シナリオ

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今日の残花も昨日は蕾

#√仙術サイバー #第二章受付:5/16(土)8:31~

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 #√仙術サイバー
 #第二章受付:5/16(土)8:31~

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 ――だから、瞬きの間に過ぎてしまう春を少しでも留めておきたいと願うのは、傲慢なことだろうか。

●春雨
「ハァ、ここまで来れば大丈夫だよな……?」
 裏路地に飛び込んだ青年は用心深く辺りを見回し、物陰に人影がないことを確認する。詰めていた息をようやく吐くと、微かに血の味が滲んだ。
 ふと頭上を見上げれば、犇めき合う建物の隙間に僅か顔を覗かせる空から雨がさあさあと幽かな音を立てて地面を濡らしていた。白い糸のように細やかな雨粒。けれど春の花はこんな雨にだってすぐ散らされてしまうのだろう。それも最下層の、殊更弱い花達であれば。
 雨が顔を濡らすのも構わず、青年は空を仰ぐ。服の上からぎゅっと握りしめた筒だけが、ただしく彼にとっての一縷の望みだった。
 一体どこから噂が流れてきたのだか。さる高名な仙人が遺した秘伝の書物。そこには「常世の春を保つ術」が書かれているのだという。そしてそれを有する富裕層の重鎮が、とある大規模な花の宴に参加するのだと。
 目を閉じれば今も瞼裏に残る嫋やかな花の色。天女の羽衣もきっと同じ色をしているのだろう、透かした花弁から漂う馨しい香り。目的を持って忍び込んだ彼ですらつい惹かれてしまうような美酒や茶の数々に豪勢な食事。
 常世の春とはああも華やかなものなのだろうか。最下層の住人は乾いた土を食うばかり。ひとつの花すら満足に咲かせることが出来ないというのに。
「でもこれを持ち帰れば、俺だって……」
 青年は拳を握り締める。高名な仙人が書いた秘術と言うなら、さぞかし強力な術が眠っているに違いない。宴に乗じて書を盗み出せたのは幸運だった。狙いの人物は余程酒に酔っていたのか、今のところは誰にも見つかっていない。このまま降り切って住処まで逃げ切ることが出来れば。書を読み解くことが出来れば。
「そうすれば、皆のことも守れるはずだ」
 武強主義。この地に根付く思想は弱者を決して守ってくれやしない。咲けない花は散らされるだけ。過ぎ行く春をただ見送るのは、もう耐えられなかった。
 青年は再び走り出す。けれど追手は影に紛れて、すぐそこまで来ていた。

●春を惜しまずに
「最近行けるようになった積層都市、もう行ってみた?」
 見かけたあなたに笑いかけながら、花牟礼・まほろ(春とまぼろし・h01075)は朗らかに話し始める。
「たくさん階層があるんだよね。その東京Ⅴ層でお花見があるんだって!」
 杏に梨。桜はもちろん桃の花。牡丹に沈丁花、菜の花まで。上に下に、その宴会では様々な種類の春の花が咲き誇り、その様はまるでこの世の物とは思えない美しさを誇るのだという。花咲く地に直接敷物を広げて花見酒を楽しむのも良し、近場の茶寮のテラスで下の賑わいを眺めながら、優雅に茶を啜るのも良し。
 桜の花びらを共に浮かせた湯圓は、中にも桜餡が入って春の味わい。杏仁豆腐は口の中で蕩けるほどに柔らかく、一口入ると共に上品に杏が香る。
 酒の肴に春餅と呼ばれる軽食の餅も良いだろう。薄いクレープ生地に肉味噌を乗せ、春野菜を口いっぱいに頬張ればこの先も健康に過ごせるのだという。伝統の点心もさまざまな色や形で客を楽しませてくれるだろう。箸で割れば熱いスープが湯気と共にたっぷりと零れだす。
「まほろのオススメはお湯を注ぐと花が咲く工芸茶かな? そこに咲いている花を摘み取って作ったお茶なんだって。絶対きれいだよね!」
 しかし、華やかな宴会の裏ではひとつ、小さなトラブルがあるのだという。
「そのお花見に来るお客さんが持ってる秘伝の書を盗んじゃう人がいるんだって。犯人は決して悪い人じゃなくて、最下層にいる家族を守りたくて、なんとか強い仙術を手に入れたい! ってだけみたいなんだけど……」
 少女は眉を下げる。
「実はその巻物、強い仙術が書いてある訳じゃないみたい。常世の春を保つ術は、その呼び名の通り、ただ花を長く咲かせるだけの魔法なんだよね」
 その仙術の成果はご覧の通り。けれど、書物に縋る犯人の青年がそれを簡単に信じるのは難しいだろうと少女は語る。
「だからちょっと危険なんだけど……あえて盗むところまではやらせてあげて、追手が来て危ないところを颯爽とみんなが助けるのがいいと思う。そうしたら、話は聞いてくれるかも」
 望んだものでなかったとしても、懸ける思いがあるのかもしれない。書物をそのまま青年に譲るか、それとも返してもらうかは集まった人々で判断しても大丈夫そうだと少女は頷く。
「みんなで納得のいく形で春を迎えて、それから見送っていければいいよね。春が過ぎるのはあっという間だけど、残らないものがないわけじゃないから」
 少女はそう締めくくると、殊更明るい笑顔を浮かべた。
「ともかく、まずはみんなも春を楽しんで。いってらっしゃい!」
これまでのお話

第2章 集団戦 『玩偶服団』


POW 「俺の本当の姿を見せてやろう」
「攻撃を宣言し・防具を脱ぎ・敵の攻撃を弾いた後・正面から・【ハイパワーモードの頭突き】で近接攻撃する」場合のみ、与えるダメージが8倍になる。
SPD 「重ね着した俺に死角はない」
【着ぐるみの上に別の着ぐるみ】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【ハイスピードモードの頭突き】」が使用可能になる。
WIZ 「怖いか? 可愛さ5割増しになったこの俺が……」
自身の【着ぐるみ】を【淡紅色】に輝く【ハイチャームモード】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
イラスト 安子
√仙術サイバー 普通11

甘い土の匂いがして、見上げてみればさあさあと囁くような雨が降っていた。
火照った頬を冷やすには丁度良い雨だ。
青年は堪えていた息を吐き出し、辺りを慎重にうかがった。懐の感触を確かめる。細く固い芯の感触。たしかに、奪い取った"希望"は此処に在った。

花宴の歓声は程遠く、暗い空から降る雨で視界は煙る。
けれどすべて、青年にとっては都合がよかった。
こうして闇に紛れてしまえば、追手も来ないだろう。

──こうして簡単に奪えてしまえる"希望"なら、最初から。

青年はキッと前方の闇を睨み、再び下層へと駆け出す。
しかし、青年の見立ては甘かった。
運命は、或いはこの都市の上層を担う意志はそう簡単に革命なぞ許さない。

青年の背後には、既に数多の影が迫っていた。
見た目に騙されてはならない。
彼らもまた、武侠主義をうたうこの積層都市で、生き抜いてきているのだから。