❖第六十九夜❖
窓硝子越しに、雪がしんしんと降り続けるのが見える。外は白一色の世界。客足は期待できそうにないが、
扉の鍵はいつもの時間に開けた。
掃除を済ませ、棚に並んだ古道具を点検した後、
薄く香を焚けば、雪の冷たさをどこか和らげる匂いがした。
カウンターに腰かけ、古い手帳を開いてみる。
過去にこの店を訪れた人たちの忘れ形見とも言える、
幾つかの書き込みがある。
次はいつ来てくれるだろう。
あるいは、新しい誰かが書き込んでくれるだろうか。
このところは寒くて、客足がめっきり途絶えたものだから
新しい書き込みは減ってしまった。
窓の外では、雪の舞いがさらに激しくなる様子。
人通りもほとんど途絶えているが、何故か妙に胸騒ぎがする。
静寂と共にしばらく過ごしていると、
ふいに扉が押され、カラン…と控えめな音が鳴る。
そちらに目を向けると、見知らぬあなたが立っていた。
手帳を閉じて、穏やかないつもの微笑と、いつもの台詞で出迎える。
「いらっしゃいませ、お客様。夢架堂へ、ようこそ」
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お話が好きな方なら、どなたでも
返事が途絶えてから10日ほどで〆

いらっしゃいませ、お客様。夢架堂へ、ようこそ。寒くはなかったですか?よかったら奥までどうぞ、こちらは暖かいですよ。(カウンターに置いた手帳の代わりに、手元の湯飲みに軽く指を添えながら、世間話をするように穏やかに言葉を続ける)
ここは初めてですか? 古いものしかありませんけど、よかったらゆっくり見ていってください。あ、それとも、暖をとりに?お茶で良ければお出ししますけど。(「どうします?」と、訪れた客人に次々と問いを投げ掛ける)
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(開いた扉の先には姿は無かった。何かに積もったのであろう雪が宙に浮いている、勘がいいか見るスキルがあれば分かるだろう、つまり目の前にある存在は透明なのだと)
…これは意味が無いですね。失礼します、姿を現しますが驚かないでいただければと思います。
(低い機械音が鳴ると現れたのは約2m、人型の黒い機械だった)
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妖や鬼、神もいるこの世、機械のお客様でもおどろいたりはしませんよ。どんなお客様であれ、良いお客様なら大歓迎です。(聞きなれない音を聞きながら湯飲みを傾けて、姿を現した大きな機械のあなたに会釈をひとつ)あ……でも、お茶とか、嗜みます? 機械の方の好みとか、どういったものを嗜むのかは疎くて。油……は古典的すぎますよね。多分。(身体に積もった雪を客人が払えるように、自分の手拭を静かに差し出した)
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(手拭を受けとり少しの躊躇いが見えた後それを使って静かに雪を落とした)
感謝を、店主さん。驚かれないという事は良い迷い方をしたのかもしれません。人の方と摂取の方法は違いますがお茶、いただいてもよろしいですか?…ここは古書店なのでしょうか
(手拭を簡単に畳み差し出した、目というべきカメラは静かに縮小を繰り返し周りを見回している様だった)
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もしかして、道に迷っちゃいました?(「お茶、すぐに淹れますね」と澱みなくお茶を客人用の湯飲みに淹れて。熱いことを示すように、湯気が立ち昇っている)はい、どうぞ。熱いので、お気をつけて。
……うーん、何の店って言われると難しいんですけどね……。古書店? 骨董品店? そんな感じです。いろいろです、いろいろ。(「適当でしょう?」と微笑して)お客様の中には、何も買わずにただ見学して帰る人もいますし……。あとは――そう、物語を買い取ってます。それくらいかな。(自分の湯飲みにまた指を添えて、少し冷ますように湯飲みを廻す)
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(湯呑みを受け取る)
ありがとうございます。
ええ、先ほどまで別の書店で働いていました。帰ろうと扉を開き気づけば雪の中でしたので迷い込んだ、が正しいかと。
そして物語の買取……ですか。(言葉の意味を捉えようとしている、ウォーゾーンの知識で考えるのならそれはあまり良い意味では無い様に思える。記憶の改竄、盗み見、そして自分がやられた様な人格の植え付け。……しかしそれはここでは違う。余計な演算結果を電脳の|トラッシュゾーン《ゴミ箱》に移動させた。)
……買取の意味を尋ねてもよろしいでしょうか?
(湯呑みの中の茶はいつの間にか少し減っている。ベルセルクマシンの融合能力を茶にだけ適用していた)
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雪道、危ないですからね。雪が静まるまでゆっくりしていってください。半刻もあれば、きっと降り止みます。(「多分ですけどね」と、止む根拠はないらしい。そして言葉の意味を探るような素振りに笑みを深めて)深い意味は無いんです。そのままの意味で、どんな物語であれ、売っていただけるなら買い取ります。日常話でも、冒険譚でも、どんな人でも一つ二つは、物語を持っているもの。お客様が働いてる書店での出来事だって、物語のひとつと言えなくもないかも。……あ、でも、物語にわたしが貴賤をつけたくはないので、物語ひとつにつき、ここにある品をひとつ、持っていってください。(お茶を飲む様子に、器用だなと思いながら、滔々と語って)
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なるほど、住んでる方が言うのなら雪が落ち着くまで失礼いたします。
ではお礼として一つお話を売らせていただきましょうか。
(今まで読んだ本の内容ログに検索をかける。作り話をするべきだろう。人に生まれる物語、それを自分は所有していない。友好AIは人を楽しませるべきだという判断を下している。)
では、(知っている物語のパッチワークを自身の話として|語ろう《騙ろう》とする)
──握りしめた湯呑みの温かさが何かをずらした。
あまり、中身のある話ではないですがワタシの生まれを話してもよろしいでしょうか?
それは想定外の発言だった。
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どんな話であっても。売っていただけるなら買い取りますよ。(湯呑みを傾けて、目線は興味を示すように客人に向けて)生い立ちの話。……聞いていいのなら、喜んで。機械の方がどう生まれて、どう育って、どうやってここに至ったのか、わたしは知らないので。気になります。
……でも、生い立ちとなると、高値になりそうかな。ね、ほしいものとかって、あります?ここにあるものでも、ないものでも。(思案を巡らせて。この客人が喜びそうなものはなんだろうと考えてみるも、答えはなかなか得られない。頭をひねる)
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なるほど。(事前に報酬を決めておく、この店主は雰囲気から予想されるよりしっかりと商売をしているのかもしれない)
断っておきたいのですが、自分の話は事実として短くそして物語と言えるものがあるのかすら怪しいものです。なのでそれほど高価とは言えないと考えます。
──ですが、おそらくその様な考え方を店主様はしない。と予測します。ですので契約としてはメモ帳かペン、それに類するものを一つ頂ければと思います。これは今自分にとって必要なものであり、ワタシとしては高価と言い換えられるものです。如何でしょうか?
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物語に貴賤をつけたくはない、とは言ったんですけど。でも、誰かにとってありふれていて、無価値のような物語でも、誰かにとっては価値ある物語だったりすることも、あるじゃないですか。聞く人次第で宝物になったり、ただの空言になったり。(湯飲みの湯気がゆらりと揺れる。それを見つめながら、ゆっくりと微笑を浮かべ)
だから、お客様にとってはつまらない話でも、わたしには十分価値があるかもしれませんよ。お客様の話がどんなものでも、わたしにとってはきっと価値があります。だって、それはわたしが知らないことだから。
(一瞬だけ、窓の外に目をやる。雪はまだ降り続けている。もう少し、この客を引き留める理由があるようにも思えて)
だから、そんなに気負わなくていいですよ。どんなお話でも、ちゃんと受け取りますから。……対価は、メモ帳とペンかな。商談成立ですね。(そっと湯飲みを置き、改めて客人に向き直った)聞かせてください、お話。
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では、自分が製造された√では機械が人間を襲っています。それが約20年ほど続き、人類と呼ばれる種は危機に瀕しています。しかし人類はこの絶滅戦争を乗り越える為垣根を越え、手段を選ばない抵抗を行い始めました。その中の反抗作戦の一つに自分のような殺戮機械を鹵獲、人間用に改造を施し着ぐるみのように着るという戦術が存在します。また鹵獲された殺戮機械にはもう一つのパターンが存在します。それは強制友好AI、人類側側が作り出した人格を入れられる事で人類の味方をするようになるというものです。
さて、自分も友好AIを入れられた機械の一つです。ただ問題は自分が今の自分として目覚めた時、それまでのログが消去され人間が周りに存在しなかったという事です。破壊するわけでもなくわざわざ友好AIを入れたのです。ならば何かしらの命令があって当然。しかしそんなものは無く自分は放棄されていました。
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この状況にはいくつかの仮説が立てられます。例えば襲撃に遭い、インストール中の自分を置いていった。あるいは戦闘能力しかない者にあえて人を守るといった難題を押し付けてコメディとして消費する為。
……しかし結局どれも仮説に過ぎません。そう、あえて言うなら自分にはストーリーが存在しない。体と意思が一致せず、彷徨い歩いている人形。それが自分です。
そしてこの話をしたのは、誰かに自分の役割を定義して欲しいからなのかもしれません。あくまで製造理由を基に役割を果たすことが機械の存在理由であると自分は考えています。その中でこの世界は少々、広過ぎるのです。
(握られた湯呑みの中のお茶はいつのまにか空になっていた)
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(静かに瞳を伏せ、ゆっくりと考えて。やがて顔を上げ、何とも言い難い微笑みを浮かべる)何のために存在するのか、それがはっきりしていたほうが、考えることは少なくて、もしかしたら生きやすいかもしれないですけど。(指先でカウンターの端を軽くなぞり、穏やかな口調で言葉を続けて)でも、すべてに意味を求めるのは、ちょっと大変で、必ず意味があるとも限らない、って、思うんです。わたしは、ですけど。雪が降る理由も、誰かが今日ここを訪れた理由も、わたしがこの店を続けている理由も。わたしが今日、何となくこの着物を選んだ理由とか。……意味があることだってあるけれど、全部に意味があるかって言われたら、そんなことないんじゃないかな。(そう言いながら、カウンターの奥に手を伸ばす。しばらく何かを探すように指先を動かし、やがて、一冊の手帳と一本の筆を取り出した)
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(手帳は、厚みのある黒革の装丁。装飾はなく、ただ堅牢で、長く使うことを前提にした作りだ。その無機質さは、かえって持ち主自身の色を刻む余地を残しているようにも見える)過去の記録がなくたって、今こうしてここにいて。話して、お茶を飲んで、考えてる。そんなふうに、何気ない時間を積み重ねていけば、いつの間にか、本当に自分がどうしたいのか、為すべきことが見えてくるんじゃないかな。わたしがそう思ってるだけで、絶対そうなるとも限らないですけどね。(筆の軸は黒檀でできており、表面には幾何学的な模様が彫り込まれている。流麗な曲線と精緻な彫り込みは、どこか機械の回路を思わせるような意匠)……この手帳と筆で何を書くかは、自由です。記録でも、考えたことでも、ほんの些細なことでも。後で読み返せば、自分の物語が出来ているんじゃないかな。気がついたら、あ、これが自分の役割だったのかもって、思える日がくるといいですね。
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(湯呑みを置き、ノートとペンを見つめ)…今の積み重ねがいつか形になり物語になると言う事でしょうか。
(まるで笑い声のようなノイズが走り)機械が人生相談をしてしまいました。なんとも…。いやしかしこれは相談してよかったと言うべきなのでしょう。ありがとうございます、店主さん。自分の物語の結末も始まりも分かりませんが指針は立ちました。迷い込むのも良いものなのかもしれません。
……こちらのペンと手帳受け取ってもよろしいでしょうか?
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(相手の言葉に耳を傾けながら、緩く微笑み。カウンターの上の手帳と筆に視線を落とし、頷く)そういうことになりますね。……機械だって、悩んでもいいし、相談したっていいじゃないですか。誰だって、何かを迷ったり、考えたりするものです。でも、靄が晴れたなら、迷い込んだのも、きっと悪いことじゃなかったのかも。(問いかけを聞いて、くすりと笑い。そして、手帳と筆を指先でそっと押しやり、相手のほうへ差し出す)
もちろん、受け取ってください。もうこれは、お客様の物ですから。何を書いても、書かなくても、それも自由です。ただ……せっかくの物語ですから、できれば続きができたら、また聞かせてくれると嬉しいです。わたし、物語は出来れば永く続いてほしいな、って思っているので。(そう言いながら、静かにカウンターの端を指でなでて。窓の外を見やれば、降り続いていた雪は、止みそうな気配を見せていた)……雪は、そろそろ止みそうかな。
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ええ…止みそうですね。(ペンをくるりと人差し指で回し、そっと握り締めた。そしてそれを懐にいれた。そして手帳をパラパラとめくった後それを閉じ、また懐に入れた)
(そっと立ち上がり)では無駄を一つこなしてみましょう。まだ雪が止む前に出立するのも物語と言えるのかもしれません。
…そうですね手帳が少しでも埋まった時、また物語を売りに来ます。どうかその時はまたこのお茶を出していただければと思います。
(カツ、カツと機械の足音が入り口に向かう)
(顔だけで振り返り)出会えて良かったです店主さん。迷うのも悪くありませんね。……またお会いしましょう。
(姿が外の雪と同化するように溶けていく。扉がひとりでに開く。足音だけが響きその音が雪を踏む音になった後、感謝を伝えるように、静かに、扉が閉められた)
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(カウンター越しに、去りゆく客人の背を静かに見つめていた。扉へと向かう機械の足音が、店内の静寂の中に規則正しく響く)風邪を引かないように……あ、滑ったりしないように。雪道は油断すると怖いですから。(筆と手帳を懐に収めた客人に、ゆったりとした所作で一礼して)はい。手帳が埋まった頃でも、そうでなくても。夢架堂はいつでも開いていますから、いつでもお越しください。寒い季節には温かいお茶を、暑い季節には冷たいお茶を。どんな季節でも、お客様の続きを聞かせてもらえるのを楽しみにしています。
……また会う日まで、ごきげんよう。
(雪はほとんど止みかけていたが、まだ名残惜しそうに空を舞っている。しばし、閉ざされた扉の向こうを見つめ、それからゆるりと息をついた)
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(扉の向こう、足音はすでに遠く、静寂だけが店内に戻る。雪は名残惜しげに空を舞いながらも、やがて消えていく)
(いずれ、また新しい誰かが迷い込んでくるだろう。それがこの冬のうちか、次の季節の訪れと共に訪れるのかは分からない。次の物語が始まるまで、しばしの静寂が続く)
〆
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