【紹介】迷い彷徨い宵の口
冬。それは空気が肌を突き刺す季節。
身体の先端から感覚が失われ、吐く息は自ずと白く。灰色の街から熱を奪い去るように風が通り抜け、やがてこの建物『世々祇会館デラックス』の隙間から侵入し、間接的に病をもたらさんとする|来訪者《ペイルライダー》となる。
故に、開けたら閉めろと言わんばかりに開いた扉を閉めて回る人間災厄、筺守の眼前、通路という名の闇から急に現れる謎の影。
「えっ、……えっ!?」
それは状況が飲み込めないといった様子の少女。
一方でそんなことは関係なく、ただ早く扉を閉めたい筺守は特別な反応を示すこともなくそのまま扉を閉じた。これでよし。
「こ、ここ、どこですか!? どこの√ですか!?」
間を置いてから勢いよくノックされる扉。どうやら何も良くはなかったらしい。ノックがやがて連打になったところで筺守は渋々と扉を開けた。
「ここは世々祇会館デラックスだよ」
「うわダサ」
再度閉められようとする扉は少女の足により阻まれた。やがてその隙間から少女の腕、肩、そして顔が再び姿を見せる。
「うわなんか√EDENで見ないものいっぱいあるぅ……」
「そうでもないと思うけどいやキミ力強」
かくして筺守の抵抗もむなしく、半泣きの少女は堂々と侵入し、廃墟ビルの一フロアを見回す。視線の先には分かり易いところで棺、妖狐、人妖、道化師、サイボーグ等がフリップボードに文字を書き込んでいる。
なるほど、確かに他の√世界であると異常とも思える光景なのかもしれないと、押し開けられた反動から隣で転がった筺守は思う。
「ここ……大喜利しないと出れない空間とかです……?」
飛び飛びに聞こえる言葉と、目の当たりにした光景を前に、震えた声で予想を告げる少女。
なるほど、他の√世界にはまだまだ面白い者がいるものだと転がったまま思う。筺守には人間がわからぬ。ましてや迷子のことなど。しかし、面白さについては割と敏感であった。
「そうだよ」
「えっ、できるかな……。いや、がんばります! 私、やれますよ!」
流れるような嘘と、信じ込む少女。
出口を聞くという考えは毛頭無いように思え、その純真さに一抹の不安を感じる。しかし、災厄は積極的に不親切であれ。誠実さは箱の底に押し込むように、新たなオオギリウムの供給に頬を緩める。
「あっ、私、|戀ヶ仲《こいがなか》・くるりです! 大喜利に勝って√EDENに帰る扉を見つけますね……!」
「……ああ!」
果たして大喜利の勝敗とは何か。
究極的な問いに対する答えを持たぬまま、虚構の導き手となった筺守は静かに笑みを湛える。
後日、『頭部を破壊された者は失格』という嘘ルールによりその頭部が破壊されるのは、また別の話。
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【入団者】
|戀ヶ仲《こいがなか》・くるり(Rolling days・h01025)
はい、入団者のご紹介。
アタシも自分がどこに向かっているのかよく分からなくなるから迷子仲間だね。
自己紹介がてら、好きな定食の話でもしようか。
焼き鯖定食。

なんか…なんか今、不穏な未来予知が描かれたような…!気のせい!?
えーっと、えっと、ノゾミン、さん(フレンドリーな呼び名にやや躊躇いがちに呼ぶ)私のことは、戀ヶ仲でもくるりでも、呼びやすいもので!
大喜利の勝ち負け…受けた人が多かったら勝ち、かな?審査員作るとか? あれ?もしかして…勝敗のつけ方、決まってない?
あ、私はミックスフライ定食が好きです。なんかお得な気持ちになる!
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ははは、気のせいじゃよ。気のせいだよ。
あいわかったよ、くるり。アタシも呼びやすいもので良いからね。ただノゾミン呼びの方が可愛いだけだからねぇ。
うん、特に決まってないんだよね。血風吹き荒ぶ真剣勝負の果てに何が残るのか、原始的なルールによれば最後まで立っていた奴が勝者なんだっけ。体力をつけておいた方が良いかもしれないねぇ。
お、健啖家。体力作りに食事は大切だからたくさんお食べ。
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気のせいですよね?ですよね!?よかった!!
ノゾミンはたしかに…かわいい…他のものが思いつくまで、それじゃあ、ノゾミンさんって呼びますね!
決まってないって言った直後にそんな不穏な例を出すのなんで!?最後には暴力を耐えうる者が全てを勝つ者って…こと!?
はい、ごはんいっぱい食べれるとうれしいので、いっぱい食べたいです!
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うんうん。誰かが望めばそうなるかもしれないけれど、今のところは気のせいだよ。
ノゾミン酸、ノゾミン3、いいやノゾミン=サンか。良いね、気兼ねなく呼んでおくれ。
何故と聞かれれば、そうだねぇ。アタシはこう見えて災厄と呼ばれる存在だから、言葉の端々で周囲を怖がらせた方が良いんじゃないかと常々思っていてね。本当のところは、大喜利自体は非暴力不服従だから安心して回答を考えてくれていいよ。
食べれば食べるほど成長しそうな発言。衣食足りて笑いを知るというし、これは期待の新人だ。
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フリにより安心感が薄いのは見なかったことにしますね…!見なければ不穏なんてないんだ…!
(発音に含みがある気がしたけれど)はい、ありがとうございます!
…ノゾミンさんはきれいな女性に、見えますけど、災厄の方、なんですね…?災厄の方って能動的に「怖がらせなきゃな」って思うんだ…?
インドの国の父みたいな方針!えっと、はい!大喜利頑張ります!
まだまだ成長しますよ、縦に!横に伸びずに縦に伸びたいですね…!
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おお、異世界から来たっぽい指摘。機関が言うには災厄は脅威らしいから、てっきりそうであるべきと思っていたのだけれど、あまり怖いことは望まれていないのかねぇ。
褒められて伸びる子ならどんどん縦にお伸び。伸びすぎると折れちゃうかもしれないから横も大事だけれどね。そしてゆくゆくはオオギリウムを沢山供給するんだよ。
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私、√能力者になりたてなのでよく分かんないですけど…順番逆な気がしますね!?
災厄さんって望む望まないに関わらず脅威だから、機関が管理してるのでは!?
ノゾミンさんがしたくないなら、しなくていいと思いますけど…いやでも災厄っぽいことしたいなら、してもいい…?(▼くるりは 混乱している!)
丈夫に!折れない程度に丈夫に!伸びたいです!なんかまたよく分からない単語が出たよぅ、オオギリウムって何…!?
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ふぅんふふーん。アタシは望まれると応えないといけないタイプの災厄だから、かくあれかしを実践しているんだよ。でも、くるりが言うように「災厄に脅威であってほしい」という願いが少数派ならこのまままつ毛が長いだけの愉快な存在でいようかねぇ。世界が広がると母数が変わるから判定がずれるんだよね、アタシのノゾミンメーターが。
オオギリウムはいずれ教えるとして、くるりはアタシと違って災厄じゃなさそうだし、やりたいことがあれば望む望まれざるにかかわらずやった方がいいよ。ここでできることなら手伝えて良いんだけどね。
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「認知した世界の望む母数で変わるよ」だと私1人が何か言っても…誤差なのでは…?
望まれると応えなきゃいけないと思う心とまつ毛が長いノゾミンさんはステキだと思うので…こう…未来で振り返った時に、悪くなかったなぁ。って思えるといいですね。なんか、色んなことが。
(ノゾミンメーターってなに!?って聞くと果てしない問答になりそうなことを感じた戀ヶ仲・くるりは口をつぐんだ)
さておかれたオオギリウム…!
わ、はい、ありがとうございます!さしあたって…√EDENに戻れる扉の場所が知りたいですね…!
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ほら、認知は自他問わず得てして歪められるからものだからね。アタシにとって都合の良い望みだけを抽出するのも……あ、若い子に気を遣われた気配がする。
他の世界への入り口なら、みんなバタバタとあちこち扉を開けて出たり入ったりしてるからねぇ。手当たり次第開け閉めするのを手伝ってあげよう。なに、コンゴトモヨロシクするよしみと言う奴さ。(適当な扉の向こうに消えていく)
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すごい…穏やかな笑みで結果は改竄するって言ってる、この災厄さん…
えっ……√の扉ってそんなに乱雑に出現するんですか!?災厄さん特権!?この場所がそういう特異点かなんかです!?
あっ、本当に扉、…これどこの√に繋がってるんですか!?どこ?どこなの!?答える前に行かないでノゾミンさん!ノゾミンさーーーん!?
(消えてく姿を追いかけたが、手は虚空に消えた。
くるりが√EDEN帰れたのか。そして世々祇会館デラックスに再び来てしまったかは、オオギリウムだけが知っている話)
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