。
「私は、……、……私に、望みなんて……」
護りたいひとが浮かばないものがないわけではない。だって、こんなかたちであったとしても、もう一度会うことが出来たのだから。
すべてを言葉にはしなくとも、彼女にはきっと手を伸ばしたい存在が居るのであろうことが伝わってくる。だからこそ、この場を譲れないのであろうことも分かる。
「だからまあ、今日は恨みっこ無しで頼むよ」
にか、と。戦いの場にそぐわぬ明朗さで利家は笑う。
この刃は憎悪に依る一太刀に非ず。故に、痛め付ける為には振るわない。
古龍を纏い、駆ける。裡に強靭な発条を孕んだ脚が加速する。その迷いごと、宿怨ごと断ち切るかのように霊力を帯びた剣が一息で振り下ろされた。
🔵🔵🔵 大成功
静寂・恭兵アドリブ歓迎
簒奪者もEDENも一般人も彼女の能力の前に自ら命を断っていく。
無差別な自殺を誘発させる存在がいるならばそれは無差別殺人兵器と何ら変わりはない。
ただ違うのはその能力の主が少女であること。
同じ√といえど|√汎神《うち》の合衆国大統領の選択に憤りを覚えることは確かだ。
みんな 殺してしまえばい
それを彼女が望まなくとも能力は人々を自殺に追い込む…ならば止めなくてはならない。
彼女の為になんて綺麗事は言わないが
一刻も早く彼女を止めることで俺たちの戦争が変わるのだから。
百万の自殺の方法が流し込まれる
それでも
生きて帰りたい気持ちだけを胸に
√能力『花閃葬』
【居合】の一閃を
●葬送
簒奪者もEDENも一般人も、彼女の能力の前では等しく無力であった。
すべての命に分け隔てなく自殺を誘発させるものが存在するならば、それは無差別殺人兵器と何も変わらない。悪辣なるものが悪意を以って齎す殺戮とは異なる点は、その能力の持ち主自体は殺意を持たない少女であると云うこと。
「……やり辛いことだ」
静寂・恭兵(花守り・h00274)とて同じ√汎神解剖機関に属するもの。合衆国を統治する大統領の選択に憤りを覚えながらも刀に手を掛けた恭兵の裡に、刹那、神経ごと焼き付かんばかりの衝動が奔った。
殺してしまえば良い。
みんな、――俺自身も、何もかも。
思考とは異なる。だと云うのに、自我さえも塗り潰さんばかりの凡ゆる死の概念が止め処なく流れ込んで止まらない。これこそがリンゼイが災厄たる証。彼女が望まずとも人々を自死に追い込むのろいのかたち。彼女の為に、などと綺麗事を口にすることはないが、これ以上の惨劇が広がってしまう前に止めなくては。
「(一刻も早く彼女を止めることで俺たちの戦争が変わるのだから)」
幾千、幾万もの『死』が流れ込んでくる。
『それを成さねばならない』と焦燥が渦巻き自らを斬り付けんとした刃を止めた左手からいのちのいろが零れ落ちるけれど、半端な痛みが僅かに正気を引き戻してくれるから、恭兵は未だ自死の呪いを前に立ち続けることが出来る。
「ごめんなさい、……ごめんなさい。抗わないで……そうでなければ、逃げてください……」
即座にいのちを絶ってくれたなら。きっと彼女はそう言いたいのだろう。
否、そうする事でしか彼女は自分の心を守ることが出来なかったのだろう。
哀れなことだ。けれど、この呪いを前にして踵を返すことなどあってはならない。今ここでリンゼイが正しく任務を完遂することが叶ってしまえば、それだけ彼女の痛みと苦しみは増えていくばかりなのだから。
「――それでも」
生きて帰る。今はそれだけを胸に抱き、恭兵は強く地を蹴りリンゼイへと肉薄する。自死衝動を纏う死霊の邪気へと塗り替えた花葬の一閃が、あかい花をぱっと一面に咲かせた。
🔵🔵🔵 大成功
斎川・維月リンゼイさーん!
おっ友達になっりーましょー!
(全力全開のアホ笑顔で突撃)
だって友達なら殺したり自殺させたりする必要無いのです!名案!!
のろいだ何てとんでもない!
愛のままに我が儘にボクは好きな人だけを自殺させない災厄だなんてロックじゃないですか!……ロックか?
まあ良いや!兎も角好きな人だけは死なせないって優しさが貴女にある証拠なのです!ラブ!
だから、そんな悲しそうな顔しないで下さい。
ボクは死にませんよ。理由は他にもあるけれど、リンゼイさんに悲しそうな顔させたくないのだってちゃんと理由です。
だーかーらー!友達になりましょーよー!フレーン!(駄々っ子)
え?
バトル?
しますよ?
友達とだってバトルは別腹!
●あなたに幸を
「リンゼイさーん! リーンゼーイさーん!」
まるで子犬が転がるように駆け寄って来る斎川・維月(幸せなのが義務なんです・h00529)の姿にリンゼイはびくりと肩を跳ねさせ身構えるけれど、少女はその位では怯まない。
「おっ友達になっりーましょー!」
嘘偽りのない好意を受けて戸惑うリンゼイの姿に、なんてことはないと胸を張った維月は本来敵である彼女に伝えずともよい『かんぺきなさくせん』を語り始めた。
「だって友達なら殺したり自殺させたりする必要無いのです! 名案!!」
「……その前に、こののろいがあなたを殺してしまいます。他でも無いあなたが、あなたを殺してしまう……」
それならばせめてその想いだけ受け取って。あなたがのろいに喰われてしまう前に、どうか離れてくれないか、と。おんなの震える唇がそう紡ぐのを、葡萄色の瞳は真っ直ぐに見詰めたまま。
「のろいだ何てとんでもない! 愛のままに我が儘にボクは好きな人だけを自殺させない災厄だなんてロックじゃないですか! ……ロックか? まあいいや!」
兎にも角にも、好意を抱いた存在だけは死なせることがないというそのちからは貴女の優しさに他ならないのだと。両手でハートを作りながら『ラブ!』と続ける少女の言葉に目に見えて動揺のいろを浮かべるリンゼイへ、維月は少しだけその勢いを抑えながらにこりと笑み掛けた。
「だから、そんな悲しそうな顔しないで下さい。ボクは死にませんよ」
理由は他にもあるけれど、貴女にそんな顔をさせたくないのだってちゃんとした理由なのだと。震える彼女の手を掬い取って、維月は笑う。尚も笑う。
「だーかーらー! 友達になりましょーよー! フレーン!」
次には子どものように大騒ぎを始める少女の姿に躊躇いながら、戸惑いながら、それでも。ずっと悲しそうだったおんなのかんばせに、ほんの僅か、笑みが浮かんだ。
「……任務を放棄することは出来ません。だから……あなたと戦った証をください」
「え? バトルですか? もちろん!」
ぽこり。
掲げた拳が齎したのは――児戯にも等しい衝撃をひとつだけ。
🔵🔵🔵 大成功
逝名井・大洋どもー!オマワリさんが迷子を捜しに来ましたよぉ?
愛銃はホルスター内へ。
現着後に標的を見かけたら、『淑女』を保護するかのように駆け寄って。
死にたいキモチ?
確かにあるけど、それは事件が解決してからじゃね?
リンゼイちゃんが逃げようとしたら即座に√能力を発動。
こっから先は瞬き厳禁!
彼女を確り視界に収めたまま、お姫様抱っこをして歩きだしたいな。
リンドーさんどの辺に居るかなぁ?
暢気に煙草を吹かしつつ笑いかけよう。
…ボクもあのおじさん、愉しいから好きだよ!
見つけるとつい追いかけたくなっちゃう。
イマドキの日本ではこーゆーの『同担』って言うんだ。
リンゼイちゃんを撃つのは最終手段。
喉奥へ一撃、苦しくないようにね。
●『すき』のかたち
「どもー! オマワリさんが迷子を捜しに来ましたよぉ?」
まるでちからなき民間人にそうするように朗らかに。逝名井・大洋(TRIGGER CHAMPLOO・h01867)が駆け寄れば、身を強張らせたリンゼイを安心させる為に大洋は尚も屈託のない笑みを浮かべながら『戦う意志はない』と伝えるようにひらひらと手を振って見せた。
死にたいキモチなんて、増幅されるまでもなく『ある』に決まっている。
けれどそれは自分自身の問題で、痛みも苦しみも自分だけのもの。すべては事件が解決してからのことだからと、大洋はリンゼイを視界に捉えたまま『|怖くないよ《Freeze》』と囁き掛けた。
「あなたも……どうして、私ののろいを分かって近付くんですか。皆、死んでしまうのに……っ、……きゃあ!」
後退りしようとしたリンゼイの足を掬い上げてその腕に抱えた大洋がからからと笑う。『ゴハンちゃんと食べれてる?』なんて軽口を交えるけれど、それだって本心だ。連邦|怪異収《FBPC》容局に軟禁されているのであろう彼女が人間らしい扱いを受けている保証なんて何処にもありはしないのだから。
「リンドーさん今どの辺に居るかなぁ?」
「せ、先輩は関係ありません……! 下ろして……!」
リンゼイの身体は軽かった。
自死ののろいを振り撒くだけで彼女自身のちからは大したことはないのだと、知れば尚更銃を抜く気にはなれなくて。暢気に煙草を燻らせながら大洋は抗議の声などどこ吹く風で散歩でもするかのように歩き出す。
「……ボクもあのおじさん、愉しいから好きだよ!」
見つけるとつい追いかけたくなる。キミもそうでしょ、なんて語り掛ければ見る間に耳まで染めながら俯いてしまうものだから。成る程、あの蛇のような男もなかなか隅に置けないものだ。
「イマドキの日本ではこーゆーの『同担』って言うんだ」
ね? と小首を傾いで見せれば、頭から湯気を出しそうなくらいに赤くなったリンゼイは最後の力を振り絞って大洋の両目を覆うように手を伸ばし、加減が効かなかったてのひらと顔同士から、ぺち、と乾いた小さな音が立った。
🔵🔵🔵 大成功
ノア・キャナリィ望んで命を奪ってるわけじゃないんでしょう?
貴方に、悪意は無いんでしょう
それなら僕は、貴方を敵とは見做さない
僕から貴方に、祝福を
聖痕の力で美しい花園を生み出して
魅了を乗せた優しい鎮魂曲の歌唱
貴方の分まで僕が祈るから
大丈夫
貴方は今は、何も気にしなくて良いから
美しい大自然に身を委ねて
美味しいアップルパイでもいかがですか?
僕はいつも、そうしているから
人と触れ合うのが怖くなった時
辛い時も、苦しい時も
大自然と甘いものは、僕の心に寄り添ってくれるから
手作りのアップルパイをそっと差し出して
でも
僕はまだ死ぬわけにはいかない
義姉さんが起きるのを、待たなきゃいけないから
だから…ごめんね
夢蛍で、せめて優しく痛み無く
●うたは満ちて
彼女は望んで命を奪っている訳ではない。
彼女自体に悪意はなく、ただ利用されているだけ。
「それなら僕は、貴方を敵とは見做さない」
相対するはうつくしき天の翼。いろを違えた瞳で真っ直ぐに災厄と呼ばれたおんなを見詰め、ノア・キャナリィ(自由な金糸雀・h01029)はまるで母が子を抱き止めるかのようにそっと両の腕を広げて祈りのことばを口にする。
僕から貴方に、祝福を。
咲き綻ぶ花々は、春を思わす楽園の。宿した聖痕より芽吹いた種たちを育み慈しむ鎮魂曲を歌い奏でるノアの姿を、リンゼイはただ、この世のものとは思えぬ光景でも見るかのように呆然と立ち尽くしながらじっと見ていた。
「大丈夫。貴方は今は、何も気にしなくて良いから」
貴方が望まず葬ったいのちの数だけ、僕が祈るから。
今はただこの花々に身を委ねて、と。あまく歌う金糸雀の声にリンゼイは未だ戸惑いのいろを浮かべていたから。ふわりと飛び寄ったノアが差し出したのは、ケーキボックスに収められた手作りのアップルパイだった。
「これは、……どうして?」
「僕はいつも、そうしているから。……人と触れ合うのが怖くなった時も」
辛い時も、苦しい時も。
何処までも広がる大自然と甘いものは、こころに優しく寄り添ってくれるから。
だから、受け取って欲しいのだと。心を重ねるように言葉を紡げば、戸惑いながら、躊躇いながら――それでも恐る恐るにリンゼイがケーキボックスを受け取ってくれたことに、ノアはやわらかく微笑んだ。
自死衝動は今尚ノアを蝕んでいる。それでも幾らかは『まし』になっているのは、彼女が少なからずこころを委ねてくれたから。でも。
「(僕はまだ死ぬわけにはいかない)」
愛する|義姉《あね》が目覚めるときを、信じて待たなければいけない。その為には今この場で彼女を止めなければ。
「だから……ごめんね」
ひかりが満ちる。
彼女を取り巻く悪意ものろいも、すべて、すべてを包み込む。
痛みを伴わぬ優しい浄化のひかりが、リンゼイの視界をしろく満たした。
🔵🔵🔵 大成功
アドリブ歓迎
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──気づけば手の中にナイフがあった
死んでなるものかと幾度も決意を抱いたのに
思考にノイズが走る
耳元で俺自身の声が聴こえる
「世界のために、弟妹たちのために、友のために、」
「死ぬべきだろう」
「それがいちばんの『愛情』だよ」
視界が明滅する
尚も無意識下に拒もうとする己の手にもたつきながら
喉を掻っ捌こうとして
けれど【オーラ防御】を咄嗟に発動させる
手から|ナイフ《ハッピーエンド》が滑り落ちて
無機質な音を立てた
よかった
憂いに顔を伏せたこのひとの目の前で死ななくて
『死』とは
新しい旅路の始まりにもなり得る
ひとによって様々な意味に変わるものだけれど
それは相手が選んで、または信じてこそのもの
理不尽に齎されるものは、相手も、この人をもただ傷付けるだけなんじゃないかって俺は思うから
「……死なないよ」
彼女を真っ直ぐ見て、微笑んで
「俺は死なない」
ここで悲しみの連鎖を止める
その為なら、俺は悪役だって喜んで引き受けよう
けれど、どうかこの槍が、この手が
彼女のいたみに、悲しみに寄り添えるものでありますように
●青く実る
祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)の手の中には一振りのナイフがあった。
何時から手にしていたんだっけ。
何故、手に取ったんだっけ。
何のために?
熟した果実を潰したかのように視界がぐちゃりとあかく塗り潰される。
思考が霞む。ノイズが奔る。
死んでなるものかと幾度も決意を抱いた筈なのに――壊れたラジオのように耳元で繰り返されるその呼び声は、他ならぬ自分自身のものだった。
『世界のために、弟妹たちのために、友のために』
『死ぬべきだろう』『死ぬべきだ』
――それがいちばんの『愛情』だよ。
全部、全部泡沫へと消えて。これで良いんだ。これで、全部、
「――ッ!」
無意識下で死を拒もうと己の手がもたついたのは果たしてラムネにとって幸運だったのか。喉を自ら掻き切ろうとしたその瞬間、咄嗟に展開した守護の障壁が『幸福の結末』を弾いて、滑り落ちたナイフががらんと無機質な音を立てる。そんな様子をまるで自分の痛みであるかのように顔を歪ませて見ていたリンゼイを視界に収め、ラムネは『ああ、』と微かな息を溢して安堵した。
「(よかった)」
憂いに顔を伏せたこのひとの目の前で、死ななくて。
傷付くことを今更恐れることはない。それでも、他でもない彼女にこれ以上の悲しみと自責の念を与えることは不本意だったから。頬を伝う汗か涙かも分からぬ雫を乱暴に手の甲で拭えば、手折られたはずのいのちが尚も立ち続けていることを知ったリンゼイは喉を震わせながら『どうして』と口にした。
「どうして……、……どうして、拒んだんですか。抗えばもっと苦しくなるのに、どうして……」
彼女の言葉は半分本当なのだろう。残りの半分は無意識下で己を守ろうとした彼女の人間らしさだろうか。
自死衝動に囚われたものを救う手立てはリンゼイは持ち得ない。だからこそ、せめて苦しまずに死んでくれたなら、その眠りはやさしいものになるのにと。涙を溢しながらかぶりを振る彼女はまるで迷子の子どものようだった。
「……死なないよ」
『死』とは新しい旅路の始まりにもなり得るのだと、やさしい竜たちが教えてくれた。
ひとに依って様々な意味に変わる概念ではあるけれど、それは個々人が選ぶ、或いは信じてこそのもの。理不尽に齎された終焉は、いのちを自ら手折った人々は勿論、リンゼイ自身をもいたずらに傷付けるだけのものなのではないかと、そう思うから。
「俺は死なない」
真っ直ぐに涙に濡れたリンゼイを見詰めてラムネは微笑む。彼女がこれ以上悲しまないように。苦しまないようにと願いながら。己がいのちの輝きをそのままに、胸奥から出づるあおいひかりを槍に変じさせ、駆ける。
「それ以上近付かないでください、来ないで……!」
ここで悲しみの連鎖を止める。
その為なら、悪役だって喜んで引き受けよう。こんな風にしかあなたの涙を止めるすべを持たない俺を――ああ、彼女は許してくれるだろうか。
「……もう、泣かないで良いんだ」
どうかこの槍が、この手が、言葉が。彼女のいたみに、悲しみに寄り添えるものでありますようにと。祈りと共に齎された天槍の一撃が、おんなの胴を深く深く貫いた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
物集・にあ自死を選ぶ命を前にして、手を伸ばす
途端目の前が夜よりも冥い海の色に染まる
耳元では優しさ満ちたようなお姉さまの声が祝福の声がした
あなたは贄だと、喜ばしいお役目を頂いたのよ、と
海に沈むいのちは、嘆き苦しむ者が多い
この身をもって彼らのいのちに慰めを
今度はちゃんと死ななくては
灯火が自身の体を燃やそうとした
――おまじないですよ
声と一匙の茉莉花の香りを思い出す
ひとは助けを乞うように上を見上げるのだろう
海の上は遠く、星のみえる空はもっと遠く
地上の炎は赤色で鮮やかに映したを覚えてる
だからわたしは地上へ来たの
こわいね、のろい
でも知ってるわ、生きることもとてもこわいのよ
呪いだと諦めるのはきっと簡単なことだと思うわ
●みなそこのかがり
自死を選ぼうとする命を前にして、物集・にあ(わたつみのおとしもの・h01103)は手を伸ばす。途端、目の前が夜より昏い海のいろに染まって、くろく、くらく塗り潰されて――にあの耳には慈愛に満ちたような姉の祝福の声が響いていた。
『あなたは贄。喜ばしいお役目を頂いたのよ』
真珠のいろを宿したかんばせがかたちばかりあまくやわく撓むのを、まぶしげに見上げたのは何時の日のことだったろうか。ああ――それとも今まで見ていたものが、都合のいいゆめだったのだろうか。
力尽きた鯨が深海で新たな命の糧となるように、貴女の命も廻りを促す慰撫となる。
海に沈むいのちは嘆き苦しんでいるものが多い。だからこそ、この身を以てして彼らに慰めを。今度は、今度こそはちゃんと死ななくては、と。あおき燈りがにあの体を包み込まんとした、その時だった。
――おまじないですよ。
その声は、あまく香る茉莉花は、垂らされたひとすじの糸にも似た。
ふつりと途切れ掛けた意識を取り戻し、にあはぱちりとあおい瞳を瞬かせる。
ひとはきっと助けを乞うように上を見上げるのだろう。海の上は遠く、星を抱くそらはもっと、もっと遠く。地上の炎はあかく、鮮やかに映っていたことを覚えている。だから。
「だからわたしは地上へきたの」
もう、夜の海は見えない。
目の前に在るのは、迷い子のように瞳を揺らしたおんなだけ。
「……こわいね、のろい」
にあは微笑む。夜よりも昏く、みなそこよりも冷たい死を知っているから、それを振り撒いてしまうリンゼイの痛みに寄り添える。近付いて、触れて。手を取ることが、かなう。
「ぁ……、」
おんなは少女のてのひらを拒まない。
ほんとうは、ずっと。
ずっと、ただそうして寄り添ってほしかっただけなのかもしれない。
「でも知ってるわ、生きることもとてもこわいのよ」
呪いだと諦めるのはきっと簡単なこと。
でも、あなたはそのままでいいの、と。柔く問い掛けるにあに手を取られたまま、リンゼイは瞳に涙を滲ませ、緩々とかぶりを振って否を示した。
🔵🔵🔵 大成功
鬼臨坂・弦正自らの所業に苦悩しながらも
命ぜられる儘に生命を手折る
彼女の境遇と同じとも、理解出来るとも申さぬが
嘗ての俺はそうだった
鬼神の憑代となるべく生まれ育ち
捧ぐ盃を血で満たす為、この手で何人殺めたか知れぬ
長じる迄、人を殺めてはならぬと知らず
知って尚、一族に望まれた事ならばと、奪う事を選び続けた
その一族も鬼気に堪え兼ね、皆狂って死んだ
解っている
俺が死すべきだった
かねてより抱き続けた死への決意が
災厄の力を借りて衝動へと転じる
それでも流されず居られるのは、罪科と同等の責任が有る故
“故郷に帰り、妖刀を再び封ずると共、自死を以て呪わしき一族の血を絶やす”
堅き誓いを精神抵抗、狂気耐性、霊的防護と代え、衝動を諌める
罪の重さは責の重さ
故郷での罪は故郷で贖うが筋
それというのに、未だ帰路さえ見出せぬ身
斯様な道半ばで衝動に敗けてしまえば
何も為さぬ儘、己だけが死によって救われる
それだけはならぬ
彼女の目を見据え、怯む事無く歩んで近付く
災厄よ
……否、りんぜい殿
己が所業を憂う心が有るのなら、此処で退け
退かぬなら、斬らねばならぬ
●血の盟約
自らの所業に苦悩しながらも命ぜられる儘に生命を手折る。
彼女の境遇と同じとも、理解できるとも軽々には口にしないが――少なくとも嘗ての己はそうだった、と。夜闇を抱いた双眸を細め、鬼臨坂・弦正(金輪際・h07880)は災厄と呼ばれたおんなを前に佩いた刀を抜かぬまま相対した。
鬼神の憑代と成るべくして生まれ育ち、捧ぐ盃を血で満たす為にこの手で何人殺めたか最早分からぬ。
長じるまで人を殺めてはならぬとさえ知らず、知って尚一族に望まれた事ならばと奪うことを選び続けた。その一族でさえも、弦正の鬼気に堪え兼ね、皆狂気の渦に呑まれ死んでしまった。
「……解っている。俺が死すべきだったと」
その言葉は一体、誰に向けてのものだったのか。
かねてより抱き続けていた死への決意が、災厄の力を借りて衝動へと転じていく。それでも未だ太刀を振り翳さずに居られるのは己が罪科と同等の責任がある故のもの。傍目から見ればびくりとも動かぬ弦正の姿に、自ら手を下す必要さえ持たない哀れなおんなは少なからず動揺のいろを浮かべていた。
――故郷に帰り、妖刀を再び封ずると共、自死を以て呪わしき一族の血を絶やす。
たったひとつの誓いを胸に、自死の衝動を裡に押さえ込む。堅い意志はちからとなって弦正の歩みを止めたまま。嗚呼、見れば彼方此方に傷を負ったおんなの方が余程苦しそうではないか。
「罪の重さは責の重さ。故郷での罪は故郷で贖うが筋と云うもの」
だと云うのに、未だこの身は帰路さえも見出せぬ。
斯様な道半ばで衝動に敗けてしまえば、何も為さぬ儘、己だけが『死』と云う救済を甘受することになる。
「それだけは、ならぬのだ」
「……どうして、いのちと向き合い続けるのですか。あなたは痛みを知っているはずなのに……」
「……知っているからこそだ。汝にも分かるだろう」
それまで口を噤んでいたリンゼイが僅かに瞳を揺らす。一体彼女はここに来るまでどれだけ泣いたのだろう。あかく腫れた目元に尚も雫を湛えながら『どうして』と繰り返す姿は酷く頼りない。
「私、……私は、ただの道具で、大統領の命は絶対で……、だから、だから……」
詭弁だ。それは彼女が己を守る為の建前にしか過ぎない。
一国が動くほどの事態なのだと云う。ならば拒めば彼女はおろか連邦|怪異収《FBPC》容局とて無事では済まないのだろう。背負ったものの大きさは己と彼女では異なるかもしれないけれど、いのちの重みに胸を痛める心を持つ存在であると弦正は理解している。だからこそ怯まない。一歩、また一歩と近付いていく弦正をリンゼイは拒まなかった。
「災厄よ。……否、りんぜい殿。己が所業を憂う心が有るのなら、此処で退け」
退かぬならば斬らねばならぬと。告げる声は幼子に語り掛けるかのようなやわらかなもの。告げられた言葉が慈悲であると理解しているからこそ、リンゼイは未だあかいいのちのいろを溢れさせたままの腹部を押さえながら微かに笑った。
「……戦線を乱す任務は……成功、しました。『あなたと私は、出会わなかった』。……そう、ですね」
影へ、闇へ。昏く滲んだ雑踏の中へ、リンゼイ・ガーランドは傷付いた身体を引き摺りながら消えていく。彼女が齎した死は決して少なくはないけれど――能力者たちは暫し、彼女をその苦しみから解き放ったのだ。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
