夢架堂

❖誰のための花❖

夢橋・千世 3月10日02時

 朝の冷え込みが和らぎ、春の気配がゆるやかに店の中へも入り込んでくる。軒先に置いた鉢植えの梅が、いつの間にかほころび始めていた。昨日までは硬い蕾だったはずなのに、今朝はもう薄紅の花がいくつも開いている。冬の終わりを告げるように。
 それを眺めながら、ふっと小さく息をつく。

「……一体、どこから来たんでしょうね」

 誰にともなく呟いたのは、梅のことではない。
 店の中。カウンターの上に、ぽつんと猫が座っている。
 毛並みは黒く、尾の先だけが白い。まるで墨を落とした筆先のように。昨夜まではいなかったはずだ。少なくとも、自分の記憶の中にはいない。それなのに、今朝になってみれば、ごく自然な顔をして、まるで最初からここにいたかのように鎮座していた。

「お客様なら歓迎なんですけど。居候は駄目ですよ」

 まるでこちらの言葉など取るに足らないと言わんばかりに、猫は尾をゆるりと振る。黒い毛並みに、ちらりと紅いものが混じっている。
 梅の花弁。
 見上げれば、軒先の梅はいつの間にか、ひとつだけ花が減っていた。

「花泥棒ですか」

 腕を組み、静かに猫を見下ろす。
 猫は目を細めるだけで、悪びれる様子もない。むしろ、ほんの少し、得意げにさえ見えた。
 店の外では、まだ春の風が静かに吹いている。

 猫は、何も言わない。
 ただ、その尾の先が、ひとつ、弧を描くように揺れた。

❖ 1:1
お話が好きな方なら、どなたでも
返事が途絶えてから10日ほどで〆
夢橋・千世 3月10日02時
あの、夢架堂は、猫のお店じゃないんですよ? ……ね?飼い主さんも、心配しているかもしれないじゃないですか……。
(そう諭すように声をかけても無関係と言わんばかりの様子。とりあえず追い払うべきか、話をつけるべきか。いや、そもそも猫と交渉が成立するのかどうか――そんなことを考えていると、不意に扉の鈴が鳴った)(カラン、と春風とともに音が響けば、猫と一緒にそちらを向く)
……あっ。いらっしゃいませ、お客様。夢架堂へ、ようこそ。(猫をどうしたものか思案を巡らせながらも、いつもの挨拶は忘れずに)
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ダゴール・トムテ 3月10日14時
(入ってきたのはせいたかの奇妙な男だ。尖った耳。険の強い双眸。偏屈そうな鷲鼻。暗色のローブを纏っていて、何より奇妙なのは頭に乗ったとんがり帽子。どう見ても、近所のお兄さんが早めの昼食ついでに立ち寄ってみました、という風体ではない)
(男は店主に一瞥をくれると、会釈もなく並んだ品の方へ興味を移した。奥から順に陳列された品々を検めていく。積み上がった古書には特に興味を持ったようで、崩さず器用に抜き出しては何冊か頁を捲っていた)

(やがて一冊を手に取り、路中の棚を眺めながらカウンターに近づいてくるが――)
……うおっ。(置物だと思ったのかもしれない。猫の尻尾が揺れたことにびくりとして、一歩後退った)
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夢橋・千世 3月10日15時
(普段あまり見かけない風体の男性。だが、この手の店に足を運ぶのは初めてというわけでもなさそうだった。過度な声かけを好まない客もいる。ならばと、客人の様子を傍目に、布はたきを手に棚の隙間へと軽く滑らせる。舞うほどの埃もないが、習慣のようなもの)
(しばらくして、意中の品が決まった様子の客人がカウンターに近づいてくることに気が付き。猫に驚いたのか、客人が後ずさる様にふっと口元を緩めて〕置物だと思いました?わたしも最初はそんな感じでしたけど……こうして動くなら、違いますよねえ。(カウンターの上で尻尾を揺らす猫を、困ったような、それでいてどこか楽しげな目で見つめる)お客様なら大歓迎ですけど、居候はちょっと困るんですよ。ね?
(猫に向かって問いかけるが、まるで聞こえていないかのように、気だるげに尾を揺らすだけだった。小さく息をつき、今度は客人へと視線を戻す)それよりも――その本、お気に召しました?
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ダゴール・トムテ 3月10日16時
猫は嫌いだ……(特に黒猫は。とぼそり呟く。不意をつかれるとでも思っているのか正面を猫に向けたまま、わざわざ通路の端を通って大回りに貴方の元へやってくる) これ、幾らだい。(まだちらちらと猫に目を向けたまま、カウンターの上に古書を乗せた。幻想文学を集めたアンソロジー全集の第一巻。) 他の巻が見当たらねえ。
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夢橋・千世 3月10日16時
(猫を警戒する様子に、小さく笑って)嫌われちゃいましたねえ。(ちらりとカウンターの上の猫を見るが、気にした様子もなく、気だるげに尾を揺らすばかり)大丈夫ですよ。この子、きっと襲ったりはしませんから。(からかうようでもなく、ただ穏やかに告げると、本の表紙へと視線を落として。そっと手を伸ばし、本を開く。指先が古びた紙の感触を確かめるように滑る)お目が高いですね。第一巻……。こちらは──あいにく他の巻は今ここにはありません。でも、お客様が他の巻も望むなら、探してきますよ。ちゃんと続いているかどうか、気になりますし。条件付きですけど。(ふっと顔を上げ、客人をじっと見つめて)お客様自身が、一つ、物語を語ってくださるなら。本の続きを探すには、きっとそれ相応の何かが必要ですから。あと、語ってくださるなら、この本もちょっとだけお安くしておきます。(目の前の本を指先で客人の方へと軽く押しやりながら、微笑み)
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ダゴール・トムテ 3月10日17時
ここの猫じゃあないんだろう、わかるもんか。黒猫は魔女の使いなんだ。(イーッと歯を剥く。並びはきれいなものの、先が尖っていて獣のようだ)
……この店は客を|吟遊詩人《ストーリーテラー》にするのか?(奇怪な条件を聞いた男は不審を露にする。天板に片肘を突くと、店内に数多ある本たちを示して。) 物語ならここに売るほどあるだろう。オレだってきっと、アンタの知ってるような話しか語れないぜ?どんな物語が聞きたいってんだ。
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夢橋・千世 3月10日18時
よほど手痛い目に遭ったんですね。(招かざる猫とはいえ、やや不憫にも思えた。黒猫へと手を伸ばし、指先でその耳の後ろをゆっくり撫でる。猫は気持ちよさそうに目を細め、喉を鳴らした)わたしも魔女の素質、ありそうかな。……冗談です。夢架堂は、本を売るお店ですけど、ただ売るだけでは退屈なので。(猫から手を離して、店内を見回す)
それに、物語って、ただ頁の上に書かれたものだけじゃないんですよ。読んで覚えた話も、誰かから聞いた話も、そして――お客様が生きてきた中で、見て、聞いて、体験してきたことも、全部。(再び客人へと視線を戻し、軽く肩をすくめて)それに、確かにここには物語がありますけど、それは他の誰かの物語で、お客様の物語ではないでしょう? たとえば……ここにいる黒猫が、魔女の使いだと思う理由でもいいですよ。そんなに嫌っている理由とか。
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ダゴール・トムテ 3月11日11時
(ふむ、と男は腕を組んだ。貴方の話の中に、共感できるものがあったようだ。もう一度店内をぐるり見まわしたあと、自分の足元をちょいちょいと指さし。) ……椅子。(尊大に、腰を落ち着ける場所を求める) であれば、手間賃に少し聞いていけ。この妖精トムテ、”舌なし”ダゴールの物語を。(口の端が、興を乗せてニィと吊り上がった)
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夢橋・千世 3月11日14時
(黒猫の背を軽く撫でながら、妖精を見上げて)……ええ、椅子ですか。あれ、重たいんですよね……。……少々お待ちを。(ゆったりとした動作で店の奥へと向かう。動くのは少しばかり面倒だが、どうせ語るなら、落ち着いて座れるほうがいいに決まっている。しばらくして、年季の入った木目の椅子を引きずるようにして持ってきた)はい、どうぞ。……それにしても、妙な異名ですね、それ。舌なしの妖精が語るっていうのも不思議というか……由来とかも気になりますけど。まずはお客様の物語、聞かせてください。(物語への興味を隠さずに、楽し気な様子で。黒猫が喉を鳴らす。窓の外では、春の風が、軒先の梅の花をひとつ揺らしていた)
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ダゴール・トムテ 3月11日15時
といっても、今から語るのはまだ”舌なし”じゃなかった頃の話だぜ。(運ばれてきた重厚な椅子の笠木を撫で、満足そうにそれに座る) アンタはトムテを知ってるか?所謂、家憑きって呼ばれる働きものの善良な妖精さ。オレもかつては屋敷の主人のために甲斐甲斐しく働いくトムテだった。(妖精は中指で軽くカウンターを叩きながら語り始めた) だが――これも話の本筋ではないから省くが、いろいろあってオレは屋敷を飛び出して放蕩の妖精になった。
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夢橋・千世 3月11日17時
トムテ。……ええ、造詣が深いわけではないですが、聞いたことくらいは。(誰かの物語にもきっと登場していたのだろう。けれど、こうして実際に目にするのは初めてだ)
昔はそうだったんですね。……今の様子からは少し想像しづらいですけど。(聞こえたかもしれないし、聞こえなかったかもしれないほどの声量で、ぽつりと零して)甲斐甲斐しく働いていたのに、今では放蕩者。……粗略に扱われましたか? それとも、勤労意欲がなくなってしまったのかな。(本筋ではない部分こそ気になるものの、省くと言われた以上、深くは聞かずに)それで、放蕩の旅が始まった、と?(続きを促すように、静かに視線を向ける)
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ダゴール・トムテ 3月11日17時
(長い耳がぴくりと動く。妖精は言葉でこそ追及をしなかったが、一拍の間物語を止めて、貴方を睨むことに時間を費やした。そして、咳払いを一つ)
ご主人様は少なくとも、トムテのご機嫌取りには熱心だった。繰り返しになるが、|いろいろ《・・・・》あったのさ。まあ一因として、坊ちゃんの”友達”が気に入らなかったってのはあるね。尤もあれは灰色だったが。梁の上や床下までやってきて、物陰に潜むオレを引っ搔きやがる。(睨む先の目線が下がった。つまり、貴方の手元付近に)
だから元々、オレは猫とは相性が悪かった。だが決定的に敵対関係になったのは、旅先の村はずれで出会った黒猫のせいさ。
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夢橋・千世 3月11日18時
良いご主人様に恵まれていたんですね。(睨まれてもどこ吹く風。涼しい顔のまま、やや笑みすら湛えながら妖精の視線を受け止める)なるほど。昔から因縁があった、と。……そんなに睨んだら駄目ですよ。(この子が直接の相手ではないにしても、種の単位で因縁があるのだろう。視線が猫へと移ったのを見て、そっと手を伸ばし、黒猫の身体をやんわりと覆うようにする)
……黒猫。ああ、だから苦手なんですね。それで? 何をされたんです?(軽く首を傾げながら問いかける)(同じく睨まれていることに気がついたらしい黒猫は、眠たげなままじとっとした目を妖精へと向ける。その様子に、わずかに口元を緩めながら、問いの続きを待つ)
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ダゴール・トムテ 3月11日21時
急ぐなよ。順番に話そう。(妖精はもったいぶって片目を瞑る)
その猫は村はずれの森の入口に横たわっていて、通りかかるオレに声をかけた。「もし、そこの妖精さん。私を森の奥の家まで抱いていっていただけませんか。枝で肉を裂いてしまい、歩けないのです」と。見れば確かに、後ろ足が赤黒く濡れている。(そこまで語ると、上体を少し屈めて、声を潜めてこう続けるのだ)
だがオレは知っていた。暗い森には悪い魔女が暮らしていて、妖精を捕らえてはこき使っていることを。この黒猫は、その手先に違いない。そう思った。
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夢橋・千世 3月11日22時
え。……猫の言葉、わかるんですか。(目を数度瞬かせて。妖精ならそういうこともあるのだろうか。少し羨ましそうに妖精を見つめた後、声を潜める様子に息を呑む)……なるほど。可哀そうな猫に見せかけて、魔女の仕掛けた巧妙な罠かもしれない、と。……。(黒猫と目があう。手先かもしれないとわかっていながら、まさか罠にかかったのだろうか、と互いに首を傾げ合って。意外とお人好しなのだろうかもしれない)実際、どうだったんですか。
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ダゴール・トムテ 3月12日00時
喋る猫だっているだろう。ああ、そういえば。坊っちゃんの手懐けていた猫は喋らなかったな。(何を当たり前のことを、と言いたげに。どうしてそんなことで話の腰を折るのかと、妖精の方が首を傾げる)
いいや、結局真偽はわからなかったな。なにせそのときのオレは、猫に取り合わずとっとと村へ向かったものだから。蜂蜜だよ、蜂蜜。その村では養蜂をしていたんだ。(口の端から、長い舌がちろりと覗く)
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夢橋・千世 3月12日00時
(妖精の言葉に、へえ、と小さく相槌を打つ。きっとこの妖精にとっては、不思議でもないのだろうけれど)ううん。……人間も、妖精も、いろいろいますからね。一匹くらい、いたって不思議じゃないかもしれませんけど。(この黒猫は喋るのだろうか。じっと見つめてみても、喋りそうにはない。しゃべったとて、自分が理解できるかどうかはわからない)
それは、……。(確かに妖精にとっては助ける義理もないのかもしれない、と思って、話の腰を折らないように口を噤み)蜂蜜によほど魅入られ……いえ、惹かれていたんですか。(味の想像をしながら、話の続きを待つ)
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ダゴール・トムテ 3月12日17時
Ahh……まあ、うん……。(蜂蜜について聞かれると、饒舌だった妖精は途端に歯切れが悪くなり、天井へ視線を彷徨わせた) ……まあ、当時はな。村へ向かったのはそもそも蜂蜜が目当てだった。巣箱からごっそりいただいちまう計画だったが、生憎と到着したのは昼間だったから夕方まで待つことにしたのさ。
オレの算段はこうだ。日が暮れる頃にミツバチに変身して、巣に紛れ込む。ハチどもが寝静まったら巣の中で煙を焚いて奴らをおっぱらい、その隙に蜜を盗み出す。多少煙たくなっちまうが、スモークされた蜂蜜もオツなもんだからな。kec-kec-kec!!(板を叩くような奇妙な音を発する。笑ったらしい)
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夢橋・千世 3月12日19時
……ずいぶん、悪いことしようとしたんですね?(わかりやすく歯切れが悪くなった妖精を見て、からかうように口元を緩める。視線を彷徨わせる様子が、どこか面白かったのか、カウンターの端を軽く指先で叩きながら、ゆるく言葉を継ぐ)巣箱からごっそり……なんて、また大胆な。ミツバチだって怒らせたら怖そうですけど。(どこかじとっとした目で、黒猫とまるで息を合わせたかのように妖精を見つめる。黒猫もまた、興味深げにじぃっと鋭い目を向けたまま動かない)スモークされた蜂蜜のお味はどうでした? ……そもそも、ちゃんと味わえたかどうかでしょうけど。(妙な音に瞬きをして、どうやら笑ったらしいことに少し遅れて気が付く。楽し気に語る様子に、口元にうっすらと微笑が浮かんだ)
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ダゴール・トムテ 3月12日19時
……。(ぎり、と妖精が歯噛みする) オレぁ、日が暮れる前に養蜂家のとこへ行ってハチの種類を尋ねたんだ。変身するハチを間違えちゃ話にならないからな。ようく覚えてる。あの辺りじゃ珍しい、|黒髪《ブルネット》の娘だった。やつはこう答えたんだ。「コーカシアンのミッドナイト種ですわ」と。そこでオレは、言われた通りのハチに化けて巣箱に向かったんだ。働きバチたちが戻って来る、すっかり薄暗くなった夕暮れ時にな。
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夢橋・千世 3月12日20時
なるほど、周到ですね。きちんと下調べまでしたんですか。(カウンターの端を軽く指でなぞりながら、楽しげに言葉を継いで)こーかしあん……というのは初耳ですけど、そういう種もいるんですね。ちゃんと下調べして、化けて、待ち伏せた、と。養蜂家さんも親切ですねえ、ちゃんと教えてくれるなんて。(その黒髪の娘はよほどのお人好しか、あるいは)……順調にいきました?(口元には、どこか愉快そうな笑みが滲んだ)
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ダゴール・トムテ 3月12日21時
その憎たらしい顔からして、オチはだいたい読めてんだろう。(妖精は、貴方を睨みつけて舌打ちをした) 巣の入口に近づいて、仕事帰りの働きバチたちに向けてオレは言った。「やあ、お疲れ様」。奴らが一斉にこちらを見る。「何をしにきた?」
(はあ。妖精が大きなため息と一緒に、カウンターに額をぶつけた。天板を伝って、くぐもった声が話を続ける) 辺りが暗くてよく見えなかった……そいつらはロシアン種だったんだ!よそ者だとバレたオレは、追いかけてくるミツバチどもを振り切って這々の体で逃げた……。
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夢橋・千世 3月13日13時
(睨みつける妖精を見つめたまま、微笑を崩さずに首をかしげた)そんなに憎たらしい顔、していました? ごめんなさい、生まれつきなんです。(冗談めかして言いながら、口元に小さな笑みを浮かべる〕……でも、しっかり騙されてしまったわけですね。策士ですねえ、養蜂家さん。(カウンターに突っ伏した妖精に、どこか温かい視線を向ける。よほど無念だったのだろうか)
(近くの急須に視線を移してから、湯飲みをもうひとつ取り出すと、ゆっくりとお茶を注ぐ)悪いことはしないに限りますよ。ミツバチも怒ると怖いですから。(さらりと言いながら、湯気の立つ湯飲みを妖精の前に置いた)どうぞ、ひと息ついてください。蜂蜜入りじゃありませんけど。
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ダゴール・トムテ 3月13日14時
あの娘にさえ邪魔されなけりゃ、何も問題なかったんだ!(拳がどんとカウンターを叩く。湯飲みが置かれるとちらり目線を向け、頭を起こしてそれを両手で包んだ) あとから確認してみりゃ案の定、あの家に黒髪の娘なんて居なかった。そばかすにくしゃくしゃなブロンドの、ほんの五,六くらいの小娘が庭で遊んでいるだけだった。オレを騙し損ねた黒猫が、娘に化けて仕返ししやがったに違いないんだ!(妖精はやけくそに湯飲みを呷る) ――あっちぃ!!!!
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夢橋・千世 3月13日14時
(カウンターが軽く揺れるほどに叩かれ、ぴくりと眉を動かして)あっ。カウンター、古いんですから。そんなに強く叩いたら駄目ですよ。(静かに自分の湯呑みを廻しながら、口元にはどこか愉快そうな笑みが滲む)
……なるほど、助けてくれなかった仕返しというわけですか。因果は巡るといいますからね。
(湯飲みを呷る男を見ながら、火傷しそうだなと思う。案の定、熱そうにしているのを横目に、自分の湯飲みに注いだ茶をゆっくりと冷ましながら、涼しい顔で一口飲んだ)
熱さはちゃんと確かめないと危ないですよ。黒髪の娘が本当にいるのか、ちゃんと確かめた方が良かったのと同じように。……せっかちなんですね、お客様。(そう言いつつも、静かに冷水を汲んだグラスを差し出す。言葉では茶化しても、火傷を放っておくほどではないらしい)それで嫌いになったんですか?黒髪も、黒猫も。(自分の髪を指先で軽く撫で。自分もまた、黒髪といわれれば黒髪だ)
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ダゴール・トムテ 3月13日15時
……悪ぃ。(そう言ったのはカウンターのことか、グラスのことだったのかはわからない。冷えた水をちろちろと飲むうちに掘り返された過去の怒りも冷めてきたのか、幾分落ち着いた様子の妖精はフンと鼻息を吹かす) 大きく分けりゃ世界の半分は黒髪だぜ。いちいち嫌ってられるかよ。猫は別だがな! それより、オレの物語は手間賃に足りたのかい?
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夢橋・千世 3月13日16時
お気になさらず。(怒りの余韻が薄れた妖精を穏やかに見つめる。苛立ちも、頑なさも、ゆっくりと冷めていくものだ。湯気の立つお茶が、ゆるりと冷めるように)
人間にも色んな人がいるように、妖精にだって、色々な妖精がいるでしょう? ミツバチにも。猫だって、猫それぞれです。(そう言いながら、黒猫をひょいと持ち上げる。猫は特に抗うでもなく、気だるげに揺れるだけだ。その小さな手をそっと妖精の方へ差し出してみせる)この子なら、仲良くなれるかもしれませんよ。(黒猫は眠たげに瞬きをし、まるで他人事のように喉を鳴らした)
物語としては、楽しく聞かせてもらいました。手間賃としては十分ですね。他の巻、ちゃんと探しておきます。(ふと軒先を見やる。春風が吹き抜け、梅の花がひとひら揺れていた)……あの梅が散る頃に、また来ていただけたら、あると思いますよ。第二巻が。
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ダゴール・トムテ 3月14日11時
(差し出された手には触れず、腕を組んだまま猫の鼻先へ顔をぐっと近づける) ……。(暫し睨みあったのちに――妖精が一方的に睨むばかりだったが――、眉間を指でつんと突いた。猫が迷惑そうに顔を引く) フン。この呑気さでは、魔女の館のネズミ捕りにもならんだろうな。だがこいつが無害だからといって、すぐに猫を好きにはなれねえよ。
(茶を飲み干すと、革袋の財布から本の代金を探す) 次も蜂蜜はなしで頼む。茶菓子はあれがいい、ライスをカリカリに焼いたやつ。……ん?おや。(出すとも言われていない菓子を要求しながら財布をまさぐっていたが、中から取り出したのは一枚の金貨だった) ここの通貨がねえや。次来た時にまとめて払うから、代わりにこれ預かっといてくれ。
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夢橋・千世 3月16日13時
(黒猫と妖精の短い睨み合いを、静かに見守る。猫は突かれた眉間を気だるげに擦るばかり。そんな様子を見て、口元を緩めて)店番には向いていても、ネズミ捕りには向かないでしょうね。……。いえ、店番にはしませんけどね。しませんよ?(念を押すと、猫が不満げに唸る。駄目ですよ、と念を押した)すぐに好きになれ、なんて言いません。でも――次に来る頃には、もう少しだけ、目を合わせられるようになっているかもしれませんね。(猫の鼻先をつついてやると、しっぽがぴくりと揺れた)
時々来てくださるなら、考えてみます。あまり期待はしないでくださいね。(カウンターに軽く手をついて、受け流すように微笑み。しかし金貨を差し出されれば顔が曇って)……。今回だけですよ。次はちゃんとお金、持ってきてくださいね。でないとこれ、質に入れるかもしれません。(金貨を受け取って、妖精の目当ての本を丁寧に包んで渡した)
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ダゴール・トムテ 3月17日14時
こいつが少しでも愛想を見せるようになったらな。(欠伸ばかりの猫を尻目に、本の包みを受け取って店の出口へ向かう。店主は頑なだが、もし次に訪ねたときも変わらずこの猫がいたら、流石に笑ってしまうかもしれない。そのときは小判をくれてやってもいい)
構わねぇよ。換金してくれるなら手間が省けらぁ。(ひらひら手を振って、麗らかな陽光の下へ出ていく。扉が閉まる瞬間、最後の言葉が聞こえた) 純金だからな。
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夢橋・千世 3月18日19時
(扉が閉まる直前に届いた言葉に、軽く瞬きをして)……純金、ですか。(ぽつりと呟きながら、カウンターに置いた金貨を指先で転がす。光を受けたそれは、確かに温かみのある輝きを放っている)
(ちらりと黒猫を見やる。猫は相変わらず、気だるげにしっぽを揺らしているばかりで、妖精が去ったことなど、興味が薄いようで)小判をくれるなんて言ってましたけど……。どうですか、お客様?(黒猫に向かって問いかけるように言いながら、軽く肩をすくめて)次にいらした時までに、少しくらい愛想を見せてみる気は……なさそうですねえ。(黒猫は細く目を開け、くだらないとでも言いたげに欠伸をひとつ)
(金貨をそっと手のひらに乗せたまま、小さな木箱を引き寄せる。金貨をその中へ落とし、蓋を静かに閉じた)換金するかどうかは……まあ、次にいらした時まで考えておきましょうか。(のんびりとした調子で呟き、軒先を吹き抜ける春の風に視線を向けた)
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夢橋・千世 3月18日19時
(春の風がそっと軒先を撫で、揺れる梅の花をひとひら落としていく。光を浴びた花弁はふわりと舞い、やがて静かに地に落ちた)(それを目で追いながら、小さく息をつく。カウンターの上には、すっかり落ち着いた金貨の収まった木箱。そして、相変わらずの黒猫)
(静かな店内に、古時計の振り子が小さく時を刻む音が響く)さて……と。(誰にともなく呟き、茶を淹れる準備を始める。次の客が扉を開けるまでの、束の間の静けさを楽しむように)

(扉の向こうでは、春の日差しが穏やかに街を照らしていた)


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