烏夜

【個人企画】夏の残響

トゥバ・コルヌコピア 8月9日09時

●うたかたの島
 その島は夜にしか現れない。
 太陽が沈み、最後のひかりが海の彼方へ溶けてゆくころ。
 水平線の向こうにひとつの影が浮かび上がる。最初は雲と見紛うほど淡く、やがて月光を受けて輪郭を得る。海上に忽然と姿を現す名もなき島――そう呼ばれていたのは、もう遠い昔のことだ。
 魔法灯の普及したこの世界では夜の海でさえ完全な闇に沈むことはない。航路を照らす浮遊灯、潮流を読む魔導標、遠方の船と交信する星晶塔。人々はとうの昔に、夜を克服したつもりでいた。それでも、その島だけは魔法のひかりを拒んだ。
 近付けば近付くほどにあかりは薄れ、魔導具は沈黙していく。代わりに聞こえてくるのは波が砂浜を撫でる音と、どこからともなく漂う花のあまい香り。島の岸辺にはしろい砂が月明かりを孕み、森の奥には夜空から零れ落ちたような淡い燐光が揺れているという。
 人々はその島を|夏の残響《レソナンティア・アエスターティス》と呼んだ。
 現れるのは夏の僅かな間だけ。六月の終わり、最初の夜に姿を現し、八月の最後の夜に消えていく。陽炎がほどけるように、蝉の声が遠ざかるように。夏という季節そのものが海へと還る、その最後の瞬間まで。
 夏が終われば島もまた消える。故に夏の残響を見た者は、その名を決して忘れないという。誰が何のためにそこへ行くのか、島には何があるのか。なぜ夏の終わりに消えてしまうのか、確かなことを知る者は殆どいない。
 ただひとつ、古い航海士たちの間で語り継がれる言葉がある。

『あの島は、失くしたものをひとつだけ返してくれる』

 ――但しそれは、夏が終わるまでに見つけられたなら。

 夜の海は静かだった。
 月を映した水面がまるで巨大な鏡のように揺れている。その彼方で、誰かの記憶の底に沈んでいた夏がゆっくりと夜の海から浮かび上がろうとしていた。

 『レソナンティア・アエスターティス』。
 それは終わりゆく季節が最後に残す、ひとひらの魔法だった。

【概要】
夏の残響。夏の夜の間だけ浮かび上がる不思議な島で過ごす時間を楽しみましょう。失くしたものを探すも、うつくしい星空を映した海で遊ぶも、あなたの思うままに。

【発注雛形】
行動は自由、舞台は『√ドラゴンファンタジー』固定です。
未成年の飲酒喫煙、ゴミのポイ捨て、その他公序良俗に違反する行為はお控えください。

発注文の冒頭に【💫】をご記入ください。
二行目以降はプレイングを書く要領で自由に発注文を記載した上でリクエストをお送りいただけましたら幸いです。

あなたに、綺羅星の祝福を。
煌めく夜空のような、忘れられない夏の思い出を残せますように。