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シナリオ

人間と神の関係性、その末路について

#√汎神解剖機関 #ノベル #猫神憑き #蛸神様



 我々人類に逃げ場などない。
 真人くん――今後の為に、人類の為に、君の知っている事を、隅々まで教えてはくれないか。教えてくれたら、君のところの文献と比較して、よりよい世の中にする為の『方法』というものを残しておきたいのだよ。もちろん、君が嫌だというのであれば、我々も諦めるとしよう。だけど、君ならきっと頷いてくれると、我々は信じているよ。そうですか。世のため人のため、ですものね。わかりました。俺の知っていること、できる限りですが、お話します……。
 最初に――神とは何かを紐解かなければ、把握しておかなければ、嚥下する事も難しい。その為、本題に入るよりも前に、個人的な『神』についての解釈と謂うものを載せておこう。前提として『神』とは人間を創造した存在なのではなく、人間『に』存在を許されたモノどもの総称としておく。その所以は人類が『生まれた』頃にまで遡る筈ではあるが、より、解り易い例として『ダゴン』を此処に記しておこう。ダゴンとは古代メソポタミアにおいて崇拝されていた『神』であり、旧約聖書にも登場する豊穣の象徴である。だが、今日、現代において『ダゴン』はそれ以外の象徴としての役割を意味する。それは、とある作家が書いた『小説』の所為に過ぎないが――いや――それが最も大きな、途轍もない歪の所以なのだが――恐怖や狂気の化身として堕とされているという悪夢である。この『冒涜的』な行いに関しては『ダゴン』以外にも『バアル・ゼブル』が当て嵌まるだろう。このようにして『神』とは人間の『精神』によっていとも容易く捻じ曲げられる、儚い存在なのである。されど、神は強大だ。人間の脳味噌を文字通りに血肉とし、触手を伸ばすのが彼等なのである。そして神は決して忘却されない。とある√の人類は忘却こそを力としてはいるが、その根底には『神』の輪郭が宿っているのである。それを踏まえて『蛸神』についての歴史を読んでもらいたい。人間は神をコントロール出来るが、人間自身をコントロール出来ないのだ。
 昔々、我々の目が届かないほどの大昔、とある漁村にて『原初の蛸神』は誕生した。『原初の蛸神』はこの時代、姿形こそ安定してはいないが、漁村の頭である『八手一族』の純粋な守り神として役割を与えられていたそうだ。とある文献には「原初の蛸神、それはもう、慈悲深く、黄金色の光を湛えていた」とある。これは、魚の群れを引き寄せる疑似餌のような方法を『神がとっていた』ことの示唆ではないだろうか。もしかしたら『原初の蛸神』は蛸の姿は勿論、様々なカタチを有していたのかもしれない。その、象徴としてのチョウチンアンコウめいた漁の術は――現代でも伝えられているそうだ。兎も角『原初の蛸神』の『ダゴン』らしさについてはわかってくれたことだろう。だが、これを読んでくれている君達ならば察せると思うが、人間の信仰心というものは『ありがたみ』を薄れさせれば薄れさせるほど、精神的にも物理的にも、消えて、無くなってしまうものだ。安全祈願のお祈りすらも形骸化してしまったならば、あとは、一族諸共に痩せ細っていくばかりである。時の流れの残酷さにやられた『原初の蛸神』は、ああ、眠る事すらも赦されなかった。
 一度生じた『神』は忘れられない。世界に存在を刻み付けられた神秘は、最早、息絶える事すらも出来なくなる。その為『原初の蛸神』は信仰の担保として一族の中で『最も若い男』に憑依する事を決めた。つまりは、簡単に言ってしまえば『依代』と呼ばれるものだ。蛸神は男に取り憑いて、その心を、精神を、ずっと『若い儘』にしようと試みた。何故なのかと問われれば、それは『次の依代』を作らせる為だ。所謂、性交の促しである。女を娶らせ、番わせ、新たな血肉を産ませることで『信仰』を繋がせようという、魂胆だ。その結果、現在まで『八手』の家の第一子は必ず男児が産まれるという。
 ところで、何故にこれを書いている私が『こんなにも詳細を知っているのか』と謂うと、それは勿論、八手一族の『男児』を確保したからである。何度も何度も収容施設からの脱走を成功させている例を見るに、当代の依代もなかなかに癖の強い男の子のようだ。だが、しかし、こんなにも純粋な男がどうやって次代を『つくる』のかは結構興味を擽られる。いや、無垢だからこそ『神』に……怪異に……選ばれるのかもしれない。ならば、私はおそらく、選ばれる心配などないのだろう。私はこんなにも、真っ黒い精神をしているのだから!
 過去の文献を漁っていた私はひとつの、ひどく埃の被った一冊を見つける事となった。蛸神についての文献である事に変わりはないのだが、だいぶ、乱雑に置かれていたので、危うく焚いてしまうところであった。いや、私の本能が『燃やしてしまえ』と訴えてきたのかもしれない。兎も角、その内容の一部をなるべく簡潔に書き写していきたいと思う。より正確には私の文章でのお茶濁しなのだが、お茶を濁さなければ、最悪、正気を失くしてしまう者も出現することだろう。私の正気? 私は既に正気ではないので、問題なしとする。
 結局のところ、この世で最も邪悪な生命体とは、悪徳に浸かっている存在とは『人類』に他ならないというワケだ。八手一族も『それ』には抗えないようで、過去に一度『蛸神』を完全に滅ぼす為の計画を練っていたらしい。その所以に関しては記されていないが、大方、神の力を人間のものにしようと試みた、とか、その程度の、罰当たりな事なのだろう。されど『蛸神』を最も憤慨させたのは、蛸神自身への危害ではない。滅ぼす為に選んだ方法は『依代となった長男』諸共に、海に沈めてやろうとした事だ。その結果――文献によると――依代と、その『きょうだい』のみを遺して、悉くが怪死を遂げた。怪死の状態も細かに記載されてはいたが、それこそ、敢えてここには載せないことにする。この事件をきっかけに蛸神への『畏怖』が強まり、蛸神は『神』ではなく『怪異』としての力を増したと謂うワケだ。それこそ『ダゴン』や『ベルゼブブ』の誕生に近しい。
 そして時代が変わるにつれて『不定』だった蛸神に『定』の一文字が這い寄ってくる。変幻自在ではあるものの、時と場合に因って『神』は一定の姿の儘で顕現されるものだ。或る依代は蛸神について「胴と頭の欠けた、黒い触腕だけの姿をしている」と語っていたが、旧い絵巻では『白い大蛸』として描かれている。あまり細かな描写はされていないが『滅ぼそう』と考えていた『代』の一族には天地を貪るかのような『あな』としての神を見たともされている。まあ、つまりは、蛸神は『人間の悪意や善意』でその神意とやらを執拗に蠢動させるのであろう。また、ヒトに憑依して共生していくうちに『蛸神』はヒトへの接し方すらも変えていった。その末路と謂うのは現代の依代である八手・真人を観察すればわかる筈だ。
 蛸神は『守護神』としての側面を有していたが、あらゆる歪を受け取った結果『独占欲』と謂うものを抱く事になった。その独特な価値観は実に人間めいていて、当代である『八手・真人』への強い執着心として昇華されている。捻れに捩じれた末路が天邪鬼めいたスキンシップだと考えるならば、成程、蛸神の『神』としての、八手の家の者を守る神、という根底とやらは揺らいでいないとも解釈できる。いや、或いは――蛸神が彼の前に憑いていた、彼の『兄』の意志を継いでのことだろうか。……真人くんは『蛸神』についてどう考えているのかね。たこすけについてですか? 俺は、たこすけがいなかったら、今頃、死んでいたと思いますよ。それこそ、兄ちゃんよりも早く、死んでいたかもしれません。
 これは最早共生ではない。蛸神への依存だ。人間が蚕のように扱われている。人間が動物にしたかのように、生き物にしたかのように、退化とやらを促しているのではないか。世の中、便利になればなるほど、体力その他が落ちていくかのように。ああ、ならば、彼の兄の精神年齢の不安定さにも納得がいく。
 結論として――『蛸神』は非常に危うげな存在である。蛸神は『神』としての側面と『怪異』としての側面、そして『人間』としての思いを宿していると、そういうことになる。その場合『蛸神』が新たな『蛸神』を生み出しかねないのだ。もしも、新たな『蛸神』が世に顕現した場合、人類は、決して消失しない『もの』との向き合い方を考え直さなければならない。だが、私は、そのような夢物語など実現できないと想っている。そう、人類に齎されるのは――緩やかな破滅、死、以外に、ないのだから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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