シナリオ

2
魔の嵐を越えろ!

#√汎神解剖機関

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√汎神解剖機関

※あなたはタグを編集できません。



 令和八年。四月|某日《ぼうじつ》。日本。瀬戸内海――その面積は実に二三,二〇三平方キロメートルにもなると言う日本最大の内海である。
 |其処《そこ》は、およそ一五〇の有人島と、五七〇の無人島を|擁《よう》しているのだと言う。
 その内の|一《ひと》つ。名前すら付けられていない小さな無人島の上空に、一匹の龍が静かに|揺蕩《たゆた》っていた。
 その存在を正確に表現するのであれば、それは龍では無く、厄災の化身である怪異。ただ其処に|在《あ》る――それだけでも地上に|兇《きょう》|変《へん》を|齎《もたら》すと言う邪神である。
 邪神――荒魂ノ辻が天頂を振り仰ぎ見ながらに咆哮した。
 天変――雲|一《ひと》つ無い晴天が|俄《にわか》に黒雲によって閉ざされたかと思えば、陽光は|遮《さえぎ》られて、豪雨と暴風が|狼藉《ろうぜき》の限りを尽くす。
 雷鳴の|轟《とどろ》きが嵐の訪れを|声高《こわだか》に宣言していた。

「|嗚呼《ああ》、|嗚呼《ああ》! 天が嘆き、地が震える! 海が裂け、全てが吞み込まれていく! 何と言う強大なる|御《み》|力《ちから》でしょうか! 我らが大神! 荒魂ノ辻! もっと! もっと! その荒ぶる|御《み》|力《ちから》を|御《お》|示《しめ》し下さいませ! 我ら|敬虔《けいけん》なる信徒の願いを、どうか|御聞《おき》き届け下さいませ!」

 無人島には、時と共に勢力を|弥増《いやま》していく嵐の|直中《ただなか》に身を|晒《さら》している、巫女の一群が存在している。
 |長々《ながなが》しい黒髪を雨と風に乱されながらも、その|白皙《はくせき》の美貌に、狂信から表出する歓喜の笑みを貼り付けていた。
 それは怪異を|信奉《しんぽう》する邪教の巫女達である。
 嵐の空を悠然と泳ぐ龍が、果たして巫女達の言葉を理解しているのか――その真実を|傍目《はため》からは|窺《うかが》い知る事は出来ない。
 しかし、少なくとも巫女達の側は、怪異が招来せしめた厄災を、偉大なる神の|御《み》|力《ちから》の|顕現《けんげん》であるとして、その信仰を深めている。
 近海を航行する一隻の遊覧船が、突如として航路上に出現した大渦に呑まれて沈没した。
 偶然、上空を飛行していた報道機関の|螺旋翼機《ヘリコプター》が、その機体に稲妻の|接吻《くちづけ》を|賜《たまわ》って爆発し、炎上しながらに墜落した。
 怪異を中心として、嵐は|益々《ますます》その勢力を強めていき、|兇《きょう》|変《へん》は際限無く周囲に拡大していく。

「――ふふ、ふふふ。あははははははははっ! 思い知るが良い、|愚昧《ぐまい》の者共! 我らを邪教と|排斥《はいせき》した|蒙昧《もうまい》共! 我ら信徒の祈りが|遂《つい》に大神に届いたのだ! 天罰ぞ! 我が宗門は大神の|御《み》|力《ちから》によりて、この地より異教共を一掃する! この小さな島にまで追い立てられた先祖の無念を、今こそ晴らすのだ!」

 邪教の巫女達の哄笑が嵐の唸りにも負けじとばかりに響き渡る。
 無人島を中心にして、瀬戸内海沿岸部に厄災が招来しようとしていた。



 星詠みである|歌《うた》|屋《や》|敷《しき》|初《はつ》|音《ね》はゾディアック・サインを得て、|程近《ほどちか》い未来の景色を幻視した。
 |√《ルート》汎神解剖機関。瀬戸内海の洋上に浮かぶ小さな無人島。正確には今日まで無人島であると思われていた場所。|其処《そこ》は昔、本州で|排斥《はいせき》された邪教の一派が落ち延びて、隠れ潜んだ島であるらしい。
 長年に渡り|醸成《じょうせい》された信徒達の怨念に怪異が応えたのか。|或《ある》いは星の巡り合わせによる、ただの偶然か。
 とにかく世間の目から隠れながらに怪異を信仰し続けていた者達の前に、神は降臨した。
 それも難儀な事に、厄災を引き起こす程に強大なる力を有している怪異である。
 意思疎通は不可能――果たして本当に信奉者たる巫女達の願いを聞き届けているのかさえもが不明であった。
 しかし災害の化身であると言う怪異の存在を、まさか、このまま放置する訳にもいかない。
 |既《すで》に近海では航行中の船舶に被害が出ているのだ。
 それどころか瀬戸内海沿岸部にまで怪異の影響が及びつつあると言う。

「場所が洋上の無人島であると言うのが厄介ですね。天候が穏やかであれば船で簡単に上陸する事も出来るのでしょうけれども。怪異の発生させた嵐によって海が荒れている状況にあっては、この無人島は天然の要害であると言っても過言ではありません」

 別の|√《ルート》を経由して乗り込もうにも、|其処《そこ》は何の目印も無い海上である。
 都合良く|√《ルート》汎神解剖機関の無人島周辺の海域に繋がっている場所が、他の|√《ルート》の海上に存在しているとは限らない。

「無謀な事であると言うのは|重々《じゅうじゅう》、承知しております。しかし、それでも皆様には嵐の海を渡って頂かなくてはいけません。天然の嵐では無い、怪異の力によって招来した、豪雨と暴風と稲妻が荒れ狂う、魔の嵐の海を、です」

 各員で船を調達するのも良し。何らかの飛行手段をもって海峡を越えるのも良し。|或《ある》いは|√《ルート》能力者であれば、怪異の力により引き起こされた天変に抗する何らかの手段を持ち合わせているかも知れない。

「無人島に上陸後は怪異を信奉する巫女達を倒し、|然《しか》る後に災害の化身であると言う神――荒魂ノ辻を撃破いたします。これで瀬戸内海の平穏が戻ってくる事でしょう」

 初音は、その場に参集した|√《ルート》能力者達の前で|深々《ふかぶか》と頭を下げた。

「皆様。とても危険な|御《お》|仕《し》|事《ごと》になるでしょうけれども。どうか|御《ご》|武《ぶ》|運《うん》を。|何卒《なにとぞ》よろしく|御《お》|願《ねが》いいたしますね」
これまでのお話

第3章 ボス戦 『荒魂ノ辻』




 その無人島の中央――正確には、その場所に|揺蕩《たゆた》っている災厄の化身の|下《もと》――を目指して、各地から邪悪な|見えない怪物《インビジブル》共が群れ集って来ている。

 ――キィ、シャ、ォォォォォォォッ!

 世に凶変と災禍を招く白鱗の怪異の咆哮が、波紋のように周囲へと広がっていく。
 天が乱れて、地が震えて、海が叫んだ。
 その存在は、はたして何を考えているのか――それとも知性と呼べるものなど最初から持ち合わせていないのか。
 それすらも人間の理解の|及《およ》ぶ|範疇《はんちゅう》にはない。
 ただ、それは遙かなる高みに|揺蕩《たゆた》い、座して、高次の視座をもって|睥睨《へいげい》するのみである。
 これを捨て置けば、やがては未曽有の大災害が地上を襲うことになるだろう。

 ――キィ、リィ、ィアァァァァァァッ!

 荒魂ノ辻は、その力を蓄えようとしているかのように、|遂《つい》には邪悪なる|見えない怪物《インビジブル》の捕食を開始していた。