⚡マスカレイド・カレイド
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燦然と燦めく七彩のステンドグラス越しに月光が差し込む。
眩しい程に煌びやかなシャンデリアが照らす広間。
様々な仮面で正体を隠した人々が楽しげに笑い、踊っている。
舞踏会が行われている傍ら、立食テーブルが設置されている場所で少女がマカロンを摘まみながらひそひそと話し合っていた。
「ねぇ、聞きまして? この会場に古妖が紛れ込んでいるかもしれないのですって」
「あらやだ怖い。けれど、そのお方が見目麗しい方でしたらどうしましょう? 危険な男って、どうしようもなく惹かれてしまいますの」
「まぁ、何故殿方だと言えるのかしら。だけれど解るわ。危険な一夜限りの恋って憧れますわよね」
「ええ、今宵ばかりはこの仮面にすべてを隠したあやうい遊戯も一興ね」
クスクスと少女達は笑んで、やけに甘ったるいマカロンを口に放り込んだ。
踊れ、狂え。舞え、歌え。
今宵は享楽の宴なり。
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集まったEDEN達に史記守・陽(黎明・h04400)は一礼して、早速依頼の概要を説明する。
「紅涙流離戦の騒ぎに乗じてなのか何なのか……仮面舞踏会に古妖が紛れ込んだようなんです」
迎賓館と呼称される建物で開かれる仮面舞踏会。ステンドグラスとシャンデリアが絢爛な建物であるが、定期的に仮面舞踏会が開催される。
仮面で正体を隠しているからだろうか――優雅さはありつつも、一般的な舞踏会に比べて若干参加者も普段裡に秘めている悪趣味を曝け出す傾向にあるという。
「皆さんには仮面舞踏会に潜入していただき、古妖を捜索していただきたいのです」
享楽の宴であろうと一応は歴とした舞踏会だ。ドレスコードどして正装を求められる。
自前の衣装を着ていってもいいし、衣装を用意できない者は近くの貸衣装屋で借りられる。その際、店主にお任せで選んで貰うことも可能だという。
仮面舞踏会に潜入できたのなら、そのまま古妖を捜索に入って貰いたい。
だが、露骨に古妖を捜索し、古妖や他の参加者に怪しまれるような行動は避けてほしい。
「そうですね……パーティーを楽しんでいる様子をみせていれば周囲の目も誤魔化せるでしょうか。立食パーティーもありますし、踊ってもいいですし……手段は皆様にお任せします。どうぞ、よろしくお願いします」
第1章 冒険 『洋燈煌めく仮面舞踏会』
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華々しく燦めくシャンデリアに目が眩んでしまいそうだ。
仮面舞踏会は人々の喧噪に満ちている。喧噪の中には愉悦、悪意、嘲笑、害意――清濁併せ呑む人々の思惑が、まるで、蟲毒の壺のように華やかな舞踏会の間に濃縮され、満ちている。
(なるほど、ここなら確かに紛れやすいですね)
屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は周囲を見渡す。
身に纏うのは仮面舞踏会に似つかわしい貸衣装屋で借りた正装だ。
精緻な薔薇刺繍が施された黒のジャケットに、夜の濃藍色にも似た蝶ネクタイ。胸には紫のアネモネを数本さした。
何処か退廃さも感じさせるゴシック様式のジャケットは、この場に似つかわしい。
軽く紅茶を嗜みながら、廻はちらりと視線を片隅にやる。
物陰や立食パーティーの机の下等には念の為にと白黒猫の|幽羅《ユラ》と小玉鼠の|朧《おぼろ》も忍ばせておいた。
どうやら彼らもうまくこの舞踏会の中で身を隠しながら探ってくれているらしい。
「危険な殿方ってどちらにいらっしゃるのかしら?」
「わたくし、声をかけられたら気絶してしまうかもしれませんわ!」
ゆるりと周囲の様子を伺う廻の耳に斯様な会話が聞こえてきて思わず溜息をついた。
(どうやら、噂話も広がっているようで……危険なものほど惹かれる気持ちは分かりますよ)
だけれど、好奇心は猫をも殺す――思わず視線を少女達に向ければ、彼女達も廻の存在に気が付いたらしい。
「あら、素敵な殿方ね。わたくしと一緒に踊ってくださいませんこと?」
「素敵なお誘い有難う御座います。ですが、足が悪くてお気持ちだけいただきますね」
廻はやんわりと女性の誘いを断りながら胸に挿したアネモネの造花を一輪差し出した。
(さて、もう少し楽しんだら私も動きましょうか)
黄色い悲鳴をあげる少女達を余所に、廻は静かにその場を立ち去った。
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妖怪百鬼夜行といえば和の印象があったが、この様な催しもあったのかとアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は広間を興味深く眺めた。
これがハイカラというものなのだろうか。華やかな舞踏会に思わず圧倒されてしまいそうだ。
(正体を隠して行くなんて、ちょっとドキドキしますね)
貸衣装屋で借りたのは濃紺の生地が何処か夜空を思わせる大人びたイブニングドレス。
首元には繊細なレースがアリスの白い肌を際立たせる。上品な刺繍とスパンコールが施された上半身から流れるように至るのは、小さな星のようなラメがキラキラと輝くチュールスカート。
幾層にも重ねられたチュールは華やかさがありつつも、清楚な印象を際立たせる。
(そういえば、この花……なんとなく選んだのですけれど、どういう名前のお花でしたっけ)
貸衣装屋で結い上げてもらった髪に挿したのは青みがかったライラック。後で誰かに聞けばいいかと考えているアリスの側に誰かが立った気配がした。
「麗しいマドモワゼル――どうか、僕と踊ってくれませんか?」
アリスに手を差し伸べてダンスに誘ったのはアリスよりもやや年上の男性だろうか。
若いなりに立ち振る舞いは熟れている。
ダンスなんて高校の卒業パーティーが最後。もう全く覚えていない。男性には悪いが断らせて貰おう。
「ふふ、お誘いはありがとうございます。だけれど、この場の雰囲気に当てられてしまって、今は少しゆっくりしたいんです」
「そうですか。残念ですが、また機会があればその時は是非に」
あっさりと諦めていく男性の背中を見送って、アリスは立食パーティーのメニューへと手を伸ばす。
キッシュにサンドイッチ、それからちょっと味が濃いものも欲しくなってローストビーフ。
(……う、お酒も欲しくなってしまいますね……うう、でも……駄目ですよね……)
思わず視線は美味しそうなワインの方へ向いてしまうけれど、一人の時には飲むことを禁止されている。
そうして徐々に膨れていくお腹を感じたのなら、古妖を探しに散策。そして、また立食に立ち寄るということを何度か繰り返した。
(これは、決して腹ごなしではありませんよ。ちゃんと、探していますから!)
誰に言い訳するまでもなく心の中で呟いたアリスの手には、マカロンが握られていた。
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慣れないドレスの裾を篠杜・カレン(祈りの魔法少女『オリゾン・ライト』・h12997)はぎゅっと掴んで、眼前で広がる仮面舞踏会の様子に少しだけ眉を寄せた。
(誰かが危ないなら見ているだけは嫌だ)
その心がカレンに魔法少女の力を与えた。されど、慣れぬ衣装はやはり慣れぬもの。
選んだ衣装は何処か馴染みのある和洋折衷テイストの衣装だ。
店主曰く、振り袖をリメイクしたドレスらしい。
赤い振袖らしい華やかさと清楚な白ドレスの良いところだけをあわせた衣装は、自分が着るのではなければもっと違った目線で見られたかもしれない。
「…………」
カレンは無言のままパーティーを歩く。耳に聞こえてくるのは古妖が混じっていると解っているのに、その状況すら楽しむ人々の声だ。
(……浮かれてる場合じゃないだろ)
そんな本音を口から出してしまえば怪しまれる。なんとか心の中だけで留めて立食の皿を手に料理を取るふりをしながら周囲の会話に耳を澄ませた。
人々は仮面なのを良いことに好き勝手話している。
露骨な捜索は駄目だ。今のところ周囲には怪しまれてはいないが、とはいえ、パーティーを楽しむって一体どうすればいいのだろうか。
何とか不器用な笑顔を貼り付けて立食パーティーを楽しむふりをしていれば、ひとりの男性がカレンの前に傅いた。
「やあ、素敵なお嬢さん。よければ僕と踊りませんか?」
「その……ダンスとか、慣れてなくて……大丈夫、か?」
「もしかして、君の初めてのパートナーになる光栄をいただけるのかい? 大丈夫、最初はゆっくり踊ってみましょう」
そうして男性は優しくカレンの手を取った。男性は本当にカレンを気遣い、ペースにあわせながら優しくダンスの指導をはじめる。
(助かる。けど、助けられてばかりだな……)
助けてもらうだけで終わるのはもう嫌なのに。
カレンは男性にリードされつつも、時間が許す限り周囲に聞き耳を立てて踊り続けた。
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胸元に飾った竜胆を誓いにして、仮面舞踏会の会場に降り立つアダン・ベルゼビュート(魔焔の竜胆・h02258)は周囲を見渡す。
(古妖が紛れ込んだ先が仮面舞踏会とは、また面倒な事だな……)
斯様に顔を隠されてしまったら上手く捜索できないではないか。アダンは溜息をつきながらも、周囲の状況を伺う。
楽しげな人々の喧噪。踊る人々。笑う人々。
何処で聞き込みをすべきか。舞踏会であればやはり踊るのが一番か。だが、自分のダンスは――。
「わたくし、相手がおりませんの……よろしければ一緒に踊ってくださらない?」
思考を巡らせているアダンにタイミングよく声をかけてきた女性がいた。彼女から何かを聞けるかもしれないと快諾したアダンは彼女の手をとった。
そうして一曲踊り終えた後、女性がなんだか疲れている様子を見せていて、アダンは己のダンスが戦闘向けだったことを改めて思いだした。
ベネチアンマスクで顔を隠した泉下・洸(片道切符・h01617)は目を輝かせる。
美味しそうな料理に、楽しそうなパーティー!
(そして……このような場所に来たからには……いっぱい料理を食べるのです!)
サンドイッチにキッシュ、マカロンにケーキにチョコレート!
思う存分バイキングしてから、そういえば今回は依頼で着ていたことを思いだして洸は密かに翡翠を放つ。
洸に付き従う翡翠達は何かを監視したり捜索したりすることに長ける。
(そろそろお口直しと行きたいですね)
洸が望むお口直し――即ち、生気である。
生命力を喰いやすそうな餌……ではなく、素敵な女性を見繕い、甘い言葉で誘えば、洸の甘い表情に騙された女性がすぐに頬を赤らめながら応じた。
そうして、一曲踊り終える頃には薔薇色の少女の表情はなんだか疲労が滲んでいた。
彼女を優しく広場の片隅にあるベンチに座らせてから、洸は彼女に別れを告げる。
斯くして思う存分|食事《・・》を済ませた洸が立食パーティー会場へと戻ってきたのは、次なる|餌《・》を探す為でもある。
狙いを定めるため、赤紫色の瞳で周囲を見渡していた際にシャンパン片手にパーティー会場を見渡すアダンの姿を見つけて、さり気なく避けようとしていたところ――ばっちりアダンと目があった。
「ん、貴様はせ――」
アダンもまた、洸の姿に気が付いた。
名を呼ぼうとしたアダンの唇を洸はそっと人差し指でとめて、赤紫色の双眸をそっと窄めた。
「しー、なのです。此処は仮面舞踏会。互いの正体は秘させた方が楽しいでしょう? ところで、お酒を嗜まれていたのですね」
「……嗚呼。ようやく飲めるようになったのでな。やはり、依頼中の飲酒はとても良いな」
アダンはシャンパングラスを傾けて職務中の飲酒を楽しんでいた。
誰かの悪い影響を受けている気がしないでもないがこの際は気にしないでおこう。
「そうなのですね。それはおめでとうございます。さ、よろしければこのマカロンをどうぞ。シャンパンにもあいますよ」
知人に遭遇してしまったらもう、|食事《・・》は出来ない。だが、何とか誤魔化せそうな相手で助かった。
洸は穏やかに微笑みを浮かべながら、マカロンを差し出した。
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濃緑色のジャケットに赤い薔薇を差して、シリウス・ローゼンハイム(吸血鬼の警視庁異能捜査官・h03123)は眩い舞踏会の道を進んでゆく。
(ふむ、中々興味深いな……)
そう言いながら見つめるのは甘味が多数並ぶ立食パーティーのテーブルだ。
社交界の心得はあるが、踊りはあまり得意ではない。
ゆえに、シリウスが取った戦略は、食事をしながら会話――情報収集という手だ。
シリウスは一人でワインを嗜んでいる壮年の男の隣に立ち声をかける。
「賑わっているな」
「ええ、今日は特に、古妖が紛れ込んでいるという噂があるようで。特に若い女性はきゃーきゃー騒いでいるようですな。あなたはこの舞踏会ははじめてで?」
「ああ、連れも居ないのでどのように過ごそうか悩んでいたところだ」
「それならば私と同じですね。私も家内が体調を崩し、一人でどのように過ごそうか悩んでいたところなのです。お近づきの印にこの紅茶を――此処の紅茶はこだわりの逸品なのですよ」
「ありがとう。いただく」
男性から紅茶を受け取ったシリウスは、紅茶の繊細な香りを楽しんでから口に流し入れた。
確かに逸品だ。茶葉も、淹れた者の腕も良い。
そうしてシリウスは世間話も交えながら、この場に潜む古妖の噂について訊ねて見る。
どうやら男性はこの舞踏会は慣れているようで『どうやら未だ名前の無い古妖のようなのですよ』と教えてくれた。
マカロンを口にふくみながら、古妖の情報を脳内で纏めていれば、ふと口がきなこを求めはじめた。
「ところで、わらびもちはないだろうか……」
「わらびもちですか? 先程見かけたのですけれど、何処だったかな」
男性と話していれば、きょろきょろと見渡していれば、給仕の少年が「何かお探しですか?」と礼儀正しく訊ねてくる。
「ああ、わらび餅がないかと思ってな」
「わらび餅でしたらこちらに。うちのわらび餅は贅沢にきなこたっぷりかかけているのが自慢なんですよ。気をつけて食べてくださいね」
「あ、あぁ。ありがとう」
気をつけて。
そう声をかけた少年のこころをシリウスは後から思い知るのであった。
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「お嬢さん、俺と一曲如何ですか?」
仮面越しにも解るまるでショーケース越しの美術品のように美しい男に問われたら、大抵の少女がのぼせあがるだろう。
ミッドナイトブルーのタキシードに首元で銀糸のような髪を束ねた品の良い男――雨夜・氷月(壊月・h00493)の姿に声をかけられた少女は壊れた玩具のようにこくこくと必死に頷いた。
氷月は踊り方を知らぬのか若干ぎこちない足取りで、一曲踊り終えてから戻れば女性の集団がかしましく何かを話している様子だった。
次は彼女達から何か話を聞こうか――そう考えた氷月が近寄ろうとしたところで、後ろからぬるっと唐突に現れた気配に何故か背筋に寒気が走った。
「おや、美人が居ると思ったら小猫か。ふふ、君とは随分縁があるようだ。|好好好《ハオハオハオ》、一緒に遊ぼう。ここで逢えるなんて、きっと僕らは何かの運命だ」
「ロマンチックに言っても少しも心に響かないのは何故だろう」
シャンパングラスを手にした白燕尾服の男の姿に、氷月は見覚えがあった。四十万・白灯 (影踏・h12220)だ。
「こんなところで一体何をしに?」
「警戒しないでよ。目的は小猫と同じさ。|偶々《・・》君を見かけて声を掛けただけ。偶々」
この口が発する偶々程信じられないものはない。だが、此処で問い詰めたところでどうしようもないから、氷月はあえて問い詰めないことにした。
そうして成り行きで一緒になったふたりは少女達の後ろに立ち、噂話に耳を傾ける。
どうやら紛れ込んでいる古妖は顔の良い男性らしい。名前まではわからない。なんならまだ名前すらないという噂すらあるらしい。
「どちらにしても、きっと細面の美男子なのでしょうね。危ない関係になってみたいわ」
頬を薔薇色に染めて言った少女の背後に白灯はぬるっと立った。
「……へえ、危ない関係をご所望かな? 僕で良ければお相手願おう スリルもそこそこに味わえると思うよ」
白灯の声に肩を震わせて少女は振り返る。
にたぁと窄められた黒い空洞の双眸。楽しそうな様子だが、あの視線で見られた方は蛇に睨まれたような気分になるのではないだろうか。
氷月が内心そう考えていれば、やはり少女達は蜘蛛の子を散らすように立ち去っていった。
「……おや、逃げられちゃった。危険という|方向性《ジャンル》としては合っていると思ったんだけども 残念だなあ……」
至って残念そうな表情で言う白灯に氷月はそれはそうだろうなと内心呟く。
「ひとまず立食パーティでも楽しまない? ……なんか良いハナシが聞けるかもよ?」
「致し方なし。食事にで戻ろうか。刺激的な料理が随分とありそうだし、君となら良い時間が過ごせそうだ」
氷月に促されて白灯は立食料理が置かれたテーブルへと戻る。
ワイン片手に少しずつ料理を楽しんでいく氷月の傍らで、白灯はテーブルに並ぶ料理を片っ端から取っていき、ぺろりと平らげてゆく。
「うん、良い味。あ、この菓子おいしかったよ。小猫も食べなよ」
「あ、うん……ありがとう」
手に乗っけられたのは馴染みある菓子。それを口に運べば、彼が言うように確かに美味しいと頷かざるを得ない程の味がした。
第2章 日常 『文車古妖との対話』
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仮面舞踏会に紛れ込んでいた古妖を追いかけて辿り着いたのは中野ブロードウェイだった。
「こんにちは、文車古妖さん」
優雅なカーテンシーを披露したアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)に、文車古妖も軽く礼をした。
「さて、悪事ですね? 私が読むのは主に魔術書なので、最近のお話はよくわからないのですが……よく人に聞く、悪役令嬢などはいかがでしょうか?」
「悪役令嬢か? 聞き慣れぬ名だが」
首を微かに傾げた文車古妖にアリスは再び頷いて言葉を続ける。
「私が読むのは主に魔術書なので、最近のお話はよくわからないのですが……よく人に聞く、悪役令嬢などはいかがでしょうか? ヒロインに嫌がらせをして最終的には破滅する役どころですが、人を殺害するまでの悪事は働きません」
例えばヒロインに悪い噂を流布して立場を弱めたり、物を盗む小さな犯罪だ。生命にまでは関わらない」
「確かに不快になる存在だが……物語上必要になる悪役だな」
だが、どうすればと思い悩む古妖にアリスは微笑む」
「|中野ブロードウェイなら《ここ》、本屋さんにたくさんあると思いますよ!」
私も詳しくはないのですけれど。そう、アリスは添えてから、そっと手を差し伸べる。
「よろしければ、探しにいきましょう」
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「まあ、あなたが文車古妖さんなのですね。悪役としてのお名前を探していると……」
仮面舞踏会を抜け出した先で遭遇した文車古妖に神代・ちよ(追憶のキノフロニカ・h05126)は愛用の本を手に話しかけた。
「それでしたら、ちよにもお任せください、ですっ! おとぎ話には悪事をはたらくドジな悪役さんがいっぱいなのですよ」
「ドジな悪役、か」
繰り返した古妖の言葉にちよは頷いてから話を始める。
「そうですね、あなたには……『ルンペルシュツルツキン』なんてどうでしょう?」
「ぺる……しゅ……つるつるすきん……?」
奇っ怪な言葉に首を傾げる古妖にちよは『ルンペルシュツルツキン』ですと再び言ってから話を続けた。
「村娘を助けて、王様のおよめさんに仕立ててやるかわりに、子どもができたらよこせと村娘にせまった小人さんなのです。でも、自身のドジが原因で、小人さんのたくらみはご破算になってしまうのですよ」
「それは確かにドジなと言えるな」
「ええ……悪役ではあるけれど、あまり害はなくて、憎めない方でしょう?」
そう告げたちよに古妖は頷く。
人は死なず、でも、不快――古妖が求める条件を満たす存在だ。
「一案として、考えて下されば幸いなのですよー」
「ああ……感謝する。その案、心に留めよう」
古妖は口元に薄い微笑みを浮かべながら、ちよに礼を告げた。