シナリオ

⑮慟哭

#√汎神解剖機関 #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑮

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 #√汎神解剖機関
 #秋葉原荒覇吐戦
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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
現在の戦況はこちらのページをチェック!
(毎日16時更新)

●喪失
 その人間災厄には、|烙堂燐霧路《らくどう・よつむじ》という名があった。
 絞縛帝とも云われた、寅であった。
 人間災厄帝十二干支との呼び名を失くして、もう幾許か。己が命を賭してでも護るべき“兎”を護りきれぬばかりか、その身を焔火に炙られた。
 だのに尚、自分はまだこうして生きながらえている。唯在るだけで肺腑は動き続け、腹は減り、無闇に生を貪り続けている。
 真新しい血の匂いを孕んだ銀鎖を、無骨な指先で繰る。
 最早どうしようもなく、唯々消えゆくばかりの命を見届けるほかなかったあのとき、兎の首をこれで絞めた。

 護ることに、なんの意義がある。
 護りきれぬ存在に、なんの意味がある。
 それこそ、愚行の最たるものではないか。

 ――だが、いま戦場に在る男にはもう、その思考すらない。間断なく獲物を振り回し暴れ続けながら、時折、|縊匣《くびりばこ》の欠片が刺さった右の眼窩へと手をあて、言葉交じりの呻き声を漏らしている。

 再び、男の手から銀鎖が撓垂れて地へと落ちる。
 静寂を奪われた戦禍のなか、その硬質な音がひとつ、一際強く響き渡った。

●鏖戦
「みんな、ここまで怪我してない? 大丈夫?」
 開口一番そう云いながら集った仲間たちを見渡した泉・海瑠(妖精丘の狂犬・h02485)は、誰もが大事に至っていないことを悟るとひとつ安堵の息を零した。
「この闘いも終盤戦。ここまで来たら、完封勝利も目前じゃない? ……ま、なんにせよみすみす討漏らすこともないしね。残党の討伐、お願いできるかな」
 云って、看護師の青年が指差した地図上の一点は、神田郵便局。
 その目的は――先に居る簒奪者の撤退か、撃破だ。
「相手の右眼に刺さってる|縊匣《くびりばこ》の欠片を抜けば、大人しくなって撤退するんだけど……遠近両方に長けたヤツだからね。そう簡単な話じゃないと思う」
 不用意に近づけば、殺意をも秘めたその双腕に忽ち縊殺されてしまうだろう。とはいえ、距離を取らんとすれば血縛鎖に絡め取られ、漆黒球の餌食となってしまう。喰らった攻撃を模倣する術も持ち合わせるとなれば、単純な戦略・戦術では立ち行かぬのは明白だった。
 更には、戦場には未だ、人魚姫の遺した“√能力者だけを自動迎撃する無数の「電子の泡」”が浮遊し続けているという。
「まだほんの少し意識が残ってるみたいだから、ワンチャン声かけてみたら反応あるかもしれないけど……欠片を抜くまでは会話の通じる相手じゃないのは確かだよ」
 自我がないことは即ち、暴虐の限りを尽くすということ。
 ならば、対峙する者もまた、それ相応に腹を括らねばならぬだろう。
「撤退を促すか撃破するかは、そのときの戦況次第ってとこかな。……なんにせよ、最初から撤退狙いで勝てるような相手じゃないってことだけは、絶対忘れないでね」

 どうか気をつけて、と。
 真摯な眼差しで告げた海瑠は一転、柔らかな笑顔で仲間たちを送り出した。

マスターより

西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。

戦争シナリオを是が非でも出したく、遅ればせながら参戦いたしました。

⚔プレイングボーナス
「電子の泡」に対処する(Ankerなら効果倍増)

⚠プレイング補足
・受付期間は別途タグにてご連絡いたします。期間外のプレイングはお戻しとなります。
・今回は純戦となります。心情プレイング3割、戦闘プレイング7割程度のプレイングがお勧めです。
・個人的な都合で恐縮ですが、今回は執筆時間が限られているため、必ず「当マスターコメント」および「当方個人ページ」も必読のうえご参加願います。
 ※未読と思われる方のプレイングは採用優先度が下がりますのでご注意ください。
・同上の理由により、今回は単独参加のみの受付となります。
・挑戦者人数によっては採用できない方も発生いたします(先着順ではありません)。申し訳ありませんが、ご了承ください。

皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『人間災厄「絞縛帝」烙堂燐霧路』


POW 縊眼葬禱
【咎人の数珠 】による牽制、【血縛鎖の漆黒球】による捕縛、【縊殺に執着した双腕】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD 禍写葬鎖
自身が受けた武器や√能力を複製した【禍つの鎖 】を創造する。これは通常の行動とは別に使用でき、1回発動すると壊れる。
WIZ 寅縁選禍
知られざる【十二干支「寅」の災厄としての力 】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
イラスト すがやも
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷薙月・静琉
🗡️🩸

新月、雪那…後方から援護を
今日は前に出る

紅月を腰に構え定め
風の神霊の助力を受けつつ
一息に間合いを詰める
疾く、識るより速く、
破魔に特した神刀を抜き放つ
獲物が厄介だからな…狙うは其の腕
片腕だけでも、と

電子の泡含め防御は護霊らに任せる
幻焔、氷壁…此の身に向けられる敵意は
あらゆる手段を用いて阻め
自身も幽影を忍ばせておくが
防ぎ切れない攻撃は甘んじて受けよう
寧ろ其の流れさえ利用し
霊力を用いた深い斬り込みでカウンター

時に、神力が充ちたなら

《悪しきを以て濁り宿す欠片よ…塵と化せ》

……お互い辛い身、だな
俺とお前は似ている気がする

嗚呼…久々に無茶した
痛みに耐性があるとは云え
帰ったら心配…させそうだ、な

 穏やかな秋空の下、それは日常の仮面を被ったいつもの昼日中であった。
 近隣の駅から丁度等しく離れた神田郵便局は、普段ならば駅前よりもどこかゆっくりとした雰囲気のある場所だ。秋葉原駅前で響く、家電量販店の店先から絶えず流れる客引きの録音音声や、駅周辺を周回する広告車からのアップテンポな曲も聞こえない。唯、止め処なく行き交う車を横目に、郵便局や近隣の小さな飲食店へと脚を向ける人々が居るばかり。その数も然程多くはなく、歩道を悠々とすれ違える程度だ。
 その一角に、今日は彼らの姿がなかった。代わりに、一段と大きな爆風が湧き起こる。
 如何に粉塵で視界が妨げられようと、氷薙月・静琉(想雪・h04167)は決して眼を瞑りはしなかった。陽に混じる埃の匂いが満ちるなか、砂で眼球をやられぬよう気をつけながら、今は視覚よりも気配に意識を注ぐ。
 一拍の間ののち、右背後から明確な敵意を捉えた瞬間、静琉は最小限の動きで左前へと跳躍した。その後を追うように、突如砂色の視界を割きながら現れた血塗れの鎖が、静琉へと鋭く飛来する。
「っ……!」
 鎖の先端――見慣れた刃が狩衣の胸元を容易く切り裂き、静琉を形作る霊力もろとも半霊半神の躰を袈裟懸けに断った。反動で後方へと吹き飛ばされた静琉が、郵便局の外壁へと強かに叩きつけられる。
「だい、じょうぶだ……新月、雪那、来なくて良い」
 擡げた上半身をどうにか起こすと、布陣を崩してでも近寄らんとした護霊たちを即座に制止す。今もまだ戦場を浮遊している電子の泡を気にせず闘えるのは、明らかに神使たる白狐と氷鳥の防御があってのことだ。今の攻撃も、彼らの霊壁がなければより深手を負っていただろう。ここで体制を崩しては意味がない。
 だがしかし、さすが人間厄災。さすが寅と云ったところか。静琉とて、決して幽影の展開に後れを取ってはいなかった。それ以上に、敵の写し取った己が武器――紅月の名を持つ御神刀の一太刀が神速を得ていたのだ。一時の紛い物とはいえ、名刀たる所以をその身を以て知った静琉は、横一文字に割かれ、肉はおろか骨までも露わとなった胸から緋色の帯となって滴り落ちる己が血は気にも留めず、再び抜刀の構えを取る。
 脈打つ音が、やけに大きく耳に響く。痛みにはとうに慣れたと云えど、ともすればすぐにでも乱れる呼気を、気取られぬように押し殺す。
(嗚呼……此処までの無茶は久々だ。帰ったら心配……させそうだ、な)
 一瞬裡に過る、桜の娘。愛おしい人を亡くして幾星霜、偶然か否か、涯なき路をゆく己の前に現れた、淡き春彩は、敢えてこの場には連れてきていない。

 再び静まった砂埃の向こう、先に一撃を浴びていた寅もまた、その首輪から伸びる長い銀鎖を握りしめた。如何に寅の身体能力があろうと、先の神速は獲物を模したが故のもの。ならば、ひとたび己が武器同士での対峙となった今、雌雄を決するは互いの速度のみ。
 微かな銀鎖と鐔の音が毀れ重なるや否や、静琉は足許に広がる血溜まりを靴底で踏みしめ瞬発力とともに飛び出した。風の神霊の力を纏い、知覚を超え、疾く間合いを一気に詰める。
 考えるまでもない。俺とお前は似たもの同士。大切なものを自ら殺し、未だその苦悶から逃れられずにいる。
 だが――否、だからこそ。
 この一刀は、我らが為。
 神速を以て抜き放った穢れなき刃が一度、|彼《か》の漆黒球へと撫でるように触れたかと思えば、するりとそれを横へと受け流した。とうに真紅に濡れた白狩衣の裾を靡かせながら瞬時に身を屈めた静琉は、勢いを殺せぬまま横へ体制を崩した寅の懐へと瞬く間に潜り込む。
 厄介な獲物ならば、狙うは腕。
 せめて、その片腕だけでも。
 己が霊力を纏う愛刀へと注ぎ続けた、鎮守の神力。忽ち刃を返した静琉が、即座に両の手で柄を握りしめ、横一文字に破魔の刃を閃かせる。

 ――悪しきを以て濁り宿す欠片よ……塵と化せ――

 神言とともに歪曲した次元が、寅の右腕をその根元から喰らったと同時。
 一際荒ぶる咆哮が、戦場一体に轟いた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

物集・にあ
🗡️🩸
道を見失ったいのちへ生の選択か終わりを

[幽燈]を掲げて詠唱を捧げる
できるだけ多くの蒼い焔を創造し遠距離で攻撃と対処に回るのよ

彼の連続攻撃を反射・受け止める焔を作り同時に電子の泡の破壊を確実に重ねていく
霧路への攻撃は右後ろから回り込み撃ち落とされないよう死角を狙う
動けば創造した焔は消えるから
詠唱を止めるわけにはいかないわ
多少の攻撃は受け止める
痛む傷は生命力吸収で耐えましょう

焔の火は傷が疼くのではないかしら
そうならきっと彼はまだ意思が残っている
愚行だと意味を捨てればそれこそが
貴方の命まで失い全てが徒労に終わるわ

止まらぬ猛攻なら手を休める暇はなく
きっと彼にとっての幸いはこの焔に熱はない事ね

 此処は、誰かがしたためた文が集う場所だと聞いた。遠く離れた場所にいる人へと紡がれた言葉を、代わりに届けてくれる人々が働く処なのだと。
 だが、いまはその彼らの姿はない。無事逃げおおせたという安堵は、早々に消える。まだ、この壁の向こうには幾つもの手紙が残されている。護るべきものは、まだ此処に在るのだ。
 先手を打った仲間を見守りながら、郵便局の外壁を背にした物集・にあ(わたつみのおとしもの・h01103)は、そっと瞼を閉じて詠唱を始めた。水のささめきのようでありながら、なれど確かな音となって紡がれるにつれ、ひとつ、またひとつと娘の周囲に蒼き焔が生まれてゆく。
 まだよ。もっと。今のうちに、できるだけ多く創造しておかなければ。
 海の彩を抱いた洋燈を掲げたまま懸命に唱え続ける娘の周囲に、気づけば電子の泡の群れが現れた。ゆっくりと開いた|眼《まなこ》が、それらを捉える。
 だが、それでもにあはその場から離れなかった。
 ひとたび動いてしまえば、それこそ泡沫のようにすべてが消えてしまう。決して動くまいと唇を引いたそのとき、壮絶な咆吼が娘の鼓膜を震わせた。僅かに柳眉を寄せたものの、而してにあの反応はそれだけだった。澄んだ声は変わらず遙か海へと詩歌めく調べを捧げ続け、見る間にあたりを幽き燈火が満たしていく。無事母なる海へと還れるように、沈みゆくものたちの導となる命の燈火たるあお。娘の細き白指のさきで揺れるそれが、幾重もの淡きひかりを映して静かに瞬き、毀れたひかりたちは満ち潮のように、戦場を海のいろへと染め上げ始める。
 戦場の空気をも揺るがす寅の怒号を切欠に、娘の纏うあおが唯の送り火でないと悟ったかのように、無数の電子の泡が一斉ににあへと襲いかかった。忽ち、視界に溢れていた焔の一部が喰われて消滅する。立て続けに響いた破裂音に、隻眼に加え隻腕となった寅の顔がゆっくりと娘へと向けられた。
 瞬間、着物の裡の柔肌が粟立った。
 眼を瞑っていたとしてもわかる、明確な殺意。齢十五の娘ならば、それこそ脚が竦んでしまってもおかしくはないそれを、にあは全身で以て受け止めた。なにを畏れると云うのか。端から識っていたことだ。彼の強さも――その裡に抱き続けてきた深き痛みも。
 |縊匣《くびりばこ》の欠片による激痛が迸ったのだろう。寅は一度、堪えるように歯を食いしばり貌を顰めた後、未だ詠唱を続けるにあへと一気に間合いを詰めた。咄嗟に展開した蒼き焔の群れが盾となり矛となり反撃するも、それを突き破りながら尚も男が迫り来る。
 一瞬だった。
 知らず失っていた意識を直ぐさま引き戻すも、上手く呼吸ができない。霞む眼を凝らしてみれば、眼下から伸びる寅縞の豪腕の先には、自我を失くした男の虚ろな眼があった。
「ぅ……、」
 こちらが動かぬと見越し、その覚醒した厄災の力でもって腕力を高めた寅は、容赦なくにあの細首を締め上げた。無数の蒼き焔を散らしながら、為す術もなく腕がだらりと垂れ下がる。獣の指が更に喉元を圧し、弾けるように血管が割かれた双眸から止め処なく血が溢れ、涙となって頬を伝い落ちてゆく。

 ――だが、娘の焔はまだ、生きていた。

 幽燈を持つ指先が、僅かに動く。と同時に、異変を察した寅はにあから手を離すと、即座に後方へと飛び間合いを取った。知らずと荒くなり始めた呼気に、薄らと驚愕の色を浮かべる。
「……焔の火は、傷が疼くのではないかしら」
 掠れかけていたにあの声は、いつの間にか元の清涼な音を取り戻していた。喉にできていたはずの締め跡も、頬に描かれた血の跡すら消えている。すべてを受け止めると心に決めたからこそ、娘は策を講じていた。如何に傷を与えられようと、その命を奪ってでも耐え抜くのだと。
 暫し待てど、問いかけへの答えは返ってはこなかった。だが、動きは止まったままだった。それこそが、正に答えと云えよう。
 ならば、示す道はふたつ。
 道を見失ったいのちへ――生の選択か、終わりを。
 にあは先を示すかのように、今一度高く幽燈を掲げた。深海でさえ消えぬ命の燈火が、寅の虚ろな眸に一筋のひかりを宿したその瞬間、右背後から蒼く幽き燈が海となって厄災もろとも飲み込んだ。
 それは、寅にとっては完全なる死角であった。蒼き焔の群れは、消えてなぞいなかった。何故と問うまでもない。首を絞められはしたが、娘はその場から一歩も動いてはいなかったのだから。
「愚行だと意味を捨てれば、それこそが貴方の命まで失い……全てが徒労に終わるわ」
 敢えて間合いの外へと散開させていた無数の幽焔を、にあは再び己が身の周囲へと展開した。
 彼の裡にはまだ、意思が残っている。そう確信しながら、祈るように幽燈をひとつ揺らす。深海へと誘う朧な蒼が、一気に寅の視界を染め上げる。

「大丈夫……この焔に熱はないわ」
 それは屹度、彼にとってのなによりの幸いとなるはずだ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

緇・カナト
🗡️🩸
その見目で人間災厄?
まぁイイか死ぬまで闘おう
終わった先にしか
生に価値など見出せない

戦場覆う電子の泡が面倒そうだよなァ
タイマンで殺し合いたいと云うのに
得物の手斧に蒼焔を纏わせて
其の焔で全てを焼き尽くす、
命尽きるまで燃やし尽くそう

数珠と血縛鎖と双腕と
遠近どちらも長けたヤツなのは承知の上で
手斧を構えて近接攻撃を仕掛けて
手脚を捥ぐのが常套手段だったが
頭部を狙おう、首を捥ぎ取ろう
思い通りにならない現実なんて
握り潰して仕舞えばいい
右眼に刺さった欠片に操られて
其れがオマエの現実なのだろう?
慟哭をあげるケダモノ同士の嬲り合いに

…大切な者の眩さなんて此の手で
握り潰したくなかったに決まってる

 鬨の声代わりの爆風が湧き上がったのち、郵便局内からは瞬く間に日常が掻き消えた。幾人にもよって展開される度重なる激しい攻防の余波を受け、外壁は至る所が凹凸し、今にも崩れかけている。
 攻撃の応酬の流れで局の裏手にある荷さばき場へと戦場を移した緇・カナト(hellhound・h02325)は、今一度肉薄しかけた寅へと、咄嗟に近くにあった空のカゴ台車を掴み勢いよく放った。仲間との戦闘で隻腕となったばかりの躰では未だバランスが取りづらいのか、意表を突かれそれを躱し切れなかった寅は、そのまま巻き込まれながらもんどりうって、アスファルトの上へと倒れ込む。
 とは云え、それも息を整える時間稼ぎにもなりはしないだろう。現に寅は直ぐさま躰を起こし立ち上がり、多少開いた距離を再び詰めんと、その強靱な脚力でもって地を強く蹴り上げた。
(数珠に血縛鎖に双腕に……まァ器用なことで)
 いずれかならば間合いの取りようもあろうが、遠近ともに長けているとなると闘いは自ずと長期戦に縺れ込む。ならばとカナトが選んだのは、より一打の重い近接攻撃一択であった。今日まで幾度も敵を血塗れにさせてきた、よく手に馴染む手斧は、既に寅の躰へと大小の傷を与えている。
 だが、それは青年とて同じであった。満身創痍と云っても良いだろう。予想以上に伸縮した銀鎖の鉄球は、交差した両腕だけではその衝撃を相殺しきれず、肋骨を砕き肺を片方潰していた。止むことのない激痛に躰は悲鳴を上げているが、それよりも呼吸が苦しい。無意識に胸へと片手を添えんとするものの、その腕も巻きついた鎖を振り払ったときに肉を抉られ、未だどくどくと脈打つままに流れ続ける血に紛れ、白い骨が剥き出しになっている。
 つまりは、一騎打ちならば力量は五歩。なれど、そこにEDENのみを狙う電子の泡までも在るとなれば話は別だ。
(ッ……タイマンで殺し合いたいと云うのに、やっぱり面倒だなァ)
 己に纏わりつかんとする泡を、蒼焔を宿した獲物を一薙ぎして一気に消し祓うと、カナトは自らもまた飛び出した。身を屈めたまま、空気を裂きながら一気に寅の間合いへと躊躇わず踏み込む。斯様な相手ならば手足を捥ぐのが常ではあったが、此度狙ったのは頭部だった。叩き潰さん勢いで振り下ろした獲物を、けれど寅は一気に手繰り寄せた鎖で巻き取った。奪われてはなるまいと、カナトも瞬時に手斧を躰の後ろへと引き戻しながら、バックステップで距離を取る。
「にしてもオマエ、その見目で|人間《・・》災厄って……――まぁ、イイけど」
 皮肉交じりに薄笑いを浮かべると、青年は力を一瞬に集中させ、再度手斧を呻らせた。どのみち、すべてが終わった先にしか生に価値なぞ見いだせぬ。ならばこの命、その命、ともに尽き果てるまで燃やし尽くすまで。
 片や矜恃までも奪われた寅は、ただ衝動のままに向かい来る。カナトとしては、それで一向に構いやしなかった。理性があろうがなかろうが、これは唯のケダモノ同士の嬲り合い。言葉にならぬ、やり場のない慟哭をぶつけ合うだけの行為に過ぎない。
「ここで生に執着してどうする? そんな欠片に操られて……其れがオマエの現実なのだろう?」
『グッ……ガァァッ……!!』
「……なら、オレがくれてやる」
 思い通りにならぬ現実なぞ、握り潰してしまえばいい。嘗てオマエがそうしたように、思いを奪われたオマエの生も――いま此処で。
 地獄の猟犬は、一足飛びに戦場を駆けた。瞬く間に肉薄すると、蒼焔を纏った手斧をひとたび首元側面へと叩き込み、次いで反動を利用しながら反対も強撃する。終末に猛る昏き巨人の蒼炎が、獣の視界を焼き尽くしてゆく。
 刹那のうちに左右から振動を喰らった脳は激しく揺らされ、抗う術もなく寅はその場に崩れ落ちた。同時に、寅自らを捉えていた漆黒の首輪がふたつに割れ、無機質な地面に硬質な音を響かせる。
 不意に生まれた静寂に、カナトの声が微かに滲む。

「……大切な者の眩さなんて、此の手で握り潰したくなかったに決まってる」
 ――なァ、そうだろう?
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シュネー・リースリング
🗡️🩸
歴史を紐解けば枚挙に遑がないよくある話
君個人の境遇に憐憫はあるし、その意見になるもの理解できるわ
でも防衛失敗なんて結果論よ
わたしは倒れるかもしれないけど√EDENを護るわ
みんなと力を合わせて、ここで君を倒してね
 
|Fledermausangriff《フレーダーマウスアングリフ》で邪魔な「電子の泡」を排除したら|Vampirinschlag《ヴァンピーリンシュラッグ》で一気に間合いを詰めて必殺の一撃を
視界が悪いであろう敵の右目側から攻撃するわ
 
そりゃあ寅の獣人がナイフひと突きで死んでくれるわけないよねぇ!
今回は大盤振る舞いよ!
片目破壊して|nochmal《ノッホマール》!
 
同√能力で応じて破壊なしならわたしが一手有利、破壊ありなら|EDEN《わたしたち》が有利になるわ
どっちに転んでも悪くない手でしょ
うっかり右目を破壊してくれて|縊匣《くびりばこ》の欠片が抜けたら楽でいいけどね
さて、すぐに構えて反撃に備えるわ
ステラ・グラナート・ウェデマイヤー
🗡️
命をかけて私たちを護ってくれた|夫《アスティ》を冒涜する意見ね
あなたも子供を持ってみるといいわ
何としてでも護ろうって思えるから
結果的に護りきれないかもしれなくても護ることを諦めることは絶対にないわよ

ちょっとテクニカルに行くわ
|聖火竜爆裂猛炎衝《ハイリガーフォイアドラッヘ・エクスプロジオン》を
敵:電子の泡
味方:EDEN側√能力者
で発射
通路を開けたら|聖火竜鋭爪閃《ハイリガーフォイアドラッヘ・クラーレンシュラッグ》で突進してその鎖ごと叩っ斬ってやるわ

当ててないから少なくとも敵は榴弾を複製できない
そして能力どれかが2倍としてもこっちは戦闘力強化、速度3倍、装甲無視で威力2倍
といった感じよ

さあ剣でも鎖でも獲物はご自由に、どっからでもかかってきなさい!
アストリア・ラウムファート・ウェデマイヤー
🗡️
【SPD】
神田郵便局にお金おろしに来たら何か変なのがいる!
ついでに変な泡まで浮いて……!?
あれ、立ち向かっていく人たちに泡が向かっていって戦いにくそう……?

柱とかで遮蔽を取りながらEDENの√能力者を援護するためにエルフの弓から矢を放って「電子の泡」を破壊していきます
隙があれば烙堂燐霧路を狙って射撃をして支援です
攻撃が飛んできたら咄嗟に電磁警棒で受け流したり、弓自体で受けたり
接近戦になってたら電磁警棒あるいは矢を手に持って突き刺すなどして抵抗しながら距離をとります
複製されても大したことがない武器なのがポイントです

 激しく舞い上がる粉塵から逃れんと、アストリア・ラウムファート・ウェデマイヤー(ITのウィザード・h00473)は咄嗟に郵便局内の柱の陰に身を隠した。
 郵便局にお金を下ろしに来ただけだった。今日も、そんないつもと変わらぬ1日になるはずだった。だが、光と闇が表裏一体のように、紛争の起こりえない安寧など夢物語だろう。√能力者がいようがいまいが、人の形をしていようがいまいが、“心”を持つものがひとりでも居れば其処に争いの火種が生まれかねないことは、長きに渡る史実が雄弁に物語っている。
 身近に√能力者が居るからこそ、アストリアもその事実を識っていた。――が、その“身近な√能力者”がこの場に居ると気づいて思わず瞠目してしまう。
(なんか変なのがいる……! 二足歩行の寅……!? 武器も使ってるし、動物じゃなくて人並みの知能はありそうだけど……動きがおかしいな)
 物陰から、いま正に母と友人が対峙している相手を慎重に観察する。主たる獲物は鎖に繋がった鉄球のようだが、隻腕だからか動きがぎこちない。ということは、この闘いで片腕を捥がれたのだろう。右眼は潰れ、なにか欠片のようなものが刺さっている。時折、右顔面を左手で押さえて苦しむ様子から、青年は|欠片《それ》が寅になんらかの影響を与えているのだと悟った。
「――さぁおいで、わたしの可愛い眷属たち」
 一層妖艶に微笑んだシュネー・リースリング(受付の可愛いお姉さん・h06135)が柔く唇を紡いだ途端、宙に現れた蝙蝠の群れが一斉に散開した。次々と電子の泡へと突進し、その威力を削ぎ生まれた活路を、スカートを翻しながらシュネーが軽やかに駆け抜けてゆく。
「君個人の境遇に憐憫はあるし、その意見になるもの理解できるわ。……でも、“防衛失敗”なんて結果論よ」
 護る相手を護りきれず、逆にその手で屠る――其処へと至る過程は様々あったとて、それそのものはありふれた話だ。それこそ、歴史を紐解けば枚挙に暇がないだろう。故に、|理解《・・》はする。が、攻撃の手を緩める理由にはなり得ない。
 一足飛びに肉薄すると同時、寅もまた、左手で一度引いた銀鎖を勢いのままに娘へと嗾ける。
 普段は明るく愛らしい事務員ながら、シュネーという吸血鬼は冷静さも兼ね備えていた。幾ら速度で勝ってはいても、鍛えられた肉体を持つ相手に短刀が与える威力なぞたかが知れている。死角となり易い右眼側から仕掛けられることも、寅ならば容易く察しているだろう。結果として、己が此処で倒れる可能性も少なくはない。
 それらを全て分かっていながら、シュネーは迷うことなく接敵直前で跳躍した。
「わたしは――√EDENを護るわ。ここで君を倒してね」
 此処にいるのは、独りではない。仲間たちと力を重ねれば、必ず勝機はある。
 裡に迸る吸血鬼の力を腕に集中させ、眼下にある敵右眼へ――|縊匣《くびりばこ》の欠片へと刃を一気に振り下ろす。確かに肉を抉る感触に、寅がたまらず短い悲鳴を漏らしながら蹌踉めいた。
「そりゃあ、ナイフひと突きで死んでくれるわけないよねぇ! ……ッ!」
 そのとき、一度は跳躍して躱した鎖が、弧を描きながら再び豪速で娘を襲った。その切っ先は、見知った獲物。まだ寅の眼窩に刺したままのシュネーの獲物を模したそれが、紫の眸へと深々と突き刺さる。瞬間、湧き上がる燃えるような激痛に、娘はそれでも漏れそうになった声をどうにか堪えた。すぐそばで鼻をつく血の匂い。生理的な瞬きや痙攣までは制御できるものでもなく、眼球が動くたびに更に苛烈を極める痛み。それでも、吸血鬼の娘は一層の笑みを浮かべる。
「素敵な一撃をいただいたのなら、わたしからもお返ししなきゃね……今回は大盤振る舞いよ!」
 相手の技が“複製”だからこそ、敢えてこの一手を選んだのだ。
 部位破壊ができなくても、わたしが有利。
 できれば――|EDEN《わたしたち》が有利になるわ。
「|縊匣の欠片《これ》が抜けたら楽でいいんだけど――」
 寅の絶叫が己が鼓膜に響くなか、娘は決して離さぬままでいた愛刀の柄へと更に力を注ぎ込む。その焼け跡すらも剥ぎ取らん勢いで残された肉ごと右眼を破壊すると、
「――|nochmal《ノッホマール》!」
 瞬時に側面から首輪のなくなった無防備な首元を一突きにし、即座に後方へと跳んで距離を取った。
「……まったく、無茶するわね」
「どっちに転んでも悪くない手だったでしょ?」
「まぁ、それはそうね。――なら、私もちょっとテクニカルに行こうかしら」
 どこか愉しげに微笑むと、ステラ・グラナート・ウェデマイヤー(|聖火竜の闘士《ケンプファー・フォン・デア・ハイリガーフォイアドラッヘ》・h00134)は左薬指の紅榴石へとひとつ口付けした。嫋やかに左手を差し出した途端、ステラへと襲い来る電子の泡目がけ、指輪から無数の|榴弾《グラナート》が解き放たれる。
(あの変な泡、もしかして√能力者だけを狙ってる……?)
 母や友人の闘う様子を見守りながら、ならばとアストリアはエルフの弓を構えた。|榴弾《グラナート》の爆煙のなか、眼を凝らして爆発を逃れた泡を瞬く間に矢で打ち抜いてゆく。
(隙があれば、あの寅も狙って援護したいところだけど……)
 距離が少し離れたここからは、混戦状態での敵を狙い撃つには厳しい。なによりも、彼女たちですら一筋縄ではいかない相手だ。万一、攻撃を向けられたとして、電磁警棒や弓を盾に受け流せれば上等だろう。それこそ接近戦にでもなったらそれらで抵抗するほかないが、複製されても致命傷にはならない武器であることは幸いか。
 息子の助力に気づき双眸を細めると、ステラは一瞬ながら真っ新となった戦場を、その美しく長い髪を靡かせながら疾駆した。ミスリルの燦めきを纏ったシャムシールを軽々と構え、向かい来る寅の銀鎖へと真っ向から挑む。
 ――命をかけて私たちを護ってくれた|夫《アスティ》を冒涜するかのような敵に、決して負けるわけにはいかない。
「さあ、剣でも鎖でも獲物はご自由に! どっからでもかかってきなさい!」
『グァアッ!!』
 一際大きく吼えた寅が、じゃらりと鎖を鳴らしながら鉄球もろとも振り回し始めた。遠心力と、なによりも覚醒させた厄災の力によってより加速した漆黒球が、ステラ目がけ一直線に放たれる。
 刹那、一瞬速く躰を翻し軽々とそれを躱したステラは、そのまま宙へと跳躍した。
 簡単な話だ。幾ら速度が速くなろうと、その基礎値は√能力よりは劣る。ならば、|紅榴石《グラナート》の加護で戦闘力が強化され、√能力で速度も威力も増せば良いだけのこと。|榴弾《グラナート》も、|寅《本人》への攻撃には用いていない以上、複製はできまい。
「あなたも子供を持ってみるといいわ。何としてでも護ろうって思えるから」
 揺るぎなき想いで紡ぎながら、想い描くはすぐ傍にいるであろう息子の姿。

 ――たとえ結果的に護りきれないかもしれなくても、護ることを諦めることは絶対にないわよ。

 華奢な腕からは想像もできぬほどの剛力と豪速で、宙を切りながら戦場を奔ってゆく銀鎖へと振り下ろされる刃。硬質な音が響くと同時、戦場を端々まで捉えるほどの長さの鎖が、途中から真っ二つに断たれていた。
「ふふ……これでお得意の遠距離攻撃が断たれたわね」
「流石、いつもながら見事な切れ味ね」
(やった……! やっぱりすごいや!)
 声をかけたシュネーへと口許を綻ばせるステラ。
 物陰からふたりを見届けていたアストリアもまた、眸を燦めかせながら強く拳を握りしめた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

空沢・黒曜
🗡️🩸
んー…普通に厄介でほっとく訳にもいかない位凶暴。
気合い入れて行くしかない、か。

√能力発動し負傷覚悟で切り込む。
振り回す鎖はガントレットや爪を合わせ逸らし隙を作り距離をつめていくよ。
周囲に漂う電子の泡は距離詰める前に配置を把握、マフラーのジャミングしつつ瓦礫などの遮蔽物を利用し可能な限り直撃を回避、敵との距離を詰める事優先で突っ込もう。
痛みはあるけどそれへの忌避感は欠落する感情、だから足を止めず進めるから。
一応可能なら即座の反撃でダメージは無効化したいね。欠片にツルハシ叩き込める位には体力残さないと。
…複製されても一度で壊れるし、回復も一回分。
さして意味はないよ。

※アドリブ絡み等お任せ

 純粋な暴力は、シンプルに云って厄介だ。
 |縊匣《くびりばこ》の欠片に操られている以上、まともな会話は望めない。とはいえ、会話が成り立ったとしても説得するにも骨が折れそうだが。
 故に、空沢・黒曜(輪る平坦な現在・h00050)は常と変わらぬ表情のまま、その双眸に揺るぎなき覚悟を灯して己が身を戦場へと投じた。闘わねばならぬ相手がいると識ってしまっては、放っておくこともできまい。だが、策もなく飛び出すような真似もしない。それが、優しさと冷静さを併せ持った、黒曜という男だった。
 遠方から寅の居場所へと駆け抜ける間、瞬時に視線を巡らせ、あらゆるものの位置関係を把握する。
 初めは郵便局の裏手にいた敵も、戦況の流れで今は局内の荷ほどき場まで移動していた。恐らく、この闘いが始まる直前まで、局員はいつものように此処で仕事をしていたのだろう。周囲に散乱しているカゴ台車がどれも空であることから、この時間帯の出荷は終えた処だったのはまだ幸いか。
 相応にあったであろう荷の代わりに在るのは、我がもの顔で浮遊している電子の泡の群れだった。新たに闘いに加わった存在へと、まるで人感センサーでもついているかのように忽ち飛来して来るのは厄介ではあったが、事前に分かっていれば対処は造作もない。棚引かせたマフラーから解き放たれるジャミングで妨害し、討ち漏らしたものは、その堅固な体格からは予想だにできぬ機敏さで以て、崩れ落ちた壁や柱を盾とし、足場としながら速やかに躱してゆく。
 泡の海を突破したと思った瞬間、視界の先から轟音を伴って鉄球が飛来した。想像よりも些か飛距離が短いように思い眼を凝らせば、なるほど鎖が途中で断たれている。遠距離主体であれば有利ではるが、生憎もっぱら己は近接戦を得意としている。とはいえ、つまりは想定通りの闘いになるだけだ。嘆くことでもあるまい。
(気合い入れて行くしかない、か)
 此処からが敵の間合いだと悟った黒曜が咄嗟に左手を構えると同時、頑強なガントレットと鉛玉が一際激しくぶつかり合い、けたたましく金属音が鳴り響いた。常日頃からダンジョンに赴き、財宝や温泉を求めてツルハシを振るってきたその腕力をもってしても、渾身の力で放たれた鉄の塊を受け止めきれない。踏ん張った両の脚でアスファルトを削りながら、黒曜は数メートル後方へと一気に押し出される。
 それでも間を置かず、黒曜は再び瞬時に飛び出した。まずは、手の裡に確と握りしめた獲物の間合いまで往かねば。
 未だガントレット越しに腕は痺れ、この先はこれとは比にもならぬ痛みが待ち受けているかもしれぬ。だが、どれほどの痛みであろうと、決して心は揺らがない。歓喜や感涙は失えど、戦慄や激昂もまた、今や男の脚を止める理由にはなり得ないのだから。
 再び集結し始めた電子の泡も、二度目ならば回避は容易い。逆に泡の群れに身を紛れさせながら間合いを詰めると、黒曜と寅、双方の視線が同時に交わった。互いが瞬時に獲物を構え、全力で振り抜く。ツルハシの切っ先が手応えを感じるより一拍速く、己が腹に激痛が走った。一瞬落とした視線の先、手にしているはずのツルハシと同じ刃が腰のベルトを砕き、深々と肉を穿っている。
 紛い物のそれが壊れた瞬間、溢れ出た緋色が瞬く間に戦場を濡らした。途中で切断されたであろう腸の一部が、ぱっくりと開いた肉の隙間から血の塊とともに毀れ落ちる。
 それでも、黒曜はその場から立ち退きはしなかった。何故なら、男の刃もまた、敵を捉えていたからだ。狙い通りに右眼を――|縊匣《くびりばこ》の欠片を穿ったまま、一瞬にして癒えた躰に漲る力にまかせてツルハシを振り抜く。
 寅は怒号めく絶叫を響かせながら、蹌踉めく足取りで数歩後ろへと下がった。一部刮げた欠片が、軽い音を立ててアスファルトへと落ちて霧散してゆく。
「全部とは行かなかったか……けど、少しは自我が戻ったんじゃない?」
『……小癪な、真似を……!』
「そっちが複製するなら、こっちはそれを逆手に取るだけだよ。――どのみち、お互いに効果は都度1回だけ。なら、さして意味はないでしょ?」
 ならば、あとは純粋な武力の勝負のみ。
 黒曜はいつもと変わらぬ声音でそう告げると、再び相棒たる万能|竜漿兵器《ツルハシ》を構えた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ツェイ・ユン・ルシャーガ
🗡️/🩸
努めひとつ果たせぬままに
ゆく末は……嗚呼、確かに
良う知る虚ろじゃの

狂気に染まった獣の速度なれば
初撃は到底避けられまいと踏んで
腹を決めれば寧ろ誘うように機を計る

一撃での致命傷だけは避けるべく
霊的防護による軽減に徹し
捕えられると同時に寅の腕に触れ
噴き上がる業火で焼き落とす
我が身迄炎に少々巻き込まれようとも構わぬさ
ふふ、予想超える範囲とあらば
いくらか不意も突けようか

――毒を喰らわば、とな
襲い来るだろう複製による報復の鎖は
受けた箇所を其の侭代償とし、瞬時に焼却
枷ならば今は不要、再行動への布石へと
は、痩せ我慢ならば慣れたものよ

あかい視界と動かせる掌に喚び出すは
霊力を上乗せした雷鎗
崩れ去る鎖がうち棄てられるより
腕が伸ばされるより速く
己が体ごと貫き通し内部より焼き焦がす
此れを模倣したいとは思うまい?

埋まらぬ虚ろは本当に|空《から》か
終えられぬ生が苦痛なれば
それこそが、喪ったものが未だ
其処に住まう証左であろうなあ、寅よ

 かつて書状と荷が整然と積まれたであろう荷運び場は、いまや粉塵と鉄臭が渦巻く戦場の底に成り下がっていた。搬入口のシャッターは半ば抉れ、郵便荷台は歪み、荷札の番号だけが惨劇を記録し続けている。
 その中心に、寅は居た。黒鉄の枷から解放されながら、尚も見えぬ鎖に縛られたままの男が居た。
 一時訪れた静寂のなかに、左腕のみで血縛鎖を繰るその音が響く。銀の輪ひとつひとつが擦れ合い、乾いた金属音が跳ねるたびに鼓膜を震わす。
(努めひとつ果たせぬままに、ゆく末は……嗚呼、確かに)
 それは、幾度も見たことのある虚ろであった。一筋のひかりも抱かぬ昏き双眸。その右側に刺さる縊匣の欠片だけが、呼吸の代わりに喪失の疼きを、欠損ではなく永劫の刺痛を与え続けている。
 鎖が落ちた。床が割れ、荷台が悲鳴のような軋みをあげた瞬間、寅は既にその場に居なかった。だが、ツェイ・ユン・ルシャーガ(御伽騙・h00224)は常と変わらぬ淡い笑みを湛えながら、寧ろ誘うような足取りを刻む。
 両の手を血に染めた気狂いの獣ならば、速度で敵うはずもあるまい。なれば初手は甘受しよう。そう腹を括れば、不思議と心は清かなものだ。あれほどあった距離を一瞬にして詰める寅。視線は重なれど意志の見えぬその貌を前に、凛と冴え渡る脳が活路を探る。防御仕切れるとは思ってはいやしないが、ツェイは裡なる霊力を幾重にも躰に纏わせながら、必ず来るであろう好機を窺う。
 寅の左腕がひとたび大きく振りかぶり、撓った銀鎖が忽ちツェイの胴を拘束した。為す術もなく一気に引き寄せられたツェイの、その口端が微かに緩む。
 白磁の指先が寅の腕鎖へ触れた刹那、
白群の焔が火片を散らしながら肉を撓ませる爆花へ変じた。忽ち鼻をついた鉄の匂いは、寅の鎖を焼くそれか、はたまた己が身までも喰らわんとする炎が炙る血の香か。我が術ながら予想を超えるほどの威力だが、それはそれで好都合。幾らかの不意が突けるのならば、腕ひとつ爛れるくらいは安いものだ。
 寅が腕に纏う革と血肉の繋ぎ目が、咲くように破裂した。白き骨を露わにしながら、迸る朧な業火はその左胸まで至ると、毛皮に焦げた脂を落とし灰混じりの獣臭を充満させる。
 だが、寅は呻かない。代わりに、黙殺という名の殺気を振り上げた。血塗れの鎖がうねる。否――狙う。
 鎖の先端がツェイの腹部を穿った。潰されながら裂かれた皮膚は忽ち薔薇衣と化し、鮮血が荷物用リフトの段差へと流れて血溜まりを作る。亀裂とともに破裂した腹から、血を引きながら内蔵や肉塊が剥がれ落ちるや否や、未だ穿たれたままの鎖へと螺旋を描くように湧き上がる黒焔が、ツェイの裡からその身を焼いてゆく。
(――毒を喰らわば、とな)
 枷なぞ、今この一時は要らぬもの。痩せ我慢ならば慣れたものよ、と自嘲気味に薄い笑み声が漏れる。報復の焔を瞬時に払ったツェイは、即座に霊獣の雷を練り上げ纏わせた。防御へと回していた霊力をも右腕に集約し、その掌に雷鎗を喚ぶ。
 床に散った自らの血を踏み、
足裏に熱を吸わせながらツェイは跳躍した。視界は血色に染まり、四肢に力も行き届かぬ。なれど、針が如き鎗は、獲物を縫い留めるための閃線。一瞬にして寅の間合いへと入ったツェイは、己が躰ごと雷を放った。
「此れを模倣したいとは思うまい?」
 胸郭へと奔った雷鎗が、皮膚を焦がすではなく裡から肉を炙り、骨を灰にし、見る間に筋束を断ってゆく。堪らず片膝をついた寅が、項垂れながら声を漏らす。
『……ま、だ……終わ……らぬ……』
 懺悔を。悔恨を。それに塗れたこの命を。
 護れなかった兎の幻影を、
鎖の重さでしか繋ぎ止められない自罰の帝へと、白群の青年は裂けた腹部を指先でなぞりながら視線を向ける。
「終えられぬ生が苦痛なれば……それこそが、喪ったものが未だ其処に住まう証左であろうなあ、寅よ」

 未だ埋まらぬ昏き虚ろ。
 その裡には、確かな焔が燻っていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

御埜森・華夜
🗡️🩸
マジか

泡めっちゃ邪魔くさいってか付いてきてない?えっ?メンヘラ系ストーカーバブルなの?
マジかぁ…

…こゆときはアレか(息を吸って

助けて白ちゃーーーーん!!√神仏白露
えっ、だってなんかカイくんが白ちゃん呼べって(※Ankerが有利)言ってたから…
俺悪くないもん!でも困ってるもん!白ちゃん、困ったら言えっていつも言うじゃん!(ドヤ

まぁ大丈夫
白ちゃん見ててね、俺がそこそこそれなりにちゃーんと頑張ってるってところ!いい?!絶対だかんね!

なんて言ったけど、とりあえず本当にどうしよう
困ったな、接近戦は苦手なんだ…けど、今は逃げちゃダメ
さぁて、白露の√のタイミングなんて見なくても分かる
俺はそれに乗って飛び込むだけ
間合いってのは至近距離が一番弱い

アイツは何だかとっても苦しそう
だから少しくらい楽にしてやりたいと思うんだよね…
ちょっとくらいってか—…俺、痛くたって何も分かんないし(欠落
多少は白ちゃんに怒られない程度には気をつけるけどー…しょうがないよねぇ?
怒られたら、怖いけど…まぁしゃーなし!

「うわわわわマジか……!」
 敵影を追い、既に日常を失って久しい広い荷運び場へと躍り出た御埜森・華夜(雲海を歩む影・h02371)は、忽ち現れた電子の泡の歓迎から逃れんと戦場を疾駆する。常はどちらかと云えば長閑な雰囲気を纏う華夜ではあったが、いまこの場での足取りは戰人の如き軽やかさだった。本を嗜む者なればこそ、己が身体能力なぞ、浩瀚なる古書より得た無尽の叡智で以て引き上げるなぞ容易いこと。とは云え、唯逃げ回ってばかりでも居られない。
「泡めっちゃ邪魔くさいってか付いてきてない? えっ? メンヘラ系ストーカーバブルなの?」
 息切れひとつ起こさぬまま、「マジかぁ……」と今一度嘆息を漏らす。ふと見遣れば、泡の群れの奥には相応の負傷を負った寅の姿。|縊匣《くびりばこ》の欠片に囚われ、猛獣と化した強敵を此処まで追い詰めた仲間たちを思えば、此の侭逃げ回っているばかりにもいかぬだろう。
 一歩、力強く踏み込んで高く跳ぶと、柱と棚の入り組んだ区域へと身を滑らした。「……こゆときはアレか」と、意を決して深く息を肺腑へと送る。

「助けて白ちゃ――――――――ん!!」
「ちょっと待てなんだこの√能力は!!!!」

 何処へ行ったのかと探して街へと繰り出していた矢先、突如転移させられ召喚された汀羽・白露(きみだけの御伽噺・h05354)は、視界に飛び込んできた華夜に気づくや否や柳眉を釣り上げた。
「えっ、だってなんかカイくんが|Ankerなら効果倍増《白ちゃん呼べ》って言ってたから……」
「だからっていきなり召喚する奴があるか! というかこんな√能力覚えたなら前もって云っておけ!」
「俺悪くないもん! でも困ってるもん! 白ちゃん、困ったら言えっていつも言うじゃん!」
「ぐっ……それはそうだが……って、なんだそのドヤ顔は――と悠長に話している場合でもなさそうだな」
 瞬時に状況を悟ると、白露はすかさず裡なる霊気で防御膜を張りながら、腰許の愛銃へと手を掛けた。硝子越しの眸が、僅かに動く。
「……かや、きみは一体――」
「まぁ大丈夫。――白ちゃん見ててね、俺がそこそこそれなりにちゃーんと頑張ってるってところ! いい?! 絶対だかんね!」
「そこそこそれなりって、なんだそれは……全く、仕方のない奴だ」
 白露の返しも聞かずに駆け出した華夜の背へと嘆息しながら、白露は己が役割を悟った。彼を妨害せんとする泡の群れへと、すかさず生み出した無数の詩文による燦雨を降り注ぐ。電子の泡を弾き、飛沫めく光片が荷運び場に散るなかを、華夜は更に加速する。
(困ったな、接近戦は苦手なんだ……けど、今は逃げちゃダメ)
 僅かに眉を寄せながら、華夜は己を鼓舞しながら崩れたラックの影を抜ける。狙うは、敵の間合い。その更に奥。白露に怒られぬ程度の配慮はすれど、闘いの場となれば万が一も止む無しだろう。
(痛くたって、何も分かんないし……。怒られたら、そっちは怖いけど……まぁしゃーなし!)
 こちらが最も有利となる一手のため、華夜は死角を駆け抜けた。間合いを縮めた瞬間、視線の先で背を向けていたはずの寅と視線が交わる。
「ヤバっ……!」
「かや!」
 名を呼ぶ響きだけで、裡が震える。力強く湧き上がる熱に、躰が突き動かされる。白露の判断も、タイミングも、すべては見なくとも分かる。思考を巡らせるまでもない。同時に、こちらへと猛攻する寅の姿を確りと捉えた。
 刹那、寅の隻腕が断頭台の如く跳ね上がり、血縛鎖が縫うように走った。避けるよりも前に、視界が白に弾け――肉が裂けた。
「……っ」
 肩から腰にかけ斜めに走った爪痕は、皮膚を紙の頁のように捲りあげ、その下にある肉束と管が赤黒い文字列のように露わとなる。呻きはしない。痛みを失くした男は、ただ己の臓腑が外気に触れ、温度を失っていく感覚だけに浸食されてゆく。
「華夜!!」
 白露の叫びがこだました。腰の愛銃を抜く音は鋭く、銃口は迷いなく寅の胸へと向けられる。だが、引き金は落ちない。昂ぶる感情を強引に抑え込み、一度深く呼吸をする。見ていてと云われた。ならば、見届けねばならぬ。そのために成すべきことは、唯ひとつ。
 改めて装填された弔弾が、間髪を容れずに放たれた。銀の薬莢が宙に舞い、アスファルトへと連弾を響かせる。一直線に敵前へと奔る白光は、相対するふたりの間に着弾したかと思えば、忽ち白銀の霧で視界を染め上げる。
 それは、華夜だけに分かる合図であった。
 忽ち引いていく傷の疼きに気づきながら、右眼に掌を当て藻掻き苦しむ寅へと一気に迫る。その裡に淀んだまま、拭い去れぬなにか。それをすべて把握することはできずとも、耐えがたい苦しみに苛まれる姿を、唯々その透明な眸に映す。
「……少しくらい、楽にしてやりたいんだ」
 華夜の指先に、懐栞がかかる。刃ではない。頁を閉じるための、それは静かな栞の鋏だった。骨肉よりも、寅がなお抱え続ける痛みを断ち切らんと、その防御もろとも強かに穿つ。筋を断ち、肉を削ぎ、骨を砕く感触が腕へと伝わる。
 陽炎のように、寅の躰が大きく揺れた。数歩後ずさりながら、それでも未だ戦場に仁王立つ。
「――帰ったら説教だからな」
「えっ、」
 気づけば己を支えるように傍らに立つ白露へと、華夜もまた反射的に貌を向ける。
 物語の終章は、すぐ其処まで迫っていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ゾーイ・コールドムーン
🗡️
普段の彼を知らないけど、欠片に狂わされている現状は本意ではないだろう
周囲の被害の事もある、どうにか解決したいね

まずは泡に対処しよう。√能力者を迎撃する物なのに、相手に反応しないという事は縊匣の制御下なのかな
ともあれ使い魔達を喚び、邪視で泡を破っていく。使い魔にダメージが無いなら体当たりさせても良い
泡が減るまでは漆黒球を短刀で【武器受け】したり、纏う世界の歪みも活用して【受け流し】ていく
相手が速度を倍増させているなら受け重視、腕力なら流す事を重視
器用さなら絡め取られないよう、使い魔の視界も借りて鎖の軌道を【見切り】致命的なものは回避したい

他人事じゃない境遇の可能性があるという私情もあるけど、少しでも動きが鈍る事に賭けて軽く声を掛けていこう
きみは何の為に戦っているんだい?
何か想いはあるんだろう。それは王劍に塗り潰させて良いものじゃない筈だ
泡の無い道が拓けたら纏霊呪刃を使用、上昇した速度で一気に近付き【呪詛】の刃を振るう
邪魔をしてくるなら先に武器や腕を【切断】して、右眼の中の欠片を狙うよ

 荷ほどき場に滞留した白銀の霧は、なお戦場の輪郭を柔らかく縁どっていた。灯りは崩れ、壁面は軋み、金属と血の匂いが入り混じるその只中に、ゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)が音無く歩み入る。
 寅が眼前に居ようと、狂気と破壊の余韻に濡れた鉄臭が満ちようと、ただ男は微笑みを湛えていた。嘗ての彼を知る由もない。だが、幾ら護るべき者をその手に掛けたとて、|縊匣《くびりばこ》の欠片に操られ、狂わされることを望んだわけではないだろう。
 彼の右眼に刺さる半壊した欠片は、どこか霜解けのような鈍い光を放っていた。それを一瞥してから、男が指を弾く。途端、魔力のうねりから生じた翼持つ眼球の使い魔たちが現れ、戦場に旋回する。
 立場は違えど、敵も己も√能力者には変わりない。だが、一方的に|EDEN《此方》だけを攻撃するというならば、電子の泡も縊匣の制御下に在るのやもしれぬ。周辺の被害をも鑑みれば、手間取っている時間も惜しい。金の双眸を淡く細めながらゾーイが答えに至る間に、使い魔たる眼球の群れから邪視が放たれ、光にも似た音なき審問が電子泡を飲み込んだ。
 弔霧も、血も、悔恨すらも遮らず、ただ拓かれた路を男は疾駆する。同じ厄災同士ならば、互いの手の内なぞ容易く読めるだろう。なんら臆することもない。だからこそ、躊躇わず懐へと飛び込んだゾーイは、寅の繰り出す重力をも纏った鉄球を、躰を反転させながら刃で横へと流した。
「きみは……何の為に戦っているんだい?」
 揺さぶりでも、尋問でもない。それは、純粋な問いかけに他ならなかった。未だ昏きを祓いきれぬ寅の視線が、僅かに揺れる。
『うる……さい……! くだらん、ことを……!』
 再び猛攻に転じた寅の動きに合わせ、ゾーイは無駄のない動きで躱していく。自己強化が速度ならば受け止め、器用さならば鎖の餌食とならぬよう、その軌道を見極める。どれほどに寅が足掻こうと、戦場を無数に浮遊する使い魔の視界をも借りられるゾーイが優勢に変わりはない。
「きみにも何か想いはあるんだろう。それは、王劍に塗り潰させて良いものじゃない筈だ」
『ウガァッ……!!』
 動揺を露わにした寅へと眸を窄めると、男は反撃の機を窺いながら思考を巡らせた。矢張り、欠片が半分落ちたことで自我が戻り始めているようだ。同族同士、他人事ではない境遇の可能性もあるという私情もあるが、それが勝機に繋がるならば試さぬ手はない。
 一手打つごとに、問いかけを重ねる。埋もれてしまった想いを、声を引き出さんと、言葉で以てその裡へと踏み込んでゆく。
 その先になにが在るのか。それを見つけるのはゾーイではなく、寅自身だ。
 半ば自棄となったのか、無策に思える軌道で銀鎖を振りかざした寅を見据えたゾーイは、今一度、遙かなる力を宿す死霊をその身に纏った。柔らかな金の瞳が、冷えた戦火のなかで灯火のように瞬く。
「手助けはするよ。――あとは、自分の口で紡いでごらん」
 浅く息を整えると、一度取った間合いを再び瞬時に詰めた。寅が動くよりも一拍速く、呪詛の刃を鋭く繰り出す。鉄球や鎖ではなく、狙うは縊匣そのもの。
 窪んだ眼窩に突き立てた刃が、硬質な石へと当たる感触を響かせた。それと同時、寅から放たれた咆吼が戦場の空気を震撼させる。

 罅が入った矢先。
 軽い音を立てながら、残る|縊匣《くびりばこ》の欠片も一瞬にして砕け散った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

雨夜・氷月
🗡️🩸

己の行動も存在も理由がわからなくて
それすらも分からなくなって――可哀想に
前なら気にも留めなかっただろうけど
今は何だか壊してあげたい気分

月牙痕を寅へ贈り
早業で切り込み銀片で切断
幻影使いで己の姿を惑わせ
夜の捕縛で寅の自由を奪う

正面からは屹度力負けするから
手札の数でもって選択肢を押し付けよう
電子の泡の攻撃は夜で受け阻むよう心がけ
難しければ寅対象を優先

正面からだけだと思った?なんて笑いながら
遊撃するように舞う雨花幻の炎を咲かせて焼却
時に銀片に月光纏わせ傷を与える

基本は被弾しないように立ち回れど
効果的なら肉を切らせて骨を断つ

全部斬って壊そう
其処に誰の救いも無くとも
一つ、区切りはつくと信じて

「へえ……佳い貌になったねえ」
 引き摺り出された狂気をその身に映したかのような寅の風貌に、そう声を掛けた雨夜・氷月(壊月・h00493)は愉悦を浮かべた。右腕は墜ち、左腕もまた抉られ、焼け爛れた胸許は皮膚が捲れ、肉のいろまでもが露わになっている。
 だが、男の纏っていた暴力的なまでの激情はなりを潜めていた。直ぐさま右眼にあったはずの|縊匣《くびりばこ》の欠片が消えていることに気づき、氷月は無言で得心し――そして笑みを深める。
 欠片から解放されたからとて、手放しで喜ぶような|善人《ヒト》ではない。現に、未だ寅の|眼《まなこ》は昏いままだった。欠片は謂わば、唯の引き金に過ぎぬ。己が信念も、行動も、存在も、すべての意味を失った男が、失ったことすら分からぬまま荒れ狂っていたか、理解しながら生きながらに狂っているかの違いだけだ。
 嗚呼、可哀想に。その純粋で喜劇のような憐憫が氷月の裡を満たす。これまでならば気にも留めやしなかったであろう存在に想いを抱くとは、知らずと人の世に浸りすぎた所為か。とは云え、今更理由なぞどうでも良かった。闘いに理由をつけたがるのは、それこそ“人らしさ”というものだ。殺したければ殺す。それが心躍るひとときならば、尚一層良し。氷月にとっては、それだけで十分だった。
 鼻先に触れる、肉と血と鉄の焦げた匂いに浮き足立ちながら、軽やかにステップを踏んだ氷月は一度強く踏み込んだ。
「中途半端は良くないよねえ……すぐに壊してあげるよ」
 恍惚めく若月の視線を寅へと向けるや否や、戦場となった荷ほどき場の隅に崩れ落ちていた緋色のハンドパレットトラック――荷物を持ち上げ運ぶ手動フォークリフト――が、一瞬にして宙に浮遊した。さしずめ寅の獲物たる鉄球よりも数倍の重さを持つであろうそれが、双矛の如き鋭利な先端でもって寅を襲い、躰ごと血肉を抉り取る。
『ガァァッ!!!』
 堪らず悲鳴を上げたその隙に、氷月は一足飛びに肉薄した。軽率に真っ向勝負なぞすれば、押し負けるのは明白。ならば搦め手が道理だろう。まとわりつくような電子の泡は蠢く闇に喰らわせながら、ハンドパレットトラックを放り直ぐさま氷月へと対峙した寅の眼前で、幾つもの己が幻影を見せつける。
『……邪魔を、するな……!』
 咄嗟に、寅が至近距離から血縛鎖を振り払う。純粋な生存反射だからこその強打が、氷月の脇腹を正確に、無慈悲に穿つ。
 肋骨が軋む間もなく粉砕された。皮膚が剥離し、熱い臓色を滲ませた肺が露わとなる。一瞬息が継げず、踏鞴を踏みながら胸を押さえる。指の間を伝った昏き赤が、糸を引き、布を染め、氷月の蒼衣を夜より深い紅へと染め上げる。
 それでも、氷月の貌から笑みは消えぬ。これで好機が得られるのなら、肉でも骨でもくれてやる。厄災の力で速さの増した寅の動きを掻い潜り、手にした銀刃の一閃が迸る。
『甘い……! ――ッ!?』
「なあんて。んっふふ、正面からだけだと思った?」
 己の裂傷に指を当て、そのまま払った血に紛れた紫陽花の花弁は、忽ち焔の花となって寅の死角から降り注いだ。同時に、泡をすべて喰らい尽くした夜闇が、次の獲物たる寅を拘束する。その手から鎖がすり抜け、漆黒球が質量を孕む音とともにアスファルトへと落ちる。
 氷月は極上の笑みを湛えながら、寅の眼前へと刃を向けた。
『……俺は、死ぬのか』
「ん? そうだよ。|もう良いでしょ《・・・・・・・》?」
 寅の喉が、微かに震える。ただ僅かに開いた唇から漏れた息が、響くことのない嗚咽となって床に落ちる。
 全部、全部、なにもかも。斬って壊してしまえばいい。
 たとえ救われる誰彼がなくとも――ひとつの区切りにはなるはずだから。
 月影を纏った愛刀が、虚ろに項垂れる寅の首を鋭く断ち切った。刃を伝い、指先を染めた血に混じるぬくもりの名残に、瞼を柔く閉じながら氷月は薄く笑みを刻む。

 再び訪れた静寂に、柔らかな風が舞い込んだ。薄らぎ消える、血臭と戦痕。塵と化した寅の亡骸が、霧散してゆく。
 そうしてまた、EDEN等は日常に帰る。
 ――ただ聲なき慟哭だけを、其処に残して。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

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