シナリオ

√バンケット・バスケット『なんとなしに、でも』

#√EDEN #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。

シンシア・ウォーカー
和紋・蜚廉
各務・鏡
アクセロナイズ・コードアンサー
折木・龍也
ルミ・マエンパー
恵宮・アキ
サミ・マエンパー

●√
 酒の席で堅苦しさとは無縁でいたいと思うのは、肩の力が入りすぎているからだと思う。
 どうしてか。
 考えて見れば簡単なことだ。
 酒は確かに美味い。
 美味いが、しかし、人の本性というものを暴き出す。
 酩酊は、人のガワというものを容易く溶かし、剥ぎ落とす。普段は見えぬ理性に覆われた奥にある本質というものを引きずり出してしまう。
 それは酒があまりにも強すぎるのではなく、人の理性というものが如何に弱いものであるかという証明でしかない。
 それが悪いことだとは思わない。
 飲みニケーションという言葉がある。
 素面では語れぬものも、アルコールの力を借りれば語ることができるように、人と人とのコミュニケーションにおいては、時にアルコールが人と人とを繋ぐ橋渡し的な役割を果たすこともあるだろう。

 なので。
「とりあえず、生で」
 折木・龍也(伏龍・h13162)は、気安い居酒屋の卓に腰を落ち着け、そう言った。
 今宵は飲み会である。
 とは言え、挨拶や乾杯の音頭とは無縁である。
 そういう堅苦しい席じゃあないのだと、敢えて彼は一言、集った面々に告げたのだ。
 気楽に。
 そう、片意地も、肩肘も張らずにいられる場所というのは得難いものである。
 だから、いつもどおりに龍也は伝票を手にした店員に真っ先に告げたのだ。
「まあ、まずはビールだよね」
 確認というよりも、意思表明のように各務・鏡(幽明・h09413)が続けば、恵宮・アキ(恋愛知らぬ心優しき乙女・h13025)も同様に頷く。
「あ、あたしも生ビールで」
 その後は自由に頼んでいいものなんだよね? とひとまずアキはキョロキョロと周囲を見回した。
 EDEN――√能力者の集まりである旅団で募られた飲み会。
 堅苦しいことはない、なんのことはない、ただの雑談というか成人している者たちで飲みに行こうや、という誘いに乗っただけのことであった。
 むしろ、彼女はこうした飲み会というものが初めてであったので、少しばかり好奇心と緊張がないまぜになった心持ちになっているだけであった。

 そんなアキと似たような理由でシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)も若干の遠慮がちに手を上げた。
「私も」
 生ビールで。
 普段は酒好きの明るいおねえさんである。いやまあ、酒好きの明るいおねえさん、という言葉にも語弊があるように感じられない気がしないでもないが、そうした一面は今の彼女にはない。鳴りを潜める、というのが正しいだろうか。
 とは言え、こうした居酒屋に不慣れということではない。
 ただ、面子が、という意味では僅かに緊張はしているのだ。ただ、それだけ。とは言え、酒が進み、時が進めば、そうした仮面はベリベリと剥がれていくのだから、気にするだけ無駄というものである。

「やっぱり、こういう時は最初の一杯は生ビールなんですかね?」
 龍也に続くように次々と面子が生ビール、と手を上げるのを アクセロナイズ・コードアンサー(飛来する銀蝗・h05153)は、糸目をさらに細める。
 彼は外星体サイバネットである。
 現状、彼の姿は地球人と変わらぬ姿をしているが、本来の姿は脱げないヒーロースーツを常時着用した白銀のカード・アクセプターである。
 なので、今の彼は本来の姿の上にヒーロースーツを着用した上で、改めて擬態用人面マスクとスーツをさらに着用しているのである。
 とは言え、細い糸目めいているのは、彼の瞼の奥にはヒーロースーツの複眼レンズを見られない為である。

 そんな彼とて、飲み会の風習というか、習わしというものにアキ同様明るいものではない。だから、とりあえず、まあ、と言うように生ビールの声に手を上げたのだ。
「俺もだ」
「あら、お兄様は生ビールなのですか? 私は赤ワインを」
 だから、アクセロナイズは、少しばかり上がった声に意外そうな顔をした。
『とりま生』
 これが通用しない者がいたのである。
 ちょっとこれには驚いたが、アキとアクセロナイズ以外は別段驚いたような顔をしていなかった。
 そういうものなのか? と二人は内心思いながら、サミ・マエンパー(機械仕掛けの凶剣・h07254)の妹であるというルミ・マエンパー(永久の歌姫・h07251)の銀髪がさらりと流れ、揺れるウェーブを見た。
「お兄様、私、こういう居酒屋スタイルは何分初めて故に、不手際があるやもしれませんわ。注文はこれでよろしくて?」
「好きに頼めばいい」
 そっけない素振りなのは、兄妹という間柄だからだろうか。
 座卓ではあるが、兄のすぐ隣に着席しているのは、それなりに心細いからだろうか、なんて思うのはただそれが第三者であるからである。
 実際に如何なる理由があるのかなど、ルミの心の中にしか真実はない。 
 とは言え、サミはこうしたルミの距離感というものに対しては、それなりに突き放した物言いになってしまう。
 兄妹ゆえの距離感と言えばいいのだろうか。
 その適切さとうものを測りかねているのかも知れない。

「えーと、後は……」
「我も生で良い」
 龍也が最初の一杯の注文をしようと、指折り数えていると、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)もまた生ビールで良いと手を上げた。
 全員の注文が終わるまで待っていたのだろう。
「はいよ。それじゃあ、よろしくな」
 龍也は店員にオーダーを伝え、まずは息を吐き出す。
「しっかし、意外と言えば意外だったな」
「何がだ?」
 龍也の言葉に蜚廉は首を傾げた。
 いや何、と彼は笑ったようだった。
「こういう賑やかな場所は得意ではないのかと思っていたんで」
「何、酒を飲める場があると聞けば、訪れぬという道理はあるまい」
 蜚廉の性格というものを表面だけなぞるのならば、きっとこういう居酒屋めいた賑やかな場所には不似合いだとも思えた。
 シックで落ち着いた小洒落たバー、みたいなイメージがないわけでもなかったが、それこそ勝手なイメージというものであった。
「案外、賑やかなものも好みだった、とか?」
「自由な空気を味わうのも、酒宴の醍醐味だろう? それこそ、皆、思い思いに飲み、食らえば良い」
 そういうものだ、という言葉には含蓄があるように思えてならなかった。
 事実、その言葉にアキやアクセロナイズといった酒宴に不慣れなるものは、大いに得るものがあったのではないだろうか。
「いや、そういっていただけると助かるぜ。なにせ、乾杯もまだであるし、飲む前から固くなっていたんでは、酒にも申し訳ねぇからな」
 そう言って、龍也は笑う。
 蜚廉は、内心で上手く出汁に使われたな、と思ったが不快ではなかった。
 むしろ、この場においては最年長の部類に入る己が、そう発信したことは大きな意味を持つことも理解できた。

 若人たちを導こうなどとは思わない。
 そんな大仰なことは、この場に似つかわしいし必要ないことである。だからこそ、己の言葉を龍也は欲したに違いない。
 そう思えば、道理であると彼は得心しながら軽く頷いた。
「あの……その、以前、街頭でお見かけしたのですが……♪」
 アキがおずおずと言った具合に蜚廉に尋ねる。
「ほう、あの場での姿を見ていたのか」
「はい、一緒にいらっしゃったのはAnkerさん、ですよね? お二人とも素敵でしたー♪」
 アキは素直に連れ立つような姿であった二人の姿に感動していたようだった。
 √能力者にとってAnkerとは寄す処であり、座標である。
 たとえ、死しても死後蘇生できるのは、Ankerという座標があるから戻ることができるのだ。故に、アキが見た蜚廉と、そのAnkerの姿は酷く印象的出会ったのかも知れない。
「戦う時の蟲さんスタイルもカッコイイですー♪」
「何も戦う時だけがあの姿ではないぞ。我は常に、この姿だ」
「え、でも」
「人型は……」
 蜚廉は、少しばかり言い淀んだ。
 それはもしかして、とアキは思ったかも知れない。
「……恋人との|逢瀬《デート》の為に得た姿」
 やっぱり! と彼女は盛り上がった。
「人の世で隣を歩くには、必要だったのでな」
「な、なるほどー♪」
 アキは物書きを目指しているが、乙女である。
 √能力者として新人であるという自負があるが、それでもこうした眼の前での色恋沙汰を僅かに進んだ先にある……こう、なんていうか、こう! と物書きを目指していながら、言葉にならぬ衝動めいたものに感動すら覚えていた。

「はい、おまたせしました。生とワインお持ちしましたー! あと此方、お通しのパリパリキャベツでーす!」
 威勢のよい声。
 店員がジョッキを抱えて、面々の前に置く。
 どかりと置いたジョッキには白い泡が踊り、跳ねるようであった。
 ルミもまた赤ワインのグラスを受け取り、満足げに頷く。
「よっし、ひとまずは杯は行き渡ったな。そんじゃま、堅苦しいのは抜きにして今日は楽しもうや」
 龍也は仕切るつもりはなかったが、呼びかけた主として最低限のことはこなそうと杯を掲げた。
「ほんじゃ、乾杯!」
 打ち鳴らされる杯。
 ジョッキは豪快に。グラスはしとやかに。
 響く渡る音の後に続くのは、喉越しの音であった。
 誰の耳にも響くものであったし、誰かのものであるかなんて気にする理由もない。
 
「ッ、カー! しみる!」
 龍也はジョッキを開けて、店員に呼びかける。
「あと、枝豆を人数分。後、梅水晶と……串焼きの盛り合わせを適当に。塩で」
 そこまで言ってから龍也は思い至る。
 一人飲みではないのだ。
 気を使わないでいいと言っておきながらなんであるが、やはりここは気質というものがでてしまうのだろう。
「あー、タレがいいヤツいるか?」
「半々でいいんじゃないかな? まずは、お通しもあることだし」
 鏡の言葉に龍也は、それもそうか、と頷く。
「注文は自由にな。遠慮しなくっていいんだぜ」
「はーい♪」
 アキは明るく声を上げて、すでに空けたジョッキを掲げる。
「次は、ハイボールくださーい♪」
 明るい彼女の言葉は、すぐに場の空気も明るくするものであった。
 無礼講ということはわかっている。
 けれど、だからといってすぐに馴染めるものでもないだろう。
 だからこそ、彼女の明るさは、僅かに身を固くしていた者たちを解きほぐすものであった。

「おうよ? 全員若者に見えるかもしれねえけど、楽しんでるか?」
「うん? ああ、もちろん」
「お通しもう、からにしちまったのかい。一緒に何か頼んで置くべきだったか」
「そんな気を使わないでくれよ。ただ、空きっ腹にお酒は好まないってだけさ」
 龍也の言葉に鏡は笑って答えた。
「いつもは自宅で晩酌するにしたって、夕飯をしっかり食べたあとだもの」
「それじゃあ、最初の一杯の生はキツかったんじゃないか?」
「なに、そこは安心しておくれよ。次は日本酒って決めてあるからさ」
「つまみは、いつも何を?」
「うーん、特に決めているわけではないけれどね。ここは、ナマコにモロキュウや冷奴もある。少しばかり目移りしてしまうのは致し方ないね」
「ああ、確かに日本酒には、合うよなぁ……冷奴にはやっぱり生姜かい?」
「葉生姜をシンプルにお味噌で、なんていうのもいいよ。ああ、そうそう、この季節ならホヤもあるよね」
 好きなんだ、という鏡の言葉に龍也は楽しんでくれているのだ、と安心する。
「とは言え、味覚が若い子たちと合うかわかんないんだよね」
「何、それは気にすることもあるめえよ。好きに頼んで、好きに飲んで、好きに食う。堅苦しいのは、今日はなしだからさ」
「そうだね。それはありがたいことだよ……油ものは、できれば控えめにしたい、というくらいかな。若い子らでたべんなさい」
 なんて、年寄りぶったかな、と鏡は苦笑いする。

 その姿に蜚廉は、さりげない気配りというものを感じたかもしれない。
「……ふ」
 こぼすような笑みに互いに目配せする。
 視線がかち合えば、自然と杯を掲げて合わせるものである。
「そういう年代、ということかな?」
「年代、というのならば我もそれなりだ」
「いやはや、こんな事を言うとますます、と思われるかもしれないけれど、若い子らの食欲を眺めて酒が進むというのは」
「それだけ永き時を生きたという証であろう。それだけ人の感性を得た、ということではないか」
「どうだろうね。自信はないよ。人の心の機微、なんてものは、まだ」
 自分には得難いものであると言うように鏡は笑む。
 自身の出自というものを理解していたのならば、どうして自分がこうも他者を守ることを何よりも優先するのかということに対しても理屈で理解できただろう。
 しかし、理屈で理解していなくても体は動くものである。
 それが衝動だというのならば、きっとそうなのだろう。
 だから、これはきっと老婆心というものなのだと、永き時を生きた者同士の機微というものは、鏡と蜚廉の間には通じるものがあったのかもしれない。

「お二人は御兄弟なのですね♪」
 そんな二人は、アキたちの様子を眺めながら杯を進めていた。
 アキが喋りかけているのは、銀髪の兄妹であるルミとサミであった。
「仲がいいとうか、肉親はこの世にルミしかいねぇからな」
 さらりとした言葉に、これは聞いてはならないことをきてしまったか、とアキは少しばかりギクシャクとしてしまう。
「そ、そう見えますか?」
 だが、ルミは、その言葉にグラスを傾けるペースが早くなっていた。
 もっと優雅に、と思っていたのだろう。
 だが、モツの煮込みとかサイコロステーキ、生ハムであれ、いずれもが杯を進めさせるには充分なものであった。
「いつもは自宅でお兄様やメイドのユリアと三人で食事を取ることが多いものですから。そう言っていただける機会はなかなかなく……」
「そ、そうなんですか? あぁ、よかった。失礼なことを聞いてしまったかと思って……」
「気にするなよ。俺も言い方が悪かった」
「そうですよ。兄妹仲がよいというのは、実に素晴らしいことですから!」
 そういったサミの言葉にアクセロナイズに少しだけ羨ましさを滲ませて言う。
 旅団での交流。
 それらも、もう一年は経とうとしている。
 そんな中でアクセロナイズはサミとルミの様子を見てきた。
 だからわかるのだ。
 彼がルミといっしょに居る時は、特に表情が柔らかいように思える、と。それはきっと弱みであるとか、そういうものではないのだと思えてならない。
 何か、人の繋がりというか絆というものを感じさせられずにはいられない。
 だから、少しだけ羨ましいと思ってしまう。
「そ、そんな……」
 サミは、そういうものか? という顔をしていたが、ルミは真逆であった。
 照れ隠しのようにワインをがぶ飲みしては、すでに杯を空にしている。ハイペースである。
「はっ、恥ずかしいですわ……」
「いやはやしかし、お会いしてから、一年……時の流れというのは早いものです」
「そうか……あの時の川遊びからもうすぐ一年か……早いな」
 そんなルミとはよそにサミは思い出していた。
 一年前も川遊びを共に行ったことを。
 なんだかついこの間のことのように思えてしまう。
「サミさんもあの頃からすると、随分と」
「そんな褒めても何もでねぇよ」
「いやいや、すでにいただいておりますから」
 こいつ、とサミは僅かに口角を上げる。
 そんなやりとりは、やはり気安い仲でなければ、できないことであろう。

「おーい、ソーセージの盛り合わせ、誰のだー?」
「あ、俺のだ」
「おいおい、若いの。ちゃんと食わねーと。若いんだから」
「いや、ちゃんと食いたいのを頼んでるよ。そこまで気を使わんでも……」
「何、若人が食べていないかも知れない、なんて思うのは、我々の特権なのだから」
 鏡も加わって、サミはそういうものなのか、と思わないでもない。
 けれど、年長者にそこまで気を使われるのも、と思ったのだろう。息を吐き出して、されるままに皿の上にあれやこれやと盛り上げられていく。
「あの、各務さん、複数の刀をお持ちとのこと……」
 そんな鏡にアクセロナイズはおずおずと言った様子で語りかけ、また同時に空になっていた杯に酌をする。
 全く持っての目下年下ムーヴであった。
 その様子に鏡は、杯を持ち上げて受ける。気を使わせたかな、と思ったが、彼からすれば、これが自然なのだと思えば遠慮こそ無用であるものかと思ったのだ。
「いずれ、拝見させていただきたく……」
「おっと、ありがとう。もちろん、その機会があれば。しかし、刀に興味があるとはね」
「やはり、業物というものは見ているだけで勉強になりますから」
 そういうものかな、と鏡は笑みながら頷く。
 アクセロナイズは、そうした約束を取り付けられたことが嬉しかったようで、細い糸目をさらに細めて笑むのだ。

 そんな和気藹々とした雰囲気が形成されつつある座卓を龍也は眺めながら、ぱかぱかと杯を開けるルミに声をかける。
「二人兄妹なんだって? 普段も飲みに行ったりすんのかい?」
「ええ、あまりそういった機会には恵まれず。ですから、今日はこのような場を組んでいただいてありがとうございますわ」
「何、そんなに堅苦しくなるこたぁねぇよ。楽しんでもらえてりゃ、それが一番だからな」
「お気遣い、痛み入りますわ」
「仲良しさんなの、素敵ですー♪」
「そ、そんなに仲良しに見えますか? 私と、お兄様は」
 アキの言葉に、先程もそうであったが彼女はやけに嬉しそうである。そういわれ慣れていないのではないかと思うほどであったが、それがアキにとっては可愛らしく思えてならなかったのだろう。

「それにしてもビールをよく飲まれているイメージだったのですが……」
 そんな二人をよそに、サミがウィスキーをロックで飲んでいる様子にシンシアは少しばかり興味を抱いたようである。
 最初の一杯は、とりま生、生ビール。
「ここまで何を召し上がりました?」
「ん? 焼酎だろ……麦に、芋、そば、泡盛……ロックがよかったな」
「結構召し上がってますね? しかし、妹さん、あまりお話する機会に恵まれませんでしたが、話しかけても?」
「そんな許可なんか要らないだろ」
「兄君の許可なく、妹に話しかけられるとすんごい目で睨まれる、というのは世の常では?」
「どこのシスコンだよ、それは」
「違うんですか?」
「違う。まったく、妙なこと言って」
「では、遠慮なく……とは言え、初の話題とは案外悩みますよね。とりあえず、天気の話?」
 なんて無難な、とサミは思ったが、シンシアなりに気を使ってのことなのだろうな、と納得するのと同時に。
「うだうだ言ってないで、話しかけてみればいい。ここはそういう席だろ」
「そうは言ってもダル絡みされたとか思われたくないんですよ!」
「わかったわかった」
 はよ行け、とばかりにシンシアは追い立てられてルミの隣に据わる。

「ええと、本日はお日柄もよく? お兄様のご尊顔も大変明るくって、ええと、なにいってんでしょうか、私」
 その言葉がむしろ、ルミの琴線に触れたようでった。
「ええ、お兄様は今日も素晴らしいお兄様で、私の理想のお兄様たるを体現されていらっしゃいますわ!」
 そんな二人の様子を見て、サミは『うわ、失敗したわ』と思ったが、なんだかんだで話が弾んでいるようだった。
「羨ましいですー♪ あ、シンシアさん、おかわりですよー♪」
「おっと、これは駆けつけ一杯というやつですね。よいでしょう。いただきましょうとも」
 シンシアたちは、娘さんにん寄らば姦しいといわんばかりに華を咲かせる。
「わー♪ よい飲みっぷり♪ お酒が楽しく飲める人は憧れますー♪」
「ぷっはー! そう言えば、アキさんは5月に√能力者になられたとか。戦闘慣れました?」
「そうなのですか?」
「はい~♪ 修行中ですけど♪ 刀と銃の銃剣士スタイルです♪」
 えいや、とジョッキと串焼きを構えるアキに二人は手を叩いて笑う。
「なんだかミニキャラみたいで可愛らしいですねぇ。見てくださいよ、私、ミニかわが好きでスマホケースもそれなんですよ!」
「わ、ミニかわ!」
「ミニかわ?」
 ルミの言葉にシンシアとアキが身を乗り出す。
「「ミニかわ、ご存じない?」」
 それは布教者の目であった。
 新たなる信者を得んとする狩人の目でもあった。

「カワイイんですよ~♪ あたし、箱推しではありますが、ガチャを回すとおまんじゅうな彼がいっぱい来ます~♪」
「ガチャの偏り、わかります……! 私もよく回すんですが、結構被るんですっ」
「ガチャ? 箱? ええと?」
「まぁ、まぁ、まぁ、まずはこちらを」
「ええ、まずはこちらを」
 二人はルミを挟み込んでスマートフォンの画面を見せる。
 ルミは、困惑しているが、それでも楽しそうだな、とサミは思った。
「やっぱり」
 その様子を見やり、アクセロナイズは笑った。

「妹御と共にあれば、和らぐか」
 そう発したのは蜚廉であった。
「うるせえよ」
 彼の言葉にサミは首をひねって悪態をつく。だが、そこに悪意はない。悪態であるだけで、まんざらではない、というのは表情からありありと伝わって来ているからだ。
「……成程」
「何が成程なんだよ」
「なに、言葉にするのは野暮であったな、と改めて思っただけのことよ」
「それは」
「汝がここに来た理由は、汝が一番よく知っている」
 その言葉にサミは息を吐き出す。
 なんでもかんでも見透かされている、というのは愉快な気持ちではない。
 だが、それでもルミがシンシアとアキに挟まれてわちゃわちゃと困惑しながらも笑む姿を見ていれば、それもそうかもしれないと思えてくる。

 ここにサミがいる理由は、ルミがいる、ということなのだろう。
 世間知らずな妹。
 たとえ、成人していたとしても、それでも妹であることには変わりはない。兄が兄であることが変わらないように、だ。
「それで充分なのだろう」
「……うるせえ」
 先程の言葉よりも幾分か勢いが失せていることを蜚廉は認め、やはり言葉にすべきではないな、と軽く喉奥で笑って、それを酒で押し流し、飲み込むのだ。

「お兄様。ご覧になって。こんなものをいただきましたの」
「はいはい」
 漸く布教から解放されたルミが何やら可愛らしいキャラクターのキーホルダーめいたものを掲げてサミに見せている。
 二つのキーホルダー。
 それはペアのようになっており、つまりは、という言葉をサミは察したが、知らんぷりをした。
「お兄様、片方ずつつけましょう!」
「やだよ」
「いいではないですか!」
 そーだそーだ、と囃すようにシンシアとアキが応援する。

「兄の面子、というものもある」
 蜚廉の言葉にたしなめられてルミは、少しだけ不満げな顔をしたが、彼の姿を認めて彼女は、あ! と近づく。
「恐らく覚えていらっしゃらないかと思いますが、蜚廉様、私、初めての事件でご一緒だったのです。戦場は違いましたが」
 その言葉に蜚廉は、僅かに戦場で覚えた気配というものを思い出した。
「そうか。であれば、斯様に再会叶う縁もあるのだな」
「思い出すまでもなく、しかと、その雄姿は」
「ふ、我が姿は随分目立つことだったろう。しかし、汝らの仲睦まじさは相変わらず微笑ましいな」
「そ、そう思われますか! やはり!」
「ああ、互いに支え合う家族、というものだろう、それは」
「ええ、ええ! そうです! お兄様は素晴らしいのです!」
 浮かれるようなルミの言葉にアクセロナイズは、僅かに糸目の奥の赤い瞳を明滅させた。

 そう、戦場。
 次なる戦場が、EDENたちを待ち受けている。
 酌をするアクセロナイズに蜚廉は、彼が何か気負うところがあるのだと気がついたのだろう。
「はは、まさか酌をもらえるとは」
「いえ、これくらいのことは」
「ならば我も返そう。与えられてばかりでは、くすぐったいのでな」
「わ、と。ありがとうございます」
「これで互いに対等だ」
「そんな……ですが、このような場で、と思われるやもしれませんが、此度の戦いも……激しくなりそうですね」
 それは迫る戦いのことであろう。
 うかがえる不安。
 そうしたものを前にして蜚廉は自身が何ができるかを考えるまでもないと断じていた。
「――無論」
 故に、その言葉である。
「我は我の、愛する者と過ごす明日の為に。此度も全霊を尽くすのみだ」
 静かんあ言葉であった。
 けれど、それはアクセロナイズにとっても同じ思いであったことだろう。

 Endless Desire for Essential Nexus――繋がりを求める、限りない欲望。
 √能力者はAnkerだけを守っていればいい。
 世界を守る必要はない。
 寄す処さえ守ることができたのならば、√能力者に真の死は訪れない。
 絶対死領域によって、Ankerとの繋がりを絶たれない限りは。
 だから、Ankerを守ることは何よりも優先される。
 なのに、EDENと呼ばれる衝動を持ち得る者たちは、世界も守る。他の者たちの寄す処さえも守らんとする。
 その衝動こそが、己たちを今突き動かし、集い、共に交流を深めていく。
 なるほど。
 確かに繋がりを求める、限りない欲望とはよく言ったものである。
 どこまで行っても、他者は他者でしかない。
「……勝ちましょう、必ずや」
 アクセロナイズは呟いた。
 いや、それは宣言でもあった。
 たとえ、簒奪者たちが、己たちよりもずっと強大な存在なのだとしても、だ。
「帰るべき日常の為に」
 その言葉は誰もが思うものであったことだろう。

 そして。
「唐揚げを注文するともれなくレモンがついてくる、つまりレモン汁を掛けてこそ成立する。それが、唐揚げという料理というものではないのですか?」
 シンシアの声が聞こえた。
 それは戦争の狼煙めいたものであった。
「いや、流石に俺も勝手に掛けて戦争を始めるほど、命知らずじゃない」
 龍也の言葉にシンシアは頭を振った。
 切っ掛けとしては、些細なものであった。
 鏡が注文された唐揚げの大皿を受け取って、卓の上に置いた時、シンシアにも勧めたのだ。
 確かにシンシアは妙齢の女性である。
 しかし、同時にそれなりに年令を重ねているという自負もあった。
 己より年若い者たちがいるのだから、淑女然とした振る舞いを行わねばならぬという思いもあって、居酒屋とは言え、羽目を外すことはしていなかった。
 確かに。
 確かに女子会めいたルミとアキのやりとりは、ちょっと心がキャッキャウフフした。キャッキャウフフした。したがッ、それはそれ、これはこれ。
 しかしだ。
「若いんだから、じゃんじゃんお食べ」
 鏡にそういわれたのだ。
 若い。
 確かにそのつもりなのだが、年々、年齢を重ねることへの恐怖というものの深淵の縁を歩くようになって、思っていたのだ。
 なんか、若いっていわれるの嬉しい! と。
 このまま酒好きを隠し通し、淑女らしい印象を全方位にばらまいてやり過ごすこともアリかと思った。
 だが、無理である。
 アルコールと油もの。
 その組み合わせ。
 ある種の必然であるが、同時に、それはトリガーでもあった。
 何カッコつけていっているのか、と思われるかも知れないが、有り体に言えば、飲みの誘惑に負けた、というだけのことである。
 年の差? 
 そんなの無礼講の前には意味なんてなさなんのである。

「わかりますとも。ですが、やはり、このレモンが本来の役目も果たさずに、まるで除け者みたいに扱われている現状、それを憂いているのです」
「い、いや、そこまで大げさにいわれると、ちょっと考えるものがあるんだが」
「なるほど。このレモン。確かに使わないと、そのままだろうしね」
「とは言え、レモンに唐揚げを掛けると、そこまで怒る、といのも……」
「あるのです。それが! 許す赦されぬではない、さながら宗教戦争の如き様相が、この、大皿の内にて繰り広げられているのです」
 なんということであろうか。
 唐揚げとレモンでこんなに大げさなことになるだろうか。
 なるのだろう。
 実際なっている。
 本当に笑い事ではないのだが、アキは楽しくなってきたのか、さらにごきげんである。
 からあげレモン論争にありて、回った酔いにゆらゆらと体を揺らす。

「そうですよね~♪ 除け者は寂しいですものね~♪」
「おおげさだな。自分の分だけかければいいだろ」
 サミの言葉は、そっけない言葉だった。
 けれど、ルミはわかっていた。
 その表情は言葉ほどにトゲトゲしいものではなかった。すっかり柔らかくなった表情。
 それはきっとこのような同じ衝動を持ち得るものたちと共にいることが増えたからこそ、得られたものだと。
 だから、納得したのだ。
「お兄様、私、納得しましたわ」
「レモンのことか?」
「もう、違いますわ!」
 そんなやり取りすら、この場がなければ得られなかったものだろう。

 だから、少し楽しい。
「やっぱり最後は拳ですよね!」
「物騒過ぎる!」
「それは認めるところであるが、我としては」
「いやいや、流石に居酒屋で拳はまずいですよ」
「ヒーローさんらしいですね♪ うふふ♪ はい、じゃーんけーん♪」
 拳ってそっちの意味? と鏡は笑う。
 けれど、それでいいのかもしれない。
「あ、アクセロナイズさん!」
「えっ、自分ですか!?」
 ぐりん、と思い出したようにシンシアが顔を向ける。
 会話の緩急がすごすぎる。
 アクセロナイズは、これが飲みの場かぁと目まぐるしく感じながらシンシアの言葉に答えた。

「今アツいTCGのデッキ教えてください! この街の淑女界最強を目指したいんです」
「それなら、アグロが……」
「そのアグロをけちょんけちょんにしてやりたいんです!」
「それですと、事故率が……」
「高く立って構いやしません。ロマンこそが!」
「ふむ……では、まずは診断からしなければなりませんね。魂のカード……」
 なんて、本当に取り留めもないやり取りを目の当たりにしながら、面々は楽しげな宴を過ごすのだった――。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?